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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018332
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20250130BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121935
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA01
5H770BA02
5H770CA06
5H770EA01
5H770GA01
5H770HA02X
5H770HA02Y
5H770HA06X
5H770HA19X
5H770LB05
5H770LB10
(57)【要約】
【課題】電力変換装置に設けられたスイッチング素子に流れる電流を精度良く推定する。
【解決手段】電力変換装置1は、スイッチング素子101と、スイッチング素子101の主電極であるソース電極に直列に接続されたインダクタンス成分103および寄生抵抗104に発生する電圧の積分値(出力電圧Vout)を出力する積分回路106と、積分回路106から出力される出力電圧Voutに基づいて、スイッチング素子101のソース電極に流れる電流ISを求める第1電流検出回路21とを備える。第1電流検出回路21は、スイッチング素子101のターンオフ前後の区間において積分回路106から出力される第1積分値と、スイッチング素子101のターンオン前後の区間において積分回路106から出力される第2積分値と、に基づいて、ソース電極に流れる電流の大きさを表す第1電流値を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子の主電極に直列に接続されたインダクタンス成分および寄生抵抗に発生する電圧の積分値を出力する積分回路と、
前記積分回路から出力される前記積分値に基づいて、前記スイッチング素子の前記主電極に流れる電流を求める第1電流検出回路と、を備え、
前記第1電流検出回路は、前記スイッチング素子のターンオフ前後の区間において前記積分回路から出力される第1積分値と、前記スイッチング素子のターンオン前後の区間において前記積分回路から出力される第2積分値と、に基づいて、前記主電極に流れる電流の大きさを表す第1電流値を算出する、
電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電力変換装置であって、
前記スイッチング素子を複数有し、
複数の前記スイッチング素子の各々に対して前記第1電流検出回路が設けられ、
前記第1電流検出回路により算出された前記スイッチング素子ごとの前記第1電流値に基づいて、前記電力変換装置の出力電流を推定する出力電流推定回路を備える、
電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載された電力変換装置であって、
前記スイッチング素子は、前記電力変換装置が出力する三相交流電流の各相の上下アームに対してそれぞれ設けられており、
前記出力電流推定回路は、各相の上下アームの前記スイッチング素子にそれぞれ入力されるゲート指令のパルス幅の組み合わせに基づいて、いずれか2相の上アームまたは下アームをそれぞれ選択し、選択した各アームの前記スイッチング素子に対して設けられた前記第1電流検出回路から出力される前記第1電流値に基づいて、前記電力変換装置の各相の出力電流を推定する、
電力変換装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載された電力変換装置であって、
前記電力変換装置の各相の出力電流を検出する第2電流検出回路と、
前記出力電流推定回路により推定された各相の前記出力電流と、前記第2電流検出回路により検出された各相の前記出力電流とを比較し、その比較結果に基づいて前記第2電流検出回路における異常発生の有無を判定する異常検出回路と、を備える、
電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載された電力変換装置であって、
前記第2電流検出回路は、前記電力変換装置が出力する三相交流電流を検出するホールセンサである、
電力変換装置。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載された電力変換装置であって、
前記第1電流検出回路とは異なる方式で、前記スイッチング素子の前記主電極に流れる電流を検出し、その検出結果に応じた第2電流値を出力する第2電流検出回路と、
前記第1電流検出回路により算出された前記第1電流値と、前記第2電流検出回路から出力される前記第2電流値とを比較し、その比較結果に基づいて前記第2電流検出回路または前記スイッチング素子における異常発生の有無を判定する異常検出回路と、を備える、
電力変換装置。
【請求項7】
請求項6に記載された電力変換装置であって、
前記スイッチング素子は、電流センス素子と感温素子とを備え、
前記第2電流検出回路は、前記電流センス素子の電流であるセンス電流を検出するセンス電流検出回路と、前記感温素子の温度である感温素子温度を検出する感温素子温度検出回路と、前記センス電流と前記感温素子温度に基いて前記電力変換装置の出力電流を推定するオンチップセンサ出力電流推定回路と、を備える、
電力変換装置。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載された電力変換装置であって、
前記主電極の端子温度を推定する端子温度推定回路を備え、
前記第1電流検出回路は、前記第1積分値と前記第2積分値に基づいて前記寄生抵抗の大きさを表す寄生抵抗推定値を出力し、
前記端子温度推定回路は、前記寄生抵抗推定値に基づいて前記主電極の端子温度を推定する、
電力変換装置。
【請求項9】
請求項8に記載された電力変換装置であって、
前記端子温度推定回路により推定された前記端子温度に基づいて前記主電極の過温度を検知する端子過温度検知回路を備える、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境の保護や資源の有効利用への社会意識の高まり、家計の経済的合理性などを背景に、今後はカーシェアリング、自動運転、MaaS(Mobility as a Service)などの新しいサービスが普及し、これに伴って自動車の稼働率が大幅に向上することが予測されている。自動車に搭載される各種機器において、こうした稼働時間の増加に対応するためには、構成部品を長寿命化するか、あるいは適切なメンテナンスにより機能を維持することが求められる。このうち部品を長寿命化するためには、コストや性能などの制約が多く、大幅な改善には時間がかかることが予想される。そのため、故障する前に部品の異常を検知する予兆診断技術を併用してメンテナンスを行い、適切なタイミングで部品交換していくことが有効と考えられる。
【0003】
車載装置における部品の異常検知に関して、例えば特許文献1、2の技術が知られている。特許文献1には、電気自動車に搭載される3相交流モータの各相に設けられた電流センサについて、他の二相の電流センサによる測定値に基づいて各相の電流値を推定し、その推定結果と各相での測定値とを比較することにより、各相における電流センサの故障の有無を判別する技術が開示されている。特許文献2には、電気自動車に搭載される電力変換装置において、パワーモジューの上アームまたは下アームを構成するスイッチング素子の各端子に接続された配線の電位差を検知し、検知した電位差に基づいて各配線の電流値を推定することにより、スイッチング素子の短絡検知と過電流検知とを互いに独立に実行する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-116176号公報
【特許文献2】特開2017-92789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、3相のうちいずれか1相の電流センサが故障した場合に、その故障を検知することができるが、2相以上の電流センサが故障した場合は各相の電流値を推定することができないため、電流センサの故障を検知することができない。一方、特許文献2の技術では、各相のアーム単位で短絡検知と過電流検知を行うことができるが、寄生抵抗成分の温度変化を考慮しておらず、電流推定の精度が低い。
【0006】
そこで、本発明は、電力変換装置に設けられたスイッチング素子に流れる電流を精度良く推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電力変換装置は、スイッチング素子と、前記スイッチング素子の主電極に直列に接続されたインダクタンス成分および寄生抵抗に発生する電圧の積分値を出力する積分回路と、前記積分回路から出力される前記積分値に基づいて、前記スイッチング素子の前記主電極に流れる電流を求める第1電流検出回路と、を備え、前記第1電流検出回路は、前記スイッチング素子のターンオフ前後の区間において前記積分回路から出力される第1積分値と、前記スイッチング素子のターンオン前後の区間において前記積分回路から出力される第2積分値と、に基づいて、前記主電極に流れる電流の大きさを表す第1電流値を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電力変換装置に設けられたスイッチング素子に流れる電流を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図2】見かけのソース電流推定値を説明する図である。
図3】スイッチング素子のターンオフ時とターンオン時における各波形例を示す図である。
図4】第1電流検出回路の構成例を示す図である。
図5】パルス条件の具体例を説明するゲート指令と出力電流の波形例を示す図である。
図6】各相のパルス条件と電流検出タイミングの内容をまとめた一覧表を示す図である。
図7A図5の波形例においてパルス条件U-(I)に該当する期間を含む区間の一部を拡大した図である。
図7B図5の波形例においてパルス条件U-(II)に該当する期間を含む区間の一部を拡大した図である。
図7C図5の波形例においてパルス条件U-(III)に該当する期間を含む区間の一部を拡大した図である。
図7D図5の波形例においてパルス条件U-(IV)に該当する期間を含む区間の一部を拡大した図である。
