(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018791
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】積層中綿シートとその製造方法及びこれを用いた中綿構造体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20250130BHJP
D04H 1/02 20060101ALI20250130BHJP
D04H 3/04 20120101ALI20250130BHJP
D04H 5/02 20120101ALI20250130BHJP
D06M 17/00 20060101ALI20250130BHJP
D02G 3/34 20060101ALI20250130BHJP
A47G 9/02 20060101ALI20250130BHJP
A47G 9/10 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
B32B5/26
D04H1/02
D04H3/04
D04H5/02
D06M17/00 M
D02G3/34
A47G9/02 B
A47G9/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122791
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】塚田 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】小川 晃
【テーマコード(参考)】
3B102
4F100
4L032
4L036
4L047
【Fターム(参考)】
3B102AB00
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4L047CC07
(57)【要約】
【課題】取り扱い性が良好で、既存の衣服製造工程に簡便に適用でき、嵩高性が高く、平坦性が良好である積層中綿シートとその製造方法及びこれを用いた中綿構造体を提供する。
【解決手段】長繊維中綿層2と繊維シート層3a,3bを含む積層中綿シート1であって、繊維シート層3a,3bの目付は5~80g/m
2であり、長繊維中綿層2を構成する長繊維糸は、少なくとも芯糸と花糸で構成され、芯糸及び花糸は一体化されており、記長繊維中綿層2は、長繊維糸が複数本引き揃えられて繊維束とされ、前記繊維束が1本または複数本長さ方向にかつ平行状に配列されており、長繊維中綿層2の両面に繊維シート層3a,3bが積層一体化されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維中綿層と繊維シート層を含む積層中綿シートであって、
前記繊維シート層の目付は5~80g/m2であり、
前記長繊維中綿層を構成する長繊維糸は、少なくとも芯糸と花糸で構成され、前記芯糸及び前記花糸は一体化されており、
前記長繊維中綿層は、前記長繊維糸が複数本引き揃えられて繊維束とされ、前記繊維束が1本または複数本長さ方向にかつ平行状に配列されており、
前記長繊維中綿層の両面に前記繊維シート層が積層一体化されていることを特徴とする積層中綿シート。
【請求項2】
前記繊維シート層は織物、編み物、ネット、メッシュ及び不織布からなる群から選ばれる少なくとも一つの層である請求項1に記載の積層中綿シート。
【請求項3】
前記繊維シート層は、表面に接着剤が付与されている請求項1に記載の積層中綿シート。
【請求項4】
前記長繊維中綿層と繊維シート層との積層一体化は、前記繊維シート層に混合されている熱融着繊維のドット加熱、前記繊維シート層に対する接着剤のスプレー付与、前記繊維シート層にホットメルト接着剤をドット加工で付与し加熱する方法、及びニードルで繊維シート層と前記長繊維中綿層を絡ませる加工からなる群から選ばれる少なくとも一つの積層一体化である請求項1に記載の積層中綿シート。
【請求項5】
前記長繊維糸が複数本引き揃えられた繊維束は、単位長さ当たりの質量が0.15~45g/mである請求項1に記載の積層中綿シート。
【請求項6】
前記繊維束は、長繊維糸が2~1800本が引き揃えられている請求項1に記載の積層中綿シート。
