(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019468
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】エマルションおよび物品
(51)【国際特許分類】
C08F 20/28 20060101AFI20250131BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20250131BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
C08F20/28
C09J7/38
C09J133/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123093
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】七島 祐
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004EA06
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4J040DF061
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4J100AJ02Q
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4J100JA01
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4J100JA05
4J100JA07
4J100JA11
4J100JA13
4J100JA58
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を製造原料とする新規なエマルションおよびエマルション組成物から形成される樹脂膜を備える物品を提供する。
【解決手段】重合体を構成するモノマー単位として、下記式(1)
【化1】
に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含有するエマルション。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体を構成するモノマー単位として、下記式(1)
【化1】
に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含有することを特徴とするエマルション。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、前記エチレンカーボネート含有モノマーを1質量%以上、99.9質量%以下で含むことを特徴とする請求項1に記載のエマルション。
【請求項3】
前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーは、下記式(2)から下記式(4)のいずれかで示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のエマルション。
【化2】
(式中、nは0以上の整数を表す。)
【化3】
(式中、nは0以上の整数を表す。)
【化4】
(式中、nおよびmは0以上の整数を表す。Xは水素、又はメチル基を表す。)
【請求項4】
前記分散質の粒径(D50)は、10nm以上、1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のエマルション。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アクリル酸を含むことを特徴とする請求項1に記載のエマルション。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含むモノマー単位を乳化重合することで得られるものであることを特徴とする請求項1に記載のエマルション。
【請求項7】
分散媒として水を含有することを特徴とする請求項1に記載のエマルション。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のエマルションを含有する樹脂組成物から形成される樹脂膜を備える物品。
【請求項9】
前記樹脂膜は、粘着剤層であり、
前記物品は、粘着シートである
ことを特徴とする請求項8に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション、および当該エマルションを用いて製造される物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境配慮の観点から、電子機器や電化製品等において、不要となった製品を容易に解体できること(易解体性)が求められている。解体されて生じた部品は、リサイクルやリユースに使用することも可能となる。
【0003】
例えば、製品を構成する部材同士が粘着シートで貼合されている場合には、外部刺激によって当該粘着シートの粘着性を低下させ、部材同士の分離・剥離を容易にすることが行われる。そのような粘着シートの例として、特許文献1には、水に浸漬して解体・剥離できる水溶解性を有する粘着剤から構成された粘着シートが開示されている。また、特許文献2には、接合時には高い常態接着力を維持しつつ、接合部を分離・解体する際には、加熱により接着力が低下して、容易に分離・解体できる加熱発泡型再剥離性粘着テープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-35332号公報
【特許文献2】特開2014―214208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される粘着シートを用いた製品を解体する場合、少なくとも粘着シート部分を水に接触させる必要があるが、製品が大型である場合や、粘着シートが製品の深部に存在することにより水を到達させ難い場合には、取り扱いが困難となる。
【0006】
また、粘着シートが使用されていない製品にも易解体性が求められることがあり、その場合には、特許文献1に開示される粘着シートでは十分に対応することができない。
【0007】
