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特開2025-1798樹脂組成物、ペレット、および、成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001798
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ペレット、および、成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20241226BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20241226BHJP
   C08L 23/26 20250101ALI20241226BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K7/06
C08L23/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101487
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岡元 章人
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB202
4J002BN062
4J002CL031
4J002DA016
4J002FA066
4J002FA116
4J002FD206
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GR00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】 機械的強度に優れ、かつ、耐加水分解性に優れ、さらに、ミリ波吸収性に優れた樹脂組成物、ならびに、ペレット、および、成形品の提供。
【解決手段】 ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂と、カーボンナノチューブと、変性基を有するポリオレフィンを含み、前記カーボンナノチューブと変性基を有するポリオレフィンの合計量がキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対して0.5~1.6質量部である、樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂と、
カーボンナノチューブと、
変性基を有するポリオレフィンを含み、
前記カーボンナノチューブと変性基を有するポリオレフィンの合計量がキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対して0.5~1.6質量部である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記変性基は、エチレン性不飽和結合を有する基、酸基、アミノ基、イソシアネート基、および、エポキシ基の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性基は、ビニルアリール基を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィンは、エチレン-プロピレン共重合体を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記変性基を有するポリオレフィンの含有量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対し、1~200質量部である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物から形成された100×100×2mm厚の射出成形品に成形し、
Sパラメータ法により、フリースペース測定装置を用いて測定される、76.5GHzの周波数における、前記射出成形品の流動方向(MD)に垂直な方向(TD)に測定した吸収率が65%以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物から形成された100×100×2mm厚の射出成形品に成形し、
Sパラメータ法により、フリースペース測定装置を用いて測定される、76.5GHzの周波数における前記射出成形品の流動方向(MD)の吸収率と、前記射出成形品の流動方向(MD)に垂直な方向(TD)の前記吸収率の差が10%以下である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
マスターバッチ由来の成分の含有量が樹脂組成物の0.1質量%未満である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記変性基は、ビニルアリール基を含み、
前記ポリオレフィンは、エチレン-プロピレン共重合体を含み、
前記変性基を有するポリオレフィンの含有量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対し、1~200質量部であり、
前記樹脂組成物から形成された100×100×2mm厚の射出成形品に成形し、
Sパラメータ法により、フリースペース測定装置を用いて測定される、76.5GHzの周波数における吸収率が前記射出成形品の流動方向(MD)に垂直な方向(TD)に測定した吸収率が65%以上であり、
マスターバッチ由来の成分の含有量が樹脂組成物の0.1質量%未満である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
ミリ波レーダ用部材である、請求項1、2または9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1、2または9に記載の樹脂組成物のペレット。
【請求項12】
請求項1、2または9に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項13】
請求項11に記載のペレットから形成された成形品。
【請求項14】
ミリ波レーダ用部材である、請求項12に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ペレット、および、成形品に関する。特に、ポリアミド樹脂を主要成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は成形加工が容易なことから電気・電子機器部品、自動車部品、医療用部品、食品容器などの幅広い分野で使用されている。特に自動車分野では、機能性を付与させたものとして、電磁波吸収用途を目的とする成形品が流通している。
【0003】
ラジオ、テレビ、無線通信などの通信機器からは電磁波が放射されているが、これに加え、最近の情報技術の進展により急増した携帯電話、パソコンなどの電子機器からも電磁波は放射されている。従来、電子機器、通信機器などの電磁波による誤作動を回避するための一手法として、効率よく電磁波を吸収し、吸収した電磁波を熱エネルギーに変換するという電磁波吸収体を電磁波発生部位近傍または遠方に設置することが行われている。
