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特開2025-19351衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019351
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/23 20100101AFI20250131BHJP
G01S 19/20 20100101ALI20250131BHJP
【FI】
G01S19/23
G01S19/20
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122913
(22)【出願日】2023-07-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】723010371
【氏名又は名称】イエローテイル・ナビゲーション株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂井 丈泰
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA09
5J062CC07
5J062DD24
5J062EE02
(57)【要約】
【課題】 衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験を行う。
【解決手段】 米国によるGPSや日本の準天頂衛星システムを含む衛星航法システムについて,測位誤差の原因の比較試験を行うプログラムにおいて,ユーザ局若しくは基準局が測定により得るべき複数の航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,当該既知の誤差を加えない状態で計算されたユーザ局の位置と比較し,その違いから,前記特定の誤差要因が前記ユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価することにより,測位誤差の原因の比較試験を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムにおいて,
前記ユーザ局が測定した前記複数の航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えたうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で計算された前記ユーザ局の位置,又は,前記ユーザ局のあらかじめ知られた位置と比較すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法。
【請求項2】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前期複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報として前記ユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムにおいて,
前記基準局が測定した前記複数の航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えたうえで,前記補正情報を得て,
この補正情報を適用したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で計算された前記ユーザ局の位置,又は,前記ユーザ局のあらかじめ知られた位置と比較すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法。
【請求項3】
前記既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定した成分とすること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法。
【請求項4】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムを想定して,
前記ユーザ局が測定して得るべき前記複数の航法衛星との間の距離を,前記ユーザ局のあらかじめ知られた位置と前記複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,
この計算により求められた距離に対して,既知の誤差を加えたうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で計算された前記ユーザ局の位置,又は,前記ユーザ局のあらかじめ知られた位置と比較すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法。
【請求項5】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前期複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報として前記ユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムを想定して,
前記基準局が測定して得るべき前記複数の航法衛星との間の距離を,前記受信局のあらかじめ知られた位置と前記複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,
この計算により求められた距離に対して,既知の誤差を加えたうえで,前記補正情報を得て,
この補正情報を適用したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で計算された前記ユーザ局の位置,又は,前記ユーザ局のあらかじめ知られた位置と比較すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法。
【請求項6】
前記既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定した成分とすること
を特徴とする請求項4又は請求項5に記載の衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星により位置を測定する衛星航法システムはGNSS(Global Navigation Satellite System)と総称され,その代表例は米国によるGPS(Global Positioning System)である。GNSSは一般に,航法衛星と呼ばれる人工衛星が送信する測位信号を受信機により受信し,航法衛星と受信機との間の距離を測定することで,受信機の位置を計算により求める。位置を求めるべき受信機を,ユーザ受信機あるいはユーザ局などと呼ぶ。求められた位置の真の位置に対する誤差を,測位誤差という。
【0003】
受信機の位置を計算するためには測位信号を送信している航法衛星の位置を知る必要があるが,このために必要な軌道情報は航法衛星自身が測位信号に重畳することで送信する。軌道情報は予測により作成されていることから,数メートル程度の誤差を含んでおり,これは受信機位置の計算の際に測位誤差の要因になる。
【0004】
測位信号が地上に到達するまでの間に,上空にある電離圏及び対流圏を通過するが,それぞれの領域を無線信号が通過する際に遅延が生じる。これらの遅延は,それぞれ電離圏伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延と呼ばれている。従って,この無線信号を測位信号として用いる場合,これらの電離層伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延が測位誤差の要因になる。距離に換算した電離圏伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延の大きさを,それぞれ電離圏伝搬遅延量及び対流圏遅延量という。
【0005】
一方,地上に固定された基準局に受信機を設置して,これにより測定した距離から,電離圏伝搬遅延や対流圏伝搬遅延などにより生じる距離の測定誤差に対する補正情報を作成し,これをユーザに対して提供することで,ユーザ局において測定した距離を補正情報に基づいて補正し,ユーザ局における位置の測定精度(「測位精度」と呼ぶ)を改善することが行われている。この方式はディファレンシャルGPS(Differential GPS。以下,「DGPS」とする)と呼ばれる。
【0006】
