(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018203
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】治具、及び試料加工方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20250130BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20250130BHJP
G01N 1/32 20060101ALI20250130BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/317 D
G01N1/32 B
G01N1/28 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121712
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176599
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100205095
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 啓一
(74)【代理人】
【識別番号】100208775
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 雅章
(72)【発明者】
【氏名】稲森 崇文
(72)【発明者】
【氏名】星野 健
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 明
(72)【発明者】
【氏名】広田 潤
【テーマコード(参考)】
2G052
5C101
【Fターム(参考)】
2G052AD32
2G052AD52
2G052DA33
2G052EC18
2G052GA33
5C101AA32
5C101BB06
5C101EE73
5C101FF22
5C101FF46
5C101FF60
(57)【要約】
【課題】試料に対する荷電粒子ビーム照射位置を簡便に調整できる、治具、及び治具を用いた試料加工方法を提供する。
【解決手段】実施形態の治具は、支持部、試料固定部、ストッパーを有する。前記支持部は、第1方向と、前記第1方向に直交する第2方向とに延伸する壁部分を有する。前記試料固定部は、試料を搭載可能な試料保持面および試料保持機構を有し、回動可能である。前記ストッパーは、前記壁部分の上面に設けられ、前記試料固定部が回動したときに前記試料固定部と接触する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向と、前記第1方向と直交する第2方向とに延伸する壁部分を有する支持部と、
試料を搭載可能な試料保持面および試料保持機構を有し、回動可能な試料固定部と、
前記壁部分の上面に設けられ、前記試料固定部が回動したときに前記試料固定部と接触するストッパーと、
を有する治具。
【請求項2】
前記試料固定部は、
前記試料保持面が形成され、前記第1方向および前記第2方向と直交する第3方向から見たときに円弧部を有する試料載置部分と、
前記試料載置部分から前記第3方向に延伸し、前記壁部分を貫通するように設けられた回動軸と、
をさらに有する、請求項1に記載の治具。
【請求項3】
前記支持部における前記壁部分の側面に設けられ、前記壁部分の内部で前記回動軸と接触し、前記回動軸を固着する固着部をさらに有する、請求項2に記載の治具。
【請求項4】
前記試料固定部は、前記円弧部の円心から傾斜する屋根部をさらに有する、請求項2に記載の治具。
【請求項5】
前記屋根部は、少なくとも2個以上設けられ、2個以上の前記屋根部は前記円心からの傾斜した角度が異なる、請求項4に記載の治具。
【請求項6】
前記ストッパーは前記支持部における前記壁部分の上面に回転可能に設けられており、前記試料固定部が回動したときに前記ストッパーの下面が前記試料固定部における任意の前記屋根部と接触する、請求項4に記載の治具。
【請求項7】
前記試料固定部における前記屋根部がn(nは自然数)個設けられているとき、前記ストッパーはn-1個の凸部を有する、請求項4に記載の治具。
【請求項8】
前記ストッパーは半円弧状である、請求項4に記載の治具。
【請求項9】
前記ストッパーは、前記試料固定部における前記屋根部の数および前記屋根部の位置に対応して複数設けられる、請求項4に記載の治具。
【請求項10】
前記ストッパーは、前記壁部分の前記上面において初期位置から突出可能である、請求項1に記載の治具。
【請求項11】
前記試料固定部は、前記試料保持面に設けられ、前記試料の少なくとも一辺を固定可能なステップをさらに有する、請求項1に記載の治具。
【請求項12】
前記試料固定部が初期位置であるときに、前記試料保持面は、前記第2方向から見たとき前記壁部分の法線方向と鋭角をなすように傾斜している、請求項1に記載の治具。
【請求項13】
試料を載置可能であり、回動軸を中心に回動可能な試料固定部と、試料固定部と接触するストッパーとを備えた治具を用意し、
前記試料を試料固定部に固定し、
前記回動軸を中心に前記試料固定部を回動させ、
前記試料固定部の上面と前記ストッパーの下面が接触した時点で、前記試料固定部の回動を停止させ、
前記治具を試料加工装置に装着する、
試料加工方法。
【請求項14】
前記試料加工装置への装着後に、
前記試料に荷電粒子ビームを照射して加工する、
請求項13記載の試料加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、治具、及び試料加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡等で観察される試料を作製するために、荷電粒子ビーム装置を用いて、試料をイオンビームによって微細加工する場合がある。試料内で異なる構造が存在する場合、例えば、イオンビームの入射方向と試料内の構造境界が重なることで、1つの構造が他の構造に比べて高いレートで加工されることにより、カーテニングが起こる可能性がある。同様に、試料が周期構造を持つ場合においても、イオンビームの入射方向と試料内の構造パターンが重なることにより、カーテニングが起こる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0350998号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/0119109号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】SEM試料台、イーエムジャパン株式会社、[online]、[令和5年5月23日検索]、インターネット<https://www.em-japan.com/stub.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料に対する荷電粒子ビーム照射位置を簡便に調整できる、治具、及び試料加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の治具は、支持部、試料固定部、ストッパーを有する。前記支持部は、第1方向と、前記第1方向に直交する第2方向とに延伸する壁部分を有する。前記試料固定部は、試料を搭載可能な試料保持面および試料保持機構を有し、回動可能である。前記ストッパーは、前記壁部分の上面に設けられ、前記試料固定部が回動したときに前記試料固定部と接触する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態における荷電粒子ビーム装置の構成例を示す概略図。
