(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017515
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】浮体構造物の揺動抑制装置の故障診断装置
(51)【国際特許分類】
B63B 39/03 20060101AFI20250130BHJP
B63B 35/38 20060101ALI20250130BHJP
B63B 35/44 20060101ALI20250130BHJP
B63B 79/10 20200101ALI20250130BHJP
【FI】
B63B39/03
B63B35/38 C
B63B35/44 F
B63B79/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120593
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康輝
(57)【要約】
【課題】船体を含む浮体構造物の水上の波浪に伴う揺れを抑制する装置において、予め決められた条件下における揺れを検出するセンサの出力に基づいて故障内容を識別して検出することにより、故障の内容に応じた適切な対応を可能とする。
【解決手段】水上の波浪による浮体構造物の揺れを、水平面に対する前記浮体構造物の傾斜として検出する傾斜センサと、該傾斜センサにより検出された傾斜をゼロとするように前記浮体構造物に復元偶力を発生する偶力発生手段と、を備える浮体構造物の揺動抑制装置において、予め決められた条件下における前記傾斜センサの出力が、その条件下で得られるべき出力となっているか否かに基づいて、前記傾斜センサ自身、前記浮体構造物、前記偶力発生手段、又は前記浮体構造物が置かれた環境、の少なくともいずれかの異常の有無を診断する故障診断手段を備える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上の波浪による浮体構造物の揺れを、水平面に対する前記浮体構造物の傾斜として検出する傾斜センサと、
該傾斜センサにより検出された傾斜をゼロとするように前記浮体構造物に復元偶力を発生する偶力発生手段と、
を備える浮体構造物の揺動抑制装置において、
予め決められた条件下における前記傾斜センサの出力が、その条件下で得られるべき出力となっているか否かに基づいて、前記傾斜センサ自身、前記浮体構造物、前記偶力発生手段、又は前記浮体構造物が置かれた環境、の少なくともいずれかの異常の有無を診断する故障診断手段を備える
浮体構造物の揺動抑制装置の故障診断装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記故障診断手段は、
前記傾斜センサの出力が、出力ゼロに相当する第1所定値より小さい状態が第1所定期間継続したとき、前記傾斜センサに断線異常があると判定するセンサ断線判定手段を備える
浮体構造物の揺動抑制装置の故障診断装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記故障診断手段は、
前記センサ断線判定手段にて前記傾斜センサに断線異常がないと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量よりも小さく、しかも前記傾斜センサの出力が前記第1所定値より大きい第2所定値より大きいとき、前記傾斜センサが高出力状態でロックした異常状態にあると判定するセンサ高出力ロック判定手段と、
前記センサ断線判定手段にて前記傾斜センサに断線異常がないと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より小さく、しかも前記傾斜センサに、前記浮体構造物の傾斜とは無関係の外力を加えて出力信号を発生させたときの前記傾斜センサの出力が、前記第1所定値より小さいとき、若しくは前記第1所定値より大きく前記第2所定値より小さい第3所定値より小さいとき、前記傾斜センサが低出力状態でロックした異常状態にあると判定するセンサ低出力ロック判定手段と、を備える
浮体構造物の揺動抑制装置の故障診断装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記故障診断手段は、
前記センサ断線判定手段、前記センサ高出力ロック判定手段、及び前記センサ低出力ロック判定手段の全てで前記傾斜センサに異常なしと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より小さく、しかも前記偶力発生手段が偶力を発生しない方向で作動されているときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記第1変化量より大きい第2変化量より大きいとき、前記偶力発生手段に異常があると判定する偶力発生異常判定手段を備える
浮体構造物の揺動抑制装置の故障診断装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記故障診断手段は、
前記センサ断線判定手段、前記センサ高出力ロック判定手段、及び前記センサ低出力ロック判定手段の全てで前記傾斜センサに異常なしと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より小さく、しかも前記偶力発生手段が偶力を発生しない方向で作動されているときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記第1変化量より大きい第2変化量より小さいとき、浮体構造物が置かれた環境に異常があると判定する周囲環境異常判定手段を備える
浮体構造物の揺動抑制装置の故障診断装置。
【請求項6】
請求項2において、
前記故障診断手段は、
前記センサ断線判定手段で前記傾斜センサに断線異常なしと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より大きく、しかもそのときの前記傾斜センサの出力の変化の平均値が一定範囲内にないとき、浮体構造物が波浪以外の原因で傾いていると判定する浮体傾き判定手段を備える
浮体構造物の揺動抑制装置の故障診断装置。
