(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019033
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法、脂質劣化臭抑制剤、上記剤を含有する飲食品の製造方法、及び上記剤を含有する飲食品
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20250130BHJP
A23L 27/21 20160101ALI20250130BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20250130BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20250130BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250130BHJP
G01N 33/02 20060101ALN20250130BHJP
【FI】
C12Q1/02
A23L27/21
A23L27/00 Z
C12Q1/02 ZNA
C07K14/705 ZNA
C12N15/12
G01N33/02
C07K14/705
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024120637
(22)【出願日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2023121952
(32)【優先日】2023-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100141759
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 亮敦
(72)【発明者】
【氏名】大上 将司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友彦
(72)【発明者】
【氏名】服部 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】福谷 洋介
【テーマコード(参考)】
4B047
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B047LB09
4B047LF07
4B047LG05
4B047LP20
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QQ79
4B063QX01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法、脂質劣化臭抑制剤、上記剤を含有する飲食品の製造方法、及び上記剤を含有する飲食品を提供すること。
【解決手段】下記工程(1)~(3)を含む、脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法を提供する。(1)OR2J3のアミノ酸配列及び/又はOR2J3のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ脂質劣化臭原因物質に対して応答性を有する嗅覚受容体ポリペプチドに、被験物質及び前記脂質劣化臭原因物質を接触させること;(2)前記脂質劣化臭原因物質に対する前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること;及び、(3)測定された応答に基づいて前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する被験物質を同定すること。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)~(3)を含む、脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法であって:
(1)OR2J3のアミノ酸配列及び/又は前記OR2J3のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ脂質劣化臭原因物質に対して応答性を示す嗅覚受容体ポリペプチドに、被験物質及び前記脂質劣化臭原因物質を接触させること;
(2)前記脂質劣化臭原因物質に対する前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること;及び、
(3)測定された応答に基づいて前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する被験物質を同定すること;
前記脂質劣化臭原因物質が(E,E)-2,4-デカジエナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、及び(E,E)-2,4-デカジエノールよりなる群から選択される少なくとも1つである、前記方法。
【請求項2】
前記脂質劣化臭原因物質が(E,E)-2,4-デカジエナールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記OR2J3のアミノ酸配列が、配列表の配列番号1~5のいずれかに記載のアミノ酸配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルボニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンよりなる群から選択される少なくとも1つの脂質劣化臭抑制素材を含有する脂質劣化臭抑制剤。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を含む方法により製造された脂質劣化臭抑制剤、又は、請求項4に記載の脂質劣化臭抑制剤を含有する飲食品の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の脂質劣化臭抑制剤を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品等におけるオフフレーバー(当該飲食品が本来有する匂いから逸脱した異臭)の低減ないしマスキングに好適な、脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法、脂質劣化臭抑制剤、上記剤を含有する飲食品の製造方法、及び上記剤を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト等の哺乳動物においては、匂いは、鼻腔上部の嗅上皮に存在する嗅神経細胞上の嗅覚受容体に匂い成分の分子が結合し、当該分子に対する当該受容体の応答が中枢神経系へと伝達されることにより認識される。
ヒトの嗅覚受容体は約400種類が存在し、一つの匂い物質は、多数の嗅覚受容体が応答することもある等、実際の飲食品の匂いにおける嗅覚受容体応答は複雑である。
そのような複雑性に対応して、飲食品分野において、オフフレーバーを選択性高く低減ないしマスキングし得る素材の探索法が求められている。
また、上記ヒト嗅覚受容体タンパク質の1つであるOR2J3は、青葉臭シス-3-ヘキセン-1-オールを検出することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
従来、オフフレーバーの低減ないしマスキングする剤のスクリーニングは、ヒトが官能試験によって被験物質によるオフフレーバーの低減ないしマスキング効果を評価することによって実施されてきた。しかし、官能試験には、匂いを評価できる専門家の育成が必要なこと、スループット性が低いこと等の問題がある。
【0004】
近年、ヒトの嗅覚による匂いの評価に換えて、嗅覚受容体(OR)遺伝子を細胞に導入し、当該嗅覚受容体を細胞表面に発現させた評価用の細胞を用いる評価技術が開発されている。
例えば、悪臭原因物質に応答する嗅覚受容体OR2L3を用いて、悪臭抑制素材のスクリーニング方法が報告されている(特許文献1)。
【0005】
ところで、油を多く含む飲食品において、脂質劣化臭は、オフフレーバーとして飲食品の嗜好性を損なう一因となっている。
上記脂質劣化臭の原因物質として複数の成分が知られており、例えば、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族アルコール若しくはアルデヒド等の油脂酸化物が挙げられ、特に(E,E)-2,4-decadienal(以下、単に「(E,E)-2,4-デカジエナール」、「デカジエナール」ともいう。)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jeremy F.McRae,et.al.,Chem.Scenses,37,p585-p593,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法、脂質劣化臭抑制剤、上記剤を含有する飲食品の製造方法、及び上記剤を含有する飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、ヒト嗅覚受容体OR2J3及びそのバリアントが様々な脂質劣化臭原因物質に応答することを新たに見出した。特にヒト嗅覚受容体OR2J3及びそのバリアントが脂質劣化臭原因物質として知られる(E,E)-2,4-デカジエナールに応答することを新たに見出した。また、(E,E)-2,4-デカジエナールに対するOR2J3の応答を抑制する物質(脂質劣化臭抑制素材)を新たに見出した。本発明は、上記知見に基づき完成されるに至ったものである。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0010】
