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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018258
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】音響装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20250130BHJP
【FI】
H04R1/02 101B
H04R1/02 102B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121815
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【テーマコード(参考)】
5D017
【Fターム(参考)】
5D017AD12
5D017AE18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シートに設置されて、着座している聴取者の耳に、低い周波数帯域で強調した音圧を与える音響装置を提供する。
【解決手段】音響装置10は、エンクロージャ11とスピーカユニット20がシートバック2の内部に固定され、エンクロージャ11から延びるダクト12の開口部12bが聴取者6の耳Eに向けられている。エンクロージャ11とダクト12とで構成されるヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数が、スピーカユニット20の振動部の質量とダクト12内の空気の負荷質量とを含む振動系質量の共鳴周波数よりも高い帯域に設定され、スピーカユニット20の振動板からの直線距離Lsよりも、ダクト12の開口部12bからの直線距離Ldが近い位置に、聴取位置が設定されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンクロージャと、前記エンクロージャの内部空間に連通するダクトと、前記エンクロージャの内部と前記エンクロージャの外部とに向けて互いに逆位相の音圧を与えるスピーカユニットと、を有する音響装置において、
少なくとも前記エンクロージャと前記スピーカユニットとがシートに固定されており、
前記エンクロージャと前記ダクトとで構成されるヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdが、前記スピーカユニットの振動部の質量とダクト内の空気の負荷質量とを含む振動系質量の共鳴周波数F0よりも高い帯域に設定され、
前記スピーカユニットの振動板からの直線距離Lsよりも、前記ダクトの開口部からの直線距離Ldが近い位置に、聴取位置が設定されていることを特徴とする音響装置。
【請求項2】
前記スピーカユニットおよび前記エンクロージャがシートバック内またはシートクッション内に収納されており、
前記エンクロージャの内部に与えられる音圧と逆位相の音圧が前記スピーカユニットからシートに着座した聴取者に向けられ、前記ダクトの前記開口部が着座者の耳の近くに開口している請求項1記載の音響装置。
【請求項3】
前記ダクトはフレキシブルホースであり、少なくとも一部が前記シートバックに収納されている請求項2記載の音響装置。
【請求項4】
前記振動系質量の共鳴周波数F0が、100Hz未満である請求項1ないし3のいずれかに記載の音響装置。
【請求項5】
前記ダクトの開口部から得られる音圧は、
100Hzよりも低い周波数帯域に位置するピークと、100Hzよりも高い周波数帯域に位置するピークを有している請求項4記載の音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内などに設置されたシートに着座している聴取者に対し、低音域を強調した音圧を与えることができる音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図3に、座席に設置された音響装置が示されている。この音響装置は、上側音響チャンバと下側音響チャンバとを有する音響エンクロージャを含んでいる。上側音響チャンバと下側音響チャンバとの結合部にスピーカユニットである電気音響変換器が設けられている。電気音響変換器の一方の放射面が上側音響チャンバに音響的に結合され、他方の放射面が下側音響チャンバに音響的に結合されている。上側チャンバ出口が座席に座った人の頭の近くに開口している。下側チャンバ出口は床に向けて下向きに開口しており、下側チャンバ出口は、人の頭から著しく遠くに位置している。
【0003】