図8】本発明の適用効果の説明図である。
図9】寄生抵抗の抵抗値を変化させたときの真の出力電流に対する推定電流の相対誤差の大きさの変化の様子を示す図である。
図10】本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図11A】本発明の第2の実施形態に係る異常検出回路が異常判定を行う際の処理の流れを示すフローチャートの一例を示す図である。
図11B】本発明の第2の実施形態に係る異常検出回路が異常判定を行う際の処理の流れを示すフローチャートの一例を示す図である。
図12】本発明の第3の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図13】本発明の第4の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
以下に説明する本発明の第1の実施形態では、従来の電流センサの代わりに、各スイッチング素子の主端子におけるインダクタンス成分および寄生抵抗の電圧の積分値に基づいて出力電流を算出し、その算出結果を用いてモータ制御を行う電力変換装置の例を説明する。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。図1に示す電力変換装置1は、蓄電池2とモータ3の間に接続され、蓄電池2から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ3の固定子巻線(U相巻線Lu、V相巻線LV、W相巻線LW)へ出力することにより、モータ3を回転駆動する。電力変換装置1、蓄電池2およびモータ3は、例えば電気自動車などの電動車両に搭載されており、モータ3が発生する駆動力を用いて電動車両を走行させる。電力変換装置1は、インバータ回路10、平滑コンデンサ11および制御装置20を備えて構成される。
【0012】
インバータ回路10は、電力変換装置1がモータ3へ出力する三相交流電流の各相の上下アームに対してそれぞれ設けられた複数のパワーモジュール100(U相上アーム用パワーモジュール100UU、U相下アーム用パワーモジュール100UL、V相上アーム用パワーモジュール100VU、V相下アーム用パワーモジュール100VL、W相上アーム用パワーモジュール100WU、W相下アーム用パワーモジュール100WL)を有している。各パワーモジュール100は、スイッチング素子101、還流ダイオード102、インダクタンス成分103および寄生抵抗104を有し、ゲートドライバ105および積分回路106と接続されている。
【0013】
蓄電池2から供給される直流電力は、平滑コンデンサ11を介してインバータ回路10へ入力される。インバータ回路10は、制御装置20から各相の各アームに対して出力されるゲート指令VG(U相上アーム用ゲート指令VG_UU、U相下アーム用ゲート指令VG_UL、V相上アーム用ゲート指令VG_VU、V相下アーム用ゲート指令VG_VL、W相上アーム用ゲート指令VG_WU、W相下アーム用ゲート指令VG_WL)に応じて、各パワーモジュール100のスイッチング素子101をスイッチング駆動させることにより、直流電力を三相交流電力に変換する。平滑コンデンサ11は、スイッチング素子101のスイッチング駆動による直流電圧の変動を抑制する。
【0014】
スイッチング素子101は、一対の主電極およびゲート電極を有し、ゲートドライバ105からゲート電極へ入力されるゲート信号に応じて、一対の主電極の間を導通または遮断するスイッチング駆動を行うパワー半導体素子である。スイッチング素子101は、例えばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いて構成される。スイッチング素子101がMOSFETである場合、主電極はソース電極とドレイン電極であり、スイッチング素子101がIGBTである場合、主電極はエミッタ電極とコレクタ電極である。以下ではスイッチング素子101がMOSFETである場合の例を説明するが、IGBTの場合も同様である。
【0015】
還流ダイオード102は、スイッチング素子101と逆並列に接続され、パワーモジュール100において逆方向に流れる電流からスイッチング素子101を保護する。なお、スイッチング素子101がMOSFETである場合、MOSFETのボディダイオードを還流ダイオード102として用いてもよい。
【0016】
スイッチング素子101のソース電極と直列に接続されたインダクタンス成分103および寄生抵抗104は、例えばスイッチング素子101の内部や、パワーモジュール100およびインバータ回路10の配線におけるインダクタンス成分や抵抗成分を表す。
【0017】
ゲートドライバ105は、制御装置20から入力されるゲート指令VGに基づき、スイッチング素子101のゲート電極へパルス状のゲート信号を出力する。このゲート信号に応じてスイッチング素子101がターンオンとターンオフを交互に繰り返すことで、スイッチング素子101がスイッチング駆動され、直流電力が交流電力に変換される。
【0018】
積分回路106は、インダクタンス成分103と寄生抵抗104の直列接続の両端電圧を検出し、この両端電圧の積分値に応じた出力電圧Voutを制御装置20へ出力する。積分回路106は、スイッチング素子101のターンオフ前後の区間と、ターンオン前後の区間とのそれぞれで、インダクタンス成分103と寄生抵抗104の直列接続の両端に発生する電圧を検出し、その積分値に応じた出力電圧Voutを出力する。積分回路106は、例えばオペアンプを使用したリセットスイッチ付き積分回路により構成される。
【0019】
制御装置20は、インバータ回路10の各パワーモジュール100に対して設けられた複数の第1電流検出回路21と、出力電流推定回路22、制御信号生成回路23および通信コネクタ24とを有する。
【0020】
各第1電流検出回路21には、インバータ回路10が有する各積分回路106からの出力電圧Voutが入力される。各第1電流検出回路21は、入力された出力電圧Voutに基づき、後述のdi/dt積分方式と呼ばれる演算方法を用いて、各相の各アームにおいてスイッチング素子101の主電極(ソース電極)に流れる電流の大きさを求め、その算出結果を第1電流値(U相上アーム電流IUU、U相下アーム電流IUL、V相上アーム電流IVU、V相下アーム電流IVL、W相上アーム電流IWU、W相下アーム電流IWL)として出力電流推定回路22へ出力する。なお、第1電流検出回路21による第1電流値の算出方法の詳細については後述する。
【0021】
出力電流推定回路22は、各相の各アームに対応する第1電流検出回路21からそれぞれ出力される第1電流値(U相上アーム電流IUU、U相下アーム電流IUL、V相上アーム電流IVU、V相下アーム電流IVL、W相上アーム電流IWU、W相下アーム電流IWL)に基づいて、電力変換装置1から出力される各相の出力電流(U相出力電流IoutU、V相出力電流IoutV、W相出力電流IoutW)を推定する。そして、各相の出力電流の推定結果を制御信号生成回路23へ出力する。なお、出力電流推定回路22による各相の出力電流の推定方法の詳細については後述する。
【0022】
制御信号生成回路23は、出力電流推定回路22による各相の出力電流の推定結果に基づいて周知のベクトル制御を行うことにより、不図示の上位制御装置から通信コネクタ24を介して入力されるトルク指令に応じて、各相の各アームに対するゲート指令VG(U相上アーム用ゲート指令VG_UU、U相下アーム用ゲート指令VG_UL、V相上アーム用ゲート指令VG_VU、V相下アーム用ゲート指令VG_VL、W相上アーム用ゲート指令VG_WU、W相下アーム用ゲート指令VG_WL)を生成し、インバータ回路10へ出力する。
【0023】
具体的には、例えば制御信号生成回路23は、蓄電池2の電圧およびトルク指令に基づいてd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*を求めるとともに、モータ3に取り付けられた不図示の角度センサにより検出されたモータ3の磁極位置に基づいて、U相出力電流IoutU、V相出力電流IoutVおよびW相出力電流IoutWをdq軸上の出力電流(d軸電流値Idおよびq軸電流値Iq)に変換する。そして、d軸電流指令値Id*とd軸電流値Idの差分、および、q軸電流指令値Iq*とq軸電流値Iqの差分から、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を求め、これらの電圧指令値を2相3相変換することで、各相の電圧指令(U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*)を求める。こうして求められた各相の電圧指令に基づいてPWM制御を行うことにより、各相の各アームに対するゲート指令VGを生成することができる。なお、以上説明したゲート指令の生成方法は一例であり、出力電流推定回路22による各相の出力電流の推定結果に基づいて各相の各アームに対するゲート指令を生成できれば、制御信号生成回路23では任意の方法により、ゲート指令の生成を行うことができる。
【0024】
次に、第1電流検出回路21による第1電流値の算出方法(di/dt積分方式)の詳細について以下に説明する。なお以下では、W相上アーム用パワーモジュール100WUに接続された積分回路106から出力される出力電圧Voutに基づいて、W相上アーム用パワーモジュール100WUにおいてスイッチング素子101のソース電極に流れる電流の大きさを、これに対応する第1電流検出回路21が第1電流値として算出する場合の例を説明するが、他の第1電流検出回路21についても同様である。
【0025】
W相上アーム用パワーモジュール100WUにおけるインダクタンス成分103のインダクタンス値をLSs、寄生抵抗104の抵抗値をRSsとすると、積分回路106に入力されるこれらの両端電圧VSsは以下の(式1)で表される。(式1)において、diS/dtはスイッチング素子101に流れるソース電流の時間変化率を表す。
【数1】
【0026】
積分回路106からの出力電圧Voutは、式(1)の両端電圧VSsを用いて、以下の(式2)で表される。式(2)において、Ri,Ciは積分回路106が有する抵抗成分と容量成分の値をそれぞれ表す。
【数2】
【0027】
(式2)において、tst、treadは積分回路106における積分演算の開始時刻と読み取り時刻をそれぞれ表している。すなわち、積分回路106では、時刻tstからtreadまでの期間において、両端電圧VSsが積分されてその積分値が出力電圧Voutとして出力され、第1電流検出回路21によって読み取られる。
