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特開2025-17930一酸化炭素製造装置、及び一酸化炭素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017930
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】一酸化炭素製造装置、及び一酸化炭素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/40 20170101AFI20250130BHJP
【FI】
C01B32/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121282
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】520486638
【氏名又は名称】株式会社アビット・テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(74)【代理人】
【識別番号】100201949
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 久美
(74)【代理人】
【識別番号】100227097
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(72)【発明者】
【氏名】中川 清和
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146JA01
4G146JB03
4G146JC01
4G146JC21
4G146JC34
(57)【要約】      (修正有)
【課題】マイクロ波プラズマを用いて二酸化炭素から一酸化炭素を製造するに当たり、反応室へのマイクロ波導波路にアイソレータ及びインピーダンス整合器を有しない製造装置、及びそれを用いた製造方法を提供する。
【解決手段】反応室1は、マイクロ波プラズマを内壁面に沿って発生させる誘電体製筒状容器4と、誘電体製の筒状容器の外側に、筒状容器に接触しないように設けられた導電体製の筒状チャンバー5と、誘電体製の筒状容器と導電体製の筒状チャンバーとの間の領域であって、1種又は2種以上の誘電体を含む筒状導波領域6と、誘電体製の筒状容器内に二酸化炭素ガスを供給する供給口7と、誘電体を含む筒状導波領域の側方に設けられたマイクロ波導入口8とを有するものであり、導波路3は、アイソレータ及びインピーダンス整合器を有しないものである、一酸化炭素製造装置と、この一酸化炭素製造装置を用いて一酸化炭素を製造する方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室と、
マイクロ波を発生させるマイクロ波発振器と、
前記マイクロ波発振器で発生したマイクロ波を、前記反応室に導く導波路と、
を有する一酸化炭素製造装置であって、
前記反応室は、マイクロ波プラズマを内壁面に沿って発生させる誘電体製の筒状容器と、
前記誘電体製の筒状容器の外側に、前記誘電体製の筒状容器と接触しない状態で設けられた導電体製の筒状チャンバーと、
前記誘電体製の筒状容器と前記導電体製の筒状チャンバーとの間の領域であって、1種又は2種以上の誘電体を含む筒状導波領域と、
前記誘電体製の筒状容器内に二酸化炭素ガスを供給する二酸化炭素ガス供給口と、
前記誘電体を含む筒状導波領域の側方に設けられたマイクロ波導入口とを有するものであり、
前記導波路は、アイソレータ及びインピーダンス整合器を有しないものである、一酸化炭素製造装置。
【請求項2】
前記誘電体製の筒状容器を構成する誘電体の比誘電率が、3.0~10.0である、請求項1に記載の一酸化炭素製造装置。
【請求項3】
前記誘電体製の筒状容器の内径が、12~300mmである、請求項1に記載の一酸化炭素製造装置。
【請求項4】
前記誘電体製の筒状容器の壁厚が、2~100mmである、請求項1に記載の一酸化炭素製造装置。
【請求項5】
前記誘電体を含む筒状導波領域に含まれる誘電体の少なくとも1種が、前記誘電体製の筒状容器を構成する誘電体の比誘電率とは異なる値の比誘電率を有するものである、請求項1に記載の一酸化炭素製造装置。
【請求項6】
前記誘電体を含む筒状導波領域に含まれる誘電体の少なくとも1種が、前記誘電体製の筒状容器を構成する誘電体の比誘電率より高い値の比誘電率を有するものである、請求項1に記載の一酸化炭素製造装置。
【請求項7】
前記誘電体を含む筒状導波領域に含まれる誘電体の少なくとも1種の比誘電率が、1.5以上である、請求項1に記載の一酸化炭素製造装置。
【請求項8】
前記誘電体製の筒状容器と前記導電体製の筒状チャンバーの間の最短距離が、2~200mmである、請求項1に記載の一酸化炭素製造装置。
【請求項9】
前記誘電体製の筒状容器の数をaで表し、前記導電体製の筒状チャンバーの数をbで表し、前記マイクロ波導入口の数をcで表したときに、a≧2、b=1、及び、a≧cである、請求項1に記載の一酸化炭素製造装置。
【請求項10】
前記誘電体製の筒状容器を複数有し、かつ、複数の誘電体製の筒状容器の下流側に位置するガス集積室を有する、請求項1に記載の一酸化炭素製造装置。
【請求項11】
請求項1に記載の一酸化炭素製造装置を用いて、一酸化炭素を製造する方法であって、
誘電体製の筒状容器内に二酸化炭素ガスを供給しながらマイクロ波導入口からマイクロ波を照射して、誘電体製の筒状容器内にマイクロ波プラズマを発生させるステップを有する、一酸化炭素の製造方法。
【請求項12】
前記マイクロ波プラズマを発生させるステップが、二酸化炭素を一酸化炭素に還元する還元触媒の存在下で行われるものである、請求項11に記載の一酸化炭素の製造方法。
【請求項13】
前記マイクロ波プラズマを発生させるステップが、誘電体製の筒状容器内に水素ガスを供給しながら行われるものである、請求項11に記載の一酸化炭素の製造方法。
【請求項14】
