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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017761
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】スパー型洋上風力発電設備の建造方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 77/10 20200101AFI20250130BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20250130BHJP
【FI】
B63B77/10
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120974
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】小林 修
(72)【発明者】
【氏名】西山 桂司
(72)【発明者】
【氏名】鷺島 英之
(72)【発明者】
【氏名】大村 博之
(72)【発明者】
【氏名】野地 祐史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 欣雄
(72)【発明者】
【氏名】荒井 一範
(57)【要約】
【課題】スパー型洋上風力発電設備の上部構造体を一括施工で組立てすることにより建造の効率化を図るとともに、施工に用いるセミサブ型クレーンは特に重量物を吊り下げた際の動揺を抑えて安定的に作業を行い得るようにする。
【解決手段】比較的波の穏やかな静穏域として選定された海域において、組立用架台13上でタワー6、ナセル8及びブレード9からなる洋上風力発電設備の上部構造体12の組立てを行う第1ステップと、前記組立用架台13上で組み立てた前記上部構造体12を、デッキ面に移動式カウンターウエイト装置3を設備したセミサブ型クレーン2によって一括で吊り上げて洋上風力発電設備1の建造場所まで運搬する第2ステップと、浮体4を洋上に起立状態で保持する第3ステップと、前記セミサブ型クレーン2によって前記上部構造体12を吊り上げた状態のまま前記浮体4の上部に連結して洋上風力発電設備1を完成させる第4ステップとからなる。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
比較的波の穏やかな静穏域として選定された海域において、組立用架台上でタワー、ナセル及びブレードからなる洋上風力発電設備の上部構造体の組立てを行う第1ステップと、
前記組立用架台上で組み立てた前記上部構造体を、デッキ面に移動式カウンターウエイト装置を設備したセミサブ型クレーンによって一括で吊り上げて洋上風力発電設備の建造場所まで運搬する第2ステップと、
岸壁で浮体全部の組み立てを行った後、完成した浮体を半潜水型スパッド台船によって洋上風力発電設備の建造場所まで運搬し、浮体を洋上にフロートオフさせたならば、係留索を取り付けて浮体を起立状態で保持する第3ステップと、
前記セミサブ型クレーンによって前記上部構造体を吊り上げた状態のまま前記浮体の上部に連結して洋上風力発電設備を完成させる第4ステップとからなるスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【請求項2】
前記浮体はコンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部と、このコンクリート製浮体部の上側に連設された鋼製浮体部とからなるスパー型浮体又はコンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体からなるスパー型浮体とされる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【請求項3】
前記組立用架台として、SEP式台船、モノパイル基礎、ジャケット基礎又はケーソン基礎を用いる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【請求項4】
