(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017576
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】放射線量計測方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/16 20060101AFI20250130BHJP
G08C 17/02 20060101ALI20250130BHJP
G01D 9/00 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
G01T1/16 A
G08C17/02
G01D9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120705
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】吉村 隼人
(72)【発明者】
【氏名】亀井 良至
(72)【発明者】
【氏名】三室 恵史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋太
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 諒介
(72)【発明者】
【氏名】柴野 一磨
【テーマコード(参考)】
2F070
2F073
2G188
【Fターム(参考)】
2F070AA01
2F070CC03
2F070CC11
2F070DD12
2F070DD20
2F070GG06
2F070GG07
2F070HH07
2F070HH08
2F073AA02
2F073AA16
2F073AA19
2F073AA29
2F073AA31
2F073AA40
2F073AB01
2F073AB04
2F073BB01
2F073BC02
2F073CC03
2F073CC07
2F073CC12
2F073CD11
2F073DD01
2F073DE02
2F073DE13
2F073EE01
2F073EF09
2F073FF01
2F073FG01
2F073FG02
2F073FG11
2F073GG01
2F073GG05
2F073GG08
2G188AA08
2G188BB18
2G188DD06
2G188DD22
2G188EE07
(57)【要約】
【課題】計測作業者の放射線被曝を抑えながら、計測対象領域内における表面線量や空間線量の再現性が高い計測値が得られる放射線量計測方法を提供する。
【解決手段】放射線量計測方法は、放射線センサー3aを搭載したロボット1が計測対象領域A内を移動するとともに放射線センサー3aの地面Gからの高さを調整して当該計測対象領域A内の計測点Pにおける放射線量が放射線センサー3aで計測される線量計測工程と、放射線量工程の放射線量の計測時における、放射線センサー3aの地面からの高さに関する情報を含めた放射線センサー3aの三次元的な位置に関するセンサー位置情報が取得されるセンサー位置情報取得工程と、線量計測工程で得られる放射線量の計測値に関する情報が、センサー位置情報取得工程で得られるセンサー位置情報に関連づけられて記録される計測値記録工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線センサーを搭載した無人移動ロボットが計測対象領域内を移動するとともに前記放射線センサーの地面からの高さを調整して当該計測対象領域内の所定の計測点における放射線量が前記放射線センサーで計測される線量計測工程と、
前記線量計測工程の前記放射線量の計測時における、前記放射線センサーの地面からの高さに関する情報を含めた前記放射線センサーの三次元的な位置に関するセンサー位置情報が取得されるセンサー位置情報取得工程と、
前記線量計測工程で得られる前記放射線量の計測値に関する情報が、前記センサー位置情報取得工程で得られる前記センサー位置情報に関連づけられて記録される計測値記録工程と、
を備える、放射線量計測方法。
【請求項2】
前記線量計測工程、前記センサー位置情報取得工程、及び前記計測値記録工程が前記計測対象領域内の複数の前記計測点で実行され、蓄積された前記計測点ごとの前記放射線量の計測値に関する情報に基づいて、前記計測対象領域内における放射線量の分布が得られる、請求項1に記載の放射線量計測方法。
【請求項3】
前記無人移動ロボットは、前記放射線量とは別の環境情報を計測する環境センサーを搭載しており、
前記無人移動ロボットが前記計測対象領域を移動している間に前記環境センサーによって前記環境情報が計測される環境情報計測工程を更に備える、請求項1に記載の放射線量計測方法。
【請求項4】
前記環境情報は、温度、湿度、酸素濃度、一酸化炭素濃度、及び粉塵濃度のうちの少なくとも一つを含む、請求項3に記載の放射線量計測方法。
【請求項5】
前記無人移動ロボットは、
前記計測対象領域内を移動する移動本体部と、
前記移動本体部に設けられ前記放射線センサーが設置された可動アームと、を有し、
前記線量計測工程では、
前記無人移動ロボットが、前記移動本体部の駆動により前記計測点近傍に移動し、前記可動アームの駆動により前記放射線センサーの高さ方向の位置を調整して前記放射線センサーを前記計測点で保持する、請求項1に記載の放射線量計測方法。
【請求項6】
前記移動本体部は、前記可動アームが取付けられた胴部と、前記胴部から延びる複数の脚部と、を備え、複数の前記脚部を前記地面に着けて歩行可能であり、
前記センサー位置情報取得工程では、
前記胴部、前記脚部、及び前記可動アームに含まれる各関節の各回転角度に基づいて、前記センサー位置情報のうち、前記放射線センサーの地面からの高さに関する情報が取得される、請求項5に記載の放射線量計測方法。
【請求項7】
前記センサー位置情報取得工程では、
前記無人移動ロボットに搭載されたGPS装置により、前記センサー位置情報のうち、前記放射線センサーの平面位置の情報が取得される、請求項6に記載の放射線量計測方法。
【請求項8】
前記可動アームには、
