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特開2025-18298複合微粒子、固体高分子電解質、及び複合微粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018298
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】複合微粒子、固体高分子電解質、及び複合微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 292/00 20060101AFI20250130BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20250130BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20250130BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20250130BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C08F292/00
C08K9/04
C08L71/02
C08L69/00
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121884
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】荘司 拓海
(72)【発明者】
【氏名】田儀 陽一
(72)【発明者】
【氏名】谷嶋 美保
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
5G301
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002CH031
4J002DJ016
4J002DK007
4J002EV267
4J002EW047
4J002FB266
4J002FD016
4J002FD207
4J002GQ00
4J026BA50
4J026BB01
4J026DB02
4J026DB09
4J026DB19
4J026DB32
4J026GA10
5G301CA16
5G301CD01
(57)【要約】
【課題】低い動作温度であっても優れたイオン伝導性を示すとともに、硬度等の機械強度に優れた固体高分子電解質を製造することが可能な複合微粒子を提供する。
【解決手段】その平均粒子径が10~1,000nmである微粒子基材と、その片末端が微粒子基材の表面に結合してグラフト化したエーテル構造又はカーボネート構造を有するポリメタクリレートを含む、微粒子基材の表面に設けられたポリマー層と、を備え、微粒子基材の表面積に占める、ポリメタクリレートの断面積の割合が、10%以上であり、ポリメタクリレートの数平均分子量が5,000~3,000,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1~1.8であり、ポリメタクリレートの含有量が0.5~99.5質量%である複合微粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その平均粒子径が10~1,000nmである微粒子基材と、
その片末端が前記微粒子基材の表面に結合してグラフト化したエーテル構造又はカーボネート構造を有するポリメタクリレートを含む、前記微粒子基材の表面に設けられたポリマー層と、を備え、
前記微粒子基材の表面積に占める、前記ポリメタクリレートの断面積の割合が、10%以上であり、
前記ポリメタクリレートの数平均分子量が5,000~3,000,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1~1.8であり、
前記ポリメタクリレートの含有量が0.5~99.5質量%である複合微粒子。
【請求項2】
前記ポリメタクリレートが、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、及びカーボネート構造含有メタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のメタクリレートモノマーに由来する構成単位を有する請求項1に記載の複合微粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合微粒子、リチウムイオン源、及びイオン伝導性ポリマーを含有する固体高分子電解質。
【請求項4】
前記イオン伝導性ポリマーが、その粘度平均分子量が100,000~1,000,000である、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びポリエチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも一種である請求項3に記載の固体高分子電解質。
【請求項5】
前記複合微粒子の含有量が、10~90質量%である請求項3に記載の固体高分子電解質。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の複合微粒子の製造方法であって、
前記微粒子基材に2-ブロモイソ酪酸ブロミド又は2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランを反応させ、前記微粒子基材の表面に2-ブロモイソ酪酸エステル基を導入して開始基含有基材を得る工程と、
前記開始基含有基材の存在下、常圧~400MPaの圧力条件でメタクリレートモノマーを含むモノマー成分を表面開始リビングラジカル重合して、その片末端が前記微粒子基材の表面に結合してグラフト化した前記ポリメタクリレートを含む前記ポリマー層を前記微粒子基材の表面に設ける工程と、
を有する複合微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合微粒子、固体高分子電解質、及び複合微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や固体高分子型燃料電池の普及に伴い、イオン伝導性を示す固体電解質の需要が高まっている。固体電解質の一種である固体高分子電解質を用いた電池(固体高分子電解質電池)は、液体電解質を用いたリチウム金属電池で生じやすいデンドライト成長、熱暴走、可燃性、及び液体電解質の漏洩等の安全面での課題を解決しうる技術として注目されている。さらに、固体高分子電解質はフレキシブル性を示す点でも注目されている。
【0003】
固体高分子電解質を構成するイオン伝導性ポリマーとしては、リチウム塩を常温で溶媒和及び解離する能力に優れたポリエチレンオキシド(PEO)が一般的に使用されている。例えば、PEOとリチウム塩で構成された固体高分子電解質は、PEOの融点以上の高温条件下で高いイオン導電率を示す。但し、PEOのエーテル結合中の酸素原子がリチウムイオンに配位し、ポリマーのセグメント運動に伴ってイオン伝導が生ずる。このため、PEOの融点以下の温度条件下では、PEOの結晶化によってイオン導電率が大きく低下しやすい。さらに、硬度等の機械強度が必ずしも十分に高いとはいえず、加工性の面で課題を有していた。
