(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018524
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ギヤ構造体
(51)【国際特許分類】
F16F 15/12 20060101AFI20250130BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
F16F15/12 S
F16F15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122301
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直也
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AD07
3J048BF02
3J048EA31
(57)【要約】
【課題】ギヤノイズを効果的に低減する。
【解決手段】ギヤ構造体100は、複数のギヤ歯21が設置された外周面31と外周面31の内側の内周面32とを含むギヤ部材20と、内周面32の内側に設置された環状の質量体60と、ギヤ部材20と質量体60との間に介在する弾性体70とを具備する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のギヤ歯が設置された外周面と前記外周面の内側の内周面とを含むギヤ部材と、
前記内周面の内側に設置された環状の質量体と、
前記ギヤ部材と前記質量体との間に介在する弾性体と
を具備するギヤ構造体。
【請求項2】
前記弾性体は、前記ギヤ部材の前記内周面と前記質量体の外周面との間に介在する
請求項1のギヤ構造体。
【請求項3】
前記ギヤ部材は、
前記外周面と前記内周面とを含む環状の第1部分と、
前記第1部分の内側に位置する環状の第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分との間に設置されて前記第1部分と前記第2部分とを連結する環状の連結部とを含み、
前記質量体は、前記第1部分と前記第2部分との間に設置され、
前記弾性体は、前記第1部分と前記質量体との間に設置される
請求項1のギヤ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の移動体に搭載される駆動機構においては、複数のギヤ間でのギヤ歯の衝突に起因した歯打ノイズ、または各歯の変形に起因した噛合ノイズ等のギヤノイズが問題となる。特許文献1には、軸方向におけるギヤの両面に環状溝が形成され、振動を吸収する環状の弾性体が各環状溝に収容された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の構成では、環状溝が表面に形成されることでギヤの剛性が低下し、結果的にトルク伝達に関する信頼性が低下するという課題がある。また、環状溝に収容された弾性体のみでは制振の効果が限定的である。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、ギヤノイズを効果的に低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係るギヤ構造体は、複数のギヤ歯が設置された外周面と前記外周面の内側の内周面とを含むギヤ部材と、前記内周面の内側に設置された環状の質量体と、前記ギヤ部材と前記質量体との間に介在する弾性体とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図3】ギヤ機構の動作により発生する動作音の周波数特性である。
【
図4】ギヤ機構の動作により発生する動作音の周波数特性である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、各要素の寸法および縮尺が実際の製品とは相違する場合がある。また、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態には限定されない。
【0008】
図1は、本開示のひとつの形態に係るギヤ機構100の平面図である。
図2は、
図1におけるII-II線の断面図である。ギヤ機構100は、例えば自動車等の移動体において、内燃機関または電動機等の動力源から車輪に動力を伝達する駆動機構(例えば変速機または差動装置等)に利用される。