前記放射線センサーと、当該放射線センサーによる放射線量の計測値を表示する計測値表示部と、を有する放射線量計測器と、
前記計測値表示部を撮像するカメラと、が設けられており、
前記計測値記録工程では、前記カメラから得られる撮像情報が前記放射線量の計測値に関する情報として記録される、請求項5に記載の放射線量計測方法。
【請求項9】
前記無人移動ロボットは遠隔操作又は遠隔誘導により動作可能であり、
前記無人移動ロボットが、遠隔操作又は遠隔誘導用の電波を中継又は発信する電波機器を移動途中の地点に設置する電波機器設置工程を更に備える、請求項1に記載の放射線量計測方法。
【請求項10】
前記放射線センサーで計測される放射線量が所定の閾値を超えた場合に、前記無人移動ロボットが現在地点に所定のマーカーを構築するマーキング工程を更に備える、請求項1に記載の放射線量計測方法。
【請求項11】
放射線センサーを搭載した無人移動ロボットを用いて計測対象領域内の所定の計測点における放射線量が計測される放射線量計測方法であって、
前記無人移動ロボットは、
胴部と前記胴部から延びる複数の脚部とを有する移動本体部と、前記胴部に設けられ前記放射線センサーが設置された可動アームと、を有しており、
前記無人移動ロボットが、自機に搭載したGPS装置の測位情報で自機の現在位置を認識しながら複数の前記脚部を地面に着けて歩行して所定の平面位置に到達し、
前記無人移動ロボットが、前記可動アームを駆動して前記放射線センサーの前記地面からの高さを調整することで前記放射線センサーを前記計測点の位置に保持し、
前記放射線センサーにより前記放射線量が計測される、放射線量計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線量が高い現場で工事を行う際には、事前の作業計画のために当該現場の放射線量の状態を把握する必要がある。例えば、現場では所定の計測対象領域内の複数の場所において、地面の直近で計測される表面線量と、地面から所定の高さ位置で計測される空間線量と、が計測される。この計測作業では、例えば、計測作業者が可搬式放射線量計測器を持って計測対象領域に立ち入って各場所での計測を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記の方法では、計測作業者がある程度の放射線被曝をすることになる。また、表面線量や空間線量を計測するために、計測作業者は手に持った計測器を地面から規定の高さ位置に掲げるなどの操作をするが、放射線被曝低減のためには上記のような計測器の高さ位置の調整の操作に多くの時間をかけることができない。従って、計測時における計測器の高さ位置調整は目測等で行う場合も多く、その結果、計測値は必ずしも再現性が高いものであるとは言えない。なお、計測作業者の被曝低減を図るための技術として、上記特許文献1には、移動式線量計測装置が開示されている。しかしながら、この移動式線量計測装置は、放射線源を撮像することで当該放射線源から発する放射線量の計測を行うものであり、地面から所定の高さ位置の空間線量を計測するといったことは困難である。
【0005】
そこで、本発明は、計測作業者の放射線被曝を抑えながら、計測対象領域内における表面線量や空間線量の再現性が高い計測値が得られる放射線量計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下の〔1〕~〔11〕に存する。
【0007】
〔1〕放射線センサーを搭載した無人移動ロボットが計測対象領域内を移動するとともに前記放射線センサーの地面からの高さを調整して当該計測対象領域内の所定の計測点における放射線量が前記放射線センサーで計測される線量計測工程と、前記線量計測工程の前記放射線量の計測時における、前記放射線センサーの地面からの高さに関する情報を含めた前記放射線センサーの三次元的な位置に関するセンサー位置情報が取得されるセンサー位置情報取得工程と、前記線量計測工程で得られる前記放射線量の計測値に関する情報が、前記センサー位置情報取得工程で得られる前記センサー位置情報に関連づけられて記録される計測値記録工程と、を備える、放射線量計測方法。
【0008】
〔2〕前記線量計測工程、前記センサー位置情報取得工程、及び前記計測値記録工程が前記計測対象領域内の複数の前記計測点で実行され、蓄積された前記計測点ごとの前記放射線量の計測値に関する情報に基づいて、前記計測対象領域内における放射線量の分布が得られる、〔1〕に記載の放射線量計測方法。
【0009】
〔3〕前記無人移動ロボットは、前記放射線量とは別の環境情報を計測する環境センサーを搭載しており、前記無人移動ロボットが前記計測対象領域を移動している間に前記環境センサーによって前記環境情報が計測される環境情報計測工程を更に備える、〔1〕又は〔2〕に記載の放射線量計測方法。
【0010】
〔4〕前記環境情報は、温度、湿度、酸素濃度、一酸化炭素濃度、及び粉塵濃度のうちの少なくとも一つを含む、〔3〕に記載の放射線量計測方法。
【0011】
〔5〕前記無人移動ロボットは、前記計測対象領域内を移動する移動本体部と、前記移動本体部に設けられ前記放射線センサーが設置された可動アームと、を有し、前記線量計測工程では、前記無人移動ロボットが、前記移動本体部の駆動により前記計測点近傍に移動し、前記可動アームの駆動により前記放射線センサーの高さ方向の位置を調整して前記放射線センサーを前記計測点で保持する、〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の放射線量計測方法。
【0012】
〔6〕前記移動本体部は、前記可動アームが取付けられた胴部と、前記胴部から延びる複数の脚部と、を備え、複数の前記脚部を前記地面に着けて歩行可能であり、前記センサー位置情報取得工程では、前記胴部、前記脚部、及び前記可動アームに含まれる各関節の各回転角度に基づいて、前記センサー位置情報のうち、前記放射線センサーの地面からの高さに関する情報が取得される、〔5〕に記載の放射線量計測方法。
【0013】
〔7〕前記センサー位置情報取得工程では、前記無人移動ロボットに搭載されたGPS装置により、前記センサー位置情報のうち、前記放射線センサーの平面位置の情報が取得される、〔5〕又は〔6〕に記載の放射線量計測方法。