【0004】
電磁波発生部位より遠方に電磁波吸収体を設置して用いられる例としては、高速道路の自動料金収受システム(ETC)用途が挙げられる。ETCは、高速道路の料金所出口を自動車が通過する際に、料金所に備えられた路側機アンテナと車載器側アンテナとの間で周波数5.8GHzのマイクロ波を使用して課金情報等を交換するシステムである。このETCシステムが導入された料金所では、アンテナから放射されたマイクロ波が料金所屋根等にあたって反射され、隣接するETCレーンから不要な電磁波が漏洩する等の理由により、通信に異常を引き起こすことがある。そこで料金所屋根やETCレーンの間に電磁波吸収体を設置することによって、通信異常を抑制することが行われている。
【0005】
また、近年では自動車分野において、車両の自動運転や衝突防止を目的としてミリ波レーダが利用されており、多くの場合はミリ波レーダ装置が自動車の内部に取り付けられている。
ミリ波とは電磁波のうち、波長が1~10mm、周波数30~300GHzの電磁波であり、現在では車載レーダや空港等で防犯チェックとして衣服の下を透視する全身スキャナー、列車のワンマン運転時において、プラットホーム上の監視カメラの映像伝送等にも使用されている。ミリ波レーダ装置は、ミリ波を飛ばして跳ね返ってくる波を受信し、障害物を認識できる装置であり、検出可能距離が大きいことや、太陽光、雨、霧による阻害を受けにくいこと等から、今日では自動車等の自動運転技術などに利用されている。
自動車のセンサーの場合、ミリ波レーダ装置は、アンテナからミリ波を送受信して、障害物との相対距離や相対速度等を検出することができる。
【0006】
これらミリ波レーダ装置の送受信アンテナは、目的とする障害物以外の路面などに反射したものも受信することがあり、装置の検出精度が低下してしまう場合がある。このような問題を解決するため、ミリ波レーダ装置では、アンテナと制御回路との間に電磁波を遮蔽する遮蔽部材として、電磁波吸収体を設けている。
【0007】
このような電磁波吸収体を構成するミリ波帯域の電磁波吸収材料としては、例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂(A)と、所定のカーボンナノチューブ(B)を含む電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2022-168934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、上記のような電磁波吸収体を構成するミリ波帯域の電磁波吸収材料に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂などが好ましく用いられている。ポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂を用いた材料は、ミリ波吸収性には優れているが、ポリオレフィン樹脂は機械的強度に劣り、ポリエステル樹脂は耐加水分解性に劣るといった問題がある。これは、ポリオレフィン樹脂が、本来的に機械的強度が高い訳ではなく、ポリエステル樹脂は本来的に耐加水分解性が高い訳ではないことに基づく。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、機械的強度に優れ、かつ、耐加水分解性に優れ、さらに、ミリ波吸収性に優れた樹脂組成物、ならびに、ペレット、および、成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、熱可塑性樹脂として、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を選択し、さらに、カーボンナノチューブと共に、変性基を有するポリオレフィンを配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂と、
カーボンナノチューブと、
変性基を有するポリオレフィンを含み、
前記カーボンナノチューブと変性基を有するポリオレフィンの合計量がキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対して0.5~1.6質量部である、
樹脂組成物。
<2>前記変性基は、エチレン性不飽和結合を有する基、酸基、アミノ基、イソシアネート基、および、エポキシ基の少なくとも1種を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記変性基は、ビニルアリール基を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記ポリオレフィンは、エチレン-プロピレン共重合体を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記変性基を有するポリオレフィンの含有量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対し、1~200質量部である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記樹脂組成物から形成された100×100×2mm厚の射出成形品に成形し、
Sパラメータ法により、フリースペース測定装置を用いて測定される、76.5GHzの周波数における、前記射出成形品の流動方向(MD)に垂直な方向(TD)に測定した吸収率が65%以上である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記樹脂組成物から形成された100×100×2mm厚の射出成形品に成形し、
Sパラメータ法により、フリースペース測定装置を用いて測定される、76.5GHzの周波数における前記射出成形品の流動方向(MD)の吸収率と、前記射出成形品の流動方向(MD)に垂直な方向(TD)の前記吸収率の差が10%以下である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>マスターバッチ由来の成分の含有量が樹脂組成物の0.1質量%未満である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記変性基は、ビニルアリール基を含み、
前記ポリオレフィンは、エチレン-プロピレン共重合体を含み、
前記変性基を有するポリオレフィンの含有量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対し、1~200質量部であり、
前記樹脂組成物から形成された100×100×2mm厚の射出成形品に成形し、
Sパラメータ法により、フリースペース測定装置を用いて測定される、76.5GHzの周波数における吸収率が前記射出成形品の流動方向(MD)に垂直な方向(TD)に測定した吸収率が65%以上であり、
