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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018581
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】加硫ゴムの分解方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/18 20060101AFI20250130BHJP
   C08C 19/08 20060101ALI20250130BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C08J11/18 ZAB
C08C19/08
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122420
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米山 史紀
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】谷川 大輔
【テーマコード(参考)】
4B065
4F401
4J100
【Fターム(参考)】
4B065AA38X
4B065AA45X
4B065AA50X
4B065AA56X
4B065AC17
4B065AC20
4B065BD25
4B065CA55
4F401AA03
4F401AA04
4F401CA66
4F401CA77
4F401FA06Z
4J100AS03P
4J100CA31
4J100GC03
4J100GC37
4J100HA51
4J100HE44
4J100HF05
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、加硫ゴムの分解を安価に実現することのできる、複合微生物系の分解方法を提供することである。
【解決手段】未加硫ポリイソプレン分解菌を含む複合微生物群を未加硫ポリイソプレンに接触させて順化し、順化複合微生物群を得る順化工程、及び、順化複合微生物群を加硫ゴムに接触させ加硫ゴムを分解する加硫ゴム分解工程、を含む、加硫ゴムの分解方法であり、好ましくは、順化工程は未加硫ポリイソプレン分解菌を含む天然ゴム廃水を未加硫ポリイソプレンに接触させて順化する処理工程であり、より好ましくは、順化工程における複合微生物群と未加硫ポリイソプレンの接触は、好気条件で行う方法、並びに、未加硫ポリイソプレン分解菌を含む複合微生物群を未加硫ポリイソプレンに接触させて順化することを含む、加硫ゴム分解能を有する複合微生物群の生産方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴム分解菌を含む複合微生物群を含有する、懸濁液、分散液又は溶液を、未加硫ゴムに接触させて順化し、順化複合微生物群を含む処理液を得る順化工程、及び、
順化複合微生物群を含む処理液を加硫ゴムに接触させ加硫ゴムを分解する加硫ゴム分解工程、
を含む、加硫ゴムの分解方法。
【請求項2】
懸濁液、分散液、又は溶液は、天然ゴムラテックスをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
懸濁液、分散液、又は溶液は、酸及び/又はアンモニアをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
懸濁液、分散液、又は溶液は、天然ゴム廃水である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
未加硫ゴム分解菌は、ノカルディア属、ストレプトマイセス属、ゴルドニア属、ロドコッカス属、又はキサントモナス属に属する未加硫ゴム分解菌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
複合微生物群は、マイクロバクテリウム属細菌をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
未加硫ゴムは、天然ゴム廃水中のゴム凝集塊である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
加硫ゴム分解工程開始時において、複合微生物群は、スピロソーマ属、ペドバクター属、パウシバクター属、エリザベトキンギア属、ブラディリゾビウム属、フラビソリバクター属、及びプロステコバクター属細菌から選ばれる1種以上の菌をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
