(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017534
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】導電繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/74 20060101AFI20250130BHJP
D06M 15/37 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
D06M11/74
D06M15/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120624
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502050729
【氏名又は名称】黄 晋二
(71)【出願人】
【識別番号】521495943
【氏名又は名称】渡辺 剛志
(71)【出願人】
【識別番号】522073157
【氏名又は名称】黒松 将
(71)【出願人】
【識別番号】523281711
【氏名又は名称】堀田 唯音
(71)【出願人】
【識別番号】523281722
【氏名又は名称】深瀬 大貴
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】黄 晋二
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛志
(72)【発明者】
【氏名】黒松 将
(72)【発明者】
【氏名】堀田 唯音
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 大貴
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA18
4L031AB01
4L031BA02
4L031BA31
4L031DA15
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC15
4L033CA32
4L033DA00
(57)【要約】
【課題】合成繊維にカーボンナノチューブ導電膜を強固に付着させた導電繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】導電繊維1の製造方法は、合成繊維10と、合成繊維10の表面に形成された、単層カーボンナノチューブ25を含む導電膜20と、を備える導電繊維1の製造方法であって、非プロトン性溶媒23に単層カーボンナノチューブ25を分散させた導電性インク24を、合成繊維10に浸漬して付着させる導電性インク浸漬工程と、導電性インク浸漬工程の後に、導電性インク24が付着した合成繊維10を乾燥し、非プロトン性溶媒23を除去する溶媒除去工程と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維と、
前記合成繊維の表面に形成された、単層カーボンナノチューブを含む導電膜と、を備える導電繊維の製造方法であって、
非プロトン性溶媒に前記単層カーボンナノチューブを分散させた導電性インクを、前記合成繊維に浸漬して付着させる導電性インク浸漬工程と、
前記導電性インク浸漬工程の後に、前記導電性インクが付着した前記合成繊維を乾燥し、前記非プロトン性溶媒を除去する溶媒除去工程と、
を有する、導電繊維の製造方法。
【請求項2】
前記合成繊維はポリエステル系繊維である、請求項1に記載の導電繊維の製造方法。
【請求項3】
前記非プロトン性溶媒はN,N-ジメチルホルムアミドである、請求項1又は2に記載の導電繊維の製造方法。
【請求項4】
前記導電性インク浸漬工程の前に、前記合成繊維をポリドーパミンに浸漬する前処理工程を有する、請求項1又は2に記載の導電繊維の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒除去工程の温度は前記合成繊維のガラス転移温度以下である、請求項1又は2に記載の導電繊維の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒除去工程は真空乾燥法を使用する、請求項5に記載の導電繊維の製造方法。
【請求項7】
前記導電性インク浸漬工程にはボールミルを使用する、請求項1又は2に記載の導電繊維の製造方法。
【請求項8】