【
図2】第1実施形態における治具130の構成例を示す図。
【
図3】第1実施形態における治具130の構成例を示す図。
【
図4】第1実施形態における治具130の構成例を示す上面図。
【
図5】第1実施形態における試料140を載置した場合の荷電粒子ビーム装置の構成例を示す図。
【
図6A】第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図。
【
図6B】第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図。
【
図6C】第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図。
【
図7A】第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図。
【
図7B】第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図。
【
図7C】第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図。
【
図8A】第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図。
【
図8B】第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図。
【
図8C】第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図。
【
図9】第1実施形態による試料加工方法の一例を示すフロー図。
【
図10】第1実施形態の変形例における治具130の構成例を示す図。
【
図11】第1実施形態の変形例における治具130の構成例を示す上面図。
【
図12】第2実施形態における治具130の構成例を示す上面図。
【
図13】第3実施形態における治具130の構成例を示す上面図。
【
図14】第4実施形態における試料140の断面図の一例を拡大した図。
【
図15A】第4実施形態におけるイオンビーム111照射時の試料140の断面図の一例を拡大した図。
【
図15B】第4実施形態におけるイオンビーム111照射後の試料140の断面図の一例を拡大した図。
【
図15C】第4実施形態におけるイオンビーム111照射後の試料140の上面図の一例を拡大した図。
【
図16】第4実施形態における直径D1をもつホール146の一例を示す上面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。明細書と図面において、既出の図面に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して、詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における荷電粒子ビーム装置の構成例を示す概略図である。第1実施形態における荷電粒子ビーム装置は、例えば、治具に保持された試料を、イオンビームを用いて加工する。荷電粒子ビーム装置は、例えば、集束イオンビーム(FIB、FocusedIon Beam)装置でもよい。また、FIB装置と、走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)を備えたFIB-SEM装置であってもよい。以下、FIB-SEM装置を例に説明する。
【0010】
FIB-SEM装置100は、FIBカラム110と、SEMカラム120とを有し、試料を保持可能な治具130を搭載することができる。
【0011】
FIBカラム110は、イオンを生成、集束させることでイオンビーム111を照射する。治具130に載置された試料140に、FIBカラム110からのイオンビーム111が照射されることで、試料140の任意の箇所を加工することができる。
【0012】
SEMカラム120は、電子ビームを照射し、電子ビームの照射によって試料140から放出される二次電子を検出する。FIBカラム110からイオンビーム111が試料140に照射された後、試料140のイオンビーム111が照射された任意の箇所において、SEMカラム120による電子ビームの照射、および二次電子の検出を行う。これにより、試料140における任意の箇所を観察することが可能となる。
【0013】
治具130は、試料140を保持可能である。試料140は、治具130に載置され、固定される。治具130において、試料140を載置する部分は傾いている。異なる言い方をすると、治具130は、試料140を載置可能な傾斜面を有している。また、治具130は、Y軸を中心にZ方向に傾けることが可能である。例えば、FIBカラム110から照射されるイオンビーム111に対して、治具130に固定された試料140の角度を調整したい場合には、治具130を、Y軸を中心にZ方向に傾けてもよい。
【0014】
図2、
図3は、第1実施形態における治具130の構成例を示す図である。また、
図4は第1実施形態における治具130の構成例を示す上面図である。
図2、3、および4における治具130の要素は、全て初期位置にある。
【0015】
治具130は、試料140を保持可能である。治具130には、例えば、イオンビーム、および電子ビームによって発塵、昇華、融解しにくい素材を用いることが好ましい。また、電子ビームまたはイオンビームが照射されたときに電子またはイオンによる帯電を抑制することができるように、導電性の素材を用いることが好ましい。
【0016】
治具130の制御性を向上するため、治具130には、例えば、比較的軽い金属が用いられることが好ましい。治具130には、例えば、アルミニウムが用いられ得る。治具130において、後述するそれぞれの要素は、同じ素材が用いられてもよいし、異なる素材が用いられてもよい。例えば、治具130の全ての要素をアルミニウムによって形成してもよいし、治具130の一部の要素をアルミニウムによって形成し、他の一部をアルミニウム以外の素材によって形成してもよい。
【0017】
治具130は、支持部131と、試料固定部132と、ストッパー133とを備える。
【0018】
