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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018461
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/404 20060101AFI20250130BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
G05B19/404 G
B23Q15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122179
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100162237
【弁理士】
【氏名又は名称】深津 泰隆
(74)【代理人】
【識別番号】100191433
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 友希
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄基
(72)【発明者】
【氏名】久保田 知克
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB02
3C269AB03
3C269AB05
3C269AB31
3C269BB03
3C269CC01
3C269EF03
3C269EF12
3C269EF25
3C269MN13
3C269QC01
3C269RB04
(57)【要約】
【課題】象限切替えに伴うパラメータの調整を行う作業負担を軽減できる工作機械を提供すること。
【解決手段】本開示の工作機械の制御装置は、制御プログラムに基づいてスライド装置を制御し移動対象物を移動させるテスト動作を実行し、且つ、移動対象物の移動方向を反転させる象限切替え時におけるパラメータであるバックラッシ加速量及びバックラッシ加速時間のうち、少なくとも一方のパラメータを変更した複数回のテスト動作を実行するテスト動作実行処理と、制御プログラムに基づいて指定した移動対象物の移動先の位置である指令位置と、移動対象物の実際の位置との位置偏差を、複数回のテスト動作の各々について取得し、複数回のテスト動作のうち、取得した位置偏差が他のテスト動作に比べて小さいテスト動作における少なくとも一方のパラメータを調整後のパラメータとして取得するパラメータ取得処理と、を実行する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスライド軸の各々に沿って移動対象物をスライド移動させるスライド装置と、
前記スライド装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
制御プログラムに基づいて前記スライド装置を制御し前記移動対象物を移動させるテスト動作を実行し、且つ、前記移動対象物の移動方向を反転させる象限切替え時におけるパラメータであるバックラッシ加速量及びバックラッシ加速時間のうち、少なくとも一方のパラメータを変更した複数回の前記テスト動作を実行するテスト動作実行処理と、
前記制御プログラムに基づいて指定した前記移動対象物の移動先の位置である指令位置と、前記移動対象物の実際の位置との位置偏差を、複数回の前記テスト動作の各々について取得し、複数回の前記テスト動作のうち、取得した前記位置偏差が他の前記テスト動作に比べて小さい前記テスト動作における前記少なくとも一方のパラメータを調整後のパラメータとして取得するパラメータ取得処理と、
を実行する、工作機械。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記パラメータ取得処理において、取得した複数の前記位置偏差のうち、最も小さい前記位置偏差となった前記テスト動作における前記少なくとも一方のパラメータを、調整後のパラメータとして取得する、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
ユーザインタフェースを、さらに備え、
前記制御装置は、
前記テスト動作実行処理において前記移動対象物を円弧形状の経路で移動させる動作を実行し、且つ、複数回の前記テスト動作を実行する前に、円弧形状の前記経路の半径の値を、前記ユーザインタフェースを介して受け付け、受け付けた前記半径の値と前記制御プログラムに基づいて複数回の前記テスト動作を実行する、請求項1又は請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記移動対象物は、
工具であり、
前記制御装置は、
前記テスト動作において前記制御プログラムに基づいて前記工具を移動させる送り速度の値を、前記ユーザインタフェースを介して受け付け、受け付けた前記送り速度の値と前記制御プログラムに基づいて複数回の前記テスト動作を実行する、請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記半径の値を入力する半径入力欄と、前記送り速度の値を入力する送り速度入力欄と、複数回の前記テスト動作の実行を開始させるテスト動作開始ボタンと、履歴情報表示欄と、を前記ユーザインタフェースに表示し、
前記テスト動作開始ボタンを操作された場合、前記半径入力欄に入力された前記半径の値、前記送り速度入力欄に入力された前記送り速度の値、及び前記制御プログラムに基づいて複数回の前記テスト動作を実行し、
複数回の前記テスト動作を実行した後、前記半径入力欄に入力された前記半径の値、前記送り速度入力欄に入力された前記送り速度の値、複数回の前記テスト動作を実行し調整後のパラメータとして取得した前記少なくとも一方のパラメータ、調整後の前記少なくとも一方のパラメータを設定して前記テスト動作を実行した際の前記位置偏差、及び複数回の前記テスト動作を開始した日時を、関連付けて前記履歴情報表示欄に表示する、請求項
4に記載の工作機械。
【請求項6】
前記スライド装置は、
第1スライド軸と、前記第1スライド軸と交差する第2スライド軸との各々に沿って、前記移動対象物をスライド移動させることが可能であり、
前記制御装置は、