【0014】
〔8〕前記可動アームには、前記放射線センサーと、当該放射線センサーによる放射線量の計測値を表示する計測値表示部と、を有する放射線量計測器と、前記計測値表示部を撮像するカメラと、が設けられており、前記計測値記録工程では、前記カメラから得られる撮像情報が前記放射線量の計測値に関する情報として記録される、〔5〕~〔7〕の何れか1項に記載の放射線量計測方法。
【0015】
〔9〕前記無人移動ロボットは遠隔操作又は遠隔誘導により動作可能であり、前記無人移動ロボットが、遠隔操作又は遠隔誘導用の電波を中継又は発信する電波機器を移動途中の地点に設置する電波機器設置工程を更に備える、〔1〕~〔8〕の何れか1項に記載の放射線量計測方法。
【0016】
〔10〕前記放射線センサーで計測される放射線量が所定の閾値を超えた場合に、前記無人移動ロボットが現在地点に所定のマーカーを構築するマーキング工程を更に備える、〔1〕~〔9〕の何れか1項に記載の放射線量計測方法。
【0017】
〔11〕放射線センサーを搭載した無人移動ロボットを用いて計測対象領域内の所定の計測点における放射線量が計測される放射線量計測方法であって、前記無人移動ロボットは、胴部と前記胴部から延びる複数の脚部とを有する移動本体部と、前記胴部に設けられ前記放射線センサーが設置された可動アームと、を有しており、前記無人移動ロボットが、自機に搭載したGPS装置の測位情報で自機の現在位置を認識しながら複数の前記脚部を地面に着けて歩行して所定の平面位置に到達し、前記無人移動ロボットが、前記可動アームを駆動して前記放射線センサーの前記地面からの高さを調整することで前記放射線センサーを前記計測点の位置に保持し、前記放射線センサーにより前記放射線量が計測される、放射線量計測方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、計測作業者の放射線被曝を抑えながら、計測対象領域内における表面線量や空間線量の再現性が高い計測値が得られる放射線量計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の放射線量計測方法が実行される計測対象領域を示す図である。
【
図2】実施形態の放射線量計測方法で使用されるロボット及びユーザー端末を示す図である。
【
図3】実施形態の放射線量計測方法のフローチャートである。
【
図4】(a)は、マーキング工程におけるロボットを示す図であり、(b)は、電波機器設置工程におけるロボットを示す図である。
【
図5】(a)は、放射線量計測方法の変形例におけるロボットを示す図であり、(b)は、放射線量計測方法の他の変形例におけるロボットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る放射線量計測方法について詳細に説明する。
図1に示されるように、本実施形態の放射線量計測方法は、放射線量が高い工事現場の所定の計測対象領域A内において、当該計測対象領域A内に予め設定された複数の計測点Pで放射線量を計測するものである。このような放射線量計測は、例えば、1日1回ずつ、計測対象領域A内での工事の前に実行される。
【0021】
ここでは、地面Gの直近の計測点Pで計測される表面線量と、地面Gから所定の高さの位置の計測点Pで計測される空間線量と、が得られる。本実施形態では、計測点Pとして、上記表面線量の計測点である「計測点P1」と、上記空間線量の計測点である「計測点P2」及び「計測点P3」と、の3種類の点が設定される。表面線量の計測点P1は地面Gから50mmの高さの位置に設定され、空間線量の計測点P2は地面Gから500mmの高さの位置に設定され、空間線量の計測点P3は地面Gから1200mmの高さの位置に設定される。計測対象領域A内に設定された多数の計測点Pにおいて放射線量が計測され、これらの計測値が集計されることで、計測対象領域A内における放射線量の分布が得られる。
【0022】
本実施形態の放射線量計測方法では、四足歩行ロボット1(無人移動ロボット)に放射線量計測器3が搭載され、このロボット1が計測対象領域A内を移動する。ロボット1は、無線による遠隔操作又は遠隔誘導で動作し、計測対象領域A内を歩行するとともに、搭載した放射線量計測器3を空間内の所望の高さ位置で保持するといった動作が可能である。ユーザー端末2を携えた計測作業者Jは、当該ユーザー端末2を通じてロボット1を遠隔操作又は遠隔誘導することにより上記のような動作を実行させることができる。このようなロボット1としては、例えば、Boston Dynamics社製の「SPOT」といったような市販の四足歩行ロボットが採用されてもよい。
【0023】
ユーザー端末2を操作する計測作業者Jは、遠隔操作又は遠隔誘導用の電波が有効に届く範囲内で(例えば30m程度)ロボット1から離れ、計測対象領域A外からロボット1を目視で確認しながら遠隔操作又は遠隔誘導を行うことができる。また、計測作業者Jは、ロボット1が備えるカメラからユーザー端末2に送られる映像でロボット1の周囲を確認しながら遠隔操作又は遠隔誘導を行うこともできる。また、計測対象領域Aを俯瞰する俯瞰カメラ4からユーザー端末2に送られる映像でロボット1の周囲を確認しながら遠隔操作又は遠隔誘導を行うこともできる。このような俯瞰カメラ4は、計測対象領域A内又は計測対象領域Aの周辺領域に設置されてもよく、計測対象領域Aの上空を飛行するドローン8に搭載されてもよい。俯瞰カメラ4がドローン8に搭載される方式は、計測対象領域A内又は計測対象領域Aの周辺領域に事前に俯瞰カメラ4を設置する工事が不要であるので、この工事による人の被曝を回避できる点で好ましい。
【0024】
上記のように無人移動ロボットが使用されることで、計測作業者Jが計測対象領域Aに立ち入る機会がほぼ無くなり、計測作業者Jの放射線被曝が低減される。また、計測対象領域A内に段差や障害物等が存在する場合には、車輪やクローラー等で走行するロボットでは移動困難な状況があり得るところ、歩行可能なロボット1によれば、段差等が存在する場合であっても計測対象領域A内を移動し易い。
【0025】