さらに、反応後のガスから一酸化炭素を分離するステップを有する、請求項11に記載の一酸化炭素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素製造装置、及び一酸化炭素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題等の観点から、二酸化炭素から一酸化炭素やメタノールを製造する技術が注目されている。
二酸化炭素から一酸化炭素を製造する技術としては、マイクロ波プラズマを利用して、二酸化炭素から一酸化炭素を製造する方法が知られている。
【0003】
特許文献1の請求項1には、「マイクロ波プラズマを用いるガス変換システムであって、マイクロ波を伝搬させるためのマイクロ波導波管、該マイクロ波導波管を通り抜けるガス流管であって、当該ガス流管を通過してマイクロ波を伝搬させるように構成された、ガス流管、前記マイクロ波導波管の温度を制御するための第一の温度制御手段、前記ガス流管の近傍に配置され、前記マイクロ波導波管の温度を測定するように構成された温度センサー、前記ガス流管の近傍に位置付けられ、前記ガス流管内でプラズマを生起させ、動作中に前記プラズマが前記ガス流管内を流れるガスを変換するように構成された、生起器、及び、前記ガス流管の近傍に配置され、プラズマを監視するように構成された、プラズマ検出器、を有するガス変換システム」が記載されている。
特許文献1の段落〔0011〕には、そのガス変換システムは、二酸化炭素の一酸化炭素及び酸素への変換に使用し得ることも記載されている。
【0004】
特許文献2の請求項1には、「減圧した系内にマイクロ波を照射し、該マイクロ波の照射位置に二酸化炭素単体を投入することにより、投入した二酸化炭素を電離して一酸化炭素を得ることを特徴とするマイクロ波非平衡プラズマによる二酸化炭素の分解方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-520663号公報
【特許文献2】特開2015-155356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、反応容器内にマイクロ波プラズマを発生させる場合、マイクロ波発振器で発生させたマイクロ波を、導波路により反応容器のマイクロ波導入口まで導き、反応容器のマイクロ波導入口から反応容器内にマイクロ波が照射される。
しかしながら、マイクロ波エネルギーが反応容器で十分に消費されない場合、発生した反射波が導波路を伝わってマイクロ波発振器に到達し、マイクロ波発振器の故障を引き起こすおそれがあった。
このため、通常、導波路には、反射波を吸収するアイソレータや反射波を抑制するインピーダンス整合器等の反射波対策用の装置が設けられ、反射波がマイクロ波発振器に到達するのを防いでいる。
例えば、特許文献1の段落〔0008〕~〔0009〕には、反射波対策用の装置として、ダミーロード16及びサーキュレーター18を有する断路器15が記載され、特許文献2の段落〔0019〕には、アイソレータ7やスタブチューナ9が記載されている。
【0007】
しかしながら、反射波対策用のこれらの装置を設けることは、反応装置の小型化や簡略化の観点からは好ましくない。
また、エネルギー効率の観点からも、反射波対策用のこれらの装置を使用することなく、マイクロ波プラズマを安定的に発生させることが好ましい。
【0008】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、反応室と、マイクロ波発振器と、導波路とを有し、マイクロ波プラズマを利用して二酸化炭素から一酸化炭素を製造する一酸化炭素製造装置であって、導波路にアイソレータ及びインピーダンス整合器を有しない一酸化炭素製造装置と、この一酸化炭素製造装置を用いて一酸化炭素を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、マイクロ波プラズマを利用して二酸化炭素から一酸化炭素を製造する一酸化炭素製造装置について鋭意検討を重ねた。
その結果、誘電体製の筒状容器の外側に誘電体を含む筒状導波領域を設け、この誘電体を含む筒状導波領域にマイクロ波を照射することで、誘電体製の筒状容器の内壁面に沿ってマイクロ波プラズマを効率よく発生させることができ、さらに、導波路にアイソレータ及びインピーダンス整合器を設けなくても、マイクロ波発振器に悪影響を与えることなく、マイクロ波プラズマを安定的に発生させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔10〕の一酸化炭素製造装置、及び〔11〕~〔14〕の一酸化炭素の製造方法が提供される。
〔1〕反応室と、マイクロ波を発生させるマイクロ波発振器と、前記マイクロ波発振器で発生したマイクロ波を、前記反応室に導く導波路と、を有する一酸化炭素製造装置であって、前記反応室は、マイクロ波プラズマを内壁面に沿って発生させる誘電体製の筒状容器と、前記誘電体製の筒状容器の外側に、前記誘電体製の筒状容器と接触しない状態で設けられた導電体製の筒状チャンバーと、前記誘電体製の筒状容器と前記導電体製の筒状チャンバーとの間の領域であって、1種又は2種以上の誘電体を含む筒状導波領域と、前記誘電体製の筒状容器内に二酸化炭素ガスを供給する二酸化炭素ガス供給口と、前記誘電体を含む筒状導波領域の側方に設けられたマイクロ波導入口とを有するものであり、前記導波路は、アイソレータ及びインピーダンス整合器を有しないものである、一酸化炭素製造装置。
〔2〕前記誘電体製の筒状容器を構成する誘電体の比誘電率が、3.0~10.0である、〔1〕に記載の一酸化炭素製造装置。
〔3〕前記誘電体製の筒状容器の内径が、12~300mmである、〔1〕又は〔2〕に記載の一酸化炭素製造装置。
〔4〕前記誘電体製の筒状容器の壁厚が、2~100mmである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の一酸化炭素製造装置。
