(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001801
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】キャップトレッドゴム
(51)【国際特許分類】
B60C 1/00 20060101AFI20241226BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20241226BHJP
B60C 19/08 20060101ALI20241226BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241226BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241226BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20241226BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20241226BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20241226BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20241226BHJP
C08K 5/31 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B60C1/00 A
B60C11/00 B
B60C19/08
B60C11/00 C
C08K3/04
C08K3/36
C08L7/00
C08L9/00
C08L21/00
C08L91/00
C08K5/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101492
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】川角 智子
(72)【発明者】
【氏名】相武 慶介
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131BA01
3D131BA09
3D131BA12
3D131BA18
3D131BB03
3D131BC01
3D131BC02
3D131BC33
3D131BC35
3D131BC45
3D131BC47
3D131EA01Z
3D131EA02U
3D131EA04Z
4J002AC001
4J002AC011
4J002AC021
4J002AC061
4J002AE052
4J002DA036
4J002DE146
4J002DE236
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002ER027
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD022
4J002FD030
4J002FD140
4J002FD157
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】複数のゴムで構成されたキャップトレッドゴムにおいて、各ゴムの物性に基づく効果を発揮しながら、これらゴム間のクラック発生を抑制し、且つ、耐摩耗性能および低燃費性能を改善することを可能にしたキャップトレッドゴムを提供する。
【解決手段】第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムからなるキャップトレッドゴムにおいて、第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムがそれぞれタイヤ周方向に連続して延在するようにタイヤ接地面を構成し、第一トレッドゴムを、イソプレン系ゴムを60質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対して、シリカを40質量%以上含有する充填剤50質量部~70質量部を配合して構成し、第二トレッドゴムを、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック40質量部以上を配合して構成し、且つ未加硫の押出物の状態における発泡率が6%以下であるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムからなるキャップトレッドゴムであって、
前記第一トレッドゴムおよび前記第二トレッドゴムはそれぞれタイヤ周方向に連続して延在するようにタイヤ接地面を構成し、
前記第一トレッドゴムは、イソプレン系ゴムを60質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対して、シリカを40質量%以上含有する充填剤50質量部~70質量部を配合してなり、
前記第二トレッドゴムは、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラック40質量部以上を配合してなり、且つ未加硫の押出物の状態における発泡率が6%以下であることを特徴とするキャップトレッドゴム。
【請求項2】
前記第一トレッドゴムが加硫促進剤としてグアニジン系加硫促進剤を含有し、前記グアニジン系加硫促進剤の配合量が前記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1質量部以上であることを特徴とする請求項1に記載のキャップトレッドゴム。
