(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018699
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】複屈折測定方法及び複屈折測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/23 20060101AFI20250130BHJP
【FI】
G01N21/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122646
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和貴
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059CC01
2G059EE01
2G059EE05
2G059JJ19
2G059JJ20
2G059KK01
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で正確な複屈折測定を可能とする。
【解決手段】複屈折測定システム100は、光源102からの光の偏光状態を変調して試料120に照射する偏光変調部104と、試料120を透過した光の偏光状態を解析するための偏光解析部106と、偏光解析部106の出射光の光強度を2次元的に検出する検出器108と、試料がないときに検出された光強度から試料がないときの偏光状態を表す第1ストークスパラメータを算出し、試料があるときに検出された光強度から試料があるときの偏光状態を表す第2ストークスパラメータを算出し、第1及び第2ストークスパラメータを、それぞれ、ポアンカレ球面上に第1及び第2座標として投影し、ポアンカレ球面上での第1及び第2座標間の距離から複屈折位相差を算出し、第1及び第2座標を結ぶベクトルの向きから主軸方位を算出する演算装置110とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射部により、所定の偏光状態の光を試料に照射する照射ステップと、
偏光解析部により、前記試料を透過した光の偏光状態を解析する解析ステップと、
検出器により、前記偏光解析部からの出射光を受光して光強度を2次元的に検出する検出ステップと、
演算装置により、前記試料がないときに前記検出器により検出された光強度である第1光強度から、前記試料がないときの偏光状態を表すストークスパラメータとして第1ストークスパラメータを算出し、前記試料があるときに前記検出器により検出された光強度である第2光強度から、前記試料があるときの偏光状態を表すストークスパラメータとして第2ストークスパラメータを算出し、前記第1ストークスパラメータ及び前記第2ストークスパラメータを、それぞれ、ポアンカレ球面上に第1座標及び第2座標として投影し、前記ポアンカレ球面上での前記第1座標と前記第2座標との距離から複屈折位相差を算出し、前記第1座標と前記第2座標とを結ぶベクトルの向きから主軸方位を算出する演算ステップと、
を備える、複屈折測定方法。
【請求項2】
前記照射ステップでは、偏光変調部により、光源から出射された光の偏光状態を変調して出射する、請求項1に記載の複屈折測定方法。
【請求項3】
前記照射ステップでは、偏光子により、前記光源から出射された光のうち特定方向の直線偏光を透過させ、位相板により、前記偏光子を透過した直線偏光に位相差を与える、請求項2に記載の複屈折測定方法。
【請求項4】
前記照射ステップでは、円偏光又は楕円偏光を出射する、請求項1に記載の複屈折測定方法。
【請求項5】
前記解析ステップでは、検光子により、前記試料からの光を複数の異なる透過軸方位で透過させ、
前記検出ステップでは、前記試料がないときに前記検光子の透過軸方位毎に前記第1光強度を検出し、前記試料があるときに前記検光子の透過軸方位毎に前記第2光強度を検出し、
前記演算ステップでは、前記検光子の透過軸方位毎に前記第1光強度及び前記第2光強度を記憶部に記憶させる、請求項1~4の何れか1項に記載の複屈折測定方法。
【請求項6】
前記演算ステップでは、
