(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019359
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】音点検システムおよび音点検方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20250131BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122926
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小埜 和夫
(72)【発明者】
【氏名】陣内 浩司
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD33
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064AB22
2G064BA02
2G064CC13
2G064CC29
2G064CC42
2G064CC46
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】複数のセンサ装置の異常度出力を同じ基準で比較可能とすること。
【解決手段】点検対象物の音に基づいて前記点検対象物の状態を判定する音点検システムであって、前記点検対象物の正常な稼働音から正常音モデルを生成するモデル生成部と、前記正常音モデルから特徴量を複数サンプリングするサンプリング部と、前記サンプリングした複数の特徴量の異常度をそれぞれ前記正常音モデルに基づいて計算する異常度算出部と、前記異常度の度数分布をガンマ分布でフィッティングして異常度補正モデルを生成するガンマ分布生成部と、を備え、前記異常度補正モデルを用いて異常度と発生確率とを紐づける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点検対象物の音に基づいて前記点検対象物の状態を判定する音点検システムであって、
前記点検対象物の正常な稼働音から正常音モデルを生成するモデル生成部と、
前記正常音モデルから特徴量を複数サンプリングするサンプリング部と、
前記サンプリングした複数の特徴量の異常度をそれぞれ前記正常音モデルに基づいて計算する異常度算出部と、
前記異常度の度数分布をガンマ分布でフィッティングして異常度補正モデルを生成するガンマ分布生成部と、
を備え、
前記異常度補正モデルを用いて異常度と発生確率とを紐づけることを特徴とする音点検システム。
【請求項2】
請求項1に記載の音点検システムであって、
前記モデル生成部、前記サンプリング部、前記異常度算出部及び前記ガンマ分布生成部を有する学習装置と、
前記点検対象物の音を収集するセンサ装置と、
データ管理装置とを備え、
前記モデル生成部は、前記センサ装置が収集した稼働音から正常音モデルを生成し、
前記データ管理装置は、前記学習装置が生成した前記異常度補正モデルを用いて異常度と発生確率とを紐づけることを特徴とする音点検システム。
【請求項3】
請求項2に記載の音点検システムであって、
前記データ管理装置は、前記異常度と前記発生確率を紐づけるために前記異常度補正モデルを用いてガンマ分布の右側累積分布を計算することを特徴とする音点検システム。
【請求項4】
請求項2に記載の音点検システムであって、
前記点検対象物の状態の判定に際し、前記センサ装置は、前記点検対象物の音を収集し、前記収集した音の異常度を前記正常音モデルに基づいて算出し、算出した異常度を送信し、
前記データ管理装置は、前記センサ装置が送信した異常度に基づいて前記点検対象物の状態を示すデータを出力することを特徴とする音点検システム。
【請求項5】
請求項2に記載の音点検システムであって、
前記点検対象物の状態の判定に際し、前記センサ装置は、
前記点検対象物の音を収集し、
前記収集した音の異常度を前記正常音モデルに基づいて算出し、
前記異常度を前記異常度補正モデルに基づいて発生確率に変換する
ことを特徴とする音点検システム。
【請求項6】
請求項2に記載の音点検システムであって、
前記点検対象物の状態の判定に際し、前記センサ装置は、前記点検対象物の音を収集し、前記収集した音の異常度を前記正常音モデルに基づいて算出し、算出した異常度を送信し、
