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特開2025-18968燃料集合体の損傷判定方法および損傷判定装置
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  • 特開-燃料集合体の損傷判定方法および損傷判定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018968
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】燃料集合体の損傷判定方法および損傷判定装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/07 20060101AFI20250130BHJP
   G21C 17/06 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
G21C17/07 200
G21C17/07 900
G21C17/07 100
G21C17/06 040
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024111604
(22)【出願日】2024-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2023121733
(32)【優先日】2023-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】丸山 優一郎
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕士
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075AA17
2G075CA38
2G075DA16
2G075EA01
2G075FB04
2G075FC19
(57)【要約】
【課題】燃料集合体単位で検査を行うことができ、FPの検出が不可能な検査対象に対しても損傷の有無を判定できる燃料集合体の損傷判定技術を提供する。
【解決手段】複数本の燃料棒が収納された原子燃料の燃料集合体の損傷の有無を判定する燃料集合体の損傷判定方法であって、検査対象の燃料集合体を密閉容器内において、燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧より高い圧力のトレーサガスの雰囲気内に所定の時間置いた後、トレーサガスを取り除いた雰囲気内に所定時間放置し、放置後、雰囲気内のトレーサガスの有無を調査し、トレーサガスが検出されたときには損傷有りと判定し、検出されなかったときには損傷無しと判定する、あるいは、放置開始直後と放置終了後に雰囲気中のトレーサガスの濃度を測定し、放置後の濃度が、放置開始直後より高いときには損傷有りと判定し、放置開始直後以下の時には損傷無しと判定する燃料集合体の損傷判定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の燃料棒が収納された原子燃料の燃料集合体の損傷の有無を判定する燃料集合体の損傷判定方法であって、
検査対象の燃料集合体を密閉容器内において、燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧より高い圧力のトレーサガスの雰囲気内に所定の時間置いた後、前記トレーサガスを取り除いた雰囲気内に所定時間放置し、
放置後、雰囲気内のトレーサガスの有無を調査し、トレーサガスが検出されたときには損傷有りと判定し、検出されなかったときには損傷無しと判定する、
あるいは、放置開始直後と放置終了後に雰囲気中のトレーサガスの濃度を測定し、放置後の濃度が、放置開始直後より高いときには損傷有りと判定し、放置開始直後以下の時には損傷無しと判定する燃料集合体の損傷判定方法。
【請求項2】
前記燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧が、前記密閉容器内において前記燃料集合体がトレーサガスの雰囲気内に置かれる前の前記燃料集合体の周囲の圧力と同じ圧力であることを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体の損傷判定方法。
【請求項3】
検査対象の燃料集合体を密閉可能な容器内に格納する燃料集合体格納工程と、
燃料集合体を格納後、容器内にトレーサガスを充填し、容器内を燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧より高い圧力のトレーサガス雰囲気とするトレーサガス充填工程と、
トレーサガス充填後、所定時間放置するトレーサガス雰囲気内放置工程と、