【0004】
イオン伝導性ポリマーの結晶化を抑制するとともに、硬度等の機械強度を改善すべく、例えば、アルミナ、シリカ、及びジルコニア等の無機粒子を添加した固体高分子電解質が提案されている。しかし、無機粒子はイオン伝導性ポリマーとの親和性が低いため、イオン伝導性ポリマーに添加しても分離又は沈殿しやすいといった課題を有していた。このような課題を解決すべく、例えば、無機粒子の表面に官能基を導入した官能化粒子、及びこの官能化粒子を用いた固体電解質が提案されている(特許文献1)。また、イオン液体モノマーによって官能化した微粒子を規則的に配列させてイオン伝導性を向上させた固体電解質が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2021-524652号公報
【特許文献2】特開2009-59659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2で提案された固体電解質であっても、より低い温度条件下におけるイオン伝導性は必ずしも優れているとはいえず、また、硬度等の機械強度についても改善の余地があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、低い動作温度であっても優れたイオン伝導性を示すとともに、硬度等の機械強度に優れた固体高分子電解質を製造することが可能な複合微粒子を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、低い動作温度であっても優れたイオン伝導性を示すとともに、硬度等の機械強度に優れた固体高分子電解質、及び上記の複合微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す複合微粒子が提供される。
[1]その平均粒子径が10~1,000nmである微粒子基材と、その片末端が前記微粒子基材の表面に結合してグラフト化したエーテル構造又はカーボネート構造を有するポリメタクリレートを含む、前記微粒子基材の表面に設けられたポリマー層と、を備え、前記微粒子基材の表面積に占める、前記ポリメタクリレートの断面積の割合が、10%以上であり、前記ポリメタクリレートの数平均分子量が5,000~3,000,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1~1.8であり、前記ポリメタクリレートの含有量が0.5~99.5質量%である複合微粒子。
[2]前記ポリメタクリレートが、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、及びカーボネート構造含有メタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のメタクリレートモノマーに由来する構成単位を有する前記[1]に記載の複合微粒子。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す固体高分子電解質が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載の複合微粒子、リチウムイオン源、及びイオン伝導性ポリマーを含有する固体高分子電解質。
[4]前記イオン伝導性ポリマーが、その粘度平均分子量が100,000~1,000,000である、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びポリエチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも一種である前記[3]に記載の固体高分子電解質。
[5]前記複合微粒子の含有量が、10~90質量%である前記[3]又は[4]に記載の固体高分子電解質。
【0010】
さらに、本発明によれば、以下に示す複合微粒子の製造方法が提供される。
[6]前記[1]又は[2]に記載の複合微粒子の製造方法であって、前記微粒子基材に2-ブロモイソ酪酸ブロミド又は2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランを反応させ、前記微粒子基材の表面に2-ブロモイソ酪酸エステル基を導入して開始基含有基材を得る工程と、前記開始基含有基材の存在下、常圧~400MPaの圧力条件でメタクリレートモノマーを含むモノマー成分を表面開始リビングラジカル重合して、その片末端が前記微粒子基材の表面に結合してグラフト化した前記ポリメタクリレートを含む前記ポリマー層を前記微粒子基材の表面に設ける工程と、を有する複合微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低い動作温度であっても優れたイオン伝導性を示すとともに、硬度等の機械強度に優れた固体高分子電解質を製造することが可能な複合微粒子を提供することができる。また、本発明によれば、低い動作温度であっても優れたイオン伝導性を示すとともに、硬度等の機械強度に優れた固体高分子電解質、及び上記の複合微粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<複合微粒子>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の複合微粒子の一実施形態は、その平均粒子径が10~1,000nmである微粒子基材と、その片末端が微粒子基材の表面に結合してグラフト化したエーテル構造又はカーボネート構造を有するポリメタクリレートを含む、微粒子基材の表面に設けられたポリマー層と、を備える。微粒子基材の表面積に占める、ポリメタクリレートの断面積の割合は、10%以上である。ポリメタクリレートの数平均分子量は5,000~3,000,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.1~1.8である。そして、複合微粒子中のポリメタクリレートの含有量は、複合微粒子全質量を基準として、0.5~99.5質量%である。以下、本実施形態の複合微粒子の詳細について説明する。
【0013】
基材の改質方法として、基材と吸着又は反応しうる基をその末端に有するポリマーを基材に作用させることで、物理的又は化学的に結合したポリマー層を基材表面に設ける方法が知られている。また、基材表面に付与した重合性基を起点としてモノマーを重合させることで、基材表面からグラフトしたポリマー層を設ける方法も知られている。さらに、リビングラジカル重合の技術を利用して基材上に高密度にグラフトされる、いわゆる「濃厚ポリマーブラシ」が近年研究されている。この濃厚ポリマーブラシ(以下、単に「CPB」とも記す)では、ビニル系モノマーを用いて形成されたポリマーの分子鎖が、1~4nm間隔の高密度で基板上にグラフトされている。すなわち、基材表面1nm当たりに0.1分子鎖以上のポリマーの末端が結合している。このようなCPBによって基材表面を改質することで、CPBの特徴的な機能を基材に付与することができる。
