(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018984
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】バッテリ劣化判定システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20250130BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20250130BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20250130BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20250130BHJP
G01R 31/3828 20190101ALN20250130BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 Y
G01R31/3828
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024116701
(22)【出願日】2024-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2023120444
(32)【優先日】2023-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227401
【氏名又は名称】日東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 淳史
(72)【発明者】
【氏名】金井 孝治
(72)【発明者】
【氏名】水野 智仁
(72)【発明者】
【氏名】塚原 正浩
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA02
2G216BA21
2G216BB01
5G503CA11
5G503EA08
5G503GC04
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS20
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】利用状況からの影響を反映させた判定基準を作ることができるバッテリの劣化診断システムを提供できるようにすること。
【解決手段】記憶部に、計測により得られた、端子電圧が充電開始から最大電圧未満に設定した所定電圧に達するまでの到達時間、バッテリの充電の終了時における電圧降下値、バッテリの放電の開始時における電圧降下値、バッテリの放電開始から端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間、バッテリの放電の終了時における電圧上昇値、の少なくとも1つからなる電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測されたデータと、を所定期間分有する蓄積データを備え、蓄積データをもとにバッテリの判定条件を作成可能であり、蓄積データをもとに作成した判定条件と、新たに計測したデータと、を比較してバッテリの劣化について判定をすることが可能なバッテリ劣化判定システムとする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの端子電圧を測定可能な端子電圧検出部と、
バッテリの充電時または放電時の端子電圧の挙動に影響を与える情報の1つを計測可能な外部情報計測部と、
外部情報計測部で計測されたデータを記憶可能な記憶部と、
記憶部の情報をもとに判定条件を設定可能な判定条件設定部と、
判定条件設定部で設定された判定条件をもとにした判定を行うための演算が可能な演算部と、
を備え、
前記記憶部に、
計測により得られた、
端子電圧が充電開始から最大電圧未満に設定した所定電圧に達するまでの到達時間、
バッテリの充電の終了時における電圧降下値、
バッテリの放電の開始時における電圧降下値、
バッテリの放電開始から端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間、
バッテリの放電の終了時における電圧上昇値、
の少なくとも1つからなる電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測されたデータと、を所定期間分有する蓄積データを備え、
判定条件設定部は、蓄積データをもとにバッテリの判定条件を作成可能であり、
演算部は、蓄積データをもとに作成した判定条件と、新たに計測した電圧挙動情報と外部情報計測部のデータと、を比較してバッテリの劣化について判定をすることが可能なバッテリ劣化判定システム。
【請求項2】
判定条件設定部は、
蓄積データが有する電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測された複数種類のデータと、の相関関係から判定条件を設定可能である請求項1に記載のバッテリの劣化判定システム。
【請求項3】
蓄積データが有する外部情報計測部で計測されたデータに温度に関する情報を有し、
判定条件設定部は、
蓄積データを基に、温度と電圧挙動情報との相関関係を表す計算式を導出し、
導出された計算式に温度を入力して得られる計算電圧挙動値よりも所定の分以上小さい値となる範囲に劣化診断領域を設定し、かつ、計算電圧挙動値よりも所定の分以上大きい値となる範囲に異常診断領域を設定することが可能、
若しくは、
導出された計算式に温度を入力して得られる計算電圧挙動値よりも所定の分以上大きい値となる範囲に劣化診断領域を設定し、かつ、計算電圧挙動値よりも所定の分以上小さい値となる範囲に異常診断領域を設定することが可能、
とし、
劣化診断領域を用いてバッテリが劣化したと判定可能であり、異常診断領域を用いて、バッテリに異常が生じていると判定可能である
請求項1又は2に記載のバッテリ劣化判定システム。
【請求項4】
蓄積データの収集期間である蓄積データ収集期間と、蓄積データ収集期間に得られた蓄積データをもとにバッテリの判定条件を作成し判定を行うことが可能な判定期間と、が設定され、
蓄積データ収集期間に利用される異常劣化判定条件を、判定期間に利用される判定条件とは別に設ける蓄積データ収集時判定手段を備える請求項1に記載のバッテリ劣化判定システム。
【請求項5】
電圧挙動情報と外部情報計測部で計測されたデータを所定期間分有する蓄積データから二次元、または、三次元の広がりを有する特定区域を設定する特定区域生成手段を備える請求項1に記載のバッテリ劣化判定システム。
【請求項6】
電圧挙動情報と外部情報計測部のデータを所定期間ごとに取得し、
取得した数値の変化、若しくは、取得した数値を用いて導かれる所定の数値の変化が所定以上になった場合に、問題が生じていると判定する突発変化判定手段を備える請求項1に記載のバッテリ劣化判定システム。
【請求項7】
バッテリの利用条件を記憶可能とし、
蓄積データは、電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測されたデータと、をバッテリの利用条件ごとに所定期間分有し、
バッテリの利用条件に応じた判定条件で判定をすることが可能な請求項1に記載のバッテリ劣化判定システム。
【請求項8】
バッテリが劣化しているという情報と、バッテリに異常が生じているという情報とを外部に出力可能な出力部を備え、
出力部がバッテリが劣化しているという情報を外部に出力するまでに、新たに計測した電圧挙動情報と外部情報計測部のデータが劣化診断領域に該当することが必要となる回数よりも、
出力部がバッテリに異常が生じているという情報を外部に出力するまでに、新たに計測した電圧挙動情報と外部情報計測部のデータが異常診断領域に該当することが必要となる回数の方が、
少なくなるように設定可能な請求項3に記載のバッテリ劣化判定システム。
【請求項9】
バッテリの端子電圧を測定可能な端子電圧検出部と、
バッテリへの充電電流、又は、積算電流を測定可能な電流計測部と、
バッテリの充電時または放電時の端子電圧の挙動に影響を与える情報の1つを計測可能な外部情報計測部と、
外部情報計測部で計測されたデータを記憶可能な記憶部と、
記憶部の情報をもとに判定条件を設定可能な判定条件設定部と、
判定条件設定部で設定された判定条件をもとにした判定を行うための演算が可能な演算部と、
を備え、