【0028】
(式2)より、出力電圧Voutから推定されるソース電流推定値IS_estは、以下の(式3)で表される。
【数3】
【0029】
(式3)により、積分回路106の出力(右辺第1項)から寄生抵抗104の電圧降下による誤差成分(右辺第2項)を差し引くことで、ソース電流の時間変化率diS/dtの積分値のみを抽出してソース電流推定値IS_estを算出できることが分かる。ここで、寄生抵抗104による誤差を差し引く前の見かけのソース電流推定値をIS_est’と置くと、これは以下の(式4)で表される。
【数4】
【0030】
(式4)で求められる見かけのソース電流推定値IS_est’について、以下に図2を参照して説明する。図2において、(a)は積分回路106の回路構成例を示し、(b)はスイッチング素子101のターンオフ時における各波形例を示している。図2(b)では、上段にゲート電圧Vgsと積分回路106のリセット信号との電圧波形例を示し、下段に実際のソース電流ISと見かけのソース電流推定値IS_est’との電流波形を計算で求めた例を示している。
【0031】
例えば図2(a)に示す回路構成の積分回路106を用いた場合、(式4)で計算される見かけのソース電流推定値IS_est’には、実際のターンオフ前のソース電流ISに対して、寄生抵抗104の抵抗値RSsに応じた誤差分が含まれる。図2(b)の電流波形例では、寄生抵抗104の抵抗値RSsが0Ω、50μΩ、100μΩ、200μΩのそれぞれの場合における見かけのソース電流推定値IS_est’を示している。
【0032】
寄生抵抗104の抵抗値RSsが0Ωの場合、(式4)で計算される見かけのソース電流推定値IS_est’は、ターンオフ前のソース電流IS0と一致する。そのため、このような場合は見かけのソース電流推定値IS_est’をソース電流IS0として求めることで、スイッチング素子101(パワーモジュール100)に流れる実際の電流の大きさを精度よく検知することができる。一方、寄生抵抗104の抵抗値RSsが0Ωではない場合、(式4)で計算される見かけのソース電流推定値IS_est’には寄生抵抗104の抵抗値RSsに応じた誤差が含まれており、ターンオフ前のソース電流IS0とは一致しない。図2(b)に示されるように、この誤差は抵抗値RSsが大きいほど増加し、50~200μΩ程度の小さい抵抗値であっても無視できないことが分かる。
【0033】
ここで、寄生抵抗104の抵抗値RSsは、スイッチング素子101の温度に応じて変化する。すなわち、スイッチング素子101が通電されて主電極の端子温度が上昇すると、これに応じて寄生抵抗104の抵抗値RSsも上昇する。一例として、スイッチング素子101の主電極に銅を使用した場合、例えば主電極の温度が20℃から150℃に増加すると、寄生抵抗104の抵抗値RSsは1.5倍程度増加する。
【0034】
本発明では、このようなスイッチング素子101の温度変化による寄生抵抗104の抵抗値RSsの変化に関わらず、実際のソース電流ISを正確に求められるように、第1電流検出回路21において各相、各アームの電流推定を行う。これにより、各パワーモジュール100に対する第1電流値を精度良く算出できるようにしている。その具体的な方法を以下に説明する。
【0035】
図3は、スイッチング素子101のターンオフ時とターンオン時における各波形例を示す図である。図3において、(a)はターンオフ時の波形例を示し、(b)はターンオン時の波形例を示している。図3(a)、(b)では、前述の図2(b)と同様に、上段にゲート電圧Vgsと積分回路106のリセット信号との電圧波形例を示し、下段に実際のソース電流と見かけのソース電流推定値との電流波形例を示している。なお、図3(a)ではターンオフ前のソース電流をIS(off)、見かけのソース電流推定値をIS(off)est’とそれぞれ表し、図3(b)ではターンオン後のソース電流をIS(on)、見かけのソース電流推定値をIS(on)est’とそれぞれ表している。また、図3(a)、(b)では寄生抵抗104による電流推定誤差をIRSs(off)、IRSs(on)とそれぞれ表している。
【0036】
図3に示すように、ターンオフ前とターンオン後のソース電流IS(off)、IS(on)は、(式4)から算出される見かけのソース電流推定値IS(off)est’、IS(on)est’と、寄生抵抗104による電流推定誤差IRSs(off)、IRSs(on)とを使用して、以下の(式5)、(式6)によりそれぞれ表すことが出来る。
【数5】
【0037】
ここで、各相のスイッチング素子101におけるターンオフ後からターンオン前までのオフ期間中に当該相の負荷電流が増減しない特定のパルス条件を選ぶと、ターンオフ前のソース電流IS(off)とターンオン後のソース電流IS(on)はほぼ等しくなる。このとき、上記の(式5)と(式6)の差をとると、以下の(式7)が成り立つ。
【数6】
【0038】
(式7)より、寄生抵抗104の電圧降下を考慮せずに算出されるターンオフ前およびターンオン後の見かけのソース電流推定値IS(off)est’、IS(on)est’の差分から、寄生抵抗104による電流推定誤差IRSs(off)、IRSs(on)を算出できることが分かる。なお、図3の波形例では、積分回路106による積分範囲をターンオフ前後の区間とターンオン前後の区間で分けている。これらの積分範囲での積分値に応じて積分回路106からそれぞれ出力される出力電圧Voutに基づき、ターンオフ前とターンオン後でそれぞれ算出される見かけのソース電流推定値IS(off)est’、IS(on)est’の差分を求めることにより、(式7)の演算を行うことができる。ただし、ターンオフ前後の区間における積分と、ターンオン前後の区間における積分とでは、得られる積分値の極性が逆である。そのため、ターンオフ前からターンオン後まで積分を継続し、この積分範囲で積分回路106から出力される出力電圧Voutを用いて(式4)により見かけのソース電流推定値IS_est’を求めても、(式7)の演算と同じ結果が得られる。
【0039】
通常、寄生抵抗104の電圧積分による電流誤差を補正するためには、(式3)の右辺第2項に示すように、寄生抵抗104に流れる電流値ISを知る必要がある。しかしながら、最終的に求めたいソース電流の大きさもこれと同じ電流値ISであるため、電流値ISは再帰的に求める必要があり、これを正確に算出することが困難である。そこで本実施形態の電力変換装置1では、前述のような特定のパルス条件において各相、各アームの第1電流検出回路21により算出された第1電流値を選ぶことにより、寄生抵抗104の電圧積分による電流誤差に関わらず、各相、各アームの正確なソース電流値ISを取得できるようにしている。この点が、本実施形態の電力変換装置1の主な特徴である。
【0040】
具体的には、ターンオフ時とターンオン時の電流波形をそれぞれ方形波で近似し、これらの積分期間内の電流導通期間Δtcond(off)、Δtcond(on)におけるソース電流の大きさを一定の電流値ISと置くと(is=IS)、前述の(式7)の左辺におけるターンオフ時の電流推定誤差IRSs(off)とターンオン時の電流推定誤差IRSs(on)とは、それぞれ以下の(式8)、(式9)で求められる。
【数7】
【0041】
(式7)~(式9)より、以下の(式10)、(式11)が求められる。
【数8】
【0042】
(式8)、(式9)および(式11)より、以下の(式12)、(式13)が求められる。
【数9】
【0043】
(式12)、(式13)を前述の(式5)、(式6)にそれぞれ代入すると、以下の(式14)、(式15)が求められる。
【数10】
【0044】
(式7)が成立する前提条件は、前述のようにIS(off)≒IS(on)≒ISである。そのため、(式14)と(式15)のどちらを使用しても、ターンオフ前後の区間において積分回路106から出力される出力電圧Voutにより(式4)を用いて算出される見かけのソース電流推定値IS(off)est’と、ターンオン前後の区間において積分回路106から出力される出力電圧Voutにより(式4)を用いて算出される見かけのソース電流推定値IS(on)est’とに基づいて、実際のソース電流値ISを算出することができる。ここで、ソース電流値ISとは各相の各アームに流れる電流のことである。すなわち、本実施形態の電力変換装置1では、各第1電流検出回路21において上記のような演算処理を行うことにより、ターンオフ前後の区間において各相、各アームの積分回路106から出力される出力電圧Voutが表す積分値(第1積分値)と、ターンオン前後の区間において各相、各アームの積分回路106から出力される出力電圧Voutが表す積分値(第2積分値)とに基づいて、スイッチング素子101の主電極であるソース電極に流れる電流の大きさを表す第1電流値(U相上アーム電流IUU、U相下アーム電流IUL、V相上アーム電流IVU、V相下アーム電流IVL、W相上アーム電流IWU、W相下アーム電流IWL)を算出することができる。
【0045】
図4は、第1電流検出回路21の構成例を示す図である。図4に示すように、第1電流検出回路21は、例えばソース電流推定部211、ターンオフ/ターンオン判別部212、電流導通期間推定部213および寄生抵抗誤差補正部214の各機能ブロックを有する。第1電流検出回路21は、これらの機能ブロックを、例えばマイクロコンピュータで実行されるプログラムや論理回路の組み合わせにより実現できる。論理回路には、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いてもよい。
【0046】
ソース電流推定部211には、積分回路106からの出力電圧Voutが入力される。ソース電流推定部211は、入力された出力電圧Voutに基づき、(式4)を用いて、見かけのソース電流推定値IS_est’を算出する。
【0047】
ターンオフ/ターンオン判別部212には、制御装置20から各相の各アームに対して出力されるゲート指令VGとソース電流推定部211が算出した見かけのソース電流推定値IS_est’が入力される。ターンオフ/ターンオン判別部212は、入力された各相、各アームの見かけのソース電流推定値IS_est’と、全相のゲート指令VGに基づいて、当該アームのスイッチング素子101におけるターンオフおよびターンオンのタイミングと、これに応じた電流検出タイミングとを判別する。なお、このときの電流検出タイミングの判別方法の詳細については後述する。そして、ターンオフ前後の区間で取得したものと、ターンオン前後の区間で取得したものとを互いに区別して、前者をターンオフ前の見かけのソース電流推定値IS(off)est’、後者をターンオン後の見かけのソース電流推定値IS(on)est’としてそれぞれ出力する。