マスターバッチ由来の成分の含有量が樹脂組成物の0.1質量%未満である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>ミリ波レーダ用部材である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物のペレット。
<12><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<13><11>に記載のペレットから形成された成形品。
<14>ミリ波レーダ用部材である、<12>に記載の成形品。
【発明の効果】
【0011】
機械的強度に優れ、かつ、耐加水分解性に優れ、さらに、ミリ波吸収性に優れた樹脂組成物、ならびに、ペレット、および、成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0013】
本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、特に述べない限り、以下の方法で測定した値とする。
数平均分子量(Mn)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求める。カラムとしては、充填剤として、スチレン系ポリマーを充填したものを2本用い、溶媒にはトリフルオロ酢酸ナトリウム濃度2mmol/Lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、樹脂濃度0.02質量%、カラム温度は40℃、流速0.3mL/分、屈折率検出器(RI)にて測定する。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定する。
【0014】
本明細書において、融点(Tm)は、特に述べない限り、示差走査熱量測定(DSC)に従い、ISO11357に準拠して、測定した値とする。示差走査熱量計を用い、樹脂を示差走査熱量計の測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で融点を超える温度まで昇温し、急冷する前処理を行った後に測定を行う。測定条件は、昇温速度10℃/分で、280℃で5分保持した後、降温速度-5℃/分で100℃まで測定を行い、融点(Tm)を求める。
示差走査熱量計としては、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC-60」を用いる。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2023年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0015】
本実施形態の樹脂組成物は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂と、カーボンナノチューブと、変性基を有するポリオレフィンを含み、カーボンナノチューブと変性基を有するポリオレフィンの合計量がキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対して0.5~1.6質量部であることを特徴とする。このような構成とすることにより、機械的強度に優れ、かつ、耐加水分解性に優れ、さらに、ミリ波吸収性に優れた樹脂組成物が得られる。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、耐加水分解性に優れるが、ミリ波吸収性については、必ずしも高い樹脂ではない。そこで、ミリ波吸収性を高くすることが求められる。ここで、本発明者が検討したところ、カーボンナノチューブを熱可塑性樹脂でマスターバッチ化して配合するとミリ波吸収性が劣ることが分かった。また、カーボンナノチューブをマスターバッチ化せずにそのまま配合すると、ナノレベルの粒子が空気中に煙のように拡散するため、健康に著しく害を与える可能性がある。そのため、厳重な防塵対策を必要とし、作業性、生産性に欠ける。かかる状況のもと、本発明者が検討を行った結果、カーボンナノチューブと共に変性基を有するポリオレフィンを配合することにより、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いたにもかかわらず、高いミリ波吸収性を達成できる点で価値が高い。また、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が本来的に有する優れた機械的強度や耐加水分解性も維持できる。
以下、本発明の詳細について説明する。
【0016】
<キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含む。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含むことにより、機械的強度や耐加水分解性に優れた成形品が得られる。
【0017】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上、特に一層好ましくは99モル%以上が、キシリレンジアミン(好ましくはパラキシリレンジアミンおよび/またはメタキシリレンジアミン)に由来する。
【0018】
キシリレンジアミンは、パラキシリレンジアミンおよび/またはメタキシリレンジアミンが好ましく、少なくともパラキシリレンジアミンを含むことがより好ましい。前記キシリレンジアミンが0~100モル%のメタキシリレンジアミンと、100~0モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含むことが好ましく、0~90モル%のメタキシリレンジアミンと、100~10モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがより好ましく、10~90モル%のメタキシリレンジアミンと、90~10モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがさらに好ましく、20~90モル%のメタキシリレンジアミンと、80~10モル%のパラキシリレンジアミンを含むことが一層好ましく、50~90モル%のメタキシリレンジアミンと、10~50モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがより一層好ましく、50~80モル%のメタキシリレンジアミンと、50~20モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがさらに一層好ましい。
【0019】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、パラキシリレンジアミン由来の構成単位とメタキシリレンジアミン由来の構成単位の合計が、ジアミン由来の構成単位の好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、一層好ましくは95モル%以上、より一層好ましくは98モル%以上、さらに一層好ましくは99モル%以上を占めることが好ましい。前記パラキシリレンジアミン由来の構成単位とメタキシリレンジアミン由来の構成単位の合計の上限は100モル%である。
