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2025-176134中等度から重度の掻破痕を有するアトピー性皮膚炎の治療におけるネモリズマブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025176134
(43)【公開日】2025-12-03
(54)【発明の名称】中等度から重度の掻破痕を有するアトピー性皮膚炎の治療におけるネモリズマブ
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20251126BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20251126BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】40
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2025151311
(22)【出願日】2025-09-11
(62)【分割の表示】P 2020542801の分割
【原出願日】2019-02-08
(31)【優先権主張番号】62/628,714
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520077229
【氏名又は名称】ガルデルマ ホールディング エスエー
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ケローシャ ナビル
(72)【発明者】
【氏名】廣川 恵子
(72)【発明者】
【氏名】三原 良介
(57)【要約】      (修正有)
【課題】皮膚擦過傷を有する対象のアトピー性皮膚炎(AD)を選択的に治療するための方法を提供する。
【解決手段】1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎を選択的に治療する方法であって、前記対象にネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することを含む、方法が提供される。さらに、皮膚擦過傷を有する対象のアトピー性皮膚炎の治療における使用のためのネモリズマブを含む医薬組成物、皮膚擦過傷を有する対象のアトピー性皮膚炎の治療のための医薬の製造におけるネモリズマブまたはその等価物の使用、および、ネモリズマブ治療またはその等価物に応答しそうである、アトピー性皮膚炎を有する対象を特定する方法が提供される。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎を選択的に治療する方法であって、前記対象にネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記皮膚掻破痕が中等度から重度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記皮膚掻破痕には、SCORAD尺度で少なくとも2のスコアが割り当てられている、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ネモリズマブまたはその等価物の前記有効量が約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1.5mg/kg、約1.5mg/kg~約2.5mg/kg、または約2.5mg/kg~約10mg/kgである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ネモリズマブまたはその等価物が局所経路または非経口経路によって投与される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ネモリズマブまたはその等価物が皮下投与される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ネモリズマブまたはその等価物が1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、または8週間に1回投与される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数の皮膚掻破痕を有すると判定された対象のアトピー性皮膚炎の治療における使用のための、ネモリズマブまたはその等価物を含む医薬組成物。
【請求項9】
前記皮膚掻破痕が中等度から重度である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記皮膚掻破痕には、SCORAD尺度で少なくとも2のスコアが割り当てられている、請求項8または請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
担体をさらに含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記担体が薬学的に許容される担体である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項13】
1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎の治療のための医薬の製造における、ネモリズマブまたはその等価物の使用。
【請求項14】
前記皮膚掻破痕が中等度から重度である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記皮膚掻破痕には、SCORAD尺度で少なくとも2のスコアが割り当てられている、請求項13または請求項14に記載の使用。
【請求項16】
ネモリズマブまたはその等価物による治療に応答しそうである、アトピー性皮膚炎を有する対象を特定する方法であって、前記対象の皮膚の1つまたは複数の掻破痕を検出することを含む、方法。
【請求項17】
前記掻破痕を軽度、中等度、または重度とスコアリングすることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記掻破痕をSCORAD尺度に従って1、2、または3とスコアリングすることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
中等度から重度である1つまたは複数の掻破痕が検出された場合に、前記対象をネモリズマブまたはその等価物による治療に応答しそうであると特定することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
1つまたは複数の掻破痕がSCORAD尺度に従って2または3とスコアリングされた場合に、前記対象をネモリズマブまたはその等価物による治療に応答しそうであると特定することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
ネモリズマブまたはその等価物による治療に応答しそうであると特定された前記対象に、ネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
ネモリズマブまたはその等価物の前記有効量が約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1.5mg/kg、約1.5mg/kg~約2.5mg/kg、または約2.5mg/kg~約10mg/kgである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ネモリズマブまたはその等価物が局所経路または非経口経路によって投与される、請求項21または請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ネモリズマブまたはその等価物が皮下投与される、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ネモリズマブまたはその等価物が1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、または8週間に1回投与される、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
アトピー性皮膚炎を有する患者を治療するための方法であって、
(a) アトピー性皮膚炎を有する前記患者を、1つまたは複数の皮膚掻破痕についてスクリーニングする工程と、
(b) 工程(a)でスクリーニングされた前記患者を、ネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することにより治療する工程と
を含む、方法。
【請求項27】
前記皮膚掻破痕が中等度から重度である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記皮膚掻破痕には、SCORAD尺度で少なくとも2のスコアが割り当てられている、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
ネモリズマブまたはその等価物の前記有効量が約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1.5mg/kg、約1.5mg/kg~約2.5mg/kg、または約2.5mg/kg~約10mg/kgである、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
ネモリズマブまたはその等価物の前記有効量が局所経路または非経口経路で投与される、請求項26~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ネモリズマブまたはその等価物の前記有効量が皮下投与される、請求項26~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ネモリズマブまたはその等価物の前記有効量が1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、または8週間に1回投与される、請求項26~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
アトピー性皮膚炎に罹患しており且つ1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象の睡眠の質を改善する方法であって、前記対象にネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項34】
前記皮膚掻破痕が中等度から重度である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記皮膚掻破痕には、SCORAD尺度で少なくとも2のスコアが割り当てられている、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
ネモリズマブまたはその等価物の前記有効量が約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1.5mg/kg、約1.5mg/kg~約2.5mg/kg、または約2.5mg/kg~約10mg/kgである、請求項33または請求項35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
ネモリズマブまたはその等価物が局所経路または非経口経路で投与される、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
ネモリズマブまたはその等価物が皮下投与される、請求項33~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
ネモリズマブまたはその等価物が1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、または8週間に1回投与される、請求項33~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
入眠潜時、総睡眠時間、睡眠効率、または中途覚醒時間のうちの1つまたは複数の改善を検出することにより睡眠の質の改善が判定される、請求項33~39のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2018年2月9日に出願された米国仮特許出願第62/628,714号の優先権を主張するものであり、前述の米国仮特許出願の内容はその全体が参照によって本明細書に援用される。
【0002】
分野
本明細書では、皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎(AD)を選択的に治療するための方法、皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎の治療における使用のための医薬組成物、皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎の治療のための医薬の製造におけるネモリズマブまたはその等価物の使用、および、ネモリズマブ治療またはその等価物に応答しそうである、アトピー性皮膚炎を有する対象を特定する方法の説明がなされる。
【背景技術】
【0003】
背景
以下の記載は、本開示を理解する上で読者の一助となるようになされたものであり、本開示に対する先行技術の記載や構成の意図はない。
【0004】
アトピー性皮膚炎(「AD」、別名アトピー性湿疹)は、皮膚の痒み(そう痒)、腫れ、赤み、および/またはひび割れをもたらし得る、皮膚の慢性炎症である。ADは、抗原、刺激物質、または機械的刺激に対する免疫応答により誘発され得る。そう痒を伴うAD患者は、皮膚を引っ掻くまたは皮膚を擦るなどの行動を示す場合がある。いくつかの場合では、そう痒を伴うAD患者は、擦りまたは引っ掻きを自制する場合がある。継続的な皮膚の引っ掻き行動は、ADの増悪、睡眠の中断、患者の心理社会的な健康への悪影響に繋がるおそれがある。一部のAD患者は、治療を通じて他の症状が効果的に管理されている場合であっても、そう痒を有している。
【0005】
承認されているそう痒治療としては、外用のグルココルチコイドや抗ヒスタミン剤が挙げられるが、それらの治療のAD患者における効果は限定的であり、且つ/または、重大な副作用を伴っている。承認済みのAD治療には、カルシニューリン阻害薬、皮膚軟化薬、および外用グルココルチコイドが含まれる。しかし、これらの治療は中等度から重度のADを有するAD患者の間では限定的な効能しかもたない。経口抗ヒスタミン剤はアトピー性皮膚炎に処方される場合が多いが、このような薬剤にそう痒を軽減する効果はほとんどまたは全くない。ネモリズマブ(CIM331)は、神経細胞を含む細胞上のインターロイキン-31レセプターA(IL-31RA)に結合することで、インターロイキン-31シグナル伝達を阻害する、ヒト化モノクローナル抗体である。インターロイキン-31はADの発病に関与していると考えられているため、AD治療に有効である可能性がある。しかし、AD患者、特に掻破痕または不眠を患うAD患者を治療し、AD治療に応答しそうである患者を特定するための、新規な治療計画の開発が依然として求められている。
【発明の概要】
【0006】
概要
本明細書において、皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎(AD)を選択的に治療するための方法、1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎の治療における使用のための医薬組成物、皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎の治療のための医薬の製造におけるネモリズマブまたはその等価物の使用、および、ネモリズマブ治療またはその等価物に応答しそうである、アトピー性皮膚炎を有する対象を特定する方法が提供される。
【0007】
いくつかの実施形態によれば、皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎を選択的に治療する方法であって、前述の対象にネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することを含む、該投与することから成る、該投与することから実質的に成る方法が提供される。
【0008】
