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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025177628
(43)【公開日】2025-12-05
(54)【発明の名称】車両制御方法及び車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/06 20060101AFI20251128BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20251128BHJP
【FI】
B60W50/06
G05B11/36 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084645
(22)【出願日】2024-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 智晴
(72)【発明者】
【氏名】川口 祥司
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 裕樹
【テーマコード(参考)】
3D241
5H004
【Fターム(参考)】
3D241BA62
3D241CD01
5H004GA10
5H004GB11
5H004HA07
5H004HB07
5H004JB21
5H004KC27
(57)【要約】
【課題】制御対象のむだ時間を適切に補償できる車両制御方法及び車両制御装置を提供する。
【解決手段】フィードバック制御により車両の走行状態を制御する第1制御装置10と、第1制御装置10から出力された第1指令値に基づいて車両のアクチュエータ30を制御する第2制御装置20とを備える車両制御装置1において、第2制御装置20からアクチュエータ30に出力された第2指令値からアクチュエータ30の状態を予測し、予測した状態に基づき、アクチュエータ30の動作に要するむだ時間を補償する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードバック制御により車両の走行状態を制御する第1制御装置と、前記第1制御装置から出力された第1指令値に基づいて前記車両のアクチュエータを制御する、前記第1制御装置と異なる第2制御装置とを備える車両制御装置により実行される車両制御方法において、
前記第1制御装置は、
前記第2制御装置から前記アクチュエータに出力された第2指令値から、前記アクチュエータの状態を予測し、
予測した前記状態に基づき、前記アクチュエータの動作に要する第1むだ時間を補償する、車両制御方法。
【請求項2】
前記第1制御装置は、
前記第2制御装置内の前記第2指令値の演算遅れと、前記第2指令値が前記第2制御装置から出力されてから前記アクチュエータに入力されるまでの遅れとを加算した第2むだ時間を予測し、
前記第1むだ時間と、予測した前記第2むだ時間とを補償する、請求項1に記載の車両制御方法。
【請求項3】
前記第1制御装置は、
前記第2制御装置内の前記第2指令値の演算遅れと、前記第2指令値が前記第2制御装置から出力されてから前記アクチュエータに入力されるまでの遅れとを加算した第2むだ時間を含む、前記第2指令値のむだ時間補償フィードバック信号を取得し、
前記第1むだ時間を補償する、請求項1に記載の車両制御方法。
【請求項4】
前記第2制御装置は、
前記第1指令値に加えて、前記車両の走行状態に関する情報を取得し、
前記第1指令値と前記情報とに基づいて前記第2指令値を演算する、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両制御方法。
【請求項5】
前記第2制御装置は、
前記車両の走行する道路の交通状況に対応した複数の制御器を備え、
前記第2指令値を演算する場合は、前記第1指令値に加えて、前記車両の走行状態に関する情報を取得し、
前記情報に基づいて前記第2制御装置の制御器から出力される信号を切り替えることと、前記情報に基づいて前記フィードバック制御におけるゲインを設定することと、前記情報に基づいて前記第2制御装置の制御器を切り替えることとのうち少なくとも一つを実行する、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両制御方法。
【請求項6】
前記第1制御装置は、
前記第1制御装置が前記第2指令値を取得する場合に、前記第2指令値が前記第2制御装置から出力されてから前記第1制御装置に入力されるまでの第3むだ時間を取得し、
