(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001773
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20241226BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20241226BHJP
A47C 7/14 20060101ALI20241226BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20241226BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20241226BHJP
A47C 27/15 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B60N2/90
B60N2/64
A47C7/14 B
A47C7/40
B60N2/58
A47C27/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101433
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾林 裕介
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
3B096
【Fターム(参考)】
3B084BA00
3B084CA05
3B084CA07
3B084EA01
3B084EC03
3B087DE03
3B096AB07
(57)【要約】
【課題】乗物旋回時等において、乗員に対するホールド性を確保しつつ、乗員に対するフィット感をより向上させることにある。
【解決手段】意匠面をなすシートカバー6Sが、乗員を弾性的に支持する発泡樹脂製のシートパッド6Pに一体発泡されて設けられていると共に、天板メイン部60と土手部61とを備えた乗物用シートにおいて、土手部61のシート幅方向内側をなす天板サイド部63と天板メイン部60間には、天板サイド部63からシート幅方向内側に突出し且つ天板メイン部60から着座側に突出する凸部64が設けられており、凸部64には、シート幅方向内側且つ着座側から加わる荷重による変形を助長する助長部(31,32)が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
意匠面をなすシートカバーが、乗員を弾性的に支持する発泡樹脂製のシートパッドに一体発泡されて設けられていると共に、シート幅方向に延びる天板メイン部と、前記天板メイン部のシート幅方向外側で着座側に突出する土手部とを備えた乗物用シートにおいて、
前記土手部のシート幅方向内側をなす天板サイド部と前記天板メイン部間には、前記天板サイド部からシート幅方向内側に突出し且つ前記天板メイン部から着座側に突出する凸部が設けられており、
前記凸部には、シート幅方向内側且つ着座側から加わる荷重による変形を助長する助長部が設けられている乗物用シート。
【請求項2】
前記天板メイン部のシートカバー部分と前記凸部のシートカバー部分の端部同士が、隣り合った状態で着座側とは反対のシート裏側に延びることで引込部が形成されており、
前記引込部は、シート裏側に向かうにつれて次第にシート幅方向内側に傾いた状態で前記シートパッドに一体化されていると共に、前記引込部をなす各シートカバーの末端側が連結部を介して中表状に連結されることで前記助長部を形成している請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記凸部のシートカバー部分は、前記天板サイド部のシートカバー部分とは別体であると共に、前記凸部のシートカバー部分と前記天板サイド部のシートカバー部分とは連結部材を介して連結されている請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記シートカバーの意匠面側と反対の裏面側には、前記シートパッドよりも弾性的に変形し易い前記助長部としての弾性層が設けられており、
