(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001914
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法、半導体デバイスの製造方法、複合基板および半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20241226BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101692
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】313001309
【氏名又は名称】株式会社サイコックス
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】小林 元樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 英次
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE08
4G077DB04
4G077DB07
4G077EA02
4G077EB01
4G077ED06
4G077FD02
4G077FF06
4G077FG01
4G077GA01
4G077HA06
4G077TA04
4G077TA07
4G077TB02
4G077TC06
(57)【要約】
【課題】 欠陥が少ないエピタキシャル成長面を持つ高品質なエピタキシャル膜を有する単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法、半導体デバイスの製造方法、複合基板および半導体デバイスを提供する。
【解決手段】 多結晶SiC基板と単結晶SiC膜を備える貼合せ基板の前記単結晶SiC膜の成膜対象面に、還元ガス雰囲気下において保持された成膜温度で単結晶SiCエピタキシャル成長膜を成膜する成膜工程と、前記成膜工程の前に、前記貼合せ基板を前記還元ガス雰囲気下とするために還元ガスを導入する還元ガス導入工程と、を含み、前記成膜温度は1500℃未満であり、前記還元ガスにより前記単結晶SiC膜の前記成膜対象面がエッチングされるエッチング量は0.1μm以下である、単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶SiC基板と単結晶SiC膜を備える貼合せ基板の前記単結晶SiC膜の成膜対象面に、還元ガス雰囲気下において保持された成膜温度で単結晶SiCエピタキシャル成長膜を成膜する成膜工程と、
前記成膜工程の前に、前記貼合せ基板を前記還元ガス雰囲気下とするために還元ガスを導入する還元ガス導入工程と、
を含み、
前記成膜温度は1500℃未満であり、
前記還元ガスにより前記単結晶SiC膜の前記成膜対象面がエッチングされるエッチング量は0.1μm以下である、単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法。
【請求項2】
前記還元ガス導入工程では、雰囲気温度が前記成膜温度である場合に前記還元ガスの導入を開始する、請求項1に記載の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法。
【請求項3】
前記還元ガス導入工程では、前記成膜温度よりも低い雰囲気温度を90秒以下保持する、請求項1に記載の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法。
【請求項4】
前記還元ガス導入工程では、前記還元ガスの導入を開始する導入開始温度が前記成膜温度よりも低く、前記導入開始温度から前記成膜温度まで雰囲気温度が単調増加するように昇温させる、請求項1に記載の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法。
【請求項5】
前記還元ガス導入工程では、雰囲気温度を前記成膜温度まで昇温させ、前記成膜温度まで昇温後に当該成膜温度を保持する、請求項1に記載の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法。
【請求項6】
前記還元ガスによりエッチングされる前記単結晶SiC膜の前記成膜対象面は、CMP研磨された表面である、請求項1に記載の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法。
【請求項7】
前記還元ガス導入工程の前に、前記単結晶SiC膜の表面をCMP研磨して前記成膜対象面を得るCMP研磨工程を含み、前記CMP研磨により0.3μm以下の厚さを研磨する、請求項1に記載の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法。
【請求項8】
前記成膜温度は、前記単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜速度を10μm/hとする温度以上である、請求項1に記載の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法。
【請求項9】
請求項1に記載の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法により得られる、順に、多結晶SiC基板と、単結晶SiC膜と、単結晶SiCエピタキシャル成長膜が積層する複合基板の前記単結晶SiCエピタキシャル成長膜に、半導体素子の構成要素を形成する工程を含む、半導体デバイスの製造方法。
【請求項10】
順に、多結晶SiC基板と、単結晶SiC膜と、単結晶SiCエピタキシャル成長膜が積層する複合基板であって、
前記単結晶SiC膜は、ダメージ領域が除去された膜であり、
前記複合基板の積層方向における前記単結晶SiC膜の厚みは1μm以下であり、
前記単結晶SiCエピタキシャル成長膜の主面の欠陥密度は1個/cm2以下である、複合基板。
【請求項11】
前記複合基板の積層方向における前記単結晶SiC膜の厚みは0.27μm以上である、請求項10に記載の複合基板。
【請求項12】
