(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018194
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】UHPFRCによる鋼床版上面増厚補強構造及び鋼床版上面増厚補強工法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20250130BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20250130BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20250130BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20250130BHJP
E01C 7/14 20060101ALI20250130BHJP
E01C 7/26 20060101ALI20250130BHJP
E01C 7/32 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
E01D19/12
C09J201/00
C09J11/04
E01D22/00 A
E01C7/14
E01C7/26
E01C7/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121703
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】000208204
【氏名又は名称】大林道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】富井 孝喜
(72)【発明者】
【氏名】青木 峻二
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】本間 順
【テーマコード(参考)】
2D051
2D059
4J040
【Fターム(参考)】
2D051AF03
2D051AF11
2D051AG11
2D051CA02
2D051CA10
2D051EA03
2D051EB00
2D059AA16
2D059GG01
2D059GG39
4J040EC001
4J040HA306
4J040HA366
4J040JA13
4J040JB02
4J040KA42
4J040KA43
4J040LA06
4J040MA03
4J040MA06
4J040MB09
4J040NA12
4J040PA12
4J040PA25
(57)【要約】
【課題】UHPFRCと鋼床版との界面に安定して接着剤を定着させることが可能な、UHPFRCによる鋼床版上面増厚補強構造及び鋼床版上面増厚補強工法を提供する。
【解決手段】鋼床版11の上面に接着剤を塗布する接着剤塗布ステップと、前記鋼床版11に塗布された接着剤に該接着剤の流動を抑制可能な粒状流動化防止材121を投入する粒状流動化防止材投入ステップと、前記粒状流動化防止材投入ステップの後に前記接着剤の上部にUHPFRC13を打設するUHPFRC打設ステップと、を少なくとも有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼床版の上面に接着剤を塗布する接着剤塗布ステップと、
前記鋼床版に塗布された接着剤に該接着剤の流動を抑制可能な粒状流動化防止材を投入する粒状流動化防止材投入ステップと、
前記粒状流動化防止材投入ステップの後に前記接着剤の上部にUHPFRCを打設するUHPFRC打設ステップと、を少なくとも有する
ことを特徴とするUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強工法。
【請求項2】
接着剤に該接着剤の流動を抑制可能な粒状流動化防止材をプレミックスする粒状流動化防止材プレミックスステップと、
前記粒状流動化防止材がプレミックスされた流動化防止接着剤を鋼床版の上面に塗布するプレミックス接着剤塗布ステップと、
前記プレミックス接着剤塗布ステップの後に前記粒状流動化防止材がプレミックスされた前記流動化防止接着剤の上部にUHPFRCを打設するUHPFRC打設ステップと、を少なくとも有する
ことを特徴とするUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強工法。
【請求項3】
前記粒状流動化防止材は、前記接着剤よりも高比重で硬質の複数の粒状物から成る
請求項1又は2に記載のUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強工法。
【請求項4】
鋼床版の上面に形成される流動化防止接着剤層と、
前記流動化防止接着剤層の上部に形成されるUHPFRC層と、を少なくとも有し、
前記流動化防止接着剤層は、接着剤の流動を抑制可能な粒状流動化防止材を含有する
ことを特徴とするUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強構造。
【請求項5】
前記粒状流動化防止材は、前記接着剤よりも高比重で硬質の複数の粒状物から成る
請求項4に記載のUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UHPFRCを鋼床版の上面に打設して部材断面を厚くする、UHPFRCによる鋼床版上面増厚補強構造及び鋼床版上面増厚補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼床版上面増厚工法では、鋼繊維補強コンクリート(以下、SFRC)の敷設が多く実施されてきた。そして、特許文献1では、SFRC層16とデッキプレート10との間に接着剤層15が介在し、接着剤としてエポキシ系接着剤が使用されることが開示されている。このような構成によれば、SFRCの剥離を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、鋼床版のUリブとデッキプレートの溶接部では、デッキプレートへ進展する疲労亀裂などが報告されている。そこで本願発明者は、この対策として、SFRCよりも弾性係数がより高い超高性能繊維補強セメント系複合材料(以下、UHPFRC)を用いることにより、デッキプレートの局部変形を効果的に抑制できると考えた。
