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特開2025-18637非線形波長変換デバイス及びこれを用いたレーザ光発生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018637
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】非線形波長変換デバイス及びこれを用いたレーザ光発生装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/37 20060101AFI20250130BHJP
【FI】
G02F1/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122526
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】503098724
【氏名又は名称】株式会社オキサイド
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】金田 有史
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA07
2K102AA08
2K102AA32
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC01
2K102CA26
2K102DA01
2K102DD10
2K102EB08
(57)【要約】
【課題】 特定の面以外での研磨が事実上不可能な非線形光学結晶材料を用いた非線形波長変換デバイスにおいて、プリズム結合デバイスを用いず、内部全反射臨界角よりも大きい位相整合角で入力光を入射させ、高調波もしくは和周波光を発生させること。
【解決手段】 非線形光学結晶材料101の研磨可能な面、もしくは劈開面の表面にグレーティング102を形成し、グレーティング102で回折された入力光201を、非線形光学結晶材料101の内部において、位相整合角で伝搬させる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第1光学面及び第2光学面を持つ非線形光学結晶材料を有する非線形波長変換デバイスであって、
前記非線形光学結晶材料の少なくとも一方の前記第1光学面に、前記非線形光学結晶材料の外部から入射した光を回折させる第1回折構造体を有し、
前記非線形光学結晶材料に外部から入射する波長λの入力光が前記第1回折構造体によって前記非線形光学結晶材料の内部において前記第1光学面の法線と角度θをなす方向に回折され、この角度θの方向は、波長λの前記入力光の第2高調波である波長λの光を発生させるための位相整合条件を満たす方向であることを特徴とする非線形波長変換デバイス。
【請求項2】
前記非線形光学結晶材料において前記入力光が入射する前記第1光学面とは反対側の前記第2光学面に第2回折構造体を有し、
前記第2回折構造体は、前記入力光、前記第2高調波、又は、これら両方を前記非線形光学結晶材料の外部に回折することを特徴とする請求項1に記載の非線形波長変換デバイス。
【請求項3】
対向する第1光学面及び第2光学面を持つ非線形光学結晶材料を有する非線形波長変換デバイスであって、
前記非線形光学結晶材料の少なくとも一方の前記第1光学面に、前記非線形光学結晶材料に外部から入射した光を回折させる第1回折構造体を有し、
前記非線形光学結晶材料の外部から異なる角度で入射する互いに異なる波長λと波長λの入力光が、前記第1回折構造体によって前記非線形光学結晶材料の内部において前記第1光学面の法線と角度θをなすほぼ同一の方向に回折され、前記角度θが、前記互いに異なる波長λと波長λの前記入力光から和周波または差周波の波長λの光を発生させるための位相整合条件を満たす角度であることを特徴とする非線形波長変換デバイス。
【請求項4】
前記非線形光学結晶材料は、異なる波長λと波長λの前記入力光が入射する前記第1光学面とは反対側の前記第2光学面にも、入射した光を回折させる第2回折構造体を有し、
前記第2回折構造体は、異なる波長λと波長λの前記入力光、異なる波長の前記入力光から発生した和周波又は差周波の波長λの光、又は、これら全部の光を前記非線形光学結晶材料の外部に回折させることを特徴とする請求項3に記載の非線形波長変換デバイス。
【請求項5】
前記非線形光学結晶材料と空気の界面における、前記位相整合条件を満たす方向に伝搬する光線の、前記非線形光学結晶材料の内部から前記界面への入射角をθint、前記非線形光学結晶材料の屈折率をnとした場合、
sinθint>1/n
の関係が成立し、前記非線形光学結晶材料の内部における内部全反射条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の非線形波長変換デバイス。