【請求項3】
前記第一トレッドゴムにおける前記シリカの配合量が前記ジエン系ゴム100質量部に対して50質量部以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のキャップトレッドゴム。
【請求項4】
前記第二トレッドゴムの硬度が62以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のキャップトレッドゴム。
【請求項5】
前記第二トレッドゴムがプロセスオイルを含有し、前記プロセスオイルの配合量が前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のキャップトレッドゴム。
【請求項6】
請求項1または2に記載のキャップトレッドゴムをキャップトレッド層に用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項7】
前記第二トレッドゴムが前記第一トレッドゴムのタイヤ幅方向の一部に局所的に配置され、タイヤ子午線断面における前記第二トレッドゴムの断面積が前記キャップトレッド層の断面積の0.1%~3%であることを特徴とする請求項6に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として重荷重タイヤのトレッド部を構成するキャップトレッドゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバス等の車両に使用されるタイヤ(重荷重タイヤ)は、乗用車用タイヤに比べてタイヤに負荷される荷重が大きいため、耐摩耗性能に優れることが重要視される。その一方で、地球環境問題への関心の高まりに伴い、重荷重用タイヤにおいても環境規制が厳しくなっており、低燃費性能の更なる改善が求められている。そのため、例えば特許文献1は、天然ゴムを主体とするゴム成分にシリカを配合し、且つ、特定のシランカップリング剤を配合することでシリカの分散を良好にして、耐摩耗性能に加えて低燃費性能を改善することを提案している。
【0003】
一方で、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドゴムの一部を物性の異なる他のゴムに置き換えて、他のゴムの物性に基づくタイヤ性能を付加することが試みられている。例えば特許文献2は、キャップトレッドのタイヤ幅方向の一部に、キャップトレッドを貫通してタイヤ接地面に露出する導電ゴムからなる所謂アーストレッドが設けられている。このようなアーストレッドを備えたタイヤは、車両走行時に車両に発生する静電気を、ベルト層からアーストレッドを介して路面に放出し、車両の帯電を抑制することができる。
【0004】
しかしながら、上述のようにキャップトレッドゴムの一部を物性の異なる他のゴムに置き換える場合、キャップトレッドゴムの主要部を構成するゴムと他のゴムとの間の接着性が確保できないと、これらゴムの界面にクラックが発生して外観異常が生じやすくなったり、タイヤの耐久性が低下する虞がある。そのため、前述の重荷重タイヤにおいてキャップトレッドゴムの一部を物性の異なる他のゴム(例えばアーストレッド)に置き換えながら、重荷重タイヤに求められる優れた耐摩耗性能を確保することは困難であった。従って、複数のゴムで構成されたキャップトレッドゴムにおいて、各ゴムの物性に基づく効果を発揮しながら、これらゴム間のクラック発生を抑制し、且つ、耐摩耗性能および低燃費性能を改善するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019‐056068号公報
【特許文献2】特開2019‐018725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、複数のゴムで構成されたキャップトレッドゴムにおいて、各ゴムの物性に基づく効果を発揮しながら、これらゴム間のクラック発生を抑制し、且つ、耐摩耗性能および低燃費性能を改善することを可能にしたキャップトレッドゴムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のキャップトレッドゴムは、第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムからなるキャップトレッドゴムであって、前記第一トレッドゴムおよび前記第二トレッドゴムはそれぞれタイヤ周方向に連続して延在するようにタイヤ接地面を構成し、前記第一トレッドゴムは、イソプレン系ゴムを60質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対して、シリカを40質量%以上含有する充填剤50質量部~70質量部を配合してなり、前記第二トレッドゴムは、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック40質量部以上を配合してなり、且つ未加硫の押出物の状態における発泡率が6%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のキャップトレッドゴムは、上述のように第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムで構成され、これら第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムが上述の配合および物性を有するため、第一トレッドゴムによる優れた耐摩耗性および低燃費性を確保しながら、第二トレッドゴムによる帯電抑制効果を発揮し、且つ、これら第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムの界面におけるクラック発生を抑制し、タイヤの外観異常を防止することができる。
