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特開2025-18381紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018381
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シート
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/17 20060101AFI20250130BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20250130BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250130BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20250130BHJP
   B41M 5/26 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
B44C1/17 B
B32B7/06
B32B27/30 D
B32B27/40
B41M5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122034
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 文明
(72)【発明者】
【氏名】入江 朱加
【テーマコード(参考)】
2H111
3B005
4F100
【Fターム(参考)】
2H111HA14
2H111HA23
2H111HA32
3B005FA12
3B005FB13
3B005FB23
3B005FB37
3B005FB47
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3B005FC12Y
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3B005GD10
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4F100AA17C
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK03
4F100AK03B
4F100AK17
4F100AK17B
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4F100AK42A
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4F100AK51C
4F100AR00C
4F100AT00A
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4F100EH46B
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4F100JB16
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4F100JL14B
4F100JN01
4F100JN28
4F100JN28C
(57)【要約】
【課題】紫外線レーザーによる二次元コード等の高密度情報記録が可能で、マーク形成後
の耐薬品性、耐熱性、耐候性、防汚性等に優れ、且つ種類及び形状の自由度が高い基材の
使用が可能なマーク形成部材を簡便に作製することが出来るマーク形成部材用転写シート
を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルム基材上に、剥離可能に設けられている、ヒドロキシル基を有する溶剤可溶性フッ素共重合体、及びポリイソシアネート化合物を含む反応型樹脂による硬化膜よりなる透明保護層、該保護層上に接して、紫外線レーザーの照射により酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物が分散されてなる熱可塑性ポリオール樹脂とブロックポリイソシアネートよりなる熱接着性マーク形成層が塗工法により設けられていることを特徴とする紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルム基材上に、剥離可能に設けられている、フルオロオレフィン単位におけるフッ素含有量10重量%以上でかつヒドロキシル基を有する溶剤可溶性フッ素共重合体、及びポリイソシアネート化合物を含む反応型樹脂による硬化膜よりなる透明保護層、該保護層上に接して、紫外線レーザーの照射により酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物が分散されてなる熱可塑性ポリオール樹脂とブロックポリイソシアネートよりなる熱接着性マーク形成層が塗工法により設けられていることを特徴とする紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シート。