前記移動式カウンターウエイト装置は、ウエイトの下面に走行部を設けることにより任意方向に移動可能とし、四隅又は三隅、或いは前記ウエイトを跨いだ前後部にウインチを配置し、ウインチから繰り出したワイヤーをウエイトに連結し、前記ウインチの操作によって前記ウエイトを所定の位置に移動制御するようにした装置とされる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上風力発電設備の上部構造体(タワー、ナセル及びブレード)を安定的に一括施工するためのスパー型洋上風力発電設備の建造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、主として水力、火力及び原子力発電等の発電方式が採用されてきたが、近年は環境や自然エネルギーの有効活用の点から自然風を利用して発電を行う風力発電が注目されている。この風力発電設備には、陸上設置式と、水上(主として海上)設置式とがあるが、沿岸域から後背に山岳地形をかかえる我が国の場合は、沿岸域に安定した風が見込める平野が少ない状況にある。一方、日本は四方を海で囲まれており、海上には発電に適した風が容易に得られるとともに、設置の制約が少ないなどの利点を有する。そのため近年は、各種形式の洋上風力発電設備及び浮体構造が多く提案されている。
【0003】
前記浮体構造としては、浮体を水面に浮かばせるバージ型浮体、浮体の下部を水面下に沈めて半潜水状態で浮かばせるセミサブ型、釣り浮きのように起立状態で浮かばせるスパー型などに大別される。
【0004】
本出願人は、前記スパー型浮体に関して、下記特許文献1において、浮体と、係留索と、タワーと、タワーの頂部に設備されるナセル及び複数の風車ブレードとからなる洋上風力発電設備であって、前記浮体は、コンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体をPC鋼材により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部(以下、コンクリート製浮体部という。)と、この下側コンクリート浮体構造部の上側に連設された上側鋼製浮体構造部(以下、鋼製浮体部という。)とからなるスパー型浮体構造とした洋上風力発電設備(以下、スパー型洋上風力発電設備という。)を提案した。
【0005】
前記スパー型洋上風力発電設備の浮体建造方法としては、図22に示されるように、造船所において、前記鋼製浮体部を所定重量毎に分割した各鋼製リングの製作を行った後、これら各鋼製リングを溶接によって連結し鋼製浮体部を完成させる。そして、この鋼製浮体部を台船に積み込み、現地製作ヤードまで台船輸送したならば、1300tクラスの大型起重機船を使って岸壁に水切り(陸揚げ)を行うようにし、一方コンクリート製浮体部は、コンクリートメーカーの工場において、1リングをトラック輸送の便宜から周方向に複数に分割した状態で製作し、これら分割リングを現地製作ヤードにトラックで現地製作ヤードまで運び、ここで周方向に結合したならば、さらに各リングをPC鋼材を用いて長手方向に連結してコンクリート製浮体部を完成させるようにし、最後に、前記鋼製浮体部とコンクリート浮体部とを1300tクラスの大型起重機船を使って結合し、浮体を完成させるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5274329号公報
【特許文献2】特開2012-201219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スパー型洋上風力発電設備の洋上での建造に際して、前記スパー型浮体を洋上に浮かべた状態でタワー、ナセル及びブレード等の風車設備を設置する際には、波の穏やかな湾内で行うことが望ましいが、スパー型浮体の吃水(水面下の部分)が概ね70m以上と深いのに対して、湾内の水深は一般的にこれよりも浅いため、湾内での施工は困難であり、風車設備の設置に当たっては、図23に示されるように、水深の深い湾外で大型起重機船70を用いて行うようにしていた(特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、洋上風力発電設備の建造を行い得る大型の起重機船は、現時点では日本には数隻しかなく、1日の使用料(傭船料)が高額であり傭船コストが膨大となるという問題があった。そこで、近年は洋上風力発電設備の建造のために、セミサブ型浮体にクレーンを搭載したセミサブ型クレーンが製作されているが、セミサブ型浮体は大型起重機船に比べると自重が軽いため波の影響を受け易く安定性に欠ける問題があるとともに、タワーやナセルなどの重量物を吊持すると浮体全体が動揺し不安定になる問題があり、風力発電設備の組立て作業時に支障が生じる可能性があった。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、スパー型洋上風力発電設備の上部構造体を一括施工で組立てすることにより建造の効率化を図るとともに、施工に用いるセミサブ型クレーンは特に重量物を吊り下げた際の動揺を抑えて安定的に作業を行い得るようにしたスパー型洋上風力発電設備の建造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、スパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