トレーサガス雰囲気内で放置後、容器内のトレーサガスを排気し、容器内の雰囲気をトレーサガスを含まない非トレーサガス雰囲気とするガス置換工程と、
非トレーサガス雰囲気に置換後、所定時間放置する非トレーサガス雰囲気内放置工程とを備え、
非トレーサガス雰囲気内放置後の非トレーサガス雰囲気中のトレーサガスの有無を調査する、
あるいは、非トレーサガス雰囲気内放置開始直後と非トレーサガス雰囲気内放置終了後に非トレーサガス雰囲気中のトレーサガス濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体の損傷判定方法。
【請求項4】
前記燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧が、前記容器内にトレーサガスを充填する前における前記容器内の圧力と同じ圧力であることを特徴とする請求項3に記載の燃料集合体の損傷判定方法。
【請求項5】
検査対象の燃料集合体を密閉可能な第一容器内に格納する燃料集合体格納工程と、
格納後、第一容器内にトレーサガスを充填し、第一容器内を燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧より高い圧力のトレーサガス雰囲気とするトレーサガス充填工程と、
トレーサガス充填後、所定時間放置するトレーサガス雰囲気内放置工程と、
トレーサガス雰囲気内で放置後、燃料集合体を第二容器に移設し、第二容器内の雰囲気をトレーサガスを含まない非トレーサガス雰囲気とする燃料集合体移設工程と、
移設後、所定時間放置する非トレーサガス雰囲気内放置工程とを備え、
非トレーサガス雰囲気内放置後の非トレーサガス雰囲気中のトレーサガスの有無を調査する、
あるいは、非トレーサガス雰囲気内放置開始直後と非トレーサガス雰囲気内放置終了後に非トレーサガス雰囲気中のトレーサガス濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体の損傷判定方法。
【請求項6】
前記燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧が、前記第一容器内にトレーサガスを充填する前における前記第一容器内の圧力と同じ圧力であることを特徴とする請求項5に記載の燃料集合体の損傷判定方法。
【請求項7】
前記トレーサガス充填工程の前に、前記容器内または前記第一容器内を減圧することを特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれか1項に記載の燃料集合体の損傷判定方法。
【請求項8】
前記トレーサガスにHeガスを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の燃料集合体の損傷判定方法。
【請求項9】
前記非トレーサガスにNガスを用いることを特徴とする請求項8に記載の燃料集合体の損傷判定方法。
【請求項10】
複数本の燃料棒を有する原子燃料の燃料集合体の損傷の有無を判定する燃料集合体の損傷判定装置であって、
密閉可能で、前記燃料集合体を格納する容器と、前記容器にそれぞれ通気管で連結されたトレースガス供給手段、非トレーサガス供給手段および排気手段と、前記容器と通水管で連結された排水手段と、それぞれの前記通気管を開閉する弁、および通水管を開閉する弁と、前記トレーサガス供給手段に敷設され、トレーサガスを加圧する加圧手段と、前記容器に連結されたトレーサガス検知器とを備えていることを特徴とする燃料集合体の損傷判定装置。
【請求項11】
複数本の燃料棒を有する原子燃料の燃料集合体の損傷の有無を判定する燃料集合体の損傷判定装置であって、
密閉可能で、前記燃料集合体を格納する容器と、前記容器にそれぞれ通気管で連結されたトレーサガス供給手段、非トレーサガス供給手段および排気手段と、前記容器と通水管で連結された排水手段と、それぞれの前記通気管を開閉する弁、および通水管を開閉する弁と、前記排気手段に敷設され、前記容器内を減圧する減圧手段と、前記容器に連結されたトレーサガス検知器とを備えていることを特徴とする燃料集合体の損傷判定装置。
【請求項12】
前記容器が、ヒータを装備していることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の燃料集合体の損傷判定装置。
【請求項13】
さらに、密閉可能で、燃料集合体を格納する第2容器を備え、前記第2容器に前記非トレーサガス供給手段、および排気手段がそれぞれ通気管で連結され、それぞれの通気管には通気管を開閉する弁が設けられており、さらに、前記第2容器に連結されたトレーサガス検知器を備えていることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の燃料集合体の損傷判定装置。
【請求項14】
前記第2容器が、ヒータを装備していることを特徴とする請求項13に記載の燃料集合体の損傷判定装置。
【請求項15】