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリオール樹脂が、フルオロオレフィン単位におけるフッ素含有量10重量%以上でかつヒドロキシル基を有する溶剤可溶性フッ素共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シート。
【請求項3】
前記紫外線レーザーの照射により酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物が酸化チタンであることを特徴とする請求項1、請求項2に記載の紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シート。
【請求項4】
前記紫外線レーザーによるマーク形成部材が、アルカリ処理及び/又は酸処理工程を有する製品の工程管理用として使用されるマーク形成部材であることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3に記載の紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造物品の工程管理やトレーサビリティの観点から使用される高度な情報記録が可能なマーク形成部材用転写シートに関し、特に、マーク形成されたマーク形成部材が、その後、高度な耐薬品性や耐熱性、耐候性が要求される分野においても使用可能なマーク形成部材用転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に食品包装材分野におけるマーキングシステムとして、樹脂中に酸化チタン等を内添したフィルム層に、紫外線レーザーを照射し、酸化チタン等が変色することを利用したマーキングシステムが注目されている(例えば、特許文献1等)。酸化チタンの変色は、該層に含有された酸化チタンのイオン価数が変化し、酸素欠陥が生じることで、白色から黒色等へと変化し、これにより、視認可能となっていると考えられている。酸化チタンのイオン価数は、酸化チタンのバンドギャップに相当する光エネルギーを照射する際に変化するものと考えられる。酸化チタンのバンドギャップは結晶系によって異なるが、一般に3.0~3.2eV程度であり、これに相当する光の波長は420nm以下である。そのため、420nmを超える波長のレーザー光(たとえば532nm、1064nm)を用いても酸化チタンのイオン価数変化に起因する変色を施すことは困難である。これにより、紫外線レーザーによるマーキングシステムは、例えば、レーザー熱食刻法等に対して、記録部の物理的形状の変化、すなわち凹凸等が出来難いという特長を有すると共に、高密度情報記録に適した方法である。
【0003】
製造物品等の製造工程において、工程管理上使用されるラベルやタグには、二次元コード等の高度情報の印字が可能なシステムが増々望まれている。この点において、紫外線レーザーマーキングシステムは好適なシステムである。
【0004】
しかしながら、製造物品によっては、マーク形成後のラベルやタグが、強アルカリ水溶液や強酸性水溶液に高温で晒される場合がある。一例を挙げれば、亜鉛メッキ鋼板製品等の表面処理工程では、鋼板の脱脂工程、酸洗い工程があるが、通常、脱脂工程では、苛性ソーダ濃度5~10重量%水溶液、温度50~85℃、浸漬時間60分程度、酸洗い工程では、塩酸濃度10~20%、温度20~50℃、浸漬時間150分程度で処理される場合がある。また、鉄鋼の防錆処理としての四三酸化鉄膜形成工程では、更に過酷な条件(苛性ソーダ濃度35~50重量%水溶液、温度90℃以上、浸漬時間60分以上)で処理される場合がある。また、製造物品の表面処理工程によっては、200℃以上の高温に晒される場合もある。
【0005】
しかしながら、このような高温化での強アルカリ水溶液や強酸性水溶液に浸漬される工程に使用される場合の工程管理用のマーク形成部材として、十分に満足するマーク形成部材が得られていないのが現状である。
【0006】
