(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019236
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ビール風味発酵アルコール飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 5/02 20060101AFI20250130BHJP
C12C 12/00 20060101ALI20250130BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C12C5/02
C12C12/00
C12G3/06
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024205010
(22)【出願日】2024-11-25
(62)【分割の表示】P 2021215322の分割
【原出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】加野 智慎
(72)【発明者】
【氏名】森下 あい子
(72)【発明者】
【氏名】三吉 惟道
(72)【発明者】
【氏名】米田 俊浩
(57)【要約】
【課題】口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和が低減されたビール風味発酵アルコール飲料の提供
【解決手段】ビール風味発酵アルコール飲料において、ネロールを1.2ppb以上の濃度で配合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネロールの濃度が1.2ppb以上である、ビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項2】
糖質の濃度が0.5g/100mL以下である、請求項1に記載のビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項3】
麦芽使用比率が50~100質量%である、請求項1または2に記載のビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項4】
アルコール濃度が3体積%超である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項5】
ネロールの濃度が1.5~60ppbである、請求項1~4のいずれか一項に記載のビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項6】
ビール風味発酵アルコール飲料を製造する方法であって、前記ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロールの濃度を1.2ppb以上に調整する工程を含む、方法。
【請求項7】
前記ビール風味発酵アルコール飲料における糖質の濃度を0.5g/100mL以下に調整する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ビール風味発酵アルコール飲料の麦芽使用比率が50~100質量%である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記ビール風味発酵アルコール飲料におけるアルコール濃度を3体積%超以上に調整する工程を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ビール風味発酵アルコール飲料における口の中でのとげとげしさまたは後味の不調和を低減する方法であって、ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロールの濃度を1.2ppb以上に調整する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール風味発酵アルコール飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりにより、糖質が低減されたビール風味飲料のニーズが拡大している。糖質が低減されたビールやビール系飲料は味の強度が低くなることが多いため、口の中でのとげとげしさといった雑味やアルコールや原料由来のエグさ等による後味の不調和を強く感じやすいという問題がある。
【0003】
このようなビールやビール系飲料における雑味や後味の不調和を解消するために、従来、ビールやビール系飲料の味の強度を高めて雑味や後味の不調和をマスキングする試みがなされている。例えば、ビールやビール系飲料における苦味単位(BU:Bitterness Units)を増大させる方法、香気成分を含むホップ等の材料を用いて香気を付与する方法が採られている。しかしながら、ビールやビール系飲料のBUが増大することにより、それらの味の全体的なバランスが崩れ、ホップによる香気の付与は味の印象を単調なものとしてしまうことがある。
【0004】
このような状況下、糖質が低減されたビールやビール系飲料において、雑味や後味の不調和、特に口の中でのとげとげしさやアルコールや原料由来のエグさ等の低減が継続的な課題として存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、ビール風味発酵アルコール飲料においてネロールの濃度を所定の範囲に調整することにより、当該ビール風味発酵アルコール飲料における口の中でのとげとげしさや後味の不調和を低減し得ることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。