【0048】
電流導通期間推定部213には、ターンオフ/ターンオン判別部212により求められた見かけのソース電流推定値IS(off)est’、IS(on)est’と、蓄電池2の直流電圧を表すバッテリ電圧と、当該第1電流検出回路21に対応するアームのスイッチング素子101に取り付けられた不図示のオンチップ温度センサからの出力信号とが入力される。電流導通期間推定部213は、入力されたこれらのパラメータに基づき、スイッチング素子101のスイッチング条件(電流、電圧、温度)を求めて、そのスイッチング条件に応じた電流導通期間Δtcond(off)、Δtcond(on)を推定する。電流導通期間推定部213は、例えばスイッチング条件ごとの電流導通期間Δtcond(off)、Δtcond(on)の値を示すテーブルデータを格納したメモリを有し、このテーブルデータを参照することで、入力パラメータが表すスイッチング条件に対応する電流導通期間Δtcond(off)、Δtcond(on)を推定することができる。
【0049】
なお、電流導通期間推定部213では、電流導通期間Δtcond(off)、Δtcond(on)を推定する際に、上記の入力パラメータのいずれか少なくとも一つを省略してもよい。あるいは、電流導通期間Δtcond(off)、Δtcond(on)を予め設定された固定値としてもよい。積分回路106における積分期間内での電流導通期間Δtcond(off)、Δtcond(on)を適切に推定できれば、電流導通期間推定部213では任意の方法により、これらの推定を行うことができる。
【0050】
寄生抵抗誤差補正部214は、ターンオフ/ターンオン判別部212により求められた見かけのソース電流推定値IS(off)est’、IS(on)est’と、電流導通期間推定部213により推定された電流導通期間Δtcond(off)、Δtcond(on)とに基づき、(式14)、(式15)を用いて、寄生抵抗104による誤差が補正されたソース電流値ISを算出する。そして、得られたソース電流値ISの算出結果を、当該アームに流れる電流の推定結果(U相上アーム電流IUU、U相下アーム電流IUL、V相上アーム電流IVU、V相下アーム電流IVL、W相上アーム電流IWU、W相下アーム電流IWL)として、出力電流推定回路22へ出力する。
【0051】
続いて、ターンオフ/ターンオン判別部212における電流検出タイミング判別方法の詳細について以下に説明する。
【0052】
前述のように、各相、各アームの第1電流検出回路21におけるターンオフ/ターンオン判別部212は、全相のゲート指令VGに基づいて、当該アームの電流検出タイミングを判別する。このとき、当該アームのPWM制御状態が前述の(式7)の成立条件を満たすタイミング、すなわち、スイッチング素子101のターンオフ後からターンオン前までのオフ期間中に負荷電流が増減しない特定のパルス条件に該当するタイミングを判断する。
【0053】
上記のような特定のパルス条件の具体例について、以下では図5に示すゲート指令と出力電流の波形例により説明する。図5において、(a)はU,V,W各相の上アームに対するゲート指令VG_UU、VG_VU、VG_WUの波形例を示し、(b)はU,V,W各相の下アームに対するゲート指令VG_UL、VG_VL、VG_WLの波形例を示している。なお、図5(a)、(b)の波形例では、各ゲート指令の波形が分かるように、互いに上下方向にオフセットして示している。また、(c)は(a)、(b)の各ゲート指令に応じて電力変換装置1から出力される各相の出力電流IoutU、IoutV、IoutWの波形例を示し、(d)はU相に流れる電流(U相上アーム電流IUU、U相下アーム電流IUL)の波形例を示している。
【0054】
例えば、図5においてU相出力電流IoutUに着目した場合、図5(c)に示す区間51~56のそれぞれでは、他相のゲート指令に対するU相の上アーム用ゲート指令VG_UUおよび下アーム用ゲート指令VG_ULのパルス幅の大きさと、U相出力電流IoutUの極性との組み合わせが互いに異なっている。ターンオフ/ターンオン判別部212は、これらの組み合わせに応じてU相のパルス条件U-(I)~U-(V)を設定し、パルス条件ごとに異なるタイミングで電流を検出する。
【0055】
なお、図5ではU相出力電流IoutUに対する区間51~56およびパルス条件U-(I)~U-(V)を図示したが、V相についても同様に、他相のゲート指令に対するV相の上アーム用ゲート指令VG_VUおよび下アーム用ゲート指令VG_VLのパルス幅の大きさと、V相出力電流IoutVの極性との組み合わせに応じて、V相のパルス条件V-(I)~V-(V)を設定することができる。また、W相についても同様に、他相のゲート指令に対するW相の上アーム用ゲート指令VG_WUおよび下アーム用ゲート指令VG_WLのパルス幅の大きさと、W相出力電流IoutWの極性との組み合わせに応じて、W相のパルス条件W-(I)~W-(V)を設定することができる。
【0056】
図6は、各相のパルス条件と電流検出タイミングの内容をまとめた一覧表である。図6において、表61はU相のパルス条件U-(I)~U-(V)の内容とそれぞれの電流検出タイミングを示し、表62はV相のパルス条件V-(I)~V-(V)の内容とそれぞれの電流検出タイミングを示し、表63はW相のパルス条件W-(I)~W-(V)の内容とそれぞれの電流検出タイミングを示している。
【0057】
U相、V相、W相の上下アームに対してそれぞれ設けられた第1電流検出回路21において、ターンオフ/ターンオン判別部212は、制御装置20から出力されるゲート指令VGに基づき、図6のパルス条件のいずれに該当するかを判断する。そして、該当したパルス条件での電流検出タイミングに合わせて積分回路106出力の読み取りタイミングを変更することで、積分回路106の積分期間を設定する。
【0058】
なお、図6の表61~63において、U相、V相、W相のうちいずれか1相がパルス条件U-(V)、V-(V)またはW-(V)に該当する場合、他の2相では、U-(I)~U-(IV)、V-(I)~V-(IV)またはW-(I)~W-(IV)のいずれかにそれぞれ該当する。したがって、パルス条件U-(V)、V-(V)またはW-(V)に該当する相では、他の2相での第1電流検出回路21の算出結果を用いて、当該相の出力電流を求めることができる。
【0059】
続いて、図6の表61に示したU相のパルス条件U-(I)~U-(V)の詳細について、図7A図7Dにそれぞれ示す図5の各区間の拡大図を参照して、以下に説明する。
【0060】
[区間51:パルス条件U-(I)]
パルス条件U-(I)は、各相の上アームのゲート指令VG_UU、VG_VU、VG_WUにおけるオフ期間のパルス幅PWUU_OFF、PWVU_OFF、PWWU_OFFの中で、U相上アーム(UUアーム)のパルス幅PWUU_OFFが最小であり、かつ、U相出力電流IoutUの極性が正(電力変換装置1から負荷であるU相巻線Luに流れる方向)の条件である。図7Aは、このパルス条件U-(I)に該当する期間を含む図5の区間51の一部を拡大した図である。
【0061】
図7Aに示すように、区間51において、UUアームのスイッチング素子101がターンオフし、次にターンオンするまでの期間(UUアームのオフ期間)では、UUアームに流れる電流値が変化しない。この理由は、以下の通りである。
【0062】
UUアームのオフ期間中にU相電流が変化しないためには、この期間において、U相の負荷であるモータ3のU相巻線Luの両端に電圧が印加されない必要がある。U相出力電流IoutUの極性が正のときにUUアームのスイッチング素子101がターンオフすると、U相巻線Luに流れる電流がU相下アーム(ULアーム)の還流ダイオード102を通るため、U相出力電圧は低電位となる。このときV相上アーム(VUアーム)またはW相上アーム(WUアーム)のどちらか一方でもオンしていると、V相またはW相の出力電圧が高電位となり、U相巻線Luには高電圧が印加される。他方、VUアームとWUアームが両方ともオフであり、V相下アーム(VLアーム)とW相下アーム(WLアーム)が両方ともオンの状態では、V相とW相の出力電圧がどちらも低電位となる。その結果、U相巻線Luには高電圧が印加されず、U相出力電流IoutUは変化しない。
【0063】
PWM制御において、あるキャリア周期に着目したとき、図5に示すように高電位側の各アーム(UU、VU、WUアーム)に対するゲート指令VG_UU、VG_VU、VG_WUでは、オン期間のタイミングが互いに重なるため、相ごとにパルス幅が異なるように生成される。一方、低電位側の各アーム(UL、VL、WLアーム)に対するゲート指令VG_UL、VG_VL、VG_WLでは、高電位側のそれぞれのパルスを反転し、さらに同じ相の上下アームが同時にオンしないように、デッドタイムが確保されて生成される。
【0064】
図7Aに示すように、区間51では、各相の上アームのゲート指令VG_UU、VG_VU、VG_WUのうちUUアームのゲート指令VG_UUで、オフ期間のパルス幅PWUU_OFFが最小となる。このとき、VUアームとWUアームはオフ状態、VLアームとWLアームはオン状態で、UUアームのスイッチング素子101がターンオフし、その後パルス幅PWUU_OFFを経てターンオンする。すなわち、パルス条件U-(I)を満たす場合、UUアームのゲート指令VG_UUのオフ期間では、U相巻線Luに高電圧が印加されず、U相出力電流IoutUが増減しない。そのため、ターンオフ前とターンオン後のU相出力電流IoutUの大きさを同じとみなすことができ、(式7)の成立条件を満たしている。
【0065】
以上説明したことから、パルス条件U-(I)に該当する場合、UUアームに対して設けられた第1電流検出回路21により、UUアームのスイッチング素子101のターンオフ前後の期間とターンオン前後の期間にそれぞれ同期して、または、UUアームのスイッチング素子101のターンオフ前からターンオン後までの期間に同期して出力電圧Voutを読み取り、この出力電圧Voutに基づいてU相上アーム電流IUUを求めることができる。このとき出力電流推定回路22では、当該第1電流検出回路21から出力されるU相上アーム電流IUUの値を、U相出力電流IoutUの推定結果として出力することができる。