【請求項6】
前記非線形光学結晶材料は、KBeBO(KBBF)、RbBeBO(RBBF)、又は、(NH)BeBO(ABBF)であることを特徴とする請求項1に記載の非線形波長変換デバイス。
【請求項7】
前記第1回折構造体が、グレーティングであることを特徴とする請求項1に記載の非線形波長変換デバイス。
【請求項8】
前記第1回折構造体が、リソグラフィーによって作成したパターンによりエッチングで形成されたグレーティングであることを特徴とする請求項1に記載の非線形波長変換デバイス。
【請求項9】
前記第1回折構造体が、前記非線形光学結晶材料の前記第1光学面に誘電体膜を蒸着またはスパッタリングによって形成し、更にリソグラフィーによって作成したパターンによって前記誘電体膜をエッチングして形成されたグレーティングであることを特徴とする請求項1に記載の非線形波長変換デバイス。
【請求項10】
前記誘電体膜の材料は、SiO、Al、CaF、MgF、又は、LaFであることを特徴とする請求項9に記載の非線形波長変換デバイス。
【請求項11】
前記非線形光学結晶材料が劈開性を持つ結晶であることを特徴とする請求項1に記載の非線形波長変換デバイス。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の非線形波長変換デバイスと、
前記非線形波長変換デバイスに対する入力光の入射角を調整する機構と、
を備えるレーザ光発生装置。
【請求項13】
波長200nmよりも短い波長を有するレーザ光を出射することを特徴とする請求項12に記載のレーザ光発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深紫外線、真空紫外線発生などに供するための波長変換デバイス及びこれを用いたレーザ光発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
深紫外レーザ光源に対する需要はかつてないほど高まっており、非線形光学の応用による波長変換技術への要求は近年非常に高い。深紫外光発生に使用できる非線形光学材料として、現在産業的に実用化されている材料は、BBO(β-BaB)、CLBO(CsLiB10)、LBO(LiB)、LB4(Li)、KDP(KHPO)、KD*P等に限られている。これらの非線形光学材料は、いずれも、1)材料内部における光学吸収が深紫外域に向かい増加するため不透明になってしまうこと、さらに、2)以下に詳述する位相整合条件を満たすことの出来る波長がある程度長波長側に限られることから、波長200nm以下の光を発生させるためには和周波混合を用いた手法しかないのが現状である。
【0003】
例えば、和周波混合で更に短い波長の出力を得ようとする場合、すでに波長が短くされている深紫外光と赤外光の和周波となる。非線形波長変換効率は光強度に強く影響されるため、実用的な変換効率を得るためには入力光を小さなスポットに絞り込む必要がある。しかしながら、深紫外光を小さなスポットに絞り込むことで結晶材料の損傷や劣化が進み、安定して動作させる上で限界がある。
【0004】
短波長光をできるだけ長波長の入力光から得るためには、直接、第2高調波を発生させることが有効であるが、上述した非線形光学材料では第2高調波を発生させるための位相整合を得ることができない。
【0005】
和周波混合において、入力光の波長をλおよびλ、和周波出力の波長をλとすると、光子のエネルギーは光の周波数ν=1/λに比例するので、エネルギー保存の法則から以下に示す式(1)の関係が成立する。
【0006】
(1/λ)+(1/λ)=1/λ ・・・(1)
【0007】
目的とする特定の波長λに対し、(λ、λ)の組み合わせは無限に存在するが、それらの中でλとλの短いほうが最も長くなるのはλ=λの場合であり、これが直接第2高調波を発生させる場合に相当する。
【0008】
第2高調波発生、和周波混合のいずれの場合も位相整合と呼ばれる運動量保存則を満たすことが必要である。これはエネルギー保存則と運動量保存則から導出される。エネルギー保存則は光の周波数の和が入力と出力で同じであること、運動量保存則は入力と出力でkベクトル(波数ベクトル)の和が同じになることである。
【0009】
運動量保存則はkを各々の光の波数とすると、式(2)で表わされる。
+k=k ・・・(2)
【0010】
本来、式(2)はベクトル量に関する式である。ノンコリニアな相互作用も理論的にはあり得るが、本発明で扱う第2高調波発生では利用されることはないので本明細書ではあえて詳述せず、コリニア相互作用(すべてのkベクトルの方向が同じ)を前提とし、波数kをスカラー量として扱う。各波長λ(λ、λ、λ)が伝搬する媒質の屈折率をn(n、n、n)とすると、k=2πn/λの関係から、式(2)の両辺を2πで割って式(3)の関係が得られる。
(n/λ)+(n/λ)=n/λ ・・・(3)
【0011】
