(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017513
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】スクリュー圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/16 20060101AFI20250130BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
F04C18/16 B
F04C29/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120587
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】土屋 豪
(72)【発明者】
【氏名】千葉 紘太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢部 利明
(72)【発明者】
【氏名】酒井 航平
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 将
(72)【発明者】
【氏名】佐野 笙太郎
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA03
3H129AA17
3H129AB01
3H129BB16
3H129BB43
3H129CC05
3H129CC24
(57)【要約】
【課題】ロータの全巻角が小さい条件にて、吸入量を増加することができるスクリュー圧縮機を提供する。
【解決手段】スクリュー圧縮機は、雄ロータ1Aの複数の歯溝に形成された複数の雄ロータ側作動室10Aと、雌ロータ1Bの複数の歯溝に形成された複数の雌ロータ側作動室10Bとを備える。複数の雌ロータ側作動室10Bのうち最大容積を有するものが存在する雌ロータ1Bの回転角範囲は、雌ロータ1Bの歯数から雄ロータ1Aの歯数を差し引いた数と雌ロータ1Bの歯溝の周方向幅に対応する雌ロータ1Bの回転角範囲との積より大きくなっている。雌ロータ側作動室10Bの吸入完了タイミングは、雌ロータ側作動室10Bの容積が最大となる基準タイミングより遅く、かつ、雌ロータ側作動室10B内にて雌ロータ1Bの歯部3Bの吐出側端面18Bから吸入側端面19Bまで伝播する圧力波の伝播時間が経過する前に設定されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯溝が形成された歯部を有する雄ロータと、
複数の歯溝が形成された歯部を有し、前記雄ロータと噛み合うように配置された雌ロータと、
前記雄ロータの前記複数の歯溝に形成された複数の雄ロータ側作動室と、
前記雌ロータの前記複数の歯溝に形成された複数の雌ロータ側作動室とを備えたスクリュー圧縮機において、
前記複数の雌ロータ側作動室のうち最大容積を有するものが存在する前記雌ロータの回転角範囲は、前記雌ロータの歯数から前記雄ロータの歯数を差し引いた数と前記雌ロータの前記歯溝の周方向幅に対応する前記雌ロータの回転角範囲との積より大きくなっており、
前記雌ロータ側作動室の吸入完了タイミングは、前記雌ロータ側作動室の容積が最大となる基準タイミングより遅く、かつ、前記雌ロータ側作動室内にて前記雌ロータの前記歯部の吐出側端面から吸入側端面まで伝播する圧力波の伝播時間が経過する前に設定されたことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機において、
前記雄ロータ側作動室の吸入完了タイミングは、前記雄ロータ側作動室の容積が最大となる基準タイミングより遅く、かつ、前記雄ロータ側作動室内にて前記雄ロータの前記歯部の吐出側端面から吸入側端面まで伝播する圧力波の伝播時間が経過する前に設定されたことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のスクリュー圧縮機は、複数の歯溝が形成された歯部を有する雄ロータと、複数の歯溝が形成された歯部を有し、雄ロータと噛み合うように配置された雌ロータと、雄ロータの複数の歯溝に形成された複数の雄ロータ側作動室と、雌ロータの複数の歯溝に形成された複数の雌ロータ側作動室とを備える。
【0003】