請求項10に記載の複合基板を用いた半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法、半導体デバイスの製造方法、複合基板および半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶SiC(炭化ケイ素)などの支持基板上に単結晶SiC薄膜を備えるSiC貼合せ基板を得る方法として、単結晶SiC基板の表面から水素イオンを注入して水素イオン注入層を形成し、水素イオン注入層が形成された単結晶SiC基板の表面に単結晶SiCとは異なる材料からなる支持基板を接合したのちに水素イオン注入層で単結晶SiC基板を剥離する技術がある。このような技術により得られたSiC貼合せ基板の単結晶SiC薄膜の表面に対して研磨や水素エッチングなどを行なった後に、この単結晶SiC薄膜の表面にSiCをエピタキシャル成長させることが知られている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SiC貼合せ基板の単結晶SiC薄膜上にSiCをエピタキシャル成長させる際の温度条件については、SiC貼合せ基板ではない単結晶SiC基板上へのSiCのエピタキシャル成長と同様に1500℃~1600℃程度とすることで、エピタキシャル成長層の成長速度を速くすることができる。SiC貼合せ基板の単結晶SiC薄膜上またはSiC貼合せ基板ではない単結晶SiC基板上にSiCのエピタキシャル成長を行なう前には、エピタキシャル成長させる表面のCMP研磨(化学機械的研磨:Chemo-Mechanical Polishing)や水素エッチングなどを行なって、その表面を平滑化して表面粗さを小さくしている。
【0005】
しかしながら、このように化学的な研磨やエッチングにより表面上は欠陥がないように表面を平滑化しても、表面には目に見えない潜傷などが残っており、特に高い成長速度でのSiCのエピタキシャル成長を行なう場合は成膜したエピタキシャル成長層の表面欠陥が多くなってしまう、という課題がある。また、特にSiC貼合せ基板の単結晶SiC薄膜上にSiCをエピタキシャル成長させようとする場合、エピタキシャル成長を開始する前のCMP研磨や水素エッチングを強く行なってしまうと支持基板上に貼り合わせた単結晶SiC薄膜が消失してしまい、必要なエピタキシャル成長層を得ることができない、という課題がある。
【0006】
以下に説明する各実施の形態は、これらの課題を解決するためになされたものであり、欠陥が少ないエピタキシャル成長面を持つ高品質なエピタキシャル膜を有する単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法、半導体デバイスの製造方法、複合基板および半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法は、多結晶SiC基板と単結晶SiC膜を備える貼合せ基板の前記単結晶SiC膜の成膜対象面に、還元ガス雰囲気下において保持された成膜温度で単結晶SiCエピタキシャル成長膜を成膜する成膜工程と、前記成膜工程の前に、前記貼合せ基板を前記還元ガス雰囲気下とするために還元ガスを導入する還元ガス導入工程と、を含み、前記成膜温度は1500℃未満であり、前記還元ガスにより前記単結晶SiC膜の前記成膜対象面がエッチングされるエッチング量は0.1μm以下である。
【0008】
また、上記の課題を解決するため、本発明の半導体デバイスの製造方法は、上記本発明の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法により得られる、順に、多結晶SiC基板と、単結晶SiC膜と、単結晶SiCエピタキシャル成長膜が積層する複合基板の前記単結晶SiCエピタキシャル成長膜に、半導体素子の構成要素を形成する工程を含む。
【0009】
また、上記の課題を解決するため、本発明の複合基板は、順に、多結晶SiC基板と、単結晶SiC膜と、単結晶SiCエピタキシャル成長膜が積層する複合基板であって、前記単結晶SiC膜は、ダメージ領域が除去された膜であり、前記複合基板の積層方向における前記単結晶SiC膜の厚みは1μm以下であり、前記単結晶SiCエピタキシャル成長膜の主面の欠陥密度は1個/cm2以下である。
【0010】
また、上記の課題を解決するため、本発明の半導体デバイスは、上記本発明の複合基板を用いた半導体デバイスである。
【発明の効果】
【0011】
各実施の形態によれば、欠陥が少ないエピタキシャル成長面を持つ高品質なエピタキシャル膜を有する単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法、半導体デバイスの製造方法、複合基板および半導体デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】貼合せ基板100を模式的に示す斜視図である。
【
図2】複合基板500を模式的に示す斜視図である。
【
図3】単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜方法における温度シーケンスの一例を示す図である。
【
図4】
図3とは異なる、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜方法における温度シーケンスの一例を示す図である。
【
図5】
図3、4とは異なる、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜方法における温度シーケンスの一例を示す図である。
【
図6】透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて撮影した単結晶SiC膜の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、実施形態の一例について説明する。
【0014】
[単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法]
単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法としては、CVD(chemical vapor deposition)法(化学気相成長法)が挙げられる。また、CVD法に用いることのできる装置としては、枚葉式の横形CVD装置が挙げられる。CVD法は装置構成が簡単であり、ガスのオン/オフの動作によってエピタキシャル成長膜の成長を制御できるため、エピタキシャル膜の制御性、再現性に優れた成長方法である。
【0015】
[貼合せ基板]