第2高調波発生の場合はλ=λ=2λ、またn=nとなるので、式(3)の位相整合条件はn=n、すなわち入力光と高調波に対する屈折率が等しいという条件に帰着する。
【0012】
一般に材料の屈折率は波長によって異なるため、上記の条件を満たすことは自明ではない。複屈折性の結晶材料内においては偏光によって屈折率が異なること、また、異常光と呼ばれる光線の屈折率が結晶材料内の伝搬方向で変化することを利用して、結晶材料内の特定の方向でこれらの条件が満たされる。上記の考え方に関する詳細は、例えば、「A.Yariv, “Quantum Electronics” 3rd Edition, Wiley, Chap.16」等に記載されている。
【0013】
波長が短いほど屈折率が大きくなる「正常分散」の結晶材料では、第2高調波が位相整合可能な条件は以下となる。
【0014】
(負の一軸結晶材料の場合)
(λ/2)<n(λ)<n(λ/2) ・・・(4)
【0015】
(正の一軸性結晶材料の場合)
(λ)<n(λ/2)<n(λ) ・・・(5)
【0016】
2軸性結晶材料の場合も同様の条件が存在する。
【0017】
すなわち、結晶材料の屈折率分散によって第2高調波発生過程に位相整合が可能な最短波長が存在することになる。上述した各非線形光学材料について最短の第2高調波波長を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
表1からわかるように、現在産業的に実用化されている非線形光学材料における最短の第2高調波波長はBBOの206nmである。
【0020】
なお、上記の説明では波長が短いほど屈折率が大きくなる「正常分散」の材料について説明したが、波長が短いほど屈折率が小さくなる「異常分散」の材料は、特に深紫外の波長領域における吸収の問題があり、波長変換用の材料としては好適とはいえない。
【0021】
前世紀末期、KBeBO(KBBF)結晶、RbBeBO(RBBF)結晶が発見、報告され、新たな深紫外光発生デバイス用結晶材料として大きな期待を集めた(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2等参照)。
【0022】
これらの材料は、いずれも160nm以下の吸収端波長を持ち、また強い異方性を有することから、直接第2高調波発生の最短波長がKBBFで161nm、RBBFで170nmであり、深紫外光発生用結晶材料として好適な特性を示している。しかしながら、これらの結晶材料は機械的にも強い異方性を有しているため、いずれも強い劈開性を有する。そのため、劈開面(c面)以外では光学研磨が極めて困難である。
【0023】
産業的に注目されている193.4nm光(ArFレーザ波長)および177.4nm光(1064nm光の第6高調波)を発生のための位相整合角は、KBBFの場合55.2度および64.1度、RBBFの場合61.3度および73.1度であり、いずれも結晶材料の屈折率(ともに約1.50程度)によって決まる内部全反射臨界角より大きい。したがって、c面からの入射では位相整合角で入射させることができない。
【0024】
この課題を解決するため、Chenらは結晶において劈開研磨されたc面にプリズム硝材を光学コンタクトさせることで位相整合角への入射を可能にし、短波長発生に関する多くの特許および論文報告がされた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】米国特許第6859305号明細書
【特許文献2】米国特許第4711512号明細書
【特許文献3】特開2015-049376号公報
【特許文献4】特開2021-173878号公報
【特許文献5】特表2022-551549号公報
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】C. Chen,et. al., “New development of nonlinear optical crystals for the ultravioletregion with molecular engineering approach,” J. Appl. Phys.vоl.77, pp.2268-2272(1995).
【非特許文献2】C. Chen,et. al., “Deep UV nonlinear optical crystal: RbBe2(BO3)F2,”J.Opt.Soc.Am.B26,pp.1519-1525(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
しかしながら、光学コンタクトさせるためには接合面を極めて高い精度(平面度、面粗度)で研磨する必要であり、上記光学結晶を深紫外光発生デバイスとして実用化する上で高い技術障壁となっている。また、取り扱いが難しいベリリウム(Be)を含んでいることから、研磨できる設備も限られ、研磨技術の開発もままならず、発明から四半世紀以上たった今も実用化が進んでいないのが現状である。
