(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018985
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20250130BHJP
G01R 21/133 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
G01R19/00 D
G01R21/133 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024116721
(22)【出願日】2024-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2023122599
(32)【優先日】2023-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 和延
【テーマコード(参考)】
2G035
【Fターム(参考)】
2G035AA04
2G035AA18
2G035AB07
2G035AD10
2G035AD14
2G035AD20
2G035AD55
2G035AD65
(57)【要約】
【課題】入力抵抗に寄生する容量に起因する測定精度の低下を抑制する。
【解決手段】
測定装置1は、測定対象に生じる電位の大きさを示す第一信号が入力される第一入力端子と、一端が第一入力端子に接続される入力抵抗111と、一端が入力抵抗111の他端に接続されると共に他端が基準電位に接続される第一抵抗112と、を備える第一入力回路11を含む。さらに測定装置1は、測定対象に流れる電流の大きさを示す第二信号が入力される第二入力端子を備える第二入力回路12を含み、第一入力回路11及び第二入力回路12の出力信号に基づいて測定対象の物理量を演算する。そして測定装置1は、第二入力回路21の出力信号に対し、入力抵抗111に寄生する容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112によって構成されるフィルタの周波数特性を補償する処理を施す。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に生じる電位の大きさを示す第一信号が入力される第一入力端子、一端が前記第一入力端子に接続される入力抵抗、及び、一端が前記入力抵抗の他端に接続されると共に他端が基準電位に接続される第一抵抗を備える第一入力回路と、
前記測定対象に流れる電流の大きさを示す第二信号が入力される第二入力端子を備える第二入力回路と、
前記第一入力回路及び前記第二入力回路の出力信号に基づいて前記測定対象の物理量を演算する演算手段と、を含み、
前記第二入力回路の出力信号に対し、前記入力抵抗に寄生する容量、前記入力抵抗及び前記第一抵抗によって構成されるフィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償手段を備える、
測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記補償手段は、前記第二入力回路の出力信号に対して一次のローパスフィルタ処理を施す、
測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記第一入力回路の出力信号に対してローパスフィルタ処理を施す第一フィルタ手段を含み、
前記補償手段は、前記第二入力回路の出力信号に対し、前記第一フィルタ手段の次数よりも一つ大きい次数のローパスフィルタ処理を施す、
測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の測定装置であって、
前記第一フィルタ手段は、前記第一入力回路に接続され、折り返し雑音を抑制するフィルタ回路であり、
前記補償手段は、前記第二入力回路に接続され、能動素子を有するアクティブフィルタ回路である、
測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の測定装置であって、
前記フィルタ回路は、二次のローパスフィルタ回路であり、
前記アクティブフィルタ回路は、三次のゲッフェ型ローパスフィルタ回路である、
測定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記補償手段は、前記第二入力回路の出力信号に対し、前記フィルタの周波数特性を補償する処理としてローパスフィルタ処理を施すプロセッサである、
測定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の測定装置であって、
前記入力抵抗及び前記第一抵抗の抵抗値は、前記第一信号の入力レベルが前記入力抵抗の他端から出力されるときに前記第二入力回路の入力レベルと同等のレベルまで減衰されるような大きさに定められる、
測定装置。
【請求項8】
入力抵抗、及び、一端が前記入力抵抗の一端に接続されると共に他端が基準電位に接続される第一抵抗を備える第一入力回路の前記入力抵抗の他端に、測定対象に生じる電位の大きさを示す第一信号が入力される第一入力ステップと、
第二入力回路に、前記測定対象に流れる電流の大きさを示す第二信号が入力される第二入力ステップと、
前記第二入力回路の出力信号に対し、前記入力抵抗に寄生する容量、前記入力抵抗及び前記第一抵抗によって構成されるフィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償ステップと、
前記第一入力回路の出力信号と前記補償ステップで前記処理が施された前記第二入力回路の出力信号とに基づいて前記測定対象の物理量を演算する演算ステップと、
を含む測定方法。
【請求項9】
入力抵抗、及び、一端が前記入力抵抗の一端に接続されると共に他端が基準電位に接続される第一抵抗を備え、測定対象に生じる電位の大きさを示す第一信号が前記入力抵抗の他端に入力された第一入力回路の出力信号と、前記測定対象に流れる電流の大きさを示す第二信号が入力された第二入力回路の出力信号と、を取得するコンピュータに
前記第二入力回路の出力信号に対し、前記入力抵抗に寄生する容量、前記入力抵抗及び前記第一抵抗によって構成されるフィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償ステップと、
前記第一入力回路の出力信号と前記補償ステップで前記処理が施された前記第二入力回路の出力信号とに基づいて前記測定対象の物理量を演算する演算ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象の物理量を演算する測定装置、測定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電圧検出部から出力される電圧信号と電流検出部から出力される電流信号とに基づいて電力を算出する測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような測定装置においては、電流信号の振幅レベルに比べ電圧信号の振幅レベルが大きいものが存在し、このような測定装置には、入力する電圧信号の振幅レベルを減衰させるためのアッテネータとして入力抵抗が配置されることが多い。