【請求項7】
前記長繊維中綿層の目付は5~1000g/m2であり、前記積層中綿シートの目付は10~1080g/m2である請求項1に記載の積層中綿シート。
【請求項8】
前記繊維シート層はポリエステル短繊維と、低融点短繊維が混綿されたシートで構成されている請求項1に記載の積層中綿シート。
【請求項9】
前記繊維シート層はサーマルボンド不織布層である請求項1に記載の積層中綿シート。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の積層中綿シートの製造方法であって、
少なくとも芯糸と花糸で構成され、前記芯糸及び前記花糸が一体化されている長繊維糸を複数本引き揃えて繊維束とし、前記繊維束を複数本長さ方向にかつ平行状に配列させて、長繊維中綿層とし、
前記長繊維中綿層の両面に繊維シート層を積層し、前記長繊維中綿層と前記繊維シート層とを積層一体化し、巻き取ることを特徴とする積層中綿シートの製造方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の積層中綿シートを含む繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層中綿シートとその製造方法及びこれを用いた中綿構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛布団、羽毛ジャケットなどの羽毛製品に充填される羽毛は、一般的には水鳥の羽毛が使用されている。水鳥としてはグース(ガチョウ)、ダック(アヒル)、北極圏の海岸線に生息するアイダー(野生の鴨)などである。羽毛には、胸毛にあたるダウンと、羽根と呼ばれるフェザーがあり、ともに羽毛製品に使われている。羽毛の産地はポーランド、ハンガリーなどの中欧、スカンジナビア半島を含む北欧、中国などである。羽毛は、嵩高性に優れ、暖かく、掛け布団や羽毛ジャケットの羽毛製品として高級素材の地位を占めている。
しかし、天然の羽毛は水鳥に依存しており、その供給量には限度がある上、自然条件や厄病(例えば鳥ウィルス)の影響によって供給量も変動するという問題がある。あるいは自然保護の観点から、野生の鳥を捕捉することには限度がある。また、天然の羽毛は、洗いが不充分であると悪臭の原因となるため、事前に悪臭の原因となる汚物を除去し、羽毛の洗浄の程度を見る清浄度と酸素計数を一定のレベルに保つ管理が必要である。加えて、羽毛布団、羽毛ジャケットなどの羽毛製品の洗濯は容易ではないという基本的な問題がある。
そこで、従来から詰め綿については多くの提案があり、芯糸と花糸からなる長繊維綿がある。長繊維綿をダウンジャケット等の断熱構造体に充填する方法としては、断熱構造体に長繊維綿を挿入可能な隙間を設け、長繊維中綿を挿入する方法や、裏側生地の上に長繊維中綿を敷き詰めさらに表側生地を積層したのち、積層体をキルティングし、裏側生地と表側生地の間に長繊維中綿を固定する方法などがあった。
これらは長繊維中綿の利用に際し専用の方法が必要であるため、長繊維中綿を利用するにあたり、既存の衣服製造工程に簡便に適用可能にする方法が望まれている。
【0003】
特許文献1には、合成繊維からなる嵩高性保持層と微多孔膜を有する微多孔膜層が一体化されてなる衣料用保温材が開示されている。前記嵩高性保持層は嵩高糸を使用しており、微多孔膜層には孔径が5.0μm以下の微多孔が80%以上存在している微多孔膜、特にメルトブロー不織布の使用が開示されている。
特許文献2には長繊維綿シートについての開示があり、熱接着シートの表側と裏側に整列された長繊維綿シートを配置し再度重合状態(熱接着シートが介在する三層状態)とした長繊維綿シートを、一対構成のヒートロールの間を通過させ、加熱により熱接着シートの両面に第1層、第2層の長繊維綿シートを熱接着して一体性を高めた長繊維綿シートが開示されている。
特許文献3には、長繊維束を均一にかつ自動化して配列し、面状の積層中綿シートにすることができる積層中綿シート及びこれを用いた中綿構造体について開示がある。中綿が折り曲げた状態で並べられ、2枚の生地で挟まれたのちに縫製することが提案されている。