比較的波の穏やかな静穏域として選定された海域において、組立用架台上でタワー、ナセル及びブレードからなる洋上風力発電設備の上部構造体の組立てを行う第1ステップと、
前記組立用架台上で組み立てた前記上部構造体を、デッキ面に移動式カウンターウエイト装置を設備したセミサブ型クレーンによって一括で吊り上げて洋上風力発電設備の建造場所まで運搬する第2ステップと、
岸壁で浮体全部の組み立てを行った後、完成した浮体を半潜水型スパッド台船によって洋上風力発電設備の建造場所まで運搬し、浮体を洋上にフロートオフさせたならば、係留索を取り付けて浮体を起立状態で保持する第3ステップと、
前記セミサブ型クレーンによって前記上部構造体を吊り上げた状態のまま前記浮体の上部に連結して洋上風力発電設備を完成させる第4ステップとからなるスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明では、比較的波の穏やかな静穏域として選定された海域において、組立用架台上でタワー、ナセル及びブレードからなる洋上風力発電設備の上部構造体の組立てを行う(第1ステップ)。次に、前記組立用架台上で組み立てた前記上部構造体を、デッキ面に移動式カウンターウエイト装置を設備したセミサブ型クレーンによって一括で吊り上げて洋上風力発電設備の建造場所まで運搬する(第2ステップ)。
【0012】
一方で、岸壁で浮体全部の組み立てを行った後、完成した浮体を半潜水型スパッド台船によって洋上風力発電設備の建造場所まで運搬し、浮体を洋上にフロートオフさせたならば、係留索を取り付けて浮体を起立状態で保持する(第3ステップ)。この第3ステップは、第1ステップ及び第2ステップとは別工程で行う作業であり、第1ステップ及び第2ステップの前工程でも良いし後工程でも良い。また同時並行的工程で行っても良い。
【0013】
前記上部構造体は、かなりの重量物となるが、前記セミサブ型クレーンはデッキ面に移動式カウンターウエイト装置を設備した構造としてあるため、前記上部構造体をクレーンによって吊り上げる際には、吊り上げ荷重による動揺を抑え得る位置に前記移動式カウンターウエイト装置のウエイトを移動することにより船体の動揺を抑えて安定化が図れるようになる。
【0014】
最後に、前記セミサブ型クレーンによって前記上部構造体を吊り上げた状態のまま前記浮体の上部に連結して洋上風力発電設備を完成させる(第4ステップ)。本発明では、スパー型洋上風力発電設備の上部構造体をセミサブ型クレーンにより一括施工で組立てすることにより建造の効率化を図れるようになる。また、前記セミサブ型クレーンは移動式カウンターウエイト装置を設備しているため、特に重量物を吊り下げた際の動揺を抑えて安定的に作業を行い得るようになる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記浮体はコンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部と、このコンクリート製浮体部の上側に連設された鋼製浮体部とからなるスパー型浮体又はコンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体からなるスパー型浮体とされる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明は、浮体の構造を具体的に規定したものである。具体的には、浮体構造としては、コンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部と、このコンクリート製浮体部の上側に連設された鋼製浮体部とからなるスパー型浮体又はコンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体からなるスパー型浮体とすることができる。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記組立用架台として、SEP式台船、モノパイル基礎、ジャケット基礎又はケーソン基礎を用いる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明は、組立用架台としての具体例を示したものである。具体的には、前記組立用架台としては、SEP式台船、モノパイル基礎、ジャケット基礎又はケーソン基礎を用いることができる。
