(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018067
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】シート、シートの製造方法、及び混合材料
(51)【国際特許分類】
C08L 1/00 20060101AFI20250130BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20250130BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250130BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20250130BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20250130BHJP
【FI】
C08L1/00
C08K5/053
C08J5/18 CEP
D04H1/4382
D04H1/425
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121472
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕輝
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4L047
【Fターム(参考)】
4F071AA09
4F071AA29
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4F071AC05
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4J002AB011
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4L047AA08
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4L047BA12
4L047BC09
4L047CB01
(57)【要約】
【課題】吸湿性及び吸湿後の放湿性が高いシートを提供する。
【解決手段】バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを含むシートであって、前記バイオマスナノファイバーと前記多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25であるシート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを含むシートであって、
前記バイオマスナノファイバーと前記多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25であるシート。
【請求項2】
さらに、湿潤紙力剤を含む請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記湿潤紙力剤を、前記バイオマスナノファイバー100質量部に対して、0.5~15質量部含む、請求項2に記載のシート。
【請求項4】
前記バイオマスナノファイバーの粘度平均分子量が50,000以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシート。
【請求項5】
前記バイオマスナノファイバーが機械解繊バイオマスナノファイバーである、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート。
【請求項6】
25℃、85%RHで3時間保持した吸湿環境下での水分率が15質量%以上、及び/又は、25℃、85%RHで3時間保持した後、25℃、35%RHで3時間保持した放湿環境下での水分率が15質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシート。
【請求項7】
前記吸湿環境下での水分率と前記放湿環境下での水分率との差が10質量%以上である、
請求項6に記載のシート。
【請求項8】
引張強度が5MPa以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシート。
【請求項9】
バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを、前記バイオマスナノファイバーと前記多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25となるように混合するシートの製造方法。
【請求項10】
シートを製造するための混合材料であって、
バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを含み、
前記バイオマスナノファイバーと前記多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25である混合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート、シートの製造方法、及び混合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
吸放湿材料は空間の湿度を安定化し調湿作用を持つため、日常生活の多くの場面で活用されている。例えば、衣料用途では人体から出る汗や湿気は、ムレやベトツキなどの不快感の原因となるが、衣服内の湿気を素早く吸収し外部へと放散させることで、着用時の快適性が向上する。また、住宅用途では吸放湿材を住宅の内装材に利用することで結露の発生を防止し、人に快適な湿度40~60%の環境を保持することができる。さらに空調機器では、乾燥材を用いて除湿を行う空調システム(デシカント空調)が、従来の冷却結露による除湿システムと比較して電力消費量を少なくなることから、省エネルギー効果が期待されており、適用可能な吸放湿材料が求められている。このように吸湿性と放湿性を併せ持つ材料は多くの分野で必要とされている。