特許文献4には、不織布に所定間隔に孔をあけ、長繊維中綿を通過させて不織布と一体化された中綿構造体について開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-046653号公報
【特許文献2】特開2020-063539号公報
【特許文献3】特許第7250232号公報
【特許文献4】特開2022-153027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来技術は、長繊維中綿が様々な物体に引っ掛かりやすく、引っ掛かるとほつれてしまい取り扱い性が低下する問題があり、既存の衣服製造工程に簡便に適用することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するため、取り扱い性が良好で、既存の衣服製造工程に簡便に適用でき、嵩高性が高く、平坦性が良好である積層中綿シートとその製造方法及びこれを用いた中綿構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積層中綿シートは、長繊維中綿層と繊維シート層を含む積層中綿シートであって、前記繊維シート層の目付は5~80g/m2であり、前記長繊維中綿層を構成する長繊維糸は、少なくとも芯糸と花糸で構成され、前記芯糸及び前記花糸は一体化されており、前記長繊維中綿層は、前記長繊維糸が複数本引き揃えられて繊維束とされ、前記繊維束が1本または複数本長さ方向にかつ平行状に配列されており、前記長繊維中綿層の両面に前記繊維シート層が積層一体化されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の積層中綿シートの製造方法は、前記の積層中綿シートの製造方法であって、少なくとも芯糸と花糸で構成され、前記芯糸及び前記花糸が一体化されている長繊維糸を複数本引き揃えて繊維束とし、前記繊維束を複数本長さ方向にかつ平行状に配列させて、長繊維中綿層とし、前記長繊維中綿層の両面に繊維シート層を積層し、前記長繊維中綿層と前記繊維シート層とを積層一体化し、巻き取ることを特徴とする。
【0009】
本発明の繊維構造体は、前記の積層中綿シートを含む繊維構造体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層中綿シートは、長繊維中綿層と繊維シート層を含み、前記繊維シート層の目付は5~80g/m2であり、前記長繊維中綿層を構成する長繊維糸は、少なくとも芯糸と花糸で構成され、前記芯糸及び前記花糸は一体化されており、前記長繊維中綿層は、前記長繊維糸が複数本引き揃えられて繊維束とされ、前記繊維束が1本または複数本長さ方向にかつ平行状に配列されており、前記長繊維中綿層の両面に前記繊維シート層が積層一体化されていることにより、取り扱い性が良好で、既存の衣服製造工程に簡便に適用でき、嵩高性が高く、平坦性が良好である積層中綿シートとその製造方法及びこれを用いた中綿構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2は本発明の一実施形態の積層中綿シートの製造装置を示す模式的説明図である。
【
図3】
図3は本発明の別の実施形態の積層中綿シートの製造装置を示す模式的説明図である。
【
図4】
図4は本発明のさらに別の実施形態の積層中綿シートの製造装置を示す模式的説明図である。
【
図6】
図6は本発明の一実施形態の長繊維糸の模式的側面図である。
【
図7】
図7は本発明の一実施形態の長繊維糸の製造方法を示す模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の積層中綿シートは、長繊維中綿層と繊維シート層を含み、前記繊維シート層の目付は5~80g/m2である。これにより、長繊維中綿層の嵩高性、保温性などの中綿としての特性を損ねることなく、長繊維中綿層の取り扱い性を向上できる。長繊維中綿層を構成する長繊維糸は、少なくとも芯糸と花糸で構成され、芯糸及び花糸は一体化されている。長繊維糸とは連続繊維糸又はフィラメント糸ともいう。長繊維中綿層は、長繊維糸が複数本引き揃えられて繊維束とされ、繊維束が1本または複数本長さ方向にかつ平行状に配列されている。繊維束は扁平状になっていることが好ましい。繊維束は断面から見た中心部が厚く、周辺部が薄くてもよい。このため、繊維束の粗密により中綿層は幅方向に凹凸状となっていてもよい。長繊維中綿層の両面に繊維シート層が積層一体化されており、長繊維中綿層のほつれが生じないように保護層となっている。
