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特開2025-18592ポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法、及びポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018592
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法、及びポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/22 20060101AFI20250130BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20250130BHJP
   B29C 44/44 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C08J9/22
B29C44/00 G
B29C44/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122443
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 達也
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA71
4F074AB03
4F074AC02
4F074AC11
4F074AC13
4F074AD12
4F074AD16
4F074AG04
4F074AG06
4F074AG10
4F074BA32
4F074BC12
4F074CA34
4F074CA39
4F074CA42
4F074CA48
4F074DA02
4F074DA22
4F214AA29
4F214AB02
4F214AC01
4F214AG20
4F214UA21
4F214UB01
4F214UF01
4F214UF02
4F214UG21
4F214UJ01
(57)【要約】
【課題】耐熱性及び軽量性に優れたポリアミド系樹脂発泡成形体を優れた成形性にて製造できるポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法、及び該ポリアミド系樹脂発泡粒子を用いたポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材樹脂と有機化合物系添加剤(A)とヨウ化物系添加剤(X)とを溶融混練したポリアミド系樹脂溶融物を造粒することによりポリアミド系樹脂粒子を得る。ポリアミド系樹脂粒子を、物理発泡剤を用いて発泡させることによりポリアミド系樹脂発泡粒子を得る。ポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形することにより、ポリアミド系樹脂発泡成形体を製造する。有機化合物系添加剤(A)はヒンダードフェノール系化合物及び/又は有機リン系化合物からなる。ヨウ化物系添加剤(X)はヨウ化銅、又はヨウ化銅及びヨウ化カリウムからなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂を基材樹脂とするポリアミド系樹脂発泡粒子を製造する方法であって、
前記基材樹脂と、ヒンダードフェノール系化合物及び/又は有機リン系化合物からなる有機化合物系添加剤(A)と、ヨウ化銅、又はヨウ化銅及びヨウ化カリウムからなるヨウ化物系添加剤(X)とを溶融混練したポリアミド系樹脂溶融物を造粒することにより得られたポリアミド系樹脂粒子を準備する工程と、
該ポリアミド系樹脂粒子を、発泡剤を用いて発泡させることによりポリアミド系樹脂発泡粒子を得る工程と、を含み、
前記基材樹脂100質量部に対する前記有機化合物系添加剤(A)の添加量が0.05質量部以上5質量部以下であり、
前記ヨウ化物系添加剤(X)の添加量に対する前記有機化合物系添加剤(A)の添加量の比が0.3以上7以下である、ポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ヨウ化物系添加剤(X)の添加量に対する、前記有機化合物系添加剤(A)の添加量の比が1以上4以下である、請求項1に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂溶融物が前記有機化合物系添加剤(A)として前記ヒンダードフェノール系化合物(A1)及び前記有機リン系化合物(A2)を含み、前記ヒンダードフェノール系化合物(A1)の添加量に対する前記有機リン系化合物(A2)の添加量の比が0.5以上2以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項4】
前記基材樹脂100質量部に対する前記ヨウ化物系添加剤(X)の添加量が0.1質量部以上である、請求項1又は2に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項5】
前記ポリアミド系樹脂溶融物がさらにカーボンブラックを含み、該カーボンブラックの添加量が前記基材樹脂100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造されたポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形する、ポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系樹脂を基材樹脂とするポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法、ポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系樹脂は、耐熱性が高く、また耐摩耗性、耐薬品性等にも優れた樹脂として知られている。このポリアミド系樹脂を発泡させた発泡成形体は、耐熱性、耐摩耗性、及び耐薬品性等の優れた特性を保ちつつ、軽量化を図ることが可能である。そのためポリアミド系樹脂発泡成形体は、自動車部品やその他の用途への展開が期待される。
【0003】
ポリアミド系樹脂発泡成形体の耐熱性をより向上させるために、ヨウ化銅等の耐熱剤を添加することが検討されている。例えば特許文献1には、ポリアミド系樹脂発泡粒子に卑金属元素含有化合物を含有させる技術が提案されており、特許文献1によれば、かかる技術により、熱安定性に優れるポリアミド系樹脂発泡粒子が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/196893号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヨウ化銅などの卑金属元素含有化合物を含有させることにより、ポリアミド系樹脂発泡成形体の耐熱性は向上するが、成形性に改良の余地があった。具体的には、ヨウ化銅等の耐熱剤を含有させたポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形して成形体を得ようとすると二次発泡性に劣り、発泡粒子間の間隙が埋まらずに成形体の表面性が劣り、成形体の表面性において改善の余地があった。特に、成形体の角部分においては、二次発泡性が悪く表面性が劣るポリアミド系樹脂発泡粒子成形体となり易いという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れたポリアミド系樹脂発泡成形体を優れた成形性にて製造できるポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法、及び該ポリアミド系樹脂発泡粒子を用いたポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、以下の[1]~[5]にかかるポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法にある。
[1]ポリアミド系樹脂を基材樹脂とするポリアミド系樹脂発泡粒子を製造する方法であって、