図2を参照しながら、本実施形態の放射線量計測方法で使用されるロボット1及びユーザー端末2の構成について説明する。
【0026】
ユーザー端末2は、前述の通りロボット1の遠隔操作又は遠隔誘導用のコントローラーとして機能するとともに、ロボット1により収集された情報に基づき情報処理を行う演算装置としても機能する。ユーザー端末2は、演算を行うCPU等の演算部2aと、情報を記憶するSDD等の記憶部2bと、情報を画面表示するディスプレイ等の表示部2cと、計測作業者Jの入力操作を受け付けるキーボードやタッチパネル等の入力部2dと、ロボット1との無線通信を行う通信部2eと、を有する。ユーザー端末2としては、例えば、計測作業者Jが持ち運び容易なラップトップ型コンピューターやタブレット型コンピューターが採用される。入力部2dは、ロボット1の遠隔操作又は遠隔誘導を容易にするために物理的な操作ボタンや物理的な操作レバーを備えたコントローラーデバイス等を備えてもよい。
【0027】
ロボット1は、計測対象領域A内を歩行する移動本体部5と、移動本体部5に設けられた可動アーム7と、当該ロボット1の動作を統合的に制御する制御装置40と、を備えている。移動本体部5及び可動アーム7は、それぞれ多数の各種の関節6を有する多関節ロボットであり、各関節6を駆動するためのモーター(図示せず)が制御装置40による制御下で駆動されることで動作する。制御装置40は例えばコンピューターであり、移動本体部5の胴部11に内蔵されている。
【0028】
移動本体部5は、上記の胴部11と、胴部11の4隅近傍の位置からそれぞれ下方に延びる4本の脚部13と、を備えている。胴部11は前後方向に延びる略直方体状をなし、胴部11の上面は計測器、ツール、資材等を設置するための荷台12として機能する。各脚部13は、脚上部13aと脚下部13bとを有している。脚上部13aは、胴部11に対し可動な状態で関節6を介して連結されており、脚下部13bは、脚上部13aに対し可動な状態で関節6を介して連結されている。移動本体部5は、各脚部13の下端(各脚下部13bの下端)を地面Gに着け、制御装置40の制御下で、脚部13を所定の規則で動作させることで地面G上を歩行する。地面Gと接する脚下部13bの下端には、例えばゴム製の滑り止めが取付けられている。
【0029】
可動アーム7は、例えば垂直多関節ロボットアームであり、胴部11の前部上面に設けられている。可動アーム7はクリッパー23をエンドエフェクターとして備えている。クリッパー23は、可動爪部23aを有しており当該可動爪部23aによって対象物を把持したり解放したりすることができる。可動アーム7は、制御装置40による制御下で動作し、胴部11に対する相対的なクリッパー23の位置を三次元的に調整することができ、所望の三次元位置に存在する対象物を把持したり解放したりする動作が可能である。放射線量計測器3はクリッパー23に取付けられており、よって、可動アーム7によれば、胴部11に対する相対的な放射線量計測器3の位置を三次元的に調整することができる。
【0030】
移動本体部5及び可動アーム7の動作を制御するために、移動本体部5及び可動アーム7のすべての関節6には当該関節6の回転角度をリアルタイムで計測する角度センサー29が設けられている。角度センサー29は関節6の回転角度を検知し電気信号として回転角度情報を制御装置40に送信する。このような回転角度情報が、制御装置40による各関節6のモーターのフィードバック制御に用いられる。
【0031】
胴部11の前面、後面、右側面、左側面には、それぞれ、ボディカメラ31が設けられている。また、可動アーム7のクリッパー23にも当該クリッパー23の前方を撮像するためのアームカメラ33が内蔵されている。アームカメラ33はクリッパー23の可動爪部23aよりも後方に位置し、当該可動爪部23aの隙間から前方を撮像する。カメラ31,33はステレオカメラであってもよい。これらのカメラ31,33によりロボット1の周囲が撮像され、撮像データがリアルタイムで制御装置40に送信される。この撮像データが更に制御装置40の通信機能によりユーザー端末2に送信される。そして、上記撮像データは、ユーザー端末2の表示部2cに画面表示され、前述のように計測作業者Jによるロボット1の遠隔操作又は遠隔誘導に利用される。なお、同様にロボット1の遠隔操作又は遠隔誘導に利用される俯瞰カメラ4(
図1)からの撮像データも、ユーザー端末2の表示部2cに画面表示される。
【0032】
また、ロボット1は、放射線量計測器3に加えて、放射線量とは別の環境情報を計測する環境センサー35を搭載している。環境センサー35は、例えば、胴部11の荷台12に配置されている。環境センサー35は、例えば、温度を計測する温度センサー、湿度を計測する湿度センサー、酸素濃度を計測する酸素濃度センサー、一酸化炭素濃度を計測する一酸化炭素濃度センサー、及び粉塵濃度を計測する粉塵濃度センサーを有している。なお、環境センサー35が上記のような種類のセンサーをすべて有することは必須ではない。すなわち、環境センサー35は、上記の種類のセンサーのうちの少なくとも1つを有するものであってもよく、上記の種類のセンサーのうちの何れか複数を組み合わせて有するものであってもよい。環境センサー35による各環境情報の計測値は制御装置40に送信され、更に制御装置40の通信機能によってユーザー端末2に送信される。
【0033】
また、ロボット1はGPS装置37を搭載している。GPS装置37は、例えば、胴部11の荷台12に配置されている。GPS装置37で得られる測位情報は、制御装置40に送信され、制御装置40は当該測位情報に基づいてロボット1の現在位置を認識する。また、ロボット1は積算線量計39を搭載している。積算線量計39は、例えば、胴部11の側面に配置されている。
【0034】
上述したような移動本体部5の歩行動作、可動アーム7の動作、カメラ31,33による撮像、環境センサー35による環境情報計測、GPS装置37による測位、ユーザー端末2との無線通信、といったようなロボット1の一連の動作は、すべて、制御装置40の制御下で行われる。
【0035】
