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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018765
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】トンネル掘削機システム
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20250130BHJP
【FI】
E21D9/093 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122757
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523286462
【氏名又は名称】株式会社ネットリンクス
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】市川 政美
(72)【発明者】
【氏名】山崎 友誉
(72)【発明者】
【氏名】中村 太三
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏典
(72)【発明者】
【氏名】本合 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 修
(72)【発明者】
【氏名】福田 靖
(72)【発明者】
【氏名】山田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森 豊
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC01
2D054GA04
2D054GA23
2D054GA56
2D054GA62
2D054GA65
(57)【要約】
【課題】トンネル掘削機の掘削位置が計画線形からずれても簡単に、且つ、確実に修正することができる掘進予定線形決定システム及びジャッキ制御システムの少なくともいずれかの提供。
【解決手段】トンネル掘削機の計画線形を記憶する計画線形記憶部70と、掘進位置の計画線形に対する偏差量を算出する偏差量算出部72と、トンネル掘削機の掘進位置を計画線形に沿うように修正する修正線形が記憶された修正線形記憶部73と、偏差量に基づいて複数の修正線形のうちのいずれかを選択する修正線形選択部74とを備え、修正線形は、偏差量と、掘進位置から偏差量を0とする計画線形上の目標位置までの掘進距離である修正掘進距離との関係を示すものであって、修正掘進距離に対する偏差量が単調増加する曲線であり、修正線形は、目標位置を除いて同じ偏差量に対する修正掘進距離が大きくなる順に複数設定されている掘進予定線形決定システム。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削機が掘進する際に用いられ、掘進位置の計画線形からのずれを修正する修正線形を決定する掘進予定線形決定システムであって、
前記トンネル掘削機が掘進する前記計画線形を記憶する計画線形記憶部と、
前記掘進位置の前記計画線形に対する偏差量を算出する偏差量算出部と、
前記トンネル掘削機の前記掘進位置を前記計画線形に沿うように修正する修正線形が記憶された修正線形記憶部と、
前記修正線形記憶部に記憶された前記修正線形は、前記偏差量と、前記掘進位置から前記偏差量を0とする前記計画線形上の目標位置までの掘進距離である修正掘進距離との関係を示すものであって、前記修正掘進距離に対する前記偏差量が単調増加する曲線であり、
前記修正線形は、前記目標位置を除いて同じ偏差量に対する前記修正掘進距離が大きくなる順に複数設定されており、
前記偏差量に基づいて複数の前記修正線形のうちのいずれかを選択する修正線形選択部と、
を備えることを特徴とするトンネル掘削機の掘進予定線形決定システム。
【請求項2】
前記修正線形は、前記目標位置に近づくほど、前記偏差量に対する前記修正掘進距離の比が大きくなる曲線であることを特徴とする請求項1に記載のトンネル掘削機の掘進予定線形決定システム。
【請求項3】
前記偏差量算出部が算出した前記偏差量が閾値を超えた場合、
該偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量より大きければ、前記修正線形選択部は、前回選択した修正線形より、同じ偏差量に対する前記修正掘進距離が小さい修正線形を選択し、
該偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量と同じであれば、前記修正線形選択部は、前回選択した修正線形を選択し、
該偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量より小さければ、前記修正線形選択部は、前回選択した修正線形より、同じ偏差量に対する前記修正掘進距離が大きい修正線形を選択する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトンネル掘削機の掘進予定線形決定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削機が掘進する際の計画線形からのずれを修正する修正線形を決定し掘削するためのトンネル掘削機システム、すなわち掘進予定線形決定システム及びジャッキ制御システムの少なくともいずれかに関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機等のトンネル掘削機により地盤を掘進すると、掘進位置が予定されている計画線形からずれてしまうことがある。
計画に従ってトンネルを掘削するには、トンネル掘削機による掘削位置のずれを修正して計画線形に戻しながら掘進を行う必要がある。
【0003】
特許文献1には、シールド掘進機の位置を測量によって把握し、測量データと計画路線とを対比して偏位量を求め、現在のリングからn番目のリングにおいて、偏位量が零となるように路線修正を行う掘進管理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-296679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような路線修正を行う際には、修正を行おうとする者によって個人の技量や経験などの差によるバラつきが生じたトンネル線形となってしまう。また、土質などの条件によっては、計画路線に戻すための修正計画に対して近づかない場合や近づきすぎる場合があり、再び修正計画を行うことになるが、この際にも個人差によるバラつきが生じることになる。
【0006】
