(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001862
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】時系列信号予測装置、放射線治療装置、時系列信号予測方法、プログラム、および記憶媒体
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
A61N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101589
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆介
(72)【発明者】
【氏名】森 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】添川 泰大
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC02
4C082AC03
4C082AC04
4C082AC05
4C082AC06
4C082AC07
4C082AE01
4C082AG08
4C082AJ08
4C082AN04
4C082AP08
(57)【要約】
【課題】患者の生体情報に関する時系列信号の高速かつ高精度な予測を行うこと。
【解決手段】実施形態の時系列信号予測装置は、時系列信号取得部と、ブロック変換部と、特徴ベクトル取得部と、特徴ベクトル変換部とを持つ。時系列信号取得部は、患者の生体情報に関する時系列信号を取得する。ブロック変換部は、前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割し、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換する。特徴ベクトル取得部は、前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを出力する。特徴ベクトル変換部は、前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の生体情報に関する時系列信号を取得する時系列信号取得部と、
前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割し、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換するブロック変換部と、
前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得する特徴ベクトル取得部と、
前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換する特徴ベクトル変換部と、を備える、
時系列信号予測装置。
【請求項2】
前記予測信号から、前記患者の状態を予測する状態推定部を更に備える、
請求項1に記載の時系列信号予測装置。
【請求項3】
前記時系列信号と、前記予測信号から、前記状態推定部で予測に使用するパラメータを調節するパラメータ設定部を更に備える、
請求項2に記載の時系列信号予測装置。
【請求項4】
複数の前記ブロック信号は、ある時刻の信号を重複して含む、
請求項1に記載の時系列信号予測装置。
【請求項5】
前記特徴ベクトル変換部は、前記特徴ベクトルから、前期予測信号の信頼度を算出する、
請求項1に記載の時系列信号予測装置。
【請求項6】
前記時系列信号は、前記患者の呼吸に応じて変化する信号であり、前記状態とは、前記患者の呼吸動作の異常状態である、
請求項2又は3に記載の時系列信号予測装置。
【請求項7】
前記時系列信号は、前記患者の呼吸に応じて変化する信号であり、前記状態とは、前記患者の呼吸動作が呼気から吸気に変化するタイミングである、
請求項2又は3に記載の時系列信号予測装置。
【請求項8】
前記時系列信号は、前記患者の腫瘍位置に応じて変化する信号であり、前記予測信号とは、前記患者の腫瘍の予測位置である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の時系列信号予測装置。
【請求項9】
請求項2に記載の時系列信号予測装置によって予測された前記状態に基づいて、前記患者の透視画像の撮影タイミングを制御する、
放射線治療装置。
【請求項10】
請求項2に記載の時系列信号予測装置によって予測された前記状態に基づいて、前記患者への治療ビームの照射タイミングを制御する、
放射線治療装置。
【請求項11】
コンピュータが、
患者の生体情報に関する時系列信号を取得し、
前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割し、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換し、
前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得し、
前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換する、
時系列信号予測方法。
【請求項12】
コンピュータに、
患者の生体情報に関する時系列信号を取得させ、
前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割させ、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換させ、
前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得させ、
前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換させる、
プログラム。
【請求項13】
コンピュータに、
患者の生体情報に関する時系列信号を取得させ、
前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割させ、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換させ、