前記凸部のシートカバー部分に設けられた弾性層の厚み寸法は、前記凸部以外のシートカバー部分に設けられた弾性層の厚み寸法よりも大きい請求項1~3のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠面をなすシートカバーが、乗員を弾性的に支持する発泡樹脂製のシートパッドに一体発泡されて設けられている乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の乗物用シートに関連する技術が特許文献1に開示されている。この特許文献1の乗物用シートでは、その意匠面をなすシートカバーが、乗員を弾性的に支持する発泡樹脂製のシートパッドに一体発泡されて設けられている。また乗物用シートは、乗員の背もたれとなるシートバックを有し、このシートバックには、シート幅方向中央に形成された天板メイン部と、この天板メイン部のシート幅方向外側で前側に突出する土手部とが設けられている。ここで天板メイン部は、シート幅方向に延びるように形成されており、乗物走行時の乗員を支持できる。また土手部では、そのシート幅方向内側の部分が、天板メイン部に隣接した状態でシート前側に延びる天板サイド部とされている。そしてシートバックでは、シート幅方向に延びる天板メイン部と、この天板メイン部からシート前側に延びる天板サイド部との隅部分に、着座した乗員に接し難い隙、即ち、乗員着座時に座圧が抜ける三角隙が生じるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記した乗物用シートでは、乗物が旋回等した際に、天板メイン部に支持された乗員が横G(横加速度)を受けるようになる。このとき上記したシート構成では、横Gを受けた乗員が過度に横滑りしないように、天板サイド部の乗員に対するフィット感を確保している。ここでフィット感をより向上させる観点から、三角隙の部分を埋めるように何らかの構造を設けることが考えられるが、このような場合には乗員に対するホールド性の確保に配慮すべきである。即ち、乗員の背中側が構造に極力引っ掛からないように配慮して、横Gを受けた乗員が、構造を基点としてシート方向外側に過度に回転するといった事態を極力回避すべきである。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、乗物旋回時等において、乗員に対するホールド性を確保しつつ、乗員に対するフィット感をより向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の乗物用シートでは、意匠面をなすシートカバーが、乗員を弾性的に支持する発泡樹脂製のシートパッドに一体発泡されて設けられている。また乗物用シートは、シート幅方向に延びる天板メイン部と、天板メイン部のシート幅方向外側で着座側に突出する土手部とを備えている。この種のシート構成では、乗物旋回時等において、乗員に対するホールド性を確保しつつ、乗員に対するフィット感をより向上させることが望ましい。そこで本発明の土手部のシート幅方向内側をなす天板サイド部と天板メイン部間には、天板サイド部からシート幅方向内側に突出し且つ天板メイン部から着座側に突出する凸部が設けられている。そして凸部には、シート幅方向内側且つ着座側から加わる荷重による変形を助長する助長部が設けられている。本発明では、シートカバーをシートパッドに一体発泡して、このシートカバーにテンションを掛かり難くすることで、所望の形状の凸部を形成し易くなる。そして乗物旋回時の乗員を、天板サイド部と天板メイン部間に設けられた凸部で受けられるようになり、乗員に対するフィット感をより向上させることができる。また助長部の働きで、荷重(外力)の加えられた凸部の変形を助長して、乗員に対する凸部の反力を低減することにより、乗員に対するホールド性の確保に資する構成となる。
【0006】
第2発明の乗物用シートは、第1発明の乗物用シートにおいて、天板メイン部のシートカバー部分と凸部のシートカバー部分の端部同士が、隣り合った状態で着座側とは反対のシート裏側に延びることで引込部が形成されている。そして引込部は、シート裏側に向かうにつれて次第にシート幅方向内側に傾いた状態でシートパッドに一体化されていると共に、引込部をなす各シートカバーの末端側が連結部を介して中表状に連結されることで助長部を形成している。本発明では、引込部をシート幅方向内側に傾けておくことで、シートパッドに埋設される引込部の長さ寸法を極力大きく取ることが可能になる。そして引込部の長さ寸法を大きく取ることで、荷重入力時の凸部の撓み変形の基点となる連結部を、凸部の荷重入力箇所から極力離しておけるようになる。
【0007】