【0009】
本発明のキャップトレッドゴムにおいては、第一トレッドゴムが加硫促進剤としてグアニジン系加硫促進剤を含有し、グアニジン系加硫促進剤の配合量がジエン系ゴム100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましい。このように第一トレッドゴムが特定の加硫促進剤を十分に含むことで、耐摩耗性と低燃費性能を改善するには有利になる。
【0010】
本発明のキャップトレッドゴムにおいては、第一トレッドゴムにおけるシリカの配合量がジエン系ゴム100質量部に対して50質量部以上であることが好ましい。このように第一トレッドゴムがシリカを十分に含むことで、低燃費性能の更なる改善を図ることができる。
【0011】
本発明のキャップトレッドゴムにおいては、第二トレッドゴムの硬度が62以上であることが好ましい。このように第二トレッドゴムが適度の硬度を有することで、耐摩耗性を向上するには有利になる。
【0012】
本発明のキャップトレッドゴムにおいては、第二トレッドゴムがプロセスオイルを含有し、プロセスオイルの配合量がゴム成分100質量部に対して10質量部以上であることが好ましい。このように第二トレッドゴムがプロセスオイルを十分に含むことで、第二トレッドゴムの接着性を向上し、タイヤ耐久性を向上するには有利になる。
【0013】
本発明のキャップトレッドゴムは、タイヤのキャップトレッド層に用いることができる。本発明のキャップトレッドゴムをキャップトレッド層に用いたタイヤは、第一トレッドゴムによる優れた耐摩耗性および低燃費性を確保しながら、第二トレッドゴムによる帯電抑制効果を発揮し、且つ、これら第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムの界面におけるクラック発生を抑制し、タイヤの外観異常を防止することができる。尚、本発明のキャップトレッドゴムを適用するタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましいが、非空気式タイヤであってもよい。空気入りタイヤの場合は、その内部に空気、窒素等の不活性ガスまたはその他の気体を充填することができる。
【0014】
このとき、前記第二トレッドゴムが第一トレッドゴムのタイヤ幅方向の一部に局所的に配置され、タイヤ子午線断面における第二トレッドゴムの断面積がキャップトレッド層の断面積の0.1%~3%であることが好ましい。これによりタイヤにおいて第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムがバランスよく配置され、第一トレッドゴムによる低燃費性能、第二トレッドゴムによる帯電抑制効果を高度に両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のキャップトレッドゴムが用いられるタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明のキャップトレッドゴムが用いられるタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0018】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8(ベルト層7の全幅を覆うフルカバー8aとベルト層7の端部を局所的に覆うエッジカバー8bの2層)が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0019】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層11が配され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層12が配され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層13が配されている。トレッドゴム層11は、物性の異なる2種類のゴム層(トレッド部1の踏面を構成するキャップトレッド層11Cと、その内周側に配置されたアンダートレッド層11U)をタイヤ径方向に積層した構造を有する。
【0020】
本発明のキャップトレッドゴムは、上述のキャップトレッド層11Cに用いられるものである。そのため、本発明が適用されるタイヤは、トレッド部1(トレッドゴム層11)がキャップトレッド層11Cとアンダートレッド層11Uとで構成されていれば、他の部位の基本構造は上述の構造に限定されるものではない。
【0021】
本発明のキャップトレッドゴムは、第一トレッドゴムC1および第二トレッドゴムC2で構成される。これら第一トレッドゴムC1および第二トレッドゴムC2はそれぞれタイヤ周方向に連続して延在するようにタイヤ接地面を構成している。
図1では、第一トレッドゴムC1がキャップトレッド層11Cの主要部を構成し、第二トレッドゴムC2(図中の斜線部)が第一トレッドゴムC1のタイヤ幅方向の一部に局所的に配置されている。特に、第二トレッドゴムC2が所謂アーストレッドとして機能するゴムである場合、第二トレッドゴムC2は、静電気を路面に放出する経路を考慮して、キャップトレッド層11Cを貫通してトレッド表面からベルト層7やベルト補強層8に至るように設けるとよい。
【0022】