雄ロータ側作動室及び雌ロータ側作動室は、雄ロータ及び雌ロータの回転に伴って移動し、容積が変化する。雄ロータ側作動室及び雌ロータ側作動室は、吸入ポート(開口)を介し吸入流路から気体を吸入する吸入行程と、容積が縮小して気体を圧縮する圧縮行程と、吐出ポート(開口)を介し吐出流路へ圧縮気体を吐出する吐出行程を順次行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1における雌ロータ側作動室の吸入完了タイミングは、雌ロータ側作動室の容積が最大となる基準タイミングに対し、同じであるか若しくは早くしているが、遅くすれば、吸入気体の慣性の作用によって吸入量を増加することが可能である。しかし、下記の式(1)の条件を満たさなければ、雌ロータ側作動室の吸入完了タイミングを基準タイミングより遅くすることができない。
δf>(Zf-Zm)×(360/Zf) ・・・(1)
【0006】
式(1)のδf[度]は、複数の雌ロータ側作動室のうち最大容積を有するものが存在する雌ロータの回転角範囲(以降、雌ロータ側最大容積存在角という)である。雄ロータ側ボアの壁面と雌ロータ側ボアの壁面との境界線を低圧側カスプ及び高圧側カスプと称し、低圧側カスプと高圧側カスプの間の周方向幅に対応する雌ロータの回転角範囲φCf[度]を定義する。この雌ロータの回転角範囲φCfでは、雄ロータの歯が存在するため、雌ロータ側作動室の容積が最大にならない。そのため、雌ロータ側最大容積存在角δfは、雌ロータ側ボアの壁面の周方向幅に対応する雌ロータの回転角範囲φBf[度](但し、φBf=360-φCf)から雌ロータの全巻角φAf[度]を差し引くことにより、求められる。雌ロータ側最大容積存在角δfは、雌ロータの全巻角φAfが小さくなるほど大きくなる。
【0007】
式(1)の条件は、雌ロータ側最大容積存在角δfが、雌ロータの歯数Zfから雄ロータの歯数Zmを差し引いた数(Zf-Zm)と雌ロータの歯溝の周方向幅に対応する雌ロータの回転角範囲(360/Zf)との積より大きいというものである。雌ロータの全巻角φAfが大きくて式(1)の条件を満たさなければ、雌ロータ側作動室の容積が最大となるとき、雌ロータ側作動室と連通する雄ロータ側作動室が圧縮行程にある。そのため、雌ロータ側作動室を介し雄ロータ側作動室の圧縮空気が排出される可能性がある。したがって、雌ロータ側作動室の吸入完了タイミングを基準タイミングより遅くすることができない。
【0008】
一方、雌ロータの全巻角φAfが小さくて式(1)の条件を満たせば、雌ロータ側作動室の吸入完了タイミングを基準タイミングより遅くして、吸入量を増加することができる。しかし、雌ロータ側作動室が雌ロータの歯部の吐出側端面に到達したときに、雌ロータの歯部の吐出側端面に対向するケーシングの内壁で反射されて雌ロータの歯部の吸入側端面に向かう圧力波(逆流)が生じる。そのため、雌ロータ側作動室の吸入完了タイミングが遅すぎれば、前述した圧力波が吸入ポートを介し排出されて、吸入量が減少する。
【0009】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、雌ロータの全巻角が小さい条件にて、吸入量を増加することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、特許請求の範囲に記載の構成を適用する。本発明は、上記課題を解決するための手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、複数の歯溝が形成された歯部を有する雄ロータと、複数の歯溝が形成された歯部を有し、前記雄ロータと噛み合うように配置された雌ロータと、前記雄ロータの前記複数の歯溝に形成された複数の雄ロータ側作動室と、前記雌ロータの前記複数の歯溝に形成された複数の雌ロータ側作動室とを備えたスクリュー圧縮機において、前記複数の雌ロータ側作動室のうち最大容積を有するものが存在する前記雌ロータの回転角範囲は、前記雌ロータの歯数から前記雄ロータの歯数を差し引いた数と前記雌ロータの前記歯溝の周方向幅に対応する前記雌ロータの回転角範囲との積より大きくなっており、前記雌ロータ側作動室の吸入完了タイミングは、前記雌ロータ側作動室の容積が最大となる基準タイミングより遅く、かつ、前記雌ロータ側作動室内にて前記雌ロータの前記歯部の吐出側端面から吸入側端面まで伝播する圧力波の伝播時間が経過する前に設定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロータの全巻角が小さい条件にて、吸入量を増加することできる。
