IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-放射線遮蔽構造 図1
  • 特開-放射線遮蔽構造 図2
  • 特開-放射線遮蔽構造 図3
  • 特開-放射線遮蔽構造 図4
  • 特開-放射線遮蔽構造 図5
  • 特開-放射線遮蔽構造 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017731
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】放射線遮蔽構造
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/00 20060101AFI20250130BHJP
   G21F 7/00 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
G21F3/00 L
G21F7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120922
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小迫 和明
(72)【発明者】
【氏名】能任 琢真
(72)【発明者】
【氏名】木下 哲一
(57)【要約】
【課題】放射線利用施設の体積を増加したり、歪な構造とすることなく、出入口における漏洩線量を低減可能な放射線遮蔽構造を提供する。
【解決手段】迷路22は、前記迷路内壁20の側端部24と、前記放射線遮蔽壁14の間に形成された開口部26から前記迷路内壁20の厚さ方向に延びる通路である第1脚28と、この第1脚28と前記出入口18とを接続し、前記迷路内壁20に沿って延びる通路である第2脚30とを有し、第2脚30は、上下方向から見て、前記放射線発生装置12の側にくの字状に屈曲した屈曲部34を有するようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線発生装置を収容し、放射線遮蔽壁に囲まれた収容室と、前記放射線発生装置からの放射線が前記収容室の出入口に直接到達することを防ぐために前記放射線発生装置と前記出入口の間に設けられた迷路内壁と、前記迷路内壁と前記放射線遮蔽壁により区画形成され、前記出入口に接続した迷路とを備える放射線遮蔽構造であって、
前記迷路は、前記迷路内壁の側端部と、前記放射線遮蔽壁の間に形成された開口部から前記迷路内壁の厚さ方向に延びる通路である第1脚と、この第1脚と前記出入口とを接続し、前記迷路内壁に沿って延びる通路である第2脚とを有し、第2脚は、上下方向から見て、前記放射線発生装置の側にくの字状に屈曲した屈曲部を有することを特徴とする放射線遮蔽構造。
【請求項2】
第1脚の通路方向に直角で第2脚に向かう方向を基準方向とした場合、第1脚から第2脚の前記屈曲部に至る通路方向と前記基準方向とのなす角度が、上下方向から見て、10~20°の角度の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の放射線遮蔽構造。
【請求項3】
前記迷路内壁は、前記屈曲部に応じた厚さで構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線遮蔽構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば医療用放射線照射室のような出入口に迷路を備えた放射線遮蔽構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用リニアック室などの放射線利用施設では、放射線を照射する照射室と出入口の間に放射線の外部漏洩を防ぐための迷路構造を設けて、出入口に遮蔽扉を設置している(例えば、特許文献1を参照)。リニアック室の迷路は多くの場合、2脚構造となっている。
【0003】
図6(1)、(2)に、従来の2脚構造の迷路を備えたリニアック室の一例を示す。これらの図に示すように、リニアック室1は、鉄板2を内蔵した放射線遮蔽壁3に囲まれた平面視で略矩形状の照射室4と、照射室4の出入口5に繋がる2脚構造の迷路6を有する。照射室4の略中央には、放射線を放出するリニアック装置7が設けられ、ここから利用線錘Cが形成される。迷路6は、第1脚Aと第2脚Bを有し、迷路内壁8に沿って設けられる。迷路内壁8は、照射室4と出入口5の間を仕切るように一方の放射線遮蔽壁3から対向する放射線遮蔽壁3に向けて突出した壁であり、迷路内壁8の突出端部と対向する放射線遮蔽壁3との間には、照射室4と迷路6とを連絡する開口部9が形成される。