【0005】
しかしながら、アッテネータの抵抗値を大きくすると、アッテネータの抵抗及び寄生容量で構成されるフィルタの周波数特性の影響が大きくなり、電圧信号の周波数特性は損なわれてしまう。その結果、電圧信号の周波数特性が損なわれる帯域では、電圧検出部から出力されてアッテネータを通じて測定装置に入力される電圧信号と、電流検出部から出力されてそのまま測定装置に入力される電流信号との間で位相ズレが発生してしまい、電圧信号及び電流信号から求められる物理量の測定精度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、アッテネータのような入力抵抗に寄生する容量に起因する測定精度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、測定装置は、測定対象に生じる電位の大きさを示す第一信号が入力される第一入力端子と、一端が前記第一入力端子に接続される入力抵抗と、一端が前記入力抵抗の他端に接続されると共に他端が基準電位に接続される第一抵抗と、を備える第一入力回路を備える。さらに測定装置は、前記測定対象に流れる電流の大きさを示す第二信号が入力される第二入力端子を備える第二入力回路と、前記第一入力回路及び前記第二入力回路の出力信号に基づいて前記測定対象の物理量を演算する演算手段と、を含む。そして測定装置は、前記第二入力回路の出力信号に対し、前記入力抵抗に寄生する容量、前記入力抵抗及び前記第一抵抗によって構成されるフィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償手段を備える。
【発明の効果】
【0008】
上記の態様によれば、補償手段により、第一入力回路の入力抵抗、第一抵抗及び寄生容量で構成されるフィルタの周波数特性が第二入力回路の出力信号に付加されるので、第一入力回路及び第二入力回路間の周波数特性のズレを低減することができる。
【0009】
したがって、物理量の演算に用いられる第一入力回路の出力信号及び第二入力回路の出力信号間の位相ズレが小さくなるので、測定対象の物理量を精度よく測定することができる。すなわち、アッテネータのような入力抵抗に寄生する容量に起因する測定精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第一実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、測定装置の二つのチャネル入力部の回路構成を示す回路図である。
【
図3】
図3は、二つのチャネル入力部のLPF回路の構成例を示す回路図である。
【
図4】
図4は、第一の入力部に備えられた入力抵抗の寄生容量に起因する周波数特性の悪化を補償する第二の入力部に備えられた補償回路の周波数特性を説明するための図である。
【
図5】
図5は、測定装置により実行される測定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第二実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【
図7】
図7は、第二の入力部に備えられた補償LPF回路の構成例を示す回路図である。
【
図8】
図8は、第三実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【
図9】
図9は、第四実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。本明細書においては、全体を通じて、同一又は同等の要素には同一の符号を付する。
【0012】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態に係る測定装置の回路構成を示す回路図である。
【0013】
第一実施形態の測定装置1は、複数のチャネルに入力される電気信号を測定するための装置であり、測定対象の物理量を測定する。測定対象としては、例えば、電力を伝送する電線、電力変換装置、及び電力供給装置などが挙げられる。第一実施形態の測定対象は電線である。
【0014】
測定装置1によって測定される物理量(測定量)としては、測定対象の電力及び電力効率、測定対象のインピーダンス、並びに入力信号間の位相差などが挙げられる。第一実施形態の測定量は、電線に伝送される電力の大きさである。
【0015】
測定装置1は、プロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インターフェース、及び、これらを相互に接続するバスなどによって構成されるコンピュータである。プロセッサとしては、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processor Unit)などが挙げられる。
【0016】
測定装置1は、電圧チャネル入力部10と、電流チャネル入力部20と、処理部30と、記憶部40と、表示部50と、操作部60と、を備える。
【0017】
電圧チャネル入力部10は、測定対象に生じる電位の大きさを示すアナログの入力信号をデジタル信号に変換する。電圧チャネル入力部10は、変換したデジタル信号を電圧測定データとして処理部30に出力する。
【0018】
電流チャネル入力部20は、測定対象に流れる電流の大きさを示すアナログの入力信号をデジタル信号に変換する。電流チャネル入力部20は、変換したデジタル信号を電流測定データとして処理部30に出力する。
【0019】
処理部30は、電圧チャネル入力部10及び電流チャネル入力部20の出力信号に基づいて測定対象の物理量を演算する。第一実施形態の処理部30は、測定対象となる電線に伝送される電力を演算する。処理部30は、一又は複数のプロセッサによって構成される。
【0020】
記憶部40は、例えば、処理部30により得られる演算結果、及び測定条件などを記憶する。また、記憶部40には、測定装置1の動作を制御するためのプログラムが記憶されている。記憶部40は、上記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、ROM及びRAMにより構成される。
【0021】
表示部50は、上記の測定結果又は測定条件などを表示する。表示部50は、例えば、利用者が情報を視認可能、かつ利用者が操作可能なようにタッチパネルにより構成される。これに代えて表示部50は、液晶ディスプレイ又はLEDディスプレイなどにより構成されてもよい。
【0022】