【0003】
吸放湿性を併せ持つ材料として、例えば、シリカゲル、合成ゼオライト、硫酸ナトリウム、活性アルミナ、活性炭、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、五酸化リン等が挙げられる。
【0004】
特許文献1では、上記のような材料をパルプや繊維と共に抄き込んだり、複合化してシートとしたりといった提案がされている。また、特許文献2では、天然繊維を活用した吸放湿材料としてセルロース繊維やカポック繊維を合成繊維と混合することで、吸放湿性の機能を有するシートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-058855号公報
【特許文献2】特開2021-147722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のシリカゲルなどの無機材料は低温下での吸湿能力は高いが、湿度が低い環境における放湿能力は低く、一度吸湿した水分を除去するには高温での加熱が必要である。また、特許文献2のシートは、その吸放湿能力自体が低い。すなわち、いずれも実用的なものとまではいえない。
【0007】
一方で、高い吸湿能を持つ材料として、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコールが知られている。これらの多価アルコールは医薬品や化粧品原料として用いられ、皮膚の保湿目的で一般的に利用されている。多価アルコールの性状は液体、もしくは粉末形状であり、成型加工するには適当なバインダーが必要である。樹脂と複合化して成形加工することは可能だが、疎水性の樹脂で表面を覆うことにより、従来持っていた吸放湿能が失われてしまうことから、十分な吸放湿性を保持したシートの加工は困難であった。また、これらの多価アルコールは、液体、粉末形状による単体での吸放湿性について、吸湿の絶対量は多いが、吸放湿速度が遅く、調湿目的で使用するには時間がかかった。このため迅速な効果が求められる吸放湿の用途では使用が難しいといえる。
【0008】
以上から、本発明は、吸湿性及び吸湿後の放湿性が高いシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0010】
[1] バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを含むシートであって、前記バイオマスナノファイバーと前記多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25であるシート。
[2] さらに、湿潤紙力剤を含む[1]に記載のシート。
[3] 前記湿潤紙力剤を、前記バイオマスナノファイバー100質量部に対して、0.5~15質量部含む、[2]に記載のシート。
[4] 前記バイオマスナノファイバーの粘度平均分子量が50,000以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のシート。
[5] 前記バイオマスナノファイバーが機械解繊バイオマスナノファイバーである、[1]~[4]のいずれか1つに記載のシート。
[6] 25℃、85%RHで3時間保持した吸湿環境下での水分率が15質量%以上、及び/又は、25℃、85%RHで3時間保持した後、25℃、35%RHで3時間保持した放湿環境下での水分率が15質量%以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のシート。
[7] 前記吸湿環境下での水分率と前記放湿環境下での水分率との差が10質量%以上である、[6]に記載のシート。
[8] 引張強度が5MPa以上である、[1]~[7]のいずれか1つに記載のシート。
[9] バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを、前記バイオマスナノファイバーと前記多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25となるように混合するシートの製造方法。
[10] シートを製造するための混合材料であって、バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを含み、前記バイオマスナノファイバーと前記多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25である混合材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吸湿性及び吸湿後の放湿性が高いシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例のシート作製の可否における収縮なしの状態を示す写真である。
【
図2】実施例のシート作製の可否における収縮少の状態を示す写真である。
【
図3】実施例のシート作製の可否における収縮大の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る一実施形態(本実施形態)のシート、シートの製造方法、及び混合材料を説明する。
【0014】
[シート]
本実施形態に係るシートは、バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを含み、バイオマスナノファイバーと多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25である。バイオマスナノファイバーと多価アルコールを上記所定の割合で含むことで、バイオマスナノファイバー(特に、CNF)がもつ吸放湿速度と、多価アルコールが持つ吸放湿量の両方を併せ持った高機能な吸放湿シートとすることができる。すなわち、上記質量比が15/85未満であると、吸湿性及び吸湿後の放湿性が低くなってしまい、75/25を超えるとシート化が困難になってしてしまう。質量比は、20/80~75/25であることが好ましく、25/75~65/35であることがより好ましい。