前記導電性インクは界面活性剤を含まない、請求項1又は2に記載の導電繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single-Wall Carbon Nanotube)は、優れた機械的、電気的及び熱的特性を有し、また高いフレキシブル性を有する。このため、例えばSWCNTを含むSWCNT膜は、次世代のフレキシブル導電材料としての応用が期待されている。
【0003】
合成繊維の表面上にSWCNT導電膜を積層させ、導電布としての機能を付与させるための検討は多方面で研究されている。特許文献1には、SWCNT、バインダー及びSWCNTの分散剤として界面活性剤を含む分散液を用いて合成繊維上にSWCNT導電膜を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、形成されたSWCNT導電膜の中に、バインダー成分及び分散剤として添加した界面活性剤成分が残存してしまう。これらの成分は非導電性であるため、SWCNT導電膜の通電性等の電気特性が低下することが考えられる。また、結晶性が高く表面特性が安定しているポリエステル系繊維(PET繊維)に対しては、界面の密着強度が弱く剥離が生じ、SWCNTの特性が活かしきれていないという課題がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、合成繊維にカーボンナノチューブ導電膜を強固に付着させた導電繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る導電繊維の製造方法は、合成繊維と、合成繊維の表面に形成された、単層カーボンナノチューブを含む導電膜と、を備える導電繊維の製造方法であって、非プロトン性溶媒に単層カーボンナノチューブを分散させた導電性インクを、合成繊維に浸漬して付着させる導電性インク浸漬工程と、導電性インク浸漬工程の後に、導電性インクが付着した合成繊維を乾燥し、非プロトン性溶媒を除去する溶媒除去工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、合成繊維にカーボンナノチューブ導電膜を強固に付着させた導電繊維の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る導電繊維を概略的に示した断面図である。
【
図2】本実施形態に係る合成繊維に、非プロトン性溶媒が浸透した状態を概略的に示した拡大図である。
【
図3】本実施形態に係る導電繊維の作製方法を示す概略図である。
【
図4A】合成繊維(PET繊維)の表面状態を拡大した、SEM写真である。
【
図4B】
図4Aの合成繊維から作製した導電繊維の表面状態を拡大した、SEM写真である。
【
図5A】合成繊維(PET繊維)の表面状態を拡大した、SEM写真である。
【
図5B】
図5Aの合成繊維から作製した導電繊維の表面状態を拡大した、SEM写真である。
【
図6A】本実施形態に係る導電繊維を示す光学画像である。
【
図6B】丸形断面繊維の表面に導電膜を備えた導電繊維を示す光学画像である。
【
図8】電磁波シールド性を測定する実験概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係る導電繊維の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0011】
[導電繊維]
図1に示す導電繊維1は、合成繊維10と、合成繊維10の表面に形成された、単層カーボンナノチューブ(以下、SWCNT)25を含む導電膜20と、を備える。非プロトン性溶媒23にSWCNT25を分散させた導電性インク24を、合成繊維10に浸漬して付着させることにより、合成繊維10に導電膜20を強固に付着させた導電繊維1となっている。
【0012】
(合成繊維)
合成繊維10としては特に限定されないが、ポリエステル系繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、ポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維、ポリウレタン系繊維、セルロース系繊維からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。このうち、ポリエステル系繊維の一種であるポリエチレンテレフタレート繊維(以下、PET繊維)は、非プロトン性溶媒23にSWCNT25を分散させた導電性インク24が浸透しやすく、導電膜20が強固に付着しやすい。そのため、合成繊維10としてはポリエステル系繊維がより好ましく、PET繊維がさらに好ましい。PET繊維の構造は、化学式1に示す。
【0013】
【0014】
(導電膜)