操作部60は、表示画面の周囲に設けられる複数の押しボタン、表示画面内に配置されるタッチセンサ、又は、キーボード及びマウスなどによって構成される。操作部60は、利用者の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作の内容を示す操作信号を生成する。
【0023】
入力操作としては、例えば、電源ボタンを押下する操作、測定条件及び表示条件を設定する操作、及び測定処理の開始又は終了を指示する操作などが挙げられる。操作部60は、生成した操作信号を処理部30に出力する。
【0024】
図2は、電圧チャネル入力部10及び電流チャネル入力部20回路構成の一例を示す回路図である。
【0025】
図2に示すように、第一実施形態の電圧チャネル入力部10には電圧信号Svが入力され、電流チャネル入力部20には電流信号Siが入力される。
【0026】
電圧信号Svは、測定対象に生じる電位の大きさを示す第一信号である。第一実施形態の電圧信号Svは、電線の電圧を取り出すクリップ又は端子などから出力される電圧検出信号である。第一実施形態では、電圧信号Svの振幅レベルは、電流信号Siの振幅レベルに比べて大きい。
【0027】
電流信号Siは、測定対象に流れる電流の大きさを示す第二信号である。第一実施形態の電流信号Siは、測定対象の電線に流れる電流を検出する電流センサから出力される電流検出信号である。電流センサとしては、例えば、電線をクランプした状態でその電線に流れる電流を非接触で検出する電流センサが用いられる。
【0028】
電圧チャネル入力部10の電圧端子1Aは、電圧信号Svが入力される第一入力端子であり、電流チャネル入力部20の電流端子1Bは、電流信号Siが入力される第二入力端子である。
【0029】
電圧端子1Aには、例えば1[Hz]から数[MHz]までの周波数を有する電圧信号Svが入力される。また、第一実施形態の電圧信号Svの大きさは、数百[V]から数[kV]の高電圧である。
【0030】
電圧チャネル入力部10は、電圧信号Svを入力してアナログの電圧信号Svをデジタルの電圧値に変換した電圧測定データを出力する。第一実施形態の電圧チャネル入力部10は、入力回路11と、LPF回路12と、ADコンバータ13と、を備える。
【0031】
入力回路11は、電圧センサからの電圧信号Svが入力される電圧端子1Aと、一端が電圧端子1Aに接続される入力抵抗111と、一端が入力抵抗111の一端に接続されると共に他端が基準電位Gに接続される第一抵抗112と、を備える第一入力回路である。
【0032】
第一実施形態の入力回路11は、電圧センサの出力電圧を測定する電圧測定回路として機能し、入力抵抗111と、第一抵抗112と、バッファ回路113と、を備える。
【0033】
入力抵抗111は、電圧端子1Aから電圧信号Svが入力される電気抵抗であり、入力抵抗111には、入力抵抗111に寄生する寄生容量Cpが付加される。
【0034】
入力抵抗111は、電圧信号Svの振幅レベルが電流信号Siの振幅レベルに比べて大きいことから、電圧信号Svの振幅レベルがバッファ回路113の入力レンジに収まるように電圧信号Svの振幅レベルを減衰させるのに用いられる。第一実施形態の入力抵抗111及び第一抵抗112の抵抗値は、電圧信号Svの信号レベルが、入力回路21の入力レベルと同等のレベルまで減衰されるような大きさに定められる。
【0035】
入力抵抗111は、一又は複数の抵抗素子からなり、例えば、一般の抵抗器、又は一般の抵抗器の耐電圧よりも高い電圧で使用可能な高耐圧抵抗器によって実現される。第一実施形態の入力抵抗111は、数百[kΩ]から数[MΩ]までの範囲内の抵抗値を有する高耐圧抵抗器によって構成されている。
【0036】
上述した高耐圧抵抗器には、抵抗値を大きくするために、抵抗パターンの経路が長くなるよう電極間に多数の折り返し部を有する蛇行形状の抵抗パターンが形成されている。その結果、抵抗パターンに形成された多数の折り返し部と、基準電位Gとの間で、分布定数回路のように多数の容量結合が連続して分布する。
【0037】
このように高耐圧抵抗器には、電極間に沿って多数の静電容量成分が連続的に寄生していることから、
図1には、多数の容量結合を合成した合成容量が寄生容量Cpとして示されている。第一実施形態の寄生容量Cpの合成値は、例えば数[pF]の容量値を有する。
【0038】
この寄生容量Cpの存在により入力抵抗111の周波数特性を損ねてしまう。具体的には、寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112で構成されるフィルタ(RC回路)が持つ周波数特性により、電圧チャネル入力部10の周波数特性の平坦性が悪化する。例えば、数百[kHz]又は数[MHz]あたりから電圧チャネル入力部10の周波数特性が低下してしまう。
【0039】
ここにいう周波数特性には、振幅及び位相の周波数特性が含まれる。また、以下では、寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112によって構成されるフィルタのことを寄生フィルタとも称する。
【0040】
第一抵抗112は、電圧信号Svを分圧するための電気抵抗である。第一抵抗112の抵抗値は、入力抵抗111及び第一抵抗112によって分圧された減衰後の電圧信号Svのレベルが、バッファ回路113の入力レンジに収まるように定められた電圧信号Svの減衰量となるよう、入力抵抗111の抵抗値に応じて設計される。第一実施形態の第一抵抗112の抵抗値は、例えば数百[Ω]から百[kΩ]までの範囲内の大きさに定められる。
【0041】
バッファ回路113は、減衰後の電圧信号Svとして第一抵抗112の両端間に生じる電圧を、検出値から測定値に変換するための所定の利得で増幅し、増幅後の電圧信号Svを電圧測定信号としてLPF回路12に出力する。
【0042】
続いて、入力回路11の接続構成について説明する。入力回路11において、電圧端子1Aが入力抵抗111の一端である入力端に接続され、入力抵抗111の他端である出力端が、第一抵抗112の一端及びバッファ回路113の入力端にそれぞれ接続されている。また、第一抵抗112の他端が基準電位Gに接続される。
【0043】
LPF回路12は、入力回路11の出力信号に対してローパスフィルタ処理を施す第一フィルタ手段として機能するアナログ回路である。LPF回路12は、入力回路11の出力端に接続され、折り返し雑音の抑制(アンチエリアシング)を目的としたフィルタ回路である。
【0044】
第一実施形態のLPF回路12は、ADコンバータ13での折り返し雑音の発生を抑制する役割を果たすアンチエイリアシングフィルタである。LPF回路12は、例えば、二次のローパスフィルタ回路により構成される。第一実施形態では、LPF回路12は、能動素子を有するアクティブフィルタによって実現される。
【0045】
例えば、LPF回路12は、二次のVCVS(Voltage Controlled Voltage Source)型フィルタによって構成される。LPF回路12の構成例については、
