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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017536
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】アクスルケース構造
(51)【国際特許分類】
   B60G 9/04 20060101AFI20250130BHJP
【FI】
B60G9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120627
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA72
3D301AA85
3D301BA03
3D301CA23
3D301CA48
3D301DA02
3D301DA14
3D301DA31
3D301DA54
3D301DB21
3D301DB22
(57)【要約】
【課題】重量増を抑制しつつねじり剛性を高める。
【解決手段】アクスルケース構造1は、車両の車幅方向に延びるアクスルケース本体2を備える。アクスルケース本体は、中空六角形の断面形状を有する六角部7を有し、六角部は、上下に分割された上側六角部10と下側六角部11を有し、上側六角部は、下方の下底側が開放された台形の断面形状を有し、下側六角部は、上方の下底側が開放された逆台形の断面形状を有し、六角部は、上側六角部と下側六角部の突き合わせ部を固着する溶接部6Rを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車幅方向に延びるアクスルケース本体を備え、
前記アクスルケース本体は、中空六角形の断面形状を有する六角部を有し、
前記六角部は、上下に分割された上側六角部と下側六角部を有し、
前記上側六角部は、下方の下底側が開放された台形の断面形状を有し、
前記下側六角部は、上方の下底側が開放された逆台形の断面形状を有し、
前記六角部は、前記上側六角部と前記下側六角部の突き合わせ部を固着する溶接部を有する
ことを特徴とするアクスルケース構造。
【請求項2】
前記突き合わせ部には、前記アクスルケース本体の半径方向外側に向かって開く開先部と、前記開先部の半径方向内側に隣接したルート面部とが形成される
請求項1に記載のアクスルケース構造
【請求項3】
前記アクスルケース本体の軸方向両端に接続されたスピンドルを備える
請求項1に記載のアクスルケース構造
【請求項4】
デッドアクスルを形成する
請求項1に記載のアクスルケース構造。
【請求項5】
前記上側六角部に溶接により固着されるサスペンション取付用上側ブラケットを備え、
前記上側ブラケットは、前記上側六角部に重ね合わされる上側凹部を有し、
前記上側凹部は、基準上下軸の方向に対する、前記上側六角部の前側斜面部および後側斜面部の傾斜角に等しい前後の抜き勾配を有する
請求項1に記載のアクスルケース構造
【請求項6】
前記下側六角部に溶接により固着されるサスペンション取付用下側ブラケットを備え、
前記下側ブラケットは、前記下側六角部に重ね合わされる下側凹部を有し、
前記下側凹部は、基準上下軸の方向に対する、前記下側六角部の前側斜面部および後側斜面部の傾斜角に等しい前後の抜き勾配を有する
請求項1に記載のアクスルケース構造
【請求項7】
前記車両は、シャシに対し上下方向に回動可能に取り付けられたトレーリングアームと、前記シャシと前記トレーリングアームの間に設けられたエアスプリングとを備え、
前記六角部は、前記トレーリングアームに取り付けられる
請求項1に記載のアクスルケース構造。
【請求項8】
前記車両は、トレーラである
請求項1に記載のアクスルケース構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に適用されるアクスルケース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばトレーラといった車両では、シャシに取り付けられたリーフスプリングにアクスルケースが取り付けられている。そしてアクスルケースには主たる荷重である上下方向の荷重(上下荷重)が付加される。アクスルケースの断面形状は、上下荷重に対し比較的高い剛性を有する中空の矩形とされるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-298236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、積み荷の損傷回避等の観点から、リーフスプリングに代わってエアスプリングが用いられる例が多く見られる。この場合、左右のトレーリングアームがシャシに対し上下方向に回動可能に取り付けられ、左右のエアスプリングがシャシと左右のトレーリングアームの間にそれぞれ設けられる。そして、アクスルケースが左右のトレーリングアームに取り付けられる。