DGPSの実用例としては,船舶向け中波ビーコンやFM多重ディジタル放送によるものがあったが,現在ではいずれも廃止された。一方,2018年に運用を開始した日本の準天頂衛星システムはSLAS(Submeter-Level Augmentation Service),CLAS(Centimeter-Level Augmentation Service),及びSBAS(Satellite-Based Augmentation System)としてDGPSの補正情報を人工衛星から送信している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】坂井丈泰,「GPSによる電離層全電子数観測のためのバイアス誤差推定法」,電子情報通信学会論文誌,Vol.J88-B,No.12,p.2382~2389,2005年12月
【非特許文献2】国土地理院「衛星測位シミュレータ(ソフトウェア)の開発」,第7回マルチGNSSによる高精度測位技術の開発に関する委員会資料,2013年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
GNSSでは,軌道情報に含まれる誤差のほかに電離圏伝搬遅延量及び対流圏伝搬遅延量といった誤差要因があり,これらによる影響がユーザ局の位置の計算の際に測位誤差となってあらわれる。
【0009】
ユーザ局における測位誤差については,一般に,電離圏伝搬遅延量がもっとも大きな影響を及ぼす。軌道情報に含まれる誤差は数メートル以内であることが多く,また対流圏伝搬遅延量はモデル計算式を用いた計算により十分な精度で除去できる。
【0010】
電離圏伝搬遅延量は,特に仰角の低い航法衛星では数十メートルに及ぶことがあり,また自然現象であることから予測計算により除去することが難しい。電離圏の活動は11年周期で繰り返される太陽活動の影響を受けるところ,最近の太陽活動極大期になって電離圏伝搬遅延による影響が顕在化してきている。
【0011】
なお,GNSSの測位信号が電離圏を通過する際には,電離圏を通過する位置が同じであっても,航法衛星の仰角により影響の大きさが変化する。すなわち,仰角が高い航法衛星では電離圏を通過する長さが短く,仰角が低い航法衛星ではこれが長い。この効果を位置の計算に取り入れるために,電離圏伝搬遅延量としては垂直方向の遅延量により表現し,仰角による効果を傾斜係数であらわすことが一般的に行われる。垂直方向の電離圏伝搬遅延量に,航法衛星の仰角に対応する傾斜係数を乗じると,実際に観測される電離圏伝搬遅延量になる。傾斜係数の具体的な値は,天頂方向(仰角90度)で1,仰角5度で3程度になる。
【0012】
ところで,ユーザ局が測定した航法衛星までの距離には,全ての誤差要因による影響が足し合わされてあらわれるから,特定の誤差要因の影響や,電離圏伝搬遅延量のみを取り出して評価することは難しい。非特許文献1に示すように,電離圏伝搬遅延量を推定する技術は知られているが,地上に多数の基準局を設置したうえで,それらの測定データを集約して計算処理を行う必要があり,大きなコストを要する。
【0013】
このような条件下で測位誤差に含まれる電離圏伝搬遅延量の影響を推定するには,ユーザ局が測定した航法衛星までの距離に,電離圏伝搬遅延量を想定した既知の誤差を加えて,誤差を加えない場合との比較試験を行うことが有効と考えられる。なお,このような比較試験は,電離圏伝搬遅延量に限らず,他の誤差要因について適用することも可能である。
【0014】
上記の比較試験は,現実にユーザ局が測定した距離を用いなくとも,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星との間の距離を,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と航法衛星の軌道情報を用いて計算により求めることとして行ってもよい。このようにすることで,現実にユーザ局を設置しなくても,上記の比較試験を行うことが可能になる。
【0015】
非特許文献2においては,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星との間の距離を,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と航法衛星の軌道情報を用いてこれらの間の距離を計算により求めるソフトウェアが述べられている。しかしながら,当該ソフトウェアは,ユーザ局が測定して得るべき距離の計算を行い,統計的誤差モデルに従った雑音を付加するが,既知の誤差を加えて比較試験を行おうとするものではない。
【0016】
GPSが送信する測位信号を模擬した信号を発生させる装置は市販されており,当該装置は,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と航法衛星の軌道情報を用いてこれらの間の距離を計算により求めたうえで,適切な信号を発生させるものである。しかしながら,当該装置は,ユーザ局が測定して得るべき距離の計算を行い,統計的誤差モデルに従った雑音を付加するが,既知の誤差を加えて比較試験を行おうとするものではない。
【0017】
衛星航法の分野においては,位置の計算を行うプログラムは各種が知られているが,入力として与えられた距離データに既知の誤差を加える機能をもつものは存在しない。従って,上記の比較試験については,実際に実施する手段がない状況にある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムにおいて,ユーザ局が測定した複数の航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えたうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で計算されたユーザ局の位置,又は,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と比較することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法である。
【0019】
請求項2に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報としてユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムにおいて,基準局が測定した複数の航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えたうえで,補正情報を得て,この補正情報を適用したうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で計算されたユーザ局の位置,又は,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と比較することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法である。
【0020】
請求項3に係る発明は,請求項1又は請求項2に記載の発明において,ユーザ局又は基準局と航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えるのであるが,このとき,当該既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定した成分とするものである。
【0021】
請求項4に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムを想定して,ユーザ局が測定して得るべき複数の航法衛星との間の距離を,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,この計算により求められた距離に対して,既知の誤差を加えたうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で計算されたユーザ局の位置,又は,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と比較することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法である。
【0022】