【0020】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0021】
一方、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂におけるジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上、特に一層好ましくは99モル%以上が、好ましくは炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくは炭素数4~14のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸)であることが好ましい。より具体的には、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂におけるジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくはアジピン酸、セバシン酸および1,12-ドデカン二酸の少なくとも1種、より好ましくはアジピン酸および/またはセバシン酸に由来する。
【0022】
上記以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0023】
なお、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましく、99質量%以上を占めることが一層好ましい。
【0024】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、バイオマス原料を用いて製造されたポリアミド樹脂(バイオマスポリアミド樹脂)を用いることも好ましい。バイオマスポリアミド樹脂を用いることにより、環境負荷の低減を図ることができる。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂において、バイオマス原料としては、バイオアジピン酸を用いることができる。また、マスバランス認証(ISCC PLUS)されたアジピン酸を用いることもできる。マスバランス認証とは、工場や生産設備ごとに再生可能な原料やバイオ原料がどの程度使用され、どの程度製品が生産や出荷されたかを定量化し、品質と合わせて保証されたものであることを意味する。
【0025】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の融点は、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、また、350℃以下であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましく、300℃であることがさらに好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の融点は、DSC(示差走査熱量測定)法により観測される昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度である。測定には、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC-60」を用い、試料量は約5mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めることができる。
【0026】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)の下限が、6,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、また、35,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、25,000以下がさらに好ましく、20,000以下が一層好ましい。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物100質量%中、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、60質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。また、本実施形態の樹脂組成物におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物中、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂とガラス繊維の合計が樹脂組成物の95質量%以上を占めることが好ましく、96質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましい。前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂とガラス繊維の合計の上限は、樹脂組成物の100質量%を占める場合である。
【0029】
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
他のポリアミド樹脂は、その種類を特に定めるものではなく、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよい。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド666、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12等が例示される。
半芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の20~80モル%(好ましくは30~80モル%、より好ましくは40~70モル%)が芳香環を含む構成単位であることが好ましい。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる樹脂成形品の機械的強度を高くすることができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、テレフタル酸系ポリアミド樹脂(ポリアミド6T、ポリアミド6I/6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T)などが例示される。
