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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001905
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】基板接合体および液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20241226BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20241226BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20241226BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B41J2/16 503
B41J2/14 301
B81B3/00
B81C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101670
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】田口 誠人
(72)【発明者】
【氏名】森末 将文
(72)【発明者】
【氏名】樋口 広志
(72)【発明者】
【氏名】菅原 崇
【テーマコード(参考)】
2C057
3C081
【Fターム(参考)】
2C057AF93
2C057AG44
2C057AP25
2C057AR14
2C057BA04
2C057BA14
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA02
3C081BA30
3C081BA55
3C081CA31
3C081CA32
3C081DA03
3C081EA35
(57)【要約】
【課題】 基板の開口への接着剤のはみ出しを抑制しつつ、接着剤の空隙の発生も抑制できる基板接合体および液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【解決手段】 第1の基板1と第2の基板2とが接着剤3により接合されている基板接合体において、第1の基板1の接着剤3が付着している側の面には、第2の基板2に向かって突出する突出部4が形成されており、突出部4は、開口5を囲むように配置されており、突出部4の上面には、溝6が形成されており、溝6は、突出部4の端部まで延在していることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と第2の基板とが接着剤により接合されている基板接合体において、
前記第1の基板の前記接着剤が付着している側の面には、前記第2の基板に向かって突出する突出部が形成されており、
前記第2の基板には、開口が形成されており、
前記突出部は、前記開口を囲むように配置されており、
前記突出部の上面には、溝が形成されており、
前記溝は、前記突出部の端部まで延在していることを特徴とする基板接合体。
【請求項2】
前記溝は、少なくとも1本形成されている請求項1に記載の基板接合体。
【請求項3】
前記溝は、前記突出部の内壁とは連通していない請求項1に記載の基板接合体。
【請求項4】
前記突出部の辺の溝の断面積をS1、前記突出部の角部の溝の断面積をS2とするとき、S1>S2の関係であることを特徴とする請求項1に記載の基板接合体。
【請求項5】
前記突出部の辺の溝の幅をW1、前記突出部の角部の溝の幅をW2とするとき、W1>W2の関係であることを特徴とする請求項1に記載の基板接合体。
【請求項6】
前記突出部の辺の溝の深さをD1、前記突出部の角部の溝の深さをD2とするとき、D1<D2の関係であることを特徴とする請求項1に記載の基板接合体。
【請求項7】
請求項1に記載の基板接合体を有する液体吐出ヘッドであって、前記突出部は、前記液体吐出ヘッドの配線構造の一部からなることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
少なくとも一つの開口を有する第二の基板を準備する工程と、
前記開口を取り囲む形状を有する突出部を第一の基板に形成する突出部形成工程と、
前記突出部の上面に溝を形成する溝形成工程と、
前記第二の基板の開口を有する面に接着剤を転写する接着剤転写工程と、