特許文献1の段落[0017]には、座席に座った人の頭は、下側チャンバ出口よりも上側チャンバ出口に著しく近いため、座った人によって聞かれる音は、下側チャンバ出口よりも上側チャンバ出口からの放射によってはるかに大きな影響を受ける、ことが記載されている。また段落[0011]には、電気音響変換器から上側音響チャンバに与えられる圧力波と下側音響チャンバに与えられる圧力波は位相が反対である、と記載され、段落[0017]などには、下側チャンバ出口および上側チャンバ出口から相対的に等距離にある位置(50)などでは、2つの出口からの音響エネルギーは位相差に起因する弱め合う干渉のため、座った人の頭の近くよりも小さな振幅を有する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-82220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、上側チャンバ出口が人の頭の近くに位置して、この出口から人の頭に音響エネルギーが与えられることが記載されてはいるが、上側音響チャンバによってどのような共鳴動作が行われるのかは明らかにされていない。エンクロージャとダクトとを有する一般的なヘルムホルツレゾネータは、その共鳴周波数が、ダクトの管路長に反比例しダクトの開口断面積に比例するが、特許文献1に記載された上側チャンバ出口は、管路長がほぼゼロであるため、上側音響チャンバによって低い帯域の共鳴を生じさせることができないであろうことは容易に予測できる。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、車両内などのシートに座った人が比較的広い帯域の低音を十分に大きな音圧で聴くことができ、シートから離れた場所では低音域の音圧を減衰させることができる音響装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エンクロージャと、前記エンクロージャの内部空間に連通するダクトと、前記エンクロージャの内部と前記エンクロージャの外部とに向けて互いに逆位相の音圧を与えるスピーカユニットと、を有する音響装置において、
少なくとも前記エンクロージャと前記スピーカユニットとがシートに固定されており、
前記エンクロージャと前記ダクトとで構成されるヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdが、前記スピーカユニットの振動部の質量とダクト内の空気の負荷質量とを含む振動系質量の共鳴周波数F0よりも高い帯域に設定され、
前記スピーカユニットの振動板からの直線距離Lsよりも、前記ダクトの開口部からの直線距離Ldが近い位置に、聴取位置が設定されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の音響装置は、前記スピーカユニットおよび前記エンクロージャがシートバック内またはシートクッション内に収納されており、
前記エンクロージャの内部に与えられる音圧と逆位相の音圧が前記スピーカユニットからシートに着座した聴取者に向けられ、前記ダクトの前記開口部が着座者の耳の近くに開口しているものが好ましい。
【0009】
本発明の音響装置は、前記ダクトはフレキシブルホースであり、少なくとも一部が前記シートバックに収納されているものとして構成することができる。
【0010】
本発明の音響装置は、前記振動系質量の共鳴周波数F0が、100Hz未満であることが好ましい。
【0011】
本発明の音響装置は、前記ダクトの開口部から得られる音圧が、
100Hzよりも低い周波数帯域に位置するピークと、100Hzよりも高い周波数帯域に位置するピークを有しているものである。
【発明の効果】
【0012】
エンクロージャとエンクロージャの内部空間に連通するダクトとで構成されるヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdは、エンクロージャの内容積(V)とダクトの管路長(L)および断面積(S)とで物理的に算出される{Fd=(C/2・π)√(S/V・L);Cは音速}。共鳴周波数Fdは、エンクロージャの内容積(V)とダクトの管路長(L)に反比例し、ダクトの断面積(S)に比例する。ヘルムホルツレゾネータの動作では、エンクロージャ内に入力する圧力の波の周波数が前記共鳴周波数Fdに一致したときに、エンクロージャ内の空気がバネのように伸縮してダクト内の空気が入力圧力波と逆の位相で共振する。入力圧力波が前記共鳴周波数Fdよりも高くなると、エンクロージャ内の空気がバネのように伸縮するがダクト内の空気は動きにくくなる。入力圧力波が前記共鳴周波数Fdよりも低くなると、エンクロージャ内の空気が伸縮する分だけダクト内の空気が移動し、ダクト内の空気は入力圧力波と同じ位相でダクト内を移動するようになる。