【0014】
本実施形態の複合化微粒子は、CPBで形成されたポリマー層を微粒子基材の表面に設けたものである。すなわち、複合微粒子は、微粒子基材に由来する性質を示すコア部と、CPBに由来する性質を示すシェル層と、を併せ持った複合材料である。コア部の微粒子基材によって固体高分子電解質の硬度等の機械強度を向上させることができるとともに、シェル層のCPB中のエーテル結合等の特定構造がリチウムイオンを効率的に生じさせて溶媒和させることができる。さらに、微粒子基材の表面積に占める、ポリメタクリレートの断面積の割合が高い(すなわち、官能化率が高い)ことから、固体高分子電解質中に高濃度に分散させることができる。これにより、フレキシブル性を維持しつつ、低い動作温度であっても優れたイオン伝導性を示すとともに、硬度等の機械強度に優れた固体高分子電解質を製造することができる。
【0015】
(微粒子基材)
微粒子基材は、複合微粒子の基材として用いられる粒子状物である。微粒子基材は、無機物であってもよく、有機物であってもよい。無機物の場合は、その表面に酸化被膜を有する粒子状物であることが、複合微粒子を製造する際の工程を簡略化することができるために好ましい。また、有機物の場合は、その表面に水酸基を有する粒子状物であることが、複合微粒子を製造する際の工程を簡略化することができるために好ましい。
【0016】
微粒子基材の平均粒子径は10~1,000nmであり、好ましくは100~1,000nm、さらに好ましくは100~500nmである。微粒子基材の平均粒子径が10nm未満であると、デンドライト成長に対する十分なシールド性を担保することが困難になる。一方、微粒子基材の平均粒子径が1,000nm超であると、固体高分子電解質の電極への密着度が不十分になる。本明細書における「平均粒子径」は、体積基準の累積50%粒子径(メジアン径(D50))である。
【0017】
微粒子基材は、無機元素を含む酸化物であることが好ましい。無機元素を含む酸化物を微粒子基材として用いる場合、プラズマ処理等の表面処理を施さなくても重合開始基を付与することができるので、工程簡略化及び品質均一化を図ることができる。また、微粒子基材は、粉体であってもよく、ゾルであってもよい。粒子径が小さいほど凝集しやすくなるため、微粒子基材はゾルであることが好ましい。
【0018】
(ポリマー層)
微粒子基材の表面には、ポリマー層が設けられている。このポリマー層は、その片末端が微粒子基材の表面に結合してグラフト化した、エーテル構造又はカーボネート構造を有するポリメタクリレートを含む。なお、ポリマー層は、その片末端が微粒子基材の表面に結合してグラフト化したエーテル構造又はカーボネート構造を有するポリメタクリレートのみで実質的に構成されていることが好ましい。
【0019】
エーテル構造又はカーボネート構造を有するポリメタクリレート(以下、単に「ポリメタクリレート」とも記す)は、リチウム塩を常温で溶媒和及び解離する能力に優れたエーテル構造又はカーボネート構造を有する。このポリメタクリレートは、エーテル構造を有するメタクリレートモノマー(エーテル構造含有メタクリレート)や、カーボネート構造を有するメタクリレートモノマー(カーボネート構造含有メタクリレート)に由来する構成単位を有するポリマーである。メタクリレートモノマーは、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、及びカーボネート構造含有メタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらのメタクリレートモノマーの構造中の酸素原子がリチウムイオンに配位する。このため、これらのメタクリレートモノマーに由来する構成単位を有するポリマー(ポリメタクリレート)のセグメント運動に伴ってイオン伝導が生じ、高いイオン伝導性を示す。
【0020】
エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレートを構成するアルキル基の炭素数は、1~4であることが好ましい。エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレートとしては、エチレングリコールモノメチルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノn-プロピルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノn-ブチルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノsec-ブチルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルモノメタクリレート、及びエチレングリコールモノtert-ブチルエーテルモノメタクリレート等を挙げることができる。
【0021】
ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートを構成するアルキル基の炭素数は、1~18であることが好ましい。ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートとしては、繰り返し単位数2~100のエチレングリコールユニットを有するモノアルキルエーテルメタクリレートを用いることができる。
【0022】
プロピレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートを構成するアルキル基の炭素数は、1~4であることが好ましい。プロピレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートとしては、プロピレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、プロピレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテルメタクリレート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルメタクリレート、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテルメタクリレート、プロピレングリコールモノsec-ブチルエーテルメタクリレート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルメタクリレート、及びプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテルメタクリレート等を挙げることができる。
【0023】
ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートを構成するアルキル基の炭素数は、1~18であることが好ましい。ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートとしては、繰り返し単位数2~100のプロピレングリコールユニットを有するモノアルキルエーテルメタクリレートを用いることができる。