本発明の第一トレッドゴムは、上述のようにキャップトレッド層11Cの主要部を構成するものであり、ゴム成分はジエン系ゴムであり、イソプレン系ゴムを必ず含む。また、任意でブタジエンゴムやスチレンブタジエンゴムを含んでいてもよい。
【0023】
第一トレッドゴムに用いられるイソプレン系ゴムとしては、各種天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、各種合成ポリイソプレンゴムを挙げることができる。イソプレン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。イソプレン系ゴムの含有量は、ジエン系ゴム全体を100質量%としたとき、60質量%以上、好ましくは65質量%~80質量%である。このように特定の量のイソプレン系ゴムを含有することで、耐摩耗性と低燃費性のバランスを良好にすることができる。イソプレン系ゴムの含有量が60質量%未満であると耐チッピング性が悪化する。
【0024】
第一トレッドゴムにおいては、シリカを含む充填剤が必ず配合される。第一トレッドゴムが充填剤としてシリカを含有することで、低燃費性能を改善するには有利になる。充填剤は、上述のようにシリカを必ず含むが、他の充填剤を配合することもできる。他の充填材として、例えば、カーボンブラック、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムを挙げることができる。なかでもカーボンブラックを好適に用いることができる。これら他の充填剤は単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0025】
第一トレッドゴムに用いられる充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、50質量部~70質量部、好ましくは55質量部~70質量部である。充填剤の配合量が50質量部未満であると、耐摩耗性が低下する。充填剤の配合量が70質量部を超えると、発熱性や加工性が低下する。
【0026】
第一トレッドゴムに用いられる充填剤に必ず含まれるシリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるものを使用することができる。例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0027】
第一トレッドゴムに用いられる充填剤中のシリカの含有量は、充填剤全体を100質量%としたとき、40質量%以上、好ましくは45質量%~99質量%である。シリカの含有量が40質量%未満であると、低燃費性能を改善する効果が限定的になる。また、シリカ単体としての配合量は、第一トレッドゴムを構成するジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、であるとよい。このように第一トレッドゴムがシリカを十分に含むことで、低燃費性能の更なる改善を図ることができる。シリカの配合量が20質量部未満であると、低燃費性能を改善する効果が限定的になる。
【0028】
第一トレッドゴムで使用されるシリカのCTAB吸着比表面積は特に限定されるものではないが、好ましくは120m2/g以上、より好ましくは140m2/g~230m2/g、さらに好ましくは140m2/g~175m2/gである。シリカのCTAB吸着比表面積が120m2/g以上未満であると、耐摩耗性および低転がり抵抗性を改良する効果が十分に得られない虞がある。本明細書において、シリカのCTAB吸着比表面積は、ISO 5794により測定された値とする。
【0029】
第一トレッドゴムにおいては、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤を配合することにより、ゴム成分に対するシリカの分散性を向上し、耐摩耗性および低燃費性能をバランスよく改善することができる。
【0030】
シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。
【0031】
第一トレッドゴムにシランカップリング剤を配合する場合、その配合量は特に限定されないが、前述のシリカの配合量に対して好ましくは1質量%~20質量%、より好ましくは5質量%~15質量%であるとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の1質量%未満であるとシリカの分散を十分に改良することができない。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の20質量%を超えるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の引張強度を得ることができない。
【0032】
第一トレッドゴムに用いられる充填剤は、上述のようにシリカを必ず含むが、更にカーボンブラック(後述の第二トレッドゴムに配合されるカーボンブラックと区別するために「第一のカーボンブラック」ということがある)を含むことが好ましい。第一のカーボンブラックを併用する場合、その窒素吸着比表面積N2SAは、好ましくは65m2/g以上、より好ましくは65m2/g~120m2/g、さらに好ましくは65m2/g~100m2/gであるとよい。このように適度な粒径のカーボンブラックを併用することで耐摩耗性を改善するには有利になる。第一のカーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAが65m2/g未満であると耐摩耗性を改善する効果が十分に見込めなくなる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAは、JIS K6217‐2に準拠して測定するものとする。