少なくとも端子電圧と積算電流と外部情報計測部で計測されたデータの情報が記憶部に蓄積され、
判定条件設定部は、記憶部に蓄積された端子電圧と積算電流と外部情報計測部で計測されたデータの情報を少なくとも用いて判定条件を設定可能であり、
演算部は、蓄積データをもとに作成した判定条件と、新たに計測した端子電圧と積算電流と外部情報計測部のデータと、を比較してバッテリの劣化について判定をすることが可能なバッテリ劣化判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ劣化判定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電などの余剰電力を蓄積するバッテリを使用した太陽光自家消費蓄電池システムが知られているが、電力を蓄積するバッテリは、使用頻度や経年に応じて劣化が生じる。バッテリが劣化すると、バッテリの容量(1時間当たりに流せる電流など)が低下する。このため、バッテリの交換時期や劣化度合いを推定する技術に対する要望がある。このような要望に対応するため、例えば特許文献1に示す技術では、定電流充電において、バッテリの端子電圧が定電圧充電となるまで(バッテリの最大電圧になるまで)に掛かる時間の関係性を記録する。これは、継続して使用することなどにより端子電圧が定電圧充電となるまでにかかる時間が早くなることを利用して、バッテリの劣化診断を行うためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
ところで、バッテリの設置場所の温度や湿度、気圧などの外部環境や、充電される充電電流の大きさなどの外部環境によってバッテリの電池電圧端子が定電圧充電となるまでの時間が長くなったり短くなったりする。一方、特許文献1に開示の技術は、バッテリの設置環境を考慮していない。つまり、バッテリの端子電圧が定電圧充電となるまでの時間を確認するだけで、バッテリの劣化診断をおこなうのは、望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件の発明者は、この点について鋭意検討することにより解決を試みた。本発明が解決しようとする課題は、利用状況からの影響を反映させた判定基準を作ることができるバッテリの劣化診断システムを提供できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、バッテリの端子電圧を測定可能な端子電圧検出部と、バッテリの充電時または放電時の端子電圧の挙動に影響を与える情報の1つを計測可能な外部情報計測部と、外部情報計測部で計測されたデータを記憶可能な記憶部と、記憶部の情報をもとに判定条件を設定可能な判定条件設定部と、判定条件設定部で設定された判定条件をもとにした判定を行うための演算が可能な演算部と、を備え、前記記憶部に、計測により得られた、端子電圧が充電開始から最大電圧未満に設定した所定電圧に達するまでの到達時間、バッテリの充電の終了時における電圧降下値、バッテリの放電の開始時における電圧降下値、バッテリの放電開始から端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間、バッテリの放電の終了時における電圧上昇値、の少なくとも1つからなる電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測されたデータと、を所定期間分有する蓄積データを備え、判定条件設定部は、蓄積データをもとにバッテリの判定条件を作成可能であり、演算部は、蓄積データをもとに作成した判定条件と、新たに計測した電圧挙動情報と外部情報計測部のデータと、を比較してバッテリの劣化について判定をすることが可能なバッテリ劣化判定システムとする。
【0007】
また、判定条件設定部は、蓄積データが有する電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測された複数種類のデータと、の相関関係から判定条件を設定可能であるように構成するのが好ましい。
【0008】
また、蓄積データが有する外部情報計測部で計測されたデータに温度に関する情報を有し、判定条件設定部は、蓄積データを基に、温度と電圧挙動情報との相関関係を表す計算式を導出し、導出された計算式に温度を入力して得られる計算電圧挙動値よりも所定の分以上小さい値となる範囲に劣化診断領域を設定し、かつ、計算電圧挙動値よりも所定の分以上大きい値となる範囲に異常診断領域を設定することが可能、若しくは、導出された計算式に温度を入力して得られる計算電圧挙動値よりも所定の分以上大きい値となる範囲に劣化診断領域を設定し、かつ、計算電圧挙動値よりも所定の分以上小さい値となる範囲に異常診断領域を設定することが可能、とし、劣化診断領域を用いてバッテリが劣化したと判定可能であり、異常診断領域を用いて、バッテリに異常が生じていると判定可能である構成とすることが好ましい。
【0009】
また、蓄積データの収集期間である蓄積データ収集期間と、蓄積データ収集期間に得られた蓄積データをもとにバッテリの判定条件を作成し判定を行うことが可能な判定期間と、が設定され、蓄積データ収集期間に利用される異常劣化判定条件を、判定期間に利用される判定条件とは別に設ける蓄積データ収集時判定手段を備える構成とするのが好ましい。
【0010】
また、電圧挙動情報と外部情報計測部で計測されたデータを所定期間分有する蓄積データから二次元、または三次元の広がりを有する特定区域を設定する特定区域生成手段を備える構成とするのが好ましい。
【0011】
また、電圧挙動情報と外部情報計測部のデータを所定期間ごとに取得し、取得した数値の変化、若しくは、取得した数値を用いて導かれる所定の数値の変化が所定以上になった場合に、問題が生じていると判定する突発変化判定手段を備える構成とするのが好ましい。
【0012】
また、バッテリの利用条件を記憶可能とし、蓄積データは、電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測されたデータと、をバッテリの利用条件ごとに所定期間分有し、バッテリの利用条件に応じた判定条件で判定をすることが可能な構成とするのが好ましい。
【0013】
また、バッテリが劣化しているという情報と、バッテリに異常が生じているという情報とを外部に出力可能な出力部を備え、出力部がバッテリが劣化しているという情報を外部に出力するまでに、新たに計測した電圧挙動情報と外部情報計測部の測定データが劣化診断領域に該当することが必要となる回数よりも、出力部がバッテリに異常が生じているという情報を外部に出力するまでに、新たに計測した電圧挙動情報と外部情報計測部の測定データが異常診断領域に該当することが必要となる回数の方が、少なくなるように設定可能な構成とすることが好ましい。
【0014】
また、バッテリの端子電圧を測定可能な端子電圧検出部と、バッテリへの充電電流、又は、積算電流を測定可能な電流計測部と、バッテリの充電時または放電時の端子電圧の挙動に影響を与える情報の1つを計測可能な外部情報計測部と、外部情報計測部で計測されたデータを記憶可能な記憶部と、記憶部の情報をもとに判定条件を設定可能な判定条件設定部と、判定条件設定部で設定された判定条件をもとにした判定を行うための演算が可能な演算部と、を備え、少なくとも端子電圧と積算電流と外部情報計測部で計測されたデータの情報が記憶部に蓄積され、判定条件設定部は、記憶部に蓄積された端子電圧と積算電流と外部情報計測部で計測されたデータの情報を少なくとも用いて判定条件を設定可能であり、演算部は、蓄積データをもとに作成した判定条件と、新たに計測した端子電圧と積算電流と外部情報計測部のデータと、を比較してバッテリの劣化について判定をすることが可能なバッテリ劣化判定システムとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、利用状況からの影響を反映させた判定基準を作ることができるバッテリの劣化診断システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】定電流定電圧充電による充電例について示した図である。
【
図2】リチウムイオン電池における充電時と放電時のリチウムイオンの挙動例を示す図である。
【
図3】太陽光電池を利用して充電されるバッテリを負荷設備に利用する態様においてバッテリ劣化判定システムを採用した例を示す図である。
【