一方、包装材分野以外においても、特許文献2には、炊飯器内釜等の目盛、模様、文字等のマーク形成のために、紫外線レーザーであるエキシマレーザーの照射により、酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物もしくは金属水酸化物が分散あるいは形成されてなる弗素樹脂被覆物及びその製造方法が記載されている。
【0007】
弗素樹脂は、耐薬品性、耐熱性、耐候性、防汚性等において優れた樹脂であり、酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物が分散あるいは形成されてなる前記弗素樹脂被覆物は、工程管理上やトレーサビリティ上使用されるラベルやタグへの転用が期待される。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の金属等被着体に前記弗素樹脂被覆物を設ける製造方法は、該弗素樹脂粒子と前記酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物粒子を水分散した配合物を塗工方式によりコーティング、乾燥し、その後焼き付け(実施例:420℃、20分処理)することにより弗素樹脂被覆物を形成する方法である。このような高温焼き付け方式による該弗素樹脂被覆物の製造方法では、前記ラベルやタグの製造には、該弗素樹脂の融点(320℃程度)以上の加熱設備が必要であり、製造設備に多大の負荷がかかるという問題を有している。また、塗工方式であるが故に、マーク形成面が曲面等の場合は、該弗素樹脂被覆物を設けた後又は該被覆物にマーク形成後に、該マーク形成部材の折り曲げ加工やプレス加工等をしなければならず極めて煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-78924号公報
【特許文献2】特開平6-100716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記背景に鑑み、紫外線レーザーによる二次元コード等の高密度情報記録が可能で、マーク形成後の耐薬品性、耐熱性、耐候性、防汚性等に優れ、且つ種類及び形状の自由度が高い基材の使用が可能なマーク形成部材を簡便に作製することが出来る紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明の課題を達成するための手段を具体的に説明する。
【0012】
第1発明は、熱可塑性樹脂フィルム基材上に、剥離可能に設けられている、フルオロオレフィン単位におけるフッ素含有量10重量%以上でかつヒドロキシル基を有する溶剤可溶性フッ素共重合体、及びポリイソシアネート化合物を含む反応型樹脂による硬化膜よりなる透明保護層、該保護層上に接して、紫外線レーザーの照射により酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物が分散されてなる熱可塑性ポリオール樹脂とブロックポリイソシアネートよりなる熱接着性マーク形成層が塗工法により設けられていることを特徴とする紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シートである。
【0013】
第2発明は、前記熱可塑性ポリオール樹脂が、フルオロオレフィン単位におけるフッ素含有量10重量%以上でかつヒドロキシル基を有する溶剤可溶性フッ素共重合体であることを特徴とする第1発明に記載の紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シートである。
【0014】
第3発明は、前記紫外線レーザーの照射により酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物が酸化チタンであることを特徴とする第1発明、第2発明に記載の紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シートである。
【0015】
第4発明は、前記紫外線レーザーによるマーク形成部材が、アルカリ処理及び/又は酸処理工程を有する製品の工程管理用として使用されるマーク形成部材であることを特徴とする請求項1、請求項2,請求項3に記載の紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果は、マーク形成後の高温での耐強アルカリ性、耐強酸性が要求される、二次元コード等の高度情報の印字が可能な工程管理用マーク形成部材の製造が簡便であるのみならず、マーク形成後、耐候性、耐溶剤性、防汚性や200℃以上の耐熱性が要求される種々のマーク形成部材としても使用可能な、紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シートの提供が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を詳細に説明する。