特許文献2に開示される熱発泡剤(特に熱膨張性微小球)の平均粒径は、分散性や薄層形成性等の点から、一般に1~80μm程度であり、粘着シートの用途によっては十分に対応することができない。
【0008】
さらに、近年、法規制や環境配慮などから、エマルションタイプの樹脂組成物の需要が高まってきている。
【0009】
ところで、近年、循環型社会の構築を求める声の高まりとともに、サステナビリティを有する炭素原料として、二酸化炭素、メタン、一酸化炭素などのガスが注目されている。例えば、二酸化炭素とエポキシドとの共重合により、主鎖に脂肪族(非芳香族)基のみを有する脂肪族ポリカーボネートを製造できることが報告されており、二酸化炭素等のガスを原料として利用した化学品やその製造技術に関心が寄せられている。二酸化炭素は地球温暖化の原因とされているため、各種の材料を作る過程で工場から排出される二酸化炭素の有効利用は、環境保護に役立つものである。
【0010】
そのため、エマルションタイプの樹脂組成物において、二酸化炭素を製造原料とし、より容易に取り扱いできる易解体性を可能とする、更なる選択肢が求められる。
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素を製造原料とする新規なエマルションおよびエマルション組成物から形成される樹脂膜を備える物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、重合体を構成するモノマー単位として、下記式(1)
【化1】
に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含有することを特徴とするエマルションを提供する(発明1)。
【0013】
上記発明(発明1)に係るエマルションでは、(メタ)アクリル酸エステル重合体中に存在する上記エチレンカーボネート構造が、二酸化炭素を製造原料として製造することができるため、二酸化炭素の有効利用を図ることができる。また、上記エチレンカーボネート構造は、触媒とともに加熱処理することによって分解し、二酸化炭素が放出される。そのため、上記エマルションを材料として形成された樹脂膜(粘着剤層等)が、その他の対象物と密着している場合でも、樹脂膜と対象物との界面に上記二酸化炭素が溜まり、それによって密着性が低減するものとなる。結果として、対象物から樹脂膜を容易に分離する用途に使用することが可能となる。
【0014】
上記発明(発明1)において、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、前記エチレンカーボネート含有モノマーを1質量%以上、99.9質量%以下で含むことが好ましい(発明2)。
【0015】
上記発明(発明1,2)において、前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーは、下記式(2)から下記式(4)のいずれかで示される化合物であることが好ましい(発明3)。
【化2】
(式中、nは0以上の整数を表す。)
【化3】
(式中、nは0以上の整数を表す。)
【化4】
(式中、nおよびmは0以上の整数を表す。Xは水素、又はメチル基を表す。)
【0016】
上記発明(発明1~3)において、分散質の粒径(D50)は、10nm以上、1μm以下であることが好ましい(発明4)。
【0017】
上記発明(発明1~4)において、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アクリル酸を含むことが好ましい(発明5)。
【0018】
上記発明(発明1~5)において、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、前記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含むモノマー単位を乳化重合することで得られるものであることが好ましい(発明6)。
【0019】
上記発明(発明1~6)においては、分散媒として水を含有することが好ましい(発明7)。
【0020】
第2に本発明は、前記エマルション(発明1~7)を含有する樹脂組成物から形成される樹脂膜を備える物品を提供する(発明8)。
【0021】
上記発明(発明8)において、前記樹脂膜は、粘着剤層であり、前記物品は、粘着シートであることが好ましい(発明9)。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るエマルションは、二酸化炭素を製造原料とするため、環境負荷が小さい。さらに、本発明に係るエマルションは、触媒とともに加熱処理することによって分解し、二酸化炭素が放出されるため易解体性を実現可能な新たな手段を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔エマルション〕
本実施形態に係るエマルションは、重合体を構成するモノマー単位として、下記式(1)
【化5】
に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル重合体を分散質として含有する。
【0024】
上記エチレンカーボネート構造は、分解することにより、二酸化炭素を放出することができる。特に、上記エチレンカーボネート構造とともに、求核性を有するアニオンが存在する場合には、当該アニオンが上記エチレンカーボネート構造中におけるカルボニル基を構成する炭素原子に対して求核攻撃を行い、それにより効率的にエチレンカーボネート構造が分解されて、二酸化炭素が脱離する。
【0025】
このような性質を有する本実施形態に係るエマルションを用いることで、易解体性に優れた製品を製造することが可能となる。すなわち、上記エマルションから放出される二酸化炭素を、製品を構成する部材同士の密着性の低減に利用することができ、その結果として、当該製品を容易に解体することが可能となる。例えば、上記エマルションを材料の1つとして製造された粘着シートによって、部材同士が貼合されている場合には、上述したエチレンカーボネート構造の分解によって二酸化炭素を生じさせることにより、当該二酸化炭素を粘着シートと部材との界面に溜め、粘着シートと部材とを物理的に引き離すことが可能となる。
【0026】