前記記憶部に記憶された前記第1光強度から前記第1ストークスパラメータを算出し、
前記記憶部に記憶された前記第2光強度から前記第2ストークスパラメータを算出し、
前記第1ストークスパラメータ及び前記第2ストークスパラメータを前記記憶部に記憶させ、
前記記憶部に記憶された前記第1ストークスパラメータ及び前記第2ストークスパラメータに基づいて前記複屈折位相差及び前記主軸方位を算出する、請求項5に記載の複屈折測定方法。
【請求項7】
前記演算ステップでは、前記第1光強度に基づいて前記ポアンカレ球の半径を一定値にすることで前記第1ストークスパラメータを規格化するとともに、前記第2光強度に基づいて前記ポアンカレ球の半径を前記一定値にすることで前記第2ストークスパラメータを規格化して、前記複屈折位相差及び前記主軸方位を算出する、請求項1に記載の複屈折測定方法。
【請求項8】
所定の偏光状態の光を試料に照射する照射部と、
前記試料を透過した光の偏光状態を解析するための偏光解析部と、
前記偏光解析部からの出射光を受光して光強度を2次元的に検出する検出器と、
前記試料がないときに前記検出器により検出された光強度である第1光強度から、前記試料がないときの偏光状態を表すストークスパラメータとして第1ストークスパラメータを算出し、前記試料があるときに前記検出器により検出された光強度である第2光強度から、前記試料があるときの偏光状態を表すストークスパラメータとして第2ストークスパラメータを算出し、前記第1ストークスパラメータ及び前記第2ストークスパラメータを、それぞれ、ポアンカレ球面上に第1座標及び第2座標として投影し、前記ポアンカレ球面上での前記第1座標と前記第2座標との距離から複屈折位相差を算出し、前記第1座標と前記第2座標とを結ぶベクトルの向きから主軸方位を算出する演算装置と、
を備える、複屈折測定システム。
【請求項9】
前記照射部は、光源と、前記光源から出射された光の偏光状態を変調して出射する偏光変調部と、を備える、請求項8に記載の複屈折測定システム。
【請求項10】
前記偏光変調部は、前記光源から出射された光のうち特定方向の直線偏光を透過させる偏光子と、前記偏光子を透過した直線偏光に位相差を与える位相板と、を備える、請求項9に記載の複屈折測定システム。
【請求項11】
前記照射部は、円偏光又は楕円偏光を出射する、請求項8に記載の複屈折測定システム。
【請求項12】
前記偏光解析部は、前記試料からの光を複数の異なる透過軸方位で透過させる検光子を備え、
前記検出器は、前記試料がないときに前記検光子の透過軸方位毎に前記第1光強度を検出し、前記試料があるときに前記検光子の透過軸方位毎に前記第2光強度を検出し、
前記演算装置は、記憶部を備え、前記検光子の透過軸方位毎に前記第1光強度及び前記第2光強度を前記記憶部に記憶させる、請求項8~11の何れか1項に記載の複屈折測定システム。
【請求項13】
前記演算装置は、
前記記憶部に記憶された前記第1光強度から前記第1ストークスパラメータを算出し、
前記記憶部に記憶された前記第2光強度から前記第2ストークスパラメータを算出し、
前記第1ストークスパラメータ及び前記第2ストークスパラメータを前記記憶部に記憶させ、
前記記憶部に記憶された前記第1ストークスパラメータ及び前記第2ストークスパラメータに基づいて前記複屈折位相差及び前記主軸方位を算出する、請求項12に記載の複屈折測定システム。
【請求項14】
前記演算装置は、前記第1光強度に基づいて前記ポアンカレ球の半径を一定値にすることで前記第1ストークスパラメータを規格化するとともに、前記第2光強度に基づいて前記ポアンカレ球の半径を前記一定値にすることで前記第2ストークスパラメータを規格化して、前記複屈折位相差及び前記主軸方位を算出する、請求項8に記載の複屈折測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複屈折測定方法及び複屈折測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複屈折などの材料の異方性を決定するには、(i)任意の偏光状態の光を試料に照射し、(ii)試料から透過又は反射した光を測定し、(iii)試料を経由した光の偏光状態を解析する、という工程を経る必要がある。これらの工程は、一般に偏光測定と称される。偏光測定を行うためのシステムは、光源と、光源からの光の偏光状態を変調して試料に照射する偏光変調部と、試料を透過又は反射した光の偏光状態を解析するための偏光解析部と、偏光解析部から出射された光の強度を検出する検出器とで構成される(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