〔5〕前記誘電体を含む筒状導波領域に含まれる誘電体の少なくとも1種が、前記誘電体製の筒状容器を構成する誘電体の比誘電率とは異なる値の比誘電率を有するものである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の一酸化炭素製造装置。
〔6〕前記誘電体を含む筒状導波領域に含まれる誘電体の少なくとも1種が、前記誘電体製の筒状容器を構成する誘電体の比誘電率より高い値の比誘電率を有するものである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の一酸化炭素製造装置。
〔7〕前記誘電体を含む筒状導波領域に含まれる誘電体の少なくとも1種の比誘電率が、1.5以上である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の一酸化炭素製造装置。
〔8〕前記誘電体製の筒状容器と前記導電体製の筒状チャンバーの間の最短距離が、2~200mmである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の一酸化炭素製造装置。
〔9〕前記誘電体製の筒状容器の数をaで表し、前記導電体製の筒状チャンバーの数をbで表し、前記マイクロ波導入口の数をcで表したときに、a≧2、b=1、及び、a≧cである、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の一酸化炭素製造装置。
〔10〕前記誘電体製の筒状容器を複数有し、かつ、複数の誘電体製の筒状容器の下流側に位置するガス集積室を有する、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の一酸化炭素製造装置。
〔11〕前記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の一酸化炭素製造装置を用いて、一酸化炭素を製造する方法であって、誘電体製の筒状容器内に二酸化炭素ガスを供給しながらマイクロ波導入口からマイクロ波を照射して、誘電体製の筒状容器内にマイクロ波プラズマを発生させるステップを有する、一酸化炭素の製造方法。
〔12〕前記マイクロ波プラズマを発生させるステップが、二酸化炭素を一酸化炭素に還元する還元触媒の存在下で行われるものである、〔11〕に記載の一酸化炭素の製造方法。
〔13〕前記マイクロ波プラズマを発生させるステップが、誘電体製の筒状容器内に水素ガスを供給しながら行われるものである、〔11〕又は〔12〕に記載の一酸化炭素の製造方法。
〔14〕さらに、反応後のガスから一酸化炭素を分離するステップを有する、〔11〕~〔13〕のいずれかに記載の一酸化炭素の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反応室と、マイクロ波発振器と、導波路とを有し、マイクロ波プラズマを利用して二酸化炭素から一酸化炭素を製造する一酸化炭素製造装置であって、導波路にアイソレータ及びインピーダンス整合器を有しない一酸化炭素製造装置と、この一酸化炭素製造装置を用いて一酸化炭素を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)本発明の一酸化炭素製造装置の一例を示す模式断面図である。(b)図1(a)のA-A断面図である。
図2】(a)本発明の一酸化炭素製造装置の他の一例を示す模式断面図である。(b)図2(a)のB-B断面図である。
図3】(a)本発明の一酸化炭素製造装置の他の一例を示す模式断面図である。(b)図3(a)のC-C断面図である。(c)図3(a)のD-D断面図である。
図4】(a)本発明の一酸化炭素製造装置の他の一例を示す模式断面図である。(b)図4(a)のE-E断面図である。(c)図4(a)のF-F断面図である。
図5】参考例1~14で用いたモデルを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、1)一酸化炭素製造装置、及び、2)一酸化炭素の製造方法、に項分けして詳細に説明する。
【0014】
1)一酸化炭素製造装置
本発明の一酸化炭素製造装置は、反応室と、マイクロ波を発生させるマイクロ波発振器と、前記マイクロ波発振器で発生したマイクロ波を、前記反応室に導く導波路と、を有する。前記反応室は、マイクロ波プラズマを内壁面に沿って発生させる誘電体製の筒状容器と、前記誘電体製の筒状容器の外側に、前記誘電体製の筒状容器と接触しない状態で設けられた導電体製の筒状チャンバーと、前記誘電体製の筒状容器と前記導電体製の筒状チャンバーとの間の領域であって、1種又は2種以上の誘電体を含む筒状導波領域と、前記誘電体製の筒状容器内に二酸化炭素ガスを供給する二酸化炭素ガス供給口と、前記誘電体を含む筒状導波領域の側方に設けられたマイクロ波導入口とを有する。前記導波路は、アイソレータ及びインピーダンス整合器を有しない。
【0015】
本明細書において、誘電体とは、比誘電率が空気と同じかそれより大きいもの、すなわち、比誘電率が1以上の物質をいうものとする。
本明細書において、導電体とは、電気抵抗率が10Ω・m以下の物質をいうものとする。
【0016】
以下、本発明の一酸化炭素製造装置について、図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一酸化炭素製造装置の実施の形態の一例を示す図である。図1(a)は、一酸化炭素製造装置100の模式断面図であり、図1(b)は、図1(a)のA-A断面を上方から見た図である。
【0017】
一酸化炭素製造装置100は、反応室1と、マイクロ波を発生させるマイクロ波発振器2と、マイクロ波発振器2で発生したマイクロ波を、反応室1に導く導波路3と、を有する。反応室1は、マイクロ波プラズマを内壁面に沿って発生させる誘電体製の筒状容器4と、誘電体製の筒状容器4の外側に、誘電体製の筒状容器4と接触しない状態で設けられた導電体製の筒状チャンバー5と、誘電体製の筒状容器4と導電体製の筒状チャンバー5との間の領域であって、1種又は2種以上の誘電体を含む筒状導波領域6と、誘電体製の筒状容器4内に二酸化炭素ガスを供給する二酸化炭素ガス供給口7と、誘電体を含む筒状導波領域6の側方に設けられたマイクロ波導入口8とを有する。