【0004】
迷路6の第1脚Aは、照射室4に近い側に設けられ、第2脚Bは、出入口5に近い側に設けられる。第1脚Aは、第2脚Bを接続することが目的であるため長さは短い。図6の例では、第1脚Aの長さは、迷路内壁8の厚さと迷路幅の和と同程度である。第2脚Bは、第1脚Aから迷路内壁8に沿って直角または外側に少し角度を付けて設置され、照射室4の横幅と同程度の長さがある。第2脚Bの終端または終端近くの直角方向に出入口5が設置される。出入口5には、放射線を遮蔽する機能を有する遮蔽扉5Aが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-097630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
照射室4から迷路6の第1脚Aに進入する放射線は、第1脚Aに設けられた図示しない垂れ壁により進入口の面積が小さくなる分だけ減少するが、大部分は第1脚Aの壁面と床面で散乱し、その一部が第2脚Bに進入する。散乱して第2脚Bに進入した放射線は、真っ直ぐな第2脚Bの壁面に沿ってコリメートされながら進行して出入口5に到達する。第2脚Bの放射線の減衰は進行距離L[m]による1/L則にのみ従うので、距離を長く取りたいが、構造上リニアック室1の横幅に制限される。
【0007】
第1脚Aを大きくして第2脚Bへ散乱して進入する放射線を大きく減らすためには、トラップ構造や距離を増やすために倍以上の体積空間とする必要がある。しかし、このようにすると、リニアック室1の体積が増加したり、歪な構造となるので、メリットがあるとは言えない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、放射線利用施設の体積を増加したり、歪な構造とすることなく、出入口における漏洩線量を低減可能な放射線遮蔽構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る放射線遮蔽構造は、放射線発生装置を収容し、放射線遮蔽壁に囲まれた収容室と、前記放射線発生装置からの放射線が前記収容室の出入口に直接到達することを防ぐために前記放射線発生装置と前記出入口の間に設けられた迷路内壁と、前記迷路内壁と前記放射線遮蔽壁により区画形成され、前記出入口に接続した迷路とを備える放射線遮蔽構造であって、前記迷路は、前記迷路内壁の側端部と、前記放射線遮蔽壁の間に形成された開口部から前記迷路内壁の厚さ方向に延びる通路である第1脚と、この第1脚と前記出入口とを接続し、前記迷路内壁に沿って延びる通路である第2脚とを有し、第2脚は、上下方向から見て、前記放射線発生装置の側にくの字状に屈曲した屈曲部を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の放射線遮蔽構造は、上述した発明において、第1脚の通路方向に直角で第2脚に向かう方向を基準方向とした場合、第1脚から第2脚の前記屈曲部に至る通路方向と前記基準方向とのなす角度が、上下方向から見て、10~20°の角度の範囲であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の放射線遮蔽構造は、上述した発明において、前記迷路内壁は、前記屈曲部に応じた厚さで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る放射線遮蔽構造は、放射線発生装置を収容し、放射線遮蔽壁に囲まれた収容室と、前記放射線発生装置からの放射線が前記収容室の出入口に直接到達することを防ぐために前記放射線発生装置と前記出入口の間に設けられた迷路内壁と、前記迷路内壁と前記放射線遮蔽壁により区画形成され、前記出入口に接続した迷路とを備える放射線遮蔽構造であって、前記迷路は、前記迷路内壁の側端部と、前記放射線遮蔽壁の間に形成された開口部から前記迷路内壁の厚さ方向に延びる通路である第1脚と、この第1脚と前記出入口とを接続し、前記迷路内壁に沿って延びる通路である第2脚とを有し、第2脚は、上下方向から見て、前記放射線発生装置の側にくの字状に屈曲した屈曲部を有するので、放射線利用施設である放射線遮蔽構造の体積を増加したり、歪な構造とすることなく、出入口における漏洩線量を低減することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他の放射線遮蔽構造は、上述した発明において、第1脚の通路方向に直角で第2脚に向かう