第3発明の乗物用シートは、第1発明の乗物用シートにおいて、凸部のシートカバー部分は、天板サイド部のシートカバー部分とは別体であると共に、凸部のシートカバー部分と天板サイド部のシートカバー部分とは連結部材を介して連結されている。本発明では、凸部を覆うシートカバー部分が、天板サイド部を覆うシートカバー部分とは別体で形成されている。これにより、凸部を覆うシートカバー部分を、より確実に凸部の形状に沿わせて配置させられるようになる。
【0008】
第4発明の乗物用シートは、第1発明~第3発明のいずれかの乗物用シートにおいて、シートカバーの意匠面側と反対の裏面側には、シートパッドよりも弾性的に変形し易い助長部としての弾性層が設けられている。そして凸部のシートカバー部分に設けられた弾性層の厚み寸法は、凸部以外のシートカバー部分に設けられた弾性層の厚み寸法よりも大きくされている。本発明では、肉厚な凸部用の弾性層によって、所望の形状の凸部を形成し易くなる。そして相対的に変形し易い凸部用の弾性層の働きにより、荷重の加えられた凸部をより確実に変形させられるようになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る第1発明によれば、乗物旋回時等において、乗員に対するホールド性を確保しつつ、乗員に対するフィット感をより向上させることができる。また第2発明によれば、乗員に対するホールド性を更に確実に確保することができる。また第3発明によれば、乗員に対するフィット感をより確実に確保することができる。そして第4発明によれば、乗員に対するホールド性とフィット感とを更に確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】
図3の断面の一部を拡大して示すシートバックの概略拡大断面図である。
【
図6】引込部を示すシートバックの概略拡大断面図である。
【
図7】荷重を受けた凸部を示すシートバックの概略拡大断面図である。
【
図8】成形面とシートバックの一部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1~
図8を参照して説明する。
図1~
図7には、乗物用シートの前後方向と左右方向(シート幅方向)と上下方向を示す矢線を適宜図示する。そして
図1では、便宜上、乗物用シートの主な構成を図示し、その他の構成を二点破線で部分的に図示又は省略する。また
図1及び
図2では、便宜上、乗物用シートの左部分の各部位に対応する符号を付し、右部分の各部位に対応する符号を括弧付きで付す。
【0012】
[乗物用シートの概要]
先ず、
図1に示す乗物用シート2の概要について説明する。この乗物用シート2は、シート構成部材として、シートクッション4と、シートバック6と、ヘッドレスト8を有している。そしてシートクッション4の後部にシートバック6の下部がリクライナRを介して起倒可能に連結され、起立状態のシートバック6の上部にヘッドレスト8が配設されている。またシート構成部材としての各部材(4,6,8)は、各々、シート骨格をなすシートフレーム(4F,6F,8F)と、シート外形をなすシートパッド(4P,6P,8P)と、シートパッドを被覆するシートカバー(4S,6S,8S)を有している。
【0013】
[シートバック]
図1及び
図2に示すシートバック6は、乗員の背凭れとなる正面視で概ね矩形の部材であり、上記したシートフレーム6Fとシートパッド6Pとシートカバー6Sとを有している。そしてシートバック6では、
図3に示すように、シートフレーム(図示省略)上のシートパッド6Pに、意匠面をなすシートカバー6Sが一体発泡されて設けられている。またシートバック6の着座側となる前側には、シート幅方向(左右)に延びる天板メイン部60と、この天板メイン部60のシート幅方向外側(左側)で着座側に突出する土手部61とが形成されている。ここで天板メイン部60は、シートバック6のシート幅方向の中央に設けられており、通常走行時等の乗員を支持できるようになっている。また土手部61のシート幅方向外側の部分は、シート側面をなすカマチ部62となっている。そして土手部61のシート幅方向内側(右側)の部分は天板サイド部63を構成し、この天板サイド部63によって、乗員の側部を支持できるようになっている。
【0014】
上記したシートバック6では、乗物旋回時等において、
図3に示すように、天板メイン部60に支持された乗員Xが横Gを受けることでシート幅方向外側(左側)に移動し易くなる。このためシートバック6では、乗員Xに対するフィット感を天板サイド部63にて確保し、更に後述する凸部64の働きでフィット感をより向上させている。そして上記した構成では、乗員Xに対するホールド性の確保の観点から、乗員Xが横Gを受けた際に、この乗員Xの背中側が凸部64に極力引っ掛からないように配慮すべきである。そこで本実施例の乗物用シート2では、後述する凸部64の構成により、乗員Xに対するホールド性を確保しつつ、乗員Xに対するフィット感をより向上させることとした。