図1に示す貼合せ基板100は、多結晶SiC基板200と、多結晶SiC基板200の表面に接合された単結晶SiC膜300を備える。貼合せ基板100は、半導体素子の構成要素を形成する部分を品質の良い単結晶SiC膜300を用いて、それを支持基板である多結晶SiC基板200に接合することで、低コストな支持基板部と高品質な単結晶SiCを兼ね備えた基板となる。
【0016】
貼合せ基板100は、例えば、単結晶SiC基板の表面から水素イオンを注入して水素イオン注入層を形成し、水素イオン注入層が形成された単結晶SiC基板の表面に多結晶SiC基板200を接合し、その後に水素イオン注入層で単結晶SiC基板を剥離して単結晶SiC膜300を形成する技術により、製造することができる。
【0017】
(多結晶SiC基板)
多結晶SiC基板200としては、例えばCVD法により成膜された多結晶のSiCで形成された基板を用いることができる。多結晶SiC基板200の形状の一例を挙げると、厚さが200μm~500μmで、大きさが4インチ~8インチ径の円盤状である。例えば厚さが350μm程度の6インチの円盤状に形成される。なお、多結晶SiC基板200の多結晶SiCは、4H-SiC結晶、6H-SiC結晶および3C-SiC結晶の何れか、あるいはその混合物で構成されている。
【0018】
(単結晶SiC膜)
単結晶SiC膜300は、単結晶のSiCで、直径の大きさは、多結晶SiC基板200と同一で4インチ~8インチ径である。成膜対象面310を形成する前の厚さは、特に限定はないが、例えば厚さが0.3μm~2.0μm程度であってもよい。
【0019】
単結晶SiC膜300としては、例えば昇華法等により作成した炭化珪素のバルク単結晶から加工して得た、エピタキシャル膜成膜用の円盤状の4H-SiC単結晶を用いるほか、昇華法等により単結晶に形成した4H-SiCエピタキシャル層を用いることができる。また、ドーパント濃度が5×1018cm-3~8×1018cm-3であるものを用いることができる。ドーパントとしては、ホウ素、ガリウム、リン、バナジウム、窒素等が挙げられる。
【0020】
単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法としては、以下の成膜工程と還元ガス導入工程とを含む。
【0021】
[成膜工程]
成膜工程は、貼合せ基板100の単結晶SiC膜300の成膜対象面310に、還元ガス雰囲気下において保持された成膜温度で単結晶SiCエピタキシャル成長膜400を成膜する工程である。この工程により、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400が形成された複合基板500が得られる(
図2)。
【0022】
図3に、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜方法における温度シーケンスの一例を示す。
図3において縦軸は雰囲気温度(T)の上昇、横軸は時間(t)の経過を示す。また、太い矢印は原料ガスを導入するタイミングと、そのタイミング以降は原料ガスの導入を継続していることを示しており、
図3においては時間t4において原料ガスを導入し、t4以降は原料ガスの導入を継続している状態である。そして、細い矢印は還元ガスを導入するタイミングと、そのタイミング以降は導入を継続していることを示しており、
図4においては時間t3において還元ガスを導入し、t3以降は還元ガスの導入を継続している状態である。すなわち、
図3では時間t3において還元ガス導入工程を開始し、時間t4において成膜工程を開始する。また、時間t3は、成膜室内の雰囲気温度が成膜温度T1となった時間である。
【0023】
単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜の手順の概略の一例としては、まず、CVD装置の成膜室に貼合せ基板100を入れ、成膜室内の雰囲気温度を室温から成膜温度T1まで昇温させ、原料ガスや還元ガスを適切なタイミングで成膜室内へ導入する例が挙げられる。還元ガス雰囲気下において成膜温度T1を保持し、成膜温度T1の保持が安定したら、成膜室へ原料ガスを導入する。この原料ガスの導入により、成膜工程が開始される。なお、
図3において雰囲気温度を室温から成膜温度T1まで昇温させる際、時間t1から時間t2までの間雰囲気温度を温度T2に保持している例を示しているが、雰囲気温度の室温から成膜温度T1までの昇温については単調増加的に行うことも含め、これ以外の各種のシーケンスを適用してよい。
【0024】
〈成膜温度〉
成膜工程において、成膜温度T1は1500℃未満とする。成膜温度T1を1500℃未満にすることで、エピタキシャル成長の成長速度を落として単結晶SiC膜300の成膜対象面310に単結晶SiCをエピタキシャル成長させる。これにより、欠陥のない平坦な成長面410を持ち、かつ膜厚およびn型ドーパント濃度の均一性、再現性の高い高品質な単結晶SiCエピタキシャル成長膜400を得ることができる。
【0025】
特に、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成長面410にステップバンチングが発生すると、これによって成長面410の平滑性が損なわれ、表面粗さSaが0.3nm以上となってしまう。ただし、成膜温度T1を1500℃未満の低温にすることで、ステップバンチングの発生を抑制することができ、成長面410の平滑性を満足することができる。
【0026】
ただし、成膜温度T1を低くすることでエピタキシャル成長の成長速度が遅くなり、製造効率が低下するおそれがある。これを考慮すると、成膜温度T1の下限値は、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜速度を10μm/hとする温度以上であることが好ましい。
【0027】
〈成膜温度以外の成膜条件〉
(混合ガス)
炭化珪素の原料となる珪素源ガスと炭素源ガスが原料ガスとなり、原料ガスとさらにこれらの原料ガスを運搬する役目を持つアルゴンガスやヘリウムガス等の希ガス等のキャリアガスや還元ガスを混合したものが、混合ガスとなる。混合ガスは更に適宜窒素ガス等のドーパントガスやアルゴンガスを含んでもよい。これらのガスを混合した混合ガスを成膜室内の成膜対象面310へ導入し、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400を成膜させる。
【0028】
(原料ガス)