加硫ゴム分解工程は、50日以上の期間実施する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
未加硫ゴム分解菌を含む複合微生物群を含有する、懸濁液、分散液又は溶液を、未加硫ゴムに接触させて順化することを含む、加硫ゴム分解能を有する複合微生物群の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴムの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品は、一般に製造時にポリイソプレンなどの高分子を硫黄などで共有結合による架橋を形成させる工程を含む。また、補強材、架橋反応形成のための促進剤、加工性を改善する可塑剤など、多くの配合剤を添加することで製品の機能・性能を実現させるため、ゴム材料中には共有結合・反応中間体を含む複雑な相互作用が存在する。上記材料中の複雑な相互作用により、ゴムはマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルを含む再利用が困難である。タイヤを含むゴム材料の多くは、回収後はサーマルリサイクルとして焼却されているのが実情である。一部物理化学的に分子をせん断することでリサイクル材も市場に存在するが、上記バージン材と比較して機能・性能が劣るため、使用できる製品や配合量が限定される。
【0003】
一方、ゴム分解能を有する微生物(ゴム分解菌)の存在が報告されている。例えば、特許文献1には、Nocardia Takedensisに帰属する放線菌BS-GS2株を、培地の炭素源として加硫ゴムを添加して前培養することで、その後の培養において天然ゴム分解能を確認できたことが記載されている。非特許文献1には、天然ゴム廃水処理システム中に蓄積したゴム塊表面には天然ゴム分解菌が蓄積することから、これらのゴム塊が天然ゴム分解細菌の植種源として使用可能であることが記載されている。特許文献2には、Nocardia属の放線菌BS-HA1株の培養液を遠心分離して得られる上澄み液を、ポリイソプレンゴム(IR)のクロロホルム溶液(未加硫ポリイソプレン)に添加し培養すると、ゴムの分子量が培養後に低下したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-247241号公報
【特許文献2】特開2009-13284号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】谷川ほか(2022)環境バイオテクノロジー学会2022年度大会、O-01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2に記載の技術は、単一微生物種の培養による技術であり、主に食品や医薬品の製造に用いられてはいるものの、コストへの課題から廃棄物の分解処理では実用化が困難である。また、単一微生物種を用いた技術は、コンタミを避けながら正常な培養を行うことが求められるため、制御のための操作が煩雑である。
【0007】
一般に、廃棄物の処理として産業レベルで用いられる微生物技術としては、活性汚泥など環境中で増殖する複合微生物系が用いられている。非特許文献1に記載の技術は複合微生物系ではあるものの、本報告で確認されたのは、未加硫のポリイソプレン分解能であり、加硫ゴムに関しては何ら言及がない。
従って、本発明の目的は、加硫ゴムの分解を安価に実現することのできる、複合微生物系の分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の〔1〕~〔10〕を提供する。
〔1〕未加硫ゴム分解菌を含む複合微生物群を含有する、懸濁液、分散液又は溶液を、未加硫ゴムに接触させて順化し、順化複合微生物群を含む処理液を得る順化工程、及び、順化複合微生物群を含む処理液を加硫ゴムに接触させ加硫ゴムを分解する加硫ゴム分解工程、を含む、加硫ゴムの分解方法。
〔2〕懸濁液、分散液、又は溶液は、天然ゴムラテックスをさらに含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕懸濁液、分散液、又は溶液は、酸及び/又はアンモニアをさらに含む、〔2〕に記載の方法。