前述の方法のいくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は、中等度から重度である。前述の方法のいくつかの実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物の前述の有効量は、約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1.5mg/kg、約1.5mg/kg~約2.5mg/kg、または約2.5mg/kg~約10mg/kgの範囲である。特定の実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物の前述の有効量は、約0.1mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約1.5mg/kg、約2mg/kg、または約2.5mg/kgである。前述の方法のいくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、局所経路または非経口経路によって投与される。前述の方法のいくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、皮下投与される。いくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、または8週間に1回投与される。
【0009】
いくつかの実施形態によれば、対象のアトピー性皮膚炎の治療における使用のための医薬組成物であって、前述の対象は1つまたは複数の皮膚掻破痕を有すると判定された対象であり、前述の組成物はネモリズマブまたはその等価物を含む、それから成る、またはそれから実質的に成る、前述の組成物が提供される。
【0010】
前述の医薬組成物のいくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は、中等度から重度の皮膚掻破痕である。いくつかの実施形態では、前述の医薬組成物は担体をさらに含む。いくつかの実施形態では、前述の担体は薬学的に許容される担体である。
【0011】
いくつかの実施形態によれば、1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎の治療のための医薬の製造におけるネモリズマブまたはその等価物の使用が提供される。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は、中等度から重度の皮膚掻破痕である。
【0012】
いくつかの実施形態によれば、ネモリズマブ治療またはその等価物に応答しそうである、アトピー性皮膚炎を有する対象を特定する方法であって、前述の対象の皮膚の1つまたは複数の掻破痕を検出することを含む、該検出することから成る、または該検出することから実質的に成る方法が提供される。
【0013】
いくつかの実施形態では、前述の方法は、前述の掻破痕を軽度、中等度、または重度とスコアリングすることをさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、前述の方法は、中等度から重度である1つまたは複数の掻破痕が検出された場合に、前述の対象をネモリズマブ治療またはその等価物に応答しそうであると特定することをさらに含む。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、アトピー性皮膚炎を有する患者を治療する方法であって、(a)アトピー性皮膚炎を有する前述の患者を、1つまたは複数の皮膚掻破痕についてスクリーニングする工程と、(b)工程(a)でスクリーニングされた前述の患者を、ネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することにより治療する工程とを含む、それらの工程から成る、またはそれらの工程から実質的に成る方法が提供される。
【0016】
前述の方法のいくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は、中等度から重度である。前述の方法のいくつかの実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物の前述の有効量は、約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1.5mg/kg、約1.5mg/kg~約2.5mg/kg、または約2.5mg/kg~約10mg/kgの範囲である。特定の実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物の前述の有効量は、約0.1mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約1.5mg/kg、約2mg/kg、または約2.5mg/kgである。前述の方法のいくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、局所経路または非経口経路によって投与される。前述の方法のいくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、皮下投与される。いくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、または8週間に1回投与される。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、アトピー性皮膚炎に罹患しており且つ1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象の睡眠の質を改善する方法であって、前述の対象にネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、入眠潜時、総睡眠時間、睡眠効率、または中途覚醒時間のうちの1つまたは複数の改善を検出することにより、睡眠の質の改善が判定される。
【0018】
前述の方法のいくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は、中等度から重度である。前述の方法のいくつかの実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物の前述の有効量は、約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1.5mg/kg、約1.5mg/kg~約2.5mg/kg、または約2.5mg/kg~約10mg/kgの範囲である。特定の実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物の前述の有効量は、約0.1mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約1.5mg/kg、約2mg/kg、または約2.5mg/kgである。前述の方法のいくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、局所経路または非経口経路によって投与される。前述の方法のいくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、皮下投与される。いくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、または8週間に1回投与される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A図1A図1C。掻破痕の代表的な画像の図解と、それらに対応するアトピー性皮膚炎スコアリング指標(Scoring Atopic Dermatitis Index)(SCORAD)スコアとが示されている。画像は、アトピー性皮膚炎欧州タスクフォースのコンセンサスレポート(Consensus Report of the European Task Force on Atopic Dermatitis)、題「Severity Scoring of Atopic Dermatitis: The SCORAD Index」(Stalder, J.F. et al., Dermatology (1993), 186: 23-31)から得たものである。図1Aはスコア1の軽度の掻破痕を示している。図1Bはスコア2の中等度の掻破痕を示している。図1Cはスコア3の重度の掻破痕を示している。白色の矢印は例示的な掻破痕を指し示している。
図1B図1Aの説明を参照のこと。
図1C図1Aの説明を参照のこと。
図2図2A図2D。対象の手首の掻破痕の代表的な図。掻破痕は表示のようにSCORAD法に従ってスコアリングされている:図2Aはスコア0の無し(すなわち、掻破痕が存在しない)を示している。図2Bはスコア1の軽度の掻破痕を示している。図2Cはスコア2の中等度の掻破痕を示している。図2Dはスコア3の重度の掻破痕を示している。
図3図3A図3D。掻破痕の代表的な画像の図解と、それらに対応する湿疹面積・重症度指標(Eczema Area and Severity Index)(EASI)スコアとが示されている。掻破痕は表示のようにEASI法に従ってスコアリングされている:図3Aはスコア0の無し(すなわち、掻破痕が存在しない)を示している。図3Bはスコア1の軽度の掻破痕を示している。図3Cはスコア2の中等度の掻破痕を示している。図3Dはスコア3の重度の掻破痕を示している。
図4】研究デザインの図示。ネモリズマブ2.0mg/kgQ8W群患者に対して、パートAでは、第4週にプラセボを投与し;パートBでは、第12週にプラセボを、第16週にネモリズマブを患者に投与し、その後はプラセボおよびネモリズマブを交互に投与した。**パートBに無作為に割り付けられた患者の数。第64週における患者の数。試験薬の最後の投与から12週間後に安全性追跡調査を実施した。FU、追跡調査(Follow-up);TCI、カルシニューリン阻害外用薬(topical calcineurin inhibitor);TCS、グルココルチコステロイド外用薬(topical glucocorticosteroid);w、週(week)。
図5】第II相試験のパートAおよびパートBの結果の図示。
図6】そう痒視覚アナログ尺度(VAS)スコアを示している。図6Aは、そう痒VASスコアのベースラインからの変化率を示している。データは平均値(SE)で示されている。図6Bは、そう痒VASスコアが30mm未満(事後解析)である患者の割合を示している。
図7】パートAでネモリズマブを投与された治療企図(ITT)解析対象集団の、重要な副次的評価項目および探索的評価項目におけるベースラインからの変化率の図示(救済治療後のデータを含む)。図7Aは、EASIスコアにおける変化率(平均値±SE)を示している。図7Bは、sIGAスコアが0または1である患者の割合(%)を示している。図7Cは、睡眠障害視覚アナログ尺度(VAS)におけるベースラインからの変化率(平均値±SE)を示している。図7Dは、DLQIにおいて4ポイント以上の減少が見られた患者の割合(%;事後解析)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
以下、本開示による実施形態についてより十分な説明を行う。しかしながら、本開示の各態様は異なる形態で実施されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。そうではなく、これらの実施形態は、この開示を徹底且つ完全なものとし、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるために提供される。本明細書における説明で使用される用語は、特定の実施形態の説明のみを目的としており、限定を意図するものではない。
【0021】
別途定義がない限り、本明細書で使用される全ての用語(専門用語および科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。さらに、一般的に用いられる辞書に定義されているような用語は、本願および関連する技術分野の文脈におけるその意味と合致した意味を有すると解釈されるべきであり、理想的または過度に形式張った意味に、本明細書で明白にそのように定義されていない限りは、解釈されるべきではないことも理解されたい。以下では明示的に定義されていないが、そのような用語はその通常の意味に従って解釈されるべきである。
【0022】
本明細書における説明で使用される用語は、特定の実施形態の説明のみを目的としており、本発明の限定を意図するものではない。本明細書に記載される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体が参照によって援用される。
【0023】
文脈上特に指示がない限り、本明細書に記載の本発明の種々の特徴はあらゆる組み合わせで用いることができることが、明確に意図されている。さらに、いくつかの実施形態において、本明細書に記載のいずれの特徴または特徴の組み合わせも除外または省略できることも、本開示では企図されている。例えば、ある複合体が成分A、成分Bおよび成分Cを含むと本明細書に記載されている場合、A、B、もしくはCのいずれも、またはそのいずれの組み合わせも、単独にまたはあらゆる組み合わせで省略および除外できることが、明確に意図されている。
【0024】
特に記載がない限り、全ての特定の実施形態、特徴、および用語は、その記載されている実施形態、特徴、または用語と、その生物学的等価物との両方を包含することが意図される。
【0025】
定義
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、単数のみを示すと明確に記載されていない限り、単数および複数の両方を示す。
【0026】
常に明記されているわけではないが、全ての数値表示には「約」という用語が先行することを理解されたい。用語「約」は、包含される数値が、本明細書に記載されているまさにその数値を含むがこれらに限定されず、記載の数値だけでなく、記載の数値の実質的に周囲の数値も、本発明の範囲から逸脱しない範囲で指すことを意図していることを意味する。本明細書で使用される場合、「約」は、当業者に理解され、それが使用されている文脈に応じてある程度変化するものとする。当該用語が使用されている文脈を所与として、当業者に不明な当該用語の使用がある場合、「約」は、その特定の用語の、±15%、±10%、±5%、±1%、または±0.1%までを意味するものとする。
【0027】
また、本明細書で使用される場合、「および/または(and/or)」は、関連の列挙された項目のうちの1つまたは複数のあらゆる全ての可能な組み合わせを指し包含するだけでなく、択一(「または(or)」)として解釈される場合は、組み合わせの欠如を指す。
【0028】
用語「投与する(administer)」、「投与(administration)」、または「投与すること(administering)」は、本明細書で使用される場合、(1)医療従事者もしくはその指定代理人による、またはその指示の下などでの、提供、投与、投薬および/または処方、並びに、(2)医療従事者または対象者などによる投与、服用、または消費を意味する。投与には、経口投与、非経口投与(例えば、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、ICV投与、大槽内への注射もしくは点滴による投与、皮下注射による投与、または移植による投与)、吸入噴霧による投与、経鼻投与、経腟投与、直腸投与、舌下投与、尿道内投与(例えば、尿道坐剤)、または局所的投与経路(例えば、ゲル、軟膏剤、クリーム、エアロゾルなど)による投与が含まれるものとするが、これらに限定はされず、各投与経路に適した従来の無毒の薬学的に許容される担体、補助剤、賦形剤、および基剤を含有する好適な投薬単位製剤に、単独または一緒に、製剤化することができる。本発明は前述の投与経路、製剤、または投与スケジュールに限定されない。
【0029】
用語「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、または「治療(treatment)」とは、本明細書で使用される場合、AD、そう痒、またはその1つもしくは複数の症状の軽減、緩和、または回復を含み、ADおよび/またはそう痒が「治癒した」または「治った」と見なされるかどうか、全ての症状が解消したかどうかは問わない。また、これらの用語には、ADおよび/もしくはそう痒、またはその1つもしくは複数の症状の進行の低減または抑制、ADおよび/もしくはそう痒、またはその1つもしくは複数の症状の発症機序の妨害または抑制、並びに、いずれかの治療効果および/または予防効果の達成も含まれる。
【0030】