【0066】
なお、第1電流検出回路21においてパルス条件U-(I)を判断する際に、U相出力電流IoutUの極性は、例えばソース電流推定部211が(式4)を用いて算出する補正前の見かけのソース電流推定値IS_est’の極性から判定すればよい。これは、他のパルス条件の判断においても同様である。
【0067】
[区間56:パルス条件U-(II)]
パルス条件U-(II)は、パルス幅の条件がパルス条件U-(I)と同様であり、かつ、U相出力電流IoutUの極性が負(負荷であるU相巻線Luから電力変換装置1に流れる方向)の条件である。図7Bは、このパルス条件U-(II)に該当する期間を含む図5の区間56の一部を拡大した図である。
【0068】
図7Bに示すように、区間56において、UUアームのオフ期間のうち、ULアームのスイッチング素子101がターンオンし、次にターンオフするまでの期間では、UUアームに流れる電流値が変化しない。この理由は、以下の通りである。
【0069】
図7Bに示すように、区間56では、各相の下アームのゲート指令VG_UL、VG_VL、VG_WLのうちULアームのゲート指令VG_ULで、オン期間のパルス幅PWUL_ONが最小となる。このとき、UUアームのスイッチング素子101がオフした後でも、UUアームの還流ダイオード102を介してUUアームに電流が流れており、UUアームのスイッチング素子101ではなく、ULアームのスイッチング素子101のターンオンに応じて、UUアームの電流が遮断される。その後、ULアームのスイッチング素子101のターンオフに応じて、UUアームの電流が再び導通される。すなわち、パルス条件U-(II)を満たす場合、ULアームのゲート指令VG_ULのオン期間では、U相巻線Luに高電圧が印加されず、U相出力電流IoutUが増減しない。そのため、ターンオフ前とターンオン後のU相出力電流IoutUの大きさを同じとみなすことができ、(式7)の成立条件を満たしている。
【0070】
以上説明したことから、パルス条件U-(II)に該当する場合、UUアームに対して設けられた第1電流検出回路21により、ULアームのスイッチング素子101のターンオン期間とターンオフ期間にそれぞれ同期して、または、ULアームのスイッチング素子101のターンオンからターンオフまでの期間に同期して出力電圧Voutを読み取り、この出力電圧Voutに基づいてU相上アーム電流IUUを求めることができる。このとき出力電流推定回路22では、パルス条件U-(I)の場合と同様に、当該第1電流検出回路21から出力されるU相上アーム電流IUUの値を、U相出力電流IoutUの推定結果として出力することができる。
【0071】
[区間53:パルス条件U-(III)]
パルス条件U-(III)は、各相の下アームのゲート指令VG_UL、VG_VL、VG_WLにおけるオフ期間のパルス幅PWUL_OFF、PWVL_OFF、PWWL_OFFの中で、U相下アーム(ULアーム)のパルス幅PWUL_OFFが最小であり、かつ、U相出力電流IoutUの極性が正の条件である。すなわち、前述のパルス条件U-(I)、U-(II)と比べて、下アームを対象としている点が異なる。図7Cは、このパルス条件U-(III)に該当する期間を含む図5の区間53の一部を拡大した図である。
【0072】
図7Cに示すように、区間53において、ULアームのオフ期間のうち、UUアームのスイッチング素子101がターンオンし、次にターンオフするまでの期間では、ULアームに流れる電流値が変化しない。この理由は、以下の通りである。
【0073】
図7Cに示すように、区間53では、各相の上アームのゲート指令VG_UU、VG_VU、VG_WUのうちUUアームのゲート指令VG_UUで、オン期間のパルス幅PWUU_ONが最小となる。このとき、ULアームのスイッチング素子101がオフした後でも、ULアームの還流ダイオード102を介してULアームに電流が流れており、ULアームのスイッチング素子101ではなく、UUアームのスイッチング素子101のターンオンに応じて、ULアームの電流が遮断される。その後、UUアームのスイッチング素子101のターンオフに応じて、ULアームの電流が再び導通される。すなわち、パルス条件U-(III)を満たす場合、UUアームのゲート指令VG_UUのオン期間では、パルス条件U-(II)におけるULアームのゲート指令VG_ULのオン期間の場合と同様に、U相巻線Luに高電圧が印加されず、U相出力電流IoutUが増減しない。そのため、ターンオフ前とターンオン後のU相出力電流IoutUの大きさを同じとみなすことができ、(式7)の成立条件を満たしている。
【0074】
以上説明したことから、パルス条件U-(III)に該当する場合、ULアームに対して設けられた第1電流検出回路21により、UUアームのスイッチング素子101のターンオン期間とターンオフ期間にそれぞれ同期して、または、UUアームのスイッチング素子101のターンオンからターンオフまでの期間に同期して出力電圧Voutを読み取り、この出力電圧Voutに基づいてU相下アーム電流IULを求めることができる。このとき出力電流推定回路22では、当該第1電流検出回路21から出力されるU相下アーム電流IULの極性を逆転した-IULの値を、U相出力電流IoutUの推定結果として出力することができる。
【0075】
[区間54:パルス条件U-(IV)]
パルス条件U-(IV)は、パルス幅の条件がパルス条件U-(III)と同様であり、かつ、U相出力電流IoutUの極性が負の条件である。図7Dは、このパルス条件U-(IV)に該当する期間を含む図5の区間54の一部を拡大した図である。
【0076】
図7Dに示すように、区間54では、前述のパルス条件U-(I)におけるUUアームと同様に、ULアームのゲート指令VG_ULのオフ期間ではULアームに流れる電流値が変化しない。すなわち、パルス条件U-(IV)を満たす場合、ULアームのゲート指令VG_ULのオフ期間では、U相巻線Luに高電圧が印加されず、U相出力電流IoutUが増減しない。そのため、ターンオフ前とターンオン後のU相出力電流IoutUの大きさを同じとみなすことができ、(式7)の成立条件を満たしている。
【0077】
以上説明したことから、パルス条件U-(IV)に該当する場合、ULアームに対して設けられた第1電流検出回路21により、ULアームのスイッチング素子101のターンオフ前後の期間とターンオン前後の期間にそれぞれ同期して、または、ULアームのスイッチング素子101のターンオフ前からターンオン後までの期間に同期して出力電圧Voutを読み取り、この出力電圧Voutに基づいてU相下アーム電流IULを求めることができる。このとき出力電流推定回路22では、当該第1電流検出回路21から出力されるU相下アーム電流IULの極性を逆転した-IULの値を、U相出力電流IoutUの推定結果として出力することができる。
【0078】
[区間52,55:パルス条件U-(V)]
パルス条件U-(V)は、UUアームとULアームのパルス幅PWUU_OFF、PWUL_OFFがいずれも同電位側のアーム内で非最小の条件である。この場合、UUアーム、ULアームとも、ゲート指令VG_UU、VG_ULのオフ期間においてU相巻線Luに高電圧が印加され、U相出力電流IoutUが変化してしまう。そのため、U相電流については(式7)の条件が成立しない。一方、残りのV相とW相では、いずれも上アームまたは下アームにおいてオンまたはオフ期間のパルス幅が最小となり、図6の表62,63にそれぞれ示したパルス条件V-(I)~V-(IV)、W-(I)~W-(IV)のいずれかにそれぞれ該当するため、(式7)の成立条件が満たされる。そのためこの場合には、出力電流推定回路22において、V相の上アームまたは下アームに対応する第1電流検出回路21で求められたV相出力電流IoutVの値と、W相の上アームまたは下アームに対応する第1電流検出回路21で求められたW相出力電流IoutWの値とに基づき、各相の出力電流の和が0になることを利用して、IoutU=-(IoutV+IoutW)で求めることができる。
【0079】
なお、上記ではU相のパルス条件U-(I)~U-(V)と、これらのパルス条件ごとのU相出力電流IoutUの推定方法について説明したが、他のV相およびW相についても同様に、パルス条件V-(I)~V-(V)、W-(I)~W-(V)のいずれに該当するかをそれぞれ判断して、V相出力電流IoutVおよびW相出力電流IoutWの推定を行うことができる。
【0080】
図8は、本発明の適用効果の説明図である。図8では、電力変換装置1から出力される各相の出力電流について、本実施形態の第1電流検出回路21による寄生抵抗誤差の補正が行われた電流検出結果を用いて推定された各相の電流波形と、寄生抵抗誤差の補正を行わずに推定された各相の電流波形とを、それぞれ計算で求めた場合の例を示している。図8の各電流波形から、本実施形態の第1電流検出回路21を適用して各相の出力電流を推定することで、寄生抵抗誤差の補正を行わない場合と比べて、電力変換装置1の実際の出力電流に対する乖離が小さくなることを確認できる。
【0081】
図9は、寄生抵抗104の抵抗値を変化させたときの真の出力電流に対する推定電流の相対誤差の大きさの変化の様子を示す図である。従来技術のように、寄生抵抗104による誤差を考慮せずに積分回路106で得られる積分値から出力電流を推定する方式では、寄生抵抗104の抵抗値が増加すると、それに応じて電流推定誤差も増加する。一方、本実施形態の第1電流検出回路21のように、寄生抵抗104による誤差を補正して出力電流を推定する方式では、寄生抵抗104の抵抗値が増加しても、電流推定誤差を増加させずに抑えることができる。
【0082】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0083】
(1)電力変換装置1は、スイッチング素子101と、スイッチング素子101の主電極であるソース電極に直列に接続されたインダクタンス成分103および寄生抵抗104に発生する電圧の積分値(出力電圧Vout)を出力する積分回路106と、積分回路106から出力される積分値(出力電圧Vout)に基づいて、スイッチング素子101のソース電極に流れる電流ISを求める第1電流検出回路21とを備える。第1電流検出回路21は、スイッチング素子101のターンオフ前後の区間において積分回路106から出力される第1積分値(出力電圧Vout)と、スイッチング素子101のターンオン前後の区間において積分回路106から出力される第2積分値(出力電圧Vout)と、に基づいて、ソース電極に流れる電流の大きさを表す第1電流値(U相上アーム電流IUU、U相下アーム電流IUL、V相上アーム電流IVU、V相下アーム電流IVL、W相上アーム電流IWU、W相下アーム電流IWL)を算出する。このようにしたので、電力変換装置1に設けられたスイッチング素子101に流れる電流を精度良く推定することができる。