〔4〕懸濁液、分散液、又は溶液は、天然ゴム廃水である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕未加硫ゴム分解菌は、ノカルディア属、ストレプトマイセス属、ゴルドニア属、ロドコッカス属、又はキサントモナス属に属する未加硫ゴム分解菌である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕複合微生物群は、マイクロバクテリウム属細菌をさらに含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕未加硫ゴムは、天然ゴム廃水中のゴム凝集塊である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕加硫ゴム分解工程開始時において、複合微生物群は、スピロソーマ属、ペドバクター属、パウシバクター属、エリザベトキンギア属、ブラディリゾビウム属、フラビソリバクター属、及びプロステコバクター属細菌から選ばれる1種以上の菌をさらに含む、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の方法。
〔9〕加硫ゴム分解工程は、50日以上の期間実施する、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の方法。
〔10〕未加硫ゴム分解菌を含む複合微生物群を含有する、懸濁液、分散液又は溶液を、未加硫ゴムに接触させて順化することを含む、加硫ゴム分解能を有する複合微生物群の生産方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定環境中で順化された微生物叢を用いることによって、単一微生物種ではなく、複合微生物群による硬質ゴムの分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例で用いたゴム廃水処理システムの模式図である。
図2図2は、実施例および比較例における溶解性CODの経時変化を示すグラフである。図2中、白丸、黒ひし形、黒四角、白四角は、それぞれ実施例1、比較例1、2、3の結果を示す。
図3図3は、実施例1における培養60日目の加硫ゴムシートの断面のSEM観察による写真図である。
図4図4は、比較例1における培養60日目の加硫ゴムシートの断面のSEM観察による写真図である。
図5図5は、実施例1における培養132日目の加硫ゴムシートの断面のSEM観察による写真図である。
図6図6は、比較例1における培養132日目の加硫ゴムシートの断面のSEM観察による写真図である。
図7図7は、実施例1、比較例2の細菌叢解析結果及びその経時変化を示すグラフである。図7中、Day0,60,168は、それぞれ、実施例1における培養開始時、60日目、168日目の結果である。また、Day60(C)は、比較例1における培養60日目の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔1.加硫ゴムの分解方法〕
加硫ゴムの分解方法は、順化工程、及び、加硫ゴム分解工程を含む。
【0012】
〔順化工程〕
順化工程は、未加硫ゴム分解菌を含む複合微生物群を未加硫ゴムに接触させ、複合微生物群を順化する工程である。これにより、順化され、加硫ゴム分解能を有する順化複合微生物群を得ることができる。
【0013】
-複合微生物群-
未加硫ゴム分解菌を含む複合微生物群は、未加硫ゴム分解菌を少なくとも含む複合微生物群である。未加硫ゴム分解菌は、未加硫ゴムの分解能を有する微生物であればよく、未加硫ゴムとしては、例えば、ポリイソプレン、水添ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、シリコーン等の各種未加硫ゴムが挙げられ、ポリイソプレンが好ましい。未加硫ゴム分解菌としては、例えば、ノカルディア(Nocardia)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ゴルドニア(Gordonia)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、キサントモナス(Xanthomonas)属、に属する未加硫ゴム(例えば、未加硫ポリイソプレン)分解菌が挙げられる。複合微生物群は、少なくとも1種の未加硫ポリイソプレン分解菌を含み、2種以上の組み合わせを含んでいてもよい。
【0014】
複合微生物群は、未加硫ゴム分解菌以外の微生物(以下、他の微生物と言うことがある)を含んでいてもよい。他の微生物としては、例えば、マイクロバクテリウム(Microbacterium)属、スピロソーマ(Spirosoma)属、ペドバクター(Pedobacter)属、パウシバクター(Paucibacter)属、エリザベトキンギア(Elizabethkingia)属、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)属、フラビソリバクター(Flavisolibacter)属、プロステコバクター(Prosthecobacter)属、アリサイクリフィルス(Alicycliphilus)属、セディミニバクテリウム(Sediminibacterium)属、シングリシャエラ(Singulishaera)属、キチノファーガ(Chitinophaga)属等の細菌が挙げられる。複合微生物群は、他の微生物を少なくとも1種含むことが好ましく、2種以上の組み合わせを含むことがより好ましく、マイクロバクテリウム属細菌を少なくとも含むことが好ましい。
