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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017722
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】斜板式可変容量型ピストンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/2085 20200101AFI20250130BHJP
   F04B 1/148 20200101ALI20250130BHJP
【FI】
F04B1/2085
F04B1/148
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120908
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】榊原 光騎
【テーマコード(参考)】
3H070
【Fターム(参考)】
3H070AA01
3H070BB04
3H070BB06
3H070CC07
3H070CC27
3H070DD33
3H070DD46
(57)【要約】
【課題】クレイドルとクレイドルガイドとの摩擦を抑制しつつ、ボディ内への作動油の漏れを低減することが可能な斜板式可変容量型ピストンポンプを提供する。
【解決手段】本発明にかかる斜板式可変容量型ピストンポンプ(ピストンポンプ100)の構成は、ボディ102と、ボディ内にシャフト104とともに回転可能に支持されたシリンダバレル110と、シリンダバレルに軸方向に摺動可能に挿入された複数個のピストン112と、ピストンのストロークを変化させる斜板120と、斜板に形成され円筒面を有するクレイドルと、クレイドルの円筒面に形成された圧油溝128と、ボディに形成されクレイドルを受ける円筒面であるクレイドルガイド102aと、クレイドルガイドの円筒面に開口する給油口102bと、を備え、圧油溝は、クレイドルの円筒面の圧力分布において圧力が高い位置に形成されていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、
前記ボディ内にシャフトとともに回転可能に支持されたシリンダバレルと、
前記シリンダバレルに軸方向に摺動可能に挿入された複数個のピストンと、
前記ピストンのストロークを変化させる斜板と、
前記斜板に形成され円筒面を有するクレイドルと、
前記クレイドルの円筒面に形成された圧油溝と、
前記ボディに形成され前記クレイドルを受ける円筒面であるクレイドルガイドと、
前記クレイドルガイドの円筒面に開口する給油口と、
を備え、
前記圧油溝は、クレイドルの円筒面の圧力分布において圧力が高い位置に形成されていることを特徴とする斜板式可変容量型ピストンポンプ。
【請求項2】
前記圧油溝は、前記クレイドルの円筒面の圧力分布においてシャフトに近づくにしたがって圧力が高くなる場合には、前記圧油溝の円周方向の幅が前記シャフトに近づくにしたがって広くなることを特徴とする請求項1に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械や産業用機械等に用いられる斜板式可変容量型ピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械や産業用機械には、可変容量型ポンプが用いられることがある。可変容量型ポンプの1つである斜板式可変容量型ピストンポンプは、斜板(スワッシュプレートとも称される)を傾転させることでポンプの容量を変化させることができる。斜板はクレイドルと呼ばれる円筒面を有し、ボディのクレイドルガイドと摺接することで円滑に傾転する。
【0003】
例えば特許文献1には、「回転軸と共に回転するシリンダブロックに複数のピストンが周方向に配設され、前記各ピストンの先端部が斜板の滑面に沿って案内されることで前記ピストンが往復運動され、前記斜板は回転軸に対して傾転可能なように斜板支持台に摺動自在に支承されている斜板式ピストンポンプ・モータ」が開示されている。
【0004】