また、一酸化炭素製造装置100の反応室1は、本発明の一酸化炭素製造装置の任意の構成要素である生成ガスの排出口9を有する。生成ガスの排出口9を利用して、反応後に生成したガスを反応室1外に取り出すことができる。生成ガスの排出口9の下流部には、通常、排気ポンプ(図示を省略)が接続される。この排気ポンプにより、誘電体製の筒状容器4の内部が減圧状態に保たれる。反応室1の上流端と下流端は、少なくとも誘電体製の筒状容器4の内部が減圧状態に保たれるように、耐圧材料により閉じられている。
導波路3は、アイソレータ及びインピーダンス整合器を有しない。このため、一酸化炭素製造装置の小型化、簡略化が達成される。
【0018】
反応室1を構成する誘電体製の筒状容器4は、内部が減圧状態に保たれ、二酸化炭素ガスが供給された状態でマイクロ波が照射されたときに、内壁面に沿ってマイクロ波プラズマを発生させるものである。
【0019】
誘電体製の筒状容器4は、プラズマに対する耐腐食性に優れたものが好ましい。
誘電体製の筒状容器4を構成する誘電体の比誘電率は、好ましくは3.0~10.0、より好ましくは3.0~5.0である。
誘電体製の筒状容器4を構成する誘電体としては、例えば、石英(比誘電率:3.9)、アルミナ(比誘電率:9.0)、窒化ホウ素(比誘電率:4)、窒化アルミニウム(比誘電率:8.5)等が挙げられる。
これらの中でも、プラズマを効率よく発生させることができることから、誘電体製の筒状容器4を構成する誘電体としては、石英が好ましい。
【0020】
マイクロ波プラズマは、誘電体製の筒状容器4の内壁面に沿って円筒状に発生する。したがって、誘電体製の筒状容器4内のある横断面に注目したときに、ドーナツ形状(円環形状)の空洞部分のように、誘電体製の筒状容器4内の中心部にマイクロ波プラズマが発生しない領域が生じる場合がある。マイクロ波プラズマが発生しない領域内の二酸化炭素分子は一酸化炭素分子に変換されないため、そのような領域の割合が高まると一酸化炭素の生成効率が低下する。
したがって、誘電体製の筒状容器4の内壁面付近だけでなく、誘電体製の筒状容器4内の中心部付近にもマイクロ波プラズマが発生するように、誘電体製の筒状容器4内の中心部までマイクロ波エネルギーを届かせることが好ましい。
【0021】
一方で、誘電体製の筒状容器4が極端に細い場合は、誘電体製の筒状容器4の内部全体にマイクロ波プラズマを発生させる量を遙かに超える量のマイクロ波エネルギーが反応室1に供給されることになるため、そのような誘電体製の筒状容器4を使用することは、エネルギー効率の観点から好ましくない。
【0022】
上記のように、一酸化炭素の生成効率の観点、及びエネルギー効率の観点から、誘電体製の筒状容器4の内径は、マイクロ波の波長の0.10~2.4倍の長さが好ましく、0.15~1.6倍の長さがより好ましく、0.20~1.0倍の長さがより好ましい。
【0023】
実施例(参考例1~7)で示すように、例えば、マイクロ波の周波数が2.4GHzの場合、マイクロ波の波長は125mmであるため、誘電体製の筒状容器4の内径は、好ましくは12~300mm、より好ましくは19~200mm、さらに好ましくは25~125mmである。
【0024】
同様の方法により、誘電体製の筒状容器4の好ましい長さ(図1(a)中、縦方向の長さ)も導かれる。
すなわち、誘電体製の筒状容器4の縦断面に注目すると、マイクロ波導入口8と同じ高さの地点が、マイクロ波プラズマの発生量が最大の地点であり、そこから上下に離れるにつれて、マイクロ波プラズマの発生量が低下する。
上部及び下部にマイクロ波プラズマがほとんど発生しないような空間を有する誘電体製の筒状容器4を使用することは、一酸化炭素製造装置100の小型化の観点から好ましくない。また、生成した一酸化炭素分子が、ラジカルや活性化された分子と衝突する機会が増えるため、他の分子に変わることにより、一酸化炭素の生成効率が低下するおそれがある。
【0025】
一方で、誘電体製の筒状容器4が極端に短い場合は、誘電体製の筒状容器4の内部全体にマイクロ波プラズマを発生させる量を遙かに超える量のマイクロ波エネルギーが反応室1に供給されることになるため、そのような誘電体製の筒状容器4を使用することは、エネルギー効率の観点から好ましくない。
【0026】
上記のように、一酸化炭素の生成効率の観点、及びエネルギー効率の観点から、誘電体製の筒状容器4の長さは、マイクロ波の波長の0.20~5.0倍の長さが好ましく、0.30~4.0倍の長さがより好ましく、0.50~3.0倍の長さがより好ましい。
【0027】
実施例(参考例8~14)で示すように、例えば、マイクロ波の周波数が2.4GHzの場合、マイクロ波の波長は125mmであるため、誘電体製の筒状容器4の長さは、好ましくは25~625mm、より好ましくは37~500mm、さらに好ましくは62~375mmである。
【0028】
誘電体製の筒状容器4の壁厚は、好ましくは2~100mm、より好ましくは2~50mmである。
【0029】
反応室1を構成する導電体製の筒状チャンバー5は、誘電体製の筒状容器4の外側に、誘電体製の筒状容器4と接触しない状態で設けられている。導電体製の筒状チャンバー5を有することで、マイクロ波を導電体製の筒状チャンバー5内に閉じ込めることができる。このため、マイクロ波プラズマを安全に、かつ、効率よく発生させることができる。
【0030】
マイクロ波を閉じ込めることができる限り、導電体製の筒状チャンバー5の素材は特に限定されない。導電体製の筒状チャンバー5の素材としては、例えば、ステンレス、銅、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。
【0031】