【0009】
図1および
図2に例示される通り、ギヤ機構100は、軸部材11とギヤ構造体12とを具備する。軸部材11は、回転軸Cを中心として回転可能な円柱状のシャフトである。ギヤ構造体12は、軸部材11に固定された回転体である。なお、軸部材11はギヤ構造体12の要素として把握されてもよい。
【0010】
以下の説明においては、回転軸Cを中心とした任意の直径の仮想円における円周に沿う方向を「周方向」と表記し、当該仮想円の半径の方向を「径方向」と表記する。また、径方向において回転軸Cに向かう方向を「内側」と表記し、回転軸Cとは反対に向かう方向を「外側」と表記する。
【0011】
図1および
図2に例示される通り、ギヤ構造体12は、ギヤ部材20と質量体60と弾性体70とを具備する。なお、
図1においては、質量体60および弾性体70に対して便宜的に網掛が付加されている。
【0012】
ギヤ部材20は、円板状のスパーギヤ(平歯車)である。具体的には、ギヤ部材20は、第1部分30と第2部分40と連結部分50とを含む。第1部分30と第2部分40と連結部分50とは、例えば、機械構造用炭素鋼(S45C)、クロムモリブデン合金鋼(SCM440、SCM415)またはステンレス鋼(SUS303)等等の機械的強度が高い材料により一体的に形成される。
【0013】
第1部分30は、外周面31と内周面32とを含む環状の部分であり、回転軸Cと同心に設置される。外周面31は第1部分30のうち外側を向く壁面であり、内周面32は外周面31の内側の壁面である。
図1に例示される通り、第1部分30の外周面31には、複数のギヤ歯21が周方向に等間隔に設置される。以上の説明から理解される通り、ギヤ部材20は、複数のギヤ歯21が設置された外周面31と外周面31の内側の内周面32とを含む構造体である。
【0014】
図1および
図2に例示される通り、第2部分40は、外周面41と内周面42とを含む環状の部分であり、回転軸Cと同心に設置される。外周面41は第2部分40のうち外側を向く壁面であり、内周面42は外周面41の内側の壁面である。第2部分40の外径は、第1部分30の内径を下回る。第2部分40は第1部分30の内側に位置する。すなわち、第1部分30の内周面32と第2部分40の外周面41とは所定の間隔をあけて対向する。
【0015】
連結部分50は、第1部分30と第2部分40との間に設置されて第1部分30と第2部分40とを連結する環状の部分である。連結部分50の板厚は、第1部分30の板厚(回転軸Cの方向の寸法)および第2部分40の板厚を下回る。したがって、
図2に例示される通り、第1部分30の内周面32と第2部分40の外周面41と連結部分50の表面51とにより包囲された環状の空間Sが形成される。
【0016】
質量体60および弾性体70は空間Sに収容される。すなわち、質量体60および弾性体70は、第1部分30と第2部分40との間に設置される。
図2に例示される通り、質量体60および弾性体70は、回転軸Cの方向において、第1部分30の頂面35と連結部分50の表面51との間の範囲内に位置する。具体的には、質量体60および弾性体70は、連結部分50の表面51に隙間をあけて対向する。以上の構成によれば、質量体60とギヤ部材20との接触の可能性が低減される。したがって、質量体60とギヤ部材20との接触に起因したノイズ(打音)を抑制できる。なお、弾性体70は連結部分50に接触してもよい。
【0017】
質量体60は、ギヤ部材20の内周面32の内側に設置されたダンパマスである。具体的には、質量体60は、例えば鉄またはステンレス等の高剛性の金属材料により形成された構造体であり、外周面61と内周面62とを含む環状に形成される。
【0018】
具体的には、質量体60は、本体部66と突起部67とが一体的に形成された構造体である。本体部66は、横断面が矩形状に形成された環状の部分である。本体部66の底面は、連結部分50の表面51に接触する。突起部67は、本体部66の外周縁の近傍から回転軸Cの方向に突出する環状の部分である。外周面61は、本体部66と突起部67とにわたる壁面であり、内周面62は、本体部66のうち内側を向く壁面である。質量体60に突起部67が設置される構成によれば、質量体60が本体部66のみで構成される形態と比較して外周面61の面積を確保し易い。
【0019】