前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得させ、
前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換させる、
プログラムを記憶する記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、時系列信号予測装置、放射線治療装置、時系列信号予測方法、プログラム、および記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、放射線を患者の病巣に対して照射して破壊する治療方法であるが、病巣の位置に正確に照射しないと正常組織までも破壊してしまう。そのため、予めCT撮影を行って患者の体内の病巣位置を3次元的に把握して、正常組織への照射を少なくするように照射する方向や照射強度を計画する。
【0003】
放射線治療においては、その計画に従って放射線を照射するために、治療計画時と治療時とで患者の位置を合わせることが必要になる。患者体内の病巣や骨などの位置を治療計画時と合わせるために、治療室内において治療直前に寝台に寝かせた状態の患者体内の透視画像と、治療計画時に撮影した3次元CT画像から仮想的に透視画像を再構成したDRR(Digitally Reconstructed Radiograph)との画像照合をして画像間の患者の位置のずれを求め、ずれに基づいて寝台を移動させる方法がある。患者位置のずれは、透視画像と最も類似するDRRが再構成されるCT画像の位置を探索することによって求める。この探索をコンピュータで自動化する方法は多数提案されているが、探索結果は、放射線治療の従事者が、透視画像とDRRとを見比べて確認する必要がある。
【0004】
患者の病巣である腫瘍が、肺や肝臓などの呼吸や心拍の動きによって移動してしまう器官にある場合、照射中の腫瘍の位置を特定し、特定した位置と治療計画で定めた位置とが一致するときに治療ビームを照射する呼吸同期照射方法が知られている。このとき、腫瘍の位置を推定する方法として、呼吸に伴って膨張/収縮する胸腹部体表面の動きをセンシングして、そのセンサ値に応じて腫瘍の位置を推定する方法がある。または、照射中の患者の透視動画を撮影し、透視画像内の腫瘍位置を追跡する方法もある。以下、体表面の動きから取得できる信号や腫瘍位置の軌跡を「時系列信号」と呼ぶ。このように、治療ビームの照射タイミングを制御することで、患者への不要な治療ビームの照射を低減する効果があるが、腫瘍位置の推定に要する計算時間などの装置のレスポンス時間があるため、腫瘍位置の予測が必要になる。
【0005】
例えば、非特許文献1に開示されている方法は、再帰型ネットワークの一つであるLSTM(Long Short Term Memory)を、複数の患者の時系列信号を用いて学習することで、所定の時刻の信号値を予測する。また、非特許文献2に開示されている方法は、非特許文献1の方法と異なり、フィードフォワード型のネットワークの一つであるCNN(Convolutional Neural Network)を用いている。この開示技術は、ある時刻(T)までの時系列信号から、それよりも未来の時刻(T+M、M>0)の信号値を予測する方法である。この方法は、入力する時系列信号を長くするほど精度が高くなることが期待できるが、一方、それに伴い計算時間が増加するため、予測に適さない場合がある。また、時刻T+Mの信号値だけよりも、時刻T+1からT+Mまでの波形信号を教示したほうが、学習に利用される情報量が増えるため、予測精度の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Towards real-time respiratory motion prediction based on long short-term memory neural networks”, Phys Med Biol. 2019 Apr 10; 64(8): 085010.
【非特許文献2】“Respiratory Prediction Based on Multi-Scale Temporal Convolutional Network for Tracking Thoracic Tumor Movement”, Front. Oncol., 27 May 2023
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、患者の生体情報に関する時系列信号の高速かつ高精度な予測を行うことができる時系列信号予測装置、放射線治療装置、時系列信号予測方法、プログラム、および記憶媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の時系列信号予測装置は、時系列信号取得部と、ブロック変換部と、特徴ベクトル取得部と、特徴ベクトル変換部とを持つ。時系列信号取得部は、患者の生体情報に関する時系列信号を取得する。ブロック変換部は、前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割し、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換する。特徴ベクトル取得部は、前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得する。特徴ベクトル変換部は、前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、患者の生体情報に関する時系列信号の高速かつ高精度な予測を行うことができる時系列信号予測装置、放射線治療装置、時系列信号予測方法、プログラム、および記憶媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態の時系列信号予測装置を備えた治療システムの概略構成を示すブロック図。
【
