(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018137
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】眼球断層像生成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20250130BHJP
【FI】
A61B3/10 100
A61B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121603
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】520228991
【氏名又は名称】DeepEyeVision株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀徳
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA03
4C316AA07
4C316AA09
4C316AA25
4C316AB02
4C316AB11
4C316AB16
4C316FC04
(57)【要約】
【課題】
被検眼と眼科解析装置との距離が離れている場合においても、簡便な光学系の構成により眼球断層像を取得することができる眼球断層像生成方法を提供すること。
【解決手段】
測距センサを用いて、被検眼における眼球内構造の深度情報を取得する第1工程と、前記被検眼と前記測距センサとの相対的位置を変化させながら、前記深度情報を複数取得する第2工程と、前記深度情報の前記眼球内における三次元位置を特定する第3工程と、前記位置情報に基づいて、複数の前記深度情報を合成して眼球断層像を生成する第4工程と、を備える、眼球断層像生成方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距センサを用いて、被検眼における眼球内構造の深度情報を取得する第1工程と、
前記被検眼と前記測距センサとの相対的位置を変化させながら、前記深度情報を複数取得する第2工程と、
前記深度情報の前記眼球内における三次元位置を特定する第3工程と、
前記位置情報に基づいて、複数の前記深度情報を合成して眼球断層像を生成する第4工程と、を備える、
眼球断層像生成方法。
【請求項2】
前記第3工程では、前記測距センサからの入射光の前記被検眼の角膜頂点に対する入射角、及び/又は前記網膜の厚みに基づいて、前記深度情報の前記三次元位置を特定する、
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【請求項3】
前記第4工程では、機械学習又はディープラーニングによって訓練された数理モデルにより、前記眼球断層像を生成する、
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【請求項4】
前記第4工程では、前記眼球断層像を、標準断層像を用いて補完する、
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【請求項5】
前記数理モデルの訓練データとして、前記第2工程において取得した複数の深度情報を用いる、
請求項3又は4に記載の眼球断層像生成方法。
【請求項6】
前記第1工程では、補償光学を用いて解像度処理を行う、
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【請求項7】
前記深度情報を、眼疾患に係る眼球断層像データを訓練データとして機械学習又はディープラーニングによって訓練された数理モデルに入力することにより、疾患リスクの有無に関する情報を取得する疾患リスク情報取得工程、をさらに備える、
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【請求項8】
前記深度情報を表示する表示工程、をさらに備える、
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【請求項9】
前記測距センサは、モバイル端末の距離測定部である、
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【請求項10】
前記測距センサは、定置型装置の距離測定部である、
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【請求項11】
前記測距センサは、ヘッドマウント装置の距離測定部である、
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼球断層像生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼球断層像を生成することは眼底疾患の診断や緑内障発作のリスク評価にあたり非常に重要である。眼球断層像を生成するための一般的な手法としては、光干渉断層計(OCT)を用いることなどが挙げられる。OCTは、近赤外光を被検眼に当てて眼球内構造からの反射を解析することで眼球断層像を取得することができる。
