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  • 特開-水循環システム 図1
  • 特開-水循環システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018566
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】水循環システム
(51)【国際特許分類】
   E03B 1/00 20060101AFI20250130BHJP
   C02F 1/32 20230101ALI20250130BHJP
【FI】
E03B1/00 Z
C02F1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122386
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 央和
(72)【発明者】
【氏名】牧住 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 浩平
(72)【発明者】
【氏名】重盛 洸
【テーマコード(参考)】
4D037
【Fターム(参考)】
4D037AA08
4D037AB03
4D037BA18
4D037CA02
(57)【要約】
【課題】環境への負荷を低減することができる水循環システムを提供する。
【解決手段】雨水を貯留する雨水貯水槽16と、人工池18と、雨水貯水槽16から供給される雨水を含む水を人工池用の水として貯留する人工池用水槽20と、消火用水を貯留する消火用水槽22とを備え、人工池18と人工池用水槽20と消火用水槽22との間で水を循環可能な水循環システム10であって、人工池用水槽20の水を濾過および殺菌して浄化する浄化手段24と、浄化手段24により浄化した水を人工池18または消火用水槽22の少なくとも一方に送水する第一送水手段26と、人工池18の水を人工池用水槽20または消火用水槽22の少なくとも一方に送水する第二送水手段28と、消火用水槽22の水を人工池18または人工池用水槽20の少なくとも一方に送水する第三送水手段30とを有するようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雨水を貯留する雨水貯水槽と、人工池と、前記雨水貯水槽から供給される雨水を含む水を人工池用の水として貯留する人工池用水槽と、消火用水を貯留する消火用水槽とを備え、前記人工池と前記人工池用水槽と前記消火用水槽との間で水を循環可能な水循環システムであって、
前記人工池用水槽の水を濾過および殺菌して浄化する浄化手段と、
前記浄化手段により浄化した水を前記人工池または前記消火用水槽の少なくとも一方に送水する第一送水手段と、
前記人工池の水を前記人工池用水槽または前記消火用水槽の少なくとも一方に送水する第二送水手段と、
前記消火用水槽の水を前記人工池または前記人工池用水槽の少なくとも一方に送水する第三送水手段とを有することを特徴とする水循環システム。
【請求項2】
前記浄化手段は、水に深紫外線を照射して水中の細菌を殺菌する殺菌装置を有することを特徴とする請求項1に記載の水循環システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生態系環境保全と消火用水確保に好適な水循環システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、文化財や大規模建造物の周辺には水盤や池などが配置され、井戸や河川水などの自然水や上水などから給水を行いながら水景を維持することが行われている(例えば、特許文献1を参照)。冬季の乾燥時や夏季など、蒸散が大きい時には、毎日数トンの水補給を行いながら水質の維持を行っている事例が多い。水盤などの場合、補給水の制限があることや、より高い水質を求められることから、塩素消毒機器を備えた濾過機内に滞流水を循環させることで水質維持を行っていることが多い。
【0003】
また、文化財や大規模建築物では、火災などの消火活動を目的として消火用水(消防用水)が必要とされており、その多くは独立して配置された数トン~数十トンの消火用水槽(防火水槽)の水を用いることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-124541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、水盤の水景維持には、上水や河川、井戸などからの給水を要するため、環境への負荷となっていた。また、水盤の水質維持に用いる上水や消毒機器の残留塩素により、意図しない生態系への影響や負荷を与えるおそれがあった。塩素を含む水は、周辺に塩素由来の白華や汚れを生じさせ、清掃上の負荷となることがあった。