【0005】
この場合、コーナリング時等にアクスルケースには比較的高いねじり荷重が付加される。このねじり荷重に対する十分な剛性(ねじり剛性)を確保するため、アクスルケースの断面形状を、ねじり荷重に対し比較的高い剛性を有する中空の円形に変更することが考えられる。
【0006】
しかし、円形断面で矩形断面と同等の、上下荷重に対する剛性(上下剛性)を確保しようとすると、肉厚が増加し、重量が増加してしまう。
【0007】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、重量増を抑制しつつねじり剛性を高めることができるアクスルケース構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一の態様によれば、
車両の車幅方向に延びるアクスルケース本体を備え、
前記アクスルケース本体は、中空六角形の断面形状を有する六角部を有し、
前記六角部は、上下に分割された上側六角部と下側六角部を有し、
前記上側六角部は、下方の下底側が開放された台形の断面形状を有し、
前記下側六角部は、上方の下底側が開放された逆台形の断面形状を有し、
前記六角部は、前記上側六角部と前記下側六角部の突き合わせ部を固着する溶接部を有する
ことを特徴とするアクスルケース構造が提供される。
【0009】
好ましくは、前記突き合わせ部には、前記アクスルケース本体の半径方向外側に向かって開く開先部と、前記開先部の半径方向内側に隣接したルート面部とが形成される。
【0010】
好ましくは、前記アクスルケース構造は、前記アクスルケース本体の軸方向両端に接続されたスピンドルを備える。
【0011】
好ましくは、前記アクスルケース構造は、デッドアクスルを形成する。
【0012】
好ましくは、前記アクスルケース構造は、前記上側六角部に溶接により固着されるサスペンション取付用上側ブラケットを備え、
前記上側ブラケットは、前記上側六角部に重ね合わされる上側凹部を有し、
前記上側凹部は、基準上下軸の方向に対する、前記上側六角部の前側斜面部および後側斜面部の傾斜角に等しい前後の抜き勾配を有する。
【0013】
好ましくは、前記アクスルケース構造は、前記下側六角部に溶接により固着されるサスペンション取付用下側ブラケットを備え、
前記下側ブラケットは、前記下側六角部に重ね合わされる下側凹部を有し、
前記下側凹部は、基準上下軸の方向に対する、前記下側六角部の前側斜面部および後側斜面部の傾斜角に等しい前後の抜き勾配を有する。
【0014】
好ましくは、前記車両は、シャシに対し上下方向に回動可能に取り付けられたトレーリングアームと、前記シャシと前記トレーリングアームの間に設けられたエアスプリングとを備え、
前記六角部は、前記トレーリングアームに取り付けられる。
【0015】
好ましくは、前記車両は、トレーラである。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、重量増を抑制しつつねじり剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のアクスルケース構造が適用される車両の一部を示す左側面図である。
図2】アクスルケース構造を示す概略斜視図である。
図3】アクスルケース構造を示す概略分解斜視図である。
図4】アクスルケース構造を示し、(A)は後面図、(B)は上側ブラケットおよび下側ブラケットを示す斜視図である。
図5】六角部の断面を示し、図2のV-V断面図である。
図6】溶接部の詳細を示す断面図である。
図7】ブラケットの取付部の詳細を示す側面図である。
図8】従来例と本実施形態のアクスルケース本体を比較した表である。
図9】従来例の矩形断面のアクスルケース本体がねじり荷重を受けたときの様子を示す。
図10】本実施形態のアクスルケース本体の六角部がねじり荷重を受けたときの様子を示す。
図11】従来例の矩形断面のアクスルケース本体にサスペンション取付用ブラケットを取り付けたときの取付部の詳細を示す側面図である。
図12】変形例に係るアクスルケース構造を示す後面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0019】
図1に、本実施形態のアクスルケース構造が適用される車両の一部を示す。車両における前後左右上下の各方向は図示する通りである。便宜上、アクスルケース構造の各方向を車両の各方向と一致させるものとする。
