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2025-18809内臓脂肪蓄積抑制剤およびAKT活性化・ACC活性調節剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018809
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】内臓脂肪蓄積抑制剤およびAKT活性化・ACC活性調節剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/752 20060101AFI20250130BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20250130BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20250130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250130BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20250130BHJP
【FI】
A61K36/752 ZNA
A61K47/24
A61P3/04
A61P43/00 111
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122822
(22)【出願日】2023-07-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物(ACS Food Science & Technology,2022,2,9,1507-1516)にて令和4年9月6日に公開
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.Triton
(71)【出願人】
【識別番号】591193037
【氏名又は名称】辻製油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 和弘
(72)【発明者】
【氏名】早川 琢也
(72)【発明者】
【氏名】辻 威彦
(72)【発明者】
【氏名】臧 黎清
(72)【発明者】
【氏名】島田 康人
(72)【発明者】
【氏名】西村 訓弘
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD52
4B018ME01
4B018ME04
4B018MF01
4C076BB01
4C076CC21
4C076CC29
4C076DD63
4C088AB62
4C088AC04
4C088BA08
4C088CA09
4C088CA11
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA70
4C088ZC19
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】内臓脂肪の蓄積を抑制するのに有効な剤として、内臓脂肪蓄積抑制剤、AKT活性化剤、ACC活性調節剤などを提供することを目的とする。
【解決手段】本内臓脂肪蓄積抑制剤は、経口摂取により、内臓脂肪の蓄積を抑制する剤であって、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有し、また、レシチンを含有し、該レシチンにカボス果皮の抽出物が内包され、カボス果皮の抽出物100質量部に対して、レシチンを120質量部~500質量部含有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口摂取により、内臓脂肪の蓄積を抑制する内臓脂肪蓄積抑制剤であって、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする内臓脂肪蓄積抑制剤。
【請求項2】
前記内臓脂肪蓄積抑制剤は、レシチンを含有し、該レシチンに前記カボス果皮の抽出物が内包されることを特徴とする請求項1記載の内臓脂肪蓄積抑制剤。
【請求項3】
前記カボス果皮の抽出物100質量部に対して、前記レシチンを120質量部~500質量部含有することを特徴とする請求項2記載の内臓脂肪蓄積抑制剤。
【請求項4】
前記内臓脂肪が、腹腔内に蓄積した脂肪であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の内臓脂肪蓄積抑制剤。
【請求項5】
カボス果皮の抽出物を有効成分として含有することを特徴とするAKT活性化剤。
【請求項6】