前記第1スライド軸、及び前記第2スライド軸の各々について、前記テスト動作実行処理及び前記パラメータ取得処理を実行可能であり、前記テスト動作実行処理及び前記パラメータ取得処理を実行する対象のスライド軸として前記第1スライド軸又は前記第2スライド軸のどちらを選択するのかを、前記ユーザインタフェースを介して受け付け、選択されたスライド軸での前記テスト動作で用いる前記半径の値及び前記送り速度の値を、前記ユーザインタフェースを介して受け付ける、請求項4に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械における象限切替えに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械では、工具等の移動対象物をスライド軸に沿ってスライド移動させ、ワークの加工を実行する。また、加工中に移動対象物をスライド移動させる方向を反転させる場合がある。例えば、移動対象物として工具をスライド移動させワークを円弧形状に加工する場合、円弧形状の頂点となる部分で工具のスライド方向が反転する。この反転動作により加工面に所謂象限突起が形成される可能性がある。具体的には、移動対象物をスライド移動させる装置に発生する摩擦力は、移動対象物の移動方向とは反対方向に作用する。移動対象物の移動方向が反転すると、発生した摩擦力により反転時の始動に遅れが発生し制御に遅れが発生することで、指令に対する応答の誤差が発生する。例えば、象限が切り替わった直後は、移動対象物の軌跡が指令の軌跡よりも外側へ僅かに膨らんだ象限突起が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-90946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の工作機械では、反転時におけるバックラッシ加速量(文献では、設定加速量)を調整することで、象限突起を抑制している。しかしながら、バックラッシ加速量などのパラメータは、工具の重さ、経年劣化などの機器固有の条件に応じて工作機械ごとに調整する必要があり、調整作業の負担が増加する虞があった。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、象限切替えに伴うパラメータの調整を行う作業負担を軽減できる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本明細書は、複数のスライド軸の各々に沿って移動対象物をスライド移動させるスライド装置と、前記スライド装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、制御プログラムに基づいて前記スライド装置を制御し前記移動対象物を移動させるテスト動作を実行し、且つ、前記移動対象物の移動方向を反転させる象限切替え時におけるパラメータであるバックラッシ加速量及びバックラッシ加速時間のうち、少なくとも一方のパラメータを変更した複数回の前記テスト動作を実行するテスト動作実行処理と、前記制御プログラムに基づいて指定した前記移動対象物の移動先の位置である指令位置と、前記移動対象物の実際の位置との位置偏差を、複数回の前記テスト動作の各々について取得し、複数回の前記テスト動作のうち、取得した前記位置偏差が他の前記テスト動作に比べて小さい前記テスト動作における前記少なくとも一方のパラメータを調整後のパラメータとして取得するパラメータ取得処理と、を実行する、工作機械を開示する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の工作機械によれば、制御装置は、制御プログラムに基づいて移動対象物を移動させるテスト動作を実行する。この際、制御装置は、バックラッシ加速量及びバックラッシ加速時間のうち、少なくとも一方のパラメータを変更しながら複数回のテスト動作を実
行する。制御装置は、実行した複数回のテスト動作のうち、制御プログラムの指令位置と、実際の位置の位置偏差がより小さいテスト動作におけるパラメータを、調整後のパラメータとして取得する。これにより、指令位置に対してずれが少ないパラメータを見つけるこができ、見つけ出したパラメータを設定することで、結果として象限突起をより小さく又はなくすことが可能となる。作業者がパラメータの調整を行う作業負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例に係わる工作機械のブロック図。
図2】円弧形状の加工におけるX座標と、時間の関係を示すグラフであって、異なるバックラッシ加速量及びバックラッシ加速時間を設定したグラフを示す図。
図3】受付画面を示す図。
図4】パラメータ設定処理を示すフローチャート。
図5】X軸方向における反転を発生させるテスト動作を示す模式図。
図6】Z軸方向における反転を発生させるテスト動作を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の工作機械を具体化した一実施例について、図面を参照しつつ詳しく説明する。図1は、本実施例に係る工作機械10のブロック図を示している。図1に示すように、工作機械10は、例えば、旋盤であり、ワーク主軸装置11、タレット装置12、X軸スライド装置13、Z軸スライド装置14、ロボット15、操作盤20、制御装置22を備えている。尚、図1に示す工作機械10の構成は、一例である。例えば、工作機械10は、ワーク主軸装置11及びタレット装置12を複数組備える旋盤でも良く、旋盤に加えて工具主軸装置を備える、所謂複合加工機でも良い。従って、本開示の工作機械としては、旋盤に限らず、例えば、マシニングセンタ、フライス盤、ボール盤など、様々な構成の工作機械を採用できる。そして、各種の工作機械において、後述するバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbのテスト動作を実行しても良い。
【0010】
ワーク主軸装置11は、ワークを把持するチャック機構(チャック爪やコレットチャックなど)を備え、把持したワークを、ワーク主軸を中心に回転させる。タレット装置12は、複数の工具(切削工具や回転工具などのタレット工具)を取り付け可能な刃物台と、刃物台を回転させる回転駆動機構を備えている。タレット装置12は、回転駆動機構を駆動して刃物台を回転させ作業位置に割り出す工具を変更し、作業位置に割り出した工具を用いてワーク主軸装置11に把持されたワークに対する加工を実行する。尚、刃物台は、タレット型の刃物台に限らず、クシ刃形の刃物台等でも良い。
【0011】
X軸スライド装置13及びZ軸スライド装置14は、刃物台(作業位置の工具)の位置を変更する装置である。Z軸スライド装置14は、例えば、ワーク主軸と平行なZ軸方向(ワークに接近する方向又はワークから離間する方向)へタレット装置12を移動させる装置である。X軸スライド装置13は、ワーク主軸と垂直なX軸方向、即ち、Z軸方向と垂直な方向へタレット装置12を移動させる装置である。X軸及びZ軸は、本開示のスライド軸、第1スライド軸、及び第2スライド軸の一例である。尚、X軸方向とZ軸方向は直交する関係でなくとも良い。X軸方向とZ軸方向は、交差していれば直交していなくても良い。従って、本開示の第1スライド軸と第2スライド軸は、直交する関係に限らない。