支持部131は、床部分131aと、壁部分131bと、支持軸131cと、一対の固着部131dを備える。なお、
図2、
図3、および
図4では、一対の固着部131dが設けられる例を示したが、これに限られず、例えば1個の固着部131dのみが設けられてもよい。以下では、主に1個の固着部131dの構成に注目して説明する。
【0019】
床部分131aは、X方向およびY方向に延伸している。床部分131aは、例えば、Z方向から見たとき、円形状であってよい。
【0020】
壁部分131bは床部分131aからY方向およびZ方向に延伸している。床部分131aが円形状であった場合、壁部分131bは床部分131aの直径上に設けられていてもよい。この場合、壁部分131bのY方向の長さは床部分131aの直径の長さと同じであってもよい。壁部分131bは、後述の試料固定部132における回動軸132dを回動可能に保持する孔と、後述する固着部131dと螺合する孔とをそれぞれ有する。壁部分131bのZ方向の高さは、例えば、後述する試料固定部132のZ方向における高さと同じかそれより高くてもよい。より具体的には、壁部分131bのZ方向の高さは、例えば、試料固定部132における回動軸132dが初期位置に保持された状態で、後述する試料固定部132の屋根部132fの高さと同じかそれより高くてもよい。
【0021】
支持軸131cは、床部分131aから、Z方向に延伸している。より具体的には、支持軸131cは、床部分131aにおいて壁部分131bと接している面とは反対に位置する面から、Z方向に延伸している。つまり、支持軸131cと壁部分131bは、Z方向において互いに反対方向に延伸する。また、床部分131aが円形状であった場合には、支持軸131cは、例えば、床部分131aにおける円の中心部分からZ方向に延伸してもよい。
【0022】
固着部131dは、壁部分131bの側面に設けられている。具体的には、固着部131dは、例えば、壁部分131bにおけるY方向が法線方向となる側面に設けられてもよい。すなわち、固着部131dは、例えば、壁部分131bにおける後述する試料固定部132およびストッパー133が設けられていない側面に設けられていてもよい。
【0023】
固着部131dは、壁部分131bの側面からY方向に延伸するように形成された孔に螺合されている。固着部131dを壁部分131bの内部側に移動させた場合には、壁部分131bの内部で固着部131dの一方の端部が後述する回動軸132dと接触する。これにより、回動軸132dは壁部分131bの内部において固着され、試料固定部132も所定の位置で固定される。また、固着部131dは、壁部分131bに螺合された状態において、固着部131dの他方の端部が壁部分131bから露出される。固着部131dの他方の端部は、壁部分131bの側面からY方向に突出していてもよいし、壁部分131bの側面よりも内側に位置していてもよい。
【0024】
固着部131dと、壁部分131bの側面に形成された孔とは、例えば、螺合可能であってもよい。
【0025】
固着部131dは、複数設けられていてもよく、例えば、壁部分131bの側面において、後述する試料固定部132およびストッパー133が設けられていない側面、つまりY方向を法線方向とする2つの側面にそれぞれ設けられていてもよい。この場合、壁部分131bの内部で、回動軸132dは2箇所で一対の固着部131dとそれぞれ接触し、固着される。
【0026】
以下、固着部131dが壁部分131bの側面に形成された孔と螺合可能である場合を例に説明する。なお、固着部131dは、上述したネジの他に、例えばゴムが用いられ、壁部分131bの側面からY方向に延伸するように形成された孔に嵌ることで回転軸132dを固着してもよい。
【0027】
試料固定部132は、試料保持面132aと、試料保持部132bと、ステップ132cと、回動軸132dと、円弧部132eと、屋根部132fと、肩部132gとを備える。試料保持面132a、試料保持部132b、ステップ132c、円弧部132e、屋根部132f、肩部132g、すわなち、試料固定部132における回動軸132d以外の部分は、試料載置部分132hとして機能する。試料固定部132の試料載置部分132hは、例えば、半円柱状であってよい。
【0028】
試料保持面132aは、試料固定部132において、壁部分131bと接する面と反対に位置する面である。異なる言い方をすると、試料保持面132aは、試料載置部分132hにおいて、壁部分131bと接する面と反対に位置する面である。試料保持面132aには、試料140が載置される。試料140は、観察対象部分を有する面が、試料保持面132aと接する面と反対に位置するように載置されるのが好ましい。ここで、観察対象部分は、試料140において、FIBカラム110から照射されるイオンビーム111によって加工される部分ともいえる。Y方向から見たとき、試料保持面132aは、円弧部132eに対してなす角度θ132が鋭角となるように傾斜している。例えば、角度θ132は、FIBカラム110から照射されるイオンビーム111の照射角度と同じでもよい。
【0029】
試料保持面132aには、試料保持部132bと、ステップ132cが設けられている。
【0030】
試料保持部132bは、例えば、ネジと板バネとを備える。試料保持部132bは、試料保持機構の一部として機能する。試料140が試料保持面132aに載置された状態で、試料140の観察対象部分以外の場所を板バネで挟むことにより、試料140を試料保持面132aに対して固定する。
【0031】
ステップ132cは、Y方向から見たとき、試料保持面132aからX方向およびZ方向の少なくとも一方、またはX方向およびZ方向に突出している。ステップ132cは、試料140が略四角形形状である場合に、試料140の少なくとも1辺の位置を支持する。ステップ132cは、少なくとも試料140の1辺を支持することができる形状であれば、線形状の部材で構成されていてもよいし、2つ以上の点形状の部材で構成されていてもよい。
【0032】
ステップ132cは、試料保持機構の他の一部として機能する。すなわち、試料保持部132bとステップ132cとが協同して試料保持機構として機能する。なお、試料保持部132bのみでも試料保持機構として機能し得るし、ステップ132cのみでも試料保持機構として機能し得る。ステップ132cは、試料保持面132aと一体的に形成されていてもよいし、試料保持面132aとは別体として取り付けられていてもよい。例えば、ステップ132cは、試料保持面132aから突き出ている形態でもよいし、ほぼ平らな試料保持面132aに凸部の部材としてのステップ132cを取り付けるような形態であってもよい。
【0033】
