(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017457
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】バイオマスエネルギー変換システム及びバイオマスエネルギー変換方法
(51)【国際特許分類】
C10B 53/02 20060101AFI20250130BHJP
C10C 5/00 20060101ALI20250130BHJP
C21B 5/00 20060101ALI20250130BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20250130BHJP
C21C 5/38 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C10B53/02
C10C5/00
C21B5/00 301
C21C5/28 Z
C21C5/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120484
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】523070425
【氏名又は名称】アキシオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158023
【弁理士】
【氏名又は名称】牛田 竜太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 幸資
(72)【発明者】
【氏名】飛田和 義行
(72)【発明者】
【氏名】石橋 定己
【テーマコード(参考)】
4H012
4K012
4K070
【Fターム(参考)】
4H012JA00
4K012BA04
4K012BA06
4K070AC32
4K070CA20
(57)【要約】
【課題】
二酸化炭素排出量を削減しつつ安定したフルボ酸鉄を含む腐植液を生物に効率的に届けるバイオマスエネルギー変換システム及びバイオマスエネルギー変換方法の提供。
【解決手段】
バイオマスエネルギー変換システムは、バイオマス原料を炭化させて原料を製造し乾留ガス32から不純物を除去して木酢液11を抽出するバイオ炭製造部3と、原料を高炉に用いる製鉄部6と、製鉄部6から排出される排気ガスから二酸化炭素30を抽出する気体抽出部と、木酢液11に有機物40を漬け込むことにより腐植液12を生成する第1生成部41と、二酸化炭素30を腐植液12に溶解させ気体含有腐植液13を生成する第2生成部42と、製鉄部6により生成される鉄鋼スラグ61を気体含有腐植液13に浸し鉄含有腐植液14を生成する第3生成部43と、を有する腐植液生成部と、から構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス原料を炭化させて原料を製造し、乾留ガスから不純物を除去して木酢液を抽出する原料製造部と、
前記原料製造部から製造された原料を高炉又は転炉に用い、鉄含有物質を得る製鉄部と、
前記原料製造部又は前記製鉄部の少なくとも一方から排出される排気ガスから二酸化炭素を含む特定気体を抽出する気体抽出部と、
前記木酢液に有機物を漬け込むことによりフルボ酸を含む腐植液を生成する第1生成部と、前記気体抽出部から抽出された前記特定気体を前記腐植液に溶解させ気体含有腐植液を生成する第2生成部と、前記鉄含有物質を前記気体含有腐植液に浸し鉄含有腐植液を生成する第3生成部と、を有する腐植液生成部と、から構成されるバイオマスエネルギー変換システム。
【請求項2】
前記原料製造部は、前記バイオマス原料を圧縮することによりバイオコークスとするコークス製造部をさらに有し、
前記製鉄部は、前記バイオコークスを原料とすることを特徴とする請求項1に記載のバイオマスエネルギー変換システム。
【請求項3】
前記第3生成部は、前記気体含有腐植液を収容するタンクと、前記タンク内に配置された網目状の保持部と、を有し、
前記保持部に前記鉄含有物質を配置し前記タンク内の前記気体含有腐植液に浸すことにより鉄含有腐植液を生成することを特徴とする請求項1に記載のバイオマスエネルギー変換システム。
【請求項4】
前記第3生成部によって生成された前記鉄含有腐植液のpH値を調整するpH調整部をさらに有し、
前記pH調整部は、前記鉄含有腐植液を供給する飼育部の環境に基づいて前記鉄含有腐植液のpH値を調整することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のバイオマスエネルギー変換システム。
【請求項5】
熱分解炉でバイオマス原料を炭化させて原料を製造し乾留ガスを得る工程と、
前記乾留ガスから不純物を除去して木酢液を抽出する工程と、
前記原料を製鉄の高炉に用いて鉄含有物質を得る工程と、
前記高炉又は前記熱分解炉の少なくとも一方から排出される排気ガスから二酸化炭素を含む特定気体を抽出する工程と、
前記木酢液に有機物を漬け込むことによりフルボ酸を含む腐植液を生成する工程と、
前記特定気体を前記腐植液に溶解させ気体含有腐植液を生成する工程と、