【0015】
ここで
図2に示すシートバック6では、そのシート幅方向両側(右側及び左側)に、それぞれ天板メイン部60と土手部61(天板サイド部63)と凸部64とが設けられている。そしてシートバック6の左右の各構成は概ね同一の基本構成を有している。また
図1に示すように、後述するシートクッション4においても、シートバック6と略同一の構成(天板メイン部40,土手部41の天板サイド部43,凸部44)が設けられている。そこで以下に、シートバック6の左部分を一例に、シートパッド6Pと、シートカバー6Sと、凸部64の順にこれらの詳細を説明する。
【0016】
[シートパッド]
先ず、
図3に示すシートパッド6Pは、上記したように乗員を弾性的に支持する発泡樹脂製の部材である。この種のシートパッド6Pの素材として、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム等の各種発泡樹脂を例示できる。そしてシートパッド6Pは、適度な弾性と共に、乗員に対する支持性を考慮して適度な硬度(40%圧縮硬さ)を有することが望ましい。このシートパッド6P(及び後述の弾性層)の硬度は、例えばJIS K 6400-2に準拠して測定することができる。そしてシートパッド6Pの硬度は、乗員の支持性を確保できる限り特に限定しないが、例えば硬度400N/314cm
2~600N/314cm
2の範囲に設定でき、好ましくは450N/314cm
2~550N/314cm
2の範囲に設定できる。
【0017】
[シートカバー]
次に、
図3に示すシートカバー6Sは、上記したようにシートの意匠面を構成する面材である。この種のシートカバー6Sの素材として、天然繊維や合成繊維製の布帛(織物,編物,不織布)や皮革(天然皮革,合成皮革)を例示できる。そしてシートカバー6Sは、一枚物の面材で構成することもできるが、本実施例では、複数の表皮ピース11~13等によって形成されている(
図3では、便宜上、特定の表皮ピースのみに特定の符号11~13を付し、その他の表皮ピースの符号を省略する)。即ち、シートカバー6Sは、天板メイン部用の第一表皮ピース11と、天板サイド部用の第二表皮ピース12と、後述する凸部用の第三表皮ピース13等を、これらの隣り合う端部同士を縫合して連結することで形成されている。ここで
図2に示すシートバック6の正面視において、第一表皮ピース11は、適度なシート幅方向の寸法(幅寸法)をもって上下方向に延び、第二表皮ピース12は、やや幅狭とされて上下方向に延びている。そして第三表皮ピース13は、やや幅狭とされた状態で、第一表皮ピース11と第二表皮ピース12間で上下方向に延びている。この第三表皮ピース13は、上下の長さ寸法がやや短尺とされることで、隣接するその他の表皮ピース(11,12)の下端部から上部側にかけての部分に配置されている。
【0018】
[弾性層]
また
図3に示すシートカバー6Sには、その意匠面側とは反対の裏面側に、弾性的に伸縮可能な弾性層(14~16等)が設けられている。例えば
図4を参照して、第一表皮ピース11には第一の弾性層14、第二表皮ピース12には第二の弾性層15、第三表皮ピース13には凸部用の弾性層16が設けられている。この弾性層14~16等は、マット状(面状)に形成されることで、シートカバー6Sの裏側に重複した状態で一体化されている。この種の弾性層14~16等の素材として、スラブウレタンや、それに類する各種の発泡材を例示できる。そして弾性層14~16等は、シートパッド6Pよりも柔らかくされることで、荷重が加わることで弾性的に変形し易くされている。即ち、弾性層14~16等の硬度は、上記したシートパッド6Pの硬度未満に設定されており、例えば硬度40N/314cm
2~200N/314cm
2の範囲に設定でき、好ましくは40N/314cm
2~150N/314cm
2の範囲に設定できる。
【0019】
[シートパッドとシートカバーの一体化の手法]
そして
図3及び
図4に示すシートカバー6Sは、シートパッド6Pに一体発泡されて固定されている。このシートパッド6Pは、図示しない成形型内で樹脂材料を発泡硬化させることで形成される。そこで発泡成形の前に、テンションの極力掛けられていないシートカバー6Sを成形型の成型面(