可動アーム7のクリッパー23に対して放射線量計測器3を取付ける取付構造について説明する。クリッパー23には、当該クリッパー23から前方に向けて延在する治具47が取付けられている。治具47の基端部がクリッパー23に固定され、治具47の先端部に設けられた保持部に放射線量計測器3が嵌め込まれて固定されている。放射線量計測器3は可動爪部23aよりも更に前方に配置される。このような治具47は、例えば樹脂製であり、3Dプリンタで製作されたものであってもよい。なお、このような治具47及び放射線量計測器3が設置されることにより、クリッパー23による対象物の把持/解放の機能が使用不能になってもよい。
【0036】
放射線量計測器3は、比較的小型の可搬式放射線量計測器であり、筐体内に内蔵された放射線センサー3aと、当該放射線センサー3aで検出される放射線に基づいて計測された放射線量を表示する計測値表示部3bと、を備えている。計測値表示部3bは、例えば、放射線量の計測値の数値を画面表示するディスプレイ装置である。この計測値表示部3bが、前述のアームカメラ33の画角内に含まれるように、治具47の形状及び寸法が調整されている。従って、アームカメラ33の画面内の一部に計測値表示部3bが常時撮像され、すなわち、放射線量計測器3による放射線量の計測値が常時撮像される。
【0037】
続いて、
図1~
図3を参照しながら、上述のようなロボット1を用いて実行される放射線量計測方法について説明する。
図3は、本実施形態の放射線量計測方法のフローチャートである。本実施形態の放射線量計測方法は、次に説明する線量計測工程S101と、センサー位置情報取得工程S103と、計測値記録工程S105と、線量分布作成工程S107と、を備えている。
【0038】
(線量計測工程S101)
線量計測工程S101では、
図1に示されるように、計測作業者Jの遠隔操作又は遠隔誘導により、ロボット1が移動本体部5の駆動により計測対象領域A内を移動し、所定の計測点Pの近傍に到達する。そして、ロボット1の可動アーム7の駆動によりクリッパー23に固定された放射線量計測器3の高さ位置が調整され、計測点Pの位置で放射線量計測器3が保持される。ここでは、例えば、計測点P1で表面線量を計測する場合であれば可動アーム7の先端を胴部11の斜め前下方に下げるようにして、地面Gから50mmの高さに放射線量計測器3が降ろされる。また、例えば、計測点P3で空間線量を計測する場合であれば可動アーム7の先端を胴部11の斜め前上方に上げるようにして、地面Gから1200mmの高さに放射線量計測器3が持ち上げられる。
【0039】
そして、計測点Pに保持された状態の放射線量計測器3の放射線センサー3aによって、当該計測点Pにおける放射線が検出され、計測値表示部3bには放射線量の計測値が表示される。このとき、上記計測値を表示した計測値表示部3bを含む撮像データ(以下では「計測値撮像データ」という)がアームカメラ33により取得され、制御装置40からユーザー端末2に無線送信される。計測値撮像データは、静止画像データであってもよい。
【0040】
(センサー位置情報取得工程S103)
センサー位置情報取得工程S103では、上記の線量計測工程の放射線量計測時における放射線センサー3aの三次元的な位置情報が取得される。具体的には、上記の計測値撮像データが取得された時に、制御装置40は、放射線センサー3aの平面位置を、GPS装置37から得られる測位情報に基づいて認識する。
【0041】
また、前述の通り、制御装置40は、移動本体部5及び可動アーム7の動作制御のための情報として、移動本体部5及び可動アーム7のすべての関節6の各角度センサー29から回転角度情報を受信し、この回転角度情報に基づいてすべての関節6の回転角度を認識している。ここで、ロボット1を計測対象領域A内の所定の場所に配置した場合においては、移動本体部5及び可動アーム7に含まれるすべての関節6の回転角度が既知であれば、放射線センサー3aの地面Gからの高さは一意に定められる。従って、制御装置40は、移動本体部5及び可動アーム7のすべての関節6の回転角度情報に基づいて、所定の演算により、放射線センサー3aの地面Gからの高さを認識する。
【0042】
なお、前述したGPS装置37による測位情報は、GPS装置37自体の平面位置を示すものであり、放射線センサー3aの平面位置との間に相違がある。従って、当該測位情報から得られる平面位置が、移動本体部5及び可動アーム7のすべて又は一部の関節6の回転角度情報に基づいて、所定の演算により補正されてもよい。
【0043】
上記のように、センサー位置情報取得工程における制御装置40は、GPS装置37の測位情報に基づいて放射線センサー3aの平面位置を認識し、移動本体部5及び可動アーム7のすべての関節6の回転角度情報に基づいて放射線センサー3aの地面Gからの高さを認識する。すなわち、制御装置40は、放射線センサー3aの三次元的な位置情報を得る。制御装置40は、上記のように得られた放射線センサー3aの三次元的な位置情報(以下では「センサー位置情報」という)をユーザー端末2に送信する。
【0044】
(計測値記録工程S105)
上述のように、ユーザー端末2には、計測点Pでの計測値撮像データと、この計測値撮像データが取得されたときの放射線センサー3aの三次元位置情報(センサー位置情報)と、が送信される。そして、この計測値記録工程S105では、上記計測値撮像データと、上記センサー位置情報と、が関連付けられて当該ユーザー端末2の記憶部2bに記憶される。なお、センサー位置情報における放射線センサー3aの地面Gからの高さに関する情報として、制御装置40からユーザー端末2に対し、移動本体部5及び可動アーム7のすべての関節6の回転角度情報が送信され、この回転角度情報が記憶部2bに記憶されてもよい。
【0045】
(繰返し)
ロボット1が、計測対象領域A内の各計測点Pに順次移動しながら、上記の線量計測工程S101、センサー位置情報取得工程S103、及び計測値記録工程S105が繰り返される(
図3のS106)。そして、計測対象領域Aのすべての計測点Pについて上記工程が完了したときには、ユーザー端末2の記憶部2bには、すべての計測点Pについて、計測点Pごとの計測値撮像データ(放射線量の計測値に関する情報)が、センサー位置情報と関連付けられて蓄積されている。
