IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小松製作所の特許一覧

特開2025-17764作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法
<>
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図1
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図2
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図3
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図4
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図5
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図6
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図7
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図8
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図9
  • 特開-作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017764
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法
(51)【国際特許分類】
   F16N 29/00 20060101AFI20250130BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20250130BHJP
   F01M 11/10 20060101ALI20250130BHJP
   F16N 35/00 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
F16N29/00 D
E02F9/26 B
F01M11/10 Z
F16N35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120984
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 志織
(72)【発明者】
【氏名】苅和 慎平
【テーマコード(参考)】
2D015
3G015
【Fターム(参考)】
2D015HA03
2D015HB00
3G015FC09
(57)【要約】
【課題】オイル中の金属濃度、鉄濃度を常時監視可能な作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法を提供する。
【解決手段】オイル性状センサ1(1a、1b)は、オイルの物性値として少なくとも誘電率と抵抗値を検出する。コントローラ50は、オイル性状センサ1(1a、1b)により検出されたオイルの物性値とオイル中の金属濃度または鉄濃度との関係に基づき物性値からオイル中の金属濃度または鉄濃度を推定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値を検出するオイル性状センサと、
オイルの前記物性値とオイル中の金属濃度との関係に基づき、前記オイル性状センサにより検出されたオイルの前記物性値からオイル中の金属濃度を推定するコントローラと、を備えた、作業機械のオイル性状診断システム。
【請求項2】
前記金属濃度は、鉄、銅、クロム、アルミニウム、シリコンおよび鉛よりなる群から選ばれる1種以上の金属の合計の濃度である、請求項1に記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【請求項3】
前記金属濃度は鉄濃度である、請求項2に記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【請求項4】
前記コントローラには、オイルの前記物性値とオイル中の金属濃度との関係が予め記憶されている、請求項1に記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【請求項5】
前記コントローラには、前記作業機械ごとに定められたオイル中の金属濃度の異常判定値が予め記憶されており、
前記コントローラは、推定された金属濃度と前記異常判定値に基づいてオイルの異常を判定する、請求項1に記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【請求項6】
前記オイルは、作業機械の作動油またはエンジンオイルである、請求項1に記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【請求項7】
オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値を検出するオイル性状センサと、
オイルの前記物性値とオイル中の鉄濃度との関係に基づき、前記オイル性状センサにより検出されたオイルの前記物性値からオイル中の鉄濃度を推定するコントローラと、を備えた、作業機械のオイル性状診断システム。
【請求項8】
オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値を取得するステップと、
オイルの前記物性値とオイル中の金属濃度との関係に基づき、取得されたオイルの前記物性値からオイル中の金属濃度を推定するステップと、を備えた、作業機械のオイル性状診断方法。
【請求項9】
オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値を取得するステップと、