導電膜20は、SWCNTを含む。導電膜20に含まれるSWCNT25の中心直径は、例えば0.5nm~5nmであり、導電性の観点から1nm~3nmであることが好ましい。また、導電膜20に含まれるSWCNT25の長さは、例えば1μm~数10μmである。さらに、導電膜20の厚さは、例えば50nm~500nmであり、合成繊維10との界面の密着性の観点から100nm~200nmであることが好ましい。
【0015】
非プロトン性溶媒23にSWCNT25を分散させた導電性インク24を、合成繊維10に浸漬して付着させ、さらに合成繊維10を乾燥し、非プロトン性溶媒23を除去することで、合成繊維10の表面にSWCNTを含む導電膜20が強固に付着される。
【0016】
導電繊維1は、以下に示す導電繊維の製造方法により製造される。
【0017】
[導電繊維の製造方法]
導電繊維の製造方法は、合成繊維10と、合成繊維10の表面に形成された、SWCNT25を含む導電膜20と、を備える導電繊維1の製造方法である。導電繊維1の製造方法は、導電性インク浸漬工程と、溶媒除去工程と、を有する。
【0018】
(導電性インク浸漬工程)
導電性インク浸漬工程は、
図3に示すように、非プロトン性溶媒23にSWCNT25を分散させた導電性インク24を、合成繊維10に浸漬して付着させる工程である。
【0019】
導電性インク24の分散溶媒として非プロトン性溶媒23を使用する。非プロトン性溶媒23としては、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMA(N-メチルアセトアミド)、アセトニトリルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。非プロトン性溶媒23とSWCNT25は双方が高極性を有しており、界面活性剤等の分散剤の添加が無くても、非プロトン性溶媒23中にSWCNT25が均一に分散し、SWCNT25単独の良好な導電性インクが得られる。合成繊維10がPET繊維の場合、PET繊維の内部に浸透し易いという観点から、DMFであることがより好ましい。
【0020】
DMFは、ギ酸とジメチルアミンが縮合してできたアミドである。アミド結合は比較的安定な結合であり、求核剤や求電子剤と反応しにくいため有機溶媒として利用される。カルボニル基を持つため分極していて高極性であり、そのため非プロトン性極性溶媒と呼ばれている。一方、SWCNT25は高極性で立体規則性が高く分子同士が引き合い凝集し易い特性を示す。DMF分子中にはアミド結合を有しており、アミド結合とカーボンが吸着し易いため、界面活性剤等の分散剤の添加が無くても、DMF溶媒中にSWCNT25が均一に分散した導電性インク24が得られる。
【0021】
DMFの溶解性パラメータ(SP値)は12.0であり、PET繊維の溶解性パラメータ10.7と近似している。そのため、DMFは、PET繊維のような表面が安定した結晶性高分子の内部の非晶部分に浸透し易く、PET繊維表面に膨潤及び軟化作用を引き起こし、PET繊維表面は改質される。このDMFによるPET繊維の表面状態の変化が、界面の密着性に大きな影響を及ぼす。
【0022】
SP値とは、物質の分子間力(凝集エネルギー密度)の大きさを表す指標で、1cm3の液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根で表される。SP値(σ)が近い値の物質同士は混ざりやすく溶解度が大きくなる。SP値((cal/cm3)1/2)は、以下の数式(1)から算出することができる。
SP=((ΔH-RT)/V)1/2=(d/M・(CE))1/2 (1)
【0023】
上記数式(1)において、化合物の蒸発潜熱ΔH(cal/mol)、ガス定数をR(cal/mol)、絶対温度をT(K)、モル容積V(cm3/mol)、密度d(g/cm3)、グラム分子量(g/mol)、凝集エネルギーCE(cal/mol)を表す。
【0024】
合成繊維10(PET繊維)は、
図2に示すように結晶部分11と非晶部分12がミクロ相分離構造を形成している。ここに非プロトン性溶媒23(DMF)が作用すると、DMFがPET繊維の非晶部分12に侵入し、軟化、膨潤作用を引き起こす。この作用は温度が高くなると分子の動きが活発となりより内部に浸透していく。PET繊維のガラス転移温度は70℃であるため、70℃以上になると結晶部分11の分子の動きも活発となり、結晶部分11の内部にもDMFが浸透し結晶構造が崩れ、再結晶する際に結晶粒の分散が不安定となり物性低下を引き起こす可能性がある。そのため、DMFの作用は、PET繊維の物性を維持するために70℃以下の温度で行う必要がある。
【0025】