前記接着剤を介して、前記第一の基板と前記第二の基板を前記開口と前記突出部を同軸上に対向させて貼り合わせる基板貼り合わせ工程を有する基板接合体の製造方法であって、
前記貼り合わせ工程は、前記溝が延伸する方向と、接着剤の転写方向とが直交するように基板を貼り合わせることを特徴とする基板接合体の製造方法。
【請求項9】
前記接着剤転写工程は、前記開口が密に並ぶ方向と同一方向に、接着剤を転写し、
前記貼り合わせ工程は、前記溝が延伸する方向と、前記開口が密に並ぶ方向とが直交するように基板を貼り合わせることを特徴とする請求項8に記載の基板接合体の製造方法。
【請求項10】
第1の基板に有する圧電素子によって、液体吐出を行う液体吐出ヘッドの製造方法であって、
ピエゾ素子振動空間と液体供給口を有する第2の基板と、前記液体供給口を取り囲むように位置する突出部を有する第1の基板と、前記第1の基板と対向し、液体吐出口を有する第3の基板とを、接着剤を介して接合された液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記第2の基板の開口を有する面に接着剤を転写する接着剤転写工程と、
前記接着剤を介して、前記第1の基板と前記第2の基板を前記液体供給口と前記突出部を同軸上に対向させて貼り合わせる基板貼り合わせ工程と、
前記接着剤を介して、前記第1の基板と前記第3の基板とを前記接着剤を介して貼り合わせる第3の基板の貼り合わせ工程を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記接着剤転写工程は、前記第2の基板に形成されたピエゾ素子振動空間の長手方向に対して、直交するように接着剤を転写することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、基板接合体および液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
2つの基板を接合してなる基板接合体は、各種の電子機器で使用されている。例えば、インクジェット式プリンター等に搭載される液体吐出ヘッドである。液体吐出ヘッドにおいては、複雑な三次元構造を有する液体流路を構成するために、液体吐出エネルギー発生素子ならびに液体流路構造を有する基板と、この基板に対向する他方の基板とが接合された基板接合体を有することがある。接着剤を介して基板と基板とを接合する場合は、接着剤を接合界面に安定的に形成する方法が必要とされる。例えば、特許文献1のように、流路を構成する孔が配置されている複数の基板が接着剤層を介して積層されている流路部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-190498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1を簡略化したものを図15に示す。特許文献1の流路部材は、基板1には、流路を構成する開口5と前記流路を構成しない溝20が配置されているとともに、溝20の縁に、溝20の配置されている基板の主面から突起している凸部4が配置されている。溝20があることで、余剰な接着剤を収納して、開口5への接着剤のはみ出しを抑制する効果を果たす。また、凸部4によって、基板同士の貼り合わせの際の基板間(基板間距離)を規定する働きも同時にする。
【0005】
しかしながら、構造は接着剤が必要以上に厚い箇所に対しては、接着剤はみ出しの効果が期待できる一方、接着剤の平均高さよりも高く設計された凸部4が間隔を規定するため、相対的に接着剤の膜厚が薄い箇所においては、空隙発生の懸念があった。このため、この空隙19が液体流路を流れるインクのリーク原因となる懸念があった。
【0006】
次に、前記接着剤はみ出しや、空隙の発生を助長する要因を考えると、接着剤転写後の膜厚分布が挙げられる。転写方法と膜厚分布の発生理由について説明する。図8に第2の基板上の接着剤転写状態を示す。第2の基板は開口5を有しており、開口周囲の接着剤の厚みにはムラがある。開口5の四隅を4点、開口の辺部を4点の膜厚を測定したところ、辺部に比べ、四隅の方が、膜厚が薄くなっている。これは、接着剤の移動が顕著に行われる四隅では薄膜が形成される一方、接着剤の移動が少ない四辺では接着剤がその場に残るため、厚膜が形成されるためである。そのため、接合後の基板の状態として、四隅では空隙の発生、辺部では、開口5へのはみ出しが懸念される。ちなみに、矢印10の方向は接着剤の転写方向を示しており、転写方向から、膜厚の分布は予測できる。そのため、基板同士を確実に接合するためには接合時の気泡の混入や開口5への接着剤侵入を避ける必要があり、その目的のため、接着剤膜厚を制御する必要がある。
