(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018338
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】分解輸送変圧器用鉄心
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20250130BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
H01F27/245 152
H01F27/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121942
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 直幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 千絵
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓明
(72)【発明者】
【氏名】山口 耕平
【テーマコード(参考)】
5E059
【Fターム(参考)】
5E059AA02
5E059DD03
5E059KK12
(57)【要約】
【課題】分解輸送変圧器の性能が低下することを抑制できる分解輸送変圧器用鉄心を提供する。
【解決手段】分解輸送変圧器に用いられる分解輸送変圧器用鉄心を、三相五脚型鉄心であって、主脚と側脚と隣接する主脚または側脚の上端部および下端部同士を接続する複数のヨークとが、それぞれ鋼板を複数層積層して構成され、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークと、主脚および側脚の各下端部を連結する下部ヨークが、それぞれ2箇所の分割部によって分割され、各分割部では、鋼板の位置を連続する層において下部ヨークの延在方向にずらして所定の長さであるラップ長で重ね合わせた状態で鋼板が重ね合わされ、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長と、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長とが、異なる長さとされている構成とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解輸送変圧器に用いられる分解輸送変圧器用鉄心であって、
3本の並列された主脚と、3本の前記主脚のうちの両外側に配置された主脚に並列された2本の側脚と、隣接する前記主脚または前記側脚の上端部および下端部同士を接続する複数のヨークから構成された三相五脚型鉄心であり、
3本の前記主脚、2本の前記側脚、複数の前記ヨークが、それぞれ鋼板を複数層積層して構成され、
複数の前記ヨークのうちの、隣接する前記主脚の下端部を連結する下部ヨークと、前記主脚および前記側脚の各下端部を連結する下部ヨークが、それぞれ2箇所の分割部によって分割され、
各前記分割部では、同じ層の対向する前記鋼板の位置を、連続する層において、前記下部ヨークの延在方向にずらして所定の長さであるラップ長で重ね合わせた状態で、前記鋼板が重ね合わされ、
隣接する前記主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ長と、前記主脚と前記側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ長とが、異なる長さとされている
分解輸送変圧器用鉄心。
【請求項2】
定格励磁条件におけるすべての前記主脚内の平均磁束密度が、すべての前記側脚内の平均磁束密度より高く、隣接する前記主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ長が、前記主脚と前記側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ長より短い、請求項1に記載の分解輸送変圧器用鉄心。
【請求項3】
定格励磁条件におけるすべての前記主脚内の平均磁束密度が、すべての前記側脚内の平均磁束密度より低く、隣接する前記主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ長が、前記主脚と前記側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ長より長い、請求項1に記載の分解輸送変圧器用鉄心。
【請求項4】
前記下部ヨークの各前記分割部における、同じ層の対向する前記鋼板の位置をずらしたラップ接合構造において、同じ層の対向する前記鋼板の位置の繰り返しの単位の層の数であるラップ段数が、すべて同一とされている、請求項1に記載の分解輸送変圧器用鉄心。
【請求項5】
前記下部ヨークの各前記分割部における、同じ層の対向する前記鋼板の位置をずらしたラップ接合構造において、同じ層の対向する前記鋼板の位置の繰り返しの単位の層の数であるラップ段数が、前記下部ヨークの部位により任意の異なる値とされている、請求項1に記載の分解輸送変圧器用鉄心。
【請求項6】
分解輸送変圧器に用いられる分解輸送変圧器用鉄心であって、
3本の並列された主脚と、3本の前記主脚のうちの両外側に配置された主脚に並列された2本の側脚と、隣接する前記主脚または前記側脚の上端部および下端部同士を接続する複数のヨークから構成された三相五脚型鉄心であり、
3本の前記主脚、2本の前記側脚、複数の前記ヨークが、それぞれ鋼板を複数層積層して構成され、
複数の前記ヨークのうちの、隣接する前記主脚の下端部を連結する下部ヨークと、前記主脚および前記側脚の各下端部を連結する下部ヨークが、それぞれ2箇所の分割部によって分割され、
各前記分割部では、同じ層の対向する前記鋼板の位置を、連続する層において、前記下部ヨークの延在方向にずらして所定の長さであるラップ長で重ね合わせた状態で、前記鋼板が重ね合わされたラップ接合構造を有し、
各前記分割部の前記ラップ接合構造では、同じ層の対向する前記鋼板の位置が、所定の数であるラップ段数の層を繰り返しの単位として繰り返されており、
隣接する前記主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ段数と、前記主脚と前記側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ段数とが、異なる数とされている
