(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018366
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ロータの補修方法
(51)【国際特許分類】
F01D 25/00 20060101AFI20250130BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20250130BHJP
C23C 4/12 20160101ALN20250130BHJP
C23C 4/18 20060101ALN20250130BHJP
【FI】
F01D25/00 X
B23K26/342
F01D25/00 F
C23C4/12
C23C4/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121995
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 頌平
(72)【発明者】
【氏名】岡 寛哲
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏
(72)【発明者】
【氏名】新原 光史郎
【テーマコード(参考)】
4E168
4K031
【Fターム(参考)】
4E168BA32
4E168BA64
4E168JB04
4K031AA02
4K031AB06
4K031AB08
(57)【要約】
【課題】補修後のロータに対して形状及び性能を安定して維持させる。
【解決手段】ロータの補修方法は、軸線を中心として軸方向に延びるロータ本体と、前記軸方向に並んで前記ロータ本体に固定された複数のインペラとを備えるロータの補修方法であって、前記ロータ本体の補修領域に溶接を施し、損傷部位を溶接部で埋めるステップと、前記溶接を実施後に、前記ロータにおける前記補修領域のみに熱処理を施すステップと、前記熱処理を実施後に、前記溶接部の一部を削って、外表面と滑らかに接続された加工面を形成するステップとを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心として軸方向に延びるロータ本体と、前記軸方向に並んで前記ロータ本体に固定された複数のインペラとを備えるロータの補修方法であって、
前記ロータ本体の補修領域に溶接を施し、前記ロータ本体の外表面から窪むように形成された損傷部位を溶接部で埋めるステップと、
前記溶接を実施後に、前記ロータにおける前記補修領域のみに熱処理を施すステップと、
前記熱処理を実施後に、前記溶接部の一部を削って、前記外表面と滑らかに接続された加工面を形成するステップとを含むロータの補修方法。
【請求項2】
前記補修領域は、前記ロータ本体における前記軸方向の端部を含む軸端領域に形成されている請求項1に記載のロータの補修方法。
【請求項3】
前記加工面は、前記ロータ本体の全周にわたって前記軸線から一定の距離となるように形成されている請求項1又は2に記載のロータの補修方法。
【請求項4】
前記溶接部は、レーザ溶接によって形成される請求項1又は2に記載のロータの補修方法。
【請求項5】
前記熱処理は、焼きなましである請求項1又は2に記載のロータの補修方法。
【請求項6】
前記損傷部位を削って、前記補修領域を前記外表面から窪む凹部として形成するステップをさらに含み、
前記溶接部によって前記凹部を埋めるように前記溶接が実施される請求項1又は2に記載のロータの補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロータの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に遠心圧縮機は、複数のインペラを有するロータと、インペラを外側から覆うことでインペラとの間で流路を形成するケーシングと、を備えている。遠心圧縮機では、ケーシング内に形成された流路を介して外部から供給された流体が、インペラの回転によって圧縮されている。このような圧縮機のロータに損傷が生じた場合、ロータを新規に作成することなく、補修する場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、補修すべき損傷部に対して、溶射皮膜を形成して損傷部を補修する補修方法が記載されている。具体的には、特許文献1に記載の補修方法では、まず、軸受に支持された箇所に生じたロータの損傷部位を機械加工等によって除去及び整形している。その後、除去及び整形した表面に対して、ブラスト処理で粗面化を施し、高速フレーム溶射によって皮膜を形成している。