【0007】
本実施形態は、上記課題を鑑み、基板の開口への接着剤のはみ出しを抑制しつつ、接着剤の空隙の発生も抑制できる基板接合体および液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、第1の基板と第2の基板とが接着剤により接合されている基板接合体において、前記第1の基板の前記接着剤が付着している側の面には、前記第2の基板に向かって突出する突出部が形成されており、前記第2の基板には、開口が形成されており、前記突出部は、前記開口を囲むように配置されており、
前記突出部の上面には、溝が形成されており、前記溝は、前記突出部の端部まで延在していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、基板の開口への接着剤のはみ出しを抑制しつつ、接着剤の空隙の発生も抑制できる基板接合体および液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】基板接合体を示す斜視図および断面図。
図2図1の拡大図。
図3】基板接合体の断面図。
図4】第1の基板の突出部の断面図。
図5】第1の基板の突出部の平面図。
図6】基板接合体の平面図、及び断面図。
図7】第1の基板、及び第2の基板の斜視図。
図8】第2の基板上の接着剤転写状態の平面図、及び断面図。
図9】基板接合体の製造方法の工程を示す平面図、及び断面図。
図10】液体吐出ヘッドの斜視図、断面図、及び第1の基板の突出部の断面図。
図11】第1の基板の突出部の平面図、及び断面図。
図12】第1の基板の突出部の平面図、及び断面図。
図13】第1の基板と第2の基板の斜視図、及び第1の基板の突出部の斜視図。
図14】第2の基板上の接着剤転写状態の平面図、断面図。
図15】特許文献1に示す基板接合体の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
本実施形態に関わる基板接合体について、図1~8、図11~15を用いて説明する。図1に本実施形態に関わる基板接合体12の斜視図、またその断面図を示す。図2図1を拡大したものを示す。基板接合体12は、開口5を有する第2の基板2と、前記第2の基板2との間隔を規定する突出部4を有する第1の基板1とを、前記第2の基板2に有する接着剤3で接合したものである。前記突出部4は、前記開口5を取り囲むよう位置し、接合する際に対向する前記第2の基板2との間隔を規定する役割を担う。前記突出部4は前記接着剤3と接する面に溝6を有している。前記溝6は突出部4の端部に繋がっている。溝は端部まで形成されている。
【0013】
第1の基板1、第2の基板2には、溝や貫通穴などの開口が形成された基板や、集積回路や機能デバイスなどが搭載された基板などの加工基板を用いることができる。これらの組み合わせで基板接合体12が構成される。基板接合体12は個片化されたチップ形態や、個片化する前のウエハ形態でも適用することができる。第1の基板1、第2の基板2の材質は、例えばSi、ガラス、セラミックス、半導体、樹脂などを用いる。第1の基板1、第2の基板2は接着剤3を介して接合され、接合後も、接着剤3がそこに存在する。接着剤3には接合する第2の基板2の表面と互いに接着できる材料を用い、例えば熱硬化性の樹脂などを用いることができる。接着剤3は、接合前の第2の基板2の接合面に予め形成されており、接合時に接着剤3がプレスされて、その後、接着剤3を加熱キュアすることで、接着剤3が硬化し、基板接合体12が形成される。
【0014】
図3図2のB-B断面を、第1の基板1と第2の基板2とを接着剤3を介して接合する過程を示す。図3図15と同様に、第2の基板2には既に接着剤3が形成されている状態である。第1の基板1と第2の基板2同士を接合する過程を時系列順に(a),(b),(c)としている。(a)は接合前、(b)は接合の途中経過、(c)は接合完了時の接着剤の流動を示している。図15では接合をする過程で、突出部4の上面が接着剤と対向した後、第2の基板2表面と接するまで接合を行うため、一部の接着剤3は行き場を無くし、開口5へはみ出すことになる。一方、本件は突出部4の接合面に溝6が設けられているため、接着剤3は開口5にはみ出すよりも先に、溝6内部へ収納される。そのため、開口5への接着剤はみ出しを抑制することが可能である。