(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018834
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】下地保護構造、躯体被覆構造、躯体および下地保護構造形成用セット
(51)【国際特許分類】
E04D 5/00 20060101AFI20250130BHJP
E04D 5/06 20060101ALI20250130BHJP
E04D 5/10 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
E04D5/00 D
E04D5/06 B
E04D5/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122885
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000223403
【氏名又は名称】住ベシート防水株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】神藤 寿雄
(72)【発明者】
【氏名】八木 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】別宮 浩之
(72)【発明者】
【氏名】森本 純平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴通
(72)【発明者】
【氏名】坂田 純平
(72)【発明者】
【氏名】大森 美樹
(57)【要約】
【課題】躯体に敷設される下地としての防水シート等に対して可塑剤を効率よく移行させることができる移行層を備え、かつ、この移行層への汚れの付着を長期に亘って抑制または防止することができる下地保護構造、かかる下地保護構造を備える躯体被覆構造、および、かかる下地保護構造を形成することができる下地保護構造形成用セットを提供すること。
【解決手段】本発明の下地保護構造301は、床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層1と、移行層1に積層された保護層3とを備えており、移行層1は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒と含有し、前記可塑剤を前記下地に移行するように構成され、保護層3は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒と含有し、可塑剤の含有量が移行層1よりも低く設定されている樹脂層31と、樹脂層31の厚さ方向の途中に位置して樹脂層31が収縮するのを規制する中間層(メッシュ層32)とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層と、該移行層に積層された保護層とを備える下地保護構造であって、
前記移行層は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒と含有し、前記可塑剤を前記下地に移行するように構成され、
前記保護層は、前記塩化ビニル系樹脂と前記可塑剤と前記溶媒と含有し、前記可塑剤の含有量が前記移行層よりも低く設定されている樹脂層と、該樹脂層の厚さ方向の途中に位置して前記樹脂層が収縮するのを規制する中間層とを備えることを特徴とする下地保護構造。
【請求項2】
前記中間層は、メッシュ状をなしているメッシュ層である請求項1に記載の下地保護構造。
【請求項3】
前記メッシュ層は、そのメッシュサイズが3メッシュ以上100メッシュ以下である請求項2に記載の下地保護構造。
【請求項4】
前記メッシュ層は、樹脂繊維が網目状に編まれたものである請求項3に記載の下地保護構造。
【請求項5】
前記メッシュ層は、前記樹脂繊維の網目が交わる交点における厚さが0.1mm以上1.5mm以下である請求項4に記載の下地保護構造。
【請求項6】
前記保護層は、その平均厚さが0.3mm以上5.0mm以下である請求項5に記載の下地保護構造。
【請求項7】
前記樹脂層は、前記溶媒を除く構成材料における、前記塩化ビニル系樹脂の含有量が25.0重量%以上80.0重量%以下である請求項1に記載の下地保護構造。
【請求項8】
前記樹脂層は、前記溶媒を除く構成材料における、前記可塑剤の含有量が5.0重量%以上50.0重量%以下である請求項1に記載の下地保護構造。
【請求項9】
前記下地は、防水シートである請求項1に記載の下地保護構造。
【請求項10】
請求項9に記載の下地保護構造と、前記下地とを有することを特徴とする躯体被覆構造。
【請求項11】
請求項10に記載の躯体被覆構造が設けられていることを特徴とする躯体。
【請求項12】
床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層と、
樹脂層と該樹脂層の厚さ方向の途中に位置するメッシュ層とを有し、前記移行層に積層された保護層とを備える下地保護構造における、
前記移行層を形成するために用いられる移行層形成用樹脂組成物と、前記樹脂層を形成するために用いられる樹脂層形成用樹脂組成物と、前記メッシュ層を形成するために用いられるメッシュとを有する下地保護構造形成用セットであり、
塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含む移行層形成用樹脂組成物を、前記下地の少なくとも一部に塗布して移行層形成塗布膜を形成し、
その後、前記移行層形成塗布膜に前記メッシュを配置させた状態で、前記塩化ビニル系樹脂と前記可塑剤と前記溶媒と含有し、前記可塑剤の含有量が前記移行層形成用樹脂組成物よりも低く設定されている前記樹脂層形成用樹脂組成物を前記移行層形成塗布膜に塗布して樹脂層形成塗布膜を形成した後に、前記移行層形成塗布膜および前記樹脂層形成塗布膜を乾燥させることで、前記移行層および前記保護層が形成されるように構成されていることを特徴とする下地保護構造形成用セット。
【請求項13】
前記樹脂層形成用樹脂組成物は、その前記溶媒の含有量が50.0重量%以上80.0重量%以下である請求項12に記載の下地保護構造形成用セット。
【請求項14】
前記樹脂層形成用樹脂組成物は、23℃における粘度が1,000mPa・s以上25,000mPa・s以下である請求項12に記載の下地保護構造形成用セット。
【請求項15】
前記樹脂層形成用樹脂組成物に含まれる前記溶媒は、混合溶媒であり、
最低の沸点を有す溶媒の沸点は、60℃以上であり、最高の沸点を有する溶媒の沸点は、165℃以下である請求項12に記載の下地保護構造形成用セット。
【請求項16】
前記樹脂層形成用樹脂組成物は、クリーム状をなしている請求項12または15に記載の下地保護構造形成用セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地保護構造、躯体被覆構造、躯体および下地保護構造形成用セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の高耐久化が求められるに伴って、多くの建築物の屋上やベランダ等の躯体において、樹脂シートを敷設施工したシート防水構造が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このシート防水構造では、例えば、屋上の床部と、床部の外縁に沿って立設して設けられた壁部との境界部に、この境界部の形状に対応して形成された、塩化ビニル系樹脂で被覆された鋼板(金属板)を配置し、この鋼板の少なくとも一部を、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する防水シートを用いて覆う構成となっており、これにより、屋上の境界部に対して防水が施される。
【0004】
ここで、防水が施工される屋上等の形状は、当然、様々である。そのため、前記鋼板としては、複数の種類の形状のものが予め用意され、実際に施工される屋上等の境界部の形状に合致するものが複数選択される。そして、これら鋼板は、前記境界部にその形状に対応して、隣接するもの同士に間隙が形成されるように並べられ、この状態で防水シートにより覆われる。
【0005】
このような構成のシート防水構造では、施工後に年月を経ると、日光や、雨水(泥水)に晒されることに起因して、防水シートから可塑剤が揮散し、その結果、防水シートの柔軟性が低下する。そのため、防水シートに応力が生じ、これにより、防水シートの防水性が低下する懸念が発生するという問題があった。
【0006】
この防水シートにおける応力の発生は、防水シートからの可塑剤の揮散によるため、例えば、特許文献2、3のように、防水シートに、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する移行用(保全補修用)シートを貼付することが提案されている。
【0007】
このように移行用シートを防水シートに貼付する構成とすることで、移行用シートに含まれる可塑剤を防水シートに移行(拡散)させることができるため、防水シートの柔軟性を優れたものに回復させることができる。その結果、防水シートにおける応力の発生を解消することができる。
【0008】
このように防水シートに、移行用シートを貼付する場合に限らず、防水シートに対して、可塑剤を効率よく移行させることができる、他の形態をなす構成のものの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-70877号公報