【0003】
また、眼底黄斑疾患や緑内障などのような眼疾患については、長期間にわたる経過観察を要する場合が少なくない。そのため、被検眼の経過観察を効率よく好適に行うことを目的とした種々の眼球断層像生成方法が開発されている。例えば、特許文献1には、眼科用光干渉断層計によって異なる日に取得された被検眼の断層画像の解析結果を得て、前記解析結果の時系列データから形成される統計情報を出力するための、所定の眼科解析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのような眼科解析装置を用いて眼球断層像生成を行う場合、患者の顎を台上設置型装置のあご台にのせるなど、被検眼が装置から非常に近い距離で眼球内観察を行う必要がある。加えて、眼球内観察を行う場合、病院内に設置された眼科解析装置を診察に要するため、遠隔診療などに対応することができない。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、被検眼と眼科解析装置との距離が離れている場合においても、簡便な光学系の構成により眼球断層像を取得することができる眼球断層像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の眼球断層像生成方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様に係る眼球断層像生成方法は、測距センサを用いて、被検眼における眼球内構造の深度情報を取得する第1工程と、前記被検眼と前記測距センサとの相対的位置を変化させながら、前記深度情報を複数取得する第2工程と、前記深度情報の前記眼球内における三次元位置を特定する第3工程と、前記位置情報に基づいて、複数の前記深度情報を合成して眼球断層像を生成する第4工程とを備える。
【0009】
前記第3工程では、前記測距センサからの入射光の前記被検眼の角膜頂点に対する入射角、及び/又は前記網膜の厚みに基づいて、前記深度情報の前記三次元位置を特定してもよい。
【0010】
前記第4工程では、機械学習又はディープラーニングによって訓練された数理モデルにより、前記眼球断層像を生成してもよい。
【0011】
前記第4工程では、前記眼球断層像を、標準断層像を用いて補完してもよい。
【0012】
前記第4工程では、前記数理モデルの訓練データとして、前記第2工程において取得した複数の深度情報を用いてもよい。
【0013】
前記第1工程では、補償光学を用いて解像度処理を行ってもよい。
【0014】
前記深度情報を、眼疾患に係る眼球断層像データを訓練データとして機械学習又はディープラーニングによって訓練された数理モデルに入力することにより、疾患リスクの有無に関する情報を取得する疾患リスク情報取得工程、をさらに備えていてもよい。
請求項1に記載の眼球断層像生成方法。
【0015】
前記深度情報を表示する表示工程、をさらに備えていてもよい。
【0016】
前記測距センサは、モバイル端末の距離測定部であってもよい。
【0017】
前記測距センサは、定置型装置の距離測定部であってもよい。
【0018】
前記測距センサは、ヘッドマウント装置の距離測定部であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被検眼と眼科解析装置との距離が離れている場合においても、簡便な光学系の構成により眼球断層像を取得することができる眼球断層像生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】測距センサを用いて、被検眼における眼球内構造の深度情報を取得する態様を表す図の一例である。
【
図2】角膜、虹彩、及び網膜に係る深度情報の例を表す図の一例である。
【
図3】被検眼と測距センサとの相対的位置を変化させながら、眼球内構造の深度情報を複数取得する態様を表す図の一例である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る被検眼に映る景色の変化、被検眼の角膜輪部の変化、角膜輪部の中での瞳孔中心の移動、又は瞳孔輪部の変化を表す図の一例である。
【
図5】本実施形態の眼球断層像生成方法によって得られた眼球断層像のうち、角膜及び虹彩を含む眼球断層像の一部を表す図の一例である。
【
図6】本実施形態の眼球断層像生成方法によって得られた眼球断層像のうち、網膜を含む眼球断層像の一部を表す図の一例である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るモバイル端末を眼球断層像生成装置として用いる一例を示す概略図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る定置型装置を眼球断層像生成装置として用いる一例を示す概略図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るヘッドマウント装置を眼球断層像生成装置として用いる一例を示す概略図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る眼球断層像生成装置の実施に係るフローチャートである。