また、溝6の内部に収納された接着剤3は突出部4周囲の接着剤3の膜厚が薄い箇所に連通しているため、余剰の接着剤が薄い箇所へ誘導される。この時、溝の幅は例えば5~20um程と非常に狭いため、粘度の低い接着剤は毛細管現象の働きにより、溝の内側を満たすように誘導される。具体的には、図8の開口5周囲の辺にあたる接着剤厚膜部8から、四隅にあたる接着剤薄膜部7への誘導を可能にする。よって開口周囲の接着剤の膜厚のムラが低減されるため、接着剤3の膜厚が薄いことが原因で発生する空隙の発生が抑制される。尚、開口5の四辺は転写の過程で開口付近を通過するため、開口周囲の表面張力の影響で、接着剤は淀み、その場に留まる働きをする。そのため、相対的に四隅に形成される接着剤は表面張力の影響を受け辛いため、膜厚が薄くなるといえる。尚、常温において粘度が比較的高い接着剤においても、接合時の加熱によって接着剤の粘度が低くなると、毛細管現象の働きにより、接着剤は誘導される。
【0015】
尚、前記突出部4は第1の基板1を加工して、形成されたものではなく、第1の基板1上に形成した別部材を加工して形成したものである。例えば、前記突出部4は、配線層の一部で構成されていてもよく、配線層以外の他の材料、たとえば、絶縁体材料で構成されていても良い。尚、開口5への接着剤のはみ出しを抑制するためには、突出部4に配置する溝6は図2(a)に示すように、突出部4の内外を連通させない形状が好ましい。
【0016】
前記第2の基板2に前記接着剤3を転写したとき、前記開口5周囲の接着剤の膜厚には分布があり、厚膜部と薄膜部はそれぞれ、接着剤の転写方向と開口の形状によって決まる。そのため、前記開口の形状が円であるとき、接着剤の膜厚の分布は図14に示すようになる。薄膜部7と厚膜部8が連通するように突出部に溝を形成することで、前記第1の基板と前記第2の基板を貼り合わせた時に、接着剤の厚膜部から薄膜部への誘導を可能にする。これにより、前記基板接合体12は開口への接着剤はみ出しと空隙の発生を抑制することが出来る。
【0017】
前記突出部、図2(a)は基板同士を接合する前の状態を示しており、第2の基板には既に接着剤が形成されている。第1の基板1と第2の基板2とを接着剤3を介して接合したものが、(b)に示す、基板接合体12となる。
【0018】
図2に示すように突出部4の内寸は第2の基板2の開口5の形状を基に形成される。例えば、図2のように四角形の開口に対しては、突出部4の内寸は開口より一回り大きい四角形であると好ましい。これは、基板接合時の接着剤3と開口5との距離が一定であるためである。これにより、第2の基板上に形成した接着剤3は第1の基板の突出部4と接することで、基板接合後の接着剤はみだしを抑制することが可能となる。また、前記接着剤3は、接合時に前記溝6によって図3に示すように、接着剤の厚膜部は薄膜部へ移動するため、薄膜部で懸念される空隙の発生も同時に軽減することが出来る。
【0019】
図7に示す突出部4上面の溝6は突出部の辺と角をつなぐことで、突出部上面と対向する、第2の基板の開口5周囲の辺と角に位置する接着剤の移動をさせることが出来る。これにより、開口5周囲の四辺に位置する接着剤厚膜部8から、四隅の接着剤薄膜部7へ誘導することで、基板接合によって懸念される、開口5への接着剤はみだし、開口周囲の空隙の発生を抑制することが出来る。
【0020】
図13(a)に示すように、前記突出部4は、前記接着剤3と接する面の四辺の内、少なくとも一辺に溝6を有しても良い。図13(b)に示すように、隣り合う開口の間に形成される接着剤と対向する位置に、溝が位置するような突出部を配置することで、接着剤のはみ出しの抑制と、空隙の発生を抑制することが出来る。図13(c)に前記突出部4の拡大図を示す。
【0021】
前記突出部4は、四辺の内、二辺(対辺)の前記接着剤と接する面に溝6を有しても良い。また、図7に示す転写方向10と溝6の延伸する方向が直交するほうが、任意の開口形状においても、効果的である。これにより、開口5周囲の薄膜部7における空隙の発生と、厚膜部8における開口5への接着剤3はみ出し量を軽減することが出来る。また、溝6は、任意の二辺以上に配置されていても良く、突出部上面の辺全てに配置されていても良い。
【0022】
