(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018674
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】アルミニウム粗化箔及びその製造方法、並びに、積層体
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20250130BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20250130BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C23C28/00 A
H05K1/09 A
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122604
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 賢治
(72)【発明者】
【氏名】秋山 聡太郎
(72)【発明者】
【氏名】関口 文也
【テーマコード(参考)】
4E351
4K044
【Fターム(参考)】
4E351BB01
4E351BB30
4E351DD10
4E351DD54
4E351GG01
4E351GG20
4K044AA06
4K044BA06
4K044BA10
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC05
4K044CA15
4K044CA23
4K044CA24
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】本発明は、回路の断線を抑制することができ、金属めっき層と優れた密着性を示すことができ、且つ、エッチングでのハンドリング性に優れたアルミニウム粗化箔、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の粉末焼結層を有するアルミニウム粗化箔であって、
前記粉末焼結層の厚みが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記アルミニウム粗化箔の耐力が40N/mm2以上である、
ことを特徴とするアルミニウム粗化箔。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の粉末焼結層を有するアルミニウム粗化箔であって、
前記粉末焼結層の厚みが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記アルミニウム粗化箔の耐力が40N/mm2以上である、
ことを特徴とするアルミニウム粗化箔。
【請求項2】
前記粉末焼結層の表面の算術平均粗さRaが0.06μm以上0.5μm以下である、請求項1に記載のアルミニウム粗化箔。
【請求項3】
前記粉末焼結層の表面の算術平均粗さRaが0.06μm以上0.3μm以下である、請求項1に記載のアルミニウム粗化箔。
【請求項4】
前記粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上2.0μm以下である、請求項1に記載のアルミニウム粗化箔。
【請求項5】
前記粉末焼結層の厚みが0.4μm以上2.0μm以下である、請求項1に記載のアルミニウム粗化箔。
【請求項6】
前記アルミニウム箔基材又は前記アルミニウム合金箔基材の厚みが9μm以上50μm以下である、請求項1に記載のアルミニウム粗化箔。
【請求項7】
金属めっき工程を含むプリント配線基板の製造用である、請求項1に記載のアルミニウム粗化箔。
【請求項8】
請求項1に記載のアルミニウム粗化箔の前記粉末焼結層の表面に、更に、表面層を有することを特徴とする積層体。
【請求項9】
前記表面層は、金属めっき層、又は、樹脂層である、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
アルミニウム粗化箔の製造方法であって、
(1)アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末を含むペースト組成物の皮膜を形成する第1工程、
(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結して焼結材を作製する第2工程、及び、
(3)前記焼結材にロールプレスを施す第3工程
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項11】
前記アルミニウム粗化箔は、前記アルミニウム箔基材又は前記アルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、前記アルミニウム粉末及び前記アルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の粉末焼結層を有し、
前記粉末焼結層の厚みが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記アルミニウム粗化箔の耐力が40N/mm2以上である、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム粗化箔及びその製造方法、並びに、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線基板等の電子部品には、金属回路が形成されている。このような金属回路を形成するための金属として、主に銅が用いられている。
【0003】
近年、コストダウン、軽量化等を目的として、金属回路を形成するための金属として、アルミニウムを用いることが検討されている。当該アルミニウムは銅と比較して軽量で安価な金属であるが、表面に存在する酸化被膜が半田との接合を妨げてしまうため、アルミニウムの表面に直接半田付けを行っても接合強度が十分ではないという問題がある。
【0004】
アルミニウム表面に半田による接合を行う場合、接合強度を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1では、亜鉛置換めっきにより亜鉛層を形成し、その上にニッケルめっき層を形成する方法が開示されている。この亜鉛置換めっきによる亜鉛層の形成を行うことにより、アルミニウム基材とニッケルめっき層との間の密着性を確保することが提案されている。
【0006】