【0028】
本発明はこれらの技術的課題を解決し、より簡便な方法でより短波長の深紫外光発生用非線形波長変換デバイスを提供するものである。
【0029】
表2に、波長193.4nm/177.4nmの光をKBBF/RBBF結晶で発生させる際の位相整合角θphasematchと屈折率n、およびその波長における内部全反射臨界角θTIRを示す。表2に示すように、KBBF/RBBF結晶において193.4nm/177.4nm光を発生のための位相製合角θphasematchは、内部全反射臨界角θTIRより大きい。
【0030】
内部全反射臨界角θTIRと屈折率nは、sinθTIR=1/nの関係を持っており、これより大きい角θ>θTIRには外部から入射できない。したがって、θphasematch>θTIRの場合には位相整合角θphasematchに相当する角度で、外部から光を入射出来ないことになる。
【0031】
前述したように、KBBF/RBBFは機械的にも強い異方性を有しているため、いずれも強い劈開性を有する。そのため、劈開面(c面)以外では光学研磨が極めて困難である。すなわち、これらの非線形結晶材料に対して、光学研磨されたc面から位相整合角で光を入射させることは困難であり、KBBF/RBBF結晶のように特定の面でしか研磨できない非線形光学結晶材料の実用化を妨げる要因となっている。
【0032】
上記の説明では、193.4nm/177.4nm等産業的に重要である2つの波長を例示しているが、本発明はこれらの波長に限られるものではない。本発明は、θphasematch>θTIRの関係、すなわち、sinθphasematch>(1/n)の関係をもつ非線形波長変換デバイスに対して有効である。表2は、193.4nm/177.4nm光をKBBF/RBBF結晶で発生させる際の位相整合角(θphasematch)と屈折率(n)、およびその波長における内部全反射臨界角(θTIR)を示している。
【0033】
【表2】
【0034】
これらの位相整合角を満たすために、従来は、例えば適切な角度にカットされた合成石英またはフッ化カルシウムプリズムをKBBF/RBBF結晶のc面にコンタクトさせるプリズム結合デバイス(Prism Coupled Device:PCD)と呼ばれる図1に示すようなデバイスが報告されていた(特許文献1)。
【0035】
同図には、入射側プリズム1、コンタクトを容易にするための媒介物質2、非線形光学結晶材料3、出射側プリズム4、波長λの入力光の光線201、波長λの入力光と発生される波長λの高調波の結晶材料内での光線202、デバイスから出射される波長λの入力光の光線203、デバイスから出射される波長λの高調波の光線204が示されている。このデバイスは2つの平行な面が光学研磨された例えばKBBFなどの非線形光学結晶材料3の両側に直接あるいは媒介物質2を介して入射側プリズム1及び出射側プリズム4がコンタクトされている。波長λの入力光201は入射側プリズム1より特定の角度で入射し、非線形光学結晶材料3との界面に達する。このプリズムと非線形光学結晶材料の屈折率は、比較的近く選択されており、入力光は結晶材料内へ透過する。屈折後の結晶材料内での入力光202は、結晶軸に対して所望の位相整合条件を満たす方向になるよう、入力光201の入射角が調整される。非線形光学結晶材料3の反対側の面に達した入力光は、再び屈折率の近いプリズム4とのコンタクトにより内部全反射とはならず屈折され、光線203となってデバイス外に出射される。位相整合が満たされ、発生された波長λの高調波はプリズム4との界面に達し、入力光とは幾分屈折率の異なるプリズムの屈折率との間で屈折されるがやはり内部全反射とはならず、光線204となってデバイスから出射される。
【0036】
プリズム接合デバイスを用いる場合、光学コンタクトを実現するためには極めて高い精度の光学研磨が必要であり、実用化の一つの障害となっていた。
【0037】
一般にレーザデバイスとして用いるためには光学面の面粗度は10nm程度(rms)が必要とされ、比較的容易に得ることが出来る。しかしながら、光学コンタクトのためには数オングストローム程度の面粗度が必要とされ、産業的に頻繁に用いられ研磨技術も発達している合成石英などの材料でも達成には高度な技術を要する。加えてKBBF、RBBFはベリリウム含有という材料の組成上の特徴から研磨技術の開発は進んでおらず、加えて劈開性、さらに機械的特性(柔らかい)という特徴から、良好な面粗度、平坦度を得ることが極めて難しいのが現状である。
【0038】
本発明が解決しようとする課題はかような高精度な光学研磨を必要とすることなく、内部全反射臨界角よりも大きな位相整合角で入力光を入射し、さらに高調波を取り出すことの出来るような非線形波長変換デバイスを提供することにある。
【0039】