なお、上述した求核性を有するアニオンとしては、例えば、所定の刺激によって求核性を有するアニオンを発生させることが可能な求核性アニオン発生剤から生じるものが好適である。特に、加熱により上記アニオンを発生する求核性アニオン発生剤を使用した場合には、外部刺激として加熱することによって、本実施形態に係るエマルションが使用された製品の解体が可能となる。
【0027】
1.(メタ)アクリル酸エステル重合体
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、重合体を構成するモノマー単位として、上記式(1)に示されるエチレンカーボネート構造を有するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含む限り、特に制限されない。
【0028】
上記エチレンカーボネート含有アクリルモノマーとしては、エチレンカーボネート構造を含むとともに、(メタ)アクリロイル基(構造)を有するモノマーであれば限り特に限定されない。エチレンカーボネート含有アクリルモノマーの好ましい例としては、エチレンカーボネート構造を有する有機基と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。このような(メタ)アクリル酸エステルの例としては、下記式(2)
【化6】
で示されるアクリル酸エステル、下記式(3)
【化7】
で示されるメタクリル酸エステル、または下記式(4)
【化8】
で示されるメタクリル酸エステルが挙げられる。なお、式(2)から式(4)のいずれにおいても、nおよびmは0以上の整数、Xは水素、又はメチル基を表す。
【0029】
上記式(2)から式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルの中でも、良好に二酸化炭素ガスを放出し易いという観点から、nおよびmのそれぞれが1以上である(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、nおよびmのそれぞれが2以上である(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。上記nおよびmのそれぞれの上限値は特に限定されないが、重合性の観点から、10以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、特に4以下であることが好ましく、さらには3以下であることが好ましい。これらの中でも、n=1である(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に式(3)においてn=1であるメタアクリル酸(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルが好ましい。なお、エチレンカーボネート含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
エチレンカーボネート含有モノマーは、特開2006-335971号公報に開示されているように、エポキシ基を有する(メタ)アクリレートのエポキシ基にCO2を付加してカーボネート基を導入することにより製造することができる。すなわち、エチレンカーボネート含有モノマーを使用する本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、二酸化炭素を製造原料として製造することができ、したがって二酸化炭素の有効利用を図ることができる。
【0031】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを、1質量%以上含有することが好ましく、5質量%以上含有することがより好ましく、さらには10質量%以上含有することが好ましい。また、本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレンカーボネート含有アクリルモノマーを、99.9質量%以下で含有することが好ましく、特に99.5質量%以下で含有することが好ましく、さらには99.0質量%以下で含有することが好ましい。含有量が99.9質量%以下であることで、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、その他の構成モノマーを十分に含むものとなり、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が所望の性能を有し易いものとなる。本実施形態におけるエマルションを主剤として粘着剤層と形成する場合は、粘着剤層として利用可能な物性を得るという観点から、エチレンカーボネート含有アクリルモノマーの含有量は、例えば、1質量%以上、30質量%以下であることが好ましい。また、二酸化炭素を製造原料と有効使用するという観点から、本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有量は、90質量%以上、99.9質量%以下が好ましい。
【0032】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、重合体を構成するモノマー単位として、上述したエチレンカーボネート含有アクリルモノマー以外のモノマーを含有してもよい。例えば、当該モノマーの例としては、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基等の反応性官能基を含有するモノマー;アルコキシアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル;フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等の非架橋性のアクリルアミド;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル;スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上述した中でも、本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基を含有するモノマーに該当するアクリル酸を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体がアクリル酸を含むことにより、分散質としての(メタ)アクリル酸エステル共重合体の粒径の調整が容易となる。