前記基材樹脂と、ヒンダードフェノール系化合物及び/又は有機リン系化合物からなる有機化合物系添加剤(A)と、ヨウ化銅、又はヨウ化銅及びヨウ化カリウムからなるヨウ化物系添加剤(X)とを溶融混練したポリアミド系樹脂溶融物を造粒することにより得られたポリアミド系樹脂粒子を準備する工程と、
該ポリアミド系樹脂粒子を、発泡剤を用いて発泡させることによりポリアミド系樹脂発泡粒子を得る工程と、を含み、
前記基材樹脂100質量部に対する前記有機化合物系添加剤(A)の添加量が0.05質量部以上5質量部以下であり、
前記ヨウ化物系添加剤(X)の添加量に対する前記有機化合物系添加剤(A)の添加量の比が0.3以上7以下である、ポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【0008】
[2]前記ヨウ化物系添加剤(X)の添加量に対する、前記有機化合物系添加剤(A)の添加量の比が1以上4以下である、[1]に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
[3]前記ポリアミド系樹脂溶融物が前記有機化合物系添加剤(A)として前記ヒンダードフェノール系化合物(A1)及び前記有機リン系化合物(A2)を含み、前記ヒンダードフェノール系化合物(A1)の添加量に対する前記有機リン系化合物(A2)の添加量の比が0.5以上2以下である、[1]又は[2]に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
[4]前記基材樹脂100質量部に対する前記ヨウ化物系添加剤(X)の添加量が0.1質量部以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
[5]前記ポリアミド系樹脂溶融物がさらにカーボンブラックを含み、該カーボンブラックの添加量が前記基材樹脂100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【0009】
本発明の他の態様は、以下の[6]にかかるポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法にある。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の製造方法により製造されたポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形する、ポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
前記発泡粒子の製造方法によれば、耐熱性に優れたポリアミド系樹脂発泡成形体を優れた成形性にて製造できるポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法を提供することができる。また、前記成形体の製造方法によれば、耐熱性に優れたポリアミド系樹脂発泡成形体を優れた成形性にて製造できるポリアミド系樹脂発泡粒子成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書においては、「ポリアミド系樹脂粒子」のことを「樹脂粒子」と称し、「ポリアミド系樹脂発泡粒子」のことを「発泡粒子」と称し、「ポリアミド系樹脂発泡成形体」のことを「成形体」と称することがある。また、本明細書において、数値範囲を表す表現として「~」という記号を用いる場合、その前後に記載される数値を含む意味で用いることとする。
【0012】
[発泡粒子の製造方法]
発泡粒子は、以下の準備工程及び発泡工程により製造され、例えば成形体の製造に用いられる。準備工程は、ポリアミド系樹脂粒子を準備する工程である、準備工程では、基材樹脂と、ヒンダードフェノール系化合物(A1)及び/又は有機リン系化合物(A2)からなる有機化合物系添加剤(A)と、ヨウ化銅、又はヨウ化銅及びヨウ化カリウムからなるヨウ化物系添加剤(X)とを溶融混練したポリアミド系樹脂溶融物を造粒する。準備工程では、すべての操作を一つ工程で行うこともできるが、下記のように準備工程を例えば溶融混練工程と造粒工程とに分けて行うこともできる。
【0013】
溶融混練工程では、基材樹脂、有機化合物系添加剤(A)、及びヨウ化物系添加剤(X)を溶融混練することによりポリアミド系樹脂溶融物を得る。有機化合物系添加剤(A)は、ヒンダードアミン系化合物及び/又は有機リン系化合物からなる有機化合物を意味し、ヒンダードアミン系化合物及び有機リン系化合物以外の有機化合物を含まない概念である。ヨウ化物系添加剤(X)は、ヨウ化銅、あるいはヨウ化銅とヨウ化カリウムとからなる金属ヨウ化物を意味し、ヨウ化銅及びヨウ化カリウム以外の金属ヨウ化物を含まない概念である。なお、ヨウ化物系添加剤(X)は、ヨウ化カリウムを使用しない場合にはヨウ化銅を意味し、ヨウ化銅と共にヨウ化カリウムを使用する場合にはヨウ化銅とヨウ化カリウムとを意味する。
造粒工程では、ポリアミド系樹脂溶融物を造粒することによりポリアミド系樹脂粒子を得る。発泡工程では、ポリアミド系樹脂粒子を、発泡剤を用いて発泡させることによりポリアミド系樹脂発泡粒子を得る。以下、各工程について詳説する。
【0014】
<溶融混練工程>
・基材樹脂
溶融混練工程では、発泡粒子の基材樹脂としてポリアミド系樹脂が用いられ、基材樹脂を有機化合物系添加剤(A)及びヨウ化物系添加剤(X)と共に溶融混練する。基材樹脂は、例えば、発泡粒子を構成する樹脂のうち含有量が50質量%を超える樹脂を意味する。発泡粒子を構成する樹脂のうちのポリアミド系樹脂の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更により好ましい。発泡粒子を構成する樹脂は、実質的にポリアミド系樹脂のみから構成されていることが特に好ましい。
【0015】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリアミド共重合体が用いられる。
ポリアミドとしては、例えば、ポリ(カプロラクタム)としても知られるポリ(6-アミノヘキサン酸)(別名:ポリカプロアミド、ナイロン6)、ポリ(ラウロラクタム)(別名:ナイロン12)、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(別名:ナイロン66)、ポリ(7-アミノヘプタン酸)(別名:ナイロン7)、ポリ(8-アミノオクタン酸)(別名:ナイロン8)、ポリ(9-アミノノナン酸)(別名:ナイロン9)、ポリ(10-アミノデカン酸)(別名:ナイロン10)、ポリ(11-アミノウンデカン酸)(別名:ナイロン11)、ポリ(ヘキサメチレンセバカミド)(別名:ナイロン610)、ポリ(デカメチレンセバカミド)(別名:ナイロン1010)、ポリ(ヘキサメチレンアゼラミド)(別名:ナイロン69)、ポリ(テトラメチレンアジパミド)(別名:ナイロン46)、ポリ(テトラメチレンセバカミド)(別名:ナイロン410)、ポリ(ペンタメチレンアジパミド)(別名:ナイロン56)、ポリ(ペンタメチレンセバカミド)(別名:ナイロン510)等のホモポリマーが挙げられる。ポリアミド共重合体とは、2種以上の繰り返し単位を有し、それぞれの繰り返し単位の少なくとも一部にアミド結合を有するものを意味する。ポリアミド共重合体としては、例えば、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(別名:ナイロン6/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ラウリルラクタム(別名:ナイロン6/66/12)共重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(別名:ナイロン6/12)等が挙げられる。ポリアミド系樹脂は、これらのポリアミド及びポリアミド共重合体を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。以上のポリアミド系樹脂の中でも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66、及びナイロン6/66/12からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ナイロン6/66及び/又はナイロン6/66/12であることがより好ましい。