図2】第1の実施形態の時系列信号予測装置100の概略構成を示すブロック図。
【
図3】時系列信号取得部110によって取得される波形信号の一例を示す図
【
図4】ブロック変換部120による時系列信号からブロック信号への変換の一例を示す図。
【
図5】ブロック変換部120による時系列信号からブロック信号への変換の別の例を示す図。
【
図6】特徴ベクトル取得部130による特徴ベクトルの取得の一例を示す図。
【
図7】特徴ベクトル取得部130による特徴ベクトルの取得の別の例を示す図。
【
図8】第1の実施形態の時系列信号予測装置100によって実行される処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図9】第2の実施形態の時系列信号予測装置200の概略構成を示すブロック図。
【
図10】第2の実施形態の時系列信号予測装置200によって実行される処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図11】第3の実施形態の時系列信号予測装置300の概略構成を示すブロック図。
【
図12】第3の実施形態の時系列信号予測装置300によって実行される処理の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の時系列信号予測装置、放射線治療装置、時系列信号予測方法、プログラム、および記憶媒体を、図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
(全体構成)
図1は、第1の実施形態の時系列信号予測装置を備えた治療システムの概略構成を示すブロック図である。治療システム1は、例えば、治療装置10と、センサSと、時系列信号予測装置100と、を備える。治療装置10は、例えば、寝台12と、コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)装置14(以下、「CT撮影装置14」という)と、治療ビーム照射門16と、を備える。
【0013】
寝台12は、放射線による治療を受ける被検体(患者)Pを、例えば、固定具などによって寝かせた状態で固定する可動式の治療台である。寝台12は、寝台制御部(不図示)からの制御に従って、開口部を有する円環状のCT撮影装置14の中に、患者Pを固定した状態で移動する。寝台制御部は、移動量信号に従って、寝台12に固定された患者Pに治療ビームBを照射する方向を変えるために、寝台12に設けられた並進機構および回転機構を制御する。並進機構は三軸方向に寝台12を駆動することができ、回転機構は三軸回りに寝台12を駆動することができる。このため、寝台制御部は、例えば、寝台12の並進機構および回転機構を制御して寝台12を六自由度で移動させる。寝台制御部が寝台12を制御する自由度は、六自由度でなくてもよく、六自由度よりも少ない自由度(例えば、四自由度など)や、六自由度よりも多い自由度(例えば、八自由度など)であってもよい。
【0014】
CT撮影装置14は、三次元のコンピュータ断層撮影を行うための撮像装置である。CT撮影装置14は、円環状の開口部の内側に複数の放射線源が配置され、それぞれの放射線源から、患者Pの体内を透視するための放射線を照射する。つまり、CT撮影装置14は、患者Pの周囲の複数の位置から放射線を照射する。CT撮影装置14においてそれぞれの放射線源から照射する放射線は、例えば、X線である。CT撮影装置14は、円環状の開口部の内側に複数配置された放射線検出器によって、対応する放射線源から照射され、患者Pの体内を通過して到達した放射線を検出する。CT撮影装置14は、それぞれの放射線検出器が検出した放射線のエネルギーの大きさに基づいて、患者Pの体内を撮影したCT画像を生成する。CT撮影装置14によって生成される患者PのCT画像は、放射線のエネルギーの大きさをデジタル値で表した三次元のデジタル画像である。CT撮影装置14における患者Pの体内の三次元での撮影、つまり、それぞれの放射線源からの放射線の照射や、それぞれの放射線検出器が検出した放射線に基づいたCT画像の生成は、例えば、撮影制御部(不図示)によって制御される。
【0015】
治療ビーム照射門16は、患者Pの体内に存在する治療対象の部位である腫瘍(病巣)を破壊するための放射線を治療ビームBとして照射する。治療ビームBは、例えば、X線、γ線、電子線、陽子線、中性子線、重粒子線などである。治療ビームBは、治療ビーム照射門16から直線的に患者P(より具体的には、患者Pの体内の腫瘍)に照射される。治療ビーム照射門16における治療ビームBの照射は、例えば、治療ビーム照射制御部(不図示)によって制御される。
【0016】
このように、放射線治療は、治療ビーム照射門16から患者Pの体内の腫瘍に治療ビームBを照射することによって行われるものであるが、患者Pの病巣である腫瘍が、肺や肝臓などの呼吸や心拍の動きによって移動してしまう器官にある場合、腫瘍が治療ビームBの照射範囲にあるタイミングで、CT撮影装置14によるX線の照射や、治療ビーム照射門16からの治療ビームBの照射を行う必要がある。しかしながら、従来技術では、例えば、マシンレスポンスのギャップ等に起因して、腫瘍が治療ビームBの照射範囲外にあるにも関わらず、X線や治療ビームBが照射され、患者Pにとって不要な被ばくが発生することがあった。このような事情を背景にして、本発明は、センサSと時系列信号予測装置100とを活用することによって、腫瘍が治療ビームBの照射範囲にあるタイミングを高速かつ高精度に予測するものである。
【0017】
センサSは、例えば、患者Pの呼吸に伴って、膨張/収縮する胸腹部体表面の動きを断続的にセンシングし、得られたセンサ値を振幅とした1次元の波形信号を時系列信号予測装置100に出力する。センサSは、寝台12に寝ている患者Pの腹部上面に置かれる接触タイプのセンサであってもよいし、レーザーによって胸腹部までの距離を測る非接触タイプのセンサであってもよい。
【0018】