【0020】
本実施形態の車両は、トラクタに牽引されるトレーラであり、シャシとしてのラダーフレームと、左右のサスペンション装置52(左側のみ図示)とを有する。ラダーフレームは左右一対のサイドメンバ51(左側のみ図示)と、これらサイドメンバ51を連結する複数のクロスメンバ(図示せず)とを備える。左右のサイドメンバ51とサスペンション装置52はそれぞれ左右対称なので、以下、左側の構成のみを主に説明する。
【0021】
サスペンション装置52は、サイドメンバ51の下面部に突出して設けられたブラケット53と、ブラケット53に回動可能に取り付けられたトレーリングアーム54と、サイドメンバ51とトレーリングアーム54の間に設けられたエアスプリング55とを備える。
【0022】
トレーリングアーム54は、前後方向に延び、互いに重ね合わされて一体化された上側アーム56と下側アーム57を備える。上側アーム56と下側アーム57の前端部が、ブラケット53に取り付けられた回動軸58に、矢印aの如く上下方向に回動可能に取り付けられている。回動軸58は左右方向に延びており、トレーリングアーム54はその回動軸58の回りを回動可能である。
【0023】
トレーリングアーム54の長さ方向(前後方向)の中間部に、本実施形態のアクスルケース構造1が取り付けられている。上側アーム56はこのアクスルケース構造1の位置までしか後方に延びていないが、下側アーム57はアクスルケース構造1より後方の位置まで後方に延びている。上側アーム56の後端部はアクスルケース構造1の上方に位置される。下側アーム57は、アクスルケース構造1の直後の位置で下側に向かってクランク状に折り曲げられ、その折り曲げられた先の後方に後端部を有する。
【0024】
エアスプリング55は、上下方向に延び、下側アーム57の後端部と、その上方に位置するサイドメンバ51とを連結する。エアスプリング55は矢印bの如く上下方向に伸縮可能である。
【0025】
アクスルケース構造1は、前後一対のUボルト58でトレーリングアーム54に取り付けられる。トレーリングアーム54の上面部(すなわち上側アーム56の上面部)とUボルト58の間にはスプリングシート59が挟まれている。
【0026】
サスペンション装置52は、ショックアブソーバ60も備える。ショックアブソーバ60は、前方に向かうほど高くなるよう傾斜して配置されている。ショックアブソーバ60の前端部は、ブラケット53に取り付けられ左右方向に延びる回動軸(図示せず)に回動可能に取り付けられている。ショックアブソーバ60の後端部は、アクスルケース構造1に取り付けられ左右方向に延びる回動軸61に回動可能に取り付けられている。
【0027】
以上の各要素は右側にも設けられる。よって車両は、左右のサイドメンバ51に対し上下方向に回動可能に取り付けられた左右のトレーリングアーム54と、左右のサイドメンバ51と左右のトレーリングアーム54の間に設けられた左右のエアスプリング55とを備える。
【0028】
本実施形態のアクスルケース構造1は、車輪である後輪(図示せず)に駆動力を伝達する機能を有しない死軸式アクスル、すなわちデッドアクスルを形成する。これに対し、車輪に駆動力を伝達する機能を有するものはドライブアクスルと称する。
【0029】
次に、本実施形態のアクスルケース構造1を説明する。
【0030】
図2はアクスルケース構造1の概略斜視図、図3はアクスルケース構造1の概略分解斜視図、図4はアクスルケース構造1の後面図である。なお図2図4のうち図4にのみ後述のブラケットを示す。また図5図2のV-V断面図である。
【0031】
アクスルケース構造1は、車両の車幅方向(左右方向)に延びるアクスルケース本体2を備える。アクスルケース本体2は、車幅方向(左右方向)に平行な中心軸(ケース軸という)Cに沿って、これと同軸に延びている。以下特に断らない限り、ケース軸Cを基準とした軸方向、半径方向および周方向を単に軸方向、半径方向および周方向という。
【0032】
アクスルケース構造1は、アクスルケース本体2の軸方向における左右両端に接続された左右のスピンドル3も備える。図3は、アクスルケース本体2とスピンドル3を分離して示す。スピンドル3は、車幅方向(左右方向)に延びる短い円筒状の部材である。スピンドル3には、車輪を支持するハブが回転可能に取り付けられると共に、ブレーキ装置の一部が取り付けられる。スピンドル3はアクスルケース本体2に溶接により同軸に接続される。
【0033】
アクスルケース本体2は、ケース軸Cの高さ位置で上下に等しく二分割され、上側の分割片である上側本体4と、下側の分割片である下側本体5とを有する。そして図5に示すように、これら上側本体4と下側本体5は互いに突き合わされ、溶接により固着される。この溶接による固着部が溶接部、すなわち前側溶接部6Fと後側溶接部6R(総じて符号6で表す)である。