珪素源ガスとしては、成膜対象面310へ単結晶SiCエピタキシャル成長膜400を問題なく成膜できれば、特に限定されない。例えば、単量体であるSiH4、SiH3Cl、SiH2Cl2、SiHCl3、およびSiCl4からなる群から選ばれた1種又は2種以上を珪素源ガスとして用いることができる。
【0029】
また、炭素源ガスとしては、成膜対象面310へ単結晶SiCエピタキシャル成長膜400を問題なく成膜できれば、特に限定されない。常温付近でガス状態であってハンドリングする上で好都合であることから、炭素数が5以下の飽和炭化水素、又は、炭素数が5以下の不飽和炭化水素からなる炭素源ガスであるのがよく、これらの1種又は2種以上を混合したものを好適に用いることができる。特に、炭素数が5以下の炭化水素から選ばれた1種または2種以上であり、メタン、エタン、プロパン、ブタンやこれらに類似する炭化水素ガスを、適宜炭素源ガスとして用いることができる。
【0030】
さらに、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400を成膜する場合には、前記珪素源ガスにおける珪素原子数に対する前記炭素源ガスにおける炭素原子数の比(C/Si)が重要であり、C/Siを0.7~1.3に制御することにより、成膜対象面310に単結晶SiCエピタキシャル成長膜400をエピタキシャル成長させることが容易となり、成長速度を大きくすることができて生産性の向上に繋がる。C/Siが0.7~1.3から外れた場合には、珪素原子と炭素原子の存在割合のバランスが悪くなることで、成膜が困難となるおそれや、成膜速度が遅くなるおそれ、成膜に関与しない原料ガスが増えて原料ガスが無駄になるおそれがある。例えば、C/Siが0.7未満であると、未反応のSiが金属状態で膜に付着(ドロップレット)してしまうおそれがあり、欠陥発生の原因となる。また、C/Siが1.3を超えると、バンチングと呼ばれる表面段差が発生するおそれがあり、デバイスを作製する上で悪影響を与えることがある。より好ましくは、C/Siを0.8~1.2とする。
【0031】
原料ガスの流量は特に限定されないが、C/Siを適宜最適化しつつ、還元ガスやキャリアガス等で希釈した状態とし、例えば5~15体積%、より好ましくは8~12体積%に希釈した珪素源ガスの流量を毎分300~600cc、より好ましくは400~500ccとし、5~15体積%、より好ましくは8~12体積%に希釈した炭素源ガスの流量を毎分50~150cc、より好ましくは80~120ccに設定することができる。
【0032】
(還元ガス)
還元ガスとしては、SiCの成膜を促すことのできるH2ガスを用いることができる。還元ガスの流量は特に限定されないが、還元ガスは原料ガスを希釈する役割もあることから、例えば毎分50~200Lの流量に設定することができる。
【0033】
(成長速度)
欠陥が少ないエピタキシャル成長面を持つ高品質なエピタキシャル膜を有する単結晶SiCエピタキシャル成長膜400を成膜するにおいて、炭化珪素単結晶薄膜の成長速度は10~70μm/h、好ましくは10~30μm/hとするのが好適である。このような成長速度にするためには、上記のように混合ガスにおける原料ガスの濃度や流量を適宜調整すればよい。
【0034】
(圧力)
単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成長圧力については、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400をCVD成長させる際の一般的な条件を採用することができる。例えば、成長圧力を9~11kPa、より好ましくは9.5~10.5kPaの範囲とするのがよい。
【0035】
その他の条件については、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400をCVD成長させる際の一般的な条件を採用することができる。
【0036】
[還元ガス導入工程]
還元ガス導入工程は、貼合せ基板100を還元ガス雰囲気下とするために還元ガスを導入する工程である。例えば還元ガスを成膜室内へ導入することで、貼合せ基板100を還元ガス雰囲気下とすることができる。原料ガスを用いて成膜工程を開始する前に、成膜する際の温度や圧力、雰囲気ガス等の条件を安定化させることが重要であることから、還元ガス導入工程は成膜工程の前に行う。
【0037】
また、還元ガスはSiCをエッチングする性質があり、本実施形態では単結晶SiC膜300の成膜対象面310が還元ガスによってエッチングされる。そして、エッチングが進行すると、部分的に単結晶SiC膜300が消滅して成膜対象面310において多結晶SiC基板200が露出してしまうおそれがあり、多結晶SiC基板200が露出した部分には単結晶SiCエピタキシャル成長膜400は成長しないため、多結晶SiC基板200の露出を防止する必要がある。
【0038】
多結晶SiC基板200の露出を防止するため、還元ガスにより単結晶SiC膜300の成膜対象面310がエッチングされるエッチング量は単結晶SiC膜300の膜厚未満である必要があり、具体的には0.1μm以下、より好ましくは0.08μm以下とする。なお、当該エッチング量の下限は0μmであることが理想であるものの、還元ガスとしてH2ガスを用いるとわずかであっても成膜対象面310がエッチングされることから、当該エッチング量は0.01~0.1μmであることが好ましい。
【0039】
当該エッチング量は、還元ガスの流量、成膜室内の雰囲気温度や圧力等によって制御することができる。
【0040】
〈還元ガス導入工程における温度シーケンス〉
図4は、
図3とは異なる、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜方法における温度シーケンスの一例を示す図である。
図4では時間t1において還元ガス導入工程を開始し、時間t4において成膜工程を開始する。そして、時間t3は、成膜室内の雰囲気温度が成膜温度T1となった時間である。また、
図5は、
図3、4とは異なる、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜方法における温度シーケンスの一例を示す図である。
図3では時間t1において還元ガス導入工程を開始し、時間t4において成膜工程を開始する。また、時間t3は、成膜室内の雰囲気温度が成膜温度T1となった時間である。以下、
図3~5を参照しつつ、還元ガス導入工程における成膜室内の雰囲気温度の例について説明する。