本発明の目的はそのようなデバイスを実現することにより、深紫外、真空紫外レーザ光源を安定かつ安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0040】
本開示のデバイスは、KBBF/RBBF結晶等を用いた深紫外光発生用非線形波長変換デバイスにおいて、非線形波長変換用結晶材料と空気(あるいは真空)との界面に回折作用を有する回折構造体(例えばグレーティング)を形成し、垂直に近い角度で入力光を入射するとともに、結晶材料内に位相整合方向に回折させることを特徴とする。
【0041】
透明硝材の表面にグレーティングを形成し、内部全反射の臨界角以上に回折させ、硝材内を伝搬させる手法はヘッドアップディスプレイや光導波路の分野で既知である(例えば、特許文献2~特許文献5参照)。
【0042】
しかしながら、ヘッドアップディスプレイや光導波路の分野における従来技術は、導波路内部で光を伝搬させるために導波体と空気との間での臨界角(全反射角)以上の角度で導波体に光を入射(あるいは出射)させることを目的としており、本発明のように光が入射する非線形光学結晶材料の位相整合条件に合致させることを目的としたグレーティングの回折条件等に関して考慮された技術的手法に関する先例はない。
【0043】
本開示の第1の深紫外光発生用非線形波長変換デバイスの概要を図2に示す。これは第2高調波を発生させる場合のデバイス構成である。
【0044】
非線形光学結晶材料101の入射面の一部または全面に入射グレーティング102が形成されており、反対側の面には出射グレーティング103が形成されている。入力光201は入射グレーティングで回折され、非線形光学結晶材料内で光線202となって伝搬する。光線202は非線形結晶材料の光学面法線104(非線形光学結晶材料がKBBF/RBBF結晶の場合はc軸に相当)と角度θをなすが、このθはグレーティング102に対する入力光201の入射角θextと入力光の波長λそしてグレーティングのピッチΛで決定される。すなわち、デバイス(非線形光学結晶材料)に対する入射角を調整することでθを調整することが可能であり、これを所望の位相整合角とすることで例えば波長λ=λ/2の高調波が発生し、出射グレーティング103で回折され、入力光と同じ波長λの光線203および発生した波長λの高調波は光線204として、それぞれ異なる角度でデバイス外に出射する。
【発明の効果】
【0045】
本発明による非線形波長変換デバイスは極めて精度の高い光学研磨を必要とする光学コンタクトによるデバイスを必要とせず、内部臨界角以上の位相整合角での高調波発生により深紫外光あるいは真空紫外光の発生を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、プリズム結合デバイス(PCD)の断面構成を示す図である。
図2図2は、第1の深紫外光発生用非線形波長変換デバイスの断面構成を示す図である。
図3図3は、回折角、波長及びグレーティングピッチの関係を説明するための図である。
図4図4は、第2の深紫外光発生用非線形波長変換デバイスの断面構成を示す図である。
図5図5は、深紫外光発生用非線形波長変換デバイスの和周波混合への応用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
【0048】
図2は、第1の深紫外光発生用非線形波長変換デバイスの概念図である。同図には、非線形光学結晶材料101、入射側グレーティング(第1回折構造体)102、出射側グレーティング(第2回折構造体)103、非線形光学結晶材料の光学面の法線104、波長λの入力光の光線201、波長λの入力光と発生される波長λの高調波の結晶材料内での光線202、デバイスから出射される波長λの入力光の光線203、デバイスから出射される波長λの高調波の光線204が示されている。
【0049】
第1例の非線形波長変換デバイスは、対向する第1光学面S1及び第2光学面S2を持つ非線形光学結晶材料101を有する非線形波長変換デバイスであって、非線形光学結晶材料101の少なくとも一方の第1光学面S1に、非線形光学結晶材料3の外部から入射した入力光201を回折させる第1回折構造体102(入射側グレーティング)を有し、非線形光学結晶材料101に外部から入射する波長λの入力光201が、第1回折構造体102によって非線形光学結晶材料101の内部において、第1光学面S1の法線104と角度θ(角度θext)をなす方向に回折され、この角度θの方向は、波長λの入力光201の第2高調波である波長λの光を発生させるための位相整合条件を満たす方向である。第1回折構造体102は、入力光を所定の方向に回折させている。また、上述の対向する第1光学面S1及び第2光学面S2は平行であるが、厳密に平行である必要はなく、ほぼ平行であればよい。本例では、ほぼ平行とは、2つの面の法線の成す角度(鋭角)が1度以下を意味することとする。
【0050】