オイルの前記物性値とオイル中の鉄濃度との関係に基づき、取得されたオイルの前記物性値からオイル中の鉄濃度を推定するステップと、を備えた、作業機械のオイル性状診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械の稼働に利用されるオイルの性状を検出・分析することにより、作業機械における故障の予兆を把握することができる。たとえば特開2016-113819号公報(特許文献1)においては、センサで検出したオイル性状に基づいてオイル採取を伴うオイル分析が必要か否かが判別される。オイル分析が必要であると判別された場合、できるだけ速やかにオイル採取が実行され、オイルの分析がオイル分析会社により実行される。そして過去のオイル分析情報に基づいてオイルの異常が判定され、オイルの異常原因が特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-113819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業機械においては、内部部品の異常摩耗などに基づく突発的な故障を予防するためにオイルの状態を常時監視したいとの要望がある。しかし特許文献1では、オイル分析会社でのオイル分析が必要であるため、オイルの状態を常時監視することはできない。
【0005】
本開示の目的は、オイル中の金属濃度、鉄濃度を常時監視可能な作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の作業機械のオイル性状診断システムは、オイル性状センサと、コントローラとを備えている。オイル性状センサは、オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値を検出する。コントローラは、オイルの物性値とオイル中の金属濃度との関係に基づき、オイル性状センサにより検出されたオイルの物性値からオイル中の金属濃度を推定する。
【0007】
本開示の他の作業機械のオイル性状診断システムは、オイル性状センサと、コントローラとを備えている。オイル性状センサは、オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値を検出する。コントローラは、オイルの物性値とオイル中の鉄濃度との関係に基づき、オイル性状センサにより検出されたオイルの物性値からオイル中の鉄濃度を推定する。
【0008】
本開示の一の作業機械のオイル性状診断方法は以下のステップを有する。
【0009】
オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値が取得される。オイルの物性値とオイル中の金属濃度との関係に基づき、取得されたオイルの物性値からオイル中の金属濃度が推定される。
【0010】
本開示の他の作業機械のオイル性状診断方法は以下のステップを有する。
【0011】
オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値が取得される。オイルの物性値とオイル中の鉄濃度との関係に基づき、取得されたオイルの物性値からオイル中の鉄濃度が推定される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、オイル中の金属濃度、鉄濃度を常時監視可能な作業機械のオイル性状診断システムおよび作業機械のオイル性状診断方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の一実施形態における作業機械の構成を示す図である。
図2】油圧アクチュエータ(たとえば油圧シリンダ)に作動油を給排するオイル回路の一の例を示す図である。
図3】駆動部(たとえばエンジン)に潤滑油を供給するオイル回路の他の例を示す図である。
図4】本開示の一実施形態における作業機械のオイル性状診断システムの構成を示す図である。
図5図4のシステムに採用されるコントローラの機能ブロック図である。
図6】本開示の一実施形態における作業機械のオイル性状診断方法を示すフロー図である。
図7】推定モデル(演算式)の精度の評価指数である決定係数と80%誤差を説明するための図である。
図8】推定モデル(演算式)の精度の評価指数であるスーツ濃度との相関係数を説明するための図である。
図9】オイル中の鉄濃度に関してオイルの物性値と評価指数との関係を示す図である。
図10】オイル中の金属(鉄+銅+クロム+アルミニウム+シリコン+鉛)濃度に関してオイルの物性値と評価指数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0015】
明細書および図面において、同一の構成要素または対応する構成要素には、同一の符号を付し、重複する説明を繰り返さない。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。また、実施の形態と変形例との少なくとも一部は、互いに任意に組み合わされてもよい。
【0016】
なお以下において前後方向とは、平面視においてブーム16が基端部から先端部へ延びる方向である。左右方向とは、平面視において前後方向と直交する方向である。上下方向とは、互いに直交する前後方向と左右方向とを含む平面に直交する方向である。
【0017】
<作業機械10の構成>
【0018】
図1は、本開示の一実施形態における作業機械の構成を概略的に示す図である。図1に示されるように、本実施形態の作業機械10は、たとえば油圧ショベルである。ただし作業機械10は油圧ショベルに限定されず、ホイールローダ、ブルドーザ、モータグレーダ、ダンプトラックなどのように、作業機を有し、稼働においてオイルを用いる作業機械10であればよい。
【0019】
作業機械10の稼働に用いられるオイルは、油圧アクチュエータ(たとえば油圧シリンダ、油圧モータなど)の作動に用いられる作動油、潤滑部(たとえばエンジン)の潤滑に用いられる潤滑油である。潤滑部は、たとえば駆動部の潤滑部であり、駆動部はエンジンなどの駆動源を含む。
【0020】