分解輸送変圧器用鉄心。
【請求項7】
定格励磁条件におけるすべての前記主脚内の平均磁束密度が、すべての前記側脚内の平均磁束密度より高く、隣接する前記主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ段数が、前記主脚と前記側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ段数より少ない、請求項6に記載の分解輸送変圧器用鉄心。
【請求項8】
定格励磁条件におけるすべての前記主脚内の平均磁束密度が、すべての前記側脚内の平均磁束密度より低く、隣接する前記主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ段数が、前記主脚と前記側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各前記分割部における前記ラップ段数より多い、請求項6に記載の分解輸送変圧器用鉄心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解輸送変圧器に用いられる分解輸送変圧器用鉄心に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量の大形変圧器の一形態として、工場における製作、組み立て、試験および検査の完了後に、輸送上の制約を満たす複数の部品に分解して設置場所に輸送し、再組み立て、試験および検査を行う、分解輸送変圧器が知られている。
【0003】
分解輸送変圧器用鉄心は、設置場所での再組み立て作業を必要最小限に抑えるため、方向性珪素鋼板等を積層して構成される。
分解輸送変圧器用鉄心は、例えば、巻線が巻回される複数の主脚鉄心同士を繋ぐヨーク鉄心を、複数に細分化しなければならない場合がある。この場合、ヨーク鉄心は、複数の繋ぎ目を必要とする。
【0004】
このような分解輸送変圧器として、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載された分解輸送変圧器は、方向性珪素鋼板を積層してなる三相三脚型鉄心の3本の主脚鉄心同士を繋ぐ下部ヨーク鉄心を分割し、主脚鉄心と分割された下部ヨーク鉄心の一部を、一体に組み付けた状態で輸送し、再組み立て時に、分割された下部ヨーク鉄心同士を接続するヨークを、方向性珪素鋼板を積層して、構成される。この際に、分割された下部ヨーク鉄心と接続ヨークの接合部は、方向性珪素鋼板を一定の距離ずらしながら重ねる、ラップ接合構造にて接続される。
特許文献1には、分解輸送変圧器の性能の低下を抑制するため、上記のラップ接合構造における、ずらした方向性珪素鋼板同士の重ね合わせ量(ラップ長)、およびラップ接合構造の繰り返しの単位となる方向性珪素鋼板の層の数(ラップ段数)の設定範囲が開示されている。
【0005】
特許文献1は、三相三脚型鉄心を用いる分解輸送変圧器に関するものであるが、さらに大容量の変圧器に用いられる、三相五脚型分解輸送変圧器の鉄心の分割、再組み立て方法として、例えば、特許文献2に記載されたものが知られている。
【0006】
特許文献2には、方向性珪素鋼板を積層してなる三相五脚型鉄心の3本の主脚鉄心同士、およびその主脚鉄心と両端の側脚鉄心を繋ぐ、下部ヨーク鉄心を分割するとともに、主脚鉄心を長手方向に分割する方法が開示されている。
そして、特許文献2に開示された方法では、さらに、分割された主脚鉄心と分割された下部ヨーク鉄心の一部を一体に組み付けた状態で輸送し、再組み立て時に、分割された下部ヨーク鉄心同士を接続するヨークを、方向性珪素鋼板を積層することで構成し、分解輸送変圧器用鉄心としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-15210号公報
【特許文献2】特開2010-272786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2で開示されている技術は、三相三脚型および三相五脚型のそれぞれの鉄心の分解、再組み立て方法に関し、ともに下部ヨーク鉄心を分割して、鉄心の輸送を可能にするものである。
分割された鉄心の接続部においては、鉄心内を流れる磁束が、隣接する方向性珪素鋼板に渡るため、渦電流に起因する鉄損が増加するとともに、励磁電流も増加し、分解輸送変圧器の性能が低下する課題がある。
【0009】
なお、特許文献1では、変圧器の性能の低下を抑制するため、分割された鉄心の接続部の方向性珪素鋼板同士のラップ長およびラップ段数の設定範囲が開示されているが、それぞれの分割された鉄心の接続部の構造が全て同一であり、性能の低下を抑制する効果は限定的である。
【0010】
上述した問題の解決のために、本発明においては、分解輸送変圧器の性能が低下することを抑制できる分解輸送変圧器用鉄心を提供するものである。
【0011】
また、本発明の上記の目的およびその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、分解輸送変圧器に用いられる分解輸送変圧器用鉄心であって、3本の並列された主脚と、3本の主脚のうちの両外側に配置された主脚に並列された2本の側脚と、隣接する主脚または側脚の上端部および下端部同士を接続する複数のヨークから構成された三相五脚型鉄心である。
また、本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、3本の主脚、2本の側脚、複数のヨークが、それぞれ鋼板を複数層積層して構成され、複数のヨークのうちの、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークと、主脚および側脚の各下端部を連結する下部ヨークが、それぞれ2箇所の分割部によって分割されている。
【0013】
第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、さらに、各分割部では、同じ層の対向する鋼板の位置を、連続する層において、下部ヨークの延在方向にずらして所定の長さであるラップ長で重ね合わせた状態で、鋼板が重ね合わされている。そして、第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長と、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長とが、異なる長さとされている構成である。