<1>下記工程(1)~(3)を含む、脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法であって:
(1)OR2J3のアミノ酸配列及び/又は前記OR2J3のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ脂質劣化臭原因物質に対して応答性を示す嗅覚受容体ポリペプチドに、被験物質及び前記脂質劣化臭原因物質を接触させること;
(2)前記脂質劣化臭原因物質に対する前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること;及び、
(3)測定された応答に基づいて前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する被験物質を同定すること;前記脂質劣化臭原因物質が(E,E)-2,4-デカジエナール、heptanal(ヘプタナール)、octanal(オクタナール)、nonanal(ノナナール)、decanal(デカナール)、undecanal(ウンデカナール)、dodecanal(ドデカナール)、(E,E)-2,4-hexadienal((E,E)-2,4-ヘキサジエナール)、(E,E)-2,4-heptadienal((E,E)-2,4-ヘプタジエナール)、(E,E)-2,4-octadienal((E,E)-2,4-オクタジエナール)、(E,E)-2,4-nonadienal((E,E)-2,4-ノナジエナール)、(E,Z)-2,6-nonadienal((E,Z)-2,6-ノナジエナール)、(E,E)-2,4-undecadienal((E,E)-2,4-ウンデカジエナール)、(E)-2-nonenal((E)-2-ノネナール)、(E)-2-decenal((E)-2-デセナール)、及び(E,E)-2,4-decadienol((E,E)-2,4-デカジエノール)よりなる群から選択される少なくとも1つである、前記方法。
<2>前記脂質劣化臭原因物質が(E,E)-2,4-デカジエナールである、<1>に記載の方法。
<3>前記OR2J3のアミノ酸配列が、配列表の配列番号1~5のいずれかに記載のアミノ酸配列である、<1>に記載の方法。
<4>アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルボニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンよりなる群から選択される少なくとも1つの脂質劣化臭抑制素材を含有する脂質劣化臭抑制剤。
<5>上記<1>に記載の方法を含む方法により製造された脂質劣化臭抑制剤、又は、<4>に記載の脂質劣化臭抑制剤を含有する飲食品の製造方法。
<6>上記<4>に記載の脂質劣化臭抑制剤を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オフフレーバーの低減ないしマスキングに好適な、脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法、脂質劣化臭抑制剤、上記剤を含有する飲食品の製造方法、及び上記剤を含有する飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)及び(b)は、様々な濃度の(E,E)-2,4-デカジエナールに対する受容体OR2J3及びOR51E1各々の応答強度を示す図である。
【
図2】(a)~(f)は、様々な濃度の様々な脂質劣化臭原因物質に対する受容体OR2J3の応答強度を示す図である。
【
図3】(a)~(i)は、様々な濃度の様々な脂質劣化臭原因物質に対する受容体OR2J3の応答強度を示す図である。
【
図4】様々な濃度の従来のマスキング剤に対する受容体OR2J3の応答強度を示す図である。
【
図5】様々な濃度の従来のマスキング剤による受容体OR2J3の応答強度の減弱効果を示す図である。
【
図6】上記被験物質(食品に使用可能な香料原料220品)に(E,E)-2,4-デカジエナールを更に共添加したOR2J3応答(AUC値)を示す図であり、ポジティブコントロール((E,E)-2,4-デカジエナールのみ含有)を100%表記とした場合の相対AUC値%である。
【
図7】(E,E)-2,4-デカジエナールに対する新規脂質劣化臭抑制素材の脂質劣化臭抑制効果の官能評価試験(綿球)結果を示す図である。
【
図8】(E,E)-2,4-デカジエナールに対する新規脂質劣化臭抑制素材の脂質劣化臭抑制効果の官能評価試験(イオン交換水)結果を示す図である。
【
図9】(E,E)-2,4-デカジエナールに対する新規脂質劣化臭抑制素材の脂質劣化臭抑制効果の官能評価試験(レモン炭酸水)結果を示す図である。
【
図10】(E,E)-2,4-デカジエナールに対するOR2J3の様々なハプロタイプ(Hap1~Hap5)の応答強度を、ルシフェラーゼアッセイ法で測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
≪脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法≫
本発明の第1の態様は、下記工程(1)~(3)を含む脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング方法である。:
(1)OR2J3のアミノ酸配列及び/又は前記OR2J3のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ脂質劣化臭原因物質に対して応答性を示す嗅覚受容体ポリペプチドに、被験物質及び前記脂質劣化臭原因物質を接触させること;
(2)前記脂質劣化臭原因物質に対する前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること;及び、
(3)測定された応答に基づいて前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する被験物質を同定すること。
第1の態様においてスクリーニングとは、被験物質の母集団を少なくとも絞ることを意味し、脂質劣化臭抑制素材候補を選抜することが好ましい。
脂質劣化臭抑制素材としては、オフフレーバーである脂質劣化臭を低減し得る限り特に制限はないが、脂質劣化臭原因物質と、上記嗅覚受容体ポリペプチドとの結合を阻害し得る脂質劣化臭抑制素材が好ましく、上記嗅覚受容体ポリペプチドのアンタゴニストであり、かつアンタゴニストによるマスキング効果を有する脂質劣化臭抑制素材がより好ましい。
【0015】
(脂質劣化臭原因物質)
上記脂質劣化臭原因物質としては、脂質劣化臭の原因となる物質であり、具体的には、(E,E)-2,4-デカジエナール、heptanal(ヘプタナール)、octanal(オクタナール)、nonanal(ノナナール)、decanal(デカナール)、undecanal(ウンデカナール)、dodecanal(ドデカナール)、(E,E)-2,4-hexadienal((E,E)-2,4-ヘキサジエナール)、(E,E)-2,4-heptadienal((E,E)-2,4-ヘプタジエナール)、(E,E)-2,4-octadienal((E,E)-2,4-オクタジエナール)、(E,E)-2,4-nonadienal((E,E)-2,4-ノナジエナール)、(E,Z)-2,6-nonadienal((E,Z)-2,6-ノナジエナール)、(E,E)-2,4-undecadienal((E,E)-2,4-ウンデカジエナール)、(E)-2-nonenal((E)-2-ノネナール)、(E)-2-decenal((E)-2-デセナール)、及び(E,E)-2,4-decadienol((E,E)-2,4-デカジエノール)よりなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、(E,E)-2,4-デカジエナールがより好ましい。
【0016】
(被験物質)
脂質劣化臭抑制素材候補として本発明の方法に適用される被験物質は、気体状又は液体状のいずれの物質であってもよい。
被験物質は、特に制限されない。被験物質は、単一の成分からなるもの(すなわち純物質)であってもよく、2種またはそれ以上の成分の組み合わせからなるもの(すなわち混合物)であってもよい。被験物質が混合物である場合、当該混合物を構成する成分の種類数や構成比率は、特に制限されない。被験物質は、公知物質であってもよく、新規物質であってもよい。被験物質は、天然物であってもよく、人工物であってもよい。被験物質は、例えば、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリーであってもよい。被験物質としては、例えば、アルコール、ケトン、アルデヒド、エーテル、エステル、炭化水素、糖、有機酸、核酸、アミノ酸、ペプチド、脂質、その他の有機又は無機の各種成分が挙げられる。
また、被験物質としては、各種の香料原料、合成香料、天然香料、天然精油、植物エキスなどを挙げることができ、例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料,P88-131,平成12年1月14日発行」に記載されている天然精油、天然香料、香料原料、合成香料などを挙げることができる。
また、被験物質として、既存の食品添加物も挙げられる。「既存の食品添加物」とは、食品添加物としての使用が認められている物質をいう。
被験物質としては、1種の被験物質を用いてもよく、2種又はそれ以上の被験物質を組み合わせて用いてもよい。2種又はそれ以上の成分をまとめて受容体タンパク質に接触させて本発明の方法を実施することにより、それらの成分の組み合わせが全体として脂質劣化臭抑制素材であるかを同定することができる。「2種またはそれ以上の成分をまとめて嗅覚受容体タンパク質に接触させる」場合としては、混合物である被験物質を嗅覚受容体タンパク質に接触させる場合、2種又はそれ以上の被験物質をまとめて嗅覚受容体タンパク質に接触させる場合が挙げられる。