図2は、第1の実施形態の時系列信号予測装置100の概略構成を示すブロック図である。時系列信号予測装置100は、例えば、時系列信号取得部110と、ブロック変換部120と、特徴ベクトル取得部130と、特徴ベクトル変換部140と、を備える。時系列信号予測装置100が備える構成要素のうち一部または全部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。これらの構成要素の機能のうち一部または全部は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め時系列信号予測装置100が備えるROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が時系列信号予測装置100が備えるドライブ装置に装着されることで時系列信号予測装置100が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。プログラムは、他のコンピュータ装置からネットワークを介してダウンロードされて、時系列信号予測装置100が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0019】
時系列信号取得部110は、例えば、無線通信によって、センサSから波形を表す時系列信号を取得する。
図3は、時系列信号取得部110によって取得される波形信号の一例を示す図である。
図3のグラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は振幅を示す。
図3に示す波形のうち、山となるピークP1は、患者Pによる吸気が最大となる点を表し、谷となるピークP2は、患者Pによる呼気が最大となる点を表す。時系列信号取得部110は、取得した時系列信号をブロック変換部120に出力する。
【0020】
他の例として、時系列信号取得部110によって取得される時系列信号は、患者Pの呼吸に伴って移動する腫瘍の位置を表す軌跡であってもよい。ここで、腫瘍の位置を表す軌跡とは、患者Pの透視動画像内の腫瘍の重心位置の時間変化を表す時系列信号を意味する。この場合、時系列信号取得部110は、時系列信号をセンサSからではなく、CT撮影装置14から取得してもよい。
【0021】
また、他の例として、時系列信号取得部110によって取得される時系列信号は、患者Pの横隔膜の時間変化を表す時系列信号でもよいし、患者P体内の腫瘍付近に留置されたマーカーが呼吸に伴って移動した軌跡でもよい。マーカーの軌跡とは、患者の透視動画像内のマーカー位置の時間変化を表す時系列信号のことである。透視動画像内の腫瘍、横隔膜、およびマーカー(以下、追跡対象)は、例えば、追跡前に追跡対象が写っている画像をテンプレートとしたテンプレートマッチングによって、各時刻の追跡対象の位置を推定する。または、例えば、追跡対象が写っている画像を、予め用意したモデルによって変換した特徴量に基づいて、各時刻の追跡対象の位置を推定する。このときのモデルは、追跡前に追跡対象が写っている複数の画像を学習する機械学習によって構築することができる。
【0022】
ブロック変換部120は、時系列信号取得部110によって取得された時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割し、時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換する。
図4は、ブロック変換部120による時系列信号からブロック信号への変換の一例を示す図である。
図4は、一例として、時刻t-11から時刻t(すなわち、現時刻)までの12個の信号値y(t-11)~y(t)からなる12シーケンスの時系列信号を3シーケンスのブロック信号に変換した様子を示している。このときの部分信号は、それぞれ時刻t-3から時刻tまでの信号値y(t-3)~y(t)、時刻t-7から時刻t-4までの信号値y(t-7)~y(t-4)、および時刻t-11から時刻t-8までの信号値y(t-11)~y(t-8)からなるベクトルデータである。
【0023】
図5は、ブロック変換部120による時系列信号からブロック信号への変換の別の例を示す図である。
図5は、一例として、時刻t-7から時刻tまでの8個の値からなる8シーケンスの信号値y(t-7)~y(t)を3シーケンスのブロック信号に変換した様子を示している。このときの部分信号は、それぞれ時刻t-3から時刻tの信号値y(t-3)~y(t)、時刻t-5から時刻t-2の信号値y(t-5)~y(t-2)、および時刻t-7から時刻t-4までの信号値y(t-7)~y(t-4)からなるベクトルデータであり、このように、時系列の順番を変えないでシーケンス間の信号値の重複を許してもよい。
【0024】
特徴ベクトル取得部130は、ブロック変換部120によって変換されたブロック信号から、時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得する。より具体的には、入力された時系列信号から未来の時刻の時系列信号を予測するために、特徴ベクトル取得部130は、収集された多数の患者の生体情報に関する時系列信号から、信号の変動を統計的にモデル化することによって得られる予測器として事前に構成される。
【0025】
特徴ベクトル取得部130をモデル化する方法として、例えば、状態空間モデルを構築する方法がある。具体的には、時刻tと時刻t-δの2つの波形値y(t)およびy(t-δ)のペアを2次元座標上にプロットすると、呼吸波形が周期的であることから、時刻とともにプロットした点は楕円運動をする。この特性を、状態空間モデルによって表現する。このモデルは、非線形モデルであるため、カルマンフィルタを非線形な状態空間モデルに対応するように近似された拡張カルマンフィルタ(EKF: Extended Kalman Fileter)を用いる。この状態空間モデルのパラメータを、収集した時系列信号を用いて最適化することによって、特徴ベクトル取得部130が構成される。
【0026】