【0046】
(線量分布作成工程S107)
その後、線量分布作成工程S107では、ユーザー端末2の演算部2aは、記憶部2bに記憶された多数の計測点Pごとの放射線量計測値に関する情報に基づいて、計測対象領域A内における放射線量の分布を認識する。ここで、記憶部2bに記憶された放射線量計測値に関する情報は、画像情報である計測値撮像データであるので、当該計測値撮像データの画像認識処理が演算部2aで実行され、計測値表示部3b上の計測値の画像が放射線量計測値を示す数値データに変換されて認識される。なお、計測値撮像データを数値データに変換する処理は、計測作業者J等により手動で実行されてもよい。また、計測値撮像データを数値データに変換する処理は、記憶部2bに記憶される前に実行されてもよい。この場合、計測点Pにおける放射線量計測値が、数値データとして、当該計測点Pの三次元位置情報と関連づけられて記憶部2bに記憶される。
【0047】
線量分布作成工程S107では、計測対象領域A内の多数の計測点P1の三次元位置座標と放射線量計測値とに基づいて表面線量の分布が得られる。また、計測対象領域A内の多数の計測点P2の三次元位置座標と放射線量計測値とに基づいて地面Gから高さ500mmの空間線量の分布が得られる。また、計測対象領域A内の多数の計測点P3の三次元位置座標と放射線量計測値とに基づいて地面Gから高さ1200mmの空間線量の分布が得られる。演算部2aは、得られた表面線量分布や空間線量分布を、例えばコンター図等の視覚的な情報に変換して表示部2cに画面表示してもよい。
【0048】
なお、以上説明したような放射線量計測方法が翌日以降に繰り返される場合には、次のような運用が行われてもよい。すなわち、ロボット1は、GPS装置37の測位情報で自機の現在位置を認識しながら、既に記憶部2bに記憶されている計測点Pの平面位置に到達する。そして、ロボット1が、すべての関節6の回転角度を制御することで、既に記憶部2bに記憶されている計測点Pの地面Gからの高さの位置に、放射線センサー3aを移動し保持する。そして、この状態で放射線センサー3aによる計測点Pの放射線量計測が実行される。
【0049】
なお、前述の通り、計測点Pの放射線量計測時の放射線センサー3aの地面Gからの高さに関する情報として、移動本体部5及び可動アーム7のすべての関節6の回転角度情報が記憶部2bに記憶されていてもよい。この場合には、既に記憶部2bに記憶されているすべての関節6の回転角度情報の回転角度を再現するように、脚部13及び可動アーム7が駆動されることで、放射線センサー3aの高さ位置が調整され、放射線センサー3aによる計測点Pの放射線量計測が実行される。このような運用によれば、翌日以降に繰り返される放射線量計測においても、放射線量計測時における放射線センサー3aの位置が高い精度で再現され、その結果、計測対象領域A内における表面線量や空間線量の再現性が高い計測値が得られる。
【0050】
本実施形態の放射線量計測方法は、次に説明するような環境情報計測工程、マーキング工程、電波機器設置工程、積算放射線量計測工程、を更に備えてもよい。
【0051】
(環境情報計測工程)
環境情報計測工程は、ロボット1が計測対象領域Aを移動している間に、前述の線量計測工程等と並行して実行される。この環境情報計測工程では、例えば所定の時間間隔で、環境センサー35によって環境情報が計測される。環境センサー35による各環境情報の計測値は制御装置40に送信され、更に制御装置40の通信機能によってユーザー端末2に送信される。
【0052】
また、各環境情報の計測と同時にGPS装置37から得られる測位情報が制御装置40からユーザー端末2に送信される。そして、ユーザー端末2では、環境センサー35による環境情報の計測値と、GPS装置37による測位情報と、が関連付けられて記憶部2bに蓄積されていく。ユーザー端末2の演算部2aは、このような蓄積情報を利用して計測対象領域Aにおける環境情報の分布を認識し、例えばコンター図等の視覚的な情報に変換して表示部2cに環境情報の分布を画面表示してもよい。このように計測対象領域Aにおける環境情報の分布が得られることで、放射線量以外の要素に起因する人の立ち入りのリスクを知ることができる。
【0053】
なお、ロボット1が計測対象領域Aを移動している間に、環境情報の計測値が所定の閾値を超過した場合には、ロボット1が現在地で警告(例えば、音声、発光、画像投影による警告)を発するようにしてもよい。あるいは、上記計測値が閾値を超過したことを、指令基地への通信、ユーザー端末2への通信、またはクラウドへの通信によって報告するようにしてもよい。
【0054】
(マーキング工程)
放射線量計測器3がロボット1の制御装置40との通信機能を有し、制御装置40に対して放射線量計測値をリアルタイムで送信するものであってもよい。この場合、マーキング工程では、ロボット1が計測対象領域Aを移動している間に、制御装置40は、放射線量計測器3による放射線量計測値をリアルタイムで認識する。そして、この放射線量計測値が所定の閾値を超えた場合には、制御装置40の制御下で、ロボット1の現在地における地面G上にマーカーを構築するマーキング処理が実行される。このように地面G上に構築されたマーカーの存在により、その後に人が計測対象領域Aに立ち入るときに、放射線量が高い場所を認識し易い。例えば、人が立ち入り可能な限界の放射線量を上記の閾値として設定すれば、計測対象領域A内のマーカーによって、立ち入り不可能な場所が示される。
【0055】
上記マーキング処理の具体例としては、例えば、ロボット1からスプレー噴射した塗料等を地面Gに付着させる、といったことが考えられる。また、上記マーキング処理の他の具体例としては、例えば、地面G上に物理的なマーカーを設置する、といったことが考えられる。
図4(a)に示されるように、上記の物理的なマーカーとしては、目立つ色彩のコーン51といったような目立つ部材が好適に使用される。このようなマーキング処理を可能にするために、予め多数のコーン51がロボット1の荷台12に積載されていてもよい。ロボット1は、荷台12上のコーンを地面G上に設置するためのアクチュエーターを備えてもよい。