特許文献1の斜板式ピストンポンプ・モータでは、「前記斜板の前記滑面の反対側の面に、前記斜板支持台と対向する円弧状の平滑な凸面が設けられ、前記凸面には摺動方向に延びた油膜保持用の溝部が凹設されて」いる。また「前記斜板支持台の前記斜板の前記凸面を支承する摺動面は、円弧状の凹面であり、前記凹面には、前記溝部に臨んで開口する圧油供給口が設けられて」いて、「前記斜板支持台の前記凹面は、レーザ光で部分的に焼入れされた焼入れ部を有し」ている。特許文献1によれば、「焼入れ部が熱膨張で凸状となることで、非焼入れ部との間で凹凸が形成されてなじみ性および摺動特性が向上し、耐焼付き性が高められる」としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4754313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
斜板には、円筒面を有するクレイドルが形成されていて、軸受には、クレイドルを受ける円筒面を有するクレイドルガイドが形成されている。クレイドルおよびクレイドルガイドの円筒面は円筒の一部である。クレイドルとクレイドルガイドとの間に作動油を供給し、クレイドルに設けられた圧油溝に油圧が作用すると、作動油の油圧によって、それらを離間させる方向への浮揚荷重が発生する。したがって、クレイドルにかかる圧力(ピストン反力)が低減するとともに、クレイドルとクレイドルガイドとが摺接する面(摺接面)が潤滑されることでクレイドルガイドの摩耗を抑制することができる。
【0007】
ここでクレイドルにかかる圧力は、シャフトに近いほど圧力が高く、シャフトから離れるほど圧力が低くなる。仮に圧油溝が円筒面の軸方向(斜板の回転軸方向)に長すぎて、圧力が高い位置と低い位置に同様に圧油を導くと、圧力が低い位置において圧油が漏れて、クレイドルとクレイドルガイドとの間に供給される作動油(圧油)が抜けやすくなる。すると、ポンプのボディ内へ漏れ出る作動油の量が増加し、ポンプの容積効率の低下を招いてしまう。
【0008】
またクレイドルおよびクレイドルガイドの円筒面は曲面であるため、曲面の径(曲率半径)にわずかでも差が生じると、圧力に偏りが生じる。例えば斜板のクレイドルの円筒面の径(曲率半径)が、軸受のクレイドルガイドの円筒面の径に対して小さい場合、クレイドルの円筒面では、円周方向の外側での圧力が低くなる。すると、圧油溝が円筒面の円周方向に長すぎると、圧油抜けが生じやすくなる。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、クレイドルとクレイドルガイドとの摩擦を抑制しつつ、ボディ内への作動油の漏れを低減することが可能な斜板式可変容量型ピストンポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる斜板式可変容量型ピストンポンプの代表的な構成は、ボディと、ボディ内にシャフトとともに回転可能に支持されたシリンダバレルと、シリンダバレルに軸方向に摺動可能に挿入された複数個のピストンと、ピストンのストロークを変化させる斜板と、斜板に形成され円筒面を有するクレイドルと、クレイドルの円筒面に形成された圧油溝と、ボディに形成され前記クレイドルを受ける円筒面であるクレイドルガイドと、クレイドルガイドの円筒面に開口する給油口と、を備え、圧油溝は、クレイドルの円筒面の圧力分布において圧力が高い位置に形成されていることを特徴とする。
【0011】
上記圧油溝は、クレイドルの円筒面の圧力分布においてシャフトに近づくにしたがって圧力が高くなる場合には、圧油溝の円周方向の幅がシャフトに近づくにしたがって広くなるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クレイドルとクレイドルガイドとの摩擦を抑制しつつ、ボディ内への作動油の漏れを低減することが可能な斜板式可変容量型ピストンポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態にかかる斜板式可変容量型ピストンポンプを説明する図である。
図2】本実施形態にかかる斜板式可変容量型ピストンポンプを説明する図である。
図3】斜板の平面図および斜視図である。
図4】クレイドルの円筒面における圧力分布について説明する図である。
図5】本実施形態の吐出側クレイドルおよび比較例のクレイドルの圧油溝について説明する図である。
図6】本実施形態の圧力溝の他の形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0015】
図1および図2は、本実施形態にかかる斜板式可変容量型ピストンポンプ(以下、ピストンポンプ100と称する)を説明する図である。図1は、斜板120の傾転角が最小であるデッドヘッド時のピストンポンプ100の側面図である。図2は、斜板120の傾転角が最大である全量吐出時のピストンポンプ100の側面図である。