作業機械10の稼働に用いられるオイルは、たとえばエンジンオイル、作動油、旋回マシナリオイル、ファイナル(終減速)オイル、アクスルオイル、ミッションオイルなどである。採取されるオイルは作業機械10の機種により異なる。
【0021】
作業機械10の一例としての油圧ショベル10は、本体11と、油圧により作動する作業機12とを有している。本体11は、旋回体13と、走行体15とを有している。
【0022】
走行体15は、一対の履帯15Crと、走行モータ15Mとを有している。油圧ショベル10は、履帯15Crの回転により走行可能である。走行モータ15Mは、走行体15の駆動源として設けられている。
【0023】
旋回体13は、走行体15の上に配置され、かつ走行体15により支持されている。旋回体13は、旋回モータ(図示せず)により旋回軸RXを中心として走行体15に対して旋回可能である。旋回軸RXは、旋回体13の旋回中心となる仮想の直線である。
【0024】
旋回体13は、運転室14(キャブ)を有している。運転室14内には、オペレータが着座する運転席14Sが設けられている。オペレータは、運転室14に搭乗して、作業機12の操作、走行体15に対する旋回体13の旋回操作、および走行体15による油圧ショベル10の走行操作が可能である。
【0025】
旋回体13は、駆動源(たとえばエンジン)を有している。駆動源は、運転室14の後方に配置されている。駆動源は、外装パネル13aにより覆われている。
【0026】
作業機12は、旋回体13に支持されている。作業機12は、ブーム16と、アーム17と、バケット18とを有している。作業機12は、ブームシリンダ19aと、アームシリンダ19bと、バケットシリンダ19cとをさらに有している。
【0027】
ブーム16は、本体11に回動可能に接続されている。具体的にはブーム16の基端部は、ブームフートピンBFを支点として旋回体13に回動可能に接続されている。ブーム16の基端部は、運転室14の左右方向に配置されている。アーム17は、ブーム16に回動可能に接続されている。具体的にはアーム17の基端部は、ブームトップピンBTを支点としてブーム16の先端部に回動可能に接続されている。バケット18は、アーム17に回転可能に接続されている。具体的にはバケット18の基端部は、アームトップピンATを支点としてアーム17の先端部に回動可能に接続されている。
【0028】
ブーム16は、ブームシリンダ19aにより本体11に対して駆動可能である。この駆動により、ブーム16は、ブームフートピンBFを支点として旋回体13に対して上下方向に回動可能である。
【0029】
アーム17は、アームシリンダ19bによりブーム16に対して駆動可能である。この駆動により、アーム17は、ブームトップピンBTを支点としてブーム16に対して上下方向または前後方向に回動可能である。
【0030】
バケット18は、バケットシリンダ19cによりアーム17に対して駆動可能である。この駆動により、バケット18は、アームトップピンATを支点としてアーム17に対して上下方向または前後方向に回動可能である。
【0031】
上記のブームシリンダ19a、アームシリンダ19b、バケットシリンダ19c、旋回モータなどは、たとえば作動油により動作する油圧アクチュエータである。また駆動源(たとえばエンジン)などの駆動部は、潤滑油により潤滑可能に構成されている。本実施形態においては、油圧アクチュエータまたは駆動部に供給されたオイルの物性値が検出される。検出される物性値は、オイルの少なくとも誘電率と抵抗値である。
【0032】
また本実施形態においては、後述するように、検出されたオイルの物性値からオイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方が高精度に推定される。推定されたオイル中の金属濃度または鉄濃度により、作業機械10の主要な部品の摩耗促進度合いが把握できる。たとえば、エンジンオイルの監視でオイル中の金属濃度および鉄濃度の各々が異常判定値以上であると判定される場合、ピストンリング、シリンダライナなどが摩耗していると推定される。
【0033】
また本実施形態においては、検出されたオイルの物性値からオイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方が推定されるため、オイル中の金属濃度、鉄濃度を常時監視することが可能となる。
また本実施形態においては、オイル中の金属濃度および鉄濃度の各々が異常判定値以上であると判定された場合、画面表示、音などにより周囲に警告が発報される。これにより作業機械10の部品の異常摩耗などに基づく突発的な故障が予防される。
【0034】
<オイル回路>
【0035】
次に、油圧アクチュエータとして油圧シリンダに作動油を給排するためのオイル回路の一の例とオイル性状センサの配置例とについて図2を用いて説明する。
【0036】
図2は、油圧アクチュエータ(たとえば油圧シリンダ)に作動油を給排するオイル回路の一の例を示す図である。図2に示されるように、オイル回路の一の例は、駆動源2と、メインポンプ3aと、メインバルブ4と、油圧アクチュエータ5と、オイルクーラ6aと、オイルフィルタ7aと、オイルタンク8とを有している。
【0037】
駆動源2は、たとえばエンジンである。メインポンプ3aは、駆動源2からの駆動力により動作する。メインポンプ3aは、動作することにより、オイルタンク8に貯留された作動油(オイル)を汲み上げる。メインポンプ3aにより汲み上げられた作動油はメインバルブ4を通じて油圧アクチュエータ5に供給される。油圧アクチュエータ5に供給された作動油は、メインバルブ4を通じて排出される。
【0038】
油圧アクチュエータは、たとえば油圧シリンダであるが、油圧モータなどの他のアクチュエータであってもよい。油圧アクチュエータ5は、作動油を給排されることにより動作する。油圧アクチュエータ5がたとえば油圧シリンダである場合には、油圧シリンダ5は作動油を給排されることにより伸縮する。
【0039】
メインバルブ4は、油圧アクチュエータ5に給排する作動油の油量などを制御する。油圧アクチュエータ5から排出された作動油は、オイルクーラ6aで冷却され、オイルフィルタ7aで濾過された後にオイルタンク8へ戻される。