【0016】
ポリアミド共重合体は、ある一定量同じ繰り返し単位のアミドが続いた後に異なる種類のアミドがある一定量続くブロック共重合体であっても、異なる種類のアミドがそれぞれランダムに繰り返すランダム共重合体であってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。ポリアミド共重合体がランダム共重合体であれば、発泡粒子を型内成形する際に、より低い成形圧力で成形することが可能となる。
【0017】
ポリアミド系樹脂は、分子鎖末端の官能基が封鎖されている末端封鎖ポリアミド系樹脂とすることができる。これにより、発泡粒子の製造過程での加水分解をより確実に抑制することができ、より型内成形に耐えうる発泡粒子が得られやすくなる。
【0018】
分子鎖末端の封鎖には、末端封鎖剤を用いることができる。末端封鎖剤としては、例えばカルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物等が用いられ、これらの中でもカルボジイミド化合物が好ましい。具体的には、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド(例えば、ラインケミー社製「Stabaxol 1-LF」)等の芳香族モノカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミド(例えば、ラインケミー社製「Stabaxol P」、「Stabaxol P100」、「Stabaxol P400」等)、ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等の脂肪族ポリカルボジイミド(例えば日清紡ケミカル(株)製「カルボジライトLA-1」)等が挙げられる。これらの末端封鎖剤は単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
末端封鎖剤の配合量は、ポリアミド系樹脂100質量部に対して0.1~5質量部が好ましく、0.5~3質量部がより好ましい。
【0020】
・他の熱可塑性樹脂
溶融混練工程では、本発明の目的、効果を阻害しない範囲において、基材樹脂としてのポリアミド系樹脂以外に、他の熱可塑性樹脂を添加することができる。他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、酢酸ビニル樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリーレンスルフィド系樹脂等が挙げられる。
【0021】
・有機化合物系添加剤(A)、ヨウ化物系添加剤(X)
溶融混練工程では、有機化合物系添加剤(A)として、ヒンダードフェノール系化合物(A1)及び/又は有機リン系化合物(A2)を用いる。有機化合物系添加剤(A)は、例えば、発泡粒子の酸化防止剤として用いられる。また、溶融混練工程では、ヨウ化物系添加剤(X)としてヨウ化銅、又は、ヨウ化銅とヨウ化カリウムとを用いる。ヨウ化物系添加剤(X)は、例えば、ポリアミド系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子の耐熱剤として用いられる。
従来、ポリアミド系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子では、発泡粒子の二次発泡性が不足し、成形体の表面性が劣ることがあった。特に、成形体の角部分においては、二次発泡性が悪く表面性が劣るポリアミド系樹脂発泡粒子成形体となることがあった。本開示では、有機化合物系添加剤(A)とヨウ化物系添加剤(X)とを用いることによってポリアミド系樹脂発泡粒子成形体の耐熱性が向上すると共に、二次発泡性が向上することがわかった。その結果、表面性が良く成形性に優れるポリアミド系樹脂発泡粒子成形体が得られる。また、成形圧力条件が特に低圧側に広くなる傾向があり、低圧力での成形が可能となり、少ない加熱媒体量で成形できるため成形時において必要な加熱媒体を削減することができることが明らかになった。さらに、有機化合物系添加剤(A)とヨウ化物系添加剤(X)との相乗効果により、高倍率での発泡が可能になり、成形体の軽量性が向上することがわかった。
【0022】
前記有機化合物系添加剤(A)と前記ヨウ化物系添加剤(X)との併用により、成形性が向上する理由は、次のように考えられる。基材樹脂、有機化合物系添加剤(A)、及びヨウ化物系添加剤(X)を溶融混練することによりポリアミド系樹脂溶融物を得る工程は、例えば、押出機に基材樹脂、有機化合物系添加剤(A)、及びヨウ化物系添加剤(X)を供給し、押出機にて溶融混練することにより行われる。このとき、一般的には、基材樹脂、有機化合物系添加剤(A)、及びヨウ化物系添加剤(X)を十分に溶融混練するため基材樹脂の融点付近で溶融混練して樹脂溶融物を得ることが行われる。前記溶融混練を行う際、有機化合物系添加剤(A)、及びヨウ化物系添加剤(X)が存在することによりポリアミド系樹脂の分子鎖の切断が抑制され、ポリアミド系樹脂本来の発泡性能を維持することができ、それにより成形時の二次発泡性が向上し、成形可能圧力範囲が広く、成形性に優れるポリアミド系樹脂発泡粒子が得られると考えられる。また、ポリアミド系樹脂の分子鎖の切断が抑制されることから軽量性に優れる発泡粒子が得られ、成形時の二次発泡性が向上することから軽量性に優れる発泡粒子成形体が得られる。成形性の向上効果について、成形が難しい成形体の角部分であっても二次発泡性に優れ、表面性が優れるポリアミド系樹脂発泡粒子成形体が得られる。型内成形において、成形体の角部分の二次発泡性が優れるということは、肉厚な成形体や厚肉部分と薄肉部分とを有するような複雑な形状を有する成形体であっても成形性に優れる成形体が得られることを意味する。
【0023】
また、ポリアミド系樹脂粒子を、発泡剤を用いて発泡させることによりポリアミド系樹脂発泡粒子を得る工程は、例えば、密閉容器内で樹脂粒子を水等の液体中に分散させ、分散液を得る分散工程、分散液中の樹脂粒子に発泡剤を含浸させる含浸工程、及び発泡剤を含む樹脂粒子を水と共に密閉容器内から密閉容器内の圧力よりも低圧下に放出して発泡させる発泡工程(換言すれば、開放工程)により行われる。特に、樹脂粒子を水中に分散させる際にはポリアミド系樹脂粒子が可塑化され加水分解し易くなる。前記分散工程、前記含浸工程、及び前記発泡工程を有する製造方法においては、前記有機化合物系添加剤(A)及び前記ヨウ化物系添加剤(X)が存在することによりポリアミド系樹脂の分子鎖の切断がより抑制され、それにより成形時の二次発泡性が向上し、成形性に優れるポリアミド系樹脂発泡粒子が得られ易くなると考えられる。
【0024】
基材樹脂100質量部に対する有機化合物系添加剤(A)の添加量は、0.05質量部以上5質量部以下である。有機化合物系添加剤(A)の添加量が0.05質量部未満の場合には、成形性向上効果や軽量性向上効果が不十分になるおそれがある。一方、添加量が5質量部を超える場合には、成形性が低下するおそれがある。同様の観点から、基材樹脂100質量部に対する有機化合物系添加剤(A)の添加量は0.1質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上1.5質量部以下であることがより好ましい。さらに広い成形可能圧力範囲を維持しつつ、成形体の収縮率を低くする観点から、有機化合物系添加剤(A)の添加量が0.3質量部以上1質量部以下を満足することがさらに好ましい。なお、有機化合物系添加剤(A)の添加量は、ヒンダードフェノール系化合物(A1)の添加量と有機リン系化合物(A2)の添加量との合計であり、いずれか一方の添加量が0である場合を包含する。
【0025】