【0012】
例えば、工作機械10は、スラント型のベッドを備えている。Z軸スライド装置14は、ベッドの案内面に配置されZ軸方向と平行な方向に延びるZ軸案内レールと、そのZ軸案内レールに対してスライド移動可能なZ軸スライダを備えている。Z軸スライド装置14は、Z軸サーボモータ14Aを備え、Z軸サーボモータ14Aの回転出力を、伝達機構(例えば、ボールネジ機構など)を介してZ軸スライダに伝達し、Z軸スライダをZ軸方
向に移動させる。
【0013】
また、Z軸スライド装置14は、例えば、Z軸サーボモータ14Aの回転位置等のエンコーダ情報を出力するZ軸エンコーダ14Bを備えている。制御装置22は、Z軸エンコーダ14Bのエンコーダ情報(回転位置情報など)に基づいてZ軸サーボモータ14Aの回転速度等を制御するフィードバック制御を実行する。制御装置22は、Z軸サーボモータ14Aを制御し、Z軸スライダをZ軸方向における任意の位置へ移動させる。
【0014】
また、X軸スライド装置13は、Z軸スライダの上に配置されたX軸案内レールと、そのX軸案内レールに対してスライド移動可能なX軸スライダを備えている。X軸案内レールは、X軸方向と平行な方向に配設され、X軸スライダをX軸方向へスライド移動可能に保持する。X軸スライド装置13は、X軸サーボモータ13Aを備え、X軸サーボモータ13Aの回転出力を、伝達機構(例えば、ボールネジ機構など)を介してX軸スライダに伝達し、X軸スライダをX軸方向に移動させる。
【0015】
また、X軸スライド装置13は、X軸サーボモータ13Aのエンコーダ情報を出力するX軸エンコーダ13Bを備えている。制御装置22は、X軸エンコーダ13Bのエンコーダ情報に基づいてX軸サーボモータ13Aの回転速度等を制御するフィードバック制御を実行する。制御装置22は、X軸サーボモータ13Aを制御し、X軸スライダをX軸方向における任意の位置へ移動させる。
【0016】
X軸スライダの上には、タレット装置12が搭載されている。従って、制御装置22は、X軸スライド装置13及びZ軸スライド装置14を制御することで、タレット装置12(割り出した工具)をX軸方向及びZ軸方向の任意の位置に移動させることができる。また、本実施例のX軸エンコーダ13B及びZ軸エンコーダ14Bは、各スライダの位置偏差(位置公差とも言い得る)を制御装置22に出力可能となっている。後述するように、制御装置22は、X軸エンコーダ13B及びZ軸エンコーダ14Bから取得した位置偏差に基づいてパラメータの調整を実行する。尚、X軸スライダ及びZ軸スライダの位置や位置偏差を取得する方法は、エンコーダに限らない。制御装置22は、リニアスケールなどの他の位置検出装置を用いて、X軸スライダやZ軸スライダのスライド位置や位置偏差を取得しても良い。また、上記したスライド装置の構成は、一例である。例えば、工作機械10は、刃物台を、互いに垂直なXYZの3軸方向へ移動させるスライド装置を備えても良い。また、方向の定義は、工作機械10の構成に応じて適宜変更される。
【0017】
ロボット15は、例えば、ガントリ式のワーク搬送装置(ローダとも言い得る)である。ロボット15は、例えば、ワークを把持する把持部(チャック爪など)を有するヘッドを備えている。ロボット15は、例えば、工作機械10に設けられたレール台に沿って、工作機械10における左右方向、上下方向、前後方向の各方向と平行な方向に沿ってヘッドを移動させることができる。ロボット15は、ヘッドの把持部によって、例えば、ワークを搬入する入口装置、ワークを搬出する出口装置、ワークの形状を検査する検測装置、ワークを反転させるワーク反転装置等(共に図示略)との間でワークの受け渡しを実行する。
【0018】
操作盤20は、例えば、タッチパネル26や複数の操作スイッチ27を備え、工作機械10に関する情報の表示や動作指示の受け付けなどを実行する。特に、本実施例では、工作機械10は、タッチパネル26によって、後述する受付画面61(図3参照)の表示を実行する。操作盤20は、本開示のユーザインタフェースの一例である。尚、本開示のユーザインタフェースは、タッチパネル26のような表示装置と入力装置の両方を備える構成に限らない。例えば、ユーザインタフェースは、液晶装置と、液晶装置に表示された項目を選択等する物理スイッチを備える構成でも良い。また、工作機械10は、操作盤20
以外のユーザインタフェース、例えば、ティーチングペンダントなどの携帯型のユーザインタフェースを備えても良い。
【0019】
また、制御装置22は、数値制御装置31と、PLC41を備えている。数値制御装置31は、CPU33と、記憶装置34とを備えている。PLC41は、CPU43と、記憶装置44とを備えている。記憶装置34,44は、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、HDD等を備えている。尚、記憶装置34,44の構成は、上記した構成に限らず、HDDに替えてSSDを備える構成でも良く、USBメモリなどの外部記憶装置、DVD-RAMなどの記憶メディアを備える構成でも良く、あるいはこれらを組み合わせた構成でも良い。
【0020】
また、工作機械10は、制御装置22と、上記した各装置(ワーク主軸装置11、タレット装置12、X軸スライド装置13、Z軸スライド装置14、ロボット15、操作盤20)の各々を接続する複数の駆動回路28を備えている。制御装置22は、各装置と駆動回路28を介して電気的に接続され、各装置を制御可能となっている。駆動回路28は、例えば、X軸スライド装置13のX軸サーボモータ13Aやロボット15の駆動源のモータに接続された駆動回路28であれば、各モータ(サーボモータなど)に供給する電力(三相交流の電流など)を、制御装置22の指示信号(移動量、移動先の位置、移動速度、目標トルクなど)に基づいて変更するドライバ回路(サーボアンプ)である。また、駆動回路28は、例えば、操作盤20に接続された駆動回路28であれば、操作盤20から入力した信号の増幅等を実行するアンプ回路である。
【0021】
また、記憶装置34には、ワーク主軸装置11、タレット装置12、X軸スライド装置13、Z軸スライド装置14、ロボット15などの動作を数値制御する複数のNCプログラム35等が記憶されている。数値制御装置31は、NCプログラム35をCPU33で実行し、NCプログラム35に記述された数値指令に従って、駆動回路28(ドライバ回路)に指示信号を出力して制御する。駆動回路28(ドライバ回路)は、例えば、各サーボモータ(X軸サーボモータ13Aなど)に取り付けられたエンコーダ(X軸エンコーダ13Bなど)のエンコーダ情報と、制御装置22の指示信号(速度指令)に基づいて三相交流の電流を変更するフィードバック制御を実行し、処理の完了等を数値制御装置31に通知する。これにより、制御装置22は、数値制御装置31による数値制御に基づいて所望の位置へタレット装置12の刃物台(工具)やロボット15のヘッド等を各軸方向に沿ってスライド移動させる。尚、各装置をスライド移動させる駆動源としては、サーボモータに限らず、ステッピングモータやリニアモータなどの他の駆動源を採用することもできる。