図3を参照して後述する。LPF回路12は、ローパスフィルタ処理後の電圧測定信号をADコンバータ13に出力する。
【0046】
ADコンバータ13は、LPF回路12の出力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。そしてADコンバータ13は、電圧信号Svの測定値を示す変換後のデジタル信号を電圧測定データとして処理部30に出力する。
【0047】
次に、電流チャネル入力部20の構成について説明する。
【0048】
電流チャネル入力部20は、電流信号Siを入力してアナログの電流信号Siをデジタルの電圧値に変換した電流測定データを出力する。第一実施形態の電流チャネル入力部20は、入力回路21と、補償回路22と、LPF回路23と、ADコンバータ24と、を備える。
【0049】
入力回路21は、電流センサからの電流信号Siが入力される電流端子1Bを備える第二入力回路である。第一実施形態の入力回路21は、電流センサの出力電圧を測定する測定回路として機能し、バッファ回路211を備える。
【0050】
バッファ回路211は、電流信号Siとして第一抵抗112の両端間に生じる電圧を、検出値から測定値に変換するための所定の利得で増幅し、増幅後の電流信号Siを電流測定信号として補償回路22に出力する。
【0051】
入力回路21の接続構成としては、電流端子1Bにバッファ回路211の入力端が接続され、バッファ回路211の出力端が入力回路21の出力端を構成する。
【0052】
第一実施形態のバッファ回路211は、バッファ回路113の周波数特性と同等の周波数特性となるように回路定数が設計される。なお、入力回路21は、バッファ回路211に代えてシャント抵抗によって構成されてもよい。また、バッファ回路211の入力端と基準電位Gとの間には抵抗素子が接続されてもよい。
【0053】
補償回路22は、入力回路21の出力信号に対し、入力回路11の入力抵抗111に寄生する寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112によって構成される寄生フィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償手段として機能する。
【0054】
第一実施形態の補償回路22は、アナログのLPF回路により実現される。補償回路22は、寄生容量Cpに起因する入力回路11及び21の出力信号同士の周波数特性のズレが小さくなるよう、入力信号に対して一次のローパスフィルタ処理を施すアクティブフィルタによって実現することが望ましい。
【0055】
具体例として、
図2に示す補償回路22は、抵抗素子221と、コンデンサ222と、バッファ回路223と、を備える。
【0056】
抵抗素子221の抵抗値及びコンデンサ222の容量値は、補償回路22の周波数特性が、寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112からなる寄生フィルタの周波数特性と一致するように定められる。
【0057】
例えば、抵抗素子221での熱雑音の発生が抑えられるよう、抵抗素子221の抵抗値は、数[kΩ]から数十[kΩ]までの範囲内の大きさに定められる。一方、コンデンサ222の容量値は、補償回路22の周波数特性が寄生フィルタの周波数特性と同等になるよう、抵抗素子221の抵抗値に応じて、例えば数十[pF]の大きさに定められる。
【0058】
具体例として、補償回路22のカットオフ周波数が720[kHz]となるよう回路定数を設計する場合は、抵抗素子221の抵抗値は10[kΩ]、コンデンサ222の容量値は22[pF]に定められる。
【0059】
補償回路22の接続構成としては、入力回路21のバッファ回路211の出力端に抵抗素子221の一端が接続され、抵抗素子221の他端が、コンデンサ222の一端及びバッファ回路223の入力端に接続される。そしてコンデンサ222の他端が基準電位Gに接続される。
【0060】
補償回路22は、入力回路21から出力される電流測定信号に対して一次のローパスファイルタ処理を施す。そして補償回路22は、処理後の電流測定信号をLPF回路23に出力する。
【0061】
LPF回路23は、補償回路22の出力信号に対してローパスフィルタ処理を施すアナログ回路である。LPF回路23は、LPF回路12と同様、アンチエイリアシングフィルタとしての役割を果たす。
【0062】
第一実施形態のLPF回路23の構成は、LPF回路12の構成と同一である。LPF回路23は、ローパスフィルタ処理を施した電流測定信号をADコンバータ24に出力する。
【0063】
ADコンバータ24は、LPF回路23の出力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。そしてADコンバータ24は、電流信号Siの測定値を示す変換後のデジタル信号を電流測定データとして処理部30に出力する。
【0064】
処理部30は、入力回路11及び入力回路21の出力信号に基づいて測定対象の物理量を演算する演算手段として機能する。
【0065】
第一実施形態の処理部30は、電圧チャネル入力部10から出力される電圧測定データと、電流チャネル入力部20から出力される電流測定データと、に基づいて測定対象の物理量を演算する。具体的には、処理部30は、電圧測定データに示される電圧値と、電流測定データに示される電流値とを用いて、測定対象となる電線の伝送電力の大きさを演算する。
【0066】
また、処理部30は、電圧測定データに示される電圧値と、電流測定データに示される電流値とを用いて、電圧信号Sv及び電流信号Si間の位相差を算出するものであってもよい。
【0067】
例えば、測定対象が二次電池又は燃料電池などの蓄電デバイスである場合は、処理部30は、電圧測定データ及び電流測定データを用いて蓄電デバイスの内部インピーダンスを演算してもよい。
【0068】
なお、第一実施形態の補償回路22は、抵抗素子221及びコンデンサ222を有するRC回路で構成されているが、抵抗及びコイルを有するRL回路で構成されるものでもよく、抵抗素子、コンデンサ及びコイルを組み合わせて構成されるものであってもよい。
【0069】
続いて、LPF回路12及びLPF回路23について
図3を参照して説明する。上述の通り、LPF回路12の回路構成とLPF回路23の回路構成とは同一であるため、回路構成については同一の図面に示している。
【0070】
図3は、LPF回路12及び23の回路構成を示す回路図である。LPF回路12及び23の各々は、抵抗素子121と、抵抗素子122と、コンデンサ123と、コンデンサ124と、オペアンプ125と、を有する。
【0071】
まず、LPF回路12については、抵抗素子121の一端がバッファ回路113の出力端に接続され、抵抗素子121の他端が、抵抗素子122の一端及びコンデンサ123の一端にそれぞれ接続される。抵抗素子122の他端が、コンデンサ124の一端及びオペアンプ125の非反転入力端子(+)にそれぞれ接続され、コンデンサ124の他端が基準電位Gに接続される。