【0034】
アクスルケース本体2は、その軸方向において、両端部を除く大部分が中空六角形の断面形状を有する。この中空六角形の断面形状を有する部分が六角部7である。またアクスルケース本体2は、その軸方向両端部に、スピンドル3に接続する円筒部8と、円筒部8および六角部7の間でこれらを連結する遷移部9とを一体かつ同軸に有する。
【0035】
円筒部8は、中空円形の断面形状を有し、スピンドル3と同一の外形を有すると共に、スピンドル3に突き合わせ溶接される。遷移部9は、円筒部8と接続する一端から、六角部7と接続する他端までの間で、断面形状が中空円形から中空六角形に徐々に変化するようになっている。
【0036】
上側本体4と下側本体5のうち、六角部7を構成する部分が、上側六角部10と下側六角部11である。よって六角部7は、上下に分割された上側六角部10と下側六角部11を有することとなる。また前側溶接部6Fおよび後側溶接部6Rはアクスルケース本体2の全長に亘って存在し、六角部7にも存在する。そのため六角部7は、上側六角部10と下側六角部11の突き合わせ部を固着する溶接部6F,6Rを有することとなる。
【0037】
図5に示すように、六角部7は、中空で、ほぼ正六角形の断面形状を有する。六角部7は、上下対称かつ前後対称の断面形状を有する。そして上側六角部10は、下方の下底側が開放された台形の断面形状を有し、下側六角部11は、上方の下底側が開放された逆台形の断面形状を有する。逆台形とは台形を上下に反転させた形状をいう。上側六角部10および下側六角部11は上下対称の断面形状を有する。
【0038】
上側六角部10および下側六角部11を含む上側本体4および下側本体5は、厚さtの金属板(具体的には鋼板)をプレス加工することにより形成される。上側六角部10の断面形状は前後対称の台形であり、下側六角部11の断面形状は前後対称の逆台形である。
【0039】
ここで、ケース軸Cを通り前後方向に平行な軸を基準前後軸C1とし、ケース軸Cを通り上下方向に平行な軸を基準上下軸C2とする。
【0040】
上側六角部10は、台形の上底をなす上面部12と、上面部12の前後の端部に形成された前側斜面部13および後側斜面部14とを一体に備える。上面部12は、ケース軸Cおよび基準前後軸C1に平行である。前側斜面部13および後側斜面部14は、上面部12の前後の端部を下方に向かって所定角度θ1だけ折り曲げることにより形成される。本実施形態の場合、角度θ1は約60°である。上面部12と、前側斜面部13および後側斜面部14との接続部(折り曲げ部)は断面アール状に形成される。
【0041】
下側六角部11は、逆台形の上底をなす下面部15と、下面部15の前後の端部に接続された前側斜面部16および後側斜面部17とを一体に備える。下面部15は、ケース軸Cおよび基準前後軸C1に平行である。前側斜面部16および後側斜面部17は、下面部15の前後の端部を上方に向かって所定角度θ2だけ折り曲げることにより形成される。本実施形態の場合、角度θ2は角度θ1と等しく、約60°である。下面部15と、前側斜面部16および後側斜面部17との接続部(折り曲げ部)は断面アール状に形成される。
【0042】
上側六角部10の前側斜面部13および後側斜面部14の下端部と、下側六角部11の前側斜面部16および後側斜面部17の上端部とが、それぞれ互いに突き合わされ、前側溶接部6Fおよび後側溶接部6Rにおいて溶接される。
【0043】
図6に、前側溶接部6Fの詳細を示す。図示するように、上側六角部10の前側斜面部13の下端部と、下側六角部11の前側斜面部16の上端部とが突き合わされて突き合わせ部19が形成される。そしてこの突き合わせ部19には、アクスルケース本体2の半径方向外側(具体的には前側)に向かって開く開先部20と、開先部20の半径方向内側(具体的には後側)に隣接したルート面部21とが形成される。
【0044】
ルート面部21は、上側の前側斜面部13のルート面22と、下側の前側斜面部16のルート面23とにより挟まれて形成された断面長方形状の隙間であり、所定のルート間隔Uを有する。開先部20は、上側の前側斜面部13の開先面24と、下側の前側斜面部16の開先面25とにより挟まれて形成された断面V字状の隙間であり、所定の開先角αを有する。開先角αは、好ましくは30°(片側15°)以上であり、より好ましくは45~60°(片側22.5~30°)の範囲内である。
【0045】
これら開先部20とルート面部21に対し、半径方向外側(具体的には前側)から溶接が行われる。図中符号Bで示すのは、溶接後にできる溶接ビードである。