【0016】
本実施形態のピストンポンプ100は、吐出口190を通じて作動油等の流体を不図示の建設機械や産業用機械に供給する装置である。図1および図2に示すように、ピストンポンプ100のボディ102内には、シャフト104(軸)とともに回転可能に支持されたシリンダバレル110が配置されている。シリンダバレル110には、軸方向に摺動可能な複数個のピストン112が挿入されている。
【0017】
ピストン112の頭部112aは、斜板120に当接するピストンシュー114に取り付けられている。斜板120がコントロールピストン130に連動して傾転すると、ピストンシュー114も傾転する。これにより、シリンダバレル110を回転させるとシリンダバレル110の周方向に並んだ複数のピストン112が往復運動し、吐出口190から作動油が吐出される。このとき、斜板120の傾転角を調整することによりピストン112のストロークが変化し、ポンプ容量を変化させることができる。
【0018】
図3は、斜板120の平面図および斜視図である。図3(a)は斜板120の平面図および側面図であり、図3(b)は斜板120の斜視図である。図3(a)、(b)に示すように斜板120には、シャフト104(図1および図2参照)が挿通される挿通孔120aが形成されていて、挿通孔120aの両側には、吸入側クレイドル122および吐出側クレイドル124からなる一対のクレイドルが形成されている。図1および図2に示すように、吸入側クレイドル122および吐出側クレイドル124(本実施形態では吐出側クレイドル124を図示)は、円筒面126をそれぞれ有する。円筒面126は斜板120の回転中心を軸とする円筒の一部である。
【0019】
一方、図1および図2に示すように、ボディ102には、クレイドル(本実施形態では吐出側クレイドル124を図示)を受ける円筒面であるクレイドルガイド102aが形成されている。またボディ102には、給油口102bおよび給油経路102cが形成されている。給油口102bはクレイドルガイド102aの円筒面に開口していて、吐出口190から作動油が吐出される際にかかる作動油が給油経路102cを通じて給油口102bに供給される。
【0020】
本実施形態のピストンポンプ100では、図3に示すように吐出側クレイドル124の円筒面126に圧油溝128が形成されている。なお、本実施形態では一対の吸入側クレイドル122および吐出側クレイドル124のうち、吐出側クレイドル124の円筒面126にのみ圧油溝128が形成される構成を例示したが、これに限定するものではない。他の構成としては、吸入側クレイドル122および吐出側クレイドル124の両方の円筒面126に圧油溝128が形成される構成としてもよい。
【0021】
図4は、クレイドルの円筒面126における圧力分布について説明する図である。理解を容易にするために、図4では、シャフト104を仮想線によって例示している。また図4以降の図面では、円筒面126において、圧力(ピストン反力)が高い領域をハッチングによって示し、圧力の高さをベクトル量(矢印の長さ)で示している。
【0022】
図4に示すようにクレイドルでは、吐出側クレイドル124の円筒面126の方が吸入側クレイドル122の円筒面126よりも圧力が高く(矢印が長い)、圧力が高い領域が広い(ハッチングの面積が広い)。また吸入側クレイドル122および吐出側クレイドル124のいずれの円筒面においても、シャフト104に近づくにしたがって円筒面126の圧力が高い領域が円周方向に大きくなっている。
【0023】
そこで本実施形態のピストンポンプ100では、クレイドルの円筒面の圧力分布において圧力が高い位置に圧油溝128を形成している。更には、クレイドルの円筒面の圧力分布においてシャフト104に近づくにしたがって圧力が高くなる場合には、圧油溝128を、円周方向の幅がシャフト104に近づくにしたがって広くなるように形成している。換言すれば、圧力が高い範囲の内側に圧油溝128を形成している。さらに換言すれば、圧油溝128の周囲に圧力が高い位置があるように、圧油溝128が圧力が低い位置にかからないように、圧油溝128の位置を決定する。
【0024】
具体的には本実施形態の圧油溝128は、第1圧油溝128aおよびそれに隣接して配置される第2圧油溝128bから構成されている。第1圧油溝128aは、圧力が高い領域が円周方向で広い「シャフト104に近い側」に配置された「円周方向の幅が広い溝」である。第2圧油溝128bは、圧力が高い領域が円周方向で狭い「シャフト104から遠い側」に配置された「円周方向の幅が狭い溝」である。