【0022】
PLC41は、Programmable Logic Controllerである。記憶装置44には、各種の信号を処理するラダー回路を構築するためのラダープログラム45が記憶されている。PLC41は、CPU43でラダープログラム45を実行し、ラダープログラム45に基づくシーケンス処理によって、例えば、工作機械10が備える各種のランプ、リレー、ソレノイド等の素子へ出力信号を出力して駆動する処理、リミットスイッチ、センサなどの素子から入力信号を入力する処理を実行する。また、PLC41は、例えば、通信バス40を介して数値制御装置31と接続され、数値制御装置31との間で通信可能となっている。PLC41は、ラダープログラム45に基づいて構築したデバイス46を用いて数値制御装置31との間で信号の入出力を実行する。デバイス46は、例えば、CPU43でラダープログラム45を実行することで記憶装置44上に構築される記憶領域であり、工作機械10が備える外部I/O(センサなど)の信号の値を記憶するデバイス、数値制御装置31とやり取りするための信号の値を記憶するためのデバイス、設定値を記憶するキープリレーを実現するデバイスなどである。これにより、PLC41は、工作機械10が備える外部I/Oと、数値制御装置31との間の信号の中継(
入出力)を実行する。
【0023】
また、記憶装置34には、NCプログラム35の他に、表示設定プログラム36、その他の加工やテスト動作に必要な各種のデータなど(図示略)が記憶されている。表示設定プログラム36は、タッチパネル26の表示内容の変更や、タッチパネル26における設定値の入力処理などを実行する。また、表示設定プログラム36には、後述する受付画面61の表示処理や、テスト動作を実行しパラメータ(バックラッシ加速量、バックラッシ加速時間)を設定するパラメータ設定処理(図4参照)を実行するためのプログラムが含まれている。
【0024】
(バックラッシ加速量及びバックラッシ加速時間について)
次に、バックラッシ加速量及びバックラッシ加速時間について説明する。以下の説明では、説明が煩雑となるのを避けるため、本開示の移動対象物として、工具(刃物台)を採用した場合について説明する。尚、本開示の移動対象物としては、刃物台に限らず、ロボット15の把持部などの他の移動する装置を採用できる。本開示の移動対象物としては、複数軸でスライド移動し、且つ、移動方向の反転が発生する装置を適宜採用できる。例えば、ワーク主軸装置11を複数軸でスライド移動させる場合には、ワーク主軸装置(ワーク)を移動対象物として採用できる。
【0025】
上記したように、工作機械10は、X軸スライド装置13及びZ軸スライド装置14を備えているため、工具(刃物台)の軌跡を二次元形状にすることができ、円弧形状等に工具を移動させることができる。換言すれば、制御装置22から駆動回路28(サーボアンプ)に円弧形状等に移動させる指令を与えた場合、工具の軌跡は、XZ平面において円弧形状等となる。このような円弧形状等の加工では、X軸とZ軸において、移動方向が反転する場合がある。
【0026】
図2は、一例として、円弧形状の加工を行った場合におけるX軸方向におけるX座標と、時間の関係を示している。図2の縦軸は、例えば、円弧形状の加工を行った場合にX軸エンコーダ13Bから取得したX座標を示している。横軸は、時間を示している。図2の太い実線のグラフ51は、円弧形状に工具を移動させた場合、即ち、指令値に基づいて反転による遅延がなく理想的に移動させた場合におけるX軸エンコーダ13BのX座標を示している。工具の軌跡は、例えば、Z軸座標が異なり且つX軸座標が同一の2点を、一定の曲率の半径Rで結ぶ円弧形状となる。
【0027】
図2に示す加工では、円弧形状の頂点においてX軸の移動方向がプラス方向(図2の上向きの方向)からマイナス方向(図2の下向の方向)に反転する、即ち、象限切替えが発生する。X軸スライド装置13がX軸スライダを、伝達機構(例えば、ボールネジ機構など)によりX軸方向に沿って移動させる際に発生する摩擦力は、X軸スライダの移動方向とは反対の方向に作用する。X軸スライダの移動方向が反転すると、この摩擦力やボールねじ機構のバックラッシなどにより、移動の指令に対する誤差が生じる。尚、図2にはX軸方向についてのみ図示しているが、Z軸方向における円弧形状の加工についても同様である。
【0028】
円弧形状の頂点において象限が切り替わった直後には、工具の軌跡は、グラフ51で示す指令の(理想的な)軌跡よりも外側へ膨らんだ軌跡となる。この軌跡の変動により、加工面には、象限突起が発生する。このため、本実施例の制御装置22は、象限突起の増大を抑制するためのバックラッシ加速を行う機能を有している。制御装置22は、例えば、X軸スライド装置13及びZ軸スライド装置14の各スライド方向の反転による象限突起の増大を抑制するために、バックラッシ加速量Vb(図3参照)をバックラッシ加速時間Tb(図3参照)の間、加える補正を、X軸スライド装置13及びZ軸スライド装置14
に対して実行する。図2に示すX軸方向の反転が発生する場合は、X軸スライド装置13に対して補正を実行する。
【0029】
バックラッシ加速量Vbとは、例えば、X軸方向及びZ軸方向に沿った工具の移動方向の反転時に、反転するスライド方向における速度指令に対し、反転を早めるために、速度指令に加算して補正するための補正量である。即ち、バックラッシ加速量Vbは、制御装置22からX軸サーボモータ13AやZ軸サーボモータ14Aに接続された駆動回路28(サーボアンプ)に対して送信する速度指令に対し、象限突起をなくすため、あるいは減らすために行う補正の量である。バックラッシ加速時間Tbは、例えば、バックラッシ加速量Vbによる補正を実行する時間である。制御装置22は、このバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbに基づく補正を、駆動回路28の反転時の速度制御に対して実行する。制御装置22は、例えば、工具のX軸方向に沿った移動の反転動作を行う速度指令に対し、バックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbに基づく補正を加え、補正後の速度指令を駆動回路28に出力する。駆動回路28は、補正後の速度指令に基づくフィードバック制御を実行する。結果として、反転が早まることで象限突起を抑制できる。尚、制御装置22は、バックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbの両方を調整せずに、バックラッシ加速量Vb又はバックラッシ加速時間Tbの一方のみを調整しても良い。