【
図11】本発明の一実施形態に係る眼球断層像生成装置のハードウェア構成である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る眼球断層像生成装置の機能ブロック構成である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。さらに、当業者であれば、以下に述べる各要素を均等なものに置換した実施形態を採用することが可能であり、係る実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0022】
1.眼球断層像生成装置
図1は、眼球断層像生成装置4により、被検眼における眼球内構造の深度情報を取得する方法の一例を示す図である。本実施形態の眼球断層像生成装置4は、測距センサ40の光源41とビームスプリッタ42を用いて入射光31を被検眼20に入射させ、角膜21による反射光32、虹彩22による反射光33、及び網膜24により反射された反射光34、などの眼球内構造に由来する種々の反射光を検出器43により検出することにより、被検眼20における眼球内構造の深度情報を取得する装置である。
【0023】
<ハードウェア構成>
図11は、眼球断層像生成装置4のハードウェア構成の一例を示す図である。眼球断層像生成装置4は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)等のプロセッサ11、メモリ、HDD(Hard Disk Drive)及び/又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置12、有線又は無線通信を行う通信IF(Interface)13、入力操作を受け付ける入力デバイス14、及び情報の出力を行う出力デバイス15を有する。入力デバイス14は、例えば、キーボード、タッチパネル、マウス及び/又はマイク等である。出力デバイス15は、例えば、ディスプレイ、タッチパネル及び/又はスピーカ等である。
【0024】
本実施形態において、測距センサ40は、入力デバイス14に含まれるように構成されてもよく、また、測距センサ40は眼球断層像生成装置4の外部機器に含まれるように構成され、通信回線等を経由して測距センサ40により取得した深度情報が入力デバイス14から入力されるように構成されていてもよい。
【0025】
<機能ブロック構成>
図12は、眼球断層像生成装置4の機能ブロック構成の一例を示す図である。眼球断層像生成装置4は、記憶部110と、制御部120とを含む。記憶部110は、眼球断層像生成装置4が備える記憶装置12を用いて実現することができる。また、制御部120は、眼球断層像生成装置4のプロセッサ11が、記憶装置12に記憶されたプログラムを実行することにより実現することができる。また、当該プログラムは、記憶媒体に格納することができる。当該プログラムを格納した記憶媒体は、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)であってもよい。非一時的な記憶媒体は特に限定されないが、例えば、USBメモリ又はCD-ROM等の記憶媒体であってもよい。
【0026】
図7は、モバイル端末50を眼球断層像装置4として用いる一例を示す概略図である。モバイル端末50を眼球断層像装置4として用いることによって、より簡便な光学系の構成により眼球断層像生成を行うことができる。
図7では、説明の便宜のため、モバイル端末50を実際の大きさよりも拡大して表示している。測距センサ40としては、特に限定されないが、例えば、モバイル端末50のセンサが用いられる。モバイル端末50としては、特に限定されないが、例えば、スマートフォン、タブレットコンピュータ、ノートパソコン、又はワークステーションコンピュータなどの情報処理装置が挙げられる。ここで、端末とは、回線やネットワークに接続され、他の機器と通信を行う主体となることができる機器のことを意味する。
【0027】
図8は、定置型装置51を眼球断層像生成装置4として用いる一例を示す概略図である。定置型装置51を眼球断層像装置4として用いることによって、より簡便な光学系の構成により眼球断層像生成を行うことができる。測距センサ40としては、特に限定されないが、例えば、定置型装置51の測距センサが用いられる。眼球断層像生成装置として定置型装置51を用いる場合、定置型装置51に対向した状態で被験者が動くことにより、被検眼20と測距センサ40との相対的位置を簡便に変化させることができる。また、被験者が何ら操作をすることなく一定時間、後述する第2工程S102を行うことができる。
【0028】
また、定置型装置51は、特に限定されないが、例えば、スマートミラーであってよい。スマートミラーを用いることにより、被験者が日常生活の中で意識せず自然に撮影することができる。ここで、スマートミラーとは、インターネット接続等ができ、かつ被験者自身の姿を映し出すことができる鏡と、測距センサとを備えるミラー型端末を意味する。