【0015】
複合微生物群は、2種以上の微生物を含む。2種以上の微生物の態様としては、例えば、2種以上の未加硫ゴム分解菌の組み合わせ、1種以上の未加硫ゴム分解菌と1種以上の他の微生物の組み合わせ、が挙げられる。複合微生物群を構成する各菌の存在比率は、順化工程において変動してもよく、少なくとも加硫ゴム分解工程開始時点で、スピロソーマ(Spirosoma)属、ペドバクター(Pedobacter)属、パウシバクター(Paucibacter)属、エリザベトキンギア(Elizabethkingia)属、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)属、フラビソリバクター(Flavisolibacter)属、及びプロステコバクター(Prosthecobacter)属細菌から選ばれる1種以上の菌の存在比率が、他の細菌の存在比率よりも多いことが好ましく、これらの細菌のそれぞれの存在比率が、他の細菌の存在比率よりも多いことがより好ましい。
【0016】
-未加硫ゴム-
複合微生物群に接触させる未加硫ゴムは、天然ゴム、合成ゴムのいずれでもよいが、天然ゴムが好ましい。未加硫ゴムとしては、未加硫であれば天然ゴム、合成ゴムのいずれでもよく、例えば、ポリイソプレン、水添ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、シリコーン等の各種未加硫ゴムが挙げられ、ポリイソプレン(天然ゴム、合成ゴムのいずれでも)が好ましい。未加硫ゴムとしては、天然ゴム(例えばポリイソプレンゴム)廃水中に形成されるゴム凝集塊を用いることが好ましい。ゴム凝集塊は、ゴム産業におけるパイプ、リアクター等の設備の閉塞などによる不具合の原因であり、これを再利用できる点で操作の点から、また、経済面、環境面からも効率的である。天然ゴム廃水中のゴム凝集塊は、通常、ポリイソプレンである。天然ゴム廃水のゴム凝集塊は、例えば、天然ゴム廃水からゴム成分を抽出する方法の他、所定形状の複数の核ゴム(未加硫ゴム)を任意の装置(例えば、図1の装置)の反応槽に充填し、天然ゴム廃水を通液することにより、廃水中のゴムを核ゴム表面に付着させる方法が挙げられる。
【0017】
-複合微生物群を含有する液体-
接触の方法としては、例えば、複合微生物群を溶剤に添加し、懸濁液、分散液又は溶液(以下、懸濁液、分散液又は溶液をまとめて、液体と言うことがある)として、未加硫ゴムと接触させる方法が挙げられる。溶剤は、通常、水性溶剤(例えば、水、アルコール)であり、好ましくは水である。懸濁液、分散液、溶液の調製の際は、必要に応じて撹拌してもよい。
【0018】
複合微生物群を含有する液体は、さらに、天然ゴムラテックス、酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、ギ酸等の有機酸)、アンモニア等の他の成分を含んでもよく、天然ゴムラテックスを少なくとも含むことが好ましい。これにより、順化を効率的に進めることができる。
【0019】
複合微生物群を含有する液体としては、天然ゴム廃水を利用できる。天然ゴム廃水は、複合微生物群を含むため、これを利用することにより、原料の調製が容易となり効率的かつ安価に実施できるとともに、ゴム産業における廃液処理を省略し且つ再利用できるため、環境面からも好ましい。本明細書において、天然ゴム廃水とは、天然ゴムの抽出において、原料植物(ゴムノキ)から採種した樹液からラテックス等のゴム成分を分離抽出後に残る廃液である。複合微生物群は、分離抽出等の過程で混入するものと推測される。例えば、ラテックス等のゴム成分を含む樹液採種(タッピング)の際に用いる器具(例えば、ナイフ、カップ等の収集、保管、運搬容器、中でも長期間使用されてきた器具)に付着した微生物の混入、処理中に必要に応じて行われる希釈の際に用いられる水に含まれる微生物の混入、その他の環境中の微生物の混入が挙げられる。天然ゴム廃水は、通常、未分離のラテックスを含み、分離抽出の際に使用するアンモニア、有機酸(例、酢酸、プロピオン酸)等の酸を含むことが多い。天然ゴム廃水は、順化工程に供する前に、嫌気処理に供してもよい。嫌気処理により、有機酸に由来するメタンガスを除去できる。
【0020】