【0006】
したがって、本発明は、口の中でのとげとげしさや後味の不調和が低減されたビール風味発酵アルコール飲料およびその製造方法、ならびにビール風味発酵アルコール飲料における口の中でのとげとげしさや後味の不調和を低減する方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]ネロールの濃度が1.2ppb以上である、ビール風味発酵アルコール飲料。
[2]糖質の濃度が0.5g/100mL以下である、[1]に記載のビール風味発酵アルコール飲料。
[3]麦芽使用比率が50~100質量%である、[1]または[2]に記載のビール風味発酵アルコール飲料。
[4]アルコール濃度が3体積%超である、[1]~[3]のいずれかに記載のビール風味発酵アルコール飲料。
[5]ネロールの濃度が1.5~60ppbである、[1]~[4]のいずれかに記載のビール風味発酵アルコール飲料。
[6]ビール風味発酵アルコール飲料を製造する方法であって、前記ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロールの濃度を1.2ppb以上に調整する工程を含む、方法。
[7]前記ビール風味発酵アルコール飲料における糖質の濃度を0.5g/100mL以下に調整する工程をさらに含む、[6]に記載の方法。
[8]前記ビール風味発酵アルコール飲料の麦芽使用比率が50~100質量%である、[6]または[7]に記載の方法。
[9]前記ビール風味発酵アルコール飲料におけるアルコール濃度を3体積%超に調整する工程をさらに含む、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]ビール風味発酵アルコール飲料における口の中でのとげとげしさまたは後味の不調和を低減する方法であって、前記ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロールの濃度を1.2ppb以上に調整する工程を含む、方法。
【0008】
本発明によれば、ビール風味発酵アルコール飲料における口の中でのとげとげしさや後味の不調和を低減することが可能となる。
【発明の具体的説明】
【0009】
[ビール風味発酵アルコール飲料]
本発明の一つの態様によれば、ビール風味発酵アルコール飲料(以下、「本発明のビール風味発酵アルコール飲料」ともいう。)が提供される。本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、そのネロールの濃度が所定の範囲に調整されている。ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度を所定の範囲に調整することにより、ビール風味発酵アルコール飲料の口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和(例えば、アルコールや原料由来のエグさ等に起因する後味の悪さ等)を低減することができる。
【0010】
本明細書において化合物「ネロール」とは、IUPAC名「(Z)-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール」の化合物を意味する。
【0011】
本明細書において「ビール風味発酵アルコール飲料」とは、ビール(麦芽およびホップを原料として用い、ビール酵母による発酵によって得られるアルコール飲料)、またはビールを想起させる風味を有する発酵アルコール飲料を意味する。本明細書において「発酵アルコール飲料」とは、炭素源、窒素源および水等を原料として酵母によりアルコール発酵させて得られたアルコール(エタノール)含有飲料を意味する。本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、好ましくはホップを原料として用いることにより、ホップの香気が付与された発酵飲料である。本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、好ましくは発酵麦芽飲料、すなわち、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)等が挙げられ、好ましくはビールである。本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、好ましくは麦芽使用比率50~100%、より好ましくは50~95%の発酵麦芽飲料である。
【0012】
ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度は1.2ppb以上であり、好ましくは1.3ppb以上、より好ましくは1.4ppb以上、より一層好ましくは1.5ppb以上である。また、ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではないが、例えば100ppb以下である。一つの実施形態において、ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度の範囲は、好ましくは1.2~80ppb、より好ましくは1.5~80ppb、より好ましくは1.5~70ppb、より好ましくは1.5~60ppb、より好ましくは1.5~50ppb、より好ましくは1.5~30ppb、より好ましくは1.5~20ppb、特に好ましくは1.5~15ppbである。なお、本明細書において、「ppb」という単位は「μg/L」と同義である。