【請求項7】
請求項3~6のいずれかにおいて、
前記故障診断手段は、
前記傾斜センサの出力の変化量が凪判定範囲に相当する第3変化量より小さく、且つその状態が前記第1所定期間より長い第2所定期間継続したとき、水面が凪状態にあると判定する凪判定手段を備え、
該凪判定手段により凪状態にあると判定されている状態で、前記故障診断手段による故障診断を実施する
浮体構造物の揺動抑制装置の故障診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、水面上の浮体構造物の揺動抑制装置における故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、浮遊式水流発電装置の姿勢調整装置において、各種センサ、浮力調整機構、姿勢調整機構の各信号に基づいて、異常の有無を判定する発明が開示されている。異常有と判定されたとき、浮体の係留位置を変更して緊急避難的に浮体の姿勢を変更し、浮体を水流により浮上するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の発明は、浮力調整機構や姿勢調整機構が故障したときに緊急避難的に対処するのみで、故障の内容に応じた適切な対応を行うことができない。
【0005】
本明細書が開示する技術の課題は、船体を含む浮体構造物の水上の波浪に伴う揺れを抑制する装置において、予め決められた条件下における揺れを検出するセンサの出力に基づいて故障内容を識別して検出することにより、故障の内容に応じた適切な対応を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本明細書に開示の浮体構造物の揺動抑制装置の故障診断装置は、次の手段をとる。
【0007】
第1の手段は、水上の波浪による浮体構造物の揺れを、水平面に対する前記浮体構造物の傾斜として検出する傾斜センサと、該傾斜センサにより検出された傾斜をゼロとするように前記浮体構造物に復元偶力を発生する偶力発生手段と、を備える浮体構造物の揺動抑制装置において、予め決められた条件下における前記傾斜センサの出力が、その条件下で得られるべき出力となっているか否かに基づいて、前記傾斜センサ自身、前記浮体構造物、前記偶力発生手段、又は前記浮体構造物が置かれた環境、の少なくともいずれかの異常の有無を診断する故障診断手段を備える。
【0008】
上記第1の手段によれば、予め決められた条件下で傾斜センサにより得られるべき出力が得られるか否かに基づいて、傾斜センサ自身、浮体構造物、偶力発生手段、又は浮体構造物が置かれた環境、の少なくともいずれかの異常の有無を診断する。従って、傾斜センサの出力信号のみで傾斜センサ自身を含む浮体構造物、偶力発生手段等の予め決められた部位の故障診断を行うことができる。
【0009】
第2の手段は、上述した第1の手段において、前記故障診断手段は、前記傾斜センサの出力が、出力ゼロに相当する第1所定値より小さい状態が第1所定期間継続したとき、前記傾斜センサに断線異常があると判定するセンサ断線判定手段を備える。
【0010】
上記第2の手段によれば、センサ断線判定手段は、傾斜センサの出力が第1所定値より小さい状態が第1所定期間継続したとき、前記傾斜センサに断線異常があると判定する。波浪が少ない状態でも傾斜センサが正常であれば、僅かな波浪により傾斜センサには第1所定値より大きい出力信号が発生する。そのため、傾斜センサの出力が第1所定値より小さい状態が第1所定期間継続したとき、傾斜センサに断線異常があると判定することができる。
【0011】
第3の手段は、上述した第2の手段において、前記故障診断手段は、前記センサ断線判定手段にて前記傾斜センサに断線異常がないと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量よりも小さく、しかも前記傾斜センサの出力が前記第1所定値より大きい第2所定値より大きいとき、前記傾斜センサが高出力状態でロックした異常状態にあると判定するセンサ高出力ロック判定手段と、前記センサ断線判定手段にて前記傾斜センサに断線異常がないと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より小さく、しかも前記傾斜センサに、前記浮体構造物の傾斜とは無関係の外力を加えて出力信号を発生させたときの前記傾斜センサの出力が、前記第1所定値より小さいとき、若しくは前記第1所定値より大きく前記第2所定値より小さい第3所定値より小さいとき、前記傾斜センサが低出力状態でロックした異常状態にあると判定するセンサ低出力ロック判定手段と、を備える。
【0012】
上記第3の手段によれば、センサ高出力ロック判定手段は、偶力発生手段により浮体構造物を所定レベルで傾斜させたときの傾斜センサの出力の変化量が所定レベルの傾斜に相当する第1変化量よりも小さく、且つ傾斜センサの出力が第2所定値より大きいとき、傾斜センサが高出力状態でロックした異常状態にあると判定する。そのため、浮体構造物を所定レベルで傾斜させているにも関わらず、所定レベルの傾斜に相当する変化が傾斜センサによって検出されず、しかも傾斜センサの出力信号が大きいことを以って、傾斜センサが高出力状態でロックしていると判定することができる。
【0013】
また、センサ低出力ロック判定手段は、偶力発生手段により浮体構造物を所定レベルで傾斜させたときの傾斜センサの出力の変化量が所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より小さく、しかも傾斜センサに外力を加えて出力信号を発生させたにも関わらず傾斜センサの出力が小さいとき、傾斜センサが低出力状態でロックした異常があると判定する。そのため、浮体構造物を所定レベルで傾斜させているにも関わらず、所定レベルの傾斜に相当する変化が傾斜センサによって検出されず、しかも傾斜センサに出力信号が発生する外力を加えたにも関わらず傾斜センサの出力が小さいことを以って、傾斜センサが低出力状態でロックしていると判定することができる。
【0014】