図4に本実施形態に関わる突出部4の断面図を示す。(a),(b)はそれぞれ以下の条件を満たす形状の一例である。図5に示す突出部4の平面図のF-F断面に該当する前記突出部4の辺の溝の断面積をSF、G-G断面に該当する前記突出部の角部の溝の断面積をSGとするとき、SF>SGの関係である。溝の深さDと幅Wの関係をこれに当てはめると、DF×WF>DG×WGとなる。これにより、突出部の四隅に行くほど、溝6の断面積は小さくなり、毛細管現象の特性として、断面積の大きい方から小さい方へ流体が移動する働きをする。これにより、溝の端部まで接着剤が充填され、接着剤3の薄膜部による空隙の発生を低減することができる。
【0023】
図5に本実施形態の第一の実施形態の一例を示す突出部4の平面図を示す。前記突出部の辺の溝の幅をW1、前記突出部の角部の溝6の幅をW2とするとき、W1>W2の関係である。図7で示すような基板接合時に、接着剤3が開口辺部8から開口四隅の薄膜部7へ多く移動をする必要があるため、W1をW2よりも大きくしている。これにより、接着剤のはみ出し量低減に効果をもたらす。また、W2をW1よりも小さくすることで、接着剤の厚膜部は幅広W2の溝6に充填される。また、基板同士の貼り合わせの過程で、突出部4の溝6の幅広部W2から、突出部4の角部の溝6の幅狭部W1に、流体の移動を積極的に移動する作用を持つ毛細管現象の働きにより、接着剤3が角部へ誘導される。これにより、接合後の空隙の発生が懸念される開口周囲角部へ、接着剤が十分に供給される。
【0024】
図6に本実施形態の第一の実施形態の一例を示す突出部4の平面図、及び断面図を示す。前記突出部の辺部における溝の深さをD1、前記突出部の角部の溝の深さをD2とするとき、D1<D2の関係である。図7で示すように開口周囲の辺部は四隅に比べ、接着剤3が厚いため、基板接合時には、接着剤が対向する突出部4の辺部に接触し、溝6の内側に収容される。収容した接着剤を開口5の周囲の四隅の接着剤の薄膜部7へ誘導するため、溝に傾斜を設けても良い。これにより、基板同士の接合の際には、接着剤が厚膜となる辺部と、溝の深さが最も浅い辺部とが始めに接し、溝の傾斜を利用して、溝の角部へと積極的に接着剤を押し出す作用により、角部の薄膜部へと誘導することを可能にする。これにより、接着剤の膜厚分布による空隙の発生と開口5へのはみ出しを抑制することが出来る。また、溝の深さの関係はD1<D2であるため、毛細管現象の働きとしては、深さの小さい辺部へ接着剤が誘導されることが想定されるが、溝は十分な幅を有しているため、毛細管現象の機能しない領域での接着剤の誘導を行うため、接着剤は辺部から角部へ誘導される。
【0025】
図9に本実施形態に関わる基板接合体の平面図(a)、及び断面図(b)~(d)を示す。図9(d)は図10の液体吐出ヘッド18の一部を構成する基板接合体12である。第1の基板1上に圧電素子13を設ける際に例えば、配線の凸形状を突出部4として用いても良い。尚、配線の表面には絶縁膜を形成しておくのが、好ましい。配線材料としては、例えば、Alを用いても良く、その他の配線材料を用いても良い。配線を突出部4として用いて、図9(c)に示すように突出部4に溝を形成することで、開口5への接着剤3のはみ出し低減と、空隙の発生を低減することができる。尚、突出部4と溝6は、配線を構成する工程の中で、例えばドライエッチングで溝6を形成すれば良い。突出部4の溝6は、突出部形成時と同時に加工を施すことが可能であるため、新たな工程を必要としないことから、導入が容易である。
【0026】
以上、本実施形態によると、開口への接着剤はみ出しを低減して、空隙の発生を低減した基板接合体を提供することが出来る。
【0027】
(第2の実施形態)
本実施形態に関わる基板接合体の製造方法について、図9~10を用いて説明する。
【0028】
図10に液体吐出ヘッド18の(a)斜視図、(b)断面図、(c)突出部の断面拡大図を示す。液体吐出ヘッド18は前記基板接合体12と吐出口17を有する第3の基板16とを前記接着剤3を用いて接合されている。
【0029】
図9に基板接合体12の製造方法を示す。第1の基板1には液体を吐出するエネルギー元となる圧電素子13とAlの配線が形成されたものを準備する。図9(b)に示すような、第2の基板2には第1の基板1の圧電素子13と対向する位置に一回り大きい掘り込み穴14を形成する。同時に、液体の流路となる開口5を形成する。次に、前記開口5と対向する位置に開口5の外周を囲うような形状の突出部4を第1の基板1のAlの配線をエッチングすることで加工し形成する。
【0030】