【0072】
そして、コンデンサ123の他端が、オペアンプ125の反転入力端子(-)及び出力端子にそれぞれ接続され、オペアンプ125の出力端子がADコンバータ13の入力端に接続される。
【0073】
続いて、LPF回路23については、抵抗素子121の一端がバッファ回路211に接続され、オペアンプ125の出力端子がADコンバータ24に接続されることを除いては、上述のLPF回路12の接続構成と同じである。
【0074】
第一実施形態では、抵抗素子121及び122の各々の抵抗値は、数[kΩ]に定められ、コンデンサ123及び124の各々の容量値は、数百[pF]に定められる。
【0075】
具体例として、LPF回路12及び23のカットオフ周波数が1[MHz]、Q値を0.70となるよう回路定数を設計する場合は、抵抗素子121及び122の抵抗値は1[kΩ]、コンデンサ123の容量値は約200[pF]、コンデンサ124の容量値は、約100[pF]に定められる。
【0076】
なお、第一実施形態では折り返し雑音の発生を抑えるために電圧チャネル入力部10及び電流チャネル入力部20にそれぞれLPF回路12及び23が備えられているが、これらを省略してもよい。例えば、エイリアシングが起こらないような回路構成であればLPF回路12及び23を省略することが可能である。
【0077】
次に、シミュレーション解析によって得られた入力回路11の周波数特性について
図4を参照して説明する。
【0078】
図4は、入力回路11及び補償回路22の各出力信号の周波数特性を示す図である。
【0079】
入力回路11のシミュレーション条件は、五つの抵抗素子が直列接続された入力抵抗111に対し、各抵抗素子に並列接続された寄生容量と、各抵抗素子と基準電位Gとの間に生じる寄生容量の容量値とを共に0.4[pF]とし、第一抵抗112に並列接続された寄生容量の容量値を0.4[pF]とした。また、各抵抗素子の抵抗値と、第一抵抗112の抵抗値とを共に100[kΩ]とした。
【0080】
また、補償回路22のシミュレーション条件は、抵抗素子221の抵抗値を10[kΩ]とし、コンデンサ222の容量値を22[pF]とした。
【0081】
図4では、入力回路11の出力信号に関する振幅及び位相の周波数特性がそれぞれ太線の破線及び細線の破線により示され、補償回路22の出力信号に関する振幅及び位相の周波数特性がそれぞれ太線の実線及び細線の実線により示されている。
【0082】
また、比較例として、寄生容量Cpに起因する周波数特性の補償処理が施される前の入力回路21の出力信号に関する振幅及び位相の周波数特性がそれぞれ太線の一点鎖線及び細線の一点鎖線により示されている。
【0083】
図4に示すように、破線で示される入力回路11の出力信号の周波数特性は、比較例として一点鎖線で示した、補償処理が施されていない入力回路21の出力信号の周波数特性に比べて、高周波帯域において減衰している。
【0084】
この対策として、入力回路21の出力信号に対して一次のローパスファイルタを構成する補償回路22でフィルタ処理が施されるので、実線で示される補償回路22の出力信号の周波数特性は、入力回路11の出力信号の周波数特性と概ね一致している。
【0085】
入力回路11の出力信号の周波数特性は、寄生容量Cpと入力抵抗111と第一抵抗112とで構成される寄生フィルタの周波数特性に対応しており、この寄生フィルタの周波数特性は、補償回路22を一次のローパスフィルタで構成することで精度よく近似されている。
【0086】
それゆえ、発明者は、入力回路11における寄生フィルタの周波数特性は、少なくとも一次のローパスフィルタの周波数特性で実現可能であることを知見した。
【0087】
このように、第一実施形態では補償回路22を一次のローパスフィルタで構成することにより、電流チャネル入力部20において寄生フィルタの周波数特性が加味されるよう、入力回路21の出力信号に対して寄生フィルタの周波数特性を補償することが可能となる。
【0088】
続いて、第一実施形態における測定装置1の動作について
図5を参照して説明する。
【0089】
図5は、測定装置1によって実行される測定方法の処理手順例を示すフローチャートである。ここでは、電圧センサから測定対象に生じる電圧の大きさを示す電圧信号Svが出力され、電流センサから測定対象に流れる電流の大きさを示す電流信号Siが出力される。
【0090】
ステップS1において、測定装置1のうち入力抵抗111及び第一抵抗112を備える入力回路11の入力抵抗111の入力端に接続される電圧端子1Aに対し、電圧センサから出力される電圧信号Svが入力される。
【0091】
ステップS2において、測定装置1における入力回路21の電流端子1Bに対し、電流センサから出力される電流信号Siが入力される。
【0092】
ステップS3において測定装置1は、入力回路21の出力信号に対し、入力抵抗111に寄生する寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112によって構成される寄生フィルタの周波数特性を補償する補償処理を施す。第一実施形態の測定装置1は、入力回路21の出力信号に対し、補償処理として一次のローパスフィルタ処理を施す。
【0093】
ステップS4において測定装置1は、入力回路11の出力信号と、ステップS3で補償処理が施された入力回路21の出力信号と、に基づいて測定対象の物理量を演算する。
【0094】
第一実施形態では、測定装置1は、入力回路11の出力信号に対してLPF回路12によりローパスフィルタ処理を施し、ADコンバータ13によりローパスフィルタ処理後の出力信号をデジタル信号に変換して電圧測定データを生成する。
【0095】
そして、測定装置1は、補償処理が施された入力回路21の出力信号に対してLPF回路23によりローパスフィルタ処理を施し、ADコンバータ24によりローパスフィルタ処理後の出力信号をデジタル信号に変換して電流測定データを生成する。さらに測定装置1は、生成した電圧測定データ及び電流測定データを用いて、測定対象となる電線に伝送される電力の大きさを演算する。
【0096】
ステップS4の処理が完了すると、第一実施形態に係る測定方法の一連の処理手順が終了する。
【0097】
次に、第一実施形態による作用効果について説明する。
【0098】
第一実施形態において、測定装置1は、入力回路11と、入力回路21と、処理部30と、を備える。入力回路11は、測定対象に生じる電位の大きさを示す第一信号としての電圧信号Svが入力される第一入力端子に相当する電圧端子1Aと、一端が電圧端子1Aに接続される入力抵抗111と、一端が入力抵抗111の他端に接続されると共に他端が基準電位Gに接続される第一抵抗112と、を備える第一入力回路を構成する。
【0099】