【0024】
カーボネート構造含有メタクリレートに含まれるカーボネート構造としては、直鎖状ポリカーボネートや環状カーボネート(シクロカーボネート)等を挙げることができる。直鎖状ポリカーボネートとしては、繰り返し単位数2~100のカーボネートユニット等を挙げることができる。
【0025】
ポリメタクリレートは、単独重合体であってもよく、ランダム構造又はブロック構造を有する共重合体であってもよい。ポリメタクリレートは、必要に応じて、上述のメタクリレートモノマーに由来する構成単位以外のその他の構成単位をさらに有してもよい。その他の構成単位を構成するモノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;トリフルオロメチルメタクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルメタクリレート等のフルオロアルキルメタクリレート;1~100ユニットのポリジメチルシロキサン鎖を有するポリジメチルシロキサン含有メタクリレート;等を挙げることができる。
【0026】
ポリメタクリレートの数平均分子量(Mn)は、5,000~3,000,000であり、好ましくは10,000~1,000,000である。ポリメタクリレートのMnが5,000未満であると、官能化率が不十分であり、固体高分子電解質中への単分散が困難になる。一方、Mnが3,000,000超のポリメタクリレートを重合することは困難であるとともに、微粒子同士で停止反応を引き起こしてゲル化する場合がある。なお、本明細書におけるポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分使用(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GC)により測定されるポリメチルメタクリレート換算の値である。
【0027】
ポリメタクリレートの分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.1~1.8であり、好ましくは1.2~1.6である。すなわち、ポリマー層は、その分子量が比較的揃ったポリメタクリレートで実質的に形成されている。ポリメタクリレートのPDIが1.8超であると、前述の範囲外の分子量のポリマーを多く含んでしまい、分子量が大きすぎるポリマー鎖がポリマー層の表面から出やすくなって、所望とする性能が発揮されなくなる場合がある。
【0028】
微粒子基材の表面積に占める、前記ポリメタクリレートの断面積の割合(以下、「専有面積率σ*」とも記す)は、10%以上であり、好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。専有面積率σ*が10%以上となるようにポリメタクリレートが濃密にグラフトしてポリマー層を形成していることで、固体高分子電解質中に効率的に分散して複合化することが可能となる。なお、専有面積率σ*の理論上の上限(最密充填)は100%である。専有面積率σ*は、例えば70%以下、好ましくは60%以下である。
【0029】
専有面積率σ*は、下記式(1)により算出される「グラフト密度σ(本/nm)」を用いて、下記式(2)にしたがって算出することができる。
σ=dLNAMn ・・・(1)
σ*=σS×100 ・・・(2)
d:ポリマー(ポリメタクリレート)の密度
L:ポリマー層の厚さ
NA:アボガドロ数
Mn:ポリマー(ポリメタクリレート)の数平均分子量
S:ポリマー(ポリメタクリレート)の断面積
【0030】
ポリマー層の厚さは、例えば、エリプソメータ、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を使用し、従来公知の方法にしたがって測定することができる。ポリマーの密度は、従来公知の文献に記載された値や、JIS K 7112:1999等に記載された方法にしたがって測定した値を用いることができる。ポリマーの断面積は、ポリマーの伸びきり形態における繰り返し単位長さ、及びポリマーのバルク密度より求めることができる。
【0031】
複合微粒子中のポリメタクリレートの含有量は、複合微粒子全質量を基準として、0.5~99.5質量%であり、好ましくは20~90質量%、さらに好ましくは40~80質量%である。本実施形態の複合微粒子は専有面積率σ*が高いため、固体高分子電解質に対する親和性が高い。但し、ポリメタクリレートの含有量が多すぎると、微粒子基材が相対的に減少するので、デンドライト成長に対する十分なシールド性(バリア性)を担保することが困難になる。また、得られる固体高分子電解質がベタつく、硬度等の機械強度が低下する、及び成形性が低下する等の不具合が生じやすくなることがある。
【0032】
<固体高分子電解質>
本発明の固体高分子電解質の一実施形態は、前述の複合微粒子、リチウムイオン源、及びイオン伝導性ポリマーを含有する。
【0033】
リチウムイオン源は、解離してリチウムイオン(Li)を生ずる成分である。リチウムイオン源としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO(LiTFSI))、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、及びヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)等を挙げることができる。
【0034】
イオン伝導性ポリマーは、リチウムイオン(Li)の伝導性を有するポリマーである。イオン伝導性ポリマーとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、及びリチウムポリスチレンスルホナート等を挙げることができる。なかでも、イオン伝導性ポリマーは、粘度平均分子量100,000~1,000,000である、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、及びポリエチレンカーボネート(PEC)からなる群より選択される少なくとも一種であることが、成形性、フレキシブル性、及びイオン伝導性の観点で好ましい。
【0035】
複合微粒子の含有量は、得られる固体高分子電解質が固体となる量とすることが好ましい。具体的には、複合微粒子の含有量は、固体高分子電解質の全質量を基準として、10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
固体高分子電解質は、例えば、複合微粒子、リチウムイオン源、及びイオン伝導性ポリマーを任意の割合で混合するとともに、機械的に撹拌等することによって製造することができる。均一に膜成形する場合には、ドクターブレード等を用いる溶媒キャスト法によって製造することが好ましい。溶媒キャスト法は、揮発性溶媒に固形分を溶解・分散させて調製した混合原料を、ドクターブレード等を用いてシート上などにコーティングした後、揮発分を除去して膜を形成する方法である。簡易的には、フッ素加工したシャーレ等に混合原料を流し込んだ後に揮発分を除去してもよい。