【0040】
オイル回路の一の例は、オイル性状センサ1aをさらに有している。オイル性状センサは、油路を通過するオイルの性状を検出する。オイルの性状とは、たとえば温度、粘度、密度、誘電率、抵抗値である。これらオイルの性状を複数のオイル性状センサで検出してもよいし、1つのオイル性状センサで検出してもよい。オイル性状センサ1aは、たとえばメインポンプ3aとオイルタンク8との間の油路に配置されている。オイル性状センサ1aは、オイル回路の他の油路に配置されていてもよい。
【0041】
次に、駆動部としてエンジンに潤滑油を供給するオイル回路の他の例とオイル性状センサの配置例とについて図3を用いて説明する。
【0042】
図3は、駆動部(たとえばエンジン)に潤滑油を供給するオイル回路の他の例を示す図である。図3に示されるように、オイル回路の他の例は、潤滑ポンプ3bと、オイルクーラ6bと、オイルフィルタ7bと、オイルタンク8と、駆動部の潤滑部9とを有している。
【0043】
潤滑ポンプ3bは、駆動源(図示せず)からの駆動力により動作する。潤滑ポンプ3bは、動作することにより、オイルタンク8に貯留された潤滑油(オイル)を汲み上げる。潤滑ポンプ3bにより汲み上げられた潤滑油は、オイルクーラ6bで冷却され、オイルフィルタ7bで濾過された後に駆動部の潤滑部9へ供給される。潤滑油は、駆動部の潤滑部9を潤滑した後、オイルタンク8へ戻される。
【0044】
オイル回路の他の例は、オイル性状センサ1bをさらに有している。オイル性状センサ1bは、たとえばオイルフィルタ7bおよび潤滑部9の間の油路とオイルタンク8とを繋ぐ油路に配置されている。オイル性状センサ1bは、オイル回路の他の油路に配置されていてもよい。
【0045】
図2および図3に示されるように、オイル性状センサ1a、1bの各々は、オイルの物性値として少なくともオイルの誘電率と抵抗値とを検出する。オイル性状センサ1a、1bの各々は、オイルの誘電率と抵抗値とに加えて、オイルの粘度と密度とをさらに検出してもよい。
【0046】
オイル性状センサ1a、1bの各々は、コントローラ50に電気的に接続されている。オイル性状センサ1a、1bの各々は、検出したオイルの物性値の信号をコントローラ50へ出力する。
【0047】
本実施形態においてはオイル性状センサ1a、1bの各々により検出されたオイルの少なくとも誘電率と抵抗値とからオイル中の金属濃度、鉄濃度を推定することにより、オイル中の金属濃度、鉄濃度を高精度に推定することができる。
【0048】
<作業機械10のオイル性状診断システム>
【0049】
次に、本開示の一実施形態における作業機械10のオイル性状診断システムについて図4を用いて説明する。
【0050】
図4は、本開示の一実施形態における作業機械10のオイル性状診断システムの構成を示す図である。図4に示されるように、作業機械10のオイル性状診断システムは、たとえば作業機械10と、サーバ70と、サービス用コンピュータ80とを有している。
【0051】
作業機械10は、オイル性状センサ1と、コントローラ50と、モニタ60とを有している。オイル性状センサ1は、上記のオイル性状センサ1a、1bのいずれか一方、またはオイル性状センサ1a、1bの双方である。コントローラ50には、オイル性状センサ1とモニタ60とが電気的に接続されている。
【0052】
オイル性状センサ1により検出されたオイルの物性値を示す信号は作業機械10のコントローラ50へ出力される。コントローラ50は、取得したオイルの物性値に基づいてオイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方を推定する。コントローラ50は、推定した金属濃度および鉄濃度の各々が異常判定値以上であるか否かを判定する。
【0053】
コントローラ50は、判定結果を示す信号をモニタ60へ出力する。モニタ60は、コントローラ50から取得した判定結果に基づいて画像を表示する。モニタ60は、推定した金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方が異常判定値以上である場合には警告を表示して発報する。モニタ60に代えてスピーカが用いられてもよい。この場合には、音により警告が発報されてもよい。
【0054】
オイル性状センサ1により検出されたオイルの物性値を示す信号は、作業機械10の外部に設けられたサーバ70に出力される。オイル性状センサ1により検出されたオイルの物性値を示す信号は、無線によりサーバ70に伝達されてもよい。サーバ70は、たとえば建設機械メーカが所有するサーバである。
【0055】
サーバ70は、コントローラ50と同様の機能を有している。つまりサーバ70は、取得したオイルの物性値に基づいてオイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方を推定し、推定した金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方が異常値であるか否かを判定する。サーバ70は、判定結果を示す信号をサービス用コンピュータ80へ出力する。
【0056】
なおサーバ70は、作業機械10のコントローラ50による判定結果を取得してもよい。この場合、サーバ70は、取得した判定結果をそのままサービス用コンピュータ80へ出力してもよい。
【0057】
サービス用コンピュータ80は、たとえば建設機械メーカの代理店などが所有するコンピュータである。サーバ70とサービス用コンピュータ80とは、たとえばイントラネットあるいはインターネットを通じて接続されている。
【0058】
サービス用コンピュータ80は、サーバ70から取得した判定結果を示す信号を作業機械10へ無線により伝達してもよい。またサービス用コンピュータ80で取得した判定結果を確認した建設機械メーカの代理店などは、その判定結果に基づいて作業機械10の修理、点検を行なってもよい。
【0059】