【特許文献2】特開平8-207157号公報
【特許文献3】特開2015-196947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、移行用シートに代えて、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒とを含有するクリーム状をなす移行層形成用樹脂組成物を塗布・乾燥させることで、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する移行層を防水シートに形成することが考えられるが、この場合、防水シートに移行させるのに十分量の可塑剤が移行層に含まれることに起因して、経時的に、移行層の表面に汚れが付着し、その見栄えが悪くなるという新たな問題が生じるのが実情であった。
【0011】
そのため、本発明の目的は、躯体に敷設される下地としての防水シート等に対して可塑剤を効率よく移行させることができる移行層を備え、かつ、この移行層への汚れの付着を長期に亘って抑制または防止することができる下地保護構造、かかる下地保護構造を備える躯体被覆構造、かかる躯体被覆構造が設けられた躯体および、かかる下地保護構造を形成することができる下地保護構造形成用セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的は、下記(1)~(16)に記載の本発明により達成される。
(1) 床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層と、該移行層に積層された保護層とを備える下地保護構造であって、
前記移行層は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒と含有し、前記可塑剤を前記下地に移行するように構成され、
前記保護層は、前記塩化ビニル系樹脂と前記可塑剤と前記溶媒と含有し、前記可塑剤の含有量が前記移行層よりも低く設定されている樹脂層と、該樹脂層の厚さ方向の途中に位置して前記樹脂層が収縮するのを規制する中間層とを備えることを特徴とする下地保護構造。
【0013】
(2) 前記中間層は、メッシュ状をなしているメッシュ層である上記(1)に記載の下地保護構造。
【0014】
(3) 前記メッシュ層は、そのメッシュサイズが3メッシュ以上100メッシュ以下である上記(2)または(3)に記載の下地保護構造。
【0015】
(4) 前記メッシュ層は、樹脂繊維が網目状に編まれたものである上記(3)に記載の下地保護構造。
【0016】
(5) 前記メッシュ層は、前記樹脂繊維の網目が交わる交点における厚さが0.1mm以上1.5mm以下である上記(4)に記載の下地保護構造。
【0017】
(6) 前記保護層は、その平均厚さが0.3mm以上5.0mm以下である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の下地保護構造。
【0018】
(7) 前記樹脂層は、前記溶媒を除く構成材料における、前記塩化ビニル系樹脂の含有量が25.0重量%以上80.0重量%以下である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の下地保護構造。
【0019】
(8) 前記樹脂層は、前記溶媒を除く構成材料における、前記可塑剤の含有量が5.0重量%以上50.0重量%以下である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の下地保護構造。
【0020】
(9) 前記下地は、防水シートである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の下地保護構造。
【0021】
(10) 上記(9)に記載の下地保護構造と、前記下地とを有することを特徴とする躯体被覆構造。
【0022】
(11) 上記(10)に記載の躯体被覆構造が設けられていることを特徴とする躯体。
【0023】
(12) 床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層と、
樹脂層と該樹脂層の厚さ方向の途中に位置するメッシュ層とを有し、前記移行層に積層された保護層とを備える下地保護構造における、
前記移行層を形成するために用いられる移行層形成用樹脂組成物と、前記樹脂層を形成するために用いられる樹脂層形成用樹脂組成物と、前記メッシュ層を形成するために用いられるメッシュとを有する下地保護構造形成用セットであり、
塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含む移行層形成用樹脂組成物を、前記下地の少なくとも一部に塗布して移行層形成塗布膜を形成し、
その後、前記移行層形成塗布膜に前記メッシュを配置させた状態で、前記塩化ビニル系樹脂と前記可塑剤と前記溶媒と含有し、前記可塑剤の含有量が前記移行層形成用樹脂組成物よりも低く設定されている前記樹脂層形成用樹脂組成物を前記移行層形成塗布膜に塗布して樹脂層形成塗布膜を形成した後に、前記移行層形成塗布膜および前記樹脂層形成塗布膜を乾燥させることで、前記移行層および前記保護層が形成されるように構成されていることを特徴とする下地保護構造形成用セット。
【0024】
(13) 前記樹脂層形成用樹脂組成物は、その前記溶媒の含有量が50.0重量%以上80.0重量%以下である上記(12)に記載の下地保護構造形成用セット。
【0025】
(14) 前記樹脂層形成用樹脂組成物は、23℃における粘度が1,000mPa・s以上25,000mPa・s以下である上記(12)または(13)に記載の下地保護構造形成用セット。
【0026】
(15) 前記樹脂層形成用樹脂組成物に含まれる前記溶媒は、混合溶媒であり、
最低の沸点を有す溶媒の沸点は、60℃以上であり、最高の沸点を有する溶媒の沸点は、165℃以下である上記(12)ないし(14)のいずれかに記載の下地保護構造形成用セット。
【0027】
(16) 前記樹脂層形成用樹脂組成物は、クリーム状をなしている上記(12)ないし(15)のいずれかに記載の下地保護構造形成用セット。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、下地保護構造が備える移行層から、躯体に敷設される下地としての防水シート等に対して可塑剤を効率よく移行させることができ、かつ、下地保護構造において、移行層に対して保護層が被覆されているため、この移行層への汚れの付着を長期に亘って抑制または防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】躯体に施工されたシート防水構造と、このシート防水構造が備える下地としての防水シートに形成された下地保護構造とを備える躯体被覆構造を部分的に取り出した部分斜視図である。
【
図2】
図1に示す躯体被覆構造のA-A線断面図である。
【
図3】
図2に示す躯体被覆構造の点線で囲まれた領域[B]に位置する下地保護構造の周辺を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の下地保護構造、躯体被覆構造、躯体および下地保護構造形成用セットを添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0031】
以下では、まず、下地としての防水シートを備えるシート防水構造に、本発明の下地保護構造が適用された躯体被覆構造(本発明の躯体被覆構造)について説明する。
【0032】
<躯体被覆構造>
図1は、躯体に施工されたシート防水構造と、このシート防水構造が備える下地としての防水シートに形成された下地保護構造とを備える躯体被覆構造を部分的に取り出した部分斜視図、
図2は、
図1に示す躯体被覆構造のA-A線断面図、
図3は、
図2に示す躯体被覆構造の点線で囲まれた領域[B]に位置する下地保護構造の周辺を拡大した拡大断面図である。なお、以下の説明では、
図1~
図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、
図1では、説明の便宜上、躯体被覆構造が備えるシート防水構造の全体を示すことなく、躯体が備える床部と壁部との境界部付近を部分的に図示している。
【0033】
躯体被覆構造500(本発明の躯体被覆構造)は、屋上やベランダのような躯体100(構造体)に施工された(設けられた)ものであり、シート防水構造10と、このシート防水構造10を、保全補修する下地保護構造301とを有している。
【0034】
躯体100は、本実施形態では、
図1に示すように、床部101と、この床部101の外縁を取り囲むように沿って立設して設けられた壁部102とを有している。
【0035】
シート防水構造10は、この躯体100、すなわち枠体をなす壁部102と、壁部102の底部を構成する床部101に対して施工されるものであり、防水シート20と、配置部材50とを有しており、これにより、躯体100に対する防水性が付与される。
【0036】
配置部材50は、床部101と壁部102との境界部103に沿って、複数のものが並んで配置され、この状態で、防水シート20は、隣接する配置部材50同士を跨ぐように覆っており、これにより、躯体100の境界部103における防水性が確保される。すなわち、躯体100の境界部103は、日光や雨水に晒されることで、ひび割れ等の亀裂が生じ易い位置であるが、この境界部103が日光や雨水に直接的に晒されることが防止されて、配置部材50および防水シート20が日光や雨水に晒されることになるため、躯体100の境界部103における防水性が確保される。