カボス果皮の抽出物を有効成分として含有することを特徴とするACC活性調節剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内臓脂肪蓄積抑制剤、AKT活性化剤、およびACC活性調節剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肥満者は、世界中で増加しており、世界人口の約10%に相当するともいわれている。肥満は、深刻な健康問題であり、2型糖尿病、冠状動脈性心臓病、高血圧、癌などの多くの病気の危険因子である。過度にカロリー摂取量が増加すると、脂肪細胞は、トリアシルグリセロールの形でエネルギーを蓄積し、その結果、脂肪生成が促進され、脂肪組織の量が増加し、肥満となる。生活習慣病の予防には肥満の回避と改善が必要であり、近年、脂肪の生成を調節することに関する研究が行われている。
【0003】
ここで、前駆脂肪細胞3T3-L1細胞は、薬剤による刺激で効率よく脂肪細胞に分化する細胞であることから、脂肪細胞の分化から脂肪生成までのメカニズムに関する様々な研究に用いられている。そして、前駆脂肪細胞3T3-L1細胞を用いた研究により、薬物や天然成分が脂肪生成の促進または抑制を引き起こすことが種々報告されている。
【0004】
本出願人は、従来より、柑橘類の果皮の生理学的機能の研究を行っている。近年では、前駆脂肪細胞3T3-L1細胞を用いた研究において、カボス果皮の抽出物が脂肪細胞の脂肪滴蓄積を抑制したことを報告している(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1では、生体内(in vivo)での報告はなされておらず、また、作用メカニズムの報告もなされていない。
【0005】
ところで、柑橘類は、機能性に関わる成分として、ノビレチンなどのポリメトキシフラボン類(PMFs)を含むことが知られている。PMFsは、脂肪細胞の分化や生成に関わるとされており、具体的には、細胞内のホスホジエステラーゼE(PDE)の活性を阻害することで、細胞内の環状アデノシン一リン酸(cAMP)を過剰に増加させる。そして、cAMPがプロテインキナーゼA(PKA)に結合し、PKAが活性化されるとAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化して、その下流のアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)が調節され、脂肪分解系が促進され、脂肪生成・蓄積が抑制される。このように、PKA/AMPKシグナル伝達経路の活性化は、脂肪生成・蓄積を抑制する方法の一つと考えられている。
【0006】
また、肥満は内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満がある。内臓脂肪型肥満は、皮下脂肪型に比べて種々の生活習慣病の原因となりやすく、特に、生活習慣病の予防の観点では、内臓脂肪の蓄積を抑えることが重要であるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-183565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、内臓脂肪の蓄積を抑制するのに有効な剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、カボス果皮の抽出物を経口摂取することにより、特に内臓脂肪の蓄積が抑制されることを見出した。さらに、作用メカニズムについて検討したところ、肝臓組織においては、AKT活性化によるPI3K/AKTシグナル伝達経路の活性化が寄与していることを見出し、さらに白色脂肪組織(WAT)では、AMPKシグナルの下流に存在するACCがりん酸化を受けて活性化の調節がなされていることを見出した。従来、柑橘類に含まれるポリメトキシフラボン類(PMFs)によるPKA/AMPKシグナル伝達経路の活性化は報告されているが、今回、柑橘類によるPI3K/AKTシグナル伝達経路の活性化を新たに見出した。すなわち、本発明は下記の構成を有するものである。
【0010】
本発明の内臓脂肪蓄積抑制剤は、経口摂取により、内臓脂肪の蓄積を抑制する内臓脂肪蓄積抑制剤であって、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0011】
上記内臓脂肪蓄積抑制剤は、レシチンを含有し、該レシチンに上記カボス果皮の抽出物が内包されることを特徴とする。また、上記カボス果皮の抽出物100質量部に対して、上記レシチンを120質量部~500質量部含有することを特徴とする。
【0012】
上記内臓脂肪が、腹腔内に蓄積する脂肪であることを特徴とする。腹腔内に蓄積する脂肪とは脂肪肝を包含する概念である。
【0013】
本発明のAKT活性化剤は、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。この剤は、特に肝臓組織におけるAKTを活性化する作用を有する剤である。
【0014】