【0046】
なお、前側溶接部6Fの構成は、基準前後軸C1を境に上下に対称である。また上側の前側斜面部13と下側の前側斜面部16とは、基準上下軸C2(便宜上、図示の位置に移動している)の方向に対し、それぞれ上側および下側ほど後側に向かうよう、所定角度θ3,θ4で傾斜している。角度θ3は90°-θ1に等しく、角度θ4は90°-θ2に等しい。本実施形態の場合、角度θ3,θ4はともに等しく約30°である。
【0047】
後側溶接部6Rについては、前側溶接部6Fと前後対称の構成であるため、説明を省略する。
【0048】
図1および図4に示すように、アクスルケース構造1は、上側六角部10に溶接により固着されるサスペンション取付用上側ブラケット31と、下側六角部11に溶接により固着されるサスペンション取付用下側ブラケット32とを備える。溶接はすみ肉溶接により行われる。
【0049】
上側ブラケット31および下側ブラケット32は、ともにアクスルケース本体2をサスペンション装置52に取り付けるためのものである。左側の一対の上側ブラケット31および下側ブラケット32が、六角部7の左側の端部に取り付けられている。また右側の一対の上側ブラケット31および下側ブラケット32が、六角部7の右側の端部に取り付けられている。これら各対のブラケット31,32は左右対称なので、以下、主に左側についてのみ説明する。
【0050】
図4(A)はアクスルケース構造1を示す後面図であり、図4(B)は上側ブラケット31および下側ブラケット32を示す斜視図である。
【0051】
上側ブラケット31および下側ブラケット32は、金属材料(具体的には鋼材)を鍛造することにより形成される。上側ブラケット31および下側ブラケット32は、概ね上下対称の構成とされ、図4に示すように、あたかもアクスルケース本体2に跨る鞍状の形状を有する。上側ブラケット31および下側ブラケット32は、軸方向の同一の位置に配置される。また図1に示すように、上側ブラケット31および下側ブラケット32は、アクスルケース本体2よりも前方および後方の位置まで延びている。
【0052】
ここで上側ブラケット31についてのみ詳しく述べると、上側ブラケット31は、上側六角部10の上面部12の上方で上面部12に平行に形成された平面状の座面部33と、座面部33から下方に突出する前後一対の脚部34とを一体に有する。
【0053】
図7に示すように、一対の脚部34の内側には、上側六角部10に重ね合わされもしくは嵌合される上側凹部35が形成される。上側凹部35は、下側が開き上側が閉じた凹部で、上側六角部10の外形状に符合した台形状の断面形状(軸方向に垂直な断面形状)を有する。上側凹部35は、上側六角部10の上面部12に当接される底面部36と、上側六角部10の前側斜面部13に当接される前側側面部37と、上側六角部10の後側斜面部14に当接される後側側面部38とを有する。底面部36と、前側側面部37および後側側面部38との接続部はアール状に形成される。
【0054】
ここで、上側ブラケット31は鍛造により作製されるので、上側ブラケット31には鍛造型から引き抜くための抜き勾配が形成される必要がある。一般的に抜き勾配は5~7°程度必要である。本実施形態の場合、この抜き勾配は、前側側面部37と後側側面部38の傾斜によって自動的に作られる。
【0055】
すなわち、上側六角部10の前側斜面部13は、基準上下軸C2の方向に対し角度θ3で傾斜されており、上側凹部35の前側側面部37も、基準上下軸C2の方向に対し同じ角度θ3で傾斜されている。これにより上側凹部35を上側六角部10に重ね合わせたとき、前側側面部37を前側斜面部13に隙間無く面接触させることができる。
【0056】
同様に、上側六角部10の後側斜面部14は、基準上下軸C2の方向に対し角度θ5(=θ3)で傾斜されており、上側凹部35の後側側面部38も、基準上下軸C2の方向に対し同じ角度θ5で傾斜されている。これにより後側側面部38を後側斜面部14に隙間無く面接触させることができる。
【0057】
前側側面部37により、前側斜面部13の傾斜角θ3に等しい前側の抜き勾配が形成される。また後側側面部38により、後側斜面部14の傾斜角θ5に等しい後側の抜き勾配が形成される。こうして上側凹部35は、上側六角部10の前側斜面部13および後側斜面部14の傾斜角θ3,θ5に等しい前後の抜き勾配を有することとなる。これら傾斜角θ3,θ5は一般的な抜き勾配(5~7°程度)に比べて十分に大きい。
【0058】