<<熱可塑性樹脂フィルム基材>>
本発明において使用される基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム等が可能である。ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等はコスト及び耐熱性の観点から特に好ましい。これらは、延伸フィルムでも未延伸フィルムでもよい。使用される基材の厚みは、被転写体の表面凹凸の程度や転写条件及び使用する基材の種類の兼ね合いにより選択すればよいが、通常5~100μmのフィルムを用いるのが好ましい。また、後述する透明保護層は、該熱可塑性樹脂フィルム基材から剥離されることが必要なため、該フィルム基材には、剥離後に水又はアルカリ水溶液等で除去可能な剥離層や従来公知のシリコーン樹脂等の密着調整剤層よりなる離型層を設けてもよい。また、転写シートを被転写体に転写する際、転写ロールの熱による溶断等を防ぐためや滑性を持たすために、上記転写層を有する転写シートの基材の裏面側に、シリコーン樹脂等からなる従来公知の耐熱滑性層等を設けてもよい。
【0018】
<<透明保護層>>
本発明に用いられる透明保護層は、前記熱可塑性樹脂フィルム基材上に、剥離可能に設けられているフルオロオレフィン単位におけるフッ素含有量10重量%以上でかつヒドロキシル基を有する溶剤可溶性フッ素共重合体、及びポリイソシアネート化合物を含む反応型樹脂による透明硬化膜として設けられ、後述する紫外線レーザーの照射により色調が変化する熱接着性マーク形成層の塗工の際の耐性の発現のみならず、該マーク形成層のマーク形成後の前記耐アルカリ性や耐酸性等の耐薬品性の保護機能及び耐熱性や防汚性、耐候性等の各種の機能を現出させるためのものである。
【0019】
フルオロオレフィン単位におけるフッ素含有量が10重量%よりも少ないと、耐性に乏しくなり本発明の目的を達し得ない。フッ素含有量は、通常10~70重量%、好ましくは15~50重量%である。フッ素含有量が70重量%を超えると、該樹脂の溶剤溶解性が劣る。また、水酸基価は2~200程度、好ましくは5~150の範囲となるように選定するのが好ましい。
【0020】
溶剤可溶性フッ素共重合体としては、ポリビニリデンフルオリド、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンのようなフルオロオレフィンと、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、アクリロイル化合物、メタアクリロイル化合物のようなエチレン性不飽和化合物との共重合体等が例示される。特に好ましい例としては、フルオロオレフィン-ビニルエーテル共重合体、フルオロオレフィン-ビニルエステル共重合体が挙げられる。尚、必要に応じて、一部例えばアクリルポリオール等の樹脂や有機変性シリコーン等を添加してもよい。該要件を満たす溶剤可溶性フッ素共重合体としては、例えば、AGC(株)製商品名ルミフロン、東亞合成(株)製商品名ザフロン等、各社から市販されている。
【0021】
前記ヒドロキシル基を有する溶剤可溶性フッ素共重合体の硬化膜を形成させるためのポリイソシアネート化合物は、硬化膜の着色防止の観点から、脂肪族や脂環式のポリイソシアネート化合物やシリコーン系のポリイソシアネート化合物が好ましい。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、ノルボルネン・ジイソシアネート(NBDI)等が挙げられる。また、脂環族ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI、H12MDI)、水添XDI(H6XDI)等が挙げられる。また、シリコーン系ポリイソシアネートとしては、信越化学(株)製商品名X-48-1801等が挙げられる。これらは1種もしくは2種以上使用することが出来る。また、これらポリイソシアネート化合物は、塗工時の安定性の観点から、ブロック化されているポリイソシアネート化合物でもよい。
【0022】
前記フッ素共重合体樹脂の水酸基に対するポリイソシアネート化合物の添加量は、該フッ素共重合体樹脂の水酸基に対して、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル当量比が、10:1~1:1となるよう用いることが好ましい。該樹脂の水酸基のモル当量が、イソシアネート基のモル当量の10:1より大きくなると、後述する紫外線レーザーの照射により色調が変化する熱接着性マーク形成層の塗工の際の溶剤耐性や保護膜強度が不十分となる。また、イソシアネート基のモル当量が、該樹脂の水酸基のモル当量の1:1より多くなると、前記耐薬品性や耐熱性に問題が生じる場合があり、また、加熱硬化後に未反応のイソシアネート基が残り、膜のべたつき等を引き起こす場合がある。