【0030】
また、図2に示す実線のグラフ52、及び破線のグラフ53は、グラフ51に示す円弧形状の加工を行う指令値(速度指令)で制御装置22がX軸スライド装置13のX軸サーボモータ13A及びZ軸スライド装置14のZ軸サーボモータ14Aを制御した場合におけるX座標を示している。また、グラフ52,53は、異なる値のバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを加えた場合を示している。グラフ53,53に示すように、軌跡には、互いに異なる形状の突起(説明の便宜上、象限突起という)55が形成されている。
【0031】
上記したスライド移動時に発生する伝達機構の摩擦力は、例えば、潤滑油の粘度、各接触部分の摩耗状況等により変化する。摩擦力が変化すると象限突起55の形状も変化する。また、グラフ52,53に示すように、設定されたバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbの値によっては、グラフ51で示す理想的な軌跡よりも外側へ膨らんだ軌跡、あるいは内側に凹んだ軌跡となる。バックラッシ加速量Vbを大きくする、あるいはバックラッシ加速時間Tbを長くすると、象限切替えにおける加速度や加速時間が大きくなり、逆に、バックラッシ加速量Vb等を小さくすれば、加速度等は小さくなる。しかしながら、移動させる工具の重さや、経年劣化などの機器固有の条件、後述する半径R、送り速度Vなどの条件に応じて、上記した摩擦力等が変化し、象限切替え時の動作状態が変化する。このため、バックラッシ加速量Vbやバックラッシ加速時間Tbを一律に決定することは難しい。
【0032】
そこで、制御装置22は、実際の加工を実行する前に、バックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbの値を変更した複数回のテスト動作を実行し、位置偏差が最も小さくなるバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを、調整後の設定値として採用(選択)する。この位置偏差は、テスト動作用のNCプログラム35に基づいて指定した工具の移動先の位置である指令位置と、X軸エンコーダ13B等により取得される工具の実際の位置との位置偏差である。より具体的には、例えば、図2に示す指令値に基づく理想的なグラフ51の軌跡と、実際の移動軌跡との位置偏差である。これにより、象限突起55の増大を抑制できるとともに、理想的な円弧形状により近い、あるいは一致した加工を行うことができる。
【0033】
(テスト動作について)
図3は、テスト動作の実行を受け付ける受付画面61を示している。例えば、制御装置22は、工作機械10の電源が投入されシステムを起動した後、表示設定プログラム36をCPU33で実行し、初期画面をタッチパネル26に表示する。制御装置22は、タッチパネル26に対する所定の操作入力(受付画面61を表示する指示)に基づいて受付画面61を表示させる。図3に示すように、制御装置22は、受付欄63、履歴情報表示欄64を、受付画面61に表示する。制御装置22は、受付欄63に表示したテスト動作開始ボタン65をタッチ操作されると、図4に示すパラメータ設定処理を開始し、テスト動作を実行する。
【0034】
また、制御装置22は、半径入力欄66、送り速度入力欄67を受付欄63に表示する。制御装置22は、テスト動作において、例えば、テスト動作用のNCプログラム35を実行し、工具を円弧形状の経路で移動させる動作を実行する。制御装置22は、この円弧形状の経路の半径Rの値[mm]を半径入力欄66で受け付ける。また、制御装置22は、テスト動作においてNCプログラム35に基づいて工具を移動させる送り速度の値[mm/min]を、送り速度入力欄67で受け付ける。尚、上記した各値の単位は、一例である。例えば、半径Rの単位は、cmでも良い。また、例えば、送り速度Vは、1分間に工具が進む距離[mm/min]に限らない。例えば、送り速度Vの単位として、ワークの1回転あたりに工具が進む距離[mm/rev]を採用しても良い。即ち、送り速度Vは、例えば、バイト(チップ)であればワークの1回転当たりに切削工具が進む距離であり、ドリル等の回転工具であれば回転工具の1回転当たりに進む距離でも良い。象限突起55の大きさや形状は、工具を移動させる円弧形状の半径Rや送り速度Vに応じて変動する。また、バックラッシ加速量Vbやバックラッシ加速時間Tbは、先行技術文献(特開2022-90946号公報)に記載されているように、半径Rや送り速度Vと相関する関係にある。例えば、先行技術文献では、送り速度Vが速くなるほど、バックラッシ加速量Vbを増やす必要があり、バックラッシ加速時間Tbを減らす必要があることを記載している。また、半径Rが大きくなるほど、バックラッシ加速量Vbを減らす必要があり、バックラッシ加速時間Tbを増やす必要があることを記載している。しかしながら、上記したように、最適なバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbは、半径R及び送り速度V以外の要因(経年劣化など)の影響も受けるため、調整することが難しい。
【0035】
そこで、本実施例の制御装置22は、テスト動作で用いる半径Rと送り速度Vを予め受け付け、受け付けた値をテスト動作用のNCプログラム35等に設定しテスト動作を実行する。これにより、ユーザは、例えば、これから加工を行う予定のワークの半径Rや送り速度V、あるいは、加工するワークの平均の半径Rと送り速度Vを、半径入力欄66及び送り速度入力欄67に設定し、バックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbの調整を行うことができる。
【0036】
図3に示すように、制御装置22は、履歴情報表示欄64の下に、軸選択ボタン68,69を表示する。軸選択ボタン68は、調整する対象(反転が生じる軸)としてX軸方向を選択するためのボタンである。軸選択ボタン69は、調整する対象としてZ軸方向を選択するためのボタンである。制御装置22は、バックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbの調整及び設定について、X軸方向とZ軸方向を個別に実行できる。制御装置22は、テスト動作開始ボタン65をタッチ操作されると、軸選択ボタン68,69で選択された軸方向を対象に、バックラッシ加速量Vb等の調整を実行する。図3では、軸選択ボタン68(X軸方向)が選択された状態を示している。以下の説明では、X軸方向におけるバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbの調整を実行した場合について説明する。尚、Z軸方向におけるバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbの調整についても、X軸方向と同様に実行することができる。