【0037】
固体高分子電解質のイオン伝導性は、イオン伝導度で評価することができる。一般的な固体電解質の35℃の温度条件下におけるイオン伝導度は、1.0×10-5S/cm以上であることが必要とされている。本実施形態の固体高分子電解質の35℃の温度条件下におけるイオン伝導度は、好ましくは1.0×10-4S/cm以上であり、さらに好ましくは5.0×10-4S/cm以上である。イオン伝導度の条件については限定されないが、8.0×10-6S/cm以上であればよい。
【0038】
固体高分子電解質の機械強度は、ショア硬度によって評価することができる。本実施形態の固体高分子電解質のショア硬度は、好ましくはA40以上であり、さらに好ましくはA60以上、特に好ましくはA70以上である。ショア硬度の上限は特に限定されないが、密着性、イオン伝導性、及びフレキシブル性等の観点から、あまり大きすぎるのは必ずしも好ましいとはいえず、90以下であればよい。
【0039】
<複合微粒子の製造方法>
本発明の複合微粒子の製造方法の一実施形態は、前述の複合微粒子の製造方法であり、開始基含有基材を得る工程(工程(1))と、ポリマー層を微粒子基材の表面に設ける工程(工程(2))と、を有する。工程(1)では、微粒子基材に2-ブロモイソ酪酸ブロミド又は2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランを反応させ、微粒子基材の表面に2-ブロモイソ酪酸エステル基を導入して開始基含有基材を得る。工程(2)では、得られた開始基含有基材の存在下、常圧~400MPaの圧力条件でメタクリレートモノマーを含むモノマー成分を表面開始リビングラジカル重合する。これにより、その片末端が微粒子基材の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートを含むポリマー層を微粒子基材の表面に設ける。
【0040】
2-ブロモイソ酪酸ブロミド又は2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランを微粒子基材に反応させることで、微粒子基材の表面に重合開始基である2-ブロモイソ酪酸エステル基が導入され、開始基含有基材を得ることができる。微粒子基材の表面に重合開始基を直接導入することが困難な場合には、微粒子基材の表面をシリカでコーティングした後に、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランを反応させればよい。
【0041】
その表面に水酸基を有する有機物を微粒子基材として用いる場合、2-ブロモイソ酪酸ブロミドを反応させ、脱臭化水素して2-ブロモイソ酪酸エステル基を導入することができる。2-ブロモイソ酪酸ブロミドを微粒子基材に反応させる方法としては、有機溶剤で希釈した2-ブロモイソ酪酸ブロミドに微粒子基材を浸漬させる方法を挙げることができる。反応液中にはピリジンなどの塩基を共存させてもよい。また、塩基を溶解させて有機溶剤中に微粒子基材を浸漬させ、2-ブロモイソ酪酸ブロミドを滴下して反応させてもよい。さらに、2-ブロモイソ酪酸ブロミドの蒸気を微粒子基材に浴びせてもよい。
【0042】
また、その表面に酸化膜を有する無機物を微粒子基材として用いる場合、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランを反応させることで、脱アルコール及び脱水によって、微粒子基材の表面に重合開始基を導入することができる。2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランとしては、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリエトキシシラン、及び2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルジメトキシエトキシシラン等を用いることができる。
【0043】
2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランを微粒子基材に反応させる方法としては、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランを微粒子基材にスプレーを用いて吹き付けた後、乾燥させる方法等を挙げることができる。また、エタノール等の溶媒に2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルコキシシランを溶解させた反応液に微粒子基材を浸漬してもよい。この反応液は、アンモニア水溶液を添加して塩基性としてもよく、酢酸や塩酸を添加して酸性としてもよい。
【0044】
開始基含有基材の存在下、メタクリレートモノマーを表面開始リビングラジカル重合することで、その片末端が微粒子基材の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートを含むポリマー層を微粒子基材の表面に設けて、目的とする複合微粒子を得ることができる。表面開始リビングラジカル重合としては、銅やルテニウムの金属錯体を触媒として酸化還元で行う原子移動ラジカル重合(ATRP法);ヨウ化第4級アンモニウム塩等を使用してハロゲン交換し、第4級アンモニウム塩が触媒となって重合が進行する可逆的触媒媒介重合(ハロゲン交換RCMP法);等がある。すなわち、微粒子基材の表面に導入された重合開始基を起点としてリビングラジカル重合することで、ポリマーが濃密にグラフトしたポリマー層を微粒子基材の表面に形成することができる。
【0045】
ATRP法では、金属錯体を用いてモノマーを重合する。金属錯体としては、周期律表第7族~第11族元素を中心金属とする金属錯体が用いられる。具体的には、一価の銅、二価の銅、二価のルテニウム、二価の鉄、又は二価のニッケルを含む金属錯体を挙げることができる。なかでも、安価で容易に入手可能な一価の銅又は二価の銅を含む金属錯体を用いることが好ましい。より具体的には、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、及びヨウ化第二銅等を挙げることができる。これらの銅の金属錯体を重合触媒として用いる場合には、錯体を形成させるポリアミンをリガンドとして用いる。リガンドとしては、2,2-ビピリジン、ジノニルビピリジン、フェナントロリン、トリジメチルアミノエチルアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン、トリス(2-ピコリル)アミン、及びN,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン等を挙げることができる。モノマー100質量部に対する金属触媒の量は、0.001~0.1質量部とすることが好ましい。
【0046】
重合時には、触媒の失活を防ぐために還元剤を用いてもよい。還元剤としては、ジラウリン酸スズ及びアスコルビン酸などを挙げることができる。また、重合を促進すべく、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤を添加してもよい。