【0019】
請求項4に係る本発明として、前記移動式カウンターウエイト装置は、ウエイトの下面に走行部を設けることにより任意方向に移動可能とし、四隅又は三隅、或いは前記ウエイトを跨いだ前後部にウインチを配置し、ウインチから繰り出したワイヤーをウエイトに連結し、前記ウインチの操作によって前記ウエイトを所定の位置に移動制御するようにした装置とされる請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明は、移動式カウンターウエイト装置の構造を具体的に規定したものである。具体的には、ウエイトの下面に走行部を設けることにより任意方向に移動可能とし、適宜の位置にウインチを配置し、前記ウインチ操作によって前記ウエイトを所定の位置に移動制御するようにした装置を好適に挙げることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳説のとおり本発明によれば、スパー型洋上風力発電設備の上部構造体を一括施工で組立てすることにより建造の効率化を図るとともに、施工に用いるセミサブ型クレーンは特に重量物を吊り下げた際の動揺を抑えて安定的に作業を行い得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】スパー型洋上風力発電設備1の全体図である。
図2】浮体4の縦断面図である。
図3】プレキャスト筒状体15を示す、(A)は縦断面図、(B)は平面図(B-B線矢視図)、(C)は底面図(C-C線矢視図)である。
図4】プレキャスト筒状体15同士の緊結要領図(A)(B)である。
図5】コンクリート製浮体部4Aと鋼製浮体部4Bとの境界部を示す拡大縦断面図である。
図6】本発明に係るセミサブ型クレーン2を示す、(A)は側面図、(B)はその平面図である。
図7】移動式カウンターウエイト装置3の他例を示す平面図である。
図8】移動式カウンターウエイト装置3の更に他例を示す平面図である。
図9】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その1)である。
図10】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その2)である。
図11】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その3)である。
図12】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その4)である。
図13】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その5)である。
図14】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その6)である。
図15】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その7)である。
図16】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その8)である。
図17】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その9)である。
図18】本発明に係るスパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その10)である。
図19】組立用架台13の他例を示す上部構造体の組立要領図である。
図20】組立用架台13の他例を示す上部構造体の組立要領図である。
図21】組立用架台13の他例を示す上部構造体の組立要領図である。
図22】従来の浮体建造方法を示すフロー図である。
図23】特許文献2における大型起重機船70による一括施工要領図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0024】
〔ハイブリッドスパー型洋上風力発電設備1〕
先ず最初に、本発明が適用されるスパー型洋上風力発電設備1について、図1図5に基づいて詳述する。
【0025】
前記スパー型洋上風力発電設備1は、詳細には図1に示されるように、スパー型の筒状形状の浮体4と、係留索10と、タワー6と、タワー6の頂部に設備されるナセル8及び複数のブレード9,9…からなる風車7とから構成されるものである。
【0026】