【0037】
制御装置22は、図3のテスト動作開始ボタン65がタッチ操作されると、図4のパラ
メータ設定処理を開始する。図4に示すように、制御装置22は、まず、ステップ(以下、単にSと記載する)11において、半径Rと送り速度Vを設定する。制御装置22は、例えば、図3の半径入力欄66に入力された半径Rと、送り速度入力欄67に入力された送り速度Vを、テスト動作を実行するためのNCプログラム35の対応するコードに設定する。ここでいうコードとは、例えば、移動の開始座標と、半径Rを指定して工具を円弧形状に移動させるコードや、送り速度Vを指定するコードである。あるいは、制御装置22は、環境変数をNCプログラム35とは別に記憶装置34に記憶しNCプログラム35の実行時にプログラム内の変数に環境変数を設定する場合、半径Rや送り速度Vに相当する環境変数に、半径入力欄66等で入力された値を設定しても良い。従って、テスト動作に対する半径Rと送り速度Vの設定方法は、特に限定されない。また、制御装置22は、半径入力欄66や送り速度入力欄67に入力可能な値の範囲や、桁数等を制限しても良い。例えば、制御装置22は、半径入力欄66に入力可能な半径Rの値の範囲や、送り速度入力欄67に入力可能な送り速度Vの値の範囲を、一定の範囲に制限しても良い。これにより、後述するテスト動作において、動作可能な範囲を超えた制御が発生することを抑制でき、テスト動作中のエラーの発生を抑制できる。
【0038】
図5は、X軸方向の反転を発生させ、X軸方向におけるバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを調整するテスト動作を模式的に示している。図5に示すように、テスト動作で実行するNCプログラム35は、例えば、Z軸方向(図5の左右方向)において異なるZ座標の点P1,P2を両端とし、半径rの円弧形状の軌跡で工具71を移動させるテスト動作(模擬の加工動作)を実行させるプログラムである。尚、図中の中心Oは、円弧形状の直径の中心である。この加工では、X軸方向の移動方向が、円弧形状の頂点で反転する。点P1,P2は、工作機械10の加工基準面(加工基準位置)を基準とする所定の座標のポイントである。点P1,P2は、例えば、予めNCプログラム35に設定された値に基づいて決定される。尚、制御装置22は、点P1,P2の座標について、ユーザから設定値を受け付けても良い。これにより、例えば、実際のワークの加工動作において、外径を円弧形状に加工する工程が含まれている場合、その工程の座標を設定することができる。制御装置22は、図4のS11において、受付画面61の半径入力欄66で受け付けた半径Rをテスト動作における半径rとして(上記したコード等に)設定し、送り速度入力欄67で受け付けた送り速度Vを円弧形状の経路で工具71を移動させる際の送り速度として設定する。
【0039】
制御装置22は、S11を実行すると、バックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbに初期値を設定する(S13)。この初期値は、後述する複数回のテスト動作で試すパラメータの範囲における下限値であり、例えば、設定可能な最小値である。制御装置22は、S13を実行すると、1回目のテスト動作を実行する(S15)。制御装置22は、S11で設定した半径R、送り速度V、S13で設定したバックラッシ加速量Vb、バックラッシ加速時間Tbに基づいてテスト動作用のNCプログラム35を実行し、工具71を円弧形状に移動させる(図5の矢印参照)。
【0040】
制御装置22は、S15の1回目のテスト動作を終了させると、位置偏差を取得し記憶装置34に記憶する(S17)。制御装置22は、例えば、テスト動作に用いたバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbの値を、位置偏差の値に関連付けて記憶装置34に記憶する。本実施例のX軸エンコーダ13B及びZ軸エンコーダ14Bは、制御装置22の制御に基づいて、例えば、所定期間や所定指令に基づく制御中の位置偏差を演算し、制御装置22に出力可能となっている。制御装置22は、例えば、S15のテスト動作を実行し、そのテスト動作中の位置偏差をX軸エンコーダ13BやZ軸エンコーダ14Bから取得する。尚、位置偏差を取得する方法は、上記したエンコーダで演算する方法に限らない。例えば、制御装置22が位置偏差を演算しても良い。制御装置22は、テスト動作において所定時間ごとにX座標をX軸エンコーダ13Bから取得し、取得した複数
のX座標と、NCプログラム35で指示した円弧形状のX座標との差から位置偏差を取得しても良い。
【0041】
また、本実施例では、X軸エンコーダ13B及びZ軸エンコーダ14Bの位置情報、即ち、各スライダの位置(刃物台の位置)を、工具71の位置と擬制して処理を実行している。しかしながら、工作機械10は、割り出した工具71の位置を検出するためのセンサ等を備え、センサの位置情報(刃先の位置など)に基づいて位置偏差を取得しても良い。
【0042】
制御装置22は、S17を実行すると、現在のバックラッシ加速量Vbが所定の最大バックラッシ加速量Vmax以上であるか否かを判断する(S19)。この最大バックラッシ加速量Vmaxは、テスト動作で試すバックラッシ加速量Vbの範囲における上限値であり、例えば、設定可能な最大値でも良い。制御装置22は、バックラッシ加速量Vbが最大バックラッシ加速量Vmaxより小さい場合(S19:NO)、バックラッシ加速量Vbを所定の増加量Vaだけ増加せる(S21)。制御装置22は、バックラッシ加速量Vbを増加量Vaだけ増加させると、増加させたバックラッシ加速量Vbを用いてテスト動作を実行し(S15)、位置偏差を取得する(S17)。これにより、制御装置22は、バックラッシ加速時間Tbを初期値に固定したまま、バックラッシ加速量Vbが最大バックラッシ加速量Vmax以上になるまでの間(S19:NO)、バックラッシ加速量Vbを増加量Vaずつ増加させてテスト動作(S15)を繰り返し実行する(図5の矢印参照)。制御装置22は、例えば、図5に示す点P1から点P2まで円弧形状に工具71を移動させた後、再度、点P1に工具71を配置し、変更後のバックラッシ加速量Vbを用いた制御を実行する。このため、増加量Vaは、テスト動作ごとにバックラッシ加速量Vbを増加させる調整量であり、より小さい値を設定することで、バックラッシ加速量Vbを調整する精度を向上できる。記憶装置34は、テスト動作ごとに新たな位置偏差の値が記憶される(S17)。