また、PET繊維とSWCNTの界面は、PET繊維の軟化、膨潤作用により表面層で双方が絡む。そして、DMFを除去する際にはPET繊維が元の状態に復元し、界面の密着強度を向上させることができるため、SWCNT単独の強固な導電膜を形成できる。
【0026】
上述のように、導電性インク24には分散剤は不要であり、界面活性剤を含まなくてもよい。従来のように、導電膜の中に分散剤として添加した界面活性剤成分が残存してしまうと、界面活性剤成分は非導電性であるため、導電膜の通電性等の電気特性が低下することが考えられる。よって、導電性インク24に界面活性剤を含まないことで、従来よりも高い電気特性を有する導電繊維1を作製できる。
【0027】
非プロトン性溶媒23にSWCNT25を分散させた導電性インク24を調製する方法は、特に限定されない。SWCNT25の非プロトン性溶媒23への分散性を良くするため、例えばボールミル、ロータースピードミル、カッティングミル、ホモジナイザー、振動ミル、アトライタ等の粉砕機を用いて粉砕して、非プロトン性溶媒23に分散させることができる。非プロトン性溶媒23とSWCNT25は双方が高極性を有しており、界面活性剤等の分散剤の添加が無くても、非プロトン性溶媒23中にSWCNT25が均一に分散することができる。そして、非プロトン性溶媒23中において、SWCNT25の濡れ性が向上し、SWCNT25を細かくほぐすことができる。
【0028】
導電性インク24を合成繊維10に浸漬して付着させる方法としては、特に限定されず、微振動を与えて処理する方法等の一般的な含浸処理方法を使用することができる。しかしながら、微振動を与えると導電性インク24の温度上昇を伴い、非プロトン性溶媒23が合成繊維10の内部に浸透し易くなり、合成繊維10へのアタック性が強くなり、合成繊維10の溶解、結晶構造の変化及び物性低下を引き起こすことが考えられる。
【0029】
そのため、導電性インク24を合成繊維10に浸漬して付着させる方法としては、
図3に示すように、ボールミル50を使用することが好ましい。非プロトン性溶媒23中でのSWCNT25の分散性を維持した形で合成繊維10の上に均一な導電膜20を形成させるために、ボールミル50内に合成繊維10と導電性インク24を投入し、攪拌しながら合成繊維10の上に導電性インク24を分散させる。ボールミル50の円筒容器内には、分散用媒体であるボール51を一定量投入する。そして、ボールミル50の水平軸を中心に回転させると、ボール51は円筒容器の回転と共に、内壁に沿って一定の高さまで持ち上げられ、内壁を滑ったり、転がり落ちたりして円筒容器内で一定方向に循環する。そのボール51の循環移動中に合成繊維10の上に均一な導電膜20を形成させることができる。このようなボールミル50を使用した方法は、温度上昇はほとんどなく、合成繊維10の内部まで非プロトン性溶媒23が浸透することを抑制させ、合成繊維10の物性低下を抑えながら、導電膜20を合成繊維10上に積層させることができる。
【0030】
導電性インク24中のSWCNT25の濃度は、導電性インク24の100質量%中、0.01~0.5質量%が好ましく、0.05~0.2質量%がより好ましく、0.08~0.12質量%がさらに好ましい。SWCNT25の濃度が上記範囲内にあると、均一な導電膜20を形成しやすい。
【0031】
導電性インク浸漬工程の前に、合成繊維をポリドーパミン(以下、PDA)に浸漬する前処理工程を有してもよい。PDAは、ムラサキガイ(二枚貝の一種)の足糸と呼ばれるたんぱく質を模倣したもので、カテコール基、アミノ基、ベンゼン環を有し、様々な材料に対して結合するカテコール系高分子である。親水性のコットン繊維や、疎水性のPET繊維等の表面特性を変化させ、SWCNTを含む導電膜との密着性を向上させることができる。PDAは、酸素雰囲気中、アルカリ性条件下でドーパミンが酸化しながら自己重合した高分子であり、化学式3の左側に示すドーパミンが中間体を経て、右側に示すPDAとなる。
【0032】
PDAに浸漬する前処理工程を実施することで、ドーパミン誘導体との相互作用(水素結合やπ-π相互作用等)により、親水性又は疎水性の繊維の表面改質が可能である。特に、化学式2に示すような、水酸基を有するセルロース系繊維の一種であるコットン繊維は吸水性が高いため、PDAに浸漬する前処理工程を実施することが好ましい。PDAによる前処理により、コットン繊維は水酸基同士が水素結合し、表面を疎水性に改質することができ、疎水性のSWCNTとの密着性を向上させることができる。
【0033】
【0034】
【0035】
PET繊維をPDAに浸漬する前処理工程を実施した場合、PET繊維は多少吸水性が有るため、ドーパミン中に存在するベンゼン環との間でπ-π相互作用が働き、疎水性を向上させ、界面の密着性を向上させることができる。