形成された被膜に加工を施して仕上げ処理を行って検査することで、補修されたロータが得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したようなロータの補修では、溶接部分に対して熱処理を行わないと、溶接されていない他の部分に比べて、溶接部分に強度の不足や硬度の過大が生じる可能性がある。その結果、補修後のロータが要求性能を満たしていない状態となる場合がある。一方で、熱処理をロータのような大きな部品に対して行うことで、ロータの寸法が補修の前後で変化してしまい、補修前と同等の形状のロータを得ることが難しくなる可能性がある。このようにロータの補修時には、補修の前後でロータに対して形状及び性能を維持させることが要求されている。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、補修後のロータに対して形状及び性能を安定して維持させることが可能なロータの補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係るロータの補修方法は、軸線を中心として軸方向に延びるロータ本体と、前記軸方向に並んで前記ロータ本体に固定された複数のインペラとを備えるロータの補修方法であって、前記ロータ本体の補修領域に溶接を施し、前記ロータ本体の外表面から窪むように形成された損傷部位を溶接部で埋めるステップと、前記溶接を実施後に、前記ロータにおける前記補修領域のみに熱処理を施すステップと、前記熱処理を実施後に、前記溶接部の一部を削って、前記外表面と滑らかに接続された加工面を形成するステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示のロータの補修方法によれば、補修後のロータに対して形状及び性能を安定して維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る補修対象のロータを示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係るロータの補修方法を示すフロー図である。
【
図3】本実施形態に係る損傷部位を確認するステップを説明するロータ本体の要部拡大図である。
【
図4】本実施形態に係る損傷部位を加工するステップを説明するロータ本体の要部拡大図である。
【
図5】本実施形態に係る補修領域に溶接するステップを説明するロータ本体の要部拡大図である。
【
図6】本実施形態に係る部分的に熱処理を行うステップで、ヒータを取り付ける様子を説明するロータ本体の要部拡大図である。
【
図7】本実施形態に係る部分的に熱処理を行うステップで、保温材を取り付ける様子を説明するロータ本体の要部拡大図である。
【
図8】本実施形態に係る加工面を形成するステップを説明するロータ本体の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本開示によるロータの補修方法S1を実施するための形態を説明する。しかし、本開示はこの実施形態のみに限定されるものではない。
【0011】
ロータの補修方法S1は、ロータ1の端部を含む軸端領域100を補修する方法である。補修対象のロータ1は、圧縮機や蒸気タービン等の回転機械の回転部品である。本実施形態のロータ1は、多段遠心圧縮機のロータ1である。
【0012】
(ロータの構成)
図1に示すように、ロータ1は、ケーシング(不図示)内で、軸線Oを中心として回転可能とされた部品である。ロータ1は、ロータ本体10と、インペラ20と、を備えている。ロータ本体10は、軸線Oを中心として軸方向Daに延びている。
【0013】
なお、以下では、軸線Oが延びている方向が軸方向Daとされる。ロータ1が回転機械に生みこまれた状態では、軸線Oは水平に延びている。軸方向Daに直交する方向が径方向Drとされる。つまり、軸線Oを基準にしたロータ1の径方向Drが単に径方向Drとされる。
【0014】
インペラ20は、軸方向Daに間隔を空けて複数並んで配置されている。各インペラ20は、ロータ本体10に固定されている。各インペラ20は、ロータ本体10と一体に軸線O回りに回転可能とされている。本実施形態において、インペラ20は、例えば計六個が設けられている。これらのインペラ20は、軸方向Daにおいて、ロータ本体10の第一端11に近い側(第一端側Da1、一方側)とロータ本体10の第二端12に近い側(第二端側Da2、他方側)との間のロータ本体10の軸方向Daの中央部に配置されている。
【0015】
ロータ本体10は、ロータ本体10における軸方向Daの端部を含む軸端領域100を有している。軸端領域100は、軸方向Daにおいて端部からの一定の範囲の領域である。本実施形態のロータ本体10は、軸方向Daの一方の端部である第一端11を含む第一軸端領域110と、軸方向Daの他方の端部である第二端12を含む第二軸端領域120とを有している。第一軸端領域110及び第二軸端領域120は、中央部を挟んで互いに軸方向Daに離れて形成されている。第一軸端領域110及び第二軸端領域120は、軸方向Daにおいて、インペラ20と重ならない位置に形成されている。