【0047】
ATRP法は、バルク重合であってもよく、有機溶剤等を用いる溶液重合であってもよい。有機溶剤としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、エーテル系溶剤、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、尿素系溶剤、及びイオン液体等を用いることができる。なかでも、重合速度を向上させるとともに、ポリマー層の厚さをより厚くすることができるため、イオン液体等の極性の高い溶媒を用いることが好ましい。イオン液体としては、4級アンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、4級ホスホニウム塩、及びグアジニウム塩等のイオン液体を挙げることができる。
【0048】
ハロゲン交換RCMP法では、ヨウ化第4級アンモニウム塩、ヨウ化ホスホニウム塩、及びヨウ化アルカリ金属塩等の塩化合物を用いる。ハロゲン交換RCMP法は、市販の有機材料や安価な無機塩を用いる方法であるため、コスト面及び環境負荷を軽減する観点から好ましく、また、金属を除去する必要がなく、工程を簡略化することができるために好ましい。ハロゲン交換RCMP法では、重合開始基が塩化合物とハロゲン交換し、2-アイオドイソ酪酸エステル基が形成される。次いで、塩化合物が触媒となってヨウ素がラジカルとなって脱離した後、炭素ラジカルにモノマーが挿入されて重合する。そして、脱離したヨウ素が直ちに結合して停止反応を防止し、リビング的に重合が進行する。
【0049】
塩化合物のうち、ヨウ化第4級アンモニウム塩としては、ヨウ化ベンジルテトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラオクチルアンモニウム、ヨウ化デドシルトリメチルアンモニウム、ヨウ化オクタデシルトリメチルアンモニウム、及びヨウ化トリオクダデシルメチルアンモニウム等を挙げることができる。活性度を高めるとともに、より濃厚で高分子量のポリマーを得る観点から、重合開始基に対する塩化合物の量は当モル以上とすることが好ましく、10倍モル以上とすることがさらに好ましく、100倍モル以上とすることが特に好ましい。
【0050】
重合時の温度は、60℃以上とすることが好ましい。また、有機溶媒の存在下で重合することが好ましい。有機溶媒は、塩を溶解する有機溶媒であることが好ましく、アルコール系、グリコール系、アミド系、尿素系、スルホキシド系、及びイオン液体等の極性が高い有機溶媒を用いることが好ましい。
【0051】
工程(2)では、常圧~400MPa、好ましくは常圧~100MPaの圧力条件でメタクリレートモノマーを表面開始リビングラジカル重合する。水等の液媒体を通じて重合容器内部まで圧力を伝えて重合することで、停止反応を抑制し、より分子量の大きいポリメタクリレートを形成することができる。ポリメタクリレートの分子量が大きくなると、形成されるポリマー層の厚さが増大する。より厚いポリマー層を形成することで、これまでにない性質を微粒子基材に付与することができる。
【0052】
重合は、重合容器内で実施すればよい。重合容器としては、高圧に耐えうる密閉可能な容器を用いることが好ましい。重合容器としては、ポリエチレン製の瓶、ペットボトル、レトルトパウチ、及びブリスター容器等を用いることができる。また、加温又は加熱条件下で重合することを考慮し、耐熱性を有する素材でできた重合容器を用いることが好ましい。さらに、耐薬品性や耐溶剤性等の性質を有する素材でできた重合容器を用いることが好ましい。そのような素材としては、ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリアミド、及びエンジニアプラスチック等を挙げることができる。
【0053】
重合容器に重合溶液を仕込む場合には、大きな空間が形成されないこと、すなわち重合容器内に気体が入りこまないようにすることが好ましい。具体的には、容器容量の90%以上に重合溶液を仕込むことが好ましい。
【0054】
ポリマー層を形成するポリマー(ポリメタクリレート)の分子量は、加水分解等の手法によって複合微粒子から切り出したポリマーを分析して測定することができる。また、重合開始基と同様の構造を有する2-ブロモイソ酪酸エチル等の化合物(フリー開始基化合物)を重合系中に添加した状態で表面開始リビングラジカル重合を行い、フリー開始基化合物の開始基から重合が進行して生成したフリーポリマーの分子量を測定する。このように測定したフリーポリマーの分子量を、ポリマー層を形成するポリマーの分子量と見積もることができる。
【0055】
重合系中におけるフリー開始基化合物の含有量は、0.01質量%以下とすることが好ましく、0.001質量%以下とすることがさらに好ましい。フリー開始基化合物の含有量が多すぎると、重合系の粘度が上昇しすぎることがある。このため、得られた複合微粒子を取り出しにくくなったり、洗浄に時間がかかったりする場合がある。
【実施例0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、文中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0057】
<複合微粒子の製造>
(実施例1)
シリカ微粒子(商品名「シーホスターKE-E10」、日本触媒社製、平均粒子径130nm)を微粒子基材として用意した。用意したシリカ微粒子とエタノールを混合し、シリカ微粒子の含有量が3%であるシリカ微粒子のエタノール分散液200gを得た。得られたエタノール分散液に、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン(BPM)3.6gと、28%アンモニア水溶液18g及びエタノール108gの混合溶液とを添加し、24時間撹拌して反応させた。遠心分離処理して取り出した固形分をメタノール及びアニソールで順次洗浄して、重合開始基である2-ブロモイソ酪酸エステル基が微粒子基材の表面に導入された開始基含有基材を得た。得られた開始基付与基材とアニソールを混合し、開始基付与基材の含有量が2%である開始基付与基材のアニソール分散液を得た。このようにして、開始基付与基材をアニソール中で保存した。
【0058】
第一臭化銅0.08部、第二臭化銅0.004部、ジノニルビピリジン0.5部、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(商品名「PME-400」、日油社製)40部、上記のアニソール分散液59部、及び2-ブロモイソ酪酸エチル(EBIB)のアニソール溶液(EBIBの濃度:0.0008%)1部をガラスサンプル瓶に入れて均一化し、茶褐色の重合溶液を得た。シリコン基板(1cm×2cm)をアルミパウチに入れ、重合溶液で満たして封止した。高圧装置(商品名「まるごとエキス」、東洋高圧社製)にアルミパウチを入れ、60℃、400MPaの条件で1時間重合した。アルミパウチ内には、粘性のポリマー溶液が生成していた。ポリマー溶液の一部をサンプリングし、ジメチルホルムアミド(DMF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて生成したポリマーの分子量を測定した。その結果、ポリマーの数平均分子量(Mn)は2,400,000であり、分子量分布(PDI)は1.15であった。