前記データ管理装置は、前記異常度を前記異常度補正モデルに基づいて発生確率に変換することを特徴とする音点検システム。
【請求項7】
請求項2に記載の音点検システムであって、
前記学習装置は、複数の前記センサ装置に対応して複数の異常度補正モデルを生成することを特徴とする音点検システム。
【請求項8】
請求項7に記載の音点検システムであって、
前記データ管理装置は、複数の前記センサ装置についての複数の発生確率を比較可能に表示出力することを特徴とする音点検システム。
【請求項9】
点検対象物の音に基づいて前記点検対象物の状態を判定する音点検方法であって、
学習装置が、
前記点検対象物の正常な稼働音から正常音モデルを生成し、
前記正常音モデルから特徴量を複数サンプリングし、
前記サンプリングした複数の特徴量の異常度をそれぞれ前記正常音モデルに基づいて計算し、
前記異常度の度数分布をガンマ分布でフィッティングして異常度補正モデルを生成し、
データ管理装置が、前記点検対象物の状態の判定に際し、
前記点検対象物の音と前記正常音モデルに基づいて求められた異常度を、前記異常度補正モデルを用いて発生確率に紐づけることを特徴とする音点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音点検システムおよび音点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント、化学プラント、鉄鋼プラントなどの現場では、作業員が設備の稼動音を聞いて正常かどうかを判断することがある。しかし、異音を聞き分けることができるためには、経験が必要である。さらに、広い現場をあちこち歩き回って耳で点検するため、作業員の負荷も大きい。しかも近年では、熟練作業員の高齢化が進み、新たな作業員の確保も難しい。そこで、特許文献1に記載のように、監視対象物の音響データをマイクロフォンで検出し、監視対象物から離れた場所の監視処理装置へ無線伝送するシステムが提案されている。具体的には、特許文献1には、「耐圧防爆構造を有する耐圧防爆筐体18と、耐圧防爆筐体18内に内蔵され、監視対象設備における音響を検出するためのマイクロフォン20と、耐圧防爆筐体18内に内蔵され、監視対象設備における画像を撮像するためのカメラ22と、耐圧防爆筐体18内に内蔵され、マイクロフォン20からの音響データ及びカメラ22からの画像データを処理し、マイクロフォン20及びカメラ22を制御するための情報処理機24と、情報処理機24により処理された音響データ及び前画像データを送信し、マイクロフォン20及びカメラ22の制御信号を受信するための無線機26と、耐圧防爆筐体18内に内蔵され、無線機26に接続されたアンテナ28とを有している。」という記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の従来技術では、監視処理装置は、現場の監視装置から受信した音響データから周波数スペクトルを算出し、ニューラルネットワークモデルにより監視対象物の異常発生を検知する。しかし、音データはそのままではデータサイズが大きいため、その測定および解析の処理が重く、消費電源力が増大する。
【0005】
プラントの現場設備にいわゆる後付けでセンサ装置を設置する場合、有線の電源を得ることが難しい。したがって、センサ装置は内蔵電池を動力源として作動するため、消費電力の大きい処理を実行すると、すぐに電池が切れてしまい、電池交換の頻度が高くなり、使い勝手が低い。そこで、録音した音から特徴量を抽出し、これをセンサ装置を設置する際に生成してセンサ端末内に保存されている正常音モデルと比較し、正常音モデルからの乖離度を異常度として計算したのち、異常度だけを収集するセンサ装置が提案されている。これによりデータ通信量を削減し、内蔵電池で長期間のセンサの駆動が可能となる。
【0006】