【0013】
前記繊維シート層は織物、編み物、ネット、メッシュ及び不織布なる群から選ばれる少なくとも一つの層であるのが好ましい。これらの繊維シート層は、長繊維中綿層のほつれが生じない保護層として好適である。織物としては、ガーゼ生地、寒冷紗生地のように織目が粗く、目付が5~80g/m2の範囲の軽目付のものが好ましい。編み物も糸を細くし、粗目で編むことにより、目付が5~80g/m2の範囲の軽目付としたものが好ましい。不織布層は目付が5~80g/m2の範囲のもので、長繊維不織布層又は短繊維不織布層が好ましく、より好ましくは短繊維不織布層である。短繊維不織布層は、カードウェブとし、薄く均一な不織布層に形成できる。低融点成分を含む繊維と高融点繊維の混紡も容易である。ここで短繊維とは10~100mmの範囲が好ましく、より好ましくは20~80mmであり、さらに好ましくは30~60mmであり、とくに好ましくは40~50mmである。長繊維不織布はメルトブロー不織布が好ましい。不織布層を構成する繊維は、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどが好ましい。
【0014】
繊維シート層は基材と接着剤から構成されてもよい。基材の目付は5~50g/m2であると、積層中綿シートとした際に、繊維シート層の破損により長繊維中綿層が露出するのを防止できるともに、柔軟性を維持できるため好ましい。
【0015】
前記繊維シート層は基材表面に接着剤が付与されているのが好ましい。接着剤が不織布層の内部に存在していると、一体化に関与しない接着剤が積層中綿シートの重量を増加させるため好ましくない。
【0016】
本発明の積層中綿シートは、繊維シート層が長繊維中綿層から剥離しさえしなければ保護層としての役割を果たすことができるため、必要以上に強く接着する必要はなく、接着剤の量は可能な限り少なくするのが好ましい。よって接着剤の重量の下限値を設定することは難しいが、接着剤が存在しているか確認することが可能である点から、前記接着剤は0.1~30.0g/m2で付与されているのが好ましい。
【0017】
長繊維中綿層と繊維シート層との積層一体化は、一例として次の方法が好ましい。
(1)高融点繊維に熱融着繊維を混紡しておき、ドット加熱して長繊維中綿層と部分的に融着する方法。
(2)不織布に接着剤をスプレーで付与し、長繊維中綿層と部分的に接着する方法。
(3)不織布にホットメルト接着剤をドット状にエンボスロールで付与し、加熱して長繊維中綿層と部分的に接着する方法。
(4)ニードルで繊維シート層と長繊維中綿層を絡ませる加工をして、部分的に結合させる方法。
【0018】
前記積層一体化において、接着濃度の濃淡をつけてもよい。例えば、前記方法(2)において、繊維シートに接着剤を付与する際、積層一体化に用いる繊維シートの長さ方向に縞となるように接着剤を付与することで、長繊維中綿層と繊維シート層が接着する面積を減少させることができ、前記長繊維中綿の積層一体化による嵩高性の低下を減らすことができる。前記方法(3)において、ホットメルト接着剤を加熱する加熱ロールと繊維シートの距離を変化させることで、接着能が発生する面積を減少させることができ、前記長繊維中綿の積層一体化による嵩高性の低下を減らすことができる。
【0019】
長繊維糸が複数本引き揃えられた繊維束は、1~100本が長さ方向に配列されているのが好ましく、より好ましくは2~80本であり、さらに好ましくは3~60本である。これにより狭い幅から広幅の積層中綿シートを形成できる。
【0020】
繊維シート層はポリエステルなどの短繊維と、低融点短繊維が混綿された繊維ウェブで構成されているのが好ましい。これにより、目付が軽く嵩もあり、中綿層の保護層として好適である。