第4の手段は、上述した第3の手段において、前記故障診断手段は、前記センサ断線判定手段、前記センサ高出力ロック判定手段、及び前記センサ低出力ロック判定手段の全てで前記傾斜センサに異常なしと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より小さく、しかも前記偶力発生手段が偶力を発生しない方向で作動されているときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記第1変化量より大きい第2変化量より大きいとき、前記偶力発生手段に異常があると判定する偶力発生異常判定手段を備える。
【0015】
第4の手段によれば、偶力発生異常判定手段は、傾斜センサに異常なしと判定され、且つ偶力発生手段により浮体構造物を所定レベルで傾斜させたときの傾斜センサの出力の変化量が所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より小さく、しかも偶力発生手段を偶力を発生しない方向で作動させているときの傾斜センサにより検出される傾斜角の変化量が第2変化量より大きいとき、偶力発生手段に異常があると判定する。そのため、傾斜センサに異常がなく、浮体構造物を所定レベルで傾斜させているにも関わらず、所定レベルの傾斜に相当する変化が傾斜センサによって検出されず、しかも偶力発生手段を偶力を発生しない方向で作動させているにも関わらず、傾斜センサにより検出される傾斜角の変化が大きいことを以って、偶力発生手段に異常があると判定することができる。
【0016】
第5の手段は、上述した第3の手段において、前記故障診断手段は、前記センサ断線判定手段、前記センサ高出力ロック判定手段、及び前記センサ低出力ロック判定手段の全てで前記傾斜センサに異常なしと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より小さく、しかも前記偶力発生手段が偶力を発生しない方向で作動されているときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記第1変化量より大きい第2変化量より小さいとき、浮体構造物が置かれた環境に異常があると判定する周囲環境異常判定手段を備える。
【0017】
上記第5の手段によれば、周囲環境異常判定手段は、傾斜センサに異常なしと判定され、且つ偶力発生手段により浮体構造物を所定レベルで傾斜させたときの傾斜センサの出力の変化量が所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より小さく、しかも偶力発生手段が偶力を発生しない方向で作動されているときの傾斜センサにより検出される傾斜角の変化量が第2変化量より小さいとき、浮体構造物が置かれた環境に異常があると判定する。そのため、傾斜センサに異常がなく、浮体構造物を所定レベルで傾斜させているにも関わらず、所定レベルの傾斜に相当する変化が傾斜センサによって検出されず、しかも偶力発生手段を偶力を発生しない方向で作動させているにも関わらず、傾斜センサにより検出される傾斜角の変化が小さいことを以って、座礁のように浮体構造物が何かに接触して揺動できないような異常があると判定することができる。
【0018】
第6の手段は、上述した第2の手段において、前記故障診断手段は、前記センサ断線判定手段で前記傾斜センサに断線異常なしと判定され、且つ前記偶力発生手段により前記浮体構造物を水平面に対して所定レベルで傾斜させたときの前記傾斜センサの出力の変化量が前記所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より大きく、しかもそのときの前記傾斜センサの出力の変化の平均値が一定範囲内にないとき、浮体構造物が波浪以外の原因で傾いていると判定する浮体傾き判定手段を備える。
【0019】
第6の手段によれば、浮体傾き判定手段は、センサ断線判定手段で傾斜センサに異常なしと判定され、且つ偶力発生手段により浮体構造物を所定レベルで傾斜させたときの傾斜センサの出力の変化量が所定レベルの傾斜に相当する第1変化量より大きく、しかもそのときの傾斜センサの出力の変化の平均値が一定範囲内にないとき、浮体構造物が傾いていると判定する。そのため、傾斜センサに異常がなく、浮体構造物を所定レベルで傾斜させているのに応じた傾斜角の変化が検出されるが、変化の平均値が一定範囲内にないことから浮体構造物が傾いていることを判定することができる。
【0020】
第7の手段は、上述した第3~第6のいずれかの手段において、前記故障診断手段は、前記傾斜センサの出力の変化量が凪判定範囲に相当する第3変化量より小さく、且つその状態が前記第1所定期間より長い第2所定期間継続したとき、水面が凪状態にあると判定する凪判定手段を備え、該凪判定手段により凪状態にあると判定されている状態で、前記故障診断手段による故障診断を実施する。
【0021】
第7の手段によれば、凪判定手段により凪状態にあることが判定された状態で故障診断が行われる。そのため、凪状態で精度よく故障診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施形態に適用される浮体構造物の揺動抑制装置の平面概念図であり、浮体構造物に設置された傾斜センサの検出状態の一例を示す。
【
図2】
図1と同様の平面概念図であり、浮体構造物に設置された噴射装置の作動状態の一例を示す。
【
図3】
図1と同様の平面概念図であり、浮体構造物に設置された傾斜センサの別の検出状態を示す。
【
図4】
図1と同様の平面概念図であり、浮体構造物に設置された噴射装置の別の作動状態を示す。
【
図5】一実施形態に適用される浮体構造物、及びその揺動抑制装置の縦断面概要図である。
【
図7】一実施形態に適用される浮体構造物としての人工干潟の縦断面概要図である。
【
図8】一実施形態に適用される揺動抑制装置、及び一実施形態としての故障診断装置の制御回路図である。
【
図9】
図8の制御回路におけるコンピュータのプログラム内容を説明するフローチャートであり、故障診断の第1部分を示す。
【
図10】
図9と同様のフローチャートであり、故障診断の第2部分を示す。
【
図11】
図9と同様のフローチャートであり、故障診断の第3部分を示す。
【
図12】
図9と同様のフローチャートであり、アナウンスメント部分を示す。
【