【0015】
(バイオマスナノファイバー)
バイオマスナノファイバーは水に均一に分散安定化させることが可能で、塗布乾燥化させることで、強度の高いシートが得られる。バイオマスナノファイバーは水に分散しており、親水性が高いため、多価アルコールや湿潤紙力剤など、水との親和性が高い物質であれば容易に混合することができる。このため調製した混合液を乾燥させることで容易にシートを作製することができる。また分散液の濃度や固形分量を調整することで、シート厚みの制御が可能である。またバイオマスナノファイバーのうち、特にセルロースは吸放湿性の良好な物質であり、吸湿環境下で水分率が10%程度にまで増加する。この時の吸湿速度は非常に速く、20℃、湿度80%の環境下では30分以内に平衡に達する。
【0016】
本実施形態に係るバイオマスナノファイバー(BNF)としては、生物由来の高分子で水に難溶性のナノファイバーで、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、シルクナノファイバー等が挙げられる。なかでも、化学的安定性、熱的安定性、コストの観点からセルロースナノファイバー(CNF)が好ましい。
【0017】
バイオマスナノファイバーの平均繊維径は、3~500nmであることが好ましく、6~100nmであることがより好ましく、7~50nmであることがさらに好ましく、8~25nmであることがさらに好ましく、なかでも8~15nmであることが好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均長さは、アスペクト比(平均長さ/平均繊維径)が10以上の長さを持つもので、0.5~100μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均繊維径や平均長さは、適切な倍率で撮影された電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径や長さ(n=20程度)から算出することができる。
【0018】
バイオマスナノファイバーには種々の製造方法から製造されたものがあり、機械解繊で製造された機械解繊バイオマスナノファイバー、原料バイオマスを化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化して得られる化学修飾バイオマスナノファイバーなどが挙げられる。
【0019】
機械解繊バイオマスナノファイバーは、化学修飾で生産する方法と比べ、ウォータジェットの力のみでナノファイバー化するため、不純物の混入が少ない。また、化学修飾で生産する方法と比べ、元原料からの重合度や結晶化度の低下が少ない。さらに、化学修飾で生産する方法よりも、化学修飾処理後に洗浄工程が不要である等の工程数が少なくてすむといったメリットがある。
【0020】
本実施形態に係るバイオマスナノファイバーの粘度平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、70,000~170,000であることがより好ましく、90,000~150,000であることがさらに好ましい。粘度平均分子量が50,000以上であることで、成膜性が向上し、過度の収縮や割れのないシートを作製することができる。
バイオマスナノファイバーのうち、CNFの粘度平均分子量は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。また、CNF以外の場合の粘度平均分子量は、例えば、キトサンナノファイバーでは50,000~150,000であることが好ましく、2%酢酸・0.3M塩化ナトリウム水溶液に溶解させることにより測定することができる。また、キチンナノファイバーの粘度平均分子量は50,000~150,000であることが好ましく、事前に試料を水酸化ナトリウムにより脱アセチル化処理を実施してキトサン化した後に、同様に2%酢酸・0.3M塩化ナトリウム水溶液に溶解させることにより測定することができる。
【0021】
本実施形態に係るバイオマスナノファイバーにおいては、既述のとおり、CNFが好ましいが、当該CNFは、原料となるセルロース繊維に微細化処理を施す方法や、酢酸菌等のバクテリアによって合成する方法等の公知の方法によって製造することができる。微細化処理としては、ウォータージェットを利用した手法、高圧ホモジナイザーなどの解繊装置を用いた物理的処理(機械解繊)、セルラーゼなどの酵素や触媒を用いた酸化反応によってセルロース繊維をほぐす化学的処理(化学修飾)が挙げられ、これらの処理は組み合わせて用いることができる。
【0022】
原料セルロース繊維としては、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ、コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ、麦わら、稲わら、もみ殻、バガス、竹、農業残渣(野菜くず、茶殻、みかん皮など)、草本類(ススキなど)、海藻などの非木材系パルプなどが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
CNFは、セルロース分子鎖におけるセルロースの水酸基が変性されたものであってもよい。このようなCNFとしては、セルロースの水酸基が、カルボキシ基などに酸化されたものや、エステル化されたもの、エーテル化されたものなど、セルロース繊維に他の官能基が導入されたものが挙げられる。CNFの分散性を向上させる観点から、CNFは、アニオン性基が導入された、アニオン変性CNFであってもよい。アニオン変性CNFに含まれるアニオン性基としては、アルデヒド基、カルボキシ基、硫酸基、及びリン酸基などが挙げられる。