方向を基準方向とした場合、第1脚から第2脚の前記屈曲部に至る通路方向と前記基準方向とのなす角度が、上下方向から見て、10~20°の角度の範囲であるので、出入口における漏洩線量を効果的に低減することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の放射線遮蔽構造は、上述した発明において、前記迷路内壁は、前記屈曲部に応じた厚さで構成されているので、放射線発生装置から迷路内壁を透過する漏洩線量の増大を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る放射線遮蔽構造の実施の形態を示す平断面図である。
図2図2は、本発明の比較例を示す平断面図である。
図3図3は、漏洩線量の計算結果の一例を示すコンター図である。
図4図4は、漏洩線量の計算結果の一例を示すコンター図である。
図5図5は、本発明に係る放射線遮蔽構造の他の実施の形態を示す平断面図である。
図6図6は、従来の放射線遮蔽構造の一例を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る放射線遮蔽構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る放射線遮蔽構造10は、放射線発生装置12を収容し、放射線遮蔽壁14に囲まれた収容室16と、放射線発生装置12からの放射線が収容室16の出入口18に直接到達することを防ぐために放射線発生装置12と出入口18の間に設けられた迷路内壁20と、迷路内壁20と放射線遮蔽壁14により区画形成され、出入口18に接続した2脚構造の迷路22とを備える。出入口18には、放射線を遮蔽する機能を有する遮蔽扉が設けられる。
【0018】
本実施の形態の放射線遮蔽構造10は、上記の図6(1)のリニアック室1を想定している。放射線発生装置12は、放射線を放出するリニアック装置7を想定しており、収容室16の略中央に設けられる。また、収容室16は平面視で略矩形状の照射室4を想定している。放射線遮蔽壁14は、収容室16の縦幅方向Xと、これに直交する横幅方向Yを含む位置に設けられる。
【0019】
迷路内壁20は、収容室16と出入口18の間を仕切るように、縦幅方向Xに延びる放射線遮蔽壁14(不図示)から対向する放射線遮蔽壁14に向けて横幅方向Yに突出した壁であり、迷路内壁20の突出端部24(側端部)と対向する放射線遮蔽壁14との間には、収容室16と迷路22とを連絡する開口部26が形成される。
【0020】
迷路22は、第1脚28と、第2脚30とを有し、迷路内壁20に沿って設けられる。
【0021】
第1脚28は、開口部26から迷路内壁20の厚さ方向(縦幅方向X)に延びて、迷路外壁32を兼ねた放射線遮蔽壁14に突き当たった通路である。第1脚28は、第2脚30を接続することが目的であるため長さは短い。第1脚28の長さは、迷路内壁20の厚さと第2脚30の迷路幅の和と同程度である。
【0022】
第2脚30は、第1脚28と出入口18とを接続し、迷路内壁20の突出端部24から迷路内壁20に沿って概ね横幅方向Yに延びる通路である。第2脚30は、上下方向から見て、放射線発生装置12の側にくの字状に屈曲した屈曲部34を有する。具体的には、第2脚30を形成する迷路内壁20は、迷路内壁20の突出端部24の外端部36から出入口18に向けて横幅方向Yに真っすぐ延びるのではなく、外端部36から横幅方向Yに進むにしたがって放射線発生装置12に近づくように内側に角度θを付けて直線状に延びている。そして、第2脚30の中間長さ付近の屈曲部34で角度を反転して外側に屈曲している。つまり、屈曲部34から出入口18に向けて横幅方向Yに進むにしたがって放射線発生装置12から遠ざかるように角度を付けて直線状に延びている。第2脚30の迷路幅は、出入口18まで略一定である。このため、迷路外壁32は、上下方向から見て、迷路内壁20の配置角度に応じて屈曲した形をしている。なお、本発明の第2脚30に設けられる屈曲部34は、図2に示すように、外端部36から横幅方向Yに進むにしたがって放射線発生装置12から遠ざかるように延びて、中間長さ付近で放射線発生装置12に近づくように屈曲するものではない。
【0023】
第2脚30を内側に屈曲する角度θは、上下方向から見て、横幅方向Y(基準方向)と、外端部36から屈曲部34に至る迷路内壁20の壁面とのなす角度である。この角度θは、大きくなる程、出入口18における漏洩線量を低減することができる。漏洩線量を効果的に低減するために、角度θは10~20°程度の範囲に設定することが好ましい。第2脚30が内側向きから外側向きに反転する屈曲部34の位置は、第2脚30の中間長さよりも少し短い方(中間長さ位置よりも第1脚28に近い側)が、コリメータされた放射線を早く散乱で減少させることができるので、効果的である。