【0033】
第一のカーボンブラックを併用する場合、その配合量は、第一トレッドゴムに用いられる充填剤全体を100質量%としたとき、好ましくは1質量%~55質量%、より好ましくは5質量%~50質量%であるとよい。第一のカーボンブラックの配合量が1質量%未満であるとゴムを黒色化することができない。第一のカーボンブラックの配合量が55質量%を超えると低燃費性が低下する虞がある。
【0034】
第一トレッドゴムにおいては、加硫促進剤としてグアニジン系加硫促進剤を配合することが好ましい。グアニジン系加硫促進剤としては、例えばジフェニルグアニジン、ジ(o‐トリル)グアニジン、o‐トリルビギアニド等を例示することができる。グアニジン系加硫促進剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.4質量部~1.5質量部であるとよい。このように第一トレッドゴムが特定の加硫促進剤を十分に含むことで、耐摩耗性と低燃費性能を改善するには有利になる。グアニジン系加硫促進剤の配合量が0.1質量部未満であると、適切な加硫速度を確保することが難しくなる。
【0035】
第二トレッドゴムは、上述の第一トレッドゴムと共にタイヤ接地面を形成するものであるが、キャップトレッドゴムの主要部を構成する第一トレッドゴムとは異なり、キャップトレッドゴムに特定の機能(例えば帯電抑制効果)を付加するために、タイヤ幅方向の一部に部分的に設けられるものである。このような第二トレッドゴムにおいて、ゴム成分の種類は特に限定されず、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるジエン系ゴムを使用することができる。これらのジエン系ゴムは末端変性されたゴムであってもよい。これらジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。第二トレッドゴムを構成するゴム成分は、第二トレッドゴムによって付加する機能に応じて適宜選択するとよく、本発明の場合、上述の各種ゴムのなかでも天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム等を好適に用いることができる。
【0036】
第二トレッドゴムにおいては、充填剤としてカーボンブラック(前述の第一トレッドゴムに配合されるカーボンブラックと区別するために「第二のカーボンブラック」ということがある)が必ず配合される。このようにカーボンブラックを配合することで、耐摩耗性を向上することができる。第二のカーボンブラックの配合量は、第二トレッドゴムを構成するゴム成分に対して、40質量部以上、好ましくは45~65質量部である。第二のカーボンブラックの配合量が40質量部未満であると耐摩耗性が低下する。
【0037】
第二トレッドゴムは、充填剤としてシリカを含んでいてもよい。但し、第二トレッドゴムがシリカを含む場合、その配合量は、前述のゴム成分に対して好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。シリカの配合量が15質量部を超えると帯電抑制効果が低下する。
【0038】
第二トレッドゴムには、上述のカーボンブラックやシリカの他に、他の充填剤を配合することもできる。他の充填材として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムを挙げることができる。これら他の充填剤は単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0039】
第二トレッドゴムに用いられるカーボンブラックの種類は特に限定されないが、窒素吸着比表面積N2SAが、好ましくは65m2/g以上、より好ましくは65m2/g~120m2/g、さらに好ましくは65m2/g~100m2/gであるとよい。このように適度な粒径のカーボンブラックを用いることで耐摩耗性を改善するには有利になる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAが65m2/g未満であると耐摩耗性を改善する効果が十分に見込めなくなる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAは、JIS K6217‐2に準拠して測定するものとする。
【0040】
第二トレッドゴムには、プロセスオイルを配合することが好ましい。プロセスオイルを配合することで、第二トレッドゴムの第一トレッドゴムに対する接着性を向上し、タイヤ耐久性を向上するには有利になる。プロセスオイルの配合量は、第二トレッドゴムを構成するゴム成分100質量部に対して10質量部以上、好ましくは15質量部~35質量部であるとよい。プロセスオイルの配合量が10質量部未満であると前述の接着性を改善する効果が十分に見込めなくなる。
【0041】
第二トレッドゴムは、未加硫の押出物の状態における発泡率が6%以下、好ましくは1%~5%である。このような発泡率を有することで、第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムの界面におけるクラック発生を抑制し、タイヤの外観異常を防止することができる。未加硫の押出物の状態における発泡率が6%を超えると、ゴム間のクラック発生率が上昇し、外観異常の発生率が上昇する。未加硫の押出物の状態における発泡率は、上述の配合において例えば可塑剤成分の配合量、カーボンブラックの種類や配合量を調整することで設定することができる。尚、未加硫の押出物の状態における発泡率は、キャップトレッドゴム(未加硫の押出物の状態)から第二トレッドゴムを切り出して試料とし、この試料の比重d1を測定し、更に、この試料に0.6MPaの圧力を30秒間かけた後の比重d2を測定し、これら加圧前後の比重d1およびd2を用いて下記式(1)から算出した変化率〔単位:%〕である。