【0017】
(嗅覚受容体ポリペプチド)
本発明において、OR2J3のアミノ酸配列を含む嗅覚受容体ポリペプチド、及び、OR2J3のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ脂質劣化臭原因物質に対して応答性を有する嗅覚受容体ポリペプチドよりなる群から選択される少なくとも1つの嗅覚受容体ポリペプチドを使用し、OR2J3のアミノ酸配列を含む嗅覚受容体ポリペプチドを使用することが好ましい。
「OR2J3タンパク質」とは、Olfactory Receptor Family 2 Subfamily J Member 3に分類されるヒト嗅覚受容体タンパク質をいう。OR2J3タンパク質を単に「OR2J3」ともいう。OR2J3タンパク質をコードする遺伝子を「OR2J3遺伝子」ともいう。
「OR2J3のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ脂質劣化臭原因物質に対して応答性を有する嗅覚受容体ポリペプチド」としては、93%以上の配列同一性を有することが好ましく、95%以上の配列同一性を有することがより好ましく、97%以上の配列同一性を有することが更に好ましく、98%以上の配列同一性を有することが特に好ましい。なお、本明細書においてアミノ酸配列の配列同一性は、BLAST検索アルゴリズム(NCBIより公に入手できる)によって算出することができる。
【0018】
ヒト嗅覚受容体OR2J3には様々なバリアント(多様体;例えば、ハプロタイプ)が存在することが知られている(例えば、非特許文献1)。
下記表1にOR2J3の主なハプロタイプをまとめる。
【0019】
【0020】
本発明において、上記OR2J3のアミノ酸配列が、配列表の配列番号1~5のいずれかに記載のアミノ酸配列であることが好ましい。
本発明において、上記嗅覚受容体ポリペプチドとしては、1種の上記嗅覚受容体ポリペプチドを用いてもよく、2種又はそれ以上の上記嗅覚受容体ポリペプチドを組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本明細書において、嗅覚受容体ポリペプチドをコードする遺伝子を「嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子」ともいい、嗅覚受容体タンパク質をコードする遺伝子を「嗅覚受容体遺伝子」ともいう。
なお、本明細書において、「遺伝子」という用語は、目的のタンパク質をコードする限り、DNAに限られず、任意のポリヌクレオチドを包含してよい。嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子(好ましくは、嗅覚受容体遺伝子)は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、その組み合わせであってもよい。嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子(好ましくは、嗅覚受容体遺伝子)は、一本鎖DNAであってもよく、一本鎖RNAであってもよい。嗅覚受容体遺伝子は、二本鎖DNAであってもよく、二本鎖RNAであってもよく、DNA鎖とRNA鎖からなるハイブリッド鎖であってもよい。嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子(好ましくは、嗅覚受容体遺伝子)は、単一のポリヌクレオチド鎖中に、DNA残基とRNA残基の両方を含んでいてもよい。嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子(好ましくは、嗅覚受容体遺伝子)がRNAを含む場合、上記例示した塩基配列等のDNAに関する記載は、RNAに合わせて適宜読み替えてよい。嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子(好ましくは、嗅覚受容体遺伝子)は、イントロンを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子(好ましくは、嗅覚受容体遺伝子)の態様は、その利用態様等の諸条件に応じて適宜選択できる。
【0022】
上記ヒト嗅覚受容体タンパク質のアミノ酸配列、及び上記ヒト嗅覚受容体遺伝子の塩基配列は、例えば、NCBI、Ensembl等の公開データベースから取得できる。
また、上記嗅覚受容体ポリペプチドは、上記ヒト嗅覚受容体タンパク質のアミノ酸配列に加えて、その他のアミノ酸配列を含んでいてもよい。すなわち、上記嗅覚受容体ポリペプチドは、上記ヒト嗅覚受容体タンパク質のアミノ酸配列とその他のアミノ酸配列との融合タンパク質であってもよい。その他のアミノ酸配列は、上記ヒト受容体タンパク質が脂質劣化臭原因物質に対する応答性を損なわない限り、特に制限されない。その他のアミノ酸配列としては、例えば、Hisタグ、V5エピトープタグ等のタグ配列が挙げられる。その他のアミノ酸配列は、例えば、上記ヒト嗅覚受容体タンパク質のN末端、若しくはC末端、又はその両方に連結されていてよい。
【0023】
上記嗅覚受容体ポリペプチドが脂質劣化臭原因物質に対する応答性を有することは、例えば、上記嗅覚受容体ポリペプチドを脂質劣化臭原因物質と接触させた際の上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定することにより確認できる。
また、被験物質による脂質劣化臭の抑制は、脂質劣化臭原因物質に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答の低減を測定することにより確認できる。
【0024】
上記嗅覚受容体ポリペプチドは、脂質劣化臭抑制素材のスクリーニングに利用可能な任意の形態で使用することができる。具体的には、上記嗅覚受容体ポリペプチドは、脂質劣化臭原因物質及び被験物質と接触でき、且つ脂質劣化臭原因物質に対する応答性を失わない限り、任意の形態で使用することができる。上記嗅覚受容体ポリペプチドの使用形態は、第1の態様の実施態様等の諸条件に応じて適宜設定できる。
【0025】
上記嗅覚受容体ポリペプチドは、例えば、精製物、粗精製物等の所望の程度に単離された形態で使用されてもよく、任意の素材に含有された形態で使用されてもよい。上記嗅覚受容体ポリペプチドは、具体的には、例えば、構造物に担持された形態で使用されてもよい。構造物としては、例えば、細胞、細胞膜、人工脂質二重膜小胞、人工脂質二重膜が挙げられる。構造物としては、特に、細胞が挙げられる。言い換えると、上記嗅覚受容体ポリペプチドは、例えば、上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞、上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞膜、上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する人工脂質二重膜小胞、又は上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する人工脂質二重膜等の嗅覚受容体タンパク質を有する(担持する)構造物の形態で使用することができる。
【0026】
上記嗅覚受容体ポリペプチドは、例えば、上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子を発現させることにより製造できる。上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子の発現は、例えば、細胞を用いて実施してもよいし、無細胞タンパク質合成系を用いて実施してもよい。細胞を用いた上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子の発現については、下記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞の説明を参照できる。発現した上記嗅覚受容体ポリペプチドは、適宜、上述したような形態で取得し、第1の態様に利用できる。
【0027】
上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞としては、本来的に嗅覚受容体遺伝子を有するものであってもよく、上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子を有するように改変されたものであってもよい。
【0028】
本来的に嗅覚受容体遺伝子を有する細胞としては、上記のような嗅覚受容体遺伝子が由来するヒト細胞、例えば、ヒト嗅細胞等が挙げられる。本来的に嗅覚受容体遺伝子を有する細胞は、例えば、当該細胞を含む生物体、組織から取得することができる。
上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子を有するように改変された細胞としては、上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子が導入された細胞が挙げられる。
【0029】
なお、上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞及びそれを取得するために用いられる細胞(例えば、上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子が導入される又は導入された細胞)を総称して以下単に「宿主細胞」ともいう。