繊維シート層として不織布層を使用する場合は、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、ウォータージェットパンチ不織布、ステッチボンド不織布、スパンレース不織布などを使用できる。この中でもサーマルボンド不織布が好ましい。繊維シート層の静置状態の厚さは0.01~5mmが好ましく、より好ましくは0.05~4mmであり、さらに好ましくは0.1~3mmである。前記の厚さであれば長繊維中綿層の嵩高性、保温性を損なうことがなく、かつ平坦性と取り扱い性を向上できる。
【0021】
本発明の積層中綿シートの製造方法は次の工程を含む。
(1)少なくとも芯糸と花糸で構成され、前記芯糸及び前記花糸が一体化されている長繊維糸を複数本引き揃えて繊維束とする工程。
(2)前記繊維束を複数本長さ方向にかつ平行状に配列させて、長繊維中綿層とする工程。
(3)前記長繊維中綿層の少なくとも片面に繊維シート層を積層し、前記長繊維中綿層と前記繊維シート層とを積層一体化とする工程。
(4)巻き取る工程。
【0022】
長繊維糸は、嵩高性を有する糸が好ましく、例えば、少なくとも2種類の芯糸及び花糸で構成され、前記芯糸は前記花糸に比べて相対的に短く、前記芯糸及び前記花糸は一体化された長繊維糸であることが好ましい。芯糸及び花糸以外の繊維を加えることは任意であるが、長繊維糸を100質量%としたとき芯糸及び花糸合計で70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上とする。芯糸及び花糸は一体化されている。ここで一体化とは、繊維同士が絡み合ったり巻き付いた状態をいう。芯糸は花糸に比べて相対的に短い。芯糸と花糸との長さの差を設けることで嵩高性を出す。花糸と芯糸の重量比は、花糸と芯糸の合計を母数にしたとき、花糸の割合は51~99質量%(wt%)の範囲が好ましい。更に好ましくは80~98wt%の範囲、特に好ましくは85~97wt%の範囲である。前記範囲であれば、両成分糸固定はしっかりしたものとなり、かつ風合いも良好となる。なお芯糸も花糸も連続繊維(長繊維、フィラメント繊維)が好ましい。
【0023】
前記長繊維糸1本の単位長さ当たりの質量は0.01~3g/mが好ましく、0.02~1.5g/mがさらに好ましい。この長繊維糸を2~1800本、好ましくは2~1000本、更に好ましくは5~500本、特に好ましくは10~250本まとめて、例えば引き揃えて長繊維束とする。長繊維束1本の単位長さ当たりの質量は0.15~45g/mが好ましく、0.3~25g/mがさらに好ましい。この範囲であると、積層中綿シートにする際の取り扱いに便利である。前記長繊維束は1本又は複数本引き揃えて使用することができる。前記長繊維束は、巻糸体としてもよいし、カートン容器に収納してもよい。また、積層中綿シートの幅は0.3~3mが好ましく、より好ましくは0.5~2.5mである。この幅であれば、衣類から寝具まで適用できる。
【0024】
前記積層中綿シートの長繊維中綿層の単位面積当たりの質量(目付)は5~1000g/m2であるのが好ましい。中綿入り衣類の場合は、長繊維中綿層の単位面積当たりの質量が5~400g/m2が好ましく、さらに好ましくは、10~120g/m2である。布団の場合は、例えば掛け布団は長繊維中綿層の長繊維束の単位面積当たりの質量が10~600g/m2が好ましく、さらに好ましくは30~400g/m2である。
【0025】
前記積層中綿シートの単位面積当たりの質量(目付)は15~1160g/m2であるのが好ましい。中綿入り衣類の場合は、積層中綿シートの単位面積当たりの質量が15~560g/m2が好ましく、さらに好ましくは、15~200g/m2である。布団の場合は、例えば掛け布団は積層中綿シートの長繊維束の単位面積当たりの質量が15~760g/m2が好ましく、さらに好ましくは15~480g/m2である。
【0026】
繊維構造体は、衣類、寝具、寝袋又はこれらのパーツであるのが好ましい。具体的には、布団、毛布、寝袋、枕、クッション、マット、ぬいぐるみ、ひざ掛け、ジャケット、シャツ、パンツ、ベスト、コート、防寒衣料、作業着、ネックウォーマー又はこれらのパーツであるのが好ましい。ジャケット、シャツ、パンツなどの衣類はスポーツ用に好適である。また、インナージャケットのようなフィット感があり、良く伸びる性質がある。
【0027】