【0059】
遠心分離処理して取り出した固形分をテトラヒドロフラン(THF)で洗浄して、複合微粒子である微粒子P-1及び処理済みシリコン基板を得た。得られた微粒子P-1を熱重量分析(TGA)して測定及び算出したポリメタクリレートの含有量(ポリマー分)は、88%であった。また、前述の式(1)及び(2)より算出した、微粒子基材の表面積に占める、ポリメタクリレートの断面積の割合(専有面積率σ*)は、22%であった。なお、未処理のシリカ微粒子(微粒子基材)を比較例1(微粒子HP-1)とした。
【0060】
処理済みシリコン基板をTHFに12時間浸漬させた後、THFで超音波洗浄してから送風乾燥した。得られた処理済みシリコン基板に形成されていたポリマー層の膜厚は280nmであり、前述の式(1)及び(2)より算出した専有面積率σ*は23%であった。これにより、シリカ微粒子の表面に設けられたポリマー層を構成するポリマーと同様のポリマーが生成していることを確認した。
【0061】
(実施例2~9)
表1及び2に示す条件としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、複合微粒子である微粒子P-2~9を得た。得られた微粒子の物性等を表1及び2に示す。表1及び2中の略号の意味は以下に示す通りである。
・PPGMA:ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート
・ODMMA:メタクリル酸(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル
・DMAEMA:ジメチルアミノエチルメタクリレート
・PGMA:プロピレングリコールモノメチルエーテルモノメタクリレート
・MMA:メチルメタクリレート
【0062】
【0063】
【0064】
(実施例10)
ジルコニア微粒子(商品名「ZR-40BL」、日産化学社製、平均粒子径90nm)を微粒子基材として用意した。用意したジルコニア微粒子とエタノールを混合し、ジルコニア微粒子の含有量が3%であるジルコニア微粒子のエタノール分散液200gを得た。得られたエタノール分散液に、BPM3.6gと、28%アンモニア水溶液18g及びエタノール108gの混合溶液とを添加し、24時間撹拌して反応させた。遠心分離処理して取り出した固形分をメタノール及びアニソールで順次洗浄して、重合開始基である2-ブロモイソ酪酸エステル基が微粒子基材の表面に導入された開始基含有基材を得た。得られた開始基付与基材とアニソールを混合し、開始基付与基材の含有量が2%である開始基付与基材のアニソール分散液を得た。このようにして、開始基付与基材をアニソール中で保存した。
【0065】
第一臭化銅0.08部、第二臭化銅0.004部、ジノニルビピリジン0.5部、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノメタクリレート(PGMA)40部、上記のアニソール分散液59部、及びEBIBのアニソール溶液(EBIBの濃度:0.0008%)1部をガラスサンプル瓶に入れて均一化し、茶褐色の重合溶液を得た。シリコン基板(1cm×2cm)をアルミパウチに入れ、重合溶液で満たして封止した。高圧装置(商品名「まるごとエキス」、東洋高圧社製)にアルミパウチを入れ、60℃、400MPaの条件で1時間重合した。アルミパウチ内には、粘性のポリマー溶液が生成していた。生成したポリマーのMnは2,600,000であり、PDIは1.18であった。
【0066】
遠心分離処理して取り出した固形分をTHFで洗浄して、複合微粒子である微粒子P-10及び処理済みシリコン基板を得た。得られた微粒子P-10を熱重量分析(TGA)して測定及び算出したポリメタクリレートの含有量(ポリマー分)は、92%であった。また、専有面積率σ*は22%であった。さらに、得られた処理済みシリコン基板に形成されていたポリマー層の膜厚は300nmであった。
【0067】
(比較例2)
シリカ微粒子(商品名「IPA-ST-ZL」、日産化学社製、平均粒子径80nm)を微粒子基材として用意した。用意したシリカ微粒子使用し、前述の実施例1と同様にして、重合開始基である2-ブロモイソ酪酸エステル基が微粒子基材の表面に導入された開始基含有基材を得た。得られた開始基付与基材とラウリルメタクリレートを混合し、開始基付与基材の含有量が2%である開始基付与基材のラウリルメタクリレート分散液を得た。
【0068】
第一臭化銅0.02部、第二臭化銅0.001部、ジノニルビピリジン0.1部、上記のラウリルメタクリレート分散液99部、及びEBIBのラウリルメタクリレート溶液(EBIBの濃度:0.08%)1部をガラスサンプル瓶に入れて均一化し、茶褐色の重合溶液を得た。シリコン基板(1cm×2cm)をアルミパウチに入れ、重合溶液で満たして封止した。高圧装置(商品名「まるごとエキス」、東洋高圧社製)にアルミパウチを入れ、60℃、100MPaの条件で6時間重合した。アルミパウチ内には、粘性のポリマー溶液が生成していた。生成したポリマーのMnは1,630,000であり、PDIは1.16であった。
【0069】
遠心分離処理して取り出した固形分をTHFで洗浄して、複合微粒子である微粒子HP-2及び処理済みシリコン基板を得た。得られた微粒子HP-2を熱重量分析(TGA)して測定及び算出したポリメタクリレートの含有量(ポリマー分)は、95%であった。また、専有面積率σ*は47%であった。さらに、得られた処理済みシリコン基板に形成されていたポリマー層の膜厚は472nmであった。
【0070】
(比較例3)
シリカ微粒子(商品名「IPA-ST-L」、日産化学社製、平均粒子径45nm)を微粒子基材として用意した。用意したシリカ微粒子とエタノールを混合し、シリカ微粒子の含有量が3%であるシリカ微粒子のエタノール分散液200gを得た。得られたエタノール分散液に、(トリエトキシシリル)プロピル(エチレングリコール)メチルエーテル3.6gと、28%アンモニア水溶液18g及びエタノール108gの混合溶液とを添加し、24時間撹拌して反応させた。遠心分離処理して取り出した固形分をメタノールで洗浄して、官能基を導入したシリカ微粒子である微粒子HP-3を得た。得られた微粒子HP-3を熱重量分析(TGA)して測定及び算出した有機分は3%であった。
【0071】
(比較例4)
PME-400 90部、及び2-イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)10部をフラスコに入れ、65℃に加温して窒素を1時間導入した。2,2-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)0.1部を添加し、24時間重合して粘性のポリマー溶液を得た。
【0072】