前記鉄含有物質を前記気体含有腐植液に浸し鉄含有腐植液を生成する工程と、から構成されるバイオマスエネルギー変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオマスエネルギー変換システム及びバイオマスエネルギー変換方法に関し、特にフルボ酸を含む腐植液を用いたバイオマスエネルギー変換システム及びバイオマスエネルギー変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界では落葉や倒木などの植物が蓄積され、微生物や菌類が関与する発酵分解作用の腐熟によって腐植質が生成される。腐植質は、アルカリや酸によって分画され、アルカリ可溶、酸可溶の画分がフルボ酸と呼ばれる。フルボ酸にはカルボキシル基という強いキレート作用をもった錯化剤が多く存在し、これが土中の無酸素状態の中で水に溶けている鉄(イオン化されている二価鉄)と結びついてフルボ酸と二価の鉄イオンがキレート化した水溶性物質であるフルボ酸鉄となり、鉄含有腐植物質を生成する。鉄含有腐植物質から溶出したフルボ酸鉄は、河川によって海に運ばれ、植物プランクトンや海藻の生育に寄与する。
【0003】
フルボ酸鉄は、自然界において腐植質の存在と二価の鉄イオンとの結合によって生成されるが、偶然性に支配される要素が大きいため地域によっては不足しており、河川のヘドロ化や海洋資源の荒廃の原因と考えられている。フルボ酸鉄を海中で人為的に生成させることも試みられているが、環境改善のためには膨大な量の二価の鉄イオンが必要となり困難な状況となっている。特許文献1及び特許文献2では、フルボ酸鉄を含有する腐植質を製造するために、鉄又は鉄を含む物質を有機廃棄物の発酵分解工程で添加し、人工的なフルボ酸鉄含有腐植質を製造している。
【0004】
また、近年SDGs等による環境意識の高まりから、地球温暖化ガスの二酸化炭素排出量を削減する取り組みがなされている。我が国においても、段階的なカーボンニュートラルの目標として2030年までに二酸化炭素排出量を46%削減する目標が設定されているが、鉄鋼業界においては国内二酸化炭素排出量の15%を占めており、産業界における二酸化炭素排出量の約40%を占めている。これは、化石燃料に頼った高炉や転炉の運転、及び鉄鋼を作る際の化学反応によって発生する二酸化炭素に起因している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-254450号公報
【特許文献2】特許第5864811号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、腐植質によって光合成生物が摂取可能な二価の鉄イオンが溶出されたとしても、二価の鉄イオンは水中の酸素によって酸化され易く、三価の鉄イオンとなって即座に固体鉄として沈降し、生物が摂取することが不可能となる。したがって、従来の技術では二価の鉄イオンの生物への供給は効率的と言い難い。水域環境又は土壌環境に鉄分を供給するのであれば、二価の鉄イオンが酸化されにくい状態で供給することが好ましいが、従来のフルボ酸鉄含有腐植質で生成された二価の鉄イオンは酸化されにくい状態とは言い難かった。
【0007】
また、鉄鋼業界における二酸化炭素排出量を削減するために、高炉の石炭の一部を水素又はメタンに代替するといった取り組みが行われているが、実証段階にも至っておらず試験的な段階である。このような背景から、新たな二酸化炭素排出量の削減策が求められていた。
【0008】
そこで本発明は、二酸化炭素排出量を削減しつつ安定したフルボ酸鉄を含む腐植液を生物に効率的に届けるバイオマスエネルギー変換システム及びバイオマスエネルギー変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、バイオマス原料を炭化させて原料を製造し、乾留ガスから不純物を除去して木酢液を抽出する原料製造部と、前記原料製造部から製造された原料を高炉又は転炉に用いて鉄含有物質を得る製鉄部と、前記原料製造部又は前記製鉄部の少なくとも一方から排出される排気ガスから二酸化炭素を含む特定気体を抽出する気体抽出部と、前記木酢液に有機物を漬け込むことによりフルボ酸を含む腐植液を生成する第1生成部と、前記気体抽出部から抽出された前記特定気体を前記腐植液に溶解させ気体含有腐植液を生成する第2生成部と、前記鉄含有物質を前記気体含有腐植液に浸し鉄含有腐植液を生成する第3生成部と、を有する腐植液生成部と、から構成されるバイオマスエネルギー変換システムを提供している。
【0010】
また、前記原料製造部は、前記バイオマス原料を圧縮することによりバイオコークスとするコークス製造部をさらに有し、前記製鉄部は、前記バイオコークスを原料とすることが好ましい。
【0011】
また、前記第3生成部は、前記気体含有腐植液を収容するタンクと、前記タンク内に配置された網目状の保持部と、を有し、前記保持部に前記鉄含有物質を配置し前記タンク内の前記気体含有腐植液に浸すことにより鉄含有腐植液を生成することが好ましい。
【0012】
また、前記第3生成部によって生成された前記鉄含有腐植液のpH値を調整するpH調整部をさらに有し、前記pH調整部は、前記飼育部の環境に基づいて前記鉄含有腐植液のpH値を調整することが好ましい。
【0013】
さらに本発明では、熱分解炉でバイオマス原料を炭化させて原料を製造し乾留ガスを得る工程と、前記乾留ガスから不純物を除去して木酢液を抽出する工程と、前記原料を製鉄の高炉に用いて鉄含有物質を得る工程と、前記高炉又は前記熱分解炉の少なくとも一方から排出される排気ガスから二酸化炭素を含む特定気体を抽出する工程と、前記木酢液に有機物を漬け込むことによりフルボ酸を含む腐植液を生成する工程と、前記特定気体を前記腐植液に溶解させ気体含有腐植液を生成する工程と、前記鉄含有物質を前記気体含有腐植液に浸し鉄含有腐植液を生成する工程と、から構成されるバイオマスエネルギー変換方法を提供している。
【発明の効果】
【0014】