複合微生物群を含有する液体に含まれるアンモニアの量は、好ましくは100mg/L以上であり、好ましくは200mg/L以上である。その上限は、好ましくは500mg/L以下であり、好ましくは400mg/L以下である。したがって、複合微生物群を含有する液体に含まれるアンモニアの量は、好ましくは100~500mg/Lであり、好ましくは200~400mg/Lである。
【0021】
また、複合微生物群を含有する液体に含まれる有機酸の量は、特に制限されないが、通常、1000~8000mg/Lであり、好ましくは2000~5000mg/Lである。
例えば、有機酸が酢酸を含む場合、その含有量は特に制限されないが、複合微生物群を含有する液体中に通常500~4000mg/Lであり、好ましくは1000~2000mg/Lである。
有機酸が、プロピオン酸を含む場合、その含有量は特に制限されないが、複合微生物群を含有する液体中に通常500~4000mg/Lであり、好ましくは1000~3000mg/Lである。
【0022】
-接触処理-
接触は、例えば、流入および流出のための開口部を設けた反応槽(リアクター:例えば、流路型)に未加硫ゴムを充填し、複合微生物群を含む懸濁液、分散液又は溶液を加圧等を利用して反応槽に注入、通液し、必要に応じてこれを複数回繰り返して行うことができる。未加硫ゴムの充填密度は、反応槽の有効容積に対し、10~40%が好ましく、25~35%がより好ましい。充填する未加硫ゴムは、接触効率の観点から、複数個の未加硫ゴム塊(例えば、大きさが粒径1~20cm程度、好ましくは、2~10cm程度)であることが好ましい。
【0023】
複合微生物群と未加硫ゴムとの接触は、好気条件で行うことが好ましい。これにより、ゴムの凝固と分解を進行させることができ、順化を効率よく進めることができる。
【0024】
複合微生物群を含有する液体の、未加硫ゴムに接触させる直前の溶解性化学的酸素要求量(COD)、生物化学的酸素要求量(BOD)、浮遊物質量(SS)は特に限定されないが、一例をあげると以下のとおりである。CODは、通常、2000mg/L以下、好ましくは1500mg/L以下である。下限は、通常、10mg/L以上、好ましくは20mg/L以上である。BODは特に限定されないが、通常、5000mg/L以下、好ましくは4000mg/L以下である。下限は、通常、100mg/L以上、好ましくは1000mg/L以上である。SSは、通常、1500mg/L以下、好ましくは1000mg/L以下である。下限は、通常、100mg/L以上、好ましくは200mg/L以上である。これにより、順化工程後の反応液のCODの調整が容易となり得、以降の工程を効率的に進めることができる。
【0025】
本明細書において、CODは、HACH社のキットを使用して測定できる。また、BOD及びSSは、下水道試験法に準拠して行うことができる。
【0026】
接触処理の処理時間は、複合微生物群が順化されればよく、特に限定されないが、通常、12~60日間であり、好ましくは15~50時間であり、さらに好ましくは20~40時間である。また、温度条件は特に限定はなく、常温(例えば、15~35℃、好ましくは18~30℃)で行うことができる。
【0027】
接触処理後に回収水(未加硫ゴム(その凝集物)を含む溶液)から処理液を得ることができる。回収水は、必要に応じて、処理液の採取(ゴム成分の分離等の処理)前に、超音波処理等の後処理に供してもよい。接触処理後の液体には微生物が含まれるが、未加硫ゴムやその凝集物にも微生物が付着している場合があるところ、超音波処理により、これらの微生物を液体に懸濁させ、より多くの微生物を含む処理液を得ることができる。超音波処理は、市販の超音波洗浄機などを利用できる。
【0028】
-順化複合微生物群-
得られる処理液に含まれる順化複合微生物群は、順化工程を経た、加硫ゴム分解能を備える複合微生物群であればよく、微生物種、微生物種数については特に限定されないが、上記「複合微生物群」の項目で例示した未加硫ゴム分解菌を1種以上含有することが好ましい。また、順化複合微生物群は、上記「複合微生物群」の項目で記載した未加硫ゴム分解菌以外の微生物の1種以上をさらに含有してもよく、これらのうちマイクロバクテリウム属細菌をさらに含有することが好ましく、スピロソーマ属、ペドバクター属、パウシバクター属、エリザベトキンギア属、ブラディリゾビウム属、フラビソリバクター属、及びプロステコバクター属細菌から選ばれる1種以上の菌をさらに含むことがより好ましい。
【0029】
〔加硫ゴム分解工程〕
加硫ゴム分解工程は、順化工程で調製された、順化複合微生物群を含む処理液を、加硫ゴムに接触させ、加硫ゴムを分解する工程である。
【0030】