上記のようなセンサ装置においては、センサ装置毎に異なる正常音モデルを生成し、これを基に異常度を算出する。これはセンサ装置の設置状況やセンサ装置の微細な個体差に応じて、例え同じ型番の設備の稼働音をモニタリングする場合でも、生成される正常音モデルが微妙に異なるためである。このような場合、基準となる正常音モデルがセンサ装置毎に異なることは、センサ装置毎に算出される異常度の意味が異なることに繋がり、複数のセンサ装置が稼働するシステムにおいて、異なるセンサ装置間で異常度の値を比較する基準を設けることは困難となる。このために複数のセンサに共通の閾値を設けて複数の装置を監視するといった使い方ができず、設備のモニタリングに適用するには使い勝手が低いものとなっていた。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、複数のセンサ装置の異常度出力を同じ基準で比較することが可能な音点検システムおよび音点検方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、代表的な本発明の音点検システムの一つは、点検対象物の音に基づいて前記点検対象物の状態を判定する音点検システムであって、前記点検対象物の正常な稼働音から正常音モデルを生成するモデル生成部と、前記正常音モデルから特徴量を複数サンプリングするサンプリング部と、前記サンプリングした複数の特徴量の異常度をそれぞれ前記正常音モデルに基づいて計算する異常度算出部と、前記異常度の度数分布をガンマ分布でフィッティングして異常度補正モデルを生成するガンマ分布生成部と、を備え、前記異常度補正モデルを用いて異常度と発生確率とを紐づけることを特徴とする。
また、代表的な本発明の音点検方法の一つは、点検対象物の音に基づいて前記点検対象物の状態を判定する音点検方法であって、学習装置が、前記点検対象物の正常な稼働音から正常音モデルを生成し、前記正常音モデルから特徴量を複数サンプリングし、前記サンプリングした複数の特徴量の異常度をそれぞれ前記正常音モデルに基づいて計算し、前記異常度の度数分布をガンマ分布でフィッティングして異常度補正モデルを生成し、データ管理装置が、前記点検対象物の状態の判定に際し、前記点検対象物の音と前記正常音モデルに基づいて求められた異常度を、前記異常度補正モデルを用いて発生確率に紐づけることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数のセンサ装置の異常度出力を同じ基準で比較することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】サンプリングした異常度分布をガンマ分布でフィッティングした一例。
【
図5】サイトごとに異なる異常度の時系列に対する閾値設定の例。
【
図6】音点検システムの稼働時の全体説明図(その1)。
【
図7】音点検システムの稼働時の全体説明図(その2)。
【
図8】音点検システムの稼働時の全体説明図(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、以下に詳述するように、プラントなどの現場設備で発生する稼働音をセンサ装置で収集し、設備が正常な状態の稼働音を正常音として学習端末で学習する。
【0012】
学習の結果として学習端末内に生成された正常音モデルから複数の特徴量をランダムサンプリングし、得られた特徴量それぞれに対して正常音モデルを用いて異常度を計算する。更に、得られた異常度の分布をガンマ分布によりフィッティングし、異常度分布を良く説明するガンマ分布の表式を得る。最後にガンマ分布の右側累積分布により、任意の異常度とその発生確率を紐づける異常度補正モデルを生成することで、センサ装置毎に異なる正常音モデルを用いて算出される異常度を、該当異常度が発生する発生確率という共通の指標で解釈できるようにする。
【実施例0013】
図1~
図9を用いて実施例を説明する。
図1は、音点検システム1の全体構成図を示す。本実施例の音点検システム1は、例えば、発電プラント、化学プラント、鉄鋼プラント等のプラントに適用される。
【0014】
プラントには、例えば、モータ、ポンプ、コンプレッサ、タービン、ボイラ等の音を発生させる設備(点検対象物2)が設けられている。ここで発生する音は、回転機が発生させる定常的な回転音であり、軸受けとして設置されているベアリングが劣化すると稼働音の変化として観測されることが知られている。この稼働音の変化を検知することが音点検システムの役割である。
【0015】
点検対象物2の近傍には、センサ装置10が設けられている。センサ装置10は、点検対象物2に接触して設けられてもよいし、点検対象物2から離れて設けられてもよい。センサ装置10は、一つの点検対象物2に複数設けられてもよい。