図4】実質的に空の状態のバッテリに対して充電した場合における充電時間と端子電圧の関係を表した図である。ただし、計測時に既になされていたバッテリの充電回数が分かるようにしている。
【
図5】
図4に対して一点鎖線を付した例を示す図である。ただし、所定電圧に設定した3.8Vの位置に一点鎖線を付している。
【
図6】実質的に空の状態のバッテリに対して充電を開始してから3.8Vになるまでに必要な時間と外気温度の関係を表した図である。ただし、計測時に既になされていたバッテリの充電回数が分かるようにしている。また、3.8Vは所定電圧に設定した値である。
【
図7】実質的に空の状態のバッテリに対して充電した後に定電流放電した場合における時間と端子電圧の関係例を表した図である。
【
図9】蓄積したデータから計算式を導出し、判定条件を設定した例を示す図である。
【
図10】横軸に充電電流の電流値、縦軸に端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間を採用して計算式を導出した例を示す図である。
【
図11】外気の「温度」と、充電電流の「電流値」と、「端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間」と、を用いて判定条件を設定する例を示す図である。
【
図12】仮に入力したデータと蓄積したデータを比較して、計算式を導出した例を示す図である。
【
図13】計測データが複数回、劣化判断領域に属した場合に警報を通知することにした例を示す図である。
【
図14】劣化判断領域の一部に利用禁止領域を設定した例を示す図である。
【
図15】計測データが一回、異常判断領域に属した場合に警報を通知することにした例を示す図である。
【
図17】計測データの属性の決め方の例を示す図である。
【
図18】充電時間に関わらず積算電流が端子電圧に影響することを示す図である。ただし、積算電流が1000mAに到達している時間は(a)に示す例の方が(b)に示す例よりも短い。
【
図19】積算電流と端子電圧の関係例を示す図である。
【
図20】外気の「温度」と、積算電流と、端子電圧と、を用いて判定条件を設定する例を示す図である。
【
図21】蓄積データ収集期間と判定期間が分けられており、各々の期間で異なる判定条件を利用することを示した図である。
【
図22】蓄積データ収集期間に得られたデータ全体に対して、判定条件でチェックを行ったことを示すイメージ図である。ただし、四角い枠状の部分が劣化や異常に該当するエリアを表している。
【
図23】
図22に示す劣化や異常に該当するエリアがI区域からIV区域の集合体であることを表した図である。
【
図24】一年程度かけて得られたデータの例を、学習を開始したタイミングごとに分けて示した図である。
【
図25】蓄積データに基づいて二次元の広がりを有する特定区域を設定した例を示す図である。
【
図26】一年ごとに作成した特定区域が徐々に移動していることを示す図である。
【
図27】異常判断領域や、劣化判断領域が特定区域に対応するように定められている例を示す図である。ただし、初期の特定区域に加え、初期の位置からずれているが正常範囲と捉えられる特定区域の例も二つ示している。
【
図28】蓄積データの各温度帯における到達時間の分布を示した図である。
【
図29】
図28に示すある温度帯における到達時間の分布を示した図である。ただし、平均値±標準偏差1個分に該当するデータを選別する例である。
【
図30】ある温度において、到達時間が分散するように擬似データを配置する例を示した図である。ただし、破線の範囲が分散範囲である。
【
図31】温度と到達時間が分散するように複数の擬似データを配置する例を示した図である。ただし、破線の円内が分散範囲である。
【
図32】ある温度における到達時間の経年変化の例を示す図である。
【
図34】劣化に伴う特定区域の経年変化の例を示す図である。
【
図35】経年変化による異常の判定方法を示す図である。(a)異常に伴う特定区域の経年変化の例を示す図である。(b)経年変化により異常判断領域が変動する状態を示す図である。
【
図36】各年の変化の程度の例を示した図である。ただし、劣化などの判断をするために用いられる基準値の例も示している。
【
図37】各特定区域の最大値と最小値の差の取り方の例を示す図である。
【
図38】各年の特定区域の最大値と最小値の差の例を示した図である。ただし、劣化などの判断をするために用いられる基準値の例も示している。
【
図39】放電電流と利用時間により定めた利用条件毎に整理された蓄積データ例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に発明を実施するための形態を示す。まず、バッテリ53の充電時に生じる事象の例について簡単に説明をする。充電を開始すると次第に充電量が多くなる。充電量が増加すると電池の端子電圧も増加し、最大(例えば4.2V)に達する。端子電圧が最大となると、端子電圧がより大きくならないようにするため、電流量が絞られる(
図1参照)。
【0018】
ところで、バッテリ53の充電時や放電時には、イオンなどの移動が生じる。例えば、リチウムイオン電池の場合、リチウムイオンが移動する(
図2参照)。
【0019】
気温が高い場所でバッテリ53を使う場合には、電池温度も高くなる。電池温度が高くなれば電池の内部抵抗が減少し、内部の化学反応が活発化し、電池への充電(イオンの移動)が行われやすくなる。また、内部抵抗が減少することで充電に必要となる電圧が小さくなるため(V=IRより)、端子電圧が最大になるまでの到達時間が長くなる。
【0020】
一方、気温が低い場所でバッテリ53を使う場合には、電池温度が低くなり、内部抵抗が高くなる。内部抵抗が高くなると、化学反応が起こりにくくなり、充電に必要となる電圧が高くなる。このため、端子電圧が最大になるまでの到達時間が短くなる。つまり、同じバッテリ53であっても、利用される地域によっても、季節によっても、端子電圧が最大になるまでの到達時間は異なる。
【0021】
ここで、太陽光自家消費蓄電池システム5を例にあげて説明をする。
図3に示す太陽光自家消費蓄電池システム5は、電力会社から供給された電気を、需要家の負荷設備51の仕様に合った電圧や周波数に変換する変換機器を搭載した高圧受電設備52を備えている。また、太陽光電池54で発電した電気を蓄電可能なバッテリ53を備えている。バッテリ53に蓄電された電気は、高圧受電設備52の変換機器を介して負荷設備51に給電することができる。したがって、太陽光電池54で発電された電力のうち余剰となった電力をバッテリ53に蓄電しておき、夜間などにバッテリ53から負荷設備51に給電することが可能である。
図3に示すバッテリ53は、充放電時における電流、端子電圧、外気温度(電池温度)を計測した結果を蓄積することが可能な管理装置55が接続されている。
【0022】
図3に示す管理装置55は、計測装置のデータを収集するように記憶することが可能な記憶部551、記憶部551の情報をもとに、判定条件を設定可能な判定条件設定部552、判定条件設定部552の情報をもとに、異常などについての判定を行う場合に利用可能なプロセッサなどの演算部553、演算部553における演算結果をもとに外部に出力可能な出力部554を備えている。なお、
図3に示す出力部554は、バッテリ53の充放電を停止するために用いられる信号を出力することができる。
【0023】
図3に示す例のシステムにおけるバッテリ53に関する情報を得るため、バッテリ53の端子電圧を測定可能な端子電圧検出部、バッテリ53の温度を検出可能な温度検出部を備えている。なお、その他のバッテリ53の状態を検出可能な計測装置を備えるようにしてもよい。
【0024】
図3に示す例の記憶部551には、バッテリ53の外部の情報である、外気温度、湿度、気圧、日射量、天候、風速計などの外部環境情報が記憶されている。また、この記憶部551には、バッテリ53への充電電流、積算電流など、バッテリ53の外部に流れる電気に関する外部電気情報が記憶されている。外部環境情報や外部電気情報は、外部情報計測部で検出された情報であり、外部情報計測部で検出された情報の少なくとも一部が記憶部551に記憶される。
【0025】
図3に示す例のシステムにおけるバッテリ53はリチウムイオン電池であるが、バッテリ53は、鉛電池、ニッケル水素電池など、他の種類のものであってもよい。ここで、定電流・定電圧充電(CCCV充電)における充電時間と端子電圧の関係と、バッテリ53の充電回数との関係について説明をする。ただし、以下ではリチウムイオンを例に挙げて説明をする。