【0013】
本発明の音響装置は、エンクロージャにスピーカユニットが取り付けられているバスレフ構造を用い、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdよりも低い帯域において、スピーカユニットの振動部の質量と前記振動部と同じ周期で動くダクト内の空気の負荷質量とを含む振動系質量Mmsが共鳴(共振)できるようにしている。すなわち、スピーカユニットのダンパー部材およびエッジ部材さらにエンクロージャ内の空気の弾性率を考慮したバネ支持系Kmsのバネ係数と、前記振動系質量Mmsと、から算出される共鳴周波数F0が、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdよりも低い周波数帯域に設定されている。本明細書では、このときの共鳴周波数F0を、「バスレフ構造におけるスピーカシステムの振動系質量Mmsの共鳴周波数F0」と呼ぶ。本発明は、例えば、スピーカユニット20の振動部の質量を大きくし、ダクト12の内径を小さくし管長を長くしてダクト内の空気の負荷質量を大きくすることなどで振動系質量Mmsを重く設計し、さらにスピーカシステム20のバネ支持系Kmsのバネ係数を低く設計することで、振動系質量Mmsの共鳴周波数F0を、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdよりも低い周波数帯域に調整している。
【0014】
本発明の音響装置は、バスレフ構造において、スピーカユニットの振動部とダクト内の空気の負荷質量とを含む振動系質量Mmsの共鳴周波数F0よりも、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdを高い周波数帯域に設定することにより、ダクトの開口部から放射される音圧に着目したときに、その音圧のレベルを、共鳴周波数F0付近から共鳴周波数Fd付近までの広い帯域において高めることができ、いわゆるバンドパス音響装置として動作させることが可能になる。
【0015】
本発明の音響装置は、少なくともエンクロージャとスピーカユニットとがシートに固定されており、スピーカユニットの振動板からの直線距離Lsよりも、ダクトの開口部からの直線距離Ldが近い位置に、聴取位置を設定している。そのため、着座者の耳にダクトの開口部から直接的に音圧が与えられ、着座者がF0付近からFd付近の帯域で低音域が強調された音を優先的に聴くことが可能になる。ただし、スピーカユニットが動作して共鳴周波数F0付近から共鳴周波数Fd付近までの広い帯域の音圧を発生させているとき、スピーカの振動部とダクト内の空気は同相で動作するため、ダクトから外部空間に放出される音圧と、スピーカユニットの振動板からエンクロージャの外部空間(エンクロージャの内部空間と逆の空間)に与えられる音圧とが逆位相となる。そのため、ダクトの開口部から離れた場所では、逆位相の音圧どうしが相殺するように干渉することになり、共鳴周波数F0付近から共鳴周波数Fd付近までの低音の音を抑制することができる。例えば、車両の車室内のシートに音響装置が搭載されている場合には、シートの着座者の耳で前記帯域の音を強調して聴き取ることができるが、ダクトの開口部から離れた車室内、さらには車外へは、共鳴周波数F0付近から共鳴周波数Fd付近までの低音の音が漏れ出しにくくなる。
【0016】
低音域の音圧を人の耳で効果的に聴取するためには、低音域の音圧を上げることが必要であり、逆に低音域の音圧は周囲に伝搬しやすく、例えば車両の外板も通過して伝搬しやすい。本発明の音響装置は、聴取者の耳には低音域を比較的広い帯域で強調して与えることができ、一方で音響装置から離れた場所では低音域の音圧を減少させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】音響装置が車両内のシートのシートバック内に取り付けられた本発明の第1実施形態を示す側面図、
図2図1に示される音響装置の拡大断面図、
図3】音響装置が車両内のシートのシートクッション内に取り付けられた本発明の第2実施形態を示す側面図、
図4】本発明の音響装置の実施例1において、ダクトの開口部付近で聴取した音圧の周波数特性を示す線図、
図5】本発明の音響装置の実施例2において、ダクトの開口部付近で聴取した音圧の周波数特性を示す線図、
図6】本発明の音響装置の実施例3において、ダクトの開口部付近で聴取した音圧の周波数特性を示す線図、
図7】本発明の音響装置の実施例4において、ダクトの開口部付近で聴取した音圧の周波数特性を示す線図、
図8】比較例の音響装置において、ダクトの開口部付近で聴取した音圧の周波数特性を示す線図、