また、特徴ベクトル取得部130をモデル化する別の方法として、例えば、リカレント型のニューラルネットワークを利用する方法がある。ここで、リカレント型のニューラルネットワークとは、複数シーケンスの入力データを順番に入力することで、モデル内部の状態を遷移させて出力を得るニューラルネットワークモデルのことである。その代表例として、LSTM(Long Short Term Memory)がある。
【0027】
また、特徴ベクトル取得部130をモデル化する別の方法として、例えば、フィードフォワード型のニューラルネットワークを利用する。ここで、フィードフォワード型のニューラルネットワークとは、入力データをシーケンスに分けることなく一括で入力し、出力を得るニューラルネットワークモデルのことである。例えば、フィードフォワード型のネットワークが畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Network)である場合、ブロック信号を入力する際には、ブロック信号を2次元データとみなして処理を行う。または、ブロック信号のシーケンスを、それぞれ別チャネルのデータとしてネットワークに入力してもよい。
【0028】
これらニューラルネットワークモデルを利用する場合、収集した時系列信号を用いた深層学習によってモデルの内部パラメータを学習することによって、特徴ベクトル取得部130が構成される。この際、収集した時系列信号を、重なりを許して複数の部分信号に分割し、それぞれの部分信号について、入力する教示ブロック信号と、目標特徴ベクトルに分ける。目標特徴ベクトルに含まれるデータは、教示ブロック信号よりも未来の時刻の信号のみで構成される。
【0029】
上記学習とは、教示ブロック信号をモデルに入力した際に出力として得られる特徴ベクトルが目標特徴ベクトルに近づくように内部パラメータを調整することである。目標特徴ベクトルと特徴ベクトルとの距離を測る関数を誤差関数として用いる。誤差関数を最小化するために、誤差逆伝搬法などの最適化手法を用いる。
【0030】
図6は、特徴ベクトル取得部130による特徴ベクトルの取得の一例を示す図である。
図6に示す通り、特徴ベクトルは、例えば、上記部分信号の振幅値を要素とするベクトルである。つまり、時刻tまでの教示ブロック信号に対して、時刻t+M(M>0、Mは自然数)の信号値を予測するとき、目標特徴ベクトルは、時刻t+1から時刻t+Mまでの信号値y(t+1)~y(t+M)を要素とするベクトルになる。
【0031】
図7は、特徴ベクトル取得部130による特徴ベクトルの取得の別の例を示す図である。
図7に示す通り、特徴ベクトルは、例えば、上記部分信号の振幅値の差分を要素とするベクトルであってもよい。つまり、時刻tまでの教示ブロック信号に対して、時刻t+M(M>0、Mは自然数)の信号値y(t+M)を予測するとき、目標特徴ベクトルは、時刻tの教示ブロック信号を始点とする、時刻t+1から時刻t+Mまでの信号値の差分d(t+1)~d(t+M)を要素とするベクトルになる。
【0032】
特徴ベクトル変換部140は、特徴ベクトル取得部130によって取得された特徴ベクトルを、患者Pの生体情報に関する予測信号に変換する。より具体的には、例えば、特徴ベクトル取得部130によって
図6に示す特徴ベクトルが取得された場合、特徴ベクトルから、時刻t+Mの信号値y(t+M)を予測信号として取得する。また、例えば、特徴ベクトル取得部130によって
図7に示す特徴ベクトルが取得された場合、特徴ベクトル変換部140は、時刻tの信号値y(t)に、時刻t+1から時刻t+Mまでの特徴ベクトルの要素d(t+1)~d(t+M)の和を加算した信号値y(t)+d(t+1)+・・・d(t+M)を、時刻t+Mの信号値y(t+M)として取得する。特徴ベクトル変換部140は、算出された予測信号を時系列信号予測装置100のモニターなどに出力し、治療装置10の操作者は、モニターなどに出力された予測信号を確認しつつ、X線動画像の撮影タイミングや治療ビームBの照射タイミングを判断し、X線動画像の撮影や治療ビームBの照射を実行する。
【0033】
さらに、特徴ベクトル変換部140は、特徴ベクトル取得部130によって取得された特徴ベクトルに基づいて、時系列信号の信頼度を算出する。特徴ベクトル変換部140は、例えば、特徴ベクトルの要素が不連続な時系列信号であるほど、信頼度をより小さい値として算出する。ここで、不連続性は、例えば、特徴ベクトルに含まれる複数の要素からスプライン補間などの手法を用いて取得された近似曲線と、これら複数の要素との間の近似誤差によって判定することができる。このとき、特徴ベクトル変換部140は、予測信号と、算出された信頼度とを合わせて、時系列信号予測装置100のモニターなどに出力してもよい。その場合、治療装置10の操作者は、予測信号の信頼度を考慮して、出力された予測信号をX線動画像の撮影や治療ビームBの照射に活用することができる。
【0034】
[処理の流れ]
次に、
図8を参照して、第1の実施形態の時系列信号予測装置によって実行される処理の流れについて説明する。
図8は、第1の実施形態の時系列信号予測装置によって実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0035】
まず、時系列信号取得部110は、患者Pの生体情報に関する時系列信号をセンサSから取得する(ステップS100)。次に、ブロック変換部120は、取得された時系列信号を部分信号に分割して、ブロック信号として取得する(ステップS102)。次に、特徴ベクトル取得部130は、取得されたブロック信号から、未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得する(ステップS104)。次に、特徴ベクトル変換部は、取得された特徴ベクトルを、患者Pの生体情報に関する予測信号に変換する(ステップS106)。これにより、本フローチャートの処理が終了する。
【0036】