本発明のACC活性調節剤は、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。この剤の具体的態様として、白色脂肪組織におけるACCを活性化する作用を有する剤(ACC活性化剤)である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の内臓脂肪蓄積抑制剤、AKT活性化剤、およびACC活性調節剤は、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有するので、後述の実施例に示すように、皮下脂肪に比べて、特に内臓脂肪の蓄積を抑制する作用を示し、例えば、内臓脂肪型肥満の予防および/または改善に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ゼブラフィッシュ肥満誘発試験の結果を示す図である。
図2】高脂肪食誘導肥満マウスによる評価試験での体重などの変化を示す図である。
図3】マウスのマイクロCTスキャン画像および各脂肪量を示す図である。
図4】マウスの肝臓組織の解析画像などを示す図である。
図5】標的遺伝子を示す図である。
図6】肝臓組織での糖脂質代謝関連遺伝子の発現変化を示す図である。
図7】白色脂肪組織での糖脂質代謝関連遺伝子の発現変化を示す図である。
図8】肝臓組織の免疫蛍光染色を示す図である。
図9】白色脂肪組織の免疫蛍光染色を示す図である。
図10】Ampkたんぱく質の発現とそのリン酸化を示す図である。
図11】Accたんぱく質の発現とそのリン酸化を示す図である。
図12】Pkaたんぱく質の発現とそのリン酸化を示す図である。
図13】Aktたんぱく質の発現とそのリン酸化を示す図である。
図14】FoxO1たんぱく質の発現とそのリン酸化を示す図である。
図15】3T3-L1細胞の免疫蛍光染色などを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の内臓脂肪蓄積抑制剤は、カボス果皮の抽出物(単に、カボス抽出物ともいう)を有効成分として含有する。本発明において、「内臓脂肪蓄積抑制剤」とは、経口摂取により、内臓の周りに蓄積する脂肪(例えば腸管膜)を抑制する剤である。また、蓄積した内臓脂肪を低減させる作用を有してもよい。内臓脂肪は、皮膚と筋肉との間に蓄積する皮下脂肪とは区別される。
【0018】
また、本発明のAKT活性化剤は、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有する。AKT(プロテインキナーゼBとも称される)は、セリン/スレオニンキナーゼである。本発明において、「AKT活性化剤」は、AKTを活性化する作用を有する剤であり、特に内臓(例えば肝臓)でのAKTを活性化する。なお、AKTは、セリン473基(Ser473)、スレオニン308基(Thr308)のリン酸化によって活性化される。AKTの活性化によって、その下流に存在するたんぱく質や因子が影響を受けて、内臓脂肪の蓄積が抑制されると考えられる。
【0019】
一般に、解糖/糖新生に関与するシグナル伝達経路としては、インスリンシグナル伝達経路、PI3K/AKTシグナル伝達経路、PKA/AMPKシグナル伝達経路、グルカゴンシグナル伝達経路が知られている。今回の検討により、カボス抽出物は、特に、内臓でのAKTを活性化して、PI3K/AKTシグナル伝達経路を直接活性化させると考えられる。なお、カボス抽出物が、他の関連因子に働きかけ、他の伝達経路が直接または間接的に活性化などされてもよい。
【0020】
また、本発明のACC活性調節剤は、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有する。ACC活性調節作用は、例えば、AMPKを活性化することで発現される。AMPKが活性されることでPKA/AMPKシグナル伝達経路が直接活性化されて、その下流のACCが調節され、脂肪分解系が促進され、脂肪生成・蓄積の抑制に繋がる。例えば、ACCがリン酸化されると脂肪分解系が促進され、ACCがリン酸化されていない(脱リン酸化されている)と脂肪生成系に傾く。上記ACC活性調節剤は、ACCのリン酸化状態を維持する作用や、ACCのリン酸化を促進させる作用によって、脂肪分解系を促進させる。
【0021】
本発明の剤は、AKT活性化作用に加えて、ACC活性調節作用を有していてもよい。この場合、AKT活性化・ACC活性調節剤ともいえる。
【0022】
カボスは、ミカン科ミカン属の柑橘類であり、学名はCitrus sphaerocarpaである。カボスは、ユズの近縁種の果実であり、国内では主に大分県で生産される。本発明において、果皮とは、内果皮(アルベド)および外果皮(フラベド)を指し、果実から果肉部分、じょうのう膜、種子などを除いた部分である。カボス果皮としては、果汁の搾汁後に排出される搾汁滓を用いることが、資源の有効活用の面から好ましい。
【0023】
カボス果皮の抽出方法としては、有機溶媒抽出、有機溶媒と水との混合溶媒抽出、超臨界抽出などが挙げられる。有機溶媒としては、ノルマルヘキサン、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、1,1,2,2-テトラフルオロエタン、1,1,2-トリクロロエテン、ブタン、プロパンなどの非極性溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのプロトン性極性有機溶媒などが挙げられる。上記有機溶媒の中でも、所望の成分を効率的に抽出でき、また食品製造の観点から、ノルマルヘキサンを用いることが好ましい。カボス果皮の具体的な抽出方法は後述する。