【0030】
宿主細胞は、機能する上記嗅覚受容体ポリペプチドを発現でき、以て脂質劣化臭抑制素材のスクリーニングに利用可能なものであれば特に制限されない。宿主細胞としては、例えば、細菌細胞、真菌細胞、植物細胞、昆虫細胞、および動物細胞が挙げられる。好ましい宿主細胞としては、真菌細胞、植物細胞、昆虫細胞、および動物細胞等の真核細胞が挙げられる。より好ましい宿主細胞としては、動物細胞が挙げられる。動物としては、例えば、哺乳類、鳥類、両生類が挙げられる。哺乳類としては、例えば、げっ歯類や霊長類が挙げられる。げっ歯類としては、例えば、チャイニーズハムスター、ハムスター、マウス、ラット、モルモットが挙げられる。霊長類としては、例えば、ヒト、サル、チンパンジーが挙げられる。鳥類としては、例えば、ニワトリが挙げられる。両生類としては、例えば、アフリカツメガエルが挙げられる。また、宿主細胞が由来する組織または細胞は特に制限されない。
【0031】
嗅覚受容体遺伝子は、嗅覚受容体遺伝子を有する生物からのクローニングにより取得できる。クローニングには、同遺伝子を含むゲノムDNA、cDNA等の核酸を利用できる。また、嗅覚受容体遺伝子は、化学合成によっても取得できる(Gene,60(1),115-127(1987))。
【0032】
取得した嗅覚受容体遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、嗅覚受容体遺伝子を改変することにより、そのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質が特定の部位においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。また、嗅覚受容体遺伝子のバリアントを化学合成によって直接取得してもよい。
【0033】
上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子を宿主細胞に導入する形態は特に制限されない。上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子は、発現可能に宿主細胞に保持されていればよい。具体的には、例えば、上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子をDNA等の転写を要する形態で導入する場合、宿主細胞において、上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子は、当該宿主細胞で機能するプロモーターの制御下で発現可能に保持されていればよい。
上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子を発現させるためのプロモーターは、宿主細胞において機能するものであれば特に制限されない。「宿主細胞において機能するプロモーター」とは、宿主細胞においてプロモーター活性を有するプロモーターをいう。プロモーターは、宿主細胞由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。
【0034】
上記嗅覚受容体ポリペプチド遺伝子は、例えば、同遺伝子を含むベクターを用いて宿主細胞に導入することができる。
上記ベクターは、宿主細胞の種類、嗅覚受容体遺伝子の導入形態等の諸条件に応じて適宜選択できる。ベクターを宿主細胞に導入する方法は、宿主細胞の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。
上記嗅覚受容体ポリペプチドと共に、哺乳類(例えば、ヒト、ウシ)のロドプシン(Rho-tag)のN末端20アミノ酸残基を組み込んでも組み込まなくてもよい。哺乳類ロドプシンのN末端20アミノ酸残基を組み込むことにより、上記嗅覚受容体ポリペプチドの細胞膜発現を促進することができる。
ヒトロドプシン(Rho-tag)のN末端20アミノ酸残基をコードする発現ベクターとしては、pCI発現ベクター(Promega社製)が市販されている。
【0035】
また、上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞は、例えば、シグナル伝達に関与するタンパク質を有していてよい。言い換えると、シグナル伝達に関与するタンパク質をコードする遺伝子を有していてよい。シグナル伝達に関与するタンパク質としては、例えば、Gタンパク質(Golf等)、Gタンパク質活性化因子(Ric8B等)、アデニル酸シクラーゼ、カルシウムチャネルが挙げられる。Golfとしては、例えば、ヒトGolf(GenBank accession No. NP_892023)等の動物のGolfが挙げられる。Ric8Bとしては、例えば、ラットRic8B(GenBank accession No. NP_783188)等の動物のRic8Bが挙げられる。
また、上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞は、例えば、測定するパラメーターに応じた構成要素を有していてよい。そのような構成要素としては、カルシウム指示薬等のプローブや、ルシフェラーゼ遺伝子等のレポーター遺伝子が挙げられる。カルシウム指示薬等のプローブを遺伝子から発現する場合、当該プローブをコードする遺伝子を有していてよい。
【0036】
上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞は、例えば、上記嗅覚受容体ポリペプチドの膜発現を促進するタンパク質を有していてよい。言い換えると、そのようなタンパク質をコードする遺伝子を有していてよい。そのようなタンパク質としては、例えば、RTP1sが挙げられる(Zhuang H and Matsunami H,J Biol Chem 282,15284-15293(2007))。RTP1sとしては、例えば、ヒトRTP1s(GenBank accession No.AAT70680)、マウスRTP1s(GenBank accession No.ABU23737)、コウモリRTP1s(GenBank accession No. XP_006765914の37位のメチオニン残基からC末までのアミノ酸配列)等の動物のRTP1sが挙げられる。
上記宿主細胞としてはHana3A細胞が好ましい。
【0037】
(上記嗅覚受容体ポリペプチドに被験物質及び脂質劣化臭原因物質を接触させる工程(1))
上記嗅覚受容体ポリペプチドと被験物質及び脂質劣化臭原因物質と接触は、任意の液相雰囲気下(例えば、水、水性緩衝液、培地雰囲気下等)、又は、任意の気相雰囲気下(例えば、空気雰囲気下)で行うことができ、任意の液相、又は、気相を介して接触させることができる。
任意の液相雰囲気下で接触させる方法としては、上記嗅覚受容体ポリペプチドと、気体状又は液体状の被験物質及び脂質劣化臭原因物質とを同一液相内に共存させることが挙げられる。
任意の気相雰囲気下(例えば、空気雰囲で接触させる方法としては、上記嗅覚受容体ポリペプチドと、気体状又は液体状(好ましくは揮発性)の被験物質及び脂質劣化臭原因物質とを同一容器(好ましくは気密性容器)内に併置することが挙げられる。
【0038】
接触条件は、上記嗅覚受容体ポリペプチドの使用形態、被験物質の種類、上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答の測定手法等の諸条件に応じて適宜設定できる。接触条件としては、例えば、タンパク質とリガンド間の相互作用等の物質間の相互作用を測定する際の公知の反応条件をそのまま、あるいは適宜改変して利用してもよい。脂質劣化臭原因物質の濃度は、例えば、0.01μM~1mM、0.1μM~500μM、又は1μM~400μMであってもよい。被験物質の濃度は、例えば、0.01μM~1mM、0.1μM~500μM、又は1μM~400μMであってもよいし、0.001μg/mL~70μg/mL、0.01μg/mL~50μg/mL、又は0.1μg/mL~40μg/mLであってもよい。上記嗅覚受容体ポリペプチドの濃度は、例えば、1pg/mL~10mg/mLであってもよい。また、上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞を用いる場合、嗅覚受容体タンパク質を有する細胞の濃度は、例えば、10cell/mL~10,000,000cell/mLであってもよい。上記嗅覚受容体ポリペプチドと被験物質及び脂質劣化臭原因物質との接触は、適当な時点で終了してもよいし、しなくてもよい。
【0039】
上記嗅覚受容体ポリペプチドと被験物質及び脂質劣化臭原因物質との接触は、通常、脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答の測定の間継続されることが好ましい。上記嗅覚受容体ポリペプチドと被験物質及び脂質劣化臭原因物質との接触の継続時間は、例えば、0.1秒以上、0.5秒以上、1秒以上、5秒以上、10秒以上、30秒以上、1分以上、5分以上、10分以上、30分以上、1時間以上、または2時間以上であってもよく、24時間以下、12時間以下、6時間以下、2時間以下、または1時間以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。上記嗅覚受容体ポリペプチドと被験物質及び脂質劣化臭原因物質との接触の継続時間は、具体的には、例えば、15分~3時間であってもよい。接触系は、脂質劣化臭抑制素材のスクリーニングが可能である限り、上記嗅覚受容体ポリペプチド(例えば上記嗅覚受容体ポリペプチドを有する細胞等の上記例示したような形態のもの)並びに被験物質及び脂質劣化臭原因物質に加えて、その他の成分を含有していてよい。その他の成分は、上記嗅覚受容体ポリペプチドの使用形態、被験物質の種類、上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答の測定手法等の諸条件に応じて適宜設定できる。