また、修正計画を実施する際には、トンネル掘削機の推進ジャッキを制御して掘進を行うが、各推進ジャッキを制御する際に個人の技量や経験などの差によってその制御方法が異なりバラつきが生じる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、トンネル掘削機の掘削位置が計画線形からずれても個人差によるバラつきが生じず、簡単に、且つ、確実に修正することができるトンネル掘削機の掘進予定線形決定システム及びジャッキ制御システムの少なくともいずれかを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
手段1は、トンネル掘削機が掘進する際に用いられ、掘進位置の計画線形からのずれを修正する修正線形を決定する掘進予定線形決定システムであって、前記トンネル掘削機が掘進する前記計画線形を記憶する計画線形記憶部と、前記掘進位置の前記計画線形に対する偏差量を算出する偏差量算出部と、前記トンネル掘削機の前記掘進位置を前記計画線形に沿うように修正する修正線形が記憶された修正線形記憶部と、前記修正線形記憶部に記憶された前記修正線形は、前記偏差量と、前記掘進位置から前記偏差量を0とする前記計画線形上の目標位置までの掘進距離である修正掘進距離との関係を示すものであって、前記修正掘進距離に対する前記偏差量が単調増加する曲線であり、前記修正線形は、前記目標位置を除いて同じ偏差量に対する前記修正掘進距離が大きくなる順に複数設定されており、前記偏差量に基づいて複数の前記修正線形のうちのいずれかを選択する修正線形選択部とを備えることを特徴とするトンネル掘削機の掘進予定線形決定システムである。
【0009】
手段2は、前記修正線形は、前記目標位置に近づくほど、前記偏差量に対する前記修正掘進距離の比が大きくなる曲線であることを特徴とする手段1に記載のトンネル掘削機の掘進予定線形決定システムである。
【0010】
手段3は、前記偏差量算出部が算出した前記偏差量が閾値を超えた場合、該偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量より大きければ、前記修正線形選択部は、前回選択した修正線形より、同じ偏差量に対する前記修正掘進距離が小さい修正線形を選択し、該偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量と同じであれば、前記修正線形選択部は、前回選択した修正線形を選択し、該偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量より小さければ、前記修正線形選択部は、前回選択した修正線形より、同じ偏差量に対する前記修正掘進距離が大きい修正線形を選択することを特徴とする手段1又は手段2に記載のトンネル掘削機の掘進予定線形決定システムである。
【0011】
手段4は、トンネル掘削機が有する複数の推進ジャッキのバルブを制御するジャッキ制御システムであって、補正角に基づいて前記推進ジャッキのジャッキ合力点を算出する合力点算出部と、前記合力点算出部が算出した前記ジャッキ合力点に基づいて前記推進ジャッキのバルブの開度を算出するバルブ開度算出部と、を備え、前記バルブ開度算出部は、前記バルブに設定される最大バルブ開度と最小バルブ開度、中心点から前記ジャッキ合力点までの距離である合力点距離に基づいて、前記推進ジャッキが配置された位置が中心点と前記ジャッキ合力点とを結ぶ直線の角度であるジャッキ合力点角度から1度変化するときのバルブ開度の変化量であるバルブ開度変化量を算出し、前記推進ジャッキが配置された位置と中心点とを結ぶ直線の角度と、前記ジャッキ合力点角度との差である角度差を算出し、前記バルブ開度変化量と前記角度差に基づいて、推進ジャッキのバルブの開度を算出することを特徴とするジャッキ制御システムである。
【0012】
手段5は、トンネル掘削機が有する複数の推進ジャッキのバルブを制御するジャッキ制御システムであって、前記複数の推進ジャッキは、複数を組として4以上のブロックに区分けされ同一のブロック内の推進ジャッキは同じバルブであるブロックバルブで制御され、補正角に基づいて前記推進ジャッキのジャッキ合力点を算出する合力点算出部と、前記合力点算出部が算出した前記ジャッキ合力点に基づいて前記推進ジャッキが個々にバルブで制御されるとしたときに、前記推進ジャッキの個々のバルブの開度を算出する個別ジャッキバルブ開度算出部と、前記ブロックごとのブロックバルブの開度を算出するブロックバルブ開度算出部と、を備え、前記個別ジャッキバルブ開度算出部は、前記バルブに設定される最大バルブ開度と最小バルブ開度、中心点から前記ジャッキ合力点までの距離である合力点距離に基づいて、前記推進ジャッキが配置された位置が中心点と前記ジャッキ合力点とを結ぶ直線の角度であるジャッキ合力点角度から1度変化するときのバルブ開度の変化量であるバルブ開度変化量を算出し、前記推進ジャッキが配置された位置と中心点とを結ぶ直線の角度と、前記ジャッキ合力点角度との差である角度差を算出し、前記バルブ開度変化量と前記角度差に基づいて、推進ジャッキのバルブの開度を算出し、前記ブロックバルブ開度算出部は、前記個別ジャッキバルブ開度算出部が算出した前記個々のバルブの開度をブロックごとに合計したブロック合計バルブ開度を算出し、前記ブロック合計バルブ開度、ブロックの配置角度に基づいて個々のブロックのジャッキ合力点である個別ブロックジャッキ合力点を算出し、前記個別ブロックジャッキ合力点に基づいてすべてのブロックのジャッキ合力点である総合ブロックジャッキ合力点を算出し、前記ブロックバルブに設定される最大バルブ開度と最小バルブ開度、中心点から前記総合ブロックジャッキ合力点までの距離である総合ブロックジャッキ合力点距離に基づいて、前記ブロックが配置された位置が中心点と前記総合ブロックジャッキ合力点とを結ぶ直線の角度である総合ブロックジャッキ合力点角度から1度変化するときのブロックバルブ開度の変化量であるブロックバルブ開度変化量を算出し、前記ブロックが配置された位置と中心点とを結ぶ直線の角度と、前記総合ブロックジャッキ合力点角度との差であるブロック角度差を算出し、前記ブロックバルブ開度変化量と前記ブロック角度差に基づいて、推進ジャッキのブロックバルブの開度を算出することを特徴とするジャッキ制御システムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトンネル掘削機の掘進予定線形決定システムは、トンネル掘削機の掘削位置が計画線形からずれると、あらかじめ設定されている複数の修正線形から偏差量に基づいて選択した修正線形に沿って修正することができるので、個人の技量や経験などの差によるバラつきがない。また、面倒な軌道計算を行うことなく、掘削位置を簡単に確実に計画線形に寄せることができる。
【0014】
加えて、修正曲線は、目標位置に近づくほど、偏差量に対する修正掘進距離の比が大きくなる曲線であれば、修正線形の計画線形に対する角度が目標位置に近づくにしたがって次第に緩やかになるため、掘削位置を徐々に安定して計画線形に寄せることができる。
【0015】