【0013】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、その製造の際にネロール濃度を調整することにより得ることができる。ビール風味発酵アルコール飲料中のネロールの濃度調整の具体的手段は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではなく、例えば、ビール風味発酵アルコール飲料の原料および/または中間物へのネロールの添加、ネロールを含有する原料の使用量の増減、ネロールを最終製品内に生成する原料の使用量の増減、酵母による発酵によってネロールに変換される物質の濃度調整等が挙げられる。
【0014】
ビール風味発酵アルコール飲料中のネロールの濃度の測定は、GC/MS分析により行うことができる。その際に、より正確な濃度測定のためには、既知の濃度を有する幾つかの対照サンプルの測定値に基づいて作成した検量線を用いることが望ましい。このGC/MS分析は、例えば、次のように実施することができる。まず、飲料中の成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用いる。定量は内部標準法によって行い、内部標準物質にはボルネオール(Borneol)を用い、分析用試料中25ppbになるよう添加する。GC/MSの分析条件は、例えば、以下の表1に示す分析条件とすることができる。
【0015】
【0016】
ビール風味発酵アルコール飲料中のアルコール濃度は、本発明の効果が奏される限り特に制限されるものではないが、好ましくは3体積%(v/v%)超、より好ましくは3.5体積%以上、より一層好ましくは4体積%以上とされる。また、ビール風味発酵アルコール飲料のアルコール濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではないが、例えば20体積%以下である。一つの実施形態において、ビール風味発酵アルコール飲料中のアルコール濃度は、好ましくは3体積%超10体積%以下、より好ましくは3体積%超7体積%以下、より好ましくは3体積%超6体積%以下である。あるいは、ビール風味発酵アルコール飲料中のアルコール濃度は、好ましくは3.5~10体積%、より好ましくは3.5~7体積%、より好ましくは3.5~6体積%である。あるいは、ビール風味発酵アルコール飲料中のアルコール濃度は、好ましくは4~10体積%、より好ましくは4~7体積%である。特に好ましい実施形態において、ビール風味発酵アルコール飲料中のアルコール濃度は4~6体積%である。ビール風味発酵アルコール飲料中のアルコール濃度を上記の範囲に調整することにより、ネロール濃度が同じ場合であっても、ビール風味発酵アルコール飲料の口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和をより低減することができる。なお、ビール風味発酵アルコール飲料中のアルコールの濃度の測定は公知の方法によって行うことができ、具体的には、日本国国税庁が定める「BCOJビール分析法 8.3.6 アルコライザー法」に基づいて行うことができる。
【0017】
一つの好ましい実施形態において、ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度は1.2ppb以上であり、より好ましくは1.3ppb以上、より一層好ましくは1.4ppb以上、特に好ましくは1.5ppb以上であり、また100ppb以下であり、かつアルコール濃度は3体積%超、より好ましくは3.5体積%以上、特に好ましくは4体積%以上であり、また20体積%以下である。より具体的には、ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度は、好ましくは1.2~80ppb、より好ましくは1.5~80ppb、より好ましくは1.5~70ppb、より好ましくは1.5~60ppb、より好ましくは1.5~50ppb、より好ましくは1.5~30ppb、より好ましくは1.5~20ppb、特に好ましくは1.5~15ppbであり、かつ、アルコール濃度は、好ましくは3体積%超10体積%以下、より好ましくは3体積%超7体積%以下、より好ましくは3体積%超6体積%以下、あるいは、好ましくは3.5~10体積%、より好ましくは3.5~7体積%、より好ましくは3.5~6体積%、あるいは、好ましくは4~10体積%、より好ましくは4~7体積%、特に好ましくは4~6体積%である。ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度およびアルコール濃度をそれぞれ上記の範囲に調整することにより、ビール風味発酵アルコール飲料の口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和を低減することができる。
【0018】