前記燃料集合体を格納するための容器として、再処理施設に輸送するための保管容器を使用することを特徴とする請求項10または請求項11に記載の燃料集合体の損傷判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所で発電に使用される原子燃料の燃料集合体の損傷の発生の有無
を判定する燃料集合体の損傷判定方法および損傷判定装置に関し、運転中の原子炉内の燃料集合体、原子力発電所の使用済燃料ピットに保管中の燃料集合体のみならず、再処理施設に輸送するために保管容器に複数体収納した状態で長期間冷却中の燃料集合体の損傷の発生の有無の判定にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
原子力発電において、ウラン等の核分裂によって生成した核分裂生成物FP(Fission Products)は、通常、密封境界である燃料棒内に保持されている。何らかの要因によって燃料棒が損傷し、密封機能を喪失した場合は、損傷箇所を通過して燃料棒内部からガス性のFPが放出されるとともに、水の侵入に伴って水溶性のFPが外部に放出され、所謂リークが発生する。
【0003】
損傷が発生した燃料棒を含む燃料集合体は、運用上、健全な燃料集合体と異なる取り扱いが求められている。そこで、損傷燃料を特定するため、燃料集合体の損傷の有無を判定する検査技術が開発されている。
【0004】
その一例として、超音波を用いた検査技術が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。この検査技術は、燃料棒内部に水が侵入している場合と、していない場合とで超音波の伝わり方が異なることに基づいて損傷の有無を判定する検査である。
【0005】
また、他の例としてシッピング検査が挙げられる(例えば、特許文献2参照)。シッピング検査は、燃料集合体を一体ずつ周囲から孤立させた環境に保持し、燃料棒の内部から放出されるFP等を検出する検査である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5-84475号公報
【特許文献2】特許第6244126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、超音波を用いた検査技術は、全ての燃料棒を1本ずつ検査することにより燃料集合体の損傷判定を行うため、検査を終えるまでに非常に長い時間がかかり、非効率的である。
【0008】
一方、シッピング検査については、既存のシッピング検査の場合、FPガスとしてキセノン及びクリプトン、水溶性FPとしてヨウ素及びセシウム等の放射性同位体による放射線を検出対象としており、対象の核種が燃料棒内に存在しない場合は放射線を検出することができず、損傷が有る場合でも損傷を検出できない。
【0009】
そして、燃料棒の損傷は、主として炉内での照射時(発電時)に生じるため、原子炉の運転者は、炉心全体のガスや水モニタリングでFP核種の濃度等を監視し、リークの兆候があれば即時、もしくは、次回の定期検査時にシッピング検査を実施する。このタイミングの検査であれば上記の核種が燃料棒内に存在しない状態であることは考えづらく、損傷判定は上記のシッピング検査技術で事足りる。
【0010】
一方で、燃料が長期に亘って保管されていたり、損傷が著しい場合等で、従来のシッピング検査で対象としていたFP核種が放射性崩壊・ガス放出・水への溶出等によって検出限界以下となっている場合、既存のシッピング装置は適用できない。
【0011】
そこで、本発明は、燃料集合体単位で検査を行うことができ、FPの検出が不可能な検査対象に対しても損傷の有無を判定することができる燃料集合体の損傷判定技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下に記載する手段により、解決することができる。
【0013】
請求項1に記載の発明は、
複数本の燃料棒が収納された原子燃料の燃料集合体の損傷の有無を判定する燃料集合体の損傷判定方法であって、
検査対象の燃料集合体を密閉容器内において、燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧より高い圧力のトレーサガスの雰囲気内に所定の時間置いた後、前記トレーサガスを取り除いた雰囲気内に所定時間放置し、
放置後、雰囲気内のトレーサガスの有無を調査し、トレーサガスが検出されたときには損傷有りと判定し、検出されなかったときには損傷無しと判定する、
あるいは、放置開始直後と放置終了後に雰囲気中のトレーサガスの濃度を測定し、放置後の濃度が、放置開始直後より高いときには損傷有りと判定し、放置開始直後以下の時には損傷無しと判定する燃料集合体の損傷判定方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、