試料に照射する光の偏光状態とその変化を解析する観点から、偏光変調部では、特許文献1及び特許文献2に示すように、様々な光学部品を必要とする。光学部品を追加すればするほど多様な偏光の変調が可能となり、様々な種類の光学特性を解析することができる。しかしながら、このような方法では、光学系の金銭的コストの増加や解析手順の増大を招くことから、一部の異方性に着目して、光学系や解析手順を簡略化した手法が用いられている。そのような手法の一つに回転検光子法がある。
【0004】
回転検光子法では、試料に照射する光が円偏光であることを前提としており、偏光解析部では、一枚の検光子を0度、45度、90度、135度の4つの透過軸方位に回転させるだけで、複屈折位相差や主軸方位を簡便に解析することができる。その一方で、回転検光子法では、試料への入射光が円偏光でなく楕円偏光であった場合に大きな解析誤差が生じる。楕円偏光となるケースは、光学素子の性能誤差や2次元測定系による光学素子への斜入射などに起因して、全体的にも局所的にも発生し得る。この問題を解決するため、特許文献3では、解析誤差を光強度のバイアス成分として減算することで、正確な測定を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-232550号公報
【特許文献2】特開2018-194455号公報
【特許文献3】特開平05-281137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3の手法では、光強度のバイアス成分に着目していることから、微弱な光強度変化、すなわち複屈折位相差の小さい低位相差の場合にその誤差を補正することが実質的に困難であると考えられる。また、偏光測定中に光強度の差を大きくとるために偏光解析部に位相板を一枚追加する必要がある。また、この位相板の回転条件を変更させて測定するため、回転検光子法の手順を複数回(特許文献3では2回)行う必要があるという、光学系、測定手順としての制約が存在する。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で正確な複屈折測定が可能な複屈折測定方法及び複屈折測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る複屈折測定方法は、照射部により、所定の偏光状態の光を試料に照射する照射ステップと、偏光解析部により、試料を透過した光の偏光状態を解析する解析ステップと、検出器により、偏光解析部からの出射光を受光して光強度を2次元的に検出する検出ステップと、演算装置により、試料がないときに検出器により検出された光強度である第1光強度から、試料がないときの偏光状態を表すストークスパラメータとして第1ストークスパラメータを算出し、試料があるときに検出器により検出された光強度である第2光強度から、試料があるときの偏光状態を表すストークスパラメータとして第2ストークスパラメータを算出し、第1ストークスパラメータ及び第2ストークスパラメータを、それぞれ、ポアンカレ球面上に第1座標及び第2座標として投影し、ポアンカレ球面上での第1座標と第2座標との距離から複屈折位相差を算出し、第1座標と第2座標とを結ぶベクトルの向きから主軸方位を算出する演算ステップと、を備える。
【0009】