前記第2指令値と前記第3むだ時間とから前記状態を予測する、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両制御方法。
【請求項7】
前記第1制御装置は、複数の制御器を有し、
前記第1制御装置の複数の制御器は、前記第1指令値を演算し、
前記第2制御装置は、前記第1制御装置の複数の制御器により演算された前記第1指令値に基づいて前記第2指令値を演算する、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両制御方法。
【請求項8】
フィードバック制御により車両の走行状態を制御する第1制御装置と、
前記第1制御装置から出力された第1指令値に基づいて前記車両のアクチュエータを制御する、前記第1制御装置と異なる第2制御装置とを備え、
前記第1制御装置は、
前記第2制御装置から前記アクチュエータに出力された第2指令値から、前記アクチュエータの状態を予測し、
予測した前記状態に基づき、前記アクチュエータの動作に要する第1むだ時間を補償する、車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御方法及び車両制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
むだ時間を有する制御対象の操作量をフィードバック制御により決定する場合に、制御対象の予測モデルを備える複数の制御器を用いて操作量の補正量を演算するフィードバックループを生成し、予測モデルのむだ時間要素から制御器の個数と同じ個数の遅延要素を取得し、複数の演算装置を用いる並列計算によりフィードバックループの演算を行うよう、複数の制御器のそれぞれを遅延要素と組み合わせて複数の演算装置に割り当てる制御装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/129354号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術に係る第1制御装置と、第1制御装置から入力された指令値に基づいて動作する第2制御装置とを組み合わせて車両の走行状態を制御する場合に、むだ時間を有する制御対象の制御量を目標値に一致させるフィードバック制御が第1制御装置により実行されるときは、第1制御装置は、予測モデルを用いて制御対象及び第2制御装置の動作を予測し、指令値を演算する。しかしながら、第2制御装置が、第1制御装置には入力されない情報を用いて制御対象の制御量を設定する場合は、第1制御装置において予測された第2制御装置の動作が実際の動作と一致しにくく、上記従来技術に係る第1制御装置では制御対象のむだ時間を適切に補償できないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、制御対象のむだ時間を適切に補償できる車両制御方法及び車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フィードバック制御により車両の走行状態を制御する第1制御装置と、第1制御装置から出力された第1指令値に基づいて車両のアクチュエータを制御する第2制御装置とを備える車両制御装置において、第2制御装置からアクチュエータに出力された第2指令値からアクチュエータの状態を予測し、予測した状態に基づき、アクチュエータの動作に要するむだ時間を補償することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、制御対象のむだ時間を適切に補償できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る車両制御装置の実施形態の一例を示すブロック図である。
図2図1の車両制御装置におけるフィードバック制御の一例を示すブロック線図である。
図3図1の車両制御装置におけるフィードバック制御の他の例を示すブロック線図である。
図4図1の車両制御装置におけるフィードバック制御のまた他の例を示すブロック線図である。
図5図1の車両制御装置におけるフィードバック制御のさらに他の例を示すブロック線図である。
図6図1の車両制御装置におけるフィードバック制御のさらに他の例を示すブロック線図である。
図7図1の車両制御装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8A図7のステップS1のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