また、本発明者は、アルミニウム基材の表面を特定の形状に粗化することで、亜鉛置換めっきを形成しなくてもニッケルめっき層等の金属めっき層との密着性が向上することを見出した。当該方法によれば、めっきのコストおよび環境負荷の低減が可能となる。
【0007】
プリント配線基板への部品実装等、半田による接合を必要とする分野において、銅からアルミニウムに置き換えていくためには、アルミニウム上へのめっきの工程の簡略化が重要である。上記方法によれば、亜鉛置換めっきの省略が可能となるが、プリント配線基板への適用には検討の余地がある。上記方法ではニッケルめっき層とアルミニウム基材との界面において互いに厚み方向へ突出した錨状部を備えることで、密着性が向上する。当該ニッケルめっきとアルミニウム基材との積層体をプリント配線基板に用いる際に、積層体作製後に回路エッチングを施すと、エッチング端面でニッケル/アルミニウム界面が外部に露出することとなる。異種金属間の接点が外部に露出することでガルバニック腐食の危険性が高まり、回路としての信頼性に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0008】
また、本発明者は、アルミニウム基材を回路エッチングした後、アルミニウム表面を錨状部が形成された粗面に処理し、次いで、ニッケルめっきを施して積層体とする方法によれば、回路のエッチング端面も全てニッケルめっきに覆われるため、腐食が抑制されることを見出した。しかしながら、回路エッチングの後に化学エッチングでアルミニウムを粗化すると、細線に形成された配線部が断線してしまうという問題がある。また、アルミニウム基材表面を粗化した後に回路エッチングを施し、次いで、ニッケルめっきを施す方法によっても腐食・断線を抑制することができるが、改善の余地がある。
【0009】
また、回路エッチングでは、まずアルミニウム基材上に目的の配線形状となるようレジスト膜を形成する。次いで、レジスト膜を形成しなかった部分のアルミニウムを酸、又は、アルカリ溶液によって溶解し、最後にレジスト膜を剥離することで目的のアルミニウム配線が形成される。アルミニウム基材の表面を粗化した後、その上にレジスト膜を形成した場合、アルミニウム基材表面の粗化部分とレジスト膜との間に隙間が生じることになる。酸、又はアルカリ溶液によるアルミニウムの溶解の際に、当該隙間から酸、又はアルカリ溶液が侵入し、アルミニウム配線部を過剰に溶解して断線するという問題がある。
【0010】
アルミニウム基材表面の粗化部分の深さを極力小さくすることで、断線リスクを低減することができると考えられる。しかしながら、化学エッチングによる粗化方法では均一に浅く表面を荒らすことが困難である。粗化部分の深さを小さくエッチングしようとすると、エッチング部と未エッチング部が混在する不均一な表面となる。当該表面の上に金属めっきをすると、金属めっき層の表面も不均一となってしまうという問題がある。
【0011】
また、アルミニウム基材をエッチング以外の方法で粗化する粗化方法としては、アルミニウム系基材の表面にアルミニウム系粒子を溶着させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0012】
しかしながら、特許文献2の実施例において開示されている溶着するアルミニウム粉末粒径は3μm、溶着層の厚みは5μmが最も小さい値となっている。粉末粒径、溶着層の厚みがともに小さくなると接着強度が十分でないという問題がある。更に、特許文献2では、約600℃での熱処理を必要とすることからアルミニウム基材の強度が極端に低くなってしまい、薄箔での取り扱いが困難であるという問題がある。高温熱処理直後に強度が低いと、回路エッチングの工程でもハンドリングが難しいという問題があり、アルミニウム箔基材にシワが発生しやすくなっている。
【0013】
従って、表面の粗化部分の深さが小さいことにより回路の断線を抑制することができ、ニッケルめっき層等の金属めっき層と優れた密着性を示すことができ、ハンドリング性に優れたアルミニウム粗化箔の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005-060809号公報
【特許文献2】特開2017-100324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、回路の断線を抑制することができ、金属めっき層と優れた密着性を示すことができ、且つ、エッチングでのハンドリング性に優れたアルミニウム粗化箔、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の粉末焼結層を有するアルミニウム粗化箔において、粉末焼結層の厚み、粉末焼結層の表面の十点平均粗さRz、及び、アルミニウム粗化箔の耐力を特定の範囲とすることにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、下記のアルミニウム粗化箔及びその製造方法、並びに、積層体に関する。
1.アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の粉末焼結層を有するアルミニウム粗化箔であって、
前記粉末焼結層の厚みが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記アルミニウム粗化箔の耐力が40N/mm2以上である、
ことを特徴とするアルミニウム粗化箔。
2.前記粉末焼結層の表面の算術平均粗さRaが0.06μm以上0.5μm以下である、項1に記載のアルミニウム粗化箔。
3.前記粉末焼結層の表面の算術平均粗さRaが0.06μm以上0.3μm以下である、項1に記載のアルミニウム粗化箔。
4.前記粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上2.0μm以下である、項1に記載のアルミニウム粗化箔。
5.前記粉末焼結層の厚みが0.4μm以上2.0μm以下である、項1に記載のアルミニウム粗化箔。
6.前記アルミニウム箔基材又は前記アルミニウム合金箔基材の厚みが9μm以上50μm以下である、項1に記載のアルミニウム粗化箔。
7.金属めっき工程を含むプリント配線基板の製造用である、項1に記載のアルミニウム粗化箔。
8.項1に記載のアルミニウム粗化箔の前記粉末焼結層の表面に、更に、表面層を有することを特徴とする積層体。
9.前記表面層は、金属めっき層、又は、樹脂層である、項8に記載の積層体。
10.アルミニウム粗化箔の製造方法であって、
(1)アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末を含むペースト組成物の皮膜を形成する第1工程、