図13】一実施形態における傾斜センサの出力信号の例を示す説明図である。
【
図14】
図13と同様の説明図であり、人口干潟に適用された浮体構造物が泥漏れを起こした際の傾斜センサの出力信号の例を示す。
【
図16】傾斜センサに所定の出力信号を発生させる外力として所定の空気圧を加えた状態を示す説明図である。
【
図17】傾斜センサに所定の出力信号を発生させるための空気袋を備えた傾斜センサの構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<一実施形態に適用される浮体構造物の揺動抑制装置の概要>
一実施形態の説明に先立って、一実施形態に適用される浮体構造物の揺動抑制装置について説明する。
【0024】
図1~4は一実施形態に適用される浮体構造物の揺動抑制装置の概要を機能的に示す。
図1、3のように、水上に浮かべられた浮体構造物10の揺れの中心として水平面上で互いに直交する2軸X、Yの上には、傾斜センサ21~24が設けられている。上記2軸のうちのX軸上には、Y軸を挟んで等距離で対向する位置に傾斜センサ21、23が設けられている。また、上記2軸のうちのY軸上には、X軸を挟んで等距離で対向する位置に傾斜センサ22、24が設けられている。各傾斜センサ21~24は、各設置位置における浮体構造物10の水平面に対する変位量を検出する。各傾斜センサ21~24は、ここでは公知のGセンサによって構成されている。
図1は、傾斜センサ21が変位量:4を、傾斜センサ23が変位量:-4を検出し、傾斜センサ22、24が共に変位量:0を検出した状態を検出例として示している。また、
図3は、傾斜センサ21が変位量:3を、傾斜センサ23が変位量:-3を検出し、傾斜センサ22が変位量:1を、傾斜センサ24が変位量:-1を検出した状態を別の検出例として示している。
【0025】
図2、4のように、水上に浮かべられた浮体構造物10の揺れの中心として水平面上で互いに直交する2軸X、Yの上には、偶力発生手段30を成す噴射装置31~34が設けられている。上記2軸のうちのX軸上には、Y軸を挟んで等距離で対向する位置に噴射装置31、33が設けられている。また、上記2軸のうちのY軸上には、X軸を挟んで等距離で対向する位置に噴射装置32、34が設けられている。従って、各噴射装置31~34は、各傾斜センサ21~24にそれぞれ対応する位置に設けられている。各噴射装置31~34は、水平面に対して垂直方向の上方又は下方に向けて水、空気等の流体を噴射する。噴射装置31~34が垂直方向の上方又は下方に流体を噴射すると、浮体構造物10は、各噴射装置31~34の設置位置に噴射に伴う反力を受ける。その反力により浮体構造物10は、その揺れを抑制する復元偶力を発生する。
【0026】
図2は、各傾斜センサ21~24が
図1のように検出した変位量を受けて、噴射装置31、33が各傾斜センサ21、23の設置位置における浮体構造物10の変位量に対抗するように流体を噴射した状態を示す。噴射装置31は、
図2にJ1で示すように紙面手前方向に向けて変位量:4に対抗する勢いで流体を噴射する。また、噴射装置33は、
図2にJ2で示すように紙面奥方向に向けて変位量:-4に対抗する勢いで流体を噴射する。噴射装置31、33の流体の噴射に伴い浮体構造物10が受ける反力は、Y軸回りの浮体構造物10の変位量を打ち消す復元偶力を発生する。一方、
図1で示すように傾斜センサ22、24が検出する変位量は共にゼロのため、
図2のように噴射装置32、34は、流体を噴射せず、浮体構造物10にはX軸回りに復元偶力は発生されない。
【0027】
図4は、各傾斜センサ21~24が
図3のように検出した変位量を受けて、噴射装置31~34が各傾斜センサ21~24の設置位置における浮体構造物10の変位量に対抗するように流体を噴射した状態を示す。噴射装置31は、
図4にJ5で示すように紙面手前方向に向けて変位量:3に対抗する勢いで流体を噴射する。また、噴射装置33は、
図4にJ6で示すように紙面奥方向に向けて変位量:-3に対抗する勢いで流体を噴射する。噴射装置32は、
図4にJ7で示すように紙面手前方向に向けて変位量:1に対抗する勢いで流体を噴射する。また、噴射装置34は、
図4にJ8で示すように紙面奥方向に向けて変位量:-1に対抗する勢いで流体を噴射する。
【0028】
これら噴射装置31~34の流体の噴射に伴い浮体構造物10が受ける反力は、Y軸から時計回りに角度θだけ移動したY1軸回りの浮体構造物10の変位量に対抗する復元偶力を発生する。即ち、各噴射装置31~34が噴射する流体は、
図4のように水平面上のX軸の位置から時計回りに角度θだけ移動したX1軸上の位置で、J3で示すように紙面手前方向に向けて流体を噴射し、且つJ4で示すように紙面奥方向に向けて流体を噴射したのと同等となる。水平面上のY軸の位置から時計回りに角度θだけ移動したY1軸上の位置では、流体を噴射しないのと同等となる。
【0029】
上記揺動抑制装置によれば、浮体構造物10のあらゆる方向の揺れを水平面上の揺れの中心としての2軸の各軸回りの揺れとして検出し、その揺れに対抗する勢いで流体を噴射して浮体構造物10に反力を発生する。そのため、2軸上の傾斜センサ21~24及び噴射装置31~34により浮体構造物10に対するあらゆる方向の揺れに対して復元偶力を発生して揺れを抑制することができる。
【0030】
<一実施形態に適用される浮体構造物、及びその揺動抑制装置の構成>
図5は、上記一実施形態に適用される浮体構造物、及びその揺動抑制装置の具体例を示す。浮体構造物10は円形容器状の水槽であり、円形の外周面には傾斜センサ21~24が設けられている。各傾斜センサ21~24は、
図1と同様に揺れの中心として水平面上で互いに直交する2軸X、Y上に設けられている。
図5では各傾斜センサ21~24のうち傾斜センサ21、23のみが示されている。上記2軸X、Y上には、各傾斜センサ21~24に対応して噴射装置31~34を成すエアタンク31A~34Aが設けられている。各エアタンク31A~34Aは、水槽10の外周堤部内に設けられている。各エアタンク31A~34Aは、垂直方向の上方及び下方に向けて流体としての空気を噴射する噴射通路31D~34Dを備える。各噴射通路31D~34Dの途中には、それぞれ開閉弁31B~34B、31C~34Cが設けられている。各エアタンク31A~34Aは、エアホース39Bを介してエアポンプ39Aが接続されている。