有機化合物系添加剤(A)は、ヒンダードフェノール系化合物(A1)及び有機リン系化合物(A2)の両方を含むことが好ましい。また、有機化合物系添加剤(A)は、ヒンダードフェノール系化合物(A1)及び有機リン系化合物(A2)を含み、かつヒンダードフェノール系化合物(A1)の添加量に対する有機リン系化合物(A2)の添加量の比が0.5以上2以下であることがより好ましい。ヒンダードフェノール系化合物(A1)の添加量に対する有機リン系化合物(A2)の添加量の比が特定の範囲を満足する場合には、有機化合物系添加剤(A)とヨウ化物系添加剤(X)との相乗効果によって、ポリアミド系樹脂の加水分解をより防止することができ、より軽量性に優れる発泡粒子を得ることが可能になる。この効果がより向上する観点から、有機化合物系添加剤(A)がヒンダードフェノール系化合物(A1)及び有機リン系化合物(A2)を含む場合において、ヒンダードフェノール系化合物(A1)の添加量に対する有機リン系化合物(A2)の添加量の比が0.7以上1.5以下であることがより好ましく、0.8以上1.3以下であることがさらに好ましい。
【0026】
ヒンダードフェノール系化合物(A1)は、2~6つのヒンダードフェノール構造を有することが好ましく、2つのヒンダードフェノール構造を有することがより好ましい。また、ヒンダードフェノール系化合物は、アミド結合を有することが好ましく、アミド結合を有するヒンダード型ヒンダードフェノール系化合物がより好ましい。ヒンダードアミン系化合物がアミド結合を有するヒンダード型ヒンダードフェノール系化合物の場合には、ヒンダードアミン系化合物は、2~6つのアミド結合と、2~6つのヒンダード型ヒンダードフェノール構造を有することが好ましく、2~6つのジ-tert-ブチル-4ヒドロキシフェニルアルキルカルボニルアミド基を有することがより好ましく、ジ-tert-ブチル-4ヒドロキシフェニルアルキルカルボニルアミド基におけるアルキル鎖部分の炭素数は1~5が好ましく、2~4がより好ましい。ヒンダードフェノール系化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物であるN、N’-ヘキサン-1,6ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4ヒドロキシフェニルプロピオンアミド]であることが特に好ましい。
【0027】
【化1】
【0028】
有機リン系化合物(A2)としては、例えば亜リン酸トリエステルを用いることができ、トリス(イソデシル)フォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、フェニルイソオクチルフォスファイト、フェニルイソデシルフォスファイト、フェニルジ(トリデシル)フォスファイト、ジフェニルイソオクチルフォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、4,4’イソプロピリデンジフェノールアルキルフォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト、トリスジノニルフェニルフォスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリス(ビフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラトリデシル4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)ジフォスファイト、ヘキサトリデシル1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタントリフォスファイト、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルフォスファイトジエチルエステル、ソジウムビス(4-t-ブチルフェニル)フォスファイト、ソジウム-2,2-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)-フォスファイト、1,3-ビス(ジフェノキシフォスフォニロキシ)-ベンゼン、亜リン酸エチルビス(2,4-ジtert-ブチル-6-メチルフェニル)等が挙げられる。その他にも、フォスファイト構造を有するオリゴマータイプ、ポリマータイプの化合物等も使用することができる。有機リン系化合物としては、下記一般式(2)で表されるトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトであることが好ましい。
【0029】
【化2】
【0030】
ヒンダードフェノール系化合物(A1)及び/又は有機リン系化合物(A2)からなる有機化合物系添加剤(A)は、例えば、発泡粒子の酸化防止剤として用いられる。基材樹脂には、本発明の目的、効果を阻害しない範囲において、ヒンダードフェノール系化合物(A1)、及び有機リン系化合物(A2)以外の他の酸化防止剤を添加してもよい。他の酸化防止剤としては、硫黄系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等を用いることができる。
【0031】
ヨウ化物系添加剤(X)の添加量に対する有機化合物系添加剤(A)の添加量の比(つまり、ヨウ化銅とヨウ化カリウムとの総添加量に対する、ヒンダードフェノール系化合物(A1)と有機リン系化合物(A2)との総添加量の比)は0.3以上7以下である。添加量の比が0.3未満の場合には、成形性が不十分になるおそれがある。一方、添加量の比が7を超える場合には、発泡粒子の成形性が不十分になり、また、成形体の耐熱性が不十分になって高温環境下での収縮が大きくなるおそれがある。同様の観点から、ヨウ化物系添加剤(X)の添加量に対する有機化合物系添加剤(A)の添加量の比は、0.5以上5以下であることが好ましく、1以上4以下であることがより好ましく、1.5以上3以下であることがさらに好ましい。なお、ヨウ化銅系添加剤(X)の添加量は、ヨウ化銅の添加量とヨウ化カリウムの添加量との合計であり、いずれか一方の添加量が0である場合を包含する。
【0032】
ヨウ化物系添加剤(X)は、前記のようにヨウ化銅、又はヨウ化銅とヨウ化カリウムからなる。つまり、ヨウ化物系添加剤(X)としては、少なくともヨウ化銅を用い、ヨウ化銅と共にヨウ化カリウムを用いることもできる。
【0033】
基材樹脂100質量部に対するヨウ化物系添加剤(X)の添加量は0.01質量部以上1質量部以下であることが好ましい。この場合には、より耐熱性に優れた成形体とすることができる。同様の観点から、基材樹脂100質量部に対するヨウ化物系添加剤の添加量は0.02質量部以上0.5質量部以下であることがより好ましく、0.03質量部以上0.2質量部以下であることがさらに好ましい。
【0034】
難燃性が向上すると共に、ヨウ化銅系添加剤(X)と有機化合物系添加剤(A)との併用による前述の効果がより向上する観点から、ヨウ化物系添加剤(X)は、ヨウ化銅とヨウ化カリウムとからなることが好ましい。ヨウ化銅の添加量に対するヨウ化カリウムの添加量の比は、0.5以上20以下であることが好ましい。この場合には、少ないヨウ化物系添加剤(X)の添加量であっても、より耐熱性に優れた成形体とすることができる。同様の観点からヨウ化銅の添加量に対するヨウ化カリウムの添加量の比は、1以上10以下であることがより好ましく、2以上6以下であることがさらに好ましい。
【0035】
前記のように、ヨウ化物系添加剤(X)は、難燃剤としての機能を示すことができるが、溶融混練工程では、本発明の目的、効果を阻害しない範囲において、ヨウ化物系添加剤(X)以外の金属ハロゲン化物からなる難燃剤を添加することができる。この場合、金属ハロゲン化物中のヨウ化物系添加剤(X)の添加量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、金属ハロゲン化物は実質的にヨウ化物系添加剤(X)からなることが特に好ましい。
【0036】