また作業機械10を所有するユーザは、モニタ60の表示結果に基づいて、建設機械メーカの代理店などに修理、点検を依頼してもよい。この場合、建設機械メーカの代理店などは、その依頼に基づいて作業機械10の修理、点検を行なってもよい。
【0060】
<コントローラ50の機能ブロック>
【0061】
次に、コントローラ50の機能ブロックについて図5を用いて説明する。
【0062】
図5は、図4のシステムに採用されるコントローラの機能ブロック図である。図5に示されるように、コントローラ50は、オイル物性値取得部51と、濃度推定部52と、濃度判定部53と、出力制御部54と、メモリ55とを有している。オイル物性値取得部51は、オイル性状センサ1からオイルの物性値を取得する。
【0063】
濃度推定部52は、オイルの物性値とオイル中の金属濃度または鉄濃度との関係(物性値-濃度関係)に基づき、取得したオイルの物性値からオイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方を推定する。濃度推定部52は、上記推定をするに際して、メモリ55に記憶された上記物性値-濃度関係を参照する。鉄濃度、金属濃度の推定の仕方については、以下の<鉄濃度、金属濃度の推定の仕方>にて後述する。
【0064】
濃度判定部53は、オイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方が異常判定値以上であるか否かを判定する。濃度判定部53は、上記の判定を行なうに際して、メモリ55に記憶された鉄濃度の異常判定値または金属濃度の異常判定値を参照する。
【0065】
出力制御部54は、濃度判定部53の判定結果を取得する。出力制御部54は、濃度判定部53の判定結果に基づいて制御信号をモニタ60へ出力してモニタ60の表示内容を制御する。出力制御部54は、オイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方が異常判定値以上であると判定した場合には、モニタ60にその旨を表示することで警告を発報する。また出力制御部54は、オイル中の金属濃度、鉄濃度が異常判定値未満であった場合には、モニタ60に異常なしであることを表示する。
【0066】
なおメモリ55には、上記物性値-濃度関係および異常判定値が予め(作業機械10の出荷当時から)記憶されていてもよい。また、作業機械10の出荷後に作業機械10の外部からメモリ55に、上記物性値-濃度関係および異常判定値が記憶されてもよい。作業機械10に搭載されたタッチパネルなどの入力装置を操作することにより、メモリ55に上記物性値-濃度関係および異常判定値が記憶されてもよい。また警告を発報する機器は、モニタ60に限定されず、スピーカなどの音により発報する機器であってもよい。
【0067】
なおコントローラ50は、プロセッサと、メインメモリと、ストレージとを含む。プロセッサはたとえばCPU(Central Processing Unit)などである。メインメモリは、たとえばROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリおよびRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む。
【0068】
コントローラ50は、作業機械10に搭載されていてもよく、作業機械10の外部に離れて配置されていてもよい。コントローラ50が作業機械10の外部に離れて配置されている場合、コントローラ50は、オイル性状センサ1、モニタ60などと無線により接続されていてもよい。コントローラ50は、作業機械10から離れたサーバ70に格納されていてもよい。
【0069】
コントローラ50は、ストレージに記憶されているプログラムを読み出してメインメモリに展開し、プログラムに従って所定の処理を実行する。またプログラムは、ネットワークを介してコントローラ50に配信されてもよい。
【0070】
<鉄濃度、金属濃度の推定の仕方>
【0071】
次に、図5の濃度推定部52におけるオイル中の鉄濃度と金属濃度のうち鉄濃度を例に挙げてその推定の仕方を説明する。
【0072】
オイル中の鉄濃度は、機械学習により推定される。機械学習において、オイルの物性値(誘電率、粘度、密度、抵抗値)の実測値と、物性値の実測値に対応したオイル中の鉄濃度の実測値とがセットで訓練データとして用いられる。オイルの物性値の実測値は、オイル性状センサ1により検出される。オイル性状センサ1は、オイルの物性値として、たとえば粘度と、密度と、誘電率と、抵抗値との4つを検出可能である。鉄濃度の実測値は、たとえばICP(Inductively Coupled Plasma)分析装置により検出される。オイルの物性値の実測値と、その物性値の実測値に対応したオイル中の鉄濃度の実測値との各々は、使用済みオイルから検出される。
【0073】
多数の上記訓練データが機械学習のアルゴリズムに入力される。機械学習のアルゴリズムは、多数の上記訓練データを入力として受け取り、推定モデルを構築する。推定モデルは、物性値と鉄濃度との関係から最小二乗法により鉄濃度を演算する演算式として作成される。
【0074】
演算式は、たとえばオイルの物性値として誘電率と抵抗値との2変数を用いた場合、鉄濃度[ppm]=a(誘電率ε)+b(抵抗値R)+cの式により表わされる。この演算式において、a、b、cの係数が機械学習のアルゴリズムにより決定される。上記演算式は、オイルの物性値とオイル中の鉄濃度との関係を示す式である。
【0075】
上記のように作成された演算式に、図5に示されるオイル性状センサ1で検出されたオイルの物性値が入力されることによりオイル中の鉄濃度が算出される。このようにしてオイル中の鉄濃度が推定される。
【0076】
オイル中の金属濃度も上記の鉄濃度と同様の手法により推定される。オイル中の金属濃度は、鉄(Fe)、銅(Cu)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)および鉛(Pb)よりなる群から選ばれる1種以上の金属の合計の濃度として推定される。オイルの物性値とオイル中の金属濃度との関係を示す演算式は、たとえばオイルの物性値として誘電率と抵抗値との2変数を用いた場合、金属濃度[ppm]=a1(誘電率ε)+b1(抵抗値R)+c1の式により表わされる。この演算式において、a1、b1、c1の係数が機械学習のアルゴリズムにより決定される。