【0031】
各エアタンク31A~34Aは、エアポンプ39Aにより供給された空気を貯え、復元偶力を発生するために開閉弁31B~34B、又は開閉弁31C~34Cが開放されると、上方又は下方の噴射通路31D~34Dから空気を噴射する。エアタンク31A~34A、開閉弁31B~34B、31C~34C、噴射通路31D~34D、エアポンプ39A、エアホース39Bは、偶力発生手段30を成している。
図5では噴射装置31~34のうち噴射装置31、33のみが示されている。また、
図5では、開閉弁31B~34B、31C~34C、噴射通路31D~34Dのうち、開閉弁31B、33B、31C、33C、噴射通路31D、33Dのみが示されている。
【0032】
<一実施形態に適用される浮体構造物、及びその揺動抑制装置の作用、効果>
図6は、水槽10が海面Wの波浪により揺れた状態を示す。
図6の状態は、水槽10には波浪によりY軸回りにM1で示すモーメントが働いて、傾斜センサ21が上方へ変位し、傾斜センサ23が下方へ変位して、水槽10がY軸を揺れの中心として傾斜している。傾斜センサ21、23は、その変位量を検出して、後述の制御回路は、エアポンプ39A(
図6では不図示)を作動させると共に、開閉弁31B、33Cを開放して上側の噴射通路31D、下側の噴射通路33Dから傾斜センサ21、23が検出した変位量に応じた量の空気をJ9、J10のように噴射する。その結果、水槽10には、Y軸回りにM2で示すモーメントを生じる復元偶力が発生し、水槽10の揺れは抑制される。
【0033】
このように復元偶力は、噴射装置31~34からの空気の噴射により発生されるため、海面Wの波浪による水槽10の揺れに対して応答良く復元偶力を発生させて揺れを抑制することができる。しかも、復元偶力は、エアタンク31A~34Aからの空気の噴射によって発生されるため、偶力発生手段30は、浮力の調整により偶力を発生するものに比べて小型、軽量に構成することができる。
【0034】
<人工干潟の構成>
図7は上記水槽10の具体例を示す。この場合、水槽10は人工干潟とされており、水槽10である容器内には、基底としての砕屑物11が水12と共に収容されている。砕屑物11は、礫岩11A、砂11B、湿泥11Cを含み、それらが層を成している。層構成は、下層から上層に向けて礫岩11A、砂11B、湿泥11Cの順とされている。水12は最上層とされている。水槽10の外周堤部上の対向位置には給水ポンプ13A及び排水ポンプ14Aが設けられている。給水ポンプ13Aの吸込口には、給水管13Cの一端が連通され、給水管13Cの他端はフィルタ13Eを介して海水中に浸水されている。給水管13Cの途中で、給水ポンプ13Aの吸込口の近傍には、遮断弁13Bが設けられている。また、給水ポンプ13Aの吐出口には、給水管13Dの一端が連通され、給水管13Dの他端は礫岩11Aの層の中に埋設されている。そのため、遮断弁13Bが開放された状態で給水ポンプ13Aが作動されると、
図7に矢印で示すように、フィルタ13Eを通して吸い込まれた海水が、その中の塵等を濾過されて礫岩11Aの層内に供給される。
【0035】
排水ポンプ14Aの吸込口には、排水管14Cの一端が連通され、排水管14Cの他端は水槽10内の水12の層内に浸水されている。また、排水ポンプ14Aの吐出口には、排水管14Dの一端が連通され、排水管14Dの他端は遮断弁14Bを介して水槽10の容器外に開放されている。そのため、遮断弁14Bが開放された状態で排水ポンプ14Aが作動されると、
図7に矢印で示すように、水槽10内の水12が水槽10の容器外に放出される。
【0036】
給水ポンプ13A及び排水ポンプ14Aを遮断弁13B、14Bと共に適宜作動させることにより、水槽10内の海水を循環させて水槽10内で育成する水棲生物の生育環境を良好に維持することができる。なお、遮断弁13B、14Bは、給水ポンプ13A及び排水ポンプ14Aを作動停止したとき、遮断弁13B、14Bを遮断状態として、給水管13C、13D、及び排水管14C、14D内で海水が上記各矢印の方向とは逆方向に逆流しないようにしている。
【0037】
人工干潟としての水槽10が海面Wの波浪により揺れ、揺れが大きい場合、水槽10内の水12が水槽10から溢れる恐れがある。また、揺れの程度によっては、基底である砕屑物11の形状が乱れる恐れがある。上記のように水槽10に傾斜センサ21~24及び偶力発生手段30を備えた揺動抑制装置を設けることにより、それらの恐れを抑制することができる。
【0038】
<一実施形態としての故障診断装置>
図8は一実施形態に適用される揺動抑制装置、及び一実施形態としての故障診断装置の制御回路を示す。制御回路35は、上述のように傾斜センサ21~24からの信号を受けて噴射装置31~34の開閉弁31B、31C、32B、32C、33B、33C、34B、34Cを開閉制御して水槽10の揺動を抑制している。制御回路35には、開閉弁21C~24C、表示・警報装置36、及び泥漏れ対策装置37が接続されて故障診断装置が構成されている。制御回路35には、エアポンプ39Aも接続されている。
【0039】
制御回路35は、プログラム制御コンピュータを含み、
図9~12は、故障診断に関するプログラムの概要を示す。
図9~11の故障診断ルーチン及び
図12のアナウンスメントルーチンのプログラムは、上述の揺動抑制装置が作動開始される前、及び作動中に実行される。
【0040】
図9の故障診断ルーチンが実行されると、ステップS2において傾斜センサであるGセンサ21~24の出力が一定値より大きい、例えば0ボルトより大であるか否かが判定される。
図1、
図3では、傾斜センサ21~24により検出される変位量を-4~4の範囲としたが、変位量-4~4に相当する出力信号が0~1ボルトの電気信号として出力される。
【0041】
Gセンサ21~24の出力が0ボルトより大である場合、ステップS2は肯定判断されてステップS4にて、Gセンサ21~24は断線していないと記憶される。ステップS2では、4つのGセンサ21~24をひとつずつ順次判定している。以下の各処理ステップでも、Gセンサは一つのみとして記載されているが、ステップS2の場合と同様に、4つのGセンサ21~24に対応して順次判定している。