前記浮体4は、図2に示されるように、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部4Aと、このコンクリート浮体部4Aの上側に連設された鋼製浮体部4Bとからなる。
【0027】
前記浮体4の中空部内には、水、砂利、細骨材又は粗骨材、金属粒などのバラスト材が投入又は排出可能とされ、浮力(吃水)が調整可能とされる。バラスト材の投入/排出は、本出願人が先に、特開2012-201217号公報において提案した流体輸送方法を採用することによって可能である。
【0028】
前記コンクリート浮体部4Aは、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…で構成されている。前記プレキャスト筒状体15は、図3に示されるように、軸方向に同一断面とされる円形筒状のプレキャスト部材であり、それぞれが同一の型枠を用いて製作されるか、遠心成形により製造された中空プレキャスト部材が用いられる。
【0029】
壁面内には鉄筋20の他、周方向に適宜の間隔でPC鋼材19を挿通するためのシース21、21…が埋設されている。このシース21、21…の下端部にはPC鋼材19同士を連結するためのカップラーを挿入可能とするためにシース拡径部21aが形成されているとともに、上部には定着用アンカープレートを嵌設するための箱抜き部22が形成されている。また、上面には吊り金具23が複数設けられている。
【0030】
プレキャスト筒状体15同士の緊結は、図4(A)に示されるように、下段側のプレキャスト筒状体15から上方に延長されたPC鋼材19、19…をシース21、21…に挿通させながらプレキャスト筒状体12,12を積み重ねたならば、アンカープレート24を箱抜き部22に嵌設し、ナット部材25によりPC鋼材19に張力を導入し一体化を図る。また、グラウト注入孔27からグラウト材をシース21内に注入する。なお、前記アンカープレート24に形成された孔24aはグラウト注入確認孔であり、該確認孔からグラウト材が吐出されたことをもってグラウト材の充填を終了する。
【0031】
次に、図4(B)に示されるように、PC鋼材19の突出部に対してカップラー26を螺合し、上段側のPC鋼材19、19…を連結したならば、上段となるプレキャスト筒状体15のシース21、21…に前記PC鋼材19、19…を挿通させながら積み重ね、前記要領によりPC鋼材19の定着を図る手順を順次繰り返すことにより高さ方向に積み上げられる。この際、下段側のプレキャスト筒状体15と上段側のプレキャスト筒状体15との接合面には止水性確保及び合わせ面の接合のためにエポキシ樹脂系などの接着剤28やシール材が塗布される。
【0032】
前記鋼製浮体部4Bは、相対的には下段側に位置する鋼製筒状体17と、相対的に上段側に位置する鋼製筒状体18とで構成されている。下段側の鋼製筒状体17は、下側部分はプレキャスト筒状体15と同一の外径寸法とされ、図5に示されるように、プレキャスト筒状体15に対して、ボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。鋼製筒状体17の上部は漸次直径を窄めた截頭円錐台形状を成している。
【0033】
上段側の鋼製筒状体18は、前記下段側の鋼製筒状体17の上部外径に連続する外径寸法とされる筒状体とされ、下段側の鋼製筒状体17に対してボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。これら鋼製筒状体17,18は、所定重量毎に分割した各鋼製リングによって構成され、各鋼製リングは周方向に溶接されることにより一体化されている。
【0034】
一方、前記タワー6は、鋼材、コンクリート又はPRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)から構成されるものが使用されるが、好ましいのは総重量が小さくなるように鋼材によって製作されたものを用いるのが望ましい。タワー6の外径と前記上段側鋼製筒状体18の外径とはほぼ一致しており、外形状は段差等が無く上下方向に連続している。
【0035】
前記係留索10の浮体4への係留点Pは、図1に示されるように、海面下であってかつ浮体4の重心Gよりも高い位置に設定してある。従って、船舶が係留索10に接触するのを防止できるようになる。また、浮体4の倒れ過ぎを抑えるように係留点Pに浮体4の重心Gを中心とする抵抗モーメントを発生させるため、タワー6の傾動姿勢状態を適性に保持し得るようになる。
【0036】