試料140を試料保持面132aに載置するときに、試料140の一面の少なくとも一部がステップ132cと接触する場合、ステップ132cは、回動軸132dが初期位置に保持された状態で、試料140の1辺が床部分131aと略平行となるように試料140を保持可能であることが好ましい。異なる言い方をすると、ステップ132cは、回動軸132dが初期位置に保持された状態で、試料140の1辺が床部分131aとY方向において略平行となるように試料140を保持可能に構成されていることが好ましい。これにより、例えば、試料140を入れ替え、新しい試料を試料保持面132bに載置する場合にも、試料のY軸に対する角度を揃えることができる。
【0034】
回動軸132dは、試料固定部132において試料載置部分132hからX方向に延伸する。回動軸132dは、壁部分131bを貫通しており、壁部分131bの孔によって回動可能に保持されている。回動軸132dは、例えば、試料固定部132を回動可能にするネジであってもよい。試料固定部132は、回動軸132dが操作されることによって、回動軸132dを中心に壁部分131bに対して回動可能である。試料固定部132は、回動軸132dを中心に壁部分131bに対して時計回りに回動しても、反時計回りに回動してもよい。
【0035】
試料固定部132において、試料載置部分132hは、例えば、柱状であって、円弧部132eを有する。この場合、円弧部132eは、X方向から見たときに円弧形状をなしており、柱状における外周部に対応する。円弧部132eの半径は、例えば、壁部分131bのY方向における長さ、およびZ方向における長さよりも短い。試料固定部132を、円弧部132eを有するように構成することで、試料固定部132が回動したときに床部分131aとの干渉を防ぐことができる。これにより、試料固定部132と床部分131aとの距離を短くできるため、治具130全体を省スペースで構成可能となる。また、円弧部132eの半径を適切に設定することにより、試料固定部132が円弧部132eを介して床部分131aによって保持されるため、回動軸132dが壁部分131bの孔によって保持される際の重力による負荷を低減することができる。
【0036】
試料固定部132は、X方向から見たとき、円弧部132eの円心またはその近傍から屋根のように傾斜した屋根部132fが設けられていてもよい。異なる言い方をすると、屋根部132fは支持部131における壁部分131bの上面と平行でなくてもよい。屋根部132fは、円心が壁部分131bの上面と最も近く、徐々に壁部分131bの上面から遠ざかるように傾斜している。つまり、屋根部132fは、円心から床部分131a方向へと傾斜する、試料固定部132の上面である。
図2の132f1、132f2のように、屋根部132fは複数設けられていてもよい。試料固定部132は、X方向から見たときに、円弧部132eをもつ半円形状の端部を削ることで屋根部132f、および後述する肩部132gが複数設けられてもよい。また、屋根部132fのそれぞれの延長線が、円弧部132eの円心と重なっていてもよいし、重なっていなくてもよい。
【0037】
屋根部132f2は、例えば、屋根部132f2-α、および屋根部132f2-βを有する。試料固定部132をX方向から見たとき、試料載置部分132h、および回動軸132dが初期位置に保持された状態から、後述するストッパー133と屋根部132f2が接触するまでの回動角度は屋根部132f2の傾斜角度θ2α、θ2βの角度と略一致する。異なる言い方をすると、試料固定部132をX方向から見たとき、試料載置部分132h、および回動軸132dが初期位置に保持された状態から、後述するストッパー133と屋根部132f2が接触するまでの試料固定部132の回動可能な角度は、傾斜角度θ2α、あるいはθ2βとなる。
【0038】
屋根部132f1も屋根部132f2と同様に、例えば、屋根部132f1-α、および屋根部132f1-βを有する。また、試料固定部132をX方向から見たとき、試料固定載置部分132h、および回動軸132dが初期位置に保持された状態から、後述するストッパー133と屋根部132f1が接触するまでの試料固定部132の回動可能な角度は、図示しない傾斜角度θ1α、あるいはθ1βとなる。
【0039】
屋根部132f2-αの傾斜角度θ2αと屋根部132f2-βにおける傾斜角度θ2βとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、屋根部132f1-αにおける傾斜角度θ1αと屋根部132f1-βにおける傾斜角度θ1βとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。傾斜角度がそれぞれ異なる場合、傾斜角度がθ1αとθ1β、θ2αとθ2βで同じである場合よりも多くの傾斜角度を設定可能となる。これにより、カーテニング対策のために最適な傾斜角度が異なる複数の試料があるとき、同一の治具130に載置可能な試料の種類が増える。
【0040】
なお、試料固定部132において円弧部132eの円心と、試料固定部132の回動軸132dは必ずしも一致する必要はない。この場合、図中の傾斜角度θ1α、θ1β、θ2α、およびθ2βは、試料固定部132の回動角度とは厳密には一致しない。この場合でも、傾斜角度θ1α、θ1β、θ2α、およびθ2βに応じて、試料固定部132に固定された試料140を、イオンビーム111の照射方向に対する初期位置からの角度が変化するように、回動させることができる。
【0041】
試料固定部132において、屋根部132f1と円弧部132eの間、屋根部132f1、および屋根部132f2の間には肩部132g1、および肩部132g2がそれぞれ設けられる。肩部132g2は、屋根部132f2の一部であり、屋根部132f2―α、屋根部132f2―βにおいて円心を一方の端部としたときに、円心とは逆の端部である。肩部132g1は、屋根部132f1の一部であり、屋根部132f1―αと円弧部132e、屋根部132f1―βと円弧部132eのそれぞれの境界となる端部である。肩部132gも屋根部132fと同様に、複数設けられてもよい。この場合、後述するストッパー133と屋根部132fが接触するとき、例えば、少なくとも肩部132gがストッパー133の下面と接触すれば、試料固定部132の回動が停止する。
【0042】
ストッパー133は、壁部分131bのZ方向における上面に設けられる。ストッパー133は基部133aと先端部(凸部)133bを有する。ストッパー133の基部133aは、壁部分131bの上面に、X-Y平面において回転可能に設けられる。また、ストッパー133の先端部133bは、Z方向から見たとき、X-Y平面において壁部分131bから突出可能である。異なる言い方をすると、ストッパー133は、Z方向から見たときX方向において壁部分131bから突出していない初期位置から、Z方向から見たとき少なくとも一部がX方向において壁部分131bから突出している突出位置へと移動可能である。ストッパー133が壁部分131bから突出した状態で試料固定部132を回動させると、屋根部132fがストッパー133の下面に接触する。ストッパー133は、試料固定部132の回動軸132dを中心とした回動の範囲を制限する機能を有する。
【0043】