【0014】
第2の本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、さらに、各分割部では、同じ層の対向する鋼板の位置を、連続する層において、下部ヨークの延在方向にずらして所定の長さであるラップ長で重ね合わせた状態で、鋼板が重ね合わされたラップ接合構造を有し、各分割部のラップ接合構造では、同じ層の対向する鋼板の位置が、所定の数であるラップ段数の層を繰り返しの単位として繰り返されている。そして、第2の本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ段数と、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ段数とが、異なる数とされている構成である。
【発明の効果】
【0015】
第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心の構成によれば、三相五脚型鉄心の隣接する主脚を連結する下部ヨークと主脚および側脚を連結する下部ヨークとで、各分割部におけるラップ長を異なる長さとしている。
下部ヨークの部位により下部ヨークの各分割部におけるラップ長を異なる長さとしているので、鉄心内の磁束密度の部位ごとの差を、それぞれのラップ長で調整することができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることや、鉄心の励磁騒音を減少させることが可能になる。
【0016】
第2の本発明の分解輸送変圧器用鉄心の構成によれば、三相五脚型鉄心の隣接する主脚を連結する下部ヨークと主脚および側脚を連結する下部ヨークとで、各分割部におけるラップ段数を異なる数としている。
下部ヨークの部位により下部ヨークの各分割部におけるラップ段数を異なる数としているので、鉄心内の磁束密度の部位ごとの差を、それぞれのラップ段数で調整することができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることや、鉄心の励磁騒音を減少させることが可能になる。
【0017】
なお、上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】
図1中のA部、B部、C部の拡大断面図である。
【
図4】三次元電磁界解析に用いた三相五脚型鉄心の各部の寸法の定義を示す正面図である。
【
図5】三相五脚型鉄心の中央部の磁束密度分布の計算結果を、実施例1と従来の構成とで比較した図である。
【
図6】従来の接合構造の三相五脚型分解輸送変圧器の励磁電流波形の計算結果である。
【
図7】実施例1の三相五脚型分解輸送変圧器の励磁電流波形の計算結果である。
【
図8】A~C 実施例1の三相五脚型分解輸送変圧器の製作方法を示す図である。
【
図9】実施例2の分解輸送変圧器のA部、B部、C部の拡大断面図である。
【
図10】実施例3の分解輸送変圧器のA部、B部、C部の拡大断面図である。
【
図11】実施例4の分解輸送変圧器のA部、B部、C部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施の形態および実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態や実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、分解輸送変圧器に用いられる鉄心である。
そして、本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、3本の並列された主脚と、3本の主脚のうちの両外側に配置された主脚に並列された2本の側脚と、隣接する主脚または側脚の上端部および下端部同士を接続する複数のヨークから構成された三相五脚型鉄心である。
また、本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、上記の三相五脚型鉄心の3本の主脚、2本の側脚、複数のヨークが、それぞれ鋼板を複数層積層して構成されている。さらに、複数のヨークのうちの、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークと、主脚および側脚の各下端部を連結する下部ヨークが、それぞれ2箇所の分割部によって分割されている。
【0021】
第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、さらに、各分割部では、同じ層の対向する鋼板の位置を、連続する層において、下部ヨークの延在方向にずらして所定の長さであるラップ長で重ね合わせた状態で、鋼板が重ね合わされている。そして、第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長と、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長とが、異なる長さとされている構成である。
【0022】
第2の本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、さらに、各分割部では、同じ層の対向する鋼板の位置を、連続する層において、下部ヨークの延在方向にずらして所定の長さであるラップ長で重ね合わせた状態で、鋼板が重ね合わされたラップ接合構造を有し、各分割部のラップ接合構造では、同じ層の対向する鋼板の位置が、所定の数であるラップ段数の層を繰り返しの単位として繰り返されている。そして、第2の本発明の分解輸送変圧器用鉄心は、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ段数と、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ段数とが、異なる数とされている構成である。
【0023】
第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心の構成によれば、三相五脚型鉄心の隣接する主脚を連結する下部ヨークと主脚および側脚を連結する下部ヨークとで、各分割部におけるラップ長を異なる長さとしている。
下部ヨークの部位により下部ヨークの各分割部におけるラップ長を異なる長さとしているので、鉄心内の磁束密度の部位ごとの差を、それぞれのラップ長で調整することができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることや、鉄心の励磁騒音を減少させることが可能になる。