【0025】
図5は、本実施形態の吐出側クレイドル124および比較例のクレイドル24の圧油溝について説明する図である。図5(a)は、本実施形態の吐出側クレイドル124を示す図である。図5(b)は、比較例のクレイドル24を示す図である。図5では、圧油から圧油溝にかかる荷重を、クレイドルにかかる圧力とは逆方向のベクトルによって示している。
【0026】
図5(b)に示す比較例のクレイドル24の円筒面26には、中央に矩形の圧力溝28が形成されている。圧力溝28では、油圧による荷重が一様である。一方、クレイドル24の円筒面26にかかる圧力(ピストン反力)は、シャフト104に近い側の方が高い。したがって、従来のクレイドル24の円筒面26では、シャフト104に近い側と遠い側で圧力の差を払拭することができない。
【0027】
また比較例の圧力溝28の角部(シャフト104から遠い側の角部)は、クレイドル24の円筒面26において圧力が低い領域、すなわちハッチングがかかっていない領域にかかっている(重複している)。このため、圧油が圧力溝28の角部から漏れ、圧油抜けが生じやすくなってしまう。
【0028】
これに対し図5(a)に示す本実施形態の吐出側クレイドル124の円筒面126では、シャフト104に近い側に配置された第1圧油溝128aは円周方向の幅が広く、シャフト104から遠い側に配置された第2圧油溝128bは円周方向の幅が狭い。すなわち第1圧油溝128aは面積が大きく、第2圧油溝128bは面積が小さいため、作動油の油圧による荷重は、クレイドルの圧力分布と同様にシャフト104に近い側が大きく、シャフト104から遠い側が小さくなる。したがって、吐出側クレイドル124の円筒面26では、シャフト104に近い側と遠い側で圧力の差を緩和(相殺)することができる。
【0029】
また本実施形態の圧油溝128では、第1圧油溝128aおよび第2圧油溝128bともに圧力の高い領域(ハッチング領域)に形成されている。これにより、ポンプのボディ102内へ漏れ出る作動油の漏れを好適に防ぐことができる。したがって、圧油を圧油溝128に好適に保持することでクレイドルとクレイドルガイドとの摩擦を抑制し、且つ作動油の漏れに起因するポンプの容積効率の低下を防ぐことが可能である。
【0030】
図6は、本実施形態の圧力溝の他の形状を説明する図である。図6(a)に示す吐出側クレイドル124aは、斜板120の吐出側クレイドル124aの円筒面126aの径(曲率半径)が、軸受のクレイドルガイド102a(図1および図2参照)の円筒面の径(曲率半径)に対して大きい。この場合、図6(b)に示すように吐出側クレイドル124aの円筒面126aにおける圧力は、円周方向の内側よりも外側の方が高くなる。軸方向については、シャフト104に近い側が大きいことに変わりはない。
【0031】
そこで図6(b)に示す吐出側クレイドル124aの円筒面126aには、シャフト104(図4参照)に遠い側が開口したコの字形状の圧油溝128cが形成されている。これにより、円周方向の内側の圧力が低い領域を避けて配置されるため、圧油溝128cからの圧油抜けを好適に防ぐことができる。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は斯かる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、建設機械や産業用機械に用いられる斜板式可変容量型ピストンポンプとして利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
24…クレイドル、26…円弧面、28…圧力溝、100…ピストンポンプ、102…ボディ、102a…クレイドルガイド、102b…給油口、102c…給油経路、104…シャフト、110…シリンダバレル、112…ピストン、112a…ピストンの頭部、114…ピストンシュー、120…斜板、120a…挿通孔、122…吸入側クレイドル、122a…吸入側クレイドル、124…吐出側クレイドル、126…円弧面、126a…円弧面、128…圧油溝、128a…第1圧油溝、128b…第2圧油溝、128c…圧油溝、130…コントロールピストン、190…吐出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6