【0040】
(脂質劣化臭原因物質に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定する工程(2))
脂質劣化臭原因物質に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定する工程(2)は、被験物質共存下で脂質劣化臭原因物質に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定することが好ましい。
脂質劣化臭原因物質に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定する手法は特に制限されない。脂質劣化臭原因物質に対する嗅覚受容体タンパク質の応答を測定する手法は、上記嗅覚受容体ポリペプチドの使用形態、測定する応答の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。
上記応答は、上記嗅覚受容体ポリペプチドと脂質劣化臭原因物質との結合、又は脂質劣化臭原因物質による上記嗅覚受容体ポリペプチドの活性化が挙げられる。
【0041】
上記嗅覚受容体ポリペプチドと脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)との結合を測定する手法は特に制限されない。上記嗅覚受容体ポリペプチドと脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)との結合は、例えば、タンパク質とリガンド間の結合、競争的阻害剤による上記結合の阻害等の物質間の結合を測定する公知の手法により測定することができる。そのような手法としては、例えば、等温滴定型熱量測定(Isothermal Titration Calorimetry;ITC)、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance;SPR)、核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance;NMR)蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy;FCS)が挙げられる。
【0042】
脂質劣化臭原因物質による上記嗅覚受容体ポリペプチドの活性化を測定する手法は特に制限されない。脂質劣化臭原因物質による上記嗅覚受容体ポリペプチドの活性化は、例えば、嗅覚受容体等の受容体の活性を測定する公知の手法により測定することができる。そのような手法としては、例えば、細胞内カルシウム量測定法、細胞内cAMP量測定法が挙げられる。すなわち、脂質劣化臭原因物質による上記嗅覚受容体ポリペプチドの活性化は、例えば、細胞内カルシウム量又は細胞内cAMP量を指標として測定することができる。例えば、Hana3A細胞又はHEK293T細胞において、上記嗅覚受容体ポリペプチドは、脂質劣化臭原因物質によって活性化されると、細胞内のGタンパク質(Golf等)と共役してアデニル酸シクラーゼを活性化し、以て細胞内cAMP量を増加させることが知られている(Kajiya K. et al., Molecular bases of odor discrimination: Reconstitution of olfactory receptors that recognize overlapping sets of odorants. Journal of Neuroscience, 2001, 21:6018-6025)。細胞内cAMP量を測定する手法としては、例えば、ELISA、レポーターアッセイ等が挙げられる。レポーターアッセイとしては、例えば、ルシフェラーゼアッセイが挙げられる。レポーターアッセイによれば、cAMP量に依存して発現するように構成されたレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子等)を利用して細胞内cAMP量を測定することができる。細胞内カルシウム量を測定する手法としては、例えば、カルシウムイメージングが挙げられる。カルシウムイメージングによれば、カルシウム指示薬を利用して細胞内カルシウム量を測定することができる。カルシウム指示薬としては、カルシウム感受性蛍光色素、カルシウム感受性蛍光タンパク質が挙げられる。なお、受容体タンパク質が人工脂質二重膜小胞等の内部空間を有する形態で使用され、且つ、当該人工脂質二重膜小胞等が細胞と同様にその内部空間のカルシウム量またはcAMP量が変動するように構成されている場合も、上記と同様の手法により被験物質による受容体タンパク質の活性化を測定することができる。その場合、「細胞内カルシウム量」及び「細胞内cAMP量」とは、それぞれ、内部空間におけるカルシウム量およびcAMP量と読み替えればよい。
【0043】
また、任意のパラメーターを測定することにより、脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定するための指標として利用することができる。つまり、当該応答を測定できる(すなわち、当該応答が認められるかを判定できる)限り、当該パラメーターを反映するデータを取得して利用することで足り、当該パラメーターの値自体を取得することは必要としない。すなわち、当該パラメーターを反映するデータを取得した場合、当該データから当該パラメーターの値自体を算出することは必要としない。具体的には、例えば、ルシフェラーゼアッセイにより細胞内cAMP量を測定し、脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)による上記嗅覚受容体ポリペプチドの活性化を測定するための指標として利用する場合、当該活性化を測定できる(すなわち、当該活性化が認められるかを判定できる)限り、細胞内cAMP量を反映するデータ(例えば、蛍光強度)を取得して利用することで足り、当該データから細胞内cAMP量自体を算出することは必要としない。
【0044】
脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定するタイミングは、測定可能な程度に脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答が生じている時点であれば特に制限されない。脂質劣化臭原因物質に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定するタイミングは、具体的には、上記嗅覚受容体ポリペプチドと脂質劣化臭原因物質との接触を開始した時点から、脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答が消失する時点までの適当な時点であってよい。脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定するタイミングは、例えば、上記嗅覚受容体ポリペプチドと脂質劣化臭原因物質との接触を開始した直後、開始した時点の1秒後以降、10秒後以降、30秒後以降、1分後以降、5分後以降、10分後以降、30分後以降、1時間後以降、または2時間後以降であってもよく、24時間後まで、12時間後まで、6時間後まで、2時間後まで、または1時間後までであってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定するタイミングは、具体的には、例えば、上記嗅覚受容体ポリペプチドと脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)との接触が開始した直後~3時間後であってもよい。
【0045】
(上記応答に基づいて、上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する被験物質を同定する工程(3))
ついで、脂質劣化臭原因物質(及び被験物質)に対する上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答に基づいて、当該被験物質が上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を低減する物質であるかを同定することができ、上記抑制する応答が認められたときに、前記被験物質を脂質劣化臭抑制素材候補として同定することが好ましい。
上記嗅覚受容体ポリペプチドに被験物質(及び脂質劣化臭原因物質)を接触させた際の上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答の強度S1(好ましくは活性化強度S1)を指標として同定することが好ましく、上記応答の強度S1と、対照条件における上記応答の強度S2とを比較することにより同定することがより好ましい。
ここで、上記応答の強度S1、S2等は、上記嗅覚受容体ポリペプチド非存在下で測定した応答強度で割って標準化した値であってもなくてもよい。
【0046】
ここで、「対照条件」とは、上記嗅覚受容体ポリペプチドと被験物質とを接触させない条件をいい、詳細には、上記嗅覚受容体ポリペプチドと脂質劣化臭原因物質とは接触させるが、上記嗅覚受容体ポリペプチドと被験物質とを接触させない条件(被験物質非存在下の条件)であることが好ましい。つまり、被験物質の有無による上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答の強度の差を指標とすることを意味する。
上記対照条件における上記応答の強度S2としては、被験物質添加前の上記嗅覚受容体ポリペプチドと脂質劣化臭原因物質との接触により得られた測定値であっても、予め上記嗅覚受容体ポリペプチドと脂質劣化臭原因物質との接触から収集して得られた統計的な値ないし範囲であってもよい。