【0024】
本発明に係るカボス抽出物は、後述の実施例に示すように、糖脂質代謝に関連する遺伝子の発現を促進または抑制する剤の有効成分としても用いることができる。例えば、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(PCK1)遺伝子発現促進剤としても用いることができる。
【0025】
本発明の各種剤は、経口摂取可能なものであれば、特にその剤型は限定されない。例えば、錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤などの剤型が挙げられる。
【0026】
本発明の各種剤中のカボス抽出物の配合量は、例えば、剤全量中、0.001質量%~20質量%であり、好ましくは0.01質量%~10質量%である。
【0027】
本発明の各種剤は、カボス抽出物以外の添加剤として、例えば、通常の食品や医薬品に使用される賦形剤、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0028】
上記添加剤としてはレシチンを含有することが好ましく、該レシチンはリポソームとして含まれることがより好ましい。カボス果皮の抽出物は、カボス果皮由来の油溶性物質を多く含んでおり、親油性を示す。このカボス抽出物をレシチンによってリポソーム化して内包させることで経口摂取でもカボス抽出物に含まれる油溶性物質を体内に効率的に吸収させることができる。
【0029】
ここで、レシチンとは各種リン脂質を主成分とする脂質混合物をさす。当該レシチンに含まれるリン脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルセリン(PS)などが挙げられる。レシチンとして、これらのリン脂質を主成分とする脂質混合物のいずれも用いることができる。レシチン中のホスファチジルコリン(PC)濃度は、例えば30質量%以上であり、50質量%以上が好ましい。なお、ホスファチジルコリン濃度の上限は、例えば75質量%である。
【0030】
レシチンは、植物種子や動物原料から得られ、リン脂質を主成分とするものであれば特に制限はなく用いることができ、例えば、大豆レシチン、なたねレシチン、卵黄レシチン、ヒマワリレシチンなどを用いることができる。また、レシチンとしては、油分を含むペースト状レシチン、ペースト状レシチンから油分を除去して乾燥した粉末レシチン、ペースト状レシチンおよび粉末レシチンを分別精製した分別レシチン、レシチンを酵素で分解した酵素分解レシチン(リゾレシチン)などを用いることができる。
【0031】
本発明の各種剤において、カボス抽出物に対するレシチンの含有量は特に限定されないが、カボス抽出物100質量部に対して、レシチンの含有量が、例えば10質量部~1000質量部であり、100質量部~1000質量部が好ましく、120質量部~500質量部であってもよい。
【0032】
本発明の各種剤の製造方法は、カボスの果皮を抽出して抽出物を得る抽出工程を有する。なお、原料に用いるカボスの果皮には、処理過程で混入し得る果肉や果汁などが含まれていてもよい。抽出工程は、例えば、カボスの果皮を非極性溶媒中で撹拌した後、所定温度で浸漬して行われる。浸漬時の温度は、特に限定されないが、20℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましい。また、非極性溶媒の量は、特に限定されないが、カボスの果皮に対して体積比で1~10倍量が好ましく、1~5倍量がより好ましい。
【0033】
例えば10分~2時間浸漬した後、遠心薄膜濃縮装置や減圧蒸留装置などを用いて、室温以下(例えば20℃以下)の温度で処理液から溶媒を除去して、油溶性物質を含む抽出物が得られる。
【0034】
得られたカボス抽出物を、各種剤としてそのまま用いることができる。また、適宜な溶媒に希釈して用いてもよく、さらに、粉末状としたり、ペースト状に調製したものを各種剤として用いてもよい。
【0035】
また、上記の抽出工程の前には、カボスの果皮を冷凍、粉砕して冷凍粉砕物を得る前処理を施すことが好ましい。例えば、カボスの果皮を搾汁後に冷凍する。冷凍温度としては-5℃以下の温度であり、好ましくは-10℃以下の温度である。なお、冷凍温度の下限は-30℃程度である。冷凍することにより、搾汁滓の変質や腐敗を防ぐことができる。その後、冷凍物を撹拌ミルなどで粉砕して冷凍粉砕物とする。粉砕後の大きさは5mm以下が好ましい。搾汁滓の場合、搾汁滓自身が繊維状態であるので、冷凍後、粉砕せずに抽出工程を行なってもよい。
【0036】
本発明では、抽出工程で得られたカボス抽出物に対して、更なる抽出工程や、夾雑物の除去工程などの後処理を施してもよい。
【0037】