【0016】
センサ装置10は、例えば、マイク11、解析部12、通信部13、電源部14を備える。ここでは、センサ機能と通信機能とを一体化した装置を示すが、それぞれ別々に構成されたセンサ機能と無線通信機能とを接続してもよい。
【0017】
マイク11は、点検対象物2の発する音を収集し、電気信号として出力する。マイク11の出力する電気信号は、解析部12へ入力される。解析部12は、正常音モデル15と、AD変換部16とを少なくとも備え、マイク11の収集した音をデジタルデータ化し、データ列として通信部13へ送る。通信部13は学習装置20に収集した音のデータ列を送信する。通信手段L1は有線でも無線でも良いものとするが、音データはデータ量が大きいため高速な通信プロトコルが望ましい。
【0018】
電源部14は、センサ装置10のマイク11、解析部12、通信部13へ内蔵電池の電力を供給する。内蔵電池の種類は問わない。
【0019】
学習装置20は、例えば通信部21、学習部22、モデル保管部23、ネットワーク通信部24を備える。例えば学習装置20は一般的なコンピュータで構成されても良い。
【0020】
通信部21はセンサ装置10から音データのデータ列を受信し、学習部22に入力する機能を有する。例えばシリアル通信手段としてUSB、Bluetooth(登録商標)などが使われる。
【0021】
学習部22は特徴量抽出部25、モデル生成部26、ベースライン補正部27、ランダムサンプリング部29、異常度算出部30、度数分布生成部31、ガンマ分布生成部32を備える。学習部22はセンサ装置10で取得した正常音データを処理して正常モデルを生成する機能と、正常音モデルを用いて異常度補正モデルを生成する機能を有する。
【0022】
特徴量抽出部25はセンサ装置10から受信した音データからその特徴を示すベクトルを特徴量として算出する。例えば、この特徴量は音データの周波数成分および周波数成分の時間変化の特徴を表現する100次元程度のベクトルである。特徴量抽出部25は長時間の音源を短時間の複数音源に分割し、それぞれの短時間の音源に対して特徴量を抽出するといった反復計算を含んでも良い。この場合、抽出される特徴量は音源の長さに応じて複数となる。
【0023】
モデル生成部26は特徴量抽出部25が出力する特徴量を用いて正常音モデルのベースライン補正を除く部分を生成する。例えば正常音モデルとしてGMM(混合ガウス分布)などが用いられ、これに限らず、様々な分布を採用した場合でも本特許の範囲に含まれるものとする。
【0024】
以下、GMMを用いて正常音モデルを構築する場合に関して記述する。式1に示す通り複数のガウス分布の線形結合で正常音モデルは構成される。ここでKはガウス分布の数を示し、k番目のガウス分布において、πkはガウス分布の重み係数、μkはガウス分布の平均ベクトル、Σkは分散共分散行列である。式1をあらかじめ決定してからモデリングしても、特徴量に応じて適応的にガウス分布の数を変更しても良い。また複数の特徴量を順次学習するインクリメンタル学習によりモデルを生成しても良いし、一度に複数の特徴量を学習するバッチ学習によりモデルを生成しても良い。
【数1】
【0025】
ベースライン補正部27は、式1で得られるGMMに対してM個の特徴量に対する対数尤度の平均値にマイナス1を乗じたベースラインを用いて、異常度の補正を行う機能ブロックである。ベースライン補正はGMMに特徴量をあてはめて異常度を計算した際に、正常な場合の期待値をゼロに補正する目的で導入されるものである。
【0026】
ベースライン補正部27で計算されたベースラインb、モデル生成部26で計算されたπk、μk、Σkを合わせた(b、πk、μk、Σk)が正常音モデル28としてモデル保管部23に格納される。ここでkはK個のガウス分布からなるGMMにおけるk番目のガウス分布であることを示している。
【0027】
ランダムサンプリング部29では、式1に示すGMMに従う特徴量ベクトルを複数個抽出する。ランダムサンプリングの方法に関しては直接法や、ギブスサンプリングといった複数の方法が知られており、どのような方法を用いても良い。ただし、ギブスサンプリングの場合、サンプリング開始から一定数のサンプリング結果はバーンイン期間として破棄する必要があり、ランダムサンプリング部29の出力はこのバーンイン期間のサンプリング結果を破棄したものとなる。