【0041】
還元ガス導入工程では、成膜室内の雰囲気温度を成膜温度T1まで昇温させ、成膜温度T1まで昇温後に成膜温度T1を保持することが好ましい。
図3~5において、時間t3において成膜温度T1まで昇温したら、成膜を開始する時間t4まで成膜温度T1を保持している。原料ガスを用いて成膜工程を開始する前に、成膜する際の温度や圧力、雰囲気ガス等の条件を安定化させることが重要であることから、還元ガス導入工程において雰囲気温度が成膜温度T1まで昇温したらこの温度を安定して保持できるように成膜装置を制御することが好ましく、成膜温度T1を保持する状態が安定したら、成膜室内に原料ガスを導入して成膜工程を開始する。
【0042】
成膜室内へ還元ガスを導入するタイミングとしては、例えば
図3に示すように、成膜室内の雰囲気温度が成膜温度T1である場合に還元ガスの導入を開始してもよい。
【0043】
また、
図4に示すように、成膜温度T1よりも低い雰囲気温度T2である時間t1において還元ガスの導入を開始してもよい。そして、この雰囲気温度T2を時間t1から時間t2まで保持してもよい。雰囲気温度T2を保持する時間t1から時間t2までの間は、例えば90秒以下としてもよく、より好ましくは60秒以下、さらに好ましくは30秒以下とできる。
【0044】
ここで、雰囲気温度T2は成膜温度T1よりも低い温度であればよいが、例えば、H2ガスによって成膜対象面310におけるSiCがエッチングされるエッチング温度をT2としてもよい。エッチング温度の下限の一例としては、H2ガスによりSiCがエッチング反応を開始する温度であり、また、エッチング温度の上限の一例としては、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜を開始する温度である。より具体的には、エッチング温度をT2とする場合、1000℃≦T2≦1480℃であり、さらに好ましくは、1200℃≦T2≦1480℃である。
【0045】
また、雰囲気温度T2を保持しなくてもよく、
図5に示すように、還元ガスの導入を開始する導入開始温度T3が成膜温度T1よりも低く、導入開始温度T3から成膜温度T1まで雰囲気温度が単調増加するように昇温させる条件としてもよい。なお、T3はT2と同じ温度でもよく、T2よりも高い温度であってもよく、T2よりも低い温度であってもよい。
【0046】
還元ガスによりエッチングされる単結晶SiC膜300の成膜対象面310は、CMP研磨された表面であってもよい。CMP研磨されることで成膜対象面310は平滑化して表面粗さが小さくなり、平坦な表面となることから、このような表面に対して成膜することにより、欠陥が少ないエピタキシャル成長面を持つ高品質なエピタキシャル膜を形成することができる。
【0047】
(CMP研磨工程)
成膜対象面310がCMP研磨された表面である貼合せ基板100を得るには、このような貼合せ基板100を購入等により入手してもよいが、還元ガス導入工程の前に、単結晶SiC膜300の表面をCMP研磨して成膜対象面310を得るCMP研磨工程を行ってこのような貼合せ基板100を得てもよい。
【0048】
CMP研磨により単結晶SiC膜300の厚みは薄くなってしまうため、多結晶SiC基板200が露出しないよう、単結晶SiC膜300を研磨する厚さは0.3μm以下、より好ましくは0.1μm以下とすることが好ましい。
【0049】
CMPによる成膜対象面310の研磨としては、単結晶SiCのCMPの手法として公知の研磨方法や研磨装置を用いることができる。例えば、研磨装置としては、円形の定盤の上に研磨パッドを貼り付け、その上にスラリーを滴下しながら、貼合せ基板100を保持したキャリアと接触させながら共に回転させることのできる、ロータリータイプの研磨装置を用いることができる。また、研磨に使用するスラリーも適宜公知のものを使用することができる。
【0050】
[半導体デバイスの製造方法]
上記の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法により、順に、多結晶SiC基板200と、単結晶SiC膜300と、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400が積層する複合基板500が得られる。半導体デバイスの製造方法では、この複合基板500の単結晶SiCエピタキシャル成長膜400に、半導体素子の構成要素を形成する工程を含む。半導体素子の構成要素としては回路パターンが挙げられる。
【0051】
また、半導体デバイスの製造方法としては、形成した回路パターンを樹脂等で保護するための表面保護層を形成する工程や、表面保護層を形成後、回路パターンを形成した面とは反対の裏面側を研削加工し、多結晶SiC基板200を薄層化するバックグラインド処理工程を含んでもよい。さらに、バックグラインド処理工程後に裏面電極としてドレイン電極を形成する工程や、半導体デバイスの表面保護層を除去し、ダイヤモンドブレード等を用いて半導体デバイスを切断してダイを形成するダイシングを行ってもよい。
【0052】
[複合基板]
複合基板500は、順に、多結晶SiC基板200と、単結晶SiC膜300と、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400が積層する基板である(
図2)。複合基板500は、上記実施形態の単結晶SiCエピタキシャル成長膜の成膜方法により製造できる。
【0053】
上記のように、貼合せ基板100は、例えば水素イオン注入層で単結晶SiC基板を剥離して、多結晶SiC基板200に単結晶SiC膜300を形成することにより製造される。この水素イオンの注入という注入ダメージや剥離のダメージにより、単結晶SiC膜300の表面には結晶欠陥を有するダメージ領域が生じることとなる。このダメージ領域は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて確認することが可能である。例えば、
図6に示すTEMを用いて撮影した単結晶SiC膜300の側面断面図において、
図6(A)の単結晶SiC膜300の表面には厚さ100nm程度の層状のダメージ領域320が存在する。
【0054】
このダメージ領域320が存在する状態で単結晶SiCエピタキシャル成長膜を成膜しても、表面欠陥の多いエピタキシャル成長膜となってしまうため、CMP研磨やH
2ガスによるエッチングなどにより、ダメージ領域320を除去して成膜対象面310を形成する(