一方、前記ナセル8は、風車7の回転を電気に変換する発電機やブレード9の角度を自動的に変えることができる制御器などが搭載された装置である。
【0037】
〔セミサブ型クレーン2について〕
スパー型洋上風力発電設備1の建造方法について詳述する前に、本建造方法で用いるセミサブ型クレーン2について、図6図8に基づいて詳述する。
【0038】
セミサブ型クレーン2は、図6に示されるように、浮力体となる複数本のカラム31、31…と、これらを連結する連結材33、33…とを含んで構成されたセミサブ型浮体11のデッキ面にクレーン5を備えたものである。
【0039】
前記セミサブ型浮体11は、浮力体となる前記複数本の、図示例では3本のカラム31、31…を備える。これらカラム31は円柱状の中空構造体であり、これらのカラム31、31…を例えば平面視で多角形の頂点部に配置した上で、これら各カラム1031、31…を連結材33、33…によって連結することによりセミサブ型浮体11の浮体基部30が構成されている。
【0040】
前記浮体基部30の上面にはデッキ本体38が設けられているとともに、このデッキ本体38から連続して一端側にカンチレバー状に張出デッキ部37が設けられている。また、前記デッキ本体38を跨いで張出デッキ部37の反対側に移動式カウンターウエイト用デッキ部39が設けられている。前記張出デッキ部37の下面側にはカンチレバー状にフレーム構造体34が配置され構造的補強が成されている。また、前記移動式カウンターウエイト用デッキ部39も同様にデッキ下面側にはカンチレバー状にフレーム構造体35、36が配置され構造的補強が成されている。前記デッキ本体38は図面左方側に行くに従って漸次幅が縮小された形状となっており、前記張出デッキ部37は前記デッキ本体38の先端側縁からバー状に張り出した形状とされ船首側とされる。前記移動式カウンターウエイト用デッキ部39はウエイトの移動範囲を確保するために設けられたスペースであり船尾側とされる。なお、デッキ本体38と移動式カウンターウエイト用デッキ部39とはデッキの重ね代を有するため段差を有する構造となっているが同面としてもよい。
【0041】
前記クレーン5は、前記セミサブ型浮体11のデッキ本体38の上面であって、前記張出デッキ部37寄りの位置に設けられている。前記クレーン5の設置位置はカラム31の直上とされ、クレーン5からの荷重はカラム31に直接的に伝達されるようになっている。前記クレーン5としては、固定式のものが望ましいが、場合によって移動式クレーンをデッキ本体38に搭載することも可能である。いずれにしても、洋上風力発電設備のタワー6、ナセル8及びブレード9を架設できる吊り能力及び揚程を有する必要がある。また、タワー式クレーンを採用すると自己昇降式構造によって所望の揚程を確保することが容易に可能となる。
【0042】
前記張出デッキ部37の先端部には、洋上風力発電設備のタワーをセミサブ型クレーン2と一体的に固定するためのタワー把持装置40が設けられている。前記タワー把持装置40は、開閉可能なグリッパー機構となっている。
【0043】
前記移動式カウンターウエイト用デッキ39の上面には、移動式カウンターウエイト装置3が設けられている。この移動式カウンターウエイト装置3は、例えば図6(B)に示されるように、ウエイト42の下面に走行部を設けることにより任意方向に移動可能とし、四隅にウインチ41A~41Dをそれぞれ配置し、ウインチ41A~41Dから繰り出したワイヤー43a~43dをウエイト42の隅部にそれぞれ連結し、前記ウインチ41A~41Dの操作によって前記ウエイト42を所定の位置に移動制御するようにした装置である。この移動式カウンターウエイト装置3では前記ウエイト42を平面視でX及びY方向の平面内で任意の位置に移動できるようにしている。各ウインチ41A~41Dの制御はコンピュータ制御による連携制御によって行うようにするのが望ましい(図示せず)。
【0044】
前記ウエイト42は、図示のように、箱形構造とし内部にスラグ骨材などのバラスト材を投入したり、重量が不足する場合は鋼材などを組み合わせて投入するようにして重量を調整することが可能である。
【0045】
前記ウインチ41については、図7に示されるように、略正三角形頂点の三方向の三隅にウインチ41A~41Cをそれぞれ配置し、ウインチ41A~41Cから繰り出したワイヤー43a~43cをウエイト42にそれぞれ連結し、前記ウインチ41A~41Cの操作によって前記ウエイト42を所定の位置に移動制御するようにしてもよい。また、簡略的には図8に示されるように、前記ウエイト42を跨いだ前後部にウインチ41A,41Bを配置し、ウインチ41A,41Bから繰り出したワイヤー43a、43bをウエイト42に連結し、前記ウインチ41A,41Bの操作によって前記ウエイト42をY方向上の所定位置に移動制御するようにしてもよい。この場合は、ウエイト42の両側部に移動ガイド44、44を設けてウエイト42がY方向上にしか移動出来ないようしておくのが望ましい。