【0034】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、重合体を構成するモノマー単位として上述したエチレンカーボネート含有アクリルモノマー以外のモノマーを含む場合、その含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、特に0.3質量%以上であることが好ましく、さらには0.5質量%以上であることが好ましい。また、上記含有量は、99質量%以下であることが好ましく、特に98質量%以下であることが好ましく、さらには97質量%以下であることが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の上述したエチレンカーボネート構造の量を十分に確保しつつ、分散質としての(メタ)アクリル酸エステル共重合体の粒径を調整し易いものとなる。
【0035】
本実施形態に係るエマルションでは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体から構成される分散質の粒径(D50)が、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、特に50nm以上であることが好ましく、さらには100nm以上であることが好ましい。また、上記粒径(D50)は、1μm以下であることが好ましく、特に0.8μm以下であることが好ましく、さらには0.6μm以下であることが好ましい。分散質の上述した粒径(D50)が上記範囲であることで、二酸化炭素を良好に放出可能でありながらも、その他の所望の特性を有する樹脂膜を形成し易くなる。なお、上記粒径(D50)の測定方法の詳細は、後述する実施例に記載の通りである。
【0036】
本実施形態に係るエマルションは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有量が90質量%以上、分散質の粒径(D50)が、100nm以上である場合、粒子径に対応したBragg反射に起因する任意の色の構造色を発現し、粒子径の制御により、様々な色を発色させることができる。したがって、本実施形態に係るエマルションを含有する樹脂組成物から形成される樹脂膜も構造発色性を有し、構造色を呈する物品の材料として好適であり、物品の意匠性の向上に好適である。
【0037】
2.エマルションの製造方法
本実施形態に係るエマルションの製造方法は特に限定されないものの、前述したエチレンカーボネート含有アクリルモノマーを含むモノマー単位を乳化重合し、これにより(メタ)アクリル酸エステル共重合体を分散質として含有するエマルションを得ることが好ましい。
【0038】
上記乳化重合の手法としては従来公知のものを使用することができる。例えば、前述したエチレンカーボネート含有アクリルモノマーと、所望により前述したその他のモノマーと、乳化剤とを分散媒としての水中で撹拌した後、そこへ重合開始剤を添加し、所定の温度で撹拌することで乳化重合を進行させることができる。
【0039】
上記乳化剤としては特に制限は無いものの、分散安定性を向上させる観点から、アニオン系乳化剤またはノニオン系乳化剤が好ましく、アニオン系乳化剤がより好ましい。
【0040】
アニオン系乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、アリルアルキルスルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩が特好ましい。これらの乳化剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
乳化剤の含有量としては、乳化重合反応の安定性の観点、および、未反応の乳化剤が残存することによる物性低下を防ぐ観点から、全モノマーの総量100質量に対して、1質量部以上であることが好ましく、特に3質量部以上であることが好ましく、さらには5質量部以上であることが好ましい。また、乳化剤の含有量は、全モノマーの総量100質量に対して、30質量部以下であることが好ましく、特に25質量部以下であることが好ましく、さらには20質量部以下であることが好ましい。
【0042】
上記重合開始剤としては、水溶性、油溶性のいずれであってもよく、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド等のアゾ系化合物、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物等が挙げられ、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせや、過酸物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等からなるレドックス開始剤を用いてもよい。重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、重合安定性に優れているという観点から、過硫酸アンモニウムが好ましい。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
重合開始剤の含有量としては、重合速度を速める観点から、全モノマーの総量100質量に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましく、さらには1質量部以上であることが好ましい。また、重合開始剤の含有量は、全モノマーの総量100質量に対して、10質量部以下であることが好ましく、特に7質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以下であることが好ましい。
【0044】
重合開始剤を添加後またはモノマー添加後における、温度および撹拌の条件としては、分散質が十分に分散する条件であればよいものの、例えば、温度としては、60~90℃であることが好ましく、特に65~85℃であることが好ましく、さらには70~80℃であることが好ましい。また、撹拌の条件としては、50~200rpmとすることが好ましく、特に70~180rpmとすることが好ましく、さらには100~150rpmとすることが好ましい。さらに、撹拌の時間としては、10~180分とすることが好ましく、特に10~60分とすることが好ましく、さらには10~30分とすることが好ましい。