【0023】
本発明に用いられる前記透明保護層は、前記熱可塑性樹脂フィルム基材上に、経時安定性を含めて剥離可能に設けられなければならない。剥離可能とする方法としては、一つには、前述のごとく、該フィルム基材に、剥離後に水又はアルカリ水溶液等で除去可能な剥離層や従来公知のシリコーン樹脂等の密着調整剤層よりなる離型層を設けることが出来る。
【0024】
また、前記熱可塑性樹脂フィルム基材上に、前記剥離層や離型層を設けない他の方法の一例としては、前記フッ素共重合体樹脂の水酸基に対する前記ポリイソシアネート化合物の添加量を前記特定の範囲とし、かつ前記透明保護層中の該ポリイソシアネートを、前記脂肪族ポリイソシアネートと前記脂環式ポリイソシアネートの各イソシアネート基のモル当量の比を調整して設けることによっても可能であり、特に該熱可塑性樹脂フィルム基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等ポリエステル系フィルム基材の場合に好適である。該方法は、コスト面及び製造の簡易化の観点から好ましい。
【0025】
前記脂肪族ポリイソシアネートと前記脂環式ポリイソシアネートの各イソシアネート基のモル当量の比の調整に関しては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のような脂肪族ポリイソシアネートと、イソホロンジイソシアネート(IPDI)のような脂環式ポリイソシアネートの、各イソシアネート基のモル当量の比が1:0.5~1:3の範囲で用いることが好ましい。脂肪族イソシアネートのイソシアネート基のモル当量が、脂環族イソシアネートのイソシアネート基のモル当量の該範囲よりも多いと、基材密着力が必要以上に大きくなり、転写後の基材剥離が困難となる場合がある。また、脂環族イソシアネートのイソシアネート基のモル当量が、脂肪族イソシアネートのイソシアネート基のモル当量の該範囲よりも多くなると、基材密着力が必要以上に低下し、転写シートのハンドリング性が低下する場合がある。
【0026】
前記透明保護層は、後述する熱接着性マーク形成層に使用する紫外線レーザーが十分に到達されるだけの透過可能な透明性が必要であるが、本発明のフッ素樹脂被膜は紫外線レーザーを透過し易いので、マーク形成の際に該透明保護層を損傷することが少なく、レーザーエネルギーは金属酸化物等に主に吸収されて、金属酸化物の酸化数が変わり、色調のみが変化する。但し、実質的に該透明性を損なわない範囲で、耐傷性向上等のため、無機や有機粒子等を添加してもよい。
【0027】
前記透明保護層は、通常、バーコーター、マイクロコーター、グラビアコーター等を用いて1~30μmの膜厚になるように塗工するのが好ましい。その後、200℃以下での加熱や100℃以下の養生等により硬化した樹脂被膜を形成させる。
【0028】
前記透明保護層の具体的効果としては、後述する熱接着性マーク形成層を構成する樹脂選択において、例えば、耐アルカリ性評価では単独では耐えられない、例えば、エステル系化合物であるアクリル系樹脂やポリエステル系樹脂等の使用も可能とし、該熱接着性マーク形成層の樹脂の選択が拡がる。また、本発明の透明保護層は硬化膜よりなるので、該熱接着性マーク形成層を該透明保護層上に接して塗工する際においても、同一系の溶剤の使用が可能となり、該熱接着性マーク形成層を構成する樹脂の選択が拡がる利点を有する。更に、防汚性や耐候性の機能発現を可能にする。
【0029】
<<熱接着性マーク形成層>>
本発明に使用される熱接着性マーク形成層は、前記透明保護層上に接して、紫外線レーザーの照射により酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物が分散されてなる熱可塑性ポリオール樹脂と加熱により該樹脂と被転写体に対して、各々に反応架橋するブロックポリイソシアネートよりなり、被転写体への前記透明保護層を含めた熱接着機能、使用目的に応じた耐熱性及び紫外線レーザーの照射によるマーク形成機能等が要求される。
【0030】