特に好ましい実施形態において、ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度は1.5~60ppbであり、かつアルコール濃度は4~6体積%である。ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度およびアルコール濃度をそれぞれ上記の範囲に調整することにより、ビール風味発酵アルコール飲料の口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和を低減することができるだけではなく、香りと味とのバランスを良好なものとすることができる。中でも、ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度を1.5~15ppb、かつアルコール濃度を4~6体積%に調整することにより、香りと味とのバランスを特に良好なものとすることができる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明のビール風味発酵アルコール飲料は糖質の含有量が通常よりも低減された飲料とされる。この「通常よりも低減された」とは、そのビール風味発酵アルコール飲料を製造する際に糖質の含有量を低下させるための工夫がなされていることを意味する。このような低糖質ビール風味発酵アルコール飲料中の糖質の濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではないが、例えば1.5g/100mL以下であり、好ましくは1.5g/100mL未満、より好ましくは1.1g/100mL以下、より好ましくは1.0g/100mL以下、より好ましくは1.0g/100mL未満、より好ましくは0.5g/100mL以下、特に好ましくは0.5g/100mL未満である。一つの実施形態において、低糖質ビール風味発酵アルコール飲料中の糖質の濃度は0.4g/mL以下である。
【0020】
ビール風味発酵アルコール飲料中の糖質の濃度の測定は公知の方法によって行うことができ、具体的には、日本国消費者庁が定める「食品表示基準について(平成27年3月30日 消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に基づいて行うことができる。より具体的には、糖質の濃度を測定する対象となる試料の質量から、水分、たんぱく質、脂質、灰分、および食物繊維のそれぞれの質量を除くことにより測定することができる。
【0021】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、炭酸飲料とすることができる。ビール風味発酵アルコール飲料中の炭酸ガスの圧力は、目的とするビール風味発酵アルコール飲料の種類、味、香り等に応じて適宜調整することができる。ビール風味発酵アルコール飲料中の炭酸ガスの圧力は、例えば、0.05~0.4MPa(20℃におけるガス圧)の範囲で調整することができる。
【0022】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、目的とするビール風味発酵アルコール飲料の種類、味、香り等に応じてpHを適宜調整することができる。ビール風味発酵アルコール飲料のpHとしては、例えば2.0~5.0、好ましくは2.3~4.8、より好ましくは2.9~4.5に調整することができる。ビール風味発酵アルコール飲料のpHは、市販のpHメーター(例えば、HORIBA Scientific 卓上pH計、株式会社堀場アドバンスドテクノ製)を用いて測定することができる。
【0023】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料の提供の形態は特に限定されないが、好ましくは容器詰飲料として提供される。ビール風味発酵アルコール飲料を詰める容器としては、容器詰め飲料に通常用いられる容器であれば特に限定されず、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられる。好ましい実施形態において、ビール風味発酵アルコール飲料は、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトルまたは瓶に詰められた容器詰飲料として提供される。
【0024】
一つの実施態様において、本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、そのネロールの濃度を調整する以外は、通常のビール風味発酵アルコール飲料の製造方法に従って製造することができる。通常のビール風味発酵アルコール飲料の製造方法としては、例えば、発酵工程により少なくとも水および麦芽を含んでなる発酵前液を発酵させる方法、すなわち、麦芽等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い発酵液を得、得られた発酵液を必要に応じて低温で貯蔵した後、ろ過工程により発酵液から酵母を除去する方法が挙げられる。
【0025】
上述したビール風味発酵アルコール飲料の製造方法においては、その過程のいずれかの段階において、ビール風味発酵アルコール飲料の中間物にホップ(ホップの加工品を含む)を添加することができる。ホップの添加量は、目的とするビール風味発酵アルコール飲料の種類、味、香り等に応じて適宜調整することができる。ホップの添加量は、典型的には、発酵工程における発酵前液の量に対して0.1~5g/Lとなるように調整され、好ましくは0.1~2g/L、より好ましくは0.2~1.5g/Lとなるように調整される。
【0026】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料においては、麦芽、ホップおよび水以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖等)、果実、コリアンダー等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物、酵母エキス等の窒素源、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として用いることができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む)等)を醸造原料として用いることもできる。