【0045】
また、乳化重合により得られたエマルションに対して、さらに、アンモニア水、各種水溶性アミン、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液を添加して、pH5~9に調整することが好ましく、特にpH6~8.5に調整することが好ましい。これにより、分散の安定性を向上させることが可能となる。
【0046】
得られたエマルションの固形分濃度は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは25~70質量%、更に好ましくは45~65質量%である。
【0047】
3.エマルションの使用方法
本実施形態に係るエマルションは、例えば、樹脂膜の製造に使用することができる。当該樹脂膜の詳細については後述する。
【0048】
〔物品〕
本発明の別の実施形態は、前述したエマルションを含有する樹脂組成物から形成される樹脂膜を備える物品に関する。
【0049】
上記樹脂膜としては、本実施形態に係るエマルションを含有する樹脂組成物から形成されるものであれば特に限定されない。樹脂膜のより具体的な例としては、粘着剤層や自立膜の他、所定の基材等の表面に形成される表面コート層やアンカーコート層が挙げられる。なお、本明細書における「自立膜」とは、支持体が存在せずとも、破損することなく、それ単独で取り扱いが可能な強度を有し、膜形状を維持し得る膜をいう。
【0050】
上記物品とは、樹脂膜の種類に応じたものとなり、例えば、樹脂膜が粘着剤層である場合には、粘着シートとなる。また、樹脂膜が表面コート層である場合には、物品としては、基材フィルムと、当該基材に設けられた表面コート層とを備えるハードコートフィルム等が挙げられる。樹脂膜が自立膜である場合、物品としては、当該自立膜を備える粘着シートやハードコートフィルムであってもよいし、当該自立膜のみからなる基材フィルムであってもよい。
【0051】
上記樹脂組成物における、本実施形態に係るエマルション以外の成分としては、形成される樹脂膜の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、樹脂膜として粘着剤層を形成する場合には、樹脂組成物は、主材として粘着成分を含有することが好ましく、その例としてはアクリル系粘着剤(アクリル系ポリマー)等が挙げられる。また、樹脂膜として表面コート層を形成する場合には、樹脂組成物は、主材として硬化性成分等を含有することが好ましい。
【0052】
また、上記樹脂組成物は、効率的な二酸化炭素の放出を可能とする観点から、前述したエチレンカーボネート構造の分解を促す触媒を含有することが好ましい。当該触媒の例としては、特に、前述した求核性アニオン発生剤が好ましい。
【0053】
上記求核性アニオン発生剤としては、加熱により求核性アニオンを発生し、当該求核性アニオンによって、本実施形態に係る粘着剤組成物が含有するエチレンカーボネート構造から二酸化炭素ガスを十分に放出させることが可能である限り、特に限定されない。当該求核性アニオンの例としては、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、水酸化物イオン(OH-)等が挙げられ、これらのなかでも、フッ化物イオン(F-)および臭化物イオン(Br-)が好ましく、特にフッ化物イオン(F-)が好ましい。また、求核性アニオン発生剤を構成するカチオンの例としては、第四級アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピぺリジニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられ、これらの中でも第四級アンモニウムカチオンが好ましい。
【0054】
上記求核性アニオン発生剤の好ましい具体例としては、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、水酸化ナトリウム等が挙げられ、これらの中でもテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)およびテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)が好ましい。なお、これらの記求核性アニオン発生剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0056】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0057】
〔実施例1-1〕
前述した式(3)においてnが1であるエチレンカーボネート含有メタクリルモノマー(二酸化炭素を製造原料として製造されたモノマー;2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルメタクリレート)20質量部と、アクリル酸0.2質量部と、乳化剤としてのポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤社製,製品名「ニューコール707SF」)1質量部と、精製水130質量部とを含む溶液を、70℃および170rpmの条件で撹拌した。
【0058】
続いて、上記溶液に対して、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム(APS)0.3質量部を添加した後、70℃および160rpmの条件で撹拌しながら、乳化重合法により10分間重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を調製した。これにより、分散媒としての水中に、分散質としての(メタ)アクリル酸エステル重合体が分散してなるエマルションを得た。
【0059】
得られたエマルションにおいては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーと、アクリル酸との質量比は約99:1であり、モル比は約37:1となる。また、上記エマルションの固形分濃度を算出すると、14.4質量%となる。
【0060】