【0047】
より詳細には、上記同定が、前記応答の強度S1と、対照条件における前記応答の強度S2との差に基づき、強度S1が強度S2よりも小さい場合に、上記被験物質を上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答をマスキング効果等により低減する物質(好ましくは、脂質劣化臭抑制素材候補)として同定することができる。
上記応答強度の低減の程度としては、統計的に有意な低減であることが好ましく、対照条件と対比して、3/4以下の低減がより好ましく、3/5以下の低減が更に好ましく、1/2以下の低減が特に好ましく、1/3以下の低減がとりわけ好ましく、1/4以の低減が最も好ましい。
上記低減の程度の下限値としては特に制限はないが、例えば、1/30以上、1/20以上、1/10以上等が挙げられる。
【0048】
第1の態様は、強度S2を測定する工程を含んでいてもいなくてよい。強度S1と強度S2は、単一の反応系において時間差で測定されてもよいし、それぞれ別個の反応系において同時にあるいは時間差で測定されてもよい。
強度S2に対する強度S1の比率としては、例えば、強度S2により標準化したS1値が挙げられる。
【0049】
第1の態様は、さらに、上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を低減する物質(好ましくは、脂質劣化臭抑制素材候補)を評価する工程を含んでいてもよい。すなわち、同定された上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を低減する物質(好ましくは、脂質劣化臭抑制素材候補)を評価することにより、当該物質(好ましくは、脂質劣化臭抑制素材候補)が実際にマスキング効果等により脂質劣化臭を抑制するかを確認することができる。同定された上記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を低減する物質(好ましくは、脂質劣化臭抑制素材候補)を評価する手法は特に制限はないが、例えば、官能試験による評価等の公知の手法により評価することができる。
【0050】
≪脂質劣化臭抑制剤≫
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るスクリーニング方法により得られた脂質劣化臭抑制素材を含む、脂質劣化臭抑制剤である。
第2の態様に係る脂質劣化臭抑制剤は、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルボニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンよりなる群から選択される少なくとも1つの脂質劣化臭抑制素材を含有することが好ましい。
【0051】
上記脂質劣化臭抑制剤は、脂質劣化臭抑制効果を損なわない限り、任意の成分を含んでいてもよい。上記任意の成分としては、経口摂取可能なもの等の、上記脂質劣化臭抑制剤の用途に応じて許容可能なものを利用できる。上記任意の成分としては、例えば、調味料、飲食品、または医薬品に配合して利用されるものを利用できる。上記任意の成分として、具体的には、例えば、砂糖、蜂蜜、メープルシロップ、スクロース、グルコース、フルクトース、異性化糖、オリゴ糖等の糖類;キシリトール、エリスリトール等の糖アルコール類;高甘味度甘味料;食塩、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;酢酸、クエン酸等の有機酸類およびその塩;グルタミン酸、グリシン等のアミノ酸類およびその塩;イノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸等の核酸類およびその塩;食物繊維、pH緩衝剤、賦形剤、増量剤、香料、食用油、エタノール、水が挙げられる。上記任意の成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
≪飲食品の製造方法、及び飲食品≫
本発明の第3の態様は、第1の態様に係るスクリーニング方法により得られた脂質劣化臭抑制素材を含む、脂質劣化臭抑制剤を含有する飲食品の製造方法であり、第1の態様に係るスクリーニング方法により得られた脂質劣化臭抑制素材を含む脂質劣化臭抑制剤を任意の飲食品に添加することを含むことが好ましく、
アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルボニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンよりなる群から選択される少なくとも1つの脂質劣化臭抑制素材を含有する脂質劣化臭抑制剤を任意の飲食品に添加することを含むことがより好ましい。
上記脂質劣化臭抑制剤を任意の飲食品に添加することにより、脂質劣化臭を抑制することができる。
【0053】
また、本発明の第4の態様は、第1の態様に係るスクリーニング方法により得られた脂質劣化臭抑制素材を含む、脂質劣化臭抑制剤を含有する飲食品であり、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルボニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンよりなる群から選択される少なくとも1つの脂質劣化臭抑制素材を含有する脂質劣化臭抑制剤を含む任意の飲食品が好ましい。
飲食品の具体例としては、例えば、炭酸飲料、清涼飲料、果汁飲料類、乳飲料類、乳酸菌飲料類、ドリンク剤類、豆乳、茶飲料などの飲料類;チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒などのアルコール飲料類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリー、デイリーデザートなどのデザート類;キャラメル、キャンディー、錠菓、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、スナック、チューインガムなどの菓子類;和風スープ、洋風スープなどのスープ類;ジャム類;風味調味料類;各種インスタント飲料類;各種インスタント食品類などを挙げることができる。
油を含む飲食品(特に、油を多く含む飲食品)において、脂質劣化臭は、オフフレーバーとして飲食品の嗜好性を損なう一因となっていることから、第4の態様に係る飲食品は好適である。
例えば、従来、レモン水、レモン炭酸水等には、レモン果皮油(レモンピールオイル)が含有されていることがあり、これが脂質劣化臭の原因になることがあった。
これに対し、上記脂質劣化臭抑制剤を添加することにより、上記脂質劣化臭を抑制することができる。
【0054】
上記脂質劣化臭抑制剤の飲食品への添加量は、製品の種類や形態に応じて異なるが、例えば、脂質劣化臭抑制剤を添加する前の飲食品の質量を基準として0.05~500ppb、好ましくは0.1~300ppb、より好ましくは0.5~100ppb、さらに好ましくは1~50ppbの濃度範囲とすることができる。
【実施例0055】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0056】
<嗅覚受容体応答の測定方法>
(1)嗅覚受容体遺伝子のクローニング
各ヒト嗅覚受容体388種はGenBankに登録されている配列情報を基に、Human Genomic DNA:Female(Promega社製)からPCR法によりクローニングすることで得た。
PCR法により増幅した各遺伝子をヒトロドプシン(Rho-tag)のN末端20アミノ酸残基をコードするpCI発現ベクター(Promega社製)に組み込むことで、ヒト嗅覚受容体遺伝子発現ベクターを得た。
【0057】
(2)ルシフェラーゼアッセイ法
(1日目:細胞播種)
Hana3A細胞を48時間後にコンフルエントに達する細胞数で50μLずつ各ウェルに播種した。
(2日目:嗅覚受容体遺伝子の導入)
ヒト嗅覚受容体遺伝子発現ベクター80ng、RTP1sベクター5ng、pGloSensorTM-22Fプラスミド10ng(Promega社製)、ViaFect(登録商標)Transfection Reagent0.2μL(Promega社製)をD-MEM(富士フイルム和光純薬社製)10μLに溶解して遺伝子溶液(1穴分)とし、クリーンベンチ内で15分静置した。
静置後の遺伝子溶液を、細胞播種から24時間経過したHana3A細胞の培養液と置換し、細胞に遺伝子を導入した。
遺伝子導入後の細胞を、37℃、5%CO2濃度下で24時間培養した。
【0058】
(3日目:ルシフェラーゼアッセイ)
GloSensor cAMP assay(Promega社製)を用いて、製品のマニュアルに従い、リガンドとの結合により活性化された受容体が引き起こすcAMP濃度の変化を、リアルタイムで測定した。
培養液を除去したのち、HBSS(+)(富士フイルム和光純薬社製)緩衝液(10mM HEPES、1mMグルコース、0.75mM CuCl2、GloSensor cAMP Reagent添加)を25μLずつ添加し、室温、遮光条件下で2時間平衡化した。
【0059】
平衡化終了後、検体となる脂質劣化臭原因物質((E,E)-2,4-デカジエナール)を試験濃度となるようにHBSS(+)緩衝液で希釈し、各ウェルに25μLずつ添加した。
素早くルミノメーターにセットし、刺激直後からのホタルルシフェラーゼ由来の発光値を120s間隔で15サイクル測定した。
全ての発光値を、同じサイクル数におけるRho-pCIベクター(ベクターコントロール:空ベクター)を遺伝子導入した細胞の発光値で割り、ROC解析し、応答強度をAUC(曲線下面積)値として算出した。