本発明の各種剤は、日常的に脂肪食を多く摂取しているヒト(例えば健常者)やヒト以外の動物に用いることができる。
【0038】
本発明の各種剤は、経口摂取可能であり、任意の添加物などと組み合わせて、例えば、飲食品、食品添加物、医薬品、サプリメントなどの形態で使用することができる。例えば、内臓脂肪型肥満またはその傾向のあるヒトへ向けて内臓脂肪の蓄積の抑制や体重減少などを謳った、または表示した飲食品、食品添加物、またはサプリメントなどとしても使用可能である。
【0039】
本発明の各種剤を食品として用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品などが挙げられる。種々の形態の食品を調製するには、本発明の各種剤を単独で、または他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤などと適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例0040】
[1.カボス抽出物の調製]
原料として、カボスの果皮を用いた。カボス原料として、果汁を搾汁されたカボス果皮の搾り滓(含水率約80質量%)を準備した。この搾り滓60kgを-10℃以下に冷凍した。この冷凍原料に体積で約1~2倍量のノルマルヘキサン(抽出溶媒)を加え、撹拌して粉砕を行った後、0℃以下で15分間浸漬した。その後、ノルマルヘキサン溶液(層)を回収し、これを遠心薄膜濃縮装置および減圧蒸留装置を用いて、室温以下の温度でノルマルヘキサンを除去した。得られたカボス抽出物(CSP)は、カボス特有の揮発性成分を有する黄緑色で透明な油溶性液体であった。
【0041】
[2.ゼブラフィッシュ肥満誘発試験]
in vivoモデルとして、若年ゼブラフィッシュを用いたゼブラフィッシュ肥満誘発試験(ZOT)により、抗肥満性を評価した。以下の手順で実施した。
1:体長約10mm(30dpf)の魚を6ウェルプレートに5匹ずつ移し、1ウェルあたり5mlのHOを添加した。
2:高脂肪食としてゆで卵の卵黄3mgを添加し、28℃で24時間撹拌飼育した(150rpm)。
3:24時間後、内臓脂肪組織(VAT)をNile Redで染色し、蛍光顕微鏡でVATを観察し、画像を撮影した。
4-1:試験1:28℃、24時間無給餌で各サンプル処理(Control群、CSP10群:CSPを10μg/mLウェルに添加、CSP20群:CSPを20μg/mLウェルに添加)で飼育し、24時間後に、上記と同様に染色、観察および画像撮影を行い、上記と同様に画像を撮影した。
4-2:試験2:28℃、72時間無給餌で各サンプル処理(Control群、CSP10群:CSPを10μg/mLウェルに添加)で飼育し、24時間後および72時間後に、上記と同様に染色、観察および画像撮影を行い、上記と同様に画像を撮影した。
【0042】
若年ゼブラフィッシュにおいて、内臓脂肪組織はNile Redで赤く特異的に染色された。試験例1では高脂肪食摂取後および絶食24時間後に、試験例2では高脂肪食摂取後、絶食24時間後、および絶食72時間後に赤く染まった領域と強度を、ImageJソフトウェアで描画し、VAT量を数値化した。結果を画像とともに図1に示す。
【0043】
図1に示すように、試験1では、CSP10群において高脂肪食摂取による内臓脂肪組織を低減させる傾向を示し、CSP20群において内臓脂肪組織を有意に低減させた。特に、試験2では、試験1に比べてカボス抽出物が低濃度であるにもかかわらず、長時間処理することで内臓脂肪組織を一層低減させた。これにより、蓄積した内臓脂肪を低減させる作用が確認された。
【0044】
[3.高脂肪食誘導肥満マウスの試験]
(a)給餌試験における評価
in vivoモデルとして、高脂肪食誘導肥満マウス試験により、抗肥満性を評価した。試験には、8週齢のC57BL/6NCrSlc(B6)の雄のマウスを用いた。各群(n=5)の構成は、以下のとおりである。
【0045】
A群:通常食を与え、レシチン(ホスファチジルコリン含有量70質量%)を高圧ホモ乳化機によりマイクロエマルション製剤化させたものを0.2質量%、水に可溶させて6週間自由飲水させた[ND(-)]。
B群:通常食を与え、レシチン(ホスファチジルコリン含有量70質量%)を高圧ホモ乳化機によりマイクロエマルション製剤化し、カボス抽出物を内包させたもの(レシチン0.2質量%、カボス抽出物0.1質量%)を水に可溶させて6週間自由飲水させた[ND+0.1%CSP]。
C群:高脂肪食(High-fat Diet)を与え、レシチン(ホスファチジルコリン含有量70質量%)を高圧ホモ乳化機によりマイクロエマルション製剤化させたものを0.2質量%、水に可溶させて6週間自由飲水させた[HFD(-)]。
D群:高脂肪食を与え、レシチン(ホスファチジルコリン含有量70質量%)を高圧ホモ乳化機によりマイクロエマルション製剤化し、カボス抽出物を内包させたもの(レシチン0.2質量%、カボス抽出物0.1質量%)を水に可溶させて6週間自由飲水させた[HFD+0.1%CSP]。
【0046】