【0077】
<作業機械のオイル性状診断方法>
【0078】
次に、本開示の一実施形態における作業機械のオイル性状診断方法について図5および図6を用いて説明する。
【0079】
図6は、本開示の一実施形態における作業機械のオイル性状診断方法を示すフロー図である。図5および図6に示されるように、オイル性状センサ1は、オイルの物性値を検出する。コントローラ50のオイル物性値取得部51は、オイル性状センサ1からオイルの物性値を取得する(ステップS1:図6)。オイルの物性値は、上述したように少なくともオイルの誘電率と抵抗値とを含み、オイルの誘電率および抵抗値以外に、オイルの粘度と密度とを含んでいてもよい。
【0080】
オイル物性値取得部51は、取得した物性値を濃度推定部52へ出力する。濃度推定部52は、上記物性値-濃度関係に基づき、取得したオイルの物性値からオイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方を推定する(ステップS2:図6)。濃度推定部52は、オイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方を推定する際に、メモリ55に記憶された上記物性値-濃度関係を参照する。
【0081】
上記物性値-濃度関係は、たとえば上記機械学習により得られた演算式である。濃度推定部52は、オイル物性値取得部51から取得したオイルの物性値を上記機械学習により得られた演算式に入力することにより、オイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方を推定する。
【0082】
濃度推定部52は、推定したオイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方を濃度判定部53へ出力する。濃度判定部53は、取得したオイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方が異常判定値以上か否かを判定する(ステップS3:図6)。
【0083】
金属濃度および鉄濃度の各々の異常判定値は、コントローラ50のメモリ55に予め記憶されている。濃度判定部53は、上記の判定を行なうに際して、メモリ55に記憶された金属濃度の異常判定値または鉄濃度の異常判定値を参照する。
【0084】
濃度判定部53が、オイル中の金属濃度および鉄濃度が異常判定値未満であると判定した場合、ステップS1、S2、S3が繰り返される。なおオイル中の金属濃度および鉄濃度が異常判定値未満であると濃度判定部53が判定した場合でも、濃度判定部53が判定結果をモニタ60に出力したうえで、ステップS1、S2、S3が繰り返されてもよい。一方、濃度判定部53が、オイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方が異常判定値以上であると判定した場合、濃度判定部53は判定結果を示す信号を出力制御部54へ出力する。
【0085】
出力制御部54は、取得した判定結果に基づいて制御信号をモニタ60へ出力する。出力制御部54は、オイル中の金属濃度および鉄濃度の少なくとも一方が異常判定値以上であると判定した場合には、モニタ60にその旨を表示することで警告を発報する(ステップS4:図6)。
【0086】
以上により本実施形態における作業機械のオイル性状診断方法が実施される。
【0087】
<実施例>
【0088】
次に、オイルの物性値と推定精度との関係に関して本発明者らが実施した検討について図7図10を用いて説明する。
【0089】
図7は、推定モデル(演算式)の精度の評価指数である決定係数と80%誤差を説明するための図である。図8は、推定モデル(演算式)の精度の評価指数であるスーツ濃度との相関係数を説明するための図である。図9は、オイル中の鉄濃度に関してオイルの物性値と評価指数との関係を示す図である。図10は、オイル中の金属(鉄+銅+クロム+アルミニウム+シリコン+鉛)濃度に関してオイルの物性値と評価指数との関係を示す図である。
【0090】
本発明者らは、異なる鉄濃度を有する使用済みエンジンオイル(市場から回収した油)の各々の物性値(誘電率、粘度、密度、抵抗値)をオイル性状センサを用いて検出した。検出した物性値の組合わせを変えて、物性値の各組合わせについてオイル中の鉄濃度を推定した。具体的には、4つの物性値のうち、1つの物性値のみ(1変数)、2つの物性値の組合わせ(2変数)、および3つの物性値の組合わせ(3変数)の各々からオイル中の鉄濃度を推定した。
【0091】
このようにして得られた鉄濃度の推定値を、ICP分析装置により検出したオイル中の鉄濃度の実測値と比較することにより物性値の各組合わせにおける推定精度を評価した。この評価における評価指数として、(1)決定係数と、(2)80%誤差と、(3)スーツ濃度との相関係数とを用いた。以下に、各評価指数を説明する。
【0092】
(1)決定係数(=R2
【0093】
決定係数R2は、データ数N(n)個のうちのi番目の真値(実測値のデータ)をyi、回帰式により推定された値をyei、実測値のデータ全体における平均値をyaiとすると、以下の式(1)により算出される。決定係数R2は、その値が1に近いほど鉄濃度の推定精度が高いことを意味する。つまり図7に示されるように、鉄濃度の実測値と鉄濃度の推定値とが1対1の関係となる直線SL1の近くに位置するデータほど推定精度が高いことを意味する。決定係数R2は、絶対値で評価される。
【数1】

(2)80%誤差(=RMSE×1.25)
【0094】