【0027】
[ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法]
本発明の別の態様によれば、ビール風味発酵アルコール飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)が提供される。本発明の製造方法は、ビール風味発酵飲料におけるネロールの濃度を所定の範囲に調整する工程を含むものである。ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロールの濃度調整の具体的手段は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではなく、例えば、ビール風味発酵アルコール飲料の原料および/または中間物へのネロールの添加、ネロールを含有する原料の使用量の増減、ネロールを最終製品内に生成する原料の使用量の増減、酵母による発酵によってネロールに変換される物質の濃度調整等が挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法において、ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロールの濃度、アルコール濃度、糖質の濃度、炭酸ガスの圧力、pH、およびそれらの調整方法、測定方法等は、いずれも上述した本発明のビール風味発酵アルコール飲料と同様とすることができる。
【0029】
本発明の製造方法により得られるビール風味発酵アルコール飲料の形態は、上述した本発明のビール風味発酵アルコール飲料と同様とすることができる。
【0030】
本発明の製造方法により得られるビール風味発酵アルコール飲料には、上述した本発明のビール風味発酵アルコール飲料について説明したのと同様に、ホップ(ホップの加工品を含む)、その他の添加物、未発芽の麦類等を原料として用いることができる。
【0031】
[ビール風味発酵アルコール飲料における口の中でのとげとげしさまたは後味の不調和を低減する方法]
本発明の別の態様によれば、ビール風味発酵アルコール飲料における口の中でのとげとげしさまたは後味の不調和を低減する方法(以下、「本発明の方法」ともいう。)が提供される。本発明の方法は、ビール風味発酵飲料におけるネロールの濃度を所定の範囲に調整する工程を含むものである。ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロールの濃度調整の具体的手段は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではなく、例えば、ビール風味発酵アルコール飲料の原料および/または中間物へのネロールの添加、ネロールを含有する原料の使用量の増減、ネロールを最終製品内に生成する原料の使用量の増減、酵母による発酵によってネロールに変換される物質の濃度調整等が挙げられる。
【0032】
本発明の方法において、ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロールの濃度は、1.2ppb以上、好ましくは1.3ppb以上、より好ましくは1.4ppb以上、より一層好ましくは1.5ppb以上に調整される。また、本発明の方法において、ビール風味発酵アルコール飲料中のネロールの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではないが、例えば100ppb以下に調整される。一つの実施形態において、ビール風味発酵アルコール飲料中のネロール濃度の範囲は、好ましくは1.2~80ppb、より好ましくは1.5~80ppb、より好ましくは1.5~70ppb、より好ましくは1.5~60ppb、より好ましくは1.5~50ppb、より好ましくは1.5~30ppb、より好ましくは1.5~20ppb、特に好ましくは1.5~15ppbに調整される。ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロールの濃度を上記の範囲に調整することにより、ビール風味発酵アルコール飲料における口の中でのとげとげしさおよび/または後味の不調和を低減することができる。
【実施例0033】
以下の実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1:ビール風味発酵アルコール飲料におけるネロール濃度と口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和との関係
本実施例では、試験醸造したビールにおけるネロールの濃度と、当該ビールにおける口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和との関連について、以下の手順に従って検討を行った。
【0035】
(1)試飲サンプルの調製
以下の手順に従って、ビール風味発酵アルコール飲料の試飲サンプルを調製した。