ヨウ化物系添加剤(X)以外の金属ハロゲン化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物;ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属ハロゲン化物;ヨウ化マンガン(II)、臭化マンガン(II)、塩化マンガン(II)などの第7族金属ハロゲン化物;ヨウ化鉄(II)、臭化鉄(II)、塩化鉄(II)などの第8族金属ハロゲン化物;ヨウ化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、塩化コバルト(II)などの第9族金属ハロゲン化物;ヨウ化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)などの第10族金属ハロゲン化物;臭化銅(I)、塩化銅(I)などの第11族金属ハロゲン化物;ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛などの第12族金属ハロゲン化物;ヨウ化アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、塩化アルミニウム(III)などの第13族金属ハロゲン化物;ヨウ化スズ(II)、臭化スズ(II)、塩化スズ(II)などの第14族金属ハロゲン化物;三ヨウ化アンチモン、三臭化アンチモン、三塩化アンチモン、ヨウ化ビスマス(III)、臭化ビスマス(III)、および塩化ビスマス(III)などの第15族金属ハロゲン化物などが挙げられる。他の金属ハロゲン化物としては、これらの1種を用いることもできるし、2種以上併用することもできる。
成形性がより向上する観点、コストが低くなる観点、環境や生物への悪影響を低くする観点からは、金属ハロゲン化物を構成する金属は、銅又は亜鉛であることが好ましい。また、耐熱性がより向上する観点からは、金属ハロゲン化物を構成するハロゲンはヨウ素であることが好ましい。
【0037】
基材樹脂100質量部に対する金属ハロゲン化物の添加量(具体的には、ヨウ化物系添加剤(X)とヨウ化物系添加剤(X)以外の金属ハロゲン化物との総添加量)は0.05質量部以上1質量部以下であることが好ましい。この場合には、より耐熱性に優れた成形体とすることができる。同様の観点から、金属ハロゲン化物の添加量は、0.07質量部以上0.8質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上0.6質量部以下であることがさらに好ましい。なお、金属ハロゲン化物の添加量は、ヨウ化物系添加剤(X)を含む金属ハロゲン化物の総添加量を意味する。
【0038】
溶融混練工程では、気泡核剤、帯電防止剤、導電性付与剤、滑剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属不活性化剤、結晶核剤、着色剤、充填材等の各種の添加剤を、必要に応じて適宜添加することができる。これらの各種添加剤の添加量は、成形体の使用目的により異なるが、基材樹脂100質量部に対して25質量部以下であることが好ましい。より好ましくは15質量部以下であり、更に好ましくは10質量部以下であり、更により好ましくは5質量部以下である。
【0039】
溶融混練工程では、さらにカーボンブラックを添加することができ、前記ポリアミド系樹脂溶融物はカーボンブラックを含むことができる。ポリアミド系樹脂溶融物はカーボンブラックを含み、かつカーボンブラックの添加量は基材樹脂100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。この場合には、高温環境下でも経時的な変色の少ない黒色の発泡粒子及び成形体の製造が可能になる。したがって、発泡粒子、成形体は、車両用部材(具体的には、内装部材、外装部材)等に好適になる。同様の観点から、基材樹脂100質量部に対するカーボンブラックの添加量は0.7質量部以上7質量部以下であることがより好ましく、1.5質量部以上5質量部以下であることがさらに好ましい。通常、カーボンブラックを添加すると成形性が低下するが、本開示の製造方法では、有機化合物系添加剤(A)及びヨウ化物系添加剤(X)を特定量、特定比率で用いているため、カーボンブラックを添加しても優れた成形性を維持することができる。
【0040】
溶融混練は、例えば押出機にて行われる。樹脂温度は、例えば250~300℃である。樹脂温度は、押出機における先端のヘッド部の樹脂温度である。
【0041】
<造粒工程>
造粒工程では、ポリアミド系樹脂溶融物を造粒する。これにより、ポリアミド系樹脂粒子を得る。造粒は、例えば次のようにして行われる。まず、ポリアミド系樹脂溶融物を押出機からストランド状に押し出し、押し出されたストランドを冷却し固化させる。次いで、ストランドの固化物を切断する。このようにしてポリアミド系樹脂溶融物の造粒が行われ、樹脂粒子を得ることができる。
【0042】
<発泡工程>
発泡工程は、前述のとおり、例えば分散工程、含浸工程、及び開放工程により行われ、
発泡工程では、発泡剤を用いて樹脂粒子を発泡させることにより発泡粒子を得る。具体的には、発泡剤を樹脂粒子に含浸させ、加熱、圧力変化、体積変化等により発泡剤を含む樹脂粒子を発泡させる。
【0043】
発泡剤としては、有機系物理発泡剤、無機系物理発泡剤を用いることができる。有機系物理発泡剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1-ジフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のジアルキルエーテル等が挙げられる。また、無機系物理発泡剤としては、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、アルゴン、空気等が挙げられる。
【0044】
物理発泡剤の中でも、環境への影響が少ないとともに可燃性がなく安全性に優れるという観点から、無機系物理発泡剤が好ましく、二酸化炭素又は窒素がより好ましく、二酸化炭素が更に好ましい。
【0045】
発泡工程は、発泡剤の樹脂粒子への含浸と、樹脂粒子の発泡が行われる限り特に制限はないが、たとえば次の[1]又は[2]の方法により行われる。
[1]樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、発泡剤を含浸させた樹脂粒子を発泡させずに取り出し、その後に発泡装置にて加熱して発泡粒子を得る方法。
[2]密閉装置内の分散媒(具体的には、液体)中に分散した樹脂粒子に発泡剤を含浸させるとともに、樹脂の軟化温度付近に昇温した後、低圧下で分散媒と共に樹脂粒子を装置外に放出することで発泡粒子を得る方法。
発泡工程は、前記[2]の方法により行われることが好ましい。
【0046】
以下に[2]の方法をさらに詳説する。
【0047】
発泡工程は、次の分散工程、含浸工程、保持工程、及び放出工程により行われることが好ましい。
(1)分散工程では、密閉容器内で樹脂粒子を水中に分散させ、分散液を得る。
(2)含浸工程では、分散液中の樹脂粒子に物理発泡剤を含浸させる。
(3)保持工程では、分散液を、樹脂粒子の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上50℃低い温度(Tm-50℃)未満で1分以上60分以下の保持時間で保持する。
(4)放出工程では、発泡させる直前の分散液の温度(Te)を樹脂粒子の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上、50℃低い温度(Tm-50℃)未満とし、発泡剤を含む樹脂粒子を水と共に密閉容器内から密閉容器内の圧力よりも低圧下に放出して発泡させる。
発泡工程は、分散工程、含浸工程、保持工程、及び放出工程以外の工程を有していてもよいし、いずれかの工程において、更に他の成分を添加してもよい。含浸工程と保持工程は同時に行っても良く、保持工程を含浸工程よりも先に行っても後に行っても構わない。
【0048】
(分散工程)
分散工程は、密閉容器内で樹脂粒子を水中に分散させ、分散液を得る工程である。樹脂粒子を水中に分散させる方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、撹拌機を使用して、水を撹拌しながら水に樹脂粒子を添加し、更に撹拌することによって、分散液を得ることができる。また、必要に応じて分散液に、酸化アルミニウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、マイカ、タルク、スメクタイト等の無機物質等の分散剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤等の分散助剤を添加することが好ましい。樹脂粒子と分散剤との質量比(樹脂粒子/分散剤)は、20~2000とすることが好ましく、より好ましくは30~1000である。また、分散剤と分散助剤との質量比(分散剤/分散助剤)は、1~500とすることが好ましく、より好ましくは1~100である。