【0012】
なお、上記以外の課題、構成及び効果は、以下の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態におけるスクリュー圧縮機の構造を表す断面図である。
【
図3】
図2の矢視III-IIIによる断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における複数の雌ロータ側作動室を吸入ポートの一部と共に表す雌ロータの歯部の展開図である。
【
図6】本発明の一実施形態における複数の雄ロータ側作動室を吸入ポートの一部と共に表す雄ロータの歯部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本実施形態におけるスクリュー圧縮機の構造を表す断面図(
図2の矢視I-Iによる断面図)であり、
図2は、
図1の矢視II-IIによる断面図である。
図3は、
図2の矢視III-IIIによる断面図であり、
図4は、
図2の矢視IV-IVによる断面図である。なお、
図4においては、便宜上、吐出ポート及び吐出流路等の図示を省略している。
【0016】
本実施形態のスクリュー圧縮機は、雄ロータ1Aと、雄ロータ1Aと噛み合うように配置された雌ロータ1Bと、雄ロータ1A及び雌ロータ1Bを収納するケーシング2とを備える。
【0017】
雄ロータ1Aは、複数(本実施形態では6つ)の螺旋状の歯とそれらの間に形成された複数の歯溝を有する歯部3Aと、歯部3Aの軸方向一方側(
図1及び
図2の左側)に接続された吸入側軸部4Aと、歯部3Aの軸方向他方側(
図1及び
図2の右側)に接続された吐出側軸部5Aとを備える。雄ロータ1Aの吸入側軸部4Aは吸入側軸受6Aで回転可能に支持され、雄ロータ1Aの吐出側軸部5Aは吐出側軸受7Aで回転可能に支持されている。
【0018】
雌ロータ1Bは、複数(本実施形態では8つ)の螺旋状の歯とそれらの間に形成された複数の歯溝を有する歯部3Bと、歯部3Bの軸方向一方側(
図2の左側)に接続された吸入側軸部4Bと、歯部3Bの軸方向他方側(
図2の右側)に接続された吐出側軸部5Bとを有する。雌ロータ1Bの吸入側軸部4Bは吸入側軸受6Bで回転可能に支持され、雌ロータ1Bの吐出側軸部5Bは吐出側軸受7Bで回転可能に支持されている。
【0019】
雄ロータ1Aの吸入側軸部4Aは、ケーシング2を貫通して、モータの回転軸(図示せず)に連結されている。これにより、モータの回転力が雄ロータ1Aに伝達されて、雄ロータ1Aが回転する。雌ロータ1Bの歯部3Bは、雄ロータ1Aの歯部3Aと接触して噛み合っている。あるいは、雌ロータ1Bの歯部3Bは、雄ロータ1Aの歯部3Aと非接触で噛み合うように配置されているものの、雄ロータ1Aの吐出側軸部5A及び雌ロータ1Bの吐出側軸部5Bには一対のタイミングギヤ(図示せず)が設けられ、一対のタイミングギヤが互いに噛み合っている。これにより、雄ロータ1Aの回転力が雌ロータ1Bに伝達されて、雌ロータ1Bが回転する。
【0020】
ケーシング2は、例えば、メインケーシング8と、メインケーシング8に接続された吸入側ケーシング9とで構成されている。メインケーシング8は、雄ロータ1Aの歯部3Aを収納して、その複数の歯溝に複数の雄ロータ側作動室10Aを形成する雄ロータ側ボア11Aと、雌ロータ1Bの歯部3Bを収納して、その複数の歯溝に複数の雌ロータ側作動室10Bを形成する雌ロータ側ボア11Bとを有する。雄ロータ側ボア11A及び雌ロータ側ボア11Bは、互いに部分的に重なっており、それらの壁面の境界線として低圧側カスプ12及び高圧側カスプ13を有する。
【0021】
雄ロータ側作動室10A及び雌ロータ側作動室10Bは、雄ロータ1A及び雌ロータ1Bの回転に伴って移動し、容積が変化する。雄ロータ側作動室10A及び雌ロータ側作動室10Bは、吸入ポート14(開口)を介し吸入流路15から気体(例えば空気)を吸入する吸入行程と、容積が縮小して気体を圧縮する圧縮行程と、吐出ポート16(開口)を介し吐出流路17へ圧縮気体(例えば圧縮空気)を吐出する吐出行程を順次行うようになっている。