【0024】
アニオン変性CNFは、セルロースの水酸基を酸化してアニオン性基に変換する方法や、アニオン性基を有する化合物、その酸無水物、又はそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種をセルロースの水酸基に反応させる方法など公知の方法によって得られる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を反応させて、セルロースの水酸基を酸化処理する方法などが挙げられる。
【0025】
CNFの繊維長さが長くなるほど、成膜性が良好になることから、繊維長さは長いものの方が好ましく、機械的な解繊方法のみで繊維長さが長いCNFを使用することが好ましい。繊維長さは分子量(粘度平均分子量)と相関関係にあり、粘度平均分子量の大きいCNFの方が好ましい。
【0026】
(多価アルコール)
多価アルコールは水分に対して親和性が強く、吸湿性がある。そのため、バイオマスナノファイバーとともに、所定の割合で含有させることで、良好な吸湿性が得られる。
【0027】
また、バイオマスナノファイバーだけを加熱、乾燥してシートを作製すると、乾燥時に強い収縮が起こり、平滑なシートが得られにくい。平滑なシートを作製するには、限外濾過により、水分を除去した後に、特殊な機器を用いて上部から圧力をかけて乾燥化させる必要がある。また、バイオマスナノファイバーだけのシートは柔軟性がないことが大きな課題であった。これに対して、本実施形態では、多価アルコールを添加することで、バイオマスナノファイバーに可塑性を与え、単純な加熱乾燥のみで、収縮を起こさず平滑で柔軟なシートが作製できる。
【0028】
本実施形態の多価アルコールは2価以上のアルコールを意味し、例えば、2価アルコール、3価アルコール、4価アルコール、5価アルコール、6価以上のアルコール、及びそれらのエーテル等が挙げられ、3価以上のアルコールであるか、又は2価アルコールのポリエーテルであることが好ましい。
【0029】
2価アルコールとしては、例えば、C2~C6の鎖状炭化水素ジオール、例えば、C2~C6のグリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、イソプレングリコール、ペンチレングリコール又はヘキシレングリコールが挙げられる。
3価アルコールとしては、例えば、上述の鎖状炭化水素トリオールが挙げられ、例えば、グリセリンが挙げられる。
上記4価アルコールとしては、例えば、上述の鎖状炭化水素テトラオールが挙げられ、例えば、ペンタエリトリトールが挙げられる。
上記5価以上のアルコールとしては、例えば、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。
上記エーテルとしては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコール等が挙げられる。
【0030】
吸湿能力の観点から、本実施形態の多価アルコールは、3価アルコール、2価アルコールが好ましく、3価アルコールがより好ましく、グリセリンがさらに好ましい。
【0031】
多価アルコールは、環境中の相対湿度によってその平衡水分は変動するが、例えばグリセリンは20℃、湿度80%の環境下では4日間の静置により、50%以上の水分率に達することから吸湿の絶対量は非常に大きい。しかし、20℃、湿度80%の環境下で開始1時間後の水分率はわずか1.5%程度であり、吸湿速度としては遅くなることがあるが、バイオマスナノファイバーが共存することで、その吸湿速度は速くなりシートとしての良好な吸放湿性が発揮される。
【0032】
(湿潤紙力剤)
本実施形態に係るシートはさらに、湿潤紙力剤を含むことが好ましい。セルロース、多価アルコールは共に親水性が高く、吸湿量が多くなるとシート強度の低下が懸念される。このため衛生紙(ティシュ、おむつ等)、食品包装用紙、濾紙、紙コップ、加工原紙、耐水ライナー向けに用いられる湿潤紙力剤を添加してもよい。
【0033】
本実施形態の湿潤紙力剤は特に限定するものではなく、例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミドエポキシ樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。なかでも、ポリアミドエポキシ樹脂が好ましい。
湿潤紙力剤に併せて、グリオキサル、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアルコール、澱粉、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂などの紙力増強剤を使用してもよい。
【0034】
湿潤紙力剤は、バイオマスナノファイバー100質量部に対して、0.5~15質量部であることが好ましく、0.8~13質量部であることがより好ましい。0.5~15質量部であることで、耐水性を良好にし、シートが硬くなりすぎるのを防ぐことができる。
【0035】
本実施形態に係るシートにおいて、バイオマスナノファイバーと多価アルコールの合計は、本発明の効果をより確実に発揮させる観点から、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。
バイオマスナノファイバーと多価アルコール以外の成分としては、既述の湿潤紙力剤が挙げられるが、他にポリビニルアルコール(PVA)等を含有させてもよい。
【0036】
ポリビニルアルコールとしては特に限定されず、公知のものを用いることができる。また、公知の方法に従って、ビニルエステルを溶液重合法、塊状重合法及び懸濁重合法等により重合してポリマーを得た後、当該ポリマーをケン化することにより製造される。ポリビニルアルコールとしては、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