【0026】
電池の充電方法として、概略
図1に示すようなCCCV充電(CCCV:Constant Current,Constant Voltage)が行われるとする。CCCV充電を行う場合、十分に放電された状態からバッテリ53の充電を開始すると、充電当初の端子電圧が低いため、定電流充電が行われる。充電により充電量が増加すると、端子電圧が増加する。例えば、端子電圧が4.1Vから4.2Vに達すると定電圧充電となる。また、4.2Vを超えないように定電圧充電が行われることで、バッテリ53に供給される電流量が絞られる。
【0027】
このような充電が行われる場合の試験結果例が
図4に示されている。
図4に示すのは、実質的に空の状態から充電を行った際に最大電圧に達するまでの到達時間を、同じ温度条件において、特定の回数目の充電がなされるたびに計測した結果である。1600サイクルと3200サイクルを比較すると、電池の最大端子電圧となるまでの時間は、サイクル数が増えるほど、長くなるわけではないことがわかる。
【0028】
この理由は、電圧が高くなると、リチウムイオンだけではなく、「電極から生じた他の物質」または「電極と化学反応したイオン」も電解液内で移動するからであると考えられる。つまり、電池の充電時または放電時に生じた反応が内部抵抗に影響を与えるため、CC充電中(定電流充電中)で充電をしていたとしても、サイクル数が増えても充電を行った際に最大電圧に達するまでの到達時間が長くなる場合も生じると考えられる。
【0029】
このため、バッテリ53の端子電圧が最大となるまでの時間でバッテリ53の劣化度合いを判定するのは好ましくない。最大電圧未満に設定した所定電圧に達するまでの到達時間を判定に用いるのが好ましい。この所定電圧は、電解液内で意図せぬ化学反応が起こる段階になる前の端子電圧の値とするのが好ましいが、どのような値以下であればそのような状態に該当するのかをあらかじめ見極めるのは難しい。このため、経験則から設定するのが好ましい。
【0030】
図5に示す例では、3.8Vを所定電圧として設定しているが、このような値でなくてもよい。ただし、充電開始時にはリチウムイオンの移動のみの正反応が主たる反応であり、端子電圧が最大に近づくにつれ副反応が支配的になるため、端子電圧の最大値に近い値ではない方がよい。
【0031】
例えば、リチウムイオンの移動のみが正反応が主たる反応となる充電開始時の端子電圧に対して充電開始時から満充電になるまでに端子電圧の上昇値の6割以下を所定電圧として設定するのが好ましい。例えば、空の状態の端子電圧が3.6V、満充電の端子電圧が4.1Vであるとすると、充電開始時から満充電になるまでに端子電圧は0.5Vの上昇があることになる。この場合、3.6V+0.5V×0.6=3.9Vとなるので、3.9V以下を所定電圧として設定するのが好ましいということである。
【0032】
また、所定電圧が充電開始時の端子電圧とあまり変わらないと、そこに至るまでの時間が短すぎることもあり得る。このため、0サイクルにおいて到達に10分程度以上かかる電圧を所定の電圧とするのが好ましい。
図4に示す例からすると、所定電圧を3.7V以上とすることである。
【0033】
これらを考慮すると、例えば、3.7から3.9Vの範囲で所定電圧を設定することになる。到達時間を確保するためにも、3.8から3.9Vの範囲で「所定電圧」を設定するのがより好ましい。
図4に示す例では、このような範囲で所定電圧を採用すれば、サイクル数の増加を増やしていくと、所定電圧に達するまでの時間が早くなるという関係が維持されていることが分かる。なお、この数値は例として示したものであり、バッテリ53の種類や大きさによって変わる。バッテリ53において、端子電圧の上昇値の4割以下を所定電圧と設定する場合には、3.8Vを所定電圧として設定しても良いし、到達に10分程度かかる時間を7分程度として設定しても良いことは勿論である。所定電圧がイオンの移動のみが正反応が主たる反応となる端子電圧であること、バッテリ53が所定電圧に達するまでの時間が正の関係になっていることが好ましい。
【0034】
ところで、電池の温度によっても所定電圧に達するまでの時間が増減する。例えば、所定電圧を3.8Vとした場合、充電開始時から所定電圧に至るのに必要な時間と外気温度の関係は
図6に示すような結果となった。
図6から見て、外気温度の影響は充電開始時から所定電圧に至るのに必要な時間に影響していることが分かる。また、外気温度の影響はサイクル数に関わらず存在していることも分かる。
【0035】
図6に示すデータなどから、「外気温度が低くなることによって所定電圧までの到達時間が短くなる。」ということと、「サイクル数が増えると、所定電圧までの到達時間が短くなる。」ということがいえる。
【0036】
外気温度以外にも、端子電圧の挙動に影響を与えうる因子は存在する。例えば、天候、日射量、湿度、気圧などである。外気温度、天候、日射量、湿度、気圧などの外部環境情報以外にも、端子電圧の挙動に影響を与えうる因子は存在する。例えば、バッテリ53への充電電流やその積算電流などの外部電気情報である。
【0037】
ところで、バッテリ53の利用サイクルにより変化が生じるのは、「所定電圧までの到達時間」だけではない。
図4を見ると、充電終了直後の電圧降下量についても、バッテリ53の利用サイクルにより変化が生じていることが理解できる。また、充電終了直後の電圧降下量は、外部環境の温度に応じて電圧降下量が変化することも分かっている。
【0038】
また、放電を行う際にもバッテリ53の利用サイクルにより変化が生じる事象がある。「負荷への放電開始直後における電圧降下量」、「負荷への放電終了後における電圧上昇量」、「放電時に所定電圧に達するまでの到達時間」(
図7参照)についても、バッテリ53の利用サイクルにより変化が生じることが分かっている。また、これらについても、外部環境の温度などに応じて変化することが分かっている。
【0039】
これらの記載から理解されるように、実施形態のバッテリ劣化判定システムは、「バッテリ53の端子電圧を測定可能な端子電圧検出部」と、「バッテリ53の充電時または放電時の端子電圧の挙動に影響を与える情報の1つを計測可能な外部情報計測部」と、「外部情報計測部で計測されたデータを記憶可能な記憶部551」と、「記憶部551の情報をもとに判定条件を設定可能な判定条件設定部552」と、「判定条件設定部552で設定された判定条件をもとにした判定を行うための演算が可能な演算部553」と、を備えている。
【0040】
また、実施形態のバッテリ劣化判定システムは、前記記憶部551に、「計測により得られた、「「端子電圧が充電開始から最大電圧未満に設定した所定電圧に達するまでの到達時間」、「バッテリ53の充電の終了時における電圧降下値」、「バッテリ53の放電の開始時における電圧降下値」、「バッテリ53の放電開始から端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間」、「バッテリ53の放電の終了時における電圧上昇値」、の少なくとも1つからなる電圧挙動情報」と、「外部情報計測部で計測されたデータ」と、を所定期間分有する蓄積データ」を備えている。
【0041】
また、実施形態のバッテリ劣化判定システムの判定条件設定部552は、蓄積データをもとにバッテリ53の判定条件を作成可能である。また、実施形態のバッテリ劣化判定システムの演算部553は、蓄積データをもとに作成した判定条件と、新たに計測した電圧挙動情報と外部情報計測部のデータと、を比較してバッテリ53の劣化について判定をすることが可能である。このため、利用状況からの影響を反映させた判定基準を作ることができるバッテリ53の劣化診断システムを提供できる。
【0042】
ここで、各種データの収集例について説明をする。例えば
図8に示すように、外部情報計測部のデータやバッテリ53自体の端子電圧、電圧降下量、電圧上昇量、バッテリ53が所定電圧になるまでに掛かる時間などのデータを収集するように記憶部551に記憶させる。計測については、1日中継続的に行うものでもあってもよいし、間欠的に行うものであってもよい。間欠的に行う場合、例えば、バッテリ53への充電開始をトリガとして計測を行うようにするのが好ましい。なお、外部情報計測部のデータの一部として気象庁が計測したデータを用いるものであっても良い。
【0043】