図8B図7のステップS2のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
図9】車両制御装置におけるフィードバック制御の比較例を示すブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
[車両制御装置の構成]
図1は、本発明に係る車両制御装置の実施形態の一例を示すブロック図である。車両制御装置は、車両の機器の動作を制御する装置群である。車両の機器は、車載機器であれば特に限定されない。また、車両の機器には、車載機器のほか、車両と通信可能に接続され、車両に付随する機器が含まれてもよい。車両は、車両制御装置を搭載できる限り特に限定されない。
【0011】
車両制御装置は、例えば、車両の機器の動作を制御して車両の走行動作を自律制御する。自律制御の対象となる車両の走行動作には、加速、減速、発進、停車、転舵などのあらゆる走行動作が含まれる。走行動作の自律制御は、車両に搭載された車両制御装置が、車両の装置を用いて実行する。車両制御装置は、予め定められた範囲内で走行動作を制御する。車両制御装置により制御されない走行動作については、運転者による手動の操作が行われる。運転者が手動運転により車両を走行させる場合は、車両制御装置は走行動作の自律制御を実行せず、運転者の操作により車両の走行動作が制御される。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の車両制御装置1は、第1制御装置10、第2制御装置20及びアクチュエータ30を備える。これらの装置は、CAN(Controller Area Network)その他の車載LANにより接続され、互いに情報を授受できる。なお、第1制御装置10と第2制御装置20は、異なる(別個の)制御装置である。
【0013】
第1制御装置10と第2制御装置20は、車両制御装置1を構成する装置を制御して協働させ、車両の走行動作の自律制御(以下、自律走行制御とも言う。)を実行する。第1制御装置10と第2制御装置20は、例えばコンピュータであり、それぞれ、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)と、プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)とを備える。各制御装置のCPUは、各制御装置のROMに格納されたプログラムを実行し、第1制御装置10と第2制御装置20が有する機能を実現するための動作回路である。
【0014】
アクチュエータ30は、第2制御装置20から入力された電気的な制御信号を機械的な仕事に変換する装置であり、サーボモータ、油圧モータ、油圧シリンダなどが含まれる。アクチュエータ30は、第2制御装置20から出力された第2指令値に基づき、車両の駆動装置、操舵装置などを動作させる。アクチュエータ30は、第2指令値の信号が入力されてから実際にアクチュエータ30が動作するまでの所要時間(むだ時間)を有する。
【0015】
[第1制御装置と第2制御装置の機能]
第1制御装置10は、入力された目標値に基づいて車両の走行状態を制御する。車両の走行状態とは、例えば、車両の進行方向と車速の状態であり、車両が直進している状態、車両が右方向又は左方向に転舵している状態、車両が加速又は減速している状態、車両が定速で走行している状態などが含まれる。
【0016】
具体的には、第1制御装置10は、むだ時間を有する制御対象(例えばアクチュエータ30)の制御量を目標値に一致させるフィードバック制御を実行する。目標値は、例えば、車両の走行シーンを判定し、車両の走行経路(走行軌道)や進行方向を設定する上位の制御装置(図示しない)から入力される。一方、第2制御装置20は、第1制御装置10から出力されて第2制御装置20に入力された第1指令値に基づき、アクチュエータ30を制御する。すなわち、第2制御装置20は、第1制御装置10の下位の制御装置であり、第1制御装置10と第2制御装置20は、階層的な構造を有する。
【0017】
例えば、車両が自律走行制御により走行している場合に、第1制御装置10の上位の制御装置が、車両の進行方向右側に存在する車線への車線変更を制御するものとする。この場合、上位の制御装置は、車両が現在位置から右側の車線に進入する走行軌跡を生成し、生成した走行軌跡に沿って車両を走行させる舵角指令値を演算し、舵角指令値を目標値として第1制御装置10に入力する。
【0018】