加えて、偏差量が閾値を超えた場合、修正線形選択部は、この偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量より大きければ、前回選択した修正線形より同じ偏差量に対する修正掘進距離が小さい修正線形を選択し、偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量と同じであれば、前回選択した修正線形を選択し、偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量より小さければ、前回選択した修正線形より同じ偏差量に対する修正掘進距離が大きい修正線形を選択すると、トンネル掘削機の軌道修正が必要な場合のみに、計画線形から大きくずれることなく確実に最適な修正を行うことができる。
【0016】
本発明のシールドジャッキ制御システムは、目標とする補正角に対応する合力点に基づいて、個人の技量や経験などの差によるバラつきがなく適切にシールドジャッキの各バルブ制御をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態に係るトンネル掘削機の概略図である。
図2】第1の実施形態を示す掘進予定線形決定システムのブロック図である。
図3】第1の実施形態に係る複数の修正線形の概略図である。
図4】第1の実施形態に係る修正線形から補正角を決定するための説明図である。
図5】第1の実施形態に係る修正線形ごとの偏差量と補正角との関係を示す図である。
図6】第1の実施形態に係るシールドジャッキ制御システムのブロック図である。
図7】第1の実施形態に係るシールドジャッキの配置図である。
図8】第1の実施形態に係る各シールドジャッキのジャッキ角度、角度差、バルブ開度差、バルブ開度を示す図である。
図9】第1の実施形態に係るトンネル掘削機の掘進予定線形決定処理の流れ図である。
図10】第2の実施形態に係るシールドジャッキの配置図である。
図11】第2の実施形態に係るシールドジャッキ制御システムのブロック図である。
図12】第2の実施形態に係る各ジャッキブロックのブロックジャッキ合力点のX座標及びY座標と総合ブロックジャッキ合力点のX座標及びY座標を示す図である。
図13】第3の実施形態に係るシールドジャッキの配置図である。
図14】第3の実施形態に係るディスプレイ画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態につき図面を参照する等して説明する。
なお、本発明は、実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0019】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態を、図1乃至図9を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1はトンネル掘削機の概略図であり、図2は掘進予定線形決定システムのブロック図であり、図3は複数の修正線形の概略図であり、図4は修正線形から補正角を算出するための説明図であり、図5は修正線形ごとの偏差量と補正角との関係を示す図であり、図6はシールドジャッキ制御システムのブロック図であり、図7はシールドジャッキの配置図であり、図8は各シールドジャッキのジャッキ角度、角度差、バルブ開度差、バルブ開度を示す図であり、図9はトンネル掘削機の掘進予定線形決定処理の流れ図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係るトンネル掘削機はシールド掘進機1であって、円形の回転カッタ2と、回転カッタ2の裏面側に形成されたチャンバ3とを有し、回転カッタ2を回転させることにより地山を切削しながら前進する。
【0022】
掘削された土砂は、チャンバ3に取り込まれ、図示しない排泥管等を介して後方へ排出される。
【0023】
チャンバ3の後方のフレームには測量機4が設置され、シールド掘進機1による掘進位置や姿勢を把握できるようになっている。
【0024】
回転カッタ2は、シールド掘進機1の前端面に設けられ、ギア等を介して回転カッタ2に連結されたモータを駆動することにより、シールド掘進機1の中心軸周りに回転する。
【0025】
回転カッタ2には複数のカッタービット(不図示)が設けられ、回転カッタ2を回転させるとともに複数の(本実施形態では12本の)シールドジャッキ5を伸ばして反力をとることにより、トンネルが掘削される。
【0026】
シールドジャッキ5はシールド掘進機1の周方向に等間隔で配置され(図6)、シールドジャッキ5の給油路に設けられたバルブ50を適宜開閉させることにより、シールドジャッキ5の伸縮量や圧力を調整することができる。
【0027】
シールド掘進機1には、その動作を制御する制御装置6が設けられ、制御装置6はコンピュータで構成されており、ディスプレイ60が接続される。ディスプレイ60はタッチパネルとなっており、操作ボタン、算出結果等が表示される。
【0028】
制御装置6は、シールド掘進機1による掘進位置の計画線形からのずれを修正する修正線形を決定する掘進予定線形決定システム7(図2)、及び、掘進予定線形決定システム7が決定した修正線形に応じてシールド掘進機1の掘進方向を修正するべくシールドジャッキ5を制御するシールドジャッキ制御システム8(図5)を備える。
【0029】
図2に示すように、掘進予定線形決定システム7は、シールド掘進機1が掘進する計画線形を記憶する計画線形記憶部70と、シールド掘進機1の掘進位置を記憶する掘進位置記憶部71と、掘進位置の計画線形に対する偏差量を算出する偏差量算出部72と、シールド掘進機1の掘進位置を計画線形に沿うように修正する修正線形が記憶された修正線形記憶部73と、偏差量に基づいて複数の修正線形のうちのいずれかを選択する修正線形選択部74とを備える。
【0030】
計画線形記憶部70に記憶される計画線形は、施工計画に基づいて設計されたシールド掘進機1の計画軌道の線形データである。
【0031】
掘進位置記憶部71は、シールド掘進機1に搭載された測量機4からデータを取得して記憶する。
【0032】
測量機4から自動測量した掘進位置を示す座標などの掘進位置データが掘進位置記憶部71に送信されて記憶される。測量機4による測量は、セグメントの1リングごとに複数回行われる。
【0033】
掘進位置データには、シールド掘進機1の任意の点(例えば中心軸上の所定の点で複数でも良い)で、方位角の情報も含まれていても良い。
【0034】
偏差量算出部72は、計画線形記憶部70から計画線形を取得するとともに。掘進位置記憶部71から掘進位置を取得する。
【0035】
偏差量算出部72は、取得した計画線形と掘進位置とに基づいて、掘進位置の計画線形に対する偏差量を算出する。
【0036】