【0060】
<(E,E)-2,4-デカジエナールに応答する嗅覚受容体のスクリーニング及び同定>
ヒト嗅覚受容体388種を発現させた上記細胞を使用して、(E,E)-2,4-デカジエナール10μMに対する受容体応答を上記ルシフェラーゼアッセイ法で測定した(n=2)。
AUC値が1以上を示したヒト嗅覚受容体31種類について再度発現細胞を調製し、次に様々な濃度(0/1/10/100μM)の(E,E)-2,4-デカジエナールに対する受容体の応答強度を、ルシフェラーゼアッセイ法で測定した(n=3)。上記応答を示す測定結果を
図1(a)及び(b)に示す。図中の値はn=3の平均値である。
図1(a)及び(b)に示した結果から明らかなように、OR2J3及びOR51E1は濃度依存的に(E,E)-2,4-デカジエナールに応答していることがわかる。OR51E1よりも、OR2J3の方が(E,E)-2,4-デカジエナールに対して応答性が高く、最終的にOR2J3を(E,E)-2,4-デカジエナールに応答するヒト嗅覚受容体として同定した。
【0061】
<様々な脂質劣化臭原因物質に応答する嗅覚受容体OR2J3の応答測定>
ヒト嗅覚受容体OR2J3発現細胞を調製し、様々な濃度(0/0.1/1/3/10/30/100/300μM)のヘプタナールに対する受容体OR2J3の応答強度を、ルシフェラーゼアッセイ法でAUC値として測定した(n=3)。上記応答を示す測定結果を
図2(a)に示す。図中の値はn=3の平均値であり、Rho-pCIはベクターコントロール(空ベクター)の測定結果である。
脂質劣化臭原因物質をヘプタナールから、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、又は(E,E)-2,4-デカジエノールにそれぞれ変更すること以外は同様にして受容体OR2J3の応答強度を、ルシフェラーゼアッセイ法でAUC値として測定した(n=3)。上記応答を示す測定結果を
図2(b)~(f)及び
図3(a)~(i)に示す。図中の値はn=3の平均値である。
【0062】
図2(a)~(f)及び
図3(a)~(i)に示した結果から明らかなように、OR2J3は濃度依存的にヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、又は(E,E)-2,4-デカジエノールに応答していることがわかる。
つまり、OR2J3を、(E,E)-2,4-デカジエナールのみならず、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、(E,E)-2,4-デカジエノール等の脂質劣化臭に応答するヒト嗅覚受容体として同定した。
【0063】
<(E,E)-2,4-デカジエナールに対する従来のマスキング剤によるインビトロでの脂質劣化臭マスキング効果の確認>
(1)官能評価により(E,E)-2,4-デカジエナールに対してマスキング効果が確認されている従来のマスキング剤を使用して、OR2J3(詳細には、配列番号4で表されるHap4 OR2J3)を発現させた細胞で、様々な濃度(0/0.1/1/10/30μM)の上記従来のマスキング剤に対する受容体応答強度を、上記ルシフェラーゼアッセイ法で測定した(n=3)。結果を
図4に示す。図中の値はn=3の平均値である。
図4中、対比のため、様々な濃度の(E,E)-2,4-デカジエナールに対する受容体応答も示す。
図4に示した結果から明らかなように、OR2J3は、(E,E)-2,4-デカジエナールに対してのみ高い応答を示し、上記従来のマスキング剤には微弱な応答、もしくは応答を示さないことを確認した。
【0064】
(2)次に(E,E)-2,4-デカジエナールの受容体応答の上記従来のマスキング剤による減弱効果(マスキング効果)を評価した。
このときの(E,E)-2,4-デカジエナールの濃度は、
図1及び4に示した(E,E)-2,4-デカジエナール単独供与時の応答曲線からEC
50付近となる濃度を使用した。つまりOR2J3に対して(E,E)-2,4-デカジエナール3μMの応答をブランクとした。
上記従来のマスキング剤を(E,E)-2,4-デカジエナールに対してモル濃度比で1/10(0.3μM)、等倍(3μM)、3倍(9μM)、10倍(30μM)、20倍(60μM)となるよう共投与し、細胞の応答を上記ルシフェラーゼアッセイ法で測定した(n=3)。結果を
図5に示す。図中の値はn=3の平均値である。
図5に示した結果から明らかなように、OR2J3応答強度は、20倍(60μM)のモル濃度の上記従来のマスキング剤の共添加で51%に減弱した。
上記結果から明らかなように、OR2J3の応答が(E,E)-2,4-デカジエナールの刺激で惹起されること、その応答強度は上記従来のマスキング剤を共添加することで濃度依存的に減弱されること、上記従来のマスキング剤は官能評価により(E,E)-2,4-デカジエナールに対してマスキング効果が確認できていることから、OR2J3は(E,E)-2,4-デカジエナールによる脂質劣化臭の認識に関与する受容体であることが示唆された。
【0065】
また、
図5に示した結果から明らかなように、OR2J3は(E,E)-2,4-デカジエナールに対して応答性が高く、新規脂質劣化臭抑制素材(新規マスキング素材)のスクリーニングに好適であるといえる。
(E,E)-2,4-デカジエナールによる脂質劣化臭の認識に関与する受容体としてOR2J3の応答強度を指標として以下のスクリーニングを行った。
【0066】
<脂質劣化臭原因物質((E,E)-2,4-デカジエナール)に対する新規脂質劣化臭抑制素材のスクリーニング>
新規脂質劣化臭抑制素材(新規マスキング素材)候補として、香料原料として使用される化合物200成分及び天然精油20品をリストアップして被験物質として以下のスクリーニングに使用した。
OR2J3を発現させたHana3A細胞を、HBSS(+)緩衝液25μLで2時間平衡化した。
平衡化後、ブランク((E,E)-2,4-デカジエナールも上記被験物質も含有しない)又は被験物質として400μMの上記化合物200成分又は40μg/mLの上記天然精油20品が含まれるように調製したHBSS(+)緩衝液を12.5μLずつ添加した。
【0067】
さらに40μMの(E,E)-2,4-デカジエナールが含まれるように調製したHBSS(+)緩衝液を12.5μLずつ共添加した。ブランク及びポジティブコントロール(単に「ポジコン」ともいう。)を設けている。
素早くルミノメーターにセットし、再度120s間隔で10サイクル測定した。結果を
図6に示す。
図6は、上記被験物質(食品に使用可能な香料原料220品)に(E,E)-2,4-デカジエナールを更に共添加したOR2J3応答(AUC値)を示す図であり、下記ポジティブコントロール((E,E)-2,4-デカジエナールのみ含有)を100%表記とした場合の相対AUC値%である。
図6中、ブランクは(E,E)-2,4-デカジエナールも上記被験物質(上記香料原料220品)も含有せず、
ポジティブコントロールは、上記被験物質(上記香料原料220品)を含有せず、(E,E)-2,4-デカジエナールのみ含有する。
【0068】
図6に示した結果から明らかなように、アリルイソチオシアネート(allyl isothiocyanate)は、相対AUC値%が27%であり、
ジメチルベンジルカルビニルブチレート(dimethyl benzyl carbinyl butyrate (2-methyl-1-phenyl-2-propyl butyrate))は、相対AUC値%が30%であり、
イソチオシアン酸sec-ブチル(sec-butyl isothiocyanate)は、相対AUC値%が30%であり、
インドール(indole)は、相対AUC値%が23%であり、
3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオン(3,4-dimethyl-1,2-cyclopentanedione)は、相対AUC値%が34%であり、顕著にOR2J3応答が低減されており、これら5化合物を新規脂質劣化臭抑制素材(新規マスキング素材)として選抜できた。
【0069】
<脂質劣化臭原因物質((E,E)-2,4-デカジエナール)に対する新規脂質劣化臭抑制素材の脂質劣化臭抑制効果の官能評価試験>
(1)官能評価試験(綿球)
20ccのガラスバイアルに直径1cmの綿球を入れ、エタノール中0.1質量%(E,E)-2,4-デカジエナールを10μL、エタノール中0.01~0.1質量%新規脂質劣化臭抑制素材(新規マスキング素材)を10μL染み込ませ、蓋を閉めて1時間平衡化した。
平衡化後、蓋を開けて鼻を近づけ、(E,E)-2,4-デカジエナール臭強度を下記表2に示した各項目について0~10段階で評価した。
(E,E)-2,4-デカジエナール臭強度は次のように定義し、パネルは事前に説明を受けたのち評価に参加した。
(E,E)-2,4-デカジエナール単独の臭気強度を8とし、新規マスキング素材を混合したときの(E,E)-2,4-デカジエナール臭強度を0(感じない)から10(非常に強く感じる)とした。
サンプルは3桁の乱数字で呈示し、呈示順はランダムとした。結果をn=25の平均値として
図7に示す。
【0070】
【0071】
図7に示した綿球試験結果から明らかなように、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルビニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンはいずれも、脂質劣化臭((E,E)-2,4-デカジエナール臭)を抑制する効果(マスキング効果)を奏することがわかる。