なお、外部情報計測部のデータなどは、平均値、中央値、最大値、最低値などの代表値が記録されるようにしてもよい。また、1日の代表となるような情報だけを記憶するのではなく、全てのデータを記憶するものであってもよい。後者の例は、計測頻度の少ない場合に適用するのが好ましいが、計測頻度が多くても、一定期間は全てのデータを記憶し、タイミングがきたら、その一部又は全部を削除するようにしてもよい。
【0044】
電圧挙動情報と外部情報計測部のデータのうち継続して記憶部551で収集するように扱われたものについては、測定されて間もないデータとの比較に利用するのが好ましい。収集期間は、例えば、数年間以上とするのが好ましい。このようにすれば、例えば2年後や3年後などにデータを比較することができる。
【0045】
次に、判定条件設定部552を用いた判定条件の作成例について説明をする。判定条件設定部552は記憶部551の内容を基に判定条件を作成する。例えば、一定期間における所定電圧に達するまでの時間のデータと外部情報(温度など)のデータから回帰直線などの計算式を算出する(
図9参照)。例えば、バッテリ53が劣化すると、回帰直線の傾きが大きくなるなどの変化、切片の変化が生じ得る。なお、計算式を求めるためのデータの収集は数か月以上とすることが好ましく、1年以上とすることがより好ましい。1年以上とすれば、季節による変化、外部情報による変化に対応するデータを知ることができる。
【0046】
一定期間における所定電圧に達するまでの時間のデータと外部情報(温度など)から回帰直線などの計算式を特定したら、この計算式との関係性により「劣化判断」や「異常判断」をできるようにするのが好ましい。例えば、
図9に示す例では、回帰直線より所定の間隔下方に離れた部分を「劣化判断領域」として設定している。この「劣化判断領域」は、バッテリ53の劣化の判定を行う際に利用するために設定されている。例えば、電圧挙動情報と外部情報計測部の結果がこの「劣化判断領域」に属しているか否かの判定結果を基に、バッテリ53の劣化の判定を行う。なお、回帰直線の下側に劣化判断領域が設けられているのは、使用による劣化が生じると、端子電圧が最大になるまでの到達時間が短くなり、回帰直線の下方に測定データが位置することになるからである。
【0047】
また、
図9に示す例では、回帰直線より所定の間隔上方に離れた部分を「異常判断領域」として設定している。この「異常判断領域」は、バッテリ53の異常の判定を行う際に利用するために設定されている。例えば、電圧挙動情報と外部情報計測部の結果がこの「異常判断領域」に属しているか否かの判定結果を基に、バッテリ53の異常の判定を行う。なお、劣化により端子電圧が最大になるまでの到達時間が長くなることは、通常生じないので、回帰直線の上方に異常判断領域を設定している。
【0048】
この例では、横軸に温度を縦軸に到達時間を設定しているため、回帰直線との関係の上下が上記したように定まっているが、横軸に到達時間を縦軸に温度を設定すると、回帰直線との上下関係はその逆になる。その他、縦軸、横軸の設定内容によって、劣化判断領域、異常判断領域が変わるものである。
【0049】
これらの記載から理解されるように、バッテリ53の劣化判定システムは、蓄積データが有する外部情報計測部で計測されたデータに温度に関する情報を有することが好ましい。
【0050】
また、判定条件設定部552は、蓄積データを基に、温度と電圧挙動情報との相関関係を表す計算式を導出し、「導出された計算式に温度を入力して得られる計算電圧挙動値よりも所定の分以上小さい値となる範囲に劣化診断領域を設定し、かつ、計算電圧挙動値よりも所定の分以上大きい値となる範囲に異常診断領域を設定することが可能」、若しくは、「導出された計算式に温度を入力して得られる計算電圧挙動値よりも所定の分以上大きい値となる範囲に劣化診断領域を設定し、かつ、計算電圧挙動値よりも所定の分以上小さい値となる範囲に異常診断領域を設定することが可能」、とするのが好ましい。
【0051】
また、劣化診断領域を用いてバッテリ53が劣化したと判定可能であり、異常診断領域を用いて、バッテリ53に異常が生じていると判定可能であるバッテリ53の劣化判定システムとするのが好ましい。
【0052】
劣化判断領域や異常判断領域の設定は、あらかじめ判定条件設定部552に組み込まれているものであってもよいし、現場据付後など、利用者が必要なタイミングで設定できるように構成してもよい。
【0053】
上記した例では、外部情報である「温度」と「端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間」を用いて判定条件を設定したが、外部情報を温度以外にしてもよい。例えば、充電電流の「電流値」と「端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間」を用いて判定条件を設定することなどである(
図10参照)。
【0054】
また、複数種類の外部情報を利用して判定条件を設定するようにしてもよい。例えば、外気の「温度」と、充電電流の「電流値」と、「端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間」と、を用いて判定条件を設定することなどである(
図11参照)。
図11に示す例では、互いに直交する関係にあるX軸、Y軸、Z軸に対して、「温度」と、「電流値」と、「端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間」が一対一で対応している。複数種類の外部情報を利用して判定することで、より正確に劣化状況を判定することが可能となる。
【0055】
この例から理解されるように、判定条件設定部552は、蓄積データが有する電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測された複数種類のデータと、の相関関係から判定条件を設定可能である構成とするのが好ましい。
【0056】
なお、判定に利用する電圧挙動情報は一種類である必要はない。例えば、「端子電圧が充電開始から最大電圧未満に設定した所定電圧に達するまでの到達時間」、「バッテリ53の充電の終了時における電圧降下値」、「バッテリ53の放電の開始時における電圧降下値」、「バッテリ53の放電開始から端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間」、「バッテリ53の放電の終了時における電圧上昇値」、のうちの二つ以上を組み合わせて利用することができる。もちろん、上記例の全てを組み合わせて利用するようにしてもよい。例えば、上記例の全てについて、新たな計測で得られた値と比較し、そのうちの一種類でも問題があると判定される場合に、バッテリ53に問題がある旨の判定をしてもよいし、二種類以上の所定種類以上若しくは全てについて問題があると判定される場合にだけ、バッテリ53に問題がある旨の判定をしてもよい。
【0057】
ところで、計測により得られたデータを用いて判定条件を作成するためには、長い期間(例えば1年間)のデータを収集する必要がある。データの十分な蓄積がなされる前に劣化判断が必要な場合もあり得る。このように、蓄積したデータだけを用いた判定条件の作成が適切でない場合には、仮に入力しておいたデータと、蓄積したデータの双方を使用して判定条件を作成するようにしてもよい。
【0058】
例えば、基本的なデータをバックグラウンドデータとして仮に入力する。このバックグラウンドデータは、判定したいバッテリ53に関するものでも、バッテリ53を利用したい環境におけるものでもなくてよいが、同種類のバッテリ53について、判定したい環境若しくはそれに類似した環境で利用した場合のデータが存在するのであれば、そのデータを利用するのが好ましい。
【0059】
また、判定したいと考えているバッテリ53においても短期間(例えば1から3カ月)のデータを蓄積する。仮に入力したデータと、判定したいと考えているバッテリ53に関して計測したデータとを比較し、そのずれを確認する。例えば、仮に入力したデータから導いた回帰直線と、判定したいと考えているバッテリ53に関して計測したデータから導いた回帰直線を比較する。
【0060】
図12に示す例では、仮に入力したデータから導いた回帰直線の傾きと、判定したいと考えているバッテリ53に関して計測したデータから導いた回帰直線の傾きは類似しているが、その位置が異なる。つまり、一次関数的な表現をすれば、傾きは同様であるが切片が異なる。このような結果が得られた場合、例えば、仮に入力したデータから得られた回帰直線の傾きは維持して位置をずらしたものを判定条件に利用する計算式とする。
【0061】