このような構成によると、腐植液生成部によって鉄含有腐植液を生成することができるため、鉄含有腐植液を海洋養殖地に使用する、又は農作地に用いることにより、鉄含有腐植液の持つ二価のフルボ酸鉄が生物に吸収されることで農作物への病気の低減による肥沃な田畑作りや海洋生物の豊富な海域を実現することができる。また、原料製造部及び製鉄部によって発生した二酸化炭素を含む特定気体を抽出して第2生成部で腐植液に溶解させるため、バイオマスエネルギー変換システム全体としての二酸化炭素の排出量を低減することができる。さらに、原料製造部でバイオマス原料から製鉄の原料を製造し、製鉄部で原料を高炉又は転炉に利用して鉄含有物質が得られ、第2生成部で木酢液から二酸化炭素を含む特定気体を溶解させた気体含有腐植液を生成し、第3生成部で鉄含有物質を浸すことで鉄含有腐植液を生成するため、バイオマスエネルギー変換システム内で副産物や残渣等を排出することなく完結させることが可能となる。また、このようなプロセスで製造された鉄含有腐植液は、三価の鉄イオンとなって即座に固体鉄として沈降することなく二価の鉄イオンとして存在することが可能であるため、生物に効率的に二価の鉄イオンを供給することができる。これにより、バイオマスエネルギー変換システム全体としてのエネルギー変換効率の向上と環境負荷の低減を同時に実現することができる。
【0015】
このような構成によると、コークス製造部でバイオ炭を圧縮することでバイオコークスを得ることができるため、バイオコークスを製鉄部に用いることで化石燃料からの代替による二酸化炭素排出量の低減を図ることができる。また、製鉄部によって発生した二酸化炭素を含む特定気体を抽出して第2生成部で腐植液に溶解させるため、バイオマスエネルギー変換システム全体としての二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0016】
このような構成によると、第3生成部では保持部内に鉄含有物質を配置してタンク内の気体含有腐植液に浸すことで鉄含有腐植液を生成するため、簡易な方法によって鉄含有腐植液を生成することができる。また、製鉄部で副産物や残渣として発生する鉄含有物質に含まれる鉄イオンは、腐植液に含まれるキレート剤により二価のフルボ酸鉄となる。このようなプロセスで生成された二価のフルボ酸鉄は状態として安定しているため、従来の二価のフルボ酸鉄と異なり酸化による三価のフルボ酸鉄への変化が起こりにくい。これにより、安定して生物に二価のフルボ酸鉄を届けることが可能となる。さらに、第3生成部で使用した鉄含有物質は、鉄イオンが溶出しているため酸化の虞がなく河原の砂利やセメント、地盤改質材、土木工事用の資材として広く利用することができる。
【0017】
このような構成によると、pH調整部が飼育部に基づいて鉄含有腐植液のpH値を調整するため、飼育部への環境負荷を最小限に抑えつつ鉄含有腐植液を供給することができる。pH調整部は鉄含有腐植液のpH値を調整するため、バイオマスエネルギー変換システムから飼育部に鉄含有腐植液を供給する最終段階でpH値の調整を行うこととなる。ここで、仮に腐植液のpH値を調整した場合には、第2生成部又は第3生成部を通過する段階でpH値が変化してしまう。これに対し本実施の形態のバイオマスエネルギー変換システムでは、飼育部に供給する鉄含有腐植液のpH値を調整するため、飼育部への環境負荷を抑制することができる。
【0018】
本発明によれば、二酸化炭素排出量を削減しつつ安定したフルボ酸鉄を含む腐植液を生物に効率的に届けるバイオマスエネルギー変換システム及びバイオマスエネルギー変換方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のバイオマスエネルギー変換システムのフロー図。
【
図2】本発明のバイオマスエネルギー変換システムの材料の流れを示すフロー図。
【
図3】本発明のバイオマスエネルギー変換システムの腐植液生成部のブロック図。
【
図4】本発明のバイオマスエネルギー変換システムの第3生成部を示す図。
【
図5】本発明のバイオマスエネルギー変換システムの鉄含有腐植液における全有機炭素量の測定結果を示す図。
【
図6】本発明のバイオマスエネルギー変換システムの鉄含有腐植液の
図7に示すサンプルの製造条件を示す図。
【
図7】本発明のバイオマスエネルギー変換システムの鉄含有腐植液の
図6の各サンプルの有機炭素量を示す図。
【
図8】本発明のバイオマスエネルギー変換システムのスラグ鉄を漬け込んだ腐植液の鉄イオン濃度を示す表。
【
図9】本発明のバイオマスエネルギー変換システムのスラグ鉄を漬け込んだ腐植液の鉄イオン濃度を示す表。
【
図10】本発明のバイオマスエネルギー変換システムのスラグ鉄を漬け込んだ腐植液の鉄イオン濃度を示す表。
【
図11】本発明のバイオマスエネルギー変換システムのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態によるバイオマスエネルギー変換システム1を
図1から
図11に基づき説明する。バイオマスエネルギー変換システム1は、原料製造部2と、バイオ炭製造部3と、腐植液生成部4と、コークス製造部5と、製鉄部6と、pH調整部8と、から構成される。バイオマスエネルギー変換システム1は、腐植液生成部4によって生成された鉄含有腐植液14を飼育部7に供給することにより、飼育環境の改善を行う。バイオマスエネルギー変換システム1では、バイオマス原料である木材、剪定枝、草本類、製材残渣、農作物残渣、植物資源、農産物廃棄物、家畜ふん尿由来、製紙汚泥・下水汚泥由来、海藻類を原料として用いることができる。本実施の形態ではバイオマス原料として木材10を用いるため、熱分解によって得られる生成物の収量は木炭が約35%、木酢液が約30%、木タールが約20%、ガスが約15%であり木炭以外に多くの副産物が生成される。以下の説明において、木酢液とは竹材から得られた竹酢液を含む概念である。