上位の制御装置から舵角指令値が入力されると、第1制御装置10は、入力された舵角指令値に対し、車両の挙動を考慮したうえで、ステアリングシャフトを回転させる軸力の軸力指令値を演算する。演算された軸力指令値は、第1指令値として第2制御装置20に出力される。第2制御装置20は、第1指令値により設定された軸力指令値に対して、モータの動作特性を考慮して操舵装置のモータを動作させる電流指令値(及び/又は電圧指令値)を演算し、第2指令値としてモータ(アクチュエータ30)に出力する。モータは、入力された電流指令値に応じて動作し、目標舵角を実現する。
【0019】
図2は、本実施形態の車両制御装置1におけるフィードバック制御の一例を示すブロック線図である。図2に示すように、本実施形態の第1制御装置10は、第1制御器11、状態予測モデル12及びむだ時間予測モデル13を有し、本実施形態の第2制御装置20は、第2制御器21を有する。また、アクチュエータ30は、制御対象(プラント)31と第1むだ時間要素32を有する。さらに、本実施形態の車両制御装置1では、第1制御装置10と第2制御装置20との間に第4むだ時間要素14が設けられ、第2制御装置20とアクチュエータ30との間に第2むだ時間要素22が設けられている。
【0020】
第1制御器11は、第1制御装置10が備える追従制御用の制御器であり、アクチュエータ30(制御対象31)の状態を、上位の制御装置から入力された目標値に一致させる。第1制御器11は、アクチュエータ30の状態をセンサで検出し、目標値との差分を演算し、差分を0にする第1指令値を出力する。アクチュエータ30の状態は、例えばアクチュエータ30の動作量又は動作状態であり、より具体的には、モータの回転速度、モータの回転量、油圧シリンダの移動量などが挙げられる。
【0021】
図2に示す制御系では、第1制御器11は、例えば、アクチュエータ30に設けられたセンサからアクチュエータ30のアクチュエータ出力を取得し、アクチュエータ出力と目標値との差分を演算し、差分を0にする第1指令値を出力する。センサとしては、例えば、モータに設けられた位置センサが挙げられる。
【0022】
状態予測モデル12は、アクチュエータ30(制御対象31)の状態を予測するモデルである。第1制御装置10は、第2制御器21から、第2制御装置20からアクチュエータ30に出力された第2指令値を取得する。第2指令値が入力されると、状態予測モデル12は、第2指令値に対応するアクチュエータ30の状態を予測し、むだ時間予測モデル13に出力する。第2指令値とアクチュエータ30の状態との対応関係は、アクチュエータ30の特性などに基づいて予め設定されている。
【0023】
むだ時間予測モデル13は、アクチュエータ30のむだ時間を予測するモデルである。むだ時間予測モデル13は、状態予測モデル12により予測されたアクチュエータ30の状態に基づき、アクチュエータ30の動作に要するむだ時間(以下、第1むだ時間とも言う。)を演算する。そして、演算された第1むだ時間に基づいて、第1制御器11において第1むだ時間が補償される。すなわち、むだ時間予測モデル13は、第1むだ時間に対応する伝達関数を制御信号に乗じ、第1制御器11に入力する。なお、状態予測モデル12とむだ時間予測モデル13とを合わせて補償器とも言う。
【0024】
第4むだ時間要素14は、第1制御装置10内(第1制御器11内)の第1指令値の演算遅れと、第1指令値が第1制御装置10から出力されてから第2制御装置20に入力されるまでの遅れとを加算したむだ時間(以下、第4むだ時間とも言う。)を伝達する要素である。第4むだ時間は、第1制御器11の処理速度、第1制御装置10と第2制御装置20との間の通信速度及び通信容量などに基づいて演算される。第4むだ時間要素14は、入力された制御信号に、第4むだ時間に対応する伝達関数を乗じる。
【0025】
第2制御器21は、第2制御装置20が備える追従制御用の制御器であり、第4むだ時間を考慮して(第4むだ時間を補償するように)、アクチュエータ30の状態を制御する。第2制御器21は、第1制御装置10から入力された第1指令値を実現するよう、アクチュエータ30の状態を制御する。
【0026】
第2むだ時間要素22は、第2制御装置20内(第2制御器21内)の第2指令値の演算遅れと、第2指令値が第2制御装置20から出力されてからアクチュエータ30に入力されるまでの遅れとを加算したむだ時間(以下、第2むだ時間とも言う。)を伝達する要素である。第2むだ時間は、第2制御器21の処理速度、第2制御装置20とアクチュエータ30との間の通信速度及び通信容量などに基づいて演算される。第2むだ時間要素22は、入力された制御信号に、第2むだ時間に対応する伝達関数を乗じる。