質量体60の外径は第1部分30の内径を下回る。質量体60の外周面61は第1部分30の内周面32に間隔をあけて対向する。すなわち、質量体60は第1部分30により全周にわたり包囲される。また、質量体60の内径は第2部分40の外径を上回る。質量体60の内周面62は第2部分40の外周面41に間隔をあけて対向する。以上の通り、質量体60は、ギヤ部材20における第1部分30と第2部分40との間に設置される。
【0020】
弾性体70は、例えばゴムまたは樹脂等の各種の弾性材料により形成されたダンパバネである。具体的には、弾性体70は、外周面71と内周面72とを含む環状の構造体であり、回転軸Cと同心に設置される。外周面71は弾性体70のうち外側を向く壁面であり、内周面72は外周面71の内側の壁面である。
【0021】
弾性体70は、ギヤ部材20と質量体60との間に設置される。具体的には、弾性体70は、ギヤ部材20のうちの第1部分30と質量体60との間に設置される。すなわち、ギヤ部材20の内周面32と質量体60の外周面61との間に、弾性体70が介在する。さらに詳述すると、弾性体70の外周面71はギヤ部材20の内周面32に密着し、弾性体70の内周面72は質量体60の外周面61に密着する。以上の説明の通り、ギヤ部材20と質量体60とは、弾性体70を介して弾性的に連結される。具体的には、質量体60は、弾性体70を介してギヤ部材20の第1部分30に弾性的に連結される。
【0022】
以上の構成においては、質量体60と弾性体70とにより動吸振器D(ダイナミックダンパ)が構成される。動吸振器Dは、ギヤ部材20における第1部分30と第2部分40との間に設置される。具体的には、第1部分30の内周面32に動吸振器Dが連結される。動吸振器Dは、軸部材11およびギヤ構造体12の振動(特に径方向における固有振成分)を吸収する。すなわち、径方向における軸部材11およびギヤ構造体12の変位が抑制される。したがって、ギヤ構造体12の回転時におけるギヤノイズを効果的に低減できる。
【0023】
例えば、軸部材11が径方向に振動すると、ギヤ部材20の各ギヤ歯21と、ギヤ構造体12に噛合う相手ギヤ(図示略)の各ギヤ歯との衝突に起因した歯打ノイズが顕在化する。また、ギヤ構造体12が相手ギヤに噛合う状態で軸部材11が径方向に振動すると、ギヤ部材20の各ギヤ歯21に負荷が作用することで変形し、各ギヤ歯21の変形に起因した噛合ノイズが顕在化する。本実施形態によれば、質量体60と弾性体70とにより構成される動吸振器Dが、軸部材11およびギヤ構造体12における径方向の固有振動を吸収する。したがって、歯打ノイズまたは噛合ノイズ等のギヤノイズを効果的に低減できる。
【0024】
図3および
図4は、ギヤ機構100の動作により発生する動作音の周波数特性である。
図3および
図4においては、動吸振器Dが設置された本実施形態のギヤ機構100と、動吸振器Dが設置されない形態(以下「対比例」という)とについて、動作音の周波数特性が併記されている。
【0025】
図3は、ギヤ機構100における径方向の振動に着目した動作音の周波数特性である。
図3から理解される通り、径方向の各次の振動モードに起因した動作音のピークは、本実施形態における動吸振器Dの設置により、対比例と比較して低減される。すなわち、本実施形態によれば、前述の通り、径方向の振動に起因した歯打ノイズまたは噛合ノイズ等のギヤノイズを効果的に低減できる。以上の通り、本実施形態の動吸振器Dは、ギヤ機構100における径方向の振動を低減するように構成される。
【0026】
図4は、相異なる複数の振動モードに着目した動作音の周波数特性である。
図4に例示される通り、対比例においては、ギヤ部材20の各振動モードに起因した局所的なピークが動作音に観測される。
図4のピークP1は、ギヤ部材20の中央部と周縁部とで回転軸Cの方向における位置が相違するようにギヤ部材20が湾曲する振動モード(湾曲モード)に起因した成分である。
図4のピークP2は、回転軸Cに直交する面内においてギヤ部材20が径方向に伸縮する振動モード(伸縮モード)に起因した成分である。
図4から理解される通り、湾曲モードに起因したピークP1と伸縮モードに起因したピークP2とは、本実施形態における動吸振器Dの設置により、対比例と比較して低減される。すなわち、本実施形態によれば、湾曲モードおよび伸縮モードに起因したギヤノイズも効果的に低減できる。以上の通り、本実施形態の動吸振器Dは、ギヤ部材20における湾曲モードおよび伸縮モードの振動を低減するように構成される。
【0027】