【0021】
原料製造部2は、切断機21と、乾燥機22と、を有する。原料となる木材10を切断機21で所定の形状に切断して木質材料20とし、ふるいにより細かなダストを選別する。乾燥機22はロータリードライヤーによる高速連続回転を行い、木質材料を乾燥させ一定量の水分を蒸発させる。乾燥機22の熱源は、バイオ炭製造部3の熱分解炉33による排熱を利用する。乾燥機22は、低コストで連続乾燥が可能な低音ベルトドライヤー式、又は環境負荷の低い太陽乾燥式であってもよい。
【0022】
バイオ炭製造部3では、木質材料20からバイオ炭31を得るとともに乾留ガス32から木酢液11を抽出し、排気ガスから二酸化炭素30を分離回収する。具体的には、バイオ炭製造部3は、木質材料20を加熱・蒸し焼きにして熱分解によりガス化する熱分解炉33と、乾留ガス32から木酢液11を取り出す抽出部34と、を有している。本実施の形態では、嫌気性条件下で200℃以上の蒸し焼きにする間接加熱のガス化を行う。ガス化剤としては空気を用いるが、酸素、水素、水蒸気、二酸化炭素等を用いてもよい。二酸化炭素をガス化剤に用いる場合には、バイオ炭製造部3及び製鉄部6で回収され後述の貯留タンク47に蓄えられた二酸化炭素30を用いることが望ましい。熱分解炉33で200℃以上の温度による半炭化のバイオ炭31とすることで、熱分解による炭化バイオマス対比灰分が低く重量減少割合も低減されるため、多くのエネルギーがバイオ炭31に蓄積されることとなる。これにより、コークス製造部5において高いエネルギーのバイオコークスを生成することができるとともに、製鉄部6においても化石燃料の代替となることができる。熱分解炉における温度条件等については、原料やバイオ炭31の用途に応じて任意に設定することができるため、350℃以上の熱分解によりバイオ炭31を製造してもよい。
【0023】
バイオ炭製造部3の熱分解炉33は外熱式ロータリーキルン炉又はバックドラフト方式を用いるが、固定床炉、ストーカ炉、流動床炉、内部循環式流動床ボイラ、外部循環式流動床ボイラのいずれであっても良く、他の形式の炉を用いてもよい。外熱式により、直接木質材料20を燃焼させることがなく外部からの熱によって蒸し焼きにするため、ダイオキシン等の有害物質も発生しない。熱分解炉33では、乾燥させた木質材料20を耐熱鋼鉄の反応筒に入れ、回転させながら加熱してガス化する。これにより、接触伝熱となるため熱伝達係数が高くなり、木質材料20を効率的にガス化することができる。また、横型の攪拌炉であるため原料形状の制約が少なく、繊維質の絡みやすい原料である樹皮や竹等も処理することができる。熱分解炉33から発生した乾留ガス32は抽出部34に送られるとともに、熱分解炉33の床部からバイオ炭31が取り出される。本実施の形態では、バイオ炭31の原料として木質材料20を用いたが、これに限定されず作物残渣など生物資源を材料とした生物の活性化及び環境の改善に効果のある炭化物を用いることもできる。具体的には、家畜ふん尿由来、草本類由来、もみ殻・稲わら由来、木の実由来、製紙汚泥・下水汚泥由来、海藻類等もバイオ炭31の対象となる。木質材料20は、本発明のバイオマス原料の一例である。
【0024】
抽出部34では、熱分解炉33からの乾留ガス32に水等の液体を散布して冷却するとともに、乾留ガス32中に飛散していたバイオマス粉体と炭化物粉体等の固形物と、木酢液11、液状タール飛沫をこの液体で捕捉して乾留ガス32から分離する。コレクタで、上記固形物を含まない乾留ガス32と、固形物を含むスラリ状の液体とに分離し、比重分離により木酢液11を抽出する。乾留ガス32の不純物を取り除くために、コレクタの下流側にフィルタを設けてもよい。
【0025】
熱分解炉33及び抽出部34には、過熱蒸気発生装置により発生する飽和水蒸気及び加熱水蒸気を含む蒸気熱を反応槽に間接的に提供することにより、バイオマス原料を熱分解するシステムを利用することができる。例えば、特許第7043673号に記載の有機系廃棄物の処理システムを用いることにより、反応槽外部からの加熱を行うためバイオマス原料の水分気化により含水率を低減することができる。また、反応槽内で凝縮水ができ難く蒸気熱が反応槽全体に行き渡るため、均一な熱分解を行うことができる。
【0026】
コレクタ及びフィルタによって不純物が除去された乾留ガス32は、乾留ガス32に補助燃料である重油を加えて混燃させデュアルフュエルエンジンにより発電を行ってもよい。熱量の低い乾留ガスでエンジン効率を向上させるため、過給機やインタークーラーを採用することが望ましい。
【0027】
熱分解炉33の排気ガスに含まれるに二酸化炭素30は、化学吸収法により分離回収される。熱分解の排気ガスは、脱塵・脱硫・脱硝などの前処理を行った後、二酸化炭素30を吸収しやすいアミン系の水溶液が滴下される吸収塔を通過することで、液中に吸収される。その後、水溶液が加熱されて二酸化炭素30が気化し、分離塔において高純度の二酸化炭素30が得られ、後述の貯留タンク47に蓄えられる。このとき、分離塔の加熱熱源は熱分解炉33における排熱を利用する。排気ガスの二酸化炭素回収は、特殊フィルタによる分離法を用いることもできる。熱分解炉33の排気ガスから二酸化炭素30を分離回収する工程は、本発明の気体抽出部の一例である。
【0028】
腐植液生成部4は、