ストッパー133は、試料固定部132の時計回りの回動、および反時計回りの回動に合わせて2つ設けられていてもよい。第1実施形態においては、壁部分131bのZ方向における上面の中心付近にストッパー133の軸を設け、回転可能としているが、ストッパー133の形状はこれに限らない。
【0044】
試料固定部132を、回動軸132dを中心として回動させた場合に、ストッパー133は所定の位置で試料固定部132と接触する。つまり、試料固定部132を、回動軸132dを中心として回動させた場合、試料固定部132の屋根部132fと、ストッパー133の下面が接触する。ストッパー133の下面が屋根部132fと接触した時点で、試料固定部132の回動を停止することで、試料140の観察対象部分を有する面のイオンビーム111の照射方向に対する角度を調整できる。
【0045】
ストッパー133の先端部133bは、例えば、凸部として形成されていてもよい。以下では、ストッパー133の先端部133bのことを凸部133bともいう。ストッパー133には、例えば、屋根部132fの個数に合わせて、凸部133bが形成されていてもよい。凸部133bとは、ストッパー133において壁部分131bのZ方向における上面に固定された基部133aと反対側の端部、つまり、先端部133b側の形状の一例である。凸部を有するストッパー133は、X-Y平面上において、基部133aから先端部133bまでが一直線状になっていない。つまり、ストッパー133の基部133aから先端部133bの途中で幅が広がるような形状を有する。
【0046】
ストッパー133の基部133aの幅と、先端部(凸部)133bの幅は略同一となっていてもよい。ストッパー133における基部133aの幅と先端部(凸部)133bの幅が略同一である場合、基部133aから先端部(凸部)133bまでのストッパー133の幅が細くなり、先端部(凸部)133bで基部133aと略同一の幅に広がっている。このような形状により、壁部分131bからストッパー133の凸部をX方向において突出させたとき、ストッパー133は屋根部132f2との接触を避けながら屋根部132f1と接触することができる。
【0047】
ストッパー133は、例えば、nを自然数とするとき、屋根部132fの個数がn個であった場合、n-1個の凸部を有する。
図11のようにストッパー133が2個以上の凸部を有する場合、X-Y平面において、2個以上の凸部はいずれも基部133aよりも幅が広くなっていてもよいし、基部133aの幅と、凸部の幅は略同一となっていてもよい。ストッパー133が2個以上の凸部を有するときに基部133aの幅と凸部の幅が略同一となっている場合、X-Y平面において基部133aに近い凸部では、幅が広くなった後、徐々に幅が細くなる形状であってもよい。このような形状を有することで、他の凸部の幅を広げる場合に、基部133aに近い凸部と同じような幅(Z方向からみたとき、基部133aと略同一の幅)を持つ凸部を設けることができる。つまり、凸部において幅が広がった後徐々に細くなることで、複数設けられた凸部の幅をいずれも基部133aの幅と略同一とすることができる。
【0048】
ストッパー133が凸部を有することで、
図2において屋根部132f1、および屋根部132f2のように屋根部132fが複数個ある場合でも、単一のストッパー133の回転量を調整すれば各屋根部132fにおいて単一のストッパー133と接触させることが可能となる。つまり、ストッパー133の下面と屋根部132f1とを接触させたい場合に、壁部分131bからストッパー133の凸部をX方向に突出させることで、ストッパー133は屋根部132f2との接触を避けながら屋根部132f1と接触することができる。
【0049】
図5は、第1実施形態において試料140を載置した場合の荷電粒子ビーム装置の構成例を示す図である。FIB-SEM装置100において、FIBカラム110から照射されるイオンビーム111は、治具130に載置された試料140の表面に対して略平行に照射されてもよい。例えば、試料固定部132における傾斜角度θ132を45度に設定した場合、FIBカラム110は、Z軸から45度傾いた位置からイオンビーム111を照射する。
【0050】
FIBカラム110から照射されるイオンビーム111は、一点に収束する。違う言い方をすると、イオンビーム111は、焦点を頂点とした円錐状となり、焦点以外の箇所においては、ビーム幅を有する。このビーム幅をイオンビーム111の未集束部分とする。
【0051】
FIBカラム110から照射されるイオンビーム111が、治具130に載置された試料140の表面に対して略平行に照射される場合、イオンビーム111における未集束部分も試料に照射される。そのため、試料の表面に対して深さ方向に少し傾くようにイオンビーム111が試料140を加工する。つまり、試料140においてイオンビーム111の照射箇所では、場所によって深さの異なる構造を観察できる。これにより、例えば、一回のイオンビーム111の照射によって、試料140の深さ方向のパターン形状、積層膜を観察することが可能となる。試料において観察したい箇所が、薄膜が積層された構造や比較的浅いホールパターンを持っている場合には、治具130を用いて試料表面に対して略平行にイオンビーム111を照射することで、薄膜の構造を詳細に観察することができる。
【0052】
図6、
図7、
図8は、第1実施形態における治具130を用いた試料140の角度調整動作の例を示す図である。
図6-8(A)は、それぞれ、治具130をX方向から見た図である。
図6-8(B)は、それぞれ、治具130をY方向から見た図である。
図6-8(C)は、それぞれ、治具130をZ方向から見た図である。なお、
図6-8では先述した要素について、適宜省略して示している。
【0053】
図6は、試料固定部132を初期位置に保持した治具130である。試料固定部132は、ストッパー133と接触していなくてもよい。例えば、
図6の状態の治具130において、試料140が試料保持面132aに載置される。
【0054】
図7は、試料固定部132を一段階回動させた状態を示している。つまり、
図7は、試料固定部132を、屋根部132f2-αとストッパー133の下面が接触するまで回動させた後、その状態を維持したまま試料固定部132の回動が停止している状態を示している。試料固定部132は、
図6に図示した傾斜角度θ2α分回動し、ストッパー133の下面と接触して回動を停止する。試料固定部132の回動停止後、壁部分131bに設けられた固着部131dの一端が壁部分131bの内部の回動軸132dと接触するまで固着部131dを回転させることにより、試料固定部132を締め付ける。これにより、固着部131dは、試料固定部132を回動後の位置で固着させる。
【0055】
試料140を治具130に載置していた場合、試料140も試料固定部132の回動に合わせて傾き、イオンビーム111の照射方向に対する角度が変化する。
【0056】