本発明において使用される前記熱可塑性ポリオール樹脂は、耐強アルカリ性や耐強酸性の観点からは、前述のように、前記透明保護層により保護されているので、該保護層が無い場合に、従来強アルカリや強酸の高温下では加水分解により使用出来なかったエステル系樹脂のポリエステル系ポリオール樹脂、ポリカプロラクトンポリオール樹脂や(変性)アクリル系ポリオール樹脂等の使用も可能となる。また、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂、変成して水酸基を導入したポリブタジエンや前記フッ素系ポリオール樹脂等の広範囲な熱可塑性ポリオール樹脂の使用が可能である。また、耐熱性の観点からは、使用目的に応じて選択すればよいが、特に高度な耐熱性が要求される場合には、前記フッ素系ポリオール樹脂の使用が特に好ましい。特にフッ素系ポリオール樹脂の場合は、各層を同一のバインダーとすることで、層間の接着力が高くなり、被転写体に転写された転写層は、多層であっても強固な層として機能する。また、該熱可塑性ポリオール樹脂の一部をエポキシ基等イソシアネート基と反応性を有する他の官能基で置き換えた樹脂であってもよい。
【0031】
本発明において使用されるブロックポリイソシアネートとは、実質的に常温では反応性を有さず、反応開始温度以上の加熱時に活性化し反応するイソシアネート硬化剤であり、バインダー樹脂が有する架橋性反応基に応じて、当業者によって良く知られている種々のものを選択使用出来る。例えばトリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、メシチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物、又はこれらのビューレット体、アダクト体、イソシアヌレート体等に含有されている遊離のイソシアネート基を、例えばフェノール、クレゾール等のフェノール系ブロック剤や、メチルエチルケトンオキシム、アセトンオキシム等のオキシム系ブロック剤、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタム等のラクタム系ブロック剤、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、マロン酸エチル等の活性メチレン系ブロック剤、メタノール、エタノール等のアルコール系ブロック剤、アミン系ブロック剤、イミン系ブロック剤、イミド系ブロック剤、イミダゾール系ブロック剤、メルカプタン系ブロック剤等のブロック剤でブロックしてなる化合物を使用することが出来る。
【0032】
前記ブロックポリイソシアネートの活性化温度としては、50℃以上200℃以下であることが望ましく、更に望ましくは70℃以上200℃以下である。潜在性硬化剤であるブロックポリイソシアネートの活性化温度が50℃未満であると、転写シートの高温保存時でのブロッキング性が劣り、200℃を超える温度であると、焼き付け温度を高く設定する必要がある為、生産性に劣る。
【0033】
熱接着性マーク形成層中の熱可塑性ポリオール樹脂の反応基である水酸基当量とブロックポリイソシアネート硬化剤の反応基当量との比は、1:0.4~1:2であることが望ましい。ブロックポリイソシアネート硬化剤の反応基当量が熱可塑性ポリオール樹脂の水酸基当量に対して該範囲より小さいと、前記透明保護層や被転写体との接着力の低下を生じる場合がある。また、該範囲より大きいと、硬化時に該硬化剤が自己架橋することで接着層が脆くなり、膜の強靭性が得られない場合がある。
【0034】
本発明において使用される、紫外線レーザーの照射により酸化数が変わることによって色調が変化する金属酸化物としては、亜鉛、チタン、セリウム、アンチモン、スズ、鉄およびジルコニウムから選ばれる金属に由来する従来公知の金属酸化物や金属水酸化物が挙げられるが、この中でも酸化チタンが特に好ましい。酸化チタンの結晶構造はアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型のいずれのものを使用してもよい。顔料分散性が良好であるためルチル型酸化チタンの使用が好ましい。また、酸化チタンは、シリカやアルミナ等で被覆されている酸化チタンであってもよい。酸化チタンの平均粒径は、10~500nmであることが好ましく、50~400nmであることがより好ましい。これらの酸化チタンは、260~400nmの領域の紫外線レーザーを吸収することによって、インキ被膜の変色を促進し、紫外線レーザー印字部においては優れた視認性を発現する。また、該紫外線レーザーの出力としては低エネルギーでも優れた印字視認性を得られる効果を奏するため、紫外線レーザーマーキング組成物を用いた積層体はレーザー照射箇所の損傷(凹凸)を抑制することができ、外観の劣化を抑えた積層体を得られる。
【0035】