ここで、上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル及び安息香酸ビニル等が挙げられる。
【0038】
ポリビニルアルコールの重合度は、特に限定されず、市販品の範囲内のものを使用することができ、例えば、重合度100~4000が好ましく、100~2000がより好ましく、100~1000がさらに好ましい。
また、ポリビニルアルコールのケン化度は、80mol%以上が好ましく、90mol%以上であることがより好ましい。
ポリビニルアルコールの重合度はJIS K6726:1994(ポリビニールアルコール試験方法)に準拠して溶液粘度測定法によって測定することができる。ケン化度は、JIS K 6726:1994に準拠して求めることができる。
【0039】
ポリビニルアルコールの市販品として、例えば、クラレポバール5-88、クラレポバール22-88、クラレポバール30-88、クラレポバール44-88(いずれもケン化度88mol%、クラレ社製)、またはクラレポバール3-98、クラレポバール5-98、クラレポバール11-98、クラレポバール25-100、クラレポバール28-98、クラレポバール60-98(いずれもケン化度98mol%以上、クラレ社製)やゴーセノールEG-05、ゴーセノールEG-40(いずれもケン化度88mol%、日本合成社製)、またはゴーセノールZ-100、ゴーセノールZ-200(いずれもケン化度98mol%以上、日本合成社製)等が挙げられる。
【0040】
本実施形態に係るシートにおいて、ポリビニルアルコールは30質量%以下含むことが好ましく、5~25質量%含むことがより好ましく、7~20質量%含むことがさらに好ましい。
【0041】
(物性)
本実施形態に係るシートは、25℃、85%RHで3時間保持した吸湿環境下での水分率(以下、「吸湿環境水分率」ということがある)が15質量%以上、及び/又は、25℃、85%RHで3時間保持した後、25℃、35%RHで3時間保持した放湿環境下での水分率(以下、「放湿環境水分率」ということがある)が15質量%以下であることが好ましい。これによって、環境中の湿度変化に対して速やかに応答して吸放湿することができる。
【0042】
吸湿環境水分率は、20質量%以上であることが好ましく、上限は実際的には60質量%程度である。
放湿環境水分率は、11質量%以下であることが好ましく、下限は実際的には4質量%程度である。
【0043】
また、吸湿環境水分率と放湿環境水分率との差は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることが好ましく、上限は実際的には50質量%程度である。当該差が10質量%以上であることで、環境中の湿度変化に対して速やかに応答して吸放湿することができる。
【0044】
本実施形態に係るシートは、引張強度が5MPa以上であることが好ましく、6MPa以上であることがより好ましく、10MPa以上であることがさらに好ましい。引張強度が5MPa以上であることで、取り扱いに優れた強度のあるシートを提供することができる。
なお、引張強度の好ましい上限は特に限定されないが、実際的には、100MPa程度である。
【0045】
本実施形態に係るシートは、生産性の観点から、厚さが5~1000μmであることが好ましく、20~500μmであることがより好ましい。
【0046】
本実施形態に係るシートは、必要に応じて公知の加工、積層化、複合化等を施して、例えば、各種衣料品、居住空間の内装材、空調システムに用いられる吸放湿部材、湿度センサの感湿膜等といった用途に適用することができる。
【0047】
[シートの製造方法]
本実施形態に係るシートの製造方法は、バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを、バイオマスナノファイバーと前記多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25となるように混合し、シート化する方法である。
【0048】
具体的には、乾燥後の固形分で、バイオマスナノファイバーと多価アルコールと任意の湿潤紙力剤を所定の質量比になるように秤量し、自転公転式ミキサーを用いて公転速度1000~2000min-1(自転速度は公転速度の50%)の条件で、3~30分間撹拌混合する。また、気泡除去を必要とする場合、真空にして撹拌処理を行う方が好ましい。その後、所定の容器に投入して乾燥させてシートを製造する。乾燥は、40~70℃で1~3日程度の条件とすることが好ましい。
【0049】
[混合材料]
本実施形態に係るシートの混合材料は、シートを製造するための混合材料であって、バイオマスナノファイバーと多価アルコールとを含み、バイオマスナノファイバーと多価アルコールとの質量比(多価アルコール/バイオマスナノファイバー)が15/85~75/25である混合材料である。
【0050】
バイオマスナノファイバーと多価アルコールを既述の割合で含むことで、バイオマスナノファイバー(特に、CNF)がもつ吸放湿速度と、多価アルコールが持つ吸放湿量の両方を併せ持った高機能な吸放湿シート材とすることができる。
【0051】
バイオマスナノファイバーや多価アルコール等の詳細は、本実施形態に係るシートで説明したとおりである。また、湿潤紙力剤やポリビニルアルコール等を含む場合も、本実施形態に係るシートで説明したとおりである。
【実施例0052】
[実施例1]
CNFとして5wt%のBiNFi-s RMa(スギノマシン製、型式:RMa-10005、粘度平均分子量124,000、平均繊維径10nm)を用いた。グリセリンは富士フィルム和光純薬製、湿潤紙力剤はポリアミドエポキシ樹脂(田岡化学工業製、型式:Sumirez Resin 675A)をそれぞれ用いた。