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の音響装置は、少なくともエンクロージャとスピーカユニットとがシートに固定され、好ましくは、これらがシートの内部に埋設されている。エンクロージャとスピーカユニットは、図1に示される第1実施形態のようにシーバックの内部に固定され、または図3に示される第2実施形態のようにシートクッションの内部に固定される。あるいは、エンクロージャとスピーカユニットを小型に構成してこれらをヘッドレスト内に固定することも可能である。シートは自動車の車室内に設置され、あるいは自動車以外の車両で例えば列車の内部に設置される。または、シートは劇場やゲームセンタなどに設置されているものであってもよいし、家庭用であってもよい。
【0019】
図1図2に、本発明の第1形態の音響装置10が示されている。この音響装置10は車載用である。図1図2では、X1-X2方向が前後方向であり、X1方向が前方すなわち車両の走行方向で、X2方向が後方である。
Y1-Y2は上下方向であり、Y1方向が上方で、Y2方向が下方である。
【0020】
図1には、車両内の運転席であるシート1と、シート1の前方(X1方向)に位置するステアリングホイール5とが示されている。シート1は、シートバック2とシートクッション3およびヘッドレスト4を有している。シート1に着座している聴取者6はドライバーであり、胴部7と頭部8を有している。頭部8はヘッドレスト4の前方に位置し、頭部8の左右の耳Eが聴取位置となる。
【0021】
図2に示されるように、音響装置10は、エンクロージャ11とダクト12およびスピーカユニット20を有し、いわゆるバスレフ型のスピーカシステムを構成している。エンクロージャ11は、前方(X1方向)に向く面に開口する取付け穴(バッフル開口)11aと上方(Y1方向)に向く面に開口する連結口11bとを有している。エンクロージャ11は、取付け穴11aと連結口11bとを除くと開口部が形成されていない密閉箱である。取付け穴11aにスピーカユニット20が取り付けられている。図1に示されるように、エンクロージャ11とスピーカユニット20はシートバック2の内部に固定されている。ダクト12の一端は連結端12aでありエンクロージャ11の連結口11bに連結されて、ダクト12の内部空間とエンクロージャ11の内部空間とが連通している。ダクト12の他端は開口部12bである。開口部12bは音圧を外部に放出する発音口として機能する。図1に示されるように、ダクト12の開口部12bは、シートバック2の上部に位置し、聴取者6の耳Eの近くで耳Eに向けて開口している。
【0022】
音響装置10は、シート1に着座している標準体型の大人の頭部8がヘッドレスト4に接しているときの耳Eの位置が聴取位置である。エンクロージャ11には2本のダクト12が連結されており、2本のダクト12の開口部12bが聴取者6の左右の耳Eのそれぞれに近い場所に開口している。あるいは、スピーカユニット20を備えたエンクロージャ11に1本のダクト12が連結された音響装置10が2組設けられ、それぞれの音響装置10がシートバック2の内部に設けられて、各音響装置10のダクト12の開口部12bが、左右の耳Eのそれぞれに近い場所に開口しているものであってもよい。ダクト12は少なくとも一部がシートバック2の内部に設けられているが、シートバック2内でのダクト12の配置および引き回しを容易にするために、ダクト12がフレキシブルホースで形成されていることが好ましい。ダクト12は断面が円形や長円形あるいは長方形などであり、その管路の全長において断面積が一定である。
【0023】
図2に、スピーカユニット20の中心線Osが示されている。スピーカユニット20は、中心線Osが前後方向(X1-X2方向)に対して時計方向へやや傾いた姿勢で、フレーム21がエンクロージャ11の取付け穴11aに固定されている。フレーム21には、中心線Osに沿う一方に磁気回路部22が固定され、中心線Osに沿う他方にコーン形状の振動板23が設けられている。振動板23の中心部から中心線Osに沿って図示左側にボビンが延びており、ボビンにボイスコイルが巻かれ、ボイスコイルが磁気回路部22の磁気ギャップ内に位置している。振動板23とボビンとの接続部に形成された穴部は、図示右側において、キャップ部材で覆われている。振動板23とボビンならびにボイスコイルおよびキャップ部材などが、スピーカユニット20の振動部となっている。振動板の外周部はエッジ部材によってフレーム21に支持され、ボビンはダンパー部材によってフレームに支持されている。エッジ部材とダンパー部材とが、振動部を中心線Osに沿って振動自在に支持するバネ支持系の一部として機能している。このバネ支持系の質量の一部は振動部の質量として加算される。
【0024】