第2例の非線形波長変換デバイスは、非線形光学結晶材料3において入力光201が入射する第1光学面S1とは反対側の第2光学面S2に第2回折構造体103を有し、第2回折構造体103(出射側グレーティング)は、入力光201、第2高調波(波長λ)、又は、これら両方を非線形光学結晶材料3の外部に回折する。
【0051】
同図において入射面(図中左側)、出射面(同右側)に同じグレーティングを形成しているので入力光201は、入射したのと同じ方向の出力光203として回折され、波長λの高調波(第2高調波204)は出力光203とは異なる方向に回折される。このデバイスは従来のPCDに対して、GCD(Grating Coupled Device)と呼ぶことができる。
【0052】
ここで、グレーティングのピッチΛと回折角、入射角の関係に関して説明する。
【0053】
nを非線形光学結晶材料の屈折率、θextを入力光の入射角、θintを非線形光学結晶材料の内部の回折角、Λをグレーティング(入射側グレーティング、出射側グレーティング)のピッチとすると、図3のような関係が成り立つ。図3には、結晶材料外部の空間(例えば空気または真空等)301、屈折率nの結晶材料302、結晶材料表面に形成されたグレーティング303、結晶材料表面の法線304、デバイスに入射する光線401、結晶材料内部を伝搬する光線402、結晶材料に入射する光線の等位相面501(波長λ)、結晶材料内部を伝搬する光線の等位相面502(波長λ/n)、グレーティングのピッチ503が示されている。波長λの光線401が非線形光学結晶材料302の表面に対して入射角θextで入射する。この光線はピッチΛのグレーティング303で回折され、非線形光学結晶材料302内で、波長λ/nで屈折角θintの光線402として伝搬していく。このときのΛ、λ、n、θint、θextの関係は以下の式(6)で表わされる。
【0054】
Λ=λ/(n・sinθint―sinθext) ・・・(6)
【0055】
好ましいグレーティングとしては、デバイス(非線形光学結晶材料)に対する入射角θextに対してθintが位相整合方向θphasematchとなる必要がある。具体的な例として、193.4nm/177.4nmの光を発生させるため、非線形光学結晶材料としてKBBF/RBBF使用し、デバイスに対する入力光入射角を±5°に設定した場合、式(6)から導出される好ましいグレーティングの具体的なピッチΛ、また同じピッチのグレーティングを出射面にも形成しておいた場合の高調波の出射角θoutを表3に示す。これらはあくまで本発明の実施例であり、本発明は当然これらの数値例に限定されるものではない。
【0056】
入力光と高調波はグレーティングの回折で異なる角度で出射されるので、プリズムやダイクロイックミラーなどの波長分離手段を用いることなく、高調波のみを得ることが可能である。また、出射側のグレーティング(第2回折構造体)のピッチを、入射側のグレーティング(第1回折構造体)とは異なるものとすることで、例えば入力光とほぼ同じ方向に高調波を取り出すことも可能である(図4)。
【0057】
なお、表3の例では入射角θextを±5°としているが、入力光の入射角度は、デバイス全体の配置やグレーティングの作成条件等を考慮して適宜設定可能である。入力光を、非線形光学結晶材料の表面(グレーティング形成面)に対して垂直に入射しても良いが、若干傾斜させて入射させることによって表面反射による戻り光の影響を低減させる効果もある。
【0058】
193.4nm/177.4nmの光を発生させるため、KBBF/RBBFを使用し、入力光入射角を±5°に設定した場合のグレーティングのピッチΛ、及び、同じピッチのグレーティングを、出射面にも形成した場合の高調波の出射角θoutを表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3から、目標としている波長(193.4nm/177.4nm)に対しては、概ね0.24~0.34μmピッチのグレーティングを形成することで、所望の角度に回折させることが可能であることがわかる。
【0061】
これらのグレーティングは可視光、例えば波長532nmのレーザ光を使い、従来公知の干渉露光法等を用いることで作成可能である。また、出射側のグレーティングのピッチを変えることで出射角を入射角とほぼ平行にすることも可能である。193nm光発生用デバイスであればグレーティングのピッチは0.275μmよりも大きいので、一般的な532nm光を用いた干渉露光で十分作成可能である。また、出射側のグレーティングのピッチを変えることで例えば出射角を入射角とほぼ平行にすることも可能である。
【0062】
ここで、注目すべきことはKBBFやRBBFを用いて深紫外光を発生する場合、位相整合の許容幅は0.01°cm程度であるので、ヘッドアップディスプレイや光導波路等の場合と異なり、非線形光学結晶材料内での伝搬方向は高い精度が求められることである。加えて、グレーティングのピッチの製造誤差を考えると、実際に利用する際にはグレーティングに対する入射角を微調整して位相整合の調整を行なう。したがって、本発明の非線形波長変換デバイスを用いてレーザ発光装置を構成する場合は、非線形光学結晶材料に入射する入力光の入射角を調整する機構を有することが好ましい。