【0042】
Gセンサ21~24の出力が0ボルト以下である場合、ステップS2は否定判断されてステップS30にてGセンサ21~24の出力が0ボルト以下の状態が第1所定期間以上、例えば1秒以上継続しているか否かが判定される。Gセンサ21~24の出力が0ボルト以下の状態が1秒以上継続している場合、ステップS30は肯定判断されてステップS32にて、Gセンサ21~24は断線していると記憶される。ここでは、Gセンサ21~24のうちどれが断線しているか識別して記憶される。Gセンサ21~24の出力が0ボルト以下の状態が1秒以上継続しておらず、ステップS30が否定判断される場合は、ステップS32の処理は行われずステップS2以降の処理を繰り返す。
【0043】
ステップS4にてGセンサ21~24は断線していないと記憶された場合は、ステップS6にてGセンサ21~24の出力の変化量の絶対値(|強制揺動初期の出力G1-強制揺動後の出力G2|、以下、単に変化量という)が一定値(第3変化量に相当、水面が凪状態で静かな状態での変化量に相当する値:凪判定範囲)以下か否かが判定される。このときのGセンサ21~24の出力の変化量が第3変化量以下の場合、ステップS6は肯定判断され、ステップS8にてGセンサ21~24の出力の変化量が第3変化量以下の状態が一定時間(第2所定期間、例えば1分)以上継続しているか否かが判定される。一定時間以上継続している場合、ステップS8は肯定判断され、ステップS10にて水面が凪状態にあると記憶される。ステップS6及びステップS8が否定判断される場合は、ステップS10の処理は行われずステップS2以降の処理を繰り返す。
【0044】
ステップS10が実行され凪状態であることが記憶された後は、ステップS12にて偶力発生手段30の噴射装置31~34のうちの互いに対向配置された噴射装置31、33又は32、34を強制作動させる。この結果、浮体構造物としての水槽10は、偶力を受けて揺動される。即ち、水槽10が波浪によらず所定レベルで強制的に揺動される。そして、次のステップS14では、Gセンサ21~24の出力の変化量の絶対値(|強制揺動初期の出力G1-強制揺動後の出力G2|、以下、単に変化量という)が第1変化量(例えば0ボルトに近い値)未満か否かが判定される。第1変化量は、強制揺動による水槽10の揺動により出力されるGセンサ21~24の本来の出力より小さく設定されている。また、ステップS16において、強制揺動後のGセンサ21~24の出力が一定値(第1所定値より大きい第2所定値に相当、例えば、上限値)未満か否かが判定される。Gセンサ21~24の出力の変化量が第1変化量以上の場合は、ステップS14は否定判断される。水槽10が強制揺動された結果、Gセンサ21~24の出力の変化量が第1変化量以上なら、Gセンサ21~24及び偶力発生手段は、共に正常であると判断される。従って、ステップS34では、Gセンサ21~24及び偶力発生手段が正常状態にあることを記憶する。
【0045】
一方、Gセンサ21~24の出力の変化量が第1変化量未満で、且つGセンサ21~24の出力が一定値(第2所定値)より大きい場合は、Gセンサ21~24の出力が上限値より大きい値で変化していない状態であるため、Gセンサ21~24が高い電圧を出力したままの状態で故障していると判断される。そのため、ステップS14は肯定判断され、ステップS16は否定判断されてステップS44にてGセンサ21~24が高出力でロックした異常状態にあることを記憶する。
【0046】
Gセンサ21~24の出力の変化量が第1変化量未満で、且つGセンサ21~24の出力が一定値(第2所定値)未満の場合は、Gセンサ21~24の出力が上限値より小さい値で変化していない状態であるため、Gセンサ21~24が低い電圧を出力したままの状態で故障している可能性があると判断される。しかし、このときGセンサ21~24が偶然に低い電圧を出力しているタイミングである可能性もある。そのため、Gセンサ21~24が高い電圧を出力する状態を強制的に起こす必要がある。その上でGセンサ21~24が低い電圧を出力したままであればGセンサ21~24が低い電圧を出力したまま故障していると判定することができる。そこで、ステップS18では、Gセンサ21~24内部に所定の空気圧(外力に相当)を加えて、Gセンサ21~24が高い電圧を出力する状態を強制的に起こしている。このための構成の詳細は後述する。次のステップS20では、Gセンサ21~24の出力が一定値(第1所定値より大きく第2所定値より小さい第3所定値、例えば、下限値)を超えたか否かが判定される。Gセンサ21~24の出力が下限値(第3所定値)を超えた場合、ステップS20は肯定判断される。この状態は、水槽10の揺動(傾斜)とは無関係に、Gセンサ21~24が高い電圧を出力する状態を強制的に起こしたのに対してGセンサ21~24が正常に反応しており、ステップS22ではGセンサ21~24は正常状態にあることを記憶する。一方、Gセンサ21~24の出力が下限値(第3所定値)を超えない場合、ステップS20は否定判断される。この状態は、Gセンサ21~24が高い電圧を出力する状態を強制的に起こしたのに正常に反応しておらず、Gセンサ21~24が低い電圧を出力したままの状態で故障していると判断される。そのため、ステップS46ではGセンサ21~24が低出力でロックした異常状態にあることを記憶する。ステップS44及びステップS46の処理後は、故障診断ルーチンの処理を終了する。なお、ステップS20では、Gセンサ21~24の出力の下限値を第3所定値とする例を示したが、上述の第1所定値を下限値とすることもあり得る。
【0047】
上述のようにステップS34にてGセンサ21~24及び偶力発生手段が正常状態にあることを記憶した後、ステップS36では、水槽10の強制揺動後におけるGセンサ21~24の出力の平均値が一定範囲(例えば、上限値と下限値との間)内か否かが判定される。
図13のようにGセンサ21~24の出力の平均値が上限値と下限値との間にある場合は、ステップS36は肯定判断される。この状態は、水槽10が強制的に揺動されたとき、Gセンサ21~24の出力の変化量が第1変化量以上で、平均値が上限値と下限値との間にあるので、ステップS38にて水槽10が揺動を伴いながらも水平状態にあることを記憶する。一方、