【0036】
(溶媒除去工程)
溶媒除去工程は、導電性インク浸漬工程の後に、導電性インク24が付着した合成繊維10を乾燥し、非プロトン性溶媒23を除去する溶媒除去工程である。上述の通り、合成繊維10はガラス転移温度以上になると結晶部分の分子の動きも活発となり、結晶内部にも溶媒が浸透し結晶構造が崩れ、再結晶する際に結晶粒の分散が不安定となり物性低下を引き起こす可能性がある。そのため、溶媒除去工程の温度は合成繊維10のガラス転移温度以下であることが好ましい。
【0037】
合成繊維10に対する導電膜20の密着性の観点から、溶媒除去工程は真空乾燥法を使用することが好ましい。例えば、非プロトン性溶媒23にDMFを使用し、合成繊維10にPET繊維を使用した場合、DMFの沸点は153℃であるため、PET繊維からDMFを除去するためには150℃以上の乾燥条件が必要となる。しかしながら、PET繊維のガラス転移温度70℃以上に加温するとPET繊維の結晶組織にDMFが侵入し、PET繊維の物性が低下してしまう。そのため、真空乾燥を採用し、70℃以下の温度条件で溶媒除去を行うことが好ましい。そして、乾燥する際には、DMFにより膨潤したPET繊維は元の状態に収縮し、この過程で界面の密着性をより強固にさせることができる。
【0038】
上述のように、本実施形態に係る導電繊維1の製造方法は、合成繊維10と、合成繊維10の表面に形成された、SWCNT25を含む導電膜20と、を備える導電繊維1の製造方法である。導電繊維1の製造方法は、非プロトン性溶媒23にSWCNT25を分散させた導電性インク24を、合成繊維10に浸漬して付着させる導電性インク浸漬工程と、導電性インク浸漬工程の後に、導電性インク24が付着した合成繊維10を乾燥し、非プロトン性溶媒23を除去する溶媒除去工程と、を有する。本実施形態に係る導電繊維1の製造方法によれば、合成繊維10にカーボンナノチューブ導電膜を強固に付着させた導電繊維1の製造方法を提供することができる。
【0039】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例]
(導電性インク浸漬工程)
合成繊維には、いずれも帝人フロンティア(株)製のPET繊維である、カルキュロ(登録商標)、ナノフロント(登録商標)、オクタ(登録商標)及びウェーブロン(登録商標)の4種類を使用した。いずれのPET繊維も、吸汗速乾性などを付与する目的で、従来の丸形断面のPET繊維とは異なり、繊維の断面形状や繊維径に次のような特徴がある。カルキュロは、深い溝を持った不定型断面形状の断面を有する。ナノフロントは、直径700nmの超極細繊維であり、通常の繊維の数10倍の表面積を有する。オクタは、穴の空いた中空糸に8本の突起を放射線状に配列したタコ足型断面を有する。ウェーブロンは、4つの山扁平状の断面を有する。
【0041】
導電性インクの原料として、SWCNTである株式会社名城ナノカーボン製eDIPS EC1.5(中心直径1~3nm)と、非プロトン性溶媒である分散剤無添加のDMFとを用意した。超音波ホモジナイザーを用いて、SWCNTの含有量が0.1質量%になるように、DMFにSWCNTを分散させて導電性インクを調製した。超音波ホモジナイザーの条件はパルス5秒サイクル、振幅制御200Wとし、1時間処理した。
【0042】
ボールミルを使用して、導電性インクをPET繊維に浸漬して付着させた。ボールミルの条件は、速度350rpm、時間30分とした。
【0043】
(溶媒除去工程)
導電性インクが付着したPET繊維について、真空乾燥法によって約26℃、約6時間乾燥させ、DMFを除去した。そして、PET繊維の表面にSWCNTを含む導電膜が形成された導電繊維が得られた。
【0044】
PET繊維にカルキュロを使用した場合の、導電膜形成前を
図4A、導電膜形成後を
図4B、PET繊維にナノフロントを使用した場合の、導電膜形成前を
図5A、導電膜形成後を
図5Bとし、それぞれSEM写真を示す。
【0045】
図4Bに示すように、PET繊維1本ごとにSWCNTが絡まって付着している状態が確認できた。SWCNTがPET繊維に直接絡まっているため、界面の密着性がより強固になっている。これは、使用したPET繊維が表面に深い溝を有する不定形断面形状繊維であり、軸方向にもランダムな単糸断面形状を有していることから、繊維間空隙が大きく、SWCNTと絡みやすくなっているものと考える。また、PET繊維間に空隙があることから、DMFがPET繊維の内部まで染み込み易くなり、導電膜をPET繊維全体に覆うことができ、良好な密着性が得られたと考える。
【0046】
一方、
