(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018418
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ギヤ構造体およびギヤ機構
(51)【国際特許分類】
F16H 55/14 20060101AFI20250130BHJP
F16F 15/12 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
F16H55/14
F16F15/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122105
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直也
【テーマコード(参考)】
3J030
【Fターム(参考)】
3J030AA06
3J030BA01
(57)【要約】
【課題】ギヤ部材の剛性を維持しながらギヤノイズを低減する。
【解決手段】ギヤ構造体10は、複数のギヤ歯22が外周面21に設置されたギヤ部材20と、ギヤ部材20を包囲して複数のギヤ歯22を内側に締付ける締付部材30とを具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のギヤ歯が外周面に設置されたギヤ部材と、
前記ギヤ部材を包囲して前記複数のギヤ歯を内側に締付ける締付部材と
を具備するギヤ構造体。
【請求項2】
前記複数のギヤ歯の各々にける歯先面には取付溝が形成され、
前記締付部材は、前記複数のギヤ歯の各々における前記取付溝に嵌まる
請求項1のギヤ構造体。
【請求項3】
前記締付部材は、円環状の弾性体である
請求項1または請求項2のギヤ構造体。
【請求項4】
相互に噛合う第1ギヤ構造体と第2ギヤ構造体とを具備し、
前記第1ギヤ構造体は、
複数の第1ギヤ歯が外周面に設置された第1ギヤ部材と、
前記第1ギヤ部材を包囲して前記複数の第1ギヤ歯を内側に締付ける第1締付部材と
を含むギヤ機構。
【請求項5】
前記第1締付部材は、回転軸の方向において前記第1ギヤ部材のうち前記第2ギヤ構造体と重複しない範囲内に設置される
請求項4のギヤ機構。
【請求項6】
前記第2ギヤ構造体は、
複数の第2ギヤ歯が外周面に設置された第2ギヤ部材と、
前記第2ギヤ部材を包囲して前記複数の第2ギヤ歯を内側に締付ける第2締付部材と
を含む請求項4または請求項5のギヤ機構。
【請求項7】
前記第2締付部材は、回転軸の方向において前記第2ギヤ部材のうち前記第1ギヤ構造体と重複しない範囲内に設置される
請求項6のギヤ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の移動体に搭載される駆動機構においては、複数のギヤ間でのギヤ歯の衝突に起因した歯打ノイズ、または各歯の変形に起因した噛合ノイズ等のギヤノイズが問題となる。特許文献1には、軸方向におけるギヤの両面に環状溝が形成され、振動を吸収する環状の弾性体が各環状溝に収容された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の構成では、環状溝が表面に形成されることでギヤの剛性が低下し、結果的にギヤ間のトルク伝達に関する信頼性が低下するという課題がある。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、ギヤ部材の剛性を維持しながらギヤノイズを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係るギヤ構造体は、複数のギヤ歯が外周面に設置されたギヤ部材と、前記ギヤ部材を包囲して前記複数のギヤ歯を内側に締付ける締付部材とを具備する。
【0006】
本開示のひとつの態様に係るギヤ機構は、相互に噛合う第1ギヤ構造体と第2ギヤ構造体とを具備し、前記第1ギヤ構造体は、複数の第1ギヤ歯が外周面に設置された第1ギヤ部材と、前記第1ギヤ部材を包囲して前記複数の第1ギヤ歯を内側に締付ける第1締付部材と含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係るギヤ構造体の正面図および側面図である。
【
図6】ギヤ機構の動作音を測定した結果の図表である。
【
図8】変形例における1個のギヤ歯に着目した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、各要素の寸法および縮尺が実際の製品とは相違する場合がある。また、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態には限定されない。