【0037】
配置部材50は、前述の通り、床部101と壁部102との境界部103付近に配置されるものである。
【0038】
この配置部材50は、表面が樹脂で被覆されている金属板(鋼板)からなり、
図1に示すように、底部51と、立ち上がり面52とを有している。
底部51は、床部101を臨む平面視で、4つの辺で囲まれた長方形状をなしている。
【0039】
また、立ち上がり面52は、底部51の縁部、すなわち4つの辺のうちの一方の長辺から立設しており、壁部102を臨む平面視で、底部51が備える長辺と同じ長さを有する長辺を備える、4つの辺で囲まれた長方形状をなしている。
【0040】
これら底部51および立ち上がり面52は、それぞれ、境界部103に配置する際に、床部101および壁部102に対応するように位置設定される。
【0041】
本実施形態では、境界部103に沿うように、上記の構成をなす2つの配置部材50(第1配置部材および第2配置部材)が、間隙55を形成した状態で並んで配置されている。
【0042】
なお、本実施形態では、同一形状をなしている2つの配置部材50が境界部103に配置されているが、防水が施工される躯体100の形状は、当然、様々であることから、配置部材50としては、複数の種類の形状のものが予め用意され、実際に施工される躯体100が備える境界部103の形状に合致するものが複数選択される。そして、これら配置部材50は、前記境界部103にその形状に対応するように、間隙55を形成した状態で並べられる。
【0043】
また、配置部材50は、前述の通り、表面が樹脂で被覆されている金属板で構成される。このように、樹脂で被覆することで、金属板の腐食を確実に防止することができる。
【0044】
金属板としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼板、鉄板のような鋼板、アルミ板、銅板等が挙げられるが、鋼板であるのが好ましい。これにより、配置部材50を優れた強度を有するものとし得る。
【0045】
また、金属板の厚さは、特に限定されないが、0.1mm以上3mm以下程度であるのが好ましく、0.3mm以上2.5mm以下程度であるのがより好ましい。
【0046】
樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、ポリ塩化ビニルであるのが好ましい。ポリ塩化ビニルは、溶剤溶着性や熱融着性に優れるため、金属板の腐食をより確実に防止することができる。
【0047】
また、樹脂により金属板を被覆する厚さは、特に限定されないが、0.03mm以上2mm以下程度であるのが好ましく、0.1mm以上0.7mm以下程度であるのがより好ましい。
【0048】
防水シート20は、
図1に示すように、シート状(板状)をなし、隣接して配置された2つの配置部材50(第1配置部材および第2配置部材)を、これら同士の間に形成された間隙55を包含した状態で覆うものである。
【0049】
これにより、境界部103が日光や雨水に直接的に晒されることが防止されて、配置部材50および防水シート20が日光や雨水に晒されることになるため、躯体100の境界部103における防水性が確保される。
【0050】
このような防水シート20は、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する塩化ビニル系樹脂シートで構成される。このような構成の防水シート20によれば、防水シート20を加熱した状態で貼り合わせることにより、2つの配置部材50を、間隙55を跨いだ状態で防水シート20により覆うことができる。
【0051】
また、防水シート20の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上5mm以下程度であるのが好ましく、0.3mm以上2mm以下程度であるのがより好ましい。これにより、配置部材50とともに床部101と壁部102とを、防水シート20により確実に覆うことができる。
【0052】
ここで、以上のような構成のシート防水構造10では、施工後に年月を経ると、日光や、雨水に晒されることにより、防水シート20から可塑剤が揮散する。そのため、防水シート20の柔軟性が低下することにより、防水シート20に防水シート20の劣化にともなう応力が生じることがある。
【0053】
そのため、本実施形態のような構成をなすシート防水構造10では、隣接する配置部材50同士の間に間隙55が形成され、防水シート20が配置部材50に接合されていないことに起因して、防水シート20に生じた応力により、防水シート20に、床部101の反対側に向かって突出する半球状をなす凸部が生じたり、ひび割れ等が発生し、その結果、この間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20の防水性が低下してしまう懸念が発生することがある。
【0054】
したがって、間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20に揮散した可塑剤を再度供給することができれば、防水シート20の柔軟性を優れたものに回復させることができる。そのため、防水シート20における応力の発生を解消し得ることから、間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20の防水性が低下するのを的確に抑制または防止することができる。
【0055】
そこで、本発明では、
図1~
図3に示すように、シート防水構造10が備える、可塑剤の揮散が認められる防水シート20、すなわち間隙55に対応する位置の防水シート20に、可塑剤を供給することを目的に、移行層1と保護層3とを備える下地保護構造301が形成されている。
【0056】
このように、間隙55に対応する位置の防水シート20に、下地保護構造301を形成することで、この下地保護構造301が備える移行層1から、間隙55に対応する位置の防水シート20に効率よく可塑剤を移行させることができる。そのため、防水シート20の柔軟性を回復させることができる。したがって、防水シート20における応力の発生を解消して、間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20の防水性が低下するのを的確に抑制または防止することができる。
【0057】
この下地保護構造301は、間隙55に対応する位置の防水シート20上に接合して設けられた(積層された)移行層1と、この移行層1の防水シート20とは反対側に積層された保護層3とを有する積層体で構成される。
【0058】
移行層1は、後述する移行層形成用樹脂組成物を用いて形成されたものであり、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒と含有し、上記の通り、間隙55に対応する位置の防水シート20上に接合して設けられることで、この移行層1に含まれる可塑剤が下地としての防水シート20に効率よく移行し得るように構成されている。
【0059】
この移行層1は、溶媒を除く構成材料における、塩化ビニル系樹脂の含有量が好ましくは1.0重量%以上25.0重量%以下、より好ましくは5.0重量%以上15.0重量%以下に設定され、溶媒を除く構成材料における、可塑剤の含有量が好ましくは40.0重量%以上90.0重量%以下、より好ましくは65.0重量%以上80.0重量%以下に設定されている。これにより、移行層1に含まれる可塑剤を、下地としての防水シート20に効率よく、かつ長期に亘って移行させることができるようになる。
【0060】
また、移行層1は、その平均厚さが1mm以上7mm以下であることが好ましく、3mm以上5mm以下であることがより好ましい。これにより、下地としての防水シート20に可塑剤を移行させる移行層1としての機能を、確実に発揮させることができる。なお、この移行層1の平均厚さは、移行層形成用樹脂組成物を用いて形成した直後の平均厚さのことを言い、移行層1の厚さは、移行層形成用樹脂組成物に由来して移行層1に残存する溶媒の乾燥に伴い薄くなることになるが、前記形成の直後における移行層1の厚さを1としたとき、溶媒が乾燥した後における移行層1の厚さは、0.5以上0.9以下であることが好ましい。これにより、移行層1が薄くなること、すなわち移行層1が収縮することに伴い、下地保護構造301の見栄えに変化が生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0061】
保護層3は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒と含有し、可塑剤の含有量が移行層1よりも低く設定されている樹脂層31と、この樹脂層31の厚さ方向の途中に位置して樹脂層31が収縮するのを規制する中間層とを備えている。なお、本実施形態では、この中間層が、メッシュ状をなしているメッシュ層32で構成される場合を一例に説明する。
【0062】
かかる構成をなす保護層3が、移行層1を被覆するように、移行層1に積層されている。そのため、下地保護構造301において、可塑剤の含有量が移行層1よりも低く設定されている樹脂層31が最外層として露出している。ここで、例えば、可塑剤を高い含有量で含む移行層1が最外層として露出していると、このことに起因して、比較的早期に汚れが付着するという問題が生じるが、本発明では、この移行層1を被覆し、かつ、最外層として樹脂層31が露出するように、この樹脂層31を備える保護層3が形成されている。そのため、下地保護構造301における汚れの付着を、長期に亘って的確に抑制または防止することができる。また、日光や、雨水等に晒されることにより移行層1の可塑剤が揮散等で減少することを、長期に亘って的確に抑制または防止することができる。