偏差量は、シールド掘進機の現在の位置と計画線形とのズレであって、トンネル進行方向(Z軸方向)について、水平方向(X軸方向)及び垂直方向(Y軸方向)にそれぞれ算出される。
【0037】
修正線形記憶部73に記憶される修正線形は、図3に示すように、偏差量と、掘進位置から偏差量を0とする計画線形上の目標位置までの掘進距離である修正掘進距離との関係を示すものであって、修正掘進距離に対する偏差量が単調増加する曲線であり、目標位置を除いて同じ偏差量に対する修正掘進距離が大きくなる順に複数設定されている。
【0038】
修正線形は、縦軸を偏差量、横軸を修正掘進距離として示されている。修正線形は、修正掘進距離がトンネル進行方向(Z軸方向)に対応し、偏差量が水平方向(X軸方向)又は垂直方向(Y軸方向)に対応している。すなわち、修正線形は、トンネル進行方向(Z軸方向)の修正掘進距離と水平方向(X軸方向)の偏差量との関係を示すものと、トンネル進行方向(Z軸方向)の修正掘進距離と垂直方向(Y軸方向)の偏差量との関係を示すものとがそれぞれ設定されている。これらは、いずれも同じもので図3で示している。
【0039】
本実施形態では、修正線形は、目標位置に近づくほど偏差量に対する修正掘進距離の比が大きくなる曲線で、クロソイド曲線の一部を採用している。修正線形は、偏差量に対する修正掘進距離が最も大きい修正線形Aから偏差量に対する修正掘進距離が最も小さい修正線形Eまでの5本が設定されている。
【0040】
クロソイド曲線は、曲率を一定割合で変化させていった場合に描かれる曲線であって、曲線上のいかなる点でも、始点からの曲線長とその点での曲率半径との積が一定になる。
L:始点からの曲線長(m)、R:曲率半径(m)、P:クロソイドパラメータ(m)とすると、
L×R=P2である。
【0041】
例えば、修正線形Aは、P2=160のクロソイド曲線であり、修正線形Bは、P2=130のクロソイド曲線であり、修正線形Cは、P2=100のクロソイド曲線であり、修正線形Dは、P2=70のクロソイド曲線であり、修正線形Eは、P2=40のクロソイド曲線である。
【0042】
クロソイド曲線をトンネル進行方向(Z軸方向)と水平方向(X軸方向)とのZX平面について描画すると、
修正掘進距離Z≒L×[1-L2/(2!×5×22×R2)+L4/(4!×9×24×R4)-L6/(6!×13×26×R6)]
偏差量X≒L2/(6×R)×{1-L2/[(3!×7×22)/3]×R2+L4/[(5!×11×24)/3] ×R4]-L6/(7!×15×26)/3×R6]}
となる。
【0043】
R=P2/Lを上記式に代入すると、
修正掘進距離Z=L{1-L2/[2!×5×22×(P4/L2)]+L4/[4!×9×24×(P8/L4)]-L6/[6!×13×26×(P8/L4)] }…式1
偏差量X≒L2/[6×(P2/L)]×{1-L2/[(3!×7×22)/3]×(P4/L2)+L4/[(5!×11×24)/3]×(P8/L4)]-L6/[(7!×15×26)/3×(P12/L6)]}…式2
となる。
【0044】
式2に偏差量Xと修正線形のP2を代入してLを計算し、式1にLとP2を代入して修正掘進距離Zを算出することができる。
すなわち、偏差量を算出することによって、ある修正線形に沿って掘進した時に、どのような距離を掘進したら計画線形に寄せることができるか知ることができる。
【0045】
トンネル進行方向(Z軸方向)と垂直方向(Y軸方向)とのZY平面についても同様である。
なお、修正線形ごとに偏差量と修正掘進距離との関係を示す対応表を作成しておき、偏差量の近似値から修正掘進距離を取得するようにしても良い。
【0046】
掘進方向を修正するためには、シールド掘進機1の角度(例えば、回転カッタ2の面板の面向き方向の角度)を水平方向及び垂直方向にそれぞれ補正する必要がある。
修正線形は目標位置において偏差量が0になる曲線なので、シールド掘進機1の補正角は、修正線形ごとに偏差量によって決定される。
【0047】
図4を用いて、補正角の決定方法を説明する。
ある修正線形を用いて、現在のシールド掘進機1の掘進位置n1であり、次のピッチである測量による所定の掘進位置n2までの補正角を求める。
【0048】
掘進位置n1における水平方向(X軸方向)の偏差量がn1x〔mm〕である場合、修正線形における修正掘進距離は、n1z〔m〕である。
【0049】
掘進位置n1から掘進位置n2までの掘進距離は、予め定めており既知である(例えばα〔m〕とする)ので、その分だけ進んだ位置での修正掘進距離n1z-αが掘進位置n2での修正掘進距離n2zとなる。
修正線形における掘進位置n2の修正掘進距離n2zに対応する偏差量n2xが取得できる。
【0050】
この掘進位置n2における水平方向(X軸方向)の偏差量n2xが、次の掘進において目標とする水平方向(X軸方向)の偏差量である目標水平偏差量である。
【0051】
そして、掘進位置n1における偏差量n1xと、目標水平偏差量(掘進位置n2における偏差量n2x)との差が今回の掘進距離αで補正しようとする偏差量であるので、この関係に基づいて補正角を
補正角=tan-1([n1x-n2x]/α)
の式に基づいて算出する。
【0052】
同様に垂直方向(Y軸方向)における掘進位置n1における偏差量n1y、目標垂直偏差量(掘進位置n2における偏差量n2y)及び補正角についても求めることができる。
すべての修正線形についても同様に求めることができる。
【0053】
図5に、修正線形A~修正線形Eの偏差量と補正角との関係を示す。
修正線形A~修正線形Eの順に、偏差量に対して補正角が小さくなるようになっている。
【0054】
そして、所定の修正線形が選択され、水平方向(X軸方向)及び垂直方向(Y軸方向)の補正角並びに掘進位置n1から掘進位置n2までの掘進距離(α)に基づいて、掘進位置n2まで掘進が行われる。
【0055】
掘進位置n2までの掘進が行われた段階で、測量機4による掘進位置データが掘進位置記憶部71に記憶され、偏差量算出部72により偏差量が算出される。
【0056】
算出された偏差量に基づいて、同様に、次のα(m)を掘進する掘進位置n3(不図示)までの補正角が設定される。
【0057】
補正角を設定するために用いられる修正線形は、修正線形選択部74によって修正線形記憶部73に記憶された複数の修正線形から選択される。
【0058】
修正線形選択部74による水平方向(X軸方向)及び垂直方向(Y軸方向)についての修正線形の選択は、以下のように行われる。
なお、偏差量算出部72が算出した偏差量が、所定の範囲内(例えば水平方向(X軸方向)及び垂直方向(Y軸方向)のいずれも±5mm未満)であった場合には、計画線形通りでずれなく掘進しているものとして、修正を行わない。
【0059】
偏差量算出部72が算出した偏差量が、所定の範囲を超えるもの(例えば水平方向(X軸方向)及び垂直方向(Y軸方向)のいずれかが5mm以上)であった場合には、計画線形からずれが生じているものとして、修正を行う。