そして、入力回路21は、測定対象に流れる電流の大きさを示す第二信号としての電流信号Siが入力される第二入力端子に相当する電流端子1Bを備える第二入力回路を構成する。処理部30は、入力回路11及び入力回路21の出力信号に基づいて測定対象の物理量を演算する演算手段として機能する。
【0100】
さらに測定装置1は、入力回路21の出力信号に対し、入力抵抗111に寄生する寄生容量Cp及び入力抵抗111によって構成されるフィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償手段として機能する補償回路22を備える。
【0101】
また、第一実施形態において、測定方法は、入力抵抗111及び第一抵抗112を備える入力回路11の入力抵抗111の入力端に第一信号として電圧信号Svが入力される第一入力ステップ(S1)と、入力回路21に第二信号として電流信号Siが入力される第二入力ステップ(S2)と、を含む。
【0102】
さらに測定方法は、入力回路21の出力信号に対し、寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112によって構成されるフィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償ステップ(S3)と、入力回路11の出力信号と補償ステップ(S3)で処理が施された入力回路21の出力信号とに基づいて測定対象の物理量を演算する演算ステップ(S4)と、を含む。
【0103】
さらに、第一実施形態におけるプログラムを実行する測定装置1のコンピュータは、入力抵抗111の入力端に第一信号として電圧信号Svが入力された入力回路11の出力信号と、第二信号として電流信号Siが入力された入力回路21の出力信号と、を取得する。上記プログラムは、測定装置1のコンピュータに、上述した補償ステップ(S3)及び演算ステップ(S4)を実行させるためのプログラムである。
【0104】
これらの構成によれば、補償回路22又は補償ステップ(S3)により、入力回路11の入力抵抗111と第一抵抗112と寄生容量Cpとで構成されるフィルタの周波数特性が入力回路21の出力信号に付加される。これにより、入力回路11及び入力回路21間の周波数特性のズレを低減することができる。
【0105】
したがって、物理量の演算に用いられる入力回路11の出力信号及び入力回路21の出力信号間の位相ズレが小さくなるので、測定対象の物理量を精度よく測定することができる。すなわち、入力抵抗111の寄生容量Cpに起因する測定精度の低下を抑制することができる。
【0106】
また、第一実施形態の補償回路22は、入力回路21の出力信号に対して一次のローパスフィルタ処理を施す。
【0107】
このような構成にする理由について簡単に説明する。入力回路11において、入力抵抗111の周波数特性は、寄生容量Cpの存在により悪化するものの、
図4に示したように、一次のローパスファイルタで精度よく近似することが可能となる。
【0108】
それゆえ、上記の通り、補償回路22として一次ローパスフィルタを採用することにより、一次ローパスフィルタを採用しない場合に比べて補償回路22の出力信号の周波数特性と入力回路21の出力信号の周波数特性との一致度合いを高めることができる。したがって、電圧信号Svの測定量と電流信号Siの測定量との位相ズレを抑制することができる。
【0109】
また、第一実施形態の入力抵抗111及び第一抵抗112の抵抗値は、入力抵抗111及び第一抵抗112による分圧によって、入力回路11(電圧信号Sv)の入力レベルが、入力抵抗111の他端から出力されたときに入力回路21(電流信号Si)の入力レベルと同等のレベルまで減衰されるような大きさに定められる。
【0110】
この構成によれば、補償回路22において入力信号を減衰させる必要がなくなるとともに、LPF回路23の素子値を電圧チャネル入力部10のLPF回路12と同じ素子値にしたり、電圧チャネル入力部10のADコンバータ13と同じADコンバータ24を使用したりすることが可能となる。このため、補償回路22、LPF回路23及びADコンバータ24の回路設計が容易になる。
【0111】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態に係る測定装置について
図6を参照して説明する。
【0112】
図6は、第二実施形態に係る測定装置2の回路構成を示す回路図である。第二実施形態では、第一実施形態の補償回路22の機能をLPF回路23に統合している点が第一実施形態とは異なる。
【0113】
測定装置2は、
図1に示した電流チャネル入力部20に代えて電流チャネル入力部20Aを備えている。なお、第一実施形態の測定装置1と同じ構成については、同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0114】
電流チャネル入力部20Aは、第一実施形態と同一構成の入力回路21に加え、第一実施形態の補償回路22及びLPF回路23の代わりに補償LPF回路25を備えている。
【0115】
補償LPF回路25は、第一実施形態の補償回路22と同様、寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112で構成される寄生フィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償手段として機能する。
【0116】
第二実施形態の補償LPF回路25は、第一フィルタ手段としてのLPF回路12の次数Nよりも一つ大きい次数(N+1)のローパスフィルタ処理を入力回路21の出力信号に施す。なお、次数を示すNは、正の整数である。
【0117】
補償LPF回路25は、入力回路21の出力端に接続され、能動素子としてオペアンプを有するアクティブフィルタ回路である。また、第二実施形態のLPF回路12は、
図3に示したように、二次のローパスフィルタ回路により構成される。
【0118】
例えば、補償LPF回路25は、LPF回路12の次数よりも一つ大きい三次のゲッフェ型ローパスフィルタ回路により構成される。補償LPF回路25の構成例については
図7を参照して説明する。
【0119】
図7は、補償LPF回路25の回路構成の一例を示す回路図である。
【0120】
図7に示すように、補償LPF回路25は、
図3に示した第一実施形態のLPF回路23の構成に加え、抵抗素子251及びコンデンサ252を備える。
【0121】
補償LPF回路25の回路定数は、
図1に示した第一実施形態の補償回路22の周波数特性を表す一次伝達関数のカットオフ周波数と、LPF回路12の周波数特性を表す二次伝達関数のカットオフ周波数及びQ値とに基づいて設計される。
【0122】
具体的には、補償回路22の一次伝達関数のカットオフ周波数とLPF回路12の二次伝達関数のカットオフ周波数及びQ値を用いて三次伝達関数が求められる。そして三次伝達関数のカットオフ周波数及びQ値を用いて補償LPF回路25の回路定数が定められる。