(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結して焼結材を作製する第2工程、及び、
(3)前記焼結材にロールプレスを施す第3工程
を含むことを特徴とする製造方法。
11.前記アルミニウム粗化箔は、前記アルミニウム箔基材又は前記アルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、前記アルミニウム粉末及び前記アルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の粉末焼結層を有し、
前記粉末焼結層の厚みが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上4.0μm以下であり、
前記アルミニウム粗化箔の耐力が40N/mm2以上である、項10に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルミニウム粗化箔によれば、回路の断線を抑制することができ、金属めっき層と優れた密着性を示すことができ、且つ、エッチングにおいて優れたハンドリング性を示すことができる。また、本発明の製造方法によれば、上記本発明のアルミニウム粗化箔を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のアルミニウム粗化箔の一例の断面のSEM写真である。
【
図2】本発明のアルミニウム粗化箔にニッケルめっきを施した状態の断面のSEM写真である。
【
図3】回路(配線)エッチング試験の配線形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.アルミニウム粗化箔
本発明のアルミニウム粗化箔は、アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の粉末焼結層を有するアルミニウム粗化箔であって、前記粉末焼結層の厚みが0.4μm以上4.0μm以下であり、前記粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上4.0μm以下であり、前記アルミニウム粗化箔の耐力が40N/mm2以上であるアルミニウム粗化箔である。
【0021】
一般に、アルミニウムの化学エッチングでは表面方向、及び、厚み方向への溶解が不均一に進みやすく、表面全域を粗化するまでエッチングすると、厚み方向への溶解度合が場所により大きくバラつき、不必要に深くまで溶解した部分が多数発生する。これにより、細線に形成された配線部に断線を生じる。本発明のアルミニウム粗化箔は、表面の粗化部分の深さが小さいため、回路エッチング性に優れており、且つ、金属めっき層と優れた密着性を示すことができる。
【0022】
本発明の作用について、以下に説明する。すなわち、アルミニウム基材表面にアルミニウム粉末を塗工、焼結させることで、アルミニウム粉末の粒径に応じた凹凸表面を形成することができる。アルミニウム粉末は各種塗工方法により表面均一に塗工可能であり、化学エッチングのようなマクロ的なバラつきを抑制することができる。しかしながら、アルミニウム粉末を極力薄く塗工しようとしても、平均粒子径より大きい凹凸表面となる。本発明では、そこから更にロールプレスを行うことでより微細な凹凸表面が得られ、回路エッチング性と金属めっき層との密着性の両方を兼ね備えたアルミニウム粗化箔となる。また、ロールプレスによる圧縮でアルミニウム粗化箔の耐力が向上し、これによりエッチングの実工程にも耐え得ることができるため、エッチングにおいて優れたハンドリング性を示すことができる。
【0023】
本発明のアルミニウム粗化箔の一例の断面のSEM写真を
図1に示す。また、本発明のアルミニウム粗化箔にニッケルめっきを施した状態の断面のSEM写真を
図2に示す。
図2によれば、焼結した粉末粒子の隙間にニッケルめっきが入り込んでいることが確認できる。これにより微細な凹凸であっても、ニッケルめっきとの間で、より一層優れた密着性を示すことができる。
図2のように、粉末粒子の形状を維持した凹凸を介した接合は、物理的な密着力を向上させることができ、金属に限らず異種物質との接合においても優れた密着性を示すことができる。
【0024】
以下、本発明のアルミニウム粗化箔について詳細に説明する。
【0025】
本発明のアルミニウム粗化箔の耐力は、40N/mm2以上である。耐力が40N/mm2未満であると、回路の断線を抑制することができず、また、エッチングにおいてハンドリング性が劣る。耐力は、45N/mm2以上がより好ましい。また、耐力の上限は特に限定されず、80N/mm2以下が好ましく、60N/mm2以下がより好ましい。
【0026】
本明細書において、アルミニウム粗化箔の耐力の測定方法は、後述の実施例に記載の方法による。
【0027】
(粉末焼結層)
本発明のアルミニウム粗化箔は、アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の粉末焼結層を有する。
【0028】
粉末焼結層は、アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に形成されていればよく、両面に形成されていてもよい。
【0029】
粉末焼結層は、粉末同士が空隙を維持しながら焼結して接合されることにより、三次元網目構造を有する多孔質焼結層であることが好ましい。当該構造を有することにより、粉末焼結層の表面積が大きくなり、本発明のアルミニウム粗化箔と金属めっき層との密着性がより向上する。
【0030】
アルミニウム粉末としては、純アルミニウムからなるアルミニウム粉末およびアルミニウム合金粉末いずれも使用できるが、アルミニウム合金粉を使用することが好ましい。
【0031】
アルミニウム合金粉末のアルミニウム含有量は、95.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましい。
【0032】
アルミニウム合金粉末は、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)等から選ばれる1種以上の元素を含んでもよい。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量の合計は、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0033】