【0060】
修正線形選択部74は、偏差量算出部72が算出した偏差量が、前回用いた修正線形に沿って掘進したときの目標偏差量から所定の範囲内であれば、前回用いた修正線形を選択する。
【0061】
修正線形選択部74は、偏差量算出部72が算出した偏差量が、前回用いた修正線形に沿って掘進したときの目標偏差量より所定値以上小さければ、前回用いた修正線形より同じ偏差量に対する修正掘進距離の大きい修正線形を選択する。
【0062】
修正線形選択部74は、偏差量算出部72が算出した偏差量が、前回用いた修正線形に沿って掘進したときの目標偏差量より所定値以上大きければ、前回用いた修正線形より同じ偏差量に対する修正掘進距離の小さい修正線形を選択する。
【0063】
修正線形選択部74による垂直方向(Y軸方向)の修正線形の選択の具体的な一例について図3を用いて説明する。
【0064】
修正線形Cに沿って、垂直方向(Y軸方向)の偏差量が+30mmの掘進位置n1点から目標垂直偏差量のn2点までの所定距離(例えば、50cm)をシールド掘進機1を掘進させたとする。
【0065】
修正線形Cは、+30mmの偏差量を11.8mの修正掘進距離で徐々に0にするための修正線形である。
【0066】
修正線形Cに沿って50cm掘進したときの偏差量算出部72によって偏差量を算出する。
【0067】
偏差量算出部72によって算出された偏差量が、修正線形Cに沿って50cm掘進した場合のn2点での目標偏差量から所定の範囲内(a)であれば、引き続き前回用いた修正線形Cを選択し、修正線形Cに基づいて次の掘削の補正角を設定する。
【0068】
偏差量算出部72によって算出された偏差量が、修正線形Cに沿って50cm掘進した場合のn2点での目標偏差量より所定の範囲内(a)をはずれて小さければ(b)、その隣の修正線形Dを選択し、修正線形Dに基づいて次の掘削の補正角を設定する。すなわち、シールド掘進機1が急激に計画線形に近づきすぎているので、より緩やかに計画線形に近づく修正線形Dが選択される。
【0069】
偏差量算出部72によって算出された偏差量が、修正線形Cに沿って50cm掘進した場合のn2点での目標偏差量より所定の範囲内(a)をはずれて大きければ(c)、その隣の修正線形Bを選択し、修正線形Bに基づいて次の掘削の補正角を設定する。すなわち、シールド掘進機1が計画線形に近づかず離れていく傾向なので、より急激に計画線形に近づく修正線形Bが選択される。
【0070】
なお、水平方向の偏差量は、進行方向に向かって計画線形よりも右にずれている場合に+、左にずれている場合に-とし、垂直方向の偏差量は、進行方向に向かって計画線形よりも上にずれている場合に+、下にずれている場合に-とする。
【0071】
補正角は、選択された修正線形における偏差量に基づいて、偏差量と補正角との関係から決定される(図4)。
【0072】
偏差量算出部72による偏差量の算出、及び、修正線形選択部74による修正線形の選択は、セグメントの1リング分掘進する間に複数回行われる。例えば、1リングのセグメント幅が1mで測量機4による測量が50cmごとで行われる場合には、1リング分掘進する間に2回修正線形の選択が行われて、最大2回の線形の修正が行われる。
【0073】
本実施形態では、掘進予定線形決定システム7によって決定された水平方向及び垂直方向の補正角に基づいて、シールドジャッキ制御システム8がシールドジャッキ5を自動で制御することができる。
【0074】
図6に示すように、シールドジャッキ制御システム8は、掘進予定線形決定システム7によって決定された水平方向及び垂直方向の補正角を記憶する補正角記憶部80と、補正角記憶部80が記憶した水平方向及び垂直方向の補正角から全てのシールドジャッキ5のジャッキ合力点を算出する合力点算出部81と、合力点算出部81が算出したジャッキ合力点に基づいて、シールドジャッキ5への給油量を調整するバルブ50の開度を算出しバルブの開度を制御するバルブ制御部51に送るバルブ開度算出部82とを備える。
【0075】
補正角記憶部80は、掘進予定線形決定システム7によって決定された水平方向及び垂直方向の補正角に関するデータ(補正角及び次の掘進距離を含む)を記憶する。
【0076】
合力点算出部81は、まず、補正角記憶部80が記憶した水平方向及び垂直方向の補正角を読み出し、シールド掘進機1の任意の断面の中心を中心点、垂直方向の上方を0°としたときの水平方向(X軸方向)の力点座標及び垂直方向(Y軸方向)の力点座標をそれぞれ算出する。
【0077】
水平方向の補正角を補正角最大値で割った値が水平方向の力点座標であり、垂直方向の補正角を補正角最大値で割った値が垂直方向の力点座標である。
【0078】
補正角最大値は、補正角としてもっとも大きく設定できる限界値であり、例えば、工事での実績から偏差量を60mmとして設定して、想定する補正曲線の急激な角度で修正する修正線形として修正線形Aを用いて計算し0.730として設定する。
【0079】
次いで、水平方向の力点座標及び垂直方向の力点座標に基づいて、ジャッキ合力点の中心点からの距離(合力点距離)と中心点とジャッキ合力点とを結ぶ直線の角度(合力点角度)を算出する。
【0080】
図7に算出例を示す。
この例は、水平方向の偏差量が-20mmで修正線形Cに沿って修正するために算出され記憶された水平方向の補正角が-0.214、垂直方向の偏差量が-30mmで修正線形Bに沿って修正するために算出され記憶された垂直方向の補正角は-0.343から合力点算出部81が力点座標を算出するものである。
【0081】
補正角最大値が0.730であるので、水平方向の力点座標を-0.214/0.730=-0.2932と算出する。
補正角最大値が0.730であるので、垂直方向の力点座標を-0.343/0.730=-0.4699と算出する。
【0082】
中心点からジャッキ合力点までの距離(合力点距離)は、
√(0.2932+0.4699)=0.5539となる。
また、中心点とジャッキ合力点とを結ぶ直線の角度(合力点角度)は、tan-1関数を用いて垂直方向の上方を0°として時計回りで表すと211.963°となる。
【0083】
バルブ50の開度を大きくするとジャッキ推力も大きくなる。
バルブ開度算出部82は、中心点からジャッキ合力点の方向に近く位置するシールドジャッキ5(ジャッキ合力点が受け持つ範囲内にあるシールドジャッキ5)の推力が大きくなって、反対方向に位置するシールドジャッキ5の推力が小さくなるよう、バルブ50の開度を算出する。
【0084】
また、シールドジャッキ5の配置位置からジャッキ合力点との角度の差に比例して、そのシールドジャッキ5と対応するバルブ50の開度が小さくなるよう各バルブ50の開度を算出する。
【0085】
なお、極端な片押し状態を避けるために、高推力ジャッキと低推力ジャッキのバルブ50の開度差を閾値で設定し、許容範囲内で調整するように算出するようにしても良い。
【0086】