長繊維糸には架橋剤として、少なくともウレタン系架橋剤、アクリル系架橋剤又はエポキシ樹脂架橋剤が付与されキュアリングにより固定されているのが好ましい。これにより、嵩高性及び耐洗濯性を向上させることができる。さらに、表面処理剤として平滑性を向上させる樹脂平滑剤として、例えば、シリコーン系樹脂を前記架橋剤とともに併用するのが好ましい。特にシリコーン系樹脂剤とウレタン系架橋剤の併用が好ましい。前記架橋剤及び/又は平滑性は、長繊維糸に対して0.1~10質量%の範囲付与するのが好ましい。
【0028】
芯糸及び花糸は、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどの繊維が使用できるが、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)中空糸である。ポリエチレンテレフタレート中空糸は断熱効果により温かく、かつPETはコシがあり、嵩高性を高く維持できる。中空率は10~40%程度が好ましい。
【0029】
芯糸及び花糸は、交絡加工、エアージェット加工、巻き付け加工及び芯糸に対して花糸を噴射させる加工から選ばれる少なくとも一つの加工により一体化されているのが好ましい。交絡加工は芯糸と花糸の走行方向に対して垂直方向に圧空を噴射するエアー交絡機による加工である。エアージェット加工はいわゆるタスラン加工であり、芯糸と花糸に対して進行方向に圧空を押し込む加工である。巻き付け加工は芯糸に対して花糸を巻き付け、一体化する加工である。芯糸に対して花糸を噴射させる加工は、芯糸に花糸を噴射させ絡めるか又は旋回させる加工である。
【0030】
芯糸及び花糸の単繊維繊度は0.1~300decitex、かつトータル繊度が10~600decitexの範囲が好ましい。更に好ましくは単繊維繊度が1.0~50decitex、かつトータル繊度が15~250decitexの範囲である。繊度が前記の範囲であれば、へたりにくく、かつ風合いも良好である。
【0031】
本発明の中綿構造体は、洗濯を繰り返しても長繊維束の動きは制限され、偏りが少なく、嵩も高い詰め物製品となる。なお、本発明の中綿構造体は、長繊維束とともに、その他の中綿を用いてもよい。羽毛、人工羽毛、短繊維綿と併用してもよい。
【0032】
以下図面を用いて説明する。各図面において、同一符号は同一部分を示す。
図1Aは本発明の一実施形態の積層中綿シート1の模式的斜視図、
図1Bは
図1AのI-I線断面図である。この積層中綿シート1は、長繊維糸が多数本長さ方向に配列された長繊維中綿層2の両表面に繊維シート層3a,3bが積層一体化されている。長繊維中綿層2は長繊維束2a,2b,2c…で構成されている。長繊維中綿2は単体であると、長繊維が様々な物体に引っ掛かりやすく、引っ掛かるとほつれてしまい取り扱い性が低下するが、長繊維中綿層2の両表面に繊維シート層3a,3bを積層一体化すると、取り扱い性が良好となり、既存の衣服製造工程に簡便に適用することができる。
【0033】
図2は本発明の一実施形態の積層中綿シートの製造装置10を示す模式的説明図である。この積層中綿シートの製造装置10は、巻糸体11から引き出された長繊維束12をガイドバー13とガイドパイプ14を通過させ、前ロール18a,18b、後ロール19a,19bの間を通過させる。前ロール18a,18b、後ロール19a,19bは加熱ロールである。
一方、ロール体15a,15bから引き出された繊維シート16a,16bは、ガイドバー17a,17b、前ロール18a,18b、後ロール19a,19bの間を通過させ、ガイドロール20上で長繊維束12の両表面に積層一体化させ、積層中綿シート21とする。
このようにして得られた積層中綿シート21はロール体22に巻き取る。
なお、前ロール(加熱ロール)18a,18bは、繊維シート16a,16bと長繊維束12に非接触が好ましい。また、後ロール(加熱ロール)19aと繊維シート16a,長繊維束12は非接触が好ましく,後ロール(加熱ロール)19bと繊維シート16b,長繊維束12は接触させるのが好ましい。これにより、長繊維束12と両表面の繊維シート16a,16bとは部分接着または点接着で接着できる。
長繊維束12はガイドバー13とガイドパイプ14を通過し、前方に送られる。ガイドパイプ14により長繊維束12は束状態を保ったまま前方に送られる。