【0123】
例えば、抵抗素子121、122及び251の各々の抵抗値は、数[kΩ]に定められ、コンデンサ123及び252の各々の容量値は、数百[pF]に定められ、コンデンサ124の容量値は、数十[pF]に定められる。
【0124】
具体例として、補償回路22の一次特性のカットオフ周波数が720[kΩ]、LPF回路12の二次特性のカットオフ周波数が1[MHz]、Q値が0.70となるよう回路定数を設計することを想定する。この場合は、抵抗素子121、122及び251の各々の抵抗値が1[kΩ]、コンデンサ123の容量値が約350[pF]、コンデンサ124の容量値が約60[pF]、コンデンサ252の容量値が約260[pF]に定められる。
【0125】
なお、第二実施形態の補償LPF回路25は、抵抗素子251及びコンデンサ252に代えてコイル及び抵抗素子で構成されるものでもよく、或いは、抵抗素子、コンデンサ及びコイルを組み合わせた回路で構成されるものであってもよい。
【0126】
続いて、第二実施形態による作用効果について説明する。
【0127】
第二実施形態の測定装置2は、第一実施形態と同様、入力回路11及び入力回路21を備える。さらに測定装置2は、LPF回路12と補償LPF回路25とを備える。
【0128】
このとき、LPF回路12は、入力回路11の出力信号に対してローパスフィルタ処理を施す第一フィルタ手段として機能する。さらに補償LPF回路25は、入力回路21の出力信号に対し、LPF回路12の次数よりも一つ大きい次数のローパスフィルタ処理を施す補償手段として機能する。
【0129】
この構成によれば、補償LPF回路25は、LPF回路12よりも次数が一つ大きいため、LPF回路12の周波数特性に対し、寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112で構成される一次の寄生フィルタの周波数特性を加味することが可能となる。
【0130】
これにより、入力回路21の出力信号に対し、寄生フィルタの周波数特性を加味しつつ、LPF回路12と同等のローパスフィルタ処理を施すことができる。それゆえ、第一実施形態と同様、補償LPF回路25の出力信号の周波数特性とLPF回路12の出力信号の周波数特性とのズレが小さくなるので、測定精度を高めることができる。
【0131】
また、第二実施形態において、LPF回路12は、入力回路11に接続されて折り返し雑音の発生を抑制するフィルタ回路である。そして補償LPF回路25は、入力回路21に接続され、能動素子としてオペアンプ125を有するアクティブフィルタ回路である。
【0132】
この構成によれば、LPF回路12により折り返し雑音の発生を抑制しつつ、補償LPF回路25により寄生容量Cpの影響が抑えられるので測定精度を高めることができる。
【0133】
これに加え、補償LPF回路25としてアクティブフィルタ回路を採用することにより、複雑な周波数特性を形成することが可能となる。それゆえ、LPF回路12が二次以上の周波数特性であっても、LPF回路12の出力信号の周波数特性に精度よく近似することができる。したがって、補償LPF回路25の周波数特性の調整精度に起因する測定精度の低下を抑制することができる。
【0134】
より詳細には、第二実施形態において、LPF回路12は、二次のローパスフィルタ回路で構成され、補償LPF回路25は、三次のゲッフェ型ローパスフィルタ回路で構成されている。
【0135】
この構成によれば、補償LPF回路25は、
図7に示したように、能動素子として一個のオペアンプ125のみ備えれば実現可能である。これに対し、補償LPF回路25の二つの機能を有する第一実施形態の補償回路22及びLPF回路23(
図2参照)は、バッファ回路223及びオペアンプ125の二個の能動素子が必要になる。
【0136】
このように、三次のゲッフェ型ローパスフィルタ回路を補償LPF回路25として採用することにより、第一実施形態の回路構成に比べて能動素子の個数が少なくなるので、回路内におけるオフセットの増加及びノイズの混入を低減することができる。これに加え、能動素子の個数を最小限に抑えられるので、測定装置2のサイズを小さくするとともに製造コストの増加を抑制することができる。
【0137】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態に係る測定装置について
図8を参照して説明する。第三実施形態では、
図1に示した第一実施形態の補償回路22とLPF回路12及びLPF回路23とが省略されるとともに、補償回路22の機能を処理部30に持たせる点が第一実施形態とは異なる。
【0138】
図8は、第三実施形態に係る測定装置3の構成を示す図である。
【0139】
測定装置3は、第一実施形態のLPF回路12を削除した電圧チャネル入力部10Aと、第一実施形態の補償回路22及びLPF回路23を削除した電流チャネル入力部20Bと、補償回路22の機能を有する処理部30Aと、を備えている。以下では、重複する記載を避けるため、処理部30Aの機能構成についてのみ説明する。
【0140】
処理部30Aは、デジタル処理を行う一又は複数のプロセッサによって構成される。第三実施形態の処理部30Aは、補償部31と、測定量演算部32と、を備える。
【0141】
補償部31は、入力回路21の出力信号に対し、入力回路11の入力抵抗111に寄生する寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112によって構成される寄生フィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償手段として機能する。
【0142】
第三実施形態の補償部31は、第一実施形態と同様、電流チャネル入力部20Bから出力される電流測定データに対して、一次のローパスフィルタ処理を施す。例えば、補償部31は、
図1に示した補償回路22の回路構成で行われる処理と同等の補償処理を実行する。補償部31は、補償処理後の電流測定データを測定量演算部32に出力する。
【0143】
測定量演算部32は、入力回路11及び入力回路21の出力信号に基づいて測定対象の物理量を演算する演算手段として機能する。
【0144】
第三実施形態において、測定量演算部32は、電圧チャネル入力部10Aから電圧測定データを取得し、補償部31から補償処理後の電流測定データを取得する。そして測定量演算部32は、電圧測定データに示される電圧値と、補償処理後の電流測定データに示される電流値とを用いて、測定対象となる電線に伝送される電力の大きさを演算する。
【0145】
また、測定量演算部32は、電圧測定データに示される電圧値と、補償処理後の電流測定データに示される電流値とを用いて、電圧信号Sv及び電流信号Si間の位相差を算出するものであってもよい。例えば、測定対象が蓄電デバイスである場合は、測定量演算部32は、電圧測定データ及び補償処理後の電流測定データを用いて蓄電デバイスの内部インピーダンスを演算してもよい。