【0022】
本実施形態では、圧縮時間の短縮による漏れ時間の短縮などの理油により、雄ロータ1Aの全巻角φAf及び雌ロータ1Bの全巻角φAmを小さくしており、上記の式(1)の条件を満たしている。例えば、雌ロータ1Bの全巻角φAm=150、雌ロータ側ボア11Bの壁面の周方向幅に対応する雌ロータ1Bの回転角範囲φBf=285であるから、雌ロータ側最大容積存在角δf=135である。雌ロータ1Bの歯数Zfから雄ロータ1Aの歯数Zmを差し引いた数(Zf-Zm)と雌ロータ1Bの歯溝の周方向幅に対応する雌ロータ1Bの回転角範囲(360/Zf)との積は90であるから、式(1)の条件を満たしている。そのため、雄ロータ側作動室10Aの吸入完了タイミングを基準タイミングより遅くすることが可能であり、雌ロータ側作動室10Bの吸入完了タイミングも基準タイミングより遅くすることが可能である。
【0023】
まず、本実施形態の雌ロータ側作動室10Bの吸入完了タイミング(言い換えれば、吸入側ケーシング9の閉止部20により、雌ロータ側作動室10Bに対して吸入ポート14を閉じるタイミング)について、
図5を用いて説明する。
【0024】
図5は、本実施形態における複数の雌ロータ側作動室10Bを吸入ポート14の一部と共に表す雌ロータ1Bの歯部3Bの展開図である。なお、
図5の縦方向は、雌ロータ1Bの歯部3Bの軸方向である。
図5の横方向は、雌ロータ1Bの歯部3Bの周方向であり、その位置を雌ロータ1Bの回転角(詳細には、雄ロータ1Aの回転中心と雌ロータ1Bの回転中心を結ぶ直線の位置を0とする回転角)で示している。
図5において、複数の斜め線は、複数の雌ロータ側作動室10Bを区画する複数の歯先を示し、複数の雌ロータ側作動室10Bのうちのハッチングされたものは、吸入完了状態を示している。
【0025】
本実施形態では、雌ロータ側作動室10Bの吸入完了タイミングは、雌ロータ側作動室10Bの容積が最大となる基準タイミング(言い換えれば、雌ロータ側作動室10Bの容積が最大でない状態から最大である状態に変わる基準タイミング)より遅く、かつ、雌ロータ側作動室10B内にて雌ロータ1Bの歯部3Bの吐出側端面18Bから吸入側端面19Bまで伝播する圧力波の伝播時間が経過する前に設定されている。その詳細を説明する。
【0026】
雌ロータ側作動室10Bを区画する先行歯先及び後続歯先のうちの先行歯先が、雌ロータ1Bの歯部3Bの吐出側端面18Bにて低圧側カスプ12に到達したときに、雌ロータ1Bの歯部3Bの吐出側端面18Bに対向するメインケーシング8の内壁で反射されて雌ロータ1Bの歯部3Bの吸入側端面19Bに向かう圧力波(逆流)が生じるものとする。雌ロータ1Bの歯部3Bの吐出側端面18Bから吸入側端面19Bまで伝播する圧力波の伝播時間は、雌ロータ1Bの歯溝長Lfを音速aで割ることにより、求められる。そのため、低圧側カスプ12の位置を基準とし、圧力波が雌ロータ1Bの歯部3Bの吐出側端面18Bから吸入側端面19Bに到達するまでに進行する雌ロータ1Bの回転角φLMTm(以降、雌ロータ側逆流限界角φLMTmという)は、下記の式(2)で求められる。式中のωfは、雌ロータ1Bの角速度である。
φLMTf=(Lf/a)×ωf ・・・(2)
【0027】
図5で示すように、低圧側カスプ12の位置を基準とし、雌ロータ1Bの歯部3Bの吐出側端面18Bにおける先行歯先の位置で設定されて、雌ロータ側作動室10Bの吸入が完了する雌ロータの回転角φDf(以降、雌ロータ側吸入完了角φDfという)を想定する。雌ロータ側吸入完了角φDfは、雄ロータ側逆流限界角φLMTfより小さく設定されている。これにより、雌ロータ側作動室10Bの吸入完了タイミングは、雌ロータ側作動室10B内にて雌ロータ1Bの歯部3Bの吐出側端面18Bから吸入側端面19Bまで伝播する圧力波の伝播時間(Lf/a)が経過する前に設定される。
【0028】
次に、本実施形態の雄ロータ側作動室10Aの吸入完了タイミング(言い換えれば、吸入側ケーシング9の閉止部20により、雄ロータ側作動室10Aに対して吸入ポート14を閉じるタイミング)について、
図6を用いて説明する。
【0029】
図6は、本実施形態における複数の雄ロータ側作動室10Aを吸入ポート14の一部と共に表す雄ロータ1Aの歯部3Aの展開図である。なお、