バルブ50に設定される最大開度である最大バルブ開度と最小である最小バルブ開度、及び、合力点距離に基づいて、シールドジャッキ5の配置された位置が合力点角度から1度変化した時のバルブ開度の変化量を算出する。
【0087】
最大バルブ開度:100、最小バルブ開度:50、合力点距離:0.5539の場合、配置されたシールドジャッキ5と中心点とを結ぶ直線の角度(ジャッキ角度)が合力点角度から1度変化した時のバルブ開度の変化量は、
(100-50)×0.5539/180=0.1539となる。
【0088】
各シールドジャッキ5のバルブ開度を計算するために、ジャッキ角度と合力点角度との角度差を算出する。ジャッキ角度と合力点角度との差は、最大180°となるようにする。
【0089】
合力点角度が180°以下であって、
(1)合力点角度+180°よりジャッキ角度が大きい場合には、
角度差=合力点角度+360°-ジャッキ角度となる。
(2)(1)以外の場合には、
角度差=ジャッキ角度-合力点角度となる。
【0090】
合力点角度が180°より大きく、
(1)合力点角度-180°よりジャッキ角度が大きい場合には、
角度差=合力点角度-ジャッキ角度となる。
(2)(1)以外の場合には、
角度差=(ジャッキ角度+360°)-合力点角度となる。
【0091】
さらに、算出した角度差に基づいて各シールドジャッキ5のバルブ開度を算出する。
バルブ開度算出部82が算出したバルブ開度はバルブ制御部51に送られ、バルブ制御部51は、算出されたバルブ開度に応じて、各シールドジャッキ5のバルブ50の開度を調整する。
【0092】
図7に示す例においては、シールドジャッキ5が12本(No.1~No.12)が時計回りに30°のピッチで配置されている。
具体的には、垂直方向の上方を0°としてNo.1が時計回りに15°の位置であって、それから順に時計回りに30°のピッチでNo.12までが配置されている。
【0093】
No,1のシールドジャッキ5のバルブ開度を計算すると、最大バルブ開度:100、角度変化1度あたりのバルブ開度の変化量:0.1539、角度差:163.037なので、
100-(0.1539×163.037)=74.9となる。
【0094】
図8に、同様に計算した各シールドジャッキ5のジャッキ角度、角度差、バルブ開度差、バルブ開度を示す。
【0095】
図9にシールド掘進機1の掘進予定線形決定工程を示す。
【0096】
シールド掘進機1の掘進が開始され、ステップ1で、測量機4がシールド掘進機1の掘進位置を測量すると(S1)、ステップ2で、掘進位置データが掘進位置記憶部71に記憶される(S2)。
【0097】
次いで、ステップ3において、偏差量算出部72が、掘進位置記憶部71から読み出した掘進位置及び計画線形記憶部70から読み出した計画線形に基づいて偏差量を算出する(S3)。
【0098】
次に、ステップ4において、修正線形選択部74が、偏差量算出部72により算出された偏差量に基づいて、修正線形記憶部73に記憶された複数の修正線形のうちいずれかを選択する(S4)。
【0099】
修正線形選択部74が選択した修正線形に対応して決定された水平方向及び垂直方向の補正角は、ステップ5で、シールドジャッキ制御システム8の補正角記憶部80に記憶される(S5)。
【0100】
さらに、ステップ6で、合力点算出部81が、補正角記憶部80から読み出した補正角に基づいてジャッキ合力点を算出する(S6)。
【0101】
次に、ステップ7で、バルブ開度算出部82が、合力点算出部81により算出したジャッキ合力点からバルブ50の開度を算出する(S7)。
【0102】
バルブ開度算出部82が算出したバルブ50の開度を、ステップ8で、バルブ制御部51へ送り(S8)、終了する。
【0103】
掘進予定線形決定システムは、トンネル掘削機の掘削位置が計画線形からずれると、あらかじめ設定されている複数の修正線形から偏差量に基づいて選択した修正線形に沿って修正することができるので、個人の技量や経験などの差によるバラつきがない。また、面倒な軌道計算を行うことなく、掘削位置を簡単に確実に計画線形に寄せることができる。
【0104】
加えて、修正曲線は、目標位置に近づくほど、偏差量に対する修正掘進距離の比が大きくなる曲線であれば、修正線形の計画線形に対する角度が目標位置に近づくにしたがって次第に緩やかになるため、掘削位置を徐々に安定して計画線形に寄せることができる。
【0105】
加えて、偏差量が閾値を超えた場合、修正線形選択部は、この偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量より大きければ、前回選択した修正線形より同じ偏差量に対する修正掘進距離が小さい修正線形を選択し、偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量と同じであれば、前回選択した修正線形を選択し、偏差量が前回選択した修正線形に沿って掘進した時の目標偏差量より小さければ、前回選択した修正線形より同じ偏差量に対する修正掘進距離が大きい修正線形を選択すると、トンネル掘削機の軌道修正が必要な場合のみに、計画線形から大きくずれることなく確実に最適な修正を行うことができる。
【0106】
シールドジャッキ制御システムは、目標とする補正角に対応する合力点に基づいて、個人の技量や経験などの差によるバラつきがなく適切にシールドジャッキの各バルブ制御をすることができる。
【0107】
[第2の実施形態]
図10乃至図12は、本発明の第2の実施形態を示す。なお、第1の実施形態と同様の部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0108】
第2の実施形態では、図10に示すように、12本のシールドジャッキ5を、2本のシールドジャッキ5(No.1、No.12)から成る上部ブロック5a、4本のシールドジャッキ5(No.2~No.5)から成る右部ブロック5b、2本のシールドジャッキ5(No.6、No.7)から成る下部ブロック5c、4本のシールドジャッキ5(No.8~No.11)から成る左部ブロック5dにまとめ、ブロックごとにシールドジャッキ5の制御を行うものである。
【0109】
上部ブロック5a、右部ブロック5b、下部ブロック5c、左部ブロック5dにそれぞれ一つのブロックバルブ50’(図1)が装備されている。すなわち、4系統のバルブ制御をすることができる。
なお、各ブロックには、複数のジャッキが組として設定され、ブロックの数は4以上に区分けされていれば良く、本実施形態に限られない。
【0110】
図11に示すように、シールドジャッキ制御システム8は、掘進予定線形決定システム7によって決定された水平方向及び垂直方向の補正角を記憶する補正角記憶部80と、補正角記憶部80が記憶した水平方向及び垂直方向の補正角から全てのシールドジャッキ5のジャッキ合力点を算出する合力点算出部81と、合力点算出部81が算出したジャッキ合力点に基づいて、シールドジャッキ5が個々にバルブで制御されるとしたときに、シールドジャッキ5の個々のバルブの開度を算出する個別ジャッキバルブ開度算出部82’と、ブロックごとのブロックバルブ50’の開度を算出するブロックバルブ開度算出部83とを備える。