【0016】
また、ロータ本体10は、軸受8によってケーシングに回転自在に支持可能とされている。ロータ本体10は、軸受8に支持される軸受領域130を有している。ロータ本体10を支持する軸受8は、ロータ本体10のスラスト方向への変位を規制するスラスト軸受81と、ロータ本体10を回転可能に支持する一対のジャーナル軸受82とを有している。つまり、ロータ本体10は、スラスト軸受81に支持されるスラスト被支持領域140と、ジャーナル軸受82に支持されるジャーナル被支持領域150とを有している。
【0017】
スラスト被支持領域140は、第二軸端領域120の一部として形成されている。スラスト被支持領域140は、軸方向Daにおいて第二端12から離れた位置に形成されている。ジャーナル被支持領域150は、軸方向Daに離れて第一ジャーナル被支持領域151と、第二ジャーナル被支持領域152とを有している。第一ジャーナル被支持領域151は、第一軸端領域110の一部として形成されている。第一ジャーナル被支持領域151は、軸方向Daにおいて第一端11から離れた位置に形成されている。第二ジャーナル被支持領域152は、第二軸端領域120の一部として形成されている。第二ジャーナル被支持領域152は、軸方向Daにおいて第二端12及びスラスト被支持領域140から離れた位置に形成されている。
【0018】
また、ロータ本体10の第一端11には、カップリング部材9が装着可能とされている。カップリング部材9は、ロータ本体10の第一端11だけでなく、ケーシングの外部に配置された他の回転機械(不図示)にも着脱可能とされている。ロータ本体10は、カップリング部材9を固定可能なカップリング被固定領域160を有している。カップリング被固定領域160は、第一軸端領域110の一部として形成されている。カップリング被固定領域160は、軸方向Daにおいて第一端11から離れた位置に形成されている。カップリング被固定領域160は、軸方向Daにおいて、第一ジャーナル被支持領域151と第一端11との間の位置に形成されている。
【0019】
(ロータの補修方法)
図2を参照して、ロータの補修方法S1について説明する。本実施形態のロータの補修方法S1は、ケーシングから取り外されたロータ1に対して実施される。ロータの補修方法S1は、軸端領域100において、ロータ1の外表面Fに形成された傷等を含む損傷部位Dを補修する。ロータの補修方法S1は、損傷部位確認ステップS2と、損傷部位加工ステップS3と、補修領域溶接ステップS4と、部分熱処理ステップS5と、加工面形成ステップS6とを含んでいる。
【0020】
(損傷部位確認ステップ)
損傷部位確認ステップS2では、ロータ1の軸端領域100に形成された損傷部位Dが確認される。例えば、作業員がロータ1を視認し、損傷部位Dが軸端領域100に形成されていないかが確認される。本実施形態では、
図3に示すように、第一軸端領域110のカップリング被固定領域160に損傷部位Dが存在する場合を例に挙げて説明する。カップリング被固定領域160での損傷領域は、カップリング部材9が油圧嵌めや焼き嵌め等でロータ本体10に固定されていることで、カップリング部材9をロータ本体10に対して着脱することで形成される。損傷部位Dは、ロータ本体10の外表面Fから窪むように形成されている。また、補修される補修領域Aは、軸端領域100に形成されている。補修される補修領域Aは、ロータ本体10において、損傷部位Dを含む領域である。つまり、本実施形態では、カップリング被固定領域160の中で損傷部位Dが存在する領域を含む所定の範囲が補修領域Aとして設定される。
【0021】
(損傷部位加工ステップ)
損傷部位加工ステップS3は、
図2に示すように、損傷部位確認ステップS2の後に実施される。
図4に示すように、損傷部位加工ステップS3では、損傷部位Dを削って、補修領域Aが外表面Fから窪む凹部Cとして形成される。凹部Cは、ロータ本体10に対して全周にわたって形成されている。凹部Cは、損傷部位Dをロータ本体10から完全に削り取るように形成する。凹部Cは、損傷部位Dが形成されている位置よりも大きな範囲で形成される。つまり、凹部Cが形成された状態では、ロータ本体10には損傷部位Dは存在しない状態となっている。本実施形態では、凹部Cは、カップリング被固定領域160に形成されている。
【0022】
(補修領域溶接ステップ)
補修領域溶接ステップS4では、補修領域Aに溶接を施す。
図2に示すように、本実施形態の補修領域溶接ステップS4は、損傷部位加工ステップS3の後に実施される。補修領域溶接ステップS4では、