図8に示す成形面100を参照)に配置し、この状態で樹脂材料を発泡硬化させる。上記した製法によれば、シートパッド6Pの樹脂材料がシートカバー6Sの弾性層14~16等に適度に含浸して硬化するようになり、シートカバー6Sをシートパッド6Pに発泡一体化することができる。そして上記した製法によれば、シートカバー6Sを、極力テンションの掛からない状態でシートパッド6Pに一体化しておけるようになる。
【0020】
[凸部]
次に、
図1及び
図2に示す天板サイド部63と天板メイン部60間には凸部64が形成されている。この凸部64は、
図3に示すように、天板サイド部63からシート幅方向内側(右側)に突出し、且つ、天板メイン部60から着座側(前側)に突出するように形成されている。ここで凸部64の形状は特に限定しないが、本実施例では外形が円弧状に形成されてシート幅方向内側且つ着座側に突出している。そして凸部64は、天板サイド部63と天板メイン部60間に形成されることで、この天板サイド部63と天板メイン部60間に生ずるはずであった隅部分(三角隙)を埋めるように配置される。また凸部64は、
図2に示すように第三表皮ピース13に倣って上下方向に延びるように形成されていると共に、その下部側に第一領域641が設けられ、その上部側に第二領域642が設けられている。そして
図3に示す凸部64の下部側に設けられた第一領域641では、その凸部64のシート幅方向の寸法が相対的に大きくされることで、乗員の腰部等に対するフィット感とホールド性(詳細後述)が確保されている。また
図5に示す凸部64の上部側に設けられた第二領域642では、凸部64のシート幅方向の寸法が相対的に小さくされている。これにより、乗員の腕部等の動きが凸部64に極力邪魔されないようになり、乗物の操作性(例えばハンドルの操作性)の確保に資する構成となっている。
【0021】
そして凸部64の意匠面は、
図4に示す第三表皮ピース13によって形成されている。この第三表皮ピース13は、凸部64の外形形状に倣って、断面視で凸曲面をなすように配置されている。そして乗物用シート2では、第三表皮ピース13の後端部が天板メイン部60の第一表皮ピース11の左端部にインステッチST1(連結部21)を介して縫合されることで、後述する引込部20が形成されるようになる。また第三表皮ピース13の前端部は、天板サイド部63の第二表皮ピース12の後端部に別のインステッチST2(連結部材22)を介して中表状に縫合されている。上記した構成では、第三表皮ピース13(凸部のシートカバー部分)を、その他のシートカバー部分(とりわけ第二表皮ピース12)とは別体で形成したことで、第三表皮ピース13を、その他のシートカバー部分の立体形状に極力影響されることなく凸曲面状に配置しておけるようになる。これにより、凸部64の上下方向の略全域に渡って、第三表皮ピース13を仕上がり性良く凸部64に沿わせて配置しておけるようになり、シートの優れた意匠の確保に資する構成となる。
【0022】
また
図4に示す凸部64では、その第三表皮ピース13の裏側に設けられた凸部用の弾性層16が、凸部以外のシートカバー部分に設けられた弾性層(14,15等)よりも肉厚とされている。即ち、凸部用の弾性層16の厚み寸法T1は、全ての弾性層の中で最も肉厚であり、天板メイン部側の弾性層14の厚み寸法T2や天板サイド部側の弾性層15の厚み寸法T3よりも大きくなるように設定されている。ここで弾性層間の厚み寸法の比率は特に限定しないが、天板メイン部60の弾性層14の厚み寸法を1とした場合、凸部用の弾性層16の厚み寸法を1.2以上に設定でき、1.5以上であることが望ましい。そして凸部用の弾性層16は、シートパッド6Pと共に凸部64の形状を出すためのものであると共に、凸部64の変形を助長する働きを有している。即ち、凸部用の弾性層16は、シート幅方向内側(右側)且つ着座側(前側)から加わる荷重による凸部64の変形を助長する助長部31を構成している。そして上記した構成では、荷重の加えられていない自由状態の凸部64において、凸部用の弾性層16の意図しない潰れ(圧縮変形)を極力回避できることが望ましい。そこで凸部64では、上記した発泡一体化によって、第三表皮ピース13がテンションの極力掛けられていない状態となっている。これにより、第三表皮ピース13を、凸部用の弾性層16を極力潰れさせることなく、凸部64に沿わせて配置させられるようになっている。
【0023】
[引込部]
そして