図6(B))。
【0055】
また、このような研磨やエッチングにより成膜対象面310の表面上は欠陥がないように表面を平滑化しても、成膜対象面310には目に見えない潜傷などが残っていることにより、成膜した単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の表面欠陥が多くなってしまうおそれがある。よって、単結晶SiC膜300はダメージ領域320が完全に除去された膜であることが好ましい。さらにはダメージ領域320のみならず、多結晶SiC基板200の露出を防止しつつもダメージ領域320の下にある単結晶SiC膜300も厚さ50~150nm程度除去することで、単結晶SiC膜300は潜傷が除去された膜であることがより好ましい。
【0056】
本実施形態の複合基板500は、複合基板500の積層方向における単結晶SiC膜300の厚みは1μm以下であり、当該厚みが0.27μm以上であることがより好ましい。当該厚みは、水素イオン注入層が形成される深さによって変わり、この深さは水素イオン注入エネルギーに起因する。水素イオン注入エネルギーを45~150keVに調整し製造した貼合せ基板100を用いて複合基板500を製造すれば、単結晶SiC膜300の厚みを0.27~1μmに制御することができる。
【0057】
単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の品質を評価する指標としては、表面粗さ、欠陥密度およびn型ドーパント密度等がある。欠陥密度については、現在実用化されているSi面上のエピタキシャル欠陥としては、積層欠陥複合体(Carrotと呼ばれる)、ポリタイプ・インクルージョン(Triangle、Cometと呼ばれる)およびパーティクルインクルージョン(Large Pitと呼ばれる)等の表面に露出した欠陥、あるいは基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocationと呼ばれる)、積層欠陥(SF:Stacking Faultと呼ばれる)が観察される。ここで、表面に露出した欠陥は、単結晶の表面状態、パーティクル、単結晶の転位、エピタキシャル成膜装置からの発塵、エピタキシャル成長状態(エピタキシャル成膜の条件)に起因する。また、BPDはエピタキシャル成長初期におけるBPD-TED変換に起因し、SFは単結晶のSF、エピタキシャル成長状態に起因する。複合基板500の場合、当該複合基板500を半導体デバイスに用いる観点から、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の主面(成長面410)の欠陥密度は1個/cm2以下であることが好ましい。
【0058】
また、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400におけるn型ドーパント密度は、通常の半導体デバイスに用いられる場合における密度であればよく、例えば、耐圧1200V用としては9×1015cm-3~1.1×1016cm-3程度であることが望ましい。
【0059】
単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成長面410の表面粗さは、半導体デバイスを微細化した際に、パターン欠陥を起こさないためには平滑であることが重要であるが、成長面410における1.5mm×1.5mmの領域内において、表面粗さSaが0.3nm以下、望ましくは0.2nm以下であることが好ましい。成長面410のSaは、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成長前の単結晶SiC膜300の表面である成膜対象面310のSaに比べ、同等あるいは大きくなることが一般的であるが、それを考慮すると、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成長前の成膜対象面310のSaは0.2nm以下に抑えておくことが重要である。
【0060】
また、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の膜厚は、半導体デバイスの耐圧等を考慮した場合、1200Vの逆方向耐圧を持たせるためには5~15μm、より好ましくは9~11μm程度であることが望ましい。
【0061】
[半導体デバイス]
半導体デバイスとしては、上記の複合基板500を用いた半導体デバイスが挙げられ、半導体素子の構成要素として回路パターンや、裏面電極としてドレイン電極を備える半導体デバイスであってもよく、さらにダイシングされてチップ形状の半導体デバイスであってもよい。
【実施例0062】
以下に、実施例を示してさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
(多結晶SiC基板200の作製)
カーボン製の円盤状に形成された種基板を下地基材とし、下地基材の表面に、化学気相成長法(CVD: Chemical Vapor Deposition)により、2mmの厚さのSiC多結晶膜を成膜した。原料ガスとしては、メチルクロロシラン、キャリアガスとして水素及び窒素ガスを使用した。この化学気相成長法における成長温度は1400℃とした。その後、燃焼法により1000°Cの大気雰囲気で下地基板を加熱して除去し、円盤状のSiC多結晶膜を作製した。このSiC多結晶膜を、雰囲気制御加熱炉を用いて熱処理した。加熱温度は1700℃、加熱温度の保持時間を24時間とし、炉内雰囲気はアルゴンガス雰囲気とした。その後、SiC多結晶膜の表面を研削・研磨して平坦化し、直径6インチ(約150mm)、厚さが350μmの多結晶SiC基板200を得た。
【0064】
〈貼合せ基板100の製造〉
製造した多結晶SiC基板200を使用して、水素原子のアブレーションによる剥離技術(スマートカット(登録商標)により貼合せ基板100を作製した。多結晶SiC基板200と接合する単結晶SiC基板として、改良型のレーリー法で作製した厚さが350μm、直径6インチ(約150mm)の、主面方位が<0001>である4Hポリタイプの円盤状の基板を用いた。
【0065】