【0024】
図3および図4は、第2脚30の角度θを0°、10°、15°、20°として計算した漏洩線量のコンター図の一例である。これらの図によれば、角度θが10°の場合は約10%、15°の場合は約25%、20°の場合は約40%の漏洩線量の低減効果を見込める。第2脚30を内側に屈曲することにより、第2脚30の長さを直線とする場合よりも長くすることができるので、距離の減衰効果を高くすることできる。
【0025】
迷路内壁20の厚さは、第2脚30の内側への屈曲角度θが大きくなると角度の反転位置近傍の屈曲部34が最も薄くなる。薄くなると放射線発生装置12からの漏洩線が迷路内壁20を透過する量が多くなるため、第2脚30の内側への屈曲による放射線の低減効果を上回る漏洩線量となるおそれがある。このため、透過量が増えない内壁厚さを確保するために、迷路内壁20は、第2脚30の迷路形状に応じた厚さで構成することが望ましい。例えば、図5に示すように、角度の反転位置近傍の屈曲部34でも透過量が増えない厚さ(例えば100cm以上の厚さ)を担保するように、第2脚30の内側への屈曲角度θが大きい場合は、迷路内壁20の収容室16側に傾斜部38を形成し、内壁厚さを増すことが望ましい。このようにすれば、迷路内壁20を透過する漏洩線量の増大を防止することができる。
【0026】
本実施の形態によれば、内側へ屈曲した第2脚30の迷路により、放射線の散乱方向をコリメートして出入口18に正対しない配置にでき、迷路距離も延びるため、出入口18における漏洩線量を低減することができる。したがって、放射線遮蔽構造10の体積を増加したり、歪な構造とすることなく、出入口18における漏洩線量を低減することができる。
【0027】
また、出入口18の遮蔽扉に要求される遮蔽性能を抑えることができ、それにより遮蔽扉の製作・設置コストを削減できる。迷路22内に一般的に設けられるダクトやスリーブ貫通孔からの漏洩線量も低減できるため、遮蔽棚の縮小などが可能となる。
【0028】
以上説明したように、本発明に係る放射線遮蔽構造は、放射線発生装置を収容し、放射線遮蔽壁に囲まれた収容室と、前記放射線発生装置からの放射線が前記収容室の出入口に直接到達することを防ぐために前記放射線発生装置と前記出入口の間に設けられた迷路内壁と、前記迷路内壁と前記放射線遮蔽壁により区画形成され、前記出入口に接続した迷路とを備える放射線遮蔽構造であって、前記迷路は、前記迷路内壁の側端部と、前記放射線遮蔽壁の間に形成された開口部から前記迷路内壁の厚さ方向に延びる通路である第1脚と、この第1脚と前記出入口とを接続し、前記迷路内壁に沿って延びる通路である第2脚とを有し、第2脚は、上下方向から見て、前記放射線発生装置の側にくの字状に屈曲した屈曲部を有するので、放射線利用施設である放射線遮蔽構造の体積を増加したり、歪な構造とすることなく、出入口における漏洩線量を低減することができる。
【0029】
また、本発明に係る他の放射線遮蔽構造は、上述した発明において、第1脚の通路方向に直角で第2脚に向かう方向を基準方向とした場合、第1脚から第2脚の前記屈曲部に至る通路方向と前記基準方向とのなす角度が、上下方向から見て、10~20°の角度の範囲であるので、出入口における漏洩線量を効果的に低減することができる。
【0030】
また、本発明に係る他の放射線遮蔽構造は、上述した発明において、前記迷路内壁は、前記屈曲部に応じた厚さで構成されているので、放射線発生装置から迷路内壁を透過する漏洩線量の増大を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明に係る放射線遮蔽構造は、医療用放射線照射室などの迷路を備える放射線利用施設に有用であり、特に、放射線利用施設の体積を増加したり、歪な構造とすることなく、出入口における漏洩線量を低減するのに適している。
【符号の説明】
【0032】
10 放射線遮蔽構造
12 放射線発生装置
14 放射線遮蔽壁
16 収容室
18 出入口
20 迷路内壁
22 迷路
24 突出端部(側端部)
26 開口部
28 第1脚
30 第2脚
32 迷路外壁
34 屈曲部
36 外端部
38 傾斜部
X 縦幅方向
Y 横幅方向
θ 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6