インターロイキン-31受容体αサブユニット(「IL-31RA」、別名NR10、glm-r、GPL)は、オンコスタチンM受容体(OSMR)とヘテロ二量体を形成することでIL-31受容体として機能するタンパク質である。ヒト由来IL-31RAには多くのスプライシングバリアントが知られている(国際公開第00/075314号)。NR10.1は662個のアミノ酸から成り、膜貫通領域を含有する。NR10.2は、252個のアミノ酸から成り、前述の膜貫通領域を含んでいない、可溶性受容体様タンパク質である。一方、膜貫通受容体タンパク質として機能する公知のIL-31RAスプライシングバリアントとしては、NR10.3およびIL-31RAv3が挙げられる。好ましいIL-31RAバリアントとしては、NR10.3(別名ILRAv4(Nat Immunol 5, 752-60, 2004)およびIL-31RAv3が挙げられる。NR10.3(IL31RAv4)は662個のアミノ酸から成り(国際公開第00/075314号;Nat Immunol 5, 752-60, 2004)、IL31RAv3は732個のアミノ酸から成る(GenBankアクセッション番号:NM-139017)。
【0031】
IL31RAv4のアミノ酸配列は以下である:
【0032】
IL31RAv3のアミノ酸配列は以下である:
【0033】
マウス由来IL-31RAとして、以下のアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる:
【0034】
カニクイザル由来IL-31RAとして、以下のアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる:
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、「患者」と同義的に使用され、哺乳動物、特にヒト、ウマ、ウシ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、またはヒト以外の霊長類を表す。好ましい実施形態では、対象はヒトである。対象は、皮膚引っ掻き行動および/または皮膚掻破痕の評価を必要としているものであってもよいし、それでなくてもよい。いくつかの実施形態では、対象は、ネモリズマブ治療の投薬前に皮膚の引っ掻き行動および/または皮膚掻破痕について評価される。いくつかの実施形態では、対象は、小児、13歳未満、8歳未満、5歳未満、3歳未満、2歳未満、または1歳未満である。他の実施形態では、対象は成体である。
【0036】
用語「アトピー性皮膚炎」(すなわち、「AD」)は、当該技術分野で使用されているように本明細書で使用され、皮膚の慢性炎症を意味する。ADの原因は不明であるが、遺伝、免疫系の機能障害、環境曝露、および/または皮膚の浸透障害が関わっている可能性がある。ADの症状としては、特に夜間に重度になり得る、そう痒、皮膚乾燥、痒み、特に手、足、足首、手首、首、上胸部、眼瞼、肘および膝の屈曲部の内側、さらに乳児においては、顔および頭皮における、赤色~茶色がかった灰色の皮膚の斑点、引っ掻いた場合に液体が漏出してかさぶたが形成され得る隆起したできもの(raised bumps)、肥厚した皮膚、ひび割れた皮膚、鱗状の皮膚、皮の剥けた皮膚、敏感肌(skin sensitivity)、腫れた皮膚、並びに睡眠中断および/または不眠が挙げられ、これらに限定はされない。ADは5歳以前に発症する場合がほとんどであり、青年期および成人期まで持続し得る。一部の患者においては、ADは周期的に再燃し、その後クリアランス期が数年間継続し得る。
【0037】
用語「そう痒」は、当該技術分野で使用されているように本明細書で使用され、痒みのある皮膚および/または痒み感を指す。そう痒は、AD、または他の疾患もしくは状態、例えば皮膚乾燥、によって引き起こされ得る。いくつかの場合では、そう痒は身体全体に亘る全身性の皮膚の痒みを伴う。いくつかの場合では、そう痒は腕または脚などの特定の身体領域に局在している。そう痒は慢性または急性であり得る。そう痒の症状としては、皮膚掻破痕、発赤、できもの、斑、水疱、皮膚乾燥、皮膚のひび割れ、および皮膚の質感が革または鱗状になることが挙げられ、これらに限定はされない。いくつかの場合では、そう痒は皮膚に検出可能な変化を起こさない。そう痒に対する行動反応としては、皮膚の引っ掻きおよび/または皮膚の擦りが挙げられるが、これらに限定はされない。いくつかの場合では、皮膚の引っ掻きは軽度から重度の範囲に亘る掻破痕をもたらし得る。いくつかの場合では、そう痒患者は、皮膚の引っ掻きおよび/または擦りを自制する。そう痒の従来の治療としては、皮膚保湿液、局所皮膚軟化薬、抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミンなど)、副腎皮質ステロイド(ヒドロコルチゾン外用クリーム剤など)、反対刺激薬(ハッカ油、メントール、またはカンフルなど)、クロタミトン、疥癬治療に多く使用される鎮痒薬、局所麻酔薬(ベンゾカイン外用クリーム剤など)、および光線療法が挙げられるが、これらに限定はされない。光線療法に使用される光の通常の種類はUVBである。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリンまたは免疫グロブリン様分子の総称であり、非限定的な例として、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM、これらの組み合わせ、またはこれらの断片が挙げられる。抗体の断片の非限定的な例としては、任意の脊椎動物、例えば、ヒト、ヤギ、ウサギ、およびマウスなどの哺乳類、並びに非哺乳類種(サメ免疫グロブリンなど)、における免疫応答時に産生される、Fab断片および単鎖可変領域断片(scFv)、並びに類似分子が挙げられる。
【0039】
抗体構造について、免疫グロブリンは一般的に、ジスルフィド結合で相互接続された重(H)鎖と軽(L)鎖を有する。軽鎖には、ラムダ(λ)とカッパー(κ)という2種類が存在する。重鎖には5種類の主要クラス(またはアイソタイプ)が存在し、これらが抗体分子の機能活性を決定している(IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgE)。それぞれの重鎖および軽鎖は定常領域および可変領域(これらの領域は「ドメイン」としても知られている)を含有している。これらの重鎖可変領域および軽鎖可変領域は併せて「Fab領域」とも呼ばれ、抗原と特異的に結合する。軽鎖可変領域および重鎖可変領域は、3つの超可変領域が挿入された「フレームワーク」領域、別名「相補性決定領域」または「CDR」、を含有する。フレームワーク領域およびCDRの範囲は定義されている(参照によって本明細書に援用される、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, U.S. Department of Health and Human Services, 1991を参照)。現在、Kabatデータベースはオンライン上に維持されている。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種の中で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域は、構成要素である軽鎖および重鎖のフレームワーク領域が組み合わされたものであるが、大部分がβシート立体構造をとっており、CDRはループを形成し、このβシート構造を接続し、場合によってはその一部を形成している。すなわち、フレームワーク領域は、鎖間の非共有結合的な相互作用によって、CDRの正しい配向のポジショニングを可能にする、足場を形成するように働く。
【0040】
CDRは抗原のエピトープへの結合に主に関与している。各鎖のCDRは、N末端から順に番号付けられたCDR1、CDR2、およびCDR3と通常は称され、また、その特定のCDRが位置している鎖による識別も典型的である。すなわち、V CDR3は、それが含まれる抗体の、重鎖の可変ドメインに位置しており、一方、V CDR1は、それが含まれる抗体の、軽鎖の可変ドメインのCDR1である。IL-31RAと結合する抗体は、特異的なV領域配列とV領域配列とを有し、そのため、特異的なCDR配列を有する。異なる特異性(すなわち、異なる抗原に対する異なる結合部位)を有する抗体は、異なるCDRを有する。CDRは抗体によって異なるが、CDR内の限定された数のアミノ酸位置しか抗原結合には直接関与していない。これらのCDR内位置は特異性決定残基(SDR)と称される。抗体の基部は免疫細胞の活性を調節する役割を果たす。この領域はFc断片領域(Fc)と称され、2本の重鎖から構成されており、この重鎖は抗体クラスに応じて2つまたは3つの定常ドメインを与える。Fc領域は、Bリンパ球、濾胞樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球などのある特定の細胞上に存在し「Fc受容体」と称される特定クラスのタンパク質に結合することによって、各抗体が所与の抗原に対し適切な免疫応答を起こせるように機能する。重鎖の定常ドメインが抗体のFc領域を構成するため、抗体内の重鎖のクラスがそれらのクラス効果を決定する。抗体における重鎖としては、α、γ、δ、ε、およびμが挙げられ、それぞれ、抗体アイソタイプのIgA、G、D、E、およびMと関連している。これにより、異なるアイソタイプの抗体は、その異なるFc領域が異なる種類の受容体と結合しそれを活性化するために、異なるクラス効果を有する、と推測される。
【0041】
ヒト血清中で最も豊富に存在する抗体アイソタイプであるIgGには、4つのサブクラスが存在する。この4つのサブクラスとは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4であり、これらは高度に保存されている。一般論としては、ワールドワイドウェブ:ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4202688/、を参照されたい。これらのペプチドの定常領域のアミノ酸配列は当該技術分野において公知であり、例えば、Rutishauser, U. et al. (1968) “Amino acid sequence of the Fc region of a human gamma G-immunoglobulin” PNAS 61(4):1414-1421; Shinoda et al. (1981) “Complete amino acid sequence of the Fc region of a human delta chain” PNAS 78(2):785-789;およびRobinson et al. (1980) “Complete amino acid sequence of a mouse immunoglobulin alpha chain (MOPC 511)” PNAS 77(8):4909-4913を参照されたい。
【0042】
治療用抗体
「ネモリズマブ」は、IL-31RAに結合するヒト化モノクローナル抗体である。ネモリズマブのアノテーションは以下の通りである:免疫グロブリンG2-κ、抗[ヒトIL31RA(インターロイキン-31受容体αサブユニット)]、ヒト化モノクローナル抗体;γ2重鎖(1-445)[ヒト化VH(ヒトIGHV1-202(83.70%)-(IGHD)-IGHJ501)[8.8.14](1-121)-ヒトIGHG201(CH1 C10>S(135)、R12>K(137)、E16>G(141)、S17>G(142)(122-219)、ヒンジC4>S(223)(220-231)、CH2 H30>Q(268)(232-340)、CH3 R11>Q(355)、Q98>E(419)(341-445))(122-445)]、(224-214’)-κ軽鎖(1’-214’)とジスルフィド[ヒト化V-KAPPA(ヒトIGKV1-3901(82.10%)-IGKJ401)[6.3.9](1’-107’)-ヒトIGKC01(108’-214’)];二量体(227-227”:230-230”)-ビスジスルフィド。ネモリズマブは以下の位置にジスルフィド架橋を有する:Intra-H(C23-C104)22-96 148-204 261-321 367-425 22’’-96’’ 148’’-204’’ 261’’-321’’ 367’’-425’’;Intra-L(C23-C104)23’-88’ 134’-194’ 23’’’-88’’’ 134’’’-194’’’;Inter-H-L(h 5-CL 126)224-214’ 224’’-214’’’;Inter-H-H(h 8、h 11)227-227’’ 230-230’’。ネモリズマブは以下の位置にN-グリコシル化部位を有する:H CH2 N84.4:297、297’’。ネモリズマブは重鎖C末端のグリシンおよびリジンが欠失している(CHS G1>del、K2>del)。
【0043】
ネモリズマブ重鎖アミノ酸配列:
【0044】
ネモリズマブ軽鎖アミノ酸配列:
【0045】
重鎖配列および軽鎖配列の可変ドメインは上記では太字で示され、CDR配列は下線が引かれている。
【0046】
ネモリズマブと等価な抗体としては、(i)ネモリズマブの重鎖配列に対し少なくとも55%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%のアミノ酸配列同一性を含む重鎖を有する抗体、(ii)ネモリズマブの軽鎖配列に対し少なくとも55%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%のアミノ酸配列同一性を含む軽鎖を有する抗体、(iii)ネモリズマブの可変領域配列に対し少なくとも55%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%のアミノ酸配列同一性を含む可変領域を有する抗体、(iv)ネモリズマブのCDR配列に対し少なくとも55%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%のアミノ酸配列同一性を含むCDRを有する抗体、(v)ネモリズマブと同じIL-31RAアイソフォーム(例えば、IL31-RAv3)、所望によりIL-31RAの同じエピトープ、に結合する抗体、(vi)IL-31RAを遮断または中和する抗体、(vii)オンコスタチンM受容体(OSMR)に結合する抗体、および(viii)これらの組み合わせ、が挙げられ、これらに限定はされない。例えば、好適な等価物としては、ネモリズマブと同じまたは実質的に類似した重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列を有する、免疫グロブリンまたは免疫グロブリン様分子が挙げられる。ネモリズマブ等価物のさらなる例示は、例えば、国際公開第2010/064697号に記載されている。
【0047】
ネモリズマブの等価物はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得る。IL31-RAと結合し且つ/またはそれを中和する活性を有するようなモノクローナル抗体は、例えば、以下の方法で得ることができる。既知の方法によりヒトまたはマウスなどの哺乳動物に由来するIL31-RAまたはその断片を抗原として用いて抗IL31-RAモノクローナル抗体を作製し、その後、そのようにして得られた抗IL31-RAモノクローナル抗体からIL31-RAと結合し且つ/またはそれを中和する活性を有する抗体を選択する。具体的には、従来の免疫法に従って、免疫のために、目的の抗原または目的の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用する。得られた免疫細胞を従来の細胞融合法を用いて公知の親細胞と融合し、従来のスクリーニング法によってモノクローナル抗体産生細胞(ハイブリドーマ)についてそれらをスクリーニングすることで、抗IL31-RAモノクローナル抗体を得ることができる。免疫する動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、サル、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、およびブタなどの哺乳類が挙げられる。抗原は、公知のIL31-RA遺伝子配列を用いて、公知の方法に従って、例えば、バキュロウイルスを用いる方法(例えば、国際公開第98/46777号)によって、作製することができる。
【0048】
ハイブリドーマは、例えば、Milstein et al. (Kohler, G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46)の方法に従って作製することができる。抗原の免疫原性が低い場合、その抗原と免疫原性を有する高分子(アルブミンなど)とを結合した後に接種を行ってもよい。ヒトIL31-RAに対する結合および/または中和活性を有するモノクローナル抗体を作製するために使用される抗原は、ヒトIL31-RAに対する結合および/または中和活性を有する抗体の作製を可能とする限り、特に限定はされない。例えば、ヒトIL31-RAにはいくつかのバリアントが存在することが知られているが、ヒトIL31-RAに対する結合および/または中和活性を有する抗体の作製を可能とする限り、どのバリアントも免疫原として使用できる。あるいは、同じ条件下で、IL31-RAのペプチド断片、または天然IL31-RA配列に人為突然変異が導入されたタンパク質を、免疫原として使用してもよい。ヒトIL31-RA.3は、本開示におけるIL31-RAに対する結合および/または中和活性を有する抗体の作製の際に、好ましい免疫原の1つである。