反応室1を構成する誘電体を含む筒状導波領域6は、誘電体製の筒状容器4と導電体製の筒状チャンバー5との間の領域である。この領域は、1種又は2種以上の誘電体を含むため、マイクロ波導入口8から導入されたマイクロ波は、誘電体を含む筒状導波領域6を伝って円筒状に拡散する。このため、一酸化炭素製造装置100においては、上記のようにマイクロ波プラズマは誘電体製の筒状容器4の内壁面に沿って円筒状に発生する。
【0032】
誘電体を含む筒状導波領域6に含まれる誘電体としては、マイカ(6~8)、アクリル樹脂(2.7~4.5)、ウレタン(6.5~7.1)、ガラス(3.7~10.0)、ガラス・エポキシ積層板(4.5~5.2)、三フッ化エチレン樹脂(2.4~2.5)、シリコン樹脂(3.5~5)、シリコンゴム(3.0~3.5)、スチレンブタジェンゴム(3.0~7.0)、石英ガラス(3.5~4.0)、スチレン樹脂(2.3~3.4)、四フッ化エチレン樹脂(2.0)、ナイロン(3.5~5.0)、ネオプレン(6.0~9.0)、パラフィン(1.9~2.5)、フッ素樹脂(4.0~8.0)、不飽和ポリエステル樹脂(2.8~5.2)、ポリアミド(2.5~2.6)、ポリエステル樹脂(2.8~8.1)、ポリエチレン(2.3~2.4)、ポリブチレン(2.2~2.3)、ポリプロピレン(2.0~2.3)、フェノール樹脂(3.0~12.0)、ポリアセタール樹脂(3.6~3.7)、ポリウレタン(5.0~5.3)、ポリエチレンテレフタレート(2.9~3.0)、ポリカーボネート(2.9~3.0)、ポリスチレン(2.4~2.6)、ポリスチロール(2.0~2.6)、ポリビニールアルコール(2.0)、ポリブチレン樹脂(2.25)、ポリプロピレン樹脂(2.2~2.6)、ポリメチルアクリレート(4.0)、メラミン樹脂(4.7~10.2)、メタクリル樹脂(2.2~3.2)、木材(2.0~6.0)、ワセリン(2.2~2.9)、空気(1.0)等が挙げられる。なお各誘電体の後に記載した括弧内の数値は比誘電率を示す。
【0033】
誘電体を含む筒状導波領域6は、誘電体を1種含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
誘電体を含む筒状導波領域6に含まれる誘電体の少なくとも1種は、誘電体製の筒状容器4を構成する誘電体の比誘電率とは異なる値の比誘電率を有するものであることが好ましい。
さらに、誘電体を含む筒状導波領域6に含まれる誘電体の少なくとも1種は、誘電体製の筒状容器4を構成する誘電体の比誘電率より高い値の比誘電率を有するものであることが好ましい。
誘電体を含む筒状導波領域6に含まれる誘電体の少なくとも1種が、誘電体製の筒状容器4を構成する誘電体の比誘電率より高い値の比誘電率を有することで、マイクロ波エネルギーをプラズマ発生により効率よく利用することができる。
同様の理由により、誘電体を含む筒状導波領域6に含まれる誘電体の少なくとも1種の比誘電率は、1.5以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましい。
【0034】
誘電体を含む筒状導波領域6の厚み(誘電体製の筒状容器4の外壁と導電体製の筒状チャンバー5の内壁との間の距離)は、好ましくは2~200mm、より好ましくは2~100mmである。
【0035】
反応室1を構成する二酸化炭素ガス供給口7は、誘電体製の筒状容器4内に二酸化炭素ガスを供給するために用いられる。
本発明の一酸化炭素製造装置は、二酸化炭素ガス供給口以外のガス供給口を有していてもよい。また二酸化炭素ガス供給口から、二酸化炭素ガスとその他のガスとを含む混合ガスを誘電体製の筒状容器内に供給してもよい。
【0036】
反応室1を構成するマイクロ波導入口8は、誘電体を含む筒状導波領域6の側方に設けられる。
一酸化炭素製造装置100を使用する際は、マイクロ波導入口8からマイクロ波が照射される。
一酸化炭素製造装置100は、上記のように誘電体を含む筒状導波領域6を有するため、マイクロ波は誘電体を含む筒状導波領域6を伝わり、誘電体製の筒状容器4の内壁面に沿ってマイクロ波プラズマが発生する。
【0037】
マイクロ波発振器2はマイクロ波を発生させる装置である。マイクロ波電源(図示を省略)の高電圧によって、マイクロ波発振器2は所定の高周波電磁波を励起発振する。マイクロ波発振器2としては、公知のものを適宜利用することができる。
【0038】
導波路3はマイクロ波発振器2で発生したマイクロ波を反応室1に導くものである。導波路3としては、矩形導波管が挙げられる。
【0039】
導波路3は、アイソレータ及びインピーダンス整合器を有しない。
一般に、マイクロ波プラズマ発生装置においては、発生した反射波が導波路を伝わってマイクロ波発振器に到達し、マイクロ波発振器が故障するのを避けるために、導波路には、反射波を吸収するアイソレータや反射波を抑制するインピーダンス整合器が設けられる。
特に、マイクロ波プラズマ発生装置の稼働前後(プラズマが発生していない状態からプラズマを発生させるとき)と、マイクロ波プラズマ発生装置の稼働中(プラズマ発生状態を維持するとき)では、プラズマ発生部のインピーダンスが大きく異なるため、導波路に設けたインピーダンス整合器を調整して、反射波を継続的に抑制する必要がある。
【0040】
一方、一酸化炭素製造装置100においては、マイクロ波は誘電体を含む筒状導波領域6内を拡散しながら誘電体製の筒状容器4内にマイクロ波プラズマを発生させるため、プラズマ発生部のインピーダンス変動がマイクロ波発振器に与える影響は、マイクロ波導入口から直接反応容器内にマイクロ波を照射するときに比べて小さい。
【0041】
さらに、一酸化炭素製造装置100を使用する場合、誘電体製の筒状容器4内にほぼ均一なマイクロ波プラズマを発生させることができるため、反応容器内に局所的にマイクロ波プラズマが発生するときに比べて、マイクロ波エネルギーをプラズマ発生に効率よく利用することができる。このため、マイクロ波エネルギーが十分に消費され、反射波が抑制される。
【0042】