このように本実施形態によれば、前側側面部37および後側側面部38を、前側斜面部13および後側斜面部14と等しい傾斜角θ3,θ5にするだけで、自ずと必要な抜き勾配を形成することができる。そして重ね合わせたときに、前側側面部37および後側側面部38を前側斜面部13および後側斜面部14に面接触させることができるので、理想的な合致が得られ、高い溶接強度を確保することができる。
【0059】
図7に示すように、前側斜面部13と前側脚部34の下面部とが溶接部39においてすみ肉溶接される。図中符号B1で示すのは、溶接後にできる溶接ビードである。同様に、後側斜面部14と後側脚部34の下面部とが溶接部40においてすみ肉溶接される。図中符号B2で示すのは、溶接後にできる溶接ビードである。
【0060】
その他の箇所で、上側ブラケット31と上側六角部10を溶接してもよい。例えば、座面部33の左側面と右側面とを上側六角部10に溶接してもよい。
【0061】
下側ブラケット32については上側ブラケット31と上下対称なので、詳細な説明を省略する。下側ブラケット32の場合、下側六角部11に重ね合わされる下側凹部が形成され、下側凹部は、下側六角部11の前側斜面部16および後側斜面部17の傾斜角θ4,θ6(図5参照)に等しい前後の抜き勾配を有する。
【0062】
こうして上側ブラケット31および下側ブラケット32が取り付けられたアクスルケース構造1は、次のようにしてサスペンション装置52に取り付けられる。
【0063】
図1および図4に示すように、アクスルケース構造1は、前後一対のUボルト58でトレーリングアーム54に取り付けられる。このとき、アクスルケース構造1の上側ブラケット31が、下側アーム57の下面部に重ね合わされる。またスプリングシート59が、上側アーム56の上面部に重ね合わされる。
【0064】
前後のUボルト58は、下方が開放されたU字状の姿勢とされると共に、スプリングシート59、上側アーム56および下側アーム57を上方から跨いだ後、上側ブラケット31および下側ブラケット32の座面部33の四隅に設けられた挿通孔45(図4(B)参照)に上方から挿通される。そして前後のUボルト58の下端部にナット62が締め付けられる。これによりスプリングシート59、トレーリングアーム54およびアクスルケース構造1が一体的に固定される。
【0065】
下側ブラケット32の前端部に、ショックアブソーバ60の後端部を回動可能に支持する回動軸61が取り付けられる。
【0066】
次に、本実施形態の利点を説明する。
【0067】
図8は、従来例と本実施形態のアクスルケース本体を比較した表である。(A)は、中空矩形(具体的には正方形)の断面形状を有する従来のアクスルケース本体の場合である。(B)は、中空円形の断面形状を有する従来のアクスルケース本体の場合である。(C)は、六角形(具体的には正六角形)の断面形状を有する本実施形態のアクスルケース本体の場合である。それぞれ、許容軸重10,0000kgクラスのトレーラへの適用を意図している。
【0068】
それぞれ、断面高さhは等しく140mmであり、上下剛性(指数)も等しく100である。従来例(A)と(B)は、本実施形態(C)と同様に、アクスルケース本体が上下に分割されて溶接されている。
【0069】
板厚tに関しては、矩形断面(A)の場合10.0mmであるのに対し、円形断面(B)の場合19.0mmまで増加するが、六角形断面(C)の場合13.9mmまでしか増加せず、増加量は円形断面(B)より少ない。
【0070】
また断面積(指数)に関しては、矩形断面(A)の場合を100とすると、円形断面(B)の場合146まで増加するが、六角形断面(C)の場合122までしか増加せず、増加量は円形断面(B)より少ない。
【0071】
一方、一定のねじり荷重に対するせん断応力(指数)に関しては、矩形断面(A)の場合を100とすると、円形断面(B)の場合76まで低下するが、六角形断面(C)の場合88までしか低下せず、低下量は円形断面(B)より少ない。
【0072】
このように、矩形断面を基準として円形断面と六角形断面を比較すると、六角形断面は円形断面より板厚tの増加と断面積の増加とを抑制でき、重量の増加を抑制できる。一方、六角形断面は円形断面ほどではないが、矩形断面よりはせん断応力を低下でき、矩形断面よりねじり剛性を高めることができる。
【0073】
一軸あたりの製品重量を比較すると、矩形断面から円形断面に変更すると重量増は25kgに達するのに対し、矩形断面から六角形断面に変更すると重量増は12kgに止まる。
【0074】
よって本実施形態のアクスルケース構造1によれば、重量増を抑制しつつねじり剛性を高めることができる。
【0075】
特に、本実施形態のトレーラでは、左右のトレーリングアーム54がシャシ(サイドメンバ51)に対し上下方向に回動可能に取り付けられ、左右のエアスプリング55がシャシと左右のトレーリングアーム54の間にそれぞれ設けられる。そして、アクスルケース構造1が左右のトレーリングアーム54に取り付けられる。