図5Bでは、凝集した状態のPET繊維を覆う形で密に導電膜が積層されていることが確認できた。これは、使用したPET繊維が直径700nmの超極細繊維であり、繊維の表面積が大きく、高い吸着性とグリップ性(高摩擦力)を有する表面特性となっており、繊維表面の微細な凹凸によるアンカー効果により、界面の密着性が向上しているものと推測される。
【0047】
このように、PET繊維の特徴的な断面形状を生かした、アンカー効果と接触面積拡大効果によって界面の密着性を向上させ、PET繊維とSWCNTとがより絡み易くして、PET繊維に導電膜を強固に付着させることができた。
【0048】
図6Aは、PET繊維(ウェーブロン、オクタ、カルキュロ、ナノフロント)を使用して作製した導電繊維を示す光学画像である。一方、
図6Bは、自動車エアーバッグ展開用カバーとして一般的に使用されている丸形断面のPET繊維(繊維径50μm)を使用して、上記と同様に作製した導電繊維を示す光学画像である。
図6Aに示した導電繊維は、
図6Bに示した導電繊維に比べてPET繊維の繊維径が小さく、表面積が大きいため、導電膜がPET繊維の全面に均一に積層されていることが分かった。
【0049】
(評価)
得られた導電繊維の試験サンプルについて、以下に示す方法により評価した。
【0050】
<シート抵抗測定>
導電繊維の導電膜のシート抵抗をVan der Pauw法により測定した。
図7に示すように、2端子間に電流電源を繋げたときの電流の大きさと、もう一方の2端子間の電位差による抵抗R
1、R
2を求め、抵抗R
1、R
2の比(R
1>R
2)によって決まる補正係数fを数表より求める。そして、以下の数式(2)を解くことで、シート抵抗Rs(Ω)を算出した。
Rs=(π/ln2)・(R
1+R
2)/2・f(R
1/R
2) (2)
【0051】
【0052】
PET繊維(カルキュロ、ナノフロント、オクタ、ウェーブロン)を使用し、ボールミルによる導電性インクの浸漬を1回実施して作製した導電繊維について、シート抵抗の測定結果(n=5の平均値)を表1に示す。PET繊維にカルキュロを使用した場合に10.8Ω/sq.と最も低い値を示し、良好な導電性を有することが分かった。なお、PET繊維にカルキュロを使用した場合のシート抵抗は、1回目10.8Ω/sq.、2回目11.8Ω/sq.、3回目8.4Ω/sq.、4回目11.7Ω/sq.、5回目5.2Ω/sq.と、サンプル毎のバラツキが小さく、値が安定していた。これは、
図4Bに示したように、PET繊維1本ごとにSWCNTが絡まって付着しているため、表面の通電性が良く安定した特性が得られたものと思われる。
【0053】
<電磁波シールド性>
導電繊維の電磁波シールド性を評価した。具体的には
図8に示すように、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)60と導波管63を同軸ケーブル61で接続し、導波管63の間に、シールド材62として導電繊維を挟み込むことでシールド効果(SE)を測定した。以下の数式(3)から、シールド効果SE(dB)を算出することができ、ポート1からの入力波E
1、ポート2の出力波E
4の強度比より求めた。
SE=20・log
10(E
4/E
1) (3)
【0054】
PET繊維(カルキュロ)を使用し、ボールミルによる導電性インクの浸漬を4回繰り返し実施して作製した導電繊維(以下、4回浸漬品)について、シート抵抗及びシールド効果SEを測定した。
【0055】
4回浸漬品のシート抵抗は2.6Ω/sq.であった。表1の通り、導電性インクの浸漬を1回実施して作製した導電繊維(カルキュロ)のシート抵抗は10.8Ω/sq.であったのに対して、4回浸漬品ではさらにシート抵抗を低減することができた。
【0056】
一方、4回浸漬品に対して電磁波シールド性を測定した結果、シールド効果SEは-33dBであった。一般的にシールド効果SEは-20dB以下が推奨されるため、4回浸漬品では良好なシールド効果が得られた。
図4Bに示したように、導電繊維はPET繊維1本ごとにSWCNTが絡まって付着している。導電性インクの浸漬を4回実施したことで、PET繊維へのSWCNTの付着量がさらに増加し、表面の通電性がさらに良くなり、安定した電磁波シールド効果を有する導電繊維が得られたものと思われる。
【0057】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 導電繊維
10 合成繊維
11 結晶部分
12 非晶部分
20 導電膜
23 非プロトン性溶媒
24 導電性インク
25 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)
50 ボールミル