図5に示すように、軸端領域100に対して、補修領域Aに溶接が施されて、損傷部位Dが溶接部Mで埋められる。本実施形態では、溶接は、溶接部Mによって、カップリング被固定領域160に形成された凹部Cを埋めるように実施される。つまり、溶接部Mは、ロータ本体10に対して全周にわたって形成されている。溶接部Mは、レーザ溶接によって凹部Cの全周に肉盛することで形成される。溶接部Mは、外表面Fから径方向Drに突出する程度の厚みで形成されている。
【0023】
(部分熱処理ステップ)
部分熱処理ステップS5は、
図2に示すように、補修領域溶接ステップS4の後に実施される。部分熱処理ステップS5では、溶接を実施後に、ロータ1における軸端領域100のみに熱処理を施す。具体的には、
図6に示すように、第一軸端領域110のみに熱処理を施す。より具体的には、本実施形態では、補修領域Aであるカップリング被固定領域160のみに処理を施す。熱処理は、焼きなましによって実施される。つまり、カップリング被固定領域160は、指定された温度まで一定の速度で徐々に加熱した後に、所定の時間にわたって保温され、その後、一定の速度で徐々に冷却される。本実施形態では、熱処理の対象となる領域であるカップリング被固定領域160のみに、ニクロム線等で構成されたヒータHをすき間なく巻き付ける。その後、
図7に示すように、カップリング被固定領域160をヒータHと共に覆うように断熱材Tが巻き付けられる。このようにヒータH及び断熱材Tが溶接部Mを含むカップリング被固定領域160に取り付けられた状態で、ロータ1に対して、カップリング被固定領域160のみを全周にわたって焼きなましする。その際、熱処理時の焼鈍条件は、熱処理後のカップリング被固定領域160が低温材に要求されるシャルピー値を満足する条件で実施されることが好ましい。
【0024】
なお、部分熱処理ステップS5は、溶接による熱の影響がロータ1から完全に除去された後に実施されることが好ましい。部分熱処理ステップS5は、軸線Oを鉛直方向に延ばすようにロータ1を立てて実施されることが好ましい。
【0025】
(加工面形成ステップ)
加工面形成ステップS6は、
図2に示すように、部分熱処理ステップS5の後に実施される。加工面形成ステップS6では、
図8に示すように、熱処理を実施後に、溶接部Mの一部を削って加工面GFが形成される。加工面GFは、溶接部Mに研磨を施すことで形成されている。加工面形成ステップS6は、部分熱処理ステップS5の前に実施されことはない。
【0026】
加工面GFは、外表面Fと滑らかに接続された面である。加工面GFは、軸方向Daにおいて、溶接部Mが形成されている位置を重なる位置に形成されている。加工面GFは、軸方向Daにおいて凹部Cが形成されていない位置の外表面Fと繋がる平滑な面である。加工面GFは、ロータ本体10の全周にわたって、軸線Oから径方向Drに一定の距離となるように形成されている。
【0027】
(作用効果)
上記構成のロータの補修方法S1では、損傷部位Dに対して溶接が実施されて溶接部Mが形成されている。これにより、損傷部位Dが溶接部Mによって埋められて補修された状態となる。しかしながら、溶接を施しただけでは、溶接部M及びその周辺である熱影響部の強度が要求している強度に比べて不足していたり、熱影響部の硬度が要求している硬度を超過していたりする場合がある。これに対して、熱処理を施すことで、要求されている値を満たすように熱影響部の強度を引き上げるとともに、硬度を低下させることができる。その際、ロータ1の全体やロータ本体10の全体に対して熱処理を施すことなく、溶接部Mが形成された補修領域Aを含む第一軸端領域110のみに熱処理が施されている。ロータ1の全体やロータ本体10の全体が加熱されないことで、熱処理による熱伸び、熱収縮、及びひずみ等の影響を補修領域A近傍に限定することができる。つまり、熱処理の影響による寸法や表面粗さの変化が生じる範囲を補修領域A近傍のみに抑えることができる。さらに、補修領域Aを含む第一軸端領域110のみに部分的に熱処理を行った後に、溶接部Mの一部を削って、加工面GFが形成されている。そのため、第一軸端領域110に限定的に生じた寸法や表面粗さの変化を削り取って修正できる。また、加工面GFを形成した後に、熱処理が行われていないことで、一度形成した加工面GFに寸法や表面粗さの変化が生じることが抑えられる。これらによって、補修前と同等の品質や形状のロータ1を安定して得ることができる。したがって、補修後のロータ1に対して形状及び性能を安定して維持させることができる。
【0028】
特に本実施形態では第一軸端領域110のみに熱処理が施されている。これにより、熱処理による熱伸び、熱収縮、及びひずみ等の影響を第一軸端領域110に限定することができる。つまり、熱処理の影響による寸法や表面粗さの変化が生じる範囲を第一軸端領域110のみに抑えることができる。
【0029】