単結晶SiC基板の多結晶SiC基板200と接合する接合対象面に対して水素イオンを注入し、接合対象面から深さ0.6μmの領域に、水素イオン注入層を形成した。また、界面抵抗を低減するために単結晶SiC基板の最表面に高濃度のリンイオンを注入した。単結晶SiC基板と多結晶SiC基板200を静電チャックにより吸引し、チャンバー内にセットした。次に、静電チャックを移動させて、常温接合工程で両基板が正しい位置関係で接触できるように、単結晶SiC基板と多結晶SiC基板200との相対位置の位置合わせを行った。次に、チャンバー内を2×10-6Paの真空状態にした。次に、単結晶SiC基板の接合対象面の全面および多結晶SiC基板200の接合対象面の全面にFABガンを用いて、アルゴンの中性原子ビームを均一に照射し、両方の接合対象面の酸化膜や吸着層を除去して結合手を表出させ、活性状態とした。次に、常温において真空状態を維持したままで、チャンバー内で静電チャックを移動させることにより、単結晶SiC基板の接合対象面と多結晶SiC基板200の接合対象面を、チャンバー内において真空状態で接触させて共有結合によって直接接合し、接合基板を得た。
【0066】
次に、ファーネス炉を用いて、アルゴンガスを充満させた不活性雰囲気下において接合基板を1000℃に加熱して水素イオン注入層に微小気泡層を形成し、単結晶SiC基板を微小気泡層で分離して、0.6μmの厚さの薄板状の単結晶SiC膜300を多結晶SiC基板200に転写した。
【0067】
最後に、転写された単結晶SiC膜300の表面をCMP処理して平滑となるように加工すると共に、ダメージ領域320および目に見えない潜傷を完全に除去して成膜対象面310を形成し、貼合せ基板100を作製した。貼合せ基板100の単結晶SiC膜300の膜厚をエリプソ法で計測したところ、0.4~0.5μm程度であった。
【0068】
〈複合基板500の製造〉
単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜には、枚葉式の横形CVD装置を用い、
図5に示す温度シーケンスに基づいて還元ガス導入工程と成膜工程を行って、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜を行った。
【0069】
(還元ガス導入工程)
貼合せ基板100をCVD装置の成膜室内にセットし、成膜室内の雰囲気温度を真空状態として室温から温度T3まで昇温させた後、還元ガス導入工程を行った。室温から成膜温度T1まで昇温する途中の温度T3において、真空状態を停止して成膜室内に還元ガスとしてH
2ガスの導入を開始した。H
2ガスの流量は毎分100Lとした。H
2ガスを導入しつつ、成膜室内の雰囲気温度を温度T3から成膜温度T1まで12分かけて昇温させた。そして、成膜温度T1で雰囲気温度が安定するよう、成膜温度T1を1分間保持した。すなわち、
図5において、時間t1からt3までの間を12分、時間t3からt4までの間を1分に設定した。
【0070】
(成膜工程)
成膜温度T1を1480℃、圧力を10.5kPaに設定し、成膜室内の雰囲気温度が成膜温度T1で安定した時間t4において、原料ガスの導入を開始して貼合せ基板100の成膜対象面310に単結晶SiCエピタキシャル成長膜を成膜した。エピタシャル成長条件として、原料ガスにはH2ガスで10体積%に希釈した流量が毎分450ccのSiH4と、H2ガスで10体積%に希釈した流量が毎分102.3ccのC3H8使用し、成膜工程においても流量が毎分100LのH2ガスの導入を継続した。また、n型ドーパントとして流量が毎分80ccの窒素ガスを導入した。
【0071】
(表面粗さSa)
成膜工程後の成長面410の表面粗さSaは、測定装置として白色微分干渉計(ZYGO)を用い、成長面410の1.5mm×1.5mmの領域内で面内9点の表面粗さを計測した時の平均値を算出して求めた。成長面410の表面粗さSaは0.11nmであった。同一方法によって成膜工程前の成膜対象面310の表面粗さSaを求めたところ、0.15nmであった。これらの結果から、実施例1においてエピタキシャル成長前後の表面粗さSaは同等、かつ良好であった。
【0072】
(表面欠陥、BPD、SF)
表面欠陥(CarrotTriangle、Large Pit)、BPD、SFは、SICA88Xによって計測したマップを用いて算出した表面欠陥は30個(密度0.19cm-2)、BPD32個(密度0.20cm-2)、SF96個(密度0.60cm-2)であった。全欠陥の合計値は158個(密度0.98cm-2)であり、半導体デバイス用途として要求される欠陥密度が1個/cm2以下であるという条件を満たす結果であった。
【0073】
(n型ドーパント濃度)
C-V測定により単結晶SiCエピタキシャル成長膜400内のn型ドーパント密度の面内分布を算出した。n型ドーパント密度の平均値は1.08×1016cm―3であった。
【0074】
(膜厚)
FTIR測定により、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の膜厚の面内分布を求めた。膜厚の平均値は10.38μmであった。
【0075】
(成膜対象面のエッチング量)
H2ガスにより単結晶SiC膜300の成膜対象面310がエッチングされるエッチング量は、貼合せ基板100を用いて再度還元ガス導入工程を実施し、成膜工程を実施せずに貼合せ基板100を取り出し、単結晶SiC膜300の膜厚をエリプソ法で計測して、還元ガス導入工程の前後の膜厚差から算出した。その結果として、実施例1におけるエッチング量は0.1μm以下であった。
【0076】
これらの結果より、実施例1の複合基板500は、欠陥密度の小さい平坦な成長面410を持ち、かつ膜厚およびn型ドーパント濃度の均一性の高い高品質なエピタキシャル膜を有することがわかった。
【0077】
なお、貼合せ基板100の単結晶SiC膜300の膜厚は0.3μm以上、2.0μm以下の範囲で選択することができる。単結晶SiC膜300は、水素イオンの注入深さを調整することにより達成される。具体的には、例えば水素イオンの加速エネルギーを45keV、150keV、300keVにすることによって、SiC単結晶基板に対し表面から深さ各々0.3μm、1.2μm、2.0μm程度の領域に水素イオンを高濃度で注入することができる。水素イオンの注入条件のみを変更し、その他の条件は実施例1に詳細に記載した方法に従うことによって、最終的に単結晶SiC膜300の膜厚が0.27μm以上、1.0μm以下の複合基板500を作製できる。
【0078】
[比較例1]