【0063】
さらに、保護層3は、樹脂層31の厚さ方向の途中に位置して設けられたメッシュ層32を備えている。そのため、移行層1上に、後述する樹脂層形成用樹脂組成物を用いて、樹脂層31を形成する際に、この樹脂層31が収縮することに起因して、樹脂層31の表面にシワが生じるのを的確に抑制または防止することができる。したがって、樹脂層31(保護層3)の見栄えの低下を招くのを的確に抑制または防止することができる。また、下地保護構造301および防水シート20を補強し、間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20の防水性が低下するのを的確に抑制または防止することができる。
【0064】
この保護層3において樹脂層31は、後述する移行層形成用樹脂組成物を用いて形成されたものであり、可塑剤の含有量が移行層1よりも低く設定されるが、具体的には、溶媒を除く構成材料における、可塑剤の含有量が好ましくは5.0重量%以上50.0重量%以下、より好ましくは10.0重量%以上45.0重量%以下に設定され、また、溶媒を除く構成材料における、塩化ビニル系樹脂の含有量が好ましくは25.0重量%以上80.0重量%以下、より好ましくは35.0重量%以上70.0重量%以下に設定されている。これにより、下地保護構造301において最外層として露出する、樹脂層31における汚れの付着を、長期に亘ってより的確に抑制または防止することができる。
【0065】
また、樹脂層31は、その平均厚さが0.3mm以上5.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上3.0mm以下であることがより好ましい。これにより、樹脂層31に、汚れの付着を防止する最外層としての機能を、確実に発揮させることができる。なお、樹脂層31の厚さは、樹脂層31のの厚さ方向の途中に位置するメッシュ層32の厚さを含む厚さのことを言う。したがって、保護層3の総厚と同一の厚さのことを言う。また、この樹脂層31の平均厚さは、樹脂層形成用樹脂組成物を用いて形成した直後の平均厚さのことを言い、樹脂層31の厚さは、樹脂層形成用樹脂組成物に由来して樹脂層31に残存する溶媒の揮発に伴い薄くなることになるが、前記形成の直後における樹脂層31の厚さを1としたとき、0.1以上0.4以下であることが好ましい。これにより、樹脂層31が薄くなること、すなわち樹脂層31が収縮することに伴い、下地保護構造301の見栄えに変化が生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0066】
また、メッシュ層32は、保護層3において、樹脂層31の厚さ方向の途中に位置して設けられたメッシュで構成されるものである。このようなメッシュ層32が、樹脂層31の厚さ方向の途中に位置することで、移行層1上に、後述する樹脂層形成用樹脂組成物を用いて、樹脂層31を形成する際に、この樹脂層31が収縮するのを抑制または防止する規制層として機能するため、樹脂層31の表面にシワが生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0067】
なお、本明細書において、保護層3において、メッシュ層32が樹脂層31の厚さ方向の途中に位置するとは、樹脂層31の移行層1とは反対側の表面においてメッシュ層32が露出しておらず、かつ、移行層1側において、樹脂層31がメッシュ層32を通過し、その少なくとも一部が移行層1に接合している状態であることも含むこととする。
【0068】
このメッシュ層32は、そのメッシュサイズが3メッシュ以上100メッシュ以下であることが好ましく、5メッシュ以上60メッシュ以下であることがより好ましい。これにより、移行層1上に、後述する樹脂層形成用樹脂組成物とメッシュとを用いて、保護層3を形成する際に、メッシュが備える網目に、樹脂層形成用樹脂組成物を通過させて、樹脂層31の厚さ方向の途中に、メッシュ層32を配置させた状態で、樹脂層31を確実に形成することができる。
【0069】
また、メッシュ層32は、その厚さ方向に貫通する貫通孔を複数有することで、網目構造を備えるものであれば、いかなる構成をなすものであってもよいが、樹脂繊維が縦糸および横糸として網目状に編まれたものであることが好ましい。これにより、所望の大きさの網目構造を有するメッシュ、すなわち所望のメッシュサイズのメッシュを、比較的容易に用意することができる。また、樹脂層形成用樹脂組成物を用いて樹脂層31(保護層3)を形成する際に、樹脂層形成用樹脂組成物を樹脂繊維に浸潤させた状態で樹脂層31を形成することができる。そのため、樹脂層31とメッシュ層32との密着強度の向上を図ることができる。
【0070】
樹脂繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
また、メッシュ層32は、メッシュを樹脂繊維が網目状に編まれたものとする場合、樹脂繊維の網目が交わる交点における厚さが0.1mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。これにより、メッシュ層32に、樹脂層31が収縮するのを抑制または防止する規制層としての機能を確実に発揮させ得ることから、樹脂層31の表面にシワが生じるのをより的確に抑制または防止することができる。また、下地保護構造301および防水シート20を補強し、間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20の防水性が低下するのをより的確に抑制または防止することができる。
【0072】
なお、本実施形態では、中間層がメッシュ層32で構成される場合について説明したが、中間層は、樹脂層31の厚さ方向の途中に位置して、樹脂層31の収縮を規制し得るものであれば、メッシュ層32である場合に限定されず、例えば、シート状または平板状をなすシート層または平板層等であってもよい。
【0073】
また、本実施形態のように、中間層をメッシュ層32で構成することにより、メッシュ層32(中間層)が樹脂層31との優れた密着性を発揮するため、樹脂層31が収縮することに起因して、樹脂層31の表面にシワが生じるのをより的確に抑制または防止することができる。したがって、樹脂層31(保護層3)の見栄えの低下を招くのをより的確に抑制または防止することができる。さらに、中間層としてメッシュ層32を備える保護層3は、移行層1との密着性も良好であるため、下地保護構造301および防水シート20の補強を図ることができる。そのため、間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20の防水性が低下するのをより的確に抑制または防止することができるという効果が得られる。
【0074】
かかる構成をなす、移行層1と保護層3とを有する積層体からなる下地保護構造301は、移行層1を形成するために用いられる移行層形成用樹脂組成物と、保護層3が備える樹脂層31を形成するために用いられる樹脂層形成用樹脂組成物と、保護層3が備えるメッシュ層32を形成するために用いられるメッシュとを有する下地保護構造形成用セットを用いて、例えば、以下のようにして形成することができる。
【0075】
すなわち下地保護構造301の形成は、移行層形成用樹脂組成物を、前記下地としての防水シート20の少なくとも間隙55に対応する位置に塗布して移行層形成塗布膜を形成する移行層形成塗布膜形成工程と、この移行層形成塗布膜上にメッシュを配置させた状態で、樹脂層形成用樹脂組成物を移行層形成塗布膜に塗布して樹脂層形成塗布膜を形成する樹脂層形成塗布膜形成工程と、これら移行層形成塗布膜および樹脂層形成塗布膜を乾燥させることで、移行層1と、樹脂層31の厚さ方向の途中にメッシュ層32が設けられた保護層3とを形成する移行層・保護層形成工程とを経ることで、実施することができる。上記のような、移行層形成塗布膜形成工程と樹脂層形成塗布膜形成工程と、移行層・保護層形成工程とを経るという、比較的簡単な工程により、下地保護構造301の形成を行うことができる。
【0076】
以下、シート防水構造10に対する、下地保護構造301の形成に用いられる、移行層形成用樹脂組成物および樹脂層形成用樹脂組成物について、順次説明する。
【0077】
<移行層形成用樹脂組成物>
移行層形成用樹脂組成物は、可塑剤を防水シート20に対して移行させる移行層1の形成に用いられ、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含むものである。
【0078】
この移行層形成用樹脂組成物は、移行層形成用樹脂組成物に含まれる塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーター(SP値)をA[(cal/cm3)1/2]とし、移行層形成用樹脂組成物に含まれる溶媒の溶解パラメーターをB[(cal/cm3)1/2]としたとき、これらの差の絶対値|A-B|は、|A-B|≦2.0なる関係を満足するものであることが好ましい。
【0079】
塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターAと溶媒の溶解パラメーターBとの差の絶対値|A-B|を前記範囲内に設定することにより、塩化ビニル系樹脂を溶媒中に優れた溶解性をもって溶解させることができる。そのため、移行層形成用樹脂組成物を、クリーム状(ペースト状)をなすものとし得る。したがって、移行層形成用樹脂組成物を、防水シート20に塗布した後に乾燥させるという工程を経ることで、間隙55に対応する位置の防水シート20に対して確実に移行層1を形成することができる。そして、この移行層1から、移行層形成用樹脂組成物に含まれる可塑剤を、防水シート20に効率よく移行させることができるため、防水シート20の柔軟性を確実に回復させることができる。
【0080】
なお、本明細書における溶解パラメーター(SP値)は、ハンセン(Hansen)溶解パラメーターを表し、このハンセン(Hansen)溶解パラメーターは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解パラメーターを、分散項δD,極性項δP,および水素結合項δHの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。
【0081】
分散項δDは、分散力による効果、極性項δPは、双極子間力による効果、さらに水素結合項δHは、水素結合力による効果を示す。
δD: 分子間の分散力に由来するエネルギー
δP: 分子間の極性力に由来するエネルギー
δH: 分子間の水素結合力に由来するエネルギー
で表すことができる(なお、それぞれの単位はMPa0.5である。)。
【0082】
ヒルデブランド(Hildebrand)のSP値と、ハンセン(Hansen)のHSPの間には、以下に示す関係が認められる。
ヒルデブランドのSP2=δD2+δP2+δH2
【0083】
また、HSPの定義と計算は、Charles M.Hansen著、Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook(CRCプレス,2007年)に記載されている。
【0084】
ここで、それぞれ、分散項はファンデルワールス力、極性項はダイポール・モーメント、水素結合項は水、アルコールなどによる作用を反映している。また、HSPによるベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断できる。
【0085】
HSP距離(Ra)は、例えば、溶質(塩化ビニル系樹脂)のHSPを(δD1,δP1,δH1)とし、溶媒のHSPを(δD2,δP2,δH2)としたとき、下記の式により算出することができる。
【0086】
HSP距離(Ra)=
{4×(δD1-δD2)2+(δP1-δP2)2+(δH1-δH2)2}0.5
【0087】
また、混合溶媒のハンセンのHSPは、混合比率として体積を用いて、下記の式により算出することができる。
【0088】
[δDm,δPm,δHm]=
[(a×(δD1+b×δD2),(a×(δP1+b×δP2),(a×(δH1+b×δH2)]/(a+b)
【0089】
以下、かかる構成をなす、移行層形成用樹脂組成物に含まれる各種構成材料について説明する。移行層形成用樹脂組成物は、前述の通り、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含有する。
【0090】
(a)塩化ビニル系樹脂
塩化ビニル系樹脂は、移行層形成用樹脂組成物を防水シート20に塗布した後に乾燥させた際に、その乾燥物すなわち移行層1を、層状をなすものとするために、移行層形成用樹脂組成物の主材料として、移行層形成用樹脂組成物中に含まれるものである。
【0091】
この塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルを含む重合体、すなわちオリゴマー、プレポリマーおよびポリマーであれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニルの単量重合体、または塩化ビニルと、酢酸ビニル、エチレン、もしくはプロピレン等との共重合体、およびこれらの2種以上の重合体の混合物等が挙げられる。これらのものを塩化ビニル系樹脂として用いることにより、移行層形成用樹脂組成物を用いて形成された移行層1から、移行層1中に含まれる可塑剤を、防水シート20側に確実に移行させることができるようになる。また、塩化ビニル系樹脂は、これらの中でも、特に、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。これにより、移行層形成用樹脂組成物における、塩化ビニル系樹脂の溶解性の向上を図ることができるとともに、塩化ビニル系樹脂の高粘度化を図ることができる。さらに、形成される移行層1中での、可塑剤の保持性を向上させることができる。
【0092】
この塩化ビニル系樹脂は、その溶解パラメーターAが9.0(cal/cm3)1/2以上11.0(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、9.5(cal/cm3)1/2以上10.5(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましい。これにより、差の絶対値|A-B|を、|A-B|≦2.0なる関係を満足するものに、比較的容易に設定することができる。
【0093】
また、移行層形成用樹脂組成物における塩化ビニル系樹脂の含有量は、3重量%以上20重量%以下であることが好ましく、5重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。塩化ビニル系樹脂の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物を用いて、層状をなす移行層1を、確実に形成することができる。また、移行層形成用樹脂組成物を用いて形成された移行層1から、移行層1中に含まれる可塑剤を、防水シート20側に確実に移行させることができる。
【0094】
(b)可塑剤
可塑剤は、移行層形成用樹脂組成物を防水シート20に塗布した後に乾燥させることで形成された移行層1から、防水シート20に移行させるものとして含有されるものである。
【0095】
この可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、DOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、DIBP(ジイソブチルフタレート)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DHP(ジヘプチルフタレート)、ジアルキル(C9~C11)フタレートのようなフタル酸エステル系可塑剤、DOA(ジ-2-エチルヘキシルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート)、DOS(ジ-2-エチルヘキシルセバセート)のような脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、エチレングリコールのベンゾエート類のような芳香族カルボン酸エステル系可塑剤、およびTOTM(トリオクチルトリメリテート)のようなトリメリット酸エステル系可塑剤、エチレン酢酸ビニル共重合体系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのものを可塑剤として用いることで、可塑剤が移行層1から防水シート20に移行した際に、低下した防水シート20の柔軟性を確実に再度向上させることができる。
【0096】
この可塑剤は、その溶解パラメーター(SP値)が、8.0(cal/cm3)1/2以上10.0(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、8.5(cal/cm3)1/2以上9.5(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましい。これにより、移行層形成用樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂ばかりでなく可塑剤をも、溶媒中に優れた溶解性をもって溶解させることができる。
【0097】
また、移行層形成用樹脂組成物における可塑剤の含有量は、20重量%以上65重量%以下であることが好ましく、30重量%以上55重量%以下であることがより好ましい。可塑剤の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物を用いて形成された移行層1中から防水シート20側に可塑剤を、確実に移行させることができる。
【0098】
(c)溶媒
溶媒は、移行層形成用樹脂組成物に含有し、塩化ビニル系樹脂を溶解することで、移行層形成用樹脂組成物をクリーム状(ペースト状)とするために含有されるものである。
【0099】
この溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n-ヘキサン、トルエン、o-キシレンのような炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンのようなケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸イソブチルのようなエステル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)のようなエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノールのようなアルコール系溶媒が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのものを溶媒として用いることで、移行層形成用樹脂組成物中において、塩化ビニル系樹脂を溶解させて、移行層形成用樹脂組成物を、クリーム状(ペースト状)をなすものとし得る。