請求項5に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報としてユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムを想定して,基準局が測定して得るべき複数の航法衛星との間の距離を,受信局のあらかじめ知られた位置と複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,この計算により求められた距離に対して,既知の誤差を加えたうえで,補正情報を得て,この補正情報を適用したうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で計算されたユーザ局の位置,又は,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と比較することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法である。
【0023】
請求項6に係る発明は,請求項4又は請求項5に記載の発明において,ユーザ局又は基準局と航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えるのであるが,このとき,当該既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定した成分とするものである。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る発明は,上記のように構成したので,ユーザ局が測定した航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,誤差による影響を直接に評価することができる。
【0025】
請求項2に係る発明は,上記のように構成したので,基準局が測定した航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,誤差による影響を直接に評価することができる。
【0026】
請求項3に係る発明は,上記のように構成したので,請求項1又は請求項2に記載の発明と同様の効果がある。さらに,既知の誤差について電離圏伝搬遅延量を想定した成分とするので,電離圏伝搬遅延量による影響を直接に評価することができる。
【0027】
請求項4に係る発明は,上記のように構成したので,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,誤差による影響を直接に評価することができる。
【0028】
請求項5に係る発明は,上記のように構成したので,基準局が測定して得るべき航法衛星との間の距離に対して,既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,誤差による影響を直接に評価することができる。
【0029】
請求項6に係る発明は,上記のように構成したので,請求項4又は請求項5に記載の発明と同様の効果がある。さらに,既知の誤差について電離圏伝搬遅延量を想定した成分とするので,電離圏伝搬遅延量による影響を直接に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】この発明の実施例1を示すもので,この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法を説明するための模式図である。
【
図2】この発明の実施例1における発明の効果を説明するための図で,実際に受信局が測定した距離に対して,既知の誤差を加えない場合と加えた場合の測位誤差を表示してある。
【
図3】この発明の実施例2を示すもので,この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法を説明するための模式図である。
【
図4】この発明の実施例2における発明の効果を説明するための図で,計算により求めた受信局が測定して得るべき距離に対して,既知の誤差を加えない場合と加えた場合の測位誤差を表示してある。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下,本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例0032】
この発明の第一の実施例を,
図1に基づいて詳細に説明する。この実施例は,請求項1~3に記載の発明に対応する。
【0033】
図1は,この実施例の衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法を説明するための模式図である。
【0034】
図1において,航法衛星11(11a,11b・・・)は,それぞれ測位信号を送信する。
【0035】
図1において,ユーザ局12は,航法衛星11(11a,11b・・・)が送信した測位信号を受信して航法衛星から各々の基準局までの距離を測定する機能を有する。
【0036】
図1において,13は電離圏伝搬遅延量の分布を模式的にあらわしている。
図1においては,左側では電離圏伝搬遅延量が小さく,右側では電離圏伝搬遅延量が大きいことをあらわしているが,これは例示であり,電離圏伝搬遅延量が必ずこのような分布を示すことをあらわしているわけではない。
【0037】
図1の14は,ユーザ局12が測定する航法衛星までの距離を矢印の長さであらわしている。15はこれに含まれる電離圏伝搬遅延量をあらわし,大きな測位誤差を生じることになる。
【0038】
一方,16は電離圏伝搬遅延量を想定した既知の(負の)誤差を加えた場合に測定される距離であり,電離圏伝搬遅延量が減少することで測位誤差は小さくなる。既知の(負の)誤差が加えられることで,電離圏伝搬遅延量は17に示すように減少している。
【0039】
ユーザ局12が測定した航法衛星までの距離には,全ての誤差要因による影響が足し合わされてあらわれるから,電離圏伝搬遅延量のみを取り出して評価することは難しく,このことは15の電離圏伝搬遅延量が未知であることを意味する。
【0040】
ユーザ局12が測定した航法衛星までの距離に対して,電離圏伝搬遅延量を想定した既知の(負の)誤差を加えた例である16では,電離圏伝搬遅延量が減少することになる。これを実際に試みた結果,測位誤差が小さくなるようであれば,測位誤差の原因が電離圏伝搬遅延量であるものと推定できる。
【0041】
次に,作用動作について
図1及び
図2に基づいて説明する。
【0042】
ユーザ局12は,航法衛星が送信した測位信号を受信し,航法衛星11(11a,11b・・・)からユーザ局までの距離を測定する機能を有する。測定された距離には,軌道情報に含まれる誤差のほかに電離圏伝搬遅延量及び対流圏伝搬遅延量といった誤差要因があるから,測定された距離を用いてユーザ局の位置を計算すると,測位誤差となってあらわれる。
【0043】
図2の記号+は,国土地理院の電子基準点「石垣2」局における距離の測定データを用いて,当該局をユーザ局12に見立ててその位置を計算した結果である。北の方向に3~4メートル程度の測位誤差を生じている様子が分かる。なお,ここで使用した測定データの取得日時は2021年1月17日13:30~14:30(日本時間)であり,一般に電離圏伝搬遅延量が大きくなる昼間の時間帯を選択している。
【0044】
これに対して,南の方角に位置するGPS衛星(PRN10衛星)について,既知の誤差として,電離圏伝搬遅延量を想定して,ユーザ局までの距離に-8メートルを加えたうえで(負の誤差であるから距離は減少することになる),同様に位置を計算した結果が同図の記号×である。特に南北方向の測位誤差が小さくなっていることから,測位誤差の主要な原因の一つは電離圏伝搬遅延量であり,その大きさは8メートル程度であることが推定できる。ここで,-8メートルというのは垂直方向の電離圏伝搬遅延量を意味しており,電離圏伝搬遅延量を想定した誤差の成分とするには,衛星の仰角にあわせて[0011]の傾斜係数を乗じる必要があることを注意する。また,南の方角に位置するGPS衛星を選択した理由は,石垣島から見て南の方角にある領域で発生する赤道異常と呼ばれる現象が大きな電離圏伝搬遅延量を発生させることが知られているためである。
【実施例0045】
この発明の第二の実施例を,
図3に基づいて詳細に説明する。この実施例は,請求項4~6に記載の発明に対応する。
【0046】
図3は,この実施例の衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法を説明するための模式図である。
【0047】
図3において,航法衛星21(21a,21b・・・)は,それぞれ測位信号を送信するものと想定する。
【0048】
図3において,ユーザ局22は,航法衛星21(21a,21b・・・)が送信した測位信号を受信して航法衛星から各々の基準局までの距離を測定するものと想定する。
【0049】
図3において,23は電離圏伝搬遅延量の分布を模式的にあらわしている。
図3においては,左側では電離圏伝搬遅延量が小さく,右側では電離圏伝搬遅延量が大きいことをあらわしているが,これは例示であり,電離圏伝搬遅延量が必ずこのような分布を示すことをあらわしているわけではない。