図6に示す引込部20は、上記したように第三表皮ピース13の後端部と第一表皮ピース11の左端部とから形成されている。この引込部20は、第三表皮ピース13の後端部と第一表皮ピース11の左端部同士が、隣り合った状態とされて、着座側とは反対のシート裏側(図の後側)に延びている。また両表皮ピース11,13が、シート裏側に向かうにつれて次第に近づいていくことで、天板メイン部60と凸部64間には溝状の部位が設けられるようになる。そして引込部20は、各表皮ピースの末端(11E,13E)側がインステッチST1(連結部21)を介して中表状に連結されることで、別の助長部32を形成している。即ち、連結部21をなすインステッチST1は、後述するように、荷重の加えられた凸部64が撓み変形する際の基点となる箇所となっており、このインステッチST1が荷重入力箇所(詳細後述)から離れる程、凸部64が撓み変形し易くなる。このため引込部20は、シート裏側に向かうにつれて次第にシート幅方向内側に傾いた状態でシートパッド6Pに一体化されている。こうして引込部20を傾けて、その長さ寸法を確保することにより、後述する凸部64の荷重入力箇所とインステッチST1(連結部21)とを極力離しておけるようになる。
【0024】
ここで
図6に示す引込部20の傾き度合いは、引込部20の長さ寸法を確保しつつ、所定の厚みを有するシートパッド6Pに埋設して一体化できる限り特に限定しない。ここでシートパッド6Pの厚みは、例えば天板メイン部60側のシートパッド6P部分の平均厚みを基準に設定できる(
図3中、符号T0で示すシートパッドの厚みを参照)。また引込部20の傾き度合いは、
図6に示す断面視を基準として、シート幅方向(左右方向)に直交した状態で前後方向に延びる仮想直線L1を想定した場合、この仮想直線L1に対する第三表皮ピース13の傾き角度θで規定できる。そして第三表皮ピース13の傾き角度θを5°以上且つ90゜未満に設定でき、10°以上且つ90゜未満に設定することがより望ましい。上記した傾き角度θの範囲に設定することで、引込部20を、その長さ寸法を確保しつつ、より確実にシートパッド6Pに埋設して一体化できるようになる。なお第三表皮ピース13の傾き角度は、成形型において第三表皮ピース13の配置される成形面部分(
図8中、符号101で示す成形面部分)の傾き角度(θ)で規定することもできる。
【0025】
また
図6に示す第三表皮ピース13の傾き角度θの上限は90゜未満の値に設定できるが、シートカバー6Sの仕上がり性の確保の観点から上限を50°以下に設定でき、30°程度に設定することがより望ましい。ここでシートカバー6Sは上記したようにシートパッド6Pに一体発泡され、その後に成形型から抜出される(
図8参照)。このとき引込部20を形作る成形型部分(
図8中、符号101で示す成形面部分)から、引込部20(第一表皮ピース11側の部分)を撓ませながら抜出していく。このとき上記傾き角度θが大きくなるほど、第一表皮ピース11の内折された部分と第三表皮ピース13とが重なるようになり、この厚みの増した表皮部分に、抜出し時の撓みが原因のシワなどが生じやすくなる。そこで上記した傾き角度θの上限を上記した値に設定することで、表皮ピース同士の過度の重なりを回避できるようになり、シートカバー6Sの仕上がり性の確保に資する構成となる。
【0026】
なお
図3を参照して、引込部20に重なる仮想傾線L2を想定した場合、天板サイド部63に対する凸部64のシート幅方向内側(右側)への突出寸法を、仮想傾線L2を基準に設定することができる。例えばフィット感向上の観点から、凸部64の少なくとも一部を、仮想傾線L2と略同位置又はそれからシート幅方向内側に突出するように形成することもできる。そして
図3に示す凸部64は、その下端側が仮想傾線L2と概ね同位置に配置されている。
【0027】
[乗物旋回時の乗員の挙動]
上記したシート構成では、乗物旋回時等において、
図3に示す天板メイン部60に支持された乗員Xが横Gを受けるようになる。この種の構成では、上記したように乗員Xに対するホールド性を確保しつつ、乗員Xに対するフィット感をより向上させることが望ましい。そこで乗物用シート2では、その天板サイド部63と天板メイン部60間に、天板サイド部63からシート幅方向内側(右側)に突出し且つ天板メイン部60から着座側(前側)に突出する凸部64が設けられている。そして凸部64には、シート幅方向内側且つ着座側から加わる荷重による変形を助長する助長部(31,32)が設けられている。上記した構成では、乗物旋回時の乗員Xを、天板サイド部63と天板メイン部60間の凸部64で受けられるようになる。このとき助長部(31,32)の働きで、荷重の加えられた凸部64の変形を助長して、乗員Xに対する凸部64の反力を低減することが可能になる。そこで以下に、凸部64と助長部(31,32)の働きをより具体的に説明する。