15本の長繊維束12は幅方向に配列されて長繊維中綿を形成し、上方から繊維シート16aが供給される状態を示している。
一例として15本の長繊維束12は幅方向に配列されて長繊維中綿を形成し、両表面に繊維シート16a,16bが積層一体化されているが、長繊維束12の状態は確認できる。
【0034】
図3は本発明の別の実施形態の積層中綿シートの製造装置を示す模式的説明図、
図2と異なる点は、前ロール(加熱ロール)18aは、繊維シート16a,長繊維束12と接触し、後ロール(加熱ロール)19bと繊維シート16b,長繊維束12は接触させるのが好ましい。これにより、長繊維束12と両表面の繊維シート16a,16bとは部分接着または点接着で接着できる。
【0035】
図4は本発明のさらに別の実施形態の積層中綿シートの製造装置を示す模式的説明図、
図5は
図4の巻糸体付近の模式的要部拡大図である。
図2と異なる点は、巻糸体23,23a-23cに巻き取られている長繊維束24,24a-24cは広幅であり、巻糸体から引き出された長繊維束の数は少ない点、及びガイドパイプは使用していない点である。ガイドパイプの代わりにガイドプレートを配置してもよい。25はガイドバーである。なお、
図2及び
図3に示す糸巻体11は長繊維束12を端から順番に巻いて往復させてあるが、
図27及び
図5に示す糸巻体23,23a-23cは、長繊維束24,24a-24cを平行状に巻いてある。
【0036】
図6は本発明の一実施形態の長繊維糸(エアー交絡糸)30の側面図である。この長繊維糸30は、芯糸31と花糸32の構成繊維が互いに絡まっており、花糸32が開繊されて部分的にループ状繊維を形成している。
【0037】
図7は本発明の一実施形態の長繊維中綿製造装置33の模式的説明図である。巻き糸体34から芯糸34aを引き出し、巻き糸体35から花糸35aを引き出し、2個のフィードロール36、37と糸ガイド38を通過させてエアー交絡装置40に供給する。エアー交絡装置40に圧空ライン41から圧空を供給すると、糸道39内の繊維は開繊されたり旋回されることにより、互いに交絡する。42は長繊維糸(エアー交絡糸)である。芯糸の供給速度は10~200m/分、花糸の供給速度は20~10000m/分、巻き取り速度10~200m/分、空気圧力0.01~1.0MPaの交絡ノズルで混繊交絡処理を施した後、デリベリロール43通過後の糸を巻き糸体45に巻き取る。44はワインダーロールである。この方法は、糸の巻き取り速度を20~1500m/分と高速化でき、生産性が高いところに利点がある。巻き糸体45に巻き取る方法に変えて、ケンスに収納してもよい。
【0038】
得られた長繊維糸(エアー交絡糸)には、シリコーン樹脂を付与するのが好ましい。シリコーン樹脂としては、分子末端がハイドロジェン基(-OH)、ビニル基(-CH=CH2)等を有する反応性シリコーン処理剤を使用するのが好ましい。例えば、松本油脂製薬社製“TERON E 530”バルキーシリコン、“TERON E 731”、“TERON E 722”等のソフトシリコンを使用できる。付与量は、乾燥重量で詰め綿に対し0.1~10質量%付与するのが好ましい。次に熱処理工程において、140~190℃で1~10分間熱処理し、シリコーン樹脂をキュアリングする。
【実施例0039】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
(1)長繊維中綿
芯糸として、導電性繊維であるKBセーレン社製制電糸、繊度22decitex、フィラメン数3本及びポリエチレンテレフタレート(PET)フィラメント糸、繊度41decitex、フィラメント数18本を使用し、花糸としてPET中空フィラメント糸(中空率35%)、繊度39decitex、フィラメント数12本を使用し、
図7に示す方法で長繊維中綿を作製した。芯糸中の導電性繊維は約40質量%であった。長繊維中綿全体における導電性繊維の割合は約1.6質量%であった。
次にシリコーン樹脂付与工程では、上記長繊維糸を15本束状にして処理した。シリコーン樹脂としては、松本油脂製薬社製、商品名“テロン E-530”、10質量%、架橋剤として同社製、商品名“マーポテロン E-722”、0.5質量%を加えた水溶液を使用し、付与量は乾燥重量で長繊維糸に対し3.0wt%散布した。次に熱処理工程において、140~190℃で1~13分間熱処理し、シリコーン樹脂を熱キュアリング固定した。得られた長繊維糸15本の繊維束の質量は1.8g/mであった。この繊維束を糸巻体に巻き取った。