【0043】
制御装置22は、バックラッシ加速量Vbが最大バックラッシ加速量Vmax以上になると(S19:YES)、バックラッシ加速量Vbに初期値を設定し(S23)、S25を実行する。制御装置22は、S25において、バックラッシ加速時間Tbが最大バックラッシ加速時間Tmax以上であるか否かを判断する。そして、制御装置22は、バックラッシ加速時間Tbが最大バックラッシ加速時間Tmaxより小さい場合(S25:NO)、バックラッシ加速時間Tbを増加量Taだけ増加させ(S27)、S15以降の処理を実行する。これにより、増加量Taだけ増加させた後のバックラッシ加速時間Tbを用いて、バックラッシ加速量Vbを増加量Vaだけ増加させながら繰り返しテスト動作を実行する。即ち、制御装置22は、バックラッシ加速時間Tbを固定してバックラッシ加速量Vbを増加量Vaだけ増加させながらテスト動作を繰り返し実行する処理を、バックラッシ加速時間Tbが最大バックラッシ加速時間Tmax以上になるまで増加量Taずつ増加させて実行する。増加量Va,Taの大きさに応じた細かさでバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを変更したテスト動作を実行する。
【0044】
制御装置22は、バックラッシ加速時間Tbが最大バックラッシ加速時間Tmax以上になると(S25:YES)、S17で記憶装置34に記憶した位置偏差のうち、最小の位置偏差に関連付けられたバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを取得し、加工に使用するバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbとして設定する(S29)。即ち、制御装置22は、複数回のテスト動作において、位置偏差が最小となったテスト動作で用いたバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを、その後の実際のワークの加工動作に用いるパラメータとして設定する(S29)。これにより、位置偏差が最小となるバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを、実際のワークの加工に用いることができ、象限突起55をより確実に小さく、又はなくすことが可能となる。尚、制御装置22は、複数回のテスト動作のうち、最も小さい位置偏差
を採用しなくとも良い。例えば、制御装置22は、2番目に小さい位置偏差となるバックラッシ加速量Vb等や3番目に小さい位置偏差となるバックラッシ加速量Vbなどを、加工時のパラメータとして設定しても良い。従って、本開示の「複数回のテスト動作のうち、取得した位置偏差が他のテスト動作に比べて小さいテスト動作」とは、最も位置偏差が小さいテスト動作に限らず、他のテスト動作に比べて位置偏差が小さいテスト動作であれば適宜採用できる。また、位置偏差が同一となるテスト動作が複数発生した場合、制御装置22は、例えば、位置偏差が同一のテスト動作のうち、最初に実行したテスト動作のバックラッシ加速量Vbやバックラッシ加速時間Tbを調整後のパラメータとして採用しても良い。
【0045】
制御装置22は、S29を実行すると、図3に示す履歴情報表示欄64を更新し(S31)、図4に示す処理を終了する。図3に示すように、制御装置22は、履歴情報表示欄64の左から順番に、半径R、送り速度V、バックラッシ加速量Vb、バックラッシ加速時間Tb、位置偏差、実施日時の情報を表示する。制御装置22は、これらの情報として、今回実施したテスト動作の情報を表示する。半径Rは、半径入力欄66に入力され、テスト動作に用いられた値である。同様に、送り速度Vは、送り速度入力欄67に入力された値である。バックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbは、位置偏差が最も小さくなったテスト動作における値、即ち、調整後の値である。位置偏差は、複数回のテスト動作の位置偏差のうち、最も小さい値である。換言すれば、調整後のバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを設定してテスト動作を実行した際の位置偏差である。実施日時は、テスト動作開始ボタン65を押下されテスト動作を開始した日時である。制御装置22は、これらの情報を1行に並べて履歴情報表示欄64に表示する。これにより、ユーザは、過去の調整結果やその時の設定値を確認できる。工具71によるパラメータの変化や、経年劣化による変化を確認できる。ユーザは、変化の周期等を確認することで、テスト動作開始ボタン65を操作してバックラッシ加速量Vb等を調整する適切な時期を判断できる。
【0046】
制御装置22は、テスト動作開始ボタン65がタッチ操作され新たなテスト動作が実行されると、その結果を履歴情報表示欄64の一番上に表示し、過去の履歴を1つずつ繰り下げて表示する。尚、制御装置22は、履歴情報表示欄64に表示したスクロールボタン73に対する操作に応じて表示できなかった履歴を順次表示する。
【0047】
また、上記した説明では、X軸方向におけるバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを調整するテスト動作について説明したが、Z軸方向の調整についても同様に実行できる。制御装置22は、図3に示す軸選択ボタン69がタッチ操作され選択された状態においてテスト動作開始ボタン65がタッチ操作されると、X軸方向と同様に、Z軸方向のテスト動作を実行する。図6は、Z軸方向の反転を発生させ、Z軸方向におけるバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを調整するテスト動作を模式的に示している。図6に示すように、制御装置22は、工具71をX軸方向に移動させつつ、Z軸方向で反転させ、工具71を円弧形状の経路で移動させる。制御装置22は、半径入力欄66に設定された半径Rを半径rとし、送り速度入力欄67に設定された送り速度Vを用いてテスト動作を実行する。換言すれば、半径入力欄66及び送り速度入力欄67は、軸選択ボタン68,69で選択されたスライド軸でのテスト動作で用いる半径Rの値及び送り速度Vの値を受け付ける入力欄である。これにより、各軸方向の調整を別々に実行できる。また、X軸方向と同様に、工具71、経年劣化、半径R、送り速度Vなどに応じて象限突起55をより低減できるバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間TbをZ軸方向のパラメータとしても設定できる。また、調整する軸方向に応じた半径Rと送り速度Vを設定し、調整を行うことができる。Z軸方向の加工(円弧形状の端面加工など)に用いるパラメータとして、より最適なパラメータを用いて象限突起55を低減できる。