純アルミニウムからなるアルミニウム粉末のアルミニウム含有量は、99.80質量%以上であることが好ましく、99.85質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが更に好ましい。
【0034】
上記粉末は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
上記粉末の体積基準の粒度分布における50%粒子径D50(以下、「体積基準の粒子径D50」、「D50」とも示す。)は、0.5μm以上が好ましく、0.7μm以上がより好ましく、1.0μm以上が更に好ましく、1.5μm以上が特に好ましい。また、D50は、4.5μm以下が好ましく、4.2μm以下がより好ましく、4.0μm以下が更に好ましく、3.5μm以下が特に好ましく、3.0μm以下が最も好ましい。D50の下限が上記範囲であることにより、本発明のアルミニウム粗化箔と金属めっき層との密着性がより向上する。D50の上限が上記範囲であることにより、粉末焼結層の厚みをより薄く制御することができ、回路エッチング性がより向上する。
【0036】
本明細書において、粉末の体積基準の粒度分布における50%粒子径D50の測定方法は、後述の実施例に記載の方法による。
【0037】
本発明のアルミニウム粗化箔は、粉末焼結層の厚みが0.4μm以上4.0μm以下である。粉末焼結層の厚みが0.4μm未満であると、本発明のアルミニウム粗化箔と金属めっき層との密着性が低下する。粉末焼結層の厚みが4.0μmを超えると、回路の断線を抑制することができない。粉末焼結層の厚みは、0.7μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。また、粉末焼結層の厚みは、3.5μm以下が好ましく、3.0μm以下がより好ましく、2.0μm以下が更に好ましい。
【0038】
本明細書において、粉末焼結層の厚みの測定方法は、後述の実施例に記載の方法による。
【0039】
本発明のアルミニウム粗化箔は、粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上4.0μm以下である。Rzが0.4μm未満であると、本発明のアルミニウム粗化箔と金属めっき層との密着性が低下する。Rzが4.0μmを超えると、回路の断線を抑制することができない。Rzは、0.7μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。また、Rzは、3.5μm以下が好ましく、3.0μm以下がより好ましく、2.5μm以下が更に好ましく、2.0μm以下が特に好ましい。
【0040】
本明細書において、粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzの測定方法は、後述の実施例に記載の方法による。
【0041】
本発明のアルミニウム粗化箔において、粉末焼結層の表面の算術平均粗さRaは、0.06μm以上0.5μm以下が好ましい。Raが0.06μm以上であると、本発明のアルミニウム粗化箔と金属めっき層との密着性がより向上する。Raが0.5μm以下であると、回路の断線がより抑制される。Raは、0.1μm以上がより好ましく、0.2μm以上が更に好ましい。また、Raは、0.45μm以下がより好ましく、0.4μm以下が更に好ましく、0.3μm以下が特に好ましい。
【0042】
本明細書において、粉末焼結層の表面の算術平均粗さRaの測定方法は、後述の実施例に記載の方法による。
【0043】
(アルミニウム箔基材、アルミニウム合金箔基材)
本発明のアルミニウム粗化箔は、アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材(以下、併せて「基材」とも示す。)を有する。
【0044】
アルミニウム箔基材を形成するアルミニウム箔としては、アルミニウム合金箔を使用することが好ましい。
【0045】
アルミニウム合金箔のアルミニウム含有量は、95.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましい。
【0046】
アルミニウム合金箔基材を形成するアルミニウム合金箔に用いられるアルミニウム合金は、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)及びホウ素(B)からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を必要範囲内において、アルミニウムに添加したアルミニウム合金であってもよいし、上記元素を不可避不純物的に含むアルミニウム合金であってもよい。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量の合計は、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0047】
アルミニウム箔基材を形成するアルミニウム箔としては、また、純アルミニウムからなるアルミニウム箔を使用することも好ましい。
【0048】
純アルミニウムからなるアルミニウム箔のアルミニウム含有量は、99.80質量%以上であることが好ましく、99.85質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが更に好ましい。
【0049】
純アルミニウムからなるアルミニウム箔基材は、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)及びホウ素(B)からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を不可避不純物的に含むアルミニウムであってもよい。アルミニウム中のこれらの元素の含有量は、100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましい。
【0050】
基材としては、一般的なJIS H4160に定められる1N30、8079、8021等のアルミニウム合金箔が、圧延性に優れる観点から好ましい。
【0051】
基材の厚みは、配線部の細線化が容易となり、アルミニウムの溶解時間が短くなる観点、及び、アルミニウム粗化箔の強度がより一層向上する観点から、9μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましい。また、基材の厚みは、70μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下が更に好ましい。
【0052】