また、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルビニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンはいずれも、(E,E)-2,4-デカジエナールのみならず、ヒト嗅覚受容体OR2J3及びそのバリアントに応答される点で共通する、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、(E,E)-2,4-デカジエノール等の脂質劣化臭を抑制する効果(マスキング効果)を奏することが推察される。
【0072】
(2)官能評価試験(イオン交換水)
イオン交換水200mLにエタノール中0.01質量%(E,E)-2,4-デカジエナールを10μL、エタノール中0.001~0.1質量%新規脂質劣化臭抑制素材(新規マスキング素材)を10μL添加し、よく撹拌した。
サンプルを一口含んだあとすぐに飲み込み、鼻から抜けるときの(E,E)-2,4-デカジエナール臭強度を下記表3に示した各項目について0~10段階で評価した。
(E,E)-2,4-デカジエナール臭強度は次のように定義し、パネルは事前に説明を受けたのち評価に参加した。
(E,E)-2,4-デカジエナール単独の臭気強度を8とし、新規マスキング素材を混合したときの(E,E)-2,4-デカジエナール臭強度を0(感じない)から10(非常に強く感じる)とした。
サンプルは3桁の乱数字で呈示し、呈示順はランダムとした。結果をn=24~26の平均値として
図8に示す。
【0073】
【0074】
図8に示したイオン交換水の試験結果から明らかなように、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルビニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンはいずれも、脂質劣化臭((E,E)-2,4-デカジエナール臭)を抑制する効果(マスキング効果)を奏することがわかる。
また、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルビニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンはいずれも、(E,E)-2,4-デカジエナールのみならず、ヒト嗅覚受容体OR2J3及びそのバリアントに応答される点で共通する、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、(E,E)-2,4-デカジエノール等の脂質劣化臭を抑制する効果(マスキング効果)を奏することが推察される。
【0075】
(3)官能評価試験(レモン炭酸水)
市販のレモン炭酸水(天然水スパークリングレモン)200mLにエタノール中0.01質量%(E,E)-2,4-デカジエナールを10μL、エタノール中0.01~0.1質量%新規脂質劣化臭抑制素材(新規マスキング素材)を10μL添加し、よく撹拌した。
このときの新規マスキング素材の濃度は、上記(2)イオン交換水の試験のときの官能評価結果を参考にして最適な濃度を設定した。
サンプルを一口含んだあとすぐに飲み込み、鼻から抜けるときの(E,E)-2,4-デカジエナール臭強度を下記表4に示した各項目について0~10段階で評価した。
(E,E)-2,4-デカジエナール臭強度は次のように定義し、パネルは事前に説明を受けたのち評価に参加した。
(E,E)-2,4-デカジエナール単独の臭気強度を8とし、新規マスキング素材を混合したときの(E,E)-2,4-デカジエナール臭強度を0(感じない)から10(非常に強く感じる)とした。
サンプルは3桁の乱数字で呈示し、呈示順はランダムとした。結果をn=23の平均値として
図9に示す。
【0076】
【0077】
図9に示したイオン交換水の試験結果から明らかなように、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルビニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンはいずれも、脂質劣化臭((E,E)-2,4-デカジエナール臭)を抑制する効果(マスキング効果)を奏することがわかる。
また、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルビニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンはいずれも、(E,E)-2,4-デカジエナールのみならず、ヒト嗅覚受容体OR2J3及びそのバリアントに応答される点で共通する、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、(E,E)-2,4-デカジエノール等の脂質劣化臭を抑制する効果(マスキング効果)を奏することが推察される。
【0078】
以上の結果から、嗅覚受容体OR2J3のポリペプチドの応答を測定する本発明のスクリーニング方法は、脂質劣化臭((E,E)-2,4-デカジエナール臭)を抑制する新規脂質劣化臭抑制素材をスクリーニングすることができるといえる。
また、嗅覚受容体OR2J3のポリペプチドの応答を測定する本発明のスクリーニング方法は、(E,E)-2,4-デカジエナールのみならず、ヒト嗅覚受容体OR2J3及びそのバリアントに応答される点で共通する、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、(E,E)-2,4-デカジエノール等の脂質劣化臭を抑制する新規脂質劣化臭抑制素材をスクリーニングすることができるといえる。
【0079】
また、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルボニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンはいずれも、新規脂質劣化臭抑制素材として、脂質劣化臭((E,E)-2,4-デカジエナール臭)を抑制することができ、脂質劣化臭抑制剤として使用し得ることがわかる。
また、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルボニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、及び3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンはいずれも、新規脂質劣化臭抑制素材として、(E,E)-2,4-デカジエナールのみならず、ヒト嗅覚受容体OR2J3及びそのバリアントに応答される点で共通する、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、(E,E)-2,4-デカジエノール等の脂質劣化臭を抑制することができ、脂質劣化臭抑制剤として使用し得ることがわかる。
また、アリルイソチオシアネート、ジメチルベンジルカルボニルブチレート、イソチオシアン酸sec-ブチル、インドール、又は3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオンを飲食品(例えば、水、レモン炭酸水)に添加することにより、当該飲食品の脂質劣化臭を抑制することができるといえる。
【0080】
<脂質劣化臭((E,E)-2,4-デカジエナール臭)に対するヒト嗅覚受容体OR2J3の様々なバリアント(例えば、ハプロタイプ)の応答評価>
OR2J3の様々なハプロタイプ(Hap1~Hap5)の発現細胞を調製し、次に濃度(100μM)の(E,E)-2,4-デカジエナールに対するOR2J3の様々なハプロタイプの応答強度を、ルシフェラーゼアッセイ法で測定した。上記応答強度を示す測定結果を
図10に示す。
図10中、縦軸は、Hap4の応答強度を100%とした場合の相対応答強度(%)である。
図10に示した結果から明らかなように、OR2J3の様々なハプロタイプ(Hap1~Hap5)はいずれも(E,E)-2,4-デカジエナールに対して応答することがわかる。
また、OR2J3の様々なハプロタイプ(Hap1~Hap5)はいずれも、(E,E)-2,4-デカジエナールのみならず、ヒト嗅覚受容体OR2J3及びそのバリアントに応答される点で共通する、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、(E,E)-2,4-デカジエノール等の炭素原子数4~20の直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族アルコール若しくはアルデヒドに対して応答することが推察される。
以上の結果から、本発明のスクリーニング方法は、嗅覚受容体OR2J3の様々なバリアント(例えば、ハプロタイプ)のポリペプチドを使用して、脂質劣化臭((E,E)-2,4-デカジエナール臭)を抑制する新規脂質劣化臭抑制素材をスクリーニングすることができるといえる。
また、本発明のスクリーニング方法は、嗅覚受容体OR2J3の様々なバリアント(例えば、ハプロタイプ)のポリペプチドを使用して、(E,E)-2,4-デカジエナールのみならず、ヒト嗅覚受容体OR2J3及びそのバリアントに応答される点で共通する、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、(E,E)-2,4-ヘキサジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-オクタジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ウンデカジエナール、(E)-2-ノネナール、(E)-2-デセナール、(E,E)-2,4-デカジエノール等の脂質劣化臭を抑制する新規脂質劣化臭抑制素材をスクリーニングすることができるといえる。