前記燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧が、前記密閉容器内において前記燃料集合体がトレーサガスの雰囲気内に置かれる前の前記燃料集合体の周囲の圧力と同じ圧力であることを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体の損傷判定方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
検査対象の燃料集合体を密閉可能な容器内に格納する燃料集合体格納工程と、
燃料集合体を格納後、容器内にトレーサガスを充填し、容器内を燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧より高い圧力のトレーサガス雰囲気とするトレーサガス充填工程と、
トレーサガス充填後、所定時間放置するトレーサガス雰囲気内放置工程と、
トレーサガス雰囲気内で放置後、容器内のトレーサガスを排気し、容器内の雰囲気をトレーサガスを含まない非トレーサガス雰囲気とするガス置換工程と、
非トレーサガス雰囲気に置換後、所定時間放置する非トレーサガス雰囲気内放置工程とを備え、
非トレーサガス雰囲気内放置後の非トレーサガス雰囲気中のトレーサガスの有無を調査する、
あるいは、非トレーサガス雰囲気内放置開始直後と非トレーサガス雰囲気内放置終了後に非トレーサガス雰囲気中のトレーサガス濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体の損傷判定方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、
前記燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧が、前記容器内にトレーサガスを充填する前における前記容器内の圧力と同じ圧力であることを特徴とする請求項3に記載の燃料集合体の損傷判定方法である。
【0017】
請求項5に記載の発明は、
検査対象の燃料集合体を密閉可能な第1容器内に格納する燃料集合体格納工程と、
格納後、第1容器内にトレーサガスを充填し、第1容器内を燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧より高い圧力のトレーサガス雰囲気とするトレーサガス充填工程と、
トレーサガス充填後、所定時間放置するトレーサガス雰囲気内放置工程と、
トレーサガス雰囲気内で放置後、燃料集合体を第2容器に移設し、第2容器内の雰囲気をトレーサガスを含まない非トレーサガス雰囲気とする燃料集合体移設工程と、
移設後、所定時間放置する非トレーサガス雰囲気内放置工程とを備え、
非トレーサガス雰囲気内放置後の非トレーサガス雰囲気中のトレーサガスの有無を調査する、
あるいは、非トレーサガス雰囲気内放置開始直後と非トレーサガス雰囲気内放置終了後に非トレーサガス雰囲気中のトレーサガス濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体の損傷判定方法である。
【0018】
請求項6に記載の発明は、
前記燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧が、前記第一容器内にトレーサガスを充填する前における前記第一容器内の圧力と同じ圧力であることを特徴とする請求項5に記載の燃料集合体の損傷判定方法である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、
前記トレーサガス充填工程の前に、前記容器内または前記第一容器内を減圧することを特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれか1項に記載の燃料集合体の損傷判定方法である。
【0020】
請求項8に記載の発明は、
前記トレーサガスにHeガスを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の燃料集合体の損傷判定方法である。
【0021】
請求項9に記載の発明は、
前記非トレーサガスにNガスを用いることを特徴とする請求項8に記載の燃料集合体の損傷判定方法である。
【0022】
請求項10に記載の発明は、
複数本の燃料棒を有する原子燃料の燃料集合体の損傷の有無を判定する燃料集合体の損傷判定装置であって、
密閉可能で、前記燃料集合体を格納する容器と、前記容器にそれぞれ通気管で連結されたトレースガス供給手段、非トレーサガス供給手段および排気手段と、前記容器と通水管で連結された排水手段と、それぞれの前記通気管を開閉する弁、および通水管を開閉する弁と、前記トレーサガス供給手段に敷設され、トレーサガスを加圧する加圧手段と、前記容器に連結されたトレーサガス検知器とを備えていることを特徴とする燃料集合体の損傷判定装置である。
【0023】
請求項11に記載の発明は、