【0050】
図3の24は,ユーザ局22が測定して得るべき航法衛星までの距離を矢印の長さであらわしている。24は電離圏伝搬遅延量がない場合であり,測位誤差の原因は軌道情報の誤差だけであるから,測位誤差は小さい。すなわち,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星までの距離は,あらかじめ知られたユーザ局と航法衛星の軌道情報から計算できるから,電離圏伝搬遅延量のない状態において測定されるべき距離とすることができる。
【0051】
一方,25は電離圏伝搬遅延量を想定した既知の誤差を加えた例であり,大きな測位誤差を生じる。ユーザ局22が測定して得るべき航法衛星までの距離に対して,電離圏伝搬遅延量を想定した既知の(正の)誤差として26で示される長さを加えたことにより,電離圏伝搬遅延量が存在することになる。これを実際に試みることで,電離圏伝搬遅延量に起因する測位誤差の成分についてその性質を知ることができる。
【0052】
次に,作用動作について
図3及び
図4に基づいて説明する。
【0053】
ユーザ局22は,航法衛星が送信した測位信号を受信し,航法衛星21(21a,21b・・・)からユーザ局までの距離を測定するものと想定する。測定されるべき距離には,軌道情報に含まれる誤差,対流圏伝搬遅延量及び電離圏伝搬遅延量の全てについて含めないようにすることができるから,測定されるべき距離を用いてユーザ局の位置を計算すると,測位誤差はないことになる。
【0054】
図4の記号■は,国土地理院の電子基準点「石垣2」局の位置を想定して,当該局が測定して得るべき距離を計算したうえで,当該局をユーザ局22に見立ててその位置を計算した結果である。測位誤差は生じていないことを確認できる。なお,距離の計算の対象とした日時は2021年1月17日13:30~14:30(日本時間)であり,一般に電離圏伝搬遅延量が大きくなる昼間の時間帯を選択している。
【0055】
これに対して,南の方角に位置するGPS衛星(PRN10衛星)について,既知の誤差として,軌道情報から計算される衛星位置のZ軸(地球自転軸に平行な北向きの方向である)成分に10メートルを加えたうえで,同様に位置を計算した結果が同図の記号+である。北の方向に0.7~1.8メートル程度の測位誤差を生じており,他に何らの誤差要因も加えていないことから,これは間違いなく航法衛星の軌道情報に含まれる誤差による影響であることを確認できる。
【0056】
一方,同じGPS衛星(PRN10衛星)について,既知の誤差として,電離圏伝搬遅延量を想定して,ユーザ局までの距離に8メートルを加えたうえで,同様に位置を計算した結果が同図の記号×である(衛星位置には誤差を加えていない)。北の方向に1.8メートル以上の大きな測位誤差を生じていることから,これが当該条件下における電離圏伝搬遅延量の影響ということができる。ここで,8メートルというのは垂直方向の電離圏伝搬遅延量を意味しており,電離圏伝搬遅延量を想定した誤差の成分とするには,衛星の仰角にあわせて[0011]の傾斜係数を乗じる必要があることを注意する。また,南の方角に位置するGPS衛星を選択した理由は,石垣島から見て南の方角にある領域で発生する赤道異常と呼ばれる現象が大きな電離圏伝搬遅延量を発生させることが知られているためである。
【0057】
加えて,この結果を実施例1の結果と組み合わせれば,実施例1における南北方向の測位誤差の主要な原因として,南の方角に位置するGPS衛星(PRN10衛星)について生じている電離圏伝搬遅延量が影響していることをさらに強く推定できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の試験方法は,測位誤差の原因分析に利用可能である。ユーザ局が測定した航法衛星までの距離には,全ての誤差要因による影響が足し合わされてあらわれるから,特定の誤差要因のみを取り出して評価することは難しいが,本発明の試験方法によれば,特定の誤差要因について影響度を評価することができる点は,測位誤差の原因分析に有用である。さらに,本発明の試験方法によれば,稀にしか発生しない現象について,当該現象が発生しなくても試験することができ,この点は当該現象による測位誤差に対する影響の評価に利用できる。
【符号の説明】
【0059】
11(11a,11b・・・) 航法衛星
12 ユーザ局
13 電離圏伝搬遅延量の分布
14 ユーザ局が測定する距離
15 測定された距離に含まれる電離圏伝搬遅延量
16 測定された距離に既知の誤差を加えて得られる距離
17 既知の誤差を加えられた電離圏伝搬遅延量
21(21a,21b・・・) 航法衛星
22 ユーザ局
23 電離圏伝搬遅延量の分布
24 ユーザ局が測定して得るべき距離(電離圏伝搬遅延量を含まない)
25 ユーザ局が測定して得るべき距離に既知の誤差を加えて得られる距離
26 既知の誤差として加える電離圏伝搬遅延量
【手続補正書】
【提出日】2023-10-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムにおいて,
前記ユーザ局が測定した前記複数の航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で計算された前記ユーザ局の位置と比較し,その違いから,前記特定の誤差要因が前記ユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法。
【請求項2】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前期複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報として前記ユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムにおいて,
前記基準局が測定した前記複数の航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,前記補正情報を得て,
この補正情報を適用したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で得られる補正情報を適用して計算された前記ユーザ局の位置と比較し,その違いから,前記特定の誤差要因が前記ユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法。
【請求項3】
前記既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法。
【請求項4】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムを想定して,
前記ユーザ局が測定して得るべき前記複数の航法衛星との間の距離を,前記ユーザ局のあらかじめ知られた位置と前記複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,
この計算により求められた距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で計算された前記ユーザ局の位置と比較し,その違いから,前記特定の誤差要因が前記ユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法。
【請求項5】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前期複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報として前記ユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムを想定して,
前記基準局が測定して得るべき前記複数の航法衛星との間の距離を,前記受信局のあらかじめ知られた位置と前記複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,
この計算により求められた距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,前記補正情報を得て,
この補正情報を適用したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で得られる補正情報を適用して計算された前記ユーザ局の位置と比較し,その違いから,前記特定の誤差要因が前記ユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法。