シリカ微粒子(商品名「サンシール」トクヤマ社製、平均粒子径1,000nm)、及びシリコン基板(1cm×2cm)を得られたポリマー溶液に浸漬し、80℃で1時間撹拌して反応させた。生成したポリマーのMnは350,000であり、PDIは2.34であった。遠心分離処理して取り出した固形分をTHFで洗浄して、微粒子HP-4を得た。得られた微粒子HP-4を熱重量分析(TGA)して測定及び算出したポリマー分は1%であった。また、専有面積率σ*は6%であった。さらに、得られた処理済みシリコン基板に形成されていたポリマー層の膜厚は11nmであった。
【0073】
(比較例5)
シリカ微粒子(商品名「IPA-ST」、日産化学社製、平均粒子径15nm)を微粒子基材として用意した。用意したシリカ微粒子とエタノールを混合し、シリカ微粒子の含有量が3%であるシリカ微粒子のエタノール分散液200gを得た。得られたエタノール分散液に、BPM3.6gと、28%アンモニア水溶液18g及びエタノール108gの混合溶液とを添加し、24時間撹拌して反応させた。遠心分離処理して取り出した固形分をメタノール及びアニソールで順次洗浄して、重合開始基である2-ブロモイソ酪酸エステル基が微粒子基材の表面に導入された開始基含有基材を得た。得られた開始基付与基材とアニソールを混合し、開始基付与基材の含有量が2%である開始基付与基材のアニソール分散液を得た。このようにして、開始基付与基材をアニソール中で保存した。
【0074】
第一臭化銅0.08部、第二臭化銅0.004部、ジノニルビピリジン0.5部、PME-400 40部、上記のアニソール分散液59部、及びEBIBのアニソール溶液(EBIBの濃度:0.0008%)1部をガラスサンプル瓶に入れて均一化し、茶褐色の重合溶液を得た。シリコン基板(1cm×2cm)をアルミパウチに入れ、重合溶液で満たして封止した。冷間等方圧加圧装置(商品名「Dr.CHEF」、神戸製鋼社製)にアルミパウチを入れ、60℃、1,000MPaの条件で24時間重合した。アルミパウチの内容物を確認したところ、重合溶液の全体がゲル化していた。洗浄してもゲル化したポリマーを除去することができず、目的とする複合微粒子を得ることができなかった。
【0075】
(比較例6)
シリカ微粒子(商品名「TMS-05」、テイカ社製、平均粒子径5,000nm)を微粒子基材として用意した。用意したシリカ微粒子とエタノールを混合し、シリカ微粒子の含有量が3%であるシリカ微粒子のエタノール分散液200gを得た。得られたエタノール分散液に、BPM3.6gと、28%アンモニア水溶液18g及びエタノール108gの混合溶液とを添加し、24時間撹拌して反応させた。遠心分離処理して取り出した固形分をメタノール及びアニソールで順次洗浄して、重合開始基である2-ブロモイソ酪酸エステル基が微粒子基材の表面に導入された開始基含有基材を得た。得られた開始基付与基材とアニソールを混合し、開始基付与基材の含有量が2%である開始基付与基材のアニソール分散液を得た。このようにして、開始基付与基材をアニソール中で保存した。
【0076】
第一臭化銅0.08部、第二臭化銅0.004部、ジノニルビピリジン0.5部、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(PPGMA)40部、上記のアニソール分散液59部、及びEBIBのアニソール溶液(EBIBの濃度:0.0008%)1部をガラスサンプル瓶に入れて均一化し、茶褐色の重合溶液を得た。シリコン基板(1cm×2cm)をアルミパウチに入れ、重合溶液で満たして封止した。高圧装置(商品名「まるごとエキス」、東洋高圧社製)にアルミパウチを入れ、60℃、400MPaの条件で1時間重合した。アルミパウチ内には、粘性のポリマー溶液が生成していた。生成したポリマーのMnは2,540,000であり、PDIは1.15であった。
【0077】
遠心分離処理して取り出した固形分をTHFで洗浄して、複合微粒子である微粒子HP-6及び処理済みシリコン基板を得た。得られた微粒子HP-6を熱重量分析(TGA)して測定及び算出したポリメタクリレートの含有量(ポリマー分)は、20%であった。また、専有面積率σ*は25%であった。さらに、得られた処理済みシリコン基板に形成されていたポリマー層の膜厚は270nmであった。
【0078】
<固体高分子電解質の製造>
(実施例11~19、比較例7、9~11)
実施例1で製造した微粒子P-1 1部、ポリエチレンオキシド(PEO)(商品名「PEO-2」、住友精化社製、粘度平均分子量60万)6.8部、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)2.2部、及びアセトニトリル73.3部を高速分散機(商品名「ホモディスパー」、プライミクス社製)に入れ、4時間撹拌して溶解及び分散させた。1時間静置して気泡を除去した後、シャーレに流し込み、35℃で2時間キャストした。一晩乾燥させて、固体高分子膜である自立膜(実施例11)を得た。
【0079】
また、表3に示す条件としたこと以外は、上記の実施例11と同様にして、固体高分子膜である自立膜(実施例12~19)を得た。表3中の略号の意味を以下に示す。
・PPO:ポリプロピレンオキシド、粘度平均分子量60万
・PMMA:ポリメチルメタクリレート、粘度平均分子量50万
・PEC:ポリエチレンカーボネート、粘度平均分子量70万
【0080】
(実施例20)
実施例10で製造した微粒子P-10 3部、PEO6.8部、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)5.7部、及びアセトニトリル73.3部を高速分散機(商品名「ホモディスパー」、プライミクス社製)に入れ、4時間撹拌して溶解及び分散させた。1時間静置して気泡を除去した後、シャーレに流し込み、35℃で2時間キャストした。一晩乾燥させて、固体高分子膜である自立膜(実施例20)を得た。
【0081】
(比較例8)
比較例2で製造した微粒子HP-2を用いたこと以外は、前述の実施例11と同様にして固体高分子膜(自立膜)を製造しようとした。しかし、微粒子が凝集及び分離してしまい、均一な固体高分子電解質を得ることができなかった。
【0082】
<評価>
(固体高分子電解質のイオン伝導性)
固体高分子電解質のイオン伝導度を35℃の条件下で測定し、以下に示す評価基準にしたがって固体高分子電解質のイオン伝導性を評価した。結果を表3に示す。
◎:5.0×10-4S/cm以上
○:1.0×10-4S/cm以上、5.0×10-4S/cm未満
△:1.0×10-5S/cm以上、1.0×10-4S/cm未満
×:1.0×10-5S/cm未満
【0083】
(固体高分子電解質の硬度)
ショア硬度試験を行い、以下に示す評価基準にしたがって固体高分子電解質の機械特性(硬度)を評価した。結果を表3に示す。
◎:A70以上
○:A60以上、A70未満
△:A40以上、A60未満
×:A40未満
【0084】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の複合微粒子は、低い動作温度であっても優れたイオン伝導性を示すとともに、硬度等の機械強度に優れた固体高分子電解質を製造するための材料として有用である。