【0049】
等価抗体のIL31-RA結合活性は、当業者に公知の方法で求めることができる。抗体の抗原結合活性を求める方法としては、例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、および蛍光抗体法が挙げられる。例えば、酵素免疫測定法を用いる場合、抗体を含有する試料(精製抗体および抗体産生細胞の培養上清など)を、抗原でコーティングされたプレートに添加する。酵素(アルカリホスファターゼなど)で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。洗浄後、酵素基質(パラニトロフェニルリン酸など)を添加し、吸光度を測定することで、抗原結合活性を評価する。等価抗体のIL31-RAに対する結合および/または中和活性は、例えば、IL-31依存性の細胞株の増殖を抑制する効果を観察することにより、測定することができる。例えば、精製マウスIL-31抗体の活性は、マウスIL-31受容体αおよびマウスOSMR遺伝子をトランスフェクトしたBa/F3細胞の、IL-31依存的な増殖を評価することにより、アッセイすることができる。
【0050】
ネモリズマブ治療への応答についてのバイオマーカーとしての掻破痕
本発明者らは、引っ掻きを行わない患者よりも、そう痒を原因とする皮膚引っ掻きを行う患者において、抗そう痒薬がADに対してより大きな影響を与えるという仮説を立てた。理論に制限されるものではないが、痒みと掻破の悪循環は、ADの症状であるだけでなく、そう痒に応答して自身の皮膚を引っ掻く一部のAD患者のADの増悪因子であると考えられている。痒みと掻破の悪循環において、強い引っ掻き行動は、そう痒の増加および掻破痕と呼ばれる皮膚病変の増悪を起こし易くする。
【0051】
そう痒を原因とする皮膚の引っ掻きを行っている対象を特定する客観的方法は、引っ掻きによって生じた掻破痕を有する対象を特定することである。掻破痕は、引っ掻きまたは擦過などの外傷によって引き起こされた皮膚損傷を指す。本明細書に記載される方法のいくつかの実施形態では、掻破痕は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を有する病変の存在、数、および/または強度によって特定することができる:皮膚表面における線、亀裂もしくは破損、痂皮形成、漿液性痂皮、出血、発赤、皮膚擦過、または皮膚の裂け。亀裂掻破痕は、表皮を通じその下の真皮にまで至る線状の開裂を伴う掻破痕である。
【0052】
いくつかの実施形態では、掻破痕は、無し、軽度、中等度、または重度としてスコアリングする。「無し」、「軽度」、「中等度」、および「重度」は、掻破痕の存在、範囲、および/または強度を説明するための専門用語である。当業者であれば、これらの用語の境界線が分かる。例えば、医療従事者によって使用され、掻破痕を無し、軽度、中等度、および重度とスコアリングすることを含む、アトピー性皮膚炎を評価する方法としては、アトピー性皮膚炎評価法(Atopic Dermatitis Assessment Measure)(ADAM)、湿疹面積・重症度指標(EASI)、自記式EASI(self-administered EASI)(SA-EASI)、アトピー性皮膚炎スコアリング(SCORing Atopic Dermatitis)(SCORAD)、6領域6症候アトピー性皮膚炎指標(Six Area Six Sign Atopic Dermatitis Index)(SASSAD)、シンプルスコアリングシステム(Simple Scoring System)(SSS)、および3項目重症度スコア(Three Item Severity Score)(TIS)が挙げられ、これらに限定はされない。いくつかの実施形態では、無しというスコアはゼロという数字で表され、軽度というスコアは1という数字で表され、中等度というスコアは2という数字で表され、重度というスコアは3という数字で表される。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「無しから軽度」とは、無し、軽度、またはその間であるとスコアリングされた皮膚掻破痕を指す。いくつかの実施形態では、「無しから軽度」とは、0、1、1.5、0~1、1以下、または2未満とスコアリングされた皮膚掻破痕を指す。いくつかの実施形態では、「無しから軽度」とは、およそ0からおよそ1までの一連の皮膚掻破痕スコアを指す。本明細書で使用される場合、用語「中等度から重度」とは、中等度、重度、またはその間であるとスコアリングされた皮膚掻破痕を指す。いくつかの実施形態では、「中等度から重度」とは、2、2.5、3、2~3、または2以上とスコアリングされた皮膚掻破痕を指す。いくつかの実施形態では、「中等度から重度」とは、およそ2からおよそ3までの一連の皮膚掻破痕スコアを指す。
【0054】
いくつかの実施形態では、掻破痕のスコアリングは、以下の方法のうちの1つまたは複数に従って行う:SCORAD(Stalder, J.F. et al., Dermatol (1993), 186: 23-31で開示されており、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される)、患者指向のSCORAD(Patient-Oriented SCORAD)(Vourc’h-Jourdain, M. et al., Dermatology (2009) 218: 246-51で開示されており、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される)、ADAM(Charman, D. et al., J. Outcome Meas. (1999) 3: 21-34で開示されており、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される)、EASI(Tofte, S.J. et al., J Eur Acad Dermatol Venereol (1998) 11: S197で開示されており、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される)、SA-EASI(Housman T.S. et al., Br J Dermatol (2002) 147:1192-8で開示されており、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される)、SASSAD(Berth-Jones, J., Br J Dermatol (1996) 135: 25-30で開示されており、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される)、SSS(Costa, C. et al., Acta Derm Venereol (1989) 69: 42-5で開示されており、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される)、およびTIS(Wolkerstorfer, A. et al., Acta Derm. Venereol. (1999) 79: 356-59で開示されており、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される)。好ましい実施形態では、掻破痕のスコアリングはSCORAD法および/またはPO-SCORAD法に従って行われる。
【0055】
SCORAD法(SCORADおよびPO-SCORAD)は、代表的な掻破痕部位における掻破痕の存在および強度に基づいて、掻破痕を、無し(スコア=0)、軽度(スコア=1)、中等度(スコア=2)、または重度(スコア=3)とスコアリングすることを含む、ADの重症度を判定する方法である。代表的な掻破痕部位は、対象における、平均的な強度の掻破痕を含む部位である。SCORAD法に従って実施された掻破痕のスコアリングには、分数に基づいたスコアリング(例えば、0.5、1.5、または2.5などの0.5刻みのスコアリング(half-point scoring))は含まない。SCORAD掻破痕法に従ってスコアリングされた掻破痕の例示的な画像を図1A~1C、図2A~2Dに示す(Stalder et al. (1993), and Oranje, A.P. et al. (Pediatr. Allergy Immunol. (1997) 8: 28-34、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される))。
【0056】
EASI方法(EASIおよびSA-EASI)は、4つの身体領域(頭頸部、体幹、上肢、および下肢)のそれぞれにおける平均的な掻破痕強度に基づいて、掻破痕を、無し(スコア=0)、軽度(スコア=1)、中等度(スコア=2)、または重度(スコア=3)とスコアリングすることを含む、湿疹の重症度を判定する方法である。掻破痕が存在しない身体領域は無し(スコア=0)とスコアリングし、ぎりぎり知覚できる、数の乏しい、且つ/または表在性の掻破痕は軽度(スコア=1)とスコアリングし、多くの表在性掻破痕および/またはいくつかの深在性掻破痕を含む掻破痕は中等度(スコア=2)とスコアリングし、散在性の、広範な表在性掻破痕および/または多くの深在性掻破痕は重度(スコア=3)とスコアリングする。0.5刻みのスコア(half score)(例えば2.5)はEASI法では容認される。しかし、EASI法に基づいた掻破痕の存在に関する最小スコアは軽度(スコア=1)であるため、0.5というスコアは容認されない。EASI法でスコアリングされた掻破痕の代表的な画像の図解を図3A~3Dに示す。
【0057】
ADAM方法は、対象の皮膚に存在する掻破痕の総数に基づいて掻破痕をスコアリングすることを含む、ADの重症度を判定する方法である。5個未満の掻破痕は0とスコアリングし、5~20個の掻破痕は1とスコアリングし、20個より多い掻破痕は2とスコアリングし、亀裂の生じた掻破痕は3とスコアリングする。
【0058】
SASSAD法は、対象の6つの領域(手、腕、足、脚、頭頸部、および体幹)の各々の範囲内の、掻破痕が最も酷い部位における掻破痕の顕著さに基づいて、掻破痕を、無し(スコア=0)、軽度(スコア=1)、中等度(スコア=2)、または重度(スコア=3)とスコアリングすることを含む、ADの重症度を判定する方法である。SASSAD法では、掻破痕は、紅斑または蕁麻疹を原因とするものではなく、引っ掻きによって生じた皮膚への任意の損傷と定義される。SASSAD法において、掻破痕無しは慎重な検査を行った場合でも確実な検出ができないものであり、軽度の掻破痕は観察するために慎重な検査が必要な掻破痕が存在することであり、中等度の掻破痕は即座に分かる掻破痕が存在することであり、重度の掻破痕は非常に顕著な掻破痕が存在することである。
【0059】
SSS法は、対象の20箇所(頭皮、耳、頬周囲、眼窩周囲、顔面、頸部、胸部、腹、背中、肘、腕、腋窩、手と背側手首、手のひらと手首、殿部と鼠径部、膝窩、大腿部、脚、土踏まず、および足底)の各部位における重症度に基づいて、掻破痕および亀裂を、無し(スコア=0)、軽度(スコア=1)、中等度(スコア=2)、または重度(スコア=3)とスコアリングすることを含む、ADの重症度を判定する方法である。
【0060】
SCORADと同様、TIS法は、最も代表的な掻破痕部位における掻破痕の存在および強度に基づいて、掻破痕を、無し(スコア=0)、軽度(スコア=1)、中等度(スコア=2)、または重度(スコア=3)の段階でスコアリングすることを含む、ADの重症度を判定する方法である。代表的な掻破痕部位は、対象における、平均的な強度の掻破痕を含む部位である。TIS法に従って実施された掻破痕のスコアリングには、分数に基づいたスコアリング(例えば、0.5、1.5、または2.5などの0.5刻みのスコアリング(half-point scoring))は含まない。
【0061】
そう痒を原因とする皮膚の引っ掻きを行っているAD患者がネモリズマブ治療に対するレスポンダー亜集団となるという仮説の検証ために、中等度から重度のADを有する成人にネモリズマブを皮下投与した試験の公開データ((Ruzicka, T. et al. N. Engl. J. Med. (2017), 376: 826-35、この開示の全体が参照によって本明細書に援用される)を解析し、掻破所見のある患者における治療の効果を求めた。Ruzickaらのネモリズマブ試験のAD患者は皮膚掻破痕に基づいて、(i)ベースライン時に無しから軽度の掻破痕を有するAD患者と、(ii)ベースライン時に中等度から重度の掻破痕を有するAD患者の、2つの群に分けられた。掻破痕はSCORAD法に従ってスコアリングされた。次に、この試験の各パラメーターを再度分析し、プラセボとの比較で、各集団における相対治療効果の比較を行った。
【0062】
このRuzickaらのネモリズマブ試験は、12週間に亘って実施され、264人の患者が参加した、第2相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であった(臨床試験番号NCT01986933)。適格患者は、外用療法で適切に制御されていない中等度から重度のアトピー性皮膚炎を有する成人とされた。患者は、ADに伴って活動性皮膚疾患を有する場合、この試験には不適格とされた。登録患者には、ネモリズマブまたはプラセボを4週間毎に0.1mg/kg、0.5mg/kg、または2.0mg/kgの投与量で皮下投与した。一部の患者には、代わりに、8週間毎に2.0mg/kgの投与量で投与を行った。この試験の主要評価項目は、そう痒視覚アナログ尺度(VAS)スコアの改善とされた。さらなる評価項目として、アトピー性皮膚炎の体表面積および湿疹面積・重症度指標(EASI)の改善が含まれた。この試験の終わりに、12週間目において、-42.3%という、最大パーセントのEASIスコアの変化が、0.5mg/kgネモリズマブを4週間毎に投与された群で生じた。この投与量は最良のベネフィット-リスクプロファイルをも示した。しかし、EASIスコアの改善はその他の投与量群でも見られた(0.1mg群で-23.0%、2.0mg群でで-40.9%)。各投与量において、VASスコアにも改善が見られた。
【0063】
Ruzickaらのネモリズマブ試験の、本発明者らによる解析の結果を、下記の表1および表2に示す。そう痒VASスコアは、0(痒み無し)から100(想像され得る最悪の痒み)までの範囲をとり、電子記録ツールを用いて患者によって毎日記録された。VASスコアにおける負の変化は改善を表す。EASIスコアは0から72までの範囲をとり、スコアが高いほど疾患重症度がより高いことを表す。治験責任医師による全般評価(IGA)スコアは、0(無し)から5(極めて重症)までの範囲をとり、指定集団における患者の割合として表される。睡眠は、全身の運動を記録に取る、睡眠効率をはじめとする睡眠測定値を記録するのに有効なモーション検知法である、アクチグラフィーによって記録された睡眠測定値を指す。睡眠効率は総睡眠時間を総就床時間で割ったものである。皮膚科学的生活の質指標(Dermatology Life Quality Index)(DLQI)スコアは0から30までの範囲を取り、スコアが高いほど生活の質がより低いことを示す。Ruzickaらの試験に適格であるためには、患者は、ベースラインEASIスコアが少なくとも10であり、ベースラインそう痒VASスコアが少なくとも50mmであり、且つ、ベースラインIGAスコアが少なくとも3であることを必要とされた。
【0064】
表1に示されているように、この試験の2つのAD患者群は同程度のそう痒、DLQI、および睡眠効率を示した。EASIおよびIGAは2群間で釣り合っていないが、これら2つのパラメーターは掻破痕の有無に影響を受けることから、これは予想されていたことである。
【0065】
(表1)ベースライン時の臨床的特徴
【0066】
表2に示されているように、掻破痕の存在はAD患者におけるネモリズマブ治療の有効性に影響を与えた。中等度から重度の掻破痕を有する患者集団で、全てのパラメーターにおいて、12週目の治療成績が改善した。これらの結果は、2群間で正味の効果(ネモリズマブの効果-プラセボの効果)を比較することにより得られた。例えば、ネモリズマブによる治療後に、無しから軽度の掻破痕を有する患者は睡眠効率において13%の改善を示した。対照的に、中等度から重度の掻破痕を有する患者は睡眠効率において39%の改善を示し、無しから軽度の掻破痕集団よりも3倍良好な応答であった。
【0067】
(表2)治療成績
【0068】