【0028】
異常度算出部30はランダムサンプリング部29で得られたサンプリング結果を入力yとして異常度を算出する。複数のサンプリング結果に対しては、それぞれ一つの異常度を算出するという動作を、サンプリング数だけ反復して繰り返す。
【0029】
度数分布生成部31では異常度算出部30で生成された複数の異常度の度数分布を生成する。度数分布を生成するデータ区間はランダムサンプリング部29におけるサンプル数に依存してある程度自由に調整されるものとする。例えば10万点のサンプリングを行った場合には異常度のデータ区間を0.5~1程度にするのが好ましい。
【0030】
ガンマ分布生成部32は度数分布生成部31で得られた度数分布に対して式2に示すガンマ分布関数を用いてフィッティングをかけるものである。ここで、フィッティングパラメータはα、β、Aである。式2におけるbは正常音モデル28に含まれるベースライン補正値である。フィッティング結果である(α、β、A)は異常度補正モデル33としてモデル保管部23に保管される。
【数2】
【0031】
モデル保管部23は学習部22で生成された正常音モデル28と異常度補正モデル33を格納する機能を有する。モデル保管部23は正常音モデル28および異常度補正モデル33に対して、どのセンサ装置に対応するモデルであるかを識別する情報を含む。一例としてセンサ装置の固有ID情報等が使われる。また、通信部を介してセンサ装置に正常音モデルを転送する。またデータ管理装置40に対してはネットワーク通信部24を介して異常度補正モデル33を転送する。
【0032】
ネットワーク通信部24は学習装置20とデータ管理装置40を通信手段L2で接続する。学習装置20が例えば一般的なコンピュータで構成される場合には、ネットワーク通信部は、例えば有線および無線LANである。
【0033】
データ管理装置40はネットワーク通信部41、異常度補正モデル42、異常度データ43、異常度閾値設定部44、時系列データ生成部45から構成され、異常度の時系列データを生成、保管、見える化させる機能を有する。
【0034】
ネットワーク通信部41は通信手段L2により学習装置20からデータ管理装置40が異常度補正モデル42および異常度データ43を受信するために用いられる。異常度データ43はセンサ装置10を同定するための固有IDや異常度が取得された時点でのタイムスタンプなどの付加情報も含んでいるものとする。
【0035】
異常度補正モデル42は学習装置20で生成され、データ管理装置40に保管される。異常度閾値設定部44は異常度補正モデル42により、ある一定の出現確率となる異常度として閾値を設定する。
【0036】
時系列データ生成部45は異常度閾値設定部44と異常度データ43の情報を用いて閾値を含む時系列データを生成、表示、保存する機能を有する。
【0037】
図2に示すフローを用いて異常度補正モデルを生成する手順を説明する。
【0038】
S100で音データを取得し、S101として次に特徴量を抽出する。次に特徴量を複数学習することで正常音モデルを取得する(S102)。以降、
図2の説明における正常音モデルとしてGMMを想定する。ただし、ここで正常音モデルとしてはGMMに限らず他の確率分布を用いても良い。
【0039】
生成されたGMMは正常音モデルとして保存される(S103)。次に、得られたGMMを用いて、これに従う特徴量をランダムに複数サンプリングする(S104)。目安としては1000~10000点程度が速度および精度の観点で好ましい。
【0040】
ランダムサンプリングした特徴量の異常度をS103で得られたGMMにあてはめて対数尤度を算出し、複数の対数尤度の平均値をベースラインbとして正常音モデルに保存する(S105)。
【0041】
次に、異常度補正モデルを生成するための特徴量のランダムサンプリングを正常音モデルから行う(S106)。この時のサンプリング数は10000~100000程度が好ましい。サンプリング点数があまりに少ないと度数分布の形状が荒くなり異常度補正モデルの精度が下がり、多すぎるとサンプリングに時間を要して処理時間が長期化してしまう。
【0042】
次にサンプリングした特徴量の異常度を正常音モデルを用いて算出する。異常度はGMMの対数尤度として算出される(S107)。