【0100】
この溶媒は、その溶解パラメーターBが、7.5(cal/cm3)1/2以上10.5(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、8.5(cal/cm3)1/2以上9.5(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましい。これにより、差の絶対値|A-B|を、|A-B|≦2.0なる関係を満足するものに、比較的容易に設定することができ、かつ、移行層形成用樹脂組成物を乾燥させることで得られる移行層1を、防水シート20に対して適度な密着性を発揮するものとして形成することができる。
【0101】
また、溶媒は、混合溶媒であり、最低の沸点を有する溶媒の沸点が好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上85℃以下であり、最高の沸点を有する溶媒の沸点が好ましくは135℃以下、より好ましくは85℃以下130℃以下であるものが選択される。これにより、移行層形成用樹脂組成物を乾燥させる前には、移行層形成用樹脂組成物をより確実にクリーム状をなすものとすることができ、かつ、移行層形成用樹脂組成物を乾燥させることで得られる移行層1を、防水シート20に対して優れた密着性を発揮するものとして形成することができる。
【0102】
以上のような溶解パラメーターBおよび混合溶媒の沸点の関係を考慮すると、溶媒の具体的な組み合わせとしては、例えば、トルエン、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチルのうちの少なくとも1種と、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチルのうちの少なくとも1種との組み合わせが挙げられ、環境への安全性を考慮すると、酢酸イソブチルと、酢酸エチル、テトラヒドロフランのうちの少なくとも1種との組み合わせが挙げられる。
【0103】
また、移行層形成用樹脂組成物における溶媒の含有量は、15重量%以上45重量%以下であることが好ましく、25重量%以上35重量%以下であることがより好ましい。溶媒の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物中に、塩化ビニル系樹脂を溶解させることができる。また、移行層形成用樹脂組成物を用いて、層状をなす移行層1を、確実に形成することができる。
【0104】
(d)粘度調整剤
また、移行層形成用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および溶媒の他に、さらに、粘度調整剤を含有することが好ましい。
【0105】
移行層形成用樹脂組成物に粘度調整剤が含まれることで、移行層形成用樹脂組成物の粘度を適切な範囲内に設定して、移行層形成用樹脂組成物を、確実にクリーム状をなすものとし得る。
【0106】
この粘度調整剤としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、炭酸カルシウムであることが好ましい。これにより、移行層形成用樹脂組成物の高粘度化を確実に図ることができる。
【0107】
また、粘度調整剤は、粒子状をなし、その平均粒径が0.5μm以上20μm以下であることが好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。平均粒径を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物中における粘度調整剤の分散性の向上を図ることができる。
【0108】
また、移行層形成用樹脂組成物における粘度調整剤の含有量は、5重量%以上20重量%以下であることが好ましく、10重量%以上15重量%以下であることがより好ましい。粘度調整剤の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物の粘度を比較的容易に適切な範囲内に設定することができる。
【0109】
さらに、移行層形成用樹脂組成物には、上述した各構成材料の他、安定剤、安定助剤、紫外線吸収剤、着色剤、滑剤等を添加するようにしてもよい。
【0110】
なお、安定剤としては、例えば、グリシン亜鉛等が挙げられ、この場合の安定助剤としては、例えば、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリキシリル(TXP)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸2-エチルヘキシル・ジフェニルのような有機リン酸エステル等が挙げられる。
【0111】
このような移行層形成用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターAと、溶媒の溶解パラメーターBとの差の絶対値|A-B|が、|A-B|≦2.0なる関係を満足するのが好ましいが、1.0≦|A-B|≦1.5なる関係を満足するのがよりに好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂を溶媒中により優れた溶解性をもって溶解させることができるため、移行層形成用樹脂組成物を、より優れたクリーム状をなすものとすることができ、さらに塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターAと溶媒の溶解パラメーターBの差が小さすぎないため、移行層1と防水シート20との剥離を比較的容易に実施することが可能となる。
【0112】
また、移行層形成用樹脂組成物を、クリーム状をなすものとしたとき、移行層形成用樹脂組成物の23℃における粘度は、5,000mP・s以上20,000mPa・s以下であることが好ましく、10,000mPa・s以上15,000mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、移行層形成用樹脂組成物の防水シート20に対する供給を、比較的容易に実施することが可能となり、間隙55に対応する位置の防水シート20に、より均一な厚さに設定された移行層1を成膜することができる。
【0113】
<樹脂層形成用樹脂組成物>
樹脂層形成用樹脂組成物は、保護層3が備え、移行層1を被覆する樹脂層31の形成に用いられ、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含み、可塑剤の含有量が移行層形成用樹脂組成物よりも低く設定されているものである。
【0114】
この樹脂層形成用樹脂組成物は、樹脂層形成用樹脂組成物に含まれる塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーター(SP値)をC[(cal/cm3)1/2]とし、樹脂層形成用樹脂組成物に含まれる溶媒の溶解パラメーターをD[(cal/cm3)1/2]としたとき、これらの差の絶対値|C-D|は、|C-D|≦2.0なる関係を満足するものであることが好ましい。
【0115】
塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターCと溶媒の溶解パラメーターDとの差の絶対値|C-D|を前記範囲内に設定することにより、塩化ビニル系樹脂を溶媒中に優れた溶解性をもって溶解させることができる。そのため、樹脂層形成用樹脂組成物を、クリーム状(ペースト状)をなすものとし得る。したがって、樹脂層形成用樹脂組成物を、メッシュが載置された移行層1に塗布した後に乾燥させるという工程を経ることで、移行層1に対して確実に樹脂層31(保護層3)を形成することができる。
【0116】
以下、かかる構成をなす、樹脂層形成用樹脂組成物に含まれる各種構成材料について説明する。樹脂層形成用樹脂組成物は、前述の通り、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含有し、可塑剤の含有量が移行層形成用樹脂組成物よりも低く設定されている。
【0117】
(a)塩化ビニル系樹脂
塩化ビニル系樹脂は、樹脂層形成用樹脂組成物を、メッシュが載置された移行層1に塗布した後に乾燥させた際に、その乾燥物すなわち樹脂層31を、層状をなすものとするために、樹脂層形成用樹脂組成物の主材料として、樹脂層形成用樹脂組成物中に含まれるものである。
【0118】
この塩化ビニル系樹脂としては、例えば、前述した移行層形成用樹脂組成物中に含まれるものとして挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0119】
この塩化ビニル系樹脂は、その溶解パラメーターCが9.0(cal/cm3)1/2以上11.0(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、9.5(cal/cm3)1/2以上10.5(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましい。これにより、差の絶対値|C-D|を、|C-D|≦2.0なる関係を満足するものに、比較的容易に設定することができる。