以上の通り説明した第1の実施形態によれば、入力された時系列信号をブロック信号に変換することで、入力データの情報量を維持しつつ、入力長を短くする。これにより、時系列信号を逐次入力する従来技術に比して、特にリカレント型のニューラルネットワークモデルの学習および特徴ベクトルの計算にかかる時間を短縮することができる。さらに、第1の実施形態によれば、モデルの学習において予測すべき信号値のみを教示する非特許文献1に記載の技術に比して、第1の実施形態では、予測すべき時刻までの複数の信号値を学習させることで、学習すべき情報量が増加させる。これにより、予測器によって出力される特徴ベクトルの精度を向上させることができる。
【0037】
(第2の実施形態)
(全体構成)
第1の実施形態では、患者Pの生体情報に関して入力された時系列信号から、それよりも未来の時刻の時系列信号を予測する方法について説明した。患者Pの生体情報の一例として、呼吸信号は吸気において空気の取り入れ量が同一患者Pにおいても変化するため、患者Pが息を吸い切ったときの振幅の大きさが不規則になりやすい傾向がある。一方、患者Pが息を吐ききったときの振幅は安定するため、規則的になりやすい傾向がある。この傾向を利用して、放射線治療では、患者Pによる吸気中または呼気中でのX線動画像の撮影および治療ビームBの照射を避けるとともに、患者Pが息を吐ききったときの腫瘍の位置を照射スポットに設定することが好適である。このような事情を背景にして、第2の実施形態に係る時系列信号予測装置200は、腫瘍の位置が照射スポットに入る時刻を予測しつつ、患者Pによる吸気中、呼気中、または患者Pの呼吸状態に異常状態が発生した際には、X線動画像の撮影および治療ビームBの照射を避けることを可能とするものである。
【0038】
図9は、第2の実施形態の時系列信号予測装置200の概略構成を示すブロック図である。時系列信号予測装置200は、例えば、時系列信号取得部210と、ブロック変換部220と、特徴ベクトル取得部230と、特徴ベクトル変換部240と、状態推定部250と、を備える。時系列信号取得部210と、ブロック変換部220と、特徴ベクトル取得部230と、特徴ベクトル変換部240の構成は、第1の実施形態の時系列信号予測装置100の時系列信号取得部110と、ブロック変換部120と、特徴ベクトル取得部130と、特徴ベクトル変換部140の構成と同様であるため、説明を省略する。さらに、第2の実施形態では、
図1に示した治療システム1の構成も同様に適用される。
【0039】
状態推定部250は、特徴ベクトル変換部240から取得された予測信号に基づいて、患者Pの状態を推定し、時系列信号予測装置200のモニターなどに出力する。ここで、推定する患者の状態とは、例えば、咳などで正常の呼吸から逸脱した状態(異常状態)のことである。咳やくしゃみの前後では、呼吸が乱れ通常の状態とは異なるため、予測値と実測値の差が大きくなる。状態推定部250は、推定した患者の状態を治療装置10のモニターなどに出力してもよい。
【0040】
例えば、状態推定部250は、所定時間前(例えば、100ミリ秒前)に求めた予測値と、その時刻の実測値の差の絶対値を計算し、所定の数値よりも大きい場合に、患者の状態が異常状態であると推定および出力してもよい。また、例えば、状態推定部250は、所定時間前に求めた予測値と、その時刻の実測値の差の絶対値を計算し、所定の数値よりも大きい状態が所定期間、継続した場合に、患者の状態が異常状態であると推定および出力してもよい。また、例えば、状態推定部250は、所定時間前に求めた予測値と、その時刻の実測値の差の絶対値を複数の時間窓で計算し、複数の時間窓のうち、計算された絶対値が所定の数値よりも大きい時間窓の個数が半数以上の場合に患者の状態が異常状態であると推定および出力してもよい。
【0041】
また、別の例として、患者の状態とは、例えば、患者の呼吸が呼気時から吸気時に変化する時刻付近、つまり、息を吐ききった時刻付近の呼吸位相の状態のことであってもよい。呼吸波形の振幅が吸気時に値が大きくなり、呼気時に値が小さくなる場合、ある閾値よりも振幅値が小さくなる時刻が上記呼吸位相になる。この閾値は、例えば、ユーザーが、時系列信号予測装置200のモニターなどに表示された呼吸波形を監視して、過去の数呼吸分の同一患者の呼吸波形から事前に設定する。例えば、ユーザーは、時系列信号取得部110によって取得された時系列信号のうち、最大振幅の所定レベル(例えば、20%のレベル)に閾値を設定してもよい。過去とは、例えば、患者位置合わせなどのセットアップが終了し、治療を開始するまでの間のことである。代替的に、状態推定部250は、ユーザーに閾値を設定させることなく、自動的に、時系列信号取得部110によって取得された時系列信号のうち、最大振幅を特定し、特定された最大振幅の所定レベルに閾値を設定してもよい。この場合、状態推定部250は、「パラメータ設定部」としての機能を有することとなる。
【0042】
予測信号が、透視動画像内の腫瘍、横隔膜、およびマーカーなどの追跡対象の軌跡である場合、状態推定部250は、透視動画像内における追跡対象の状態を推定および出力してもよい。透視動画像内の腫瘍、横隔膜、マーカーなどの追跡対象は、透視画像のノイズが大きくなることなどに起因して、画質が悪化し、追跡が困難になる場合がある。また、患者Pになんらかの異常(例えば、咳やくしゃみ)が生じて、追跡対象が不規則な動きをする場合もある。そのため、状態推定部250は、予測信号の予測値と実測値の差が大きくなった場合、追跡対象の状態が異常状態であると推定および出力してもよい。また、例えば、状態推定部250は、呼吸波形に関する状態推定と同様に、追跡対象の軌跡からなる時系列信号の振幅の変化が下向きから上向きに変化する付近の時刻が、腫瘍が照射スポットに入るように計画されている場合、上記と同様に閾値を設定し、時系列信号の振幅が閾値以下の場合に、腫瘍が照射スポット内にある状態と推定および出力してもよい。
【0043】
なお、上記の説明では、状態推定部250は、時系列信号予測装置200に含まれるものとして説明を行ったが、状態推定部250は、治療装置10に含まれてもよい。その場合、時系列信号予測装置200は、特徴ベクトル変換部240から取得された予測信号を治療装置10に送信し、治療装置10に含まれる状態推定部250が、受信した予測信号に基づいて、患者Pの状態を推定して、時系列信号予測装置200のモニターなどに表示させてもよい。