本発明の一態様に係る複屈折測定システムは、所定の偏光状態の光を試料に照射する照射部と、試料を透過した光の偏光状態を解析するための偏光解析部と、偏光解析部からの出射光を受光して光強度を2次元的に検出する検出器と、試料がないときに検出器により検出された光強度である第1光強度から、試料がないときの偏光状態を表すストークスパラメータとして第1ストークスパラメータを算出し、試料があるときに検出器により検出された光強度である第2光強度から、試料があるときの偏光状態を表すストークスパラメータとして第2ストークスパラメータを算出し、第1ストークスパラメータ及び第2ストークスパラメータを、それぞれ、ポアンカレ球面上に第1座標及び第2座標として投影し、ポアンカレ球面上での第1座標と第2座標との距離から複屈折位相差を算出し、第1座標と第2座標とを結ぶベクトルの向きから主軸方位を算出する演算装置と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料がないときに得られる第1ストークスパラメータと、試料があるときに得られる第2ストークスパラメータを、それぞれ、ポアンカレ球面上に第1座標及び第2座標として投影し、ポアンカレ球面上での第1座標及び第2座標に基づいて複屈折位相差及び主軸方位を算出する。これにより、簡素な構成で正確に複屈折測定をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る複屈折測定システムの構成を示す模式図である。
【
図2】ポアンカレ球面上で、試料への理想的な入射光である円偏光の座標と、実際の入射光である楕円偏光の座標と、出射光の座標とを表す模式図である。
【
図3】従来法で算出された複屈折位相差と本実施形態に係る複屈折測定方法で算出された複屈折位相差の解析結果を表すグラフである。
【
図4】従来法と本実施形態に係る複屈折測定方法のそれぞれで得られた低位相差領域での複屈折位相差の解析結果の一例である。
【
図5】市販の複屈折測定装置による複屈折位相差の解析結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る複屈折測定システムの構成を説明する。
【0013】
図1に示すように、複屈折測定システム100は、光源102と、光源102からの光の偏光状態を変調して、ステージ上に設置された試料120(例えば、ガラス、Siウェハ)に照射する偏光変調部104と、試料120を透過した光の偏光状態を解析するための偏光解析部106と、偏光解析部106からの出射光の光強度を2次元的に検出する検出器108と、検出器108での検出結果に基づいて複屈折位相差及び主軸方位を算出する演算装置110とを備える。偏光変調部104、試料120、偏光解析部106、及び検出器108は、光源102の出射光の光路上に配置される。
【0014】
光源102は、所定の波長の光を一定の光強度で出射する。偏光変調部104は、偏光子104Pと位相板104Rとを備える。偏光子104Pは、光源102から出射された光のうち特定の偏光方向の直線偏光を透過させる。位相板104Rは、偏光子104Pを透過した直線偏光に位相差を与える。位相板104Rの例としては、入射した直線偏光に対して位相をπ/2(1/4波長)遅延させるλ/4波長板が挙げられる。
【0015】
光源102と偏光変調部104との組み合わせは、所定の偏光状態の光を試料120に照射する照射部として機能する。照射部は、任意の偏光(円偏光、楕円偏光、又は直線偏光)を生成可能であるが、円偏光又は円偏光に準じる偏光(円偏光に極めて近い楕円偏光)を生成することが好ましい。円偏光又は円偏光に極めて近い楕円偏光を試料120に照射すると、試料120の主軸方位に依らずに複屈折測定が可能になるからである。ランダムな偏光で発光する光源102を用いた場合、偏光子104Pの透過軸(偏光方向)に対してλ/4波長板の光軸を45度傾けて配置することで、円偏光を生成することができる。
【0016】
照射部の他の構成として、直線偏光を出射するレーザ光源とλ/4波長板との組み合わせを採用してもよい。あるいは、円偏光を出射する発光ダイオード(LED)光源と、LED光源からの光のビーム径を拡大する拡大手段との組み合わせにより照射部を構成してもよい。
【0017】
偏光解析部106は、試料120からの光を複数の異なる透過軸方位で透過させる検光子106Aを備える。検光子106Aは、透過軸方位を異なる角度(例えば、0度、45度、90度、135度)に回転可能である。
【0018】