【0111】
個別ジャッキバルブ開度算出部82’は、実際はブロックごとに設けられるブロックバルブとしてのバルブが、シールドジャッキ5が個々にバルブで制御されるものと仮定したときに、シールドジャッキ5の個々のバルブの開度を算出するもので、算出方法は、第1の実施形態のバルブ開度算出部82と同様のものである。
【0112】
ブロックバルブ開度算出部83は、各ブロックのブロックバルブ50’のバルブ開度を次のように算出する。
【0113】
個別ジャッキバルブ開度算出部82’により算出した12本のシールドジャッキ5のバルブ開度から、上部ブロック5a、右部ブロック5b、下部ブロック5c、左部ブロック5dを構成するシールドジャッキ5のバルブ開度の合計であるブロック合計バルブ開度を計算する。
【0114】
第1の実施形態の図8に示された例に基づいて具体的に説明すると、上部ブロック5aの2本のシールドジャッキ5(No.1、No.12)のブロック合計バルブ開度は、74.9+79.5=154.4となる。
【0115】
右部ブロック5bの4本のシールドジャッキ5(No.2~No.5)のブロック合計バルブ開度は、74.3+78.9+83.5+88.2=324.9となる。
【0116】
下部ブロック5cの2本のシールドジャッキ5(No.6、No.7)のブロック合計バルブ開度は、92.8+97.4=190.2となる。
【0117】
左部ブロック5dの4本のシールドジャッキ5(No.8~No.11)のブロック合計バルブ開度は、98.0+93.4+88.8+84.1=364.3となる。
【0118】
次に、ブロック合計バルブ開度及び各ブロックのブロック角度から各ブロックの個別ブロックジャッキ合力点の座標をそれぞれ算出する。
【0119】
X座標は、sin(ブロック角度)×ブロック合計バルブ開度/最大バルブ開度の合計で求められ、
Y座標は、cos(ブロック角度)×ブロック合計バルブ開度/最大バルブ開度の合計で求められる。
【0120】
ここでブロック角度は、各ブロックの中心の位置の角度であって、真上を0°として時計回りの角度とする。具体的には、上部ブロック5aのブロック角度はNo.1とNo.12との間の角度であるので0°である。同様に右部ブロック5bのブロック角度は90°、下部ブロック5cのブロック角度は180°、左部ブロック5dのブロック角度は270°である。
【0121】
図10に示す例における具体例の一部を示すと、右部ブロック5bの個別ブロックジャッキ合力点のX座標は、
sin90°×324.9/(100×4)=0.8123となる。
【0122】
また、上部ブロック5aの個別ブロックジャッキ合力点のY座標は、
cos0°×154.4/(100×2)=0.7720となる。
【0123】
他の各ブロックの個別ブロックジャッキ合力点のX座標及びY座標を同様に算出する。
そして、算出した上部ブロック5a、右部ブロック5b、下部ブロック5c、左部ブロック5dの個別ブロックジャッキ合力点のX座標の合計及びY座標の合計が、すべてのブロックのジャッキ合力点である総合ブロックジャッキ合力点のX座標及びY座標となる。
【0124】
図12に、各ブロックの個別ブロックジャッキ合力点のX座標及びY座標と、すべてのブロックの総合ブロックジャッキ合力点のX座標及びY座標を示す。
【0125】
次いで、総合ブロックジャッキ合力点のX座標及びY座標から、中心点と総合ブロックジャッキ合力点とを結ぶ直線の角度である総合ブロックジャッキ合力点角度及び中心点から総合ブロックジャッキ合力点までの距離である総合ブロックジャッキ合力点距離を求める。
【0126】
さらに、ブロックバルブ50’に設定される最大バルブ開度と最小バルブ開度、及び、総合ブロックジャッキ合力点距離に基づいて、上部ブロック5a、右部ブロック5b、下部ブロック5c、左部ブロック5dが配置された位置が、総合ブロックジャッキ合力点角度から1度変化するときのブロックバルブ開度の変化量であるブロックバルブ開度変化量を算出する。
【0127】
次に、上部ブロック5a、右部ブロック5b、下部ブロック5c、左部ブロック5dが配置された位置と中心点とを結ぶ直線の角度(ブロック角度)と、総合ブロックジャッキ合力点角度との差であるブロック角度差を算出し、ブロックバルブ開度変化量とブロック角度差に基づいて、上部ブロック5a、右部ブロック5b、下部ブロック5c、左部ブロック5dのブロックバルブ50’の開度を算出する。
【0128】
個別ジャッキバルブ開度算出部を設けて仮想的に個別にジャッキのバルブ開度を算出し、それに基づいてブロックバルブ開度算出部でブロックバルブの開度を算出するので、個別ジャッキバルブ方式やブロックバルブ方式のいずれのシールド掘進機にも対応しやすく汎用性が高いジャッキ制御システムとすることができる。すなわち、ブロックバルブ開度算出部83を設けないことで個別ジャッキバルブ方式に対応し、ブロックバルブ開度算出部83を設けることでブロックバルブ方式に対応できる。
【0129】
[第3の実施形態]
図13及び図14は、本発明の第3の実施形態を示す。なお、第1及び第2の実施形態と同様の部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0130】
第3の実施形態では、図13に示すように、シールドジャッキ5が16本、等角度で配置されており、4つのブロックごとにシールドジャッキ5の制御を行う点が異なる。
【0131】
具体的には、上部ブロック5aが4本のシールドジャッキ5(No.1、No.2、No.15、No.16)から成り、右部ブロック5bが4本のシールドジャッキ5(No.2~No.6)から成り、下部ブロック5cが4本のシールドジャッキ5(No.7~No.10)から成り、左部ブロック5dが4本のシールドジャッキ5(No.11~No.14)から成り、ブロックごとにシールドジャッキ5の制御を行う。
【0132】
第2の実施形態と同様にして、各ブロックのバルブ50のバルブ開度を算出して、制御を行う。
【0133】
第3の実施形態の説明では、図14に示すように、算出結果などの制御状態を表示するとともに手動による制御値を入力可能なディスプレイ60について説明する。
【0134】
ディスプレイ60は、タッチパネルであって制御装置6が備えた図示しない入出力制御部に接続されている。
【0135】
ディスプレイ60には、右側表示部61に、各ブロックのバルブ50のバルブ開度が色とジャッキ長さによる色分け表示として表示されている。
【0136】
色分け表示は、ジャッキ開度の度合いを段階的に区分け(例えば開度が低い1~開度が高い10段階まで)して次第に濃くなる色彩(例えば白色~濃い赤色まで)になるように表示される。