上記A群~D群のマウスを6週間飼育した。6週間経過後、体重、食餌摂取量、空腹時血糖値、血漿TAG、血漿T-CHOをそれぞれ測定した。結果を図2に示す。各棒グラフにおいて、右から順にA群~D群を示す(図3図4も同様)。
【0047】
図2に示すように、体重については、通常食(ND)のA群およびB群に比べて、高脂肪食(HFD)のC群およびD群では体重増加が見られた。更にC群およびD群の中では、カボス抽出物を高用量与えたD群は、カボス抽出物未摂取のC群に比べて、体重が有意に減少した。これは、高脂肪食摂取による内臓脂肪の増加が抑制されたためと考えられる。なお、食餌摂取量、空腹時血糖値、血漿TAG、血漿T-CHOについては、群間において特に有意な差は見られなかった。
【0048】
図3には、6週間経過後のマウスのマイクロCTスキャン画像(A群~D群)と、内臓脂肪、皮下脂肪の定量的解析を示す。図3(b)、(c)に示すように、高脂肪食摂取によって、内臓脂肪および皮下脂肪のいずれも増加していることが分かる(A群とC群との比較)。これに対して、カボス抽出物を摂取すること(D群)で、特に内臓脂肪において有意な減少が確認された(図3(b)参照)。すなわち、カボス抽出物によって、高脂肪食摂取による内臓脂肪の蓄積が、皮下脂肪に比べて抑制されたといえる。
【0049】
(b)Oil Red O染色による肝臓組織の解析
以下の手順でOil Red O染色を行い、肝臓組織の解析を行った。
1:肝臓組織を4%パラホルムアルデヒド溶液で4℃、24時間以上固定した。
2:固定後、10%、15%、20%sucrose/PBSに順次浸漬した。
3:組織マウントに浸し、液体窒素で冷却したイソペンタンで凍結した。
4:凍結切片用クライオスタットを用いて、-25℃で0.08mmにスライスした。
5:作製した試料を1日風乾した。
6:Oil Red O溶液で染色し、60%イソプロパノールで洗浄した。
7:次にヘマトキシリン/エオシン溶液で染色し、流水で洗浄した。
8:少し風乾し、水性マウント剤で標本にマウントした。
9:試料を顕微鏡で観察し、画像を撮影した。
【0050】
図4に撮影した画像と染色された部分を定量解析した結果を示す。図4に示すように、カボス抽出物を高用量摂取させたD群で、肝臓における脂肪蓄積の有意な減少が見られた。
【0051】
(c)糖脂質代謝に関連する遺伝子の発現変化の解析
以下の手順で、糖脂質代謝関連遺伝子の発現変化の解析を行った。解析に用いた組織は、肝臓組織と精巣上体の白色脂肪組織(eWAT)を用いた。
1:TRIzol試薬とRNeasy Lipid Tissue Mini Kitを用いて、肝臓組織または白色脂肪組織からtotal RNAを抽出した。
2:RNA濃度を測定後、ReverTra Ace qPCR RT Master Mixを用いて、ランダムプライマーにより、RNA 1ug量に相当するcDNAに逆転写した。
3:Power Up SYBR Green Master Mixを用い、Step One Plusシステムで定量PCRを実施した。各標的遺伝子(図5参照)につき、Forward primer、Reverse primerの各プライマーを用いた。
4:標的遺伝子を標準曲線法に基づき、検量線法による比較定量で解析した。
【0052】
各プライマーと配列番号の対応は以下の通りである。
Pparg遺伝子:Forward primer(配列番号1)、Reverse primer(配列番号2)
Fasn遺伝子:Forward primer(配列番号3)、Reverse primer(配列番号4)
Srebp1遺伝子:Forward primer(配列番号5)、Reverse primer(配列番号6)
Cebpa遺伝子:Forward primer(配列番号7)、Reverse primer(配列番号8)
Cebpb遺伝子:Forward primer(配列番号9)、Reverse primer(配列番号10)
Ppara遺伝子:Forward primer(配列番号11)、Reverse primer(配列番号12)
Acox1遺伝子:Forward primer(配列番号13)、Reverse primer(配列番号14)
Ppargc1a遺伝子:Forward primer(配列番号15)、Reverse primer(配列番号16)
Cpt1a遺伝子:Forward primer(配列番号17)、Reverse primer(配列番号18)
PI3K遺伝子:Forward primer(配列番号19)、Reverse primer(配列番号20)
Akt遺伝子:Forward primer(配列番号21)、Reverse primer(配列番号22)
FoxO1遺伝子:Forward primer(配列番号23)、Reverse primer(配列番号24)
Pck1遺伝子:Forward primer(配列番号25)、Reverse primer(配列番号26)
Prkaca遺伝子:Forward primer(配列番号27)、Reverse primer(配列番号28)