【0049】
(含浸工程)
含浸工程は、分散液中の樹脂粒子に発泡剤を含浸させる工程である。また、同時に樹脂粒子を吸水させることもできる。樹脂粒子への発泡剤の含浸方法は特に限定されるものではないが、オートクレーブ等の加圧可能な密閉容器内で樹脂粒子を水中に分散させ、樹脂粒子に発泡剤を含浸させることが好ましい。なお、発泡剤を樹脂粒子に短時間で十分に含浸させる観点から、樹脂粒子への発泡剤の含浸は、加圧に加えて、加熱することが好ましい。
【0050】
含浸工程は、加圧が行われる場合、密閉容器内の圧力が、大気圧から含浸時の圧力(以下、含浸圧力ともいう。)まで到達する工程を含む。
また、発泡剤を含浸させる工程は、樹脂粒子を水中に分散せた分散液を、常温から含浸時の温度(以下、含浸温度ともいう。)まで加熱する工程を含む。
【0051】
含浸工程が加熱下で行われる場合、発泡剤を樹脂粒子に短時間で十分に含浸させる観点から、含浸温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上であり、好ましくは樹脂粒子の融点(Tm(℃))以下、より好ましくは(Tm-20(℃))以下である。
【0052】
また、加圧下で行われる含浸時の圧力(以下、含浸圧力ともいう。)は、発泡剤を樹脂粒子に短時間で十分に含浸させる観点から、分散液が入った容器に発泡剤を添加することにより、密閉容器内の圧力が、1.5MPa(G)以上となるようにすることが好ましく、2.5MPa(G)以上となるようにすることがより好ましく、7MPa(G)以下となるようにすることが好ましく、5MPa(G)以下となるようにすることがより好ましい。なお、「(G)」は、ゲージ圧を意味し、例えば「1.5MPa(G)」は、ゲージ圧で1.5MPaであることを意味する。
【0053】
分散工程及び含浸工程は、樹脂粒子を吸水させる役割も有する。樹脂粒子を十分に吸水させて可塑化させる観点から、分散液を得る工程及び発泡剤を含浸させる工程の合計時間が20分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましい。一方、発泡粒子の生産性の観点からは、前記時間が60分以下であることが好ましい。また、含浸工程における昇温速度は、樹脂粒子を十分に吸水させて可塑化させる観点から、10℃/分以下とすることが好ましく、7℃/分以下とすることがより好ましい。一方、発泡粒子の生産性の観点から、昇温速度は、1℃/分以上とすることが好ましく、2℃/分以上とすることがより好ましい。
【0054】
(保持工程)
保持工程は、分散液を、樹脂粒子の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上50℃低い温度(Tm-50℃)未満で1分以上60分以下の保持時間で保持する工程である。保持工程における分散液の保持温度は、ポリアミド系樹脂を十分に吸水させ可塑化させる観点、及び発泡剤を樹脂粒子に均一に含浸させる観点から、樹脂粒子の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上、好ましくは80℃低い温度(Tm-80℃)以上、より好ましくは70℃低い温度(Tm-70℃)以上、更に好ましくは65℃低い温度(Tm-65℃)以上であり、50℃低い温度(Tm-50℃)未満、好ましくは55℃低い温度(Tm-55℃)以下、より好ましくは57℃低い温度(Tm-57℃)以下、更に好ましくは59℃低い温度(Tm-59℃)以下である。
【0055】
通常、ポリプロピレン系樹脂等の汎用樹脂を基材樹脂とする発泡粒子を製造する際、原材料の樹脂の融点付近で保持を行う。しかしながら、ポリアミド系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子の製造方法においては、樹脂粒子の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上、50℃低い温度(Tm-50℃)未満で保持することが好ましい。これは、ポリアミド系樹脂が吸湿性を有するため、分散液として用いる水により樹脂粒子が可塑化され、融点が大幅に下がり、その結果、樹脂粒子の融点よりも大幅に低い温度で、発泡粒子を製造することが可能になるためと考えられる。
【0056】
保持工程における保持時間は、発泡剤を樹脂粒子に均一に含浸させ、高い独立気泡率を有する発泡粒子を得る観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上、更に好ましくは10分以上、更により好ましくは13分以上である。そして、発泡粒子の生産性の観点、及びポリアミド系樹脂の加水分解を防ぐ観点から、保持する工程における保持時間は、好ましくは60分以下、より好ましくは40分以下、更に好ましくは30分以下、更により好ましくは20分以下、特に好ましくは18分以下である。前記時間で保持することにより、見掛け密度が低く、独立気泡率が高いポリアミド系樹脂発泡粒子を得ることが可能となる。保持する工程は、前記温度範囲内で多段階に設定することもでき、また、該温度範囲内で十分な時間を要してゆっくりと昇温させることも可能である。容易に製造が可能であるという観点からは、前記温度範囲内で一段階(保持温度が一定)に設定し、前記時間保持することが好ましい。
【0057】
保持工程は、発泡剤を樹脂粒子に均一に含浸させる観点から、加圧下で行われることが好ましく、含浸圧力と同じ圧力を維持することが好ましい。分散液が入った容器内の圧力は、1.5MPa(G)以上となるようにすることが好ましく、2.5MPa(G)以上となるようにすることがより好ましい。また、分散液が入った容器内の圧力は、7MPa(G)以下となるようにすることが好ましく、5MPa(G)以下となるようにすることがより好ましい。
【0058】
(放出工程)
放出工程は、発泡剤を含浸した樹脂粒子を発泡させる工程であり、発泡剤が含浸した樹脂粒子を水とともに、保持する工程における圧力より低い圧力雰囲気下(通常は大気圧下)に放出して発泡させることにより行われる。放出工程は、例えば保持工程に続いて行われる。
【0059】
発泡させる直前の分散液の温度Te(以下、発泡温度ともいう。)は、見掛け密度が低く、独立気泡率が高い発泡粒子を得る観点から、好ましくは樹脂粒子の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上、より好ましくは80℃低い温度(Tm-80℃)以上、更に好ましくは70℃低い温度(Tm-70℃)以上、更により好ましくは65℃低い温度(Tm-65℃)以上である。また、発泡温度は、好ましくは樹脂粒子の融点(Tm)よりも50℃低い温度(Tm-50℃)未満、より好ましくは55℃低い温度(Tm-55℃)以下、更に好ましくは57℃低い温度(Tm-57℃)以下、更により好ましくは59℃低い温度(Tm-59℃)以下である。
【0060】
放出工程における放出直前の圧力(発泡圧力)は、好ましくは0.5MPa(G)以上、より好ましくは1.5MPa(G)以上、更に好ましくは2.5MPa(G)以上である。また、発泡圧力は、好ましくは10MPa(G)以下、より好ましくは7MPa(G)以下、更に好ましくは5MPa(G)以下である。
【0061】
[発泡粒子]
(見掛け密度)
発泡粒子の見掛け密度は、50~200kg/mであることが好ましい。この場合には、発泡粒子及び成形体が、優れた軽量性を有しながら、ポリアミド系樹脂の機械的性質を十分に発揮することができる。この効果がより向上する観点から、発泡粒子の見掛け密度は、55~150kg/mであることがより好ましく、60~130kg/mであることが更に好ましい。見掛け密度は、次のようにして測定される。まず、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて2日間放置した約500cmの発泡粒子の質量W1を測定する。次に、温度23℃の水の入ったメスシリンダーを用意し、このメスシリンダー内で、質量を測定した発泡粒子を、金網を使用して沈める。金網の体積を考慮して、水位上昇分より読みとられる発泡粒子の容積V1[単位:cm]を測定し、発泡粒子の質量W1[g]を容積V1で割り算し(W1/V1)、単位を[kg/m]に換算することにより、発泡粒子の見掛け密度を求める。