【0120】
また、樹脂層形成用樹脂組成物における塩化ビニル系樹脂の含有量は、3重量%以上20重量%以下であることが好ましく、10重量%以上15重量%以下であることがより好ましい。塩化ビニル系樹脂の含有量を前記範囲内に設定することにより、樹脂層形成用樹脂組成物を用いて、層状をなす樹脂層31を、確実に形成することができる。
【0121】
(b)可塑剤
可塑剤は、樹脂層形成用樹脂組成物を、メッシュが載置された移行層1に塗布した後に乾燥させることで形成された樹脂層31に柔軟性を付与させるものとして含有されるものである。
【0122】
この可塑剤としては、例えば、前述した移行層形成用樹脂組成物中に含まれるものとして挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0123】
この可塑剤は、その溶解パラメーター(SP値)が、8.0(cal/cm3)1/2以上10.0(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、8.5(cal/cm3)1/2以上9.5(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましい。これにより、樹脂層形成用樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂ばかりでなく可塑剤をも、溶媒中に優れた溶解性をもって溶解させることができる。
【0124】
また、樹脂層形成用樹脂組成物における可塑剤の含有量は、1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、3重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。可塑剤の含有量を前記範囲内に設定することにより、樹脂層形成用樹脂組成物を用いて形成された樹脂層31に求められる柔軟性を、確実に付与することができる。
【0125】
(c)溶媒
溶媒は、樹脂層形成用樹脂組成物に含有され、塩化ビニル系樹脂を溶解することで、樹脂層形成用樹脂組成物をクリーム状(ペースト状)とするために含有されるものである。
【0126】
この溶媒としては、例えば、前述した移行層形成用樹脂組成物中に含まれるものとして挙げたものと同様のものを用いることができる。これにより、樹脂層形成用樹脂組成物中において、塩化ビニル系樹脂を溶解させて、樹脂層形成用樹脂組成物を、クリーム状(ペースト状)をなすものとし得る。
【0127】
この溶媒は、その溶解パラメーターDが、7.5(cal/cm3)1/2以上10.5(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、8.5(cal/cm3)1/2以上10.0(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましい。これにより、差の絶対値|C-D|を、|C-D|≦2.0なる関係を満足するものに、比較的容易に設定することができ、かつ、樹脂層形成用樹脂組成物を乾燥させることで得られる樹脂層31を、移行層1に対して適度な密着性を発揮するものとして形成することができる。
【0128】
また、溶媒は、混合溶媒であり、最低の沸点を有する溶媒の沸点が好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上85℃以下であり、最高の沸点を有する溶媒の沸点が好ましくは165℃以下、より好ましくは90℃以上160℃以下であるものが選択される。これにより、樹脂層形成用樹脂組成物を乾燥させる前には、樹脂層形成用樹脂組成物をより確実にクリーム状をなすものとすることができ、かつ、樹脂層形成用樹脂組成物を乾燥させることで得られる樹脂層31を、移行層1に対して優れた密着性を発揮するものとして形成することができる。
【0129】
以上のような溶解パラメーターDおよび混合溶媒の沸点の関係を考慮すると、溶媒の具体的な組み合わせとしては、例えば、シクロヘキサノン、キシレンのうちの少なくとも1種と、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランのうちの少なくとも1種との組み合わせが挙げられ、環境への安全性を考慮すると、シクロヘキサノンと、テトラヒドロフランとの組み合わせが挙げられる。
【0130】
また、樹脂層形成用樹脂組成物における溶媒の含有量は、50.0重量%以上80.0重量%以下であることが好ましく、65.0重量%以上70.0重量%以下であることがより好ましい。溶媒の含有量を前記範囲内に設定することにより、樹脂層形成用樹脂組成物中に、塩化ビニル系樹脂を溶解させることができる。また、樹脂層形成用樹脂組成物を用いて、層状をなし、かつ、その厚さ方向の途中にメッシュ層32が位置する樹脂層31を、確実に形成することができる。
【0131】
(d)粘度調整剤
また、樹脂層形成用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および溶媒の他に、さらに、粘度調整剤を含有することが好ましい。
【0132】
樹脂層形成用樹脂組成物に粘度調整剤が含まれることで、樹脂層形成用樹脂組成物の粘度を適切な範囲内に設定して、樹脂層形成用樹脂組成物を、確実にクリーム状をなすものとし得る。
【0133】
この粘度調整剤としては、例えば、前述した移行層形成用樹脂組成物中に含まれるものとして挙げたものと同様のものを用いることができる。これにより、樹脂層形成用樹脂組成物の高粘度化を確実に図ることができる。
【0134】
また、樹脂層形成用樹脂組成物における粘度調整剤の含有量は、1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、3重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。粘度調整剤の含有量を前記範囲内に設定することにより、樹脂層形成用樹脂組成物の粘度を比較的容易に適切な範囲内に設定することができる。
【0135】
さらに、樹脂層形成用樹脂組成物には、上述した各構成材料の他、安定剤、安定助剤、紫外線吸収剤、着色剤、滑剤等を添加するようにしてもよい。
【0136】
このような樹脂層形成用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターCと、溶媒の溶解パラメーターDとの差の絶対値|C-D|が、|C-D|≦2.0なる関係を満足するのが好ましいが、1.0≦|C-D|≦1.5なる関係を満足するのがより好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂を溶媒中により優れた溶解性をもって溶解させることができるため、樹脂層形成用樹脂組成物を、より優れたクリーム状をなすものとし得る。
【0137】
また、樹脂層形成用樹脂組成物を、クリーム状をなすものとしたとき、樹脂層形成用樹脂組成物の23℃における粘度は、1,000mPa・s以上25,000mPa・s以下であることが好ましく、2,500mPa・s以上25,000mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、樹脂層形成用樹脂組成物のメッシュが載置された移行層1に対する供給を、比較的容易に実施することが可能となり、移行層1に、より均一な厚さに設定された樹脂層31を成膜することができる。また、樹脂層形成用樹脂組成物を、移行層1上に載置されたメッシュを、円滑に通過させることができるため、樹脂層31の厚さ方向の途中にメッシュ層32が位置する保護層3を確実に形成することができる。
【0138】
なお、本実施形態では、下地保護構造301を、シート防水構造10が備える下地としての防水シート20に設ける場合について説明したが、この下地としては防水シート20に限定されず、例えば、塗膜防水等であってもよい。
【0139】
以上、本発明の下地保護構造、躯体被覆構造、躯体および下地保護構造形成用セットについて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0140】
例えば、本発明の下地保護構造および躯体被覆構造において、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
【0141】
また、本発明の下地保護構造において、前記実施形態では、移行層と保護層とは、
図1、
図2に示した通り、厚さ方向に直交する直交方向における形状および大きさが互いにほぼ一致するものとして記載したが、この場合に限定されず、保護層は、移行層に対して大きいものが用意され、移行層を被覆したときに、保護層の縁部が、移行層の縁部を越えて、防水シートに接合されている形態をなしているものであってもよい。下地保護構造をかかる形態をなすものとすることで、移行層の縁部を越えた保護層の縁部が防水シートに接合されることから、樹脂層形成用樹脂組成物を用いて、樹脂層を形成する際に、この樹脂層が収縮するのをより的確に抑制または防止することができる。また、樹脂層形成用樹脂組成物を用いて形成される樹脂層の止水性により、間隙に対応する位置の防水シートにおいて、防水シートの防水性が低下するのをより的確に抑制または防止することができる。
【実施例0142】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0143】