【0009】
A:ギヤ構造体10
図1は、本開示のひとつの形態に係るギヤ構造体10の正面図および側面図である。ギヤ構造体10は、軸部材12に固定された回転体である。軸部材12は、回転軸Cを中心として回転可能な円柱状のシャフトである。なお、軸部材12はギヤ構造体10の要素として把握されてもよい。
【0010】
以下の説明においては、回転軸Cを中心とした任意の直径の仮想円における円周に沿う方向を「周方向」と表記し、当該仮想円の半径の方向を「径方向」と表記する。また、径方向において回転軸Cに向かう方向を「内側」と表記し、回転軸Cとは反対に向かう方向を「外側」と表記する。
【0011】
図1に例示される通り、ギヤ構造体10は、ギヤ部材20と締付部材30とを具備する。ギヤ部材20は、円板状のスパーギヤ(平歯車)である。ギヤ部材20の外周面21には、複数のギヤ歯22が周方向に沿って等間隔に設置される。
【0012】
締付部材30は、ギヤ部材20を包囲する弾性体である。具体的には、締付部材30は、ギヤ部材20を全周にわたり包囲する円環状の弾性体である。すなわち、締付部材30は、外周面21に沿う円環状に形成されて当該外周面21に対向する。例えば、断面形状が円形であるOリングが、締付部材30として例示される。締付部材30は、例えば各種のゴム材料により一体に成形される。
【0013】
締付部材30は、締め代をもってギヤ部材20に固定される。すなわち、締付部材30は、取付前の状態と比較して拡径された状態でギヤ部材20に設置される。したがって、締付部材30は、所定の緊縛力を維持しながらギヤ部材20に設置され、複数のギヤ歯22を内側に締付ける。
【0014】
図2は、ギヤ構造体10の一部を拡大した斜視図である。また、
図3は、1個のギヤ歯22に着目した正面図である。
図2および
図3に例示される通り、複数のギヤ歯22の各々における歯先面23には取付溝24が形成される。取付溝24は、各ギヤ歯22の歯先面23に対して窪んだ凹部である。複数のギヤ歯22の各々には、回転軸Cの方向(すなわちギヤ部材20の幅方向)における同じ位置に取付溝24が形成される。
【0015】
図1から
図3には、ギヤ部材20の側面25と側面26とが図示されている。側面25および側面26は、回転軸Cの方向において相互に反対側を向く表面である。
図1から
図3に例示される通り、取付溝24は、回転軸Cの方向において側面26よりも側面25に近い位置に形成される。具体的には、回転軸Cの方向におけるギヤ部材20の中点と側面25との間に、取付溝24が形成される。
【0016】
図2および
図3に例示される通り、締付部材30は、複数のギヤ歯22の各々における取付溝24に嵌まる。具体的には、締付部材30は、各ギヤ歯22における取付溝24の底面に接触した状態でギヤ部材20を包囲する。したがって、回転軸Cの方向において側面26よりも側面25に近い位置に締付部材30が設置される。
図3に例示される通り、締付部材30は、各ギヤ歯22の歯先面23よりも外側に突出する。以上の通り、本実施形態においては、締付部材30が各ギヤ歯22の取付溝24に嵌まるから、例えば取付溝24が形成されない形態と比較して、締付部材30がギヤ部材20から脱落する可能性を低減できる。
【0017】
B:ギヤ機構100
図4は、以上に例示したギヤ構造体10を利用したギヤ機構100の正面図である。
図4に例示される通り、ギヤ機構100は、相互に噛合うギヤ構造体10aとギヤ構造体10bとを具備する。ギヤ構造体10aおよびギヤ構造体10bは、
図1から
図3に例示したギヤ構造体10である。ギヤ構造体10aの各要素には添字aが付加され、ギヤ構造体10bの各要素には添字bが付加されている。
【0018】
具体的には、ギヤ構造体10aは、複数のギヤ歯22aが外周面21aに設置されたギヤ部材20aと、ギヤ部材20aを包囲して複数のギヤ歯22aを内側に締付ける締付部材30aとを具備する。なお、ギヤ構造体10aは「第1ギヤ構造体」の一例であり、ギヤ部材20aは「第1ギヤ部材」の一例であり、ギヤ歯22aは「第1ギヤ歯」の一例であり、締付部材30aは「第1締付部材」の一例である。
【0019】
同様に、ギヤ構造体10bは、複数のギヤ歯22bが外周面21bに設置されたギヤ部材20bと、ギヤ部材20bを包囲して複数のギヤ歯22bを内側に締付ける締付部材30bとを具備する。なお、ギヤ構造体10bは「第2ギヤ構造体」の一例であり、ギヤ部材20bは「第2ギヤ部材」の一例であり、ギヤ歯22bは「第2ギヤ歯」の一例であり、締付部材30bは「第2締付部材」の一例である。