【0043】
得られた異常度を度数解析し度数分布を得る(S108)。
【0044】
式2を用いて異常度x>0における度数分布をガンマ分布でフィッティングしてフィッティングパラメータA、α、βを得る(S109)。これらのフィッティングパラメータが異常度補正モデルである。
【0045】
最後に得られた異常度補正モデルを用いて異常度xとその出現確率P(x)を紐づける計算を行う(S110)。ここでP(x)はガンマ分布の右側累積分布で与えるものとする。
【0046】
図3を用いて
図2のS109に示すフィッティングについて説明する。
図3は度数分布310に対してガンマ分布によるフィッティングを行った結果311の一例を示している。
図3に示す通り、異常度の度数分布は適切なパラメータセットA、α、βとベースラインbを用いて良くフィッティングできる。
【0047】
図4を用いて異常度と出現確率の関係を示す。412は異常度補正モデルを用いて計算したガンマ分布の右側累積分布を異常度に対してプロットしたものである。この関係は複数のセンサ装置が存在する場合、個別に生成されるものである。すなわち、異常度とその出現確率の関係はセンサ装置毎に固有である。そのため、
図4に示す関係(異常度補正モデル42)はセンサ装置毎に計算し保管することになる。
【0048】
図5を用いて本実施例が提供する音点検システムが異なるセンサ装置A~Cにおける様々な異常度の時系列をどのように統一的に解釈できるようにするかを説明する。
【0049】
センサ装置AからCは、それぞれ異なる装置に設置された異なるセンサ装置であって、得られる異常度の値はそれぞれの正常音モデルに対して計算される。そのため、それぞれのセンサ装置から得られる異常度の値は他のセンサ装置のものと比較することができない。しかし、それぞれのセンサ装置において異常度補正モデルを用いて異常度と出現確率の関係を計算できるため、例えば出現確率1E-10となる異常度をそれぞれのセンサ装置に設定可能となる。これを例としてスレッショルドに設定すれば、すべてのセンサ装置において、出現確率1E-10を超えるような異常度が観測されたらアラートを上げる、といった運用が可能となる。
【0050】
図6を用いて実施例1の音点検システムが設備監視を行う際の第一の例を示す。なお、
図1に示したのは正常音モデルおよび異常度補正モデルを生成する場合のシステムを示しており、設備監視を行う場合に新たに使用する機能ブロックが存在することに注意されたい。
【0051】
センサ装置10は例えば、マイク11、解析部12、通信部13、電源部14を備える。ここでは、センサ機能と無線通信機能とを一体化した装置を示すが、それぞれ別々に構成されたセンサ機能と無線通信機能とを接続してもよい。
【0052】
マイク11は、点検対象物2の発する音を収集し、電気信号として出力する。マイク11の出力する電気信号は、解析部12へ入力される。解析部12は、正常音モデル15と、AD変換部16、特徴量抽出部17、異常度算出部18を備え、マイク11の収集した音を解析し、その解析結果を通信部13へ送る。
【0053】
AD変換部16はアナログ信号の振幅に対し標本化と量子化を行い、デジタル値に変換して特徴量抽出部17に送信する。特徴量抽出部17は
図1の特徴量抽出部25と同じ機能を有する。ただし、
図1とは異なりセンサ装置10で動作する。異常度算出部18は
図1の異常度算出部30と同じように正常音モデル15を用いて異常度を算出する機能ブロックである。ただし、
図1とは異なりセンサ装置10で動作する。正常音モデル15は
図1の学習装置20により生成され、センサ装置10に転送、保管されているものである。
【0054】
通信部13は、無線親局60の通信部21と通信することにより、解析部12で生成された解析結果のパケットをデータ管理装置40へ送信する。解析結果のパケットは、無線通信経路である通信手段L1に示すように無線親局60に送信され、さらに無線通信経路である通信手段L2に示すように無線親局60からデータ管理装置40へ送信される。
【0055】
電源部14は、無線子局であるセンサ装置10のマイク11、解析部12、通信部13へ内蔵電池の電力を供給する。内蔵電池の種類は問わない。
【0056】