図3に示すように、腐植液12を生成する第1生成部41と、腐植液12から気体含有腐植液13を生成する第2生成部42と、気体含有腐植液13から鉄含有腐植液14を生成する第3生成部43と、から構成される。
【0029】
第1生成部41では、
図2に示すように、有機物40と、バイオ炭製造部3から抽出されたバイオ炭31の残渣と、から腐植液12を生成する。ここでいう有機物40には、原料製造部2で発生した残渣に限らず、海草及び藻類,漁業における採取や養殖及びその加工で生じる藻類の残渣、木材、竹材、草本類、野菜屑、又は落葉落枝であるが、これに限定されない。第1生成部41は、腐植液12を生成する生成タンク44と、有機物40を貯蔵する有機物タンク45と、から構成される。第1生成部41では、生成タンク44に充填された木酢液11に有機物タンク45の有機物40を漬け込むことにより腐植液12を生成する。使用する木酢液11は、水分が80%以上,有機酸含有量が1.0%以上でpH(H2O)5.0以下,電気伝導度が1.0mS/cm以上であることが望ましい。
【0030】
第1生成部41では、製造タンクに容量比で有機物1.0に対して木酢液11を0.5以上の割合で混合して撹拌機等で攪拌し、少なくとも3時間以上、有機物40の種類によっては600時間程度漬け込む。長時間浸漬することにより、腐植化が進んでいない木や草又は残渣等に木酢液11を含侵させることができる。養生期間が経過した後の製造タンクの溶液が、腐植液12となる。腐植液12は、ヒューミン、フミン酸、フルボ酸を主成分とし、土壌改質、キレートマリン、果樹栽培、魚類及び家畜の養殖等に用いることができる。
【0031】
腐植液12に含まれるヒューミン、フルボ酸、及びフミン酸は、日本腐植物質学会の属する国際腐植物質学会の分類に基づき、生物体有機物が微生物的・化学的作用を受けて崩壊して生じる化学構造が特定されていない有機物(非生体有機物)である腐植物のうち、アルカリ・酸に対する溶解性での分類を行う。フルボ酸は、アルカリに可溶であり、酸に可溶な成分であって、フミン酸もアルカリに可溶であるが、酸に不溶な成分である。ヒューミンは、アルカリに不溶であり、かつ、酸に不溶な成分である。フルボ酸液等に含まれているフルボ酸の程度は、フルボ酸が混合物質であり、かつ他の有機物の有無の影響も大きいため具体的な成分ごとの濃度で規定することが適切ではなく、具体的な数値では規定できない場合がある。
【0032】
ヒューミン、フルボ酸、及びフミン酸は多くのカルボキシル基(-COOH)やフェノール性水酸基(R-OH)を含んでおり、これらの結合の末端にある酸素(O)と水素(H)の結合力は極めて弱いため末端の水素が結合から離れると取り残された酸素には負電荷が発生する。二価鉄のような鉄イオンは陽イオンであるため、負電荷の腐植と結合する。このようにフルボ酸と鉄イオンが結合した物質をフルボ酸鉄と呼ぶ。
【0033】
第2生成部42では、製鉄部6及びバイオ炭製造部3から回収された二酸化炭素30を腐植液12中に溶解させる。第2生成部42は、腐植液12に気体を溶解させる気体溶解部46と、バイオ炭製造部3及び製鉄部6で回収された二酸化炭素30を貯める貯留タンク47と、から構成される。気体溶解部46は密閉された容器であって内部には貯留タンク47の気体が充填され、上から腐植液12を落下又は噴霧させることにより、気体含有腐植液13を生成する。本実施の形態では、バイオ炭製造部3の熱分解炉33及び製鉄部6で回収された二酸化炭素を用いているが、これに限定されず他の気体を利用してもよい。
【0034】
気体溶解部46では、密閉された装置内で二酸化炭素30を供給するため、従来の曝気による供給方法よりも効率が良い。曝気によって二酸化炭素30を供給すると液体に溶け出す前に外に逃げてしまうが、本発明では気体溶解部46が密閉されているため供給された分のみが液体に溶け出し無駄がない。これにより、気体含有腐植液13において高い溶存二酸化炭素濃度を実現することができる。本実施の形態では、気体溶解部46として岩谷産業株式会社の酸素ファイター(登録商標)を用いるが、これに限定されず他の無気泡溶解装置を用いてもよい。気体溶解部46によると、腐植液12に溶解している気体を二酸化炭素30に置換し気体含有腐植液13とすることができるため、曝気と比較して高い二酸化炭素濃度を実現することができる。貯留タンク47から気体溶解部46に供給される二酸化炭素30の量は必ずしも一定である必要は無く、設備や外部環境に応じて供給量を変動させてもよい。
【0035】
第3生成部43は、製鉄部6で発生した鉄鋼スラグ61を気体含有腐植液13内に漬け込むことにより鉄含有腐植液14を生成する。
図4に示すように、気体含有腐植液13が満たされた槽48に、鉄鋼スラグ61が配置されたメッシュ状の支持部49を所定時間漬け込む。このとき、気体含有腐植液13と鉄鋼スラグ61とは、重量比で50:1~50:50の範囲であることが望ましいが、この範囲に限定されない。
【0036】
鉄含有腐植液14における二価のフルボ酸鉄の濃度に応じて、支持部49の鉄鋼スラグ61を交換する。交換された鉄鋼スラグ61及び槽48の下部に沈殿した鉄鋼スラグ61は、二価の鉄イオンを多量に含むキレート沈殿鉄61Aとして利用することができる。具体的には、キレート沈殿鉄61Aを海又は河川に供給、又は農地に供給することにより、二価の鉄イオンが生物に供給され、環境改善を行うことができる。
【0037】