検出器108は、偏光解析部106からの出射光を受光して出射光の光強度を2次元的に検出し、各位置での光強度に応じた画像信号を出力する。検出器108の例としては、charge-coupled device(CCD)等の2次元アレイ検出器が挙げられる。あるいは、偏光解析部106からの出射光の偏光状態を各点で記録できるものであれば、2次元面上の各点を走査するデバイスや偏光カメラ等の他のデバイスを用いてもよい。例えば、偏光カメラは、各画素に透過軸方位の異なる検光子が組み込まれた構造となっているため、検光子を回転させることなくワンショットでの撮影が可能である。位置情報と光強度に対応する画像信号は、デジタルインターフェース、フレームグラバ等の接続機器を介して演算装置110に出力される。
【0019】
演算装置110は、検出器108から出力された画像信号に基づいて複屈折位相差及び主軸方位を算出するプロセッサと、記憶部112と、プロセッサでの処理結果を表示するディスプレイ装置等を備えるコンピュータである。プロセッサは、検出器108から出力された画像信号、算出処理に必要なデータ、処理結果のデータを記憶部112に記憶させる。複屈折位相差及び主軸方位の算出方法の詳細については後述する。
【0020】
次に、本実施形態に係る複屈折測定方法について詳細に説明する。
【0021】
まず、試料120を配置しない状態で、検出器108は、検光子106Aの各透過軸方位(0度、45度、90度、135度)での光強度(以下、第1光強度と呼ぶ。)を検出し、演算装置110は、各透過軸方位での第1光強度を記憶部112に記憶させる。また、演算装置110は、各透過軸方位での第1光強度から、試料120がないときの偏光状態を表すストークスパラメータ(以下、第1ストークスパラメータと呼ぶ。)を算出し、第1ストークスパラメータを記憶部112に記憶させる。
【0022】
次に、試料120を配置した状態で、検出器108は、検光子106Aの各透過軸方位(0度、45度、90度、135度)での光強度(以下、第2光強度と呼ぶ。)を検出し、演算装置110は、各透過軸方位での第2光強度を記憶部112に記憶させる。また、演算装置110は、各透過軸方位での第2光強度から、試料120があるときの偏光状態を表すストークスパラメータ(以下、第2ストークスパラメータと呼ぶ。)を算出し、第2ストークスパラメータを記憶部112に記憶させる。
【0023】
検光子106Aの0度、45度、90度、135度での光強度を、それぞれ、I
0、I
45、I
90、I
135と表記すると、偏光状態を表すストークスパラメータS
0、S
1、S
2、S
3は、式(1)のように表される。
【数1】
【0024】
ここで、S1は、0度、90度の直線偏光成分を表し、S2は、45度、135度の直線偏光成分を表し、S3は、右回り又は左回りの円偏光成分を表す。本実施形態では、偏光解析部106が位相板を有しておらず、S3に平方根を含んで解析をするため、S3の正負を判別することができない。よって、本実施形態では、後述のポアンカレ球の半球のみを対象とし、±90度の範囲で複屈折位相差を求める。
【0025】
ストークスパラメータは、S1、S2、S3を、それぞれ、デカルト座標系のx方向、y方向、z方向とした半径S0の球面座標として表すことができる。すなわち、ストークスパラメータをポアンカレ球面上に投影し、ポアンカレ球面上の座標として表すことができる。
【0026】
ここで、試料120での光吸収や試料120表面でのフレネル反射に応じて、検出器108で検出される光強度が変化するため、ポアンカレ球の半径S0は変化する。よって、演算装置110は、第1ストークスパラメータ及び第2ストークスパラメータの各々に対し、半径S0が一定値になるように規格化することで、光吸収及びフレネル反射による影響を補正する。具体的には、ストークスパラメータ(S0、S1、S2、S3)を(S0/S0、S1/S0、S2/S0、S3/S0)に変換し、ポアンカレ球の半径S0が1になるように規格化する。
【0027】
S
0=1とすると、
図2に示すように、ポアンカレ球面上で円偏光の座標はC点(S
1、S
2、S