表2に示されているデータは、中等度から重度の掻破痕の存在が、AD患者におけるネモリズマブ治療の有効性を予測するためのバイオマーカーとなることを明らかとしている。
【0069】
従って、本明細書において、ネモリズマブ治療またはその等価物による治療に応答しそうである、アトピー性皮膚炎を有する対象を特定する方法であって、前述の対象の皮膚の1つまたは複数の掻破痕を検出することを含む、該検出することから成る、または該検出することから実質的に成る方法が提供される。いくつかの実施形態において、アトピー性皮膚炎を有する対象がネモリズマブ治療またはその等価物による治療に応答しそうであるかどうかを判定する方法であって、前述の対象の皮膚の1つまたは複数の掻破痕を検出することを含む、該検出することから成る、または該検出することから実質的に成る方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、アトピー性皮膚炎を有する対象がネモリズマブ治療またはその等価物による治療に応答しそうであるかどうかを予測する方法であって、前述の対象の皮膚の1つまたは複数の掻破痕を検出することを含む、該検出することから成る、または該検出することから実質的に成る方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕はそう痒により引き起こされたものである。
【0070】
いくつかの実施形態では、前述の方法は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、もしくは50、またはそれ以上の皮膚掻破痕を検出することを含む。いくつかの実施形態では、皮膚掻破痕の程度の検出は、総病変皮膚表面積、病変部位の数および/もしくはサイズ、または病変の体表面積パーセントを検出することによって行われる。いくつかの実施形態では、掻破痕は、前述の対象の平均強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に検出されるものである。いくつかの実施形態では、掻破痕は、前述の対象の最悪な(すなわち、最も重度の)強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に検出されるものである。いくつかの実施形態では、前述の平均強度または最悪強度の掻破痕は、対象の以下の部位のうちの1つまたは複数において検出されるものである:手、腕、足、脚、頭部、頸部、頭頸部、体幹、上肢、下肢、頭皮、耳、頬周囲、眼窩周囲、顔、首、胸、腹、背中、肘、腕、腋窩、手と背側手首、手のひらと手首、殿部と鼠径部、膝窩、大腿部、脚、土踏まず、および足底。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は医療専門家によって検出される。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は前述の対象によってまたは前述の対象の成人保護者によって検出される。
【0071】
いくつかの実施形態では、前述の方法は、本明細書に記載の基準に従って、前述の掻破痕を軽度、中等度、または重度とスコアリングすることをさらに含む。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法、PO-SCORAD法、ADAM法、EASI法、SA-EASI法、SASSAD法、SSS法、および/またはTIS法に従って、無し(0とスコアリング)、軽度(1とスコアリング)、中等度(2とスコアリング)、または重度(3とスコアリング)とスコアリングされる。好ましい実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法またはPO-SCORAD法に従ってスコアリングされる。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は医療専門家によってスコアリングされる。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は前述の対象によってまたは前述の対象の成人保護者によってスコアリングされる。
【0072】
いくつかの実施形態では、前述の方法は、中等度から重度とスコアリングされた掻破痕が検出された場合に、前述の対象をネモリズマブ治療またはその等価物に応答しそうであると特定することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前述の方法は、中等度から重度とスコアリングされた掻破痕が検出された場合に、アトピー性皮膚炎を有する前述の対象が、ネモリズマブ治療またはその等価物による治療に応答しそうであると判定することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前述の方法は、中等度から重度とスコアリングされた掻破痕が検出された場合に、アトピー性皮膚炎を有する対象が、ネモリズマブ治療またはその等価物による治療に応答しそうであると予測することをさらに含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、前述の方法は、無しから軽度とスコアリングされた掻破痕が検出されない場合に、前述の対象を、ネモリズマブ治療またはその等価物に応答しそうでないと判定することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前述の方法は、無しから軽度とスコアリングされた掻破痕が検出されない場合に、アトピー性皮膚炎を有する前述の対象が、ネモリズマブ治療またはその等価物による治療に応答しそうでないと判定することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前述の方法は、無しから軽度とスコアリングされた掻破痕が検出されない場合に、アトピー性皮膚炎を有する対象が、ネモリズマブ治療またはその等価物による治療に応答しそうでないと予測することをさらに含む。
【0074】
医薬組成物
本明細書において、1つまたは複数の皮膚掻破痕を有すると判定された対象のアトピー性皮膚炎の治療における使用のための医薬組成物であって、ネモリズマブまたはその等価物を含む、それから成る、またはそれから実質的に成る、前述の医薬組成物が提供される。さらに、本開示では、ネモリズマブまたはその等価物を活性成分として含む、ADに対する治療薬が提供される。
【0075】
いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、医療専門家、前述の対象、または前述の対象の成人保護者によって以前に検出および/またはスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法、PO-SCORAD法、ADAM法、EASI法、SA-EASI法、SASSAD法、SSS法、および/またはTIS法のうちの1つまたは複数に従ってスコアリングされたものである。好ましい実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法またはPO-SCORAD法に従ってスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は中等度から重度とスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は2~3のスコアを有する。いくつかの実施形態では、前述の対象は無しから軽度とスコアリングされた皮膚掻破痕を有さない。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は0~1のスコアを有さない。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は軽度ではない。いくつかの実施形態では、前述のスコアリングされた掻破痕は、前述の対象の平均強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に存在するものである。いくつかの実施形態では、前述のスコアリングされた掻破痕は、前述の対象の最悪強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に存在するものである。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕はそう痒により引き起こされたものである。いくつかの実施形態では、前述の対象は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、もしくは50、またはそれ以上の、中等度から重度の皮膚掻破痕を有する。
【0076】
「ネモリズマブまたはその等価物を活性成分として含む」という表現は、ネモリズマブまたはその等価物を活性成分の少なくとも1つとして含むことを意味し、当該抗体の比率は限定していない。さらに、本開示におけるADに対する治療薬は、ネモリズマブまたはその等価物と組み合わせて、ADの治療を増強する他の成分を含んでもよい。例えば、前述の組成物は、1つまたは複数のカルシニューリン阻害剤(例えば、カルシニューリン阻害外用薬)、皮膚軟化薬、ステロイド外用薬類(例えば、グルココルチコイド外用薬)、および経口抗ヒスタミン薬を含んでもよい。
【0077】
本開示のネモリズマブまたはその等価物の医薬組成物は、標準方法に従って製剤として調製することができる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Scienceを参照、マーク出版社(Mark Publishing Company)、イーストン、米国)。いくつかの実施形態では、前述の医薬組成物は担体および/または添加剤を含む。いくつかの実施形態では、前述の担体は薬学的に許容される担体である。例えば、いくつかの実施形態では、前述の医薬組成物は、1つまたは複数の、界面活性剤(例えば、PEGおよびTween)、賦形剤、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)、着色剤、香味剤、保存剤、安定剤、緩衝剤(例えば、リン酸、クエン酸、および他の有機酸)、キレート化剤(例えば、EDTA)、懸濁化剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、軽質無水ケイ酸、ラクトース、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、スクロース、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、および無機塩を含む。いくつかの実施形態では、前述の医薬組成物は、1つまたは複数の、他の低分子量ポリペプチド、タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン、および免疫グロブリンなど)、およびアミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、およびリジンなど)を含む。
【0078】
ネモリズマブまたはその等価物を注射用の水溶液として調製する場合、ネモリズマブまたはその等価物は、例えば、生理食塩水、ブドウ糖、または他の補助剤を含有する等張液中に溶解され得る。前述の補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムを挙げることができる。さらに、好適な溶解補助剤、例えば、アルコール類(例えば、エタノール)、多価アルコール類(例えば、プロピレングリコールおよびPEG)、および非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80およびHCO-50)を併用してもよい。
【0079】
適宜、ネモリズマブまたはその等価物は、マイクロカプセル(ヒロドキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリメチルメタクリレートなどから構成されるマイクロカプセル)に閉じ込められ、コロイド型ドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)の構成要素とされ得る(例えば、「Remington’s Pharmaceutical Science 16th edition」 & Oslo Ed. (1980)を参照)。さらに、徐放剤の作製法は公知であり、これらをネモリズマブまたはその等価物に適用することができる(Langer et al., J. Biomed. Mater. Res. (1981) 15, 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982) 12, 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願(EP)第58,481号;Sidman et al., Biopolymers (1983) 22, 547-56;欧州特許出願133,988号)。
【0080】
本開示の医薬組成物は、経口投与および非経口投与のいずれも可能であるが、非経口的に投与されることが好ましい。具体的には、前述の医薬組成物は、注射または経皮投与によって患者に投与される。注射としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、および皮下注射が挙げられ、全身投与であっても局所投与であってもよい。前述の医薬組成物は、炎症抑制がなされるべき部位、または当該部位の周辺領域に、局所注入または筋肉内注射によって投与され得る。いくつかの実施形態では、前述の医薬組成物は、1つまたは複数の皮膚掻破痕の部位に、または1つまたは複数の皮膚掻破痕の部位の近位に投与される。
【0081】
投与方法は、患者の年齢および状態に応じて適切に選択することができる。単回投与用量は、例えば、体重1kg当たり0.0001~100mgの活性成分の範囲内から選択することができる。あるいは、例えば、前述の薬剤がヒト患者に投与される場合、活性成分の投与量は、0.001~1,000mg/kg体重の範囲内から選択することができる。いくつかの実施形態では、前述の組成物は、例えば、約0.01~50mg/kg、約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.05mg/kg~0.15mg/kg、約0.1mg/kg~約0.6mg/kg、約0.1mg/kg~約1mg/kg、約0.25mg/kg~約0.75mg/kg、約0.4mg/kg~約0.8mg/kg、約0.4mg/kg~約1.8mg/kg、約0.5~約2.5mg/kg、約0.8mg/kg~約2.2mg/kg、約1mg/kg~約2.5mg/kg、約1mg/kg~約3.5mg/kg、約1mg/kg~約5mg/kg、約2mg/kg~約4mg/kg、約2.5mg/kg~約10mg/kg、約5mg/kg~約10mg/kg、約10mg/kg~約20mg/kg、約10mg/kg~約40mg/kg、約20mg/kg~約50mg/kg、約25mg/kg~約75mg/kg、約50mg/kg~約100mg/kg、約100mg/kg~約500mg/kg、または約100mg/kg~約1000mg/kg体重のネモリズマブまたはその等価物を含有する用量を投与するように製剤化される。好ましい実施形態では、前述の用量は、約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1.5mg/kg、約1.5mg/kg~約2.5mg/kg、または約2.5mg/kg~約10mg/kgの範囲である。いくつかの実施形態では、前述の用量は、約0.01mg/kg、約0.02mg/kg、約0.03mg/kg、約0.04mg/kg、約0.05mg/kg、約0.06mg/kg、約0.07mg/kg、約0.08mg/kg、約0.09mg/kg、約0.1mg/kg、約0.2mg/kg、約0.3mg/kg、約0.4mg/kg、約0.5mg/kg、約0.6mg/kg、約0.7mg/kg、約0.8mg/kg、約0.9mg/kg、約1mg/kg、約1.1mg/kg、約1.2mg/kg、約1.3mg/kg、約1.4mg/kg、約1.5mg/kg、約1.6mg/kg、約1.7mg/kg、約1.8mg/kg、約1.9mg/kg、約2mg/kg、約2.1mg/kg、約2.2mg/kg、約2.3mg/kg、約2.4mg/kg、約2.5mg/kg、約2.6mg/kg、約2.7mg/kg、約2.8mg/kg、約2.9mg/kg、約3mg/kg、約3.5mg/kg、約4mg/kg、約4.5mg/kg、約5mg/kg、約6mg/kg、約7mg/kg、約8mg/kg、約9mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約25mg/kg、約50mg/kg、約75mg/kg、約100mg/kg、約500mg/kg、または約1,000mg/kgである。特定の実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物の前述の有効量は、約0.1mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約1.5mg/kg、約2mg/kg、または約2.5mg/kgである。好ましい実施形態では、前述の用量は約0.5mg/kgである。