【0005】
しかし、UHPFRCによる鋼床版の補強を実施する際には、鋼床版とセメント系材料の一体化のために接着剤が必要不可欠であるところ、室内試験の結果、
図1の写真に示されるように、UHPFRCの持つ高い流動性と粘性によって接着剤が押し出されてしまい、UHPFRCと鋼板との界面に接着剤が残らず、必要な接着効果が得られないという問題が明らかとなった。
【0006】
そこで本願発明は、上記した問題点等に鑑み、UHPFRCと鋼床版との界面に安定して接着剤を定着させることが可能な、UHPFRCによる鋼床版上面増厚補強構造及び鋼床版上面増厚補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)に係る発明は、鋼床版の上面に接着剤を塗布する接着剤塗布ステップと、前記鋼床版に塗布された接着剤に該接着剤の流動を抑制可能な粒状流動化防止材を投入する粒状流動化防止材投入ステップと、前記粒状流動化防止材投入ステップの後に前記接着剤の上部にUHPFRCを打設するUHPFRC打設ステップと、を少なくとも有することを特徴とするUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強工法である。
【0008】
(2)に係る発明は、接着剤に該接着剤の流動を抑制可能な粒状流動化防止材をプレミックスする粒状流動化防止材プレミックスステップと、前記粒状流動化防止材がプレミックスされた流動化防止接着剤を鋼床版の上面に塗布するプレミックス接着剤塗布ステップと、前記プレミックス接着剤塗布ステップの後に前記粒状流動化防止材がプレミックスされた前記流動化防止接着剤の上部にUHPFRCを打設するUHPFRC打設ステップと、を少なくとも有することを特徴とするUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強工法である。
【0009】
(3)に係る発明は、前記粒状流動化防止材は、前記接着剤よりも高比重で硬質の複数の粒状物から成る上記(1)又は(2)に記載のUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強工法である。
【0010】
(4)に係る発明は、鋼床版の上面に形成される流動化防止接着剤層と、前記流動化防止接着剤層の上部に形成されるUHPFRC層と、を少なくとも有し、前記流動化防止接着剤層は、接着剤の流動を抑制可能な粒状流動化防止材を含有することを特徴とするUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強構造である。
【0011】
(5)に係る発明は、前記粒状流動化防止材は、前記接着剤よりも高比重で硬質の複数の粒状物から成る上記(4)に記載のUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強構造である。
【発明の効果】
【0012】
上記(1)及び(4)に係る発明によれば、粒状流動化防止材による押出し抑制によって、接着剤がUHPFRCの打設によって押し出されてしまうことを効果的に防止することが可能となる。
【0013】
上記(2)に係る発明によれば、粒状流動化防止材による押出し抑制によって、接着剤がUHPFRCの打設によって押し出されてしまうことを効果的に防止することが可能となるほか、施工現場においてプレミックスされた流動化防止接着剤を鋼床版の上面に塗布することができるので、施工現場において粒状流動化防止材を投入する手間を削減することが可能となる。
【0014】
上記(3)及び(5)に係る発明によれば、粒状流動化防止材として、接着剤よりも高比重で硬質の粒状物が好適に使用することができ、例えば、珪砂や砕砂、ショットブラストに使用するような鉄球を複数接着剤に投入又は接着剤にプレミックスして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】鋼板上の接着剤がUHPFRCによって押し出される現象を撮影した写真画像である。
【
図2】本発明の一実施形態における、鋼床版上面増厚補強工法の施工フローの一部である。
【
図3】本発明の別実施形態における、鋼床版上面増厚補強工法の施工フローの一部である。
【
図4】本発明の鋼床版上面増厚補強構造の断面構成であって、(a)は本発明の一実施形態における断面図、(b)は本発明の別実施形態における断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における、室内試験の結果を示した表である。
【
図6】本発明の一実施形態における、UHPFRCの配合例であり、(a)は配合表、(b)は配合表における記号を説明する表である。
【
図7】本発明により、鋼板上の接着剤がUHPFRCによって押し出されることを防止している状況を撮影した写真画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明のUHPFRCによる鋼床版上面増厚補強構造及び鋼床版上面増厚補強工法の各実施形態について説明する。
【0017】
図2には、本発明の一実施形態における、鋼床版上面増厚補強工法の施工フローの一部が示されている。すなわち、サンドブラストなどで鋼床版の表面を研掃する鋼床版研掃ステップ(S100)の後、研掃後の鋼床版を錆から守るためにプライマーを塗布するプライマー塗布ステップ(S110)が実施される。
【0018】
さらにその後、鋼床版の上面に接着剤を塗布する接着剤塗布ステップ(S120)と、鋼床版に塗布された上記接着剤に、当該接着剤の流動を抑制可能な粒状流動化防止材を投入する粒状流動化防止材投入ステップ(S130)が実施される。
【0019】
そして、上記粒状流動化防止材投入ステップ(S130)の後に、上記接着剤の上部にUHPFRCを打設するUHPFRC打設ステップ(S140)が実施される。これにより、
図4(a)に示されるような鋼床版上面増厚補強構造が形成される。