いずれにせよ、仮に入力したデータから導いた回帰直線と、判定したいと考えているバッテリ53に関して計測したデータから導いた回帰直線を比較し、それらを基に、判定条件を設定するようにすればよい。例えば、短期的に得られたデータの数が少なかったり、全く存在しなかったりして、傾向が導き出せないような場合は、仮に入力したデータから導いた回帰直線を判定条件に設定するようにしてもよい。
【0062】
なお、当初は仮に入力したデータと、判定したいと考えているバッテリ53に関して計測したデータとを比較するように制御するが、測定データが十分に蓄積されたら、仮に入力したデータを用いないように制御するようにしてもよい。この場合、自動でそのように切り替えるようにしてもよいし、切り替えてよいか否かのメッセージを表示して利用者に判断を入力することをうながすようにしてもよい。この場合、利用者が切り替えない旨の入力をしたら、仮に入力したデータも利用して判定条件を作成すればよい。また、切り替える旨の入力をしたら、仮に入力したデータを利用せずに判定条件を作成すればよい。
【0063】
これらの記載から理解されるように、測定データが十分に蓄積されていなくても劣化判断をできるように構成するのが好ましい。
【0064】
ところで、実施形態の演算部553は、判定条件設定部552で設定した判定条件を基準として、新たに計測した電圧挙動情報と外部情報計測部のデータを当てはめ、バッテリ53の状態を判定する。より詳しくは、バッテリ53が劣化しているということと、バッテリ53に異常が生じているということの判定ができる。この判定を行うためには、新たに計測した電圧挙動情報と外部情報計測部のデータが、劣化判断領域にあるか否か、異常判断領域にあるか否かが確認される(
図13参照)。
【0065】
ところで、劣化判断の場合は、測定データが1回だけ劣化判断領域に入ったという場合には、劣化判断とはみなさないようにしてもよい。偶発的に測定データが1回だけ劣化判断領域に入るということはあり得るし、劣化であれば、使用に際して問題の起こる可能性が低いため、すぐに劣化と判定する必要性は低いからである。この場合、所定期間の間に計測されたデータが複数回劣化判断領域に属したとき(10日中に8回入った場合など)に劣化判断とするようにしてもよい(
図13参照)。なお、劣化判断がされたときに、出力部554から外部のPCやスマートフォンに通知可能な構成とするのが好ましい。
【0066】
なお、測定データが1回だけ劣化判断領域に入っただけでも、劣化とみなすようにしてもよい。また、劣化判断領域の中に「利用禁止領域」を設け、この「利用禁止領域」に属している場合にだけ、測定データが1回だけ劣化判断領域に入っただけでも、劣化とみなすようにしてもよい(
図14参照)。
【0067】
「利用禁止領域」は劣化判断領域の中でも、利用しても給電が短時間で停止してしまうことが想定されるような状況と対応するように設定することが好ましい。この場合、使用できない状態であることから、測定データが「利用禁止領域」に1回入っただけでも外部に通知することが好ましい。
【0068】
一方、異常判断領域に測定データが入った場合には、バッテリ53の異常による火災のリスクなどもある。このため、劣化判断に比べて、通知の重要性は高い。このため、1回でも測定データが異常判断領域に属せば、出力部554から警報通知をすることや、バッテリ53の動作を停止させるようにすることが考えられる(
図15参照)。
【0069】
ただし、偶発的に測定データが1回だけ異常判断領域に入るということはあり得るため、複数回測定データが異常判断領域に属した場合に、警報通知や、バッテリ53の動作の停止を実施することが考えられる。また、1回の確認では警報通知、複数回の確認によりバッテリ53の動作の停止といったように、確認された回数によって段階的に異なる制御がなされるようにしてもよい。
【0070】
いずれにせよ、バッテリ53が劣化しているという情報と、バッテリ53に異常が生じているという情報とを外部に出力可能な出力部554を備え、出力部554が、バッテリ53が劣化しているという情報を外部に出力するまでに、新たに計測した測定データが劣化診断領域に該当することが必要となる回数よりも、出力部554がバッテリ53に異常が生じているという情報を外部に出力するまでに、新たに計測した測定データが異常診断領域に該当することが必要となる回数の方が、少なくなるように設定可能な構成とするのが好ましい。
【0071】
ところで、充電は一定の電流でなされるとは限らない。バッテリ53への充電が商用電源などを用いて行われる場合は、定電流充電が可能だが、太陽光発電を用いた充電などの場合には、商用電源の充電とは異なり、時間当たりの電流容量(積算電流量)が一定とはなりにくいからである。
【0072】
つまり、充電は、定電流充電と非定電流充電が存在するが、非定電流充電は端子電圧が所定電圧に達するまでの温度などの外部環境の影響のほか、時間当たりの電流容量(積算電流量)のバラつきも考慮しないとならないため、定電流充電とは異なる判定を行うようにするのが好ましい。ただし、非定電流充電であっても実質的に電流変化量が小さい場合は、定電流充電と同じような判定プロセスを採用することができる(
図16参照)。
【0073】
そのため、バッテリ53への充電が定電流充電で行われたか、非定電流充電で行われたかの判定を行うようにするのが好ましい。なお、定電流充電か非定電流充電かの判定においては、積算電流やバッテリ53に充電される充電電流の変化量より判定をおこなえばよい。
【0074】
収集する測定データも、定電流充電で取得したデータであるのか、非定電流充電で取得したデータであるのかが区別できるように、それらを分けて蓄積するのが好ましい。また、それらが区別されて蓄積されたデータを用いて、それぞれの条件に合った判定条件を作ることができるように構成するのが好ましい。非定電流充電がなされる場合において電流の変化量が大きい場合は、その時得られたデータは定電流充電時に得られるデータと区別可能なように取得されるようにするのが好ましい。ただし、非定電流充電時に流れる電流であっても時間当たりの電流変化量や充電電流の変化量が少ない場合には、定電流充電時に得られるデータと区別可能なように取得されなくてもよい。また、区別は可能なように取得されるが、定電流充電時に得られるデータと同様な扱いがなされるようにしてもよい。
【0075】
ところで、非定電流充電の場合においては、積算電流値が所定電流に達した時の端子電圧を用いて判定を行うようにすればよい。非定電流充電の場合に積算電流を利用して判定を行うのは、同様に劣化した複数のバッテリ53に対して空の状態から積算値が特定な値となるまで電流を供給した場合、各々のバッテリ53は同じ端子電圧を示すからである(
図18参照)。
【0076】
つまり、積算電流と端子電圧は特定の対応関係にあるが、劣化度に応じて、その対応関係も変化が生じるため、積算電流と端子電圧を調べれば、劣化度を検証することができる。この関係は、定電流充電の場合においても同様であるが、定電流であると、充電時間と積算電流が概ね比例するため、積算電流という概念を持たなくても計算ができる。
【0077】
なお、非定電流充電においても、判定を行うようにするが、そのための測定データを蓄積して計算式を導出するようにするのは、定電流充電と同じようにすればよい。
図19に示す例では、端子電圧と積算電流の測定データを蓄積しており、蓄積されたデータを基に計算式を導出している。
図19に示す例においては、計算式は回帰直線であり、
図13に示す例のように、劣化判断領域と異常判断領域を設定している。ただし、
図19に示す例では、蓄積したデータは、積算電流と端子電圧であり、同じ積算電流でも端子電圧の値が大きくなっている場合には「劣化判断」、積算電流が同じでも端子電圧が小さい場合は「異常判断」を行うようにしている。
【0078】
非定電流充電においても、定電流充電と同じように、内部抵抗は外部の温度によって大小変化するため、蓄積データとしては、外気温度、端子電圧、積算電流の各々の相互の関係を考慮した蓄積とすることが好ましい。また、これらの各々の関係から劣化や異常の判定ができるようにするのが好ましい(
図20参照)。例えば、計算式で表される3次元の回帰曲面などを用いた判定条件を設定し、その計算式との関係で劣化判断や異常判断を行うように制御するのが好ましい。
【0079】