(d2-d1)/d1×100 ・・・(1)
【0042】
第二トレッドゴムは、更に、硬度が好ましくは62以上、より好ましくは62~68であるとよい。第二トレッドゴムが適度な硬度を有することで、キャップトレッド全体の耐摩耗性を向上するには有利なる。硬度が62未満であると、耐摩耗性が低下する。第二トレッドゴムの硬度は、上述の配合において例えばカーボンブラックの配合量を調整することで設定することができる。尚、第二トレッドゴムの硬度は、JIS K6253に準拠して、デュロメータのタイプAにより温度20℃で測定した値である。
【0043】
第二トレッドゴムは、タイヤにおいては前述のようにキャップトレッド層の一部に局所的に設けられる。その際、タイヤ子午線断面における第二トレッドゴムの断面積はキャップトレッド層の断面積の好ましくは0.1%~3%、より好ましくは0.5%~2%に設定するとよい。これによりタイヤ(キャップトレッド層)において第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムがバランスよく配置され、第一トレッドゴムによる低燃費性能と、第二トレッドゴムにより付加される効果(例えば帯電抑制効果)とを高度に両立することができる。
【0044】
本発明のキャップトレッドゴムは、前述のようにタイヤのキャップトレッド層11Cに用いることができる。本発明のキャップトレッドゴムをキャップトレッド層に用いたタイヤは、第一トレッドゴムによる優れた耐摩耗性および低燃費性を確保しながら、第二トレッドゴムによる帯電抑制効果を発揮し、且つ、これら第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムの界面におけるクラック発生を抑制し、タイヤの外観異常の発生を防止することができる。
【0045】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0046】
表1に示す配合および物性からなる第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムからなるキャップトレッドゴム(標準例1、比較例1~6、実施例1~7)を押出成形し、これらキャップトレッドゴムで構成されたキャップトレッド層を備え、
図1に示す基本構造を有する試験タイヤ(タイヤサイズ:11R22.5)空気入りタイヤを製作した。
【0047】
尚、表1において、第二トレッドゴムの発泡率は、キャップトレッドゴム(未加硫の押出物の状態)から第二トレッドゴムを切り出して試料とし、この試料の比重d1を測定し、更に、この試料に0.6MPaの圧力を30秒間かけた後の比重d2を測定し、これら加圧前後の比重d1およびd2を用いて前述の式(1)により算出した変化率〔単位:%〕である。第二トレッドゴムの硬度は、JIS K6253に準拠して、デュロメータのタイプAにより温度20℃で測定した。第二トレッドゴムの断面積の比率は、
図1に示す子午線断面におけるキャップトレッド層の断面積に対する第二トレッドゴムの断面積の割合である。
【0048】
各試験タイヤを使用して、以下に示す方法で、耐クラック性、低燃費性能、耐摩耗性、帯電抑制効果の有無の評価を行った。
【0049】
耐クラック性
各試験タイヤをリムサイズ22.5×9.0のホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして試験車両に装着し、乾燥路面を5万km走行した後の第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムの界面に発生したクラックの数を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、標準例1を100とする指数で示した。この指数値が大きいほどクラック数が少なく耐クラック性に優れることを意味する。
【0050】
低燃費性能
各試験タイヤをリムサイズ22.5×9.0のホイールに組み付けて、ドラム径1707[mm]のドラム試験機を用いて、ISO28580に準拠し、荷重28.76[kN]、空気圧900[kPa]、速度60[km/h]の条件にて試験タイヤの転がり抵抗係数の逆数を算出した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、標準例1を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が低く、低燃費性能に優れることを意味する。
【0051】
耐摩耗性
各キャップトレッドゴムについて、JIS K6264に準拠して、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を使用して、温度20℃、荷重39N、スリップ率30%、時間4分の条件で摩耗量を測定した。得られた結果は、測定値の逆数を用いて、標準例を100にする指数で示した。この指数が大きいほど摩耗量が小さく、耐摩耗性に優れることを意味する。
【0052】
帯電抑制効果の有無
各キャップトレッドゴムについて、JIS K6911に準拠して電気抵抗値を測定した。評価結果は、電気抵抗値が108Ω未満の場合を帯電抑制効果が「有」、電気抵抗値が108Ω以上の場合を帯電抑制効果が「無」として示した。