【0028】
[凸部の働き]
先ず、
図3及び
図4に示す凸部64は、上記したように天板サイド部63からシート幅方向内側(右側)に突出し且つ天板メイン部60から着座側(前側)に突出している。これにより、天板サイド部63と天板メイン部60間に生ずるはずであった三角隙を凸部64で埋められるようになり、乗員着座時に座圧が抜ける箇所が極力生じ難くなる。そして天板メイン部60に支持された乗員X(腰部等)が横Gを受けた場合、横滑りしようとする乗員Xを凸部64で真っ先に受けられるようになる。上記した構成によれば、凸部64の働きで、乗員Xに対するフィット感をより向上させられるようになり、乗物旋回時等における乗員Xの過度の横滑りを抑制することができる。
【0029】
[助長部の働き]
次に
図4及び
図7を参照して、横Gを受けた乗員Xに凸部64が当てられることで、この凸部64に、シート幅方向内側(右側)且つ着座側(前側)から荷重F1が加えられるようになる。ここで凸部64では、隣り合う天板メイン部60の左端(引込部をなす第一表皮ピースの内折り基点となる部分)よりも着座側の箇所、とりわけ凸部64の前部部分に荷重F1が加えられるようになり、当該箇所が凸部64の荷重入力箇所となる。そして凸部64では、弾性的に変形し易く且つ肉厚な凸部用の弾性層16(助長部31)が、第三表皮ピース13の裏側略全面に設けられている。このため凸部64に荷重F1が加えられた場合、凸部用の弾性層16が潰れるように弾性的に変形することで、乗員Xに加わる凸部64の反力を低減することができる。また荷重F1の加えられた凸部64は、引込部20(別の助長部32)に設けられた連結部21としてのインステッチST1を基点として、シート幅方向外側(左側)且つシート裏側(後側)に撓み変形する。このときシートバック6では、その引込部20がシート幅方向内側且つシート裏側に向けて斜めに配置されることで、凸部64の荷重入力箇所に対して連結部21が極力離れて配置されている。こうして撓み変形の基点となる連結部21を荷重入力箇所から極力離しておくことで、荷重F1の加えられた凸部64が大きく撓み変形できるようになり、乗員Xに加わる凸部64の反力を一層低減することができる。上記した構成では、各助長部31,32の働きで、乗員Xに対する凸部64の反力を低減することで、乗員Xの背中側が凸部64に引っ掛かり難くなる。このため上記した構成によれば、横Gを受けた乗員が、凸部64を基点にシート方向外側に過度に回転するといった事態を極力回避することができる。
【0030】
[シートクッション]
そして
図1に示す乗物用シート2では、シートバック6と同様に、座部となるシートクッション4が、シートクッション用のシートフレーム4Fとシートパッド4Pとシートカバー4Sとを有している。またシートクッション4は、そのシート幅方向両側(右側及び左側)に、シートクッション用の天板メイン部40と土手部41(カマチ部42及び天板サイド部43)と別の凸部44とが形成されている。これにより、シートクッション4においても、乗物旋回時等において、乗員(特に臀部)に対するホールド性を確保しつつ、乗員に対するフィット感をより向上させることができる。またシートクッション4では、その後部側(別の第一領域441)において、別の凸部44のシート幅方向の寸法が大きくされており、乗員の臀部に対するフィット感とホールド性が確保されている。また別の凸部44の前部側(別の第二領域442)では、別の凸部44のシート幅方向の寸法が小さくされている。これにより、乗員の脚部等の動きが別の凸部44に極力邪魔されないようになり、乗物の操作性(例えばペダルの操作性)の確保に資する構成となっている。
【0031】
以上説明した通り、本実施例では、シートカバー6Sをシートパッド6Pに一体発泡して、このシートカバー6Sにテンションを掛かり難くすることで、所望の形状の凸部64を形成し易くなる。そして乗物旋回時の乗員を、天板サイド部63と天板メイン部60間に設けられた凸部64で受けられるようになり、乗員に対するフィット感をより向上させることができる。また助長部31,32の働きで、荷重の加えられた凸部64の変形を助長して、乗員に加わる凸部64の反力を低減することにより、乗員に対するホールド性の確保に資する構成となる。このため本実施例によれば、乗物旋回時等において、乗員に対するホールド性を確保しつつ、乗員に対するフィット感をより向上させることができる。