本発明で使用される前記金属酸化物の前記熱接着性マーク形成層中への配合量は、第一に紫外線レーザーの照射による変色の変化が十分に感知出来る範囲でなければならない。また、多すぎると該層が脆くなる。この観点から、熱接着性マーク形成層中の樹脂バインダー成分と該金属酸化物の配合量は、該樹脂バインダーと該金属酸化物の合計に対して、金属酸化物が、5~70重量%が好ましく、より好ましくは10~50重量%である。
【0036】
本発明に必須である、金属酸化物/熱可塑性ポリオール樹脂/ブロックポリイソシアネート架橋剤よりなる熱接着性マーク形成層は、通常、ケトン系および/又はトルエン系溶媒等により、バーコーター、マイクロコーター、グラビアコーター等を用いて2~30μmの膜厚になるように塗工するのが好ましい。
【0037】
<<被転写体基材>>
前記紫外線レーザーによるマーク形成部材用転写シートを転写する耐熱性被転写体基材としては、ステンレス鋼板等の金属板や加工板、ガラスやガラス不織布、耐熱性プラスチックフィルム/板/容器等が可能である。また、被転写体基材の形態としては、基材表面が表面処理により、イソシアネート基と反応する、水酸基、アミノ基、チオール基、エポキシ基等官能基を有しているか、あるいは、前記熱接着性マーク形成層の熱可塑性ポリオール樹脂のヒドロキシル基と反応するイソシアネート基等の官能基を有していることが好ましい。このため、被転写体基材として、例えばステンレス鋼板等の難接着性基材を使用する場合は、該官能基を有するシランカップリング剤等の表面処理や、従来公知の該架橋性官能基を有するバインダー樹脂のアンカー層を設けることが好ましい。
【0038】
<<被転写体基材への転写方法>>
前記転写シートの熱接着性マーク形成層の面と被転写体を重ね合わせ、熱圧で熱接着性マーク形成層、透明保護層を転写した後に熱可塑性樹脂フィルム基材を剥離し、基材が剥離された被転写体を加熱することにより、熱接着性マーク形成層中の潜在性硬化剤であるブロックポリイソシアネートを前記熱可塑性ポリオール樹脂と被転写体の表面に対して加熱架橋させることにより、被転写体表面に転写被膜を形成することが出来る。該基材の剥離は必要に応じて、加熱架橋後に剥離してもよい。また、前述のように前記水溶性剥離層がある場合は、該剥離層を水により除去した後、基材が剥離された被転写体を加熱架橋することが出来る。あるいは、該加熱架橋後、該剥離層を水により除去してもよい。
【0039】
転写する手法としては、公知のラミネーターや熱プレス機、サーマルヘッドを有するプリンター、ハンディータイプのアイロン、熱棒等で、該熱接着性マーク形成層を加熱し、且つ充分な圧力を与えることの出来るようにする。更に該被転写体に該透明保護層及び熱接着性マーク形成層を転写し、被転写体にマーク形成部材を設けた後、通常200℃以下の温度で、該マーク形成部材を養生し、該熱接着性マーク形成層を十分に硬化させる。
【0040】
<<マーク形成のための紫外線レーザー>>
本発明において、マーク形成のために使用されるレーザーは、レーザー光源から照射されるレーザー光の波長が紫外光領域にある限り特に限定されないが、例えば波長250~400nm、好ましくは波長320~380nmの範囲内である。紫外線レーザーを発振可能なレーザー光源としては、固体紫外線レーザーの3倍波(355nm)や4倍波(266nm)のレーザーや、各種エキシマレーザー(XeF、XeCl、KrF等)等を挙げることが出来る。装置入手の容易性などから、レーザー光源としては波長355nmのものを用いることが好ましい。 レーザー光源は、複数のレーザー発光素子が束ねられたレーザーアレイ等であってもよい。また、紫外線レーザーによるマーク形成は、熱接着性マーク形成層が十分に硬化する前であっても、十分に硬化した後であってもよい。
【0041】
以下、本発明を実施例をもって具体的に説明するが本発明はこれに限定されるものでは無い。
【0042】
<転写シート1>
厚み12μmのポリエステルフィルム上に、フルオロエチレン/アルキルビニルエーテル共重合体(水酸基価:52mgKOH/g)100重量部に対し、ヘキサメチレンジイソシアネート(NCO%:10%)を6.49重量部、イソホロンジイソシアネート(NCO%:8%)を8.11重量部の比率となるように調合したトルエン溶液からなる透明保護層インク1をマイクロコーターを用いて10μmの厚みに塗工する。塗工後、これを120℃の温度条件下で10分間温乾養生させ、硬化した被膜の透明保護層を形成させた。(水酸基/イソシアネート基のモル比=3/1、脂肪族イソシアネート/脂環族イソシアネートの、各々のイソシアネート基のモル比=1/1)