図8は、試料固定部132を二段階回動させた状態を示している。つまり、
図8は、試料固定部132を、屋根部132f1-αとストッパー133の下面が接触するまで回動させた後、その状態を維持したまま試料固定部132の回動が停止している状態を示している。試料固定部132は、
図6に図示した傾斜角度θ1α分回動し、ストッパー133の下面と接触して回動を停止する。試料固定部132の回動停止後、壁部分131bに設けられた固着部131dの一端が壁部分131bの内部の回動軸132dと接触するまで固着部131dを回転させることにより、試料固定部132を締め付ける。これにより、固着部131dは、試料固定部132を回動後の位置で固着させる。
【0057】
試料140を治具130に載置していた場合、試料140も試料固定部132の回動に合わせて傾き、イオンビーム111の照射方向に対する角度が変化する。
【0058】
次に、治具130を用いた試料加工方法について説明する。
【0059】
図9は、第1実施形態による試料加工方法の一例を示すフロー図である。
【0060】
まず、治具130の試料固定部132における試料保持面132aに、試料140を載置する。このとき、試料140の少なくとも一辺が、ステップ132cによって支持されてもよい。試料140を試料保持面132aに載置した後、試料保持部132bによって試料140が固定される(S10)。
【0061】
試料140を試料固定部132に固定した後、試料固定部132を、回動軸132dを中心に壁部分131bに対して回動させる(S20)。試料固定部132はX方向を中心として時計回りに回動してもよいし、反時計回りに回動してもよい。
【0062】
図6-8で説明したように、試料固定部132を、ストッパー133の下面が屋根部132fに接触するまで回動させる。これにより、イオンビーム111の照射方向に対する試料140の角度が所定の角度に調整される。このとき、壁部分131bのZ方向における上面の設けられたストッパー133によって、試料固定部132の回動角度を決定できる。より具体的には、試料固定部132を、回動軸132dを中心として回動させた場合、試料固定部132における屋根部132fと、ストッパー133の下面が接触する。ストッパー133の下面が屋根部132fと接触した時点で、試料固定部132の回動を停止する(S30)。つまり、屋根部132fの傾斜角度を適切に設定することで、試料固定部132の回動角度が所望の範囲となるように調整可能となる。なお、例えば、屋根部132fの傾斜角度は、操作者によって適切な角度に変更されてもよい。例えば、屋根部132f2とストッパー133の下面が接触したとき、試料固定部132は、初期位置に保持された状態と比べて5度傾いていてもよい。この場合、屋根部132fの傾斜角度θ2αは、5度である。また、例えば、屋根部132f1とストッパー133の下面が接触したとき、試料固定部132は、初期位置に保持された状態と比べて10度傾いていてもよい。この場合、屋根部132fの傾斜角度θ1αは、10度である。このように、治具130を用いる操作者が、試料を傾けたい角度によって、屋根部132fの傾斜角度、および屋根部132fの数を変更してもよい。
【0063】
ストッパー133の下面が屋根部132fと接触し、試料固定部132の回動が停止した後、試料固定部132が回動後の位置から動かないように、試料固定部132を固着部131dにより固着させる(S40)。試料固定部132の回動停止後、壁部分131bに設けられた固着部131dの一端が、壁部分131bの内部で回動軸132dと接触するまで固着部131dを回転させることにより試料固定部132を締め付ける。
【0064】
試料固定部132の回動が停止し、所定の位置で固着された後、FIBカラム110からイオンビーム111が照射され、試料140が加工される(S50)。なお、X-Y平面において壁部分131bから突出した状態のストッパー133が、イオンビーム111と試料140との間に存在する場合、ストッパー133が試料140へのイオンビーム111の入射を阻害してしまう可能性がある。ストッパー133がイオンビーム111の軌道と重なる場合には、試料固定部132を固着部131dによって固着させた後にストッパー133を初期位置に戻してもよい。つまり、試料固定部132の回動をストッパー133によって停止させ、固着部131dによって試料固定部132を固着した後で、FIBカラム110からのイオンビーム111を照射するときに、ストッパー133を初期位置である壁部分131bのZ方向における上面に戻してもよい。
【0065】
FIBカラム110からイオンビーム111を照射して試料140の任意の箇所を加工した後、SEMカラム120を用いて試料140の被加工面を観察する。
【0066】
なお、ストッパー133と接触する屋根部132fは、屋根部132fの大部分、あるいは半分以上がストッパー133と接触してもよいし、屋根部132fの一点、あるいは一部がストッパー133と接触してもよい。
【0067】
荷電粒子ビーム装置では、カーテニングを防ぐため、治具に試料を載置するときに試料の観察対象部分を有する面のイオンビームの照射方向に対する角度を調整する。治具への載置のときの試料の傾斜角度調節は、通常、操作者によって実施される。操作者は、経験に基づいて目分量で試料を傾斜させ、カーボンテープ等で治具に固定する。そのため、治具に載置された試料の傾斜角度は、操作者によってばらつきがある可能性があった。
【0068】
第1実施形態の治具130は、試料固定部132、および回動機構を有しているため、簡便に試料を傾斜させることができる。さらに、屋根部132fの傾斜角度を予め設定しておくことで、回動位置を設定した角度と正確に対応させることができる。つまり、試料を取り換え、新しい試料を治具130に載置し、試料固定部132を回動させた場合、前回載置されていた試料と同じ傾斜角度とすることが可能となる。これにより、操作者によってばらつく可能性のあった治具に載置された試料の傾斜角度を、治具130を用いることで揃えることができる。
【0069】
さらに、イオンビーム111の入射方向と試料内の構造パターンとが重ならないような試料の傾斜角度をあらかじめ算出しておいてもよい。算出した試料の傾斜角度に合わせて、屋根部132fの傾斜角度を設定しておくことで、操作者によって試料をカーボンテープ等で治具に固定する場合と比べて角度調節の再現性が向上する。すなわち、本実施形態の治具130を用いることで、試料140をX方向からみたときに、例えばイオンビーム111の入射方向と試料140内の構造パターンが重なる状態を避けることができる。つまり、試料140の表面において傾いた方向からイオンビーム111が照射される状態(イオンビーム111の入射方向と試料内の構造パターンが重ならず、カーテニングが発生しにくくなる状態)を、簡便に実現することができる。また、その状態の再現性を向上させることができる。すなわち、治具130に載置する試料を交換した場合でも、試料の表面に対するイオンビーム111の入射方向と試料内の構造パターンとがなす角度を一定にすることができる。