図4(a)に例示されるように、上記アクチュエーターは、例えば可動アーム7とは別に胴部11上面に設けられた別のロボットアーム53であってもよい。このロボットアーム53は荷台12上のコーン51を把持して地面G上に移動するために前述のクリッパー23と同様のエンドエフェクターを有していてもよい。または、可動アーム7とは別のロボットアーム53を設けることに代えて、可動アーム7がコーン51を設置するための上記アクチュエーターとして利用されてもよい。あるいは、上記アクチュエーターは、コーン51を荷台12から地面G上に落下させる落下機構を有するものであってもよい。
【0056】
(電波機器設置工程)
電波機器設置工程は、ロボット1が計測対象領域A内を移動している間に、前述の線量計測工程等と並行して実行される。または、電波機器設置工程は、計測作業者J(ユーザー端末2)と計測対象領域Aとの間を移動しているときにも実行されてもよい。電波機器設置工程では、
図4(b)に示されるように、例えばロボット1の所定の移動距離ごとに、遠隔操作又は遠隔誘導用の電波を中継する電波中継器55が地面G上に設置される。このように設置された電波中継器55の存在により、遠隔操作又は遠隔誘導用の電波の通信環境が向上する。従って、遠隔操作又は遠隔誘導用の電波が有効に届く範囲が拡大され、計測作業者Jは計測対象領域A内のロボット1から更に離れることができ、その結果、当該計測作業者Jの放射線被曝が低減される。このような電波中継器55の設置を可能にするために、ロボット1の荷台12には予め多数の電波中継器55が積載されていてもよい。また、ロボット1は、荷台12上の電波中継器55を地面G上に設置するために、前述のマーキング工程で用いられるようなアクチュエーター(例えば、ロボットアーム53)を備えてもよい。
【0057】
(積算放射線量計測工程)
積算放射線量計測工程は、前述の線量計測工程等と並行して実行され、ロボット1に搭載された積算線量計39により、ロボット1が計測対象領域Aを移動している間の積算放射線量が計測される。このような積算放射線量が取得されることで、同様の作業を仮に計測作業者Jが実行した場合に被曝する放射線量を知ることができる。そして、ロボット1が計測作業者Jの代わりに計測対象領域Aに立ち入ることによる計測作業者Jの被曝低減効果を評価することができる。
【0058】
続いて、本実施形態の放射線量計測方法による作用効果について説明する。本実施形態の放射線量計測方法では、放射線量計測器3を搭載したロボット1が計測対象領域Aに立ち入る、従って、計測作業者Jが計測対象領域Aに立ち入る機会はほぼ無くなり、計測作業者Jは計測対象領域A外からロボット1を操作すればよい。従って、計測作業者Jの放射線被曝が低減される。特に、初回の放射線量計測においては、計測対象領域A内の放射線量は予測不可能である。よって、仮に計測作業者Jが計測対象領域Aに立ち入れば、想定以上に被爆してしまう虞もあるので、本実施形態の放射線量計測方法が有効である。
【0059】
また、ロボット1が放射線センサー3aの高さ位置を調整し、放射線量が計測されるとともに、この計測値が計測時におけるセンサー位置情報に関連付けられて記憶部2bに記憶されるので、計測対象領域A内における表面線量や空間線量の再現性が高い計測値が得られる。特に、記憶部2bに記憶されるセンサー位置情報は、ロボット1に搭載されたGPS装置37と、角度センサー29で検知されるロボット1の関節6の回転角度に由来するものであるので、例えば、計測作業者Jが放射線センサー3aの高さ位置等を目測で調整する場合に比較して再現性が高い。
【0060】
また、このような放射線量計測が定期的に繰返し実行されるところ、毎回の計測位置情報を正確に押さえることで再現性のある計測を行い、線量の変化を時系列的に正確に比較することができる。これによって、現場の放射線量が変化した場合に、線量変化の原因特定の一助とするとともに、計測位置の誤りを防止することにもつながる。
【0061】
また、計測対象領域Aにおける放射線量の分布が得られることで、工事のために計測対象領域Aに人が立ち入る場合の被曝線量を予め正確に予測することができ、適切な工事計画を作成することができる。また、例えば、計測対象領域Aへの人の立ち入りを可能にするために取るべき対策を明確にすることができる。
【0062】
また、本実施形態の放射線量計測方法では、
図2に示されるように、アームカメラ33の前方に治具47を介して放射線量計測器3が保持されている。そして、放射線量計測器3の計測値表示部3bがアームカメラ33で撮像されて得られる計測値撮像データが、放射線量の計測値に関する情報として得られる。この方式によれば、制御装置40との通信機能を持たない簡易な構成の放射線量計測器を使用することができ、例えば、比較的入手が容易な市販の放射線量計測器を使用することができる。また、治具47を3Dプリンタで製作するものとすれば、放射線量計測器が変更された場合においても、変更後の放射線量計測器に適合する治具47を比較的容易に製作し直すことができる。
【0063】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0064】
例えば、上述の実施形態では、ユーザー端末2とロボット1とが直接無線通信することによってロボット1が遠隔操作又は遠隔誘導されるものであるが、これには限定されない。例えば、計測対象領域A内に無線LAN環境が構築され、当該無線LANを介してユーザー端末2とロボット1との通信が行われてもよい。この場合、前述の電波機器設置工程では、電波中継器55(
図4(b))に代えて、上記無線LANのアクセスポイントとして遠隔操作又は遠隔誘導用の電波を発信する電波機器が設置されてもよい。
【0065】
また、上述の実施形態では、ロボット1は計測作業者Jによる遠隔操作又は遠隔誘導で動作するものであるが、ロボット1は上記無線LANを介して得られる情報やGPS装置37による測位情報等に基づいて、事前に与えられたプログラムに従って自律的に動作するものであってもよい。また、計測対象領域Aにおけるロボット1の自律的な移動を可能にするために、2次元バーコード(例えば、QRコード(登録商標))が付された物理的な標識等が事前に計測対象領域A内に適宜設置されてもよい。この場合、ロボット1はカメラ31,33で撮像された上記2次元バーコードに基づいて計測対象領域A内における自機の現在位置を認識することができ、自律的な移動を行うことができる。