Prkaa1遺伝子:Forward primer(配列番号29)、Reverse primer(配列番号30)
Prkaa2遺伝子:Forward primer(配列番号31)、Reverse primer(配列番号32)
Acaca遺伝子:Forward primer(配列番号33)、Reverse primer(配列番号34)
Pde3b遺伝子:Forward primer(配列番号35)、Reverse primer(配列番号36)
Gapdh遺伝子:Forward primer(配列番号37)、Reverse primer(配列番号38)
【0053】
標的遺伝子は、脂質生成、脂肪分解、PI3K/AKTシグナル伝達経路、AMPK/ACCシグナル伝達経路に関わる遺伝子を用いた。図6には、肝臓組織における遺伝子の発現変化を示す。なお、各遺伝子において、右から順にA群、B群、C群、D群を示す(図7も同様)。図6に示すように、高脂肪食誘導肥満マウスにおいて、カボス抽出物の摂取(D群)により、Fasn遺伝子、Ppara遺伝子、Acox1遺伝子、Pck1遺伝子の発現が有意に促進される結果となり、脂質分解にかかわる遺伝子の発現上昇が見られた。すなわち、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有する剤は、肝臓組織における、Fasn遺伝子発現促進剤、Ppara遺伝子発現促進剤、Acox1遺伝子発現促進剤、Pck1遺伝子発現促進剤でもある。なお、肝臓組織において、Akt遺伝子の発現については変化がなかった。
【0054】
図7には白色脂肪組織(WAT)での結果を示す。図7に示すように、高脂肪食誘導肥満マウスにおいて、カボス抽出物の摂取(D群)により、Cebpa遺伝子、Cebpb遺伝子、Akt遺伝子、Pck1遺伝子、Prkaa1遺伝子、Prkaa2遺伝子の発現が有意に促進される結果となり、エネルギー調節や糖代謝にかかわる遺伝子の発現上昇が見られた。すなわち、カボス果皮の抽出物を有効成分として含有する剤は、白色脂肪組織における、Cebpa遺伝子発現促進剤、Cebpb遺伝子発現促進剤、Akt遺伝子発現促進剤、Pck1遺伝子発現促進剤、Prkaa1遺伝子発現促進剤、Prkaa2遺伝子発現促進剤でもある。特に、白色脂肪組織において、Akt遺伝子の発現は大幅に増加した。
【0055】
(d)免疫蛍光染色による脂質合成/分解に係る関連因子やたんぱく質の解析
以下の手順でまず標本作製を行った。
1:肝臓組織および白色脂肪組織を4%パラホルムアルデヒド溶液で4℃、24時間以上固定した。
2:固定後、1×TBSで洗浄し、液体パラフィンに一晩浸漬した。
3:パラフィン包埋試料をミクロトームで0.003mmにスライスし、組織標本とした。
4:作製した試料は、1日以上風乾した。
【0056】
作製した標本を用いて免疫蛍光染色を行った。
1:組織標本をキシレン、含水エタノール、水で順次脱パラフィンを行った。
2:抗原賦活用クエン酸緩衝液を加えて、圧力釜で3分間処理した。
3:10分後、組織標本を冷たい流水に10分間浸した。
4:抗原賦活後、0.025% TritonX-100/1×TBSで5分間、2回洗浄した。
5:ブロッキングバッファー(10% Normal goat serum/1% BSA/1×TBS)を用いて2時間インキュベートした(RT)。
6:ブロッキング後、検出用緩衝液(1% BSA/1×TBS)中で一次ポリクローナル抗体と4℃、一晩インキュベートした。
7:インキュベーション後、0.025% TritonX-100/1×TBSで5分間3回洗浄した。
8:次に、二次抗体としてAlexa Fluor 488コンジュゲートヤギ抗ウサギIgGを、検出バッファー(1%BSA/1×TBS)で60分間インキュベートした。
9:インキュベーション後、組織標本を0.025% TritonX-100/1×TBSで5分間、3回洗浄した。
10:核のカウンターステイン用DAPIを含む退色防止液で組織標本を密封した。
11:蛍光顕微鏡で組織標本を観察し、画像を撮影した。
【0057】
肝臓組織を免疫蛍光染色した画像の一例を図8に示し、白色脂肪組織を免疫蛍光染色した画像の一例を図9に示す。肝臓組織および白色脂肪組織のそれぞれにおいて、カボス抽出物処理による、Ampk、Acc、Pka、Akt、FoxO1たんぱく質の発現と、そのリン酸化を比較した。結果を図10図14に示す。なお、各図において、右から順にA群、B群、C群、D群を示す。
【0058】
肝臓組織においては、カボス抽出物処理によって、Ampkのリン酸化およびAktのリン酸化が促進される結果となった。すなわち、肝臓組織では、カボス抽出物によってAmpkおよびAktが活性化された。
【0059】
一方、白色脂肪組織においては、カボス抽出物処理によって、Ampkのリン酸化およびAktのリン酸化の促進は見られず、Accのリン酸化およびFoxO1のリン酸化が促進される結果となった。すなわち、白色脂肪組織では、カボス抽出物によってAccおよびFoxO1が活性調節を受けた。
【0060】
[4.in vitro評価]