【0029】
図9は、ヘッドマウント装置60を眼球断層像生成装置4として用いる一例を示す概略図である。ヘッドマウント装置60を眼球断層像装置4として用いることによって、より簡便な光学系の構成により眼球断層像生成を行うことができる。測距センサ40としては、特に限定されないが、例えば、ヘッドマウント装置60に内蔵された測距センサが用いられる。眼球断層像生成装置4としてヘッドマウント装置60を用いる場合、
図9に示すように、被験者の動作いかんに関わらず簡便に、後述する第1工程S101、及び第2工程S102を行うことができる。
【0030】
図10は、本発明の一実施形態に係る眼球断層像生成装置4の実施に係る各工程を示すフローチャートであり、該各工程は、該眼球断層像生成装置4の制御部120により実行される。以下、各工程について
図10を用いて詳細に説明する。
【0031】
2.眼球断層像生成方法
図10では、眼球断層像生成装置4は、被検眼における眼球内構造の深度情報を取得する第1工程S101、被検眼と測距センサとの相対的位置を変化させながら、深度情報を複数取得する第2工程S102、深度情報の眼球内における三次元位置を特定する第3工程S103、及び複数の深度情報を合成して眼球断層像を生成する第4工程S104を備えており、それらを実施することにより、被検眼20の眼球断層像を生成する。また、眼球断層像生成装置4は、表示工程S105を備えてもよい。さらに、必要に応じて、その他の工程を含んでいてもよい。
【0032】
2.1.第1工程S101
図1に示すとおり、第1工程S101は、測距センサ40を用いて、被検眼20における眼球内構造の深度情報を取得する工程である。第1工程S101では、眼球断層像生成装置4の深度センサ40の光源41とビームスプリッタ42を用いて入射光31を被検眼20に入射させ、眼球内構造の反射光を検出器43により検出する。
図1では、角膜21による反射光32、虹彩22による反射光33、及び網膜24により反射された反射光34を検出することができることを示している。
【0033】
ここで、
図1において、d1は前房深度を示しており、d2は眼軸長を示している。d1は緑内障の診断などに有用な情報であり、d2は近視の診断などに有用な情報である。
【0034】
ここで、測距センサとは、距離を測定するセンサをいう。測距センサとしては、特に限定されないが、例えば、光学を用いた測距センサ(LiDAR)、電波を用いた測距センサ、及び超音波を用いた測距センサが挙げられる。その中でも、簡便に深度情報を取得する観点からは、LiDARを用いることが好ましい。LiDARとしては、特に限定されないが、例えば、ToF方式のもの、及びFMCW方式のものが挙げられる。
【0035】
その中でも、本実施形態においてはFMCW方式のものを用いることが好ましい。FMCW方式のLiDARは、異なる周波数間で連続的にシフトするレーザー光線を発信するため、検出器が反射光を集めて反射時間を測定すると、特定の周波数パターンと他の光源とを区別することができ、あらゆる照射条件下で高速かつ正確に動作することができる。そのため、被検眼と測距センサの距離が離れることにより周囲の光源からの光やその反射光が検出器に入り込みやすい場合であっても、より正確に深度情報を取得することができる傾向にある。また、本実施形態のように、眼球内構造に由来する非常に微弱な反射光の反射強度である場合でも、より正確に深度情報を取得することができる傾向にある。
【0036】
眼球内構造は、眼球内部の構造体全般を意味し、特に限定されないが、例えば、
図1に示す角膜21、虹彩22、網膜24のほか、毛様体、チン小帯、脈絡膜、及び強膜が挙げられる。
【0037】
深度情報とは、被検眼からみて所定の相対的位置にある測距センサから該眼球内構造までの距離に関する情報を意味する。深度情報は、被検眼からみて所定の相対的位置にある測距センサから発射された入射光を眼球内構造が反射して放出した反射光から得ることができる。
【0038】
図2のP1、P2、P3、P4、P5、及びP6は角膜に関する深度情報の一例を、Q1、Q2、Q3、及びQ4は虹彩に関する深度情報の一例を、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6は網膜に関する深度情報の一例を示している。
【0039】
一般的に、物質の内部の反射光を検出する場合、物質の表面付近にある構造から反射される反射光の強度が最も大きく、物質内部に進むにつれてその内部構造からの反射光の強度は小さくなる傾向にある。
図1のi1は、角膜21の反射光32の強度を、i2は、虹彩22からの反射光33の強度を、i3は、網膜24からの反射光34の強度を示しており、入射光が被検眼の表面から内部に進むにつれて、その眼球内構造の反射光の強度が小さくなる傾向にあることを示している。
【0040】