【0084】
(2)電力変換装置1は、スイッチング素子101を複数有し、複数のスイッチング素子101の各々に対して第1電流検出回路21が設けられている。電力変換装置1は、第1電流検出回路21により算出されたスイッチング素子101ごとの第1電流値(U相上アーム電流IUU、U相下アーム電流IUL、V相上アーム電流IVU、V相下アーム電流IVL、W相上アーム電流IWU、W相下アーム電流IWL)に基づいて、電力変換装置1の出力電流(U相出力電流IoutU、V相出力電流IoutV、W相出力電流IoutW)を推定する出力電流推定回路22を備える。このようにしたので、各スイッチング素子101に流れる電流の推定結果から、電力変換装置1の出力電流を精度良く推定することができる。
【0085】
(3)スイッチング素子101は、電力変換装置1が出力する三相交流電流(U相出力電流IoutU、V相出力電流IoutV、W相出力電流IoutW)の各相(U相、V相、W相)の上下アームに対してそれぞれ設けられている。出力電流推定回路22は、各相の上下アームのスイッチング素子101にそれぞれ入力されるゲート指令(U相上アーム用ゲート指令VG_UU、U相下アーム用ゲート指令VG_UL、V相上アーム用ゲート指令VG_VU、V相下アーム用ゲート指令VG_VL、W相上アーム用ゲート指令VG_WU、W相下アーム用ゲート指令VG_WL)のパルス幅の組み合わせに基づいて、図6の表61~63に従っていずれか2相の上アームまたは下アームをそれぞれ選択し、選択した各アームのスイッチング素子101に対して設けられた第1電流検出回路21から出力される第1電流値(U相上アーム電流IUU、U相下アーム電流IUL、V相上アーム電流IVU、V相下アーム電流IVL、W相上アーム電流IWU、W相下アーム電流IWL)に基づいて、電力変換装置1の各相の出力電流(U相出力電流IoutU、V相出力電流IoutV、W相出力電流IoutW)を推定する。このようにしたので、(式7)の成立条件を満たすアームを順次適切に選択して、寄生抵抗104の電圧積分による電流誤差に関わらず、各相、各アームに流れる電流を正確に推定することができる。その結果、電力変換装置1の出力電流を精度良く推定することが可能となる。
【0086】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。図10に示す電力変換装置1Aは、第1の実施形態で説明した電力変換装置1にさらにホールセンサ30を併用して、ホールセンサ30により検出される電流値を用いたモータ制御を行いつつ、ホールセンサ30の異常発生時にはこれを検知できるようにしたものである。以下では第1の実施形態との違いを中心に、本実施形態の電力変換装置1Aについて説明する。
【0087】
本実施形態の電力変換装置1Aは、各相の出力電流を検出する第2電流検出回路としてホールセンサ30を備える。ホールセンサ30は、制御装置20の制御信号生成回路23がモータ制御に使用するメインの電流センサとして用いられ、U相、V相、W相にそれぞれ設けられたホール素子31U,31V,31Wと、これらのホール素子31U~31Wから出力されるセンサ信号に基づいて、各相の電流検出結果に応じた第2電流値を出力するホールIC32と、を備えて構成される。
【0088】
また、本実施形態の電力変換装置1Aにおいて、制御装置20には、第1の実施形態で説明した第1電流検出回路21、出力電流推定回路22、制御信号生成回路23および通信コネクタ24の各構成に加えて、さらに異常検出回路25を備える。図10の例では、W相に係るインバータ回路10および制御装置20の構成のみを図示し、U相およびV相については図示を省略しているが、これらはW相とそれぞれ同様である。
【0089】
本実施形態では、di/dt積分方式により各相、各アームの電流値を推定する第1電流検出回路21は、サブの電流センサとして使用される。第1電流検出回路21が算出した各相、各アームの電流値に基づいて出力電流推定回路22により推定された各相の出力電流値と、第2電流検出回路(ホールセンサ30)により検出された各相の出力電流を表す第2電流値とは、制御装置20において異常検出回路25にそれぞれ入力される。以下では、出力電流推定回路22から出力される各相の出力電流値(U相出力電流IoutU、V相出力電流IoutV、W相出力電流IoutW)を第1電流値Iout1、ホールセンサ30から出力される各相の出力電流値を第2電流値Iout2とそれぞれ表す。
【0090】
異常検出回路25は、第1電流値Iout1と第2電流値Iout2を比較し、その比較結果に基づいて、ホールセンサ30における異常の有無を判定する。そして、異常が無いと判定した場合は、第2電流値Iout2を正常な出力電流の検出値として採用し、制御用電流値として制御信号生成回路23に出力する。一方、ホールセンサ30に異常があると判定した場合は、第1電流値Iout1を正常な出力電流の検出値として採用し、制御用電流値として制御信号生成回路23に出力する。このとき、さらにホールセンサ30の異常発生を示す異常信号を、通信コネクタ24を介して上位のシステムに送信しても良い。上位のシステムは、この異常信号を基に、電力変換装置1Aの運転制御(運転継続、停止、条件の緩和等)や、ユーザーへの警告などを行う。
【0091】
図11Aおよび図11Bは、本発明の第2の実施形態に係る異常検出回路25が異常判定を行う際の処理の流れを示すフローチャートの一例を示す図である。本実施形態において、異常検出回路25は、例えば所定周期ごとに図11A,11Bに示す処理を実施してホールセンサ30の異常判定を行う。
【0092】
図11AのステップS101では、上位システムからの異常判定指令の有無を判定する。上位システムからの異常判定指令がある場合はステップS102へ進み、無い場合はステップS111へ進む。
【0093】
ステップS102では、ホールセンサ30から出力される第2電流値Iout2と、出力電流推定回路22から出力される第1電流値Iout1との差分を算出し、その差分の絶対値を差分値ΔI21とする。
【0094】
ステップS103では、ステップS102で算出した差分値ΔI21があらかじめ設定された許容差分以下であるか否かを判定する。差分値ΔI21が許容差分以下である場合は、第1電流検出回路21とホールセンサ30の両方に異常無しと判定してステップS111へ進む。一方、差分値ΔI21が許容差分より大きい場合は、第1電流検出回路21とホールセンサ30の少なくとも一方に異常有りと判定し、ステップS104へ進む。なお、ステップS103の判定で用いられる許容差分は、ホールセンサ30の検出精度に応じて設定され、例えばホールセンサ30の仕様で定められている誤差を2倍した値である。
【0095】
ステップS104では、第1電流値Iout1と第2電流値Iout2のそれぞれについて、U相、V相およびW相の各相電流の総和Isum1,Isum2を算出する。
【0096】
ステップS105では、ステップS104で算出した第1電流値Iout1の総和Isum1が所定の許容総和誤差以下であるか否かを判定する。第1電流値Iout1の総和Isum1が許容総和誤差以下であればステップS106へ進み、許容総和誤差より大きければ、第1電流検出回路21が異常であると判定して図11BのステップS112へ進む。
【0097】
ステップS106では、ステップS104で算出した第2電流値Iout2の総和Isum2が所定の許容総和誤差以下であるか否かを判定する。第2電流値Iout2の総和Isum2が許容総和誤差以下であればステップS107へ進み、許容総和誤差より大きければ、ホールセンサ30が異常であると判定してステップS110へ進む。
【0098】
ここで、第1電流検出回路21とホールセンサ30が両方とも正常であれば、第1電流値Iout1と第2電流値Iout2の総和Isum1,Isum2は理想的にはそれぞれ0になるが、実際にはインバータ回路10の配線やモータ3の寄生容量等を介した変位電流により、これらの間には誤差が発生する。そのため、ステップS105,ステップS106の処理では、総和Isum1,Isum2に対して許容総和誤差をそれぞれ設定し、これを超えなければ、第1電流検出回路21とホールセンサ30にそれぞれ異常無しと判定する。この許容総和誤差は、例えばホールセンサ30の仕様で定められている誤差に応じて設定され、例えば誤差の3倍に変位電流成分を加えた値である。変位電流成分の大きさは、例えば寄生容量を100pF、スイッチング素子101におけるスイッチング時の電圧変化率を10~20kV/μsと想定すると、1~2A程度である。
【0099】
ただし、ステップS105,S106において第1電流値Iout1と第2電流値Iout2の総和Isum1,Isum2がいずれも許容総和誤差以下と判定された場合、この時点では第1電流検出回路21とホールセンサ30のどちらが異常であったかを判断できない。このような状況は、例えばホールセンサ30において、U相、V相、W相にそれぞれ設けられたホール素子31U,31V,31Wの精度がそれぞれ同程度ずつ劣化した場合などに発生し得る。そこで、このような場合は以下のステップS107,S108の処理を実行することで、第1電流検出回路21とホールセンサ30のどちらが異常であるかを判断する。
【0100】
ステップS107では、電力変換装置1Aの稼働初期における第1電流値と第2電流値の初期値IIni1,IIni2を取得し、これらを用いて、第1電流値Iout1と第1電流初期値IIni1との差分の絶対値|Iout1-IIni1|、および、第2電流値Iout2と第2電流初期値IIni2との差分の絶対値|Iout2-IIni2|を算出する。このとき初期値IIni1,IIni2は、例えば稼働初期のモータ制御条件が異常判定時の制御条件と同等となる電流値を、予め設定されたルックアップテーブルから参照することにより取得する。制御条件は、例えばベクトル制御の場合、トルク指令または電流指令、現在の電流検出値、モータ角速度および角度、蓄電池2からインバータ回路10への印加電圧等である。このルックアップテーブルは、例えば電力変換装置1Aの出荷前または製品稼働中にあらかじめ取得した各制御条件のデータを、制御装置20内のメモリに格納しておくことにより実現できる。