【0020】
ギヤ構造体10aの回転軸Caとギヤ構造体10bの回転軸Cbとは、相互に間隔をあけて平行に延在する。
図4には、回転軸C(Ca,Cb)に平行で相互に反対を向く方向Z1およびZ2が図示されている。ギヤ構造体10aは、ギヤ部材20aの側面25aがZ1方向に向くように設置される。他方、ギヤ構造体10bは、ギヤ部材20bの側面25bがZ2方向に向くように設置される。すなわち、ギヤ構造体10aの側面25aとギヤ構造体10bの側面25bとは相互に反対の方向を向く。
【0021】
回転軸Cの方向においてギヤ構造体10aの位置とギヤ構造体10bの位置とは相違する。具体的には、回転軸Cの方向におけるギヤ構造体10aの位置は、ギヤ構造体10bの位置よりもZ1方向にずれている。回転軸Cの方向における範囲Rcは、ギヤ構造体10aとギヤ構造体10bとが相互に重複する範囲である。
【0022】
回転軸Cの方向において、ギヤ構造体10aの側面25aはギヤ構造体10bの側面26bよりもZ1方向に位置する。
図4の範囲Raは、回転軸Cの方向においてギヤ構造体10aのうちギヤ構造体10bとは重複しない範囲である。すなわち、範囲Raは、ギヤ構造体10aの側面25aとギヤ構造体10bの側面26bとの間の範囲である。したがって、範囲Raは範囲RcよりもZ1方向に位置する。ギヤ構造体10aの締付部材30aは、範囲Ra内に設置される。すなわち、回転軸Cの方向において締付部材30aはギヤ構造体10bに重複しない。
【0023】
また、回転軸Cの方向において、ギヤ構造体10bの側面25bはギヤ構造体10aの側面26aよりもZ2方向に位置する。
図4の範囲Rbは、回転軸Cの方向においてギヤ構造体10bのうちギヤ構造体10aとは重複しない範囲である。すなわち、範囲Rbは、ギヤ構造体10bの側面25bとギヤ構造体10aの側面26aとの間の範囲である。したがって、範囲Rbは範囲RcよりもZ2方向に位置する。ギヤ構造体10bの締付部材30bは、範囲Rb内に設置される。すなわち、回転軸Cの方向において締付部材30bはギヤ構造体10aに重複しない。
【0024】
図5は、ギヤ機構100の動作により発生する動作音の周波数特性である。
図5においては、締付部材30aおよび締付部材30bが設置された本実施形態と、締付部材30aおよび締付部材30bが設置されない形態(以下「対比例」という)とについて、動作音の周波数特性が併記されている。
【0025】
一般的に複数のギヤが噛合う機構においては、各ギヤ歯の衝突に起因した歯打ノイズ、または、各ギヤ歯の相互間に作用する負荷により各ギヤ歯が変形することに起因した噛合ノイズ等のギヤノイズが発生する。
図5に例示される通り、対比例においては、ギヤ部材20が有する固有振動数に起因した局所的なピークPが動作音に観測される。
【0026】
対比例とは対照的に、本実施形態によれば、ギヤ部材20を締付ける締付部材30が設置されることで、動作音の局所的なピークPが顕著に抑制される。以上のようにギヤノイズが抑制されるのは、締付部材30によるギヤ部材20の締付、または、締付部材30と各ギヤ歯22との間の摩擦により、各ギヤ歯22の振動が抑制されるためであると推測される。
【0027】
図6は、各ギヤ構造体10の条件を変化させた複数の場合(実施例1から実施例4)の各々についてギヤ機構100の動作音を測定した結果を表す図表である。
図6においては、(1) 締付部材30の内径Φd、(2)締付部材30の線径W、および(3) 締付部材30の硬度、を相違させた複数の場合について、動作音の音圧の測定値と、対比例と比較した差分(効果)とが図示されている。なお、測定対象のギヤ部材20の直径(歯先円直径)は94mmである。締付部材30の内径Φdが大きいほど締め代は小さい。
【0028】
図6から理解される通り、動作音の抑制の効果が最大となるのは実施例2である。実施例1と実施例2との対比から理解される通り、締付部材30の締め代が小さい(内径Φdが大きい)ほど、動作音のギヤノイズは低減される。また、実施例2と実施例3との比較から理解される通り、締付部材30の硬度Hsが低い(すなわち柔軟である)ほど、動作音のギヤノイズは低減される。さらに、実施例2と実施例4との比較から理解される通り、締付部材30の線径Wが大きいほど、動作音のギヤノイズは低減される。
【0029】