図14のようにGセンサ21~24の出力の平均値が上限値と下限値との間にない場合は、ステップS36は否定判断される。この状態は、水槽10の泥漏れなどにより水槽10の重心がずれて水面上で水槽10が傾いた状態にあると判断される。そのため、ステップS42では、水槽10が重心ずれにより傾いていることを記憶する。ステップS38の処理後は、ステップS2以降の処理を繰り返す。また、ステップS42の処理後は、故障診断ルーチンの処理を終了する。
【0048】
上述のようにステップS22にてGセンサ21~24が正常状態にあることを記憶した後、ステップS24では、偶力発生手段30の噴射装置31~34のうち対となるものを同出力で作動させる。即ち、噴射装置31、33又は32、34を共に上側又は下側噴射状態で作動させ、水槽10に偶力を発生させない状態とする。次のステップS26では、Gセンサ21~24の出力の変化量の絶対値(|噴射装置31、33又は32、34を作動させた初期の出力G1-噴射装置31、33又は32、34を作動させた強制揺動後の出力G2|、以下、単に変化量という)が第1変化量より大きい第2変化量以上か否かが判定される。このとき、水槽10に偶力は発生されていないにも関わらず、Gセンサ21~24の出力の変化量が第2変化量以上であるとき、対を成す噴射装置31、33又は32、34のうち片側が故障して正常に機能していないと判断される。そのため、ステップS26は肯定判断され、ステップS28にて噴射装置31~34が機能低下異常であることを記憶する。一方、Gセンサ21~24の出力の変化量が第2変化量未満の場合、このときステップS22のようにGセンサ21~24は正常状態にあり、且つステップS26が否定判断されているため噴射装置31、33又は32、34は共に正常である。それにも関わらず、ステップS14では水槽10が強制揺動されたときのGセンサ21~24の出力の変化量が第1変化量(0ボルトに近い値)未満と判定されている。従って、水槽10が何かに固定されて動けない状態にあると判断され、ステップS26は否定判断され、ステップS48にて水槽10が座礁していることを記憶する。ステップS28及びステップS48の処理後は、故障診断ルーチンの処理を終了する。座礁以外でも水槽10が何かに接触して動けない状態にある場合でも座礁と同様、ステップS48にて記憶される。
【0049】
図12は、上述の故障診断ルーチンによる故障診断の結果を受けて、表示・警報装置36(
図8参照)によるアナウンスメント、及び泥漏れ対策装置37(
図8参照)による泥漏れ対策、他を行うアナウンスメントルーチンの内容を示す。アナウンスメントルーチンは、故障診断ルーチンの実行に続いて実行される。
【0050】
アナウンスメントルーチンが実行されると、ステップS52にてGセンサ21~24の断線異常がないか判定される。故障診断ルーチンのステップS32にてGセンサ21~24の断線異常があると記憶されている場合は、ステップS52は否定判断される。そのため、ステップS64にてGセンサ21~24の断線表示の出力が行われ、表示・警報装置36にてGセンサ21~24の断線表示が行われる。ステップS32にてGセンサ21~24の断線異常があると記憶されていない場合は、ステップS52は肯定判断され、ステップS64の処理はスキップされる。
【0051】
ステップS52が肯定判断されると、ステップS54にてGセンサ21~24の高出力ロックがないか判定される。故障診断ルーチンのステップS44にてGセンサ21~24の高出力ロックがあると記憶されている場合は、ステップS54は否定判断される。そのため、ステップS66にてGセンサ21~24の高出力ロック表示の出力が行われ、表示・警報装置36にてGセンサ21~24の高出力ロック表示が行われる。ステップS44にてGセンサ21~24の高出力ロックがあると記憶されていない場合は、ステップS54は肯定判断され、ステップS66の処理はスキップされる。
【0052】
ステップS54が肯定判断されると、ステップS56にてGセンサ21~24の低出力ロックがないか判定される。故障診断ルーチンのステップS46にてGセンサ21~24の低出力ロックがあると記憶されている場合は、ステップS56は否定判断される。そのため、ステップS68にてGセンサ21~24の低出力ロック表示の出力が行われ、表示・警報装置36にてGセンサ21~24の低出力ロック表示が行われる。ステップS46にてGセンサ21~24の低出力ロックがあると記憶されていない場合は、ステップS56は肯定判断され、ステップS68の処理はスキップされる。
【0053】
ステップS56が肯定判断されると、ステップS58にて偶力発生手段30に異常がないか判定される。故障診断ルーチンのステップS34にて偶力発生手段30が正常状態であると記憶されていない場合は、ステップS58は否定判断される。そのため、ステップS70にて噴射装置(INJ)31~34のうち異常があるものの作動が停止され、ステップS72にて噴射装置(INJ)31~34のうち異常のないものを作動して水槽10に偶力を発生させる。また、ステップS74では、表示・警報装置36にて噴射装置(INJ)31~34のうち異常が検出されたものの異常表示が行われる。ステップS34にて偶力発生手段30が正常状態であると記憶されている場合は、ステップS58は肯定判断され、ステップS70、ステップS72及びステップS74の処理はスキップされる。
【0054】
ステップS58が肯定判断されると、ステップS60にて座礁していないか判定される。故障診断ルーチンのステップS48にて座礁していると記憶されていない場合は、ステップS60は否定判断される。そのため、ステップS76では、表示・警報装置36にて水槽10が座礁しているとの表示が行われる。ステップS48にて座礁していると記憶されている場合は、ステップS60は肯定判断され、ステップS76の処理はスキップされる。
【0055】
ステップS60が肯定判断されると、ステップS62にて水槽10の泥漏れが起きていないか判定される。故障診断ルーチンのステップS42にて水槽10の傾き異常があると記憶されている場合は、ステップS62は否定判断される。そのため、ステップS78では、泥漏れ対策装置37(