また、本実施形態においては特に、ギヤ部材20のうち複数のギヤ歯21が設置される外周面31の内側の内周面32に、質量体60が弾性体70を介して弾性的に連結される。具体的には、第1部分30の内周面32に、質量体60が弾性体70を介して弾性的に連結される。したがって、例えば質量体60が第2部分40または連結部分50に弾性的に連結される形態と比較して、ギヤノイズを低減する効果は顕著である。
【0028】
B:変形例
以上に例示した態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0029】
(1)質量体60の形態は任意であり、前述の例示には限定されない。例えば、質量体60の突起部67は省略されてよい。質量体60は、相異なる材料で形成された複数の部分の組合せにより構成されてもよい。
【0030】
(2)弾性体70の形態は任意であり、前述の例示には限定されない。例えば、弾性体70は、相異なる材料で形成された複数層の積層により構成されてもよい。また、弾性体70は相互に別体で構成された複数の部分により構成されてもよい。例えば、第1部分30の内周面32と質量体60の外周面61との間の環状の空間に、周方向に間隔をあけて設置された複数の部分により、弾性体70が構成されてもよい。
【0031】
(3)前述の形態においては、質量体60と第1部分30との間に弾性体70が設置された形態を例示したが、弾性体70が設置される位置は以上の例示に限定されない。例えば、質量体60と第2部分40との間に弾性体70が設置された形態、または、質量体60と連結部分50との間に弾性体70が設置された形態も想定される。また、第1部分30と第2部分40と連結部分50とから選択された2以上の部分と質量体60との間に、弾性体70が設置されてもよい。
【0032】
(4)前述の形態においては、ギヤ構造体12としてスパーギヤ(平歯車)を例示したが、ベベルギヤ(かさ歯車)またはヘリカルギヤ(はすば歯車)等の任意の形式のギヤに本開示は適用される。また、ギヤ機構100の用途は任意であり、自動車等の移動体における駆動機構には限定されない。
【0033】
C:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0034】
本開示のひとつの態様(態様1)に係るギヤ構造体は、複数のギヤ歯が設置された外周面と前記外周面の内側の内周面とを含むギヤ部材と、前記内周面の内側に設置された環状の質量体と、前記ギヤ部材と前記質量体との間に介在する弾性体とを具備する。以上の態様においては、質量体と弾性体とにより動吸振器が構成される。動吸振器は、ギヤ構造体の振動(特に径方向における固有振成分)を吸収する。すなわち、径方向におけるギヤ構造体の変位が抑制される。したがって、ギヤ構造体の回転時におけるギヤノイズを効果的に低減できる。
【0035】
態様1の具体例(態様2)において、前記弾性体は、前記ギヤ部材の前記内周面と前記質量体の外周面との間に介在する。以上の態様においては、複数のギヤ歯が設置される外周面の内側の内周面に、質量体が弾性体を介して弾性的に連結される。したがって、例えば質量体がギヤ部材の内周面以外の部分に連結される形態と比較して、ギヤノイズを低減する効果は顕著である。
【0036】
態様1の具体例(態様3)において、前記ギヤ部材は、前記外周面と前記内周面とを含む環状の第1部分と、前記第1部分の内側に位置する環状の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間に設置されて前記第1部分と前記第2部分とを連結する環状の連結部とを含み、前記質量体は、前記第1部分と前記第2部分との間に設置され、前記弾性体は、前記第1部分と前記質量体との間に設置される。以上の態様においては、ギヤ部材のうち複数のギヤ歯が設置される第1部分の内周面に、質量体が弾性体を介して弾性的に連結される。したがって、例えば質量体が第2部分に弾性的に連結される形態と比較して、ギヤノイズを低減する効果は顕著である。
【符号の説明】
【0037】
100…ギヤ機構、11…軸部材、12…ギヤ構造体、20…ギヤ部材、21…ギヤ歯、30…第1部分、31…外周面、32…内周面、40…第2部分、41…外周面、42…内周面、50…連結部分、51…表面、60…質量体、61…外周面、62…内周面、66…本体部、67…突起部、70…弾性体、71…外周面、72…内周面、D…動吸振器。