第1工程S101では、眼球断層像生成装置4の測距センサ40が、被検眼20から離れている場合でも眼球断層像を生成することができる。測距センサ40と被検眼20の距離としては、特に限定されないが、簡便に眼球断層像生成を行う観点からは、3cm以上であることが好ましく、5cm以上であることがより好ましく、10cm以上であることがさらに好ましく、15cm以上であることがよりさらに好ましく、20cm以上であることがよりさらにより好ましく、30cm以上であることが特に好ましい。
測距センサ40と被検眼20の距離の下限は、特に限定されないが、例えば、1mmであってもよく、3mmであってもよく、5mmであってもよく、1cmであってもよい。
また、測距センサ40と被検眼20の距離の上限は、特に限定されないが、例えば、10mであってもよく、5mであってもよく、3mであってもよく、1mであってもよく、50cmであってもよい。
【0041】
第1工程S101では、補償光学を用いて解像度処理を行ってもよい。具体的には、例えば、補償光学を応用した測距センサを用いることが挙げられる。ここで、補償光学とは、波面収差を除去して解像度の高い像を得る技術をいう。
【0042】
2.2.第2工程S102
図3に示すように、第2工程S102は、被検眼20と測距センサ40との相対的位置(l、θ
i、θ
r)を変化させながら、深度情報を複数取得する工程である。
以下、詳細に説明する。
【0043】
被検眼20と測距センサ40との相対的位置(l、θi、θr)を変化させる手段は、従来公知の方法を用いることができる。そのような方法としては、特に限定されないが、例えば、測距センサ40の位置を変えずに被検眼20の向きを変えさせてもよく、また、被検眼20の向きを変えずに測距センサ40の位置を変えてもよい。
【0044】
被検眼20の向きを変えさせる手段としては、特に限定されないが、例えば、複数の固視標を提示するような固視標投影手段を用いることが挙げられる。該固視標投影手段は、可視光を発する固視灯を有し、固視灯を点灯することによって、被験者に複数の固視標を呈示し、任意の方向を見るように被検眼20を誘導することができる。
【0045】
取得する深度情報の数については、後述する画像生成工程S104に用いるため、特に限定されないが、例えば、30以上が好ましく、100以上がより好ましく、300以上がさらに好ましい。ここで、深度情報の数とは、被検眼20と測距センサ40との相対的位置(l、θi、θr)ごとに1つとカウントする。
【0046】
2.3.第3工程S103
第3工程S103は、深度情報の眼球内における三次元位置を特定する工程である。
第3工程S103は、被検眼20と測距センサ40との相対的位置(l、θi、θr)を変化させて得られた複数の深度情報に基づいて行ってもよい。そのように三次元位置を特定するための方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、SfM(Structure from Motion)が挙げられる。
【0047】
また、第3工程S103では、測距センサ40からの入射光31に対する被検眼20の角膜頂点に対する入射角、及び/又は網膜24の厚みに基づいて、深度情報の三次元位置を特定してもよい。
【0048】
また、第3工程S103では、
図4に示すとおり、被検眼20の瞳に映る景色の移動等の被検眼20に映る景色54の変化、被検眼20の角膜輪部55の変化、角膜輪部55の中での瞳孔中心の移動、又は瞳孔輪部の変化などの情報を組み合わせて用いてもよい。具体的には、被検眼20の眼球回転移動59に対応して引き起こされる被検眼20に映る景色54の変化を検知することにより、深度情報の三次元位置の特定に用いる方法や、該眼球の回転移動59に対応して角膜輪部55が円形から略楕円形へ変形するといった、該眼球の回転移動59に対応して引き起こされる角膜輪部の変化56を検出して深度情報の三次元位置の特定に用いる方法、該眼球の回転移動59に対応して引き起こされる角膜輪部の中での瞳孔中心の移動58を検出して深度情報の三次元位置の特定に用いる方法、又は該眼球の回転移動59に対応して引き起こされる瞳孔輪部57の変化を検出することにより、深度情報の三次元位置の特定に関する精度を向上させることができる。
【0049】
2.4.第4工程S104
第4工程S104は、第2工程S102により得られた複数の深度情報と、三次元位置情報特定工程S103により特定された眼球内の三次元位置に基づいて、複数の深度情報を合成して眼球断層像を生成する工程である。
【0050】
図5及び6は、第4工程により得られる眼球断層像の一例である。
図5は、角膜21及び虹彩22を含む眼球断層像の一部であり、
図6は、網膜を含む眼球断層像の一部を示す。
【0051】
第4工程では、機械学習又はディープラーニングによって訓練された数理モデルにより、前記眼球断層像を生成してもよい。
【0052】
前記第4工程では、前記眼球断層像を、標準断層像を用いて補完してもよい。ここで、標準断層像の取得方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、光干渉断層計(OCT)を用いることができる。