〔実施例1-2~1-5〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体の組成、(メタ)アクリル酸エステル重合体中のエチレンカーボネート含有アクリルモノマーの含有量、乳化剤の含有量、および精製水の含有量を表1に記載の通り変更した以外、実施例1と同様にしてエマルションを作製した。なお、得られたエマルションのそれぞれの固形分濃度を算出すると、表1に記載の通りとなった。
【0061】
〔実施例1-6〕
4-(オキシラン-2-イルメトキシ)ブチルアクリレート5質量部と、臭化リチウム0.32質量部と、N-N’-ジメチルホルムアミド24質量部とを含む溶液を、系内を二酸化炭素ガスに置換した後に60℃にて17時間攪拌した。減圧下、N-N’-ジメチルホルムアミドを留去した後に酢酸エチルおよび精製水を加えて、抽出・洗浄を行い、得られた有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。ろ過後に減圧下、酢酸エチルを留去することで淡黄色液体(収率96%)を得た。
【0062】
得られた淡黄色液体中の成分について、1H NMRおよび13C NMRの測定を行ったところ、前述した式(4)においてnが1、mが4であるエチレンカーボネート含有アクリルモノマー(4-((2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メトキシ)ブチルアクリレート)であることを確認した。
【0063】
前述した式(3)においてnが1であるエチレンカーボネート含有メタクリルモノマー(二酸化炭素を製造原料として製造されたモノマー)15質量部と、上記の通り作製した、前述した式(4)においてnが1、mが4であるエチレンカーボネート含有アクリルモノマー(二酸化炭素を製造原料として製造されたモノマー)5質量部と、アクリル酸0.8質量部と、乳化剤としてのポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤社製,製品名「ニューコール707SF」)1質量部と、精製水130質量部とを含む溶液を、70℃および170rpmの条件で撹拌した。
【0064】
続いて、上記溶液に対して、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム(APS)0.3質量部を添加した後、70℃および160rpmの条件で撹拌しながら、乳化重合法により10分間重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を調製した。これにより、分散媒としての水中に、分散質としての(メタ)アクリル酸エステル重合体が分散してなるエマルションを得た。
【0065】
得られたエマルションにおいては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成するエチレンカーボネート含有アクリルモノマーと、アクリル酸との質量比は約96:4であり、モル比は約8.7:1となる。また、上記エマルションの固形分濃度を算出すると、15.8質量%となる。
【0066】
〔実施例1-7〕
前述した式(3)においてnが1であるエチレンカーボネート含有メタクリルモノマー(二酸化炭素を製造原料として製造されたモノマー)5質量部と、アクリル酸n-ブチル45質量部と、アクリル酸2-エチルヘキシル50質量部と、アクリル酸0.5質量部と、乳化剤としてのポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤社製,製品名「ニューコール707SF」)1質量部と、精製水150質量部とを含む溶液を、70℃および130rpmの条件で撹拌した。
【0067】
続いて、上記溶液に対して、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム(APS)0.3質量部を添加した後、70℃および130rpmの条件で撹拌しながら、乳化重合法により120分間重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を調製した。これにより、分散媒としての水中に、分散質としての(メタ)アクリル酸エステル重合体が分散してなるエマルションを得た。なお、得られたエマルションのそれぞれの固形分濃度を算出すると、表1に記載の通りとなった。
【0068】
〔実施例1-8〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体のモノマー組成を表1に記載の通り変更した以外、実施例1-76と同様にしてエマルションを作製した。なお、得られたエマルションのそれぞれの固形分濃度を算出すると、表1に記載の通りとなった。
【0069】
なお、表1(および後述する表2)に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
ECMA:(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルメタクリレート
ECMBA:4-((2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メトキシ)ブチルアクリレート
AAc:アクリル酸
BA:アクリル酸n-ブチル
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
【0070】
〔試験例1-1〕(粒径(D50)の測定)
実施例で得られたエマルションについて、エマルション中の分散質((メタ)アクリル酸エステル重合体)の粒度分布を動的光散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製,製品名「Nanotrac Wave」)を使用して動的光散乱法により測定し粒径(D50)を求めた。結果を表1に示す。
【0071】
〔試験例1-2〕(安定性の評価)
実施例で得られたエマルションを常温で6か月保管した後の平均粒径(D50)を測定した。そして、製造直後の平均粒径(D50)からの変化を確認し、以下の基準に基づいて安定性を評価した。結果を表1に示す。
〇:変化なし
×:変化あり
【0072】
〔試験例1-3〕(構造色の観察)
実施例で得られたエマルションをガラス基板上に滴下し、室温(20℃)、50%RHにおいて、乾燥させた。得られた膜について、複数の評価人により、目視で観察し、構造色の色味について評価した。評価結果を表1に示す。