1.原材料の準備
まず、下地保護構造の形成に用いた原材料を以下に示す。
【0144】
(塩化ビニル系樹脂)
塩化ビニル系樹脂として、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(東ソー社製、「リューロンベスト952」、SP値:10.4(cal/cm3)1/2)を用意した。
【0145】
(可塑剤)
可塑剤として、DINP(ジェイプラス社製、SP値:8.9(cal/cm3)1/2)を用意した。
【0146】
(溶媒)
溶媒として、THF(三菱ケミカル社製、沸点:66℃、SP値:9.5(cal/cm3)1/2)、トルエン(三菱ケミカル社製、沸点:111℃、SP値:8.9(cal/cm3)1/2)、シクロヘキサノン(関東化学社製、沸点:156℃、SP値:9.9(cal/cm3)1/2))を用意した。
【0147】
(粘度調整剤)
粘度調整剤として、炭酸カルシウム(備北粉化工業社製、「ソフトン2200」、平均粒径:1μm)を用意した。
【0148】
(安定剤)
安定剤として、Ca-Zn系液状安定剤(ADEKA社製、「SC-32」)を用意した。
【0149】
(着色剤)
着色剤として、酸化チタン(石原産業社製、「R-680」)、カーボンブラック(三菱ケミカル社製、「三菱カーボンブラック#45」)を用意した。
【0150】
(メッシュ層)
メッシュとして、ポリエステル繊維(塩化ビニル被覆)で構成され、メッシュサイズが20メッシュであるもの(平岡織染社製、「#2039」、交点厚さ:0.4mm、質量:170g/m2)を用意した。
【0151】
(シート層)
シート層として、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(三菱ケミカル社製、「ダイヤホイル」、厚み:0.25mm)を用意した。
【0152】
(平板層)
平板層として、アルミニウム板(日本製鉄社製、「NSA1C」、厚み:0.5mm)を用意した。
【0153】
2.移行層形成用樹脂組成物の調製
まず、塩化ビニル系樹脂としての塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(9.0重量%)と、可塑剤としてのDINP(36.0重量%)と、粘度調整剤としての炭酸カルシウム(14.0重量%)と、溶媒としてのトルエン(17.0重量%)およびTHF(19.0重量%)と、前記安定剤(4.0重量%)と、前記着色剤(1.0重量%)とを、ミキサーを用いて25℃で均一に混合することで、移行層形成用樹脂組成物を調製した。
【0154】
なお、移行層形成用樹脂組成物の23℃における粘度は、回転数を20rpmとして回転粘度計(トキメック社製、「B形粘度計」)を用いて測定した。
【0155】
3.樹脂層形成用樹脂組成物の調製
[サンプルNo.1]
まず、塩化ビニル系樹脂としての塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(14.0重量%)と、可塑剤としてのDINP(7.0重量%)と、粘度調整剤としての炭酸カルシウム(7.0重量%)と、溶媒としてのシクロヘキサノン(16.25重量%)およびTHF(48.75重量%)と、前記安定剤(3.5重量%)と、前記着色剤(3.5重量%)とを、ミキサーを用いて25℃で均一に混合することで、実施例1の樹脂層形成用樹脂組成物を調製した。
【0156】
なお、樹脂層形成用樹脂組成物の23℃における粘度は、回転数を20rpmとして回転粘度計(トキメック社製、「B形粘度計」)を用いて測定した。
【0157】
[サンプルNo.2~5]
移行層形成用樹脂組成物に含まれる溶媒の含有量を、表1に示すように変更したこと以外は、前記サンプルNo.1と同様にして、サンプルNo.2~5の移行層形成用樹脂組成物を調製した。
【0158】
3.下地保護構造301の防水シート20への形成
(実施例1)
移行層形成用樹脂組成物、中間層としてのメッシュ、および、サンプルNo.1の樹脂層形成用樹脂組成物を用いて、防水シート20に対して、実施例1の下地保護構造301を形成した。
【0159】
より詳しくは、防水シート20を用意し、この防水シート20に対して、移行層形成用樹脂組成物を塗布することで移行層形成塗布膜を形成した。した後に、防水シート20を被覆する、平均厚さ2mmの移行層1を成膜した。
【0160】
次いで、この移行層形成塗布膜上にメッシュを配置させた状態で、サンプルNo.1の樹脂層形成用樹脂組成物を移行層形成塗布膜のほぼ全面に移行層形成塗布膜の形状に対応して塗布することで、樹脂層形成塗布膜を形成した。
【0161】
次いで、防水シート20に積層された移行層形成塗布膜および樹脂層形成塗布膜を乾燥させることで、防水シート20を被覆する平均厚さ2mmの移行層1と、樹脂層31の厚さ方向の途中にメッシュ層32が設けられた平均厚さ2mmの保護層3とを、防水シート20上にこの順で成膜することで、防水シート20上に実施例1の下地保護構造301を得た。
【0162】
なお、防水シート20としては、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して可塑剤が50重量部含まれるものを用いた。
【0163】
(実施例2~4)
下地保護構造301を形成に用いる、中間層の種類および樹脂層形成用樹脂組成物のサンプルNo.のうちの少なくとも一方を、表1に示すように変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして、それぞれ、防水シート20に対して、実施例2~4の下地保護構造301を形成した。
【0164】
(比較例1~4)
保護層3における中間層の形成を省略したこと以外は、前記実施例1~4と同様にして、それぞれ、防水シート20に対して、比較例1~4の下地保護構造を形成した。
【0165】
(比較例5)
下地保護構造301の形成に用いる、樹脂層形成用樹脂組成物をサンプルNo.5のものを用い、さらに、保護層3における中間層の形成を省略したこと以外は、前記実施例1と同様にして、防水シート20に対して、比較例5の下地保護構造301を形成した。
【0166】
(比較例6)
移行層1を被覆する保護層3の形成を省略したこと以外は、前記実施例1と同様にして、防水シート20に対して、比較例6の下地保護構造を形成した。
【0167】
4.評価
防水シート20上に形成された各実施例および各比較例の下地保護構造301について、以下の方法を用いて、それぞれ、評価した。
【0168】
<保護層3の表面におけるシワの発生の低減効果>
防水シート20上に形成された各実施例および各比較例の下地保護構造301について、保護層3(樹脂層31)の表面におけるシワの発生の有無を、保護層3の形成6ケ月後において、目視にて観察し、その低減効果を、以下に示す評価基準に基づいて評価した。
【0169】
なお、保護層3の形成後、各実施例および各比較例の下地保護構造301について、秋(10月)開始とした6ケ月の間、屋外に暴露した。
【0170】
[評価基準]
保護層3の表面におけるシワの発生が
◎:認められない
○:若干認められるが、保護層3の表面の見栄えの低下が生じているとは言えない
×:明らかに認められ、保護層3の表面の見栄えが悪い
【0171】
<保護層3の表面におけるメッシュの露出の低減効果>
防水シート20上に形成された各実施例および各比較例の下地保護構造301について、保護層3(樹脂層31)の表面におけるメッシュの露出の有無を、保護層3の形成直後において、目視にて観察し、その低減効果を、以下に示す評価基準に基づいて評価した。
【0172】
[評価基準]
保護層3の表面におけるメッシュの露出が
◎:認められない
○:若干認められるが、保護層3の表面の見栄えの低下が生じているとは言えない
×:明らかに認められ、保護層3の表面の見栄えが悪い
【0173】
<保護層3の表面における汚れの付着の低減効果>
防水シート20上に形成された各実施例および各比較例の下地保護構造301について、下地保護構造301の最表面、すなわち、保護層3(樹脂層31)の表面における汚れの付着の有無を、保護層3の形成6ケ月後において、目視にて観察し、その低減効果を、以下に示す評価基準に基づいて評価した。
【0174】
なお、保護層3の形成後、各実施例および各比較例の下地保護構造301について、秋(10月)開始とした6ケ月の間、屋外に暴露した。
【0175】
[評価基準]
保護層3の表面における汚れの付着が
◎:認められない
○:若干認められるが、保護層3の表面の見栄えの低下が生じているとは言えない
×:明らかに認められ、保護層3の表面の見栄えが悪い
以上のようにして得られた、各評価における評価結果を表1に示す。
【0176】
【0177】
表1に示すように、各実施例では、移行層を被覆する保護層は、樹脂層の厚さ方向の途中に位置する中間層を備える構成をなしており、これにより、保護層の表面におけるシワの発生およびメッシュの露出を低減しつつ、保護層の表面における汚れの付着を抑制して、防水シートに対して可塑剤を移行層から効率よく移行させ得ると言える結果が得られた。
【0178】
これに対して、比較例1~5では、保護層は、樹脂層の厚さ方向の途中に位置する中間層の形成が省略されており、その結果、保護層の表面において、シワが発生し、その見栄えが低下する結果を示した。また、比較例6では、保護層の形成が省略されており、その結果、移行層の表面において、汚れが付着し、その見栄えが低下する結果を示した。