更に、前記透明保護層の上にフルオロエチレン/アルキルビニルエーテル共重合体(水酸基価:50mgKOH/g)100重量部に対し、ブロックポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート、NCO%:10.5%、解離温度:140~160℃)53.5重量部、酸化チタンを100重量部のトルエン溶液からなる熱接着性マーク形成層インク1をマイクロコーターを用いて乾燥膜厚7μmに塗工することで転写シート1を得た。
【0043】
<転写シート2>
前記転写シート1において、熱接着性マーク形成層をアクリルポリオール樹脂(水酸基価:30mgKOH/g)100重量部に対し、ブロックポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート、NCO%:10.5%、解離温度:140~160℃)32.1重量部、酸化チタン108重量部のトルエン溶液からなる熱接着性マーク形成層インク2を、マイクロコーターを用いて乾燥膜厚5μmに塗工したこと以外は、実施例1と同様にして、転写シート2を得た。
【0044】
<転写シート3>
前記転写シート1において、熱接着性マーク形成層を熱可塑性飽和共重合ポリエステル樹脂(水酸基価:46mgKOH/g)100重量部に対し、ブロックポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート、NCO%:10.5%、解離温度:140~160℃)49.2重量部、酸化チタン120重量部のトルエン溶液からなる熱接着性マーク形成層インク3を、マイクロコーターを用いて乾燥膜厚5μmに塗工したこと以外は、実施例1と同様にして転写シート3を得た。
【0045】
<転写シート4>
前記転写シート1において、シリコーン系離型層を設けた厚み12μmのポリエステルフィルム上に、透明保護層インクの組成をフルオロエチレン/アルキルビニルエーテル共重合体(水酸基価:52mgKOH/g)100重量部に対し、ヘキサメチレンジイソシアネート(NCO%:10%)13.0重量部よりなるトルエン溶液からなる透明保護層インク2としたこと以外は、実施例1と同様にして、転写シート4を得た。
【0046】
<転写シート5>
厚み12μmのポリエステルフィルム上に、ポリビニルアルコール:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(重量比6:4)乾燥膜厚2μmの水溶性剥離層を設け、その上に、前記透明保護層を設けることなく、前記転写シート2記載の熱接着性マーク形成層を同様に設け転写シート5を得た。
【0047】
前記転写シート1,2,3,4及び5を、エポキシ系プライマーを設けた0.1mm厚のステンレス板に対し、前記熱接着性マーク形成層面をステンレス板に重ね合わせた状態で、ゴム硬度80°の2対のロールからなるゴムロールを有するラミネーター機を用い、上側ロール温度を170℃、下側のロール温度150℃、ロール圧4.0kg/cm、ライン速度5m/minの条件で転写した。転写されたステンレス板が室温まで冷却された後、基材の剥離を行い、ギアオーブンを用い170℃にて30分焼き付けを行い、紫外線レーザーによるマーク形成部材1,2,3,4及び5を得た。
【0048】
その後、前記マーク形成部材1,2,3,4及び5のポリエステルフィルムを剥離後、(株)キーエンス社製(商品名;MD-U1000C)紫外線レーザー(355nm)により、前記マーク形成部材1,2,3,4(実施例1~4)及び5(比較例1)に黒色の二次元コードを印字し、その後のマーク形成部材に対して、下記の密着性及び耐久性の評価を行った。尚、前記マーク形成部材5においては、前記剥離層を水溶液で除去後に密着性及び耐久性の評価を行った。
【0049】
<マーク形成後の密着性及び耐久性評価>
紫外線レーザーによるマーク形成後の前記マーク形成部材の密着性及び耐アルカリ性、耐酸性、耐熱性の評価を下記条件で行った。
【0050】
密着性評価;碁盤目評価JIS H-8602
【0051】
耐アルカリ性;A)苛性ソーダ濃度9重量%水/温度85℃/浸漬時間60分、及び
B)苛性ソーダ濃度45重量%水/温度90℃/浸漬時間150分の条件で、マーク形成面の変化を評価
【0052】
耐酸性;塩酸濃度20%/温度50℃/浸漬時間150分の条件で、マーク形成面の
変化を評価
【0053】
耐熱性;温度260℃/加熱時間30分の条件で、マーク形成面の変化を評価
【0054】
前記マーク形成部材1,2,3,4及び5の評価結果を実施例1(転写シート1)、実施例2(転写シート2)、実施例3(転写シート3)、実施例4(転写シート4)、及び比較例1(転写シート5)として、表1に示した。
【0055】
【表1】