【0046】
前記セミサブ型浮体11の潜水部には、図6に示されるように、フィンスタビライザー32、32を設けて波浪に対する安定性を高めるようにするのが望ましい。
【0047】
〔スパー型洋上風力発電設備1の建造方法〕
次に、前記セミサブ型クレーン2を用いたスパー型洋上風力発電設備1の建造方法について、図9図21に基づいて詳述する。
【0048】
<第1ステップ>
図9に示されるように、岸壁ヤードにおいて、クレーン付きSEP台船11を岸壁に着岸させたならば、タワー6、ナセル8及びブレード9、9…をクレーン50を使ってSEP台船11上に積載する。前記クレーン付きSEP台船11は、台船の3箇所又は4箇所に鉛直方向に延びる昇降自在の脚柱(以下、「昇降レグ」ともいう。)を設けるとともに、この昇降レグを上下動に駆動させる油圧ジャッキシステムを備え、前記昇降レグを下方向に降ろして下端を海底に支持させ、引き続き昇降レグを下降させることにより台船部分を海面上まで持ち上げた状態とし得るものであり、台船上にクレーン45を一体的に備えることにより台船上に荷物の積込み・積降ろしができるようになっている。
【0049】
次に、図10に示されるように、比較的波の穏やかな静穏域として選定された海域において、組立用架台13を設けるようにする。この組立用架台13はタワー6、ナセル8及びブレード9からなる洋上風力発電設備1の上部構造体12の組立てを行うための架台である。図示例では、SEP式台船46を組立用架台13として用いている。前記SEP式台船46は台船の3箇所又は4箇所に鉛直方向に延びる昇降自在の脚柱(昇降レグ)を備えた台船であり、同図10に示されるように、昇降レグを海底に着底させることにより台船を安定的に保持し得るようになっている。なお、図示例ではSEP式台船として後述する半潜水型スパッド台船46(昇降レグ付き)を代用している。
【0050】
組立てに当たっては、前記クレーン付きSEP台船11を組立用架台13の脇に横付けした状態で昇降レグを下降させて台船部分を海面より上に位置決めした状態とし、組立用架台13の上で、タワー6,ナセル8、ブレード9の順で組立てを行い上部構造体12を完成させるようにする。
【0051】
<第2工程>
次の第2工程では、図11に示されるように、前述したセミサブ型クレーン2を前記クレーン付きSEP台船11に横付けし、組み立てた上部構造体12をクレーン5によって吊持する。この際、タワー6の下端はタワー把持装置40により把持した状態とし上部構造体12の揺れを極力防止するようにする。また、この際、前記上部構造体12はかなりの重量物となるため、この吊り荷重によって前側に動揺した船体を水平に安定させるために、移動式カウンターウエイト装置3のウエイト42を後方側に移動させるようにする。
【0052】
前記セミサブ型クレーン2によって上部構造体12を吊持したならば、図12に示されるように、曳航船47によって前記セミサブ型クレーン2をスパー型洋上風力発電設備1の建造場所まで運搬する。
【0053】
<第3ステップ>
本第3ステップは、第1ステップ及び第2ステップとは別工程で行う作業であり、第1ステップ及び第2ステップの前工程でも良いし後工程でも良い。また、同時並行的工程で行っても良い。
【0054】
第3ステップは、岸壁で浮体4の全部の組み立てを行った後、完成した浮体4を半潜水型スパッド台船46によってスパー型洋上風力発電設備1の建造場所まで運搬し、浮体4を洋上にフロートオフさせたならば、係留索を取り付けて浮体4を起立状態で保持する作業工程である。
【0055】
具体的には、先ず岸壁ヤードで浮体4を完成させる。その浮体建造方法としては、本出願人が提案した特開2018-173011号公報に係る方法を好適に採用することができる。
【0056】
その浮体建造方法は、図13に示されるように、岸壁ヤードに、鋼製リング連結ヤードAと、コンクリートリング製作ヤードBと、コンクリートリング連結ヤードCとを画成して設ける。
【0057】
前記鋼製リング連結ヤードAには、第1橋形クレーン50を一定方向に走行自在に設けるとともに、第1橋形クレーン走行方向に適宜の間隔で回転機能付架台52、52…を設置し、かつ第1橋形クレーン走行方向に移動可能な移動式テント56を設ける。前記コンクリートリング製作ヤードBには、移動式テント57を設けるとともに、コンクリートリングの製造設備一式を設備する。前記コンクリートリング連結ヤードCには、第2橋形クレーン55を一定方向に走行自在に設けるとともに、第2橋形クレーン走行方向に移動可能な移動式テント58を設ける。