また、上記の他、特開2022-139048号公報の段落0012~0031に記載のポリアミド樹脂も用いることができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物がキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外の他のポリアミド樹脂を含む場合、その含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、また、10質量部以下であることが好ましい。
【0031】
<カーボンナノチューブ>
本実施形態で用いるカーボンナノチューブ(ナノスケールカーボンチューブ)は、ナノサイズ(1nm~1000nm)の直径を有するカーボンチューブであればよく、公知のカーボンナノチューブを用いることができる。カーボンナノチューブのチューブ内空間部には鉄等の金属が内包されていてもよいが、内空間部には金属等が内包されていない中空構造であることが好ましい。
【0032】
カーボンナノチューブとしては、単層または多層カーボンナノチューブが好ましく、多層カーボンナノチューブがさらに好ましい。
また、前記カーボンナノチューブは炭化鉄および/または鉄を含んでいてもよい。カーボンナノチューブが炭化鉄および/または鉄を含む場合、カーボンナノチューブのチューブ内空間部に炭化鉄および/または鉄を含が充填されていることが好ましい。
【0033】
単層または多層カーボンナノチューブは、黒鉛シート(すなわち、黒鉛構造の炭素原子面またはグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノサイズであり、壁構造は黒鉛構造を有している。このような構造を有するカーボンナノチューブのうち、壁構造が一枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じた構造を有するカーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブと称され、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になった構造を有するカーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブ(入れ子構造の多層カーボンナノチューブ)と称される。
【0034】
単層カーボンナノチューブのサイズは、直径(任意の100個の数平均直径)が0.4nm以上であることが好ましく、0.7nm以上であることがより好ましく、また、5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。
単層カーボンナノチューブの長さ(任意の100個の数平均長さ)は、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましく、20μm以上であることが一層好ましく、また、500μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが一層好ましい。
【0035】
多層カーボンナノチューブのサイズは、直径(任意の100個の数平均直径)が1nm以上であることが好ましく、5nm以上あることがより好ましく、また、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。
多層カーボンナノチューブの長さ(任意の100個の数平均長さ)は、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましく、20μm以上であることが一層好ましく、また、500μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが一層好ましい。
【0036】
多層カーボンナノチューブの嵩密度(タッピング法)は、0.03g/mL以上であることが好ましく、0.05g/mL以上であることがより好ましく、0.06g/mL以上であることがさらに好ましく、また、0.2g/mL以下であることが好ましく、0.15g/mL以下であることがより好ましく、0.14g/mL以下であることがさらに好ましい。
【0037】
<変性基を有するポリオレフィン>
本実施形態の樹脂組成物は、変性基を有するポリオレフィンを含む。変性基を有するポリオレフィンを含むことにより、変性基がカーボンナノチューブと作用し、カーボンナノチューブを樹脂組成物中で分散しやすくすることができる。
変性基は、カーボンナノチューブと作用(好ましくは化学結合)するものであれば、特に定めるものではないが、エチレン性不飽和結合を有する基、酸基、アミノ基、イソシアネート基、および、エポキシ基の少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレン性不飽和結合を有する基を含むことがより好ましく、ビニルアリール基を含むことがさらに好ましく、ビニルフェニル基および/またはビニルナフチル基を含むことが一層好ましく、ビニルフェニル基を含むことがより一層好ましい。
変性基はポリオレフィンの側鎖・末端等に結合しているものであることが好ましい。
【0038】
変性基を有するポリオレフィンを構成するポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-スチレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体が例示され、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体が好ましく、エチレン-プロピレン共重合体がより好ましい。
【0039】
変性基を有するポリオレフィンを構成するポリオレフィンは、低分子量ポリオレフィンであることが好ましく、数平均分子量が10000以下であることがより好ましく、数平均分子量が8000以下であることがさらに好ましい。また、数平均分子量の下限は1000以上であることが好ましい。このような範囲とすることにより、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂中でカーボンナノチューブを良好に分散させることができる。
また、本実施形態で用いる変性基を有するポリオレフィンは、20℃において固体状であることが好ましい。すなわち、本実施形態で用いる変性基を有するポリオレフィンには、変性基を有するポリオレフィンワックスが含まれる。
【0040】
変性基を有するポリオレフィンとしては、市販品を用いることもでき、例えば、三井化学株式会社製ハイワックス(登録商標)1120H、1160H、1105A、2203A等が挙げられる。
【0041】
本実施形態で用いるカーボンナノチューブは、その表面の少なくとも一部が変性基を有するポリオレフィンで被覆されていることが好ましい。カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部に、変性基を有するポリオレフィンが接触していることとなり、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂中でのカーボンナノチューブの分散性がより一層向上する。本明細書において、カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部が変性基を有するポリオレフィンで被覆されたものを「複合体」とも示す。このような複合体とすることにより、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いたにもかかわらず、より高いミリ波吸収性を達成できる。複合体の形状の一例は、顆粒状、粒状である。