【0044】
[処理の流れ]
次に、
図10を参照して、第2の実施形態の時系列信号予測装置によって実行される処理の流れについて説明する。
図10は、第2の実施形態の時系列信号予測装置によって実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0045】
まず、時系列信号取得部210は、患者Pの生体情報に関する時系列信号をセンサSから取得する(ステップS200)。次に、ブロック変換部220は、取得された時系列信号を部分信号に分割して、ブロック信号として取得する(ステップS202)。次に、特徴ベクトル取得部230は、取得されたブロック信号から、未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得する(ステップS204)。次に、特徴ベクトル変換部240は、取得された特徴ベクトルを、患者Pの生体情報に関する予測信号に変換する(ステップS206)。次に、状態推定部250は、取得された予測信号から、患者Pの状態を推定し、時系列信号予測装置200のモニターなどに出力する(ステップS208)。これにより、本フローチャートの処理が終了する。
【0046】
以上の通り説明した第2の実施形態によれば、患者Pの生体情報に関して取得された予測信号から、患者Pの状態を推定し、時系列信号予測装置200のモニターなどに出力し、例えば、治療装置10の操作者は、モニターなどに出力された患者Pの状態を確認しつつ、X線動画像の撮影タイミングや治療ビームの照射タイミングを判断し、X線動画像の撮影および治療ビームの照射を実行する。これにより、不要なX線動画像の撮影や治療ビームの照射に伴う被ばくを低減することができる。
【0047】
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、患者Pの生体情報に関して取得された予測信号から、患者Pの状態を推定し、時系列信号予測装置200のモニターなどに出力する方法について説明した。この場合、治療装置10の操作者は、モニターなどに出力された患者Pの状態を確認しつつ、X線動画像の撮影および治療ビームBの照射を手動で実行することとなるが、人為的な操作ミスや実行タイミングにズレが発生しうる。このような事情を背景にして、第3の実施形態に係る時系列信号予測装置300は、推定された患者Pの状態に基づいて、治療装置10を自動的に制御するものである。
【0048】
図11は、第3の実施形態の時系列信号予測装置300の概略構成を示すブロック図である。時系列信号予測装置300は、例えば、時系列信号取得部310と、ブロック変換部320と、特徴ベクトル取得部330と、特徴ベクトル変換部340と、状態推定部350と、治療装置制御部360と、を備える。時系列信号取得部310と、ブロック変換部320と、特徴ベクトル取得部330と、特徴ベクトル変換部340と、状態推定部350の構成は、第2の実施形態の時系列信号予測装置200の時系列信号取得部210と、ブロック変換部220と、特徴ベクトル取得部230と、特徴ベクトル変換部240と、状態推定部250の構成と同様であるため、説明を省略する。さらに、第3の実施形態では、
図1に示した治療システム1の構成も同様に適用される。
【0049】
治療装置制御部360は、状態推定部350によって推定された患者Pの状態に基づいて、治療装置10の制御を行う。より具体的には、治療装置制御部360は、状態推定部350によって、患者Pの状態が、息を吐ききった時刻付近の呼吸位相である場合(換言すると、振幅値がある閾値よりも小さくなった場合)、患者PのX線動画像の撮影および/または治療装置10からの治療ビームBの照射準備を開始する。また、例えば、治療装置制御部360は、状態推定部350によって、透視動画像内の腫瘍が照射スポット内にあると推定された場合、X線動画像の撮影間隔を短くし、治療装置10からの治療ビームBの照射準備を開始してもよい。
【0050】
一方、状態推定部350によって患者Pの状態が異常状態であると判定された場合、治療装置制御部360は、患者PのX線動画像の撮影および/または治療装置10からの治療ビームBの照射を停止したり、間隔を短くする。また、例えば、治療装置制御部360は、状態推定部350によって患者Pが息を吐ききったのち、再び吸気時に移行したと推定された場合、患者PのX線動画像の撮影および/または治療装置10からの治療ビームBの照射を停止してもよい。また、例えば、治療装置制御部360は、状態推定部350によって、透視動画像内の腫瘍、横隔膜、およびマーカーなどの追跡対象の軌跡が異常状態であると推定された場合、患者PのX線動画像の撮影および/または治療装置10からの治療ビームBの照射を停止してもよい。
【0051】
なお、上記の説明では、治療装置制御部360は、時系列信号予測装置300に含まれるものとして説明を行ったが、治療装置制御部360は、治療装置10に含まれてもよい。その場合、時系列信号予測装置300は、状態推定部350によって推定された患者Pの状態を治療装置10に送信し、治療装置10に含まれる治療装置制御部360が、受信した患者Pの状態に基づいて、治療装置10を制御してもよい。
【0052】
[処理の流れ]
次に、
図12を参照して、第3の実施形態の時系列信号予測装置によって実行される処理の流れについて説明する。
図12は、第3の実施形態の時系列信号予測装置によって実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0053】
まず、時系列信号取得部310は、患者Pの生体情報に関する時系列信号をセンサSから取得する(ステップS300)。次に、ブロック変換部320は、取得された時系列信号を部分信号に分割して、ブロック信号として取得する(ステップS302)。次に、特徴ベクトル取得部330は、取得されたブロック信号から、未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得する(ステップS304)。次に、特徴ベクトル変換部340は、取得された特徴ベクトルを、患者Pの生体情報に関する予測信号に変換する(ステップS306)。次に、状態推定部350は、取得された予測信号から、患者Pの状態を推定する(ステップS308)。次に、治療装置制御部360は、推定された患者Pの状態に基づいて、治療装置10を制御する。これにより、本フローチャートの処理が終了する。