以下の式(2)により求めたRMSE(Root Mean Squared Error:二乗平均平方根誤差)はデータ実測値と推定値とのずれの大きさを表わすため、標準偏差と同様の考え方で、データの約68%がRMSEの誤差範囲に収まると考えられる。そこで(RMSE×1.25)の範囲に約80%のデータが収まると考えられるため、(RMSE×1.25)を80%誤差と定義し、評価指数の1つとして使用した。80%誤差は、図7に示されるように、直線SL1に対して、鉄濃度の実測値と推定値との関係を示すデータの80%がおさまる誤差範囲ERの大きさを意味する。80%誤差は、その値が小さいほど推定精度が高いことを意味する。
【数2】

(3)スーツ濃度実測値xと鉄濃度推定値yとの相関係数(=r)
【0095】
スーツ濃度実測値と鉄濃度推定値を(x、y)とし、それぞれの平均値を(xa、ya)、データ数n個のうちのi番目のデータを(xi、yi)とする。またxとyの共分散をsxy、xの標準偏差をsx、yの標準偏差をsyとする。このときの相関係数rは、以下の式(3)により表される。
【数3】
【0096】
相関係数rは、上記方法でオイルサンプルから得られた鉄濃度の推定値と、同じオイルサンプルにおけるスーツ濃度の実測値とにどれほどの相関があるかを算出したものである。相関係数rは、その値が1に近いほど鉄濃度の推定値をスーツ濃度の実測値から切り分けることが困難となり、鉄濃度の推定精度が低くなることを意味する。つまり図8に示されるように、スーツ濃度の実測値と鉄濃度の推定値とが1対1の関係となる直線SL2の近くに位置するデータほど推定精度が低いことを意味する。相関係数rは、絶対値で評価される。
【0097】
なおスーツは、燃料の燃焼により発生し排気ガス中に含まれる煤とオイルスラッジとが混ざったものであり、たとえばエンジンオイル中に混入する。スーツ濃度は、赤外分光法で得られる透過光の強度から検出されるもので、たとえばエンジンオイルなどの汚れの指標となる。
(4)オイル中の鉄濃度の推定値の評価結果
【0098】
上記の評価指数を用いたオイル中における鉄濃度の評価結果を図9に示す。図9に示されるように、サンプル(1)~(4)は1変数、サンプル(5)~(10)は2変数、サンプル(11)~(14)は3変数についての評価結果である。サンプル(2)の粘度のみの1変数と、サンプル(3)の密度のみの1変数については特に評価を行なわなかった。サンプル(7)、(12)、(13)のようにオイルの物性値として少なくともオイルの誘電率と抵抗値とを用いて鉄濃度を推定した場合に、決定係数が0.3以上、80%誤差が27未満、および相関係数が0.6未満となった。このようにサンプル(7)、(12)、(13)では、他のサンプル(1)~(6)、(8)~(11)、(14)よりも鉄濃度の推定精度が高くなることが分かった。
【0099】
このことから、少なくともオイルの誘電率と抵抗値とを用いて鉄濃度を推定することにより、オイルの誘電率と抵抗値との組合わせを含まない物性値で鉄濃度を推定した場合よりも、鉄濃度の推定精度が高くなることが分かった。
【0100】
またサンプル(7)、(12)の各々では、相関係数が0.4以下となり他のサンプルよりも鉄濃度の推定精度が高くなることが分かった。
【0101】
またサンプル(12)のようにオイルの物性値としてオイルの誘電率と抵抗値と粘度との3変数を用いた場合に、オイルの誘電率と抵抗値との2変数を用いた場合よりも決定係数が1に近付くとともに80%誤差が小さくなり、鉄濃度の推定精度がさらに高くなることが分かった。
(5)オイル中の金属濃度の推定値の評価結果
【0102】
鉄濃度と同様の方法によりオイル中における金属(鉄+銅+クロム+アルミニウム+シリコン+鉛)濃度を推定するとともに、その推定値の推定精度を評価した。その評価結果を図10に示す。図10に示されるように、サンプル(26)のようにオイルの物性値としてオイルの誘電率と抵抗値とを用いた場合に、決定係数が0.07以上、80%誤差が95未満、および相関係数が0.88未満となり、他のサンプル(21)~(25)、(27)よりも金属濃度の推定精度が高くなることが分かった。
【0103】
このことから、少なくともオイルの誘電率と抵抗値とを用いて金属濃度を推定することにより、オイルの誘電率と抵抗値との組合わせを含まない物性値で金属濃度を推定した場合よりも、金属濃度の推定精度が高くなることが分かった。
なお本実施例における分析対象のオイルは、鉄、銅、クロム、アルミニウム、シリコン、鉛のうち、少なくとも鉄を含んでいた。
【0104】
<効果>
【0105】
以下、本実施形態の効果について説明する。
【0106】
作業機械においては、内部部品の異常摩耗などに基づく突発的な故障が発生した場合、その発見が遅れることにより内部部品の機能不全、作業機械の稼働停止などが引き起こされ得る。この機能不全、稼働停止などは、顧客にとってダウンタイムの発生による作業計画の遅延などの重大な被害につながる。そのため、内部部品の異常摩耗などに基づく突発的な故障をできる限り早期に発見しダウンタイムの発生を予防するために、オイル中の鉄を含む金属濃度を常時把握したいとの要望がある。しかし特許文献1では、センサで検出されたオイル性状をもとにオイル分析が必要であると判断された場合に、作業機械から採取したオイルサンプリングに対してオイル分析会社などが有する精密分析機器を用いたオイル分析を実施することでオイル異常原因が特定されるため、オイル中の鉄を含む金属濃度の変化を常時把握することはできない。
これに対して本実施形態によれば図9および図10に示されるように、オイルの物性値として少なくとも誘電率と抵抗値が検出され、その検出されたオイルの物性値からオイル中の金属濃度、鉄濃度が推定される。これによりオイルの誘電率と抵抗値の組合わせを含まないオイルの物性値を用いてオイル中の金属濃度、鉄濃度を推定した場合よりも、オイル中の金属濃度、鉄濃度を精度良く推定することができる。
【0107】
また上記金属濃度および鉄濃度のいずれの推定においても、オイルの誘電率と抵抗値とは、簡易なオイル性状センサ1で検出可能である。このためオイル中の金属濃度または鉄濃度を検出するためにたとえばICP分析装置のような大掛かりな装置が不要となる。
【0108】