グルコアミラーゼを主体として含む酵素製剤を用いて麦芽を糖化し、濾過することにより麦汁を得た。なお、麦芽としては主として大麦麦芽を使用した。得られた麦汁にホップと資化性糖を主体として含む液糖とを添加し、100℃で煮沸した。次いで、麦汁を静置して凝固したタンパク質(トリューブ)を分離した後、冷却して発酵前液を得た。得られた発酵前液に下面発酵酵母を添加し、主発酵および後発酵を行い発酵液を得た。得られた発酵液を低温で貯蔵して発酵を停止させ、濾過することにより、清澄なビール風味発酵アルコール飲料を得た。なお、得られたビール風味発酵アルコール飲料の麦芽使用比率は60%であった。
【0036】
得られたビール風味発酵アルコール飲料の糖質の濃度が0.4g/100mLとなるようにビール風味発酵アルコール飲料を水で希釈してベース飲料を得た。次いで、アルコールの濃度がそれぞれ3体積%、4体積%および6体積%となるように得られたベース飲料に酒類原料用アルコール(第一アルコール株式会社製、アルコール濃度95%)を添加した。さらに、ネロールの濃度がそれぞれ1ppb、1.5ppb、15ppbおよび60ppbとなるようにネロールを添加して、試験区1~10の各試飲サンプルを調製した。なお、実施例における各飲料中のアルコール、糖質およびネロールの濃度は、それぞれ以下の方法に従って測定した。
【0037】
実施例における各飲料中のアルコールの濃度は、日本国国税庁が定める「BCOJビール分析法 8.3.6 アルコライザー法」に従って測定した。
【0038】
実施例における各飲料中の糖質の濃度は、日本国消費者庁が定める「食品表示基準について(平成27年3月30日 消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に基づいて、測定対象となる飲料の質量から、水分、たんぱく質、脂質、灰分、および食物繊維のそれぞれの質量を除くことにより測定した。
【0039】
実施例における各飲料中のネロールの濃度の測定は、下記の条件によるGC/MS分析により行った。具体的には、飲料中の成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用いた。定量は内部標準法によって行い、内部標準物質にはボルネオール(Borneol)を用い、分析用試料中25ppbになるよう添加した。
【表2】
【0040】
(2)試飲サンプルの官能評価
上記(1)で調製された各試験区の試飲サンプルについて、訓練された7名のパネルによる官能評価を行った。官能評価の評価項目は、「口の中でのとげとげしさ」、「後味の不調和」および「香りと味とのバランス」の3項目とした。以下に、各評価項目のそれぞれについての具体的な評価基準を示す。
【0041】
各試験区の試飲サンプルの口の中でのとげとげしさに関し、アルコール濃度が3体積%であり、ネロール濃度が1ppbである試験区1の試飲サンプルの口の中でのとげとげしさを「スコア3.0」とした場合の比較で評価を行った。なお、スコアが3.0よりも低いほど試験区1の試飲サンプルと比較して口の中でのとげとげしさが弱かったことを示し、スコアが3.0よりも高いほど試験区1の試飲サンプルと比較して口の中でのとげとげしさが強かったことを示す。
【0042】
各試験区の試飲サンプルの後味の不調和に関し、試験区1の試飲サンプルのアルコールや原料由来のエグさ等による後味の不調和を「スコア3.0」とした場合の比較で評価を行った。なお、スコアが3.0よりも低いほど試験区1の試飲サンプルと比較してアルコールや原料由来のエグさ等による後味の不調和が弱かったことを示し、スコアが3.0よりも高いほど試験区1の試飲サンプルと比較してアルコールや原料由来のエグさ等による後味の不調和が強かったことを示す。
【0043】
各試験区の試飲サンプルの香りと味とのバランスに関し、試験区1の試飲サンプルの香りと味とのバランスを「スコア3.0」とした場合の比較で評価を行った。なお、スコアが3.0よりも高いほど試験区1の試飲サンプルと比較して香りと味とのバランスが良好であったことを示し、スコアが3.0よりも低いほど試験区1の試飲サンプルと比較して香りと味とのバランスが良好でなかったことを示す。
【0044】
下記表3に、各試験区の試飲サンプルについての官能評価結果をまとめて示す。なお、官能評価結果のスコアはいずれも平均値±標準偏差として示す。
【表3】
【0045】
表3に示される結果から、試験区2~10のいずれの試飲サンプルにおいても、試験区1の試飲サンプルと比較して口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和がいずれも弱かったことが示された。特に、試験区2、4~6および8~10の各試飲サンプルにおいて、試験区1の試飲サンプルと比較して口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和がいずれも弱かったことから、ネロールの濃度を所定の範囲に調整することにより、アルコール濃度によらず口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和のいずれも低減できることが示された。さらに、試験区4~6および8~10の各試飲サンプルにおいては、試験区1の試飲サンプルと比較して、香りと味とのバランスが良好であったこと、中でも試験区4~5および8~9の各試験サンプルにおいては、香りと味とのバランスが特に良好であったことが示された。
【0046】
したがって、ビール風味発酵アルコール飲料における口の中でのとげとげしさおよび後味の不調和を低減させるために、そのネロールの濃度が1.2ppb以上、好ましくは1.2~80ppb、より好ましくは1.5~60ppb、より一層好ましくは1.5~15ppbに調整されることが示された。