鉄鋼スラグ61は、製鉄工程で発生する副産物であって、有機酸で溶解されイオン化する鉄分が多く含まれるとともに鉄イオンの溶解度も高いため、二価の鉄イオンを溶出させる材料としては好適と考えられる。二価鉄は水中での酸化過程で溶出しやすく、二価の鉄イオンの形で生物に吸収されるが、二価鉄は非常に不安定な物質である。気体含有腐植液13に含まれるフルボ酸は、カルボキシル基やカルボニル基を有しており、無酸素下で生成された二価の鉄イオンが錯体としてフルボ酸と結合しフルボ酸鉄となる。二価の鉄イオンはフルボ酸とキレートすることで安定的なフルボ酸鉄となり、有酸素下であっても安定的に存在することができる。鉄鋼スラグ61はアルカリであるため、気体含有腐植液13においてフルボ酸よりも存在量は多いがアルカリ性の雰囲気でなければ水に溶けないフミン酸も二価鉄のキレート剤とすることができる。これにより、鉄含有腐植液14にはフルボ酸鉄やフミン酸鉄を豊富に含むこととなり、安定的な二価鉄イオンを有するため各種用途に使用可能となる。
【0038】
図5に、鉄含有腐植液14に含まれる全有機炭素量(TOC)の測定結果を示す。人工海水で700mg/mLに調整した腐植液12に所定の鉄鋼スラグ61を添加し、3時間経過後に液体をろ過する。固相抽出法によって有機物に結合する鉄を分離捕集して酸で溶出させ、発色法により鉄を測定する。
図5に示すように、実線が調整された鉄含有腐植液14、点線が腐植液12、一点鎖線が鉄鋼スラグ61の溶出液である。鉄含有腐植液14は、他の溶液と比べても高い炭素量を示している。
図6及び
図7に示すのは、pH値が異なる鉄鋼スラグ61を用いた場合の有機炭素量である。
図6に、準備した4つのサンプルの鉄鋼スラグ29のpH及び腐植液12への漬け込み時間との関係を示す。
図7に、腐植液12にpHが異なる鉄鋼スラグ61を6時間又は24時間漬け込んだ鉄含有腐植液の結果を示す。試験の結果、pH値が弱アルカリ性の鉄鋼スラグ61を腐植液12に24時間漬け込んだ溶液が、鉄イオン含有量が1000ppmとなり最も高くなっている。これに対し、強アルカリ性の鉄鋼スラグ61を腐植液12に24時間以上漬け込んだとしても、鉄イオン含有量は200ppm程度となっている。これにより、第3生成部43では弱アルカリ性の鉄鋼スラグ61を3時間以上、より望ましくは6時間以上気体含有腐植液13に漬け込むことが望ましい。
【0039】
図8から
図10に、腐植液12に鉄鋼スラグ61を漬け込んだ期間と、pH値及び二価鉄イオンの濃度と、の関係性を示す。腐植液12と鉄鋼スラグ61とを1:1の重量比で漬け込んだ結果を
図8に示す。漬け込んでから7日経過後で二価鉄イオンの濃度が最大となり、pH値も7.05と略中性を示している。また、3日経過後まではpH値は酸性~弱酸性を示し、二価鉄イオンの濃度も1000~2000ppmとなっている。
【0040】
腐植液12と鉄鋼スラグ61とを2:1の重量比で漬け込んだ結果を
図9に示す。漬け込んでから7日経過後で二価鉄イオンの濃度が最大となり、pH値も5.3と弱酸性を示している。また、3日経過後まではpH値は酸性~弱酸性を示し、二価鉄イオンの濃度も1000~2000ppmとなっている。
【0041】
腐植液12と鉄鋼スラグ61とを10:1の重量比で漬け込んだ結果を
図10に示す。漬け込んでから7日経過後で二価鉄イオンの濃度が最大となり、pH値も4.11と弱酸性を示している。また、3日経過後まではpH値は酸性~弱酸性を示し、二価鉄イオンの濃度も1000~3000ppmとなっている。以上より、腐植液12と鉄鋼スラグ61との混合比率は、10:1であっても7日経過すると鉄鋼スラグ61が多い場合と比較しても十分な二価鉄イオンの濃度を得ることができた。
【0042】
コークス製造部5は、
図2に示すように、バイオ炭製造部3によって製造されたバイオ炭31とバイオマス原料とを混合して加熱・圧縮することでバイオコークス51を生成する。コークス製造部5では、シリンダ内にバイオ炭31及びその他のバイオマス原料を充填して10~20Mpaで加圧し、150℃~300℃で所定時間加熱した後に冷却してバイオコークス51とする。本実施の形態では、
図1に示すように、加圧、加熱、冷却を連続的に行う生成装置52を用いている。所定温度で加熱することにより、バイオ炭31に混合されたバイオマス原料に含まれるリグニン、セルロース及びヘミセルロースのうち、特にヘミセルロースが熱分解してシリンダ内に発生した加熱蒸気によってセルロース及びリグニンで低温下における加水分解反応が起こる。バイオコークス51は、強度や燃焼時における形状安定性に優れるとともに、エネルギー密度を高め輸送コストを削減できる。原料製造部2、バイオ炭製造部3、及びコークス製造部5は、本発明の原料製造部の一例である。木質材料20、バイオ炭31、及びバイオコークス51は、本発明の原料の一例である。
【0043】
製鉄部6は、
図2に示すように、コークス製造部5で製造されたバイオコークス51を石炭コークスに一部添加して製鉄を行い、副産物である二酸化炭素30及び鉄鋼スラグ61を腐植液生成部4に供給する。製鉄部6では、鉄鉱石、焼結鉱、石灰石に溶鉄予備処理を行い、高炉62において鉄鉱石の還元及び浸炭を行うことにより溶融銑鉄が得られる。得られた銑鉄を転炉で必要炭素量まで脱炭して不純物を除去する。このときの反応は、純酸素ガスおよび酸化鉄による銑鉄中の炭素の酸化であり、この脱炭反応に寄与した残存酸素は銑鉄中に残存する。不純物が除去された鉄鋼は、圧延によって板状の製品に成形され、ロール状となる。本実施の形態では、製鉄部6における高炉62及び転炉において、製品品質に影響を与えない範囲で石炭コークスにバイオコークス51を所定量添加する。望ましくは、バイオコークス51の添加量を50%以内とする。
【0044】