【0062】
[成形体の製造方法]
発泡粒子を型内成形することにより、成形体が得られる。成形体は、発泡粒子が相互に融着して構成される。
【0063】
型内成形法は、従来公知の方法を採用することできるが、スチームによる加熱を用いることが好ましい。スチームにより、発泡粒子中のポリアミド系樹脂が、吸水し可塑化するため、成形圧力を低くすることが可能となる。なお、得られた成形体を乾燥して水分を除去すれば、ポリアミド系樹脂本来の物性に戻り、成形体は高い耐熱性を有する成形体となる。
【0064】
型内成形は、例えば次のようにして行われる。まず、発泡粒子を成形型に充填する。次いで、成形型内にスチームを供給し、発泡粒子を加熱して融着させる。加熱終了後、放圧し、成形体の発泡力による表面圧力が所定の圧力(例えば、0.02~0.04MPa(ゲージ圧))に低下するまで水冷したのち、型を開放し成形体を型から取り出す。
【0065】
[成形体]
(厚み)
本開示の製造方法によって得られるポリアミド系樹脂発泡粒子は、成形性に優れるため厚物の(つまり、厚みの大きな)成形体の成形に好適である。具体的には、発泡粒子成形体の厚みは、30mm以上であることが好ましく、35mm以上であることがより好ましい。
【0066】
(密度)
軽量性がより十分向上する観点から、成形体の密度は、40~200kg/mであることが好ましく、45~150kg/mであることがより好ましく、50~120kg/mであることが更に好ましい。成形体の密度は、成形体の質量を外形寸法で除し、単位を[kg/m3]に換算することにより求められる。
【0067】
(融着率)
外観や成形体の機械的性質がより向上する観点から、成形体の融着率は90%以上であることが好ましい。融着率の測定方法については後述する。
【0068】
(加熱後の収縮率)
高温環境下での収縮をより十分に防止できる観点から、温度160℃で20日間加熱後の収縮率は、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.4%以下であることがさらに好ましい。加熱後の成形体の収縮率は、前記のようにヨウ化物系添加剤(X)と有機化合物系添加剤(A)とを組み合わせて使用することにより、前記範囲に調整することができる。収縮率の測定方法については後述する。
【実施例0069】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の要旨を超えない限り、種々の変更が可能である。
【0070】
[実施例1]
[樹脂粒子の製造]
押出機に、ポリアミド系樹脂100質量部、ヒンダードフェノール系化合物0.2質量部、有機リン系化合物0.2質量部、ヨウ化銅0.05質量部、ヨウ化カリウム0.2質量部、気泡核剤(具体的にはタルク)0.3重量部を供給し、溶融混練して溶融混練物を得た。なお、ポリアミド系樹脂としては宇部興産株式会社製の「UBEナイロン6434B」を使用し、ヒンダードフェノール系化合物としてはN、N’-ヘキサン-1,6ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4ヒドロキシフェニルプロピオンアミド](BASFジャパン株式会社製の「Irganox1098」)を使用し、有機リン系化合物としてトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト(BASFジャパン株式会社製の「Irgafos168」)を使用し、気泡核剤としてはタルク(林化成株式会社製の「タルカンパウダーKHP-125B」)を使用した。
溶融混練物を、押出機先端に取り付けた口金の細孔から断面円形状のストランドとして押出し、押出されたストランドを水冷した後、ペレタイザーで質量が1個当たりの平均質量が2mgとなるように切断し、乾燥してペレット状の樹脂粒子を得た。樹脂粒子の融点は186℃であった。
なお、ポリアミド系樹脂「6434B」は、ポリアミド6/66/12コポリマー(ナイロン6/66/12)、融点(Tm):188℃、密度1.14g/cm、曲げ弾性率:1070MPa、製品名:UBEナイロン6434Bである。
【0071】
[発泡粒子の製造]
撹拌機を備えた5リットルのオートクレーブ内に、樹脂粒子500gと、分散媒として水3.5リットルを、仕込み、更に、樹脂粒子100質量部に対して、分散剤としてカオリン0.3質量部と、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.004質量部とを添加した。オートクレーブ内の内容物を撹拌しながら室温(具体的には、23℃)から含浸温度(131.5℃)まで昇温しながら、該オートクレーブ内に発泡剤として二酸化炭素を、オートクレーブ内の圧力が含浸圧力(4.0MPa(G))となるまで圧入した。このとき、室温(23℃)から含浸温度(131.5℃)に到達するまでの昇温時間は40分であった。次に、131℃、4.0MPa(G)で15分間保持した。
その後、発泡剤が含浸された樹脂粒子を分散媒とともに大気圧(0.1MPa)下に放出することにより、樹脂粒子を発泡させ、発泡粒子を得た。発泡温度(発泡させる直前の分散液の温度)は131.5℃である。次いで、発泡粒子を60℃のオーブン内にて24時間養生し、その後23℃まで徐冷した。このようにして得られた発泡粒子を後述の評価や成形体の製造に用いた。
【0072】
[成形体の製造]
次に、発泡粒子を用いて成形体を作製した。具体的には、成形型を型締めした後、得られた発泡粒子を縦200mm×横65mm×厚さ40mmの平板成形型に充填し、スチーム加熱による型内成形を行なって板状の発泡成形体を得た。
【0073】
加熱方法は両面の型のドレン弁を開放した状態でスチームを5秒間供給して予備加熱(排気工程)を行ったのち、固定側のドレン弁を開放した状態で移動側型よりスチームを供給し、次いで移動側のドレン弁を開放した状態で固定側型よりスチームを供給した後、排気弁を閉鎖し、成形加熱スチーム圧力0.12MPa(成形圧力=成形蒸気圧)まで加熱した。加熱終了後、放圧し、成形体の発泡力による表面圧力が0.02MPa(ゲージ圧)に低下するまで水冷したのち、型を開放し成形体を型から取り出した。その後、80℃のオーブン内に静置し、24時間後に取り出し成形体を得た。
【0074】
<発泡粒子の評価>
以下のようにして発泡粒子の評価を行った。その結果を表に示す。
(見掛け密度)
まず、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて2日間放置した約500cmの発泡粒子の質量W1を測定した。次に、温度23℃の水の入ったメスシリンダーを用意し、このメスシリンダー内で質量を測定した発泡粒子を、金網を使用して沈めた。金網の体積を考慮して、水位上昇分より読みとられる発泡粒子の容積V1[単位:cm]を測定し、発泡粒子の質量W1[g]を容積V1で割り算し(W1/V1)、単位を[kg/m]に換算することにより、発泡粒子の見掛け密度を求めた。
【0075】
<成形性の評価>
成形性の評価は、成形圧を変更しながら発泡粒子の型内成形を行い、成形可能範囲を評価することにより行った。まず、成形圧を0.10~0.18[MPa(G):ゲージ圧)]の間で0.02MPaずつ変化させ、合計4点の成形圧で型内成形を行った。次いで、各成形圧で製造された成形体について、融着性、回復性、及び表面性(成形体中央部、成形体角部)の評価を行った。前記評価が全て合格となる成形体を成形可能な成形圧が2点以上存在する場合を「A」と評価し、前記評価が全て合格となる成形体を成形可能な成形圧が1点存在する場合を「B」と評価し、前記評価が全て合格となる成形体を成形可能な成形圧が存在しない場合を「C」と評価した。
【0076】
(融着性)
成形体の融着性を評価するため融着率を測定し、融着率が80%以上である場合を「A(合格)」、融着率が40%以上80%未満である場合を「B(不合格)」、融着率が40%未満である場合を「C(不合格)」と評価した。