このように、一酸化炭素製造装置100は誘電体を含む筒状導波領域6を有するため、一酸化炭素製造装置100の稼働時にマイクロ波発振器2を故障させるような反射波が発生し難い。このため、一酸化炭素製造装置100においては、マイクロ波発振器2で発生したマイクロ波を反応室1に導く導波路3として、アイソレータ及びインピーダンス整合器を有しないものを使用することができる。
【0043】
図2~4は、本発明の一酸化炭素製造装置の実施の形態の他の例を示す図である。以下においては、それぞれの一酸化炭素製造装置について説明するが、他の一酸化炭素製造装置と共通する事項は説明を省略する場合がある。
【0044】
図2(a)は、一酸化炭素製造装置200の模式断面図であり、図2(b)は、図2(a)のB-B断面を上方から見た図である。
【0045】
一酸化炭素製造装置200は、反応室10と、マイクロ波発振器11と、導波路12とを有する。反応室10は、誘電体製の筒状容器13と、導電体製の筒状チャンバー14と、1種又は2種以上の誘電体を含む筒状導波領域15と、二酸化炭素ガス供給口16と、マイクロ波導入口17とを有する。
一酸化炭素製造装置200は、反応室10の下流側に、ガス集積室18と排気ポンプ19を有する。反応室10とガス集積室18とは、隔壁20により区分けされている。
隔壁20の素材としては、導電体製の筒状チャンバー14の素材と同様のものが挙げられる。
【0046】
本発明の一酸化炭素製造装置は、一酸化炭素製造装置200のように、全体が導電体製の筒状チャンバーで覆われていてもよい。
【0047】
図3(a)は、一酸化炭素製造装置300の模式断面図である。図3(b)は、図3(a)のC-C断面を上方から見た図であり、図3(c)は、図3(a)のD-D断面を上方から見た図である。
【0048】
一酸化炭素製造装置300は、一酸化炭素製造装置200と同様、反応室とガス集積室とを有し、かつ、全体が導電体製の筒状チャンバーで覆われている。しかしながら、以下に説明するように、導電体製の筒状チャンバー内に誘電体製の筒状容器が2本収容されている点で、一酸化炭素製造装置300は一酸化炭素製造装置200とは異なる。
【0049】
一酸化炭素製造装置300は、反応室21と、マイクロ波発振器22と、導波路23とを有する。反応室21は、誘電体製の筒状容器24、25と、導電体製の筒状チャンバー26と、1種又は2種以上の誘電体を含む筒状導波領域27と、二酸化炭素ガス供給口28、29と、マイクロ波導入口30とを有する。
一酸化炭素製造装置300は、反応室21の下流側に、ガス集積室31と排気ポンプ32を有する。反応室21とガス集積室31とは、隔壁33により区分けされている。
【0050】
一酸化炭素製造装置300においては、誘電体製の筒状容器24、25と導電体製の筒状チャンバー26間の最短距離(誘電体を含む筒状導波領域27の最も薄い部分)は、好ましくは2~200mm、より好ましくは2~100mmである。
【0051】
一酸化炭素製造装置300のように、本発明の一酸化炭素製造装置は、誘電体製の筒状容器の数が1、導電体製の筒状チャンバーの数が1、マイクロ波導入口の数が1のものに限られない。
例えば、誘電体製の筒状容器の数をaで表し、導電体製の筒状チャンバーの数をbで表し、マイクロ波導入口の数をcで表したときに、一酸化炭素製造装置300は、aが2、bが1、cが1である。
このように、本発明の一酸化炭素製造装置の一例として、a≧2、b=1、及び、a≧cのものが挙げられる。このような一酸化炭素製造装置においては、誘電体製の筒状容器の内壁面の表面積を広くすることができるため、マイクロ波エネルギーをプラズマ発生により効率よく利用することができる。
【0052】
bの値(導電体製の筒状チャンバーの数)が1のときのaの値(誘電体製の筒状容器の数)は、好ましくは2~10、より好ましくは2~5である。
【0053】
一酸化炭素製造装置300のように、誘電体製の筒状容器を複数有する一酸化炭素製造装置においては、複数の誘電体製の筒状容器の下流側にガス集積室を設けることで、生成したガスから一酸化炭素を効率よく分離することができる。
【0054】
図4(a)は、一酸化炭素製造装置400の模式断面図である。図4(b)は、図4(a)のE-E断面を上方から見た図であり、図4(c)は、図4(a)のF-F断面を上方から見た図である。
【0055】
一酸化炭素製造装置400は、一酸化炭素製造装置300と同様、誘電体製の筒状容器を2つ有する。しかしながら、以下に説明するように、誘電体製の筒状容器がそれぞれ異なる反応室を構成している点で、一酸化炭素製造装置400は一酸化炭素製造装置300とは異なる。
【0056】
一酸化炭素製造装置400は、反応室34、35と、マイクロ波発振器36、37と、導波路38、39とを有する。反応室34、35は、それぞれ、誘電体製の筒状容器40、41と、導電体製の筒状チャンバー42、43と、1種又は2種以上の誘電体を含む筒状導波領域44、45と、二酸化炭素ガス供給口46、47と、マイクロ波導入口48、49とを有する。
一酸化炭素製造装置400は、反応室34、35の下流側に、ガス集積室50と排気ポンプ51を有する。
ガス集積室50は、ガス集積容器52の内部空間である。ガス集積容器52の素材としては、導電体製の筒状チャンバー42、43の素材と同様のものが挙げられる。
【0057】
2)一酸化炭素の製造方法
本発明の一酸化炭素の製造方法は、本発明の一酸化炭素製造装置を用いて、一酸化炭素を製造する方法であって、誘電体製の筒状容器内に二酸化炭素ガスを供給しながらマイクロ波導入口からマイクロ波を照射して、誘電体製の筒状容器内にマイクロ波プラズマを発生させるステップを有するものである。
【0058】
二酸化炭素ガスは、二酸化炭素ガス供給口から、誘電体製の筒状容器内に供給される。
二酸化炭素ガスの供給量は、通常0.1~100,000sccm、好ましくは1~10,000sccm、より好ましくは10~1,000sccmである。
【0059】
本発明の一酸化炭素の製造方法においては、二酸化炭素ガス以外のガス成分を誘電体製の筒状容器内に供給してもよい。