これらの記載から理解されるように、バッテリ53の端子電圧を測定可能な端子電圧検出部と、バッテリ53への充電電流、又は、積算電流を測定可能な電流計測部61と、バッテリ53の充電時または放電時の端子電圧の挙動に影響を与える情報の1つを計測可能な外部情報計測部と、外部情報計測部で計測されたデータを記憶可能な記憶部551と、記憶部551の情報をもとに判定条件を設定可能な判定条件設定部552と、判定条件設定部552で設定された判定条件をもとにした判定を行うための演算が可能な演算部553と、を備え、少なくとも端子電圧と積算電流と外部情報計測部で計測されたデータの情報が記憶部551に蓄積され、判定条件設定部552は、記憶部551に蓄積された端子電圧と積算電流と外部情報計測部で計測されたデータの情報を少なくとも用いて判定条件を設定可能であり、演算部553は、蓄積データをもとに作成した判定条件と、新たに計測した端子電圧と積算電流と外部情報計測部のデータと、を比較してバッテリ53の劣化について判定をすることが可能なバッテリ劣化判定システムとするのが好ましい。
【0080】
ここで、劣化などの判定を行うための比較データを収集する期間である蓄積データ収集期間が、バッテリ53の判定を行う判定期間と分けて設定される場合を考える(
図21参照)。蓄積データ収集期間に収集されるデータは、バッテリ53の変化の判定を行うために必要なデータであるが、蓄積データ収集期間に収集されるデータであっても、部分的には正常な値ではないこともあり得る。しかしながら、判定期間における判定への影響を考えると、異常値は記憶されない方が好ましい。また、場合によっては、そのようなデータが生じる状態で使い続けることが好ましくない場合もある。
【0081】
このため、蓄積データ収集期間に得られたデータが異常値を示しているか否かを判定できるようにするのが好ましい。また、蓄積データ収集期間に収集されるデータに関する判定は、判定期間中に利用される判定条件とは別に設定された判定条件を用いてなされるようにするのが好ましい。判定期間で行われる判定とは異なる観点から判定ができるようにするのが好ましいからである。
【0082】
図22に示す例では、収集した複数のデータの中に異常値を示すものが存在していたことを示している。具体的には、異常値と判定される範囲を太帯状に示しており、この範囲に位置するデータは異常値を示しているということが分かる。この場合、データを複数収集した上で、その中に異常値を示すデータが存在するか否かを判定しているが、データ収集中に、都度、判定を行うようにしてもよい。
【0083】
この例では、バッテリ劣化判定システムに、電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測されたデータと、を所定期間分有する蓄積データを収集する期間である蓄積データ収集期間が設定されている。また、蓄積データをもとにバッテリ53の判定条件を作成し、新たに測定した測定データの判定を行う判定期間(例えば1年後)も設定されている。更には、蓄積データ収集時判定手段に、この蓄積データ収集期間においてだけ利用する異常劣化判定条件を設定している。
【0084】
実施形態においては、蓄積データ収集期間に利用される異常劣化判定条件について、蓄積データのうちの一つのデータが他のデータから大きく外れて1回のみ異常劣化判定条件に引っ掛かる場合は、蓄積データとして記憶しないように設定している。また、連続した時間において何度も異常劣化判定条件に引っ掛かる場合は、異常・劣化を判定するようにしている。このようにすることで異常・劣化の判定の精度を高めることが可能となる。
【0085】
ところで、蓄積データ収集期間に用いられる異常劣化判定条件においては、特定の状況に至ったことを判定できるように、異常劣化判定条件を複数種類設けるのが好ましい。異常劣化判定条件を複数種類設けることで、異常劣化判定条件に該当する範囲を複数に分けることができる(
図23参照)。このようにすれば、問題の原因を判別することが可能となる。
【0086】
図23に示す例では、異常劣化判定条件に該当する領域を、4つの領域に分けている。I領域は、バッテリ53の温度が低い状況を示しており、II領域は、バッテリ53の温度が高い状況を示しており、III領域はバッテリ53が所定の電圧になるまでの時間が通常よりも長い状況であることを示しており、IV領域はバッテリ53が所定の電圧になるまでの時間が通常よりも短い状況であることを示している。
【0087】
III領域やIV領域に該当する場合は、電池が急速に劣化している、または、電池が異常状態であると判定することができる。これは、通常時の判定と同様である。I領域やII領域に該当する場合は、バッテリ53の温度が低すぎるか、高すぎる。その場合には、バッテリ53の使用環境として適した温度範囲外で使用されていることやセンサ側の異常が推測できる。つまり、I領域やII領域に該当する場合は、III領域やIV領域に該当する場合と異なり、バッテリ53以外に問題があり得ることを判定することができる。
【0088】
I領域やII領域に該当する場合は、例えば、バッテリ53が使うべき環境で使われていないおそれがあることや、バッテリ53の温度を計測するセンサなどに異常が生じているおそれがあることを通知するのが好ましい。
【0089】
これらの記載から理解されるように、所定期間分の電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測された所定期間分のデータと、を有する蓄積データの収集期間である蓄積データ収集期間と、蓄積データ収集期間に得られた蓄積データをもとにバッテリ53の判定条件を作成し判定を行うことが可能な判定期間と、が設定され、蓄積データ収集期間に利用される異常劣化判定条件を、判定期間に利用される判定条件とは別に設ける蓄積データ収集時判定手段を備える構成とするのが好ましい。これは、蓄積データ収集期間に収集されるデータに関する判定を、判定期間中に利用される判定条件とは別に設定された判定条件を用いてなされるようにすることで、蓄積データ収集時におけるバッテリ53の異常や劣化を判断することだけではなく、バッテリ53の利用環境の適切性の判断などシステム自体の判断をすることも可能となるからである。
【0090】
ところで、継続してデータの収集をしていくことにより、蓄積データ収集期間であってもバッテリ53が劣化していくことや、バッテリ53の利用開始時期など(暑い季節から開始するか、寒い季節から開始するかなど)によってデータの得られ方に差が生じ得ることがわかっている(
図24参照)。
図24に示す例では、春や秋に学習を開始した場合には、中温度帯のデータのバラつきが大きく、高温・低温度帯のデータのバラつきが小さくなる。また、夏や冬に学習を開始した場合には開始した季節の温度帯のデータのバラつきが大きく、その温度帯から離れるにつれデータのバラつきが小さくなる。
【0091】
このようなデータのありかたを検討する中で、蓄積したデータから近似直線を求める手法ではなく、蓄積したデータから二次元的な広がりのある特定区域を求める手法を採用することに思い至った(
図25参照)。
【0092】
既に記載したことから理解されるように、経年変化により所定の電圧とするまでにかけられる時間は短くなる。このため、近似直線を求める手法では、例えば、一年ごとに近似直線の切片が小さくなる。蓄積データから特定区域を求める場合であっても、同様な理由により、特定区域の位置にずれが生じる(
図26参照)。
【0093】
図26に示す例では、経年変化により、特定区域が下方に向けて移動する。劣化などに判定においては特定区域の移動の程度を基準に行えばよい。蓄積データから特定区域を求めて、その移動の程度を判定に利用するようにすれば、回帰直線を求める場合と同等か、それ以上の精度の結果を期待できる。なお、特定区域に関しては、例えば、その特定区域内に蓄積データの全て若しくは主要部を含みつつ面積を小さくするような形状を導き出すように演算をするなどして求めればよい。
【0094】
これらの記載から理解されるように、電圧挙動情報と外部情報計測部で計測されたデータを所定期間分有する蓄積データから二次元の広がりを有する特定区域を設定する特定区域生成手段を備える構成とするのが好ましい。なお、本実施形態としては到達時間と温度との関係性により二次元の広がりを有する特定区域として設定したものであるが、積算電流-到達時間など複数のものであっても良いし、到達時間と温度と積算電流の関係性により三次元の広がりを特定区域として設定するもので合っても良い。
【0095】