【0073】
〔試験例1-4〕(CO2固定化量の算出)
実施例1-1~1-7で得られたエマルションにおけるエチレンカーボネート含有アクリルモノマーの配合量から、エマルションに使用(固定)された二酸化炭素の量(質量比)を、CO2固定化量として算出した。具体的には、CO2の分子量(=44)を、エチレンカーボネート含有アクリルモノマー(A)の分子量(=158)またはエチレンカーボネート含有アクリルモノマー(B)の子量(=244)で除して、百分率で表した。結果を表1に示す。
【0074】
【0075】
表1に示される通り、実施例1-1~1-7は、安定したエマルション粒子が得られたことを確認した。また、実施例1-1、1-2、1-4および1-5のエマルションは、構造発色を有することが確認でき、粒径が変化すると、観察される構造色の色味も変化することが理解される。
【0076】
〔実施例2-1〕
n-ブチルアクリレート95質量部と、アクリル酸5質量部とを乳化重合法により共重合させることで、粘着成分としての(メタ)アクリル酸エステル共重合体を得た。当該(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部(固形分換算値36質量%,以下同様)と、実施例1-1で製造したエマルション10質量部とを混合し、固形分濃度33質量%の粘着剤組成物の塗布液を得た。
【0077】
得られた塗布液を、剥離シートの剥離処理面に、コーターで塗布した。そして、塗布層に対し、100℃で2分間加熱処理して樹脂膜を形成した。次いで、上記で得られた剥離シート上の樹脂膜に、別の剥離シートの剥離処理面を接触するように貼合し、厚さ25μmの樹脂膜(粘着剤層)を有する粘着シート、すなわち、剥離シート/粘着剤層(厚さ:25μm)/剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。
【0078】
〔実施例2-2~2-4および比較例2-1~2-3〕
粘着成分としての(メタ)アクリル酸エステル共重合体の組成および含有量、ならびに、使用したエマルションの種類および含有量を表2に記載の通り変更した以外、実施例2-1と同様にして粘着シートを作製した。
【0079】
〔試験例2-1〕(ゲル分率の測定)
実施例2-1~2-4および比較例2-1~2-3で製造した粘着シートを80mm×80mmのサイズに裁断して、その粘着剤層をポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。
【0080】
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着剤を、室温下(23℃)で酢酸エチルに72時間浸漬させた。その後、粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。これにより、粘着剤のゲル分率を導出した。結果を表2に示す。
【0081】
〔試験例2-2〕(ヘイズ値の測定)
実施例2-1~2-4および比較例2-1~2-3で製造した粘着シートの粘着剤層をガラスに貼合して、これを測定用サンプルとした。空の状態でバックグラウンド測定を行った上で、上記測定用サンプルについて、JIS K7136:2000に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「SH-7000」」)を用いてヘイズ値を測定した。結果を表2に示す。
【0082】
〔試験例2-3〕(全光線透過率の測定)
実施例2-1~2-4および比較例2-1~2-3で製造した粘着シートの粘着剤層をガラスに貼合して、これを測定用サンプルとした。空の状態でバックグラウンド測定を行った上で、上記測定用サンプルについて、JIS K7361-1:1997に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「SH-7000」」)を用いて全光線透過率を測定した。結果を表に示す。
【0083】
〔試験例2-4〕(色度b*の測定)
実施例2-1~2-4および比較例2-1~2-3で製造した粘着シートの粘着剤層側の面について、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「SH-7000」)を用いて、CIE1976L*a*b*表色系により規定される色度b*を測定した。結果を表2に示す。
【0084】
〔試験例2-5〕(粘着力の測定)
実施例2-1~2-4および比較例2-1~2-3で製造した粘着シートの一方の型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「コスモシャインA4360」,厚さ:50μm)の易接着層に貼合し、剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。得られた積層体を25mm幅、100mm長に裁断した。
【0085】
次いで、23℃、50%RHの環境下にて、上記積層体から剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス板(日本板硝子社製,製品名「ソーダライムガラス」,厚さ:1.1mm)に貼付し後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,テンシロン)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で、PETフィルムと粘着剤層との積層体を被着体から剥離したときの粘着力を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z0237:2009に準拠して測定を行った。結果を表2に示す。
【0086】
〔試験例2-6〕(貯蔵弾性率の測定)
実施例2-1~2-4および比較例2-1~2-3で製造した粘着シートの粘着剤層を複数層積層し、厚さ0.8mmになるように積層体とした。得られた粘着剤層の積層体から、直径8mmの円柱体(高さ0.8mm)を打ち抜き、これをサンプルとした。上記サンプルについて、JIS K7244-6に準拠し、粘弾性測定装置(Anton paar社製,製品名「MCR302」)を用いて、ねじりせん断法により、以下の条件で-20℃、25℃および100℃における貯蔵弾性率G’および損失正接(tanδ)を測定した。結果を表2に示す。