また、加工面GFは、ロータ本体10の全周にわたって、軸線Oから径方向Drに一定の距離となるように形成されている。そのため、溶接部Mが形成された補修領域A(損傷部位Dが元々存在していた領域)を全周にわたって高い精度で元の形状に合わせるように加工することができる。したがって、補修前と同等の形状のロータ1をより安定して得ることができる。
【0030】
また、溶接部Mはレーザ溶接によって形成されている。特に、レーザ溶接がロータ本体10に対して全周にわたって実施されている。そのため、ロータ本体10には、一部を溶接する場合に比べて溶接による熱影響が大きくなる。さらに、TIG溶接のように入熱量の大きな溶接方法では、ロータ本体10に生じる熱影響はより大きくなる。しかしながら、レーザ溶接を採用することで、溶接時に入熱量を抑えることができ、ロータ本体10に生じる熱影響を抑えることができる。これにより、溶接に伴うロータ本体10の変形を抑えることができる。
【0031】
また、カップリング被固定領域160のみを部分的に熱処理する際に、焼きなましが実施されている。したがって、溶接部Mを形成したことでカップリング被固定領域160に生じた残留応力等を除去することができる。その結果、溶接部Mが形成された補修領域Aに対して、結晶組織を均一にして柔らかくし、加工性や靭性を向上させることができる。
【0032】
また、焼きなましは、カップリング被固定領域160にヒータH及び断熱材Tを巻き付けて実施される。ヒータHによって加熱した後に、断熱材Tによって、カップリング被固定領域160は保温された状態となる。そのため、断熱材Tがまかれていないカップリング被固定領域160以外の領域へ熱が伝わりづらくなり、熱処理による影響がカップリング被固定領域160以外の領域に生じにくくなる。そのため、ロータ本体10全体への影響を抑えてカップリング被固定領域160を効果的に焼きなましできる。
【0033】
また、補修領域Aは、ロータ本体10の外表面Fから窪むように形成された損傷部位Dを含む領域である。そのため、ロータ本体10に形成された傷のような損傷部位Dを完全に除去した後に、補修することができる。
【0034】
さらに、損傷部位Dを削って凹部Cが形成されている。加えて、凹部Cを埋めるように溶接部Mが形成されている。そのため、損傷部位Dがどのような形状で形成されていても、損傷部位Dを確実に除去して補修することができる。さらに、凹部Cが外表面Fから削るように形成されていることで、損傷部位D上に溶接部Mを直接形成する場合に比べて、溶接部Mが補修領域Aに密着しやすくなり、溶接部Mを安定して形成することができる。
【0035】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0036】
例えば、補修対象のロータ1は、上述した構造のロータ1に限定されるものではない。ロータ1は、異なる形状であっても、回転機械のロータ1であればよい。したがって、ロータ本体10に設けられるインペラ20の数、インペラ20の向きは、上記に例示したものに限られず、適宜変更可能である。
【0037】
また、ロータの補修方法S1は、損傷部位Dがカップリング被固定領域160に形成されている場合のみに実施されることに限定されるものではない。損傷部位Dは、軸端領域100に形成されていれば、軸受領域130や第二軸端領域120に形成されていてもよい。
【0038】
また、ロータの補修方法S1において、損傷部位加工ステップS3は、必ず実行されることに限定されるものではない。例えば、損傷部位加工ステップS3は実施されてなくてもよい。その場合、補修領域溶接ステップS4では、損傷部位Dに対して直接溶接が実施され、溶接部Mが損傷部位Dを直接覆うように形成される。
【0039】
また、ロータの補修方法S1において、本実施形態のように一回のみの部分熱処理ステップS5が実施されることに限定されるものではない。部分熱処理ステップS5は、加工面形成ステップS6の前であれば、複数回実施されてもよい。
【0040】
<付記>
実施形態に記載のロータの補修方法S1は、例えば以下のように把握される。
【0041】
(1)第1の態様に係るロータの補修方法S1は、軸線Oを中心として軸方向Daに延びるロータ本体10と、前記軸方向Daに並んで前記ロータ本体10に固定された複数のインペラ20とを備えるロータの補修方法S1であって、前記ロータ本体10の補修領域Aに溶接を施し、前記ロータ本体10の外表面Fから窪むように形成された前記損傷部位Dを溶接部Mで埋めるステップと、前記溶接を実施後に、前記ロータ1における前記補修領域Aのみに熱処理を施すステップと、前記熱処理を実施後に、前記溶接部Mの一部を削って、前記外表面Fと滑らかに接続された加工面GFを形成するステップとを含む。
【0042】