図8参照)にて水槽10に蓋をする、水槽10の壁を高くする等の対策を実行する。また、ステップS80では、表示・警報装置36(
図8参照)にて泥漏れ発生の表示が行われる。ステップS42にて水槽10の傾き異常があると記憶されていない場合は、ステップS62は肯定判断され、ステップS78及びステップS80の処理はスキップされる。
【0056】
上述のステップS64、ステップS66、ステップS68、ステップS74、ステップS76、ステップS80の少なくともいずれかで異常表示が行われた場合は、ステップS82にて表示・警報装置36に設けられた回転灯が作動され、異常の発生を強く警告する。
【0057】
以上のとおり、一実施形態によれば、予め決められた条件下でGセンサ21~24により得られるべき出力が得られるか否かに基づいて、Gセンサ21~24自身、水槽10、偶力発生手段30、及び水槽10が置かれた環境、の異常の有無を診断する。従って、Gセンサ21~24の出力信号のみでGセンサ21~24自身を含む水槽10、偶力発生手段30等の予め決められた部位の故障診断を行うことができる。
【0058】
なお、
図9~11の処理において、その処理全体は、故障診断手段に相当する。また、ステップS2、ステップS30、及びステップS32の処理は、センサ断線判定手段に相当し、ステップS2、ステップS4、ステップS12、ステップS14、ステップS16、及びステップS44の処理は、センサ高出力ロック判定手段に相当し、ステップS2、ステップS4、ステップS12、ステップS14、ステップS16、ステップS18、ステップS20、及びステップS46の処理は、センサ低出力ロック判定手段に相当し、ステップS2、ステップS4、ステップS12、ステップS14、ステップS16、ステップS18、ステップS20、ステップS24、ステップS26、及びステップS28の処理は、偶力発生異常判定手段に相当し、ステップS2、ステップS4、ステップS12、ステップS14、ステップS16、ステップS18、ステップS20、ステップS24、ステップS26、及びステップS48の処理は、周囲環境異常判定手段に相当し、ステップS2、ステップS4、ステップS12、ステップS14、ステップS36、及びステップS42の処理は、浮体傾き判定手段に相当し、ステップS6、ステップS8、及びステップS10の処理は、凪判定手段に相当する。
【0059】
<傾斜センサの概要>
図15は、傾斜センサ21~24として公知のGセンサを採用した場合の構成を例示する。ここでは、一実施形態における4つのGセンサ21~24のうちのGセンサ21を代表例として示す。他のGセンサ22~24についても同様の構成である。
【0060】
図15のように、Gセンサ21は、6面体から成るケース21D内に構成されている。ケース21D内の中心部には球形状の錘21Bを備え、錘21Bは、6個のコイルスプリング21Eによりケース21Dの内壁面から離間した状態に支持されている。各コイルスプリング21Eのうち、重力方向下(
図15において下)に位置するものとケース21Dの内壁面との間には圧電素子21Aが配設されている。以上の構成により、錘21Bは、水平面に対して水槽10の傾斜角が変化すると、重力方向に移動し、その移動に伴う加速度を圧電素子21Aが受けて、圧電素子21Aは
図13のように電気信号を出力する。
【0061】
図16は、上記Gセンサ21を模式的に示す。ここでは、上述の故障診断ルーチンのステップS18にて、Gセンサ21のケース21D内に空気圧を加えてGセンサ21が高い電圧を出力する様子を示している。即ち、開閉弁21Cを開いてエアポンプ39A(
図5、8参照)からの空気をケース21D内に矢印のように導入してケース21D内の空気圧を高め、
図16にて下方に向かう矢印にて示すように錘21Bを圧電素子21Aに押し付ける。その結果、圧電素子21Aは、水槽10が比較的大きく傾斜したときに相当する高い電圧を出力する。
【0062】
図17は、
図16で説明した場合と同様にGセンサ21が高い電圧を出力する別の構成例を示している。この場合、6個のコイルスプリング21Eのうち、重力方向上(
図17において上)に位置するものとケース21Dの内壁面との間に空気袋21Fを配設している。空気袋21F内に空気を注入して膨張させることにより錘21Bを圧電素子21Aに押し付ける。その結果、圧電素子21Aは、水槽10が比較的大きく傾斜したときに相当する高い電圧を出力する。
【0063】
<その他の実施形態>
以上、本明細書に開示の技術を特定の実施形態について説明したが、その他各種の形態で実施可能なものである。例えば、上記実施形態では、傾斜センサをX、Y両軸上に1組(2個)ずつ、合計4個設けたが、各軸に1個ずつとしてもよい。また、傾斜センサは合計で偶数でなく奇数としてもよい。また、傾斜センサは、Gセンサ以外の公知の各種センサを用いてもよい。また、上記実施形態では、偶力発生手段として噴射装置の例を示したが、ローレンツ力発生装置、その他の偶力発生手段を用いてもよい。また、上記実施形態では、浮体構造物として人工干潟の例を示したが、その他の浮体構造物に適用してもよい。また、上記実施形態では、傾斜センサ自身、浮体構造物、偶力発生手段、及び浮体構造物が置かれた環境の全ての異常を検出するものとしたが、それらの少なくともいずれか一つの異常を検出するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 水槽(浮体構造物)
11 砕屑物
11A 礫岩
11B 砂
11C 湿泥
12 水
13A 給水ポンプ
13B 遮断弁
13C、13D 給水管
13E フィルタ
14A 排水ポンプ
14B 遮断弁
14C、14D 排水管
21~24 傾斜センサ(Gセンサ)
21A 圧電素子
21B 錘
21C、22C、23C、24C 開閉弁
21D ケース
21E コイルスプリング
21F 空気袋
30 偶力発生手段
31~34 噴射装置(INJ)
31A、33A エアタンク
31B、31C、32B、32C、33B、33C、34B、34C 開閉弁
31D、33D 噴射通路
35 制御回路
36 表示・警報装置
37 泥漏れ対策装置
39A エアポンプ
39B エアホース
W 海面