複数本の燃料棒を有する原子燃料の燃料集合体の損傷の有無を判定する燃料集合体の損傷判定装置であって、
密閉可能で、前記燃料集合体を格納する容器と、前記容器にそれぞれ通気管で連結されたトレーサガス供給手段、非トレーサガス供給手段および排気手段と、前記容器と通水管で連結された排水手段と、それぞれの前記通気管を開閉する弁、および通水管を開閉する弁と、前記排気手段に敷設され、前記容器内を減圧する減圧手段と、前記容器に連結されたトレーサガス検知器とを備えていることを特徴とする燃料集合体の損傷判定装置である。
【0024】
請求項12に記載の発明は、
前記容器が、ヒータを装備していることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の燃料集合体の損傷判定装置である。
【0025】
請求項13に記載の発明は、
さらに、密閉可能で、燃料集合体を格納する第2容器を備え、前記第2容器に前記非トレーサガス供給手段、および排気手段がそれぞれ通気管で連結され、それぞれの通気管には通気管を開閉する弁が設けられており、さらに、前記第2容器に連結されたトレーサガス検知器を備えていることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の燃料集合体の損傷判定装置である。
【0026】
請求項14に記載の発明は、
前記第2容器が、ヒータを装備していることを特徴とする請求項13に記載の燃料集合体の損傷判定装置である。
【0027】
請求項15に記載の発明は、
前記燃料集合体を格納するための容器として、再処理施設に輸送するための保管容器を使用することを特徴とする請求項10または請求項11に記載の燃料集合体の損傷判定装置である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、燃料集合体単位で検査を行うことができ、FPの検出が不可能な検査対象に対しても損傷の有無を判定することができる燃料集合体の損傷判定技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施の形態に係る燃料集合体の損傷判定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明においては、燃料集合体の損傷の有無の判定に、従来のように燃料棒の内部から放出されるFPの検出の有無を利用するのではなく、He等のトレーサガスの検出の有無を利用している。
【0031】
具体的には、検査対象の燃料集合体を密閉容器内において、燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧より高い圧力のトレーサガスの雰囲気内に所定の時間置いた後、トレーサガスを取り除いた雰囲気内に所定時間放置する。
【0032】
このとき、燃料棒に破損が生じていると、その破損部を介して燃料棒の内外で通気し、一方、破損が生じていないと、燃料棒の内外が通気することがない。このため、トレーサガスの雰囲気の圧力を、燃料棒が破損している場合に想定される燃料棒の内圧よりも高くすることにより、破損が生じている場合にはトレーサガスが燃料棒の内部に侵入し、破損が生じていない場合には、トレーサガスの雰囲気の圧力の如何にかかわらず、トレーサガスの侵入がない。
【0033】
その後、燃料集合体を、トレーサガスを取り除いた雰囲気内に所定時間放置することにより、破損している燃料棒の内部に充填されたトレーサガスが、燃料棒の外部、即ち、密閉容器内のトレーサガスを取り除いた雰囲気内に拡散する。
【0034】
そして、放置後、雰囲気内のトレーサガスの有無を調査し、トレーサガスが検出されたときには損傷有りと判定し、検出されなかったときには損傷無しと判定する。
【0035】
あるいは、放置開始直後と放置終了後に雰囲気中のトレーサガスの濃度を測定し、放置後の濃度が、放置開始直後より高いときには損傷有りと判定し、放置開始直後以下の時には損傷無しと判定する。
【0036】
このように、本発明においては、He等のトレーサガスの検出の有無を利用しているため、FPの検出が困難な場合にも、燃料集合体の損傷の有無を判定することができる。また、燃料集合体単位で検査を行うことができるため、効率的に検査をすることができる。
【0037】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0038】
[1]第1の実施の形態
本実施の形態は、燃料集合体のトレーサガス雰囲気内放置工程と非トレーサガス雰囲気内放置工程を1つの容器内で行う燃料集合体の損傷判定技術に関する。
【0039】
1.損傷判定装置
図1は、本実施の形態に係る燃料集合体の損傷判定装置の構成を示す図である。図1において1は密閉可能な容器であり、2は容器1の中に格納された燃料集合体であり、3は排気手段としての真空ポンプであり、4は排水手段としての排水ポンプであり、5は加圧器であり、6~10は通気管を開閉する弁であり、11は通水管を開閉する弁である。また、図示は省略するが、系外にトレーサガスの検知器が設けられている。また、この例では、トレーサガスにHeガスを用い、非トレーサガスにNガスを用いている。