本発明のアルミニウム粗化箔は、上記粉末焼結層の表面に、更に、金属めっき層を有していてもよい。粉末焼結層の表面に、更に、金属めっき層を有する本発明のアルミニウム粗化箔は、粉末焼結層と、金属めっき層との密着性に優れた回路として有用である。すなわち、本発明のアルミニウム粗化箔は、金属めっき工程を含むプリント配線基板の製造用であることが好ましい。
【0053】
2.積層体
本発明の積層体は、上記本発明のアルミニウム粗化箔の粉末焼結層の表面に、更に、表面層を有する積層体である。本発明の積層体は、アルミニウム粗化箔の粉末焼結層の空隙部分に表面層を形成する物質と同じ物質を充填することで、粉末焼結層と表面層との間で、高い密着力を発揮することができる。
【0054】
表面層が金属めっき層である場合、本発明の積層体は、粉末焼結層と、金属めっき層との密着性に優れた回路として有用である。
【0055】
金属めっき層を形成する金属としては、回路の形成に用いられる金属を広く用いることができる。このような金属としては、ニッケル、亜鉛、銅、金、錫等が挙げられる。
【0056】
金属めっき層の厚みは、用途に応じて適宜設定されるが、0.5μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。
【0057】
表面層が樹脂層である場合、樹脂層を形成する樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。
【0058】
樹脂層の厚みは、用途に応じて適宜設定されるが、5μm以上1000μm以下が好ましく、20μm以上300μm以下がより好ましい。
【0059】
3.アルミニウム粗化箔の製造方法
本発明のアルミニウム粗化箔の製造方法は、
(1)アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末を含むペースト組成物の皮膜を形成する第1工程、
(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結して焼結材を作製する第2工程、及び、
(3)前記焼結材にロールプレスを施す第3工程を含む製造方法である。以下、詳細に説明する。
【0060】
(第1工程)
第1工程は、(1)アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材(以下、併せて「基材」とも示す。)の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末を含むペースト組成物の皮膜を形成する工程である。
【0061】
原料のアルミニウムの粉末としては、例えば、アルミニウム純度95.0質量%以上のアルミニウム合金粉末が好ましく、アルミニウム純度99.0質量%以上のアルミニウム合金粉末がより好ましく、アルミニウム純度99.5質量%以上のアルミニウム合金粉末が更に好ましい。また、原料のアルミニウム合金粉末としては、例えば、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)等の元素のうち、1種又は2種以上を含む合金が好ましい。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量の合計は、5質量%以下、特に1質量%以下とすることが好ましい。
【0062】
上記粉末は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
上記粉末の体積基準の粒度分布における50%粒子径D50(以下、「体積基準の粒子径D50」、「D50」とも示す。)は、0.5μm以上が好ましく、0.7μm以上がより好ましく、1.0μm以上が更に好ましく、1.5μm以上が特に好ましい。また、D50は、4.5μm以下が好ましく、4.2μm以下がより好ましく、4.0以下が更に好ましく、3.5以下が特に好ましく、3.0以下が最も好ましい。D50の下限が上記範囲であることにより、本発明製造方法により製造されるアルミニウム粗化箔と金属めっき層との密着性がより向上する。D50の上限が上記範囲であることにより、粉末焼結層の厚みをより薄く制御することができ、回路エッチング性がより向上する。
【0064】
アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の形状は、特に限定されず、球状、不定形状、鱗片状、繊維状等のいずれも好適に使用できるが、工業的生産には球状粒子からなる粉末が特に好ましい。
【0065】
ペースト組成物は、樹脂バインダーを含有していてもよい。樹脂バインダーについては、公知のものを広く採用することができ、例えば、エチルセルロース系バインダー樹脂、カルボキシ変性ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩酢ビ共重合樹脂、ビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の合成樹脂、並びに、ワックス、タール、にかわ、ウルシ、松脂、ミツロウ等の天然樹脂又はワックスが好適に使用できる。これらのバインダー樹脂は、分子量、樹脂の種類等により、加熱時に揮発するものと、熱分解によりその残渣がアルミニウム粉末とともに残存するものとがあるが、特に限定されない。
【0066】
ペースト組成物中のバインダー樹脂の含有量は、ペースト組成物100質量%中に0.5~10質量%とすることが好ましく、0.75~7質量%とすることがより好ましい。ペースト組成物中の樹脂バインダー量が0.5質量%以上であることにより、基材とペースト組成物の皮膜との密着強度を向上できる。一方、樹脂バインダー量が10質量%以下であることにより、焼結工程及び脱脂工程において脱脂しやすく、バインダー樹脂が残留する事によって発生する不具合を抑制できる。
【0067】
その他、必要に応じて適宜、ペースト組成物中には溶剤、焼結助剤、界面活性剤等が含まれていてもよい。これらはいずれも公知又は市販のものを使用することができる。これにより効率よく皮膜を形成することができる。
【0068】
溶剤としては、公知の溶剤を広く採用することがきる。例えば、水;トルエン、アルコール類、ケトン類、エステル類等の有機溶剤を使用することができ、プロピレングリコールモノメチルエーテルを好適に用いることができる。
【0069】
焼結助剤としても、公知の焼結助剤を広く使用することができる。例えば、アルミニウムフッ化物、カリウムフッ化物等を使用することができる。
【0070】