鉄鋼スラグ61は、鉱石から金属を還元・精錬する際に特定の成分が溶解してできた鉄鋼副産物であり、転炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉酸化スラグ、電気炉還元スラグ、二次精錬スラグ、鋳造スラグ、混銑炉スラグ等が含まれる。鉄鋼スラグ61は、
図2から
図4に示すように、第3生成部43で気体含有腐植液13に二価の鉄イオンを溶出させ鉄含有腐植液14とするために用いられる。製鉄部6においては、バイオコークス51を所定の形状に加工し、炭化粉を微粉炭とともに高炉62に吹き込む方法や,石炭粉と混合して高炉62又は転炉に装入してもよい。また、バイオコークス51を20%添加、かつ石灰を添加してブリケットを製造し、脱硫剤や脱硝剤として利用することもできる。
【0045】
高炉62又は転炉等の排気ガスに含まれる二酸化炭素30は、化学吸収法により分離回収される。高炉62の排気ガスは、脱塵・脱硫・脱硝などの前処理を行った後、二酸化炭素30を吸収しやすいアミン系の水溶液が滴下される吸収塔を通過することで、液中に吸収される。その後、水溶液が加熱されて二酸化炭素30が気化し、分離塔において高純度の二酸化炭素30が得られ、貯留タンク47に蓄えられる。高炉62又は転炉の排気ガスから二酸化炭素30を分離回収する工程は、本発明の気体抽出部の一例である。
【0046】
pH調整部8は、第3生成部43によって生成された鉄含有腐植液14のpH値を調整する。pH調整部8は、図示せぬコントロールバルブによって水(海水)又はpH調整剤を投入し、鉄含有腐植液14のpH値を所定の範囲に調整する。鉄含有腐植液14のpH値は飼育部7の環境に応じて、最適な値に調整することができる。水又はpH調整剤の投入量は、鉄含有腐植液14のpH値、又は飼育部7のpH値に応じて最適に設定される。具体的には、飼育部7のpH値に近い値にすることで環境負荷の低減を図る。飼育部7に設けられたpHセンサの検出結果に応じて、pH調整部8における投入量を制御してもよい。
【0047】
次に、バイオマスエネルギー変換システム1の流れについて、
図1及び
図11を参照して説明する。原料となる木材10を原料製造部2で所定形状に切断し、木質材料20を得る(S1)。原料製造部2での木材10の加工時に発生する残渣は、有機物タンク45に保存される有機物40に追加される。バイオ炭製造部3の熱分解炉33で木質材料20を熱分解し、バイオ炭31を製造するとともに抽出部34から副産物として木酢液11を得る(S2)。熱分解炉33における排気ガスに含まれる二酸化炭素30は、分離回収され貯留タンク47に蓄えられる。
【0048】
コークス製造部5では、バイオ炭製造部3で得られたバイオ炭31及び他のバイオマス原料を所定の条件で加熱・圧縮することでバイオコークス51を生成する(S3)。得られたバイオコークス51は、製鉄部6の高炉62又は転炉で石炭コークスに添加することにより利用される(S4)。製鉄部6では、排気ガスから二酸化炭素30が分離回収されるとともに、製鉄の副産物として発生する鉄鋼スラグ61が得られる。
【0049】
第1生成部41において、木酢液11に所定の前処理を行い、有機物40を所定条件下で漬け込むことにより腐植液12を得る(S5)。第2生成部42において、気体溶解部46でバイオ炭製造部3及び製鉄部6の排気ガス中から回収された二酸化炭素30を腐植液12に溶解させ、気体含有腐植液13を得る(S6)。第3生成部43において、気体含有腐植液13に鉄鋼スラグ61を所定条件下で漬け込むことにより鉄含有腐植液14を得る(S7)。
【0050】
鉄含有腐植液14は、pH調整部8によって飼育部7に最適化されたpH値に調整され(S8)、飼育部7に散布される(S9)。二価の鉄イオンを含む鉄含有腐植液14を海洋養殖地71の栄養として供給するとともに、農地72に散布する。鉄含有腐植液14は、パイプライン等による自動輸送システムで飼育部7に供給してもよい。海洋養殖地71において養殖される藻類は、多細胞生物であるアオノリ、アオサ等の緑藻類、カギケノリ、アサクサノリ、フノリ、テングサ等の紅藻類、コンブ、ヒジキ、モズク、ワカメの褐藻類等の海藻類又は共生藻である。貝類としては、牡蛎、ホタテ、アワビ、シジミ、アサリ等が対象となり、棘皮動物としてはウニ、ナマコが対象となる。海洋養殖地71において魚類を養殖する際は、網等で海中に生け簀を区画し鉄含有腐植液14を添加することが望ましい。鉄含有腐植液14は、二価の鉄イオンやフルボ酸鉄を豊富に含むとともに溶存二酸化炭素濃度が高いため、海洋養殖地71及びその周辺での光合成生物の生産性が増大し、生物により水質が浄化される。さらに、鉄含有腐植液14からの二価鉄イオン流出による硫化水素等の有毒ガスの発生抑制、及び底質における嫌気性の付着珪藻の増殖によるヘドロの改善が行われる。このような連鎖により、生物資源の豊富な、海の森が創設される。さらに、農地72に二価の鉄イオンを豊富に含む鉄含有腐植液14を散布することにより、植物が土中のミネラル(微量要素)をキレート作用で取り込むとともに光合成に必要な二酸化炭素も供給されるため、土壌改良や塩害からの回復などの効果が得られる。
【0051】
このような構成によると、腐植液生成部4によって鉄含有腐植液14を生成することができるため、鉄含有腐植液14を海洋養殖地71に使用する、又は農地72に用いることにより、鉄含有腐植液14の持つ二価のフルボ酸鉄が生物に吸収されることで農作物への病気の低減による肥沃な田畑作りや海洋生物の豊富な海域を実現することができる。また、バイオ炭製造部3及び製鉄部6によって発生した二酸化炭素30を含む特定気体を抽出して第2生成部42で腐植液12に溶解させるため、バイオマスエネルギー変換システム1全体としての二酸化炭素30の排出量を低減することができる。また、本実施の形態のプロセスで製造された鉄含有腐植液14は、三価の鉄イオンとなって即座に固体鉄として沈降することなく二価の鉄イオンとして存在することが可能であるため、生物に効率的に二価の鉄イオンを供給することができる。