【0146】
続いて、第三実施形態による作用効果について説明する。
【0147】
第三実施形態の測定装置3は、入力回路11と、入力回路21と、補償部31及び測定量演算部32を備える処理部30Aと、を備える。測定量演算部32は、入力回路11及び入力回路21の出力信号に基づいて測定対象の物理量を演算する演算手段として機能する。補償部31は、測定量演算部32に入力される入力回路21の出力信号に対し、寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112によって構成される寄生フィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償手段として機能する。
【0148】
この構成によれば、第一実施形態と同様、補償部31で補償処理を実行しない機能構成に比べて入力抵抗111の寄生容量Cpに起因する測定精度の低下を抑制することができる。
【0149】
これに加え、デジタル処理を行う処理部30Aにおいて補償回路22の処理が実行されるので、第一実施形態とは異なり、補償回路22自体を設ける必要がない。それゆえ、測定装置3のサイズ及び製造コストの増加を抑制することができる。
【0150】
(第四実施形態)
次に、第四実施形態に係る測定装置について
図9を参照して説明する。第四実施形態では、第三実施形態の処理部30Aの機能構成に加え、電圧測定データ及び電流測定データの双方にローパスフィルタ処理を施す機能構成が追加される点が第三実施形態とは異なる。
【0151】
図9は、第四実施形態に係る測定装置4の構成を示す図である。
【0152】
測定装置4は、
図8に示した第三実施形態の測定装置3の処理部30Aに代えて処理部30Bを備えている。処理部30Bは、処理部30Aの補償部31に代えてLPF部311及び補償LPF部312を備えている。なお、測定装置4のうち
図8に示した第三実施形態の測定装置3と同じ構成については、同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0153】
LPF部311は、入力回路11の出力信号に対してローパスフィルタ処理を施す第一フィルタ手段として機能する。LPF部311は、電圧測定データに含まれる高周波ノイズを除去する役割を果たす。
【0154】
第四実施形態のLPF部311は、電圧チャネル入力部10Aから出力される電圧測定データに対して二次のローパスフィルタ処理を施す。具体例として、LPF部311は、第一実施形態のLPF回路12と同じ回路構成で実行されるローパスフィルタ処理を電圧測定データに施す。
【0155】
補償LPF部312は、入力回路21の出力信号に対し、寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112によって構成される寄生フィルタの周波数特性を補償する処理を施す補償手段として機能する。
【0156】
例えば、補償LPF部312は、入力回路21の出力信号に対し、LPF部311の次数よりも一つ大きい次数のローパスフィルタ処理を施す。具体例として、補償LPF部312は、三次のゲッフェ型ローパスフィルタ回路で実行されるローパスフィルタ処理を実行する。
【0157】
続いて、第四実施形態による作用効果について説明する。
【0158】
第四実施形態において、LPF部311は、入力回路11の出力信号に対してローパスフィルタ処理を施す第一フィルタ手段として機能する。そして補償LPF部312は、入力回路21の出力信号に対し、LPF部311の次数よりも一つ大きい次数のローパスフィルタ処理を施す補償手段として機能する。
【0159】
この構成によれば、LPF部311により、入力回路11の出力信号に対して測定対象となる電線の周囲から混入する高周波ノイズ、又は入力抵抗111及びADコンバータ24において生じる高周波ノイズを除去することができる。それゆえ、LPF部311の機能を有しない構成に比べて測定精度を高めることができる。
【0160】
これに加え、補償LPF部312により、第二実施形態と同様、入力回路21の出力信号に対し、LPF部311と同等のローパスフィルタ処理が施されるとともに入力抵抗111の寄生容量Cpに起因する寄生フィルタの周波数特性が加味される。
【0161】
これにより、入力回路11及び21の出力信号の各々の高周波ノイズが除去されるとともに、入力回路11及び21間の出力信号の位相ズレに比べてLPF部311及び補償LPF部312の出力データ間の位相ズレが小さくなる。それゆえ、入力回路11及び21の出力信号に基づき演算される物理量の測定精度を高めることができる。
【0162】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0163】
例えば、上記実施形態では電流チャネル入力部20、20A又は20Bの個数は一つであったが、複数の電流チャネル入力部20、20A又は20Bが備えられてもよい。この場合でも、複数の電流チャネル入力部20、20A又は20B、或いは処理部30A又は30Bにおいて電圧チャネル入力部10又は10Aとの位相ズレが抑制されるので、精度よく測定量の演算を行うことが可能になる。
【0164】
また、第一及び第二実施形態では補償回路22及び補償LPF回路25がアクティブフィルタで構成されているが、これに限られるものではない。例えば、パッシブフィルタを用いて、寄生容量Cp、入力抵抗111及び第一抵抗112からなる寄生フィルタの周波数特性に補償回路22及び補償LPF回路25の周波数特性を近似可能であれば、補償回路22及び補償LPF回路25にパッシブフィルタを採用してもよい。
【0165】
また、第一及び第二実施形態ではLPF回路12が二次のローパスフィルタで構成されているが、これに限られず、LPF回路12としては三次以上のローパスフィルタが採用されてもよい。この場合、補償LPF回路25は、四次以上のローパスフィルタであってもよく、ゲッフェ型以外のローパスフィルタが採用されてもよい。
【符号の説明】
【0166】
1~4 測定装置
1A 電圧端子(第一入力端子)
1B 電流端子(第二入力端子)
11 入力回路(第一入力回路)
111 入力抵抗
112 第一抵抗
Cp 寄生容量(入力抵抗に寄生する容量)
12 LPF回路(第一フィルタ手段、フィルタ回路、二次のローパスフィルタ回路)
21 入力回路(第二入力回路)
22 補償回路(補償手段)
25 補償LPF回路(補償手段、アクティブフィルタ回路、三次のゲッフェ型ローパスフィルタ回路)
30、30A、30B 処理部(演算手段)
31 補償部(補償手段)
32 測定量演算部(演算手段)
311 LPF部(第一フィルタ手段)
312 補償LPF部(補償手段)
S1~S4 (第一入力ステップ、第二入力ステップ、補償ステップ、演算ステップ)