【0048】
因みに、以下に、本実施例の用語と請求の範囲に記載した用語との対応関係について説明する。上記実施例において、X軸スライド装置13、Z軸スライド装置14は、スライド装着装置の一例である。工具71は、移動対象物の一例である。タッチパネル26は、ユーザインタフェースの一例である。NCプログラム35は、制御プログラムの一例である。S15、S21、S27は、テスト動作実行処理の一例である。S17、S29は、パラメータ取得処理の一例である。X軸及びZ軸は、スライド軸、第1スライド軸、第2スライド軸の一例である。
【0049】
以上、上記した本実施例では、以下の効果を奏する。
本願の一態様である制御装置22は、NCプログラム35に基づいてX軸スライド装置13及びZ軸スライド装置14を制御し工具71を移動させるテスト動作を実行する(S15)。制御装置22は、バックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを変更した複数回のテスト動作を実行する(S15、S21、S27)。制御装置22は、NCプログラム35に基づいて指定した工具71の移動先の位置である指令位置(各モータの指令値)と、工具71の実際の位置(エンコーダ情報)との位置偏差を、複数回のテスト動作の各々について取得する(S17)。制御装置22は、複数回のテスト動作のうち、取得した位置偏差が最も小さいテスト動作におけるバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを調整後のパラメータとして設定する(S29)。これにより、指令位置に対してずれが少ないパラメータを見つけるこができ、見つけ出したパラメータを設定することで、結果として象限突起55をより小さく又はなくすことが可能となる。作業者がパラメータの調整を行う作業負担を軽減できる。
【0050】
また、本開示の内容は、上記実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することが可能である。
例えば、上記実施例では、バックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbの両方の調整を実行したが、どちらか一方のみの調整を実行しても良い。例えば、バックラッシ加速量Vb又はバックラッシ加速時間Tbの一方のパラメータの値をユーザから受け付け、他方のパラメータについて増加させてテスト動作を実行しても良い。
また、上記実施例のテスト動作用のNCプログラム35が実行した処理内容は、一例である。テスト動作用のNCプログラム35としては、象限切替えが発生する他のNCプログラム35を採用できる。例えば、テスト動作用のNCプログラム35は、XZ平面において工具71を円形の経路で移動させるNCプログラム35でも良い。この場合、制御装置22は、X軸方向とZ軸方向の両方のパラメータを、まとめて調整できる。例えば、制御装置22は、テスト動作開始ボタン65を操作され、図4のパラメータ設定処理を開始すると、S15において、工具71を円形の経路で移動させる。制御装置22は、例えば、X座標が反転する円弧においてX軸方向の位置偏差を取得し、Z座標が反転する円弧においてZ軸方向の位置偏差を取得する。そして、制御装置22は、各方向について、位置偏差が最小となった時のテスト動作のバックラッシ加速量Vb及びバックラッシ加速時間Tbを調整後のパラメータとしても良い。これにより、2方向の調整を1回のパラメータ設定処理でまとめて実行できる。
また、制御装置22は、テスト動作に用いる値として、半径R及び送り速度Vの一方だけを受け付けも良い。あるいは、制御装置22は、テスト動作に用いる半径R及び送り速度Vの値として、予め設定された値を使用し、ユーザから値を受け付けなくとも良い。また、制御装置22は、半径R及び送り速度V以外の値を、テスト動作に用いる値として受け付けても良い。例えば、点P1,P2の座標を受け付けても良い。
【0051】
また、上記実施例の図4のパラメータ設定処理では、予め設定された初期値、最大バックラッシ加速量Vmax、最大バックラッシ加速時間Tmax、増加量Va,Taを用いてテスト動作を実行したが、これに限らない。例えば、制御装置22は、初期値、最大バ
ックラッシ加速量Vmax、最大バックラッシ加速時間Tmax、増加量Va,Taのうち、少なくとも1つの値を、ユーザから受け付けても良い。
また、テスト動作に用いる初期値、最大バックラッシ加速量Vmax、最大バックラッシ加速時間Tmax、増加量Va,Taとして、過去のテスト動作で機械学習し導き出した値を設定しても良い。
また、上記実施例では、本開示の制御プログラムとして、数値制御を実行するNCプログラム35を採用したが、これに限らない。本開示の制御プログラムとしては、工作機械10を制御可能な様々な形式のプログラムを採用できる。
また、上記実施例では、本願の移動対象物として、タレット装置12の刃物台(工具71)を採用したが、これに限らない。例えば、移動対象物として、ロボット15の把持部やワーク主軸装置11のチャック機構など、工作機械10が備える他の移動する対象物を採用しても良い。
また、図3に示す受付画面61の画面構成、表示項目、表示位置等は、一例である。例えば、受付欄63と履歴情報表示欄64は、別画面でも良い。
【0052】
尚、本開示の内容は、請求項に記載の従属関係に限定されない。例えば、請求項5において「請求項4に記載の工作機械」を「請求項1から請求項4の何れか1項に記載の工作機械」に変更した技術思想についても、本明細書は開示している。また、例えば、請求項6において「請求項4に記載の工作機械」を「請求項4又は請求項5に記載の工作機械」に変更した技術思想についても、本明細書は開示している。
【符号の説明】
【0053】
10 工作機械、13 X軸スライド装置(スライド装置)、14 Z軸スライド装置(スライド装置)、22 制御装置、26 タッチパネル(ユーザインタフェース)、35 NCプログラム(制御プログラム)、64 履歴情報表示欄、65 テスト動作開始ボタン、66 半径入力欄、67 送り速度入力欄、71 工具(移動対象物)、R 半径、Tb バックラッシ加速時間、Vb バックラッシ加速量、V 送り速度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6