【0042】
本実施形態で用いる複合体において、カーボンナノチューブの表面(チューブ内の内壁を除く外表面)に対して、変性基を有するポリオレフィンで被覆されている面積の割合(被覆率)の好ましい範囲としては、順に、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、80%以上、90%以上であり、全面被覆されていることが最も好ましい。被覆率を上記範囲とすることにより、熱可塑性樹脂中での固体添加剤の分散性がより一層向上する。なお、本明細書において、上記被覆率は、SEM写真画像における、カーボンナノチューブ100個の表面を観察して算出することにより測定することができる。
【0043】
本実施形態で用いる複合体において、変性基を有するポリオレフィンで形成された被膜の平均厚みは1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましく、また、10000nm以下がより好ましく、800nm以下がさらに好ましく、500nm以下が一層好ましい。被膜の平均厚みが上記範囲であると、カーボンナノチューブを樹脂組成物中でより一層均一に分散させることができる。
前記複合体の被膜の厚みは、SEM写真に基づいて、所定領域におけるカーボンナノチューブ100個の被膜の厚みを観察して算出する方法により測定できる。
本実施形態における複合体は、その90質量%以上がカーボンナノチューブと、変性基を有するポリオレフィンから構成されていることが好ましい。
【0044】
前記複合体は、公知の方法によって製造することができる。例えば、特開2022-153943号公報の段落0048~0058の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物は、変性基を有するポリオレフィンを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、カーボンナノチューブを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物においては、前記変性基を有するポリオレフィンの含有量は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、また、200質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることがさらに好ましく、100質量部以下であることが一層好ましく、50質量部以下であることがより一層好ましく、30質量部以下であることがさらに一層好ましく、20質量部以下であることが特に一層好ましい。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物におけるカーボンナノチューブと変性基を有するポリオレフィンの合計量(好ましくは複合体の含有量)は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上であり、0.6質量部以上であることが好ましく、0.8質量部以上であることがより好ましく、0.9質量部以上であることがさらに好ましく、1.1質量部以上であることが一層好ましく、1.3質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ミリ波の吸収率を向上させることができる。さらに、射出成形品のMDとTDのミリ波吸収率の差を小さくできる傾向にある。また、前記カーボンナノチューブと変性基を有するポリオレフィンの合計量の上限値は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、1.6質量部以下であり、1.5質量部以下であることが好ましい。前記上限値以下とすることにより、ミリ波の吸収率を向上させることができる。
【0048】
<核剤>
本実施形態の樹脂組成物は、核剤を含んでいてもよい。
核剤は、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となり得るものであれば、特に限定されないが、中でもタルクおよび炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。
核剤の数平均粒子径は、下限値が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。核剤の数平均粒子径は、上限値が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、28μm以下であることが一層好ましく、15μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることがさらに一層好ましい。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物における核剤の割合は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、0.5質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、核剤を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0050】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、ケトンワックス、脂肪酸アミドなどが挙げられ、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、脂肪酸アミドが好ましく、脂肪族カルボン酸の塩および脂肪酸アミドがより好ましく、脂肪酸アミドがさらに好ましい。
離型剤の詳細は、特開2018-095706号公報の段落0055~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態の樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、0.05~3質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがより好ましく、0.2~0.8質量%であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0051】
<ガラス繊維>
本実施形態の樹脂組成物は、ガラス繊維を含むことが好ましい。ガラス繊維を前記割合で含むことにより、得られる成形品について高い機械的強度を達成できる。