【0076】
この場合、車両のコーナリング時等に、左右のエアスプリング55の長さの差が比較的大きくなるため、一般的なリーフスプリング式サスペンション装置の場合に比べ、アクスルケース構造1に付加されるねじり荷重が高くなる。この場合に、アクスルケースの断面形状を矩形から円形に変更すると、重量が大きく増加してしまう。しかし、本実施形態のアクスルケース構造1を採用すれば、こうした重量増を抑制しつつ、ねじり剛性を高めることができる。
【0077】
なお、本実施形態のような、左右のトレーリングアーム54の一端側にのみエアスプリング55があるエアサスペンション形式を2バッグ式という。これに対し、左右のトレーリングアームに代わる両端側にエアスプリングがある形式を4バッグ式という。4バッグ式だとアクスルケース構造へのねじり荷重は2バッグ式ほど強くない。言い換えると本実施形態のアクスルケース構造1は、4バッグ式よりねじり荷重が強い2バッグ式にとって好適である。
【0078】
また、本実施形態には次の利点もある。
【0079】
図9には、従来例の矩形断面のアクスルケース本体がねじり荷重を受けたときの様子を示す。このとき、アクスルケース本体には、仮想線aで示すように、各辺部分が半径方向内側に向かって湾曲するようなワーピング(反り、歪み)が発生する。すると、前後の溶接部101において、半径方向内側のルート面部を上下に引き裂くような引張り応力bが働き、溶接部101のルート面部に亀裂が発生する可能性がある。
【0080】
一方、図10には、本実施形態のアクスルケース本体2の六角部7がねじり荷重を受けたときの様子を示す。このとき、アクスルケース本体2には、仮想線fで示すように、各辺部分が半径方向内側に向かって湾曲するようなワーピングが発生する。すると、前後の溶接部6F,6Rの半径方向内側のルート面部21において、上下のルート面22,23(図6参照)同士を互いに押しつけ合うような圧縮応力dが働く。そのため、溶接部6F,6Rのルート面部21に亀裂が発生するのを抑制することができる。
【0081】
他方、半径方向外側の開先部20では、これを上下に引き裂くような引張り応力eが働く。しかし斜面部13,14,16,17が基準上下軸C2の方向に対し傾斜しているので、図6に示すように、溶接ビードBの止端部角度α1が矩形断面の場合より大きくなる。よって引張り応力eによる亀裂発生を抑制することができる。なお止端部角度α1とは、溶接ビードBの止端部(最も端の部分)とそれに隣接する部材表面とのなす角度である。
【0082】
また、本実施形態には次の利点もある。
【0083】
図11には、従来例の矩形断面のアクスルケース本体にサスペンション取付用ブラケット(具体的には上側ブラケット)102を取り付けたときの様子を示す。この場合、ブラケット102の凹部103には、一般的な5~7°程度の抜き勾配θ7が設けられる。
【0084】
しかし、前面部104および後面部105は基準上下軸C2の方向に対し傾斜していないので、ブラケット102と前面部104および後面部105との間には、凹部103の下端の高さ位置で最大となる隙間106,107ができてしまう。そしてこの隙間106,107を跨ぐようにして、ブリッジ状の溶接ビード108,109ができる。そのため、溶接強度が低下する虞がある。
【0085】
この問題の解決策として、例えば、溶接ビード108,109のサイズを大きくし、その脚長aと、のど厚bを大きくする第1の方法が考えられる。あるいは、自動溶接工程での本溶接の前に、手動溶接による隙間埋め工程を追加する第2の方法が考えられる。しかし、いずれの方法も、コストと重量の増大につながる。
【0086】
一方、図7に示すように、本実施形態の場合(図示例は上側の場合)だと、上側ブラケット31の上側凹部35には、上側六角部10の前側斜面部13および後側斜面部14の傾斜角θ3,θ5に等しい抜き勾配が形成される。よって、上側ブラケット31と前側斜面部13および後側斜面部14との間に隙間ができることと、溶接ビードBがブリッジ状となることとを抑制もしくは防止し、安定した健全な溶接ビードBを形成できる。そして十分な溶接強度を確保することができる。
【0087】
なお、上側ブラケット31と前側斜面部13および後側斜面部14との間に、重ね合わせに好ましくかつ溶接強度に影響しないような最小限の隙間を設けてもよい。この場合も、前側側面部37と前側斜面部13の傾斜角は等しいのが好ましく、後側側面部38と後側斜面部14の傾斜角は等しいのが好ましい。
【0088】