【0101】
ステップS108では、ステップS107でそれぞれ算出した第1電流値の差分絶対値|Iout1-IIni1|と第2電流値の差分絶対値|Iout2-IIni2|とを比較し、どちらの差分絶対値が大きいかを判定する。その結果、第1電流値の差分絶対値|Iout1-IIni1|の方が大きい場合は、第1電流検出回路21が異常であると判定してステップS109へ進み、第2電流値の差分絶対値|Iout2-IIni2|の方が大きい場合は、ホールセンサ30が異常であると判定してステップS110へ進む。
【0102】
ステップS109では、第1電流検出回路21において何らかの異常が生じており、その結果、出力電流推定回路22から出力される第1電流値Iout1が異常であると判定する。この場合、異常検出回路25は、ホールセンサ30から出力される第2電流値Iout2を正常な電流検出結果として選択し、制御信号生成回路23へ出力する。制御信号生成回路23では、この第2電流値Iout2を用いて、各相、各アームのゲート指令を生成する。
【0103】
ステップS110では、ホールセンサ30において何らかの異常が生じており、その結果、ホールセンサ30から出力される第2電流値Iout2が異常であると判定する。この場合、異常検出回路25は、出力電流推定回路22から出力される第1電流値Iout1を正常な電流検出結果として選択し、制御信号生成回路23へ出力する。制御信号生成回路23では、この第1電流値Iout1を用いて、各相、各アームのゲート指令を生成する。
【0104】
ステップS111では、第1電流検出回路21とホールセンサ30のいずれにおいても異常が生じておらず、出力電流推定回路22から出力される第1電流値Iout1と、ホールセンサ30から出力される第2電流値Iout2とが両方とも正常であると判定する。この場合、異常検出回路25は、ホールセンサ30から出力される第2電流値Iout2を正常な電流検出結果として選択し、制御信号生成回路23へ出力する。制御信号生成回路23では、この第2電流値Iout2を用いて、各相、各アームのゲート指令を生成する。
【0105】
ステップS109~S111のいずれかの処理を実行したら、図11A,11Bの処理を終了する。
【0106】
図11BのステップS112では、図11AのステップS106と同様に、ステップS104で算出した第2電流値Iout2の総和Isum2が所定の許容総和誤差以下であるか否かを判定する。第2電流値Iout2の総和Isum2が許容総和誤差以下であればステップS117へ進み、許容総和誤差より大きければ、ホールセンサ30が異常であると判定してステップS113へ進む。
【0107】
ステップS113へ進んだ場合、すなわち、第1電流値Iout1の総和Isum1と第2電流値Iout2の総和Isum2がいずれも許容総和誤差より大きい場合は、第1電流検出回路21とホールセンサ30が両方とも異常であると判定される。このような場合でも、電力変換装置1Aの運転をすぐに停止できない場合に備えて、異常検出回路25から制御信号生成回路23へ電流値を出力する必要があり、第1電流値Iout1と第2電流値Iout2のうちなるべく誤差が小さい方を出力することが好ましい。そこでステップS113,ステップS114では、図11AのステップS107,S108と同様の処理により、第1電流値Iout1と第2電流値Iout2のうち、電力変換装置1Aの稼働初期における初期値IIni1,IIni2からの差分がなるべく小さい方を、制御信号生成回路23へ出力する制御用電流値として選択する処理を実行する。
【0108】
具体的には、ステップS113では、第1電流値Iout1と第1電流初期値IIni1との差分の絶対値|Iout1-IIni1|、および、第2電流値Iout2と第2電流初期値IIni2との差分の絶対値|Iout2-IIni2|を算出する。続くステップS114では、ステップS113でそれぞれ算出した第1電流値の差分絶対値|Iout1-IIni1|と第2電流値の差分絶対値|Iout2-IIni2|とを比較し、どちらの差分絶対値が大きいかを判定する。その結果、第1電流値の差分絶対値|Iout1-IIni1|の方が大きい場合はステップS115へ進み、第2電流値の差分絶対値|Iout2-IIni2|の方が大きい場合はステップS116へ進む。
【0109】
ステップS115では、第1電流検出回路21とホールセンサ30の両方において何らかの異常が生じているが、出力電流推定回路22から出力される第1電流値Iout1の方が、ホールセンサ30から出力される第2電流値Iout2よりも誤差が大きいと判定する。この場合、異常検出回路25は、ホールセンサ30から出力される第2電流値Iout2を選択し、制御信号生成回路23へ出力する。制御信号生成回路23では、この第2電流値Iout2を用いて、各相、各アームのゲート指令を生成する。
【0110】
ステップS116では、第1電流検出回路21とホールセンサ30の両方において何らかの異常が生じているが、ホールセンサ30から出力される第2電流値Iout2の方が、出力電流推定回路22から出力される第1電流値Iout1よりも誤差が大きいと判定する。この場合、異常検出回路25は、出力電流推定回路22から出力される第1電流値Iout1を選択し、制御信号生成回路23へ出力する。制御信号生成回路23では、この第1電流値Iout1を用いて、各相、各アームのゲート指令を生成する。
【0111】
ステップS117では、第1電流検出回路21において何らかの異常が生じており、その結果、電流検出回路21から出力される第1電流値Iout1が異常であると判定する。この場合、異常検出回路25は、ホールセンサ30から出力される第2電流値Iout2を正常な電流検出結果として選択し、制御信号生成回路23へ出力する。制御信号生成回路23では、この第2電流値Iout2を用いて、各相、各アームのゲート指令を生成する。
【0112】
ステップS115~S117のいずれかの処理を実行したら、図11A,11Bの処理を終了する。
【0113】
なお、以上説明した本発明の第2の実施形態では、第2電流検出回路であるホールセンサ30をメインの電流センサとして使用し、第1電流検出回路21をサブの電流センサとして使用する例を説明したが、メインとサブは逆であってもよい。また、第2電流検出回路はホールセンサ30以外であっても良い。
【0114】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態で説明したものに加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
【0115】
(4)電力変換装置1Aは、電力変換装置1Aの各相の出力電流を検出する第2電流検出回路であるホールセンサ30と、出力電流推定回路22により推定された各相の出力電流(第1電流値Iout1)と、ホールセンサ30により検出された各相の出力電流(第2電流値Iout2)とを比較し、その比較結果に基づいてホールセンサ30における異常発生の有無を判定する異常検出回路25とを備える。このようにしたので、ホールセンサ30をメインの電流センサとして用いつつ、ホールセンサ30に異常が発生した場合はこれを検知することができる。
【0116】
(5)第2電流検出回路は、例えば、電力変換装置1Aが出力する三相交流電流を検出するホールセンサ30である。このようにしたので、電力変換装置1Aが出力する三相交流電流を正確かつ確実に検出することができる。
【0117】
(第3の実施形態)
図12は、本発明の第3の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。図12に示す電力変換装置1Bは、第1の実施形態で説明した電力変換装置1において、各相、各アームのスイッチング素子101と同一チップ上に形成されたオンチップ電流センサである電流センス素子107および感温素子108と、このオンチップ電流センサからの信号に基づいてスイッチング素子101に流れる電流を検出し、その検出結果に応じた第2電流値を出力する第2電流検出回路40と、をさらに備える。第2電流検出回路40は、電流センス素子107に流れるセンス電流を検出するセンス電流検出回路109と、感温素子108の温度である感温素子温度を検出する感温素子温度検出回路110と、これらの検出値からスイッチング素子101の電流を高精度に推定するオンチップセンサ出力電流推定回路41と、を備える。なお図12の例では、W相上アーム用パワーモジュール100WUの電流センス素子107および感温素子108と、これらにそれぞれ接続されたセンス電流検出回路109、感温素子温度検出回路110とを図示し、他のアームについては図示を省略しているが、各アームの構成はW相上アームとそれぞれ同様である。
【0118】
本実施形態において、第2電流検出回路40は、オンチップセンサ出力電流推定回路41において、各相、各アームのセンス電流検出回路109および感温素子温度検出回路110によるセンス電流と感温素子温度の検出結果に基づいて、スイッチング素子101のソース電流値ISを推定する。このとき、温度検出値に基づいてスイッチング素子101の自己発熱によるチップ内温度分布に応じた電流センス素子107のセンス比のずれを補正し、補正後のセンス比を用いて、センス電流値からソース電流値ISを算出する。例えば、予め温度ごとに取得したセンス比の値を示すルックアップテーブルをオンチップセンサ出力電流推定回路41に記憶しておき、このルックアップテーブルを使用して、温度検出値に応じたセンス比を求める。こうして求められたセンス比を用いて、センス電流の値からソース電流値ISを算出する。
【0119】
本実施形態の第2電流検出回路40では、以上説明したような方法により、温度に応じて変化するスイッチング素子101の特性(オン抵抗、スイッチング損失、熱抵抗等)を考慮し、第1電流検出回路21とは異なる方式で、スイッチング素子101の主電力であるソース電極に流れるソース電流値ISを正確に検出することができる。
【0120】
さらにオンチップセンサ出力電流推定回路41は、上記のようにして推定した各相、各アームのソース電流値ISに基づき、各相の出力電流値を求める。例えば、各相で上下アームのソース電流値ISの差分をそれぞれ算出することにより、各相の出力電流値を求めることができる。