【請求項6】
前記既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定すること
を特徴とする請求項4又は請求項5に記載の衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
この発明は,衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法に関するものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
このような条件下で測位誤差に含まれる電離圏伝搬遅延量の影響を推定するには,ユーザ局が測定した航法衛星までの距離に,電離圏伝搬遅延量を想定した既知の誤差を加えて,当該既知の誤差を加えない場合との比較試験を行うことが有効と考えられる。なお,このような比較試験は,電離圏伝搬遅延量に限らず,他の誤差要因について適用することも可能である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
非特許文献2においては,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星との間の距離を,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と航法衛星の軌道情報を用いてこれらの間の距離を計算により求めるソフトウェアが述べられている。しかしながら,当該ソフトウェアは,ユーザ局が測定して得るべき距離の計算を行い,統計的誤差モデルに従った雑音を付加するが,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えて比較試験を行おうとするものではない。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
GPSが送信する測位信号を模擬した信号を発生させる装置は市販されており,当該装置は,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と航法衛星の軌道情報を用いてこれらの間の距離を計算により求めたうえで,適切な信号を発生させるものである。しかしながら,当該装置は,ユーザ局が測定して得るべき距離の計算を行い,統計的誤差モデルに従った雑音を付加するが,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えて比較試験を行おうとするものではない。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
衛星航法の分野においては,位置の計算を行うプログラムは各種が知られているが,入力として与えられた距離データに特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加える機能をもつものは存在しない。従って,上記の比較試験については,実際に実施する手段がない状況にある。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
請求項1に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムにおいて,ユーザ局が測定した複数の航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で計算されたユーザ局の位置と比較し,その違いから,特定の誤差要因がユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法である。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
請求項2に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報としてユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムにおいて,基準局が測定した複数の航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,補正情報を得て,この補正情報を適用したうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で得られる補正情報を適用して計算されたユーザ局の位置と比較し,その違いから,特定の誤差要因がユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法である。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
請求項3に係る発明は,請求項1又は請求項2に記載の発明において,ユーザ局又は基準局と航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えるのであるが,このとき,当該既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定するものである。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
請求項4に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムを想定して,ユーザ局が測定して得るべき複数の航法衛星との間の距離を,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,この計算により求められた距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で計算されたユーザ局の位置と比較し,その違いから,特定の誤差要因がユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法である。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
請求項5に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報としてユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムを想定して,基準局が測定して得るべき複数の航法衛星との間の距離を,受信局のあらかじめ知られた位置と複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,この計算により求められた距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,補正情報を得て,この補正情報を適用したうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で得られる補正情報を適用して計算されたユーザ局の位置と比較し,その違いから,特定の誤差要因がユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法である。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
請求項6に係る発明は,請求項4又は請求項5に記載の発明において,ユーザ局又は基準局と航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えるのであるが,このとき,当該既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定するものである。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
請求項1に係る発明は,上記のように構成したので,ユーザ局が測定した航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,当該誤差要因による影響を直接に評価することができる。
【手続補正15】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
請求項2に係る発明は,上記のように構成したので,基準局が測定した航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,当該誤差要因による影響を直接に評価することができる。
【手続補正16】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