本実施形態の樹脂組成物で用いる含有され得るガラス繊維は、カップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いることがより好ましい。表面処理剤が付着したガラス繊維は、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒートショック性に優れるので好ましい。
【0052】
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Sガラス、Rガラス、Mガラス、Dガラスなどのガラス組成からなり、特に、Eガラス(無アルカリガラス)が好ましい。
【0053】
本実施形態の樹脂組成物に用いるガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や単繊維を複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取った「ガラスロービング」、長さ1~10mmに切りそろえた「チョップドストランド」、長さ10~500μmに粉砕した「ミルドファイバー」などのいずれであってもよい。かかるガラス繊維としては、旭ファイバーグラス社より、「グラスロンチョップドストランド」や「グラスロンミルドファイバー」の、日本電気硝子社製より、「Eガラスファイバーチョップドストランド」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
【0054】
また、本実施形態で用いるガラス繊維は、断面が円形であっても、非円形であってもよい。断面が非円形であるガラス繊維を用いることにより、得られる成形品の反りをより効果的に抑制することができる。また、本実施形態では、断面が円形であるガラス繊維を用いても、金型温度が低くても結晶化が十分に進行するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いることで反りを効果的に抑制することができる。
【0055】
本実施形態の樹脂組成物におけるガラス繊維の含有量は、樹脂組成物中、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、また、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、さらには、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、ガラス繊維を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となる。なお、本実施形態におけるガラス繊維の含有量には、集束剤および表面処理剤の量を含める趣旨である。
【0056】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような添加剤としては、難燃剤、難燃助剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
なお、本実施形態の樹脂組成物は、各成分の合計が100質量%となるように、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、カーボンナノチューブ、変性基を有するポリオレフィン、ならびに、必要に応じ配合される他の成分の含有量等が調整される。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、カーボンナノチューブ、変性基を有するポリオレフィン、ならびに、核剤、離型剤、ガラス繊維、合計が樹脂組成物の99質量%以上を占める態様が例示される。
【0057】
<ミリ波吸収性>
本実施形態の樹脂組成物は、ミリ波の吸収性が高いことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物から形成された100×100×2mm厚の射出成形品に成形し、Sパラメータ法により、フリースペース測定装置を用いて測定される、76.5GHzの周波数における、前記射出成形品の流動方向(MD)に垂直な方向(TD)に測定した吸収率が65%以上であることが好ましい。前記TDの吸収率の上限は100%が好ましいが、99%以下であっても十分に要求性能を満たす。
【0058】
本実施形態の樹脂組成物は、ミリ波吸収率異方性が小さいことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物から形成された100×100×2mm厚の射出成形品に成形し、Sパラメータ法により、フリースペース測定装置を用いて測定される、76.5GHzの周波数における前記射出成形品の流動方向(MD)の吸収率と、前記射出成形品の流動方向(MD)に垂直な方向(TD)の前記吸収率の差が15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、8%以下であることが一層好ましい。前記吸収率の差の下限値は、0%が好ましいが、0.1%以上であっても十分に要求性能を満たす。
【0059】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態において、樹脂組成物の製造方法は、特に定めるものではなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。具体的には、各成分を、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機、ニーダーなどで溶融混練することによって樹脂組成物を製造することができる。本実施形態では、2軸押出機を用いて溶融混練することが好ましい。
【0060】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、樹脂組成物を製造することもできる。
さらに、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって、ペレットを製造することもできる。
しかしながら、本実施形態の樹脂組成物は、マスターバッチ由来の成分を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、樹脂組成物中のマスターバッチ由来の成分の含有量が0.1質量%未満であることをいい、0.01質量%未満であることが好ましく、0.001質量%未満であることがより好ましい。
マスターバッチとしては、例えば、上記特許文献1(特開2022-168934号公報)の段落0047に記載のような、カーボンナノチューブを熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド樹脂)で希釈したマスターバッチが例示される。この場合、マスターバッチ由来の成分は、カーボンナノチューブおよびカーボンナノチューブの希釈に用いた熱可塑性樹脂を意味する。
【0061】
<成形品>