【0040】
トレーサガス及び非トレーサガスは、例えば燃料集合体の内容物に対して化学的に安定なガスであればよく、特に限定されないが、Heガスは非常に微細な孔でも通過する性質に優れるため、トレーサガスとして好適である。また、Nガスは原子力発電所で一般的なユーティリティとして利用できる高圧ガスであるため、非トレーサガスとして好適である。なお、これらのガスは、高圧ボンベから所定の圧力に調整して供給するなど公知の方法を用いて供給される。
【0041】
トレーサガス供給手段、非トレーサガス供給手段、及び真空ポンプ3は、それぞれ通気管を介して容器1に連結されている。また、加圧器5は、通気管を介して、トレーサガス供給手段と容器1を連結する通気管の弁6と容器1の間に連結されている。また、排水ポンプ4は、通水管を介して容器1に連結されている。
【0042】
図1では水槽を使用し、容器1を水中に配置しているので、トレーサガスを供給する段階では、容器1内に水が存在するため、これを排水する必要がある。そこで、例えば、容器1内にトレーサガスを供給する際に、排水ポンプ4により、容器1内に存在していた水を排水するが、トレーサガスを供給する前に、第三のガス(トレーサガス以外のガス)を供給することにより、容器1内の水を排水しておいてもよい。
【0043】
しかしながら、容器1内に配置された燃料棒の下端と排水ポンプ4の高低差が10mを超えている場合には、大気圧との関係から、排水ポンプ4の吸引力のみでは、燃料棒をトレーサガスに対して露出させるまで容器1内の水を吸い上げて排水することができない。そこで、このような場合には、加圧器5により、トレーサガス、非トレーサガスまたは第三のガスに圧力をかけて、容器1内の水に圧力をかけることにより、容器1内の水を、排水ポンプ4のサクション側(吸引側)へ押し出すことが好ましい。
【0044】
なお、図1では水槽を使用し、容器1を水中に配置しているが、空気中に配置してもよい。ただし、水槽の方が好ましい。
【0045】
2.損傷判定方法
(1)燃料集合体格納工程
先ず、容器1を開状態にして、燃料集合体2を容器1内に格納する。格納終了後、容器1を閉状態にする。なお、容器1内には、一般的に冷却用の水が充填されている。
【0046】
(2)トレーサガス充填工程
次に、全ての弁を閉じた状態にした後、弁6及び弁11を開にし、排水ポンプ4を起動させる。これより、容器1にHeガスを充填しながら容器1内の水を排水し、燃料集合体2の周囲全体にトレーサガス(Heガス)を充填する。次いで、弁6、および弁11を閉にし、排水ポンプ4を停止した後、加圧器5を起動させて、容器1内の圧力を前記した燃料棒の内圧より高い所定の圧力に昇圧する。
【0047】
(3)トレーサガス雰囲気内放置工程
トレーサガス充填後、所定の時間放置する。放置時間は、損傷していることが既知の燃料集合体を対象として、トレーサガスが燃料集合体内に圧入するのに要する時間を調査し、調査結果に基づいて適宜決定される。
【0048】
(4)トレーサガス排除工程
所定の時間経過後、弁8~10を開にし、真空ポンプ3を起動させ容器1内および通気管内のトレーサガスを排除する。水槽中の場合は、容器1を開状態とし、冷却用の水を再度充填してトレーサガスを排除することでもよい。この動作は、容器1内にトレーサガスが検知されなくなるまで、あるいは予め定めた所定の時間実施する。
【0049】
(5)非トレーサガス充填工程
次いで、弁8~10を閉にし、真空ポンプ3を停止した後、弁7を開にし、容器1内に非トレーサガス(Nガス)を充填する。充填完了後、弁7を閉にする。
【0050】
(6)非トレーサガス雰囲気内放置工程
雰囲気ガス置換後、所定の時間放置する。放置時間は、損傷していることが既知の燃料集合体を対象として、燃料集合体2内に圧入されたトレーサガスが燃料集合体2から漏出するのに要する時間を調査し、調査結果に基づいて適宜決定される。
【0051】
容器1がヒータを装備している場合、非トレーサガス雰囲気内放置中、ヒータを作動させて非トレーサガスを加熱することが好ましい。非トレーサガスを加熱することにより、燃料集合体が加熱され、トレーサガスの漏出が促進されるため、放置時間を短縮することができる。
【0052】
また、容器に循環装置を装備し、容器内の非トレーサガスを循環することが好ましい。これにより燃料集合体の全体を一定の温度に加熱することができる。また、漏出したトレーサガスの偏在を防止し、容器内のガスの組成が均一化するため、高い精度で漏出の有無を判定することができる。
【0053】
(7)損傷の有無判定工程