【0082】
いくつかの実施形態では、単回投与用量は、例えば、1~100mg、またはより具体的には、約10~約90mg、約20~約80mg、約25~約70mg、または約30~約60mgの範囲内の活性成分(すなわち、ネモリズマブまたはその等価物)から選択され得る。例えば、いくつかの実施形態では、単回投与用量は、約1mg、約5mg、約10mg、約15mg、約20mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65約、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、または約100mgであり得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、前述の単回投与用量は経時的に変化し得る。例えば、対象には、後に投与される「維持量」よりも高用量の「負荷投与量」が初めに投与され得る。いくつかの実施形態では、対象は、初期負荷投与量60mgのネモリズマブ(またはその等価物)が1回または複数回投与され、その後、維持量30mgが投与され得る。他の実施形態では、前述の初期投与量とその後の投与量とが同じであってもよい。例えば、前述の初期投与量とその後の投与量とが60mgであってもよい。これら実施形態のいずれにおいても、前述の抗体(ネモリズマブまたはその等価物)は、対象に、ステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬などの第二の活性薬剤と一緒に投与されてもよいし、単独で投与されてもよい。
【0084】
治療方法
いくつかの実施形態において、1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎を選択的に治療する方法であって、前述の対象にネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することを含む、該投与することから成る、該投与することから実質的に成る方法が提供される。
【0085】
いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、医療専門家、前述の対象、または前述の対象の成人保護者によって以前に検出および/またはスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法、PO-SCORAD法、ADAM法、EASI法、SA-EASI法、SASSAD法、SSS法、および/またはTIS法のうちの1つまたは複数に従ってスコアリングされたものである。好ましい実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法またはPO-SCORAD法に従ってスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は中等度から重度とスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は2~3のスコアを有する。いくつかの実施形態では、前述の対象は無しから軽度とスコアリングされた皮膚掻破痕を有さない。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は0~1のスコアを有さない。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は軽度ではない。いくつかの実施形態では、前述のスコアリングされた掻破痕は、前述の対象の平均強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に存在するものである。いくつかの実施形態では、前述のスコアリングされた掻破痕は、前述の対象の最悪強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に存在するものである。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕はそう痒によって引き起こされたものである。いくつかの実施形態では、前述の対象は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、もしくは50、またはそれ以上の、中等度から重度の皮膚掻破痕を有する。
【0086】
「有効量」は、ADおよび/またはそう痒の1つまたは複数の症状を少なくとも軽減するなどの、有益な結果または目的の結果を奏するのに十分な量である。本明細書で使用される場合、有効量には、ADおよび/もしくはそう痒の発症を遅延するのに、ADおよび/もしくはそう痒の症状の経過(例えば、睡眠効率)を変化させるのに、または、ADおよび/もしくはそう痒の症状を改善するのに、十分な量も含まれる。すなわち、正確な「有効量」を特定することはできない。しかし、いかなる所与の症例においても、当業者は通例の実験法だけを用いて好適な「有効量」を決定することができる。
【0087】
有効量は、1回または複数回の投与、塗布、または投薬で投与することができる。そのような送達はいくつかの変数に依存しており、例えば、個々の投薬単位が使用される期間、治療薬の生物学的利用能、投与経路などが挙げられる。しかし、任意の特定の対象に対する本開示の治療薬の特定の用量レベルは、使用される特定の化合物の活性、対象の年齢、体重、全体的な健康、性別、および食事、投与時期、排泄速度、薬剤の組み合わせ、治療中の特定の障害の重症度、並びに投与形態をはじめとする、種々の因子に依存することを理解されたい。治療投与量は一般的には安全性および有効性を最適化するように用量設定され得る。投与量は、医師が決定し、観察された治療効果に適合させるように適宜調整することができる。通常、インビトロおよび/またはインビボの試験で得られた投与量と効果の関係が、はじめに、患者投与に適した投与量に関しての有用な指針となり得る。一般的には、インビトロで効果的であることが確認された濃度に応じた血清中濃度を達成するのに有効な量の化合物を投与することが望まれる。これらのパラメーターの決定は十分に当業者の技能の範囲内である。これらの考え、並びに効果的な製剤および投与法は、当該技術分野において周知であり、標準的な教本に記載されている。
【0088】
いくつかの実施形態では、前述の対象に投与されるネモリズマブまたはその等価物の用量は、前述の対象の体重1kg当たり0.001~1,000mgの範囲内である。いくつかの実施形態では、前述の用量は、約0.01~50mg/kg、約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.05mg/kg~0.15mg/kg、約0.1mg/kg~約0.6mg/kg、約0.1mg/kg~約1mg/kg、約0.25mg/kg~約0.75mg/kg、約0.4mg/kg~約0.8mg/kg、約0.4mg/kg~約1.8mg/kg、約0.5~約2.5mg/kg、約0.8mg/kg~約2.2mg/kg、約1mg/kg~約2.5mg/kg、約1mg/kg~約3.5mg/kg、約1mg/kg~約5mg/kg、約2mg/kg~約4mg/kg、約2.5mg/kg~約10mg/kg、約5mg/kg~約10mg/kg、約10mg/kg~約20mg/kg、約10mg/kg~約40mg/kg、約20mg/kg~約50mg/kg、約25mg/kg~約75mg/kg、約50mg/kg~約100mg/kg、約100mg/kg~約500mg/kg、または約100mg/kg~約1000mg/kg体重の範囲の、ネモリズマブまたはその等価物である。好ましい実施形態では、前述の用量は、約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1.5mg/kg、約1.5mg/kg~約2.5mg/kg、または約2.5mg/kg~約10mg/kgの範囲である。いくつかの実施形態では、前述の用量は、約0.01mg/kg、約0.02mg/kg、約0.03mg/kg、約0.04mg/kg、約0.05mg/kg、約0.06mg/kg、約0.07mg/kg、約0.08mg/kg、約0.09mg/kg、約0.1mg/kg、約0.2mg/kg、約0.3mg/kg、約0.4mg/kg、約0.5mg/kg、約0.6mg/kg、約0.7mg/kg、約0.8mg/kg、約0.9mg/kg、約1mg/kg、約1.1mg/kg、約1.2mg/kg、約1.3mg/kg、約1.4mg/kg、約1.5mg/kg、約1.6mg/kg、約1.7mg/kg、約1.8mg/kg、約1.9mg/kg、約2mg/kg、約2.1mg/kg、約2.2mg/kg、約2.3mg/kg、約2.4mg/kg、約2.5mg/kg、約2.6mg/kg、約2.7mg/kg、約2.8mg/kg、約2.9mg/kg、約3mg/kg、約3.5mg/kg、約4mg/kg、約4.5mg/kg、約5mg/kg、約6mg/kg、約7mg/kg、約8mg/kg、約9mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約25mg/kg、約50mg/kg、約75mg/kg、約100mg/kg、約500mg/kg、または約1,000mg/kgである。特定の実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物の前述の有効量は、約0.1mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約1.5mg/kg、約2mg/kg、または約2.5mg/kgである。好ましい実施形態では、前述の用量は約0.5mg/kgである。
【0089】
いくつかの実施形態では、単回投与用量は、例えば、1~100mg、またはより具体的には、約10~約90mg、約20~約80mg、約25~約70mg、または約30~約60mgの範囲内の活性成分(すなわち、ネモリズマブまたはその等価物)から選択され得る。例えば、いくつかの実施形態では、単回投与用量は、約1mg、約5mg、約10mg、約15mg、約20mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65約、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、または約100mgであり得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、前述の単回投与用量は経時的に変化し得る。例えば、対象には、後に投与される「維持量」よりも高用量の「負荷投与量」が初めに投与され得る。いくつかの実施形態では、対象は、初期負荷投与量60mgのネモリズマブ(またはその等価物)が1回または複数回投与され、その後、維持量30mgが投与され得る。他の実施形態では、前述の初期投与量とその後の投与量とが同じであってもよい。例えば、前述の初期投与量とその後の投与量とが60mgであってもよい。これら実施形態のいずれにおいても、前述の抗体(ネモリズマブまたはその等価物)は、対象に、ステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬などの第二の活性薬剤と一緒に投与されてもよいし、単独で投与されてもよい。
【0091】
前述の方法のいくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、局所経路または非経口経路によって投与される。前述の方法のいくつかの実施形態では、前述のネモリズマブまたはその等価物は、皮下投与される。いくつかの実施形態では、前述の投与量は、皮下に投与されるか、または1つまたは複数の掻破痕の部位にまたはその近位に投与される。
【0092】
いくつかの実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物は、毎日、一日おき、週2回、週3回、週4回、週5回、週6回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、8週間に1回、9週間に1回、10週間に1回、11週間に1回、12週間に1回、1年に2回、1年に1回、および/または、アトピー性皮膚炎もしくはそう痒の症状の様子に基づいて必要に応じて、投与される。好ましい実施形態では、ネモリズマブまたはその等価物は、4週間毎または8週間毎に投与される。
【0093】
特定の実施形態では、投与量および用量スケジュールの両方が、治療方法を開始する前に決定され得る。例えば、対象は、約30~約60mgのネモリズマブまたはその等価物を、2週間に1回(Q2W)、3週間に1回(Q3W)、4週間に1回(Q4W)、5週間に1回(Q5W)、6週間に1回(Q6W)、7週間に1回(Q7W)、または8週間に1回(Q8W)、単独または第二の活性薬剤(例えば、ステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬)と組み合わせて、投与され得る。いくつかの実施形態では、対象は、初回負荷投与量60mgのネモリズマブまたはその等価物を投与され、その後、維持量30mgのネモリズマブまたはその等価物を4週間に1回(Q4W)投与され得る。いくつかの実施形態では、前述の維持量は、8週間に1回(Q8W)という低頻度で投与されてもよい。このような治療計画では、ステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬を併用して投与が行われてもよいし、併用無しで投与が行われてもよい。別の実施形態では、対象は、投与量60mgのネモリズマブまたはその等価物を、4週間に1回(Q4W)、経時的に投与量を減少させずに、投与され得る。いくつかの実施形態では、前述の投与量は、8週間に1回(Q8W)という低頻度で投与されてもよい。このような治療計画では、ステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬を併用して投与が行われてもよいし、併用無しで投与が行われてもよい。
【0094】
あるいは、特定の投与計画における投与量は、所定の投与量ではなく、対象の体重に応じた投与が行われ得る(例えば、mg/kg)。例えば、対象は、約0.1~約2.0mg/kgのネモリズマブまたはその等価物を、2週間に1回(Q2W)、3週間に1回(Q3W)、4週間に1回(Q4W)、5週間に1回(Q5W)、6週間に1回(Q6W)、7週間に1回(Q7W)、または8週間に1回(Q8W)、単独または第二の活性薬剤(例えば、ステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬)と組み合わせて、投与され得る。いくつかの実施形態では、対象は、初回負荷投与量0.1mg/kg、0.5mg/kg、または2.0mg/kgのネモリズマブまたはその等価物を投与され、その後、初回負荷投与量よりも少ない維持量のネモリズマブまたはその等価物を4週間に1回(Q4W)投与され得る。いくつかの実施形態では、前述の維持量は、8週間に1回(Q8W)という低頻度で投与されてもよい。このような治療計画では、ステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬を併用して投与が行われてもよいし、併用無しで投与が行われてもよい。別の実施形態では、対象は、投与量0.1mg/kg、0.5mg/kg、または2.0mg/kgのネモリズマブまたはその等価物を、4週間に1回(Q4W)、経時的に投与量を減少させずに、投与され得る。いくつかの実施形態では、前述の投与量は、8週間に1回(Q8W)という低頻度で投与されてもよい。このような治療計画では、ステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬を併用して投与が行われてもよいし、併用無しで投与が行われてもよい。
【0095】
いくつかの実施形態では、治療期間は、約1日、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、約14週間、約15週間、約16週間、約17週間、約18週間、約19週間、約20週間、約24週間、約30週間、約36週間、約40週間、約48週間、約50週間、約1年間、約2年間、約3年間、約4年間、約5年間、または、アトピー性皮膚炎の症状の様子に基づいて必要に応じた治療期間である。好ましい実施形態では、治療期間は、約12週間~約24週間、約12週間~約36週間、約12週間~約48週間、または約24週間~約36週間である。