【0063】
以上説明したようなグレーティングの作製は、例えば結晶材料表面にフォトレジストを塗布し、干渉露光によりグレーティングパターンを作成した上でその露光パターン通りにエッチングを行った後にフォトレジストを除去するか、あるいは使用波長で問題のないフォトレジストであればそれをそのままグレーティングとして用いてもよい。また、酸化ケイ素(SiO)やフッ化カルシウム(CaF)などの結晶材料の屈折率に近く、また使用波長で透明な誘電体を蒸着やスパッタリングなどのプロセスで結晶材料表面に成膜し、この誘電体をリソグラフィーによりパターンを付け、エッチングによってグレーティングを形成することも可能である。また、フォトレジストに屈折率の比較的高いプリズム材を密着させて干渉露光することでより細かいピッチのグレーティングの作製も可能である。
【0064】
以上説明した実施形態では、グレーティングは1つの波長λを入射し、その回折光を発生させることを目的としていたが、同様のデバイスは2つの波長(λおよびλ)の光を入射させ、和周波波長λの出力光を得ることも可能である。この場合も式(1)で示した((1/λ)=(1/λ)+(1/λ))の関係が成り立つ。結晶材料内で2つの入力光が空間的に重なっていることが必要なので結晶材料内での伝搬方向は同じである必要がある。異なる波長で同じ方向に回折させるためには、デバイス外部から入射する2つの入力光は異なる方向から入射させればよい。
【0065】
このような実施形態を示したものが図5である。同図には、波長λの入力光の光線201、波長λの入力光の光線205、波長λの入力光及び波長λの入力光で発生する和周波又は差周波の周波数の波長λの結晶材料内での光線202(又は波長λ又は波長λの高調波の結晶材料内での光線)、デバイスから出射される波長λの入力光の光線203、デバイスから出射される波長λの高調波の光線204、デバイスから出射される波長λの入力光の光線206が示されている。図2に示した直接第2高調波発生の場合に比べて異なる波長の入力光205がデバイス上の同じ点に入射し、非線形光学結晶材料内で同じ方向の光線202として伝搬する。このときの伝搬方向を和周波混合の位相整合条件を満たす方向とすることで新たな波長である和周波光の発生が得られる。このためには予め回折角の違いを考慮して、λとλの入力光を異なる角度から入射させればよい。
【0066】
第3例の非線形波長変換デバイスにおいて、非線形波長変換デバイスは、対向する第1光学面S1及び第2光学面S2を持つ非線形光学結晶材料101を有する非線形波長変換デバイスであって、非線形光学結晶材料101の少なくとも一方の第1光学面S1に、非線形光学結晶材料101に外部から入射した光を回折させる第1回折構造体102を有し、非線形光学結晶材料101の外部から異なる角度で入射する互いに異なる波長λと波長λの入力光201(205)が、第1回折構造体102によって非線形光学結晶材料101の内部において第1光学面S1の法線104と角度θをなすほぼ同一の方向に回折され(光線202)、角度θが、互いに異なる波長λと波長λの入力光から和周波または差周波の波長λの光を発生させるための位相整合条件を満たす角度である。なお、ほぼ同一の方向とは、本例では2つの方向の成す角度(鋭角)が1度以下を意味することとする。
【0067】
第4例の非線形波長変換デバイスにおいて、非線形光学結晶材料101は、異なる波長λと波長λの入力光201(205)が入射する第1光学面S1とは反対側の第2光学面S2にも、入射した光を回折させる第2回折構造体103を有し、第2回折構造体103は、異なる波長λと波長λの入力光201(205)、異なる波長の入力光201(205)から発生した和周波又は差周波の波長λの光、又は、これら全部の光(203,204,206)を非線形光学結晶材料101の外部に回折させる。
【0068】
第5例の非線形波長変換デバイスは、第1~第4例のいずれかの非線形波長変換デバイスにおいて、非線形光学結晶材料101と空気(又は保護膜、媒介物質)の界面における、位相整合条件を満たす方向に伝搬する光線の、非線形光学結晶材料101の内部から前記界面への入射角をθint、非線形光学結晶材料の屈折率をnとした場合、sinθint>1/nの関係が成立し、非線形光学結晶材料101の内部における内部全反射条件を満足する。
【0069】
第6例の非線形波長変換デバイスは、第1~第5例のいずれかの非線形波長変換デバイスにおいて、非線形光学結晶材料は、KBeBO(KBBF)、RbBeBO(RBBF)、又は、(NH)BeBO(ABBF)である。
【0070】
第7例の非線形波長変換デバイスは、第1~第6例のいずれかの非線形波長変換デバイスにおいて、第1回折構造体(及び/又は第2回折構造体)が、グレーティングである。