【0024】
第2の本発明の分解輸送変圧器用鉄心の構成によれば、三相五脚型鉄心の隣接する主脚を連結する下部ヨークと主脚および側脚を連結する下部ヨークとで、各分割部におけるラップ段数を異なる数としている。
下部ヨークの部位により下部ヨークの各分割部におけるラップ段数を異なる数としているので、鉄心内の磁束密度の部位ごとの差を、それぞれのラップ段数で調整することができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることや、鉄心の励磁騒音を減少させることが可能になる。
【0025】
上記のそれぞれの本発明の分解輸送変圧器用鉄心の構成において、鉄心を構成する鋼板としては、例えば、方向性珪素鋼板等、分解輸送変圧器に用いられる各種の鋼板を使用することができる。
【0026】
上記の第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心において、定格励磁条件におけるすべての主脚内の平均磁束密度が、すべての側脚内の平均磁束密度より高く、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長が、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長より短い構成とすることができる。
この構成の場合、定格励磁条件における平均磁束密度が高い方の主脚に係る、下部ヨークの分割部のラップ長が短く、ラップ長が短いほど磁気抵抗が大きくなるので、主脚と側脚との磁束密度の差を減少させることができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることができ、鉄心の励磁騒音を減少させることができる。
【0027】
上記の第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心において、定格励磁条件におけるすべての主脚内の平均磁束密度が、すべての側脚内の平均磁束密度より低く、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長が、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長より長い構成とすることができる。
この構成の場合、定格励磁条件における平均磁束密度が低い方の主脚に係る、下部ヨークの分割部のラップ長が長く、ラップ長が長いほど磁気抵抗が小さくなるので、主脚と側脚との磁束密度の差を減少させることができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることができ、鉄心の励磁騒音を減少させることができる。
【0028】
上記の第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心において、下部ヨークの各分割部における、同じ層の対向する鋼板の位置をずらしたラップ接合構造において、同じ層の対向する鋼板の位置の繰り返しの単位の層の数であるラップ段数が、すべて同一とされている構成とすることができる。
【0029】
上記の第1の本発明の分解輸送変圧器用鉄心において、下部ヨークの各分割部における、同じ層の対向する鋼板の位置をずらしたラップ接合構造において、同じ層の対向する鋼板の位置の繰り返しの単位の層の数であるラップ段数が、下部ヨークの部位により任意の異なる値とされている構成とすることができる。
この構成の場合、ラップ接合構造において、ラップ長の差だけでなく、ラップ段数の差によっても、鉄心内の磁束密度の部位ごとの差を調整することができ、そして、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることや、鉄心の励磁騒音を減少させることが可能になる。
【0030】
上記の第2の本発明の分解輸送変圧器用鉄心において、定格励磁条件におけるすべての主脚内の平均磁束密度が、すべての側脚内の平均磁束密度より高く、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ段数が、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ段数より少ない構成とすることができる。
この構成の場合、定格励磁条件における平均磁束密度が高い方の主脚に係る、下部ヨークの分割部のラップ段数が少なく、ラップ段数が少ないほど磁気抵抗が大きくなるので、主脚と側脚との磁束密度の差を減少させることができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることができ、鉄心の励磁騒音を減少させることができる。
【0031】
上記の第2の本発明の分解輸送変圧器用鉄心において、定格励磁条件におけるすべての主脚内の平均磁束密度が、すべての側脚内の平均磁束密度より低く、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ段数が、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ段数より多い構成とすることができる。
この構成の場合、定格励磁条件における平均磁束密度が低い方の主脚に係る、下部ヨークの分割部のラップ段数が多く、ラップ段数が多いほど磁気抵抗が小さくなるので、主脚と側脚との磁束密度の差を減少させることができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることができ、鉄心の励磁騒音を減少させることができる。
【実施例0032】
続いて、分解輸送変圧器用鉄心を用いた分解輸送変圧器の具体的な実施例を説明する。
【0033】
(実施例1)
以下、実施例1の分解輸送変圧器を、
図1~
図8を参照して説明する。
図1は、実施例1の分解輸送変圧器の正面図であり、
図2は、実施例1の分解輸送変圧器の下面図である。
なお、以下、分解輸送変圧器を静置して正対した際の、幅方向をx方向、高さ方向をy方向、奥行き方向をz方向、とそれぞれ定義して説明する。
【0034】
図1に示す分解輸送変圧器10は、鋼板をz方向に積層し、三相用の3本の主脚1u,1v,1wと、それら主脚の両外側の端部に設けられた2本の側脚2が、長手方向をy方向に向けて並列された、三相五脚型鉄心を備えて、構成されている。