ところで、特定区域生成手段を用いて二次元の広がりを有する特定区域を設定するような場合でも、経年劣化などによる特定区域の移動があることは上記した通りであるため、異常判断領域や、劣化判断領域を設定し、異常や劣化のサインを検知できるようにするのが好ましい。また、この場合、異常判断領域や、劣化判断領域を、特定区域生成手段を用いて設定する特定区域に対応するように設定するのが好ましい(
図27参照)。
【0096】
ここで、回帰直線や特定区域の導き方の例について説明をする。回帰直線は、通常通り、全てのデータと直線との距離が短くなるように、最小二乗法を用いて直線式を導くことが例示できる。ただし、各温度帯における到達時間の分布を把握し、その結果を用いて回帰直線を導くようにしてもよい。例えば、各温度帯の平均値±標準偏差n個分(nは自然数)に該当するデータを選別し、それらに最小二乗法を用いて回帰直線を導くようなことである(
図28及び
図29参照)。
【0097】
また、特定区域生成手段を用いて特定区域を設定する場合も各温度帯における到達時間の分布を把握し、その結果を用いて導くようにしてもよい。例えば、
図28に示すように各温度帯における到達時間の分布を把握し、その結果を用いて特定区域を設定するようにしてもよい。例えば、各温度帯の平均値±標準偏差n個分(nは自然数)をその温度帯の区域部分とし(
図29参照)、各温度帯の区域部分を統合して、特定区域全体を導くようなことである。なお、近似曲線を用いて特定区域を導き出してもよい。
【0098】
ところで、蓄積データ収集期間においても、収集されたデータを利用してバッテリ53について判定を行いたい場合もあり得る。しかし、収集済みのデータが少ない場合に、そのような要望が生じることも考えられる。そこで、収集済みのデータを基に、疑似データを作成し、それらも含めて判定に利用するようにしてもよい。
【0099】
例えば、得られたデータのいくつかについて、そのデータが属する温度における到達時間を分散して配置するように疑似データを作成する(
図30参照)。もちろん、そのデータが属する到達時間における温度を分散して配置するように疑似データを作成するようにしてもよい。また、そのデータから到達時間及び温度が分散するように疑似データを配置してもよい(
図31参照)。なお、実際にデータが所定数蓄積できた場合には、疑似データを削除するなどして、実際に計測されたデータのみで判定条件を作るように自動的に設定されるように制御することが好ましい。
【0100】
ところで、バッテリ53は、使用回数や使用年数によって徐々に劣化し、容量が減るものであるが、急激にバッテリ53の劣化が進む可能性もある。その場合、劣化判断領域に入っているという結果がでうるタイミングと、劣化症状の発生しているタイミングに大きくずれが生じる可能性もある。このため、劣化が急激に進行していることを把握できるようにするのが好ましい。
【0101】
そこで、電圧挙動情報と外部情報計測部のデータを所定期間ごとに取得し、所定の数値の変化の加速度が所定以上になった場合に、問題が生じていると判定できるようにするのが好ましい。
【0102】
例えば、所定の温度における、ある数値の変化に着目し、その変化の加速度を確認する。
図32に示す例では、所定の温度における到達時間の変化に着目している。ある時点から4年経過後まで、毎年、データを確認しているが、1から4年までは略同じペースで到達時間が短くなっているが、4年目から5年目への到達時間の変化はそれまでよりもかなり大きくなっている。つまり、1年単位で見た変化の変化率が大幅に異なっている。ここから、バッテリ53の劣化が急激に進行していることを確認することができる。なお、閾値としては前回の数値の1.5倍などとすることが例示できる。例えば、このような閾値以上の変化があった場合に、突発的な変化が生じていると判定するようにすればよい。
【0103】
図32に示す例では、ある温度における「バッテリ53の充電開始から端子電圧が所定電圧に達するまでの到達時間」の長さの変化を見ているが、そのような例に限る必要はない。例えば、回帰直線同士を比較するようにしてもよい(
図33参照)。ただし、この場合は、各年の回帰直線の傾きが同様であり、切片がいずれも異なる場合に適用可能である。また、回帰直線を利用する場合ではなく、特定区域生成手段を用いて特定区域を設定する場合でも、同様なことは可能である(
図34参照)。
【0104】
なお、上記した例では、劣化に向かった変化を例示したが、異常に向かう変化についても突発的に生じ得るものとして到達時間の変化を見るものであっても良い。(
図35(a)参照)。
図35に示す例の場合、1から3年までは略同じペースで到達時間が長くなっているが、3年目から4年目への到達時間の変化はそれまでよりもかなり大きくなっている。また、バッテリ53の利用により、年度ごとに、回帰直線、または、特定区域は劣化判断領域に向かう変化になると考えられる。ここで、異常判断領域が固定の状態であれば、年度ごとに異常判断領域との距離が離れてしまい、到達時間が急激に遅くなったとしても異常判断領域に達せず正常と判断してしまう虞がある。そのため、異常判断領域も回帰直線、または特定区域に応じて変動するようにするものであっても良い。(
図35(b)参照)。
【0105】
なお、
図36に示すことから理解されるように、各年均等に能力が低下するわけではなく、緩やかながら単位期間の能力の変化の幅は変化するのが通常である。ただし、この変化の幅が急激に上昇するのは、何らかの問題が生じたからである。特に、劣化判断領域や異常判断領域に至る前にこのような事象が見られるのは、正常製品では想定されない何らかの問題が生じたサインといえる。
【0106】
これらの記載から理解されるように、電圧挙動情報と外部情報計測部のデータを所定期間ごとに取得し、取得した数値の変化、若しくは、取得した数値を用いて導かれる所定の数値の変化が所定以上になった場合に、問題が生じていると判定する突発変化判定手段を備える構成とするのが好ましい。
【0107】
また、単位期間の計測において最大値と最小値の差を比較することで劣化などの判定を可能とする変化幅判定手段を備えるようにしてもよい。
図37では、特定区域生成手段を用いて特定区域を設定する例を示しており、この特定区域の最大値と最小値の差を変化幅判定手段で見ている。
【0108】
特定区域の最大値と最小値の差が閾値を超えているか否かで、問題が生じているか否かを判定するようにしてもよいし、特定区域の最大値と最小値の差の変化割合などで、問題が生じているか否かを判定するようにしてもよい(
図38参照)。例えば、n-2年目とn-1年目の数値の差と、n-1年目とn年目度の数値の差を比較し、後者が極端に大きくなった場合は、閾値に達してなくても、問題が生じていると判定するようなことである。バッテリ劣化判定システムは、劣化などの問題が生じていると判定される場合に、バッテリ53の交換を促すように出力する構成としてもよい。
【0109】
ところで、電圧挙動情報と外部計測情報のデータは、いつからいつまで使用する、放電電流を何時間使うなどの使用条件を定めて蓄積を行うのが好ましい。これは、使用条件が異なる場合、蓄積データの判定に問題が生じ得るからである。そこで、実施形態においては、バッテリ53の運用方法が変更された場合に、蓄電池の利用条件を認識できるようにしている。また、認識された利用条件ごとにデータを蓄積することができる。更には、利用条件ごとに整理されたバッテリ53の蓄積データをもって判断を行うことを可能とする利用条件判定手段を備えている。
【0110】
計測データからバッテリ53の利用条件(例えば、
図39に示す例であれば、A条件からC条件)に該当する蓄積されたデータを選択するように判定する。選定された過去のデータと、判定をしたいバッテリ53の最新のデータを比較すれば、条件による特性の変化に対応することが可能となる。つまり、使用条件に応じて蓄積データを蓄積しておくことにより、使用条件に応じ判定条件を変更することができるため、使用条件の違いによる誤差の発生を抑制することができる。
【0111】
これらの記載から理解されるように、バッテリ53の利用条件を記憶可能とし、蓄積データは、電圧挙動情報と、外部情報計測部で計測されたデータと、をバッテリ53の利用条件ごとに所定期間分有し、バッテリ53の利用条件に応じた判定条件で判定をすることが可能な構成とするのが好ましい。
【0112】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば計算式は回帰直線や回帰曲面以外により求められてもよい。
【符号の説明】
【0113】
53 バッテリ
551 記憶部
552 判定条件設定部
553 演算部
554 出力部