請求項3に係る発明は,上記のように構成したので,請求項1又は請求項2に記載の発明と同様の効果がある。さらに,既知の誤差について電離圏伝搬遅延量を想定するので,電離圏伝搬遅延量による影響を直接に評価することができる。
【手続補正17】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
請求項4に係る発明は,上記のように構成したので,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,当該誤差要因による影響を直接に評価することができる。
【手続補正18】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
請求項5に係る発明は,上記のように構成したので,基準局が測定して得るべき航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,当該誤差要因による影響を直接に評価することができる。
【手続補正19】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
請求項6に係る発明は,上記のように構成したので,請求項4又は請求項5に記載の発明と同様の効果がある。さらに,既知の誤差について電離圏伝搬遅延量を想定するので,電離圏伝搬遅延量による影響を直接に評価することができる。
【手続補正20】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
【
図1】この発明の実施例1を示すもので,この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の
原因の比較試験方法を説明するための模式図である。
【
図2】この発明の実施例1における発明の効果を説明するための図で,実際に受信局が測定した距離に対して,
特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えない場合と加えた場合の測位誤差を表示してある。
【
図3】この発明の実施例2を示すもので,この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の
原因の比較試験方法を説明するための模式図である。
【
図4】この発明の実施例2における発明の効果を説明するための図で,計算により求めた受信局が測定して得るべき距離に対して,
特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えない場合と加えた場合の測位誤差を表示してある。
【手続補正21】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
図1は,この実施例の衛星航法システムにおける測位誤差の
原因の比較試験方法を説明するための模式図である。
【手続補正22】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
これに対して,南の方角に位置するGPS衛星(PRN10衛星)について,既知の誤差として,電離圏伝搬遅延量を想定して,ユーザ局までの距離に-8メートルを加えたうえで(負の誤差であるから距離は減少することになる),同様に位置を計算した結果が同図の記号×である。特に南北方向の測位誤差が小さくなっていることから,測位誤差の主要な原因の一つは電離圏伝搬遅延量であり,その大きさは8メートル程度であることが推定できる。ここで,-8メートルというのは垂直方向の電離圏伝搬遅延量を意味しており,電離圏伝搬遅延量を想定した既知の誤差とするには,衛星の仰角にあわせて[0011]の傾斜係数を乗じる必要があることを注意する。また,南の方角に位置するGPS衛星を選択した理由は,石垣島から見て南の方角にある領域で発生する赤道異常と呼ばれる現象が大きな電離圏伝搬遅延量を発生させることが知られているためである。
【手続補正23】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
図3は,この実施例の衛星航法システムにおける測位誤差の
原因の比較試験方法を説明するための模式図である。
【手続補正24】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
一方,同じGPS衛星(PRN10衛星)について,既知の誤差として,電離圏伝搬遅延量を想定して,ユーザ局までの距離に8メートルを加えたうえで,同様に位置を計算した結果が同図の記号×である(衛星位置には誤差を加えていない)。北の方向に1.8メートル以上の大きな測位誤差を生じていることから,これが当該条件下における電離圏伝搬遅延量の影響ということができる。ここで,8メートルというのは垂直方向の電離圏伝搬遅延量を意味しており,電離圏伝搬遅延量を想定した既知の誤差とするには,衛星の仰角にあわせて[0011]の傾斜係数を乗じる必要があることを注意する。また,南の方角に位置するGPS衛星を選択した理由は,石垣島から見て南の方角にある領域で発生する赤道異常と呼ばれる現象が大きな電離圏伝搬遅延量を発生させることが知られているためである。
【手続補正25】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0058
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0058】
この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法は,測位誤差の原因分析に利用可能である。ユーザ局が測定した航法衛星までの距離には,全ての誤差要因による影響が足し合わされてあらわれるから,特定の誤差要因のみを取り出して評価することは難しいが,本発明の試験方法によれば,特定の誤差要因について影響度を評価することができる点は,測位誤差の原因分析に有用である。さらに,本発明の試験方法によれば,稀にしか発生しない現象について,当該現象が発生しなくても試験することができ,この点は当該現象による測位誤差に対する影響の評価に利用できる。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムを想定して,
前記衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験を行うプログラムにおいて,
前記ユーザ局が測定して得るべき前記複数の航法衛星との間の距離を,前記ユーザ局のあらかじめ知られた位置と前記複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,
この計算により求められた距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で計算された前記ユーザ局の位置と比較し,その違いから,前記特定の誤差要因が前記ユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法。
【請求項2】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,
地上に固定された受信機により前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,前期複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する前記航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報として前記ユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムを想定して,
前記衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験を行うプログラムにおいて,
前記基準局が測定して得るべき前記複数の航法衛星との間の距離を,前記受信局のあらかじめ知られた位置と前記複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,
この計算により求められた距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,前記補正情報を得て,
この補正情報を適用したうえで,前記ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,前記既知の誤差を加えない状態で得られる補正情報を適用して計算された前記ユーザ局の位置と比較し,その違いから,前記特定の誤差要因が前記ユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価すること