加硫ゴムとしては、通常、ポリイソプレンの加硫ゴムであり、天然ゴムでも合成ゴムでもよい。加硫ゴムとしては、例えば、ポリイソプレン、水添ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、シリコーン等の各種ゴム原料の加硫ゴムが挙げられ、接触工程で使用した未加硫ゴムと同じゴム原料の加硫ゴムであることが好ましい。加硫ゴムの製法は特に限定されず、例えば、ゴム原料(例えば、ポリイソプレン(天然ゴムラテックス、合成ポリイソプレン))を、補強材、老化防止剤、プロセスオイル等の原料を適宜合して混練りを開始し、高温で混練後、続いて、硫黄等の架橋剤、共架橋剤、加硫促進剤、ステアリン酸等の加硫助剤等を適宜に配合してオープンロールを用いてさらに混練する方法が挙げられる。
【0031】
順化複合微生物群を含む処理液を加硫ゴムに接触させる方法としては、順化複合微生物、及び加硫ゴムを培養槽に入れ、共に培養する方法が挙げられる。培養はコンタミネーションを防ぎつつ、通気して好気条件で行うことが好ましい。例えば、順化複合微生物群を含む処理液を培養槽に注入し、これに、加硫ゴムを入れて培養栓をし、振とう培養する方法が挙げられる。加硫ゴムの処理液に対する重量比は、通常、0.01~5重量%、好ましくは0.05~1重量%である。振とう培養の速度は特に限定されないが、例えば、好ましくは50~200rpm、より好ましくは100~150rpmである。
【0032】
処理液の、加硫ゴムへの接触直前のSSは、特に限定されないが、通常、5mg/L以上、好ましくは10mg/L以上、より好ましくは15mg/L以上である。上限は、通常、200mg/L以下、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは40mg/L以下である。従って、通常、5~200mg/Lであり、好ましくは10~100mg/L、より好ましくは15~40mg/Lである。これにより、加硫ゴムとの接触、分解により、順化複合微生物群を効率よく製造できる。
【0033】
分解工程における温度条件は、常温でよく、例えば、15~35℃、好ましくは18~30℃である。また、分解工程の実施時間は、例えば、50日以上、より好ましくは60日以上である。これにより、加硫ゴムを十分に分解できる。
【0034】
〔2.加硫ゴム分解能を有する複合微生物群の生産方法〕
上記の分解方法における順化工程を経ることにより、加硫ゴム分解能を有する複合微生物群を生産することができる。得られる複合微生物群は、加硫ゴムの分解に利用できる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例により説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0036】
実施例1
天然ゴム廃水の組成を模した模擬廃水を調製し、図1の装置を用いて処理し処理水を得た。図1の装置A1は、注入口11を備え排水路2に接続する注入管1、サンプル確認及び酸素供給が意図された開口部であるポート21および22、及び排出口23を備える排水路2と、排水路に供給する廃水サンプルを蓄積するための廃水タンク3と、廃水タンク3から送液管41を介して排水路2に廃水サンプルを連続的に送液するポンプ4を備える。装置A1の有効容積は2.4L(注入管1:0.5L+排水路2:1.9L)であった。排水路には、複数の核ゴムが充填されており、その充填密度は、排水路(リアクター)の有効容積に対し約30%であった。核ゴムは、本装置に充填後365日経過し、廃水処理に利用されてきた天然未加硫ポリイソプレンゴムであり、サイズは概ね3~6cmの粒状である。
【0037】
模擬廃水は、天然ゴム抽出の現場における天然ゴム廃水の組成を模して調製した。通常、採取したラテックスにアンモニアを添加し、ゴム分を凝固させるための酸を添加した後、これを洗浄した際の洗浄後の廃水として天然ゴム廃水が出る。そのため、模擬廃水は、天然ゴムラテックスにアンモニア、酢酸、プロピオン酸をそれぞれ250mg/L、1800mg/L、2000mg/Lとなるように添加して調製した。流入時の、Total CODは7290±630mg/L、Total BODは302±450mg/L、SS(浮遊物質濃度)は765±167mg/Lであった。CODは、HACH社のキットを用いて測定した。また、BOD及びSSは、下水道試験法に基づいて測定した。
【0038】
処理は以下の手順で行った。まず、模擬廃水を廃水タンクに収容し、送液ポンプを利用して排水路の注入口より連続的に送液した(排水流量:1.9L/day、室温:25℃)。廃水は、ポート1通過までにゴム粒子径が増加傾向にあり、凝固が進むものと推測され、また、ポート1通過後にはゴム粒子径が減少傾向にあり、ゴムの低分子化が進むものと推測された。排水路のポート2の更に下流には排出口が開口し、処理水を回収タンクに導き、収容した。排水路における廃水の滞留時間は1日であった。