【0054】
以上の通り説明した第3の実施形態によれば、推定された患者Pの状態に基づいて、治療装置10を制御して、患者PのX線動画像の撮影および/または治療装置10からの治療ビームBの照射を実行したり、停止したりする。これにより、不要なX線動画像の撮影や治療ビームの照射に伴う被ばくをさらに低減することができる。
【0055】
これまで、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0056】
この発明に係る時系列信号予測装置、放射線治療装置、時系列信号予測方法、プログラム、および記憶媒体は、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係る時系列信号予測装置は、患者の生体情報に関する時系列信号を取得する時系列信号取得部と、前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割し、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換するブロック変換部と、前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得する特徴ベクトル取得部と、前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換する特徴ベクトル変換部と、を備えるものである。
【0057】
(2):上記(1)の態様において、前記時系列信号予測装置は、前記予測信号から、前記患者の状態を予測する状態推定部を更に備えるものである。
【0058】
(3):上記(2)の態様において、前記時系列信号予測装置は、前記時系列信号と、前記予測信号から、前記状態推定部で予測に使用するパラメータを調節するパラメータ設定部を更に備えるものである。
【0059】
(4):上記(1)から(3)の態様において、複数の前記ブロック信号は、ある時刻の信号を重複して含むものである。
【0060】
(5):上記(1)から(4)の態様において、前記特徴ベクトル変換部は、前記特徴ベクトルから、前期予測信号の信頼度を算出するものである。
【0061】
(6):上記(1)から(5)の態様において、前記時系列信号は、前記患者の呼吸に応じて変化する信号であり、前記状態とは、前記患者の呼吸動作の異常状態であるものである。
【0062】
(7):上記(1)から(5)の態様において、前記時系列信号は、前記患者の呼吸に応じて変化する信号であり、前記状態とは、前記患者の呼吸動作が呼気から吸気に変化するタイミングであるものである。
【0063】
(8):上記(1)から(5)の態様において、前記時系列信号は、前記患者の腫瘍位置に応じて変化する信号であり、前記予測信号とは、前記患者の腫瘍の予測位置であるものである。
【0064】
(9):この発明の一態様に係る放射線治療装置は、上記(2)の態様に係る時系列信号予測装置によって予測された前記状態に基づいて、前記患者の透視画像の撮影タイミングを制御するものである。
【0065】
(10):この発明の一態様に係る放射線治療装置は、上記(2)の態様に係る時系列信号予測装置によって予測された前記状態に基づいて、前記患者への治療ビームの照射タイミングを制御するものである。
【0066】
(11):この発明の一態様に係る時系列信号予測方法は、コンピュータが、患者の生体情報に関する時系列信号を取得し、前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割し、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換し、前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得し、前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換するものである。
【0067】
(12):この発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに、患者の生体情報に関する時系列信号を取得させ、前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割させ、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換させ、前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得させ、前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換させるものである。
【0068】
(13):この発明の一態様に係る記憶媒体は、コンピュータに、患者の生体情報に関する時系列信号を取得させ、前記時系列信号を、所定間隔ごとの部分信号に分割させ、前記時系列信号の時系列よりも短い時系列のブロック信号に変換させ、前記ブロック信号から、前記時系列信号の取得時よりも未来の時刻の時系列信号を表す特徴ベクトルを取得させ、前記特徴ベクトルを、前期患者の生体情報に関する予測信号に変換させる、プログラムを記憶するものである。
【符号の説明】
【0069】
1・・・治療システム、10・・・治療装置、12・・・寝台、14・・・CT撮影装置、16・・・治療ビーム照射門、100、200、300・・・時系列信号予測装置、110、210、310・・・時系列信号取得部、120、220、320・・・ブロック変換部、130、230、330・・・特徴ベクトル取得部、140、240、340・・・特徴ベクトル変換部、250、350・・・状態推定部、360・・・治療装置制御部