を特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法。
【請求項3】
前記既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星により位置を測定する衛星航法システムはGNSS(Global Navigation Satellite System)と総称され,その代表例は米国によるGPS(Global Positioning System)である。GNSSは一般に,航法衛星と呼ばれる人工衛星が送信する測位信号を受信機により受信し,航法衛星と受信機との間の距離を測定することで,受信機の位置を計算により求める。位置を求めるべき受信機を,ユーザ受信機あるいはユーザ局などと呼ぶ。求められた位置の真の位置に対する誤差を,測位誤差という。
【0003】
受信機の位置を計算するためには測位信号を送信している航法衛星の位置を知る必要があるが,このために必要な軌道情報は航法衛星自身が測位信号に重畳することで送信する。軌道情報は予測により作成されていることから,数メートル程度の誤差を含んでおり,これは受信機位置の計算の際に測位誤差の要因になる。
【0004】
測位信号が地上に到達するまでの間に,上空にある電離圏及び対流圏を通過するが,それぞれの領域を無線信号が通過する際に遅延が生じる。これらの遅延は,それぞれ電離圏伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延と呼ばれている。従って,この無線信号を測位信号として用いる場合,これらの電離層伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延が測位誤差の要因になる。距離に換算した電離圏伝搬遅延及び対流圏伝搬遅延の大きさを,それぞれ電離圏伝搬遅延量及び対流圏遅延量という。
【0005】
一方,地上に固定された基準局に受信機を設置して,これにより測定した距離から,電離圏伝搬遅延や対流圏伝搬遅延などにより生じる距離の測定誤差に対する補正情報を作成し,これをユーザに対して提供することで,ユーザ局において測定した距離を補正情報に基づいて補正し,ユーザ局における位置の測定精度(「測位精度」と呼ぶ)を改善することが行われている。この方式はディファレンシャルGPS(Differential GPS。以下,「DGPS」とする)と呼ばれる。
【0006】
DGPSの実用例としては,船舶向け中波ビーコンやFM多重ディジタル放送によるものがあったが,現在ではいずれも廃止された。一方,2018年に運用を開始した日本の準天頂衛星システムはSLAS(Submeter-Level Augmentation Service),CLAS(Centimeter-Level Augmentation Service),及びSBAS(Satellite-Based Augmentation System)としてDGPSの補正情報を人工衛星から送信している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】坂井丈泰,「GPSによる電離層全電子数観測のためのバイアス誤差推定法」,電子情報通信学会論文誌,Vol.J88-B,No.12,p.2382~2389,2005年12月
【非特許文献2】国土地理院「衛星測位シミュレータ(ソフトウェア)の開発」,第7回マルチGNSSによる高精度測位技術の開発に関する委員会資料,2013年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
GNSSでは,軌道情報に含まれる誤差のほかに電離圏伝搬遅延量及び対流圏伝搬遅延量といった誤差要因があり,これらによる影響がユーザ局の位置の計算の際に測位誤差となってあらわれる。
【0009】
ユーザ局における測位誤差については,一般に,電離圏伝搬遅延量がもっとも大きな影響を及ぼす。軌道情報に含まれる誤差は数メートル以内であることが多く,また対流圏伝搬遅延量はモデル計算式を用いた計算により十分な精度で除去できる。
【0010】
電離圏伝搬遅延量は,特に仰角の低い航法衛星では数十メートルに及ぶことがあり,また自然現象であることから予測計算により除去することが難しい。電離圏の活動は11年周期で繰り返される太陽活動の影響を受けるところ,最近の太陽活動極大期になって電離圏伝搬遅延による影響が顕在化してきている。
【0011】
なお,GNSSの測位信号が電離圏を通過する際には,電離圏を通過する位置が同じであっても,航法衛星の仰角により影響の大きさが変化する。すなわち,仰角が高い航法衛星では電離圏を通過する長さが短く,仰角が低い航法衛星ではこれが長い。この効果を位置の計算に取り入れるために,電離圏伝搬遅延量としては垂直方向の遅延量により表現し,仰角による効果を傾斜係数であらわすことが一般的に行われる。垂直方向の電離圏伝搬遅延量に,航法衛星の仰角に対応する傾斜係数を乗じると,実際に観測される電離圏伝搬遅延量になる。傾斜係数の具体的な値は,天頂方向(仰角90度)で1,仰角5度で3程度になる。
【0012】
ところで,ユーザ局が測定した航法衛星までの距離には,全ての誤差要因による影響が足し合わされてあらわれるから,特定の誤差要因の影響や,電離圏伝搬遅延量のみを取り出して評価することは難しい。非特許文献1に示すように,電離圏伝搬遅延量を推定する技術は知られているが,地上に多数の基準局を設置したうえで,それらの測定データを集約して計算処理を行う必要があり,大きなコストを要する。
【0013】
このような条件下で測位誤差に含まれる電離圏伝搬遅延量の影響を推定するには,ユーザ局が測定した航法衛星までの距離に,電離圏伝搬遅延量を想定した既知の誤差を加えて,当該既知の誤差を加えない場合との比較試験を行うことが有効と考えられる。なお,このような比較試験は,電離圏伝搬遅延量に限らず,他の誤差要因について適用することも可能である。
【0014】
上記の比較試験は,現実にユーザ局が測定した距離を用いなくとも,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星との間の距離を,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と航法衛星の軌道情報を用いて計算により求めることとして行ってもよい。このようにすることで,現実にユーザ局を設置しなくても,上記の比較試験を行うことが可能になる。
【0015】
非特許文献2においては,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星との間の距離を,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と航法衛星の軌道情報を用いてこれらの間の距離を計算により求めるソフトウェアが述べられている。しかしながら,当該ソフトウェアは,ユーザ局が測定して得るべき距離の計算を行い,統計的誤差モデルに従った雑音を付加するが,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えて比較試験を行おうとするものではない。
【0016】
GPSが送信する測位信号を模擬した信号を発生させる装置は市販されており,当該装置は,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と航法衛星の軌道情報を用いてこれらの間の距離を計算により求めたうえで,適切な信号を発生させるものである。しかしながら,当該装置は,ユーザ局が測定して得るべき距離の計算を行い,統計的誤差モデルに従った雑音を付加するが,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えて比較試験を行おうとするものではない。
【0017】
衛星航法の分野においては,位置の計算を行うプログラムは各種が知られているが,入力として与えられた距離データに特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加える機能をもつものは存在しない。従って,上記の比較試験については,実際に実施する手段がない状況にある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局を備える衛星航法システムを想定して,衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験を行うプログラムにおいて,ユーザ局が測定して得るべき複数の航法衛星との間の距離を,ユーザ局のあらかじめ知られた位置と複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,この計算により求められた距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で計算されたユーザ局の位置と比較し,その違いから,特定の誤差要因がユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法である。