【0039】
回収水をさらに超音波処理し、ゴム成分とゴム微生物を含む処理水を得た。超音波処理は、ULTRASONIC CLEANER VS-150(アズワン社製)を用いて、50hz、15分の条件で行った(n=2、以下の比較例も同じ)。
【0040】
処理水250mL(加硫ゴムシート浸漬開始時のSS:17.5mg/L)を採取し、10×10×0.5mmの加硫ゴムシート複数枚(処理水に対する重量比約0.1重量%)と共に300mLサイズのフラスコに入れた。加硫ゴムシートの調製にあたり、表1に示す配合剤の配合は、A練り(ステアリン酸、硫黄、加硫促進剤以外の配合剤のゴムポリマーへの分散処理)をラボプラストミルで、B練り(ステアリン酸、硫黄、加硫促進剤の分散処理)をオープンロールで行った。B練り後のゴムを、0.5mm厚の金型とプレス機を用いて、150℃で20分間プレス加硫を行った。加硫後のゴムをはさみで切断し、上記サイズに調整して加硫ゴムシートとした。
【0041】
フラスコの開口部にシリコン栓を装着し、通気を確保しつつ外部からの細菌のコンタミを防止した。上記のフラスコを、室温(約20~約25℃)に調整された環境中で、120rpmの振とう速度で培養を行った。
【0042】
比較例1
実施例1の処理水の代わりに、住友理工社小牧製作所内で生活排水の浄化槽から採取した活性汚泥(加硫ゴムシート浸漬開始時の加硫ゴム分解工程開始時SS:22.0mg/L)をそのまま用いた他は、実施例1と同様に行った。
【0043】
比較例2及び3
加硫ゴムシートを用いる培養を行わなかった他は、実施例1、比較例1と同様に行った。
【0044】
【表1】
【0045】
[表1の脚注]
*1 ショウブラック 昭和キャボット社製
*2 サンセラーCZ-G 三新化学工業社製、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)
*3 サルファックス 分散性硫黄 鶴見化学工業社製
*4 サンセン410 日本サン石油社製
【0046】
培養中の各サンプルを定期的に採取し、COD(化学的酸素要求量)をHACH社製の測定キットを利用して分析した。培養200日目までの溶解性CODの結果を、図2に示す。ゴムを加えないコントロール(比較例2、3)や生活用水の活性汚泥(比較例1)では、溶解性CODの上昇がみられなかったのに対し、ゴムを加えたサンプル(実施例1)では上昇がみられ、中でも培養60日目までにおいて大きな上昇がみられた。また、97日目以降のCOD増加速度を実施例1と比較例1とで比べると、実施例の方が約2.4倍高かった(それぞれ0.226mg/L、0.094mg/L)。これらの結果は、実施例1においては、加硫ゴム中のポリマーが比較的早期から低分子化したことを示唆していた。
【0047】
実施例1及び比較例1の各サンプル液中のゴムを定期的に採取し、熱分解GCおよび走査型電子顕微鏡を用いる断面の観察を行った。その結果、培養60日目、132日目の表面の断面の観察結果から明らかなとおり、比較例1のサンプルと比較して、実施例1のサンプルにおいて材料の大きな変質がみられ、60日目にはすでに、表面から深さ約50μm以上にわたって材料の変質が観察された(図3~6)。これらの結果は、実施例1において、加硫ゴム中のポリマーが表層から変質、すなわち分解されたことを示唆していた。
【0048】
また、実施例1のサンプルの培養60日目の培養液(培養液に加硫ゴムシート表面の生物膜を懸濁させた液)からDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子をPCR法で増幅させ、次世代シーケンサーMiSeqを用いて細菌叢の解析を行った(図7)。その結果、ゴムを添加したサンプルからは、培養60日目という早期において、Microbacterium属細菌とゴム分解菌として報告が多いNocardia属細菌が高頻度に検出された。これらの細菌は、培養168日目でも優占化していることが確認された。Nocardia属の存在比は、実施例1では実験初期から継続的に増加しており、COD濃度の挙動と一致していた。一方、加硫ゴム片を添加しない比較例2、3では、Nocardia属は検出されなかった。
【0049】
これらの結果は、本発明の方法によれば、加硫ゴムを分解でき、自動車用部品に使用される硬質なゴム材料の分解も実現可能であることを示している。
【符号の説明】
【0050】
A1 ゴム廃水処理装置
1 注入管
11 注入口
2 排水路
21、22 ポート
23 排出口
3 廃水タンク
4 ポンプ
41 送液管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7