無線親局60は、プラントに張り巡らされたセンサネットワークの一部を構成する中継装置である。センサネットワークの一部に音センサネットワークが含まれてもよい。この場合は、センサネットワークは、異音を検出して診断する音センサネットワークのほかに、温度、湿度、圧力、電圧値、電流値、周波数、抵抗値、流量、流速、色、画像等を検出するセンサネットワークが含まれてもよい。あるいは、プラント内のセンサネットワークの全てが音センサネットワークであってもよい。
【0057】
無線親局60は、複数のセンサ装置10と無線通信し、各センサ装置10からのパケット(解析結果データ)をデータ管理装置40へ送信することができる。近接する各センサ装置10間では、いわゆるバケツリレー方式でパケットを転送することもできる。
【0058】
なお、無線親局60の機能をデータ管理装置40が備えてもよい。この場合、センサ装置10はデータ管理装置40と直接無線通信することもできる。
【0059】
データ管理装置40は、センサ装置10から受信した解析結果を保持する。データ管理装置40は、例えば、マイクロプロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置、入出力回路、通信回路、ユーザインターフェース装置(いずれも不図示)等を備えるコンピュータとして構成されてもよい。
【0060】
データ管理装置40は、例えば、ネットワーク通信部41と、異常度補正モデル42と、異常度データ43と、異常度閾値設定部44と時系列データ生成部45を備える。
【0061】
ネットワーク通信部41は、無線親局60と通信する機能である。異常度データ43は、無線子局であるセンサ装置10から受信した解析結果のパケットからデータを取り出し収集した時刻と対応付けて格納されたものである。異常度補正モデル42、異常度閾値設定部44の機能は
図1と同じである。
【0062】
時系列データ生成部45は、異常度閾値設定部44と異常度データ43から時系列データや閾値の情報を、監視端末50からの要求に応じて提供する機能である。監視端末50は、例えば、ディスプレイ、プリンタ等へ時系列データをグラフ表示等により出力させる。時系列データ生成部45が保持する時系列データに対し、データ管理装置にクラスタリング処理などのデータ分析処理を設けることで異常度の変動パターンを分析することも可能である。
【0063】
図7を用いて実施例1の音点検システムが設備監視を行う場合の第二の例を示す。センサ装置10が有する解析部の構成が
図6に示した第一の例と異なる。
【0064】
センサ装置10が有する解析部12が異常度変換部19と異常度補正モデル42を有する点が
図6と異なる。異常度補正モデル42は学習時に
図1の異常度補正モデル42と同じものであり、これをセンサ装置10に学習装置20から転送、格納したものである。
【0065】
異常度変換部19は異常度補正モデル42を用いて異常度を出現確率に変換する機能を有する。この変換には例えば
図4に示す関係が用いられる。
【0066】
図8を用いて実施例1の音点検システムが設備監視を行う場合の第三の例を示す。データ管理装置の構成が
図6に示した第一の例と異なる。
【0067】
データ管理装置40は
図6と比較して新たに異常度変換部19を設けている点が異なる。この異常度変換部19は異常度補正モデル42と異常度データ46を用いて異常度をその異常度の出現確率に変換する機能を有する。この変換には例えば
図4に示す関係が用いられる。
【0068】
図9は例えば修理の優先順位を決定するために、複数の機器のデータを比較した表である。本発明に係る方法を適用することで、異常確率が異なる機器に対して同じ基準で計算され、これを用いて機器の状態を正確に比較できるようになる。これにより、異常確率の大きい機器から優先的にメンテナンスを行うといったコンディションベースメンテナンスが可能となる。
【0069】
上述してきたように、開示のシステムは、点検対象物の音に基づいて前記点検対象物の状態を判定する音点検システム1であって、前記点検対象物の正常な稼働音から正常音モデルを生成するモデル生成部26と、前記正常音モデルから特徴量を複数サンプリングするサンプリング部(ランダムサンプリング部29)と、前記サンプリングした複数の特徴量の異常度をそれぞれ前記正常音モデルに基づいて計算する異常度算出部30と、前記異常度の度数分布をガンマ分布でフィッティングして異常度補正モデルを生成するガンマ分布生成部32と、を備え、前記異常度補正モデルを用いて異常度と発生確率とを紐づけることを特徴とする。