【0035】
主脚1u,1v,1w同士と、主脚1u,1v,1w-側脚2とは、それぞれの上端部が上部ヨーク鉄心2aで接続され、下端部が下部ヨーク鉄心2bで接続されている。
上部ヨーク鉄心2aは、隣接する主脚の上端部を連結する主脚間上部ヨーク3と、主脚および側脚の上端部を連結する主脚-側脚間上部ヨーク4、からなる。
下部ヨーク鉄心2bは、主脚間下部ヨーク5aと主脚間下部接続ヨーク5b、および主脚-側脚間下部ヨーク6aと主脚-側脚間下部接続ヨーク6bからなる。具体的には、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークが2箇所の分割部で分割され、2個の主脚間下部ヨーク5aと中間の主脚間下部接続ヨーク5bとなっている。また、主脚および側脚の下端部を連結する下部ヨークが2箇所の分割部で分割され、2個の主脚-側脚間下部ヨーク6aと中間の主脚-側脚間下部接続ヨーク6bとなっている。
【0036】
本実施例では、鋼板の幅を変えながら積層することで、
図2に示すように、主脚1u,1v,1wの断面は略円形、側脚2の断面は略楕円形、とされている。
また、上部ヨーク鉄心2aを構成する各ヨーク3,4、および下部ヨーク鉄心2bを構成する各ヨーク5a,5b,6a,6bも、鋼板の幅を変えながら積層することで、それぞれのヨークの断面は略楕円形とされている。
【0037】
各ヨーク鉄心2a,2bと主脚1u,1v,1w、および側脚2は、双方のそれぞれの鋼板を、所定のラップ長および所定のラップ段数を持たせて積層した、接続部7で接続されている。
主脚間下部ヨーク5aと接続ヨーク5bとは、2箇所の分割部において、鋼板を、所定のラップ長および所定のラップ段数を持たせて積層した、接続部8aで接続されている。
主脚-側脚間下部ヨーク6aと接続ヨーク6bとは、2箇所の分割部において、鋼板を所定のラップ長および所定のラップ段数を持たせて積層した、接続部8bで接続されている。
ここで、ラップ長は、同じ層の対向する鋼板の位置を、連続する層において、下部ヨークの延在方向にずらして所定の長さで重ね合わせた状態で鋼板が重ね合わされているときの、鋼板の重ね合わされた長さである。
また、ラップ段数は、同じ層の対向する鋼板の位置が、所定の数の層を繰り返しの単位として繰り返されているときの、繰り返しの単位の層の数である。
【0038】
本実施例の三相五脚型の分解輸送変圧器10の鉄心を構成する鋼板としては、例えば、方向性珪素鋼板を使用することができる。
なお、鉄心を構成する鋼板は、方向性珪素鋼板に限定されるものではなく、分解輸送変圧器用鉄心に使用される各種の鋼板を使用することができる。
【0039】
さらに、主脚1u,1v,1wには、三相の巻線9u,9v,9wが巻回される。
巻線9u,9v,9wは、内側に低圧巻線、その外側に高圧巻線が重ねて巻回され、変圧器の用途によっては、さらに中圧巻線、タップ巻線等が重ねて巻回され、分解輸送変圧器10が構成される。
図1では、これら複数の巻線を一体として簡略化し、巻線9u,9v,9wの最外部の輪郭を破線で描画している。
【0040】
図3は、
図1に示した三相五脚型の分解輸送変圧器10の鉄心内のA部、B、C部の拡大断面図を示している。A部は、主脚間下部ヨーク5aと接続ヨーク5bを接続する接続部8aを示している。B部は、主脚-側脚間下部ヨーク6aと接続ヨーク6bを接続する接続部8bを示している。C部は、主脚1u,1v,1wまたは側脚2とヨーク鉄心2a,2b間を接続する接続部7を示している。
【0041】
本実施例では、
図3に示すように、隣接する層の鋼板11aと11bのそれぞれの同じ層の対向する鋼板の位置を、一定量ずらしながら積層した、ラップ接合構造によって各接続部8a,8b,7を構成している。
そして、
図3では、A部、B部、C部の鋼板11a,11bの重ね合わせ量(ラップ長)を、それぞれLm,Ls,Lnと定義しており、鋼板11a,11bの積層構造は、図の上下方向に繰り返される。
【0042】
図3では、各接続部8a,8b,7のラップ接合構造において、同じ層の対向する鋼板の位置が、1層毎に交互に変わるように積層されている。以下、このように積層されたラップ接合構造を、「1段交互積み」と呼ぶ。
1段交互積みのラップ接合構造では、同じ層の対向する鋼板の位置が、2層を繰り返しの単位として繰り返されているので、繰り返しの単位であるラップ段数は2(2段)である。
【0043】
また、各接続部8a,8b,7において、同じ層の鋼板同士(11a同士、11b同士)の突き合わせ部には、鉄心の製作作業時に発生する誤差を吸収するための間隙Gを設けている。
ただし、この間隙Gの長さを厳密に管理することは、実用上現実的ではない。
【0044】
本実施例では、特に、主脚間を連結する下部ヨークにある接続部8a(A部)におけるラップ長Lmと、主脚および側脚を連結する下部ヨークにある接続部8b(B部)におけるラップ長Lsを、異なる長さとしている。
【0045】
さらに、これらのラップ長Lm,Lsの長短の関係は、
図1中に示した、三相五脚型鉄心の主脚1u,1v,1wと側脚2にそれぞれ発生する、定格励磁条件時の平均磁束密度BmとBsの高低関係により決定される関係とされることが好ましい。
具体的には、ラップ長LmおよびLsを従来通り同一(Lm=Ls)として設計したときに、主脚の平均磁束密度Bmが側脚の平均磁束密度Bsより高くなる場合には、LmをLsより短くして、逆に、主脚の平均磁束密度Bmが側脚の平均磁束密度Bsより低くなる場合には、LmをLsより長くする。
図3では、これらの構成のうち、接続部8a(A部)におけるラップ長Lmを、接続部8b(B部)におけるラップ長Lsより短くした構成を示している。
主脚の平均磁束密度Bmが側脚の平均磁束密度Bsより低くなる場合には、
図3とは逆に、接続部8a(A部)におけるラップ長Lmを、接続部8b(B部)におけるラップ長Lsより長くすることが好ましい。
【0046】
なお、ラップ長を同一(Lm=Ls)として設計したときの平均磁束密度Bm,Bsは、鉄心の各部品(主脚1u,1v,1w、側脚2、ヨーク鉄心2a,2b)および巻線9u,9v,9wの材質と寸法、巻線9u,9v,9wに流す電流量等から、計算で求めることができる。
【0047】
また、
図3において、接続部7(C部)におけるラップ長Lnは、接続部8b(B部)におけるラップ長Lsと等しくしている。