【0027】
制御対象(プラント)31は、アクチュエータ30のうち第1制御装置10の制御対象となるものであり、アクチュエータ30の一部又は全部である。制御対象としては、モータの回転子、油圧シリンダのピストンなどのアクチュエータ30の可動部が挙げられる。
【0028】
第1むだ時間要素32は、第2指令値がアクチュエータ30に入力されてからアクチュエータ30(制御対象31)が実際に動作するまでの動作に要する時間(以下、第1むだ時間とも言う。)を伝達する。第1むだ時間は、アクチュエータ30の動作特性に基づいて演算される。第1むだ時間要素32は、入力された制御信号に、第1むだ時間に対応する伝達関数を乗じる。
【0029】
図2に示す制御系における処理の一例について説明する。一例として、図2に示すフィードバック制御において、目標値である舵角指令値が上位の制御装置から第1制御装置10に入力されたものとする。この場合、第1制御器11は、舵角指令値を取得すると共に、車載センサ(図示しない)から、軸力指令値の演算に必要な走行状態情報を取得する。また、状態予測モデル12は、第2制御器21から出力された電流指令値を取得し、取得した電流指令値を状態予測モデル12に入力し、アクチュエータ30の状態を予測する。第1むだ時間は、予測されたアクチュエータ30の状態に基づき演算される。
【0030】
状態予測モデル12は、演算された第1むだ時間に対応する伝達関数を制御信号に乗じ、第1制御器11に伝達する。第1制御器11は、取得した舵角指令値及び車両状態量並びに演算(予測)された第1むだ時間に基づき、実際の舵角を舵角指令値に追従させる補正量を演算する。第1制御器11は、演算された補正量に基づいて軸力指令値を補正し、第2制御装置20に出力する。出力された軸力指令値は、第4むだ時間要素14に入力され、第4むだ時間の遅れをもって第2制御装置20に伝達される。
【0031】
第2制御装置20に軸力指令値が入力されると、第2制御器21は、第1制御器11により演算された軸力指令値を取得すると共に、車載センサから、操舵装置のモータ(アクチュエータ30)への電流指令値の演算に必要な走行状態情報を取得する。走行状態情報としては、走行速度情報、舵角情報、加速度情報、ヨーレート情報などが挙げられる。第2制御器21は、取得した軸力指令値及び走行状態情報に基づき、モータを動作させる電流指令値を演算し、モータに出力する。
【0032】
出力された電流指令値は、第2むだ時間要素22に入力され、第2むだ時間の遅れをもってモータ(アクチュエータ30)に伝達される。モータに電流指令値が入力されると、制御対象31は、第2制御器21により演算された電流指令値を取得し、入力された電流指令値に応じて動作する。制御対象31の出力は、第1むだ時間要素32に入力され、第1むだ時間の遅れをもってモータから出力される。また、モータの出力は、アクチュエータ出力として第1制御器11に入力され、第1制御器11のフィードバック制御に用いられる。
【0033】
図2に示すフィードバック制御系では、状態予測モデル12及びむだ時間予測モデル13において、第2指令値を用いてアクチュエータ30の状態を予測する。つまり、図2に示すフィードバック制御系では、アクチュエータ30の状態を予測する場合に第2制御装置20の状態を予測する必要がなく、アクチュエータ30の状態(例えば第1むだ時間)を比較的高い精度で予測できる。
【0034】
一方、図9は、車両制御装置1におけるフィードバック制御の比較例を示すブロック線図である。図9に示すフィードバック制御系では、図2に示す本実施形態のフィードバック制御系と異なり、第1指令値を用いてアクチュエータ30の状態を予測する。この場合は、状態予測モデル12及びむだ時間予測モデル13においてアクチュエータ30の状態を予測するときに、第2制御装置20の状態を予測する必要があり、予測する要素が一つ増えるため、図2に示すフィードバック制御系よりもアクチュエータ30の状態の予測精度が低くなる。
【0035】
第1制御装置10は、第2制御装置20内の第2指令値の演算遅れと、第2指令値が第2制御装置20から出力されてからアクチュエータ30に入力されるまでの遅れとを加算した第2むだ時間を予測してもよい。例えば、図2に示すむだ時間予測モデル13は、第1むだ時間に加えて第2むだ時間を予測し、第1制御器11に入力(フィードバック)する。第2むだ時間は、第2制御器21の処理速度、第2制御装置20とアクチュエータ30との間の通信速度及び通信容量などに基づいて予測される。この場合、第1制御器11は、第1むだ時間と、予測した第2むだ時間とを補償する。すなわち、第1制御器11は、目標値からのオーバーシュート(又は目標値と実際のアクチュエータ出力との差)を低減する第1指令値を演算し、出力する。