成形体の融着率は、以下の方法により測定した。平板形状の成形体を試験片として用い、その主面(つまり、面積が最も広い面)の一方に、カッターナイフで成形体の縦の長さを2等分する位置に厚み方向に約10mmの深さの切り込みを入れ、切り込み部から成形体を折り曲げて破断させた。破断面に存在する材料破壊した発泡粒子の個数mと、破断面に存在する全部の発泡粒子の個数nの比(m/n×100[%])、つまり材料破壊率を算出した。なお、成形体を折り曲げても破断できない場合は、その融着率は100%であるとした。異なる試験片を用いて前記測定を5回行い、それぞれの材料破壊率を求め、それらを算術平均して融着率とした。
【0077】
(回復性)
成形体を温度23℃相対湿度50%の環境下に24時間静置した後、平板形状の成形体の主面(つまり、面積が最も広い面)の中央部分と、主面の四隅部分の厚みをそれぞれ測定し、四隅部分のうち最も厚みが厚い部分に対する中央部分の厚みの比が90%以上である場合を「A(合格)」、90%未満である場合を「C(不合格)」と評価した。
【0078】
(表面性)
・中央部
平板形状の成形体表面の中央部(具体的には、成形体の各面の中央部)を目視により確認し、外観を下記の基準で評価した。
A(合格):表面の中央部が美麗で外観に優れるものであった
B(不合格):表面の中央部にボイド(具体的には、発泡粒子間の間隙)が散見され、外観に劣るものであった
C(不合格):表面の中央部にボイド(具体的には、発泡粒子間の間隙)が顕著に確認され、外観に劣るものであった
・角部
平板形状の成形体表面の角部分(成形体の角から半径10mmまでの範囲)を目視により確認し、外観を以下の基準で評価した。
A(合格):表面の角部分が美麗で外観に優れるものであった
B(不合格):表面の角部分にボイド(具体的には、発泡粒子間の間隙)が散見され、外観に劣るものであった
C(不合格):表面の角部分にボイド(具体的には、発泡粒子間の間隙)が顕著に確認され、外観に劣るものであった
【0079】
<成形体の評価>
以下のようにして発泡粒子の評価を行った。その結果を表に示す。
(密度)
成形体の質量を外形寸法で除し、単位を[kg/m3]に換算することにより、成形体の密度を求めた。
【0080】
(成形体の成形収縮率)
成形体の成形後、160℃の乾燥機内で成形体を20日間加熱した。その後、成形体の寸法を測定し、縦、横、厚さの長さをそれぞれa’、b’、c’とし、金型の寸法(内部寸法)の縦、横、厚さの長さをそれぞれa、b、cとしたときの次式で示される値を成形体の成形収縮率(%)とした。成形体の成形収縮率の値が小さいほど、成形収縮が抑制されていることを意味する。
(式) 成形収縮率(%)=[|(a-a’)/a|+|(b-b’)/b|+|(c-c’)/c|]×100/3
【0081】
[実施例2]
基材樹脂100質量部に対するヒンダードフェノール系化合物の添加量を0.1質量部に変更し、基材樹脂100質量部に対する有機リン系化合物の添加量を0.1質量部に変更した以外は、実施例1と同様である。
【0082】
[実施例3]
溶融混練時に、基材樹脂100質量部に対してカーボンブラック2.5質量部をさらに添加した以外は、実施例1と同様である。
【0083】
[実施例4]
基材樹脂100質量部に対する有機リン系化合物の添加量を0.4質量部に変更した以外は、実施例1と同様である。
【0084】
[実施例5]
基材樹脂100質量部に対するヒンダードフェノール系化合物の添加量を0.4質量部に変更し、基材樹脂100質量部に対する有機リン系化合物の添加量を0.4質量部に変更した以外は、実施例1と同様である。
【0085】
[実施例6]
基材樹脂100質量部に対するヒンダードフェノール系化合物の添加量を0.6質量部に変更し、基材樹脂100質量部に対する有機リン系化合物の添加量を0.6質量部に変更した以外は、実施例1と同様である。
【0086】
[比較例1]
溶融混練時に、有機化合物系添加剤(A)(ヒンダードフェノール系化合物、有機リン系化合物)及びヨウ化物系添加剤(X)(ヨウ化銅、ヨウ化カリウム)を押出機に供給しなかった以外は、実施例1と同様である。
【0087】
[比較例2]
溶融混練時に、有機化合物系添加剤(A)(ヒンダードフェノール系化合物、有機リン系化合物)を押出機に供給しなかった以外は、実施例1と同様である。
【0088】
[比較例3]
溶融混練時に、ヨウ化物系添加剤(X)(ヨウ化銅、ヨウ化カリウム)を押出機に供給しなかった以外は、実施例1と同様である。
【0089】
[比較例4]
有機化合物系添加剤(A)(ヒンダードフェノール系化合物、有機リン系化合物)の添加量を少なくし、ヨウ化物系添加剤(X)(ヨウ化銅、ヨウ化カリウム)の添加量を増やした以外は、実施例1と同様である。
【0090】
[比較例5]
ヨウ化物系添加剤(X)(ヨウ化銅、ヨウ化カリウム)の添加量を少なくした以外は、実施例1と同様である。
【0091】
[比較例6]
有機化合物系添加剤(A)(ヒンダードフェノール系化合物、有機リン系化合物)の添加量を多くした以外は、実施例1と同様である。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
表1、表2より理解されるように、実施例の発泡粒子は、高倍率に発泡され、軽量性が良好であり、成形性にも優れている。また、実施例の成形体は、密度が低く、軽量性が良好である共に、加熱後の収縮率が小さく、耐熱性に優れている。
表3~表6より理解されるように、実施例の成形体は、表面性に優れ、広い成形圧力範囲で得られている。また、実施例の成形体は、成形圧力条件が低圧力でも成形性に優れている。これは、実施例では、溶融混練時に基材樹脂に対して、有機化合物系添加剤(A)及びヨウ化物系添加剤(X)が所定の割合で添加されているためである。
また、本例では、カルボジイミド化合物などの末端封鎖剤を用いておらず、分子鎖末端の官能基が封鎖されていない(つまり、加水分解されやすい)ポリアミド系樹脂が用いられているにも関わらず、成形性に優れている。これは、前記のように有機化合物系添加剤(A)とヨウ化物系添加剤(X)とが所定の割合で併用されているためであると考えられる。末端封鎖剤を用いることにより、加水分解が抑制されるため、さらに成形性が向上すると考えられる。なお、表1及び表2の成形体の密度及び収縮率は、表3~表6において評価が全て合格である成形体が得られた中で最も低い成形圧で得られた成形体を使用し、評価が全て合格である成形体が得られなかった比較例については、成形性が不合格であるが、評価が最もよかった成形圧で得られた成形体を使用した。
【0099】
比較例1では、有機化合物系添加剤(A)及びヨウ化物系添加剤(X)が添加されていないため、耐熱性が悪く、成形性も劣っている。
比較例2では、ヨウ化物系添加剤(X)が添加されているものの、有機化合物系添加剤(A)が添加されていない。そのため、成形性が不十分である。
【0100】
比較例3では、有機化合物系添加剤(A)が添加されているものの、ヨウ化物系添加剤(X)が添加されていない。そのため、耐熱性が悪く、成形性も不十分である。
【0101】
比較例4では、有機化合物系添加剤(A)の添加量が少なく、ヨウ化物系添加剤(X)の添加量に対する有機化合物系添加剤(A)の添加量の比が低くすぎる。そのため、型内成形性が不十分である。
比較例5では、ヨウ化物系添加剤(X)の添加量が少なく、ヨウ化物系添加剤(X)の添加量に対する有機化合物系添加剤(A)の添加量の比が高すぎる。そのため、耐熱性が悪く、型内成形性も不十分である。
比較例6では、有機化合物系添加剤(A)の添加量が多く、ヨウ化物系添加剤(X)の添加量に対する有機化合物系添加剤(A)の添加量の比が高すぎる。そのため、型内成形性が不十分である。
【0102】
このように、溶融混練時に、基材樹脂に対して、ヒンダードフェノール系化合物及び/又は有機リン系化合物からなる有機化合物系添加剤(A)と、ヨウ化銅、又はヨウ化銅及びヨウ化カリウムからなるヨウ化物系添加剤(X)とを添加し、その添加量を調整することにより、耐熱性及び軽量性に優れたポリアミド系樹脂発泡成形体の製造が可能であり、成形性に優れた発泡粒子が得られる。