【0070】
(変形例)
図10は、第1実施形態の変形例における治具130の構成例を示す図である。また、
図11は第1実施形態の変形例における治具130の構成例を示す上面図である。
【0071】
本変形例では、試料固定部132をX方向から見たとき、円弧部132eの円心部から屋根のように傾斜した屋根部132fが設けられている。異なる言い方をすると、屋根部132fは支持部131における壁部分131bの上面と平行でなくてもよい。屋根部132fは、円心が壁部分131bの上面と最も近く、徐々に壁部分131bの上面から遠ざかるように傾斜している。つまり、屋根部132fは、円心から床部分131a方向へと傾斜する、試料固定部132の上面である。このとき、
図10、
図11の治具130には132f1、132f2、132f3のように、3個の屋根部132fが設けられている。また、先述した肩部132g1、肩部132g2と共に、屋根部132f2、および屋根部132f3の間には肩部132g3が設けられる。
【0072】
試料固定部132は、例えば、円弧部132eをもつ半円形状から、端部を削ることで肩部132gを複数持つ形状へと加工されてもよい。屋根部132fのそれぞれの延長線が、円弧部132eの円心と重なっていてもよいし、重なっていなくてもよい。
【0073】
ストッパー133と接触する屋根部132fは、屋根部132fの大部分、あるいは半分以上がストッパー133と接触してもよいし、屋根部132fの一点、あるいは一部がストッパー133と接触してもよい。例えば、少なくとも肩部132gがストッパー133の下面と接触した時点で、試料固定部132の回動を停止させてもよい。
【0074】
屋根部132f3は、例えば、屋根部132f3-α、および屋根部132f3-β有する。屋根部132fは、それぞれ、α、β有する。また、試料固定部132をX方向から見たとき、試料載置部分132h、および回動軸132dが初期位置に保持された状態から、後述するストッパー133と屋根部132f3が接触するまでの試料固定部132の回動角度は、傾斜角度θ3α、あるいはθ3βとなる。
【0075】
屋根部132f3-α、および屋根部132f3-βにおける傾斜角度θ3α、θ3βは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0076】
本変形例のストッパー133は、3個の屋根部132fに合わせて2個の凸部を有する。これにより、
図11において屋根部132f1、屋根部132f2、および屋根部132f3のように屋根部132fが複数個ある場合でも、単一のストッパー133の回転量を調整することで、各屋根部132fにおいて単一のストッパー133と接触させることが可能となる。
【0077】
本変形例のその他の構成および動作は、第1実施形態と同様でよい。本変形例のような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、屋根部132fの数は、操作者によって決定可能であり、何個設けられていてもよい。さらに、ストッパー133の数、あるいはストッパー133における凸部は、操作者によって決定可能であり、何個設けられていてもよい。
【0078】
(第2実施形態)
図12は第2実施形態における治具130の構成例を示す上面図である。第2実施形態では、治具130は円弧状のストッパー133を複数個有する。
【0079】
ストッパー133は、例えば、屋根部132fが複数個設けられている場合には、屋根部132fごとに設けられていてよい。つまり、屋根部132f1に対応して設けられるストッパー133aと、屋根部132f2に対応して設けられるストッパー133bのように、ストッパー133は複数個あってもよい。
【0080】
ストッパー133は、壁部分131bのZ方向における上面に設けられる。ストッパー133は、壁部分131bの上面に、X-Y平面において回転可能となるように固定されている。ストッパー133の先端部は、Z方向から見たとき、X-Y平面において壁部分131bから突出可能である。ストッパー133が壁部分131bから突出した状態で試料固定部132を回動させると、屋根部132fがストッパー133の下面に接触する。
【0081】
円弧状のストッパー133a、133bの円心は、例えば、壁部分131bのZ方向における上面の中心と一致してもよい。
【0082】
第2実施形態のその他の構成および動作は、第1実施形態と同様でよい。第2実施形態のような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、ストッパー133は、屋根部132fの数に合わせて設けることも可能であり、複数個設けられていてもよい。
【0083】
(第3実施形態)
図13は第3実施形態における治具130の構成例を示す上面図である。第3実施形態では、治具130は四辺形状のストッパー133を1個、あるいは複数個有する。
【0084】
ストッパー133は、例えば、屋根部132fが複数個設けられている場合には、屋根部132fにおけるα、βごとに設けられていてよい。つまり、屋根部132f1-αに対応して設けられるストッパー133aと、屋根部132f1-βに対応して設けられるストッパー133bと、屋根部132f2-αに対応して設けられるストッパー133cと、屋根部132f2-βに対応して設けられるストッパー133dのように、ストッパー133は複数個設けられていてもよい。
【0085】
ストッパー133は、壁部分131bのZ方向における上面に設けられる。ストッパー133は、壁部分131bの上面に固定されている。ストッパー133は、Z方向から見たとき、X-Y平面において壁部分131bから突出可能である。ストッパー133が壁部分131bから突出した状態で試料固定部132を回動させると、屋根部132fがストッパー133の下面に接触する。
【0086】
ストッパー133は、屋根部132fの数に合わせて設けることも可能であり、複数個設けられていてもよい。また、ストッパー133は、壁部分131bから取り外し、あるいは壁部分131bの上面においてスライドするように移動可能であり、ストッパー133と接触させたい屋根部132fに合わせた位置に移動させることも可能である。つまり、壁部分131bの上面において移動可能な1個のストッパー133を設けることで、ストッパー133と接触させたい屋根部132fの位置に合わせてストッパー133の設置位置を変えることができる。この場合、ストッパー133の数を少なくすることができる。さらに、屋根部132fに合わせてストッパー133の形状を変える必要がない。
【0087】
ストッパー133の取り外し、壁部分131bの上面において移動可能である場合、屋根部132fの左右(α、βごと)において別々にストッパー133を設けてもよい。
【0088】