ただし、接続部7(C部)におけるラップ長Lnは、本発明の鉄心による効果を得る上での関連性はないため、特に限定されず、LmあるいはLsのいずれかと同一の長さとしてもよいし、Lm,Lsとは異なる長さとしてもよい。
【0048】
次に、
図4~
図7を参照して、下部ヨークを分割した三相五脚型の鉄心に本実施例の構成を適用した場合の効果を、三次元電磁界解析により定量化して説明する。
図4は、三次元電磁界解析に用いた三相五脚型鉄心の各部の寸法の定義を示した正面図である。
そして、円形断面を持つ主脚の直径Dを基準とした、各部の相対寸法値の一覧を、表1に示す。側脚は短直径がDsの楕円形断面とされ、ヨークは短直径がDyの楕円形断面とされ、鉄心の奥行き方向の厚さは主脚の直径と同一のDである。
【0049】
【0050】
三相五脚型の鉄心のモデルには、日本製鉄株式社製の方向性珪素鋼板30ZH105の磁化特性と鉄損特性を、磁化容易軸方向と積層方向を考慮して定義した。そして、3本の主脚に、定格磁束密度を発生させるための巻線を電磁界解析モデル上で設定し、巻線に所定の50Hz正弦波電圧を印加した。
主脚または側脚とヨークとの接続部、および下部分割ヨークの接続部には、所定のラップ長に相当する等価磁気抵抗を追加し、三相五脚型鉄心の励磁インピーダンス特性を再現した。
【0051】
図5は、上記の条件で計算した、
図4中に示した三相五脚型鉄心の中央部(x軸)に沿った、磁束密度分布を比較して示した図である。破線21は、従来の構成に相当し、
図3に示した鉄心の各接続部のラップ長Lm,Ls,Lnのすべてを10mmとした場合の計算結果である。実線22は、本実施例の一形態として、ラップ長Lmを2mm、ラップ長LsとLnを10mmとした場合の計算結果である。
【0052】
図5から、従来の構成による計算結果21によれば、V相主脚1v内の磁束密度がU相主脚1u、W相主脚1w内の磁束密度より高く、三相の主脚間で磁束密度の分布に偏りが発生している。さらに、両端の側脚2内の磁束密度が主脚内の磁束密度より5%以上低く、三相五脚型鉄心の部位ごとの磁束密度の偏りが認められる。
【0053】
これに対して、本実施例の構成における計算結果22によれば、三相の主脚間の磁束密度の偏りが低減するとともに、側脚2内の磁束密度が、従来の構成による計算結果21よりも増加し、鉄心全体の磁束密度の偏りも低減されることが認められる。
本実施例の構成における三相五脚型鉄心で発生する鉄損の計算値は、従来の構成における三相五脚型鉄心で発生する鉄損の計算値より、0.5%から1.0%低減される効果が得られることがわかった。
【0054】
次に、上記の三相五脚型鉄心に巻回した巻線を流れる励磁電流波形の計算結果の比較について説明する。
図6は、従来の接合構造の三相五脚型分解輸送変圧器において、
図3に示した鉄心の各接続部のラップ長Lm,Ls,Lnのすべてを10mmとした場合の例示電流波形の計算結果である。
図6において、31u,31v,31wは、それぞれU相、V相、W相の各巻線を流れる励磁電流波形を表す。
図7は、本実施例の三相五脚型分解輸送変圧器の一形態として、Lmを2mm、LsとLnを10mmとした場合の例示電流波形の計算結果である。
図7において、32u,32v,32wは、それぞれU相、V相、W相の各巻線を流れる励磁電流波形を表す。
これらの励磁電流波形は、三相五脚型鉄心の主脚に低圧巻線と高圧巻線を巻回した電磁界解析モデルにおいて、低圧巻線の端子を開放し、高圧巻線の端子間に定格電圧の50Hz正弦波電圧を印加した際に、高圧巻線に流れる励磁電流波形を求めたものである。
【0055】
図6に示す、従来の構成に相当する三相五脚型鉄心の励磁電流波形31u,31v,31wには、正弦波にひずみが認められ、鉄心の非線形磁化特性に起因して発生する、高調波成分が重畳する結果が得られた。
これに対して、
図7に示す、本実施例の構成に相当する三相五脚型鉄心の励磁電流波形32u,32v,32wは、
図6に比べて高調波成分の重畳が抑制され、正弦波に近い波形が得られる。
この効果により、本実施例の構成を施した三相五脚型鉄心では、励磁騒音が抑制されることが期待できる。
【0056】
なお、主脚1u,1v,1wと側脚2における、定格励磁条件時のそれぞれの平均磁束密度BmとBsの高低関係は、磁束の方向に垂直な面である水平面における断面積、主脚間の距離と主脚-側脚間の距離、等によって変化する。
実施例1の
図1~
図2の構成では、主脚1u,1v,1wが側脚2よりも水平面における断面積が大きいので、主脚1u,1v,1wが側脚2よりも平均磁束密度が大きくなりやすくなる。
しかし、主脚1u,1v,1wが側脚2よりも水平面における断面積が大きくても、主脚間の距離と主脚-側脚間の距離等の他の条件によっては、主脚1u,1v,1wが側脚2よりも平均磁束密度が小さくなることも有りうる。
【0057】
本実施例の分解輸送変圧器10は、例えば以下に説明するようにして、製作することができる。
図8A~
図8Cは、本実施例の三相五脚型分解輸送変圧器の製作方法を示す図である。
【0058】
まず、
図8Aにおいて、主脚1u,1v,1wと主脚間下部ヨーク5aまたは主脚-側脚間下部ヨーク6aを一体に組み付けたT字型鉄心部品40、および側脚2と主脚-側脚間下部ヨーク6aを一体に組み付けたL字型鉄心部品41を、クレーン等の手段を用いて、底部タンク12上に所定の間隔を空けて並設する。
【0059】
続いて、
図8Bにおいて、T字型鉄心部品40同士間、およびT字型鉄心部品40とL字型鉄心部品41の間に、それぞれ主脚間下部接続ヨーク5b、および主脚-側脚間下部接続ヨーク6bを、鋼板を積層して構成し、すべての鉄心部品を下部ヨークで接続する。
さらに、主脚1u,1v,1wに、巻線9u,9v,9wを、クレーン等の手段を用いて挿入する。
【0060】
最後に、
図8Cにおいて、主脚間上部ヨーク3、および主脚-側脚間上部ヨーク4を、鋼板を積層して構成し、すべての鉄心部品を上部ヨークで接続する。
さらに、巻線間の配線部品等を取り付けた後に、三相五脚型鉄心の全体を覆う上部タンク12aを設置し、分解輸送変圧器の製作が完了する。
【0061】
本実施例の分解輸送変圧器用鉄心は、分解輸送型変圧器10に用いられる鉄心である。
本実施例の分解輸送変圧器用鉄心は、3本の並列された主脚1u,1v,1wと、主脚1u,1v,1wの両外側に並列された2本の側脚2と、隣接する主脚1u,1v,1wまたは側脚2の上端部および下端部同士を接続する複数のヨーク2a,2bから三相五脚型鉄心が構成されている。そして、3本の主脚1u,1v,1w、2本の側脚2、複数のヨーク2a,2bが、それぞれ鋼板を複数層積層して構成されている。