【0036】
これに代え、第1制御装置10は、第2制御装置20内の第2指令値の演算遅れと、第2指令値が第2制御装置20から出力されてからアクチュエータ30に入力されるまでの遅れとを加算した第2むだ時間を含む、第2指令値のむだ時間補償フィードバック信号(以下、フィードバック信号とも言う。)を取得してもよい。図3は、図1の車両制御装置1におけるフィードバック制御の他の例を示すブロック線図である。図3に示すブロック線図は、状態予測モデル12が第2むだ時間要素22から出力されたフィードバック信号を取得することと、むだ時間予測モデル13aにおいて第2むだ時間を予測しないこと以外は、図2に示すブロック線図と同様である。
【0037】
図3に示すフィードバック制御系では、例えば、第2制御器21に、第2指令値と共に第2指令値を出力した時刻をフィードバック信号として出力させ、アクチュエータ30の近傍にてフィードバック信号を取得し、フィードバック信号が出力された時刻と、フィードバック信号を取得した時刻との差から第2むだ時間を取得する。第2指令値を取得する位置は、正確な第2むだ時間を取得できる範囲内で適宜に設定できる。この場合、第1制御器11は、第1むだ時間を補償する。
【0038】
第2制御装置20は、第1指令値に加えて、車両の走行状態に関する情報を取得し、第1指令値と、取得した情報とに基づいて第2指令値を演算してもよい。例えば、図2に示す第2制御器21は、第1制御器11から出力された軸力指令値と、車両のヨーレートセンサにより取得されたヨーレートの値とに基づいて電流指令値を演算する。
【0039】
第2制御装置20は、車両の走行する道路の交通状況に対応した複数の制御器を備えていてもよい。図4は、図1の車両制御装置1におけるフィードバック制御のまた他の例を示すブロック線図である。図4に示すブロック線図は、第2制御器21aが複数の制御器を備えること以外は、図2に示すブロック線図と同様である。
【0040】
図4に示す第2制御器21aは、車両の撮像装置及び測距装置(図示しない)などから車両の周囲の走行環境に関する情報を取得し、車両の走行する道路の交通状況を認識する。交通状況とは、対象物の位置と対象物同士の位置関係、信号機の灯火状態などを含む道路の状況であり、車両の走行シーンである。撮像装置は、CCDなどの撮像素子を備えたカメラであり、赤外線カメラ、ステレオカメラなどであってもよい。測距装置には、レーザーレーダ、ミリ波レーダ、LiDAR(light detection and ranging)ユニットなどが含まれる。
【0041】
対象物は、道路とその周囲に存在する物体であり、道路の車線境界線、中央線、路面標識、中央分離帯、ガードレール、縁石、道路標識、信号機、横断歩道などが含まれる。また、対象物には、他の自動車(他車両)、自動二輪車、自転車、歩行者など、車両の走行に影響を与え得る障害物も含まれる。
【0042】
車両の走行する道路の交通状況に対応した複数の制御器とは、ある特定の交通状況における自律走行制御を実行するための制御器であり、第2制御器21aの下位の制御器である。例えば、他車両を追い越す走行シーンに対応した制御器、隣接車線への車線変更に対応した制御器、定速走行に対応した制御器などが挙げられる。第2制御器21aは、認識した交通状況に応じて演算に用いる制御器を切り替えてもよい。
【0043】
また、第2制御器21aは、第2指令値を演算する場合に、第1指令値に加えて、車両の走行状態に関する情報を取得する。例えば、図2に示す第2制御器21のように、第1制御器11から出力された軸力指令値と、車両のヨーレートセンサにより取得されたヨーレートの値とを取得する。そして、第2制御器21aは、取得した走行状態情報に基づいて第2制御装置20の制御器から出力される信号を切り替えてもよい。例えば、第2制御器21aは、出力する信号をステップ信号からランプ信号に切り替える。
【0044】
これに代え又はこれに加え、第2制御器21aは、取得した走行状態情報に基づいてフィードバック制御におけるゲインを設定してもよい。例えば、第2制御器21aは、取得したヨーレートに基づいてPID制御のゲインを設定する。これに代え又はこれに加え、第2制御器21aは、取得した走行状態情報に基づいて第2制御装置20の制御器を切り替えてもよい。例えば、第2制御器21aは、車両の走行シーンが定速走行から追い越しに変化した場合は、使用する制御器を、定速走行に対応した制御器から他車両を追い越す走行シーンに対応した制御器に切り替える。