図6の縦方向は、雄ロータ1Aの歯部3Aの軸方向である。
図6の横方向は、雄ロータ1Aの歯部3Aの周方向であり、その位置を雄ロータ1Aの回転角(詳細には、雄ロータ1Aの回転中心と雌ロータ1Bの回転中心を結ぶ直線の位置を0とする回転角)で示している。
図6において、複数の斜め線は、複数の雄ロータ側作動室10Aを区画する複数の歯先を示し、複数の雄ロータ側作動室10Aのうちのハッチングされたものは、吸入完了状態を示している。
【0030】
本実施形態では、雄ロータ側作動室10Aの吸入完了タイミングは、雄ロータ側作動室10Aの容積が最大となる基準タイミング(言い換えれば、雄ロータ側作動室10Aの容積が最大でない状態から最大である状態に変わる基準タイミング)より遅く、かつ、雄ロータ側作動室10A内にて雄ロータ1Aの歯部3Aの吐出側端面18Aから吸入側端面19Aまで伝播する圧力波の伝播時間が経過する前に設定されている。その詳細を説明する。
【0031】
雄ロータ側作動室10Aを区画する先行歯先及び後続歯先のうちの先行歯先が、雄ロータ1Aの歯部3Aの吐出側端面18Aにて低圧側カスプ12に到達したときに、雄ロータ1Aの歯部3Aの吐出側端面18Aに対向するメインケーシング8の内壁で反射されて雄ロータ1Aの歯部3Aの吸入側端面19Aに向かう圧力波(逆流)が生じるものとする。雄ロータ1Aの歯部3Aの吐出側端面18Aから吸入側端面19Aまで伝播する圧力波の伝播時間は、雄ロータ1Aの歯溝長Lmを音速aで割ることにより、求められる。そのため、低圧側カスプ12の位置を基準とし、圧力波が雄ロータ1Aの歯部3Aの吸入側端面19Aに到達するまでに進行する雄ロータ1Aの回転角φLMTm(以降、雄ロータ側逆流限界角φLMTmという)は、下記の式(3)で求められる。式中のωmは、雄ロータ1Aの角速度である。
φLMTm=(Lm/a)×ωm ・・・(3)
【0032】
図6で示すように、低圧側カスプ12の位置を基準とし、雄ロータ1Aの歯部3Aの吐出側端面18Aにおける先行歯先の位置で設定されて、雄ロータ側作動室10Aの吸入が完了する雄ロータ1Aの回転角φDm(以降、雄ロータ側吸入完了角φDmという)を想定する。雄ロータ側吸入完了角φDmは、雄ロータ側逆流限界角φLMTmより小さく設定されている。これにより、雄ロータ側作動室10Aの吸入完了タイミングは、雄ロータ側作動室10A内にて雄ロータ1Aの歯部3Aの吐出側端面18Aから吸入側端面19Bまで伝播する圧力波の伝播時間(Lm/a)が経過する前に設定されている。
【0033】
以上のように本実施形態においては、雌ロータ側作動室10Bの吸入完了タイミングを、基準タイミングより遅く、かつ、圧力波の伝播時間(Lf/a)が経過する前に設定している。また、雄ロータ側作動室10Aの吸入完了タイミングを、基準タイミングより遅く、かつ、圧力波の伝播時間(Lm/a)が経過する前に設定している。これにより、雌ロータ側作動室10Bの吸入完了タイミング及び雄ロータ側作動室10Aの吸入完了タイミングを基準タイミングより遅くしない場合と比べ、吸入気体の慣性の作用によって吸入量を増加することができる。また、雌ロータ側作動室10Bの吸入完了タイミング及び雄ロータ側作動室10Aの吸入完了タイミングを圧力波の伝播時間の経過後に設定する場合と異なり、圧力波が吸入ポート14を介し排出されないので、吸入量の減少を回避することができる。したがって、ロータの全巻角が小さい条件にて、吸入量を増加することができる。
【0034】
なお、上記一実施形態においては、雌ロータ側作動室10Bの吸入完了タイミングだけでなく、雄ロータ側作動室10Aの吸入完了タイミングも、基準タイミングより遅く、かつ、圧力波の伝播時間が経過する前に設定した場合を例にとって説明したが、これに限られない。上記一実施形態と比べて全体の吸入量が減少するものの、雄ロータ側作動室10Aの吸入完了タイミングを、圧力波の伝播時間が経過した後に設定してもよいし、あるいは、基準タイミングに対し同じであるか若しくは早くしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1A…雄ロータ、1B…雌ロータ、3A,3B…歯部、10A…雄ロータ側作動室、10B…雌ロータ側作動室、11A…雄ロータ側ボア、11B…雌ロータ側ボア、18A,18B…吐出側端面、19A,19B…吸入側端面