(2)繊維シート
繊維シートとして、サーマルボンド不織布、倉敷繊維加工社製、商品番号:TX-12を使用した。この不織布は、ナイロン70重量%の短繊維(繊度1.7decitex,繊維長51mm)、ポリエステル30重量%の短繊維(繊度1.6decitex,繊維長51mm)混紡品であり、ドット加工でポリエステル樹脂を塗布してある。ドット加工は、ロールにドット状の穴があり、ホットメルトパウダー(ポリエステル樹脂)を水に分散させた水溶液を塗布後、水を蒸発し、点状に付与したものである。ドット密度:900個/inch
2、塗布されたポリエステル樹脂の使用推奨温度:130℃、目付:27g/m
2、基布16g/m
2、ホットメルト11g/m
2である。サーマルボンド不織布の厚さは、0.11mmである。
(3)積層中綿シートの製造
図2~5に示す製造装置を用いて積層中綿シートを製造した。長繊維糸の束(1本1.8g/m)15本をそれぞれの糸巻体から引き出し、幅50cmに配列し、幅50cmのサーマルボンド不織布を両面に配置し、前ロール120℃(設定温度)、後ロール100℃(設定温度)とし、ガイドロール20上で長繊維束12の両表面に積層一体化させ、積層中綿シート21とし、ロール体22に巻き取った。得られた積層中綿シートの目付は81g/m
2、厚さは、12.3mmであった。測定は、ばらつきを減らすために、8.5cm×21.5cmの発泡スチロール板(重さ:4.9g) を積層中綿シートの上に載せ、その発泡スチロール板の下面の高さを2カ所測定し、その平均値を厚さとした。
【0041】
上記長繊維束(前記長繊維糸15本を1束としたもの)を15本、並行に、幅50cmになるように並べ厚さを測定した。厚さは16.3mmであった。測定は、ばらつきを減らすために、8.5cm×21.5cmの発泡スチロール板(重さ:4.9g) を長繊維束の上に載せ、その発泡スチロール板の下面の高さを2カ所測定し、その平均値を厚さとした。
【0042】
このようにして得られた積層中綿シートは、取り扱い性が良好で、既存の衣服製造工程に簡便に適用でき、嵩高性が高く、平坦性が良好であることが確認できた。
【0043】
(実施例2)
(1)長繊維中綿
実施例1と同じ長繊維糸を47本の繊維束とし、この繊維束を糸巻体に巻き取った。
(2)繊維シート
実施例1と同じサーマルボンド不織布を使用した。
(3)積層中綿シートの製造
図4及び
図5に示す製造装置を用いて積層中綿シートを製造した。長繊維糸の束(1本5.64g/m)3本をそれぞれの糸巻体から引き出し、幅50cmに配列し、幅50cmのサーマルボンド不織布を両面に配置し、前ロール120℃(設定温度)、後ロール100℃(設定温度)とし、ガイドロール20上で長繊維束12の両表面に積層一体化させ、積層中綿シート21とし、ロール体22に巻き取った。得られた積層中綿シートの目付は71g/m
2、厚さは、15.7mmであった。測定は実施例1と同様に行った。
【0044】
上記長繊維束(前記長繊維糸47本を1束としたもの)を3本、並行に、幅50cmになるように並べ厚さを測定した。厚さは21.2mmであった。測定は実施例1と同様に行った。
【0045】
このようにして得られた積層中綿シートは、取り扱い性が良好で、既存の衣服製造工程に簡便に適用でき、嵩高性が高く、平坦性が良好であることが確認できた。
【0046】
(実施例3)
繊維シートとしてサーマルボンド不織布に代えて、ガーゼ生地(目付30g/m2、厚さ1.0mm)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。
このようにして得られた積層中綿シートは、取り扱い性が良好で、既存の衣服製造工程に簡便に適用でき、嵩高性が高く、平坦性が良好であることが確認できた。
本発明の中綿構造体は、布団、毛布、寝袋、枕、クッション、座布団、椅子布団、マット、ぬいぐるみ、ひざ掛け、ジャケット、シャツ、パンツ、ベスト、コート、防寒衣料、作業着、ネックウォーマー又はこれらのパーツであるのが好ましい。