【0045】
第1制御装置10は、フィードバック信号を取得する場合に、第2指令値が第2制御装置20から出力されてから第1制御装置10に入力されるまでのむだ時間(以下、第3むだ時間とも言う。)を取得してもよい。図5は、図1の車両制御装置1におけるフィードバック制御のさらに他の例を示すブロック線図である。図5に示すブロック線図は、第2制御器21と状態予測モデル12との間に第3むだ時間要素23が設けられていること以外は、図2に示すブロック線図と同様である。
【0046】
図5に示す状態予測モデル12がフィードバック信号を取得する場合は、第2制御器21から出力されたフィードバック信号が、第3むだ時間要素23に入力される。そして、第3むだ時間の遅れをもって、フィードバック信号が状態予測モデル12(第1制御装置10)に伝達される。この場合、状態予測モデル12及びむだ時間予測モデル13において、第2むだ時間と第3むだ時間とからアクチュエータ30の状態を予測する。
【0047】
第1制御装置10は、複数の制御器を有してもよい。図6は、図1の車両制御装置1におけるフィードバック制御のさらに他の例を示すブロック線図である。図6に示すブロック線図は、第1制御装置10が複数の第1制御器11を備えること以外は、図2に示すブロック線図と同様である。
【0048】
第1制御装置10の複数の第1制御器11は、それぞれが第1指令値を演算する。第2制御装置20は、第1制御装置10の複数の第1制御器11により演算された第1指令値に基づいて第2指令値を演算する。図6に示す複数の第1制御器11は、例えば、図4に示す第2制御器21aの制御器のように、車両の走行する道路の交通状況に対応している。第1制御装置10は、複数の第1制御器11が演算した第1指令値について、車両の交通状況などに応じて、第2制御装置20に出力する第1指令値を切り替える。
【0049】
[車両制御装置における処理]
図7及び8A~8Bを参照して、車両制御装置1が情報を処理する際の手順を説明する。以下に説明する処理は、第1制御装置10及び第2制御装置20が備えるプロセッサ(CPU)により所定の時間間隔で(例えば0.1~1ミリ秒ごとに)実行される。
【0050】
図7は、車両制御装置1において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、ステップS1にて、第1制御装置10から第1指令値を出力し、続くステップS2にて、第2制御装置20から第2指令値を出力する。そして、ステップS3にて、第2指令値に基づいてアクチュエータ30を動作させる。
【0051】
次に、図8Aは、図7のステップS1のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。まず、ステップS11にて、第1制御器11は、舵角指令値を取得し、続くステップS12にて、車載センサから車両の状態量を取得する。ステップS13にて、状態予測モデル12は、第2制御器21から出力された第2指令値を取得し、続くステップS14にて、むだ時間予測モデル13によりむだ時間を演算する。ステップS15にて、第1制御器11は、第2指令値及びむだ時間に基づき、実際の出力値を目標値に追従させる補正量を演算し、ステップS16にて、補正量に基づいて第1指令値を演算する。演算された第1指令値は、第2制御装置20に出力される。
【0052】
次に、図8Bは、図7のステップS2のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。まず、ステップS21にて、第2制御器21は、第1制御器11により演算された第1指令値を取得し、続くステップS22にて、車載センサから車両の状態量を取得する。続くステップS23にて、第2制御器21は、アクチュエータ30の動きを考慮した上で、アクチュエータ30の出力を第2指令値に追従させる補正量を演算し、ステップS24にて、第2指令値を演算する。
【0053】
[本発明の実施態様]