【0137】
バルブ開度とジャッキ長さによる全体の向きが立体的に表示されるようになっている。
これによって直感的にシールド掘進機1の向きを把握することができる。
【0138】
ディスプレイ60には、左側表示部62に、シールドジャッキ5の配置が背面からみた平面状の背面表示として表示されている
【0139】
背面表示では、算出された各ブロックのバルブ50の数字によるバルブ開度表示62a、算出されたすべてのジャッキを総合したジャッキ合力点の表示である合力点表示62b、算出されたシールド掘進機1が向く方向の矢印によるマシン方向表示62cが表示されている。
【0140】
合力点表示62bは、色付けされた点(例えば、赤色の点)で表示されており、マシン方向表示62cは、合力点表示62bと同色で色付けされた矢印(例えば、赤色の矢印)で表示されている。
【0141】
さらに、シールドジャッキ制御システム8によって算出可能なジャッキ合力点の最大範囲表示62dが太い線の色付けされた(例えば赤色)円によって表示されている。
【0142】
最大範囲表示62dは、シールドジャッキ制御システム8による自動制御の範囲を示すものである。すなわち、シールドジャッキ制御システム8による自動制御では、ジャッキ合力点は、最大範囲表示62dの内側に必ず設定される。
【0143】
最大範囲表示62dは、例えば、補正角最大値に基づいて算出される合力点に安全率を乗じるなどして設定される。
最大範囲表示62dの外側にジャッキ合力点を設定したい場合には、手動で設定する必要がある。
【0144】
背面表示の上部、右部、下部、左部には、手動モードにおいて、ジャッキ合力点を上下左右に動かして設定することができるジャッキ合力点移動ボタン62eが表示されている。
【0145】
手動モードは、手動操作ボタン62fを操作することで自動モードから切り替えられる。手動モードにおいては、バルブ制御部51に接続される図示しない手動操作制御部によって、バルブ50が制御される。
【0146】
ジャッキ合力点移動ボタン62eは、右下に表示されている手動操作ボタン62fをタッチ操作すること、すなわち手動モードで有効となり、ジャッキ合力点移動ボタン62eをそれぞれタッチ操作することにより、ジャッキ合力点を上下左右に移動させて設定することができる。
【0147】
手動モードで設定されたジャッキ合力点は、手動合力点表示62hとして表示される。
【0148】
手動モードで設定されたジャッキ合力点に基づいて、手動モードにおけるシールド掘進機1が向く方向が計算されて、矢印による手動マシン方向表示62iが表示される。
【0149】
手動合力点表示62hは、合力点表示62bとは異なる色で色付けされた点(例えば、青色の点)で表示されており、手動マシン方向表示62iは、手動合力点表示62hと同色で色付けされた矢印(例えば、青色の矢印)で表示されている。
【0150】
また、手動モードで設定されたジャッキ合力点に基づいて、バルブ開度が計算されて、バルブ開度表示62aに表示される。
【0151】
手動モードから自動モードへの切り替えは、自動調整ボタン62gをタッチ操作することにより、シールドジャッキ制御システム8による自動調整に戻すことができる。
【0152】
自動モードでは、最大範囲表示62dの内側にジャッキ合力点が必ず設定されるが、手動モードでは、最大範囲表示62dに関係なくジャッキ合力点を設定することができる。すなわち、最大範囲表示62dの内側にも外側にもジャッキ合力点を設定することができる。
【0153】
これにより、自動モードにおける最大範囲表示62dを超えてジャッキ合力点を設定する必要がある場合には、手動モードに切り替える必要が生じて、より慎重に安全に掘進を行うことができる。
【0154】
また、例えば、自動モードでは片押しができないように設定されており、手動モードでは片押しができるように設定されている場合には、片押しの必要に応じてモードを切り替えることで安全を確認しながら掘進を行うことができる。
【0155】
本実施形態では、自動モードの合力点表示62b及びマシン方向表示62c並びに手動モードの手動合力点表示62h及び手動マシン方向表示62iの双方を同時に表示していたが、モードの切り替えによっていずれかのモードにおける表示だけをするようにしても良い。
【0156】
〔その他の変形例〕
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば以下のようなものも含まれる。
【0157】
本実施形態では、トンネル掘削機がシールド掘進機であるが、これに限られず、推進ジャッキを備えるTBM(トンネルボーリングマシン)のようなトンネル掘削機であっても良い。
【0158】
本実施形態では、修正線形がクロソイド曲線であるが、修正掘進距離に対する偏差量が単調増加する曲線であればその他の曲線、例えば指数関数を示す曲線であってもよい。
【0159】
本実施形態では、シールドジャッキを第2の実施形態では12本用いており、第3の実施形態では16本用いているが、その数を増減することが可能である。
【0160】
本実施形態では、測量機4による自動測量で、1リング掘削するごとに複数回行われてそのデータに基づいて掘進予定線形が決定されているが、これに限られず、1リング掘削するごとに1回の測量が行われて、そのデータに基づいて掘進予定線形が決定されるようにしても良い。
【0161】
本実施形態では、シールド掘進機に設置した測量機によって自動測量しているが、測量機をトンネル坑内に設置する、いわゆる従来の人力による測量であってもよい。
【0162】
第2の実施形態及び第3の実施形態では、シールドジャッキを4つのブロックに分割しているが、これより多くのブロック数に分割してもよい。
【0163】
変形例を含むいずれの実施形態における各技術的事項を他の実施形態に適用して実施例としても良い。
【0164】
1 シールド掘進機
2 回転カッタ
3 チャンバ
4 測量機
5 シールドジャッキ
5a 上部ブロック
5b 右部ブロック
5c 下部ブロック
5d 左部ブロック
50 バルブ
50’ ブロックバルブ
51 バルブ制御部
6 制御装置
60 ディスプレイ
61 右側表示部
62 左側表示部
62a バルブ開度表示
62b 合力点表示
62c マシン方向表示
62d 最大範囲表示
62e ジャッキ合力点移動ボタン
62f 手動操作ボタン
62g 自動調整ボタン
62h 手動合力点表示
62i 手動マシン方向表示
7 掘進予定線形決定システム
70 計画線形記憶部
71 掘進位置記憶部
72 偏差量算出部
73 修正線形記憶部
74 修正線形選択部
8 シールドジャッキ制御システム
80 補正角記憶部
81 合力点算出部
82 バルブ開度算出部
82’ 個別ジャッキバルブ開度算出部
83 ブロックバルブ開度算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14