【0019】
請求項2に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,地上に固定された受信機により複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,これを,複数の航法衛星の各々の軌道情報から計算される本来あるべき距離から,対応する航法衛星別に差し引いた結果を,補正情報としてユーザ局に提供する基準局を備える衛星航法システムを想定して,衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験を行うプログラムにおいて,基準局が測定して得るべき複数の航法衛星との間の距離を,受信局のあらかじめ知られた位置と複数の航法衛星の軌道情報を用いて計算により求め,この計算により求められた距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えたうえで,補正情報を得て,この補正情報を適用したうえで,ユーザ局の位置の計算を行い,この結果を,既知の誤差を加えない状態で得られる補正情報を適用して計算されたユーザ局の位置と比較し,その違いから,特定の誤差要因がユーザ局の位置の計算に及ぼす影響を評価することを特徴とする衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法である。
【0020】
請求項3に係る発明は,請求項1又は請求項2に記載の発明において,ユーザ局又は基準局と航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えるのであるが,このとき,当該既知の誤差について,特に電離圏伝搬遅延量を想定するものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明は,上記のように構成したので,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,当該誤差要因による影響を直接に評価することができる。
【0022】
請求項2に係る発明は,上記のように構成したので,基準局が測定して得るべき航法衛星との間の距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えた場合と加えない場合の比較を行うことになるから,当該誤差要因による影響を直接に評価することができる。
【0023】
請求項3に係る発明は,上記のように構成したので,請求項1又は請求項2に記載の発明と同様の効果がある。さらに,特定の誤差要因を想定した既知の誤差について電離圏伝搬遅延量を想定するので,電離圏伝搬遅延量による影響を直接に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】この発明の
実施例を示すもので,この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法を説明するための模式図である。
【
図2】この発明の
実施例における発明の効果を説明するための図で,計算により求めた受信局が測定して得るべき距離に対して,特定の誤差要因を想定した既知の誤差を加えない場合と加えた場合の測位誤差を表示してある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下,本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例0026】
この発明の
実施例を,
図1に基づいて詳細に説明する。
【0027】
図1は,この実施例の衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法を説明するための模式図である。
【0028】
図1において,
航法衛星1(1a,1b・・・)は,それぞれ測位信号を送信するものと想定する。
【0029】
図1において,
ユーザ局2は,
航法衛星1(1a,1b・・・)が送信した測位信号を受信して航法衛星から各々の基準局までの距離を測定するものと想定する。
【0030】
図1において,
3は電離圏伝搬遅延量の分布を模式的にあらわしている。
図1においては,左側では電離圏伝搬遅延量が小さく,右側では電離圏伝搬遅延量が大きいことをあらわしているが,これは例示であり,電離圏伝搬遅延量が必ずこのような分布を示すことをあらわしているわけではない。
【0031】
図1の
4は,
ユーザ局2が測定して得るべき航法衛星までの距離を矢印の長さであらわしている。
4は電離圏伝搬遅延量がない場合であり,測位誤差の原因は軌道情報の誤差だけであるから,測位誤差は小さい。すなわち,ユーザ局が測定して得るべき航法衛星までの距離は,あらかじめ知られたユーザ局と航法衛星の軌道情報から計算できるから,電離圏伝搬遅延量のない状態において測定されるべき距離とすることができる。
【0032】
一方,5は電離圏伝搬遅延量を想定した既知の誤差を加えた例であり,大きな測位誤差を生じる。ユーザ局2が測定して得るべき航法衛星までの距離に対して,電離圏伝搬遅延量を想定した既知の(正の)誤差として6で示される長さを加えたことにより,電離圏伝搬遅延量が存在することになる。これを実際に試みることで,電離圏伝搬遅延量に起因する測位誤差の成分についてその性質を知ることができる。
【0033】
次に,作用動作について
図1及び図2に基づいて説明する。
【0034】
ユーザ局2は,航法衛星が送信した測位信号を受信し,航法衛星1(1a,1b・・・)からユーザ局までの距離を測定するものと想定する。測定されるべき距離には,軌道情報に含まれる誤差,対流圏伝搬遅延量及び電離圏伝搬遅延量の全てについて含めないようにすることができるから,測定されるべき距離を用いてユーザ局の位置を計算すると,測位誤差はないことになる。
【0035】
図2の記号■は,国土地理院の電子基準点「石垣2」局の位置を想定して,当該局が測定して得るべき距離を計算したうえで,当該局を
ユーザ局2に見立ててその位置を計算した結果である。測位誤差は生じていないことを確認できる。なお,距離の計算の対象とした日時は2021年1月17日13:30~14:30(日本時間)であり,一般に電離圏伝搬遅延量が大きくなる昼間の時間帯を選択している。
【0036】
これに対して,南の方角に位置するGPS衛星(PRN10衛星)について,既知の誤差として,軌道情報から計算される衛星位置のZ軸(地球自転軸に平行な北向きの方向である)成分に10メートルを加えたうえで,同様に位置を計算した結果が同図の記号+である。北の方向に0.7~1.8メートル程度の測位誤差を生じており,他に何らの誤差要因も加えていないことから,これは間違いなく航法衛星の軌道情報に含まれる誤差による影響であることを確認できる。
【0037】
一方,同じGPS衛星(PRN10衛星)について,既知の誤差として,電離圏伝搬遅延量を想定して,ユーザ局までの距離に8メートルを加えたうえで,同様に位置を計算した結果が同図の記号×である(衛星位置には誤差を加えていない)。北の方向に1.8メートル以上の大きな測位誤差を生じていることから,これが当該条件下における電離圏伝搬遅延量の影響ということができる。ここで,8メートルというのは垂直方向の電離圏伝搬遅延量を意味しており,電離圏伝搬遅延量を想定した既知の誤差とするには,衛星の仰角にあわせて[0011]の傾斜係数を乗じる必要があることを注意する。また,南の方角に位置するGPS衛星を選択した理由は,石垣島から見て南の方角にある領域で発生する赤道異常と呼ばれる現象が大きな電離圏伝搬遅延量を発生させることが知られているためである。
この発明の衛星航法システムにおける測位誤差の原因の比較試験方法は,測位誤差の原因分析に利用可能である。ユーザ局が測定した航法衛星までの距離には,全ての誤差要因による影響が足し合わされてあらわれるから,特定の誤差要因のみを取り出して評価することは難しいが,本発明の試験方法によれば,特定の誤差要因について影響度を評価することができる点は,測位誤差の原因分析に有用である。さらに,本発明の試験方法によれば,稀にしか発生しない現象について,当該現象が発生しなくても試験することができ,この点は当該現象による測位誤差に対する影響の評価に利用できる。