成膜温度T1を1480℃から1575℃へ変更した他は、実施例1と同じ条件により多結晶SiC基板200の作製、貼合せ基板100の製造、複合基板500の製造を行った。また、表面粗さSa、表面欠陥、BPD、SF、n型ドーパント濃度、膜厚、成膜対象面のエッチング量についても、実施例1と同様に測定、算出した。
【0079】
(表面粗さSa)
成長面410の表面粗さSaは0.21nmであり、成膜工程前の成膜対象面310の表面粗さSaを求めたところ、0.10nmであった。比較例1においてエピタキシャル成長前後の表面粗さSaは増大した。
【0080】
(表面欠陥、BPD、SF)
表面欠陥は140個(密度0.87cm-2)、BPD195個(密度1.21cm-2)、SF461個(密度0.60cm-2)であった。全欠陥の合計値合計値796個(密度4.94cm-2)であり、半導体デバイス用途として要求される欠陥密度が1個/cm2以下であるという条件を満たさなかった。
【0081】
(n型ドーパント濃度)
単結晶SiCエピタキシャル成長膜400内のn型ドーパント密度の平均値は0.93×1016cm―3であった。
【0082】
(膜厚)
膜厚の平均値は9.91μmであった。
【0083】
(成膜対象面のエッチング量)
比較例1におけるエッチング量は0.03μmであった。
【0084】
これらの結果より、エピタキシャル成長させる成膜温度T1を実施例1より高い1575℃とした場合、複合基板500は、欠陥密度の小さい平坦な成長面410を持つ高品質なエピタキシャル膜を得られないことがわかった。
【0085】
実施例1、比較例1の結果より、成膜温度T1を下げることによって、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成長速度が下がり、成長面410の表面粗さが改善した。単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成長速度を下げ得るエピタキシャル成長条件の要素は成長温度だけではなく、原料ガスSiH4とC3H8の流量およびその比率でも可能である。したがって、CVD法を用いて単結晶SiCエピタキシャル成長膜400を成長させるにあたり、成膜温度T1が1500℃以下であれば、複合基板500は、欠陥のない平坦な成長面410を持ち、かつ膜厚およびn型ドーパント濃度の均一性の高い高品質なエピタキシャル膜を得ることが可能であった。
【0086】
[比較例2]
図4に示す温度シーケンスに基づいて還元ガス導入工程と成膜工程を行って、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成膜を行った。その他は実施例1と同じ条件により多結晶SiC基板200の作製、貼合せ基板100の製造、複合基板500の製造を行った。
【0087】
(還元ガス導入工程)
貼合せ基板100をCVD装置の成膜室内にセットし、成膜室内の雰囲気温度を真空状態として室温から温度T2まで昇温させた後、還元ガス導入工程を行った。室温から成膜温度T1まで昇温する途中の温度T2において、真空状態を停止して成膜室内に還元ガスとしてH
2ガスの導入を開始した。H
2ガスの流量は毎分100Lとした。H
2ガスを導入しつつ、成膜室内の雰囲気温度を温度T2の状態で3分保持し、その後温度T2から成膜温度T1まで12分かけて昇温させた。そして、成膜温度T1で雰囲気温度が安定するよう、成膜温度T1を1分間保持した。すなわち、
図4において、時間t1からt2までの間を3分、時間t2からt3までの間を12分、時間t3からt4までの間を1分に設定した。
【0088】
(成膜工程)
成膜温度T1を1575℃、圧力を10.5kPaに設定し、成膜室内の雰囲気温度が成膜温度T1で安定した時間t4において、原料ガスの導入を開始して貼合せ基板100の成膜対象面310に単結晶SiCエピタキシャル成長膜を成膜した。
【0089】
単結晶SiCエピタキシャル成長膜を成膜した後の複合基板を確認したところ、複合基板の外周部に正常なエピタキシャル膜の成長面410が形成されていたが、その内側は白濁しており成膜異常となった。この異常部分を観察したところ貼合せ基板100の単結晶SiC膜300が消失し、多結晶SiCがエピタキシャル成長していることがわかった。よって、比較例2では、表面粗さSa、表面欠陥、BPD、SF、n型ドーパント濃度、膜厚は測定、算出しなかった。
【0090】
多結晶SiCがエピタキシャル成長していた結果を踏まえ、貼合せ基板100を用いて再度還元ガス導入工程を実施し、成膜工程を実施せずに貼合せ基板100を取り出し、単結晶SiC膜300の膜厚をエリプソ法で計測し、還元ガス導入工程の前後の膜厚差から単結晶SiC膜300のエッチング量を算出した。その結果として、比較例2におけるエッチング量は0.3~0.5μmであった。
【0091】
表1に、エッチング温度、成膜温度、エッチング時間、成膜温度までの昇温時間、還元ガス導入工程において成膜温度を保持した時間(安定時間)、成膜対象面310がH2ガスによってエッチングされたエッチング量の厚み、H2ガスによるエッチングにより単結晶SiC膜300が消失して多結晶SiC基板200が露出したか否か(多結晶基板の露出)の結果、を示す。
【0092】
【0093】
表2に、成膜工程における成膜温度、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成長速度、成膜工程前における成膜対象面310および成膜工程後の成長面410の表面粗さSa、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400における表面欠陥、BPD、SF、全欠陥数、n型ドーパントの密度、単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の厚さを示す。成膜温度の違いによる単結晶SiCエピタキシャル成長膜400の成長速度の違いを評価したところ、成膜温度が1480℃の場合では毎時12μmであり、成膜温度が1575℃の場合では毎時17μmであった。
【0094】
この発明によれば、SiC貼合せ基板へのエピタキシャル成長において、欠陥のない平坦な成長面を持った高品質なエピタキシャル膜を有する複合基板を作成することが可能である。そのため、このような基板上に電子デバイスを形成すればデバイスの特性および歩留りが向上することが期待できる。
100:貼合せ基板、200:多結晶SiC基板、300:単結晶SiC膜、310:成膜対象面、320:ダメージ領域、400:単結晶SiCエピタキシャル成長膜、410:成長面、500:複合基板