次に、図9(c)に示すような、膜厚が均一になるように支持体に接着剤を塗り広げて用意した後、前記第2の基板と前記支持体の接着剤を塗布した面が対向するように配置する。前記支持体の上からローラ15を用いて、前記接着剤3を第2の基板の圧電素子振動区間を有する面に転写をする。この時、接着剤と触れた箇所にのみ、接着剤の一部が転写されるため、圧電素子振動空間14と開口5には接着剤が侵入しないようになっている。その後、加工を施した前記第1の基板面と接着剤を有した第2の基板面が対向するように貼り合わせる。この時、第1の基板1に形成した突出部4の上面が第2の基板接合面表面と接する位置まで加圧することで、基板同士の間隔のばらつきを低減している。その後、接着剤が硬化する温度で加熱することで、基板接合体12を形成する。
【0031】
図9(d)は基板同士を接合する際の位置関係を示している。前記溝6の延伸する方向と前記接着剤を転写する方向とが直交するように基板を貼り合わせる。これにより、図14に示した開口の形状が円を含む、任意の開口形状においても、接着剤の薄膜部と厚膜部とが連通するように溝が位置するため、基板接合過程で接着剤の誘導が行われ、接着剤のはみ出し、空隙の発生を抑制することが出来る。尚、前記溝6は前記突出部4の端部に繋がっていることで、接着剤厚膜部から接着剤薄膜部への接着剤の誘導が行われるため、空隙の発生を低減することができる。
【0032】
また、前記第2の基板2上に前記開口5が複数存在する時、前記各々の開口がより密に並ぶ方向に対して接着剤を形成することで、開口周囲に形成される接着剤の薄膜部は、隣り合う開口の薄膜部と重なることになる。これにより、基板を貼り合わせる際に接着剤を誘導するのに必要な溝は開口2つにつき、1つとなる。図13(c)がこれにあたる。
【0033】
また、図9(d)に基板接合する際の溝6の延伸する方向11と接着剤を転写する方向10の関係を示す。前記接着剤の形成は、前記圧電素子振動空間14の長手方向に対して90°回転させた方向から転写を行う。前記圧電素子振動空間14の長手方向に対して平行に転写を行うと、本来接着剤を必要としない前記圧電素子振動空間14の上部にまで接着剤3が入り込む懸念があるためである。また、前記溝6は接着剤3の転写方向に対して垂直となる方向に延伸するように第1の基板と第2の基板を貼り合わせる。そのため、第2の基板表面の圧電素子振動空間の長手方向と略平行となるように、溝が延伸する。このため、図7に示すような接着剤3の膜厚分布があっても、溝6によって接着剤が厚膜部から薄膜部に誘導されるため、薄膜部で懸念される空隙の発生も同時に軽減することが出来る。
【0034】
よって、本実施形態によると、開口への接着剤のはみ出しを低減して、空隙の発生を低減した基板接合体の製造方法を提供することができる。
【実施例0035】
実施した基板接合体12は第1の基板1はシリコン、第2の基板2はシリコン、突出部4はAlの配線を用いて、形成した。第2の基板2にはK×J=96×88umの開口5を有しており、これを図11(a)に示す。突出部4は第2の基板2の開口5外周を囲うように位置する必要があり、接合時の基板同士のずれを考慮し、突出部4の内径は、図11(a)の開口5の寸法より2um大きい、L1×M1=100×92umとした。また、突出部4の外径は隣り合うAlの配線との干渉を避けるため、隣り合う配線から3um小さい、L2×M2=160×152umを突出部4の外径とした。
【0036】
突出部の高さは接合後の基板同士の間隔を規定するため、高さD2は4umにしている。基板同士の接合をする際の、第2の基板2に対向する面を突出部の上面とするとき、この面に突出部4の四辺と平行になるように、幅W=20um、深さD2=1~4umの溝6を形成した。溝6は、辺の中央部分が最も浅く、突出部4の角部にいくほど深くなる構造を形成するため、複数回パターニングとドライエッチングを繰り返すことで、階段状に高さが変化する形状を形成した。また、突出部4の角部の溝の深さは突出部の高さと同じ4umまでエッチングさせている。溝6を形成した突出部4を有する第1の基板1と接着剤3を有した第2の基板2とを接合した。接合が完了した基板接合体12をIRカメラで観察し、開口5への接着剤のはみ出しと、突出部4周囲の空隙の発生が無いことを確認した。これにより、溝6による接着剤の誘導効果の検証を行うことが出来た。
【実施例0037】