【0020】
以上のような施工フローにより、粒状流動化防止材による押出し抑制によって、接着剤がUHPFRCの打設によって押し出されてしまうことを効果的に防止することが可能となる。
【0021】
また、
図3には、本発明の別実施形態における鋼床版上面増厚補強工法の施工フローの一部が示されている。すなわち、前述した実施形態と異なる点は、予め接着剤に粒状流動化防止材をプレミックスする粒状流動化防止材プレミックスステップ(S121)と、粒状流動化防止材がプレミックスされた流動化防止接着剤を鋼床版の上面に塗布するプレミックス接着剤塗布ステップ(S131)を有することにある。
【0022】
このような別実施形態の施工フローによれば、予め接着剤に粒状流動化防止材をプレミックスする手間や、プレミックスされた接着剤はそうでないものよりも塗布がし難いというデメリットがある一方、施工現場においてプレミックスされた流動化防止接着剤を鋼床版の上面に塗布することで、施工現場において粒状流動化防止材を投入する手間を削減することが可能となり、さらに、現場で手撒きするよりも粒状流動化防止材を均一に入れることが可能となる。
【0023】
続いて、
図4には、鋼床版上面増厚補強構造の断面構成であって、(a)には前述した実施形態における断面図が、(b)には前述した別実施形態における断面図が示されている。
【0024】
すなわち、鋼床版上面増厚補強構造は、いずれの施工フローによっても、鋼床版11の上面に形成される流動化防止接着剤層12と、当該流動化防止接着剤層12の上部に形成されるUHPFRC層13と、を少なくとも有して構成され、流動化防止接着剤層12は、接着剤の流動を抑制可能な粒状流動化防止材121を含有している。
【0025】
図4(a)の断面図からわかるように、鋼床版11の上面に接着剤を塗布後、粒状流動化防止材121を投入する場合は、当該粒状流動化防止材121の表面が露出することになる。一方、粒状流動化防止材121を接着剤にプレミックスした場合は、粒状流動化防止材121の表面は接着剤で被覆される。
【0026】
粒状流動化防止材121としては、接着剤よりも高比重で硬質の粒状物が好適に使用することができ、例えば、珪砂や砕砂、ショットブラストに使用するような鉄球を複数接着剤に投入又は接着剤にプレミックスして使用することができる。
【0027】
前述したような鋼床版上面増厚補強工法及び鋼床版上面増厚補強構造によれば、UHPFRCを打設した場合に、当該UHPFRCに接着剤が押し出される事態を効果的に抑制することが可能となる。
【0028】
(室内試験結果)
次に、粒状流動化防止材による接着剤の押出し抑制について、室内試験の実施態様について説明する。
【0029】
室内試験では、鋼床版に見立てたサンドブラスト処理した鋼板(400mm×400mm)を用意し、その表面に接着剤と同系統のエポキシ樹脂系プライマーを鋼板へ塗布した。
【0030】
上記したプライマーが十分に乾燥した後、コンクリート接着用2液型エポキシ樹脂系接着剤を規定量の1.4kg/m2で塗布し、接着剤の押出し抑制を目的として粒状流動化防止材(3号珪砂)を1.0kg/m2で接着剤表面に手撒きした。
【0031】
粒状流動化防止材を接着剤に投入後は、UHPFRCの打設を行い、コンクリートフィニッシャを再現するため振動コテを使用してUHPFRCの敷均しを行っている。なお、本試験では超速硬型のUHPFRCを使用したが、現場施工に際しては一般的なUHPFRCが使用でき、
図6には、UHPFRCの配合表の一例が示されている。
【0032】
上記のようにUHPFRCの打設・敷均し後、当該UHPFRCの可使時間内に、接着試験用の治具を固定し、材齢24時間(20℃室内養生)の接着強度試験を行った。なお、接着強度試験は建研式引張試験(φ100mm)によって試験を行っている。
【0033】
図5には、上記した室内試験の試験結果が示されている。UHPFRCの打設状況から接着剤の押出しの有無を観察したところ、接着剤に粒状流動化防止材を投入したもののうち、粒状流動化防止材投入の30分後及び60分後にUHPFRCの打設を行った場合は接着剤の押出し現象が発生しなかった。また、粒状流動化防止材投入の0分後にUHPFRCの打設を行った場合は接着剤に若干のシワが発生した。
【0034】
図7には、鋼板上の接着剤がUHPFRCによって押し出されることを防止している状況を撮影した写真画像が示されているが、
図1の写真画像と比較しても明らかなように、粒状流動化防止材が接着剤に含有されることで、非常に効果的に接着剤の押出しを抑制していることがわかる。
【0035】
また、
図6に示されるように、接着引張試験では粒状流動化防止材を投入したケースはいずれも基準値(首都高速道路株式会社:鋼構造物疲労対策技術資料‐既設鋼床版の疲労対策技術資料)である1.0N/mm
2以上の接着強度を満たしており、接着剤が押し出されることなく、UHPFRCと鋼板との間で接着効果を十分に発揮していることが確認できる。
【0036】
(その他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は必ずしも前述した構成に限定されるものではなく、以下のような変更が可能である。
【0037】
例えば、前述した室内試験では、粒状流動化防止材として3号珪砂を使用したが、必ずしもこのような粒状物や粒径に限定されるものではなく、適切に接着剤の押出しを抑制できるものであれば利用することが可能である。
【0038】
また、粒状流動化防止材の投入量についても、室内試験では1.0kg/m2で接着剤表面に手撒きしたが、0.5kg/m2以上とすることで接着剤の押出しの抑制効果を得ることができる。
【0039】
以上、本発明の各実施形態等について説明した。本発明の範囲は、上記した各実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施形態に記載された具体的な材質、寸法形状等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
11 鋼床版
12 流動化防止接着剤層
13 UHPFRC層
121 粒状流動化防止材