以下の手順に従って行った。
1:24wellプレート(TPP)の底面にφ13mmの円形カバーガラスを敷き、その上に3T3-L1を播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて、コンフルエント(細胞密度が最大の状態)になるまで37℃、5%COに設定したインキュベーター培養した。
2:コンフルエントの状態を確認した後、培地を交換してさらに2日間培養した。
3:0.25μMのデキサメタゾン、500μMのIBMX、10μg/mLのインスリンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を調製し、これに培地交換することで分化誘導を開始した。
4:分化誘導後2日、4日、6日に5μg/mLのインスリンを含むDMEMで培地交換を行った。
5:分化誘導8日目に細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)/1×TBSを加え、室温で10分間固定した。
6:0.1% TritonX-100/1×TBSを加え、室温で10分間細胞膜透過処理を行った。
7:3%ウシ血清アルブミン(BSA)/1×TBSを加え、37℃で1時間ブロッキングを行った。
8:Acc、pAccに対する抗体を調製し、抗体溶液をサンプルに滴下後4℃で一晩インキュベートした。
9:0.05% Tween20/1×TBS(TBST)で5分間×3回振とう洗浄を行った。
10:1% BSA/1×TBSで調製したAlexaFluor 488ヤギ抗ウサギIgG溶液をサンプルに滴下後、37℃で1時間インキュベートした。
11:0.05% TBSTで5分間×3回振とう洗浄を行った。
12:TBSで1万倍希釈したHoechst33342溶液をサンプルに滴下し、室温で5分間インキュベートし、細胞核を染色した。
13:1×TBS、超純水でそれぞれ1回ずつ洗浄後、カバーガラスを剥がし、2.5% DABCO/90% glycerol/1×PBSでスライドガラスに封入した。
14:蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社製、CKX53)下で各たんぱく質を可視化して撮影した。
【0061】
[画像定量]
以下の手順に従って行った。
1:200倍で撮影した画像を各サンプル10枚ずつImageJソフトウェア(Ver.1.52u)でstackし、閾値を同一に設定した後、全ての画像の輝度の総和(Integrated density)を測定した。
2:得られた定量値を各画像中に存在する細胞数で割った値を使用し、各たんぱくについて定量比較した。
【0062】
3T3-L1細胞を免疫蛍光染色した画像およびその定量結果を図15に示す。3T3-L1細胞の薬剤誘導肥満モデルでは、Accのリン酸化が促進される結果となった。すなわち、3T3-L1細胞の評価結果は、白色脂肪組織(WAT)における同様な作用を示すと考えられる。
【0063】
以上の試験結果より、カボス抽出物の作用メカニズムは以下のように推察される。カボス抽出物は、特に肝臓組織においては、PI3K/AKTシグナル伝達経路におけるAKTを活性化する。AKTの活性化によって、例えばcAMP応答性エレメント結合たんぱく質(CREB)が活性化され、さらに下流のβ酸化を促進するカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)の発現を増加させる。また、白色脂肪組織ではPKA/AMPKシグナル伝達経路の活性化が引き起こされ、さらに、AMPKからのリン酸化によるACCの活性調節によりマロニルCoAの産生を減少させ、CPT1の発現の増加に繋がる。なお、カボス抽出物は、AMPKを活性化させる作用も有し、PKA/AMPKシグナル伝達経路の活性化、また、AMPKの下流であるACCの活性調節を直接作用させることも考えられる。
【0064】
さらに、AKTの活性化によりその下流に存在するFoxO1が不活性化され、糖脂質代謝に影響する遺伝子群の発現が制御される。すなわち、活性化したAKTによってリン酸化されたFoxO1は、核から細胞質に移行されるので核内で関連遺伝子のプロモーター配列に結合できず、遺伝子の発現を促進することができなくなると考えられる。
【0065】
カボス抽出物は、このような作用メカニズムによって、特に内臓脂肪の蓄積を抑制すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の内臓脂肪蓄積抑制剤は、カボス果皮の抽出物を含有することにより内臓脂肪の蓄積を抑制する作用を発揮するので、内臓脂肪型肥満の予防および/または改善などに有効に用いることができる。また、カボス果皮の抽出物は安全性も高く、例えば、食事とともに摂取する食品添加物やサプリメントなどとして有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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