【0066】
また、ロボット1が計測対象領域Aを自律的に移動する場合において、例えば、ロボット1が万一転倒した場合においても、ロボット1が自力で起立状態に復帰可能であることが好ましい。また、ロボット1の進行方向前方に障害物が存在する場合にはロボット1の移動が自動的に制限される場合があるが、例えば、ロボット1が草むらに侵入した場合には、周囲に存在する草を障害物として取扱わないようにすることが好ましい。また、放射線量計測が完了したとき、放射線量計測が一旦停止されるとき、又は何らかの理由でロボット1による放射線量計測の続行が困難になった場合には、予め設定されたルートでロボット1が自動的に計測対象領域A外の所定の位置(例えば指令基地)に退避するようにしてもよい。
【0067】
また、上述の実施形態では、放射線量計測器3の計測値表示部3bがアームカメラ33で撮像されて計測値撮像データ(放射線量の計測値に関する情報)が得られるものであるが、放射線量計測器3が制御装置40との通信機能をもつものであってもよい。この場合、線量計測工程S101において放射線量の計測値が数値データとして直接得られる点において好ましい。
【0068】
また、実施形態では、計測値撮像データ及びセンサー位置情報が、制御装置40からユーザー端末2に送信されて記憶部2bに記憶され蓄積されるが、計測値撮像データ及びセンサー位置情報は、制御装置40の記憶部に記憶され蓄積されてもよい。または、ロボット1の荷台12上に専用のデーターロガーが設置され、当該データーロガーに計測値撮像データ及びセンサー位置情報が記憶され蓄積されてもよい。この場合、例えば、すべての計測点Pにおける計測の完了後に、ロボット1が計測対象領域A外に退避したときに、計測作業者Jが手動でユーザー端末2に計測値撮像データ及びセンサー位置情報を転送するようにしてもよい。
【0069】
また、上述の実施形態では、移動本体部5及び可動アーム7の関節6の角度センサー29から得られる回転角度情報に基づいて放射線センサー3aの地面Gからの高さが調整されるが、これには限定されない。放射線センサー3aの地面Gからの高さ調整のために、例えば、
図5(a)に示されるように、放射線量計測器3の近傍位置から垂下する索体57が当該放射線量計測器3近傍に取付けられてもよい。例えば、長さ1200mmの索体57の下端が地面Gに接触することをもって放射線センサー3aの地面Gからの高さが1200mmに調整される。索体57の下端の地面Gへの接触は、例えば、カメラ31,33の撮像データにより確認されてもよい。また、放射線センサー3aの地面Gからの高さ調整のために、
図5(b)に示されるように、地面Gからの距離(高さ)Hを計測する測距装置59(例えば、レーザー測距装置)が放射線量計測器3近傍に設けられてもよい。この測距装置59からの測距データが制御装置40に送信されることにより、制御装置40は、可動アーム7の動作をフィードバック制御して、放射線センサー3aの地面Gからの高さを所望の高さに調整することができる。
【0070】
また、計測対象領域Aにおける放射線量を計測する放射線センサーを備える計測器としては、放射線量計測器3に代えて、又は放射線量計測器3に加えて、ガンマカメラが採用されてもよい。
【0071】
計測対象領域Aを移動するロボット1の表面には放射化された粉塵等が付着する。従って、例えば、使用後には上記粉塵を除去するためにロボット1の表面の洗浄が行われる。この洗浄作業の手間や頻度を低減するために、ロボット1には使い捨ての防護服が着用されてもよい。この場合、使用後にロボット1から防護服を除去し廃棄することで、ロボット1自体の洗浄を省略又は軽減することができる。
【0072】
また、上述の実施形態では、四足歩行のロボット1が使用されるが、本発明における無人移動ロボットは、飛行して計測対象領域Aに侵入するドローン等であってもよい。また、四足歩行のロボット1に限定されず、例えば二足歩行のロボットであってもよく、車輪やクローラー等で走行するロボットであってもよい。
【0073】
なお、ロボット1は、上述の実施形態のような放射線量計測のみならず、他の種々のタスク(例えば、対象物の撮像、計測、点検、巡視、工事用のマップ作成)に利用することができる。他のタスクが上述の実施形態の放射線量計測と並行して実行されてもよい。このタスクの例として、トンネルの坑内変位計測、トンネルの断面計測、トンネルの出来形計測、切羽部での近接撮影、遠赤外線等での撮像による切羽部の水の噴出や亀裂の有無の把握、下水管等の管路内での撮影、管路のクラックの点検、ポンプ等の計器点検、建設用地内の危険物(例えばハチの巣等)の発見とそのマッピング、点検路内の巡回、作業場所での図面や要領書の閲覧、建設現場建屋内での巡回・墨出作業、災害現場の状況把握、地下ピットでの一酸化炭素濃度の確認、台風時の飛散物養生確認、体調不良者(熱中症等)の把握、等が挙げられる。また、ロボット1は、特に、危険な環境・場所におけるタスクに利用することができる。危険な環境・場所の例としては、酷暑、高い不快指数、高騒音、振動、悪臭、高粉塵、低酸素、高放射線量、危険な動物や昆虫が存在する、といった環境・場所が挙げられる。これらのタスクに必要な計測器等の装置は、適宜選択されてロボット1の荷台12に搭載される。例えば、必要に応じて、ロボット1が備える自動レベル機能と切替えて使用可能可能な水平レベル調整器がロボット1の荷台12に搭載されてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…ロボット(無人移動ロボット)、3…放射線量計測器、3a…放射線センサー、3b…計測値表示部、5…移動本体部、6…関節、7…可動アーム、11…胴部、13…脚部、33…アームカメラ、35…環境センサー、37…GPS装置、40…制御装置、51…コーン(マーカー)、55…電波中継器、A…計測対象領域、G…地面、P,P1~P3…計測点。