以上の結果から把握される通り、締付部材30の締め代が小さく、締付部材30の硬度Hsが低く、または、線径Wが大きい構成が、ギヤノイズの低減のためには有利である。ギヤノイズの低減の効果に対する寄与の度合は、締付部材30の線径Wが硬度Hsを上回り、締付部材30の硬度Hsが締め代を上回る。
【0030】
以上に説明した通り、本実施形態においては、締付部材30がギヤ部材20を包囲することで複数のギヤ歯22を内側に締付ける。したがって、ギヤ部材20の剛性を維持しながらギヤノイズを低減できる。本実施形態においては特に、締付部材30が全周にわたりギヤ部材20を包囲するから、ギヤノイズの低減の効果は特に顕著である。
【0031】
また、回転軸Cの方向においてギヤ構造体10aとギヤ構造体10bとが重複しない範囲Ra内に締付部材30aが設置される。すなわち、締付部材30aはギヤ構造体10bに干渉しない。したがって、締付部材30aがギヤ構造体10bの回転に影響することなくギヤノイズを低減できる。同様に、回転軸Cの方向においてギヤ構造体10aとギヤ構造体10bとが重複しない範囲Rb内に締付部材30bが設置されるから、締付部材30bがギヤ構造体10aの回転に影響することなくギヤノイズを低減できる。
【0032】
C:変形例
以上に例示した態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0033】
(1)前述の形態においては、各ギヤ歯22に取付溝24が形成された構成を例示したが、取付溝24は省略されてよい。すなわち、各ギヤ歯22の歯先面23は、ギヤ部材20の全幅にわたり凹凸がない平坦面でもよい。
【0034】
(2)前述の形態においては、締付部材30がゴム材料で形成された構成を例示したが、各種の樹脂材料により締付部材30が形成されてもよい。ただし、ギヤノイズを低減する観点からは、締付部材30の材料は、樹脂材料よりもゴム材料のほうが好適である。
【0035】
(3)締付部材30の形状は以上の例示に限定されない。例えば、前述の形態においては、断面形状が円形であるOリングを締付部材30として例示したが、断面形状がX字状であるXリング、または断面形状がD字状であるDリングが、締付部材30として利用されてもよい。
【0036】
(4)締付部材30の平面形状も任意であり、前述の形態における例示には限定されない。例えば、
図7に例示される通り、各ギヤ歯22の先端部に対応する形状の凹部31が内周面に形成された締付部材30も想定される。
図7の各凹部31にギヤ部材20の各ギヤ歯22が嵌まる。したがって、
図7の締付部材30を利用する形態においては、前述の通り取付溝24が省略されてもよい。
【0037】
また、前述の形態においては、環状の締付部材30を例示したが、ギヤ部材20を締付可能な部材であれば、締付部材30の平面形状は環状に限定されない。例えば、締付部材30の平面形状は、環状の一部が除去された円弧状(C字状)でもよい。
【0038】
(5)前述の形態においては、ギヤ部材20とは別体で成形された締付部材30を当該ギヤ部材20に装着する形態を例示したが、締付部材30をギヤ部材20に設置するための構成および方法は、以上の例示に限定されない。例えば、ギヤ部材20の外周面21に液状の樹脂材料を塗布してから当該樹脂材料を硬化することで、ギヤ部材20を包囲する締付部材30が形成されてもよい。
【0039】
(6)前述の各形態においては、締付部材30が各ギヤ歯22の歯先面23よりも外側に突出する形態を例示したが、
図8に例示される通り、締付部材30の外周面が各ギヤ歯22の歯先面23と同一面内にある形態、または、締付部材30の外周面が各ギヤ歯22の歯先面23よりも低い位置にある形態も想定される。
【0040】
(7)前述の形態においては、ギヤ機構100のギヤ構造体10aとギヤ構造体10bとが同様の構造である形態を例示したが、ギヤ構造体10aおよびギヤ構造体10bの形状または寸法は相違してもよい。例えば直径または横幅等の寸法がギヤ部材20aとギヤ部材20bとの間で相違してもよい。
【0041】
(8)前述の形態においては、ギヤ構造体10aおよびギヤ構造体10bの双方が締付部材30(30a,30b)を具備する形態を例示したが、ギヤ構造体10aおよびギヤ構造体10bの一方のみが締付部材30を具備する形態も想定される。ただし、ギヤノイズの効果的な低減の観点からは、ギヤ構造体10aおよびギヤ構造体10bの双方が締付部材30(30a,30b)を具備する構成が好適である。
【0042】
(9)
図9は、ギヤ構造体10aとギヤ構造体10bとが噛合う部分を拡大した正面図である。