測定周波数:1Hz
測定温度:-20℃,25℃,100℃
【0087】
〔試験例2-7〕(CO2固定化量の算出)
実施例および比較例で製造した粘着シートにおけるエチレンカーボネート含有アクリルモノマーの配合量から、粘着シートに使用(固定)された二酸化炭素の量(質量比)を、CO2固定化量として算出した。具体的には、CO2の分子量(=44)を、エチレンカーボネート含有アクリルモノマー(A)の分子量(=158)で除して、百分率で表した。結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
表2に示される通り、実施例2-1~2-4で製造した粘着シートは、所定量の二酸化炭素を固定化し、各種用途に利用可能な物性を有するものであった。
【0090】
〔作製例1〕
n-ブチルアクリレート95質量部と、アクリル酸5質量部とを乳化重合法により共重合させることで、粘着成分の主材としての(メタ)アクリル酸エステル共重合体を得た。当該主材100質量部(固形分換算値36質量%,以下同様)と、実施例1-1で製造したエマルション10質量部と、触媒としてのテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)2質量部とを混合し、固形分濃度33質量%の粘着剤組成物の塗布液を得た。
【0091】
得られた塗布液を、剥離シート(ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート,リンテック社製,製品名「SP-PET752150」)の剥離処理面に、コーターで塗布した。そして、塗布層に対し、100℃で2分間加熱処理して樹脂膜を形成した。次いで、上記で得られた剥離シート上の樹脂膜に、別の剥離シート(ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート,リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)の剥離処理面を接触するように貼合し、厚さ25μmの樹脂膜(粘着剤層)を有する粘着シート、すなわち、剥離シート/粘着剤層(厚さ:25μm)/剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。
【0092】
〔作製例2〕
エマルションの含有量を20質量部とし、触媒(TBAB)の含有量を4質量部とした以外は作製例1と同様にして粘着シートを得た。
【0093】
〔作製例3〕
エマルションの含有量を20質量部とし、触媒としてテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)を4質量部で使用した以外は作成例1と同様にして粘着シートを得た。
【0094】
〔作製例4〕
実施例1-1で製造したエマルション100質量部と、触媒としてのテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)10質量部とを混合し、固形分濃度33質量%の樹脂組成物の塗布液を得た。得られた塗布液を、剥離シート(ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート,リンテック社製,製品名「SP-PET752150」)の剥離処理面に、コーターで塗布した。そして、塗布層に対し、100℃で2分間加熱処理して樹脂膜(厚さ:25μm)を形成した。
【0095】
〔作製例5〕
触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)を30質量部で使用した以外は作製例4と同様にして樹脂膜を得た。
【0096】
〔試験例3-1〕(5%重量減少温度の測定)
作製例1~5で作製した粘着シートまたは樹脂膜について、示差熱・熱重量同時測定装置(株式会社島津製作所製,製品名「DTG-60」)を用い、JIS K7120:1987に準拠して、5%重量減少温度を測定した。結果を表3に示す。
【0097】
〔試験例3-2〕(発泡性の評価)
作製例1~5の樹脂組成物の塗布液を、アルミ箔とポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせた複合基材(東洋紡社製PET50A4360アルペット厚さ:40μm)のアルミ箔面にコーターで塗布し、塗布層に対し、100℃で2分間加熱処理して樹脂膜(厚さ:25μm)を形成した。次いで、樹脂膜の露出面をガラス板に貼付し、これを気泡確認用サンプルとした。当該これらの気泡確認用サンプルを、180℃の恒温槽に1分間投入することで加熱し、当該加熱の前後において、粘着剤層とガラス板との界面における気泡の発生の有無を確認した。そして、以下の基準に基づいて、発泡性について評価した。結果を表2に示す。
◎:界面において、全体的に気泡の発生が確認された。
〇:界面において、部分的に気泡の発生が確認された。
×:界面において、気泡の発生を殆ど確認できなかった。
【0098】
【0099】
表3に示されるように、作製例1~5に係る粘着シートまたは樹脂膜では、発泡性の評価結果に優れる(すなわち、気泡の発生が多い)という結果となった。
【0100】
上記結果は、作製例1~5に係る粘着剤層または樹脂膜において、求核性を有するアニオン存在下において、(メタ)アクリル酸エステル重合体中のエチレンカーボネート構造が、当該アニオンが上記エチレンカーボネート構造中におけるカルボニル基を構成する炭素原子に対して求核攻撃を行い、それにより効率的にエチレンカーボネート構造が熱によって分解したことに起因すると推定される。すなわち、作製例1~5では、エチレンカーボネート構造の分解により二酸化炭素が粘着剤層から放出され、これにより、重量減少が早まるとともに、気泡が多く発生したものと推定される。
本発明のエマルションは、二酸化炭素を固定化することができ、環境保護に役立つものである。また、本発明のエマルションは、塗料、接着剤、粘着剤、紙加工、染料、繊維加工、印刷インキ、セメント混和剤、コート剤、フィルム等の広い分野にわたって有用である。また、本発明のエマルションは、構造発色性を有することから、構造色を呈する物の材料として好適である。また、本発明のエマルションは、触媒とともに加熱処理することによって分解し、二酸化炭素が放出されることから、易解体性が求められる製品の製造に好適に使用することができる。