スピーカユニット20は、ボイスコイルに与えられるボイス電流と、磁気回路部22からボイスコイルに与えられる横断磁束とで励起される電磁力によって、振動板23を含む振動部が、フレーム21内で中心線Osに沿ってリニアに振動させられる。振動板23の振動によってエンクロージャ11の内部空間に向けて内方音圧(内部圧力波)Piが与えられ、エンクロージャ11の外部空間に向けて外方音圧(外部圧力波)Poが与えられる。内方音圧Piと外方音圧Poは、空気の粗密の周期が180度相違しており、互いに逆位相である。図1に示されるように、聴取者6が着座して頭部8をヘッドレスト4に当てたときの耳Eの位置が聴取位置となるが、聴取位置からスピーカユニット20の振動板23の重心までの直線距離Lsに対し、聴取位置からダクト12の開口部12bの開口中心までの直線距離Ldが短くなっている。前記直線距離Lsは、前記直線距離Ldの2倍以上が好ましく、3倍以上がさらに好ましい。前記直線距離Ldは100mmないし200mm程度であり、例えば150mmである。
【0025】
次に、前記音響装置10の動作について説明する。
図1図2に示される音響装置10は、エンクロージャ11とダクト12とでヘルムホルツレゾネータが構成されている。スピーカユニット20の動作を考慮しない状態で、ヘルムホルツレゾネータは所定の共鳴周波数Fdを有している。共鳴周波数Fdは、エンクロージャの内容積(V)とダクトの管路長(L)および断面積(S)とで物理的に算出され、Fd=(C/2・π)√(S/V・L);(Cは音速)の式で求められる。共鳴周波数Fdは、エンクロージャの内容積(V)とダクトの管路長(L)に反比例し、ダクトの断面積(S)に比例する。
【0026】
スピーカユニット20が動作すると、振動板23の動作によって生じる内方音圧Piが、ヘルムホルツレゾネータへの入力圧力波となる。入力圧力波の周波数が共鳴周波数Fdに一致しまたはこれに近似した周波数になると、ダクト12内の空気が共振し、ダクト12の開口部12bから放射される音圧が高くなる。このときの振動板23から与えられる内方音圧Piの振動とダクト12内の空気の振動は、互いに逆位相となり、ダクト12の開口部12bから外部に放射される音圧と、スピーカユニット20からエンクロージャ11の外部に放射される外方音圧Poとが同相となる。内方音圧Piの周波数が、共鳴周波数Fdよりも高い帯域では、内方音圧Piの周波数が高くなるにしたがってダクト12の開口部12bから放射される音圧が低下していく。これは、ヘルムホルツレゾネータへの入力圧力波の周波数が共鳴周波数Fdよりも高い周波数帯域では、エンクロージャ11の内部空気が伸縮したとしても、ダクト12内の空気が追従しにくくなり、ダクト12内の空気が動きにくくなるからである。
【0027】
エンクロージャ11に入力する内方音圧Piの周波数が、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdよりも低い帯域になると、エンクロージャ11の内部の空気のバネ機能が低下し、エンクロージャ11の内部の空気の圧力の変化がそのままダクト12の内部に伝達され、ダクト12内の空気がスピーカユニット20の振動板23と同位相で振動するようになる。ダクト12の開口部12bから放射される音圧が内方音圧Piと同相で振動すると、スピーカユニット20からエンクロージャ11の外部に向けて放射される外方音圧Poとダクト12の開口部12bから放射される音圧は逆の位相になる。ヘルムホルツレゾネータを使用した従来のバスレフ型のスピーカシステムは、ダクト12の開口部12bとスピーカユニット20の双方から離れた位置が聴取位置となるため、互いに逆位相である開口部12bからの音圧と外方音圧Poとが相殺するように干渉し、スピーカユニット20の振動板23の動作周波数が低くなればなるほど聴取できる音圧が減衰してしまう問題点があった。
【0028】
ただし、図1に示されるように、スピーカユニット20からの直線距離Lsに比べて、ダクト12の開口部12bからの直線距離Ldが近い位置を聴取位置として設定すると、スピーカユニット20が共鳴周波数Fdよりも低い周波数で動作しているときであっても、聴取者6は、スピーカユニット20から発せられる外方音圧Poの干渉の影響をあまり受けることなく開口部12bからの音圧を直接的に聴取することが可能となる。そこで、実施形態の音響装置10は、バスレフ構造におけるスピーカシステムの振動系質量Mmsの共鳴周波数F0を、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdよりも低い帯域に設定し、スピーカユニット20の振動板23とダクト12内の空気とが同相で振動する帯域でのダクト12内の空気の振幅を増大させることで、ダクト12の開口部12bから耳Eに作用する音圧を増幅できるようにしている。