図9には、ギヤ構造体10aの締付部材30aと、ギヤ部材20bの側面26bとの隙間δが図示されている。ギヤ構造体10aとギヤ構造体10bとが噛合う部分には、潤滑油が供給または充填される。
【0043】
隙間δが充分に小さい形態においては、例えばギヤ構造体10bに付与されたトルクが、潤滑油を介してギヤ構造体10aに伝達し得る。具体的には、ギヤ構造体10bから潤滑油に付与される剪断応力がギヤ構造体10aに伝達する。したがって、剪断応力の伝達が見込めない程度に隙間δが大きい構成と比較すると、ギヤ構造体10aとギヤ構造体10bとの回転速度差が低減される。以上の構成によれば、ギヤ構造体10aの各ギヤ歯22aとギヤ構造体10bの各ギヤ歯22bとの衝突に起因したギヤノイズを低減できる。
【0044】
なお、以上の説明においては、ギヤ構造体10aの締付部材30aとギヤ部材20bの側面26bとの隙間δに着目したが、ギヤ構造体10bの締付部材30bとギヤ部材20aの側面26aとの隙間δについても同様に、回転速度差の低減の観点からは小さいことが望ましい。
【0045】
(9)本願における「第n」(nは自然数)という記載は、各要素を表記上において区別するための形式的かつ便宜的な標識(ラベル)としてのみ使用され、如何なる実質的な意味も持たない。したがって、「第n」という表記を根拠として、各要素の位置または製造の順番等が限定的に解釈される余地はない。
【0046】
D:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0047】
本開示のひとつの態様(態様1)に係るギヤ構造体は、複数のギヤ歯が外周面に設置されたギヤ部材と、前記ギヤ部材を包囲して前記複数のギヤ歯を内側に締付ける締付部材とを具備する。以上の態様においては、締付部材がギヤ部材を包囲することで複数のギヤ歯を内側に締付ける。したがって、ギヤ部材の剛性を維持しながらギヤノイズを低減できる。
【0048】
態様1の具体例(態様2)において、前記複数のギヤ歯の各々にける歯先面には取付溝が形成され、前記締付部材は、前記複数のギヤ歯の各々における前記取付溝に嵌まる。以上の態様においては、締付部材が各ギヤ歯の取付溝に嵌まる。したがって、締付部材がギヤ部材から脱落する可能性を低減できる。
【0049】
態様1または態様2の具体例(態様3)において、前記締付部材は、円環状の弾性体である。以上の態様においては、締付部材が全周にわたりギヤ部材を包囲するから、例えば締付部材が環状の一部を除去した円弧状(C字状)に形成された形態と比較して、ギヤノイズの低減の効果は特に顕著である。
【0050】
本開示のひとつの態様(態様4)に係るギヤ機構は、相互に噛合う第1ギヤ構造体と第2ギヤ構造体とを具備し、前記第1ギヤ構造体は、複数の第1ギヤ歯が外周面に設置された第1ギヤ部材と、前記第1ギヤ部材を包囲して前記複数の第1ギヤ歯を内側に締付ける第1締付部材とを含む。以上の態様においては、第1締付部材が第1ギヤ部材を包囲することで複数の第1ギヤ歯を内側に締付ける。したがって、第1ギヤ部材の剛性を維持しながらギヤノイズを低減できる。
【0051】
態様4の具体例(態様5)において、前記第1締付部材は、回転軸の方向において前記第1ギヤ部材のうち前記第2ギヤ構造体と重複しない範囲内に設置される。以上の態様においては、第1締付部材が第2ギヤ構造体に干渉しないから、第1締付部材が第2ギヤ構造体の回転に影響することなくギヤノイズを低減できる。
【0052】
態様4または態様5の具体例(態様6)において、前記第2ギヤ構造体は、複数の第2ギヤ歯が外周面に設置された第2ギヤ部材と、前記第2ギヤ部材を包囲して前記複数の第2ギヤ歯を内側に締付ける第2締付部材とを含む。以上の態様においては、第1ギヤ部材を包囲する第1締付部材が設置されるほか、第2ギヤ部材を包囲する第2締付部材も設置される。したがって、第2締付部材が設置されない形態と比較して、ギヤノイズの低減の効果は特に顕著である。
【0053】
態様6の具体例(態様7)において、前記第2締付部材は、回転軸の方向において前記第2ギヤ部材のうち前記第1ギヤ構造体と重複しない範囲内に設置される。以上の態様においては、第2締付部材が第1ギヤ構造体に干渉しないから、第2締付部材が第1ギヤ構造体の回転に影響することなくギヤノイズを低減できる。
【符号の説明】
【0054】
10,10a,10b…ギヤ構造体、12…軸部材、20,20a,20b…ギヤ部材、21…外周面、22,22a,22b…ギヤ歯、23…歯先面、24,24a,24b…取付溝、25,25a,25b…側面、26,26a,26b…側面、30,30a,30b…締付部材、100…ギヤ機構。