第3実施形態のその他の構成および動作は、第1実施形態と同様でよい。第3実施形態のような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。ストッパー133は、屋根部132fの数に合わせて設けることも可能であり、複数個設けられていてもよい。また、ストッパー133の形状は四辺形状に限られず、例えば、三角形状であってもよい。
【0089】
(第4実施形態)
図14は、第4実施形態における試料140の断面図の一例を拡大した図である。
図15は、第4実施形態におけるイオンビーム111照射時、および照射後の試料140の断面図あるいは上面図の一例を拡大した図である。
【0090】
図14は、第4実施形態において、試料140が半導体試料であるときの断面図の一例である。試料140には、基板141上に酸化シリコン膜142、および窒化シリコン膜143が交互に積層された積層膜144が形成されている。試料140において、メモリホールやコンタクトホールなどのホール146が設けられるとき、積層膜144上にはホール146に対応した形状を有するマスク145が設けられる。この状態で試料140に対してパターン形成のためのエッチングを行うと、積層膜144が加工されてホール146が下側に延伸するにつれて、マスク145の側面に堆積物145αが蓄積する。なお、以下の説明におけるホール146は、積層膜144におけるホールだけでなく、マスクにおけるホールも含む。
【0091】
堆積物145αがマスク145の側面に堆積すると、ホール146の形状が影響を受ける可能性がある。例えば、ホール146の底に対するエッチング量が低下し、ホール146が深くなるにつれて先細りとなる可能性がある。
【0092】
ホール146の径が深さ方向においてどのように変化しているのか、異なる地点でのホール146の形状を正確に検査する必要がある。ホール146の直径が深さ方向において均等になっているか検査するときに、本件の治具130を用いることで、試料140をFIBカラム110からのイオンビーム111によって削り、SEMカラム120によって観察することができる。
【0093】
図15Aは、第4実施形態におけるイオンビーム111照射時の試料140の断面図の一例を示した図である。
図15Bは、第4実施形態におけるイオンビーム111照射後の試料140の断面図の一例を示した図である。
図15Cは、第4実施形態におけるイオンビーム111照射後の試料140の上面図の一例を示した図であり、イオンビーム111照射によって加工された後の試料140におけるホール146の上面図である。
【0094】
図15AのようにFIBカラム110から照射されるイオンビーム111は、例えば、その中心軸111cが治具130に載置された試料140の表面に対して略平行となるように照射されてもよい。
図15Aにおいて、中心軸111cが治具130に載置された試料140の表面に対して略平行となるように、イオンビーム111が照射されるとする。FIBカラム110は、一点に向かってイオンビーム111を集束させる。違う言い方をすると、イオンビーム111は、焦点を頂点とした円錐状となり、焦点以外の箇所においては、ビーム幅、つまり未集束部分を有する。そのため、試料140においてFIBカラム110から遠い箇所がイオンビーム111の焦点として設定されると、集束途中のイオンビーム111の形状に沿って(ビーム幅に沿って)試料140が加工される。
【0095】
図15Bは、
図15Aに示した試料140の表面に対するイオンビーム111の照射が終了したときの図である。先述したように、集束途中のイオンビーム111の形状に沿って、試料140の底面から試料140の上面までの高さが異なっている。
【0096】
ここで、
図15B、および
図15Cの状態を、SEMカラム120によって試料140の表面を観察することで計測する場合、試料140の表面におけるホール146の直径の大きさD1~D5を比較する。その結果、一度のイオンビーム112の照射によって、深さ方向において異なる箇所でのホール146の直径D1~D5をそれぞれ計測できる。
【0097】
ホール146において、深さ方向における直径の変化を検査したい場合には、
図14のように試料140を断面が見えるように削ることで計測することも考えられる。しかし、試料140における断面の観察では、ホール146の直径は非常に小さく、その断面をホール146の直径と一致させることが難しい。
【0098】
図16は、第4実施形態における直径D1をもつホール146の一例を示す上面図である。ホール146において、計測したい直径はD1であるが、試料140を断面が見えるように削ったときに、断面におけるホール146の直径がD´1である可能性がある。
【0099】
本件では、試料140の表面を削り、削れた後の試料140の加工表面をSEMによって観察するため、ホール146の直径を加工表面から容易に特定できる。よって、試料140の深さ方向におけるパターン形状の変化を、正確に検査することができる。
【0100】
また、本実施形態で用いる治具130は、試料固定部132とストッパー133によって試料140の傾斜角度を設定できる。例えば、試料の傾斜角度を操作者が手作業で調節し、試料140と同じ種類である複数の試料を繰り返し載置した場合、それぞれの試料の傾斜角度が大きく異なる可能性がある。この場合、試料の表面に対して照射されるイオンビームの向きも試料を載置する度に異なる。よって、試料表面に対してイオンビーム111が斜めに入射してくる場合、試料を交換する度にパターン(例えば、複数のホール146)の間隔に差が出る可能性がある。さらに、同じ試料で同じ場所に配置されたパターン(例えば、複数のホール146)においても、試料の加工後の表面に露出しているパターンの深さ方向に対する位置が異なる可能性がある。
【0101】
これに対し、本実施形態の治具130を用いることで、試料固定部132とストッパー133によって試料の傾斜角度を制御できる。よって、試料表面に対してイオンビーム111が斜めに入射してくる場合でも、この入射してくる角度を揃えることができる。すなわち、試料を交換してもパターン(例えば、複数のホール146)の間隔が揃い、同じ試料で同じ場所に配置されたパターン(例えば、複数のホール146)においても、試料の加工後の表面に露出しているパターンの深さ方向に対する位置も揃えることができる。複数の同一の試料を用いて何度もパターン形成に関する検査を行う場合でも、前回、またはそれ以後の検査結果との比較を正確に行うことが可能となる。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0103】
100 FIB―SEM装置
110 FIBカラム
120 SEMカラム
130 治具
131 支持部
131a 床部分
131b 壁部分
131c 支持軸
132d 固着部
132 試料固定部
132a 試料保持面
132b 試料保持部
132c ステップ
132d 回動軸
132e 円弧部
132f 屋根部
132g 肩部
132h 試料載置部分
133 ストッパー
133a 基部
133b 先端部(凸部)