ところで、上側凹部35は、所定の下限値(例えば5°)以上の抜き勾配を有していなければならない。この点に鑑みると、前側斜面部13および後側斜面部14の傾斜角θ3,θ5は、所定の下限値以上であるのが好ましい。
【0089】
[変形例]
次に、本開示の変形例を説明する。なお前記基本実施形態と同様の部分には図中同一符号を付して説明を割愛し、以下、基本実施形態との相違点を主に説明する。
【0090】
図12は、変形例に係るアクスルケース構造1の後面図である。このアクスルケース構造1は、車輪に駆動力を伝達するドライブアクスルを形成し、特に、ディファレンシャル装置と左右のドライブシャフトとを内部に収容する。アクスルケース構造1は、周知のバンジョウ形アクスルケースとして形成されている。
【0091】
アクスルケース構造1は、車両の車幅方向(左右方向)に延びるアクスルケース本体2と、アクスルケース本体2の軸方向両端に接続された左右のスピンドル3とを備える。アクスルケース本体2は、上下に二分割され、上側の分割片である上側本体4と、下側の分割片である下側本体5とを有する。これら上側本体4と下側本体5は互いに突き合わされ、前側溶接部6Fと後側溶接部6R(図5参照)において固着される。
【0092】
アクスルケース本体2は、軸方向両端に位置する左右の円筒部8と、円筒部8の軸方向中心側に隣接して位置された左右の遷移部9と、遷移部9の軸方向中心側に隣接して位置された左右の六角部7と、六角部7の軸方向中心側に隣接して位置されたギアケース部41とを一体に有する。ギアケース部41は、アクスルケース本体2の軸方向中央部に設けられている。こうしたアクスルケース本体2の全体が上側本体4と下側本体5に分割され、互いに突き合わせ溶接されている。
【0093】
ギアケース部41は、減速・差動装置と、ドライブシャフトの一部とを収容する部分である。ギアケース部41は、前後方向に延びる中心軸C3を有し前後が開放されたリング部42と、リング部42から左右に延びる管部43とを一体に通する。リング部42の前後の開口部は図示しない蓋板で閉止される。六角部7に接続する管部43の軸方向外側の端部は、六角部7と等しい六角形の断面形状を有する。
【0094】
アクスルケース本体2の全体が上下に分割されるので、ギアケース部41も上下に分割される。なお、ギアケース部41を別体で作製して六角部7に溶接等で接続してもよい。
【0095】
六角部7は、ギアケース部41の軸方向端部側すなわち左右側に隣接して位置される。この六角部7には、前記同様、サスペンション装置52に取り付けられるための上側ブラケット31および下側ブラケット32が溶接にて取り付けられる。
【0096】
本変形例の作用効果は前記基本実施形態と同様である。本変形例のアクスルケース構造1においても、重量増を抑制しつつ、ねじり剛性を高めることができる。
【0097】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は他にも様々考えられる。
【0098】
(1)例えば、六角部7の断面形状は、正六角形でなくてもよく、前後非対称および/または上下非対称であってもよい。
【0099】
(2)六角部7の各斜面部13,14,16,17の基準上下軸C2方向に対する傾斜角(θ3~θ6等)は、一部または全部が等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0100】
(3)サスペンション取付用ブラケット31,32は必須ではなく、一方または両方を省略することも可能である。例えば、両方を省略し、六角部をトレーリングアームにスペーサを挟んでUボルトで取り付けてもよい。
【0101】
(4)ブラケット31,32は鍛造品に限らず、例えば鋳造品であってもよい。あるいはプレス成形品であってもよい。
【0102】
(5)車両は、トレーラに限定されず、任意の種類の車両であってよい。例えばトラックのリアアクスルにも本開示のアクスルケース構造を採用できる。またサスペンション装置の形式も任意である。
【0103】
前述の各実施形態および各変形例の構成は、特に矛盾が無い限り、部分的にまたは全体的に組み合わせることが可能である。本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 アクスルケース構造
2 アクスルケース本体
3 スピンドル
6,6F,6R 溶接部
7 六角部
10 上側六角部
11 下側六角部
19 突き合わせ部
20 開先部
21 ルート面部
31 上側ブラケット
32 下側ブラケット
35 上側凹部
51 サイドメンバ
54 トレーリングアーム
55 エアスプリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12