本実施形態によれば、フィードバック制御により車両の走行状態を制御する第1制御装置10と、前記第1制御装置10から出力された第1指令値に基づいて前記車両のアクチュエータ30を制御する、前記第1制御装置10と異なる第2制御装置20とを備える車両制御装置1により実行される車両制御方法において、前記第1制御装置10は、前記第2制御装置20から前記アクチュエータ30に出力された第2指令値から、前記アクチュエータ30の状態を予測し、予測した前記状態に基づき、前記アクチュエータ30の動作に要する第1むだ時間を補償する、車両制御方法が提供される。これにより、制御対象31のむだ時間を適切に補償できる。また、フィードバック制御におけるオーバーシュートの発生を抑制でき、オーバーシュートの量も抑制できる。
【0054】
本実施形態の車両制御方法では、前記第1制御装置10は、前記第2制御装置20内の前記第2指令値の演算遅れと、前記第2指令値が前記第2制御装置20から出力されてから前記アクチュエータ30に入力されるまでの遅れとを加算した第2むだ時間を予測し、前記第1むだ時間と、予測した前記第2むだ時間とを補償する。これにより、制御対象31のむだ時間をより適切に補償できる。
【0055】
本実施形態の車両制御方法では、前記第1制御装置10は、前記第2制御装置20内の前記第2指令値の演算遅れと、前記第2指令値が前記第2制御装置20から出力されてから前記アクチュエータ30に入力されるまでの遅れとを加算した第2むだ時間を含む、前記第2指令値のむだ時間補償フィードバック信号を取得し、前記第1むだ時間を補償する。これにより、制御対象31のむだ時間をより適切に補償できる。
【0056】
本実施形態の車両制御方法では、前記第2制御装置20は、前記第1指令値に加えて、前記車両の走行状態に関する情報を取得し、前記第1指令値と前記情報とに基づいて前記第2指令値を演算する。これにより、第1制御装置10により第1指令値を生成する場合に、第2指令値に必要な車両パラメータを取得しなくても、制御対象31のむだ時間をより適切に補償できる。
【0057】
本実施形態の車両制御方法では、前記第2制御装置20は、前記車両の走行する道路の交通状況に対応した複数の制御器を備え、前記第2指令値を演算する場合は、前記第1指令値に加えて、前記車両の走行状態に関する情報を取得し、前記情報に基づいて前記第2制御装置20の制御器から出力される信号を切り替えることと、前記情報に基づいて前記フィードバック制御におけるゲインを設定することと、前記情報に基づいて前記第2制御装置20の制御器を切り替えることとのうち少なくとも一つを実行する。これにより、第2制御装置20の制御器が切り替わった場合に第1制御装置10での第1指令値の演算方法を変えなくても、制御対象31のむだ時間をより適切に補償できる。
【0058】
本実施形態の車両制御方法では、前記第1制御装置10は、前記第1制御装置10が前記第2指令値を取得する場合に、前記第2指令値が前記第2制御装置20から出力されてから前記第1制御装置10に入力されるまでの第3むだ時間を取得し、前記第2指令値と前記第3むだ時間とから前記状態を予測する。これにより、第1制御装置10と第2制御装置20との間の遅れ時間を補償できる。
【0059】
本実施形態の車両制御方法では、前記第1制御装置10は、複数の制御器を有し、前記第1制御装置10の複数の制御器は、前記第1指令値を演算し、前記第2制御装置20は、前記第1制御装置10の複数の制御器により演算された前記第1指令値に基づいて前記第2指令値を演算する。これにより、第1制御器11が複数存在する場合であっても制御対象31のむだ時間をより適切に補償できる。
【0060】
また、本実施形態によれば、フィードバック制御により車両の走行状態を制御する第1制御装置10と、前記第1制御装置10から出力された第1指令値に基づいて前記車両のアクチュエータ30を制御する、前記第1制御装置10と異なる第2制御装置20とを備え、前記第1制御装置10は、前記第2制御装置20から前記アクチュエータ30に出力された第2指令値から、前記アクチュエータ30の状態を予測し、予測した前記状態に基づき、前記アクチュエータ30の動作に要する第1むだ時間を補償する、車両制御装置1が提供される。これにより、制御対象31のむだ時間を適切に補償できる。また、フィードバック制御におけるオーバーシュートの発生を抑制でき、オーバーシュートの量も抑制できる。
【符号の説明】
【0061】
1…車両制御装置、10…第1制御装置、11…第1制御器、12…状態予測モデル、13,13a…むだ時間予測モデル、14…第4むだ時間要素、20…第2制御装置、21,21a…第2制御器、22…第2むだ時間要素、23…第3むだ時間要素、30…アクチュエータ、31…制御対象(プラント)、32…第1むだ時間要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9