二酸化炭素ガス以外のガス成分は、二酸化炭素ガス供給口とは別のガス供給口から誘電体製の筒状容器内に供給してもよいし、二酸化炭素ガスと混合した状態で、二酸化炭素ガス供給口から誘電体製の筒状容器内に供給してもよい。
【0060】
二酸化炭素ガス以外のガス成分としては、水素ガスが挙げられる。
水素ガスを誘電体製の筒状容器内に供給する場合、水素ガスの供給量は、二酸化炭素ガスに対して体積基準で、通常0.001~2倍、好ましくは0.01~1倍、より好ましくは0.1~0.6倍である。
水素ガスの供給量が上記範囲内であることで、一酸化炭素の生成効率が向上する。
【0061】
本発明の一酸化炭素の製造方法においては、通常、誘電体製の筒状容器内は減圧状態に保たれている。
誘電体製の筒状容器の内部の圧力は、通常0.01~1,000Pa、好ましくは0.1~200Pa、より好ましくは1~50Paである。
【0062】
上記の減圧状態を保つための排気ポンプの排気能力は、通常0.1~100,000m/h、好ましくは1~10,000m/h、より好ましくは100~1,000m/hである。
【0063】
使用するマイクロ波は、通常、周波数が2.4~2.5GHzであり、照射出力が、通常50~3,000W、好ましくは100~2,000W、より好ましくは200~1,000Wである。
【0064】
前記マイクロ波プラズマを発生させるステップは、二酸化炭素を一酸化炭素に還元する還元触媒の存在下で行われてもよい。還元触媒の存在下でマイクロ波プラズマを発生させることで、一酸化炭素の生成効率が向上する場合がある。
【0065】
還元触媒としては、周期表第4周期以降の金属元素を1種又は2種以上を含有するものが挙げられる。
周期表第4周期以降の金属元素としては、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、タンタル、タングステン、白金、金、ガドリニウム等が挙げられる。
【0066】
還元触媒の形状は特に限定されない。
還元触媒の形状としては、粒子状、繊維状、板状、箔状等が挙げられる。
【0067】
本発明の一酸化炭素の製造方法は、さらに、反応後のガスから一酸化炭素を分離するステップを有するものであってもよい。
反応後のガスからの一酸化炭素の分離は、例えば、多孔性材料に一酸化炭素を吸着させることにより行うことができる。
【実施例0068】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0069】
〔実施例1〕
内径194mm、外径200mm、及び軸方向長さ158mmの石英管(比誘電率:3.9)と、内径214mm、外径220mm、及び軸方向長さ158mmの石英管に雲母を厚さ3mmで巻き付けて得られた外径226mmの2層管と、内径236mm、軸方向長さ158mmのステンレス製の筒状のチャンバー(一部にマイクロ波導入口用の開口部を有する)とを同心状に配置し、上部と下部とをステンレス板で覆った。次いで、最内部の石英管内にガスを供給するためのガス供給口と、最内部の石英管からガスを排出するためのガス排出口を設けて、反応室を製造した。
この反応室に、導波路(アイソレータ及びインピーダンス整合器を有しない)と、マイクロ波発振器とを接続し、一酸化炭素製造装置を得た。
【0070】
一酸化炭素製造装置の反応室内の圧力が12Paの状態で、反応室内にCOを5SCCMの流量で供給しながら、排出ガスの成分をマススペクトルメータで調べた。
反応室にマイクロ波を印加する前は、排出ガス中のCO/COの値は0だったが、反応室に500Wのマイクロ波を印加したところ、排出ガス中のCO/COの値は7.1になった。
【0071】
〔実施例2~8〕
実施例1において、反応室内に供給するCOとHの量を第1表に記載したものに変更したことを除き、実施例1と同様にして反応室にマイクロ波を印加して一酸化炭素の製造を行った。排出ガス中のCO/COの値を第1表に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
〔比較例1〕
内径80mm、外径100mm及び軸方向長さ100mmの石英(比誘電率:3.9)からなる筒状の容器と、内径100mm、外径200mm及び軸方向長さ100mmのステンレス製の筒状のチャンバーとを同心状に配置し、上部と下部とをステンレス板で覆って構成したマイクロ波プラズマ発生装置のモデルを作製した。このモデルを用いて、OpenFDTD(株式会社EEM製)により、石英製の筒状容器内の最大プラズマ強度を求めた。
【0074】
〔実施例9〕
内径80mm、外径100mm及び軸方向長さ100mmの石英(比誘電率:3.9)からなる筒状の容器と、内径180mm、外径200mm及び軸方向長さ100mmのステンレス製の筒状のチャンバーとを同心状に配置し、上部と下部とをステンレス板で覆って構成したマイクロ波プラズマ発生装置のモデルを作製した。このモデルを用いて、比較例1と同様の方法により、石英製の筒状容器内の最大プラズマ強度を求めた。比較例1における最大プラズマ強度との差を第2表に示す。
【0075】
〔実施例10~16〕
実施例9で作製したモデルにおいて、石英製の筒状容器とステンレス製の筒状チャンバーの間の各領域(中心から100~120mmの範囲の領域〔領域1〕、中心から120~140mmの範囲の領域〔領域2〕、中心から140~160mmの範囲の領域〔領域3〕、中心から160~180mmの範囲の領域〔領域4〕)に、第2表に示す誘電体を配置して、実施例10~16のマイクロ波プラズマ発生装置のモデルを作製した。これらのモデルを用いて、比較例1と同様の方法により、石英製の筒状容器内の最大プラズマ強度を求めた。比較例1における最大プラズマ強度との差を第2表に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
〔参考例1~7、参考例8~14〕
本発明の一酸化炭素製造装置においては、マイクロ波プラズマは誘電体製の筒状容器の内壁面に沿って発生する。
このため、誘電体製の筒状容器の内径や長さによっては、マイクロ波プラズマが十分に発生しない空間が生じたり、必要以上のエネルギーを誘電体製の筒状容器内に供給することになったりするおそれがある。