【0053】
【0054】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
[第一トレッドゴム]
・NR:天然ゴム、RSS No.3
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol 1502
・CB:カーボンブラック、キャボットジャパン社製 ショウブラックN339(窒素吸着比表面積N2SA:90m2/g)
・シリカ:Solvay社製 Zeosil 1165MP(CTAB吸着比表面積:156m2/g)
・シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグッサジャパン社製 Si69、
・酸化亜鉛:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・ワックス:大内新興化学社製サンノック
・ステアリン酸:日油社製 ステアリン酸YR
・老化防止剤:Solutia Europe社製 Santoflex 6PPD
・加硫促進剤1:スルフェンアミド系加硫促進剤、大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ‐G
・加硫促進剤2:グアニジン系加硫促進剤、三新化学工業社製 サンセラー D
・硫黄:軽井沢精錬所社製 油処理イオウ
【0055】
[第二トレッドゴム]
・NR:天然ゴム、RSS No.3
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol 1502
・CB:カーボンブラック、キャボットジャパン社製 ショウブラックN339(窒素吸着比表面積N2SA:90m2/g)
・プロセスオイル:シェルルブリカンツジャパン株式会社 エキストラクト4号S
・酸化亜鉛:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・ワックス:大内新興化学社製サンノック
・ステアリン酸:日油社製 ステアリン酸YR
・老化防止剤:Solutia Europe社製 Santoflex 6PPD
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ‐G
・硫黄:軽井沢精錬所社製 油処理イオウ
【0056】
表1から明らかなように、実施例1~7は、標準例1に対して、耐クラック性、低燃費性能、耐摩耗性を向上しながら、更に帯電抑制効果を付加することができた。
【0057】
一方、比較例1~2は、第二トレッドゴムを用いていないため、帯電抑制効果を付加することができなかった。比較例3は、第二トレッドゴムの発泡率が高いため、耐クラック性が低下した。比較例4は、第二トレッドゴムに含まれるカーボンブラックの量が少ないため、耐クラック性および耐摩耗性が低下した。比較例5は、第一トレッドゴムにおけるイソプレン系ゴムの配合量が少ないため、耐クラック性が低下した。比較例6は、第一トレッドゴムにおける充填剤の配合量が多いため、耐クラック性が悪化した。
【0058】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] 第一トレッドゴムおよび第二トレッドゴムからなるキャップトレッドゴムであって、前記第一トレッドゴムおよび前記第二トレッドゴムはそれぞれタイヤ周方向に連続して延在するようにタイヤ接地面を構成し、前記第一トレッドゴムは、イソプレン系ゴムを60質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対して、シリカを40質量%以上含有する充填剤50質量部~70質量部を配合してなり、前記第二トレッドゴムは、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラック40質量部以上を配合してなり、且つ未加硫の押出物の状態における発泡率が6%以下であることを特徴とするキャップトレッドゴム。
発明[2] 前記第一トレッドゴムが加硫促進剤としてグアニジン系加硫促進剤を含有し、前記グアニジン系加硫促進剤の配合量が前記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1質量部以上であることを特徴とする発明[1]に記載のキャップトレッドゴム。
発明[3] 前記第一トレッドゴムにおける前記シリカの配合量が前記ジエン系ゴム100質量部に対して50質量部以上であることを特徴とする発明[1]または[2]に記載のキャップトレッドゴム。
発明[4] 前記第二トレッドゴムの硬度が62以上であることを特徴とする発明[1]~[3]のいずれかに記載のキャップトレッドゴム。
発明[5] 前記第二トレッドゴムがプロセスオイルを含有し、前記プロセスオイルの配合量が前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上であることを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載のキャップトレッドゴム。
発明[6] 発明[1]~[5]のいずれかに記載のキャップトレッドゴムをキャップトレッド層に用いたことを特徴とするタイヤ。
発明[7] 前記第二トレッドゴムが前記第一トレッドゴムのタイヤ幅方向の一部に局所的に配置され、タイヤ子午線断面における前記第二トレッドゴムの断面積が前記キャップトレッド層の断面積の0.1%~3%であることを特徴とする発明[6]に記載のタイヤ。