界面活性剤としても、公知の界面活性剤を広く使用することができる。例えば、ベタイン系、スルホベタイン系、アルキルベタイン系等の界面活性剤を使用することができる。
【0071】
上記のペースト組成物を、基材の片面又は両面に付着させてペースト組成物の皮膜を形成するに際し、皮膜の片面あたりの厚みは0.8μm以上6μm以下とすることが好ましく、1μm以上3μm以下とすることがより好ましい。
【0072】
基材上に皮膜を形成する方法としては特に限定されず、ペースト組成物を、例えばダイコート、グラビアコート、ダイレクトコート、ローラー、刷毛、スプレー、ディッピング等の塗布方法を用いて形成できるほか、シルクスクリーン印刷等の公知の印刷方法により形成することもできる。
【0073】
また、必要に応じて基材上に付着させた皮膜を、基材と共に20~300℃の範囲内の温度で1~30分間乾燥させることも好ましい。
【0074】
(第2工程)
第2工程は、(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する工程である。
【0075】
第2工程により皮膜中の粉末が焼結され、基材上に焼結材が形成される。焼結温度は560℃以上660℃以下である。焼結温度が560℃未満であると、焼結が進まず粉末焼結層が得られない。焼結温度が660℃を超えると、粉末が溶融して、所望の粉末焼結層の表面形状が得られない。焼結温度は、570℃以上650℃未満が好ましく、580℃以上620℃未満がより好ましい。
【0076】
焼結時間は焼結温度等にも影響されるが、通常は5~24時間程度の範囲内で適宜設定することができる。焼結雰囲気は、特に制限されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気(大気)、還元性雰囲気等のいずれであってもよいが、特に真空雰囲気又は還元性雰囲気とすることが好ましい。また、圧力条件についても、常圧、減圧又は加圧のいずれであってもよい。
【0077】
(脱脂工程)
本発明の製造方法は、第2工程に先立って、皮膜中のバインダー樹脂を気化する目的で脱脂工程を行うことが好ましい。脱脂工程としては、例えば、酸化性ガス雰囲気(大気)中で200~500℃で1~20時間加熱する工程が挙げられる。加熱温度の下限、または加熱時間の下限が上記範囲であることにより、皮膜中のバインダー樹脂がより気化し易くなり、皮膜中のバインダー樹脂の残留を抑制することができる。また、加熱温度の上限、または加熱時間の上限が上記範囲であることにより、皮膜中のアルミニウム粉末の焼結の進み過ぎを抑制することができる。
【0078】
(第3工程)
第3工程は、(3)前記焼結材にロールプレスを施す工程である。第2工程において作製された焼結材にロールプレスを施すことにより、上述の本発明のアルミニウム粗化箔とすることができる。すなわち、本発明の製造方法によれば、アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の粉末焼結層を有し、粉末焼結層の厚みが0.4μm以上4.0μm以下であり、粉末焼結層の表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上4.0μm以下であり、アルミニウム粗化箔の耐力が40N/mm2以上であるアルミニウム粗化箔を製造することができる。
【0079】
ロールプレスを施す方法としては特に限定されず、従来公知の方法によりロールプレスを行うことができる。このようなロールプレスの方法としては、2本ロール垂直配置型ロールプレス装置等によりロールプレスを施す方法が挙げられる。
【0080】
ロールプレスの荷重としては、第2工程により得られた焼結材の厚み、及び、目的とするロールプレス後のアルミニウム粗化箔の厚みにより適宜調整すればよいが、例えば、1~500kN程度である。
【0081】
ロールプレスの速度としては、安定してアルミニウム粗化箔を製造することができれば特に限定されないが、1~50m/min程度である。
【0082】
以上説明した製造方法により、上述の本発明のアルミニウム粗化箔を製造することができる。
【実施例0083】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0084】
(実施例1)
(第1工程)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が1.92μmのアルミニウム粉末を、バインダー樹脂溶液中に分散させてペースト組成物(スラリー)を調製した。アルミニウム粉末とバインダー樹脂溶液との重量比は1:1であった。バインダー樹脂溶液は、有機溶剤としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル中に5質量%のエチルセルロース系バインダー樹脂を溶解させて調製した。
【0085】
アルミニウム箔(JIS-A8021材、硬質、厚み30μm、片ツヤ)をアルミニウム箔基材として、ツヤ面側にグラビア塗工によりスラリーを塗工し、乾燥することで、粉末を含むペースト組成物の皮膜を形成した。皮膜の厚み(塗膜厚み)はなるべく薄くなるように調整した結果、2.51μmであった。
【0086】
(第2工程)
ペースト組成物の皮膜が形成されたアルミニウム箔基材に空気中で400℃での脱脂熱処理(バインダーの分解)を施し、次いで、アルゴンガス中で610℃で焼結熱処理(粉末同士、粉末と基材の焼結)を経て、アルミニウム箔基材上に粉末焼結層が形成された焼結材を作製した。
【0087】
(第3工程)
得られた焼結材をロールプレス装置(2本ロール垂直配置型:由利ロール株式会社製、最大荷重100kN)でロールプレスを行うことにより加圧処理し、所定の表面粗さに制御することでアルミニウム粗化箔を製造した。なお、ロールプレス後の粉末焼結層の厚みを1.47μmに制御した。
【0088】
(実施例2)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が4.05μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。塗膜厚みはなるべく薄くなるように調整し、その厚みは5.17μmとなった。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施しロールプレス後の粉末焼結層の厚みを3.45μmに調整した。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0089】