【0121】
また、本実施形態の電力変換装置1Bにおいて、制御装置20には、第2の実施形態と同様に、第1電流検出回路21、出力電流推定回路22、制御信号生成回路23および通信コネクタ24に加えて、さらに異常検出回路25を備える。図12の例では、W相上アームに係るインバータ回路10および制御装置20の構成のみを図示し、W相下アームと、U相およびV相の上下アームとについては図示を省略しているが、これらはW相上アームとそれぞれ同様である。
【0122】
本実施形態でも第2の実施形態と同様に、di/dt積分方式により各相、各アームの電流値を推定する第1電流検出回路21は、サブの電流センサとして使用される。第1電流検出回路21が算出した各相、各アームの電流値は、出力電流推定回路22により推定された各相の出力電流値として、制御装置20へ出力される。また、第2電流検出回路40により検出された各相の出力電流を表す第2電流値も、制御装置20へ出力される。制御装置20において、異常検出回路25は、入力されたこれらの電流値を比較することで、第2の実施形態と同様に、第2電流検出回路40や電流センス素子107における異常の有無を判定することができる。
【0123】
さらに本実施形態では、スイッチング素子101の特性に異常が生じた場合にも、その異常を検知することができる。例えば、スイッチング素子101がパワーサイクル寿命に近づくと、スイッチング素子101と端子間の接合材(半田や焼結材など)が劣化して熱抵抗が増加する。このような場合、本実施形態の異常検出回路25では、熱抵抗増加によるスイッチング素子101の過温度破壊の前に、第2電流値が異常であると判断される。これにより、パワーサイクル寿命を検知し、ユーザーに部品交換等の対処を促すことができる。また、スイッチング素子101のターンオンやターンオフのしきい値変動があった場合、センス比が変化するため、本実施形態の異常検出回路25では同様に第2電流値が異常であると判断され、これを検知することができる。また、スイッチング素子101がSiC等により構成される場合、バイポーラ劣化によってオン抵抗が増加する可能性がある。この場合にも、本実施形態の異常検出回路25では同様に第2電流値が異常であると判断され、これを検知することができる。
【0124】
以上説明した本発明の第3の実施形態によれば、第1の実施形態で説明したものに加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
【0125】
(6)電力変換装置1Bは、第1電流検出回路21とは異なる方式で、スイッチング素子101の主電極であるソース電極に流れる電流ISを検出し、その検出結果に応じた第2電流値を出力する第2電流検出回路40と、第1電流検出回路21により算出された第1電流値と、第2電流検出回路40から出力される第2電流値とを比較し、その比較結果に基づいて第2電流検出回路40またはスイッチング素子101における異常発生の有無を判定する異常検出回路25とを備える。このようにしたので、第2電流検出回路40やスイッチング素子101に異常が発生した場合はこれを検知することができる。
【0126】
(7)スイッチング素子101は、電流センス素子107と感温素子108とを備える。第2電流検出回路40は、電流センス素子107の電流であるセンス電流を検出するセンス電流検出回路109と、感温素子108の温度である感温素子温度を検出する感温素子温度検出回路110と、センス電流と感温素子温度に基いて電力変換装置1Bの出力電流(第2電流値Iout2)を推定するオンチップセンサ出力電流推定回路41とを備える。このようにしたので、第2電流検出回路40において、第1電流検出回路21とは異なる方式で電力変換装置1Bの出力電流を確実に検出することができる。
【0127】
(第4の実施形態)
図13は、本発明の第4の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。図13に示す電力変換装置1Cは、第1の実施形態で説明した電力変換装置1において、各相、各アームのスイッチング素子101の主電極であるソース電極の端子温度を推定し、その推定結果に基づいて過温度を検知できるようにしたものである。以下では第1の実施形態との違いを中心に、本実施形態の電力変換装置1Cについて説明する。
【0128】
本実施形態の電力変換装置1Cにおいて、制御装置20には、第1の実施形態で説明した第1電流検出回路21、出力電流推定回路22、制御信号生成回路23および通信コネクタ24の各構成に加えて、さらに端子温度推定回路26および端子過温度検知回路27を備える。図13の例では、W相に係るインバータ回路10および制御装置20の構成のみを図示し、U相およびV相については図示を省略しているが、これらはW相とそれぞれ同様である。
【0129】
本実施形態において、第1電流検出回路21は、前述の第1電流値(U相上アーム電流IUU、U相下アーム電流IUL、V相上アーム電流IVU、V相下アーム電流IVL、W相上アーム電流IWU、W相下アーム電流IWL)の算出に加えて、さらに第1電流値に基づく各相、各アームの寄生抵抗推定値の算出を行う。第1電流検出回路21は、例えば前述の(式11)を変形した以下の(式16)により、寄生抵抗104の抵抗値RSsを推定することができる。
【数11】
【0130】
(式16)において、ソース電流値ISには、第1電流検出回路21が前述の(式14)または(式15)を用いて、第1の実施形態で説明した算出方法により推定したソース電流の値を使用することができる。すなわち、(式14)または(式15)を(式16)に代入することで得られる以下の(式17)により、寄生抵抗104の抵抗値RSsを推定することができる。
【数12】
【0131】
各相、各アームに対応して設けられた第1電流検出回路21は、(式17)により、対応するスイッチング素子101の寄生抵抗104の大きさを表す寄生抵抗推定値RSsを算出し、端子温度推定回路26へ出力する。端子温度推定回路26は、各相、各アームの第1電流検出回路21から入力される寄生抵抗推定値RSsに基づいて、各相、各アームのスイッチング素子101の主電極であるソース電極の端子温度を推定し、その推定結果を端子過温度検知回路27へ出力する。端子温度推定回路26は、例えば、予め取得した寄生抵抗と端子温度の関係に基づくテーブルデータまたは近似式を記憶しており、このテーブルデータまたは近似式を参照することで、寄生抵抗推定値RSsからソース電極の端子温度を推定することができる。
【0132】
端子過温度検知回路27は、端子温度推定回路26により推定された端子温度に基づいて、各相、各アームのスイッチング素子101の主電極であるソース電極の過温度を検知する。例えば、端子温度の推定値が所定の許容温度を超えると、スイッチング素子101のソース電極が過温度の状態にあると判定し、通信コネクタ24を介して過温度異常信号を上位のシステムに送信する。この過温度異常信号に応じて、上位システムで制御の変更が必要と判断された場合には、上位システムから制御信号生成回路23に異常時制御指令が送信され、制御信号生成回路23において、電力変換装置1Cの運転停止や運転条件の緩和など、過温度を解消するように制御が変更される。
【0133】
なお、図13では上位システムを経由して制御を変更する構成を示したが、端子過温度検知回路27から制御信号生成回路23に過温度異常信号を直接出力し、この過温度異常信号に応じて制御信号生成回路23が電力変換装置1Cの制御を変更する構成としても良い。このように、上位システムを経由せずに端子過温度検知回路27から制御信号生成回路23へ信号を直接出力することで、緊急停止など即応性が求められる場合において、低遅延で制御を変更することができる。
【0134】
以上説明した本発明の第4の実施形態によれば、第1の実施形態で説明したものに加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
【0135】
(8)電力変換装置1Cは、スイッチング素子101の主電極であるソース電極の端子温度を推定する端子温度推定回路26を備える。第1電流検出回路21は、第1積分値(出力電圧Vout)と第2積分値(出力電圧Vout)に基づいて寄生抵抗104の大きさを表す寄生抵抗推定値RSsを出力する。端子温度推定回路26は、この寄生抵抗推定値RSsに基づいてソース電極の端子温度を推定する。このようにしたので、電力変換装置1Cに設けられたスイッチング素子101に流れる電流の推定結果から、スイッチング素子101における主電極の端子温度を正確に推定することができる。
【0136】
(9)電力変換装置1Cは、端子温度推定回路26により推定された端子温度に基づいてソース電極の過温度を検知する端子過温度検知回路27を備える。このようにしたので、スイッチング素子101において過温度異常が生じた場合に、これを確実に検知することができる。
【0137】
なお、本発明は上記した各種の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために、具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を、他の実施形態の構成の一部に置換することもできる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することもできる。また、各実施形態の構成の一部について、それを削除し、他の構成の一部を追加し、他の構成の一部と置換することもできる。
【0138】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0139】
1,1A,1B,1C:電力変換装置、2:蓄電池、3:モータ、10:インバータ回路、11:平滑コンデンサ、20:制御装置、21:第1電流検出回路、22:出力電流推定回路、23:制御信号生成回路、24:通信コネクタ、25:異常検出回路、26:端子温度推定回路、27:端子過温度検知回路、30:ホールセンサ、40:第2電流検出回路、41:オンチップセンサ出力電流推定回路、100:パワーモジュール、101:スイッチング素子、102:還流ダイオード、103:インダクタンス、104:寄生抵抗、105:ゲートドライバ、106:積分回路、107:電流センス素子、108:感温素子、109:センス電流検出回路、110:感温素子温度検知回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13