このようなロータの補修方法S1では、損傷部位Dに対して溶接が実施されて溶接部Mが形成されている。これにより、損傷部位Dが溶接部Mによって埋められて補修された状態となる。しかしながら、溶接を施しただけでは、溶接部M及びその周辺である熱影響部の強度が要求している強度に比べて不足していたり、熱影響部の硬度が要求している硬度を超過していたりする場合がある。これに対して、熱処理を施すことで、要求されている値を満たすように熱影響部の強度を引き上げるとともに、硬度を低下させることができる。その際、ロータ1全体やロータ本体10全体に対して熱処理を施すことなく、溶接部Mが形成された補修領域Aのみに熱処理が施されている。ロータ1全体やロータ本体10全体が加熱されないことで、熱処理による熱伸び、熱収縮、及びひずみ等の影響を補修領域Aに限定することができる。つまり、熱処理の影響による寸法や表面粗さの変化が生じる範囲を補修領域Aのみに抑えることができる。さらに、補修領域Aのみに部分的に熱処理を行った後に、溶接部Mの一部を削って、加工面GFが形成されている。そのため、補修領域Aに限定的に生じた寸法や表面粗さの変化を削り取って修正できる。また、加工面GFを形成した後に、熱処理が行われていないことで、一度形成した加工面GFに寸法や表面粗さの変化が生じることが抑えられる。これらによって、補修前と同等の品質や形状のロータ1を安定して得ることができる。したがって、補修後のロータ1に対して形状及び性能を安定して維持させることができる。
【0043】
(2)第2の態様に係るロータの補修方法S1は、(1)のロータの補修方法S1であって、前記補修領域Aは、前記ロータ本体10における前記軸方向Daの端部を含む軸端領域100に形成されている。
【0044】
これにより、熱処理による熱伸び、熱収縮、及びひずみ等の影響を軸端領域100に限定することができる。つまり、熱処理の影響による寸法や表面粗さの変化が生じる範囲を軸端領域100のみに抑えることができる。
【0045】
(3)第2の態様に係るロータの補修方法S1は、(1)又は(2)のロータの補修方法S1であって、前記加工面GFは、前記ロータ本体10の全周にわたって前記軸線Oから一定の距離となるように形成されている。
【0046】
これにより、溶接部Mが形成された補修領域Aを全周にわたって高い精度で元の形状に合わせるように加工することができる。したがって、補修前と同等の形状のロータ1をより安定して得ることができる。
【0047】
(4)第3の態様に係るロータの補修方法S1は、(1)から(3)の何れか一つのロータの補修方法S1であって、前記溶接部Mは、レーザ溶接によって形成される。
【0048】
このようにレーザ溶接を採用することで、溶接時に入熱量を抑えることができ、ロータ本体10に生じる熱影響を抑えることができる。これにより、溶接に伴うロータ本体10の変形を抑えることができる。
【0049】
(5)第4の態様に係るロータの補修方法S1は、(1)から(4)の何れか一つのロータの補修方法S1であって、前記熱処理は、焼きなましである。
【0050】
これにより、溶接部Mを形成したことで補修領域Aに生じた残留応力等を除去することができる。その結果、溶接部Mが形成された補修領域Aに対して、結晶組織を均一にして柔らかくし、加工性や靭性を向上させることができる。
【0051】
(6)第5の態様に係るロータの補修方法S1は、(1)から(5)の何れか一つのロータの補修方法S1であって、前記損傷部位Dを削って、前記補修領域Aを前記外表面Fから窪む凹部Cとして形成するステップをさらに含み、前記溶接部Mによって前記凹部Cを埋めるように前記溶接が実施される。
【0052】
これにより、損傷部位Dがどのような形状で形成されていても、損傷部位Dを確実に除去して補修することができる。さらに、凹部Cが外表面Fから削るように形成されていることで、損傷部位D上に溶接部Mを直接形成する場合に比べて、溶接部Mが補修領域Aに密着しやすくなり、溶接部Mを安定して形成することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…ロータ
O…軸線
20…インペラ
10…ロータ本体
11…第一端
12…第二端
100…軸端領域
110…第一軸端領域
120…第二軸端領域
130…軸受領域
140…スラスト被支持領域
150…ジャーナル被支持領域
151…第一ジャーナル被支持領域
152…第二ジャーナル被支持領域
160…カップリング被固定領域
F…外表面
8…軸受
81…スラスト軸受
82…ジャーナル軸受
9…カップリング部材
D…損傷部位
Da…軸方向
Da1…第一端側
Da2…第二端側
Dr…径方向
S1…ロータの補修方法
S2…損傷部位確認ステップ
S3…損傷部位加工ステップ
S4…補修領域溶接ステップ
S5…部分熱処理ステップ
S6…加工面形成ステップ
A…補修領域
C…凹部
M…溶接部
H…ヒータ
T…断熱材
GF…加工面