(実施例3)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が0.81μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。塗膜厚みはなるべく薄くなるように調整し、その厚みは0.84μmとなった。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施しロールプレス後の粉末焼結層の厚みを0.46μmに調整した。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0090】
(実施例4)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が1.54μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。塗膜厚みはなるべく薄くなるように調整し、その厚みは2.14μmとなった。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施しロールプレス後の粉末焼結層の厚みを1.74μmに調整した。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0091】
(実施例5)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が1.92μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。アルミニウム粉末が積み重なる形で塗膜厚みを4.05μmに調整した。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施しロールプレス後の粉末焼結層の厚みを3.33μmに調整した。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0092】
(比較例1)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が1.92μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。アルミニウム粉末が積み重なる形で塗膜厚みを4.95μmに調整した。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施しロールプレス後の粉末焼結層の厚みを4.06μmに調整した。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0093】
(比較例2)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が4.05μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。塗膜厚みはなるべく薄くなるように調整し、その厚みは5.17μmとなった。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施さずそのままアルミニウム粗化箔とした。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0094】
(比較例3)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が0.81μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。塗膜厚みはなるべく薄くなるように調整し、その厚みは0.84μmとなった。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施しロールプレス後の粉末焼結層の厚みを0.34μmに調整した。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0095】
(比較例4)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が1.92μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。塗膜厚みはなるべく薄くなるように調整し、その厚みは2.51μmとなった。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施さずそのままアルミニウム粗化箔とした。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0096】
(比較例5)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が1.92μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。塗膜厚みはなるべく薄くなるように調整し、その厚みは2.51μmとなった。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施しロールプレス後の粉末焼結層の厚みを2.24μmに調整した。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0097】
(比較例6)
体積基準の粒度分布における50%粒子径D50値が0.81μmのアルミニウム粉末をアルミニウム箔基材表面に均一に塗工した。塗膜厚みはなるべく薄くなるように調整し、その厚みは0.84μmとなった。焼結工程を経て、その後、ロールプレスを施さずそのままアルミニウム粗化箔とした。それ以外は実施例1と同様にして、アルミニウム粗化箔を製造した。
【0098】
(参考例1)
アルミニウム箔(JIS-A8021材、軟質、250℃空気熱処理、厚み30μm、片ツヤ)をそのまま参考例1とした。なお、特性の評価試験はツヤ面で行った。
【0099】
(参考例2)
アルミニウム箔(JIS-A8021材、軟質、250℃空気熱処理、厚み30μm、片ツヤ)をそのまま参考例2とした。なお、特性の評価はケシ面(ツヤ面とは反対側の面)で行った。
【0100】
(参考例3)
アルミニウム箔(JIS-A8079材、軟質、250℃空気熱処理、厚み30μm、片ツヤ)をそのまま参考例3とした。なお、特性の評価試験はツヤ面で行った。
【0101】
(評価方法)
実施例及び比較例について、特性の評価は、下記方法により行った。
【0102】
アルミニウム粉末のD
50
測定