【0052】
バイオ炭製造部3及びコークス製造部5で木材10からバイオコークス51を製造し、製鉄部6でバイオコークス51を製鉄に利用し、第2生成部42で副産物である木酢液11から二酸化炭素30を含む特定気体を溶解させた気体含有腐植液13を生成し、第3生成部43で鉄鋼スラグ61を浸すことで鉄含有腐植液14を生成するため、バイオマスエネルギー変換システム1内で副産物や残渣等を排出することなく完結させることが可能となる。これにより、バイオマスエネルギー変換システム1全体としてのエネルギー変換効率の向上と環境負荷の低減を同時に実現することができる。
【0053】
このような構成によると、コークス製造部5でバイオ炭31を所定温度で圧縮することでバイオコークス51を得ることができるため、バイオコークス51を製鉄部6に用いることで化石燃料からの代替による二酸化炭素排出量の低減を図ることができる。また、製鉄部6によって発生した二酸化炭素30を含む特定気体を抽出して第2生成部42で腐植液12に溶解させるため、バイオマスエネルギー変換システム全体としての二酸化炭素30の排出量を低減することができる。
【0054】
このような構成によると、第3生成部43では槽48内に鉄鋼スラグ61を配置して気体含有腐植液13に浸すことで鉄含有腐植液14を生成するため、簡易な方法によって鉄含有腐植液14を生成することができる。また、製鉄部6で副産物や残渣として発生する鉄鋼スラグ61に含まれる鉄イオンは、腐植液12に含まれるキレート剤により二価のフルボ酸鉄となる。このようなプロセスで生成された二価のフルボ酸鉄は状態として安定しているため、従来の二価のフルボ酸鉄と異なり酸化による三価のフルボ酸鉄への変化が起こりにくい。これにより、安定して生物に二価のフルボ酸鉄を届けることが可能となる。さらに、第3生成部43で使用した鉄鋼スラグ61は、鉄イオンが溶出しているため酸化の虞がなく河原の砂利やセメント、地盤改質材、土木工事用の資材として広く利用することができる。
【0055】
このような構成によると、pH調整部8が飼育部7に応じて鉄含有腐植液14のpH値を調整するため、飼育部7への環境負荷を最小限に抑えつつ鉄含有腐植液14を供給することができる。pH調整部8は鉄含有腐植液14のpH値を調整するため、バイオマスエネルギー変換システム1から飼育部7に鉄含有腐植液14を供給する最終段階でpH値の調整を行うこととなる。ここで、仮に腐植液12のpH値を調整した場合には、鉄ユニット27を通過する段階でpH値が変化してしまう。これに対し、本実施の形態のバイオマスエネルギー変換システム1では鉄含有腐植液50のpH値を調整するため、飼育部7への負荷を抑制することができる。
【0056】
本発明によるバイオマスエネルギー変換システム及びバイオマスエネルギー変換方法は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【0057】
上述の実施の形態では、バイオコークス51の製造にバイオ炭31を使用したが、これに限定されない。草本類、木材、もみ殻・稲わら由来、木の実由来、食品廃棄物、農業廃棄物、等を直接的に圧縮、加熱することによりバイオコークスを製造してもよい。これにより、エネルギー密度の高いバイオコークスを製造することができる。
【0058】
上述の実施の形態では、コークス製造部5によりバイオ炭31を圧縮、加熱してバイオコークス51を製造したが、これに限定されない。バイオ炭31を直接製鉄部6に用いてもよい。その際は、バイオ炭31を所定の形状に加工し、炭化粉を微粉炭とともに高炉62に吹き込む方法が望ましい。
【0059】
上述の実施の形態では、製鉄部6の排気ガスから二酸化炭素30を分離回収して腐植液12に溶解させたが、溶解させる気体は二酸化炭素30に限定されない。例えば、窒素、水素、酸素等であってもよい。窒素、酸素等のガス抽出は、吸着材による選択吸着であるPSA方式、濾過作用を利用した膜方式、液化温度の違いにより気体を抽出する深冷式等の方法を用いることができる。
【0060】
上述の実施の形態では、生成タンク44に充填された木酢液11に有機物タンク45の有機物40を漬け込むことにより腐植液12を生成したが、これに限定されない。例えば、生成タンク34の下部に振動装置を配置して木酢液11と有機物40との反応速度を速めることができる。これにより、腐植液12の生産効率を高めることができる
【0061】
上述の実施の形態では、第3生成部43において槽48内に鉄鋼スラグ61を配置して気体含有腐植液13に浸すことで鉄含有腐植液14を生成したが、これに限定されない。例えば、槽48の下部に振動装置を配置して鉄鋼スラグ61と気体含有腐植液13との反応速度を速めることができる。これにより、鉄含有腐植液14の生産効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 バイオマスエネルギー変換システム
2 原料製造部
3 バイオ炭製造部
4 腐植液生成部
5 コークス製造部
6 製鉄部
7 飼育部
8 pH調整部
11 木酢液
12 腐植液
13 気体含有腐植液
14 鉄含有腐植液
20 木質材料
30 二酸化炭素
31 バイオ炭
41 第1生成部
42 第2生成部
43 第3生成部
51 バイオコークス
61 鉄鋼スラグ