3)=(0、0、1)又は(0、0、-1)である。上述のように、照射部(光源102及び偏光変調部104)から試料120への入射光が円偏光になるように設定しても、実際には、光学素子の性能誤差や斜入射などに起因して、試料120へ入射光が円偏光ではなく楕円偏光になることがある。上述のように、偏光子104Pの透過軸に対して位相板104R(λ/4波長板)の光軸を45度傾けて円偏光を生成するように設定しても、偏光子104Pとλ/4波長板の特性により、例えば(S
1、S
2、S
3)=(-0.026、-0.068、0.997)となり、完全な円偏光にはならない。さらに、偏光子104Pの透過軸とλ/4波長板の光軸とのなす角度が40度である場合は、例えば(S
1、S
2、S
3)=(0.03、0.171、0.985)となり、より楕円率が高くなる。
【0028】
実際の入射光の偏光状態を把握するため、演算装置110は、試料120を配置しないときに検出された第1光強度から第1ストークスパラメータを算出する。
図2のI点は、試料120を配置しないときに得られる第1ストークスパラメータに対応する座標(以下、第1座標と呼ぶ。)の一例である。
図2では、実際の入射光が楕円偏光である例を示している。
図2のO点は、試料120を配置したときに得られる第2ストークスパラメータに対応する座標(以下、第2座標と呼ぶ。)の一例である。
【0029】
従来の回転検光子法のように、入射光が完全な円偏光(
図2のC点)であると仮定すると、ポアンカレ球面上でのC点とO点(第2座標)とに基づいて複屈折位相差及び主軸方位を算出することになる。この仮定の下では、特にポアンカレ球面上での移動距離が小さい低位相差の場合(複屈折位相差が小さい場合)に測定誤差が大きくなり、移動距離及びその方向を正確に解析することができない。
【0030】
一方、本実施形態では、実際の入射光の偏光状態を表すI点(第1座標)を求め、ポアンカレ球面上でのI点(第1座標)とO点(第2座標)とに基づいて、後述のように複屈折位相差及び主軸方位を算出することで、正確な測定が可能となる。
【0031】
ストークスパラメータ(S
0、S
1、S
2、S
3)をポアンカレ球面上での緯度θと経度ψに換算すると、それぞれ、式(2)及び式(3)のように与えられる。
【数2】
【数3】
【0032】
ポアンカレ球面上での第1座標の緯度及び経度を、それぞれ、θ
i及びψ
iと表記し、ポアンカレ球面上での第2座標の緯度及び経度を、それぞれ、θ
o及びψ
oと表記する。複屈折位相差は、ポアンカレ球面上での第1座標と第2座標との間の距離に相当する。複屈折位相差Δは、球面三角法を用いて算出することができ、例えば、式(4)のように与えられる。
【数4】
【0033】
主軸方位は、S
1-S
2平面で第1座標と第2座標とを結ぶベクトルの向きに相当する。このベクトルのS
1成分をdS
1、S
2成分をdS
2とすると、dS
1及びdS
2は、式(5)のように表される。式(5)において、S
1,i、S
2,iは、それぞれ、第1座標のS
1、S
2成分を示し、S
1,o、S
2,oは、それぞれ、第2座標のS
1、S
2成分を示している。
【数5】
【0034】
よって、主軸方位φは、式(6)のように与えられる。
【数6】
【0035】
複屈折位相差Δから試料120の応力の大きさの情報を得ることができ、主軸方位φから試料120の応力方向の情報を得ることができる。
【0036】
図3は、従来法(回転検光子法)で算出された複屈折位相差と本実施形態に係る複屈折測定方法で算出された複屈折位相差(式(4))の解析結果の一例を示すグラフである。グラフの横軸のサンプル位相差とは、基準となる試料の複屈折位相差を表しており、市販の複屈折測定装置で測定したものである。
図3では、主軸方位が45度の試料120を用い、試料120への入射光がほぼ円偏光である場合と楕円偏光である場合の測定結果を示している。ここで、ほぼ円偏光の第1ストークスパラメータを(S
1、S
2、S
3)=(-0.115、-0.019、0.993)とし、楕円偏光の第1ストークスパラメータを(S
1、S
2、S
3)=(-0.008、-0.270、0.963)としている。これらの入射光は、レンズ等の光学デバイスを用いて広い領域を撮影するときに偏光変調部104で生成され得る。
【0037】