また簡易なオイル性状センサ1は、ICP分析装置などと異なり、作業機械10に搭載することが容易である。簡易なオイル性状センサ1を作業機械10に搭載することで、作業機械10に搭載された簡易なオイル性状センサ1を用いてオイル中の金属濃度、鉄濃度を常時監視することが可能となる。また、オイル取出しタイミング以外で突発的に発生する故障(内部部品の摩耗などに基づく故障)を早期発見することができ、作業機械10が大破する前にタイムリーな対応(オイル交換、部品交換など)が可能となる。
【0109】
また本実施形態によれば、金属濃度は、鉄、銅、クロム、アルミニウム、シリコンおよび鉛よりなる群から選ばれる1種以上の金属の合計の濃度である。これによりオイル中に含まれる上記金属の合計の濃度を精度良く推定することが可能となる。
【0110】
また本実施形態によれば、金属濃度は鉄濃度である。これによりオイル中に含まれる鉄濃度を精度良く推定することが可能となる。金属濃度は、少なくとも鉄濃度を含む。
【0111】
また本実施形態によれば、コントローラ50には、オイルの物性値とオイル中の金属濃度または鉄濃度との関係が予め記憶されている。これによりオイルの物性値に基づいてオイル中の金属濃度または鉄濃度を推定することが可能となる。
【0112】
また本実施形態によれば、コントローラ50には、作業機械10ごとに定められたオイル中の金属濃度または鉄濃度の異常判定値が予め記憶されており、この異常判定値と推定された金属濃度または鉄濃度とに基づいてオイルの異常が判定される。このようにオイルの異常が検知されることにより、突発的な故障を予防することが可能となる。
【0113】
また本実施形態によれば、分析されるオイルは、作業機械10の作動油またはエンジンオイルである。これにより油圧アクチュエータ、メインポンプ、メインバルブなどの油圧機器またはエンジンの突発的な故障を予防することが可能となる。
【0114】
<付記>
【0115】
上述したような実施形態は、以下のような技術思想を含む。
【0116】
(付記1)
【0117】
オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値を検出するオイル性状センサと、
オイルの前記物性値とオイル中の金属濃度との関係に基づき、前記オイル性状センサにより検出されたオイルの前記物性値からオイル中の金属濃度を推定するコントローラと、を備えた、作業機械のオイル性状診断システム。
【0118】
(付記2)
【0119】
前記金属濃度は、鉄、銅、クロム、アルミニウム、シリコンおよび鉛よりなる群から選ばれる1種以上の金属の濃度の合計である、付記1に記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【0120】
(付記3)
【0121】
前記金属濃度は鉄濃度である、付記1または付記2に記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【0122】
(付記4)
【0123】
前記コントローラには、オイルの前記物性値とオイル中の金属濃度との関係が予め記憶されている、付記1から付記3のいずれか1つに記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【0124】
(付記5)
【0125】
前記コントローラには、前記作業機械ごとに定められたオイル中の金属濃度の異常判定値が予め記憶されており、
前記コントローラは、推定された金属濃度と前記異常判定値に基づいてオイルの異常を判定する、付記1から付記4のいずれか1つに記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【0126】
(付記6)
【0127】
前記オイルは、作業機械の作動油またはエンジンオイルである、付記1から付記5のいずれか1つに記載の作業機械のオイル性状診断システム。
【0128】
(付記7)
【0129】
オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値を検出するオイル性状センサと、
オイルの前記物性値とオイル中の鉄濃度との関係に基づき、前記オイル性状センサにより検出されたオイルの前記物性値からオイル中の鉄濃度を推定するコントローラと、を備えた、作業機械のオイル性状診断システム。
【0130】
(付記8)
【0131】
オイルの物性値として少なくとも誘電率および抵抗値を検出するステップと、
オイルの前記物性値とオイル中の金属濃度との関係に基づき、取得されたオイルの前記物性値からオイル中の金属濃度を推定するステップと、を備えた、作業機械のオイル性状診断方法。
【0132】
(付記9)
【0133】
オイルの物性値として誘電率および抵抗値を検出するステップと、
オイルの前記物性値とオイル中の鉄濃度との関係に基づき、取得されたオイルの前記物性値からオイル中の鉄濃度を推定するステップと、を備えた、作業機械のオイル性状診断方法。
【0134】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0135】
1,1a,1b オイル性状センサ、2 駆動源、3a メインポンプ、3b 潤滑ポンプ、4 メインバルブ、5 油圧アクチュエータ、6a,6b オイルクーラ、7a,7b オイルフィルタ、8 オイルタンク、9 潤滑部、10 作業機械、11 本体、12 作業機、13 旋回体、13a 外装パネル、14 運転室、14S 運転席、15 走行体、15Cr 履帯、15M 走行モータ、16 ブーム、17 アーム、18 バケット、19a ブームシリンダ、19b アームシリンダ、19c バケットシリンダ、50 コントローラ、51 オイル物性値取得部、52 濃度推定部、53 濃度判定部、54 出力制御部、55 メモリ、60 モニタ、70 サーバ、80 サービス用コンピュータ、AT アームトップピン、BF ブームフートピン、BT ブームトップピン、RX 旋回軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10