【0071】
第8例の非線形波長変換デバイスは、第1~第6例のいずれかの非線形波長変換デバイスにおいて、第1回折構造体(及び/又は第2回折構造体)が、リソグラフィーによって作成したパターンによりエッチングで形成されたグレーティングである。非線形光学結晶材料の光学面上にレジストを塗布して、このレジストがストライプ開口を有するようにパターニングした後、当該開口内の非線形光学結晶材料をエッチングすることができる。このエッチングにより、非線形光学結晶材料の表面に凹凸を有するグレーティングが形成される。
【0072】
第9例の非線形波長変換デバイスは、第1~第6例のいずれかの非線形波長変換デバイスにおいて、第1回折構造体(及び/又は第2回折構造体)が、非線形光学結晶材料の第1光学面に誘電体膜を蒸着またはスパッタリングによって形成し、更にリソグラフィーによって作成したパターンによって当該誘電体膜をエッチングして形成されたグレーティングである。誘電膜のグレーティングは、ストライプ形状を有することができる。
【0073】
第10例の非線形波長変換デバイスは、第9例の非線形波長変換デバイスにおいて、この誘電体膜の材料は、SiO、Al、CaF、MgF、又は、LaFである。
【0074】
第11例の非線形波長変換デバイスは、第1~第10例のいずれかの非線形波長変換デバイスにおいて、非線形光学結晶材料が劈開性を持つ結晶である。非線形光学結晶材料がKBBF結晶、又は、RBBF結晶などの場合、各結晶は、a軸、b軸及びc軸を有し、c軸に対して垂直な劈開面を有している。この劈開面は、第1光学面S1及び第2光学面S2となる。回折構造体(回折格子:グレーティング)を形成する場合、回折格子のストライプの長手方向をa軸に設定し、ストライプのピッチ方向をb軸に設定する例が考えられる。回折格子のストライプの長手方向をb軸に設定し、ストライプのピッチ方向をa軸に設定する例が考えられる。回折格子のストライプの長手方向をa軸又はb軸と所定の角度(例えば、0度から30度)を成す方向に設定し、ストライプのピッチ方向をストライプの長手方向に対して垂直な方向に設定する例が考えられる。
【0075】
レーザ光発生装置は、上述の第1例~第11例のいずれかの非線形波長変換デバイスと、非線形波長変換デバイスに対する入力光の入射角を調整する機構とを備えることができる。レーザ光の進行方向を変更し、デバイスへの入射角を変更する機構としては、音響光学素子など数多くの機構が列挙される。
【0076】
レーザ光発生装置は、波長200nmよりも短い波長を有するレーザ光を出射することができる。
【0077】
以上、説明したように、実施形態に係る非線形波長変換デバイスは、非線形光学結晶の研磨可能な面、もしくは劈開面の表面にグレーティングを形成し、グレーティングで回折された入力光を、非線形光学結晶の内部において、位相整合角で伝搬させている。特定の面以外での研磨が事実上不可能な非線形光学結晶材料を用いた非線形波長変換デバイスにおいて、プリズム結合デバイスを用いず、内部全反射臨界角よりも大きい位相整合角で入力光を入射させ、高調波もしくは和周波光を発生させることができる。
【0078】
本発明において、非線形光学結晶材料上に形成するグレーティングは、格子ベクトルが所望の位相整合方向の光学面に対する投射と同じ方向に向くように形成することが望ましい。位相整合方向は一軸性の結晶であっても結晶の対称性によっては同じ天頂角でも方位角の違いにより実効的非線形性が異なる場合があり、波長変換効率が方位角に依存する場合がある。そのため、この方位角を考慮に入れた位相整合方向に回折光が結晶中で伝搬するようにグレーティングを形成することが望ましい。
【0079】
なお、以上の実施形態においてはグレーティングを使用した場合について説明したが、非線形光学結晶材料表面に形成するのはグレーティングに限定されることなく、入射光を所定の角度に回折させる回折作用を有する構造体であれば、同様の作用効果が得られることは言うまでもない。例えば、二次元格子状の回折構造体を形成することによって、複数の位置や方向に回折光を発生させることができる。また、ホログラムを形成させることによって所望の場所に所望の形状の光束を導くことも可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…入射側プリズム、2…媒介物質、3…非線形光学結晶材料、4…出射側プリズム、101…非線形光学結晶材料、102…入射側グレーティング(第1回折構造体)、103…出射側グレーティング(第2回折構造体)、104…法線、201…光線、202…光線、203…光線、204…光線、205…光線、206…光線、301…外部空間、302…結晶材料、303…グレーティング、304…法線、401…光線、402…光線、501…等位相面、502…等位相面、503…ピッチ。

図1
図2
図3
図4
図5