【0029】
図4ないし図7に、本発明の各実施例においてダクト12の開口部12bから得られる音圧の周波数特性が示されている。各図に示されているように、バスレフ構造におけるスピーカシステムの共鳴周波数F0を、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdよりも低い帯域に設定すると、共鳴周波数F0付近から共鳴周波数Fd付近までの帯域で、ダクト12の開口部12bから耳Eに作用する音圧を増幅することが可能になる。振動系質量Mmsの共鳴周波数F0を100Hz未満の低音領域に設定すると、聴取者6の耳Eで低音領域を強調した再生音を聴くことが可能になる。また、振動系質量Mmsの共鳴周波数F0を100Hz未満の帯域に設定し、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdを100Hzよりも高い帯域に設定すると、ダクト12の開口部12bから耳Eに与えられる音圧は、100Hzよりも低い周波数帯域であって共鳴周波数F0付近に位置するピークと、100Hzよりも高い周波数帯域であって共鳴周波数Fd付近に位置するピークと、を有するようになり、共鳴周波数F0付近から共鳴周波数Fd付近の周波数帯域が強調されたバンドパス音響装置として機能するようになる。各実施例に示されるように、ダクト12の開口部12bから耳Eまでの直線距離Ldを150mmとしたときに、共鳴周波数F0付近のピークから共鳴周波数Fd付近のピークまでの帯域での音圧差が10dB以下となり、共鳴周波数F0付近のピークよりも周波数が低くなるにしたがって音圧が低下し、共鳴周波数Fd付近のピークよりも周波数が高くなるにしたがって音圧が低下する特性を有するようになる。
【0030】
ダクト12の開口部12bから耳Eに作用する音圧は、共鳴周波数F0付近のピークから共鳴周波数Fd付近のピークまでの間で高くなるが、開口部12bからの音圧とスピーカユニット20からの外方音圧Poは逆位相である。そのため、開口部12bとスピーカユニット20の双方から離れた場所では、逆位相の音圧が干渉して相殺され、聴き取られる音圧が大幅に低下する。よって、聴取者6が着座しているシート1から離れた位置に低音域の音が伝わりにくくなる。特に、共鳴周波数F0付近のピークから共鳴周波数Fd付近のピークまでの低音域の音圧は周囲に伝搬しやすく、例えばシート1が自動車の車室内にある場合には低音が車体の外まで伝搬しやすいが、前述のように逆位相の音圧が干渉して相殺されることで、車体の外への音漏れを防止しやすくなる。
【0031】
前記音響装置10では、ダクト12の開口部12bから聴取者6の耳に比較的低域の音圧が強調して与えられるが、この音響装置10で中音域の音圧を発生させることも可能である。また、音響装置10で主に低音域の音圧を発生し、さらに中音から高音域の音を発する別のスピーカユニットをシート1に備え、あるいは聴取者6の周辺に備えることも可能である。
【0032】
図3に、本発明の第2実施形態の音響装置110が示されている。この音響装置110は、図2に示された音響装置10と同様に、エンクロージャ11とエンクロージャ11に連結されたダクト12とから成るヘルムホルツレゾネータを有し、エンクロージャ11にスピーカユニット20が固定されている。エンクロージャ11とスピーカユニット20はシートクッション3の内部に固定されている。ダクト12はフレキシブルホースで構成されており、その一部がシートクッション3の内部およびシートバック2の内部を通過している。そして、ダクト12の開口部12bが、シートバック2の上部に位置して聴取者6の耳Eに近い位置に開口している。第2実施形態の音響装置110は、スピーカユニット20がシートクッション3の内部に設けられているため、スピーカユニット20の振動板23の重心から聴取位置にある耳Eまでの直線距離Lsを長く確保でき、直線距離Lsを、ダクト12の開口部12bから耳Eまでの直線距離Ldの4倍以上さらには5倍以上に設定できる。直線距離Ls,Ldの差を大きくすることで、ダクト12の開口部12bから発せられる音を、スピーカシステムの外方音圧Poの干渉を大きく受けることなく聴取することが可能になる。
【0033】
図1に示される第1実施形態の音響装置10では、スピーカユニット20からの外方音圧Poが聴取者6の胴体部に向けられ、図3に示される第2実施形態の音響装置110では、ピーカユニット20からの外方音圧Poが聴取者6の臀部に向けられる。音響装置10,110において、振動系質量Mmsの共鳴周波数F0を100Hz未満の帯域に設定することで、ダクト12の開口部12bから耳Eに向けて低音が強調されて与えられるが、この低音と同じ周期の外方音圧Poが聴取者6の体に振動として与えられることになり、聴取者6が低音を体全体で感じ取ることができるようになる。