【0006】
また、消火用水槽については、水槽自体の設置場所、設置スペース、イニシャルコストなどが初期負担となり、維持においても、水槽の容量に応じた水質維持のため、多大な水を消費し交換する必要があった。また、水の交換頻度を下げると内部水や水槽が汚れる、腐るといった問題や、泥がたまる、藻が発生するなどの問題があり、消火活動や訓練で用いると、汚れや臭いが発生することがあった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、環境への負荷を低減することができる水循環システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る水循環システムは、雨水を貯留する雨水貯水槽と、人工池と、前記雨水貯水槽から供給される雨水を含む水を人工池用の水として貯留する人工池用水槽と、消火用水を貯留する消火用水槽とを備え、前記人工池と前記人工池用水槽と前記消火用水槽との間で水を循環可能な水循環システムであって、前記人工池用水槽の水を濾過および殺菌して浄化する浄化手段と、前記浄化手段により浄化した水を前記人工池または前記消火用水槽の少なくとも一方に送水する第一送水手段と、前記人工池の水を前記人工池用水槽または前記消火用水槽の少なくとも一方に送水する第二送水手段と、前記消火用水槽の水を前記人工池または前記人工池用水槽の少なくとも一方に送水する第三送水手段とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の水循環システムは、上述した発明において、前記浄化手段は、水に深紫外線を照射して水中の細菌を殺菌する殺菌装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る水循環システムによれば、雨水を貯留する雨水貯水槽と、人工池と、前記雨水貯水槽から供給される雨水を含む水を人工池用の水として貯留する人工池用水槽と、消火用水を貯留する消火用水槽とを備え、前記人工池と前記人工池用水槽と前記消火用水槽との間で水を循環可能な水循環システムであって、前記人工池用水槽の水を濾過および殺菌して浄化する浄化手段と、前記浄化手段により浄化した水を前記人工池または前記消火用水槽の少なくとも一方に送水する第一送水手段と、前記人工池の水を前記人工池用水槽または前記消火用水槽の少なくとも一方に送水する第二送水手段と、前記消火用水槽の水を前記人工池または前記人工池用水槽の少なくとも一方に送水する第三送水手段とを有するので、人工池と消火用水槽の水源に雨水を用いることで、上水や河川、井戸などの負担を減らすことができる。したがって、環境への負荷を低減することができるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明に係る他の水循環システムによれば、前記浄化手段は、水に深紫外線を照射して水中の細菌を殺菌する殺菌装置を有するので、塩素を用いない殺菌方法により、生態系への影響と塩素由来の汚れを低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に係る水循環システムの実施の形態を示す平面図である。
図2図2は、本発明に係る水循環システムの実施の形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る水循環システムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
図1および図2に示すように、本発明の実施の形態に係る水循環システム10は、文化財のような大規模建造物12の敷地14に設けられた雨水貯水槽16と、人工池18と、人工池用水槽20と、消火用水槽22とを備えており、人工池18と人工池用水槽20と消火用水槽22との間で水を循環可能にするものである。この水循環システム10は、浄化手段24と、第一送水手段26と、第二送水手段28と、第三送水手段30を有する。敷地14内には、はす池32、よし池34が設けられている。
【0015】