(4)のトレーサガス排除工程で、トレーサガスが検知されなくなるまでトレーサガスを排除する場合、非トレーサガス雰囲気内で所定時間放置した後、トレーサガス検知器を用いて容器内1内でトレーサガスが検出されるか否かを調査し、検出された場合には損傷有りと判定し、検出されない場合には損傷無しと判定する。トレーサガスの有無は、容器1から排出されるガスをシリンジで採取した後、採取したガスをトレーサガスの検知器にかけることより判定する。
【0054】
一方、トレーサガス排除工程で、所定の時間トレーサガスを排気する場合、非トレーサガス雰囲気内放置開始直後と放置終了後にトレーサガス検知器を用いて雰囲気ガス中のトレーサガスの濃度を測定し、放置終了後の濃度が高い場合には損傷有りと判定し、放置終了後の濃度が放置開始直後の濃度以下の場合には損傷無しと判定する。
【0055】
[2]第2の実施の形態
本実施の形態は、燃料集合体のトレーサガス雰囲気内放置工程と非トレーサガス雰囲気内放置工程を別の容器内で行う点で第1の実施の形態と相違する。以下、第1の実施の形態との相違点のみを説明する。
【0056】
1.損傷判定装置
本実施の形態の損傷判定装置は、第1の実施の形態の損傷判定装置に加え、さらに第2容器が備えられており、密閉可能な容器が2つ備えられている。そして、トレーサガス検知器が第2容器に連結されている点で第1の実施の形態と相違する。なお、第2容器には、トレーサガス供給手段は連結されていない。また、第2容器を空気中に配置する場合には第2容器に排水ポンプは連結されていない。
【0057】
第2容器にヒータ、および循環装置を装備することが好ましい。非トレーサガス雰囲気内放置工程でヒータを作動させて非トレーサガスを加熱することにより放置時間を短縮することができ、循環装置を作動させることにより、より高い精度でトレーサガスを検出することができる。
【0058】
また、トレーサガスを充填するための容器に、複数の燃料集合体を格納し、複数体同時に加圧した後、1体ずつ別の容器に移設し測定することも可能である。
【0059】
2.損傷判定方法
トレーサガス雰囲気内での放置までは、第1の実施の形態と同様の工程を実施する。トレーサガス雰囲気内での放置終了後、容器1を開にして燃料集合体2を容器1から取り出し、第2容器内に移設する。
【0060】
燃料集合体2を第2容器に移設後、第2容器を密閉状態にして第2容器に非トレーサガス(Nガス)を供給しながら排水ポンプ4を起動させて排水し、第2容器内を非トレーサガス雰囲気にする。なお、第2容器を空気中に設置する場合は、排水が不要となる。
【0061】
第2容器内を非トレーサガス雰囲気にした後、第1の実施の形態と同様にして、非トレーサガス雰囲気内放置工程、損傷の有無判定工程を実施する。
【0062】
本実施の形態によれば、トレーサガス雰囲気から非トレーサガス雰囲気への雰囲気ガスの置換が不要となるため、判定に要する時間を短縮することができる。
【0063】
[3]第3の実施の形態
本実施の形態は、燃料集合体2を格納する容器1内にトレーサガスを充填するために真空ポンプ3を用いる点で、加圧器5等を用いる第1の実施の形態および第2の実施の形態と相違する。即ち、本実施の形態では、以下に示すように、真空ポンプ3を用いることで、容器1等に対して高い圧力をかけることなく、破損した燃料棒へトレーサガスを充填することができる。そのため、本実施の形態には、容器1等について、圧力容器を用いる必要がないという利点がある。
【0064】
本実施の形態では、容器1内の水を第1の実施の形態と同様にして排水した後、トレーサガスを導入する前に、真空ポンプ3で容器1内を減圧する。破損した燃料棒の想定される欠陥の大きさから算出できる排気速度から、燃料棒の内圧が十分に低い圧力(例えば、0.1atmA=-0.9atmG)になるまで真空引きする。その後、容器1内に、それほど高圧でない圧力(例えば、0.5atmA=-0.5atmG)で、トレーサガスを導入すると、破損した燃料棒の内圧の方が低いため、トレーサガスが破損した燃料棒内に自動的に充填される。
【0065】
[4]本発明の効果
以上のように、本発明においては、燃料集合体の損傷の有無の判定に、従来のように燃料棒の内部から放出されるFPの検出の有無を利用するのではなく、He等のトレーサガスの検出の有無を利用しているため、FPの検出が困難な場合にも、燃料集合体の損傷の有無を判定することができる。
【0066】
また、燃料集合体単位で検査を行うことができるため、効率的に検査をすることができる。
【0067】
なお、再処理施設に輸送するために保管容器に複数体収納した状態で長期間冷却中の燃料集合体の検査を行う場合には、当該保管容器を加圧用の第1容器として使用して、複数体の燃料集合体を同時に加圧することができ、効率のよい検査が可能である。
【0068】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 容器
2 燃料集合体
3 真空ポンプ
4 排水ポンプ
5 加圧器
6~11 弁
図1