マイクロトラックMT3300EXII(日機装株式会社製)を使用し、レーザー回折・散乱法(湿式)により粒度分布を体積基準で測定し、D50値を算出した。
【0103】
塗工後の塗膜厚み(ペースト組成物の皮膜の厚み)測定
スラリー(ペースト組成物)を塗工、乾燥した塗工材のND-TD断面を研磨し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7200F)を用いて観察した。なお、NDはアルミニウム箔の厚み方向、TDはアルミニウム箔基材表面とは並行で圧延方向とは直交する方向である。塗膜厚みが測定できる視野を倍率5000倍(観察範囲18μm×24μm)で観察し、アルミニウム箔基材表面から塗膜厚みの最高点までの距離を塗膜厚みとした。ランダムに5視野で観察し、その平均値を算出して、測定値とした。
【0104】
粉末焼結層の厚み測定
アルミニウム粗化箔のND-TD断面を研磨し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7200F)を用いて観察した。なお、NDはアルミニウム粗化箔の厚み方向、TDはアルミニウム粗化箔表面とは並行で圧延方向とは直交する方向である。粉末焼結層の厚みが測定できる視野を倍率5000倍(観察範囲18μm×24μm)で観察し、アルミニウム箔基材表面から粉末焼結層の厚みの最高点までの距離を粉末焼結層の厚みとした。ランダムに5視野で観察し、その平均値を算出して、測定値とした。
【0105】
粉末焼結層の表面粗さ測定
十点平均粗さRz、算術平均粗さRaを、JIS B0601:1994規格に準じて、触針式粗度計(株式会社東京精密製、SURFCOM1400D)により測定した。測定方向はRD(アルミニウム箔の圧延方向)とした。N=3の平均値を測定値とした。
【0106】
耐力測定
アルミニウム粗化箔の引張試験を行った。具体的には、引張方向が圧延方向と平行になるように15mm幅×200mm長さの短冊型試験片を切り出した。引張試験機は株式会社東洋精機製作所製のストログラフVES5Dを用いて、引張速度10mm/minの条件で、チャック間距離100mmを標点距離として試験を行った。試験を3回実施し、測定された0.2%耐力の平均値を算出して、測定値とした。なお、耐力測定に必要なアルミニウム粗化箔の厚みはマイクロメーターにより測定した。
【0107】
回路(配線)エッチング試験
アルミニウム粗化箔の粉末焼結層側の面に25μmのドライフィルムレジストを貼り合わせた。また、反対側の面に25μmのポリイミドフィルムを貼り合わせた。次いで、フォトマスクを介してUV光をドライフィルムレジストに露光させた。フォトマスクを介することで所定の箇所にだけドライフィルムレジストを硬化させた。次いで、未硬化箇所のレジストを除去し、目的の配線形状にレジスト膜を形成した。レジスト膜が形成されていない箇所のアルミニウム粗化箔を塩化第二鉄の水溶液でエッチング溶解させ、最後に苛性ソーダでレジスト膜を剥離することで配線エッチングを行った。配線形状は
図3に示すように、配線(アルミ部)とスペース(溶解部)が繰り返し配置されており、その幅は150μm、200μmの2水準とした。配線の長さは50mmで、本数は10本とした。光学顕微鏡で観察し、断線せずに配線エッチングが可能であったかを確認し、以下の評価基準に従って評価した。なお、○以上の評価で実使用において問題ないと評価される。
◎:150μmの線幅までエッチング可能であった。
○:150μmの線幅では断線したが、200μmの線幅でエッチング可能であった。
×:200μmの線幅でも断線した。
【0108】
ニッケルめっき密着性評価
アルミニウム粗化箔を無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業株式会社製、トップニコロンMP-GE重金属フリー中リンタイプ)中に浸漬してニッケルめっきを行った。液温を90℃とし、15分間浸漬させることでニッケルめっき層を形成し、水洗、乾燥した。ニッケルめっき後のアルミニウム粗化箔の粉末焼結層側に、半田ペースト(商品名「SN97C P506 D4」、株式会社日本スペリア社製、Sn、AgおよびCuを含有する組成)を、中心間隔が3.35mm、それぞれが1.25mm×1.60mmの面積、厚み80μmとなるように2点塗布し、当該2点に均一にまたがるように3216型チップ抵抗を配置した。半田ペースト塗布、チップ配置後のアルミニウム粗化箔を卓上型真空はんだリフロー装置(ユニテンプジャパン株式会社製;型番RSS-450-210)に入れ、真空引きした後に窒素流量1L/分の雰囲気で250℃まで加熱し、30秒保持した。リフロー完了後、半田付けされたチップ抵抗に対し、ボンドテスター(Nordson dageシリーズ4000、デイジャパン株式会社製)を使用してシェア強度を測定した。ツール移動速度は0.3mm/秒で実施した。10点測定し、平均値を接合強度とした。以下の評価基準に従って評価した。なお、○評価であればニッケルめっき層とアルミニウム粗化箔との密着性も十分確保されているものと判断でき、実使用において問題ないと評価される。
○:接合強度が50N以上であった
×:接合強度が50N未満であった。
【0109】
結果を表1に示す。
【0110】
【0111】
表1の結果から、粉末焼結層の厚みが0.4μm以上4.0μmである実施例1~5ではエッチング性、ニッケルめっき密着性の両方が良好あることが示されており、これらの特性を兼ね備えていることが分かった。特に、粉末焼結層の厚みが2.0μm以下である実施例1、3及び4では、エッチング性が特に優れることが分かった。また、強度面においても40N/mm2以上の耐力を示しており、参考例3の8079材である、通常軟質材と同等以上となっていることが分かった。
【0112】
比較例1及び2は粉末焼結層の厚みが4.0μmを超えており、配線エッチング評価が×となっている。比較例3では粉末焼結層の厚み、表面粗さが小さくなっており、ニッケルめっきとの密着性が十分確保できていない。比較例4及び6はロールプレスが施されておらず、アルミニウム粗化箔の強度が低くなっており、エッチングでのハンドリング性に劣ることが示されている。比較例5ではロールプレスが施されているが、プレス量が少なく、強度が十分に向上していない。
【0113】
参考例1~3では、粗化処理が実施されておらず、プレーン箔としての結果を示している。参考例2では、表面の十点平均粗さRzが0.4μm以上4.0μm以下となっているが、ニッケルめっき密着性に劣ることが示されており、粉末焼結層を有することによりアルミニウム粗化箔とめっき皮膜との密着性が向上することが示されている。