【0058】
そして、鋼製リング51、51…を前記第1橋形クレーン50を用いて、順に前記回転機能付架台52、52…上に設置するとともに、必要に応じて移動式テント56で周囲を覆った状態とし、鋼製リング51、51…を軸芯回りに回転させながら周方向に溶接を行って連結し、鋼製浮体部53Bを完成させる第1工程と、前記鋼製浮体部53Bを前記コンクリートリング連結ヤードCに移動し所定位置に設置したならば、前記コンクリートリング製作ヤードBで製作されたコンクリートリング54を順にコンクリートリング連結ヤードCに運び、必要に応じて移動式テント58で周囲を覆った状態とし、前記第2橋形クレーン55を用いコンクリートリング54を前記鋼製浮体部53Bに連設するとともに、PC鋼材により緊結し一体化を図ることにより前記浮体53を完成させる第2工程とからなるスパー型洋上風力発電設備の浮体建造方法である。このような方法で浮体4を完成させたならば、図14に示されるように、岸壁において、半潜水型スパッド台船46に対して、横向き状態のまま移動させて積み込みを行う(ロールオン)。この半潜水型スパッド台船46は、バラスト水の調整によって半潜水状態まで吃水を調整可能とした台船であり、バラスト調整しながら台船上に積み荷をロールオン(積込み)した後、沖合でバラスト水の調整により半潜水状態とすることによって積み荷をフロートオフ(浮上・進水)できるようにしたものである。従って、前記浮体4を建設場所まで運搬したならば、半潜水状態として浮体4を海上に浮上・進水させることがクレーン無しで可能になる。
【0059】
曳航船47によって半潜水型スパッド台船46を曳航して、スパー型洋上風力発電設備1の建造場所まで運搬したならば、図15に示されるように、半潜水型スパッド台船46を半潜水状態とすることにより浮体4を海上に進水・浮上させる(ロールオフ)。そして、浮体4にバラスト水を注水することにより立て起こしを行い、縦向き状態とする。
【0060】
縦向き状態とした浮体4には、図16に示されるように、係留索10、10…を取り付けて浮体4の安定性を確保するのが望ましい。
<第4ステップ>
第4ステップでは、図17及び図18に示されるように、前記セミサブ型クレーン2によって前記上部構造体12を吊り上げた状態のまま前記浮体4の上部に連結してスパー型洋上風力発電設備1を完成させるようにする。
【0061】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、組立用架台13としてSEP式台船(半潜水型スパッド台船)46を用いたが、図19に示されるように、モノパイル基礎48を組立用架台13として用いてもよいし、図20に示されるように、ジャケット基礎49を組立用架台13として用いてもよい。更には図21に示されるように、ケーソン基礎59を組立用架台13として用いてもよい。
【0062】
(2)上記形態例は、浮体4がコンクリート製浮体部4Aと、このコンクリート製浮体部4Aの上側に連設された鋼製浮体部4Bとからなるスパー型浮体を対象としたものであるが、浮体4がコンクリートリング15、15…を複数段積み上げ、各コンクリートリング15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部4Aのみからなるスパー型浮体の場合も同様の手順で建造することが可能である。もちろん、他の浮体構造であっても同様である。
【0063】
(3)上記形態例ではスパー型洋上風力発電設備1の上部構造体12を一括施工するためのクレーン船としてセミサブ型クレーン2を用いたが、起重機船に移動式カウンターウエイト装置3を設けたクレーン船を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…スパー型洋上風力発電設備、2…セミサブ型クレーン、3…移動式カウンターウエイト装置、4…浮体、4A…コンクリート製浮体部、4B…鋼製浮体部、5・45…クレーン、6…タワー、7…風車、8…ナセル、9…ブレード、10…係留索、11…クレーン付きSEP台船、12…上部構造体、13…組立用架台、15・16…プレキャスト筒状体(コンクリートリング)、19…PC鋼材、46…半潜水型スパッド台船、48…モノパイル基礎、49…ジャケット基礎、59…ケーソン基礎
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