さらに、複数のヨーク2a,2bのうちの、隣接する主脚1u,1v,1wの下端部を連結する下部ヨークと、主脚1u,1v,1wおよび側脚2の各下端部を連結する下部ヨークが、それぞれ2箇所の分割部によって3つに分割されている。各分割部では、3分割された下部ヨークのうちの隣接する2つのヨーク(5aと5b、6aと6b)が、鋼板を重ね合わせることにより接続されて、接続部8a,8bが構成されている。
そして、各分割部では、同じ層の対向する鋼板11a,11bの位置を、連続する層において下部ヨーク鉄心2bの延在方向(x方向)にずらして、所定のラップ長で鋼板11a,11bが重ね合わされている。
【0062】
本実施例の分解輸送変圧器用鉄心によれば、特に、隣接する主脚1u,1v,1wを連結する下部ヨークと、主脚および側脚2を連結する下部ヨークとで、下部ヨークの分割部に構成される接続部において、ラップ長が異なる長さである構成とされている。
具体的には、主脚間下部ヨーク5aと接続ヨーク5bを接続する接続部8a(A部)のラップ長Lmと、主脚-側脚間下部ヨーク6aと接続ヨーク6bを接続する接続部8b(B部)のラップ長Lsとが、異なる長さとされている。
下部ヨークの部位により、下部ヨークの各分割部における接続部8a,8bのラップ長Lm,Lnを異なる長さとしているので、鉄心内の磁束密度の部位ごとの差を、それぞれのラップ長Lm,Lnで調整することができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることや、鉄心の励磁騒音を減少させることが可能になる。
【0063】
また、定格励磁条件において、主脚1u,1v,1w内の平均磁束密度Bmが側脚2内の平均磁束密度Bsより高い(Bm>Bs)ときに、
図3に示したように、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長Lmが、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長Lsより短い(Lm<Ls)構成とすることができる。
この構成としたときには、ラップ長が短いほど磁気抵抗が大きくなるので、主脚と側脚との磁束密度の差を減少させることができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることができ、鉄心の励磁騒音を減少させることができる。
【0064】
また、定格励磁条件において、主脚1u,1v,1w内の平均磁束密度Bmが側脚2内の平均磁束密度Bsより低い(Bm<Bs)ときに、
図3に示したとは逆に、隣接する主脚の下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長Lmが、主脚と側脚の各下端部を連結する下部ヨークに設けられた各分割部におけるラップ長Lsより長い(Lm>Ls)構成とすることができる。
この構成としたときには、ラップ長が長いほど磁気抵抗が小さくなるので、主脚と側脚との磁束密度の差を減少させることができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることができ、鉄心の励磁騒音を減少させることができる。
【0065】
(実施例2)
次に、実施例2の分解輸送変圧器の構成について、
図9を参照して説明する。
図9は、
図1に示した三相五脚鉄心内の鋼板同士の接続部A部、B部、C部の断面拡大図である。なお、実施例1の
図3と同一の構成には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0066】
本実施例では、
図9に示すように、隣接する層の鋼板11a,11b,11cのそれぞれの同じ層の対向する鋼板の位置を,一定量ずらしながら積層した、ラップ接合構造によって各接続部8a,8b,7を構成している。
そして、
図9では、特に、各接続部8a,8b,7のラップ接合構造において、同じ層の対向する鋼板の位置が、3層を繰り返しの単位として繰り返されるように積層されている。以下、このように積層されたラップ接合構造を、「3段ステップラップ接合構造」と呼ぶ。
3段ステップラップ接合構造では、同じ層の対向する鋼板の位置が、3層を繰り返しの単位として繰り返されているので、繰り返しの単位であるラップ段数は3(3段)である。
【0067】
本実施例においても、実施例1と同様に、接続部8a(A部)のラップ長Lmと接続部8b(B部)のラップ長Lsの長短関係を、三相五脚型鉄心内の平均磁束密度BmとBsの高低関係に対応して、異なる長さとすることにより、実施例1と同様の効果が得られる。
図9では、そのような構成のうち、接続部8a(A部)におけるラップ長Lmを、接続部8b(B部)におけるラップ長Lsより短くした構成を示している。
なお、本実施例の
図9では、実施例1の
図3と同様に、接続部7(C部)におけるラップ長Lnが接続部8b(B部)におけるラップ長Lsと等しい構成としている。
【0068】
(実施例3)
次に、実施例3の分解輸送変圧器の構成について、
図10を参照して説明する。
図10は、
図1に示した三相五脚鉄心内の鋼板同士の接続部A部、B部、C部の断面拡大図である。なお、実施例1の
図3および実施例2の
図9と同一の構成には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0069】
本実施例では、
図10に示すように、隣接する層の鋼板11a~11fのそれぞれの同じ層の対向する鋼板の位置を、一定量ずらしながら積層した、ラップ接合構造によって各接続部8a,8b,7を構成している。
そして、
図10では、特に、各接続部8a,8b,7のラップ接合構造において、同じ層の対向する鋼板の位置が、6層を繰り返しの単位として繰り返されるように積層されている。以下、このように積層されたラップ接合構造を、「6段ステップラップ接合構造」と呼ぶ。
6段ステップラップ接合構造では、同じ層の対向する鋼板の位置が、6層を繰り返しの単位として繰り返されているので、繰り返しの単位であるラップ段数は6(6段)である。
【0070】
本実施例においても、実施例1および実施例2と同様に、接続部8a(A部)のラップ長Lmと接続部8b(B部)のラップ長Lsの長短関係を、三相五脚型鉄心内の平均磁束密度BmとBsの高低関係に対応して、異なる長さとすることにより、実施例1および実施例2と同様の効果が得られる。