このため、2.4GHzのマイクロ波を使用する場合に適する石英管の形状について検討した。参考例1~7は、石英管の内径の違いが、一酸化炭素の生成効率やエネルギー効率に与える影響を示すものであり、参考例8~14は、石英管の長さの違いが、一酸化炭素の生成効率やエネルギー効率に与える影響を示すものである。
【0078】
参考例1~7では、図6(a)に示すモデルを用いて検討した。図6(a)は、内径D(図6(a)中の53)を有する石英管54の横断面図である。マイクロ波プラズマは、石英管54の内壁55から中心に向かって一定の距離56(以下、この距離を「有効厚」と記載する)の範囲の領域57(以下、この領域を「有効電界領域」と記載する)で発生する。
有効厚は、プラズマの観察から経験的に(マイクロ波の波長)×0.2により算出される。2.4GHzのマイクロ波の波長は125mmであるため、今回の検討における有効厚は25mmである。
【0079】
次いで、「(有効電界領域の断面積)/(石英管内の断面積)」により、有効電界領域比率を求めた。有効電界領域比率は、石英管内の横断面に注目したときに、マイクロ波プラズマが十分に発生し、反応に使用される領域の割合を表すものである。なお、有効電界領域の断面積が石英管内の断面積を超える場合、その有効電界領域比率は1とした。
結果を第3表に示す。
【0080】
次いで、「{(半径が有効厚の値の円の直径)-(石英管の内径)}/(半径が有効厚の値の円の直径)」により、非有効割合1を求めた。非有効割合1は、石英管の横断面に注目したときに、マイクロ波エネルギーが本来有するプラズマ発生能力が十分に発揮されているかを表す指標である。
すなわち、その横断面の半径が有効厚の値の円筒状の反応管は、マイクロ波エネルギーを無駄に使用することなく、その横断面内の全ての領域でマイクロ波プラズマを発生させることができる理想的な反応管であるため、この理想的な反応管と使用する石英管とを対比することで、その石英管が、マイクロ波エネルギーが本来有するプラズマ発生能力を十分に発揮させ得るものなのかを判断することができる。
石英管の内径が、半径が有効厚の値の円の直径と等しいとき、その石英管は、理想的な反応管であり、非有効割合1の値は0である。
一方、非有効割合1の値が大きいときは、マイクロ波エネルギーが無駄に使用されている状態を表し、エネルギー効率が悪い。
なお、石英管内の内径が、半径が有効厚の値の円の直径を超える場合、その非有効割合1は0とした。
結果を第3表に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
参考例8~14では、図6(b)に示すモデルを用いて検討した。図6(b)は、長さL(図6(b)中の58)を有する石英管54の縦断面図である。マイクロ波プラズマは、マイクロ波導入口の高さ59を中心に上下方向の一定の距離60(以下、この距離を「有効長」と記載する)の範囲の領域61で発生する。
有効長は、プラズマの観察から経験的に(マイクロ波の波長)/2により算出される。2.4GHzのマイクロ波の波長は125mmであるため、今回の検討における有効厚は62.5mmである。
【0083】
次いで、「(有効長)/(石英管の長さ)」により、有効強度比率を求めた。有効強度比率は、石英管内の縦断面に注目したときに、マイクロ波プラズマが十分に発生し、反応に使用される領域の割合を表すものである。なお、有効長が石英管の長さを超える場合、その有効強度比率は1とした。
結果を第4表に示す。
【0084】
次いで、「{(有効長)-(石英管の長さ)}/(有効長)」により、非有効割合2を求めた。非有効割合2は、石英管の縦断面に注目したときに、マイクロ波エネルギーが本来有するプラズマ発生能力が十分に発揮されているかを表す指標である。
すなわち、長さが有効長と一致する反応管は、マイクロ波エネルギーを無駄に使用することなく、その縦断面内の全ての領域でマイクロ波プラズマを発生させることができる理想的な反応管であるため、この理想的な反応管と使用する石英管とを対比することで、その石英管が、マイクロ波エネルギーが本来有するプラズマ発生能力を十分に発揮させ得るものなのかを判断することができる。
石英管の長さが有効長と等しいとき、その石英管は、理想的な反応管であり、非有効割合2の値は0である。
一方、非有効割合2の値が大きいときは、マイクロ波エネルギーが無駄に使用されている状態を表し、エネルギー効率が悪い。
なお、石英管の長さが有効長を超える場合、その非有効割合2は0とした。
結果を第4表に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
参考例1~14の結果から、誘電体製の筒状容器の大きさ等が、一酸化炭素の生成効率やエネルギー効率に与える影響が分かる。
またこの結果は、照射したマイクロ波のエネルギーを十分に消費し、反射波を効率よく抑制するために利用することもできる。
【符号の説明】
【0087】
1、10、21、34、35・・・反応室
2、11、22、36、37・・・マイクロ波発振器
3、12、23、38、39・・・導波路
4、13、24、25、40、41・・・誘電体製の筒状容器
5、14、26、42、43・・・導電体製の筒状チャンバー
6、15、27、44、45・・・誘電体を含む筒状導波領域
7、16、28、29、46、47・・・二酸化炭素ガス供給口
8、17、30、48、49・・・マイクロ波導入口
9・・・生成ガスの排出口
18、31、50・・・ガス集積室
19、32、51・・・排気ポンプ
20、33・・・隔壁
52・・・ガス集積用容器
53・・・石英管の内径D
54・・・石英管
55・・・石英管の内壁
56・・・有効厚
57・・・有効電界領域
58・・・石英管の長さL
59・・・マイクロ波導入口の高さ
60・・・有効長
61・・・マイクロ波導入口の高さと有効長で規定される領域
100、200、300、400・・・一酸化炭素製造装置
図1
図2
図3
図4
図5