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物ないしペレットから形成される。
本実施形態の成形品の製造方法は、特に定めるものではない。一例として、射出成形により成形した射出成形品が例示される。
例えば、本実施形態の成形品は、各成分を溶融混練した後、直接に各種成形法で成形してもよいし、各成分を溶融混練してペレット化した後、再度、溶融して、各種成形法で成形してもよい。
【0062】
樹脂組成物ないしペレットから成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0063】
本実施形態の成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
【0064】
<用途>
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。本実施形態の樹脂組成物は、ミリ波レーダ用部材であることが好ましく、少なくとも周波数60~90GHzのミリ波レーダ用部材であることがより好ましく、少なくとも周波数70~80GHzのミリ波レーダ用部材であることがさらに好ましい。このようなミリ波レーダ用部材は、ミリ波レーダ用の筐体、カバー、ドローン、反射防止体等に用いられる。
本実施形態のミリ波レーダ用部材は、さらには、ブレーキ自動制御装置、車間距離制御装置、歩行者事故低減ステアリング装置、誤発信抑制制御装置、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、接近車両注意喚起装置、車線維持支援装置、被追突防止警報装置、駐車支援装置、車両周辺障害物注意喚起装置などに用いられる車載用ミリ波レーダ;ホーム監視/踏切障害物検知装置、電車内コンテンツ伝送装置、路面電車/鉄道衝突防止装置、滑走路内異物検知装置などに用いられる鉄道・航空用ミリ波レーダ;交差点監視装置、エレベータ監視装置などの交通インフラ向けミリ波レーダ;各種セキュリティ装置向けミリ波レーダ;子供、高齢者見守りシステムなどの医療・介護用ミリ波レーダ;各種情報コンテンツ伝送用ミリ波レーダ;等に好適に利用することができる。
【実施例0065】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0066】
1.原料
下記表1に示した原料を用いた。
【0067】
【表1】
【0068】
<<合成例1 MP10の合成(M/Pモル比=7:3)>>
セバシン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を撹拌しながら、パラキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とメタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)のモル比が3:7の混合ジアミンを、加圧(0.35MPa)下でジアミンとセバシン酸とのモル比が約1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を235℃まで上昇させた。滴下終了後、60分間反応を継続し、分子量1,000以下の成分量を調整した。反応終了後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化し、ポリアミド樹脂(MP10)を得た。
【0069】
<<合成例2 MP6の合成(M/Pモル比=7:3)>>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下装置および窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、アジピン酸7220g(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
これにメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比が7/3である混合キシリレンジアミン6647g(48.8mol%、三菱ガス化学社製)を、撹拌しつつ滴下し、生成する縮合水を系外に除きながら、内温を連続的に2.5時間かけて260℃まで昇温した。滴下終了後、内温を上昇させ、270℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて280℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、ペレット化することにより、ポリアミド樹脂(MP6)を得た。
融点を測定したところ、256℃であった。
【0070】
2.実施例1~4、比較例1~23
<コンパウンド>
下記表2~7に示す組成となるように(表2~7の各成分は質量部表記である)、ガラス繊維以外の成分をそれぞれ秤量し、ドライブレンドした後、二軸押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入した。また、ガラス繊維については振動式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-V-1B-MP)を用いて押出機のサイドから上述の二軸押出機に投入し、樹脂成分等と溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。メインのポリアミド樹脂としてMP10を用いたものの押出機の設定温度は280℃、メインのポリアミド樹脂としてM6用いたものの押出機の設定温度も280℃とした。
【0071】
<ミリ波吸収率>
ミリ波吸収率を測定するための試験片は以下の通り製造した。
射出成形機NEX80IIIを用い、MP10を用いたものがシリンダ温度260℃、金型表面温度110℃、MP6を用いたものがシリンダ温度280℃、金型表面温度130℃にて成形した。試験片は100×100×2mmのものを成形した。
【0072】
上記で得られた試験片を用い、Sパラメータ法にて、フリースペース装置を用い、周波数76.5GHzにおける、TDおよびMDの吸収率を測定した。単位は%で示した。
結果を下記表2~7に示した。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】
上記表3~7における樹脂成分に対するCNTの濃度とは、樹脂組成物に含まれる樹脂成分(キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、マスターバッチ化のための樹脂)カーボンナノチューブの合計を100質量%としたときの、カーボンナノチューブの量である。
上記結果から明らかなとおり、本実施形態の樹脂組成物のミリ波吸収率は高かった。一方、カーボンナノチューブの量が少なすぎる場合や多すぎる場合(比較例1~4)、カーボンナノチューブのマスターバッチを用いた場合(比較例5~23)、ミリ波吸収率が低かった。
特に、カーボンブラックのマスターバッチの場合、配合量に関係なく、吸収率が低かった。