図10では、そのような構成のうち、接続部8a(A部)におけるラップ長Lmを、接続部8b(B部)におけるラップ長Lsより短くした構成を示している。
なお、実施例1の
図3および実施例2の
図3では、接続部7(C部)におけるラップ長Lnが接続部8b(B部)におけるラップ長Lsと等しい構成であったが、本実施例の
図10では、接続部7(C部)におけるラップ長Lnが接続部8a(A部)におけるラップ長Lmと等しい構成としている。
【0071】
(実施例4)
次に、実施例4の分解輸送変圧器の構成について、
図11を参照して説明する。
図11は、
図1に示した三相五脚鉄心内の鋼板同士の接続部A部、B部、C部の断面拡大図である。なお、実施例1の
図3、実施例2の
図9および実施例3の
図10と同一の構成には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0072】
本実施例では、
図11に示すように、隣接する層の鋼板のそれぞれの同じ層の対向する鋼板の位置を、一定量ずらしながら積層した、ラップ接合構造によって各接続部8a,8b,7を構成している。その点は、実施例1~実施例3と同様である。
【0073】
ただし、本実施例では、
図11に示すように、接続部8a(A部)と接続部8b(B部)において、接続部のラップ長Lm,Lsを異ならせる代わりに、ラップ接合構造における繰り返しの単位の層の数であるラップ段数を異ならせた例を示している。
本実施例においては、接続部8a(A部)のラップ段数と接続部8b(B部)のラップ段数を、三相五脚型鉄心内の平均磁束密度BmとBsの高低関係に対応して、異なる数とすることにより、実施例1~実施例3と同様の効果が得られる。
【0074】
図11では、それらの構成のうち、接続部8a(A部)をラップ段数2の1段交互積みとして、接続部8b(B部)をラップ段数6の6段ステップラップ接合構造として、接続部8a(A部)のラップ段数を接続部8b(B部)のラップ段数より少なくした構成を示している。
【0075】
さらに、これらのラップ段数の関係は、
図1中に示した、三相五脚型鉄心の主脚1u,1v,1wと側脚2にそれぞれ発生する、定格励磁条件時の平均磁束密度BmとBsの高低関係により決定される関係とされることが好ましい。
具体的には、ラップ段数を従来通り同一として設計したときに、定格励磁条件において、主脚の平均磁束密度Bmが側脚の平均磁束密度Bsより高くなる(Bm>Bs)場合には、
図11に示した構成のように、主脚間に係る接続部8a(A部)のラップ段数を主脚-側脚間に係る接続部8b(B部)のラップ段数よりも少なくする。
この構成としたときには、ラップ段数が少ないほど磁気抵抗が大きくなるので、主脚と側脚との磁束密度の差を減少させることができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることができ、鉄心の励磁騒音を減少させることができる。
【0076】
ラップ段数を従来通り同一として設計したときに、定格励磁条件において、逆に、主脚の平均磁束密度Bmが側脚の平均磁束密度Bsより低くなる(Bm<Bs)場合には、主脚間に係る接続部8a(A部)のラップ段数を主脚-側脚間に係る接続部8b(B部)のラップ段数よりも多くする。
この構成としたときには、ラップ段数が多いほど磁気抵抗が小さくなるので、主脚と側脚との磁束密度の差を減少させることができる。これにより、鉄心で発生する鉄損を減少させて、主脚に巻回した巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させることができ、鉄心の励磁騒音を減少させることができる。
【0077】
図11では、接続部8a(A部)のラップ段数と接続部8b(B部)のラップ段数に、ラップ段数2の1段交互積みと、ラップ段数6の6段ステップラップ接合構造との組み合わせを、採用した。
ラップ段数を異なせた構成において、ラップ段数の組み合わせは、その他の組み合わせを採用することも可能である。例えば、ラップ段数3の3段ステップラップ構造を、どちらかの接続部に採用することも可能である。
【0078】
(変形例)
上述の各実施例では、接続部8a(A部)および接続部8b(B部)において、ラップ長、あるいはラップ段数の一方のみを異ならせた構成としていたが、ラップ長およびラップ段数の両方を異ならせた構成とすることも可能である。
そして、特に、ラップ長の長短関係およびラップ段数の多少関係を、共に主脚1u,1v,1wと側脚2の定格励磁条件時の平均磁束密度BmとBsの高低関係により決定される関係としたときには、巻線を流れる励磁電流の高調波成分を減少させる効果や、鉄心の励磁騒音を減少させる効果をさらに高めることができる。
【0079】
また、
図9~
図10に示した拡大断面図では、ラップ接合構造の繰り返しの単位において、鋼板を図中上から下に向かって、左から右へ一方向にずらしていた。
これに対して、図中上から下に向かって、右から左へ一方向にずらした構成や、左から右へずらしてから右から左へずらした特許文献1の
図3のB~D部の構成のように、交互にずらす向きを変えた構成も、採用することが可能である。
なお、特許文献1の
図3のB~D部の構成は、鋼板をずらすラップ接合構造が同じ向きで3層ずつ繰り返されるので、繰り返しの単位の層であるラップ段数は3である。
特許文献1の
図3のB~D部の構成は、左から右へ一方向にずらした特許文献1の
図4のB~D部の構成と比較すると、同じラップ段数3であり、接続部の磁気抵抗の大きさも同じであるが、鋼板の位置の繰り返しの層数(周期)が異なっている。
【0080】
なお、本発明は、上述した実施の形態および実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した各実施の形態および実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
1u,1v,1w:主脚、2:側脚、2a:上部ヨーク鉄心、2b:下部ヨーク鉄心、3:主脚間上部ヨーク、4:主脚-側脚間上部ヨーク、5a:主脚間下部ヨーク、5b:主脚間下部接続ヨーク、6a:主脚-側脚間下部ヨーク、6b:主脚-側脚間下部接続ヨーク、7:脚鉄心-ヨーク鉄心間の接続部、8a:主脚間下部ヨークの接続部、8b:主脚-側脚間下部ヨークの接続部、9u,9v,9w:巻線、10:分解輸送変圧器、11a~11f:方向性珪素鋼板、12:底部タンク、12a:上部タンク、40:T字型鉄心部品、41:L字型鉄心部品