【0096】
いくつかの実施形態において、1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象のアトピー性皮膚炎の治療のための医薬の製造におけるネモリズマブまたはその等価物の使用が提供される。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、医療専門家、前述の対象、または前述の対象の成人保護者によって以前に検出および/またはスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法、PO-SCORAD法、ADAM法、EASI法、SA-EASI法、SASSAD法、SSS法、および/またはTIS法のうちの1つまたは複数に従ってスコアリングされたものである。好ましい実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法またはPO-SCORAD法に従ってスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は中等度から重度とスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は2~3のスコアを有する。いくつかの実施形態では、前述の対象は無しから軽度とスコアリングされた皮膚掻破痕を有さない。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は0~1のスコアを有さない。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は軽度ではない。いくつかの実施形態では、前述のスコアリングされた掻破痕は、前述の対象の平均強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に存在するものである。いくつかの実施形態では、前述のスコアリングされた掻破痕は、前述の対象の最悪強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に存在するものである。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕はそう痒により引き起こされたものである。いくつかの実施形態では、前述の対象は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、もしくは50、またはそれ以上の、中等度から重度の皮膚掻破痕を有する。
【0097】
いくつかの実施形態において、アトピー性皮膚炎を有する患者を治療する方法であって、(a)アトピー性皮膚炎を有する前述の患者を、皮膚掻破痕についてスクリーニングする工程と、(b)工程(a)でスクリーニングされた前述の患者を、ネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することにより治療する工程とを含む、それらの工程から成る、またはそれらの工程から実質的に成る方法が提供される。いくつかの実施形態では、工程(a)でスクリーニングされた前述の患者は、皮膚掻破痕を有する。いくつかの実施形態では、スクリーニングは、掻破痕の検出および/またはスコアリングを含む。いくつかの実施形態では、掻破痕は、SCORAD法、PO-SCORAD法、ADAM法、EASI法、SA-EASI法、SASSAD法、SSS法、および/またはTIS法のうちの1つまたは複数に従ってスコアリングされる。好ましい実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法またはPO-SCORAD法に従ってスコアリングされる。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は中等度から重度とスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は2~3のスコアを有する。いくつかの実施形態では、前述の患者は無しから軽度とスコアリングされた皮膚掻破痕を有さない。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は0~1のスコアを有さない。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は軽度ではない。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、前述の患者の平均強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の患者の皮膚の特定の領域または部位において、スクリーニングされる。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、前述の患者の最悪強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の患者の皮膚の特定の領域または部位において、スクリーニングされる。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕はそう痒により引き起こされたものである。いくつかの実施形態では、前述の患者は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、もしくは50、またはそれ以上の、中等度から重度の皮膚掻破痕を有する。
【0098】
いくつかの実施形態において、アトピー性皮膚炎に罹患しており且つ1つまたは複数の皮膚掻破痕を有する対象の睡眠の質を改善する方法であって、前述の対象にネモリズマブまたはその等価物の有効量を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、入眠潜時、総睡眠時間、睡眠効率、または中途覚醒時間のうちの1つまたは複数の改善を検出することにより、睡眠の質の改善が判定される。上記のように、睡眠効率は総睡眠時間を総就床時間で割ったものと定義される。いくつかの実施形態では、アクチグラフィー、動作検知、ビデオモニタリング、および/または自己申告のうちの1つまたは複数によって、睡眠の質が記録または検出される。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、医療専門家、前述の対象、または前述の対象の成人保護者によって以前に検出および/またはスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法、PO-SCORAD法、ADAM法、EASI法、SA-EASI法、SASSAD法、SSS法、および/またはTIS法のうちの1つまたは複数に従ってスコアリングされたものである。好ましい実施形態では、前述の掻破痕は、SCORAD法またはPO-SCORAD法に従ってスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は中等度から重度とスコアリングされたものである。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は2~3のスコアを有する。いくつかの実施形態では、前述の対象は無しから軽度とスコアリングされた皮膚掻破痕を有さない。いくつかの実施形態では、前述の掻破痕は0~1のスコアを有さない。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕は軽度ではない。いくつかの実施形態では、前述のスコアリングされた掻破痕は、前述の対象の平均強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に存在するものである。いくつかの実施形態では、前述のスコアリングされた掻破痕は、前述の対象の最悪強度の掻破痕を代表する掻破痕を含む前述の対象の皮膚の特定の領域または部位に存在するものである。いくつかの実施形態では、前述の皮膚掻破痕はそう痒により引き起こされたものである。いくつかの実施形態では、前述の対象は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、もしくは50、またはそれ以上の、中等度から重度の皮膚掻破痕を有する。
【0099】
ネモリズマブまたはその等価物による治療の成功は、AD、そう痒、またはそのそれぞれの1つまたは複数の症状の、改善、軽減、消失、または回復を検出することで、判定または評価することができる。例えば、以下のうちの1つまたは複数における改善を検出することにより、成功を判定することができる:皮膚掻破痕の数、皮膚掻破痕の強度、掻破痕スコア、対象のそう痒VASスコア、対象のDLQIスコア、睡眠効率、入眠潜時、総睡眠時間、中途覚醒、病変の体表面積パーセント、対象のEASIスコア、対象のIGAスコア、皮膚乾燥の程度もしくは量、そう痒の頻度もしくは有無、そう痒の重症度、皮膚の発赤、隆起したできものの頻度、皮膚の肥厚の程度もしくは量、皮膚のひび割れの程度もしくは量、皮膚の鱗状化の程度もしくは量、皮膚の皮剥けの程度もしくは量、敏感肌の程度もしくは量、および/または、皮膚の腫れの程度もしくは量。いくつかの実施形態では、成功は、ADおよび/またはそう痒が「治癒した」または「治った」と見なされるかどうかならびに全ての症状が解消したかどうかには依存しない。
【実施例0100】
外用療法による制御が不十分である中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者において、4週間毎(Q4W)または8週間毎(Q8W)に注射した場合の、ネモリズマブの連続皮下投与の、長期の有効性および安全性を評価するために、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、用量設定試験を実施した。この試験はKabashima, et al., J Allergy Clin Immunol (2018) 142(4)1121に公表されており、この刊行物は、図面も含め、参照によってその全体が援用される。主要評価項目解析において、そう痒視覚アナログ尺度(VAS)を用いて評価を行ったところ、ネモリズマブを4週間毎(Q4W)に投与した場合、第12週にベースラインからのそう痒の大幅な改善が見られた。報告されたそう痒VASスコアの減少率は、0.1mg/kg群では-44%、0.5mg/kg群では-60%、2.0mg/kg群では-63%であり、それに対し、プラセボ群では-21%であった(全ての比較においてP<.01)。プラセボとの比較において、AD疾患重症度および体表面病変、並びに睡眠障害における改善も、第12週で認められた。
【0101】
方法
試験デザイン
本試験は2部に分けて実施した(図4)。パートAにおいては、0.1mg/kg、0.5mg/kg、もしくは2.0mg/kgの皮下投与(Q4W)、および2.0mg/kgの皮下投与(Q8W)という、ネモリズマブの4つの投与計画、またはプラセボの皮下投与(Q4W)について、12週間に亘ってネモリズマブを評価した。パートAの完了後、患者は二重盲検継続試験期に移行し、さらに52週間(第12週~第64週、パートB)、予め割り当てられた投与量のネモリズマブ投与を継続した。パートAにてプラセボへと無作為に割り付けられた患者は、中央集中型の自動音声応答型またはオンライン応答型システムを用いて、1:1:1の比で、パートBのネモリズマブ(0.1、0.5、または2.0mg/kg、皮下、Q4W)へと無作為に再度割り付けられた(プラセボ処置患者の、ネモリズマブ2.0mg/kgQ8Wへの無作為再度割り付けは行わなかった)。全ての患者に、パートAの最後の来院から7日間以内にパートBに移行することが求められた。パートBで盲検化を維持するため、試験監視チーム、試験現場人員、および他の現場/会社人員には、試験完了後の最終データベースがロックされるまで、治療割り付けについて知らせなかった。試験は、医薬品の臨床試験の実施の基準(Good Clinical Practice)およびヘルシンキ宣言に関するガイドラインに従って実施した。各試験センターの、施設内倫理委員会または治験審査委員会の承認を得た。全ての患者から、書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0102】
試験集団
重要な適格基準を図4に記載する。パートBに移行するために、患者は、パートA治療期間を完了していることと、継続試験期の参加について書面によるインフォームドコンセントを提出していることが求められた。
【0103】
試験手順
本試験のパートBでは、患者に、ネモリズマブの3つの投与量(0.1、0.5、または2.0mg/kg)のうちの1つの皮下投与Q4W、またはネモリズマブ2.0mg/kgの皮下投与Q8Wによる治療を、52週間行った。盲検化を維持するため、ネモリズマブQ8Wを投与された患者には、第12週(パートAにおける最後の来院)にプラセボを、第16週にネモリズマブを投与し、その後はプラセボとネモリズマブとを交互に投与した。患者による、皮膚軟化薬、局部的な治療(例えば、点眼薬)、弱いグルココルチコステロイド外用薬(プレドニゾロンを含む)、カルシニューリン阻害外用薬、および抗ヒスタミン剤(非選択的H1抗ヒスタミン剤は除外)の使用は許可した。治験責任医師の意見で、そう痒VASスコア(範囲、0mm[痒み無し]~100mm[想像され得る最悪の痒み])および治験責任医師による静的全般評価(static Investigator’s Global Assessment(sIGA))スコア(範囲、0[無し]~5[極めて重症])にほとんど改善が見られない患者には、パートA(第4週以後)では救済治療として「強力」なグルココルチコステロイド外用薬(フランカルボン酸モメタゾン0.1%など)の使用を許可し、パートBでは「強力」または「非常に強力」なグルココルチコステロイド外用薬(プロピオン酸クロベタゾール0.05%など)の使用を許可した。
【0104】
試験評価
パートBでプラセボからネモリズマブへと無作為に再度割り付けられた患者のベースライン評価を、パートAの最後の来院時または別の来院時に実施した。患者は、第12週から第64週まで4週間に1回被験来院し、試験薬の最後の投薬の12週間(±5日間)後に安全性追跡調査のために来院した。一貫性のため、全ての来院において、患者の評価は同じ評価者が行った(可能な場合)。場所および治験責任医師の間でのばらつきをできるだけ小さくするために、評価者の訓練を行った。有効性評価は第16週から第64週まで4週間に1回実施し、投薬中止後は可能な限り早期の脱落時来院(withdrawal visit)の際に実施した。そう痒VAS、そう痒口頭式評定尺度(verbal rating scale)(VRS;0[痒み無し]から4[極めて重度の痒み]までの段階でそう痒の強度を計測)、および睡眠障害VAS(0[不眠無し]から100[完全な不眠]までの範囲)は、パートBで7日毎に患者により遂行された。
【0105】
試験評価項目
主要有効性評価項目である、そう痒VASスコアにおける第12週での、ベースラインからの改善率を、パートAで評価した。パートB(第12週~第64週)で評価された副次有効性評価項目としては、以下におけるベースライン値からの改善が挙げられる:そう痒VASスコア、湿疹面積・重症度指標(EASI)スコア(範囲、0~72、スコアが高いほど疾患重症度がより高いことを示す)、アトピー性皮膚炎スコアリング(SCORAD;範囲、0~103、スコアが高いほどより重症であることを示す)、AD病変の体表面積(BSA)、および睡眠障害VASスコア。また、副次評価項目には、そう痒VASスコアおよびEASIスコアにおいてベースラインから25%、50%、および75%の改善が見られた患者の割合;sIGAスコアおよびそう痒VRSスコアにおいてベースラインから2ポイント以上の改善が見られた患者の割合;並びに、救済治療を受けた患者の割合も含まれた。30mm未満のそう痒VASスコア(痒み無しまたは軽度の痒み)を得た患者の割合は、事後解析で調査された。パートBの探索的有効性評価項目には、救済治療として使用されたグルココルチコステロイド外用薬の頻度、期間、および量、並びに皮膚科学的生活の質指標スコア(DLQI;0~30の段階で計測、スコアが高いほど機能障害がより大きいことを示す)が含まれた。臨床的に意義のある最小の差異と見なされる、DLQIスコアにおける4ポイント以上の変化が、事後解析で調査された。長期安全性プロファイルも評価された。
【0106】
統計解析