雨水貯水槽16は、敷地14およびその周辺の降雨水を貯留するものである。雨水貯水槽16と人工池用水槽20は送水路36で接続されており、雨水貯水槽16の水は、送水路36を介して人工池用水槽20に供給可能である。
【0016】
人工池18は、修景のために敷地14に設けられた水盤である。この人工池18には、人工池用水槽20の水が浄化手段24、第一送水手段26を介して供給可能である。人工池18には、4つの送水管28A~28Dが接続している。各送水管28A~28Dには、流量調整バルブが設けられるとともにポンプが連結される。送水管28A~28Dは、人工池用水槽20、消火用水槽22、はす池32、よし池34にそれぞれ接続しており、ポンプを作動することで、水盤から越流した水などを各送水管を介して所定の流量で送水可能である。送水管28A、28Bは、第二送水手段である。なお、送水先との間で高低差を確保できる場合には、ポンプを用いずに、重力の作用により自由落下で送水してもよい。
【0017】
人工池用水槽20は、雨水貯水槽16から供給される雨水を含む水を人工池用の水として貯留するものであり、水盤用水槽20Aと、戻水槽20Bとを有する。水盤用水槽20Aと戻水槽20Bは図示しないバルブを介して接続しており、バルブを開くと互いに連通する。また、一方の水槽内部には、図示しないポンプが設けられており、ポンプを作動することで送水可能である。水盤用水槽20Aと戻水槽20Bは、送水管38A、38Bを介して浄化手段24にそれぞれ接続している。各送水管38A、38Bには、流量調整バルブが設けられるとともにポンプが連結される。ポンプを作動することで、水盤用水槽20Aおよび戻水槽20Bの水は、送水管38A、38Bを介して浄化手段24に送られる。そこで浄化処理された後、送水管26A(第一送水手段26)を介して人工池18に供給可能である。なお、送水先との間で高低差を確保できる場合には、ポンプを用いずに、重力の作用により自由落下で送水してもよい。
【0018】
水盤用水槽20Aには、人工池18からの送水管28A(第二送水手段28)と、消火用水槽22からの送水管30A(第三送水手段30)がそれぞれ接続している。このため、水盤用水槽20Aは、人工池18の水と消火用水槽22の水を受け入れ可能である。戻水槽20Bには、雨水貯水槽16からの送水路36と、はす池32、よし池34からの排水路32A、34Aと、浄化手段24からの還水管40がそれぞれ接続している。このため、戻水槽20Bは、雨水貯水槽16の水と、はす池32、よし池34の水と、浄化手段24の水を受け入れ可能である。戻水槽20Bの水は、必要に応じて水盤用水槽20Aに送水される。
【0019】
消火用水槽22は、敷地14で用いる消火用水を貯留するものである。消火用水槽22は、火災時に使用される消火用散水栓や水幕消火設備に接続している。消火用水槽22には、人工池18の水が送水管28B(第二送水手段28)を介して供給可能である。また、消火用水槽22は、送水管30A(第三送水手段30)を介して水盤用水槽20Aと接続している。送水管30Aには、流量調整バルブが設けられるとともにポンプが連結される。ポンプを作動することで、消火用水槽22の水は、送水管30Aを介して水盤用水槽20Aに供給可能である。なお、送水先との間で高低差を確保できる場合には、ポンプを用いずに、重力の作用により自由落下で送水してもよい。
【0020】
浄化手段24は、人工池用水槽20から送られる水を濾過および殺菌して浄化するものであり、第一送水手段26に設けられた濾過装置24Aと、殺菌装置24Bを備える。濾過装置24Aは、人工池用水槽20から送られる水を濾過する。殺菌装置24Bは、濾過装置24Aで濾過した水を殺菌処理する。殺菌処理された水は、送水管26Aを介して人工池18に供給される。殺菌装置24Bには、還水管40が接続している。殺菌装置24Bは、LEDなどの光源から水に深紫外線を照射して水中の細菌を殺菌する装置である。この装置によれば、塩素を用いないので、生態系への影響と塩素由来の白華汚れを低減することができる。また、塩素を用いた殺菌方法に比べて、メンテナンスの頻度が減るので保守コストを低減することができる。
【0021】