【実施例0034】
図4ないし図7は本発明の音響装置10,110の実施例を示しており、図8は比較例を示している。各実施例と比較例は、スピーカユニット20のボイスコイルに1Wのサイン波を入力したときに、スピーカユニット20からの外方音圧Poを無視する条件のもとで、ダクト12の開口部12bから150mm離れた位置で測定したと仮定したときの、音圧の周波数特性を示したシミュレーション結果である。横軸が周波数(Hz)を示す対数軸であり、縦軸が音圧レベル(dB)を示している。
【0035】
<実施例1>
図4には実施例1における周波数特性が示されている。実施例1の各パラメータは以下の通りである。
エンクロージャ11の内容積:150cc
ダクト12の管路長:50cm
ダクト12の内径(内直径):2cm
振動板23の有効振動径:6.2cm
ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fd:110Hz
振動系質量の共鳴周波数F0:48Hz
【0036】
<実施例2>
図5には実施例2における周波数特性が示されている。実施例2の各パラメータは以下の通りである。
エンクロージャ11の内容積:300cc
ダクト12の管路長:50cm
ダクト12の内径(内直径):3cm
振動板23の有効振動径:6.2cm
ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fd:107Hz
振動系質量の共鳴周波数F0:68Hz
【0037】
<実施例3>
図6には実施例3における周波数特性が示されている。実施例3の各パラメータは以下の通りである。
エンクロージャ11の内容積:300cc
ダクト12の管路長:50cm
ダクト12の内径(内直径):3cm
振動板23の有効振動径:8cm
ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fd:112Hz
振動系質量の共鳴周波数F0:48Hz
【0038】
<実施例4>
図7には実施例4における周波数特性が示されている。実施例4の各パラメータは以下の通りである。
エンクロージャ11の内容積:200cc
ダクト12の管路長:30cm
ダクト12の内径(内直径):3cm
振動板23の有効振動径:8cm
ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fd:118Hz
振動系質量の共鳴周波数F0:70Hz
【0039】
<比較例>
図8には比較例における周波数特性が示されている。比較例は、一般的なバスレフ型スピーカシステムにおける、ダクトの開口部付近での音圧レベルの周波数特性を示すシミュレーション結果である。ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdは70Hz付近に設定され、振動系質量の共鳴周波数F0は、前記共鳴周波数Fdよりも高い周波数帯域に設定されている。
【0040】
図8の比較例のように、従来のバスレフ型のスピーカシステムでは、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdを、スピーカシステムの共鳴周波数F0よりも低い周波数帯域に設定することで、共鳴周波数Fd付近で音圧を高めることができる。しかし、音圧を高めるのは共鳴周波数Fd付近の狭い帯域に限られる。これに対し、実施例1ないし実施例4では、スピーカシステムの振動系質量の共鳴周波数F0からヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdまでの広い帯域で、ダクト12の開口部12bから耳Eに作用する音圧を高めることができ、広い帯域の低音を強調して聴取することができる。
【0041】
図4ないし図7に示した実施例によれば、ダクト12内の空気の負荷質量を大きくして、スピーカシステムの振動系質量の共鳴周波数F0を、ヘルムホルツレゾネータの共鳴周波数Fdよりも低い帯域に設定できるようにするために、ダクト12の内径(内直径)に対して管路の長さを8倍以上とすることが好ましく、さらに10倍以上とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
1 シート
2 シートバック
3 シートクッション
4 ヘッドレスト
10,110 音響装置
11 エンクロージャ
12 ダクト
12b 開口部
20 スピーカユニット
22 磁気回路部
23 振動板
E 耳(聴取位置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8