突出部の製造方法について記載する。図12に溝幅の異なる突出部を示す。第2の基板2に有する開口5と突出部4の外形寸法はそれぞれ、図11同様に開口5が96×88um、突出部が160×152umである。実施例1と異なり、形成する溝6全体の深さはAl突出部の高さ4umと同じであるため、1回のパターニングとエッチングで加工を行った。溝の寸法は辺の中央部分W1が20um、角部W2は5umとし、辺の中央部分から角部になだらかに幅が狭まるような形状になっている。実施例1と同様に、前記溝6を加工した突出部4を有した第1の基板1と、接着剤3を有した開口5を持つ第2の基板2とを接合した後、IRカメラを用いて、接着剤のはみ出しと開口周囲の空隙の有無を評価した。その結果、接着剤のはみ出し量が低減し、空隙の発生が無いことを確認できた。
【0038】
(構成)
[構成1]
第1の基板と第2の基板とが接着剤により接合されている基板接合体において、
前記第1の基板の前記接着剤が付着している側の面には、前記第2の基板に向かって突出する突出部が形成されており、
前記第2の基板には、開口が形成されており、
前記突出部は、前記開口を囲むように配置されており、
前記突出部の上面には、溝が形成されており、
前記溝は、前記突出部の端部まで延在していることを特徴とする基板接合体。
【0039】
[構成2]
前記溝は、少なくとも1本形成されている構成1に記載の基板接合体。
【0040】
[構成3]
前記溝は、前記突出部の内壁とは連通していない構成1または2に記載の基板接合体。
【0041】
[構成4]
前記突出部の辺の溝の断面積をS1、前記突出部の角部の溝の断面積をS2とするとき、S1>S2の関係である構成1ないし3のいずれか一つに記載の基板接合体。
【0042】
[構成5]
前記突出部の辺の溝の幅をW1、前記突出部の角部の溝の幅をW2とするとき、W1>W2の関係である構成1ないし4のいずれか一つに記載の基板接合体。
【0043】
[構成6]
前記突出部の辺の溝の深さをD1、前記突出部の角部の溝の深さをD2とするとき、D1<D2の関係である構成1ないし5のいずれか一つに記載の基板接合体。
【0044】
[構成7]
前記基板接合体を有する液体吐出ヘッドであって、前記突出部は、前記液体吐出ヘッドの配線構造の一部からなることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【0045】
[構成8]
少なくとも一つの開口を有する第二の基板を準備する工程と、
前記開口を取り囲む形状を有する突出部を第一の基板に形成する突出部形成工程と、
前記突出部の上面に溝を形成する溝形成工程と、
前記第二の基板の開口を有する面に接着剤を転写する接着剤転写工程と、
前記接着剤を介して、前記第一の基板と前記第二の基板を前記開口と前記突出部を同軸上に対向させて貼り合わせる基板貼り合わせ工程を有する基板接合体の製造方法であって、
前記貼り合わせ工程は、前記溝が延伸する方向と、接着剤の転写方向とが直交するように基板を貼り合わせることを特徴とする基板接合体の製造方法。
【0046】
[構成9]
前記接着剤転写工程は、前記開口が密に並ぶ方向と同一方向に、接着剤を転写し、
前記貼り合わせ工程は、前記溝が延伸する方向と、前記開口が密に並ぶ方向とが直交するように基板を貼り合わせることを特徴とする構成8に記載の基板接合体の製造方法。
【0047】
[構成10]
第一の基板に有する圧電素子によって、液体吐出を行う液体吐出ヘッドの製造方法であって、
ピエゾ素子振動空間と液体供給口を有する第二の基板と、前記液体供給口を取り囲むように位置する前記突出部を有する第一の基板と、前記第一の基板と対向し、前記液体吐出口を有する第3の基板とを、接着剤を介して接合された液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記第二の基板の開口を有する面に接着剤を転写する接着剤転写工程と、
前記接着剤を介して、前記第一の基板と前記第二の基板を前記液体供給口と前記突出部を同軸上に対向させて貼り合わせる基板貼り合わせ工程と、
前記接着剤を介して、前記第一の基板と前記第3の基板とを前記接着剤を介して貼り合わせる第三基板貼り合わせ工程を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記接着剤転写工程は、前記第二の基板に形成されたピエゾ素子振動空間の長手方向に対して、直交するように接着剤を転写することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【符号の説明】
【0048】
1 第1の基板
2 第2の基板
3 接着剤
4 突出部
5 開口
6 溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15