【0032】
更に本実施例では、引込部20をシート幅方向内側に傾けておくことで、シートパッド6Pに埋設される引込部20の長さ寸法を極力大きく取ることが可能になる。そして引込部20の長さ寸法を大きく取ることで、荷重入力時の凸部64の撓み変形の基点となる連結部21を、凸部64の荷重入力箇所から極力離しておけるようになる。また本実施例では、凸部64を覆うシートカバー部分(第三表皮ピース13)が、天板サイド部63を覆うシートカバー部分(第二表皮ピース12)とは別体で形成されている。これにより、凸部64を覆うシートカバー部分(第三表皮ピース13)を、より確実に凸部64の形状に沿わせて配置させられるようになる。また本実施例では、肉厚な凸部用の弾性層16によって、所望の形状の凸部64を形成し易くなる。そして相対的に変形し易い凸部用の弾性層16の働きにより、荷重の加えられた凸部64がより確実に撓み変形するようになる。
【0033】
本実施形態の乗物用シートは、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施形態では、凸部の構成を例示したが、凸部の構成を限定する趣旨ではない。例えば凸部の形状は、外形が円弧状に形成される場合のほか、角形などの各種の形状を取ることができる。また凸部の外形を前側が頂点となる山なり形状とすることができ、この場合には凸部が前部側に向かうほど相対的に変形し易くなる。この場合には、凸部の形状が助長部を構成する。そして凸部は、助長部として、凸部用の弾性層を肉厚とする構成、凸部64の撓み変形の基点を極力離す構成、凸部の形状を工夫する構成の少なくとも一つを有することができる。また引込部は、必ずしも傾ける必要はなく、シートパッドが十分な厚みを有する場合には、
図6に示す仮想直線L1と同じ向きでシート裏側に延ばすことができる。また凸部は、一枚の凸部用の弾性層を有していてもよく、複数枚の弾性層を積層して有していてもよい。なお複数枚の弾性層を設ける場合、その合計厚み寸法を、凸部用の弾性層の厚み寸法とみなすことができる。また弾性層の厚みが部分的に異なる場合には、その平均厚み寸法を基準とすることができる。
【0034】
またシートバックとシートクッションの構成も適宜変更可能であり、シートバックとシートクッションの少なくとも一方に本実施例の構成を設けることができる。また必要に応じてヘッドレストを省略することもできる。またシートバックとシートクッションでは、その天板メイン部や凸部や土手部の構成を適宜変更可能であり、シート幅方向両側(右側と左側)の少なくとも一方に本実施例の構成を設けることができる。また凸部は、シート上下方向又は前後方向において、その幅寸法が略同一でもよく、異なっていても(複数の領域を設けても)よい。そして本実施例の構成は、車両や航空機や電車や船舶などの乗物用シート全般に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
2 乗物用シート
4 シートクッション
6 シートバック
8 ヘッドレスト
R リクライナ
6F (シートバック用の)シートフレーム
6P (シートバック用の)シートパッド
6S (シートバック用の)シートカバー
11 第一表皮ピース(天板メイン部のシートカバー部分)
12 第二表皮ピース(天板サイド部のシートカバー部分)
13 第三表皮ピース(凸部のシートカバー部分)
14 第一の弾性層
15 第二の弾性層
16 凸部用の弾性層
20 引込部
21 連結部
22 連結部材
31 助長部
32 別の助長部
60 (シートバック用の)天板メイン部
61 (シートバック用の)土手部
62 (シートバック用の)カマチ部
63 (シートバック用の)天板サイド部
64 (シートバック用の)凸部
641 (シートバック用の)第一領域
642 (シートバック用の)第二領域
ST1 インステッチ
ST2 別のインステッチ
4F (シートクッション用の)シートフレーム
4P (シートクッション用の)シートパッド
4S (シートクッション用の)シートカバー
40 (シートクッション用の)天板メイン部
41 (シートクッション用の)土手部
42 (シートクッション用の)カマチ部
43 (シートクッション用の)天板サイド部
44 (シートクッション用の)別の凸部
441 別の第一領域
442 別の第二領域
X 乗員