パートBにおける副次的評価項目および探索的評価項目は記述統計を用いて集計を行い、パートBでは正式な統計比較を行わなかった。欠測値に対する補完は行わなかった。救済治療以後に測定されたデータは解析に含めた。パートAまたはパートBでネモリズマブを少なくとも1回投与され、且つ、少なくとも1回の投与後有効性評価を受けた、無作為化患者を全て含む、治療企図集団を、有効性解析に用いた。パートAまたはパートBでネモリズマブを少なくとも1回投与された全ての患者を、安全性解析の対象とした。64週間の全試験期間を通じてネモリズマブを投与された患者(パートAおよびパートBでネモリズマブへと無作為に割り付けられた患者)と、第12週にプラセボからネモリズマブに切り替えられた患者(パートAでプラセボへと無作為に割り付けられ、パートBでネモリズマブへと無作為に再度割り付けられた患者)とに対して、別々に、有効性解析および安全性解析を実施した。
【0107】
結果
合計で、264人の患者がパートAへと無作為に割り付けられ;その内、216人がパートAを完了し、191人がパートBに参加し、この中にはプラセボ群から無作為に再度割り付けられた38人が含まれる(図5参照)。パートBに参加した191人の患者のうち、131人(69%)がパートBを完了した。パートB中止の最も多い理由は、試験からの患者の脱落(33/191[17%])であり、次に、有効性の不足(10/191[5%])とAE(8/191[4%])が続いた。治療企図集団には248人の患者が含まれた(パートAでネモリズマブへと無作為に割り付けられた211人の患者、およびパートAではプラセボを投与されていた、ネモリズマブへと無作為に再度割り付けられた37人の患者[1人の無作為に再度割り付けられた患者は評価可能な投与後有効性データを有さなかった])。安全性解析対象集団には249人の患者が含まれた(パートAでネモリズマブへと無作為に割り付けられた211人、およびパートAではプラセボを投与され、ネモリズマブへと無作為に再度割り付けられた38人)。全体として、パートAまたはパートBで本試験に組入れられた患者の84%(222/264)が、最後の試験薬投与の12週間後に安全性追跡調査を完了した。
【0108】
患者は、そう痒視覚アナログ尺度(VAS)スコアによればベースライン時に激しい痒みを有し、治験責任医師による静的全般評価(sIGA)スコア、ADが占める体表面積(BSA)スコア、および湿疹面積・重症度指標(EASI)スコアによれば中等度から重度の痒みを有していた。平均ベースライン総血清IgE値を表3に記載する。最もよく見られた付随しているアレルギーはアレルギー性鼻炎(n=91)であり、最も多いアレルギーの病歴は喘息(n=34)であった。パートAでプラセボを投与された後にパートBでネモリズマブQ4Wへと無作為に再度割り付けられた患者の間の、人口統計学、ベースライン特性、およびベースラインAD重症度は、群間で同様であった。
【0109】
(表3)治療企図(ITT)集団におけるベースライン総血清IgE値
【0110】
64週間の全試験期間に亘るネモリズマブ投与へと無作為に割り付けられた患者では、パートAで認められたそう痒VASスコアにおけるベースラインからの改善が、第12週から第64週まで維持または増加した(図6参照)。試験全体を通じて最も大きな改善は、0.5mg/kgネモリズマブ群で確認された(表4参照)。30mm未満のそう痒VASスコアを達成した患者の割合は、第64週まで維持された(図6B、および図4)。パートAでネモリズマブを投与された患者では、EASIスコア、アトピー性皮膚炎スコアリング(SCORAD)スコア、病変部BSA、および睡眠障害VASスコアにおけるベースラインからの変化率の平均値±SD、並びに、sIGAスコアまたはそう痒口頭式評定スコア(verbal rating score)(VRS)で2ポイント以上の改善が認められた患者の割合も、第12週から第64週まで、維持または増加した(図7A図7C、および下記の表4)。第64週に治療に残っていた、0.1mg/kg Q4W ネモリズマブ群、0.5mg/kg Q4W ネモリズマブ群、および2.0mg/kg Q4W ネモリズマブ群の患者のおよそ2/3(68%、68%、および66%)、並びに2.0mg/kg Q8W群の患者のほぼ3/4(74%)が、EASIスコアにおいて75%の改善を示した(下記の表5)。
【0111】
(表4)パートAでネモリズマブを投与された治療企図(ITT)集団における第12週および第64週の副次的評価項目および探索的評価項目におけるベースラインからの変化率
事後解析
【0112】
(表5)パートAでネモリズマブを投与された治療企図(ITT)集団について、第12週および第64週に、そう痒VASスコアおよびEASIスコアにおいてベースラインから25%、50%、および75%の改善が見られた患者(データは百分率の数字で示す)。救済治療後のデータを含む。
【0113】
パートAではプラセボを投与され第12週にネモリズマブに切り替えられた患者では、そう痒VASスコアにおける治療応答が第16週(すなわち、実薬治療に切り替えた4週間後)までに見られ、第64週(実薬治療に切り替えてから1年間、下記の表6参照)まで維持された。SCORADスコア、EASIスコア、病変部BSA、および睡眠障害VASスコアにおける第12週のベースラインから第16週までの変化率の平均値±SDは、概して改善を示し、第16週から第64週まで維持または増加した(表6参照)。しかし、これらのデータは各群に含まれた少数の患者の異常値に影響を受けており、高度なばらつきが各来院時に見られた(表6参照)。
【0114】
(表6)パートAでプラセボを投与された治療企図(ITT)集団における、第16週(パートBの最初のネモリズマブ投薬の4週間後)および第64週の、副次的評価項目および探索的評価項目における、ベースライン(第12週)からの変化率(救済治療後のデータを含む)
事後解析
【0115】
64週間の全試験期間を通じてネモリズマブを投与されるように無作為に割り付けられた患者では、グルココルチコステロイド外用薬の使用期間中央値は、0.5mg/kg以上でネモリズマブ投与量が増加するにつれて短くなり、0.1mg/kg Q4W群における27.0週間(範囲、1~62週間)から、0.5mg/kg Q4W群における8.0週間(範囲、1~57週間)、2.0mg/kg Q4W群における7.5週間(範囲、1~59週間)、および2.0mg/kg Q8W群における3.0週間(範囲、1~48週間)まで、短くなった(表7参照)。
【0116】
(表7)パートAでネモリズマブを投与された治療企図集団における、全体的および作用強度()ごとの、ベースライン()から治療エンド(endo treatment)までの試験期間全体を通じた、グルココルチコステロイド外用薬の使用期間および累積投与量(データは中央値と範囲として示す)
英国国立医療技術評価機構によって定義されたグルココルチコステロイド外用薬の作用強度(Atopic eczema in children: Management of atopic eczema in children from birth up to the age of 12 years. Clinical guideline. 2007を参照)。
無作為化前の2週間以内の強力なグルココルチコステロイド外用薬および非常に強力なグルココルチコステロイド外用薬の使用、並びに無作為化前の1週間以内の弱いグルココルチコステロイド外用薬およびやや強力なグルココルチコステロイド外用薬の使用を患者は許可されていなかったため、ベースライン値は入手不可(ゼロ)。グルココルチコステロイド外用薬の使用は、第4週以後の救済治療としての使用を除いて、本試験のパートAの間は許可されなかった。
【0117】
グルココルチコステロイド外用療法の累積投与量中央値も、0.5mg/kg以上でネモリズマブの投与量が増加するにつれて小さくなり、0.1mg/kg Q4W群における137.4g(範囲、2~2,245g)から、0.5mg/kg Q4W群における60.7g(範囲、2~822g)、2.0mg/kg Q4W群における55.8g(範囲、1~1,174g)、および2.0mg/kg Q8W群における44.7g(範囲、10~250g)まで、小さくなった(表7参照)。しかし、グルココルチコステロイド外用療法の期間および投与量には、患者間で非常に大きなばらつきがあり、グルココルチコステロイド療法を受けた患者の総数に含まれる評価可能な患者の数は、限定されていた(0.1mg/kg Q4W群で18/30、0.5mg/kg Q4W群で17/24、2.0mg/kg Q4W群で20/27、2.0mg/kg Q8W群で11/24)。「非常に強力」なグルココルチコステロイド外用薬を投与された患者の割合は群間で同様であったが、「強力」な薬剤を投与された患者の割合は最低投与量ネモリズマブQ4W群で最も大きかった(0.1mg/kg群で63%[19/30]、0.5mg/kg群で42%[10/24]、2.0mg/kg群で56%[15/27])。「強力」、「やや強力」、および「弱い」薬剤を投与された患者において、評価可能な患者におけるグルココルチコステロイド外用薬の使用期間および累積投与量は、投与量が増加するにつれて小さくなる傾向があった(表7参照);「非常に強力」な薬剤については利用可能なデータが限定されていた。
【0118】
64週間の全期間を通してネモリズマブQ4WおよびネモリズマブQ8Wへと無作為に割り付けられた患者では、皮膚科学的生活の質指標(DLQI)の合計スコアが試験全体を通じて徐々に減少し、より大きな割合の患者が、第12週と比較した第64週の合計スコアにおいて、4ポイント以上の減少を示した(図7、および表4)。パートAでプラセボを投与された患者においても同様の傾向が見られた(表6参照)。
【0119】
全体として、ネモリズマブの長期使用後に安全性の懸念が新たに確認されることはなかった。全試験期間(64週間)を通してネモリズマブを投与されるように無作為に割り付けられた患者においては、少なくとも1つのAEを有する患者の割合(83%から89%)も、少なくとも1つの治療関連AEを有する患者の割合(37%から48%)も、試験中は同様であった(下記の表8を参照)。これらの患者の中で最もよく見られたAE(全試験期間を通じてネモリズマブへと無作為に割り付けられた患者の5%以上)は、鼻咽頭炎(27%)、ADの増悪(25%)、血中クレアチンホスホキナーゼの増加(11%)、上気道感染(9%)、頭痛(8%)、末梢性浮腫(6%)、および膿痂疹(6%)であった。最もよく見られた治療関連AE(全試験期間を通じてネモリズマブへと無作為に割り付けられた患者の2%以上)は、ADの増悪(8%)、上気道感染(4%)、鼻咽頭炎(4%)、末梢性浮腫(3%)、血中クレアチンホスホキナーゼ値の増加(3%)、および注射部位反応(2%)であった。鼻咽頭炎および注射部位反応を除く全ての治療関連AEが、2.0mg/kg Q4W群において、その他の試験群よりもわずかに高い発生率で生じた。64週間の全試験期間を通じてネモリズマブを投与されるように無作為に割り付けられ、初発AEを起こした患者の割合は、時間の経過と共に減少し、大部分のAEが本試験の最初の12週間に報告された(下記の表9参照)。本試験中の大部分のAEが軽度または中等度の強度であった。2.0mg/kgネモリズマブQ8Wを投与された患者のうち9人(17%)がSAEを生じたのに対し、Q4W治療群の患者では3~4人(6%~8%)であった(表8参照)。5人の患者で報告された6種のSAEを被験治療に関連性があると見なした。5人の患者(0.5mg/kg Q4W群に1人、2.0mg/kg Q4W群に2人、2.0mg/kg Q8W群に2人)が、AD増悪という1つのSAEを示し、これは1人の患者において治療関連性があると見なされた。
【0120】
(表8)試験期間全体を通じたネモリズマブへと無作為に割り付けられた患者における合計64週間の試験期間中の有害事象(AE)
パートA中にプラセボを投与された患者
【0121】
初発SAEを起こした患者の割合は、試験期間に亘って均等に分布していた(下記の表9を参照)。薬剤曝露期間で調整すると、64週間の試験期間に亘るネモリズマブへと無作為に割り付けられた患者におけるAEおよびSAEの割合は、0.1mg/kg Q4W群、0.5mg/kg Q4W群、および2.0mg/kg Q4W群よりも、2.0mg/kg Q8W群においてより高くなったが(表10)、特定のAEの増加は確認されなかった。64週間の全試験期間を通じてネモリズマブを投与されるように無作為に割り付けられた患者におけるAEによる被験治療の中止は、0.1mg/kgネモリズマブQ4W群、0.5mg/kgネモリズマブQ4W群、2.0mg/kgネモリズマブQ4W群、および2.0mg/kgネモリズマブQ8W群において、それぞれ、7人(13%)、3人(6%)、5人(10%)、および6人(12%)の患者で起こった(表11参照)。10人の患者が、全てパートA中に、AD増悪を理由として試験を中止された。
【0122】
(表9)試験期間全体を通じたネモリズマブ投与へと無作為に割り付けられた患者(安全性解析対象集団)における時期ごとの初発有害事象(AE)および重度有害事象(SAE)
【0123】
(表10)総曝露人年数に対する観察された事象数の分配(ration)に基づいた100人年あたりの事象数として表される、曝露期間で調整した有害事象(AE)
パートAおよびパートBでネモリズマブを投与された患者
パートAでプラセボを投与された患者
【0124】
(表11)試験期間全体を通じたネモリズマブへと無作為に割り付けられた患者における治療中止に繋がる有害事象(AE)
最後の試験薬注射後のAEを理由として1人の患者が試験を中止した。これは列挙していない。
【0125】
パートBでプラセボからネモリズマブへと無作為に再度割り付けられた患者においては、治療群の間で67%~92%の患者にAEが報告された(表12参照)。最も多いAEは、全体として本試験中に見られたAEと同様であった(表12参照)。パートAでプラセボを投与されていた1人の患者において、1つのSAEが報告された。パートAでプラセボを投与された2人の患者が、パートBでネモリズマブへと無作為に割り付けられた後、AEのため治療中止とされた。大部分の注射関連反応(IRR)は本試験のパートAで生じ、用量依存性効果の傾向はなかった(12人の患者がパートAで13の事象を示し、4人の患者がパートBで5つの事象を示した)。ほぼ全てのIRRが軽度の重症度を主とする局所反応であり、大部分が治療関連性があると見なされた。1例のIRRは被験治療の中止に繋がった(剥脱性皮膚炎)。
【0126】
(表12)パートAでプラセボ投与へと無作為に割り付けられたパートB患者(安全性解析対象集団)における有害事象(AE)
憩室炎のSAE、 喘息、 気管支過敏症
【0127】
考察
本試験では、外用療法による制御が不十分なAD患者の治療における、抗IL-31受容体A mAbであるネモリズマブの有効性および忍容性が評価された。本試験では、本試験の12週間のプラセボ対照部(パートA)におけるプラセボと比較した場合のそう痒、皮膚炎、および睡眠測定値における改善が、64週間までの長期治療(継続試験期:パートB)により維持または次第に増加することが示された。本試験は異なる用量群を正式に比較するようには設計されていないが、パートAで得られた結果と一致して、Q4WまたはQ8Wで投与された2.0mg/kgネモリズマブが、0.5mg/kg用量よりも効果的であるというエビデンスは得られなかった。パートBでは、患者は効き目が穏やかなグルココルチコステロイド外用薬の使用が許可され、強力または非常に強力なグルココルチコステロイド外用薬は救済治療として許可された。本試験を通じて、患者に投与されたネモリズマブがより高い(0.5mg/kg以上)用量であるほど、併用のグルココルチコステロイド外用療法の期間および累積投与量はより少なくなったが、患者数が限られているため結論には至らない。これらの所見は、より高用量のネモリズマブ投与で有効性が増加したはずの用量依存性反応が、0.1mg/kg群の患者におけるより高用量のグルココルチコステロイド外用療法の使用の影響を受けて存在しなかった可能性を示唆している。
【0128】
ADとそれに伴うそう痒は、その疾患を有する患者の生活の質(QoL)を損なう。本試験のパートAで観察された、皮膚科学的生活の質指標(DLQI)スコアの減少は、長期の継続試験期中も維持されており、日常生活への症状の影響が長期にわたって軽減されたことが示唆された。これらの所見は、本試験のパートAのネモリズマブ治療の第1週の間に観察されたそう痒の早期改善と一致している。
【0129】
全体として、ネモリズマブは64週間に亘って良好な忍容性を示した。安全性プロファイルはパートAで確認されたものと同等であり、継続試験では新たなAEは観察されなかった。IRRの発生率がパートBで低くなったが、これは、ネモリズマブ注射に対する忍容性が時間の経過とともに改善したことを示唆している。
【0130】
まとめると、ネモリズマブは、従来の外用療法では十分に制御できない中等度から重度のAD患者に最大64週間投与した場合、有効性および全体的に良好な忍容性が認められた。ネモリズマブによる治療により、そう痒および皮膚炎が臨床的に大幅に抑制された。ネモリズマブの長期使用による新たな安全性の懸念は認められなかった。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【外国語明細書】