このシステムによれば、点検対象の状態の異常の度合いを、その発生確率で示すことができるので、設置状況や個体差の影響を排除し、複数のセンサ装置の異常度出力を同じ基準で比較可能となる。
【0070】
また、開示のシステムは、前記モデル生成部26、前記サンプリング部、前記異常度算出部30及び前記ガンマ分布生成部32を有する学習装置20と、前記点検対象物の音を収集するセンサ装置10と、データ管理装置40とを備え、前記モデル生成部26は、前記センサ装置10が収集した稼働音から正常音モデルを生成し、前記データ管理装置40は、前記学習装置20が生成した前記異常度補正モデルを用いて異常度と発生確率とを紐づけることを特徴とする。
このシステムでは、正常音モデル及び異常度補正モデルを生成する学習装置は、点検時に構成から除外することができる。
【0071】
また、前記データ管理装置40は、前記異常度と前記発生確率を紐づけるために前記異常度補正モデルを用いてガンマ分布の右側累積分布を計算する。
このため、ガンマ分布から発生確率を容易に求めることができる。
【0072】
一例として、前記点検対象物の状態の判定に際し、前記センサ装置10は、前記点検対象物の音を収集し、前記収集した音の異常度を前記正常音モデルに基づいて算出し、算出した異常度を送信し、前記データ管理装置40は、前記センサ装置が送信した異常度に基づいて前記点検対象物の状態を示すデータを出力する。
この構成では、センサ装置10の処理負荷を軽くし、データ管理装置40がセンサ装置10の異常度を統一された基準で出力できる。
【0073】
一例として、前記点検対象物の状態の判定に際し、前記センサ装置10は、前記点検対象物の音を収集し、前記収集した音の異常度を前記正常音モデルに基づいて算出し、前記異常度を前記異常度補正モデルに基づいて発生確率に変換する。
この構成では、センサ装置10が異常度を発生確率に変換するので、センサ装置10の出力を直接比較できる。
【0074】
一例として、前記点検対象物の状態の判定に際し、前記センサ装置は、前記点検対象物の音を収集し、前記収集した音の異常度を前記正常音モデルに基づいて算出し、算出した異常度を送信し、前記データ管理装置は、前記異常度を前記異常度補正モデルに基づいて発生確率に変換する。
この構成では、センサ装置10の処理負荷を軽くし、データ管理装置40がセンサ装置10の状態の発生確率を出力できる。
【0075】
また、開示のシステムでは、前記学習装置20は、複数の前記センサ装置10に対応して複数の異常度補正モデルを生成する。
また、前記データ管理装置40は、複数の前記センサ装置10についての複数の発生確率を比較可能に表示出力する。
このため、センサ装置毎に異なる正常音モデルに基づいて算出される異常度に対して、異常度とその異常度の発生する確率との関係を算出することで、異常度と発生確率を紐づけ、これにより発生確率の値でスレッショルドを設けて監視ができる。
【0076】
なお、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、かかる構成の削除に限らず、構成の置き換えや追加も可能である。
例えば、点検の対象は、継続して一定の音が発生する装置であれば、回転機に限定されない。検出する異常は、継続して発生する音の変化としてあらわれるものとなる。
また、出力しきいは複数でもよい。
1:音点検システム、2:点検対象物、10:センサ装置、11:マイク、12:解析部、13:通信部、14:電源部、15:正常音モデル、16:AD変換部、17:特徴量抽出部、18:異常度算出部、19:異常度変換部、20:学習装置、21:通信部、22:学習部、23:モデル保管部、24:ネットワーク通信部、25:特徴量抽出部、26:モデル生成部、27:ベースライン補正部、28:正常音モデル、29:ランダムサンプリング部、30:異常度算出部、31:度数分布生成部、32:ガンマ分布生成部、33:異常度補正モデル、40:データ管理装置、41:ネットワーク通信部、42:異常度補正モデル、43:異常度データ、44:異常度閾値設定部、45:時系列データ生成部、46:異常度データ、50:監視端末、60:無線親局