図3より、従来法では、ゼロ位相差(横軸)に対して、入射光が円偏光であってもオフセット成分が存在し、入射光が楕円偏光の場合にはそのオフセット成分が一層大きくなることがわかる。一方、本実施形態に係る複屈折測定方法では、ゼロ位相差(横軸)に対してゼロ位相差(縦軸)として出力され、また、低位相差領域以外でも、ほぼ正確な値を出力し、線形性が担保されていることがわかる。
【0038】
偏光を試料120に入射して透過した偏光を解析する場合、特に、複屈折位相差のオフセット成分による誤差率が大きくなる低位相差領域での解析結果が重要となる。
図4に、低位相差の測定例として、従来法(回転検光子法)と本実施形態に係る複屈折測定方法の各々において、試料120への入射光がほぼ円偏光である場合と楕円偏光である場合で、空気及びガラスを同時に測定した結果を示す。ここで、ほぼ円偏光の第1ストークスパラメータを(S
1、S
2、S
3)=(-0.026、-0.068、0.997)とし、楕円偏光の第1ストークスパラメータを(S
1、S
2、S
3)=(0.016、0.143、0.990)としている。
【0039】
図4に示すように、従来法では、入射光がほぼ円偏光であっても、空気層で平均4.4°の複屈折位相差が出力され、入射光が楕円偏光の場合はさらに複屈折位相差が増加し、平均8.3°となる。一方、本実施形態に係る複屈折測定方法では、入射光がほぼ円偏光である場合と楕円偏光である場合で、それぞれ、複屈折位相差が平均0.44°、0.38°となり、空気層も含めて低位相差をほぼ正しく測定することができる。
【0040】
図5に、市販の複屈折測定装置(フォトニックラティス社製、WPA-100)によって、入射光を
図4と同様にほぼ円偏光としたときの測定結果を示す。
図5に示す空気層の複屈折位相差が平均0.43°となることから、
図4に示す本実施形態に係る複屈折測定方法による測定結果が正しいことを確認することができる。
【0041】
このように、光学素子単体の誤差、光学素子間の回転角の誤差、2次元検出に係る斜入射成分等に起因して、ガラス等の試料120への入射光が完全な円偏光からずれてしまっても、試料120がないときの偏光状態を第1ストークスパラメータとして算出して記憶部112に記憶しておき、試料120の測定時には、入射光の偏光状態を差し引くことで、偏光状態の変化を正確に解析することができる。
【0042】
また、仮に、特許文献3に開示されたようなノイズ成分があったとしても、特にS1及びS2については、式(1)に示すように、異なる光強度を減算して算出するため、ノイズが相殺される。また、S0については、式(1)に示すように、検光子106Aの各透過軸方位で得られた光強度の平均値をとる形になっているので、ノイズの影響は平均化される。以上から、光強度のバイアスの形で測定値を補正する特許文献3の技術に比べて、低位相差での光強度変化に着目した検出が可能となる。さらに、光強度変化を強調する目的で偏光解析部106に位相板を設ける必要がないため、位相板の回転に伴う複数回の測定も不要となり、より簡素な構造で同じ結果を得ることができる。
【0043】
従来の偏光解析では、特許文献2のように、行列を用いる手法が主流であった。行列を使うと、試料への光の吸収率を測定できるなど、様々な偏光状態を扱うことができる。一方、本実施形態では、行列は用いずに、ポアンカレ球面上の座標(緯度、経度)を用いて複屈折位相差及び主軸方位を算出している。光吸収及びフレネル反射による光強度の変化によってポアンカレ球の半径が変化すると、座標がずれてしまうので、そのままでは偏光解析が非常に難しくなる。しかし、本実施形態では、S0が一定値になるようにストークスパラメータを規格化することで、光吸収及びフレネル反射による影響を補正するため、偏光解析を容易に行うことができる。
【0044】
また、試料120への入射光が完全な円偏光からずれてしまっても、細かい補正をする必要がなく(自由度が高く)、斜入射等の影響にかかわらず大面積の偏光測定が可能になる。
【0045】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0046】
100 複屈折測定システム
102 光源
104 偏光変調部
104P 偏光子
104R 位相板
106 偏光解析部
106A 検光子
108 検出器
110 演算装置
112 記憶部
120 試料