本実施の形態によれば、人工池18と人工池用水槽20と消火用水槽22との間で水を循環可能である。また、人工池18と消火用水槽22の水源として雨水を用い、これを循環水として利用している。蒸散時に雨水貯水槽16から人工池用水槽20に補給を行うことで、河川、井戸などの水源や上水などの負担を減らすことができる。また、渇水期などでも、水源や上水への負担が少なく、上水からの補給は長期渇水時など付加的に行えばよいことから、水源や上水などの負担を減らすことができる。したがって、環境への負荷を低減することができる。また、水景による景観維持と消火用水確保を同時に行うことができる。
【0022】
また、人工池18などの水は深紫外線殺菌を行い、塩素や上水を用いないことにより、植物を含めた生態系や環境への負荷をかけず、水辺の生態系に有害な藻やバクテリアの発生を抑えつつも、残留塩素による生態系の攪乱などの影響や塩素由来の汚れなどを低減することができる。
【0023】
消火用水槽22を水循環システム10の一部に組み込んで、消火用水を入れ替え可能にすることで、消火用水の水質保全を行うことができる。このため、消火活動やその訓練時においても汚れや臭いを発生させない。特に文化財や大規模建築物においては、塩素を含んだ上水などを消火用水に用いた場合、汚れを誘発し、木部などは塩素などにより、汚れや色の変化が起きやすい。一方、本実施の形態では、消火活動や訓練の場合も文化財や大規模建築物の表面を汚さない。
【0024】
また、人工池18の水を消火用水として利用可能であるため、消火用水槽22自体の大きさや容積を小さくすることができる。これにより、人工池18などの水景設備として景観に配慮した配置計画が可能である。また、火災発生ゾーンのみに消火を行う消火設備(例えば、水幕消火設備)と組み合わせることで、消火用水自体の必要な容量を減らすことも可能である。
【0025】
上記の実施の形態においては、第一送水手段26の送水管26Aが人工池用水槽20の水を人工池18に送水する場合を例にとり説明したが、本発明の第一送水手段はこれに限るものではなく、人工池用水槽20の水を消火用水槽22に送水可能な構成であってもよい。また、人工池用水槽20の水を人工池18および消火用水槽22に送水可能な構成であってもよい。
【0026】
また、上記の実施の形態においては、第二送水手段28の送水管28A、28Bが人工池18の水を人工池用水槽20および消火用水槽22に送水する場合を例にとり説明したが、本発明の第二送水手段はこれに限るものではなく、人工池18の水を人工池用水槽20または消火用水槽22のいずれか一方に送水可能な構成であってもよい。
【0027】
また、上記の実施の形態においては、第三送水手段30の送水管30Aが消火用水槽22の水を人工池用水槽20に送水する場合を例にとり説明したが、本発明の第三送水手段はこれに限るものではなく、消火用水槽22の水を人工池18に送水可能な構成であってもよい。また、消火用水槽22の水を人工池18および人工池用水槽20の双方に送水可能な構成であってもよい。
【0028】
以上説明したように、本発明に係る水循環システムによれば、雨水を貯留する雨水貯水槽と、人工池と、前記雨水貯水槽から供給される雨水を含む水を人工池用の水として貯留する人工池用水槽と、消火用水を貯留する消火用水槽とを備え、前記人工池と前記人工池用水槽と前記消火用水槽との間で水を循環可能な水循環システムであって、前記人工池用水槽の水を濾過および殺菌して浄化する浄化手段と、前記浄化手段により浄化した水を前記人工池または前記消火用水槽の少なくとも一方に送水する第一送水手段と、前記人工池の水を前記人工池用水槽または前記消火用水槽の少なくとも一方に送水する第二送水手段と、前記消火用水槽の水を前記人工池または前記人工池用水槽の少なくとも一方に送水する第三送水手段とを有するので、人工池と消火用水槽の水源に雨水を用いることで、上水や河川、井戸などの負担を減らすことができる。したがって、環境への負荷を低減することができる。
【0029】
また、本発明に係る他の水循環システムによれば、前記浄化手段は、水に深紫外線を照射して水中の細菌を殺菌する殺菌装置を有するので、塩素を用いない殺菌方法により、生態系への影響と塩素由来の汚れを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明に係る水循環システムは、水盤・池の生態系環境保全と消火用水確保に有用であり、特に、環境への負荷を低減するのに適している。
【符号の説明】
【0031】
10 水循環システム
12 大規模建造物
14 敷地
16 雨水貯水槽
18 人工池
20 人工池用水槽
22 消火用水槽
24 浄化手段
26 第一送水手段
28 第二送水手段
30 第三送水手段
32 はす池
34 よし池
図1
図2