乾燥後の固形分で、質量比がCNF:グリセリン:湿潤紙力剤=80:20:1になるように秤量し、自転公転式ミキサーのハイマージャ(共立精機製、HM-200WV)にて、設定値9、真空有の条件で10分間撹拌混合を実施して混合材料を作製した。その後、混合材料をPFAシャーレに投入し、55℃で2日間の条件で乾燥させ、厚さ約200μmのシートを作製した。
【0053】
[実施例2~10、比較例1~4]
CNF:グリセリン:湿潤紙力剤の質量比を表1及び表2に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして混合材料を作製し、シートを作製した。
なお、比較例3,4はシートを作製することはできなかった。
【0054】
[実施例11]
グリセリンをポリエチレングリコール(富士フィルム和光純薬製、PEG300)に代えて、CNF:ポリエチレングリコール:湿潤紙力剤の質量比を表2に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして、混合材料を作製し、シートを作製した。
【0055】
[実施例12]
グリセリンを1,3-ブタンジオール(富士フィルム和光純薬製)に代えて、CNF:1,3-ブタンジオール:湿潤紙力剤の質量比を表2に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして、混合材料を作製し、シートを作製した。
【0056】
[実施例13]
グリセリンをイソプレングリコール(クラレ製、イソプレングリコール-S)に代えて、CNF:イソプレングリコール:湿潤紙力剤の質量比を表2に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして、混合材料を作製し、シートを作製した。
【0057】
[実施例14]
CNFとして、5wt%のBiNFi-s RMaの代わりに、分子量が中程度の5wt%のBiNFi-sWFo(スギノマシン製、型式:WFo-10005、粘度平均分子量105,000、平均繊維径10nm)を用い、CNF:グリセリン:湿潤紙力剤の質量比を表2に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして、混合材料を作製し、シートを作製した。
【0058】
[実施例15]
CNFとして、5wt%のBiNFi-s RMaの代わりに、アニオン変性CNFであるレオクリスタ(第一工業製薬製I-2SX、平均繊維径3nm)を用いて、CNF:グリセリン:湿潤紙力剤の質量比を表2に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして、混合材料を作製し、シートを作製した。
【0059】
[実施例16~19]
CNFとして5wt%のBiNFi-s RMa(スギノマシン製、型式:RMa-10005、粘度平均分子量124,000、平均繊維径10nm)を用いた。グリセリンは富士フィルム和光純薬製、湿潤紙力剤はポリアミドエポキシ樹脂(田岡化学工業製、型式:Sumirez Resin 675A)をそれぞれ用いた。また、ポリビニルアルコール(PVA)は、富士フィルム和光純薬製(重合度:1500~1800完全ケン化型)を用いた。
乾燥後の固形分で、CNF:グリセリン:湿潤紙力剤:PVAの質量比が表2に示すように秤量し、自転公転式ミキサーのハイマージャ(共立精機製、HM-200WV)にて、設定値9、真空有の条件で10分間撹拌混合を実施して混合材料を作製した。その後、混合材料をPFAシャーレに投入し、55℃で2日間の条件で乾燥させ、厚さ約200μmのシートを作製した。
【0060】
<粘度平均分子量測定>
CNFの粘度平均分子量は、粘度法を用いて測定した。具体的には、CNF水分散体を凍結乾燥することで乾燥粉末試料を得た後、各セルロース繊維のサンプルを銅エチレンジアミン溶液に溶解させ、オストワルド粘度計を用いて、溶媒に対する溶液の相対粘度から、固有粘度を求め、各セルロース繊維の分子量(粘度平均分子量)を算出した。
【0061】
<シート作製の可否>
各例で得られたシートの形状を目視で定規を用いて確認し、次の4段階に分類した。結果を表1,2に示す。
収縮なし:◎、収縮少:〇、収縮大:△、シート化できない:×
なお、収縮なしは、
図1に示すようにシート全体の90%以上が平滑であり、凹凸がほとんど見られない状態とした。収縮少は、
図2に示すようにシート全体の80%以上が平滑であり、20%未満に凹凸が見られる状態とした。収縮大は
図3に示すようにシート全体の20%以上に凹凸が見られる状態とした。
【0062】
<吸放湿性評価>
各例で得られたシートを20mm×20mmのサイズに切り出して試験片を作製した。試験片は105℃、2時間の加熱乾燥により、絶乾状態で試験片の重量を測定した。その後、25℃、湿度35%RHの環境で事前調湿を行った。次に恒温恒湿器(ESPEC社製、型式:PSL-2J)を用いて、指定の温度と湿度環境下においてシート材の吸放湿試験を実施した。最初は25℃、湿度85%RHの環境に投入し、投入後3時間後の重量変化を記録し、シートの吸湿特性を評価した。次に25℃、湿度35%RHの環境下に投入し、投入後3時間後のシートの放湿特性を評価した。結果を表1,2に示す。
【0063】
<機械的特性評価>
各例で得られたシートから、引張8号形ダンベル状の試験片を切り出した後、シート厚みを測定した。その後、乾燥環境下(25℃、35%RH)、湿潤環境下(25℃、70%RH)にそれぞれ3時間静置後、引張試験を実施した。引張試験は精密万能試験装置(島津製作所社製、型式:AG-50KNXD)により、25℃における引張り試験を行い、引張強度、ひずみ(伸び)を測定した。試験条件として、試験速度2mm/min、つかみ具間距離30mmに設定した。結果を表1,2に示す。
なお、比較例1,2は収縮が大きすぎて引張試験片を切り出す場所がなく、試験片を作製できなかったため、測定不能とした。
【0064】
【0065】