【0053】
ここで、前記数理モデルの訓練データとしては、特に限定されないが、例えば、上記第2工程において取得した複数の深度情報を用いることができる。それにより、標準断層像を用いることなく、第2工程S102において非取得の領域に対応する深度情報を生成し、補完することができる。これにより、コンピュータによる演算数は増えることになるが被検眼20についての標準断層像を用意する必要がないため、簡便に眼球断層像生成を行うことができる。
【0054】
ここで、機械学習によって訓練された学習モデル(以下、機械学習モデル、とする)は、数理モデルの一例である。機械学習モデルとは、所定のモデル構造と、学習処理によって変動するパラメータとを有し、訓練データから得られる経験に基づいてその処理パラメータが最適化されることで、識別精度が向上するモデルを含む。すなわち、機械学習モデルは、学習処理によって最適な処理パラメータを学習するモデルである。機械学習モデルのアルゴリズムは、例えば、サポートベクターマシン、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク等を用いることができ、その種類は特に限定されないが、訓練データが少ない場合においても眼球断層像を生成する観点からは、ニューラルネットワークを用いることが好ましい。当該学習を行う機械学習モデルには、訓練データによりすでに何らかの学習を行っているものもあれば、学習前のものも含む。
【0055】
2.5.表示工程S105
図10に示すとおり、表示工程S105は、眼球断層像を表示する工程であり、本実施形態における眼球断層像生成装置4は、表示工程S105を有していることが好ましい。それにより、より簡便に被験者の眼球内情報を確認することができる。
【0056】
2.6.その他の工程
本実施形態における眼球断層像生成装置4は、上述の工程に加えて、必要に応じてその他の工程を備えていてもよい。その他の工程としては、特に限定されないが、例えば、疾患リスク情報取得工程が挙げられる。疾患リスク情報取得工程とは、眼疾患に係る眼球断層像データを訓練データとして機械学習又はディープラーニングによって訓練された数理モデルに入力することにより、疾患リスクの有無に関する情報を取得する工程である。これにより、緑内障や近視などの眼疾患を早期に簡便に発見するために用いることできる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、特に限定されないが、例えば、スマートフォンをはじめとするモバイル端末等を用いて、眼科的診察に用いるための眼球断層像を簡便に取得することが可能である。そのため、本発明にかかる眼球断層像取得方法は、世界中で広く普及することができると思われる。
【0058】
また、臨床応用上も意義が大きい。具体的には、一般的な眼科医による診察においては、台上設置型の装置を用いて被検眼の観察・診断が行われるが、小児や寝たきりの高齢者に対する診察には困難性を伴い、熟練的技術を要する。しかし、本発明においては、被験者の姿勢にかかわらず、モバイル端末等を用いて非常に容易に眼球断層像を生成することができ、それを通じて観察・診断に用いることが可能となる。そのため、地方の遠隔診療や、途上国支援に利用されることが期待できる。
【0059】
さらに、本発明は動物の眼球観察及び撮影に対しても同様に利用可能である。特にペット等の愛玩動物や、被検眼を眼科診断装置に近づけることが特に難しい動物園での大型飼育動物の眼球断層像を取得することが可能であり、上記動物の眼科的所見を取得することができる。
【0060】
さらにはビッグデータとしてAIにより解析を行い、眼科医の診断精度を向上させることが期待できる。最終的には、被験者の自己診断ツールとして使用され、眼科診療自体をより発展させることが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
4…眼球断層像生成装置、20…被検眼、21…角膜、22…虹彩、23…水晶体、24…網膜、31…入射光、32…角膜21の反射光、33…虹彩22からの反射光、34…網膜24からの反射光、40…測距センサ、41…光源、42…ビームスプリッタ、43…検出器、50…モバイル端末、51…定置型装置、60…ヘッドマウント装置、i1…角膜21の反射光の反射強度、i2…虹彩22からの反射光の反射強度、i3…網膜24からの反射光の反射強度、P1、P2、P3、P4、P5、P6、Q1、Q2、Q3、Q4、R1、R2、R3、R4、R5、R6…深度情報、l…角膜頂点から測距センサまでの距離、θi、θr…角膜頂点を基準とした場合における測距センサの方位角、54…被検眼に映る景色、55…角膜輪部、56…角膜輪部の変化、57…瞳孔輪部、58…角膜輪部の中での瞳孔中心の移動、59…眼球の回転移動、11…プロセッサ、12…記憶装置、13…通信IF、14…入力デバイス、15…出力デバイス、110…記憶部、120…制御部、S101…第1工程、S102…第2工程、S103…第3工程、S104…第4工程、S105…表示工程